説明

点火用永久磁石式発電機

【課題】 極めて細いコイル線であっても、運転中に切断または破損することなく、しかもコイル巻回時の工程を簡略化してコストダウンを図れる点火用チャージコイルを備えた永久磁石式発電機を提供する。
【解決手段】 永久磁石22を備えた回転子2とその回転子2の内側に設けられた固定子3とからなり、固定子3は、回転子3に対向してコア部31の外周に放射状に突出する複数の突極部32を有し、突極部32に形成された複数のコイル4a,4b,4cがCDIユニットを介して点火プラグに電力を供給する点火用永久磁石式発電機1において、同一用途の複数のコイル4a,4b,4c,4dが1本のコイル線41で連続して巻回され、1つのコイルの巻き終わり部から次のコイルの巻き始め部までの間の渡り線42が、複数本重ねたコイル線41を縒って成形した縒り線で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモトクロス用自動二輪車等に搭載される点火用永久磁石式発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動二輪車等に搭載されるフライホイールマグネトウなどの永久磁石式発電機として、特許文献1に示すような発電機が知られている。この永久磁石式発電機は、クランクシャフトに連結されエンジンと連動して回転する回転子と、回転子の回転中心側に配置されて車体側に固定される固定子とからなる。
【0003】
回転子は筒状であり、内壁面に永久磁石が取り付けられる。固定子は、回転子の回転中心上に配置されるコア部と、コア部の外周面から外方へ向けて放射状に突出して配列される複数のコイルを備える。これらのコイルは、コアから径方向外方へ向かって突出する突極部に嵌着された又はコアと一体成形されたボビンにコイル線を巻回して形成される。
【0004】
このような永久磁石式発電機は、エンジンの駆動に伴って回転子が回転し、各コイルに交流電流が誘起されて発電が行われる。
【0005】
また、特許文献2に示すように、CDIユニットに備えられた点火回路によって、発電機のチャージコイルの出力から点火コイルに高電圧を誘起してエンジンに点火する点火装置が知られている。
【0006】
そして、このような発電機に備えられるコイルは、特許文献3に示すような巻線装置によって、コイル線をボビンに自動巻回して形成される。
【0007】
図8は、従来の点火用永久磁石式発電機71を示す。例えば4個所の突極部72にコイル線が巻回されたコイル74a,74b,74c,74dのうち、3個のコイル74a,74b,74cが低速運転時、1個のコイル74dが高速運転時の補助用チャージコイルとして用いられる。
【0008】
低速運転時用のコイル74a〜74cをCDIユニット内のコンデンサに充電してエンジンを点火する点火用チャージコイルとして使用する場合、コイル74a〜74cの発生電圧として例えば300V程度の高電圧が要求される。従って、コイル74a〜74cを形成する際、0.1mmφ程度の極めて細いコイル線で巻数を多く巻回しなければならない。そのため、細いコイル線によるコイル間の渡り線が存在すると、自動二輪車等の車体運転時の振動や熱衝撃等によって、渡り線が切断または損傷する場合がある。従って、従来は、1個のコイルにつき1本ずつのコイル線で巻回し、周囲を樹脂で固めて、巻き始めおよび巻き終わりのコイル線端部をターミナル75に接続し、ターミナル75同士をリード線76で接続することにより、3個のコイル74a,74b,74cを直列に連結していた。
【0009】
ところが、上記のような細いコイル線は、被覆部を削って半田付けすることが極めて困難である。従って、ヒュージング等のように困難な技術によってコイル線の端末処理を行わなければならず、手間がかかるうえに、製品の安定した性能を確保することが難しい。また、コイル毎にターミナルやリード線等の部品を要するため、部品点数が増えるとともにコストが嵩む。
【特許文献1】特開平7−95753号公報
【特許文献2】特開平10−103204号公報
【特許文献3】特開平10−233330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術を考慮してなされたものであり、極めて細いコイル線であっても、運転中に切断または破損することなく、しかもコイル巻回時の工程を簡略化してコストダウンを図れる点火用チャージコイルを備えた永久磁石式発電機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、永久磁石を備えた回転子とその回転子の内側に設けられた固定子とからなり、固定子は、回転子に対向してコア部の外周に放射状に突出する複数の突極部を有し、突極部に形成された複数のコイルがCDIユニットを介して点火プラグに電力を供給する点火用永久磁石式発電機において、同一用途の複数のコイルが1本のコイル線で連続して巻回され、1つのコイルの巻き終わり部から次のコイルの巻き始め部までの間の渡り線が、複数本重ねたコイル線を縒って成形した縒り線で形成されていることを特徴とする点火用永久磁石式発電機を提供する。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、縒り線は、コイル線の巻線機に備えた縒り線成形部によって自動成形されることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、コア部に、渡り線を係止する係止部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、コア部の突極部の根元部付近に、各コイル間のコイル線からなる渡り線をはめ込んでコイル線を次に巻回するコイルの巻き始め位置へガイドする溝部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によると、渡り線部分を縒り線とすることにより、強度が増し、振動や熱衝撃等によって切断または破損するのを防ぐことができる。そのため、複数のコイルを一本のコイル線で連続して巻回できるので、コイル毎にターミナルやリード線等の部品を必要とすることがなく、部品点数を削減できる。また、コイル毎の端末処理が不要となるので、工程数を削減できる。
【0016】
請求項2の発明によると、巻線機によって縒り線を自動成形できるので、縒り線を成形するために機械を停止したり、手作業で縒り線を成形したりする手間がかからず、スムーズにコイルの連続巻回を行うことができる。
【0017】
請求項3の発明によると、渡り線のほぼ中間点が係止部によって支持されるので、渡り線をその中間点で安定して保持できるとともに、車体走行時に渡り線が振動する部分が短くなり(コイル線端部と係止部との間の長さ)、振動を少なく抑えることができる。従って、更にコイル線が損傷しにくくなる。
【0018】
請求項4の発明によると、渡り線を溝部に沿ってはめ込むことにより、更に渡り線が振動しにくくなるとともに、次のコイルの巻き始め位置にガイドされるので、容易に且つ正確にコイルの巻回を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のチャージコイルを用いた発電機は、モトクロス用自動二輪車やバギー車等の車両に搭載され、エンジンの回転力を駆動源として、エンジンの点火に必要な電力を発電する。
【0020】
図1は、本発明の永久磁石式発電機1の正面図である。発電機1は、エンジンのクランクシャフト(不図示)に装着されエンジンと連動して回転駆動する円筒状または椀状の回転子2と、クランクケース側に取り付けられる固定子3とからなる。回転子2は、円筒状の側壁を有するホルダ21と、ホルダ21の内壁面に周方向に貼設された複数の永久磁石22とからなる。永久磁石22は、適宜間隔を隔てて複数個のものが周方向等間隔に配置される。
【0021】
固定子3は、回転子2の内側に配置され、コア部31と、コア部31の外周面から外方へ向けて放射状に配置される複数個の突極部32と、突極部32に装着されたボビン33と、ボビン33にコイル線を巻回して形成したコイル4とで構成される。
【0022】
エンジンが始動すると、クランクシャフトとともに回転子2が回転し、回転子2に取り付けられた永久磁石22が固定子3の外周を回転することによって、回転子2と固定子3との間に起電力が発生し、発電作用が得られる。
【0023】
図1の場合は、4個所のコイル4a,4b,4c,4dのうち、コイル4d以外の3個所のコイル4a,4b,4cは低速時の点火用チャージコイルとして用いられ、例えば0.1mmφのコイル線によって連続して巻回される。これら3個所のコイル4a〜4cは、隣り合うコイルの巻き方向が互いに逆方向となるようにコイル線が巻回される。コイル4dは、高速時等の補助用チャージコイルとして用いられ、例えば0.15mmφのコイル線によって巻回される。コイル線の両端部は、ターミナル5に固定し、所定の配線を行う。
【0024】
図2は、本発明の発電機1を用いた点火装置の回路図である。
【0025】
発電機1内には、低速時用のコイル4および補助用のコイル4dが備えられ、それぞれ、点火回路(不図示)を備えたCDIユニット11に接続される。発電機1の外側には、パルサコイル12が設けられ、発電機1の回転子2の回転を検出して、点火タイミング信号をCDIユニット11に送信する。
【0026】
点火回路は、ダイオードやコンデンサ等から構成され、低速用のコイル4の一端からの出力がコンデンサに充電されて、点火コイル13に高電圧を誘起するための充電電荷を得る。また、低速用のコイル4の他端からの出力により、その充電電荷を放電させるための点火信号を得る。
【0027】
そして、回転子2の回転に応じて点火信号を発生させるパルサコイル12からの指令により所定の点火タイミングで点火コイル13に電流を流すことによって、高電圧を誘起し、スパークプラグ14に電気火花を飛ばして点火する。
【0028】
このようなコイル4は、巻線機によって自動巻回される。図3は、巻線機の構成の概略を示す図であり、矢印の方向は、コイル線の進行方向を表す。スプール61から送出されるコイル線は、テンショナー62によって一定の引張力がかけられる。縒り線の成形が必要なときには、縒り線成形部63を通過する際に成形され、縒り線が必要ないときには素線のままで、コイル線がノズル64から供給される。そして、ノズル64をボビン33に対して所定幅に往復動させて、コイル線を順次巻回していく。
【0029】
図4は、縒り線成形部63における縒り線の作り方を示す説明図である。縒り線の必要長さに応じた位置に設けられたフック66に、ピン65でコイル線41を引っかけて2往復させた後、ピン65が元の位置まで戻ると、コイル線41が5本重ね合わされる。その後、ピン65の位置を固定した状態でフック66を回転させると、重ねられた5本のコイル線41が捩れて、縒り線が形成される。縒り線は、エポキシ樹脂等によって固められる。尚、重ねられるコイル線41の本数は適宜設定され、その本数に合わせて、ピン65の往復回数が決まる。
【0030】
縒り線は、複数のコイルを連続巻回する際、1個所のボビン33にコイル線41を巻き終わる直前に成形され、巻き終わり部の2〜3周を縒り線で巻回する。そして、次のコイルの巻き始めの2〜3周を縒り線で巻回する。これにより、各コイル間のコイル線41である渡り線の前後が縒り線で形成され、渡り線が破損しにくくなる。このような巻回を行うために必要な長さの縒り線が、縒り線成形部63で成形される。
【実施例1】
【0031】
図5〜図7は、本発明の発電機1の固定子3の詳細な実施例を示す。
【0032】
図5は固定子3の正面図であり、図6は図5の背面図である。尚、実際のコイルは、細いコイル線41を多くの巻数で巻回するが、図5,図6では、説明のために巻回数を省略して表示している。
【0033】
略正方形の正面形状を有するコア部31の各辺の中心から外方に向けて、放射状に4個の突極部32が設けられ、突極部32に装着されたボビン33にコイル線41が巻回される。突極部32は、コア部31と一体の磁性材料からなる薄板が複数枚積層された多層板からなる。ボビン33は合成樹脂等の絶縁材料からなり、突極部32の外周に一体成形される。
【0034】
コア部31の角には、渡り線42を係止するための係止部34が形成される。コイル線41は、隣り合うコイルの巻き方向が互いに逆方向となるように巻回されるため、図6に示すように、コイル線41の巻方向により、突起型の係止部34a、および二股の引掛型係止部34bの2種類が交互に設けられる。図5および図6の例では、先ず、コイル4aを左回りに巻回してコア部31の正面側から延びる渡り線42が、突起型の係止部34a(図6)に係止されてからコア部31の正面側へ引き出される。次に、コイル4bを右回りに巻回してコア部31の背面側から延びる渡り線42が、引掛型の係止部34bに係止されてからコア部31の正面側へ引き出される。その後、コイル4cを左回りに巻回し、コイル線41の端子が適宜処理される。
【0035】
図7は、図5のコイル4b周辺の拡大図である。コア部31の外周付近には、渡り線42を次に巻回するコイルの巻き始め位置へガイドするための溝部35が形成されている。これにより、巻き始め位置が安定して正確に巻回できるうえ、車両走行時等に固定子3が振動しても、渡り線42が揺れる部分が少なくなるため、更に損傷を防ぐことができる。
【0036】
このようにして、点火用のコイル4a,4b,4cは、一本のコイル線41によって連続巻回することができる。従って、1個のコイル毎に両端子をターミナルへ固定する作業を行う必要がなく、材料費および工程の両方を削減できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、同一用途の複数のボビンに細いコイル線を連続巻回するコイルに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態を示す正面図。
【図2】本発明を用いた点火装置の回路図。
【図3】本発明を実施するための巻線機の概略構成図。
【図4】図3の巻線機における縒り線の成形方法の説明図。
【図5】本発明の固定子の実施例を示す正面図。
【図6】図5の背面図。
【図7】図5の部分拡大図。
【図8】従来の発電機の正面図。
【符号の説明】
【0039】
1,71:発電機、2:回転子、3:固定子、4,4a,4b,4c,4d,74a,74b,74c,74d:コイル、5,75:ターミナル、11:CDIユニット、12:パルサコイル、13:点火コイル、14:スパークプラグ、21:ホルダ、22:永久磁石、31:コア部、32,72:突極部、33:ボビン、34,34a,34b:係止部、35:溝部、41:コイル線、42:渡り線、61:スプール、62:テンショナー、63:縒り線成形部、64:ノズル、65:ピン、66:フック、76:リード線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を備えた回転子とその回転子の内側に設けられた固定子とからなり、前記固定子は、前記回転子に対向してコア部の外周に放射状に突出する複数の突極部を有し、該突極部に形成された複数のコイルがCDIユニットを介して点火プラグに電力を供給する点火用永久磁石式発電機において、同一用途の複数のコイルが1本のコイル線で連続して巻回され、1つのコイルの巻き終わり部から次のコイルの巻き始め部までの間の渡り線が、複数本重ねたコイル線を縒って成形した縒り線で形成されていることを特徴とする点火用永久磁石式発電機。
【請求項2】
前記縒り線は、コイル線の巻線機に備えた縒り線成形部によって自動成形されることを特徴とする請求項1に記載の点火用永久磁石式発電機。
【請求項3】
前記コア部に、前記渡り線を係止する係止部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の点火用永久磁石式発電機。
【請求項4】
前記コア部の前記突極部の根元部付近に、各コイル間のコイル線からなる渡り線をはめ込んで前記コイル線を次に巻回するコイルの巻き始め位置へガイドする溝部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の点火用永久磁石式発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−74959(P2006−74959A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258142(P2004−258142)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(000191858)株式会社モリック (98)
【Fターム(参考)】