説明

焙焼用加熱炉

【課題】酸化ニッケル粉末の高温焙焼による製造過程で、熱エネルギーコストおよび焙焼設備維持コストを少なくし、製造コストを抑えた効率的な製造を可能とする。
【解決手段】焙焼用加熱炉(1)において、円筒型の転動炉(2)の両側面部および底面部の3面に、対向状態の電熱式の側面ヒーター(3)および電熱式の底面ヒーター(4)を分割状態として脱着自在に設け、底面ヒーター(4)の熱源として棒状電熱ヒーター、好ましくはシリコニット製棒状電熱ヒーターを用い、運転時に、底面ヒーター(4)を負荷固定運転とするとともに、側面ヒーター(3)を負荷制御として、転動炉(2)内の被焙焼物(酸化ニッケル粉末)に熱エネルギーを供給し、被焙焼物(酸化ニッケル粉末)を焙焼する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型の転動炉(ロータリーキルン)型の外熱式焙焼炉、特にその加熱効率を改善する手段に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から結晶水を含有する硫酸ニッケルを原料とし、これをキルンで焙焼して、酸化ニッケル粉末を製造する方法が一般的に行われてきた。近年は、この酸化ニッケル粉末は、フェライト部品や電極材料など機能性材料として多く用いられており、その需要も旺盛な現状である。
【0003】
フェライト部品向けについては、当該粉末と他の材料との焼結体をより高密度にし、またフェライト部品のインダクターに与える影響を低減させる為に、平均粒径が小さい事、および低硫黄品位が求められている。一方、電極材料向けは、前者とは異なり、より低密度で多孔質の焼結体を得る為に、平均粒径が出来るだけ大きな粉末が必要とされている。
【0004】
このように、酸化ニッケル粉末においては、機能性材料として求められる多種多様な製品品質を安定的に供給する事が非常に重要である。また、高温焙焼による製造は、熱エネルギーコストおよび焙焼設備維持コストが多くかかる事を考慮すると、製造コストを抑えた効率的な製造方法が求められている。
【特許文献1】特開2004−123488
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の解決課題は、酸化ニッケル粉末の高温焙焼による製造過程で、熱エネルギーコストおよび焙焼設備維持コストを少なくし、製造コストを抑えた効率的な製造を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を達成する為に、被焙焼物、主に、結晶水を含有する硫酸ニッケルを外熱式円筒型焙焼用の転動炉により電熱式のヒーターにより焙焼する際に、転動炉の両側面部および底面部から熱エネルギーを供給し、これらの熱エネルギーを伝導伝熱手段により被焙焼物へ効率よく熱伝達して、供給エネルギーを有効に利用することに加え、側面ヒーターの負荷安定化および負荷低減による寿命延長、ヒーターメンテナンス性向上、ならびにヒーターショートの防止を可能としている。
【0007】
具体的には、本発明に係る焙焼用加熱炉は、円筒型の転動炉の両側面部および底面部の3面に、対向状態の電熱式の側面ヒーターおよび電熱式の底面ヒーターを具備し、これらの側面ヒーターおよび底面ヒーターにより転動炉内の被焙焼物(結晶水を含有する硫酸ニッケル)に熱エネルギーを供給している(請求項1)。底面ヒーターの熱源は棒状電熱ヒーター、好ましくはシリコニット製棒状電熱ヒーターであり、運転時に、底面ヒーターを負荷固定運転とし、側面ヒーターを負荷制御とする(請求項2)。
【0008】
両側面ヒーターおよび各側面ヒーターの外側に位置する側面断熱材は分割状態として構成され、分割状態の側面ヒーターおよび側面断熱材を取り外すことで容易に脱着可能となっている(請求項3)。焙焼用加熱炉は主として酸化ニッケル製造用として有益である(請求項4)。
【発明の効果】
【0009】
円筒型の転動炉の両側面部のほかに、底面部からも底面ヒーターにより熱エネルギーを供給するから、両側面ヒーターの負荷低減が可能となるだけでなく、熱エネルギー効率の上昇分だけ各ヒーターの表面温度を低下させる事ができ、これによってヒーター寿命延長を図る事が可能となる(請求項1)。
【0010】
加熱効率の良い底面ヒーターの棒状ヒーターを負荷固定運転とし、熱利用率を優先し、側面ヒーターを負荷に応じて加減制御することによって、側面ヒーターの熱負荷を可能な限り低減でき、その寿命を延ばすことができる(請求項2)。
【0011】
両側面ヒーター内蔵の側面ヒーターボードおよび側面ヒーターボードの外側に位置する側面断熱を分割状態で脱着可能とすることにより、それらを取り外すことで、両側面ヒーターの交換が速やかに容易に行える状態となる(請求項3)。
【0012】
本発明に係る焙焼用加熱炉は、熱効率の観点から特に酸化ニッケル製造用として有益である(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
酸化ニッケルの製造工程では、結晶水を含有する硫酸ニッケルを原料として用い、例えばロータリーキルンのような円筒型の転動炉(製造炉)を利用して、その外部から被焙焼物(結晶水を含有する硫酸ニッケル)に対して熱エネルギーを供給し、第一工程および第二工程にわたって以下に示すような吸熱反応を生じさせる。
【0014】
【数1】

【0015】
本発明に係る焙焼用加熱炉は、上記の第二工程で使用する円筒型の転動炉である。円筒型の転動炉に対して、炉外部の熱源から被焙焼物への伝熱機構として、「伝導伝熱」と「放射伝熱」との2種類が考えられる。前者の「伝導伝熱」は、熱源により加熱された炉壁を媒体として被焙焼物に伝熱される事であり、本発明においては電熱式のヒーターから供給される熱エネルギーが炉壁を流れ、転動炉の内壁と接触しているNiSO4 ・6H20(s)あるいはNiSO4(s)に伝達される状態を指す。また後者の「放射伝熱」は、炉壁を流れた熱が炉内空気に伝達され、最終的に高温空気によりNiSO4 ・6H20(s)あるいはNiSO4(s)が加熱される状態を指す。
【0016】
ここで工業的には外熱式キルンの熱供給方法としては、例えば電熱パネルヒーターをキルンレトルト外周側の側面部に設置することが一般的に行われている。また更に熱供給を増加させる為には、側面熱源の熱供給量増加あるいは熱源数増加が必要であるが、その場合に、焙焼設備のメンテナンス性ならびに保温材屑、粉塵によるヒーターショートの防止、側面ヒーターの寿命延長を考慮すると、両側面および上面からの3面加熱が適当である。しかし、上面部からの熱供給では、放射伝熱のみによる熱伝達となり、エネルギー利用率が低下するという課題がある。
【0017】
そこで、本発明では、円筒型の転動炉の両側面部のパネルヒーターなどの電熱式の側面ヒーターを設置することに加え、円筒型の転動炉の下面部加熱用として棒状ヒーターによる電熱式の底面ヒーターを設置し、転動炉の3面を分割状態のヒーターにより加熱を行うこととした。これにより上記課題の解決が可能となる。さらに側面ヒーターが金属製ヒーターの場合、熱負荷の上昇により、溶断し易いという問題もあった。しかしながら、棒状ヒーターによる底面ヒーターの設置により、全体のエネルギー効率が向上するため、安価な金属製ヒーターでも側面ヒーターの寿命が延びるという利点がある。
【0018】
図1および図2は、本発明に係る焙焼用加熱炉1の具体例を示している。焙焼用加熱炉1は、酸化ニッケル製造用であり、円筒型の転動炉2の3面すなわち両側面部および底面部の各面毎に、電熱式の側面ヒーター3および電熱式の底面ヒーター4を具備している。電熱式の側面ヒーター3および電熱式の底面ヒーター4は、転動炉2内の被焙焼物(結晶水を含有する硫酸ニッケル)に対して熱エネルギーを供給し、前記第二工程の反応を起こさせる。
【0019】
両側面ヒーター3は、例えば金属製電熱ヒーターボードまたは電熱パネルヒーターによって構成されており、転動炉2の両側面で対向し、上部断熱材5と下部断熱材6との間にはめ込まれ、その外側から側面断熱材7を取り外すことで容易に脱着可能となっている。また、底面ヒーター4は、下部断熱材6の空間に側面方向から挿入され、その熱源は、スパイラル棒状電熱ヒーター、好ましくはシリコニット製棒状電熱ヒーターとする。各側面ヒーター3および側面断熱材7は、上下に分割されており、分割ピースごとに着脱自在となっている。
【0020】
なお、両側面の上部断熱材5は、転動炉2の上面で開口を形成しているが、その開口面は上面断熱材8により閉塞されている。また、両側面の下部断熱材6の間は、下面断熱材9により閉塞されており、この下面断熱材9は、中心位置で点検用、粉塵や異物排出用の窓10を形成している。このようにして、転動炉2は、両側面および下面の方向の3面から対向状態の側面断熱材7および底面ヒーター4に直接向き合っている。
【0021】
側面ヒーター3、底面ヒーター4、上部断熱材5、下部断熱材6、側面断熱材7、上面断熱材8および下面断熱材9は、図1のように、転動炉2の中心軸の軸線方向に一例として6分割されており、6ゾーンを形成している。そしてこれらの外周部分は断熱材カバー11により包みこまれている。
【0022】
運転時に、対向状態の側面ヒーター3および底面ヒーター4は、転動炉2に熱エネルギーを供給するが、このとき底面ヒーター4は、必要な熱エネルギーの大半を供給すべく負荷固定運転とし、両側面ヒーター3は、熱負荷に応じて加減するように制御とする。
【0023】
側面ヒーター4が金属製ヒーターのとき、熱負荷の上昇により、溶断し易い。しかしながら、棒状ヒーターによる底面ヒーター4の設置により、全体のエネルギー効率が向上するため、安価な金属製ヒーターでも側面ヒーター3の寿命は底面ヒーター4のない時に比較して延びる。
【実施例1】
【0024】
第一工程である電熱ヒーター式の焙焼キルンへNiSO4 ・6H20 結晶を(a)108kg/Hrならびに(b)130kg/Hr添加して、500℃で焙焼し、無水NiSO4とした後、これらを第二工程において、図1のように、6ゾーンに区切られた焙焼用加熱炉1(焙焼用のキルン)で1000〜1200℃の条件下で各々(a)キルン2面加熱(キルン両側面のパネル式電熱ヒーター;30kWh*6ゾーンで加熱)ならびに(b)キルン3面加熱(キルン両側面のパネル式電熱ヒーター;30kWh*6ゾーンと底面のスパイラル棒状電熱ヒーター;15kWh*6ゾーンで加熱)の方法で焙焼して、酸化ニッケル粉末を製造した。この場合における単位重量当りの酸化ニッケル粉末製造に必要な熱量[Mcal/kg-NiO]を比較した。なお製造時の消費熱量は、電力メータの指示を読み、読み取った電力値と1kWh →860kcalとから熱量を換算して算出した。ケース(a),(b)における第二工程での消費熱量の算出結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示したケース(a),(b)における消費熱量には、前記の第二工程における下記の分解反応で生成したSO2 、O2ガスならびに焙焼物排出側から添加しているエアによる持ち去り熱によるロス熱が含まれている。
【0027】
【数2】

【0028】
ここで消費熱量からエアによる持ち去り熱を差し引いて、単位重量当りの酸化ニッケル粉末を産出する為に必要な熱量[Mcal/kg-NiO]を各々算出し、比較すると、表2のような結果となった。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果より、キルン下面加熱をスパイラル棒状電熱ヒーター(底面ヒーター4)で加熱することで、キルン両側面のパネル式電熱ヒーター(側面ヒーター3)の熱負荷を低下させる事ができるだけでなく、熱利用率を向上した状態のもとに酸化ニッケル粉末を製造する事が可能となった。さらに、この具体例から側面のパネル式電熱ヒーター(側面ヒーター3)の寿命を約8ヶ月から約2年に延長する事ができた。また、同様の加熱炉(6ゾーンに区切られた焙焼用加熱炉)による増処理に対応できることとなった。
【実施例2】
【0031】
第二工程の焙焼用加熱炉1に具備している側面ヒーター3の溶断時には側面ヒーター3(側面ヒーターボード)の交換を行うが、その時に周囲の側面断熱材7や断熱材カバー11の脱着所に多くの時間がかかり、これが設備稼働率を圧迫するという問題がある。
【0032】
しかし、図2に示すように、転動炉2の側面ヒーター3および側面断熱材7を分割設置することにより、側面ヒーター3の交換が効率的に行う事ができ、設備稼働率低下を極力防止することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、酸化ニッケル製造用の焙焼用加熱炉1に限らず、ロータリーキルン型外熱式焙焼炉において、焙焼操作を行う工業分野に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る焙焼用加熱炉の一部破断説明図である。
【図2】本発明に係る焙焼用加熱炉の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 焙焼用加熱炉
2 転動炉
3 側面ヒーター
4 底面ヒーター
5 上部断熱材
6 下部断熱材
7 側面断熱材
8 上面断熱材
9 下面断熱材
10 窓
11 断熱材カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型の転動炉(2)の両側面部および底面部の3面に、熱エネルギーを供給するために対向状態の電熱式の側面ヒーター(3)および電熱式の底面ヒーター(4)を具備することを特徴とする焙焼用加熱炉(1)。
【請求項2】
底面ヒーター(4)の熱源として棒状電熱ヒーター、好ましくはシリコニット製棒状電熱ヒーターを用い、底面ヒーター(4)を負荷固定運転とし、側面ヒーター(3)を負荷制御とすることを特徴とする請求項1記載の焙焼用加熱炉(1)。
【請求項3】
両側面ヒーター(3)および各側面ヒーター(3)の外側に位置する側面断熱材(7)を分割状態とし、分割状態の側面ヒーター(3)および側面断熱材(7)を取り外すことで容易に脱着可能とすることを特徴とする請求項1記載の焙焼用加熱炉(1)。
【請求項4】
酸化ニッケル製造用である請求項1、請求項2、または請求項4に記載の焙焼用加熱炉(1)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−336919(P2006−336919A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160946(P2005−160946)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】