説明

無段変速機の制御装置

【課題】駆動輪のスリップに起因する過大なトルクがベルト式無段変速機に入力された場合に、滑り防止および耐久性を考慮した適切な挟圧力を伝動ベルトに付与することが可能な無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】ECUは、推定車速V(B)および実車速V(A)を取得する(ステップS1)。ECUは、実車速V(A)および推定車速V(B)の差分を求めることでスリップ量を算出し、その算出したスリップ量と基準値とを比較することによって駆動輪のスリップの有無を判定する(ステップS2)。スリップが発生していると判定された場合(ステップS2にてYES)、ECUは、まずベルト式無段変速機の変速比に応じて油圧を増加させることによりベルト挟圧力を高める(ステップS3)。ECUは、さらにスリップ量に応じた増加量だけ油圧が増加するように油圧を補正する(ステップS4)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の制御装置に関し、特に、ベルト式無段変速機の伝動ベルトに付与する挟圧力を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、溝幅が可変の一対のプーリに伝動ベルトを巻き掛けた無段変速機が知られている。このような無段変速機においては、伝動ベルトが滑らないような挟圧力が伝動ベルトに付与される。ところが車両が滑りやすい路面を走行することにより、駆動輪がその路面をスリップすることがある。このような場合において、路面の摩擦係数が高くなること、あるいは制動などにより、駆動輪が路面に再びグリップすると、無段変速機の出力回転数が急低下する。これによって伝動ベルトに伝達されるトルクが過大になるので、伝動ベルトが滑り得る。伝動ベルトの滑りを防止するために、駆動輪のスリップ検出時に伝動ベルトに付与する挟圧力を増大する技術がある。
【0003】
特開2004−116606号公報(特許文献1)は、駆動輪がホイールスピンして、さらに再グリップするような場合であってもベルト滑りが生じるのを防ぐ車両用ベルト式無段変速システムの制御装置を開示する。この公報に記載の制御装置は、油圧に応じて溝幅が変化する入力側のプライマリプーリと、油圧に応じて溝幅が変化する出力側のセカンダリプーリと、プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられ、プーリ接触半径が変化するベルトとを備えた車両用ベルト式無段変速システムの制御装置である。制御装置は、駆動輪のホイールスピンを検知するホイールスピン検知手段と、プライマリプーリに供給する油圧を調整するプライマリ圧調整手段と、セカンダリプーリに供給する油圧を調整するセカンダリ圧調整手段と、駆動輪のホイールスピンを検知したらプライマリ圧およびセカンダリ圧を増圧補正してベルトトルク容量を上昇させる制御手段とを備える。さらに、上記公報には、駆動輪のホイールスピンが検知されたときに、油温およびエンジンの回転数から、発生可能な最大のプーリ供給圧を算出し、そのプーリ供給圧をプライマリプーリおよびセカンダリプーリに供給することによって、プライマリ圧およびセカンダリ圧を増圧補正することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−116606号公報
【特許文献2】特開平4−277363号公報
【特許文献3】実公平3−38517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伝動ベルトの信頼性を長期にわたり確保するためには、伝動ベルトに過大な負荷がかからないことが好ましい。しかしながら、特開2004−116606号公報によれば、駆動輪のスピンが発生した場合には、そのスピンの程度にかかわらずプライマリプーリおよびセカンダリプーリに最大のプーリ供給圧を供給して、ベルトの挟圧力を増大させることが開示されている。上記文献に開示の技術によれば、ベルトの耐久性の低下が早まる可能性がある。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、駆動輪のスリップに起因する過大なトルクがベルト式無段変速機に入力された場合に、滑り防止および耐久性を考慮した適切な挟圧力を伝動ベルトに付与することが可能な無段変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は要約すれば、車両に搭載され、溝幅が可変の一対のプーリと、一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機を制御する制御装置であって、車両の駆動輪がスリップした場合に、駆動輪のスリップ量を検出するスリップ検出部と、伝動ベルトの挟圧力を、スリップ検出部により検出されるスリップ量に応じて増加させる制御部とを備える。
【0007】
好ましくは、挟圧力は、油圧回路から一対のプーリに供給される油圧の増大に応じて増大する。制御部は、スリップ量が大きくなるほど、スリップ量に対する油圧の増加率が大きくなるように、油圧回路を制御する。
【0008】
好ましくは、制御装置は、無段変速機の出力軸の回転数の変化率を検出する回転数変化率検出部をさらに備える。制御部は、検出された変化率に基づいて回転数が低下したと判定した場合に、低下率に応じて、挟圧力の増加量を補正する。
【0009】
好ましくは、挟圧力は、油圧回路から一対のプーリに供給される油圧の増大に応じて増大する。制御部は、低下率の絶対値が大きくなるほど、絶対値に対する油圧の変化率が大きくなるように、油圧回路を制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動輪のスリップに起因する過大なトルクがベルト式無段変速機に入力された場合に、伝動ベルトの滑りを抑制できるとともに耐久性の低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
[実施の形態1]
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。この車両に搭載された駆動装置100のエンジン200の出力は、トルクコンバータ300および前後進切換装置400を介して、ベルト式無段変速機500に入力される。ベルト式無段変速機500の出力は、減速歯車600および差動歯車装置700に伝達され、左右の駆動輪800へ分配される。駆動装置100は、後述するECU(Electronic Control Unit)900により制御される。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU900のROM(Read Only Memory)930に記憶されたプログラムをECU900が実行することにより実現される。
【0013】
トルクコンバータ300は、エンジン200のクランク軸に連結されたポンプ翼車302と、タービン軸304を介して前後進切換装置400に連結されたタービン翼車306とから構成されている。ポンプ翼車302およびタービン翼車306の間にはロックアップクラッチ308が設けられている。ロックアップクラッチ308は、係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切換えられることにより、係合または解放されるようになっている。
【0014】
ロックアップクラッチ308が完全係合させられることにより、ポンプ翼車302およびタービン翼車306は一体的に回転させられる。ポンプ翼車302には、ベルト式無段変速機500を変速制御したり、ベルト挟圧力を発生させたり、各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ310が設けられている。
【0015】
前後進切換装置400は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置から構成されている。トルクコンバータ300のタービン軸304はサンギヤ402に連結されている。ベルト式無段変速機500の入力軸502はキャリア404に連結されている。キャリア404とサンギヤ402とはフォワードクラッチ406を介して連結されている。リングギヤ408は、リバースブレーキ410を介してハウジングに固定される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は油圧シリンダによって摩擦係合させられる。フォワードクラッチ406の入力回転数は、タービン軸304の回転数、すなわちタービン回転数NTと同じである。
【0016】
フォワードクラッチ406が係合させられるとともに、リバースブレーキ410が解放されることにより、前後進切換装置400は前進用係合状態となる。この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機500に伝達される。リバースブレーキ410が係合させられるとともにフォワードクラッチ406が解放されることにより、前後進切換装置400は後進用係合状態となる。この状態で、入力軸502はタービン軸304に対して逆方向へ回転させられる。これにより、後進方向の駆動力がベルト式無段変速機500に伝達される。フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410が共に解放されると、前後進切換装置400は動力伝達を遮断するニュートラル状態になる。
【0017】
ベルト式無段変速機500は、入力軸502に設けられたプライマリプーリ504と、出力軸506に設けられたセカンダリプーリ508と、これらのプーリに巻き掛けられた伝動ベルト510とから構成される。各プーリと伝動ベルト510との間の摩擦力を利用して、動力伝達が行われる。
【0018】
各プーリは溝幅が可変であるように、油圧シリンダから構成されている。プライマリプーリ504の油圧シリンダの油圧が制御されることにより、各プーリの溝幅が変化する。これにより、伝動ベルト510の掛かり径が変更され、変速比GR(=プライマリプーリ回転数NIN/セカンダリプーリ回転数NOUT)が連続的に変化させられる。
【0019】
図2に示すように、ECU900には、エンジン回転数センサ902、タービン回転数センサ904、車速センサ906、スロットル開度センサ908、冷却水温センサ910、油温センサ912、アクセル開度センサ914、フットブレーキスイッチ916、ポジションセンサ918、プライマリプーリ回転数センサ922、セカンダリプーリ回転数センサ924および車速推定部926が接続されている。
【0020】
エンジン回転数センサ902は、エンジン200の回転数(エンジン回転数)NEを検出する。タービン回転数センサ904は、タービン軸304の回転数(タービン回転数)NTを検出する。車速センサ906は、実際の車両の速度である実車速V(A)を検出する。この実車速V(A)の検出方法としては各種の方法を用いることができるが、一例として、タービン回転数NTに基づき実車速V(A)を検出する方法を採用することができる。
【0021】
スロットル開度センサ908は、電子スロットルバルブの開度θ(TH)を検出する。冷却水温センサ910は、エンジン200の冷却水温T(W)を検出する。油温センサ912は、ベルト式無段変速機500などの油温T(C)を検出する。アクセル開度センサ914は、アクセルペダルの開度A(CC)を検出する。フットブレーキスイッチ916は、フットブレーキの操作の有無を検出する。ブレーキペダルの操作がなされると、フットブレーキスイッチ916がオンになる。ブレーキペダルの操作がなされないと、フットブレーキスイッチ916がオフになる。
【0022】
ポジションセンサ918は、シフトポジションと対応する位置に設けられた接点がONであるかOFFであるかを判別することにより、シフトレバー920のポジションP(SH)を検出する。プライマリプーリ回転数センサ922は、プライマリプーリ504の回転数NINを検出する。セカンダリプーリ回転数センサ924は、セカンダリプーリ508の回転数NOUTを検出する。
【0023】
車速推定部926は、車体の速度を推定して、その推定した速度(推定車速V(B))をECU900に出力する。車速推定部926は、たとえば以下の方法により車体の速度を推定する。本実施の形態に係る車両が2輪駆動車(たとえばFF車やFR車等)である場合には、車速推定部926は被駆動輪の回転数から車体の速度を推定する。本実施の形態に係る車両が4輪駆動車である場合、車速推定部926は車両の加速度から車体の速度を推定する。なお、車体の速度の推定方法はこれらの方法に限定されるものではない。
【0024】
各センサの検出結果を表す信号が、ECU900に送信される。タービン回転数NTは、フォワードクラッチ406が係合された前進走行時にはプライマリプーリ回転数NINと一致する。実車速V(A)は、セカンダリプーリ回転数NOUTと対応した値になる。したがって、車両が停車状態にあり、かつフォワードクラッチ406が係合された状態では、タービン回転数NTは0となる。
【0025】
ECU900は、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび入出力インターフェースなどを含む。CPUはメモリに記憶されたプログラムに従って信号処理を行なう。これにより、エンジン200の出力制御、ベルト式無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御などを実行する。
【0026】
エンジン200の出力制御は電子スロットルバルブ1000、燃料噴射装置1100、点火装置1200などによって行なわれる。ベルト式無段変速機500の変速制御、ベルト挟圧力制御、フォワードクラッチ406の係合/解放制御およびリバースブレーキ410の係合/解放制御は、油圧制御回路2000によって行なわれる。
【0027】
図3を参照して、油圧制御回路2000の一部について説明する。なお、図3は油圧制御回路2000の構成の一例を示したものであり、油圧制御回路2000の構成は図3に示す構成に限らない。
【0028】
オイルポンプ310が発生した油圧は、ライン圧油路2002を介してプライマリレギュレータバルブ2100、モジュレータバルブ(1)2310およびモジュレータバルブ(3)2330に供給される。
【0029】
プライマリレギュレータバルブ2100には、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210のいずれか一方から選択的に制御圧が供給される。本実施の形態において、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の両方は、ノーマルオープン(非通電時に出力される油圧が最大になる)のソレノイドバルブである。なお、SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210がノーマルクローズ(非通電時に出力される油圧が最小(「0」)になる)であるようにしてもよい。
【0030】
プライマリレギュレータバルブ2100のスプールは、供給された制御圧に応じて上下に摺動する。これにより、オイルポンプ310で発生した油圧がプライマリレギュレータバルブ2100により調圧(調整)される。プライマリレギュレータバルブ2100により調圧された油圧がライン圧PLとして用いられる。本実施の形態においては、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより高くなる。なお、プライマリレギュレータバルブ2100に供給される制御圧が高いほど、ライン圧PLがより低くなるようにしてもよい。
【0031】
SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210には、ライン圧PLを元圧としてモジュレータバルブ(3)2330により調圧された油圧が供給される。
【0032】
SLTリニアソレノイドバルブ2200およびSLSリニアソレノイドバルブ2210は、ECU900から送信されたデューティ信号によって決まる電流値に応じて制御圧を発生させる。
【0033】
SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧(出力油圧)およびSLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧(出力油圧)うち、プライマリレギュレータバルブ2100へ供給される制御圧は、コントロールバルブ2400により選択される。
【0034】
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(A)の状態(左側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
【0035】
コントロールバルブ2400のスプールが図3において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLSリニアソレノイドバルブ2210からプライマリレギュレータバルブ2100へ制御圧が供給される。すなわち、SLSリニアソレノイドバルブ2210の制御圧に応じて、ライン圧PLが制御される。
【0036】
なお、コントロールバルブ2400のスプールが図3において(B)の状態にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200の制御圧は、後述するマニュアルバルブ2600に供給される。
【0037】
コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングにより一方向へ付勢される。このスプリングの付勢力に対向するように、変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520から油圧が供給される。
【0038】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520の両方からコントロールバルブ2400に油圧が供給された場合、コントロールバルブ2400のスプールは図3において(B)の状態になる。
【0039】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520の少なくともいずれか一方からコントロールバルブ2400に油圧が供給されていない場合、コントロールバルブ2400のスプールは、スプリングの付勢力により図3において(A)の状態になる。
【0040】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510および変速制御用デューティソレノイド(2)2520には、モジュレータバルブ(4)2340により調圧された油圧が供給される。モジュレータバルブ(4)2340は、モジュレータバルブ(3)2330から供給された油圧を一定の圧力に調圧する。
【0041】
モジュレータバルブ(1)2310は、ライン圧PLを元圧として調圧された油圧を出力する。モジュレータバルブ(1)2310から出力された油圧は、セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される。セカンダリプーリ508の油圧シリンダには、伝動ベルト510が滑りを生じないような油圧が供給される。
【0042】
モジュレータバルブ(1)2310には、軸方向へ移動可能なスプールおよびそのスプールを一方へ付勢するスプリングが設けられている。モジュレータバルブ(1)2310は、ECU900によりデューティ制御されるSLSリニアソレノイドバルブ2210の出力油圧をパイロット圧として、モジュレータバルブ(1)2310に導入されるライン圧PLを調圧する。モジュレータバルブ(3)により調圧された油圧は、セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される。モジュレータバルブ(1)2310からの出力油圧に応じてベルト挟圧力が増減させられる。
【0043】
SLSリニアソレノイドバルブ2210は、変速比GRをパラメータとしたマップ、駆動輪のスリップ量をパラメータとしたマップに従い、ベルト滑りが生じないベルト挟圧力になるように制御される。具体的には、SLSリニアソレノイドバルブ2210に対する励磁電流をベルト挟圧力に対応するデューティ比で制御する。本実施の形態においては、駆動輪のスリップが生じた場合、ベルト挟圧力を増大補正することによって、その後の駆動輪のグリップによる伝達トルクの急変に伴うベルト滑りを抑制する。なお、この場合のベルト挟圧力の制御については後述する。
【0044】
セカンダリプーリ508の油圧シリンダに供給される油圧は、プレッシャセンサ2312により検知される。
【0045】
図4を参照して、マニュアルバルブ2600について説明する。マニュアルバルブ2600は、シフトレバー920の操作に従って機械的に切換えられる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は係合させられたり、解放させられたりする。
【0046】
シフトレバー920は、駐車用の「P」ポジション、後進走行用の「R」ポジション、動力伝達を遮断する「N」ポジション、前進走行用の「D」ポジションおよび「B」ポジションへ操作される。
【0047】
「P」ポジションおよび「N」ポジションでは、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410内の油圧は、マニュアルバルブ2600からドレンされる。これにより、フォワードクラッチ406およびリバースブレーキ410は解放される。
【0048】
「R」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からリバースブレーキ410に油圧が供給される。これによりリバースブレーキ410が係合させられる。一方、フォワードクラッチ406内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりフォワードクラッチ406が解放される。
【0049】
コントロールバルブ2400が図4において(A)の状態(左側の状態)にある場合、図示しないモジュレータバルブ(2)から供給されたモジュレータ圧PMが、コントロールバルブ2400を介してマニュアルバルブ2600に供給される。このモジュレータ圧PMによりリバースブレーキ410が係合状態に保持される。
【0050】
コントロールバルブ2400が図4において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200により調圧された油圧が、マニュアルバルブ2600に供給される。SLTリニアソレノイドバルブ2200により油圧を調圧することにより、リバースブレーキ410が緩やかに係合され、係合時のショックが抑制される。
【0051】
「D」ポジションおよび「B」ポジションでは、マニュアルバルブ2600からフォワードクラッチ406に油圧が供給される。これによりフォワードクラッチ406が係合させられる。一方、リバースブレーキ410内の油圧がマニュアルバルブ2600からドレンされる。これによりリバースブレーキ410が解放される。
【0052】
コントロールバルブ2400が図4において(A)の状態(左側の状態)にある場合、図示しないモジュレータバルブ(2)から供給されたモジュレータ圧PMが、コントロールバルブ2400を介してマニュアルバルブ2600に供給される。このモジュレータ圧PMによりフォワードクラッチ406が係合状態に保持される。
【0053】
コントロールバルブ2400が図4において(B)の状態(右側の状態)にある場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200により調圧された油圧が、マニュアルバルブ2600に供給される。SLTリニアソレノイドバルブ2200により油圧を調圧することにより、フォワードクラッチ406が緩やかに係合され、係合時のショックが抑制される。
【0054】
SLTリニアソレノイドバルブ2200は、通常はコントロールバルブ2400を介してライン圧PLを制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、通常はモジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御する。
【0055】
一方、シフトレバー920が「D」ポジションである状態で車両が停止した(車速が「0」になった)という条件を含むニュートラル制御実行条件が成立した場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200は、フォワードクラッチ406の係合力が低下するように、フォワードクラッチ406の係合力を制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、モジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御するとともに、SLTリニアソレノイドバルブ2200に代わって、ライン圧PLを制御する。
【0056】
シフトレバー920が「N」ポジションから「D」ポジションまたは「R」ポジションへ操作されるガレージシフトが行なわれた場合、SLTリニアソレノイドバルブ2200は、フォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410が緩やかに係合するように、フォワードクラッチ406もしくはリバースブレーキ410の係合力を制御する。SLSリニアソレノイドバルブ2210は、モジュレータバルブ(1)2310を介してベルト挟圧力を制御するとともに、SLTリニアソレノイドバルブ2200に代わって、ライン圧PLを制御する。
【0057】
図5を参照して、変速制御を行なう構成について説明する。変速制御は、プライマリプーリ504の油圧シリンダに対する油圧の供給および排出を制御することにより行なわれる。プライマリプーリ504の油圧シリンダに対する作動油の給排は、レシオコントロールバルブ(1)2710およびレシオコントロールバルブ(2)2720を用いて行なわれる。
【0058】
プライマリプーリ504の油圧シリンダには、ライン圧PLが供給されるレシオコントロールバルブ(1)2710と、ドレンに接続されたレシオコントロールバルブ(2)2720とが連通されている。
【0059】
レシオコントロールバルブ(1)2710は、アップシフトを実行するためのバルブである。レシオコントロールバルブ(1)2710は、ライン圧PLが供給される入力ポートとプライマリプーリ504の油圧シリンダに連通された出力ポートとの間の流路をスプールによって開閉するように構成されている。
【0060】
レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールの一端部にはスプリングが配置されている。スプールを挟んでスプリングとは反対側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧が供給されるポートが形成されている。また、スプリングが配置されている側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧が供給されるポートが形成されている。
【0061】
変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧を高くするとともに、変速制御用デューティソレノイド(2)2520から制御圧を出力しないようにすると、レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールが図5において(D)の状態(右側の状態)になる。
【0062】
この状態では、プライマリプーリ504の油圧シリンダに供給される油圧が増加してプライマリプーリ504の溝幅が狭くなる。そのため、変速比が低下する。すなわちアップシフトする。またその際の作動油の供給流量を増大させることにより、変速速度が速くなる。
【0063】
レシオコントロールバルブ(2)2720は、ダウンシフトを実行するためのバルブである。レシオコントロールバルブ(2)2720のスプールの一端部にはスプリングが配置されている。スプリングが配置されている側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(1)2510からの制御圧が供給されるポートが形成されている。スプールを挟んでスプリングとは反対側の端部に、変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧が供給されるポートが形成されている。
【0064】
変速制御用デューティソレノイド(2)2520からの制御圧を高くするとともに、変速制御用デューティソレノイド(1)2510から制御圧を出力しないようにすると、レシオコントロールバルブ(2)2720のスプールが図5において(C)の状態(左側の状態)になる。同時に、レシオコントロールバルブ(1)2710のスプールが図5において(C)の状態(左側の状態)になる。
【0065】
この状態では、レシオコントロールバルブ(1)2710およびレシオコントロールバルブ(2)2720を介して、プライマリプーリ504の油圧シリンダから作動油が排出される。そのため、プライマリプーリ504の溝幅が広くなる。その結果、変速比が増大する。すなわちダウンシフトする。またその際の作動油の排出流量を増大させることにより、変速速度が速くなる。
【0066】
図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよい。
【0067】
ECU900は、スリップ検出部940と、挟圧力増大部950と、マップ記憶部960とを含む。
【0068】
スリップ検出部940は、実車速V(A)および推定車速V(B)に基づいて、図1に示す駆動輪800がスリップしていること、および、駆動輪800のスリップ量を検出する。
【0069】
挟圧力増大部950は、スリップ検出部940によって駆動輪800がスリップしていることが検出された場合に、駆動輪800がスリップしていない場合のベルト挟圧力として定められる通常値よりもベルト挟圧力の値が増大するように、SLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。さらに、挟圧力増大部950は、そのベルト挟圧力をスリップ検出部940により検出された駆動輪800のスリップ量に応じて増加させる。
【0070】
マップ記憶部960は、スリップ量と、SLSリニアソレノイドバルブ2210の出力油圧(以下、単に「油圧」と呼ぶ)の増加量との関係を定めたマップを記憶する。このマップは、たとえば実験によって予め求められる。
【0071】
図7を参照して、マップ記憶部960に記憶されるマップの例を説明する。このマップでは、スリップ量が大きくなるほど油圧の補正量(増加量)も大きくなる。なお、このマップでは、スリップ量と油圧の増加量とは比例する。
【0072】
図6に戻り、挟圧力増大部950は、スリップ検出部940が検出したスリップ量、および、マップ記憶部960に記憶されるマップに基づいて、油圧の増加量を算出する。そして、挟圧力増大部950は、その増加量だけ制御圧が増大するように、SLSリニアソレノイドバルブ2210を制御する。これによって、スリップ検出部940が検出したスリップ量に応じてベルト挟圧力が増加する。
【0073】
なおベルト式無段変速機500の変速比を算出するため、挟圧力増大部950にはプライマリプーリ504の回転数NINおよびセカンダリプーリ508の回転数NOUTが入力される。
【0074】
図8および図6を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900が実行するプログラムの制御構造について説明する。図8のフローチャートに示した処理は、たとえば予め定められた周期でメインルーチンから呼び出されて実行される。
【0075】
ステップS1にて、スリップ検出部940は、車速センサ906から実車速V(A)を取得するとともに、車速推定部926から推定車速V(B)を取得する。
【0076】
ステップS2にて、ECU900は、スリップ量を算出するとともに、その算出したスリップ量に基づいて、駆動輪のスリップが発生したか否かを判定する。詳細には、スリップ検出部940は、推定車速V(B)と実車速V(A)との差分を算出する。この差分がスリップ量となる。挟圧力増大部950は、その算出されたスリップ量が、スリップ量の基準値よりも大きい場合に、駆動輪のスリップが発生したと判定する。駆動輪のスリップが発生した場合(ステップS2にてYES)、処理はS3に移される。駆動輪のスリップが発生していない場合(ステップS2にてNO)、処理はメインルーチンに戻される。
【0077】
ステップS3にて、挟圧力増大部950は、変速比GR(=プライマリプーリ回転数NIN/セカンダリプーリ回転数NOUT)に応じた増加量だけ油圧を増加させる。
【0078】
ステップS4にて、挟圧力増大部950は、ステップS2にて算出されたスリップ量に応じて油圧を補正する。詳細には、挟圧力増大部950は、図7に示したマップ、およびステップS2にて算出されたスリップ量に基づいて油圧の増加量を算出し、油圧をその増加量分増加させる。ステップS4の処理が終了すると、全体の処理はメインルーチンに戻される。
【0079】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の動作について説明する。
【0080】
ECU900は、車速推定部926により推定された推定車速V(B)および、車速センサ906によって検出された実車速V(A)を取得する(ステップS1)。ECU900は、実車速V(A)および推定車速V(B)の差分を求めることでスリップ量を算出し、その算出したスリップ量と基準値とを比較することによって駆動輪のスリップの有無を判定する(ステップS2)。スリップが発生していると判定された場合(ステップS2にてYES)、ベルト挟圧力が高められる(ステップS3,S4)。一方、スリップが発生していないと判定された場合(ステップS2にてNO)、ベルト挟圧力は現状のまま維持される。
【0081】
ECU900は、まず、ベルト式無段変速機500の変速比に応じて油圧を増加させることによりベルト挟圧力を高める(ステップS3)。たとえば車両の走行の際に、駆動輪のスリップが発生し、その後、駆動輪が路面に再びグリップしたとする。このような場合、ベルト式無段変速機500の出力軸の回転数が一旦急上昇した後に急低下する。これによって、ベルト式無段変速機500には大きなトルクが衝撃的に入力される。この入力トルクは、ベルト挟圧力の制御にとって外乱となる。
【0082】
変速比が大きいほど、ベルト式無段変速機500の入力トルクが大きくなる。したがって駆動輪のスリップおよびグリップが生じた場合に、外乱として衝撃的に入力されるトルクも大きくなる。この外乱によるベルト滑りを防ぐため、ECU900は、ベルト式無段変速機500の変速比に応じて油圧を増加する(ステップS3)。
【0083】
ただし、ベルト滑りを防ぐためにはベルト挟圧力を高めることが必要であるものの、挟圧力を過度に高めるとベルトへの負担が増大する。長期にわたりベルトの信頼性を確保するためには、ベルトの耐久性が早期に低下することを避ける必要がある。
【0084】
そこでECU900は、スリップ量に応じた増加量分油圧が増加するように油圧を補正する(ステップS4)。これによって、スリップ量に応じた増加量分、ベルト挟圧力が高められるので駆動輪のスリップおよびグリップによりベルト式無段変速機500に衝撃的に入力されるトルクの大きさを考慮したベルト挟圧力を伝動ベルトに与えることができる。したがって第1の実施の形態によれば、伝動ベルトの滑りを防止することができるだけでなく、過大なベルト挟圧力が伝動ベルトに与えられることを防ぐことができる。
【0085】
[実施の形態2]
以下、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、スリップ量に応じて増加させた油圧を、無段変速機の変速機の出力軸回転数の低下率に基づいてさらに補正する(増加させる)点で前述の第1の実施の形態と相違する。
【0086】
なお、第2の実施の形態に係る車両の構成、およびその車両に搭載される油圧制御回路の構成については、第1の実施の形態と同じであり、それらについての機能も同じである。したがってこれらについての詳細な説明は以後繰返さない。
【0087】
図9に示されるように、駆動輪がスリップした場合、ベルト式無段変速機の出力軸回転数(タービン回転数NT)が、一旦急上昇する。第1の実施の形態の説明においては、駆動輪のグリップにより、一旦急上昇した出力軸回転数が急低下することを示した。駆動輪のグリップだけでなく運転者がフットブレーキを操作した場合にも、駆動輪の回転数が低下するので出力軸回転数が低下する。
【0088】
図9において破線で示した直線の傾きは、出力軸回転数の低下率を示す。この低下率の絶対値を以後、|ΔNT|と示す。|ΔNT|は直線の傾きの絶対値に対応する。
【0089】
|ΔNT|が大きい場合にはベルト式無段変速機500に衝撃的に入力されるトルクも大きくなる。たとえば車両のブレーキ性能が向上するほど|ΔNT|が大きくなると考えられる。この入力トルクが過大となる場合、慣性によって伝動ベルトが滑りうる。したがって、第2の実施の形態では、スリップ量に応じて増加させた油圧を|ΔNT|に応じて補正する(さらに増やす)処理を行なう。
【0090】
図10を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の機能について説明する。なお、以下に説明する機能はハードウェアにより実現してもよく、ソフトウェアにより実現してもよい。
【0091】
ECU900は、スリップ検出部940と、挟圧力増大部950と、マップ記憶部960と、変化率算出部970とを含む。
【0092】
スリップ検出部940は、実車速V(A)および推定車速V(B)に基づいて、図1に示す駆動輪800がスリップしていること、および、駆動輪800のスリップ量を検出する。
【0093】
変化率算出部970は、一定の時間間隔(たとえば1秒)で、タービン回転数センサ904(図示せず)からタービン回転数NTを取得する。なお、以下ではタービン回転数NT(ベルト式無段変速機500の出力軸回転数)のことを「出力軸回転数」と呼ぶことにする。変化率算出部970は、その取得した出力軸回転数に基づいて、出力軸回転数の低下率の絶対値である|ΔNT|を算出する。
【0094】
マップ記憶部960は、図7に示したマップを記憶する。さらに、マップ記憶部960は、|ΔNT|と油圧補正量とを対応付けるマップを記憶する。図11を参照して、このマップでは、|ΔNT|が大きいほど油圧の補正量が大きくなる。すなわちこのマップでは、|ΔNT|が大きいほど伝動ベルトの挟圧力が高くなるように、油圧の補正量が定められている。なお、このマップでは、|ΔNT|と油圧の補正量とが比例する。図11に示したマップも図7に示したマップ同様に、たとえば実験によって予め求められる。
【0095】
図10に戻り、挟圧力増大部950は、スリップ検出部940によって駆動輪800がスリップしていることが検出された場合に、第1の実施の形態と同様の制御をSLSリニアソレノイドバルブ2210に対して行なうことで、ベルト挟圧力の値を増大させる。さらに、挟圧力増大部950は、変化率算出部970により算出された|ΔNT|に基づいて、油圧の補正が必要と判断した場合、その算出された|ΔNT|と、マップ記憶部960に記憶されるマップ(図11参照)とに基づき油圧を補正することでベルト挟圧力の値を増大させる。
【0096】
図12および図10を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU900が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、図12のフローチャートに示した処理は、たとえば予め定められた周期でメインルーチンから呼び出されて実行される。
【0097】
また、図12のフローチャートに示す処理は、ステップS5,S6の処理が追加されている点で図8のフローチャートに示した処理と異なる。図12のフローチャートにおけるステップS1〜S4の処理は図8の対応するステップの処理と同様である。そこで、以下では、ステップS5,S6の処理について説明し、他のステップの処理については説明を繰返さない。
【0098】
ステップS5にて、変化率算出部970は、出力軸回転数の低下率の絶対値である|ΔNT|を算出する。挟圧力増大部950は、算出された|ΔNT|が出力軸回転数の低下率の基準値より大きい場合、出力軸回転数の低下が大きいと判定する。この場合(ステップS5においてYES)、処理はステップS6に移される。一方、出力軸回転数の低下が小さいと判定された場合(ステップS5においてNO)、全体の処理はメインルーチンに戻る。
【0099】
ステップS6にて、挟圧力増大部950は、ステップS5にて算出された|ΔNT|と図11に示したマップとに基づいて油圧の補正量(増加量)を算出し、油圧をその補正量だけ増加させる。ステップS6の処理が終了すると、全体の処理はメインルーチンに戻される。
【0100】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態に係る制御装置であるECU900の動作について説明する。なお、ステップS1〜S4に対応する動作は第1の実施の形態と同様であるので以下ではその説明を繰返さず、ステップS5,S6に対応する動作について説明する。
【0101】
駆動輪がスリップした際、ベルト式無段変速機500の出力軸回転数が一旦急上昇するが、運転者によるフットブレーキの操作によって、その回転数が急低下する。ECU900は、出力軸回転数の変化率の絶対値を算出し、その算出した値(|ΔNT|)と基準値とを比較することによって、出力軸回転数が変化したか否かを判定する(ステップS5)。回転数の変化率の絶対値が大きいほど、ベルト式無段変速機500に衝撃的に入力されるトルクが大きくなるので、スリップ量に応じた増加量だけ油圧を増加させたとしても、ベルトの滑りが生じる可能性がある。そこでECU900は、出力軸回転数の低下が大きい場合(ステップS5にてYES)、その低下率の絶対値である|ΔNT|に応じた油圧補正を実行する(ステップS6)。これによって、第1の実施の形態と同様に、ベルト式無段変速機500に衝撃的に入力されるトルクの大きさを反映したベルト挟圧力を伝動ベルトに与えることができる。よって伝動ベルトの滑りを防止することができる。なお、出力軸回転数の低下が小さい場合(ステップS5にてNO)、第1の実施の形態と同様に、スリップ量に応じた増加量だけ油圧が増加する。
【0102】
第2の実施の形態によれば、上述のように、伝動ベルトの滑りを防止できる。また、第2の実施の形態によれば、スリップ量および|ΔNT|に基づいて油圧の補正量(増加量)が定まるので、過大なベルト挟圧力が伝動ベルトに付与されるのを防ぐことができる。よって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、伝動ベルトの滑りを防止することができるだけでなく、過大なベルト挟圧力が伝動ベルトに与えられることを防ぐことができる。
【0103】
なお、この実施の形態における油圧の補正につき、スリップ量に基づき算出された増加量をさらに増加させる補正を説明した。ただし、この実施の形態における油圧の補正はこれに限定されるものではなく、スリップ量に基づき算出された増加量から|ΔNT|に基づき算出された補正量を減算してもよい。このような補正であっても、伝動ベルトの滑りの防止と、伝動ベルトへの過大なベルト挟圧力の付与の防止とを両立することができる。
【0104】
<第2の実施の形態の変形例>
この変形例では、図10に示したマップ記憶部960に記憶されるマップが図7、図11に示したマップと異なる。なお、この変形例の他の点については、上述の第2の実施の形態2と同様であるので、説明を繰返さない。
【0105】
図13は、本発明の第2の実施の形態の変形例に適用される、スリップ量と油圧増加量との関係を定めたマップを示す図である。図13を参照して、この変形例に従うマップでは、スリップ量が大きいほど、スリップ量に対する油圧増加量の変化率(増加率)が大きくなる。これに対し、図7に示したマップではスリップ量に対する油圧増加量の変化率が一定である。この点で図13に示したマップは図7に示したマップと異なっている。
【0106】
図14は、本発明の第2の実施の形態の変形例に適用される、出力軸回転数の低下量の絶対値と油圧補正量との関係を定めたマップを示す図である。図14を参照して、この変形例に従うマップでは、出力軸回転数の低下量の絶対値(|ΔNT|)が大きいほど、|ΔNT|に対する油圧増加量の変化率(増加率)が大きくなる。これに対し、図11に示したマップでは、|ΔNT|に対する油圧補正量の変化率が一定である。この点で図14に示したマップは図11に示したマップと異なっている。
【0107】
無段式変速機の変速比が大きくなるほど、その入力トルクも大きいので、駆動輪が一旦スリップした場合にはスリップ量が大きくなると考えられる。これにより、駆動輪のスリップおよびグリップにより無段変速機に衝撃的に入力されるトルクも大きくなると考えられる。そこで、図13のマップに示すように、スリップ量が大きいほど、スリップ量に対する油圧の変化率を大きくすることで、スリップ量が大きい領域では、より大きなベルト挟圧力を伝動ベルトに付与できるとともに、スリップ量が小さい領域では、より小さなベルト挟圧力を伝動ベルトに付与できる。これによって、ベルト滑りを防止できるとともに、過大な挟圧力がベルトに付与されるのを防ぐことができる。
【0108】
同様に、出力軸回転数の低下率の絶対値が大きいほど、無段変速機に衝撃的に入力されるトルク(外乱入力)も大きくなる。したがって、図14に示すように、|ΔNT|が大きいほど、|ΔNT|に対する油圧の変化率を大きくすることで、|ΔNT|が大きい領域(外乱入力が大きい領域)では、より大きなベルト挟圧力を伝動ベルトに付与できるとともに、|ΔNT|が大きい領域(外乱入力が小さい領域)では、より小さなベルト挟圧力を伝動ベルトに付与できる。これによって、ベルト滑りを防止できるとともに、過大な挟圧力がベルトに付与されるのを防ぐことができる。
【0109】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUを搭載した車両のスケルトン図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUを示す制御ブロック図である。
【図3】油圧制御回路を示す第1の図である。
【図4】油圧制御回路を示す第2の図である。
【図5】油圧制御回路を示す第3の図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図7】マップ記憶部960に記憶される第1のマップを示す図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図9】無段変速機の出力軸回転数の変化を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUの機能ブロック図である。
【図11】マップ記憶部960に記憶される第2のマップを示す図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る制御装置であるECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図13】本発明の第2の実施の形態の変形例に適用される、スリップ量と油圧増加量との関係を定めたマップを示す図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態の変形例に適用される、出力軸回転数の低下量の絶対値と油圧補正量との関係を定めたマップを示す図である。
【符号の説明】
【0111】
100 駆動装置、200 エンジン、300 トルクコンバータ、302 ポンプ翼車、304 タービン軸、306 タービン翼車、308 ロックアップクラッチ、310 オイルポンプ、400 前後進切換装置、402 サンギヤ、404 キャリア、406 フォワードクラッチ、408 リングギヤ、410 リバースブレーキ、500 ベルト式無段変速機、502 入力軸、504 プライマリプーリ、506 出力軸、508 セカンダリプーリ、510 伝動ベルト、600 減速歯車、700 差動歯車装置、800 駆動輪、902 エンジン回転数センサ、904 タービン回転数センサ、906 車速センサ、908 スロットル開度センサ、910 冷却水温センサ、912 油温センサ、914 アクセル開度センサ、916 フットブレーキスイッチ、918 ポジションセンサ、920 シフトレバー、922 プライマリプーリ回転数センサ、924 セカンダリプーリ回転数センサ、926 車速推定部、940 スリップ検出部、950 挟圧力増大部、960 マップ記憶部、970 変化率算出部、1000 電子スロットルバルブ、1100 燃料噴射装置、1200 点火装置、2000 油圧制御回路、2002 ライン圧油路、2100 プライマリレギュレータバルブ、2200 リニアソレノイドバルブ、2210 リニアソレノイドバルブ、2312 プレッシャセンサ、2400 コントロールバルブ、2600 マニュアルバルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、溝幅が可変の一対のプーリと、前記一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行なう伝動ベルトとを有する無段変速機を制御する制御装置であって、
前記車両の駆動輪がスリップした場合に、前記駆動輪のスリップ量を検出するスリップ検出部と、
前記伝動ベルトの挟圧力を、前記スリップ検出部により検出される前記スリップ量に応じて増加させる制御部とを備える、無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記挟圧力は、油圧回路から前記一対のプーリに供給される油圧の増大に応じて増大し、
前記制御部は、前記スリップ量が大きくなるほど、前記スリップ量に対する前記油圧の増加率が大きくなるように、前記油圧回路を制御する、請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記無段変速機の出力軸の回転数の変化率を検出する回転数変化率検出部をさらに備え、
前記制御部は、検出された前記変化率に基づいて前記回転数が低下したと判定した場合に、前記低下率に応じて、前記挟圧力の前記増加量を補正する、請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記挟圧力は、油圧回路から前記一対のプーリに供給される油圧の増大に応じて増大し、
前記制御部は、前記低下率の絶対値が大きくなるほど、前記絶対値に対する前記油圧の変化率が大きくなるように、前記油圧回路を制御する、請求項3に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−257489(P2009−257489A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107795(P2008−107795)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】