説明

無段変速機の制御装置

【課題】内燃機関にクラッチを介して接続されるベルト式の無段変速機の制御装置において、ベルトの滑りを防止しつつ、発進時の応答遅れを回避するようにした無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン(内燃機関)で駆動される油圧ポンプによって吐出された作動油の吐出量のエンジン始動時からの積算値をエンジン回転数に基づいて算出すると共に、算出された吐出量の積算値がCVT(無段変速機)を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断し(S10,S12)、吐出量の積算値が必要充填量に達していないと判断される場合、前後進切換機構の前進クラッチの締結を禁止する(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機の制御装置に関する従来技術としては、特許文献1記載の技術を挙げることができる。特許文献1記載の技術にあっては、極低温時のライン圧最小制御中にDレンジがセレクトされたとき、タイマtが所定時間T0に達するまで、即ち、ライン圧P1の実油圧が最大となるまで、前進クラッチ締結圧PcをP1として立ち上がりを遅らせ、よって油圧の応答遅れによるベルト滑りを防止するようにしている。
【特許文献1】特開2004−125063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように特許文献1記載の技術にあってはDレンジがセレクトされてからの経過時間によってクラッチ締結を開始することでベルトの滑りを防止しているが、油圧の挙動は必ずしも時間通りに推移しないことから、時間で判断する場合には余裕を持って設定する必要があるため、発進時の応答遅れが大きくなるという不都合がある。
【0004】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、内燃機関にクラッチを介して接続されるベルト式の無段変速機の制御装置において、ベルトの滑りを防止しつつ、発進時の応答遅れを回避するようにした無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1にあっては、内燃機関にクラッチを介して接続されると共に、前記内燃機関で駆動される油圧ポンプによって作動油を油路から供給されて作動するベルト式の無段変速機の制御装置において、前記内燃機関が始動されてから前記油圧ポンプによって吐出された作動油の吐出量を前記内燃機関の回転数に基づいて算出して積算するポンプ吐出量積算値算出手段と、前記吐出量の積算値が前記無段変速機を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断する充填量判断手段と、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるとき、前記クラッチの締結を禁止するクラッチ制御手段とを備える如く構成した。
【0006】
請求項2に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるときにアクセルペダルが踏み込まれた場合、前記内燃機関の出力トルクを制限する如く構成した。
【0007】
請求項3に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記クラッチ制御手段は、前記アクセルペダルが戻された場合、前記内燃機関の回転数を増加させる如く構成した。
【0008】
請求項4に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記油路の容積から前記クラッチの締結開始からクラッチ伝達トルクが発生するまでに吐出される作動油の充填量を減算して設定する如く構成した。
【0009】
請求項5に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記内燃機関の停止時間、前記内燃機関の始動時の温度、および外気温の少なくともいずれかで補正する如く構成した。
【0010】
請求項6に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている場合に前記クラッチの締結を開始するとき、クラッチ伝達トルクの増加を抑制する如く構成した。
【0011】
請求項7に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている際に前記クラッチの締結を開始するときにアクセルペダルが操作されていた場合、前記内燃機関の出力トルク低減量を増加させる如く構成した。
【0012】
請求項8に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達したと判断されるときも、アクセルペダルが所定値以上踏み込まれた場合または前記内燃機関の回転数が所定値以上の場合、前記クラッチの締結を禁止する如く構成した。
【発明の効果】
【0013】
請求項1にあっては、内燃機関にクラッチを介して接続される無段変速機の制御装置において、内燃機関が始動されてから油圧ポンプによって吐出された作動油の吐出量を内燃機関の回転数に基づいて算出して積算すると共に、無段変速機を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断し、達していないと判断されるとき、クラッチの締結を禁止する如く構成、換言すれば経過時間ではなく、油路の充填状態を判断するようにしたので、充填されたと判断される前はクラッチの締結を禁止することでベルトの滑りを防止できると共に、充填されたと判断された後はクラッチの締結を解禁することとなり、発進を不要に遅らすことがないため、発進時の応答遅れ、即ち、発進遅れを回避することができる。
【0014】
請求項2に係る無段変速機の制御装置にあっては、吐出量の積算値が必要充填量に達していないと判断されるときにアクセルペダルが踏み込まれた場合、内燃機関の出力トルクを制限する如く構成したので、上記した効果に加え、クラッチが締結されていない間の内燃機関の吹き上がりを防止することができる。
【0015】
請求項3に係る無段変速機の制御装置にあっては、アクセルペダルが戻された場合、内燃機関の回転数を増加させる如く構成したので、上記した効果に加え、内燃機関の回転数を増加させることで内燃機関の回転数に基づいて算出されるポンプ吐出量の積算値が増加し、必要充填量に達したと判断されるまでの時間が短縮され、よってアクセルペダルが操作された場合の発進遅れを一層確実に回避することができる。
【0016】
請求項4に係る無段変速機の制御装置にあっては、必要充填量を油路の容積からクラッチの締結開始からクラッチ伝達トルクが発生するまでに吐出される作動油の充填量を減算して設定する如く構成したので、上記した効果に加え、無効ストローク詰めに要求される時間を勘案することで必要充填量を正確に算出することができる。
【0017】
請求項5に係る無段変速機の制御装置にあっては、必要充填量を、内燃機関の停止時間、内燃機関の始動時の温度、および外気温の少なくともいずれかで補正する如く構成したので、上記した効果に加え、油路からの作動油の排出、作動油の粘性などのいずれかを考慮して求めることとなり、必要充填量を一層正確に算出することができる。
【0018】
請求項6に係る無段変速機の制御装置にあっては、吐出量の積算値が必要充填量に達する前にインギヤされている場合にクラッチの締結を開始するとき、クラッチ伝達トルクの増加を抑制する如く構成したので、上記した効果に加え、内燃機関の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【0019】
請求項7に係る無段変速機の制御装置にあっては、吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている際にクラッチの締結を開始するときにアクセルペダルが操作されていた場合、内燃機関の出力トルク低減量を増加させる如く構成したので、上記した効果に加え、同様に、内燃機関の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【0020】
請求項8に係る無段変速機の制御装置にあっては、吐出量の積算値が必要充填量に達したと判断されるときも、アクセルペダルが所定値以上踏み込まれた場合または内燃機関の回転数が所定値以上の場合、クラッチの締結を禁止する如く構成したので、上記した効果に加え、同様に、内燃機関の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面に即してこの発明に係る無段変速機の制御装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0022】
図1は、この発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0023】
図1において、符号10は内燃機関(以下「エンジン」という)を示す。エンジン10は車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14に搭載される。
【0024】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
【0025】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0026】
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。
【0027】
変速機26は無段変速機(Continuous Variable Transmission。以下「CVT」という)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cからなる。
【0028】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0029】
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、前進クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
【0030】
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2は前進クラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0031】
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0032】
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ42が配置される。
【0033】
前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作はCVT26などの油圧機構(後述)のマニュアルバルブに伝えられる。
【0034】
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ30aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ30aが締結される。
【0035】
前進クラッチ30aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
【0036】
他方、Rポジションが選択されると、前進クラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
【0037】
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に開放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0038】
図2は上記したCVT26などの油圧機構を模式的に示す油圧回路図である。
【0039】
図示の如く、油圧機構(符号46で示す)には油圧ポンプ46aが設けられる。油圧ポンプ46aはギヤポンプからなり、エンジン10によって駆動され、リザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)46cに圧送する。
【0040】
PH制御バルブ46cの出力(PH圧(ライン圧))は、一方では油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ(DR REG VLV, DN REG VLV)46e,46fを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続されると共に、他方では油路46gを介してCRバルブ(CR VLV)46hに接続される。
【0041】
CRバルブ46hはPH圧を減圧してCR圧(制御圧)を生成し、油路46iから第1、第2、第3の(電磁)リニアソレノイドバルブ46j,46k,46l(LS-DR, LS-DN, LS-CPC)に供給する。第1、第2のリニアソレノイドバルブ46j,46kはそのソレノイドの励磁に応じて決定される出力圧を第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fに作用させ、よって油路46dから送られるPH圧の作動油を可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室26a21,26b21に供給し、それに応じてプーリ側圧を発生させる。
【0042】
従って、図1に示す構成においては、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0043】
図2の説明に戻ると、CRバルブ46hの出力(CR圧)はCRシフトバルブ(CR SFT VLV)46nにも接続され、そこから前記したマニュアルバルブ(MAN VLV。符号46oで示す)を介して前後進切換装置30の前進クラッチ30aのピストン室(FWD)30a1と後進ブレーキ30bのピストン室(RVS)30b1に接続される。
【0044】
マニュアルバルブ46oは図1を参照して説明した如く、運転者によって操作(選択)されたシフトレバー44の位置に応じてCRシフトバルブ46nの出力を前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bのピストン室30a1,30b1のいずれかに接続する。
【0045】
また、PH制御バルブ46cの出力は、油路46pを介してTCレギュレータバルブ(TC REG VLV)46qに送られ、TCレギュレータバルブ46qの出力はLCコントロールバルブ(LC CTL VLV)46rを介してLCシフトバルブ(LC SFT VLV)46sに接続される。LCシフトバルブ46sの出力は一方ではトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室24c1に接続されると共に、他方ではその背面側の室24c2に接続される。
【0046】
CRシフトバルブ46nとLCシフトバルブ46sは第1、第2(電磁)オン・オフソレノイド(SOL-A, SOL-B)46u,46vに接続され、その励磁・非励磁によって前進クラッチ30aへの油路の切替えとロックアップクラッチ24cの締結(オン)・開放(オフ)が制御される。
【0047】
ロックアップクラッチ24cについていえば、LCシフトバルブ46sを介して作動油がピストン室24c1に供給される一方、背面側の室24c2から排出されると、ロックアップクラッチ24cが係合(締結。オン)され、背面側の室24c2に供給される一方、ピストン室24c1から排出されると、解放(非締結。オフ)される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量、即ち、係合と解放の間でスリップさせられるときの係合容量は、ピストン室24c1と背面側の室24c2に供給される作動油の量(油圧)によって決定される。
【0048】
先に述べた第3のリニアソレノイド46lは、油路46wとLCコントロールバルブ46rを介してLCシフトバルブ46sに接続され、さらに油路46xを介してCRシフトバルブ46nに接続される。即ち、前進クラッチ30aと、ロックアップクラッチ24cの係合容量(滑り量)は、第3のリニアソレノイドバルブ46lのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0049】
図1の説明に戻ると、エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0050】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
【0051】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
【0052】
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
【0053】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的には前進クラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0054】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)64が設けられてドライブプーリ26aの回転数、換言すれば前進クラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0055】
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)70が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力軸の回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ72が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
【0056】
上記したNTセンサ62などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
【0057】
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構46の第1、第2オン・オフソレノイド46u,46v、および第1、第2、第3のリニアソレノイドバルブ46j,46k,46lのうちのいずれかの電磁ソレノイドを励磁・非励磁して前後進切換装置30とCVT26とトルクコンバータ24の動作を制御する。
【0058】
シフトコントローラ74はエンジン10が停止されるとき、換言すれば車両が停車されるときも動作電源を供給されて動作すると共に、不揮発性メモリ74aを備え、エンジン10が停止してからの経過時間を計測して不揮発性メモリ74aに格納する。
【0059】
図3はシフトコントローラ74のその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはシフトコントローラ74によってエンジン10が始動されるときに所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0060】
以下説明すると、S10において油路充填監視、即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値がCVT26を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断する。
【0061】
図4はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0062】
以下説明すると、S100においてエンジン10の始動が完了したか否か判断する。始動が完了したか否かはエンジンコントローラ60にアクセスしてエンジン10が完爆回転数に達したか否か判断することで行う。
【0063】
S100で肯定されるときはS102に進み、エンジンコントローラ60にアクセスして得たエンジン回転数NEより油圧ポンプ46aの吐出量を算出し、S104に進み、S102で算出された値をそれまでに算出された値に加算して積算する。即ち、S100からS104においてエンジン10が始動されてから油圧ポンプ46aによって吐出された作動油(油圧)の吐出量の積算値を算出する。
【0064】
次いでS106に進み、必要充填量、即ち、CVT26を作動させるに必要な作動油の必要充填量を設定する。必要充填量は、油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fを超えてピストン室26a21,26b21に至るまでの油路の容積から前進クラッチ30aの締結開始からクラッチ伝達トルクが発生するまでに吐出される作動油の充填量を減算、換言すれば無効ストローク詰めに要求される時間も勘案して設定する。
【0065】
尚、S106においては必要充填量を設定すると共に、それを不揮発性メモリ74aに格納されるエンジン10の停止時間、水温センサ56で検出されるエンジン10の始動時の温度、即ち、冷却水温TW、および吸気温センサ58で検出される吸気温(外気温)の少なくともいずれか、より具体的にはその全てで補正する。エンジン10の始動時の温度などはエンジンコントローラ60にアクセスして得る。
【0066】
次いでS108に進み、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値とCVT26を作動させるに必要な必要充填量とを比較する。即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値がCVT26を作動させる必要な必要充填量に達したか否か判断する。
【0067】
S108で必要充填量の方が大きいと判断されるときはS110に進み、油路46cの充填が未了、即ち、吐出量の積算値が必要充填量に達していないと判断する。
【0068】
他方、積算値が必要充填量以上と判断されるときはS112に進み、油路46cの充填が完了、即ち、吐出量の積算値が必要充填量に達したと判断する。尚、S100で否定されるときはS114に進み、油圧ポンプ吐出量の値をリセットする。
【0069】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS12に進み、油路46cの充填状態を判断する。
【0070】
充填未了、即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値が必要充填量に達していないと判断されるときはS14に進み、前進クラッチ30aの締結を禁止し(前進クラッチ30aのピストン室30a1への作動油の供給を禁止し)、S16に進み、油路46cの充填前のエンジントルク制限を実行する。
【0071】
S16の処理においては、より具体的には前記したアクセル開度センサ54で検出されたアクセル開度APからアクセルペダルが踏み込まれたか否か判断し、アクセルペダルが踏み込まれたと判断されるとき、スロットル開度を調整してエンジン10の出力トルクを制限し、エンジン10の吹き上がりを防止する。
【0072】
尚、その後でアクセルペダルが戻されたと判断される場合、スロットル開度を開弁方向に変更してエンジン回転数NEを増加させる。これにより、エンジン回転数NEに基づいて算出されるポンプ吐出量の積算値が増加し、必要充填量に達したと判断されるまでの時間が短縮され、よってアクセルペダルが操作された場合の発進遅れを確実に回避することができる。
【0073】
他方、S12で充填完了、即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値が必要充填量に達したと判断されるときはS18に進み、インギヤ、即ち、P,Nを除くDなどの走行ポジションが確立されているか否か判断し、肯定されるときはS20に進み、アクセル開度センサ54で検出されたアクセル開度APの充填完了後最小値を所定値と比較する。所定値は例えば0.5/8程度の微小な値とする。
【0074】
S20で検出されたアクセル開度APの充填完了後最小値が所定値未満と判断されるときはS22に進み、クランク角センサ48で検出されたエンジン回転数NEの充填完了後最小値を所定値と比較する。所定値は例えば1700rpm程度の低い値とする。
【0075】
S22で検出されたエンジン回転数NEの充填完了後最小値が所定値未満と判断されるときはS24に進み、油路充填直後クラッチ締結制御を実行する。即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値が必要充填量に達したことからS24において前進クラッチ30aのピストン室30a1に作動油を供給し、前進クラッチ30aを締結する。
【0076】
尚、油路充填直後、換言すれば吐出量の積算値が必要充填量に達する前にインギヤされている場合に前進クラッチ30aを締結するときは、然らざる場合に比し、クラッチ伝達トルクの増加を抑制する。
【0077】
これにより、エンジン10の始動完了に伴い、その後にアクセルペダルが大きく踏まれたとしても、車両が急発進して運転者に飛び出し感を与えることになるのを防止することができる。次いでS26に進み、スロットル開度を調整してエンジン10の出力トルクを制限するエンジン油路充填直後エンジントルク制限を実行する。この処理も同じ理由からである。
【0078】
他方、S20で検出されたアクセル開度APの充填完了後最小値が所定値以上と判断されるときはS28に進み、前進クラッチ30aの締結を禁止する。S22で検出されたエンジン回転数NEの充填完了後最小値が所定値以上と判断された場合も同様である。
【0079】
次いでS30に進み、油路充填直後エンジントルク制限を実行する。
【0080】
即ち、油圧ポンプ46aの吐出量の積算値が必要充填量に達する前にインギヤされている際に前進クラッチ30aの締結を開始するときにアクセルペダルが操作されていた場合、然らざる場合に比し、スロットル開度を調整してエンジン10の出力トルクを大きく低減させ、エンジン10の出力トルク低減量を増加させるエンジントルク制限を実行する。
【0081】
これにより、エンジン10の始動完了に伴ってアクセルペダルが大きく踏まれたとしても、車両が急発進して運転者に飛び出し感を与えることになるのを効果的に防止することができる。尚、S18で否定されるときは以降の処理をスキップする。
【0082】
上記の如く、この実施例にあっては、エンジン(内燃機関)に前進クラッチ(クラッチ)30aを介して接続されると共に、前記エンジン10で駆動される油圧ポンプ46aによって作動油(油圧)を油路46dから供給されて作動するベルト式のCVT(無段変速機)26の制御装置(シフトコントローラ74)において、前記エンジン10が始動されてから前記油圧ポンプ46aによって吐出された作動油の吐出量を前記エンジン10の回転数(エンジン回転数NE)に基づいて算出して積算するポンプ吐出量積算値算出手段(S10,S100からS104)と、前記吐出量の積算値が前記CVT26を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断する充填量判断手段(S106からS114)と、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるとき、前記前進クラッチ30aの締結を禁止するクラッチ制御手段(S12からS16)とを備える如く構成した。
【0083】
このようにエンジン10が始動されてから油圧ポンプ46aによって吐出された作動油の吐出量の積算値がCVT26を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断し、達していないと判断されるとき、前進クラッチ30aの締結を禁止する如く構成、換言すれば経過時間ではなく、油路46d、より正確には油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fを超えてピストン室26a21,26b21に至るまでの油路の充填状態を判断するようにしたので、充填されたと判断される前は前進クラッチ30aの締結を禁止することでベルト26cの滑りを防止できると共に、充填されたと判断された後は前進クラッチ30aの締結を解禁することとなり、発進を不要に遅らすことがないため、発進時の応答遅れ、即ち、発進遅れを回避することができる。
【0084】
また、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるときにアクセルペダルが踏み込まれた場合、前記エンジン10の出力トルクを制限する(S16)如く構成したので、上記した効果に加え、前進クラッチ30aが締結されていない間のエンジン10の吹き上がりを防止することができる。
【0085】
また、前記クラッチ制御手段は、前記アクセルペダルが戻された場合、前記エンジン回転数NEを増加させる(S16)如く構成したので、上記した効果に加え、エンジン回転数NEを増加させることでエンジン回転数NEに基づいて算出されるポンプ吐出量の積算値が増加し、必要充填量に達したと判断されるまでの時間が短縮され、よってアクセルペダルが操作された場合の発進遅れを一層確実に回避することができる。
【0086】
また、前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記油路46dの容積、より正確には油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fを超えてピストン室26a21,26b21に至るまでの油路の容積から前記前進クラッチ30aの締結開始からクラッチ伝達トルクが発生するまでに吐出される作動油の充填量を減算して設定する(S106)如く構成したので、上記した効果に加え、無効ストローク詰めに要求される時間も勘案することができ、必要充填量を正確に設定することができる。
【0087】
また、前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記エンジン10の停止時間、前記エンジン10の始動時の温度、および外気温(吸気温)の少なくともいずれかで補正する(S106)如く構成したので、上記した効果に加え、油路46aからの作動油の排出の有無および作動油の粘性などのいずれか、具体的にはその両者を考慮して求めることとなり、必要充填量を一層正確に設定することができる。
【0088】
また、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている場合に前記前進クラッチ30aの締結を開始するとき、クラッチ伝達トルクの増加を抑制する(S24)如く構成したので、上記した効果に加え、エンジン10の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【0089】
また、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている際に前記前進クラッチ30aの締結を開始するときにアクセルペダルが操作されていた場合、前記エンジン10の出力トルク低減量を増加させるエンジントルク制限を実行する(S30)如く構成したので、上記した効果に加え、同様に、エンジン10の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【0090】
また、前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量も達したと判断されるときも、アクセルペダルが所定値以上踏み込まれた場合または前記エンジン回転数NEが所定値以上の場合、前記クラッチの締結を禁止する(S28)如く構成したので、上記した効果に加え、同様に、エンジン10の始動完了後にアクセルペダルが即踏みされたときの飛び出し感を防止することができる。
【0091】
尚、上記においてCVT26あるいは前後進切換装置30の構造は例示であり、この発明はそれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】この発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す無段変速機などの油圧機構を示す油圧回路図である。
【図3】図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3の油路充填監視処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【符号の説明】
【0093】
10 内燃機関(エンジン)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 無段変速機(CVT)、30 前後進切換装置、30a 前進クラッチ(クラッチ)、46 油圧機構、46a 油圧ポンプ、46d 油路、48 クランク角センサ、52 スロットル開度センサ、54 アクセル開度センサ、56 水温センサ、58 吸気温センサ、60 エンジンコントローラ、74 シフトコントローラ、W 駆動輪(タイヤ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関にクラッチを介して接続されると共に、前記内燃機関で駆動される油圧ポンプによって作動油を油路から供給されて作動するベルト式の無段変速機の制御装置において、
a.前記内燃機関が始動されてから前記油圧ポンプによって吐出された作動油の吐出量を前記内燃機関の回転数に基づいて算出して積算するポンプ吐出量積算値算出手段と、
b.前記吐出量の積算値が前記無段変速機を作動させるに必要な必要充填量に達したか否か判断する充填量判断手段と、
c.前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるとき、前記クラッチの締結を禁止するクラッチ制御手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達していないと判断されるときにアクセルペダルが踏み込まれた場合、前記内燃機関の出力トルクを制限することを特徴とする請求項1記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記クラッチ制御手段は、前記アクセルペダルが戻された場合、前記内燃機関の回転数を増加させることを特徴とする請求項2記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記油路の容積から前記クラッチの締結開始からクラッチ伝達トルクが発生するまでに吐出される作動油の充填量を減算して設定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記充填量判断手段は、前記必要充填量を、前記内燃機関の停止時間、前記内燃機関の始動時の温度、および外気温の少なくともいずれかで補正することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている場合に前記クラッチの締結を開始するとき、クラッチ伝達トルクの増加を抑制することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項7】
前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達する前にインギヤされている際に前記クラッチの締結を開始するときにアクセルペダルが操作されていた場合、前記内燃機関の出力トルク低減量を増加させることを特徴とする請求項2から6のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
【請求項8】
前記クラッチ制御手段は、前記吐出量の積算値が前記必要充填量に達したと判断されるときも、アクセルペダルが所定値以上踏み込まれた場合または前記内燃機関の回転数が所定値以上の場合、前記クラッチの締結を禁止することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−92207(P2009−92207A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265875(P2007−265875)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】