説明

無段変速装置

【課題】ローモードクラッチとダイレクトモードクラッチとを有していても、構成の簡素化と低コスト化を図ることが可能な無段変速装置を提供する。
【解決手段】無段変速装置はトロイダル型無段変速機1と遊星歯車機構2とからなる。ローモードクラッチを接続してダイレクトモードクラッチ19を切断したローモードでは、トロイダル型無段変速機1の入力側と出力側の回転力が遊星歯車機構2に入力されて当該遊星歯車機構から出力が得られる。ローモードクラッチを切断してダイレクトモードクラッチ19を接続したダイレクトモードでは、遊星歯車機構2に関係なくトロイダル型無段変速機1の出力側からの回転力が出力される。ローモードクラッチをワンウェイクラッチ26aとすることで、無段変速装置の簡素化と低コスト化が図られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能で、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせた無段変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用自動変速装置としてトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて無段変速装置を構成する事が、従来から提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
例えば、図11および図12に示すような無段変速装置が知られている。なお、図11は前記無段変速装置を示す断面図、図12は前記無段変速装置を示すスケルトン図である。
【0003】
図11および図12に示すように無段変速装置は、トロイダル型無段変速機1と遊星歯車機構2とを備え、トロイダル型無段変速機1の入力軸11には、図12に示すようにエンジン3の出力軸31に設けられた出力歯車32から歯車33および当該歯車33と伝達軸34を介して一体に回転可能な歯車35を介して入力軸11と一体に回転可能な入力歯車11aに回転力が伝達される。すなわち、エンジン3からの出力となる回転力は、上述の各歯車により所定の変速比でトロイダル型無段変速機1に入力される。
【0004】
また、入力軸11には、当該入力軸11と一体に回転可能にスプロケット18が設けられ、チェーン20介して、遊星歯車機構2の後述のキャリア21と一体に回転可能に設けられたスプロケット22に回転力を伝達するようになっている。なお、チェーンとスプロケットに代えて、ベルトとプーリとしたり、タイミングベルトを用いるものとしたりしてもよい。すなわち、エンジン3からの入力は、入力軸11を介して遊星歯車機構2のキャリア21にも伝動されるようになっている。
【0005】
そして、図11および図12に示すようにトロイダル型無段変速機1には、入力軸11と一体に回転可能な入力側ディスク12,12と、パワーローラ13,13を介して入力側ディスク12,12から回転力が伝達される出力側ディスク14とを有する。なお、図11では入力軸11の部分の縦断面を示しており、パワーローラ13,13は図示されていない。
この例においては、2枚の入力側ディスク12,12がパワーローラ13と油膜を介して接触する凹面12a、12aどうしが対向して配置され、その間に出力側ディスク14が配置されるとともに、出力側ディスク14は2つのディスクが背面どうしを接合して一体となった形状を有し、左右の入力側ディスク12,12の凹面12a,12aにそれぞれ対向し、かつ、パワーローラ13と油膜を介して接触する一対の凹面14a、14aが形成されている。
【0006】
そして、トロイダル型無段変速機1においては、互いに凹面12a,14aを対向して配置されている入力側ディスク12,12と、出力側ディスク14、14との間にパワーローラ13,13が例えば一対ずつ配置されるとともに傾転可能とされている。そして、パワーローラ13の傾転角に応じて、パワーローラ13がその周面13aを入力側ディスク12の凹面12aの外周側に接触させられるとともに、出力側ディスク14の凹面14aの内周側に接触させられた減速の状態から中立状態を経て入力側ディスク12の凹面12aの内周側に接触させられるとともに、出力側ディスク14の凹面14aの外周側に接触させられた増速の状態まで変速比を無段で連続的に変えられるようになっている。
【0007】
そして、出力側ディスク14には、一体に回転可能にトロイダル型無段変速機1の出力歯車15が備えられている。
そして、出力歯車15は、トロイダル型無段変速機1の出力軸16に一体に回転可能に設けられた出力軸歯車17と噛み合っており、トロイダル型無段変速機1の出力となる回転力がトロイダル型無段変速機1の出力軸16に伝動される。
【0008】
また、出力軸16は、ダイレクトモードクラッチ19を介して無段変速装置の出力軸41が接続可能となっている。
また、遊星歯車機構2においては、太陽歯車24と、当該太陽歯車24と噛み合って当該太陽歯車24の周囲を自転しながら公転する遊星歯車23と、遊星歯車23を上述のように自転自在かつ公転自在に支持するキャリア21と、遊星歯車23の外側に太陽歯車24と同軸上に配置されて、当該遊星歯車23と内周側に形成された歯が噛み合って回転するリング歯車25とを備える。
【0009】
そして、上述のようにエンジン3からの回転力が入力軸11を介して、キャリア21に入力されるようになっている。
また、トロイダル型無段変速機1の出力軸16が太陽歯車24と一体に回転可能となっている。さらに、リング歯車25は、ローモードクラッチ26を介して無段変速装置の出力軸41に接続されるようになっている。
また、無段変速装置の出力軸41には、当該出力軸41と一体に回転可能に出力歯車42が設けられ、例えば、車両の場合に、当該出力歯車42から例えばディファレンシャルギア等を介して駆動輪に回転力を伝達することになる。
【0010】
このような、無段変速装置においては、ダイレクトモードクラッチ19を接続するとともに、ローモードクラッチ26を切断すると、ダイレクトモードとなり、トロイダル型無段変速機1の出力軸16と無段変速装置の出力軸41とがダイレクトモードクラッチ19により一体に回転可能に接続され、トロイダル型無段変速機1の出力軸16の回転力が無段変速装置の出力とされる。すなわち、トロイダル型無段変速機1の出力軸16が無段変速装置の出力軸41に直結されて、トロイダル型無段変速機1の出力がそのまま無段変速装置の出力とされることになり、トロイダル型無段変速機1の変速比のみで出力が行われることになる。
【0011】
また、無段変速装置においては、ダイレクトモードクラッチ19を切断するとともに、ローモードクラッチ26を接続すると、ローモード(ギアードニュートラルモード:動力循環モード)となる。この例では、遊星歯車機構2のキャリア21にトロイダル型無段変速機1の入力軸11の回転力が伝達され、太陽歯車24にトロイダル型無段変速機1の出力軸16の回転力が伝達される。そして、これらの回転に基づいて、自転するとともに公転する遊星歯車23の回転に対応してリング歯車25が回転し、当該リング歯車25がローモードクラッチ26により無段変速装置の出力軸41に接続され、遊星歯車機構2からの出力が無段変速装置の出力となる。
【0012】
このギアードニュートラルモードの場合には、無段変速装置の変速比を負の値から0を挟んで正の値まで無限大を含んでほぼ連続的に制御を行うことができる。
なお、図11および図12においては、リング歯車25と、無段変速装置の出力軸41との間にローモードクラッチ26を配置したが、特許文献1,2においては、キャリア(キャリア21に相当)とトロイダル型無段変速機1の入力軸11からの回転が伝達される歯車(スプロケット22に相当)との間にローモードクラッチ(ローモードクラッチ26に相当)が配置されている。
この例では、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と出力軸16とが並列に配置されるとともに、入力軸11と並列に配置された出力軸16側に遊星歯車機構2が配置されることで、無段変速装置の長さが短くされており、例えば、前輪駆動車に好適に使用可能な配置とされている。
【0013】
このような無段変速装置においては、前記ローモードクラッチおよびダイレクトモードクラッチとして、回転力の接続状態と切断状態との切り替えを制御する必要があるクラッチが用いられており、たとえば、湿式の多板式クラッチが用いられている。
なお、クラッチには、接続状態と切断状態とを、例えば、油圧等により操作するのではなく、一方の回転方向に回転した場合に外輪と内輪とが噛み合って接続されて接続状態となり、他方の回転方向に回転した場合に外輪と内輪との噛み合いが解除されて空転する切断状態となるワンウェイクラッチが知られている。
【0014】
また、例えば、スプラグタイプのワンウェイクラッチでは、リボンスプリングによりスプラグに付勢力を与えており、この付勢力により、スプラグを例えば、外輪側から内輪側に押し付けて一方向の回転が伝達される。そして、外輪の回転速度(単位時間当たりの回転数)が速くなった場合にスプラグに作用する遠心力が前記付勢力より大きくなると、スプラグが外周側に移動して、内輪の軌道面から離れ、ワンウェイクラッチが空転することになる。したがって、このようなワンウェイクラッチでは、リボンスプリングと付勢力とのバランスにより、外輪が所定回転数となるまで、接続された接続状態となり、外輪が所定回転数以上となると、スプラグが遠心力で内輪から離れ、切断状態となる。
【0015】
なお、内輪および外輪の両方に回転力を伝達可能な状態では、内輪と外輪との間で回転力を伝達可能な一方の回転方向に回転していても、外輪の回転速度が内輪の回転速度より速くなれば、内輪にスプラグ等の係合物材が噛み合わなくなり内輪の回転に関係なく外輪が当該外輪に回転力を伝達する部材の回転に対応して回転する状態となる。
【0016】
そして、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車機構とを備えた無段変速装置においてもワンウェイクラッチを用いたものが提案されている。
例えば、トロイダル型無段変速機の入力軸側の回転と、出力軸側の回転とを遊星歯車機構に入力して、遊星歯車機構から出力を得る無段変速装置において、遊星歯車機構の回転要素の1つを制動するブレーキを設け、該ブレーキの作動時に、2つの回転要素間の係合を解除するワンウェイクラッチを設け、前記ブレーキの作動により逆転出力を得られるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。なお、この例には、上述のダイレクトモードがなく、ダイレクトモードと、ローモードとの切り替えに2つのクラッチを使うような構成とはなっていない。
【0017】
また、直結モードと動力循環モードとを備える無段変速装置において、無段変速装置の変速比幅を規制するためにワンウェイクラッチを設けたものが提案されている(例えば、特許文献4)。この例では、ダイレクトモードクラッチと、ローモードクラッチとに加えてワンウェイクラッチが設けられている。
【0018】
また、トロイダル型無段変速機を用いた変速機構において、変速機構を自動二輪車や原動機付自転車等のバイクに応用した場合に、たとえば、ワンウェイクラッチを用いるなどの変速機構の構成によっては、エンジン停止時に駆動輪とトロイダル型無段変速機が接続状態となってしまうものがある。この場合に、バイクを手押した場合に、トロイダル型無段変速機の出力側ディスクが駆動輪に連動して回転してまい、それによりパワーローラや入力側ディスクが回転してしまう虞がある。
【0019】
この場合に、バイクを手押しする際に負荷が大きくなるといった問題がある。また、手押しいている際にパワーローラの傾転角度がずれたり、パワーローラの傾転角度を変化させる際に変化するパワーローラの傾転の回転中心軸となる傾転軸(枢軸)方向の位置が変化したりする虞がある。この場合に、発進時に変速比がハイ側(増速側)に変化してしまうような状態だと、発進不良を生じる可能性がある。また、エンジンが停止していることによりオイルが供給されない状態でトロイダル型無段変速機が動いてしまうことにより変速機の損傷を招く虞がある。
このような問題は、バイクでなく自動車においても、故障車を牽引する場合などに生じる虞がある。
【0020】
そこで、手押し後(牽引後)の発進性能を良好にする方法として、トロイダル型無段変速機が手押し時に勝手に変速しないように、クラッチをトロイダル型無段変速機の出力側(駆動輪側)に配置し、エンジン停止時に駆動輪からの回転を変速機に対して切断できるようにしたものが提案されている(たとえば、特許文献5,6参照)。
【0021】
また、変速装置にトロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを有する無段変速装置において、変速に際してトロイダル型無段変速機を経由しない第2経路(トロイダル型無段変速機を経由する経路が第1経路)を有し、当該第2経路に遊星歯車機構が設けられ、当該遊星歯車機構とトロイダル型無段変速機との間にクラッチを配置し、エンジン停止時に手押しされたり、牽引されたりしてもクラッチが空転してトロイダル型無段変速機が回転しないものが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0022】
また、自動車の車速が所定速度以下の場合に、パワーローラを傾転自在かつ枢軸の軸方向に移動自在に支持するトラニオンを最大減速位置となる角度に機械的に固定するものが提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0023】
また、自動車がエンジン停止状態で牽引される際に、パワーローラとディスクとが傷つかないように、これらを皿バネの付勢力で引き離すようにしたものが提案されている(例えば、特許文献9、10参照)。
また、パワーローラを支持するトラニオンの枢軸方向の位置を決める油圧駆動装置のシリンダ内に駆動ピストンを付勢する皿バネを設け、当該皿バネによりパワーローラの枢軸方向に沿った位置がハイ側となるのを防止するものが提案されている(例えば、特許文献11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開平06−101754号公報
【特許文献2】特開平09−210175号公報
【特許文献3】特開2006−46514号公報
【特許文献4】特開2008−69941号公報
【特許文献5】特開昭61−10159号公報
【特許文献6】特開昭61−27788号公報
【特許文献7】特開2005−164014号公報
【特許文献8】特公平05−35788号公報
【特許文献9】特開2006−132661号公報
【特許文献10】特許3224145号公報
【特許文献11】特許3259684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ところで、上述のようにダイレクトモードと、ローモードとを備える無段変速装置においては、ダイレクトモードクラッチと、ローモードクラッチとの2つのクラッチを備え、ダイレクトモードと、ローモードとを切り替える際に1つのクラッチではなく、2つのクラッチを同時に切り替える必要があり、一方の接続された状態のクラッチを切断するとともに、他方の切断された状態のクラッチを接続する必要があった。
したがって、クラッチを作動させるための油圧経路もクラッチ2つ分必要となるとともに、制御も2つのクラッチに対して行う必要があり、無段変速装置の構成の煩雑化と、コスト増の要因となっていた。
【0026】
このような問題を解決することが可能な無段変速装置を例えばバイクに応用した場合に、エンジン停止時に駆動輪とトロイダル型無段変速機の出力側ディスク側とが接続状態となって、手押し時(例えば、後進時)に大きな負荷が作用したり、変速比が増速側に変化してしまうのを防止する。
【0027】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、ダイレクトモードクラッチと、ローモードクラッチとの2つのクラッチのうちの一方のクラッチを制御の必要がなく、回転方向や回転数等によって機械的に接続と切断とが行われるワンウェイクラッチとすることにより、構造を簡素化するとともに制御を簡略化できる無段変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の無段変速装置は、互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクとこれらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラとが備えられたトロイダル型無段変速機と、
太陽歯車と当該太陽歯車に噛み合う遊星歯車と当該遊星歯車を自転および公転自在に支持するキャリアと当該遊星歯車と噛み合うリング歯車とが備えられた遊星歯車機構とを有し、
前記トロイダル型無段変速機から遊星歯車機構を介さずに直接的に出力が得られるダイレクトモードの際にのみ接続状態とされるダイレクトモードクラッチと、
前記トロイダル型無段変速機の入力側と出力側とのそれぞれの回転力が前記遊星歯車機構に入力されるとともに当該遊星歯車機構を介して出力が得られるローモードの際にのみ接続状態となるローモードクラッチとを備えた無段変速装置において、
前記ローモードクラッチがワンウェイクラッチとされたことを特徴とする。
【0029】
請求項1に記載の発明においては、ローモードクラッチがワンウェイクラッチとなっているので電子制御等の制御を必要とせず、また、作動のための油圧を必要としないので、従来2つのクラッチのために必要とした油圧経路や制御が1つのクラッチ分でよいことになり、部品点数の減少を含む無段変速装置の簡素化により低コスト化を図ることができる。
また、ローモードクラッチを例えば湿式多板式クラッチからワンウェイクラッチとすることで2つのうちの1つのクラッチが簡素化され、それによっても低コスト化を図ることができる。
【0030】
また、ワンウェイクラッチを用いることから、ローモードにおいて逆転すると接続が切断されてしまうので、バックをしないバイク(自動二輪等)や、産業機械の変速機として適している。
また、従来の無段変速装置を使用していないバイクでは、発進時のクラッチ操作を自動化するにあたって、クラッチ板同士の接触に微妙な調整が必要であるが、本発明の無段変速装置を用いるものとすれば、無段変速装置の変速比を調整するだけで、停止状態を制御することができる。また、ローモードとダイレクトモードとの切り替えも、ワンウェイクラッチの接続と切断のタイミングに対応して、ダイレクトモードクラッチをON/OFF制御で操作すればよく、この無段変速装置を用いることで制御が簡単な発進機構を得ることができる。
【0031】
請求項2に記載の無段変速装置は、請求項1に記載の発明において、前記ワンウェイクラッチが遊星歯車機構の入力側に設けられていることを特徴とする。
【0032】
請求項2に記載の発明においては、ダイレクトモードとなった際に、ワンウェイクラッチの外輪の回転数が0となることがない構成とすることができるので、例えば、外輪から内輪側に押し出されて内輪と係合するスプラグ等の係合部材の押し付け力を容易に設定することができる。なお、前記押付力は、例えば、ダイレクトモードとなった際に、スプラグが遠心力で外輪側に引き込み、内輪に接触しない状態となるように設定することが好ましい。この場合に、外輪が空転した状態で前記係合部材が内輪に接触しなくなり、円滑に切断状態を維持できるとともに、内輪の摩耗や騒音の発生を防止できる。
ここで、ダイレクトモードの際に外輪の単位時間当たりの回転数が0となると、遠心力がなくなってしまい、係合部材を内輪側に押し付ける力を小さくしても、外輪の回転数が0や0に近似する値となった際に、係合部材が内輪と接触し、内輪の摩耗や騒音の発生を招くことになる。
【0033】
また、ローモードクラッチは、切断状態において、遊星歯車機構の各回転要素の回転にかかわらず、無段変速装置の出力軸がダイレクトモードクラッチで接続されるトロイダル型無段変速機の出力だけに基づいて回転するようになっていればよい。したがって、ローモードクラッチは、遊星歯車機構の入力側として、たとえば、前記トロイダル型無段変速機の入力軸と遊星歯車機構の入力が行われる1つの回転要素としてのキャリアとの間で切断と接続を行える状態であっても良いし、遊星歯車機構の出力側として、例えば、無段変速装置の出力が行われる出力軸と、遊星歯車機構の出力が行われる回転要素としてのリング歯車との間で切断と接続が行える状態であっても良い。
【0034】
ここで、遊星歯車機構の出力側にローモードクラッチとしてのワンウェイクラッチを設けると、遊星歯車機構の出力がトロイダル型無段変速機へ入力される回転数と、トロイダル型無段変速機から出力される回転数との差に基づく回転数となるので、トロイダル型無段変速機の変速比によっては、ワンウェイクラッチにおける外輪の回転数が0となる場合を含むものとなってしまう。この場合に上述のように外輪の回転数が0となることによる問題が生じることになる。
【0035】
請求項3に記載の無段変速装置は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記トロイダル型無段変速機は、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸を中心に傾転自在とされるとともに当該枢軸の軸方向に移動自在とされ、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、
前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に変位させることで、当該トラニオンを前記枢軸を中心として傾転させることにより変速比を変更させる油圧駆動装置と、
前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクと前記パワーローラとの間に押圧力を付与する押圧装置とを備え、
前記押圧装置は、駆動時にのみ前記押圧力を付与し、
前記油圧駆動装置は、シリンダと、当該シリンダ内に配置され、前記トラニオンを枢軸の軸方向に沿って、前記変速比を増速する側および減速する側に駆動する駆動ピストンと、当該駆動ピストンを、変速比が増速させられる側に付勢する付勢手段とを備えることを特徴とする。
【0036】
請求項1または請求項2に記載の無段変速装置を、たとえば、バイクに応用した場合に、バイクを手押しでスムーズにバック(後進)させることが可能となるとともに、バックさせた後に、発進する際に円滑に発進することができる。
ここで、本発明の無段変速装置においては、ローモードにおいて逆転するとワンウェイクラッチの接続が切断されてしまうのでバックすることができず、たとえば、バイクに用いた場合に手押しでバックする必要があるが、手押しでバックする場合にはワンウェイクラッチが接続状態となってしまい、駆動輪の回転がトロイダル型無段変速機の出力側ディスクに伝動してしまう。
【0037】
また、トロイダル型無段変速機においては、入力側ディスクと出力側ディスクとの間でパワーローラを介して動力を伝達するために、入力側ディスクおよび出力側ディスクとパワーローラとの間に押圧力を付与する押圧装置が設けられている。この押圧装置は、エンジン等の駆動装置が作動した際に、前記押圧力を付与するようになっている。しかし、駆動装置が停止した際に、入力側ディスクと出力側ディスクとの間にパワーローラを挟持した状態が解除されてしまうと、パワーローラを支持するトラニオンが枢軸回りに傾転したり、枢軸の軸方向に沿って移動したりしてしまい、エンジン停止持に変速比が変わってしまう。それを防止するために、入力側ディスクおよび出力側ディスクとパワーローラとの間に予圧を付与するたとえば皿ばねが設けられている。
【0038】
この場合に、手押しでバイクをバックさせた場合に、上述のようにワンウェイクラッチが接続状態となって、駆動輪に連動して出力側ディスクが回転すると、この回転が、皿ばねによる予圧によって押し付けられている状態で、パワーローラを介して入力側ディスクに伝達され、さらにエンジンに伝達されることになる。
したがって、手押しにより、駆動輪をバック側に回転させようとすると、エンジンの駆動軸を回転させる状態となり、極めて大きな負荷がかかり、手押しでバックするのが難しくなる。また、この状態で無理に回転すると、潤滑油が供給されていない状態で、出側ディスク、パワーローラ、入力側ディスクが連動して回転したり、スリップしたりすることになり、出側ディスク、パワーローラおよび入力側ディスクの接触面が損傷する虞がある。
【0039】
この例では、押圧装置は、駆動時のみに前記押圧力を付与するので、停止時に出力側ディスクおよび入力側ディスクとパワーローラとの間に押圧力が作用していない。
すなわち、本発明では、押圧装置では、たとえば、予圧のための皿ばね等が設けられておらず、予圧を付与しない構成となっている。
したがって、駆動輪と連動して出力側ディスクが回転しても、パワーローラは回転せず、出力側ディスクだけが空回りした状態となり、容易にバイクをバックさせることが可能となる。
【0040】
この際には、予圧が付与されていないので、トロイダル型無段変速機のトラニオンが傾転したり軸方向に移動したりする虞あるが、付勢手段により、トラニオンが増速側に付勢されているので、エンジンが始動し、押圧装置により出力側ディスク、パワーローラ、入力側ディスクに押圧力が付与されるとともに、入力側ディスクが回転する際に、トラニオン(パワーローラ)は、その枢軸の軸方向に沿った位置が中立位置ではなく増速側となっている。したがって、エンジンが始動した直後は、パワーローラの枢軸方向に沿った位置が増速側となっていることで、パワーローラの傾転角度が増速側となり、変速比は増速側となる。ここで、ローモードにおいて、トロイダル型無段変速機が増速側となると、当該トロイダル型無段変速機を有する無段変速装置の変速比は減速側となり、変速比が減速側となった状態で、たとえば、バイクが発進することになる。これにより、発進不良が生じることなく発進が円滑に行われる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の無段変速装置によれば、従来、ローモード(動力循環モード)と、ダイレクトモードとの切り替えに2つのクラッチを用いていたのにたいして、ローモードクラッチを油圧制御を必要としないワンウェイクラッチとしたことで、2つのクラッチのうちの1つのクラッチの構成を簡素化することができるとともに、油圧制御すべきクラッチを1つ減少させることで、油圧経路等を削減して部品点数の減少を図るとともに制御を容易なものとして、無段変速措置の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速装置を示す展開断面図である。
【図2】前記無段変速装置を示すスケルトン図である。
【図3】前記無段変速装置のトロイダル型無段変速機の変速比とモードと車速との関係を示すグラフである。
【図4】ワンウェイクラッチの内輪および外輪の回転数とモードと車速との関係を示すグラフである。
【図5】前記無段変速装置の太陽歯車機構の太陽歯車、キャリア、リング歯車の回転数とモードと車速との関係を示すグラフである。
【図6】比較例となる無段変速装置を示すスケルトン図である。
【図7】比較例のワンウェイクラッチの内輪および外輪の回転数とモードと車速との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第2実施形態の無段変速装置を示す展開断面図である。
【図9】第2実施形態の無段変速装置を示す要部断面図である。
【図10】第2実施形態の無段変速装置を示す正面図である。
【図11】従来の無段変速装置を示す断面図である。
【図12】従来の無段変速装置を示すスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態について説明する。なお、第1実施形態の無段変速装置の特徴は、無段変速装置に設けられたローモード(動力循環モード)クラッチをワンウェイクラッチとした構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、この第1実施形態の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図11および図12と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0044】
図1は本発明の第1実施形態の無段変速装置を示す展開断面図、図2は前記無段変速装置を示すスケルトン図、図3は前記無段変速装置のトロイダル型無段変速機の変速比とモードと車速との関係を示すグラフ、図4はワンウェイクラッチの内輪および外輪の回転数とモードと車速との関係を示すグラフ、図5は前記無段変速装置の太陽歯車機構の太陽歯車、キャリア、リング歯車の回転数とモードと車速との関係を示すグラフである。
【0045】
図1および図2に示すように、この例の無段変速装置においては、図11および図12に示す従来の無段変速装置のローモードクラッチ26に代えて、ワンウェイクラッチ26aが設けられている。このワンウェイクラッチ26aは、従来のローモードクラッチ26と同様にローモード(動力循環モード)に切り替わる際に接続され、ダイレクトモードに切り替わる際に切断されるものである。
【0046】
また、ワンウェイクラッチ26aは、図2に示すように外輪26bと、内輪26cと、スプラグ26dと、リボンスプリング(図示略)とを備え、低速回転時にはスプラグ26dがリボンスプリングの付勢力により外輪26b側から内輪26c側に押し付けられて、内輪26cが一方の回転方向に回転した際に、内輪26cに噛み合ったスプラグ26dと一体に外輪26bが回転し、クラッチが接続状態となるが、他方の回転方向に回転した場合にはクラッチが切断状態となり空転する。また、回転速度が所定速度以上となると、スプラグ26dに対する回転による遠心力がリボンスプリングの付勢力より大きくなり、スプラグ26dが内輪26cから離れ空転する。この際に外輪26bが所定速度以上で回転し続けると、クラッチの切断状態が維持されることになる。
また、内輪26cに対して外輪26bの一方向の回転速度が速くなった場合も、内輪26cの回転に係り無く外輪26bが回転する切断状態となる。
【0047】
この例では、ワンウェイクラッチ26aが切断状態となってダイレクトモードとなると、例えば、車両等の自動変速装置における第1速段の変速比以上の状態となり、そのまま車速を増加させると、ダイレクトモードが維持されて、外輪26bの回転数が所定回転数以上となり、かつ、外輪26bの回転数が内輪26cの回転数より早い状態となる。これにより、ワンウェイクラッチ26aが切断状態のままとなり、ダイレクトモードが維持されるようになっている。また、外輪26bの回転数が所定回転数以上となることで、スプラグ26dが内輪26cに接触せず、内輪26cの摩耗が防止されるとともに騒音の発生が防止される。
【0048】
そして。図11および図12に示す例では、ローモードクラッチ26が、リング歯車25と、無段変速装置の出力軸41との間に配置され、ローモードクラッチ26が出力軸41の回転中心を回転中心として、出力軸41およびリング歯車25と一体に回転可能にされていた。なお、出力軸41、リング歯車25、キャリア21、太陽歯車24は、同軸上で回転可能にそれぞれ配置されている。
【0049】
それに対して、この例では、図1および図2に示すように、ローモードクラッチとしてのワンウェイクラッチ26aがトロイダル型無段変速機1の入力軸11と、キャリア21との間に配置されている。したがって、ワンウェイクラッチ26aは、入力軸11と内輪26cが一体に回転可能に、入力軸11と同軸上に配置されている。
また、ワンウェイクラッチ26aの外輪26bには、入力軸11の回転力をキャリア21に伝達するための歯車18aが設けられ、当該歯車18aが外輪26bと同芯上で外輪26bと一体に回転可能とされている。そして、歯車18aは、遊星歯車機構2のキャリア21と同軸上で一体に回転可能な歯車22aに噛み合っている。
【0050】
そして、図11および図12に示す例では、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と一体に回転するスプロケット18と、遊星歯車機構2のキャリア21と一体に回転するスプロケット22とで、入力軸11の回転力をキャリア21にチェーン20で伝動していた。それに対して、この例では、上述の入力軸11と一体に回転可能なワンウェイクラッチ26aの外輪26bに設けられた歯車18aと、キャリア21と一体に回転可能な歯車22aとが噛み合うことで、入力軸11の回転力がキャリア21に伝動される。
【0051】
そして、図11および図12に示す例では、ダイレクトモードクラッチ19が切断されるとともに、ローモードクラッチ26が接続された状態のローモードでは、太陽歯車24がトロイダル型無段変速機1の出力軸16と一体に回転し、キャリア21に入力軸11の回転力が伝動されて当該キャリア21が回転する。そして、太陽歯車24の回転とキャリア21の回転とに対応して自転するとともに公転する遊星歯車23に噛み合うリング歯車25が無段変速装置の出力軸41に接続されており、リング歯車25の回転力が遊星歯車機構2の出力(無段変速装置の出力)とされて出力軸41から出力される。
【0052】
また、ダイレクトモードクラッチ19が接続されるとともにローモードクラッチ26が切断された状態のダイレクトモードでは、ローモードの場合と同様に、トロイダル型無段変速機1に入力軸11の回転がキャリア21に伝動されて回転し、トロイダル型無段変速機1の出力軸16と一体に太陽歯車24が回転する。そして、太陽歯車24の回転とキャリア21の回転に対応して自転するとともに公転する遊星歯車23に噛み合うリング歯車25が回転する。しかし、リング歯車25と、無段変速装置の出力軸41とは、ローモードクラッチ26により切断された状態なので、リング歯車25は空転した状態となる。
そして、ダイレクトモードクラッチ19によりトロイダル型無段変速機1の出力軸16と一体に接続された無段変速装置の出力軸41が回転することになる。
【0053】
このような図11および図12に示す従来の例に対して、この例では、ダイレクトモードクラッチ19が切断されるとともに、ワンウェイクラッチ26aが接続された状態のローモードでは、従来の場合と同様に、太陽歯車24がトロイダル型無段変速機1の出力軸16と一体に回転し、キャリア21に入力軸11の回転力が伝動されて当該キャリア21が回転する。そして、太陽歯車24の回転とキャリア21の回転とに対応して自転するとともに公転する遊星歯車23に噛み合うリング歯車25と一体に無段変速装置の出力軸41が回転することになる。
【0054】
また、この例では、ダイレクトモードクラッチ19が接続されるとともにワンウェイクラッチ26aが切断された状態のダイレクトモードでは、従来と異なり、ダイレクトモードクラッチ19が接続されることによりトロイダル型無段変速機1の出力軸16と無段変速装置の出力軸41と太陽歯車24とが一体に回転するとともに、出力軸16と一体に回転可能に接続されたリング歯車25が回転することになる。このリング歯車25と太陽歯車24とが同じ回転速度で回転することにより、遊星歯車23およびキャリア21がリング歯車25および太陽歯車24と同じ回転速度で回転することになる。
それに伴ない、ワンウェイクラッチ26aの外輪26bが歯車22aおよび歯車18aを介してキャリア21に連動して回転することになる。これにより、ダイレクトモードでは、外輪26bが上述の所定回転速度以上で回転し、スプラグ26dが内輪26cから離れた状態を維持するようになっている。
【0055】
また、この例では、ローモードクラッチとしてのワンウェイクラッチ26aがトロイダル型無段変速機1の入力軸11に設けられることで、従来例で示した無段変速装置より、トロイダル型無段変速機1の軸方向長さが長くなるとともに、遊星歯車機構2の軸方向長さが短くなる。それに基づいて、キャリア21と一体に回転する歯車22aをワンウェイクラッチ26aの外輪26bと一体に回転する歯車18aの位置に合わせることにより、出力軸歯車17の位置を図中左側に移動したことで、出力軸歯車17と、出力歯車15の位置が軸方向にずれることになる。そこで、これらの出力軸歯車17と、出力歯車15との間に出力歯車15に噛み合う歯車15aと、当該歯車15aと一体に回転するとともに、入力軸11および出力軸16と平行に配置された伝達軸15bと、当該伝達軸15bに接続されて前記歯車15aと一体に回転するとともに、出力軸歯車17に噛み合う歯車15cとが備えられている。
【0056】
これにより、出力歯車15の回転力が伝達軸15bに設けられた2つの歯車15a,15cを介して出力軸歯車17に伝達されることになる。
なお、出力歯車15と出力軸歯車17との間にカウンタギアとなる歯車15a,15cを介在させることで、従来と比較して出力軸16の回転方向が逆方向となる。しかし、入力軸11とキャリア21との回転が従来チェーン20を介していたのに対して、入力軸11とワンウェイクラッチ26aを介して一体に回転する歯車18aと、キャリア21と一体に回転する歯車22aとを直接噛み合わせることで、入力軸11と連動して回転するキャリア21の回転方向も従来と逆としている。これにより、出力軸16と一体の太陽歯車24の回転方向とキャリア21の回転方向との関係は従来と同様となる。
【0057】
また、図1は、トロイダル型無段変速機1と伝達軸15bと遊星歯車機構2とを実際の立体配置から展開した状態で図示しており、出力歯車15と歯車15a、歯車15cと出力軸歯車17、歯車18aと歯車22aとが噛み合わずに離れた状態となっている。しかし、実際の立体配置では、これら歯車どうしが噛み合った状態となる。
【0058】
このような無段変速装置では、例えば、発進時にローモードとされるが、この際には、エンジン3の回転が低速回転となっており、ワンウェイクラッチ26aの回転数が低いことから、ワンウェイクラッチ26aの外輪26bと内輪26cとはスプラグ26dを介して一体に回転する接続状態となっている。また、ダイレクトモードクラッチ19は切断状態となるように制御されている。
【0059】
ここで、無段変速装置が車両に搭載されているものとした場合に、発進時から加速して車速を上げていくと、図3のグラフに示すようにトロイダル型無段変速機1の変速比(CVT変速比)が高変速比から低変速比となり、モード変更点でローモード(ギアードニュートラルモード(G/Nモード))からダイレクトモード(Directモード)に切り替えることになる。
【0060】
ここで、ダイレクトモードクラッチ19を接続すると、トロイダル型無段変速機1の出力側ディスク14の回転が出力歯車15、歯車15a、伝達軸15b、歯車15c、出力軸歯車17等を介するとともに、最終的にダイレクトモードクラッチ19を介して無段変速装置の出力軸41に伝達される。
また、この出力軸41と一体に回転するリング歯車25と、出力軸歯車17を介して出力軸41と同じ回転速度で回転する太陽歯車24とにより、これらに噛み合う遊星歯車23を備えたキャリア21が出力軸41と同じ回転速度で回転し、この回転力が歯車22aおよび歯車18aを介してワンウェイクラッチ26aの外輪26bに伝達される。
【0061】
この際に、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と一体に回転するワンウェイクラッチ26aの内輪26cと、出力軸41の回転に対応して回転するワンウェイクラッチ26aの外輪26bとで、各歯車の歯数の設定と、トロイダル型無段変速機1における変速比等において、内輪26cの回転速度より外輪26bの回転速度の方が速ければ、内輪26cに対して外輪26bが噛み合わない状態となり、外輪26bが出力軸41の回転に対応して回転することになる。
【0062】
図4は、ワンウェイクラッチ26aの回転数(OWCの回転数)と、車速との関係を示すものであるが、この例では、エンジンの回転数を一定とした場合に、ローモード(G/Nモード、ギアードニュートラルモード)では、内輪26cと外輪26bがスプラグ26dを介して噛み合った状態で一体に回転しているので、内輪26cと外輪26bの単位時間当たりの回転数(回転速度)は同じとなる。
それに対して、ダイレクトモード(Directモード)では、外輪26bの速度が内輪26cの速度より早くなり、上述のように外輪26bが内輪26cの回転数に関係なく回転することになる。
【0063】
なお、外輪26bは、上述のようにキャリア21に設けられた歯車22aと外輪26bに設けられた歯車18aとが噛み合うことで回転することになる。ここで、図5には、遊星歯車機構の各回転要素としての太陽歯車24(サンギア)、キャリア21およびリング歯車25の回転数とモードと車速との関係が示されている。図5に示すように、エンジン回転数を一定とした場合に、キャリア21は、ローモード時に、トロイダル型無段変速機1の入力軸11側から回転力が伝達されて回転する。また、太陽歯車24は、トロイダル型無段変速機1の出力軸16と一体に回転しており、この回転数が低下すること、すなわち、トロイダル型無段変速機1における変速比が低下してトロイダル型無段変速機1において、入力側に対して出力側の回転数が低下傾向となることで、太陽歯車24の回転数が低下すると、太陽歯車24に噛み合うとともにキャリア21とともに公転する遊星歯車23に噛み合って回転するリング歯車25の回転数が上昇する。
そして、ダイレクトモードとなると、太陽歯車24とリング歯車25が同じ回転数となることで、キャリア21も同じ回転数となり、変速比が小さくなることで、これらの回転数が速くなる。
【0064】
また、ダイレクトモードクラッチ19を切断状態から接続状態に制御する際には、その際の外輪の回転速度に基づいて、外輪26bと一体に回転するスプラグ26dに作用する遠心力が大きくなり、スプラグ26dがリボンスプリングの付勢力に抗して外輪26b側に移動して、スプラグが内輪26cに接触しない状態となることが好ましい。すなわち、ローモードからダイレクトモードに変更する際の外輪26bの回転速度に対応する遠心力の大きさと、リボンスプリングの付勢力の大きさとを合わせることが好ましい。
これにより、ローモードからダイレクトモードに切り替わる際にワンウェイクラッチ26aが接続状態から切断状態となると、スプラグ26dが内輪26cの軌道面から離れることになり、スプラグ26dが内輪26cの軌道面に対して摺動した状態とならないので、内輪26cやスプラグ26dの摩耗や騒音の発生を防止することができる。
【0065】
以上のような無段変速装置においては、ワンウェイクラッチ26aが油圧で制御されるわけではなく、その内輪26cと外輪26bとの回転方向と回転数等により機械的に接続状態と切断状態との切り替えが行われることになる。基本的には、実験的もしくは論理的に求められたタイミングで、ダイレクトモードクラッチ19を切断状態から接続状態とすると、上述のように内輪26cに対して外輪26bの速度が速くなり、ワンウェイクラッチ26aが切断状態となるとともに、さらに、外輪26bの回転速度が速くなることで、遠心力によりスプラグ26dが外輪側に引き込まれ、完全に外輪26bと内輪26cとが切断状態となる。
【0066】
また、例えば、実験的もしくは論理的に求められタイミングで、ダイレクトモードクラッチ19を接続状態から切断状態とすると、リング歯車25への出力軸41側からの回転力の入力がなくなり、内輪26cと外輪26bとが接続状態となる。すなわち、ワンウェイクラッチ26aが接続状態となって、内輪26cと外輪26bが一体に回転することになる。
【0067】
以上のことから、油圧で制御するのは、2つのクラッチのうちのダイレクトモードクラッチ19だけとなり、油圧回路を簡略化することができ、無段変速装置の構造を簡素化することができる。また、ワンウェイクラッチ26aは、例えば、多板式クラッチと比べて簡単な構造なので、それによっても無段変速装置の構造を簡素化することができる。
これにより、無段変速装置の低コスト化を図ることができる。
【0068】
ここで、図6には比較例となるスケルトン図が示されている。この比較例でもローモードクラッチがワンウェイクラッチ61とされているが、ワンウェイクラッチ61が従来のローモードクラッチ26と同様に、無段変速装置の出力軸41と同軸上で一体に回転可能に設けられている。
なお、比較例では、エンジン3の出力歯車32と、入力歯車11aとの間にカウンタギアとなる歯車(歯車33,35)が配置されず、トロイダル型無段変速機1の出力歯車15がスプロケット15dとされるとともに、出力軸歯車17がスプロケット17aとされ、これらスプロケット15d、17aとにチェーン15eが掛け渡されて回転力が伝達されるようになっている。また、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と一体に回転する歯車18bは、遊星歯車機構2のキャリア21と一体に回転する歯車22bと直接噛み合って回転を伝達するようになっている。
【0069】
以上のことから、図11等に示す従来の例との違いは、ローモードクラッチ26が、ワンウェイクラッチ61とされたこと、歯車33,35がなくエンジン3の出力歯車32とトロイダル型無段変速機1の入力歯車11aとが直接噛み合っていること、出力歯車15と出力軸歯車17とが噛み合うのではなく、スプロケット15dとスプロケット17aとがチェーン15eを介して回転力が伝動されること、スプロケット18とスプロケット22がチェーン20で接続されているのではなく、歯車18bと歯車22bが直接的に噛み合っていることである。
【0070】
また、比較例と第1実施形態との違いは、ワンウェイクラッチ26aが、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と、キャリア21に一体に形成された歯車22aに噛み合う歯車18aとの間に設けられたものではなく、無段変速装置の出力軸41とリング歯車25との間に設けられていることと、歯車33,35がなくエンジン3の出力歯車32とトロイダル型無段変速機1の入力歯車11aとが直接噛み合っていること、出力歯車15と出力軸歯車17とが歯車15aおよび歯車15cを介して回転力を伝動するのではなく、スプロケット15dとスプロケット17aとがチェーン15eを介して回転力が伝動されることである。
その他の点については、図11および図12に示す従来の無段変速装置もしくは、図1および図2に示す第1実施形態の無段変速装置と同様となっている。
【0071】
この比較例では、第1実施形態の場合と比較してトロイダル型無段変速機1の入力軸11および出力軸16の回転が逆になるが、両方とも逆になることで、これら入力軸11および出力軸16の回転方向の関係は変わらず、それらに対応するキャリア21の回転方向と、太陽歯車24の回転方向との関係も変わらないことになる。
【0072】
そして、この例では、ダイレクトモードクラッチ19が切断され、ワンウェイクラッチ61が接続されたローモードにおいては、太陽歯車24がトロイダル型無段変速機1の出力軸16に対応して回転し、キャリア21がトロイダル型無段変速機1の入力軸11の回転に対応して回転し、これらの回転に基づく遊星歯車23の自転と回転に基づいてリング歯車25が回転することにより、無段変速装置の出力軸41がリング歯車25と一体に回転することになる。
【0073】
また、ダイレクトモードにおいても、太陽歯車24がトロイダル型無段変速機1の出力軸16に対応して回転し、キャリア21がトロイダル型無段変速機1の入力軸11の回転に対応して回転し、リング歯車25がキャリア21に支持された遊星歯車23の自転と公転に対応して回転する。そして、ワンウェイクラッチ61の外輪がリング歯車25と一体に回転し、ワンウェイクラッチ61の内輪が無段変速装置の出力軸41と一体に回転することになる。
【0074】
このような状態では、図7に示すように、太陽歯車24とキャリア21の回転数の差により、リング歯車25の回転がダイレクトモードにおいても0となる場合があり、リング歯車25と一体に回転する外輪の回転数も0となる場合があることになる。この際には、外輪の回転数が0となることで、遠心力がなくなり、スプラグはリボンスプリングの作用により内輪側に押し付けられ、スプラグと内輪が接触する。この際に、外輪の速度の方が速いので、外輪と内輪とが接続されることはなく、ダイレクトモードでの走行は可能であるが、外輪およびスプラグに作用する遠心力が低下することにより、スプラグが内輪に押し付けられることで、内輪が摩耗する虞がある。
【0075】
すなわち、ダイレクトモード中に常時スプラグが外輪側に引き込んでいるようにリボンスプリングの付勢力を設定することが困難であり、スプラグおよび内輪の空転と噛み合いとの切り替えを円滑に行うことができない。
したがって、ローモードクラッチをワンウェイクラッチ26aに変更する際に、ワンウェイクラッチ26aを第1実施形態に示すようにトロイダル型無段変速機1の軸、すなわち、入力軸11と同軸上に配置することが好ましい。また、外輪26bがリング歯車25と一体に回転する構成となっていないことが好ましく、ワンウェイクラッチ26aが無段変速装置の出力軸41や遊星歯車機構の太陽歯車24、キャリア21、リング歯車25の回転軸と同軸上に配置されていないことが好ましい。
【0076】
但し、必ずしも図1および図2に示すような構成となっていなくてもよく、ワンウェイクラッチ26aの配置位置が、出力軸41と同軸状となっていても、以下の条件を満たすものとなっていればよい。
すなわち、ワンウェイクラッチ26aは、無段変速装置の出力軸41とリング歯車25との間に配置されてこれらの接続を切断するものではなく、トロイダル型無段変速機1の入力軸11と、キャリア21と一体に回転する歯車22aに噛み合う歯車18aとの間の接続を切断するもの、すなわち、入力軸11とキャリア21との間の接続を切断するものであることが好ましい。
【0077】
すなわち、ワンウェイクラッチ26aは、無段変速装置への入力がトロイダル型無段変速機1を経ずに遊星歯車機構2に入力される経路に設けられることが好ましく、遊星歯車機構2の出力を無段変速装置の出力軸41に出力する経路に設けられることは好ましくない。したがって、ワンウェイクラッチ26aは、遊星歯車機構2の入力側に設けられることが好ましい。
【0078】
なお、無段変速装置の出力軸41と同軸上にワンウェイクラッチがある場合には、例えば、内輪に一体に回転可能な歯車が設けられ、当該歯車が入力軸11と一体に回転可能な歯車と噛み合った状態とする。すなわち、内輪に入力軸11の回転が伝動される状態とする。また、外輪はキャリア21と一体に回転可能に設ける。このようにすることで、ワンウェイクラッチが出力軸側にあっても、ワンウェイクラッチを遊星歯車機構の入力側に設けることが可能となる。
【0079】
以下、図面を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の無段変速装置の特徴は、第1実施形態の無段変速装置のトロイダル型無段変速機の後述の押圧装置から予圧用の後述の皿ばねを取り除いた構造とし、かつ、トロイダル型無段変速機のトラニオンを枢軸の軸方向に駆動する後述の油圧駆動装置に、当該トラニオンを枢軸の軸方向に沿ってトロイダル型無段変速機の増速側(無段変速装置の減速側)に付勢する皿ばねを設けた構造にあり、その他の構成および作用は前述した第1実施形態の構成および作用と同様であるため、以下においては、この第2実施形態の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図1および図2と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
【0080】
図8は本発明の第2実施形態の無段変速装置を示す展開断面図、図9は第2実施形態の無段変速装置を示す要部断面図、図10は第2実施形態の無段変速装置を示す正面図である。
【0081】
ここで、第1実施形態において説明を省略した押圧装置71の第1実施形態と第2実施形態とで共通となる構造を説明する。
上述のトロイダル型無段変速機1には、図1および図8に示すように、入力側ディスク12および出力側ディスク14と、パワーローラ13との間に押圧力を付与する押圧装置71が設けられている。
【0082】
第1実施形態および第2実施形態において、押圧装置71として油圧で駆動される油圧式のものが用いられている。
この例においては、上述のように、対向する2つの入力側ディスク12,12の間に、出力側ディスク14が配置されることにより、入力側ディスク12と出力側ディスク14とそれらの間に挟持されたパワーローラ13とからなる組が二組同軸上に配置された状態となっている。そして、一方の入力側ディスク12(図1中右側の入力側ディスク12)がその中心軸(入力軸11)方向に沿って、他方の入力側ディスク12の反対となる方向へ移動することが規制されている。すなわち、入力軸11に設けられたコッタ溝73にコッタ74が嵌め込まれ、一方の入力側ディスク12の背面がコッタ74に当接することにより、一方の入力側ディスク12の背面側への移動が規制されている。
【0083】
そして、他方の入力側ディスク12は、押圧装置71により一方の入力側ディスク12側に入力軸11の軸方向に沿って押圧されるようになっている。
押圧装置71は、シリンダ75と、シリンダ75内に配置される第1ピストン部76および第2ピストン部77を備え、油圧により他方の入力側ディスク12を一方の入力側ディスク12に向かって押圧するものである。
【0084】
そして、第1実施形態では、図1に示すように、第2ピストン部77と、他方の入力側ディスク12の背面との間に予圧用の皿ばね78が設けられている。
押圧装置71は、油圧で作動するとともに、駆動装置としてのエンジン3が回転している場合にだけ押圧可能となっており、上記押圧力を付与可能となるが、エンジン3が停止し、油圧を供給する油圧ポンプが停止すると、前記押圧力を付与できなくなる。
【0085】
ここで、第1実施形態のように皿ばね78が設けられている場合には、エンジン3の停止後も皿ばね78により予圧として前記押圧力の一部が付与された状態となり、エンジン3が停止しても、入力側ディスク12と出力側ディスク14との間にパワーローラ13が挟持された状態が維持される。したがって、外部から力が作用しなければ、パワーローラ13の枢軸回りの傾転角度および枢軸の軸方向に沿った位置が維持され、エンジン3を停止した際の変速比が保持される。
【0086】
しかし、この例の無段変速装置は、上述のようにワンウェイクラッチ26aを用いることにより、ローモードでバックすることができない。この例の無段変速装置をバイクに用いた場合に、手押しでバックしようとすると、ワンウェイクラッチ26aが接続状態となり、手押しすることによりバック側に回転する駆動輪の回転が出力側ディスクまで伝動してしまう。ここで、第1実施形態の場合のようにエンジン停止時に皿ばね78により上述ように予圧がかけられた状態では、出力側ディスク14の回転は、パワーローラ13を介して入力側ディスク12に伝動されるとともに、入力側ディスク12と一体に回転する入力軸11からエンジン3に伝動される。
【0087】
したがって、エンジン3により大きな負荷が作用し、駆動輪を逆転させるのに多きな駆動力が必要となり、手押しで駆動輪を逆転することが困難となる。
そこで、第2実施形態においては、第1実施形態で設けられていた皿ばね78が押圧装置71に設けられていない構成となっている。すなわち、押圧装置71には、皿ばね78が無く、前記予圧を付与することができないようになっている。したがって、押圧装置71は、エンジン3により駆動されて油圧が供給されている間のみ前記押圧力を付与し、エンジン停止時には押圧力を付与しない構成となっている。
【0088】
この状態では、エンジン3の停止時に手押しでバイクを押してバックさせた際に、駆動輪が回転することにより、それに連動して出力側ディスク14が回転しても、パワーローラ13に出力側ディスク14が押し付けられていないので、出力側ディスク14からパワーローラ13および入力側ディスク12に回転が伝動されず、出力側ディスク14が空転する状態となる。
これにより、バイクをバックしても大きな負荷がなく、バイクを容易にバックさせることができる。この場合に出力側ディスク14が空回りすることで、エンジン3の停止により潤滑油が供給されていない入力側ディスク12および出力側ディスク14にパワーローラ13が摺れてこれらが傷つくのも防止することができる。
【0089】
次いで、トラニオンおよび油圧駆動装置について説明する。
すなわち、図9に示すように、入力軸11(ディスク12,14の中心軸)に対し捻れの位置にある一対の枢軸81,81を中心として揺動する一対のトラニオン82(図9に片方のみ図示)が設けられている。各トラニオン82は、支持部83の長手方向(図9の上下方向)の両端部に、この支持部83の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部84,84を有している。この折れ曲がり壁部84,84によって、各トラニオン82には、パワーローラ13を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部84,84の外側面には、各枢軸81,81が互いに同心的に設けられている。
【0090】
支持部83の内側面は、断面円弧状に形成され、この内側面に後述のスラスト玉軸受85の外輪86の円弧状の外側面が当接し、スラスト玉軸受85の内輪となるパワーローラ13を左右に揺動自在としている。
そして、パワーローラ13は、スラスト玉軸受(スラスト軸受)85を介して、回転自在にトラニオン82に支持される。この際に、パワーローラ13は、外輪86に形成された回転軸87回りに回転する状態となる。
また、トラニオンは枢軸81,81回りに回転自在であり、回転軸87を枢軸81,81回りに左右に回転移動させることにより、上述の外輪86の揺動とは別にパワーローラ13を左右に回転移動させることができる。
この状態で、各パワーローラ13は、入力側ディスク12および出力側ディスク314の間に挟持されている。
【0091】
また、各トラニオン82,82の枢軸81,81は、それぞれ、一対のヨーク89,90に対して揺動自在および軸方向(図7の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク89.90により、トラニオン82,82はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク89,90は鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク89.90の四隅には円形の支持孔91が4つ設けられており、これら支持孔91にはそれぞれ、トラニオン82の両端部に設けた枢軸81がラジアルニードル軸受92を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク89,90の幅方向の中央部には、円形の係止孔93が設けられており、この係止孔93の内周面は球状凹面として、球面ポスト94,95を内嵌している。すなわち、上側のヨーク89は、ケーシング96(図10に図示)に固定部材を介して支持されている球面ポスト94によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク90は、球面ポスト95およびこれを支持する駆動シリンダ100の上側シリンダボディ101によって揺動自在に支持されている。
【0092】
各パワーローラ13,13は、上述のようにトラニオン82の断面円弧状の内側面に対して外輪86を介して左右に揺動することで、入力軸11の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置71が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ13が入力軸11の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0093】
また、パワーローラ13の外側面とトラニオン82の支持部83の内側面との間には、上述のように、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)85が設けられている。スラスト玉軸受85は、各パワーローラ13に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ13の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受85はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)105,105と、これら各転動体105,105を転動自在に保持する円環状の保持器106と、円環状の前記外輪86とから構成されている。また、各スラスト玉軸受85の内輪軌道は各パワーローラ13の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪86の内側面にそれぞれ形成されている。
【0094】
各トラニオン82の一端部(図9の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)108が設けられており、各駆動ロッド108の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)110が固設されている。そして、これら各駆動ピストン110はそれぞれ、上側シリンダボディ101と下側シリンダボディ102とによって構成された駆動シリンダ100内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン110と駆動シリンダ100とで、各トラニオン82を、これらトラニオン82の枢軸81の軸方向に変位させる油圧駆動装置111を構成している。
【0095】
入力軸11と出力歯車15との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン110を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン110の変位に伴って、一対のトラニオン82が互いに逆方向に変位する。例えば、図9に示す一方のパワーローラ13が同図の下側に、図示しない他方のパワーローラが同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ13の周面13aと各入力側ディスク12および各出力側ディスク14の内側面12a、14aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン82が、ヨーク89,90に枢支された枢軸81,81を中心として、互いに逆方向に揺動する。
【0096】
その結果、各パワーローラ13の周面13aと各入力側ディスク12の内側面12aおよび出力側ディスク14の内側面14aとの当接位置が変化し、入力軸11と出力歯車15との間の回転速度比が変化する。
なお、図9および図10は、第2実施形態の無段変速装置を示すものであるが、後述の皿ばね120を除いて、第1実施形態の無段変速装置も同様の構成を有するものである。
【0097】
そして、第2実施形態の無段変速装置は、駆動シリンダ100内に駆動ピストン110を付勢する付勢手段としての皿ばね120が配置されている。皿ばね120は、トロイダル型無段変速機1において、上述のように変速比を変更する場合に、増速側に変更する方向にトラニオン82を枢軸81の軸方向に沿って付勢するものである。ここで、ローモードにおいて、トロイダル型無段変速機1の変速比が増速側となる場合に、無段変速装置としては、変速比が減速側となる。
【0098】
この例では、一対のトラニオン82のうちの一方のトラニオン82において、当該トラニオン82を駆動する油圧駆動装置111の駆動シリンダ100の下側シリンダボディ102と駆動ピストン110との間に皿ばね120が配置され、駆動ピストン110を枢軸81の軸方向に沿って図中上側に付勢するようになっている。
また、一対のトラニオン82のうちの図示されていない他方のトラニオンにおいては、当該トラニオン82を駆動する油圧駆動装置111の駆動シリンダ100の上側シリンダボディ101と駆動ピストン110との間に皿ばねが配置され、駆動ピストン110を枢軸81の軸方向に沿って下側(一方のトラニオン82の移動方向と逆側)に付勢するようになっている。
【0099】
なお、一対のトラニオン82のうちの一方のトラニオンを駆動する油圧駆動装置111にだけ皿ばね120を配置し、他方のトラニオンを駆動する油圧駆動装置111に皿ばねを配置しないものとしてもよい。
このような構成においては、エンジン3が作動している状態では、無段変速装置の減速や増速に対応して油圧駆動装置111を制御して、駆動ピストン110を駆動シリンダ100内で油圧により枢軸81の軸方向に移動させることになる。この際には、皿ばね120の付勢力より大きな力で、駆動ピストン110が駆動され、駆動ピストン110の移動が制御される。
【0100】
エンジン3が停止すると、油圧が供給されず、上述の押圧装置71による押圧力が解除された状態となり、入力側ディスク12および出力側ディスク14と、パワーローラ13との間に、押圧力が作用せず、パワーローラ13およびそれを支持するトラニオン82が枢軸81方向に沿って移動可能な状態となる。
この状態で、駆動ピストン111には主に皿ばね120の付勢力が作用する状態となり、駆動ピストン111には、トロイダル型無段変速機1において、皿ばね120により、トラニオン82が、変速比を変更しない中立位置より増速側の位置に配置される。
【0101】
この状態で、エンジン3が作動開始すると、押圧装置71が作動して、入力側ディスク12および出力側ディスク14と、パワーローラ13との間に、押圧力が作用するとともに、入力側ディスク12から回転力がパワーローラ13を介して出力側ディスク14に回転力が伝達される。この際に、エンジン開始に基づいて油圧駆動装置111が作動開始する前の段階から、トラニオン82が上述のように中立位置より増速側の位置となっているので、入力側ディスク12および出力側ディスク14に接するパワーローラ13が増速側に変位する。その後油圧駆動装置111が作動し、変速比の制御に基づいてトラニオン82が枢軸81の軸方向に動かされることになる。
【0102】
そして、エンジンスタート直後には、パワーローラ13が増速側に傾転しているので、無段変速装置としては、減速側に変速した状態となり、発進時に円滑に発進することが可能となる。
したがって、上述のように手押しでバックする際に、駆動輪を円滑に回転できるようにトロイダル型無段変速機1の押圧装置71に予圧用の皿ばねを設けない構成として、エンジン3の停止時に入力側ディスク12および出力側ディスク14と、パワーローラ13との間に、押圧力が作用しない構成とすることで、エンジン3を停止すると変速比が変化してしまう構成としても、エンジン3の起動とともに、無段変速装置が減速側に制御された状態となり、円滑にバイクを発進させることができる。
【0103】
なお、第2実施形態の無段変速装置においては、第1実施形態の無段変速装置の押圧装置71から予圧用の皿ばねを取り除き、エンジン3の停止時に入力側ディスク12、出力側ディスク14およびパワーローラ13との間に押圧力が作用せず、エンジン3により駆動された場合にだけ、押圧力が作用するようになっているとともに、トラニオン82(パワーローラ13)を枢軸81の軸方向に沿って駆動する油圧駆動装置111にトラニオン82を増速側に付勢する皿ばね120等の付勢手段が設けられていれば、第1実施形態と同様に構成を変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、遊星歯車機構とハーフトロイダル型無段変速機を用いた無段変速装置の他、遊星歯車機構とトラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機を用いた無段変速装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 トロイダル型無段変速機
2 遊星歯車機構
11 入力軸
12 入力側ディスク
13 パワーローラ
14 出力側ディスク
19 ダイレクトモードクラッチ
21 キャリア
23 遊星歯車
24 太陽歯車
25 リング歯車
26a ワンウェイクラッチ(ローモードクラッチ)
71 押圧装置
81 枢軸
82 トラニオン
100 駆動シリンダ(シリンダ)
110 駆動ピストン
111 油圧駆動装置
120 皿ばね(付勢手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの内側面同士を対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクとこれらの両ディスク間に挟持される複数のパワーローラとが備えられたトロイダル型無段変速機と、
太陽歯車と当該太陽歯車に噛み合う遊星歯車と当該遊星歯車を自転および公転自在に支持するキャリアと当該遊星歯車と噛み合うリング歯車とが備えられた遊星歯車機構とを有し、
前記トロイダル型無段変速機から遊星歯車機構を介さずに直接的に出力が得られるダイレクトモードの際にのみ接続状態とされるダイレクトモードクラッチと、
前記トロイダル型無段変速機の入力側と出力側とのそれぞれの回転力が前記遊星歯車機構に入力されるとともに当該遊星歯車機構を介して出力が得られるローモードの際にのみ接続状態となるローモードクラッチとを備えた無段変速装置において、
前記ローモードクラッチがワンウェイクラッチとされたことを特徴とする無段変速装置。
【請求項2】
前記ワンウェイクラッチが遊星歯車機構の入力側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速装置。
【請求項3】
前記トロイダル型無段変速機は、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にあり且つ互いに同心的に設けられた一対の枢軸を中心に傾転自在とされるとともに当該枢軸の軸方向に移動自在とされ、かつ、前記各パワーローラを回転自在に支持する複数のトラニオンと、
前記トラニオンを前記枢軸の軸方向に変位させることで、当該トラニオンを前記枢軸を中心として傾転させることにより変速比を変更させる油圧駆動装置と、
前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクと前記パワーローラとの間に押圧力を付与する押圧装置とを備え、
前記押圧装置は、駆動時にのみ前記押圧力を付与し、
前記油圧駆動装置は、シリンダと、当該シリンダ内に配置され、前記トラニオンを枢軸の軸方向に沿って、前記変速比を増速する側および減速する側に駆動する駆動ピストンと、当該駆動ピストンを、変速比が増速させられる側に付勢する付勢手段とを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無段変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−270903(P2010−270903A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247168(P2009−247168)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】