説明

無端ベルト及び無端ベルトユニット

【課題】クリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルト、及び、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトユニットの提供。
【解決手段】クリーニングブレードが圧接するように配置される無端ベルト1であって、前記無端ベルト1は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物とを含有する樹脂層を備えてなることを特徴とする無端ベルト1、及び、複数の回転体に巻回されて無限軌道を走行するこの無端ベルト1と、前記無端ベルト1の外表面に圧接するクリーニングブレードとを備えてなる無端ベルトユニット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端ベルトに関し、さらに詳しくは、クリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルト、及び、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザープリンター及びビデオプリンター等のプリンター、複写機、ファクシミリ、これらの複合機等には、電子写真方式を利用した各種の画像形成装置が採用されている。このような画像形成装置には各種の無端ベルトが装備されている。このような無端ベルトとしては、例えば、搬送途中で現像剤が転写される記録体を外表面に保持して搬送する転写搬送ベルト、二次転写型画像形成装置における中間転写ベルト、定着装置の定着ローラに巻回される定着ベルト等が挙げられる。
【0003】
これらの無端ベルトは、通常、無限軌道を1回転走行するごとに所期の機能を奏し、前記無限軌道を繰り返して走行することによって所期の機能を繰り返し奏するように構成されている。この無端ベルトは、走行中に現像剤に接触し、又は、接触する可能性があるから、無端ベルトの外表面に現像剤が付着して汚染されることがある。前記転写搬送ベルトを例にして具体的に説明する。転写搬送ベルトで搬送される記録体は、例えば、その搬送途中で、現像剤像を担持する像担持体例えば感光体から現像剤が転写される。このとき、前記像担持体に担持された現像剤又は記録体に転写された現像剤が飛散して、その一部が転写搬送ベルトの外表面に付着することがある。また一方で、前記像担持体の回転と転写搬送ベルトの走行とが正確に同期していないと、前記像担持体等に担持された現像剤が記録体に転写されずに、転写搬送ベルトの外周面に転写されることがある。
【0004】
そこで、画像形成装置は、通常、無端ベルトの外表面に付着した現像剤を除去するクリーニング手段を備えている。このクリーニング手段は、例えば、無端ベルトの外表面に圧接するクリーニングブレードを有し、無端ベルトが1回転するまでに、このクリーニングブレードで無端ベルトの外表面に付着した現像剤を掻き落とすように、構成されている。
【0005】
クリーニング手段を備えた画像形成装置として、例えば、「2本の張架ロールと、前記2本の張架ロールに移動可能に支持された搬送ベルトと、前記搬送ベルトの裏面側で、かつ前記2本の張架ロール間に配置され、前記搬送ベルトの裏面の一方の面とは接触するとともに、該搬送ベルトの裏面の他方の面との間には所定の間隙が形成されている複数の転写手段と、先端部が前記搬送ベルトに所定圧で接触し、その先端部によって歪められた該搬送ベルトの裏面が前記張架ロールに接触することのない位置に配置され、該搬送ベルトに残留している残留トナーを除去するクリーニングブレードと、を有することを特徴とする画像形成装置。」が特許文献1に記載されている。
【0006】
また、例えば、「JIS A硬度が65〜80であるポリウレタン製ブレードに対する動摩擦係数が0.9以下であることを特徴とする電子写真装置用部材。」が特許文献2に記載されている。
【0007】
前記無端ベルトのクリーニング手段の一例を図4に示す。図4(a)に示されるように、無端ベルト102を圧接して、無端ベルト102に付着した現像剤を除去するクリーニングブレード101は、通常、無端ベルト102の外表面であって、無端ベルト102の無限軌道中で無端ベルト102が所定の機能を奏しない軌道中にあるときの外表面104(以下、非機能外表面と称する。)に、その一端部又は一端縁が無端ベルト102の走行方向(図4(a)において矢印Aが示す方向)に対して上流側に、他端部又は他端縁が無端ベルト1の走行方向に対して下流側に配置された状態で、無端ベルト102に対して所定の角度及び所定の押圧荷重で圧接するように、無端ベルト102が機能を奏しない軌道(復路軌道)の途中に配置されている。
【0008】
このように、クリーニングブレード101が無端ベルト102に圧接されているから、無端ベルト102が走行すると、無端ベルト102との摩擦等によって、図4(b)に示されるように、クリーニングブレード101が無端ベルト102の走行方向(図4において矢印Aの方向)に捲れ返り、クリーニングブレード101として十分に機能しなくなってしまうことがある。特に、印刷速度すなわち無端ベルト102の走行速度が高速化された画像形成装置においては、無端ベルト102の走行時に、無端ベルト102を圧接するクリーニングブレード101の一端部又は一端縁に過大な負荷がかかり、クリーニングブレード101がより捲れ返りやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−298536号公報
【特許文献2】特開2002−341614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、クリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトを提供することを、目的とする。
【0011】
また、この発明は、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトユニットを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、クリーニングブレードが圧接するように配置される無端ベルトであって、前記無端ベルトは、ポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物とを含有する樹脂層を備えてなることを特徴とする無端ベルトであり、
請求項2は、前記フッ素化合物は、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して0.01〜2質量部の割合で前記樹脂層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の無端ベルトであり、
請求項3は、前記樹脂層は、シリコーン化合物を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の無端ベルトであり、
請求項4は、前記シリコーン化合物は、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で前記樹脂層に含有されていることを特徴とする請求項3に記載の無端ベルトであり、
請求項5は、複数の回転体に巻回されて無限軌道を走行する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の無端ベルトと、前記無端ベルトの外表面に圧接するクリーニングブレードとを備えてなる無端ベルトユニットである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る無端ベルトは、ポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物とを含有する樹脂層を備えてなるから、無端ベルトの走行によってクリーニングブレードへの過大な負荷及び過大な振動を与えることなく、クリーニングブレード上を円滑に通過することができる。その結果、この発明に係る無端ベルトは、たとえ、走行速度が高速であっても、長期間にわたってクリーニングブレード上を円滑に通過してクリーニングブレードとの初期の圧接状態を維持することができる。したがって、この発明によれば、クリーニングブレードとの圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトを提供することができる。
【0014】
また、この発明によれば、この発明に係る無端ベルトユニットはこの発明に係る無端ベルトとクリーニングブレードとを備えてなるから、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することのできる無端ベルトユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルトを示す概略斜視図である。
【図2】図2は、この発明に係る無端ベルトユニットを備えた画像形成装置の一例であるタンデム型カラー画像形成装置を示す概略図である。
【図3】図3は、この発明に係る無端ベルトユニットにおけるクリーニングブレードを示す図であり、図3(a)はこの発明に係る無端ベルトユニットにおけるクリーニングブレードを示す正面図であり、図3(b)はこの発明に係る無端ベルトユニットにおけるクリーニングブレードを示す側面図である。
【図4】図4は、無端ベルトユニットにおける無端ベルトとクリーニングブレードとの圧接状態を説明する説明図であり、図4(a)は無端ベルトユニットにおける無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を説明する説明図であり、図4(b)は無端ベルトユニットにおいてクリーニングブレードが捲れ返った状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一例である無端ベルトを図面に基づいて説明する。図1に示されるように、無端ベルト1は、後述するポリアミドイミド樹脂組成物によって環状に形成された樹脂層のみから成る単層構造とされている。無端ベルト1の厚さは、特に限定されないが、通常、例えば、0.03〜1mmであるのが好ましく、0.05〜0.2mmであるのがより好ましく、0.07〜0.14mm程度であるのが特に好ましい。無端ベルト1の厚さが0.03mm未満であると、無端ベルト1の機械的強度が低下することがあり、一方、1mmを超えると、無端ベルト1の可撓性が低下し、耐久性に劣ることがある。無端ベルト1の幅及び内周径は適宜設定される。その一例を挙げると、例えば、無端ベルト1の幅は200〜350mmであり、内周径は200〜2,500mmである。
【0017】
無端ベルト1は、後述するポリアミドイミド樹脂と後述するフッ素化合物とを含有している。無端ベルト1がポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物とを含有していると、後述するように無端ベルト1自体の機械的特性等が優れると共に、無端ベルト1がクリーニングブレード上を円滑に通過してクリーニングブレードとの初期の圧接状態を維持することができる。また、無端ベルト1に含有される導電性付与剤を均一に分散させることができ、得られる無端ベルト1の抵抗値を高度に均一化することができる。さらに、後述するように無端ベルト1を遠心成形して製造する場合には、レベリング性を向上させて、無端ベルト1の内表面の平坦性が高度に均一になる。
【0018】
無端ベルト1に含有されるフッ素化合物の含有量は、無端ベルト1を構成するポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部であるのが好ましく、0.05〜0.5質量部であるのが特に好ましい。前記範囲内で無端ベルト1にフッ素化合物が含有されていると、無端ベルト1がクリーニングブレード上をより一層円滑に通過することができる。無端ベルト1に含有されるフッ素化合物の含有量は、無端ベルト1を光電子分光装置(ESCA)により分析することによって、測定することができる。通常、無端ベルト1におけるフッ素化合物の含有量は、無端ベルト1を形成するポリアミドイミド樹脂組成物に含有される樹脂100質量部に対するフッ素化合物の含有量とほぼ一致する。無端ベルト1に含有されるフッ素化合物は1種でもよく、また、2種以上であってもよい。
【0019】
無端ベルト1は、好ましくは後述するシリコーン化合物を含有している。このシリコーン化合物は、前記フッ素化合物と協働して、前記フッ素化合物による前記効果をより一層高めると共に、後述するクリーニングブレードとの摩擦係数を小さくして、高い接触角(n−ドデカン)と小さな摩擦係数とを高い水準で両立させることができる。したがって、無端ベルト1がフッ素化合物に加えてシリコーン化合物をさらに含有していると、この発明の目的をより一層よく達成することができ、たとえ、走行速度が高速であっても、より一層長期間にわたって無限軌道を円滑に走行してクリーニングブレードとの初期の圧接状態を維持することができる。また、このシリコーン化合物は、クリーニングブレード特にその弾性体からブリードアウトした材料例えば低分子量成分等が無端ベルト1の外表面を汚染することを効果的に防止することができる。
【0020】
無端ベルト1に含有されるシリコーン化合物の含有量は、無端ベルト1を構成するポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、0.1〜2質量部であるのが好ましく、0.1〜1質量部の割合であるのが特に好ましい。前記範囲内で無端ベルト1にシリコーン化合物が含有されていると、無端ベルト1がクリーニングブレード上をより一層円滑に通過することができる。無端ベルト1に含有されるシリコーン化合物の含有量は、無端ベルト1を光電子分光装置(ESCA)で元素分析することによって、測定することができる。通常、無端ベルト1におけるシリコーン化合物の含有量は、無端ベルト1を形成するポリアミドイミド樹脂組成物に含有される樹脂100質量部に対するシリコーン化合物の含有量とほぼ一致する。無端ベルト1に含有されるシリコーン化合物は1種でもよく、また、2種以上であってもよい。
【0021】
無端ベルト1は、ポリアミドイミド樹脂及びフッ素化合物、所望によりシリコーン化合物に加えて、後述する各種添加剤等を含有していてもよい。
【0022】
この無端ベルト1は、下記測定方法における静摩擦係数が2〜3.3の範囲内にあるのが好ましく、2〜3の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト1の静摩擦係数が前記範囲内にあると、クリーニングブレード上をより一層円滑に通過することができ、クリーニングブレードとの初期の圧接状態をより一層長期間にわたって維持することができる。また、無端ベルト1は、下記測定方法における動摩擦係数が2〜2.8の範囲内にあるのが好ましく、2〜2.5の範囲内にあるのが特に好ましい。無端ベルト1の動摩擦係数が前記範囲内にあると、クリーニングブレード上をより一層円滑に通過することができ、クリーニングブレードとの初期の圧接状態をより一層長期間にわたって維持することができる。
【0023】
無端ベルト1の静摩擦係数及び動摩擦係数は、無端ベルト1を周方向の長さ200mm、幅方向の長さ100mmに切断した試験用シートを表面性測定器(商品名:14FW、新東科学株式会社製)にセットし、図2に具体的に示されるように、クリーニングブレードがセットされていないと仮定したときの試験用シートの表面とクリーニングブレードとの接触角θが23°、押圧荷重Pが1MPaとなるように、クリーニングブレードにおける先端部の一端縁を試験用シートに圧接させる(このとき、クリーニングブレードは、その一端縁が試験用シートの走行方向に対して上流側に、他端縁が試験用シートの走行方向に対して下流側に配置される。)。この状態で、試験用シートを10mm/秒の速度で一方向に走行させて、走行中におけるクリーニングブレードに加わる抵抗力を計測し、計測された抵抗力から、「抵抗力/押圧荷重」より求められる数値により、静摩擦係数及び動摩擦係数が求められる。ここで、静摩擦係数を算出するときの前記計算式における「押圧荷重」は、試験用シートを走行させて抵抗力を測定するときにおける「測定開始初期のピーク押圧荷重」であり、動摩擦係数を算出するときの前記計算式における「押圧荷重」は、試験用シートを走行させて抵抗値を測定するときにおける「測定開始初期のピーク押圧荷重を除いた平均押圧荷重、すなわち、試験用シートの走行時における平均押圧荷重」である。なお、クリーニングブレードは、図3に示されるように、厚み2.0mm、幅20mm、長さ50mmのウレタン弾性体が、その幅20mm×長さ方向25mmの表面が重畳するように、厚み1.0mm、幅20mm、長さ50mmの鉄製プレートに接着されて成り、前記ウレタン弾性体は、後述する測定方法における、JIS A硬度が70、引張永久歪特性が50%及び摩耗量が50mgに調整される。
【0024】
無端ベルト1は、n−ドデカンの接触角が10〜60度であることが好ましく、20〜60度であることがより好ましい。無端ベルト1におけるn−ドデカンの接触角が前記範囲内にあると、クリーニングブレード上をより一層円滑に通過することができ、クリーニングブレードとの初期の圧接状態をより一層長期間にわたって維持することができる。
【0025】
無端ベルト1におけるn−ドデカンの接触角は接触角計(商品名「CA‐DT型」、協和界面化学株式会社製)を用いて測定できる。無端ベルト1を約10mm角に切り出した試料を接触角計にセットし試料上に液滴径2mmのn−ドデカンの液滴を付着させる。接触角の計測は試料と液滴の接点と液滴頂点部でなす角度を接触角計に内蔵された角度目盛りで読み取り2倍に換算して求められる。
【0026】
無端ベルト1は、前記静摩擦係数及び前記動摩擦係数のいずれか一方と、前記n−ドデカンの接触角とがそれぞれ前記範囲内にあるのがより好ましく、前記静摩擦係数、前記動摩擦係数及び前記n−ドデカンの接触角がそれぞれ前記範囲内にあるのが特に好ましい。
【0027】
無端ベルト1は、表面抵抗率が1×1010〜1×1015Ω/□の範囲にあるのが好ましく、1×1012〜1×1014Ω/□の範囲にあるのが特に好ましい。無端ベルト1の表面抵抗率が前記範囲内にあると、無端ベルト1を画像形成装置に使用した場合に、高品質の画像を形成することができる。この表面抵抗率はJIS C2151(1990)に記載の表面抵抗率の測定方法に準拠して測定することができる。
【0028】
無端ベルト1は、ヤング率が2000〜4000MPaの範囲にあるのが好ましく、2500〜3500MPaの範囲にあるのが特に好ましい。無端ベルト1のヤング率が前記範囲内にあると、画像形成装置に装着したときに、駆動力が無端ベルト1に加わっても無端ベルト1に伸び等の寸法変化が生じて、色ずれ等の画像不良が起こることを効果的に防止することができる。このヤング率はJIS K7113(1995)に準拠して測定することができる。
【0029】
無端ベルト1は、ISO耐折回数が500〜10,000回の範囲にあるのが好ましく、1,000〜5,000回の範囲にあるのが特に好ましい。無端ベルト1のISO耐折回数が前記範囲内にあると、無端ベルト1を画像形成装置に装着して走行させても、支持ローラ等の通過時等における屈曲動作による疲労を受けにくく、無端ベルト1自体の長寿命化が実現される。このISO耐折回数はJIS P8115(2001)に準拠して測定することができる。
【0030】
無端ベルト1は、後述するポリアミドイミド樹脂組成物によって樹脂層を環状に形成して、製造される。すなわち、この無端ベルト1は、後述するポリアミドイミド樹脂組成物を硬化して、製造される。
【0031】
無端ベルト1すなわち樹脂層は、ポリアミドイミド樹脂組成物によって形成される。このポリアミドイミド樹脂組成物は、ポリアミドイミド樹脂と、フッ素化合物と、好ましくはシリコーン化合物と、所望により各種添加剤とを含有する。
【0032】
前記ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミド樹脂等が挙げられる。特に、芳香族ポリアミドイミド樹脂は、強度、可撓性、寸法安定性及び耐熱性等の機械的特性がバランスよく優れている点で、好ましい。
【0033】
前記芳香族ポリアミドイミド樹脂は、トリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とを反応させるジイソシアネート法により製造することができ、ジイソシアネート法は原料の入手、反応性及び副生成物が少ない等の点で優れている。ジイソシアネート法で製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂の他にも、重縮合反応を好適に進めることができるのであれば、ジイソシアネート化合物に代えてジアミン化合物を用いて製造される芳香族ポリアミドイミド樹脂も、好ましい。ジアミン化合物を用いて得られる芳香族ポリアミドイミド樹脂は、ヤング率が高く、無端ベルト1を形成するポリアミドイミド樹脂組成物に含まれる樹脂として好適である。また、トリカルボン酸無水物の一部をテトラカルボン酸二無水物に代えてイミド結合を増加させた芳香族ポリアミドイミド樹脂は、耐湿性に優れている。芳香族ポリアミドイミド樹脂は、適宜の溶媒中で、常圧下、及び、常温下又は加熱下で反応させることにより、容易に合成することができる。
【0034】
前記トリカルボン酸無水物としては、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、例えば、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ジフェニルエーテルトリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、2,3,5−ピリジントリカルボン酸無水物、ナフタレントリカルボン酸無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの酸無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0035】
トリカルボン酸無水物の一部に代えて用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0036】
前記ジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物を好ましく挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物として、芳香族ジイソシアネート化合物と共に、又は芳香族ジイソシアネート化合物に代えて、脂肪族ジイソシアネート化合物及び/又は脂環式ジイソシアネート化合物を、又はこれらの誘導体であるアミン類を使用することもできる。
【0037】
芳香族ジイソシアネート化合物として、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジイソシアネートジフェニルスルホン、4,4’−ジイソシアネートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、2,4−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの芳香族ジイソシアネート化合物の誘導体であるジアミン類も原料として利用できる。脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート化合物の中でも、無端ベルト1の耐熱性、機械的特性及び溶解性等を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の60質量%以上、好ましくは70質量%以上を、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートビフェニル、イソホロンジイソシアネート又はこれらの誘導体であるジアミン類とすることが好ましい。さらに、無端ベルト1の寸法安定性を考慮すると、使用する全ジイソシアネート化合物中の70質量%以上をジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート又はこの誘導体である4,4’−ジアミノジフェニルメタンとすることがより好ましい。
【0038】
芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒としては、溶解性の点で極性溶媒が好ましく、反応性を考慮すると非プロトン性極性溶媒が特に好ましい。非プロトン性極性溶媒として、例えば、N,N−ジアルキルアミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、及び、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド等のN,N−ジアルキルアミド類が挙げられる。また、極性溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等も好ましい。これらの溶媒は、一種単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0039】
前記ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミドイミド樹脂の一部又は全部に代えて、ポリアミドイミド樹脂を形成する原料、例えば、前記多価カルボン酸、前記多価アミン、前記多価イソシアネート等を含有していてもよい。すなわち、無端ベルト1に含有されるポリアミドイミド樹脂は、環状に成形したときに、ポリアミドイミド樹脂となる成分であればよい。
【0040】
前記フッ素化合物は、分子内にパーフルオロアルキル基(−C2n+1)を有する化合物が好ましく、前記パーフルオロアルキル基は、炭素数が1〜6のパーフルオロアルキル基であるのが好ましく、特に、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基等が好ましい。
【0041】
このようなフッ素化合物としては、フッ素界面活性剤が好ましく、特に低分子化合物のフッ素界面活性剤及びオリゴマーのフッ素界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤は樹脂層の表面近傍にパーフルオロ基が配向しやすく、クリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することに貢献することができる。前記低分子化合物のフッ素界面活性剤としては、例えば、分子内にパーフルオロアルキル基を有する各種酸又はその塩等が挙げられ、具体的には、例えば、パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル型配合物、及び、エチレンオキシド付加物等が挙げられる。前記パーフルオロブチルスルホン酸塩としては例えば商品名「メガファック」(品番F−114)、前記パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩としては例えば商品名「メガファック」(品番F−410)、前記パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルとしては例えば商品名「メガファック」(品番F−493)、前記パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル型配合物としては例えば商品名「メガファック」(品番F−494)、並びに、前記エチレンオキシド付加物としては、例えば、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物と称される、商品名「メガファック」(品番F−443)、商品名「メガファック」(品番F−444)、商品名「メガファック」(品番F−445)及び商品名「メガファック」(品番F−446)(以上、大日本インキ化学工業製)等が挙げられる。
【0042】
オリゴマーのフッ素界面活性剤としては、その主鎖がパーフルオロアルキル基で、分子量がGPCによるポリスチレン換算で500〜1万が好ましく、600〜9000がさらに好ましく、700〜8000が特に好ましい。このようなオリゴマーのフッ素界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキル基・親水性基・親油性基含有オリゴマー等が挙げられる。オリゴマーのフッ素界面活性剤としては、より具体的には、例えば、パーフルオロアルキル基・親水性基・親油性基含有オリゴマー(商品名「メガファック」(品番F−470、F−471、F−475、F−477、F−479、R−08、R−30及びR−110)等、パーフルオロアルキル基・親水性基含有オリゴマー(商品名「メガファック」(品番F−480SF)、パーフルオロアルキル基・親油性基含有オリゴマー(商品名「メガファック」(品番F−482、F−483、F−489)(以上、大日本インキ化学工業製)等を挙げられる。また、別のオリゴマーとして、例えば、パーフルオロブタンスルホン酸基を含有する界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤として、例えば、商品名「ノベック FC−4430」及び「ノベック FC−4432」(住友スリーエム株式会社)等が挙げられる。
【0043】
フッ素界面活性剤のイオン性は特に限定されないが、ノニオン性であるのが、導電調整用のカーボンブラックの分散性に影響を与えないという理由で、好ましい。
【0044】
この発明において、無端ベルト1に含有されるフッ素化合物は1種でもよく、また、2種以上であってもよい。
【0045】
フッ素化合物は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、0.01〜2質量部の割合で含有されているのが好ましく、0.05〜0.5質量部の割合で含有されているのが特に好ましい。前記範囲内でフッ素化合物が含有されていると、この発明の前記目的をよく達成することができる。
【0046】
前記シリコーン化合物は、シリコーン界面活性剤等が好ましい。このシリコーン界面活性剤は、前記芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する際に用いられる溶媒、後述するポリアミドイミド樹脂組成物の粘度を調整する際に用いられる溶媒との相溶性に優れる点で、末端に水酸基を有する反応性ポリシロキサン、シリコーン表面調整剤と称されるシリコーン化合物等が好ましい。
【0047】
末端に水酸基を有する反応性ポリシロキサンとしては、例えば、ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイルの末端をカルビノールで変性し、末端にカルビノール由来の水酸基を有するシリコーンオイル(カルビノール変性シリコーンオイルと称する。)、ヒドロキシカルボニル基を含有する化合物例えばアシロインでシリコーンオイルの末端を変性し、ヒドロキシカルボニル基を含有する化合物由来の水酸基を末端に有するシリコーンオイル(カルボキシ変性シリコーンオイルと称する。)、ヒドロキシ基を2個含有するジオール化合物例えばエチレングリコールでシリコーンオイルの末端を変性し、ジオール化合物由来の水酸基を末端に有するシリコーンオイル(ジオール変性シリコーンオイルと称する。)等が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、前記ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、前記ポリエーテルポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、前記シリコーン表面調整剤が、表面張力を低下させるのにより優れているという点で、好ましい。
【0049】
前記末端に水酸基を有する反応性ポリシロキサンは、末端に水酸基を有していれば特に限定されず、種々の反応性ポリシロキサンが挙げられる。具体的には、前記ポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサンとしては、例えば、商品名「BYK−370」(ビックケミー社製)等が挙げられ、前記ポリエーテルポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサンとしては、例えば、商品名「BYK−375」(ビックケミー社製)等が挙げられ、前記カルビノール変性シリコーンオイルとしては、例えば、商品名「KF‐6001」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられ、前記シリコーン表面調整剤と称されるシリコーン化合物としては、「シリコーン表面調整剤」(商品名「BYK3500」、ビックケミー社製)等が挙げられ、前記カルボキシル変性シリコーンオイルとしては、例えば、商品名「X‐22‐162C」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられ、前記ジオール変性シリコーンオイルとしては、例えば、商品名「X−22‐176DX」(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
シリコーン化合物は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、0.05〜2質量部の割合で含有されているのが好ましく、0.1〜1質量部の割合で含有されているのが特に好ましい。前記範囲内でシリコーン化合物が含有されていると、前記効果がより一層高い水準で発揮される。
【0051】
前記ポリアミドイミド樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、種々の添加剤を含有してもよい。このような添加剤分としては、例えば、導電性付与剤、カップリング剤、滑剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、老化防止剤、補強性充填材、反応助剤、反応抑制剤等の各種添加剤等が挙げられる。また、このポリアミドイミド樹脂組成物は、この発明の目的を阻害しない限り、他の樹脂が含有されていてもよい。これら他の成分の前記ポリアミドイミド樹脂組成物における含有量は、これら他の成分の添加により前記ポリアミドイミド樹脂組成物に発現させる特性に応じて適宜に決定されることが、できる。これらの添加剤は、適宜の含有量でポリアミドイミド樹脂組成物に含有される。
【0052】
前記導電性付与剤として、例えば、導電性粉末及びイオン導電性物質等を挙げることができる。導電性粉末としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンの他に、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン類、また酸化チタン、酸化亜鉛、ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属、さらには金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマー、ナノ粒子等を挙げることができる。イオン導電性物質としては、例えば、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム等の無機イオン性導電物質等を挙げることができる。これらの中でも、導電性カーボン及びゴム用カーボン類等が好ましく、カーボンブラックが特に好ましい。導電性付与剤は、前記各種物質をその一種を単独で使用することができ、また二種以上を併用することもできる。導電性付与剤の好ましい形状は、球状又は不定形である。球状又は不定形をなす導電性付与剤の粒子のサイズは、一次粒子径として0.01〜10μm程度が好ましい。導電性付与剤がカーボンブラックの場合、そのBET比表面積は、一次粒子径との相関性が強く、50〜300m/gであることが好ましく、100〜200m/gがより好ましい。
【0053】
ポリアミドイミド樹脂組成物における導電性付与剤の含有量は、導電性付与剤の導電性及び粒径、並びに、無端ベルト1に要求される導電特性等により、適宜調整すればよいが、通常、ポリアミドイミド樹脂組成物と導電性付与剤との全質量100%に対して、1〜25質量%であるのが好ましく、5〜20質量%であるのがより好ましく、10〜20質量%であるのが特に好ましい。導電性付与剤の添加量が1質量%より少ないと、導電性物質同士の距離が離れすぎて無端ベルト1における導電性の発現が悪くなることがあり、一方、導電性付与剤の添加量が25質量%を超えると、無端ベルト1の機械的強度が低下することがある。導電性付与剤を樹脂に分散させるには、公知の方法を適宜選択することができ、公知の方法として、例えば、ミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機、三本ロール、ホモジナイザー、ボールミル、ポットミル及びビーズミル等を用いた混合方法が挙げられる。
【0054】
無端ベルト1は、前記ポリアミドイミド樹脂、前記フッ素化合物、好ましくはシリコーン化合物、所望により各種添加剤を、通常の方法で、均一に分散して、得られるポリアミドイミド樹脂組成物を硬化・成形して、得られる。すなわち、無端ベルト1は、ポリアミドイミド樹脂組成物を公知の成形方法によって環状に成形して、製造される。
【0055】
例えば、単層構造の前記無端ベルト1は、準備したポリアミドイミド樹脂組成物を公知の成形方法によって環状に成形して、作製される。無端ベルト1を形成するポリアミドイミド樹脂組成物に含有される樹脂として熱可塑性樹脂を選択した場合には、遠心成形、押出成形、射出成形等により、一方、樹脂として熱硬化性樹脂を選択した場合には、遠心成形、RIM成形等により、無端ベルト1を成形することができる。これらの成形方法の中でも、材料を問わずに適用可能であり、かつ厚さ精度に優れる等の点で、遠心成形が好ましい。
【0056】
無端ベルト1を遠心成形によって成形する場合には、前記ポリアミドイミド樹脂組成物は、その成形時の粘度を50,000mPa・s以下に調整するのが好ましい。粘度が50,000mPa・sを超えると、厚さの均一な無端ベルト1を製造するのが困難になることがある。ポリアミドイミド樹脂組成物の粘度の下限については、特に限定されるものではないが、10mPa・s以上であるのが好ましい。ポリアミドイミド樹脂組成物の粘度が上記範囲を外れる場合は、前記溶媒の添加量等を調節することにより、ポリアミドイミド樹脂組成物の粘度を前記範囲内に調整することができる。溶媒としては、前記芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する重縮合反応に使用される溶媒が挙げられる。
【0057】
遠心成形によると、溶媒を含有することにより流動性を発現したポリアミドイミド樹脂組成物を円筒形の金型に注入し、金型を回転させて遠心力で金型内周面にポリアミドイミド樹脂組成物の層を均一に展開し、ポリアミドイミド樹脂組成物の層から溶媒を乾燥除去して、無端成形基体が製造される。金型は各種金属管を用いることができる。好適な金型としては、金型の内周面は鏡面研磨されており、鏡面となった内周面はフッ素樹脂やシリコーン樹脂等の離型剤により離型処理され、形成した無端成形基体が内周面から容易に脱型できるようにされた金属管を挙げることができる。
【0058】
なお、上述した遠心成形による他に、ポリアミドイミド樹脂の原料であるトリカルボン酸無水物とジイソシアネート化合物とが一部重合したポリアミド酸の溶液を、金型の内周面や外周面に浸漬方式、遠心方式、塗布方式等によってコートし、又は前記ポリアミド酸の溶液を注形型に充填する等の適宜な方式で筒状に展開し、その展開層を乾燥製膜してベルト形に成形し、その成形物を加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化して型より回収する公知の方法(特開昭61−95361号公報、特開昭64−22514号公報、特開平3−180309号公報等)等により、無端成形基体を製造することもできる。
【0059】
金型内周面に展開されたポリアミドイミド樹脂組成物の層から溶媒を除去して、無端成形基体が製造される。ここで、除去される溶媒は、金型内周面に展開されたポリアミドイミド樹脂組成物の層に含有された溶媒であり、例えば、ポリアミドイミド樹脂組成物の粘度を調整する際に使用される溶媒の他に、前記芳香族ポリアミドイミド樹脂を合成する際に使用される溶媒等が挙げられる。金型内周面に展開されたポリアミドイミド樹脂組成物の層から溶媒を除去する処理として、加熱処理を挙げることができるが、溶媒を除去するには、以下の一次溶媒除去工程及び二次溶媒除去工程からなる溶媒除去処理を行うのが好ましい。
【0060】
前記一次溶媒除去工程は、金型を回転して金型内周面に展開されたポリアミドイミド樹脂組成物の層から溶媒を除去しつつ成形し、ポリアミドイミド樹脂組成物の層をフィルム状成形体とする。一次溶媒除去工程は、金型を回転したまま5〜60分間、40〜150℃の熱風を金型内に通過させることにより、溶媒が除去される。熱風温度が150℃を超えると、及び/又は、加熱時間が60分を超えると、成形されるフィルム状成形体が酸化されることがある。
【0061】
二次溶媒除去工程は、一次溶媒除去工程で成形されたフィルム状成形体を金型ごと遠心成形機から取り出し、金型ごと加熱して、フィルム状成形体から溶媒を除去し、無端成形基体とする。例えば、熱風乾燥器、オーブン等の加熱器を用いる場合には、フィルム状成形体を金型ごと、200〜300℃で1〜3時間加熱すればよく、また、過熱水蒸気炉を用いる場合には、フィルム状成形体を金型ごと、200〜260℃の過熱水蒸気で、0.5〜3時間加熱すればよい。なお、フィルム成形体の変形等を防止することができれば、金型からフィルム成形体を脱型し、フィルム成形体を前記条件で加熱することもできる。
【0062】
このようにして溶媒が除去された無端成形基体を作製した後、無端成形基体を金型から取り出し、放冷する。なお、金型ごと無端成形基体を放冷すると、金型と無端成形基体との熱膨張率の差により、無端成形基体を脱型することができる。
【0063】
このようにして無端成形基体を脱型した後、環状の無端成形基体における両側端部を除去して所定幅に裁断する。無端成形基体を切断する切断機は、無端成形基体の切断開始点と切断終了点とが略一致するように、切断することができる装置であればよい。このようにして、樹脂層のみからなる単層構造の無端ベルト1が製造される。
【0064】
このようにして製造される無端ベルト1は、ポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物と所望によりシリコーン化合物を含有し、無端ベルト1の走行によってクリーニングブレードへの過大な負荷及び過大な振動を与えることなく、クリーニングブレード上を円滑に通過することができる。その結果、無端ベルト1は、たとえ、走行速度が高速であっても、長期間にわたって無限軌道を円滑に走行してクリーニングブレードとの初期の圧接状態を維持することができる。換言すると、無端ベルト1は、クリーニングブレードの捲れ返りを長期間にわたって防止することができる。
【0065】
この発明に係る無端ベルトは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、無端ベルト1は単層構造の樹脂層から構成されているが、この発明において、無端ベルトは二以上の層を積層した多層構造とされてもよい。この場合に、各層の間には接着剤層又はプライマー層等が形成されてもよい。
【0066】
前記多層構造を有する無端ベルトは、前記樹脂層の外表面又は内表面に形成された他の層を備え、クリーニングブレードとの初期の圧接状態を維持することができる点で、前記樹脂層の内表面に形成された他の層を備えているのが好ましい。前記他の層としては、例えば、基層、コート層、表面層、弾性層等が挙げられる。このような多層構造を有する無端ベルトは、例えば、前記のようにして環状に形成した樹脂層の外表面又は内表面に他の層を形成することによって、製造される。具体的には、例えば、樹脂層の外表面に他の層を備えた多層構造の無端ベルトを製造するには、前記無端ベルト1と同様にして環状に形成された樹脂層の外表面に前記他の層を形成する方法が採用される。ここで、他の層を形成する材料は、他の層に要求される特性に応じて適宜選択され、例えば、他の層がコート層である場合には所望の樹脂組成物が選択され、他の層が弾性層である場合には所望のゴム組成物又はエラストマー組成物等が選択される。そして、これらの材料を、ディップ法、スプレー法、ロールコータ法、ドクターブレードコート法等によって、樹脂層の外周面に塗布して、硬化させて、他の層を樹脂層の外表面に形成することができる。
【0067】
一方、樹脂層の内表面に他の層を備えた多層構造の無端ベルトを製造するには、前記無端ベルト1と同様にして環状に形成された他の層の内表面に前記樹脂層を形成する方法が採用される。ここで、他の層を形成する材料は、他の層に要求される特性に応じて適宜選択され、例えば、他の層が弾性層である場合には、ゴム組成物又はエラストマー組成物等が選択される。そして、他の層の内表面に樹脂層を形成するには、前記材料を他の層の内表面に、ディップ法、スプレー法、ロールコータ法、ドクターブレードコート法等によって、塗布して、硬化させる方法を選択することができる。
【0068】
また、この発明において、無端ベルトは、所望により、無端ベルトの内周面であって無端ベルトにおける軸線方向の少なくとも一端部に、弾性材料で形成された紐状又は帯状の細長いガイド部材が設けられてもよい。このガイド部材は無端ベルトの走行中の横ぶれ防止用のガイドとして機能する。ガイド部材の材料としては、適度なゴム弾性と耐摩耗性とを有する弾性材料、例えば、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマー、フッ素系樹脂エラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、耐摩耗性に優れる、JIS K 6253−1997によるA硬度が30以上95以下のウレタン系エラストマーが好適である。ガイド部材は、好ましくは、無端ベルト基体における軸線方向の両端部に無端ベルト基体の内周面を一巡するように設けられる。
【0069】
この発明に係る無端ベルトは、クリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することができるから、クリーニングブレードが圧接するように画像形成装置に装着される。すなわち、この発明に係る無端ベルトは、その外表面に一端部又は一端縁が圧接されるクリーニングブレードを備えた画像形成装置に好適に用いられて、このクリーニングブレードと共に無端ベルトユニットを構成する。この発明に係る無端ベルトユニットの一実施例の無端ベルトユニット50は、図2に示されるように、複数の回転体例えば支持ローラ42に巻回されて無限軌道を走行する無端ベルト1と、この無端ベルト1の外表面に圧接するクリーニングブレード51とを備えてなる。この発明に係る無端ベルトユニットを構成する無端ベルトは前記無端ベルト1と基本的に同様であるので説明を省略する。この発明に係る無端ベルトユニットを構成するクリーニングブレードは、後述するように、通常、無端ベルトに付着又は転写された現像剤を除去する。
【0070】
前記クリーニングブレード51は、無端ベルト1の外表面に圧接する弾性体53を備えていればよく、例えば、その一例として、図2及び図3に示されるように、支持体52と弾性体53と備えている。
【0071】
支持体52は、図3に示されるように、一方向に延在する板状部55と、板状部55の長手方向の一端縁に沿ってこの一端縁から板状部55に対して略垂直に延在するように形成された取付部56とで形成されている。すなわち、支持体52は長手方向に垂直な断面における断面形状が略L字型をなす板状部材に形成されている。この支持体52は、後述する弾性体53を支持し、無端ベルト1に弾性体53を所望の押圧荷重で当接させる。したがって、支持体52は、弾性体53を支持することができれる材料例えば金属材料等で形成される。支持体52は、通常、50〜250μmの厚さを有しているのが好ましく、80〜120μmの厚さを有しているのが特に好ましい。支持体52は、その全面にわたって均一な厚さを有していることが好ましい。支持体52は、その長手方向の長さが無端ベルト1の軸線方向長さよりも長くなるように調整されている。
【0072】
弾性体53は、任意の形状に形成されることができ、例えば、図2及び図3に示されるように、所定の厚さを有する長方形の板状又は直方体に形成される。この弾性体53は、その一端部又は一端縁54A(先端圧接部と称する。)が無端ベルト1に所望の押圧荷重で当接して、無端ベルト1の非機能外表面6(図2参照。)上を摺動する。このように弾性体53の先端圧接部54Aが非機能外表面6を摺動することによって、非機能外表面6に付着した現像剤等を効果的に除去することができる。ここで、非機能外表面6は、無端ベルト1の外表面であって、無端ベルト1の無限軌道中で無端ベルト1が機能を奏しない軌道中(換言すると、復路軌道中)にあるときの外表面をいう。例えば、図2における無端ベルト1においては、記録体16を定着装置30に搬送した後の、記録体16を保持搬送しない外表面をいう。
【0073】
弾性体53は、無端ベルト1を傷付けないように、弾性を有する弾性材料、例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム等で形成される。ウレタンゴムとしては、例えば、熱可塑性ウレタンゴムが挙げられ、より具体的には、ポリオール成分として、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオール等を用いたウレタンゴム、イソシアネート成分として、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネート等を用いたウレタンゴム等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、シリコーンゴムとしては、例えば、HTVゴム(高温硬化型ミラブルシリコーンゴム等)、液状シリコーンゴム(LTV、RTV等)等が挙げられる。
【0074】
弾性体53の厚さは、任意の厚さに調整され、具体的には、0.1〜3mmである。弾性体53は、その全面にわたって均一な厚さを有していることが好ましい。また、弾性体53は、支持体52と同様に、その長手方向の長さが、無端ベルト1の軸線方向長さよりも長くなるように調整されているのが好ましく、弾性体53の長手方向に垂直な方向の長さは、特に限定されず、例えば、10〜30mm程度に調整される。
【0075】
弾性体53は、無端ベルト1に圧接するから、JIS A硬度が40〜90の範囲にあるのが好ましく、50〜80の範囲にあるのが特に好ましい。また、弾性体53は、無端ベルト1に圧接するから、JIS K6262による引張永久歪特性(25%歪、70℃、22時間)が50%以下であるのが好ましく、30%以下であるのが特に好ましい。
【0076】
弾性体53は、無端ベルト1の非機能外表面6を摺動して無端ベルト1の外表面に付着した現像剤を除去するものであるから、JIS−K7311(荷重1Kg,摩耗輪H−22;1000回転)で測定される摩耗量が50mg以下であるのが好ましく、30mg以下であるのが特に好ましい。
【0077】
クリーニングブレード51は、支持体52及び弾性体53をそれぞれ前記材料で公知の方法により作製し、所望により、支持体52に接着剤を塗布し、塗布された接着剤上に弾性体53を重ね合わせ、接着剤を公知の方法で硬化させて、製造することができる。
【0078】
図2に示されるように、無端ベルトユニット50は、前記無端ベルト1と前記クリーニングブレード51とを備えてなり、クリーニングブレード51が無端ベルト1に巻回された、無限軌道の走行方向下流側に位置する支持ローラ42の下流方向近傍に配置されている。すなわち、クリーニングブレード51は、無端ベルト1が記録体を保持搬送して定着装置に移送する往路軌道後の復路軌道中に、往路軌道から復路軌道へと変換する支持ローラ42の下流側近傍に配置されている。そして、このクリーニングブレード51は、無端ベルト1が記録体16を保持搬送しているときの外表面5(記録体搬送外表面と称することがある。)が記録体16を解放して定着装置に移送した後の非機能外表面6に、画像形成装置10の現像ユニットY側に対して押圧するように、圧接している。このとき、クリーニングブレード51は、その先端圧接部54Aが非機能外表面6に圧接していればよく、その先端圧接部54Aの長さ方向が無端ベルト1の軸線に沿って換言すると無端ベルト1の走行方向に対して略垂直になるように、無端ベルト1の非機能外表面6に圧接しているのが好ましい。特に、クリーニングブレード51は、図2に示されるように、先端圧接部54Aが無端ベルト1の走行方向(図2において矢印Aが示す方向)に対して上流側に、先端圧接部54Aの幅方向の他端縁54Bが無端ベルト1の走行方向に対して下流側に配置されているのが、好ましい。クリーニングブレード51がこのように配置されていると、無端ベルト1の走行方向に対して逆方向から先端圧接部54Aが無端ベルト1の非機能外表面6に圧接するから、非機能外表面6に付着した現像剤を高度に除去することができる。
【0079】
クリーニングブレード51は、図2に示されるように、弾性体53の幅方向の仮想線(図2及び図3に図示しない。)と、クリーニングブレード51が当接していない状態における無端ベルト1の仮想走行面とのなす圧接角θが15°〜25°の範囲となるように、無端ベルト1の非機能外表面6に圧接されているのが特に好ましい。クリーニングブレード51の非機能外表面6への圧接荷重Pは、圧接角θが前記範囲となるときに、0.2〜2MPaであるのが好ましい。クリーニングブレード51が前記圧接角θ及び圧接荷重Pとなるように非機能外表面6に圧接していると、無端ベルト1との圧接状態を長期間にわたって維持することができると共に、無端ベルト1の外表面に付着した現像剤を所望のように除去することができる。
【0080】
この発明に係る無端ベルトユニットは、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、無端ベルトユニット1は1つのクリーニングブレード51を備えているが、この発明において、無端ベルトユニットは複数のクリーニングブレードを備えていてもよい。
【0081】
この無端ベルトユニット50は、前記構成を有しているから、無端ベルト1がクリーニングブレード51の弾性体53上を円滑に通過することができる。その結果、無端ベルトユニット51は、たとえ、無端ベルト1を高速で走行させても、無端ベルト1とクリーニングブレード51との初期の圧接状態を長期間にわたって維持することができる。
【0082】
この発明に係る無端ベルト及び無端ベルトユニットは、前記したように、画像形成装置に装着される。特に、この発明に係る無端ベルト及び無端ベルトユニットは、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することができるから、印刷速度すなわち無端ベルトの走行速度が高速化された画像形成装置に好適に用いられる。そして、この発明に係る無端ベルトユニットはクリーニングブレードを備えているから、画像形成装置に装着されるこの発明の無端ベルトは、画像形成装置において現像剤が付着し又は転写されるベルトとして装着されるのがよい。このようなベルトとしては、例えば、搬送途中で現像剤が転写される記録体を外表面に保持して搬送する転写搬送ベルト、二次転写型画像形成装置の中間転写ベルト、定着装置の定着ローラに巻回され、現像剤を記録体に定着させるための定着ベルト等が挙げられる。
【0083】
この発明に係る無端ベルト1及びこの発明に係る無端ベルトユニット51を備えた画像形成装置の一例を、図を参照して、説明する。この画像形成装置10は、図2に示されるように、各色の現像ユニットB、C、M及びYに装備された複数の像担持体11B、11C、11M及び11Yを無端ベルト1上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置であり、したがって、現像ユニットB、C、M及びYが無端ベルト1上に直列に配置されている。
【0084】
このタンデム型カラー画像形成装置10においては、図2に示されるように、この発明の無端ベルト1は、搬送途中で現像剤が転写される記録体を外表面に保持して搬送する転写搬送ベルト1として、その外周面がクリーニングブレード50に圧接されるように、装着されている。すなわち、この画像形成装置10は、図2に示されるように、複数の回転体例えば支持ローラ42に巻回されて無限軌道を図2における矢印Aの方向に走行する転写搬送ベルト1と、前記無限軌道の走行方向下流側に配置され、記録体16を解放した後の転写搬送ベルト1の外表面に圧接するクリーニングブレード51とを有する無端ベルトユニット50を備えている。なお、クリーニングブレード51は、前記したように、先端圧接部54Aが前記範囲の圧接角θ及び圧接荷重Pとなるように、転写搬送ベルト1の非機能外表面6に圧接している。
【0085】
なお、二本の支持ローラ42に巻回されて走行する転写搬送ベルト1の外表面のうち、記録体16を保持して、後述する現像ユニットB、C、M及びYが配置された側(往路軌道側)を走行する転写搬送ベルト1の外表面を記録体搬送外表面5と称し、保持した記録体16を解放して、現像ユニットB、C、M及びYが配置されていない側(復路軌道側)を走行する転写搬送ベルト1の外表面を非機能外表面6と称する。
【0086】
画像形成装置10における現像ユニットBは、図2に示されるように、像担持体11B例えば感光体(感光ドラムとも称される。)と、帯電手段12B例えば帯電ローラと、露光手段13Bと、現像手段20Bと、転写搬送ベルト1を介して像担持体11Bに当接する転写手段14B例えば転写ローラと、像担持体用クリーニング手段15Bとを備えている。前記現像手段20Bは、一成分非磁性の現像剤22Bを収容する筐体21Bと、現像剤22Bを像担持体11Bに供給する現像剤担持体23B例えば現像ローラと、現像剤22Bの厚みを調整する現像剤量調節手段24B例えばブレードとを備えて成る。現像ユニットC、M及びYは現像ユニットBと基本的に同様に構成されている。定着装置30は、図2にその断面が示されるように、記録体16を通過させる開口35を有する筐体34内に、定着ローラ31と、定着ローラ31の近傍に配置された無端ベルト支持ローラ33と、定着ローラ31及び無端ベルト支持ローラ33に巻き掛けられた定着ベルト36と、定着ローラ31と対向配置された加圧ローラ32とを備え、定着ベルト36を介して定着ローラ31と加圧ローラ32とが、互いに当接又は圧接するように、回転自在に支持されて成る圧力熱定着装置である。画像形成装置10の底部には、記録体16を収容するカセット41が設置されている。
【0087】
画像形成装置10に使用される現像剤22B、22C、22M及び22Yはそれぞれ、摩擦により帯電可能な現像剤であれば、乾式現像剤でも湿式現像剤でもよく、また、非磁性現像剤でも磁性現像剤でもよい。各現像ユニットの筐体21B、21C、21M及び21Y内には、一成分非磁性の、黒色現像剤22B、シアン現像剤22C、マゼンタ現像剤22M及び黄色現像剤22Yが収納されている。
【0088】
この画像形成装置10に使用される記録体16は、現像剤を定着できる記録体16であれば特に限定されず、例えば、通常の枚葉紙、上質紙、中質紙等が挙げられる。この画像形成装置10には、この発明に係る無端ベルトの一実施例である無端ベルト1が転写搬送ベルトとして装着されているから、現像剤が付着しやすく、除去しにくい更紙であっても、所望のように、付着した現像剤を除去することができる。
【0089】
画像形成装置10は、以下のようにして記録体16にカラー画像を形成する。まず、現像ユニットBにおいて、露光手段13Bにより像担持体11Bの表面に静電潜像が形成され、現像剤担持体23Bにより供給された現像剤22Bで黒色の静電潜像が現像される。そして、記録体16が転写手段14Bと像担持体11Bとの間を通過する際に黒色の静電潜像が記録体16Bの表面に転写される。次いで、現像ユニットBと同様にして、現像ユニットC、M及びYによって、静電潜像が黒像に顕像化された記録体16に、それぞれシアン像、マゼンタ像及び黄色像が重畳され、カラー像が顕像化される。次いで、カラー像が顕像化された記録体16は、定着手段30によりカラー像が永久画像として記録体16に定着される。このようにして、記録体16にカラー画像を形成することができる。
【0090】
この画像形成装置10においては、前記したように、各現像ユニットB、C、M及びYで現像剤22B、22C、22M及び22Yが記録体16に転写されるとき等に現像剤22B、22C、22M及び22Yが飛散等して転写搬送ベルト1上に付着することがある。ところが、画像形成装置10はこの発明に係る無端ベルトユニット50を備えているから、無端ベルト1の外周面に付着した現像剤を長期間にわたって所望のように除去することができる。したがって、この発明によれば、無端ベルトとクリーニングブレードとの初期の圧接状態を長期間にわたって維持することができると共に、高品質の画像を形成することができる画像形成装置を提供することができる。
【0091】
前記画像形成装置10は、例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等の画像形成装置とされる。この画像形成装置10は、電子写真方式の画像形成装置とされているが、この発明において、画像形成装置は、電子写真方式には限定されず、例えば、静電方式の画像形成装置であってもよい。また、この発明に係る無端ベルト及びこの発明に係る無端ベルトユニットが装着される画像形成装置は、各色の現像ユニットを備えた複数の像担持体を転写搬送ベルト上に直列に配置したタンデム型カラー画像形成装置10に限られず、例えば、単一の現像ユニットを備えたモノクロ画像形成装置、像担持体上に担持された現像剤像を無端ベルトに順次一次転写を繰り返す4サイクル型カラー画像形成装置等であってもよい。また、画像形成装置10に用いられる現像剤は、一成分非磁性現像剤とされているが、この発明においては、一成分磁性現像剤であってもよく、二成分非磁性現像剤であっても、また、二成分磁性現像剤であってもよい。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
反応容器中に、N−メチル−2−ピロリドンと、トリメリット酸無水物と、これと当量のジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートと、反応原料(トリメリット酸無水及びジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート)の合計モル数に対して2mol%のフッ化カリウム(触媒)とを加え、撹拌しながら30分間かけて室温から150℃に昇温後、同温度を5時間保持して、反応物濃度(実質的全閉環のポリアミドイミド樹脂)20質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。この溶液に、N−メチル−2−ピロリドンをさらに加え、反応物濃度15質量%のポリアミドイミド溶液を調製した。
【0093】
このようにして得られたポリアミドイミド溶液に、ポリアミドイミド樹脂とカーボンブラックとの合計100質量%に対して、カーボンブラック(商品名「スペシャルブラック4」、Degussa社製)を15質量%の割合となるように加え、さらに、ポリアミドイミド樹脂(固形分)100質量部に対して、フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」(商品名「F−444」、大日本インキ化学工業株式会社製)を0.5質量部の割合となるように加え、ビーズミルで24時間混合分散してポリアミドイミド樹脂組成物を調製した。
【0094】
一方、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさを有し、金型内面がポリッシングにより鏡面研磨されている円筒状金型の両端開口部に、リング状の蓋(内径170mm、外径250mm)を嵌合して、円筒状金型を閉塞して、成形金型を準備した。
【0095】
調製したポリアミドイミド樹脂組成物を1,000rpmの速度で回転する成形金型内周に190g注入した。次いで、成形金型を同速度で30分間回転させて成形金型内周面にポリアミドイミド樹脂組成物の層を均一に展開した。次いで、成形金型を同速度で回転させつつ、熱風乾燥機により成形金型周囲の温度を80℃に保ち、この状態を30分間保持し、フィルム状成形体を成形した。その後、成形金型の回転を停止し、フィルム状成形体を成形金型ごと遠心成形機から取り出し、250℃に調節された過熱水蒸気炉で2時間過熱水蒸気処理した後、室温で放冷して、無端成形基体とした。成形金型ごと無端成形基体を冷却して、成形金型と無端成形基体との熱膨張率の差により無端成形基体を剥離して、無端成形基体を成形金型から脱型した。脱型した無端成形基体の両端部をそれぞれ切断し、周長約226mm、幅240mm、厚さ100μmの大きさに切り出し、無端ベルトを製造した。
【0096】
(実施例2)
前記フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」に代えて、フッ素化合物「パーフルオロ基含有・親水性基・親油性基含有オリゴマー」(商品名「F−477」、大日本インキ化学工業株式会社製)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、無端ベルトを製造した。
【0097】
(実施例3)
前記フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」に代えて、フッ素化合物「パーフルオロブタンスルホン酸基含有オリゴマー」(商品名「FC−4432」、住友スリーエム株式会社製)を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、無端ベルトを製造した。
【0098】
(実施例4〜7)
フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」の含有量を第1表に示す含有量にそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4〜7の無端ベルトを製造した。
【0099】
(実施例8)
ポリアミドイミド樹脂(固形分)100質量部に対して、ポリエーテルポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン(商品名「BYK375」、ビックケミー社製)0.5質量部をさらに加えたこと以外は、実施例1と同様にして、無端ベルトを製造した。
(実施例9)
ポリアミドイミド樹脂(固形分)100質量部に対して、シリコーン表面調整剤と称されるシリコーン化合物(商品名「BYK3500」、ビックケミー社製)0.5質量部をさらに加えたこと以外は、実施例1と同様にして、無端ベルトを製造した。
【0100】
(実施例10及び11)
前記ポリエーテルポリエステル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサンの含有量を第2表に示す含有量にそれぞれ変更したこと以外は、実施例8と同様にして、実施例10及び11の無端ベルトを製造した。
【0101】
(比較例1)
前記フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」を添加していないこと以外は、実施例1と同様にして、無端ベルトを製造した。
【0102】
(比較例2)
前記フッ素化合物「パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物」を添加していないこと以外は、実施例8と同様にして、無端ベルトを製造した。
【0103】
(クリーニングブレードの作製)
ビーカー中にポリエステルポリオール(商品名「デスモフェン1652」、住化バイエルウレタン株式会社製)と当量のヘキサメチレンジイソシアネート系ポリイソシアネート(商品名「スミジュールN3300」、住化バイエルウレタン株式会社製)を計量混合してウレタン原料を調製した。一方、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさを有し、金型内面がポリッシングにより鏡面研磨されている円筒状金型の両端開口部に、リング状の蓋(内径170mm、外径250mm)を嵌合して、円筒状金型を閉塞して、成形金型を準備した。調製したウレタン原料を1,000rpmの速度で回転する成形金型内周に乾燥後の厚さが2mmとなるように注入した。次いで、成形金型を同速度で回転させつつ、熱風乾燥機により成形金型周囲の温度を150℃に保ち、この状態を30分間保持し、円筒状のウレタン成形体を成形した。その後、成形金型の回転を停止し、円筒状のウレタン成形体を成形金型ごと遠心成形機から取り出して冷却した後に、裁断機にて裁断し、厚み2mm、(前記成形金型の周方向に一致する方向の)幅20mm、(前記成形金型の軸線方向に一致する方向の)長さ50mmに裁断し、わずかに湾曲した略板状のウレタン弾性体を作製した。
【0104】
このようにして作製したウレタン弾性体を、厚み1.0mm、幅20mm、長さ250mmの鉄製支持体に接着して、クリーニングブレードを作製した。なお、ウレタン弾性体は、図3に示されるように、その幅20mm×長さ方向25mmの表面が重畳するように、鉄製支持体に接着した。前記ウレタン弾性体は、前記測定方法における、JIS A硬度が70、引張永久歪特性が50%及び摩耗量が50mgであった。
【0105】
(無端ベルトとウレタンブレードの摩擦係数の測定)
実施例及び比較例で製造した各無端ベルトから、周方向の長さ200mm、幅方向の長さ100mmに切り出した試験用シートと表面性測定器(商品名「14FW」、新東科学株式会社製)とを準備し、作製した前記クリーニングブレードを用いて、前記測定方法に従って、複数回測定しその算術平均値を各試験用シートの静摩擦係数及び動摩擦係数として求めた。得られた値を無端ベルトの静摩擦係数及び動摩擦係数とした。その結果を第1表及び第2表に示す。
【0106】
(無端ベルトの物性)
実施例及び比較例で製造した各無端ベルトのn−ドデカンの接触角、表面抵抗率、ヤング率及びISO耐折回数を前記方法に従って測定した結果を、第1表及び第2表に示す。
【0107】
(無端ベルトにおけるフッ素化合物及びシリコーン化合物の含有量)
実施例及び比較例で製造した各無端ベルトを光電子分光装置(ESCA)(商品名「1600S」、PHI社製)により分析した。その結果、各無端ベルトに含有されていたフッ素化合物及びシリコーン化合物の含有量は、それぞれ、各無端ベルトを形成するポリアミドイミド樹脂組成物におけるフッ素化合物及びシリコーン化合物の含有量とほぼ一致していた。
【0108】
(ウレタンブレードの捲れ評価)
図2に示される画像形成装置(例えば、商品名「MicroLine9055c」、株式会社沖データ製)と同様の無端ベルトユニット試験装置を組立て、前記摩擦係数の測定方法と同条件で各無端ベルトを1時間にわたって走行させた。この走行試験を各無端ベルトについて20回繰り返し行い、無端ベルトの走行中にクリーニングブレードが捲れ返った回数を計数して、クリーニングブレードの捲れ割合(%)を算出した。評価は、実際上許容できる範囲である20%未満の捲れ割合(%)であった場合を「合格」、20%を超えた捲れ割合(%)であった場合を「不合格」とした。その結果を第1表及び第2表に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【符号の説明】
【0111】
1 無端ベルト(転写搬送ベルト)
5 記録体搬送外表面
6 非機能外表面
10 画像形成装置
11、11B、11C、11M、11Y 像担持体
12、12B、12C、12M、12Y 帯電手段
13、13B、13C、13M、13Y 露光手段
14、14B、14C、14M、14Y 転写手段
15B、15C、15M、15Y 像担持体用クリーニングブレード
16 記録体
20B、20C、20M、20Y 現像手段
21B、21C、21M、21Y 筐体
22B、22C、22M、22Y 現像剤
23B、23C、23M、23Y 現像剤担持体
24B、24C、24M、24Y 現像剤量調節手段
30 定着装置
31 定着ローラ
32 加圧ローラ
33 定着ベルト支持ローラ
34 筐体
35 開口部
36 定着ベルト
41 カセット
42 支持ローラ
50 無端ベルトユニット
51 クリーニングブレード
52 支持体
53 弾性体
54A 先端圧接部
54B 他端縁
55 板状部
56 取付部
B、C、M、Y 現像ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリーニングブレードが圧接するように配置される無端ベルトであって、前記無端ベルトは、ポリアミドイミド樹脂とフッ素化合物とを含有する樹脂層を備えてなることを特徴とする無端ベルト。
【請求項2】
前記フッ素化合物は、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して0.01〜2質量部の割合で前記樹脂層に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の無端ベルト。
【請求項3】
前記樹脂層は、シリコーン化合物を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の無端ベルト。
【請求項4】
前記シリコーン化合物は、前記ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して0.1〜2質量部の割合で前記樹脂層に含有されていることを特徴とする請求項3に記載の無端ベルト。
【請求項5】
複数の回転体に巻回されて無限軌道を走行する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の無端ベルトと、
前記無端ベルトの外表面に圧接するクリーニングブレードとを備えてなる無端ベルトユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−231023(P2010−231023A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79005(P2009−79005)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】