無線通信システム
【課題】 簡単な構成によりマルチパスの影響を抑制して無線通信可能な無線通信システムを提供する。
【解決手段】 無線通信システムは、基地局と移動端末とを備える。基地局は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1を放射する。移動端末は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を放射する。そして、基地局および移動端末は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSが形成される方向にそれぞれビームBM1,BM2を放射して相互に無線通信を行なう。
【解決手段】 無線通信システムは、基地局と移動端末とを備える。基地局は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1を放射する。移動端末は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を放射する。そして、基地局および移動端末は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSが形成される方向にそれぞれビームBM1,BM2を放射して相互に無線通信を行なう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信システムに関し、特に、マルチパスの影響を抑制可能な無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、データ伝送を無線通信により高速で行ないたいというニーズが高まっている。例えば、IEEE802.11a等の無線LANは、直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いて5GHzの無線通信を行なっている。
【0003】
また、更に高速な無線通信を行なうものとして100Mbpsを超えるものが、ミリ波帯(>30GHz)で試作されている。
【0004】
通信速度をGbpsのオーダーよりも高速化すると、壁、天井、床および什器等の反射によりマルチパスが生じ、伝送路の遅延拡がりがシンボルレートに対して無視できなくなり、誤り率が上昇し、伝送が困難になる。
【0005】
そこで、この問題を解決するために従来においては、鋭いビームパターンを有するアンテナを相手に向けることを行なっていた(特許文献1)。即ち、特許文献1は、室内無線通信システムを開示する。この室内無線通信システムは、ミリ波帯で無線通信を行なうものであり、親機と、親機アンテナと、反射鏡と、副反射鏡と、子機と、子機アンテナとを備える。
【0006】
親機アンテナは、指向性の鋭いアンテナであり、親機の上方(垂直方向)の天井面を指向するように親機に設置される。子機アンテナも、指向性の鋭いアンテナであり、子機の上方の天井面を指向するように子機に設置される。
【0007】
反射鏡は、親機の上方の天井面に設置され、親機アンテナからの電波を天井面に平行な方向に反射するとともに、副反射鏡からの電波を親機アンテナの方向へ反射する。副反射鏡は、子機の上方の天井面に設置され、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射するとともに、子機アンテナからの電波を反射鏡の方向へ反射する。
【0008】
室内無線通信システムにおいては、親機は、親機アンテナを介して指向性の鋭い電波を反射鏡の方向へ放射し、反射鏡は、親機アンテナからの電波を天井面に平行な方向へ反射する。そして、副反射鏡は、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射し、子機は、子機アンテナを介して電波を受信する。子機から親機への電波の送信は、上述した逆の経路に沿って行なわれる。
【0009】
このように、特許文献1は、指向性の鋭いアンテナを反射鏡および副反射鏡を介して相手側に向けることによって壁、天井、床および什器等による反射によって生じるマルチパスの影響を抑制する室内無線通信システムを開示する。
【特許文献1】特開平9−51293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示された室内無線通信システムでは、親機の上方に設置された反射鏡と子機の上方に設置された副反射鏡とを介して親機および子機間で無線通信が行なわれるため、親機アンテナからの電波を副反射鏡の方向へ反射するように反射鏡を設置し、かつ、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射するように副反射鏡を設置しなければならない。即ち、反射鏡および副反射鏡の設置を2次元で制御しなければならず、反射鏡および副反射鏡の設置を制御することが困難であるという問題がある。
【0011】
また、親機または子機を移動させた場合、反射鏡または副反射鏡の設置角度を調整する必要があるが、この場合、親機アンテナまたは子機アンテナは、反射鏡または副反射鏡の真下に存在しなくなるので、親機アンテナまたは子機アンテナからの電波を反射鏡または副反射鏡の方向へ向けるには、アンテナの指向性を2次元で制御しなければならず、指向性の制御が困難であるという問題がある。そして、指向性の鋭いアンテナをアレーアンテナを用いて実現しようとすると、アンテナ素子は2次元に配置されるので、素子数が1/(ビーム幅)の2乗に比例して増大するという問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡単な構成によりマルチパスの影響を抑制して無線通信可能な無線通信システムを提供することである。
【0013】
また、この発明の別の目的は、簡単な構成により高速の無線通信を実現可能な無線通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明によれば、無線通信システムは、第1および第2の無線装置を備える。第1の無線装置は、伝搬方向に垂直な面内において第1の長径を有する第1のビームを発生する。第2の無線装置は、伝搬方向に垂直な面内において第1の長径の長さ方向と異なる方向に第2の長径を有する第2のビームを発生する。そして、第1の無線装置は、第1のビームを第2の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する。また、第2の無線装置は、第2のビームを第1の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する。
【0015】
好ましくは、第1の無線装置は、第2の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ第1のビームを放射して電波を送受信する。第2の無線装置は、第1の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ第2のビームを放射して電波を送受信する。
【0016】
好ましくは、第1の無線装置は、全方位性のビームによって電波を送信するとともに、第1のビームを複数の方向に走査して電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第2の無線装置が存在する方向と決定する。第2の無線装置は、第2のビームを複数の方向に走査して全方位性のビームによって送信された電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第1の無線装置が存在する方向と決定するとともに、決定した方向に第2のビームによって電波を送信する。
【0017】
好ましくは、第1の無線装置は、第1のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、確認応答を第2の無線装置から受信した方向を第2の無線装置が存在する方向と決定する。第2の無線装置は、第2のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第1の無線装置が存在する方向として決定する。
【0018】
好ましくは、第1の長径の長さ方向は、第2の長径の長さ方向と直交する。
【発明の効果】
【0019】
この発明による無線通信システムにおいては、断面形状が略楕円形状である2つのビームが用いられ、第1および第2の無線装置は、2つのビームが交差するようにそれぞれ第1および第2のビームを発生して電波を送受信する。
【0020】
従って、この発明によれば、無線通信に用いるビーム径を実質的に2つのビームの交差部に絞ることができる。その結果、マルチパルの影響を抑制して無線通信を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態による無線通信システムの概略ブロック図である。この発明の実施の形態による無線通信システム100は、基地局10と、移動端末20とを備える。無線通信システム100は、例えば、室内に設置される。
【0023】
基地局10は、アレーアンテナ11を搭載し、移動端末20は、アレーアンテナ21を搭載する。アレーアンテナ11,21は、指向性を切換え可能なアンテナである。そして、基地局10および移動端末20は、無線通信空間30を介して、1Gbps〜数百Gbpsで無線通信により相互にデータ伝送を行なう。
【0024】
基地局10および移動端末20は、相互に無線通信を行なう場合、後述する方法によって相手側が存在する方向を探索する。そして、基地局10は、移動端末20が存在する方向に特定のビームBM1をアレーアンテナ11から放射して電波を送受信し、移動端末20は、基地局10が存在する方向に特定のビームBM2をアレーアンテナ21から放射して電波を送受信する。ビームBM1,BM2の詳細については、後述する。
【0025】
図2は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11の概略図である。アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−N(Nは自然数)からなる。アンテナ素子11−1〜11−Nは、円CRC1に沿って等間隔に配置される。この場合、円CRC1を含む平面PLN1は、基地局10が設置される水平面に対して略平行であり、アンテナ素子11−1〜11−Nは、平面PLN1に略垂直に配置される。
【0026】
図3は、図2に示す1つのアンテナ素子11−1の構成を示す概略図である。アンテナ素子11−1は、給電素子1と、位相制御回路2とを含む。給電素子1は、半波長ダイポールを構成する。位相制御回路2は、電流の位相を制御して給電素子1に給電する。
【0027】
図2に示すアンテナ素子11−2〜11−Nの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。
【0028】
図4は、図2に示すアレーアンテナ11の指向性を制御する方法を説明するための図である。アレーアンテナ11において、アンテナ素子11−N;アンテナ素子11−1,11−10;アンテナ素子11−2,11−9;アンテナ素子11−3,11−8;アンテナ素子11−4,11−7およびアンテナ素子11−5,11−6の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、ビームBM1を放射する。
【0029】
このビームBM1は、円CRC1の中心からアンテナ素子11−5,11−6間に向かう方向DR1に伝搬する。そして、ビームBM1は、伝搬方向DR1に垂直な平面PLN2において長径R1および短径R2を有するビーム形状からなる。長径R1は、その長さ方向が平面PLN1に略垂直な方向であり、短径R2は、その長さ方向が平面PLN1に略平行な方向である。
【0030】
従って、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を方向DR1へ放射する。
【0031】
また、アンテナ素子11−1,11−N;アンテナ素子11−2,11−(N−1);アンテナ素子11−3,11−10;アンテナ素子11−4,11−9;アンテナ素子11−5,11−8およびアンテナ素子11−6,11−7の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を円CRC1の中心からアンテナ素子11−6,11−7間に向かう方向に放射する。
【0032】
更に、アンテナ素子11−2,11−3;アンテナ素子11−1,11−4:アンテナ素子11−N,11−5;アンテナ素子11−6,11−(N−1);アンテナ素子11−7,11−10およびアンテナ素子11−8,11−9の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を円CRC1の中心からアンテナ素子11−8,11−9間に向かう方向に放射する。
【0033】
同様にして、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を順次遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を各方向に放射する。
【0034】
そして、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を同じにすることによって円CRC1と同心円状のドーナツ形状からなるオムニパターンのビームを放射する。即ち、アレーアンテナ11は、指向性を有さない、全方位性のビームを放射する。
【0035】
このように、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を制御することによって、指向性を切換えてビームBM1を放射するとともに、無指向性のビーム(オムニパターンからなるビーム)を放射する。
【0036】
図5は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−M(Mは自然数)からなる。アンテナ素子21−1〜21−Mは、等間隔に直線状に配置される。より具体的には、アンテナ素子21−1〜21−Mは、移動端末20が設置される水平面に対して略垂直な方向に配置される。
【0037】
アンテナ素子21−1〜21−Mの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。従って、アンテナ素子21−1〜21−Mの各々は、位相制御回路2によって位相が制御されて電流が給電される。
【0038】
図6は、図5に示すアレーアンテナ21の指向性を制御する方法を説明するための図である。アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−2,21−3;アンテナ素子21−1,21−4;アンテナ素子21−5、・・・、およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、ビームBM2を放射する。
【0039】
このビームBM2は、アンテナ素子21−2,21−3間からアンテナ素子21−1〜21−Mに略垂直な方向DR2に伝搬する。そして、ビームBM2は、伝搬方向DR2に垂直な平面PLN3において長径R3および短径R4を有するビーム形状からなる。長径R3は、その長さ方向がアンテナ素子21−1〜21−Mに略垂直な方向であり、短径R4は、その長さ方向がアンテナ素子21−1〜21−Mに略平行な方向である。
【0040】
従って、アレーアンテナ21は、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2を方向DR2へ放射する。
【0041】
また、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−1、アンテナ素子21−2、・・・およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1からビームBM2を最も斜め上方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θminである。
【0042】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−2、アンテナ素子21−1、アンテナ素子21−3、アンテナ素子21−4、・・・およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アンテナアンテナ21は、アンテナ素子21−2からビームBM2を斜め上方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θ1(>θmin)である。
【0043】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−M、アンテナ素子21−(M−1)、・・・およびアンテナ素子21−1の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−MからビームBM2を最も斜め下方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θmaxである。
【0044】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−(M−1)、アンテナ素子21−M、アンテナ素子21−(M−2)、・・・およびアンテナ素子21−1の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−(M−1)からビームMB2を斜め下方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θ2(θmin<θ1<・・・θ2<θmax)である。
【0045】
そして、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を同じにすることによってオムニパターンからなるビームを放射する。
【0046】
このように、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を制御することによって、指向性を切換えてビームBM2を放射するとともに、無指向性のビーム(オムニパターンからなるビーム)を放射する。
【0047】
上述したように、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を制御することによって、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を各方向に放射し、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を制御することによって、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2を各方向に放射する。
【0048】
従って、この発明においては、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1をアレーアンテナ11から放射して電波を送受信し、移動端末20は、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2をアレーアンテナ21から放射して電波を送受信する。
【0049】
図7は、基地局10に搭載されたアレーアンテナ11が放射するビームBM1と移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21が放射するビームBM2とが交差した場合の概念図である。
【0050】
基地局10がビームBM1を移動端末20の方向へ放射して電波を送受信し、移動端末20がビームBM2を基地局10の方向へ放射して電波を送受信する場合、基地局10および移動端末20は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSを相手方からの電波として受信する。
【0051】
即ち、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2を交差部CRSSまで絞って相手方からの電波を受信する。従って、基地局10および移動端末20は、直径が交差部CRSSに略等しいビームをアレーアンテナ11,21から放射して電波を受信しなくても、結果的に、直径が交差部CRSSに略等しいビームをアレーアンテナ11,21から放射して電波を受信したのと同じ効果を得ることができる。
【0052】
その結果、基地局10および移動端末20は、1Gbps〜数百Gbpsの高速でデータ伝送を行なっても、壁、天井、床および什器等の反射によるマルチパスの影響を抑制して相手方から電波を受信できる。
【0053】
このように、無線通信システム100においては、基地局10および移動端末20間で、ビームを2つのビームBM1,BM2の交差部CRSSまで実質的に絞って高速の無線通信が可能であるが、これを実現するためには、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を検知する必要がある。即ち、ビームを2つのビームBM1,BM2の交差部CRSSまで実質的に絞ったのと同じ効果を得るためには、ビームBM1,BM2が相互に反対方向から進行して交差する必要があるからである。
【0054】
そこで、この発明においては、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を探索し、その探索した方向にそれぞれビームBM1,BM2を放射して電波を送受信する。
【0055】
図8は、図1に示す基地局10の内部構成を示す概略ブロック図である。基地局10は、送受信部110と、電波強度検出部120と、信号処理部130と、制御部140と、指向性制御部150とを含む。
【0056】
送受信部110は、信号の送信時、信号処理部130からの信号を増幅等してアレーアンテナ11へ出力し、信号の受信時、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120および信号処理部130へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から電波を受け、その受けた電波の電波強度を検出して制御部140へ出力する。
【0057】
信号処理部130は、信号の送信時、制御部140からの信号を変調等して送受信部110へ出力し、信号の受信時、送受信部110からの信号を復調して制御部140へ出力する。
【0058】
制御部140は、移動端末20が存在する方向を探索する場合、オムニパターンからなるビームおよび指向性を切換えたビームBM1をアレーアンテナ11から放射するように指向性制御部150を制御するとともに、電波強度検出部120から受けた電波強度に基づいて、しきい値以上の電波強度が得られるときのビームBM1の方向(指向性)を移動端末20が存在する方向として検出する。
【0059】
そして、制御部140は、移動端末20が存在する方向を検出すると、その方向にビームBM1を放射するように指向性制御部150を制御するとともに、移動端末20との無線通信を制御する。
【0060】
指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11がオムニパターンからなるビームおよび指向性を切換えたビームBM1を放射するようにアンテナ素子11−1〜11−NのN個の位相制御回路2を制御する。また、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11が所定の方向にビームBM1を放射するようにN個の位相制御回路2を制御する。
【0061】
図1に示す移動端末20も、図8に示す基地局10と同じ構成からなる。
【0062】
図9は、基地局10および移動端末20の動作を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、基地局10および移動端末20は、初期引込処理を行なう(ステップS1)。即ち、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を探索する。
【0063】
その後、基地局10および移動端末20は、トラッキング処理を行なう(ステップS2)。即ち、基地局10および移動端末20は、周囲の電波環境の変化によるビームの微調整を行なう。そして、ステップS2の後、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2をアレーアンテナ11,21から放射して高速データ伝送を行なう(ステップS3)。これによって、一連の動作は終了する。
【0064】
図10は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、オムニパターンからなるビームをアレーアンテナ11から放射するように指向性制御部150を制御する。そして、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに同じ位相で電流を給電するようにN個の位相制御回路2を制御し、N個の位相制御回路2は、アンテナ素子11−1〜11−Nに同じ位相で電流を給電する。
【0065】
これによってアレーアンテナ11は、オムニパターンからなるビームで電波を送信する(ステップS11)。
【0066】
一方、移動端末20の制御部140は、ビームBM2の方向を所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、ビームBM2の方向を所定の順序で走査するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。そして、M個の位相制御回路2は、位相を順序切換えてアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。これによって、アレーアンテナ21は、所定の順序に従って方向を切換えながらビームBM2を放射し、基地局10からの電波を受信する(ステップS12)。この場合、移動端末20は、ビームBM2の方向がアンテナ素子21−1,21−2間→アンテナ素子21−2,21−3間→・・・→アンテナ素子21−(M−1),21−M間の順序またはその逆の順序で変化するようにビームBM2の方向を切換える。
【0067】
そして、移動端末20の送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を受け、その受けた電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から受けた電波の電波強度RSSI2を検出し、その検出した電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。この場合、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向を走査した数に対応する複数の電波強度をビームBM2の方向が走査された順に検出して制御部140へ出力する。従って、電波強度RSSI2は、ビームBM2の方向が走査された順に配列された複数の電波強度からなる。
【0068】
制御部140は、電波強度RSSI2を構成する複数の電波強度の中から、しきい値Ith2以上の電波強度を検出し、その検出した電波強度が得られたときのビームBM2の方向DRfv2を抽出する(ステップS13)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0069】
この場合、制御部140は、ビームBM2の方向が走査される順序を認識しており、電波強度RSSI2を構成する複数の電波強度は、ビームBM2が走査される順序に配列されているので、制御部140は、電波強度がしきい値Ith2以上となる電波を受信した方向DRfv2を容易に抽出できる。例えば、複数の電波強度のうち、3番目の電波強度がしきい値Ith2以上であれば、ビームBM2の方向を3番目の方向に切換えたときに受信した電波の電波強度がしきい値Ith2以上であることを示すので、制御部140は、3番目の方向を方向DRfv2として抽出する。
【0070】
その後、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。
【0071】
そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定して電波を送信する(ステップS14)。
【0072】
そうすると、基地局10において、制御部140は、ビームBM1の方向を所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1を所定の順序で走査するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。そして、N個の位相制御回路2は、所定の順序で方向を走査するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電し、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信する(ステップS15)。この場合、基地局10は、ビームBM1の方向がアンテナ素子11−1,11−2間→アンテナ素子11−2,11−3間→・・・→アンテナ素子11−N,11−1間の順序またはその逆の順序で変化するようにビームBM1の方向を切換える。
【0073】
その後、基地局10の送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から受けた電波の電波強度RSSI1を検出し、その検出した電波強度RSSI1を制御部140へ出力する。この場合、電波強度検出部120は、ビームBM1の方向を走査した数に対応する複数の電波強度をビームBM1の方向が走査された順に検出して制御部140へ出力する。従って、電波強度RSSI1は、ビームBM1の方向が走査された順に配列された複数の電波強度からなる。
【0074】
制御部140は、電波強度RSSI1を構成する複数の電波強度の中から、しきい値Ith1以上の電波強度を検出し、その検出した電波強度が得られたときのビームBM1の方向DRfv1を抽出する(ステップS16)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。この場合、しきい値Ith1は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって電波を受信したときに得られる電波強度に設定される。即ち、しきい値Ith1は、ビームBM1とビームBM2とが図7に示すように各ビームBM1,BM2の中心軸が一致して交差した場合に得られる電波強度に設定される。
【0075】
また、制御部140は、ビームBM1の方向が走査される順序を認識しており、電波強度RSSI1を構成する複数の電波強度は、ビームBM1が走査される順序に配列されている。したがって、制御部140は、電波強度がしきい値Ith1以上となる電波を受信した方向DRfv1を容易に抽出できる。例えば、複数の電波強度のうち、8番目の電波強度がしきい値Ith1以上であれば、ビームBM1の方向を8番目の方向に切換えたときに受信した電波の電波強度がしきい値Ith1以上であることを示すので、制御部140は、8番目の方向を方向DRfv1として抽出する。
【0076】
そして、制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS17)。そして、初期引込処理が終了する。
【0077】
このように、基地局10は、最初、オムニパターンからなるビームを放射して電波を送信し(ステップS11参照)、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を所定の順序で走査して基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上となる電波を受信した方向DRfv2を抽出するので(ステップS12,S13参照)、移動端末20は、基地局10からの電波を受信し易く、基地局10が存在する方向を容易に決定できる。
【0078】
また、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を基地局10が存在する方向と決定した方向DRfv2に固定して電波を送信し(ステップS14参照)、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信するので(ステップS15参照)、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からの電波を受信できる。
【0079】
その結果、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。上述したように、基地局10によって検出されたしきい値Ith1以上の電波強度は、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させたときの交差部CRSSによって検出された電波強度であるので、移動端末20によって放射されるビームBM2の方向DRfv2が基地局10の存在方向とずれていた場合、基地局10は、ビームBM1によって電波強度がしきい値Ith1以上である電波を受信することができない。従って、基地局10において電波強度がしきい値Ith1以上である電波が検出されたことは、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させて電波を検出したことに相当するので、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが一致していることになる。よって、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。
【0080】
そして、基地局10および移動端末20がアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等による電波の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0081】
なお、図10に示すフローチャートにおいては、基地局10の動作と移動端末20の動作とを入れ換えて基地局10および移動端末20の存在方向を決定するようにしてもよい。
【0082】
図11は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための他のフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向をランダムに切換えるように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。
【0083】
そうすると、N個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM1の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。そして、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて電波を送信する(ステップS21)。
【0084】
一方、移動端末20において、制御部140は、ビームBM2の方向をランダムに切換えるように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。
【0085】
そうすると、M個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM2の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ21のアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて電波を受信する(ステップS22)。
【0086】
移動端末20の送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力し、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向がランダムに切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI2に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS23)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0087】
その後、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御するとともに、ACKを生成して信号処理部130へ出力する。指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御し、M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。また、信号処理部130は、制御部140からのACKに変調等を施して送受信部110へ出力し、送受信部110は、ACKを増幅等してアレーアンテナ21へ出力する。
【0088】
そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定してACKを送信する(ステップS24)。
【0089】
基地局10において、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて移動端末20からの電波を受信し(ステップS25)、その受信した電波を送受信部110へ出力する。送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して信号処理部130へ出力し、信号処理部130は、送受信部110からの電波を復調等して制御部140へ出力する。
【0090】
制御部140は、信号処理部130からの復調結果に基づいて、ACKを受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS26)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。そして、制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS27)。そして、初期引込処理が終了する。
【0091】
図12は、図11に示すフローチャートに従って相手方の存在方向を決定する場合の概念図である。基地局10は、タイミングt1でビームBM1−1をある方向に放射して電波を送信する(ステップS21参照)。そして、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信するが、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できないので、基地局10へACKを送信しない。
【0092】
そうすると、基地局10は、ビームBM1−1を放射した方向と異なる方向にランダムに切換えてタイミングt2でビームBM1−2を放射し、電波を送信する。この場合も、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信するが、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できないので、基地局10へACKを送信しない。
【0093】
そして、基地局10は、ビームBM1−1,BM1−2を放射した方向と異なる方向にランダムに切換えてタイミングt3でビームBM1−3を放射し、電波を送信する。移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できたので(ステップS22,S23参照)、タイミングt4までの間に、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2にビームBM2の方向を固定してACKを送信する(ステップS24参照)。そして、基地局10は、ビームBM1−3によって移動端末20からのACKを受信し(ステップS25参照)、ビームBM1−3の方向を方向DRfv1として抽出する(ステップS26参照)。
【0094】
このように、基地局10は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて電波を送信し(ステップS21参照)、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS22,S23参照)。そして、移動端末20は、方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定し、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定してACKを基地局10へ送信する(ステップS24参照)。
【0095】
一方、基地局10は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて移動端末20からのACKを受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS26参照)。即ち、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からのACKを受信し、ACKを受信した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。
【0096】
従って、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。基地局10がACKを受信できたことは、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させて交差していることに相当するので、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。その結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0097】
図13は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための更に他のフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、第1の周期で方向を所定の順序で走査してビームBM1を放射するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。
【0098】
そして、N個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査するようにアレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。そうすると、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して電波を送信する(ステップS31)。
【0099】
その後、移動端末20において、制御部140は、ビームBM2の方向を第1の周期と異なる第2の周期で所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、第2の周期で方向を所定の順序で走査してビームBM2を放射するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。
【0100】
そして、M個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査するようにアレーアンテナ21のアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。そうすると、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査して電波を受信する(ステップS32)。
【0101】
この場合、第1および第2の周期は、例えば、第1の周期と第2の周期との比が1:4になるように設定される。従って、基地局10は、移動端末20よりもビームBM1の方向を速く切換えて電波を送信し、移動端末20は、基地局10よりもビームBM2の方向を遅く切換えて電波を受信する。
【0102】
その後、移動端末20において、送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力し、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向が所定の順序で切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI2に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS33)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0103】
そうすると、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。そして、M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。
【0104】
これによって、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定して電波を送信する(ステップS34)。
【0105】
その後、基地局10において、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信し(ステップS35)、送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、ビームBM1の方向が所定の順序で切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI1を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI1に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS36)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。
【0106】
その後、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS37)。そして、初期引込処理が終了する。
【0107】
このように、基地局10は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して電波を送受信し(ステップS31,S35参照)、移動端末20は、ビームBM1の方向を第1の周期よりも遅い第2の周期で所定の順序で走査して電波を受信するので(ステップS32)、基地局10および移動端末20は、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合よりも、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を相手方から受信し易くなる。
【0108】
ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合、ビームBM1の方向がビームBM2の方向と一致しなければ、基地局10および移動端末20は、以後、継続して相手方からの電波を受信できないが、上述したように、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2の方向を異なる周期で切換えるので、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが一致する場合が必ず存在する。従って、基地局10および移動端末20は、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合よりも、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を相手方から受信し易くなる。
【0109】
また、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を基地局10が存在する方向と決定した方向DRfv2に固定して電波を送信し(ステップS34参照)、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信するので(ステップS35参照)、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からの電波を受信できる。
【0110】
その結果、基地局10および移動端末20は、上述した理由によってアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。そして、基地局10および移動端末20がアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等による電波の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0111】
なお、第1の周期と第2の周期との比は、一般的には、ビームBM1,BM2の短径R2,R4に応じて決定され、ビームBM1,BM2の短径R2,R4が短い程、大きく設定される。
【0112】
図13に示すフローチャートに従って実行される初期引込処理は、基地局10および移動端末20がそれぞれビームBM1,BM2の方向を異なる周期で切換えることを特徴としているので、ビームBM1,BM2の両方を所定の順序で走査する場合に限らず、ビームBM1,BM2のいずれか一方のビームの方向を第1の周期で所定の順序で走査し、いずれか他方のビームの方向を第2の周期でランダムに切換えるようにしてもよい。具体的には、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査し、移動端末20がビームBM2の方向を第2の周期でランダムに切換えてもよいし、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期でランダムに切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査してもよい。
【0113】
これらの場合にも、上述した効果と同じ効果が得られる。
【0114】
図10、図11および図13に示すフローチャートに従って実行される初期引込処理においては、電波強度がしきい値以上である電波の受信方向を相手方が存在する方向として決定したが、この発明においては、これに限らず、相手方からの受信信号の品質が所定の品質以上である方向を相手方が存在する方向と決定してもよい。
【0115】
例えば、基地局10が特定のビットパターンを変調して送信し、移動端末20が基地局10からの電波を復調して特定のビットパターンが得られたときの方向を基地局10が存在する方向と決定し、移動端末20が特定のビットパターンを変調して送信し、基地局10が移動端末20からの電波を復調して特定のビットパターンが得られたときの方向を移動端末20が存在する方向と決定してもよい。
【0116】
図10、図11および図13に示すフローチャートのいずれかに従って初期引込処理が実行された後、基地局10および移動端末20は、トラッキングを実行する(図9のステップS2参照)。即ち、基地局10および移動端末20は、周知の最小2乗誤差法(MMSE:Minimum Mean Sequence Error)またはCMA(Constant Modulus Algorithm)によって周囲の環境の変化に起因するビームBM1,BM2の微調整を行なう。
【0117】
そして、基地局10および移動端末20は、ビームBM1,BM2の微調整が終了した後、初期引込処理によって決定した相手方が存在する方向にビームBM1,BM2を放射して相手方と高速のデータ伝送を行なう(図9のステップS3参照)。
【0118】
この場合、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームをビームBM1とビームBM2との交差部CRSSに実質的に絞って相手方へデータ伝送するので、壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して高速でデータ伝送を行なうことができる。
【0119】
なお、上記においては、ビームBM1の長径R1の長さ方向は、ビームBM2の長径R3の長さ方向と直交すると説明したが、この発明においては、これに限らず、ビームBM1の長径R1の長さ方向は、ビームBM2の長径R3の長さ方向と異なっていればよい。ビームBM1の長径R1の長さ方向がビームBM2の長径R3の長さ方向と異なっていれば、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSが存在し、ビームBM1,BM2を実質的に交差部CRSSまで絞った状態で無線通信を行なうことができるからである。
【0120】
また、上記においては、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−Mに給電する電流の位相を制御することによってビームBM1,BM2の方向(指向性)を切換えると説明したが、この発明においては、これに限らず、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−Mに給電する電流の振幅を制御することによってビームBM1,BM2の方向(指向性)を切換えてもよい。
【0121】
更に、図13に示すフローチャートにおいては、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期で切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第1の周期よりも遅い第2の周期で切換えると説明したが、この発明においては、これに限らず、基地局10がビームBM1の方向を第2の周期で切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第1の周期で切換えてもよい。即ち、この発明においては、基地局10および移動端末20は、一般的に、それぞれ、異なる周期でビームBM1,BM2を切換えればよい。
【0122】
[アレーアンテナの変形例]
図14は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11の他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ11は、アンテナ素子31−1〜31−Nからなる。アンテナ素子31−1〜31−Nは、円CRC1に沿って等間隔に、かつ、平面PLN1に略垂直に配置される。
【0123】
アンテナ素子31−1は、給電素子であり、アンテナ素子31−2,31−Nは、無給電素子である。そして、アンテナ素子31−2,31−Nは、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷される。アンテナ素子31−3〜31−(N−1)も、アンテナ素子31−2,31−Nと同じように無給電素子である。従って、アレーアンテナ11は、給電素子であるアンテナ素子31−1と、無給電素子であるアンテナ素子31−2〜31−Nとからなる。
【0124】
バラクタダイオード3に印加する電圧値を変えることによってバラクタダイオード3の容量、即ち、リアクタンス値を変えることができる。その結果、無給電素子であるアンテナ素子31−2〜31−Nに装荷されたN−1個のバラクタダイオード3のリアクタンス値のセットを所定のパターンに設定することによって、アレーアンテナ11は、指向性を有し、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1を放射できる。
【0125】
例えば、アンテナ素子31−2,31−3のバラクタダイオード3に20Vの電圧を供給し、アンテナ素子31−4〜31−Nのバラクタダイオード3に0Vの電圧を供給することによって、アレーアンテナ11は、アンテナ素子31−2,31−3間からビームBM1を放射できる。
【0126】
従って、N−1個のアンテナ素子31−2〜31−Nに装荷されたN−1個のバラクタダイオード3に供給する電圧値のセットパターンを制御することによって、アレーアンテナ11から放射されるビームBM1の方向を所定の順序またはランダムに変えることができる。
【0127】
また、アンテナ素子31−2〜31−NのN−1個のバラクタダイオード3の全てに20Vの電圧を印加することによって、アレーアンテナ11は、無指向性、即ち、全方位性のビームを放射する。
【0128】
図15は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子41−1〜41−Mからなる。アンテナ素子41−1〜41−Mは、移動端末20が設置された平面に略垂直な方向に等間隔で配列される。この場合、アンテナ素子41−1,41−Mの各々は、移動端末20が設置された平面に略平行である。
【0129】
そして、アンテナ素子41−1〜41−Mの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。従って、アンテナ素子41−1〜41−Mの各々は、位相制御回路2によって電流を給電する位相が制御される。その結果、アレーアンテナ21は、上述したように、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を方向を変えて放射できる。
【0130】
図16は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子51−1〜51−Mからなる。アンテナ素子51−1〜51−Mは、図5に示すアンテナ素子21−1〜21−Mと同じように配置される。
【0131】
アンテナ素子51−3は、給電素子であり、アンテナ素子51−2,51−4は、無給電素子である。そして、アンテナ素子51−2,51−4は、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷される。アンテナ素子51−3は、スタブ4によってアンテナ素子51−2および51−4と接続される。スタブ4の長さLは、アレーアンテナ21から放射されるビームの波長λの4分の1である。
【0132】
アンテナ素子51−1,51−5〜51−Mも、アンテナ素子51−2,51−4と同じように無給電素子であり、隣接するアンテナ素子とスタブ4を介して接続される。
【0133】
無給電素子であるアンテナ素子51−1,51−2,51−4〜51−Mには、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷されるので、M−1個のバラクタダイオード3のリアクタンス値のセットを所定のパターンに設定することによって、アレーアンテナ21は、指向性を有し、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を放射できる。
【0134】
例えば、アンテナ素子51−1,51−2のバラクタダイオード3に20Vの電圧を供給し、アンテナ素子51−4〜51−Mのバラクタダイオード3に0Vの電圧を供給することによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子51−1,51−2間からビームBM2を放射できる。
【0135】
従って、M−1個のアンテナ素子51−1,51−2,51−4〜51−Mに装荷されたM−1個のバラクタダイオード3に供給する電圧値のセットパターンを制御することによって、アレーアンテナ21から放射されるビームBM2の方向を所定の順序またはランダムに変えることができる。
【0136】
図17は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11または移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ11は、誘電体61〜63と、アンテナ素子61−1〜61−6とからなる。
【0137】
誘電体61〜63の各々は、例えば、プリント基板からなる。そして、誘電体61〜63は、略三角形に組まれる。アンテナ素子61−1〜61−6の各々は、例えば、銅箔からなる。そして、アンテナ素子61−1,61−2は、誘電体61の表面に配置され、アンテナ素子61−3,61−4は、誘電体62の表面に配置され、アンテナ素子61−5,61−6は、誘電体63の表面に配置される。
【0138】
このように、アレーアンテナ11は、パッチアンテナからなる。
【0139】
図17に示すアレーアンテナ11においては、ビームBM1は、アンテナ素子61−1,61−2間、アンテナ素子61−3,61−4間およびアンテナ素子61−5,61−6間のいずれかから放射される。そして、アンテナ素子61−1,61−2に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−1,61−2間から放射され、アンテナ素子61−3,61−4に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−3,61−4間から放射され、アンテナ素子61−5,61−6に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−5,61−6間から放射される。
【0140】
従って、給電するアンテナ素子を制御することによってビームBM1の方向を制御できる。
【0141】
また、アンテナ素子61−1〜61−6の全てに給電することによって、アレーアンテナ11は、無指向性のビームを放射する。
【0142】
図17に示すアレーアンテナ11が基地局10に搭載される場合、点A−B−Cを頂点とする三角形からなる平面PLN5が基地局10が設置された平面内に略平行になるように搭載される。
【0143】
図17に示すアレーアンテナ11を点A−B−Cを頂点とする三角形からなる平面PLN5が移動端末20が設置された平面に略垂直となるように移動端末20に搭載することによってアレーアンテナ21として用いることもできる。
【0144】
図17に示すアレーアンテナ11においては、三角形に組まれた誘電体61〜63にアンテナ素子61−1〜61−6が設置されるため、ビームBM1,BM2の切換え可能な方向は、3方向であるが、更に多くの誘電体を多角形に組むことにより、ビームBM1,BM2の切換え可能な方向を更に増加できる。
【0145】
図18および図19は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11または移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。
【0146】
図2に示すアレーアンテナ11は、図18に示すように、アンテナ素子11−1〜11−Nがリニアに等間隔に配列されてもよい。この場合、アンテナ素子11−1〜11−Nの各々は、その長さ方向が基地局10の設置面に略垂直になるように配置される。
【0147】
また、図2に示すアレーアンテナ11は、図19に示すように、アンテナ素子11−1〜11−Nが直線状に等間隔に配列されてもよい。この場合、アンテナ素子11−1〜11−Nの各々は、その長さ方向が基地局10の設置面に略平行になるように配置される。
【0148】
図14に示すアレーアンテナ11においても、アンテナ素子31−1〜31−Nが図18または図19に示すアンテナ素子11−1〜11−Nと同じように配列されるようにしてもよい。
【0149】
更に、上述したアンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−Mの各アンテナ素子を構成する給電素子1(図3および図15参照)は、上述したダイポール以外のアンテナ形式であってもよい。例えば、給電素子1をパッチアンテナにした場合、ミリ波帯等の周波数が高い場合に有効であり、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−Mをプリント配線板上に容易に形成できる。
【0150】
上記においては、各種のアレーアンテナを説明したが、アンテナ素子数を増加することによってビームBM1,BM2の短径R2,R4を更に短くすることが可能である。従って、要求されるデータの伝送速度に応じて、ビームBM1,BM2の短径R2,R4を決定し、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSの面積を変えるようにしてもよい。この場合、データの伝送速度が上昇するに従って短径R2,R4を更に短くし、交差部CRSSの面積を更に小さくすることが好ましい。伝送速度が上昇するに従って壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響が大きくなるので、これを抑制するために交差部CRSSの面積を更に小さくする必要があるからである。
【0151】
また、周囲の電波環境に応じて短径R2,R4を決定するようにしてもよい。この場合、マルチパスの影響が相対的に小さい電波環境では、短径R2,R4は、相対的に長く設定され、マルチパスの影響が相対的に大きい電波環境では、短径R2,R4は、相対的に短く設定される。
【0152】
更に、上記においては、無線通信システム100は、室内に設置されると説明したが、この発明においては、これに限らず、室内以外に設置してもよく、一般的には、マルチパスの影響が生じる電波環境に設置される。
【0153】
更に、この発明は、1Gbps〜数百Gbpsの高速のデータ伝送に限らず、それ以外の伝送速度のデータ伝送にも適用されてもよい。
【0154】
更に、上記においては、無線通信システム100は、1台の移動端末を備えると説明したが、この発明においては、これに限らず、無線通信システム100が複数の移動端末を備えてもよいことは言うまでもない。
【0155】
更に、この発明は、基地局10と移動端末20との無線通信に限らず、移動端末同士の無線通信にも適用される。
【0156】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0157】
この発明は、簡単な構成によりマルチパスの影響を抑制して無線通信可能な無線通信システムに適用される。また、この発明は、簡単な構成により高速の無線通信を実現可能な無線通信システムに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】この発明の実施の形態による無線通信システムの概略ブロック図である。
【図2】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナの概略図である。
【図3】図2に示す1つのアンテナ素子の構成を示す概略図である。
【図4】図2に示すアレーアンテナの指向性を制御する方法を説明するための図である。
【図5】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの概略図である。
【図6】図5に示すアレーアンテナの指向性を制御する方法を説明するための図である。
【図7】基地局に搭載されたアレーアンテナが放射するビームと移動端末に搭載されたアレーアンテナが放射するビームとが交差した場合の概念図である。
【図8】図1に示す基地局の内部構成を示す概略ブロック図である。
【図9】基地局および移動端末の動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図11】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための他のフローチャートである。
【図12】図11に示すフローチャートに従って相手方の存在方向を決定する場合の概念図である。
【図13】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための更に他のフローチャートである。
【図14】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナの他の構成を示す概略図である。
【図15】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの他の構成を示す概略図である。
【図16】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図17】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図18】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図19】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0159】
1 給電素子、2 位相制御回路、3 バラクタダイオード、4 スタブ、10 基地局、11,21 アレーアンテナ、11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−M,61−1〜61−6 アンテナ素子、20 移動端末、30 無線通信空間、61〜63 誘電体、100 無線通信システム、110 送受信部、120 電波強度検出部、130 信号処理部、140 制御部、150 指向性制御部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信システムに関し、特に、マルチパスの影響を抑制可能な無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、データ伝送を無線通信により高速で行ないたいというニーズが高まっている。例えば、IEEE802.11a等の無線LANは、直交周波数分割多重方式(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いて5GHzの無線通信を行なっている。
【0003】
また、更に高速な無線通信を行なうものとして100Mbpsを超えるものが、ミリ波帯(>30GHz)で試作されている。
【0004】
通信速度をGbpsのオーダーよりも高速化すると、壁、天井、床および什器等の反射によりマルチパスが生じ、伝送路の遅延拡がりがシンボルレートに対して無視できなくなり、誤り率が上昇し、伝送が困難になる。
【0005】
そこで、この問題を解決するために従来においては、鋭いビームパターンを有するアンテナを相手に向けることを行なっていた(特許文献1)。即ち、特許文献1は、室内無線通信システムを開示する。この室内無線通信システムは、ミリ波帯で無線通信を行なうものであり、親機と、親機アンテナと、反射鏡と、副反射鏡と、子機と、子機アンテナとを備える。
【0006】
親機アンテナは、指向性の鋭いアンテナであり、親機の上方(垂直方向)の天井面を指向するように親機に設置される。子機アンテナも、指向性の鋭いアンテナであり、子機の上方の天井面を指向するように子機に設置される。
【0007】
反射鏡は、親機の上方の天井面に設置され、親機アンテナからの電波を天井面に平行な方向に反射するとともに、副反射鏡からの電波を親機アンテナの方向へ反射する。副反射鏡は、子機の上方の天井面に設置され、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射するとともに、子機アンテナからの電波を反射鏡の方向へ反射する。
【0008】
室内無線通信システムにおいては、親機は、親機アンテナを介して指向性の鋭い電波を反射鏡の方向へ放射し、反射鏡は、親機アンテナからの電波を天井面に平行な方向へ反射する。そして、副反射鏡は、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射し、子機は、子機アンテナを介して電波を受信する。子機から親機への電波の送信は、上述した逆の経路に沿って行なわれる。
【0009】
このように、特許文献1は、指向性の鋭いアンテナを反射鏡および副反射鏡を介して相手側に向けることによって壁、天井、床および什器等による反射によって生じるマルチパスの影響を抑制する室内無線通信システムを開示する。
【特許文献1】特開平9−51293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に開示された室内無線通信システムでは、親機の上方に設置された反射鏡と子機の上方に設置された副反射鏡とを介して親機および子機間で無線通信が行なわれるため、親機アンテナからの電波を副反射鏡の方向へ反射するように反射鏡を設置し、かつ、反射鏡からの電波を子機アンテナの方向へ反射するように副反射鏡を設置しなければならない。即ち、反射鏡および副反射鏡の設置を2次元で制御しなければならず、反射鏡および副反射鏡の設置を制御することが困難であるという問題がある。
【0011】
また、親機または子機を移動させた場合、反射鏡または副反射鏡の設置角度を調整する必要があるが、この場合、親機アンテナまたは子機アンテナは、反射鏡または副反射鏡の真下に存在しなくなるので、親機アンテナまたは子機アンテナからの電波を反射鏡または副反射鏡の方向へ向けるには、アンテナの指向性を2次元で制御しなければならず、指向性の制御が困難であるという問題がある。そして、指向性の鋭いアンテナをアレーアンテナを用いて実現しようとすると、アンテナ素子は2次元に配置されるので、素子数が1/(ビーム幅)の2乗に比例して増大するという問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡単な構成によりマルチパスの影響を抑制して無線通信可能な無線通信システムを提供することである。
【0013】
また、この発明の別の目的は、簡単な構成により高速の無線通信を実現可能な無線通信システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明によれば、無線通信システムは、第1および第2の無線装置を備える。第1の無線装置は、伝搬方向に垂直な面内において第1の長径を有する第1のビームを発生する。第2の無線装置は、伝搬方向に垂直な面内において第1の長径の長さ方向と異なる方向に第2の長径を有する第2のビームを発生する。そして、第1の無線装置は、第1のビームを第2の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する。また、第2の無線装置は、第2のビームを第1の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する。
【0015】
好ましくは、第1の無線装置は、第2の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ第1のビームを放射して電波を送受信する。第2の無線装置は、第1の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ第2のビームを放射して電波を送受信する。
【0016】
好ましくは、第1の無線装置は、全方位性のビームによって電波を送信するとともに、第1のビームを複数の方向に走査して電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第2の無線装置が存在する方向と決定する。第2の無線装置は、第2のビームを複数の方向に走査して全方位性のビームによって送信された電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第1の無線装置が存在する方向と決定するとともに、決定した方向に第2のビームによって電波を送信する。
【0017】
好ましくは、第1の無線装置は、第1のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、確認応答を第2の無線装置から受信した方向を第2の無線装置が存在する方向と決定する。第2の無線装置は、第2のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を第1の無線装置が存在する方向として決定する。
【0018】
好ましくは、第1の長径の長さ方向は、第2の長径の長さ方向と直交する。
【発明の効果】
【0019】
この発明による無線通信システムにおいては、断面形状が略楕円形状である2つのビームが用いられ、第1および第2の無線装置は、2つのビームが交差するようにそれぞれ第1および第2のビームを発生して電波を送受信する。
【0020】
従って、この発明によれば、無線通信に用いるビーム径を実質的に2つのビームの交差部に絞ることができる。その結果、マルチパルの影響を抑制して無線通信を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
図1は、この発明の実施の形態による無線通信システムの概略ブロック図である。この発明の実施の形態による無線通信システム100は、基地局10と、移動端末20とを備える。無線通信システム100は、例えば、室内に設置される。
【0023】
基地局10は、アレーアンテナ11を搭載し、移動端末20は、アレーアンテナ21を搭載する。アレーアンテナ11,21は、指向性を切換え可能なアンテナである。そして、基地局10および移動端末20は、無線通信空間30を介して、1Gbps〜数百Gbpsで無線通信により相互にデータ伝送を行なう。
【0024】
基地局10および移動端末20は、相互に無線通信を行なう場合、後述する方法によって相手側が存在する方向を探索する。そして、基地局10は、移動端末20が存在する方向に特定のビームBM1をアレーアンテナ11から放射して電波を送受信し、移動端末20は、基地局10が存在する方向に特定のビームBM2をアレーアンテナ21から放射して電波を送受信する。ビームBM1,BM2の詳細については、後述する。
【0025】
図2は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11の概略図である。アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−N(Nは自然数)からなる。アンテナ素子11−1〜11−Nは、円CRC1に沿って等間隔に配置される。この場合、円CRC1を含む平面PLN1は、基地局10が設置される水平面に対して略平行であり、アンテナ素子11−1〜11−Nは、平面PLN1に略垂直に配置される。
【0026】
図3は、図2に示す1つのアンテナ素子11−1の構成を示す概略図である。アンテナ素子11−1は、給電素子1と、位相制御回路2とを含む。給電素子1は、半波長ダイポールを構成する。位相制御回路2は、電流の位相を制御して給電素子1に給電する。
【0027】
図2に示すアンテナ素子11−2〜11−Nの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。
【0028】
図4は、図2に示すアレーアンテナ11の指向性を制御する方法を説明するための図である。アレーアンテナ11において、アンテナ素子11−N;アンテナ素子11−1,11−10;アンテナ素子11−2,11−9;アンテナ素子11−3,11−8;アンテナ素子11−4,11−7およびアンテナ素子11−5,11−6の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、ビームBM1を放射する。
【0029】
このビームBM1は、円CRC1の中心からアンテナ素子11−5,11−6間に向かう方向DR1に伝搬する。そして、ビームBM1は、伝搬方向DR1に垂直な平面PLN2において長径R1および短径R2を有するビーム形状からなる。長径R1は、その長さ方向が平面PLN1に略垂直な方向であり、短径R2は、その長さ方向が平面PLN1に略平行な方向である。
【0030】
従って、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を方向DR1へ放射する。
【0031】
また、アンテナ素子11−1,11−N;アンテナ素子11−2,11−(N−1);アンテナ素子11−3,11−10;アンテナ素子11−4,11−9;アンテナ素子11−5,11−8およびアンテナ素子11−6,11−7の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を円CRC1の中心からアンテナ素子11−6,11−7間に向かう方向に放射する。
【0032】
更に、アンテナ素子11−2,11−3;アンテナ素子11−1,11−4:アンテナ素子11−N,11−5;アンテナ素子11−6,11−(N−1);アンテナ素子11−7,11−10およびアンテナ素子11−8,11−9の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を円CRC1の中心からアンテナ素子11−8,11−9間に向かう方向に放射する。
【0033】
同様にして、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を順次遅延させることによって、アレーアンテナ11は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を各方向に放射する。
【0034】
そして、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を同じにすることによって円CRC1と同心円状のドーナツ形状からなるオムニパターンのビームを放射する。即ち、アレーアンテナ11は、指向性を有さない、全方位性のビームを放射する。
【0035】
このように、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を制御することによって、指向性を切換えてビームBM1を放射するとともに、無指向性のビーム(オムニパターンからなるビーム)を放射する。
【0036】
図5は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−M(Mは自然数)からなる。アンテナ素子21−1〜21−Mは、等間隔に直線状に配置される。より具体的には、アンテナ素子21−1〜21−Mは、移動端末20が設置される水平面に対して略垂直な方向に配置される。
【0037】
アンテナ素子21−1〜21−Mの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。従って、アンテナ素子21−1〜21−Mの各々は、位相制御回路2によって位相が制御されて電流が給電される。
【0038】
図6は、図5に示すアレーアンテナ21の指向性を制御する方法を説明するための図である。アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−2,21−3;アンテナ素子21−1,21−4;アンテナ素子21−5、・・・、およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、ビームBM2を放射する。
【0039】
このビームBM2は、アンテナ素子21−2,21−3間からアンテナ素子21−1〜21−Mに略垂直な方向DR2に伝搬する。そして、ビームBM2は、伝搬方向DR2に垂直な平面PLN3において長径R3および短径R4を有するビーム形状からなる。長径R3は、その長さ方向がアンテナ素子21−1〜21−Mに略垂直な方向であり、短径R4は、その長さ方向がアンテナ素子21−1〜21−Mに略平行な方向である。
【0040】
従って、アレーアンテナ21は、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2を方向DR2へ放射する。
【0041】
また、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−1、アンテナ素子21−2、・・・およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1からビームBM2を最も斜め上方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θminである。
【0042】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−2、アンテナ素子21−1、アンテナ素子21−3、アンテナ素子21−4、・・・およびアンテナ素子21−Mの順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アンテナアンテナ21は、アンテナ素子21−2からビームBM2を斜め上方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θ1(>θmin)である。
【0043】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−M、アンテナ素子21−(M−1)、・・・およびアンテナ素子21−1の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−MからビームBM2を最も斜め下方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θmaxである。
【0044】
更に、アレーアンテナ21において、アンテナ素子21−(M−1)、アンテナ素子21−M、アンテナ素子21−(M−2)、・・・およびアンテナ素子21−1の順に電流を給電する位相を遅延させることによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−(M−1)からビームMB2を斜め下方へ放射する。この場合、ビームBM2の放射方向がアンテナ素子21−1〜21−Mの配列方向と成す角度は、θ2(θmin<θ1<・・・θ2<θmax)である。
【0045】
そして、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を同じにすることによってオムニパターンからなるビームを放射する。
【0046】
このように、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を制御することによって、指向性を切換えてビームBM2を放射するとともに、無指向性のビーム(オムニパターンからなるビーム)を放射する。
【0047】
上述したように、アレーアンテナ11は、アンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する位相を制御することによって、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1を各方向に放射し、アレーアンテナ21は、アンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する位相を制御することによって、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2を各方向に放射する。
【0048】
従って、この発明においては、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビーム形状からなるビームBM1をアレーアンテナ11から放射して電波を送受信し、移動端末20は、横方向に長く、かつ、縦方向に狭いビーム形状からなるビームBM2をアレーアンテナ21から放射して電波を送受信する。
【0049】
図7は、基地局10に搭載されたアレーアンテナ11が放射するビームBM1と移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21が放射するビームBM2とが交差した場合の概念図である。
【0050】
基地局10がビームBM1を移動端末20の方向へ放射して電波を送受信し、移動端末20がビームBM2を基地局10の方向へ放射して電波を送受信する場合、基地局10および移動端末20は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSを相手方からの電波として受信する。
【0051】
即ち、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2を交差部CRSSまで絞って相手方からの電波を受信する。従って、基地局10および移動端末20は、直径が交差部CRSSに略等しいビームをアレーアンテナ11,21から放射して電波を受信しなくても、結果的に、直径が交差部CRSSに略等しいビームをアレーアンテナ11,21から放射して電波を受信したのと同じ効果を得ることができる。
【0052】
その結果、基地局10および移動端末20は、1Gbps〜数百Gbpsの高速でデータ伝送を行なっても、壁、天井、床および什器等の反射によるマルチパスの影響を抑制して相手方から電波を受信できる。
【0053】
このように、無線通信システム100においては、基地局10および移動端末20間で、ビームを2つのビームBM1,BM2の交差部CRSSまで実質的に絞って高速の無線通信が可能であるが、これを実現するためには、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を検知する必要がある。即ち、ビームを2つのビームBM1,BM2の交差部CRSSまで実質的に絞ったのと同じ効果を得るためには、ビームBM1,BM2が相互に反対方向から進行して交差する必要があるからである。
【0054】
そこで、この発明においては、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を探索し、その探索した方向にそれぞれビームBM1,BM2を放射して電波を送受信する。
【0055】
図8は、図1に示す基地局10の内部構成を示す概略ブロック図である。基地局10は、送受信部110と、電波強度検出部120と、信号処理部130と、制御部140と、指向性制御部150とを含む。
【0056】
送受信部110は、信号の送信時、信号処理部130からの信号を増幅等してアレーアンテナ11へ出力し、信号の受信時、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120および信号処理部130へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から電波を受け、その受けた電波の電波強度を検出して制御部140へ出力する。
【0057】
信号処理部130は、信号の送信時、制御部140からの信号を変調等して送受信部110へ出力し、信号の受信時、送受信部110からの信号を復調して制御部140へ出力する。
【0058】
制御部140は、移動端末20が存在する方向を探索する場合、オムニパターンからなるビームおよび指向性を切換えたビームBM1をアレーアンテナ11から放射するように指向性制御部150を制御するとともに、電波強度検出部120から受けた電波強度に基づいて、しきい値以上の電波強度が得られるときのビームBM1の方向(指向性)を移動端末20が存在する方向として検出する。
【0059】
そして、制御部140は、移動端末20が存在する方向を検出すると、その方向にビームBM1を放射するように指向性制御部150を制御するとともに、移動端末20との無線通信を制御する。
【0060】
指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11がオムニパターンからなるビームおよび指向性を切換えたビームBM1を放射するようにアンテナ素子11−1〜11−NのN個の位相制御回路2を制御する。また、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11が所定の方向にビームBM1を放射するようにN個の位相制御回路2を制御する。
【0061】
図1に示す移動端末20も、図8に示す基地局10と同じ構成からなる。
【0062】
図9は、基地局10および移動端末20の動作を説明するためのフローチャートである。一連の動作が開始されると、基地局10および移動端末20は、初期引込処理を行なう(ステップS1)。即ち、基地局10および移動端末20は、相手方が存在する方向を探索する。
【0063】
その後、基地局10および移動端末20は、トラッキング処理を行なう(ステップS2)。即ち、基地局10および移動端末20は、周囲の電波環境の変化によるビームの微調整を行なう。そして、ステップS2の後、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2をアレーアンテナ11,21から放射して高速データ伝送を行なう(ステップS3)。これによって、一連の動作は終了する。
【0064】
図10は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、オムニパターンからなるビームをアレーアンテナ11から放射するように指向性制御部150を制御する。そして、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、アレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに同じ位相で電流を給電するようにN個の位相制御回路2を制御し、N個の位相制御回路2は、アンテナ素子11−1〜11−Nに同じ位相で電流を給電する。
【0065】
これによってアレーアンテナ11は、オムニパターンからなるビームで電波を送信する(ステップS11)。
【0066】
一方、移動端末20の制御部140は、ビームBM2の方向を所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、制御部140からの制御に従って、ビームBM2の方向を所定の順序で走査するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。そして、M個の位相制御回路2は、位相を順序切換えてアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。これによって、アレーアンテナ21は、所定の順序に従って方向を切換えながらビームBM2を放射し、基地局10からの電波を受信する(ステップS12)。この場合、移動端末20は、ビームBM2の方向がアンテナ素子21−1,21−2間→アンテナ素子21−2,21−3間→・・・→アンテナ素子21−(M−1),21−M間の順序またはその逆の順序で変化するようにビームBM2の方向を切換える。
【0067】
そして、移動端末20の送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を受け、その受けた電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から受けた電波の電波強度RSSI2を検出し、その検出した電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。この場合、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向を走査した数に対応する複数の電波強度をビームBM2の方向が走査された順に検出して制御部140へ出力する。従って、電波強度RSSI2は、ビームBM2の方向が走査された順に配列された複数の電波強度からなる。
【0068】
制御部140は、電波強度RSSI2を構成する複数の電波強度の中から、しきい値Ith2以上の電波強度を検出し、その検出した電波強度が得られたときのビームBM2の方向DRfv2を抽出する(ステップS13)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0069】
この場合、制御部140は、ビームBM2の方向が走査される順序を認識しており、電波強度RSSI2を構成する複数の電波強度は、ビームBM2が走査される順序に配列されているので、制御部140は、電波強度がしきい値Ith2以上となる電波を受信した方向DRfv2を容易に抽出できる。例えば、複数の電波強度のうち、3番目の電波強度がしきい値Ith2以上であれば、ビームBM2の方向を3番目の方向に切換えたときに受信した電波の電波強度がしきい値Ith2以上であることを示すので、制御部140は、3番目の方向を方向DRfv2として抽出する。
【0070】
その後、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。
【0071】
そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定して電波を送信する(ステップS14)。
【0072】
そうすると、基地局10において、制御部140は、ビームBM1の方向を所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1を所定の順序で走査するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。そして、N個の位相制御回路2は、所定の順序で方向を走査するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電し、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信する(ステップS15)。この場合、基地局10は、ビームBM1の方向がアンテナ素子11−1,11−2間→アンテナ素子11−2,11−3間→・・・→アンテナ素子11−N,11−1間の順序またはその逆の順序で変化するようにビームBM1の方向を切換える。
【0073】
その後、基地局10の送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、送受信部110から受けた電波の電波強度RSSI1を検出し、その検出した電波強度RSSI1を制御部140へ出力する。この場合、電波強度検出部120は、ビームBM1の方向を走査した数に対応する複数の電波強度をビームBM1の方向が走査された順に検出して制御部140へ出力する。従って、電波強度RSSI1は、ビームBM1の方向が走査された順に配列された複数の電波強度からなる。
【0074】
制御部140は、電波強度RSSI1を構成する複数の電波強度の中から、しきい値Ith1以上の電波強度を検出し、その検出した電波強度が得られたときのビームBM1の方向DRfv1を抽出する(ステップS16)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。この場合、しきい値Ith1は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって電波を受信したときに得られる電波強度に設定される。即ち、しきい値Ith1は、ビームBM1とビームBM2とが図7に示すように各ビームBM1,BM2の中心軸が一致して交差した場合に得られる電波強度に設定される。
【0075】
また、制御部140は、ビームBM1の方向が走査される順序を認識しており、電波強度RSSI1を構成する複数の電波強度は、ビームBM1が走査される順序に配列されている。したがって、制御部140は、電波強度がしきい値Ith1以上となる電波を受信した方向DRfv1を容易に抽出できる。例えば、複数の電波強度のうち、8番目の電波強度がしきい値Ith1以上であれば、ビームBM1の方向を8番目の方向に切換えたときに受信した電波の電波強度がしきい値Ith1以上であることを示すので、制御部140は、8番目の方向を方向DRfv1として抽出する。
【0076】
そして、制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS17)。そして、初期引込処理が終了する。
【0077】
このように、基地局10は、最初、オムニパターンからなるビームを放射して電波を送信し(ステップS11参照)、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を所定の順序で走査して基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上となる電波を受信した方向DRfv2を抽出するので(ステップS12,S13参照)、移動端末20は、基地局10からの電波を受信し易く、基地局10が存在する方向を容易に決定できる。
【0078】
また、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を基地局10が存在する方向と決定した方向DRfv2に固定して電波を送信し(ステップS14参照)、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信するので(ステップS15参照)、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からの電波を受信できる。
【0079】
その結果、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。上述したように、基地局10によって検出されたしきい値Ith1以上の電波強度は、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させたときの交差部CRSSによって検出された電波強度であるので、移動端末20によって放射されるビームBM2の方向DRfv2が基地局10の存在方向とずれていた場合、基地局10は、ビームBM1によって電波強度がしきい値Ith1以上である電波を受信することができない。従って、基地局10において電波強度がしきい値Ith1以上である電波が検出されたことは、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させて電波を検出したことに相当するので、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが一致していることになる。よって、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。
【0080】
そして、基地局10および移動端末20がアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等による電波の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0081】
なお、図10に示すフローチャートにおいては、基地局10の動作と移動端末20の動作とを入れ換えて基地局10および移動端末20の存在方向を決定するようにしてもよい。
【0082】
図11は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための他のフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向をランダムに切換えるように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。
【0083】
そうすると、N個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM1の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。そして、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて電波を送信する(ステップS21)。
【0084】
一方、移動端末20において、制御部140は、ビームBM2の方向をランダムに切換えるように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。
【0085】
そうすると、M個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM2の方向をランダムに切換えるようにアレーアンテナ21のアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて電波を受信する(ステップS22)。
【0086】
移動端末20の送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力し、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向がランダムに切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI2に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS23)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0087】
その後、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御するとともに、ACKを生成して信号処理部130へ出力する。指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御し、M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。また、信号処理部130は、制御部140からのACKに変調等を施して送受信部110へ出力し、送受信部110は、ACKを増幅等してアレーアンテナ21へ出力する。
【0088】
そして、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定してACKを送信する(ステップS24)。
【0089】
基地局10において、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて移動端末20からの電波を受信し(ステップS25)、その受信した電波を送受信部110へ出力する。送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して信号処理部130へ出力し、信号処理部130は、送受信部110からの電波を復調等して制御部140へ出力する。
【0090】
制御部140は、信号処理部130からの復調結果に基づいて、ACKを受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS26)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。そして、制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS27)。そして、初期引込処理が終了する。
【0091】
図12は、図11に示すフローチャートに従って相手方の存在方向を決定する場合の概念図である。基地局10は、タイミングt1でビームBM1−1をある方向に放射して電波を送信する(ステップS21参照)。そして、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信するが、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できないので、基地局10へACKを送信しない。
【0092】
そうすると、基地局10は、ビームBM1−1を放射した方向と異なる方向にランダムに切換えてタイミングt2でビームBM1−2を放射し、電波を送信する。この場合も、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信するが、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できないので、基地局10へACKを送信しない。
【0093】
そして、基地局10は、ビームBM1−1,BM1−2を放射した方向と異なる方向にランダムに切換えてタイミングt3でビームBM1−3を放射し、電波を送信する。移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信できたので(ステップS22,S23参照)、タイミングt4までの間に、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2にビームBM2の方向を固定してACKを送信する(ステップS24参照)。そして、基地局10は、ビームBM1−3によって移動端末20からのACKを受信し(ステップS25参照)、ビームBM1−3の方向を方向DRfv1として抽出する(ステップS26参照)。
【0094】
このように、基地局10は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて電波を送信し(ステップS21参照)、移動端末20は、ビームBM2の方向をランダムに切換えて基地局10からの電波を受信し、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS22,S23参照)。そして、移動端末20は、方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定し、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定してACKを基地局10へ送信する(ステップS24参照)。
【0095】
一方、基地局10は、ビームBM1の方向をランダムに切換えて移動端末20からのACKを受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS26参照)。即ち、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からのACKを受信し、ACKを受信した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。
【0096】
従って、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。基地局10がACKを受信できたことは、ビームBM1とビームBM2とが各中心軸を一致させて交差していることに相当するので、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。その結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0097】
図13は、図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための更に他のフローチャートである。初期引込処理が開始されると、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、第1の周期で方向を所定の順序で走査してビームBM1を放射するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。
【0098】
そして、N個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査するようにアレーアンテナ11のアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。そうすると、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して電波を送信する(ステップS31)。
【0099】
その後、移動端末20において、制御部140は、ビームBM2の方向を第1の周期と異なる第2の周期で所定の順序で走査するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、第2の周期で方向を所定の順序で走査してビームBM2を放射するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。
【0100】
そして、M個の位相制御回路2は、位相を制御してビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査するようにアレーアンテナ21のアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。そうすると、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査して電波を受信する(ステップS32)。
【0101】
この場合、第1および第2の周期は、例えば、第1の周期と第2の周期との比が1:4になるように設定される。従って、基地局10は、移動端末20よりもビームBM1の方向を速く切換えて電波を送信し、移動端末20は、基地局10よりもビームBM2の方向を遅く切換えて電波を受信する。
【0102】
その後、移動端末20において、送受信部110は、アレーアンテナ21からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力し、電波強度検出部120は、ビームBM2の方向が所定の順序で切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI2を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI2に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith2以上である電波を受信した方向DRfv2を抽出する(ステップS33)。これによって、移動端末20は、抽出した方向DRfv2を基地局10が存在する方向と決定する。
【0103】
そうすると、制御部140は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定するようにアレーアンテナ21のM個の位相制御回路2を制御する。そして、M個の位相制御回路2は、方向DRfv2に固定してビームBM2を放射するように位相を制御してアンテナ素子21−1〜21−Mに電流を給電する。
【0104】
これによって、アレーアンテナ21は、ビームBM2の方向を方向DRfv2に固定して電波を送信する(ステップS34)。
【0105】
その後、基地局10において、アレーアンテナ11は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信し(ステップS35)、送受信部110は、アレーアンテナ11からの電波を増幅等して電波強度検出部120へ出力する。電波強度検出部120は、ビームBM1の方向が所定の順序で切換えられたときに受信された複数の電波に対応する複数の電波の電波強度を順序検出し、複数の電波強度からなる電波強度RSSI1を制御部140へ出力する。そして、制御部140は、電波強度RSSI1に基づいて、上述した方法によって、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を受信した方向DRfv1を抽出する(ステップS36)。これによって、基地局10は、抽出した方向DRfv1を移動端末20が存在する方向と決定する。
【0106】
その後、基地局10の制御部140は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するように指向性制御部150を制御し、指向性制御部150は、ビームBM1の方向を方向DRfv1に固定するようにアレーアンテナ11のN個の位相制御回路2を制御する。N個の位相制御回路2は、方向DRfv1に固定してビームBM1を放射するように位相を制御してアンテナ素子11−1〜11−Nに電流を給電する。これによって、ビームBM1の方向が方向DRfv1に固定される(ステップS37)。そして、初期引込処理が終了する。
【0107】
このように、基地局10は、ビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査して電波を送受信し(ステップS31,S35参照)、移動端末20は、ビームBM1の方向を第1の周期よりも遅い第2の周期で所定の順序で走査して電波を受信するので(ステップS32)、基地局10および移動端末20は、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合よりも、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を相手方から受信し易くなる。
【0108】
ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合、ビームBM1の方向がビームBM2の方向と一致しなければ、基地局10および移動端末20は、以後、継続して相手方からの電波を受信できないが、上述したように、基地局10および移動端末20は、それぞれ、ビームBM1,BM2の方向を異なる周期で切換えるので、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが一致する場合が必ず存在する。従って、基地局10および移動端末20は、ビームBM1の方向とビームBM2の方向とが同じ周期で切換えられる場合よりも、電波強度がしきい値Ith1以上である電波を相手方から受信し易くなる。
【0109】
また、移動端末20は、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2の方向を基地局10が存在する方向と決定した方向DRfv2に固定して電波を送信し(ステップS34参照)、基地局10は、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1の方向を所定の順序で走査して移動端末20からの電波を受信するので(ステップS35参照)、基地局10は、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSによって移動端末20からの電波を受信できる。
【0110】
その結果、基地局10および移動端末20は、上述した理由によってアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる。そして、基地局10および移動端末20がアレーアンテナ11,21から放射するビームを交差部CRSSまで実質的に絞った状態で相手方が存在する方向を決定できる結果、基地局10および移動端末20は、壁、天井、床および什器等による電波の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して相手方が存在する方向を正確に決定できる。
【0111】
なお、第1の周期と第2の周期との比は、一般的には、ビームBM1,BM2の短径R2,R4に応じて決定され、ビームBM1,BM2の短径R2,R4が短い程、大きく設定される。
【0112】
図13に示すフローチャートに従って実行される初期引込処理は、基地局10および移動端末20がそれぞれビームBM1,BM2の方向を異なる周期で切換えることを特徴としているので、ビームBM1,BM2の両方を所定の順序で走査する場合に限らず、ビームBM1,BM2のいずれか一方のビームの方向を第1の周期で所定の順序で走査し、いずれか他方のビームの方向を第2の周期でランダムに切換えるようにしてもよい。具体的には、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期で所定の順序で走査し、移動端末20がビームBM2の方向を第2の周期でランダムに切換えてもよいし、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期でランダムに切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第2の周期で所定の順序で走査してもよい。
【0113】
これらの場合にも、上述した効果と同じ効果が得られる。
【0114】
図10、図11および図13に示すフローチャートに従って実行される初期引込処理においては、電波強度がしきい値以上である電波の受信方向を相手方が存在する方向として決定したが、この発明においては、これに限らず、相手方からの受信信号の品質が所定の品質以上である方向を相手方が存在する方向と決定してもよい。
【0115】
例えば、基地局10が特定のビットパターンを変調して送信し、移動端末20が基地局10からの電波を復調して特定のビットパターンが得られたときの方向を基地局10が存在する方向と決定し、移動端末20が特定のビットパターンを変調して送信し、基地局10が移動端末20からの電波を復調して特定のビットパターンが得られたときの方向を移動端末20が存在する方向と決定してもよい。
【0116】
図10、図11および図13に示すフローチャートのいずれかに従って初期引込処理が実行された後、基地局10および移動端末20は、トラッキングを実行する(図9のステップS2参照)。即ち、基地局10および移動端末20は、周知の最小2乗誤差法(MMSE:Minimum Mean Sequence Error)またはCMA(Constant Modulus Algorithm)によって周囲の環境の変化に起因するビームBM1,BM2の微調整を行なう。
【0117】
そして、基地局10および移動端末20は、ビームBM1,BM2の微調整が終了した後、初期引込処理によって決定した相手方が存在する方向にビームBM1,BM2を放射して相手方と高速のデータ伝送を行なう(図9のステップS3参照)。
【0118】
この場合、基地局10および移動端末20は、アレーアンテナ11,21から放射するビームをビームBM1とビームBM2との交差部CRSSに実質的に絞って相手方へデータ伝送するので、壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響を抑制して高速でデータ伝送を行なうことができる。
【0119】
なお、上記においては、ビームBM1の長径R1の長さ方向は、ビームBM2の長径R3の長さ方向と直交すると説明したが、この発明においては、これに限らず、ビームBM1の長径R1の長さ方向は、ビームBM2の長径R3の長さ方向と異なっていればよい。ビームBM1の長径R1の長さ方向がビームBM2の長径R3の長さ方向と異なっていれば、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSが存在し、ビームBM1,BM2を実質的に交差部CRSSまで絞った状態で無線通信を行なうことができるからである。
【0120】
また、上記においては、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−Mに給電する電流の位相を制御することによってビームBM1,BM2の方向(指向性)を切換えると説明したが、この発明においては、これに限らず、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−Mに給電する電流の振幅を制御することによってビームBM1,BM2の方向(指向性)を切換えてもよい。
【0121】
更に、図13に示すフローチャートにおいては、基地局10がビームBM1の方向を第1の周期で切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第1の周期よりも遅い第2の周期で切換えると説明したが、この発明においては、これに限らず、基地局10がビームBM1の方向を第2の周期で切換え、移動端末20がビームBM2の方向を第1の周期で切換えてもよい。即ち、この発明においては、基地局10および移動端末20は、一般的に、それぞれ、異なる周期でビームBM1,BM2を切換えればよい。
【0122】
[アレーアンテナの変形例]
図14は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11の他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ11は、アンテナ素子31−1〜31−Nからなる。アンテナ素子31−1〜31−Nは、円CRC1に沿って等間隔に、かつ、平面PLN1に略垂直に配置される。
【0123】
アンテナ素子31−1は、給電素子であり、アンテナ素子31−2,31−Nは、無給電素子である。そして、アンテナ素子31−2,31−Nは、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷される。アンテナ素子31−3〜31−(N−1)も、アンテナ素子31−2,31−Nと同じように無給電素子である。従って、アレーアンテナ11は、給電素子であるアンテナ素子31−1と、無給電素子であるアンテナ素子31−2〜31−Nとからなる。
【0124】
バラクタダイオード3に印加する電圧値を変えることによってバラクタダイオード3の容量、即ち、リアクタンス値を変えることができる。その結果、無給電素子であるアンテナ素子31−2〜31−Nに装荷されたN−1個のバラクタダイオード3のリアクタンス値のセットを所定のパターンに設定することによって、アレーアンテナ11は、指向性を有し、縦方向に長く、かつ、横方向に狭いビームBM1を放射できる。
【0125】
例えば、アンテナ素子31−2,31−3のバラクタダイオード3に20Vの電圧を供給し、アンテナ素子31−4〜31−Nのバラクタダイオード3に0Vの電圧を供給することによって、アレーアンテナ11は、アンテナ素子31−2,31−3間からビームBM1を放射できる。
【0126】
従って、N−1個のアンテナ素子31−2〜31−Nに装荷されたN−1個のバラクタダイオード3に供給する電圧値のセットパターンを制御することによって、アレーアンテナ11から放射されるビームBM1の方向を所定の順序またはランダムに変えることができる。
【0127】
また、アンテナ素子31−2〜31−NのN−1個のバラクタダイオード3の全てに20Vの電圧を印加することによって、アレーアンテナ11は、無指向性、即ち、全方位性のビームを放射する。
【0128】
図15は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子41−1〜41−Mからなる。アンテナ素子41−1〜41−Mは、移動端末20が設置された平面に略垂直な方向に等間隔で配列される。この場合、アンテナ素子41−1,41−Mの各々は、移動端末20が設置された平面に略平行である。
【0129】
そして、アンテナ素子41−1〜41−Mの各々は、図3に示すアンテナ素子11−1と同じ構成からなる。従って、アンテナ素子41−1〜41−Mの各々は、位相制御回路2によって電流を給電する位相が制御される。その結果、アレーアンテナ21は、上述したように、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を方向を変えて放射できる。
【0130】
図16は、図1に示す移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ21は、アンテナ素子51−1〜51−Mからなる。アンテナ素子51−1〜51−Mは、図5に示すアンテナ素子21−1〜21−Mと同じように配置される。
【0131】
アンテナ素子51−3は、給電素子であり、アンテナ素子51−2,51−4は、無給電素子である。そして、アンテナ素子51−2,51−4は、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷される。アンテナ素子51−3は、スタブ4によってアンテナ素子51−2および51−4と接続される。スタブ4の長さLは、アレーアンテナ21から放射されるビームの波長λの4分の1である。
【0132】
アンテナ素子51−1,51−5〜51−Mも、アンテナ素子51−2,51−4と同じように無給電素子であり、隣接するアンテナ素子とスタブ4を介して接続される。
【0133】
無給電素子であるアンテナ素子51−1,51−2,51−4〜51−Mには、可変容量素子であるバラクタダイオード3が装荷されるので、M−1個のバラクタダイオード3のリアクタンス値のセットを所定のパターンに設定することによって、アレーアンテナ21は、指向性を有し、縦方向に狭く、かつ、横方向に長いビームBM2を放射できる。
【0134】
例えば、アンテナ素子51−1,51−2のバラクタダイオード3に20Vの電圧を供給し、アンテナ素子51−4〜51−Mのバラクタダイオード3に0Vの電圧を供給することによって、アレーアンテナ21は、アンテナ素子51−1,51−2間からビームBM2を放射できる。
【0135】
従って、M−1個のアンテナ素子51−1,51−2,51−4〜51−Mに装荷されたM−1個のバラクタダイオード3に供給する電圧値のセットパターンを制御することによって、アレーアンテナ21から放射されるビームBM2の方向を所定の順序またはランダムに変えることができる。
【0136】
図17は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11または移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。アレーアンテナ11は、誘電体61〜63と、アンテナ素子61−1〜61−6とからなる。
【0137】
誘電体61〜63の各々は、例えば、プリント基板からなる。そして、誘電体61〜63は、略三角形に組まれる。アンテナ素子61−1〜61−6の各々は、例えば、銅箔からなる。そして、アンテナ素子61−1,61−2は、誘電体61の表面に配置され、アンテナ素子61−3,61−4は、誘電体62の表面に配置され、アンテナ素子61−5,61−6は、誘電体63の表面に配置される。
【0138】
このように、アレーアンテナ11は、パッチアンテナからなる。
【0139】
図17に示すアレーアンテナ11においては、ビームBM1は、アンテナ素子61−1,61−2間、アンテナ素子61−3,61−4間およびアンテナ素子61−5,61−6間のいずれかから放射される。そして、アンテナ素子61−1,61−2に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−1,61−2間から放射され、アンテナ素子61−3,61−4に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−3,61−4間から放射され、アンテナ素子61−5,61−6に給電すれば、ビームBM1は、アンテナ素子61−5,61−6間から放射される。
【0140】
従って、給電するアンテナ素子を制御することによってビームBM1の方向を制御できる。
【0141】
また、アンテナ素子61−1〜61−6の全てに給電することによって、アレーアンテナ11は、無指向性のビームを放射する。
【0142】
図17に示すアレーアンテナ11が基地局10に搭載される場合、点A−B−Cを頂点とする三角形からなる平面PLN5が基地局10が設置された平面内に略平行になるように搭載される。
【0143】
図17に示すアレーアンテナ11を点A−B−Cを頂点とする三角形からなる平面PLN5が移動端末20が設置された平面に略垂直となるように移動端末20に搭載することによってアレーアンテナ21として用いることもできる。
【0144】
図17に示すアレーアンテナ11においては、三角形に組まれた誘電体61〜63にアンテナ素子61−1〜61−6が設置されるため、ビームBM1,BM2の切換え可能な方向は、3方向であるが、更に多くの誘電体を多角形に組むことにより、ビームBM1,BM2の切換え可能な方向を更に増加できる。
【0145】
図18および図19は、図1に示す基地局10に搭載されたアレーアンテナ11または移動端末20に搭載されたアレーアンテナ21の更に他の構成を示す概略図である。
【0146】
図2に示すアレーアンテナ11は、図18に示すように、アンテナ素子11−1〜11−Nがリニアに等間隔に配列されてもよい。この場合、アンテナ素子11−1〜11−Nの各々は、その長さ方向が基地局10の設置面に略垂直になるように配置される。
【0147】
また、図2に示すアレーアンテナ11は、図19に示すように、アンテナ素子11−1〜11−Nが直線状に等間隔に配列されてもよい。この場合、アンテナ素子11−1〜11−Nの各々は、その長さ方向が基地局10の設置面に略平行になるように配置される。
【0148】
図14に示すアレーアンテナ11においても、アンテナ素子31−1〜31−Nが図18または図19に示すアンテナ素子11−1〜11−Nと同じように配列されるようにしてもよい。
【0149】
更に、上述したアンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−Mの各アンテナ素子を構成する給電素子1(図3および図15参照)は、上述したダイポール以外のアンテナ形式であってもよい。例えば、給電素子1をパッチアンテナにした場合、ミリ波帯等の周波数が高い場合に有効であり、アンテナ素子11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−Mをプリント配線板上に容易に形成できる。
【0150】
上記においては、各種のアレーアンテナを説明したが、アンテナ素子数を増加することによってビームBM1,BM2の短径R2,R4を更に短くすることが可能である。従って、要求されるデータの伝送速度に応じて、ビームBM1,BM2の短径R2,R4を決定し、ビームBM1とビームBM2との交差部CRSSの面積を変えるようにしてもよい。この場合、データの伝送速度が上昇するに従って短径R2,R4を更に短くし、交差部CRSSの面積を更に小さくすることが好ましい。伝送速度が上昇するに従って壁、天井、床および什器等の反射によって生じるマルチパスの影響が大きくなるので、これを抑制するために交差部CRSSの面積を更に小さくする必要があるからである。
【0151】
また、周囲の電波環境に応じて短径R2,R4を決定するようにしてもよい。この場合、マルチパスの影響が相対的に小さい電波環境では、短径R2,R4は、相対的に長く設定され、マルチパスの影響が相対的に大きい電波環境では、短径R2,R4は、相対的に短く設定される。
【0152】
更に、上記においては、無線通信システム100は、室内に設置されると説明したが、この発明においては、これに限らず、室内以外に設置してもよく、一般的には、マルチパスの影響が生じる電波環境に設置される。
【0153】
更に、この発明は、1Gbps〜数百Gbpsの高速のデータ伝送に限らず、それ以外の伝送速度のデータ伝送にも適用されてもよい。
【0154】
更に、上記においては、無線通信システム100は、1台の移動端末を備えると説明したが、この発明においては、これに限らず、無線通信システム100が複数の移動端末を備えてもよいことは言うまでもない。
【0155】
更に、この発明は、基地局10と移動端末20との無線通信に限らず、移動端末同士の無線通信にも適用される。
【0156】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0157】
この発明は、簡単な構成によりマルチパスの影響を抑制して無線通信可能な無線通信システムに適用される。また、この発明は、簡単な構成により高速の無線通信を実現可能な無線通信システムに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】この発明の実施の形態による無線通信システムの概略ブロック図である。
【図2】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナの概略図である。
【図3】図2に示す1つのアンテナ素子の構成を示す概略図である。
【図4】図2に示すアレーアンテナの指向性を制御する方法を説明するための図である。
【図5】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの概略図である。
【図6】図5に示すアレーアンテナの指向性を制御する方法を説明するための図である。
【図7】基地局に搭載されたアレーアンテナが放射するビームと移動端末に搭載されたアレーアンテナが放射するビームとが交差した場合の概念図である。
【図8】図1に示す基地局の内部構成を示す概略ブロック図である。
【図9】基地局および移動端末の動作を説明するためのフローチャートである。
【図10】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【図11】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための他のフローチャートである。
【図12】図11に示すフローチャートに従って相手方の存在方向を決定する場合の概念図である。
【図13】図9に示す初期引込処理の詳細な動作を説明するための更に他のフローチャートである。
【図14】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナの他の構成を示す概略図である。
【図15】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの他の構成を示す概略図である。
【図16】図1に示す移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図17】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図18】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【図19】図1に示す基地局に搭載されたアレーアンテナまたは移動端末に搭載されたアレーアンテナの更に他の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0159】
1 給電素子、2 位相制御回路、3 バラクタダイオード、4 スタブ、10 基地局、11,21 アレーアンテナ、11−1〜11−N,21−1〜21−M,31−1〜31−N,41−1〜41−M,51−1〜51−M,61−1〜61−6 アンテナ素子、20 移動端末、30 無線通信空間、61〜63 誘電体、100 無線通信システム、110 送受信部、120 電波強度検出部、130 信号処理部、140 制御部、150 指向性制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝搬方向に垂直な面内において第1の長径を有する第1のビームを発生する第1の無線装置と、
伝搬方向に垂直な面内において前記第1の長径の長さ方向と異なる方向に第2の長径を有する第2のビームを発生する第2の無線装置とを備え、
前記第1の無線装置は、前記第1のビームを前記第2の無線装置の方向へ放射して電波を送受信し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを前記第1の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する、無線通信システム。
【請求項2】
前記第1の無線装置は、前記第2の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ前記第1のビームを放射して前記電波を送受信し、
前記第2の無線装置は、前記第1の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ前記第2のビームを放射して前記電波を送受信する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の無線装置は、全方位性のビームによって電波を送信するとともに、前記第1のビームを複数の方向に走査して電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を前記第2の無線装置が存在する方向と決定し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを複数の方向に走査して前記全方位性のビームによって送信された電波を受信し、その受信した複数の電波のうち前記基準値以上の電波を受信した方向を前記第1の無線装置が存在する方向と決定するとともに、前記決定した方向に前記第2のビームによって前記電波を送信する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1の無線装置は、前記第1のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、確認応答を前記第2の無線装置から受信した方向を前記第2の無線装置が存在する方向と決定し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、前記受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を前記第1の無線装置が存在する方向として決定する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第1の長径の長さ方向は、前記第2の長径の長さ方向と直交する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【請求項1】
伝搬方向に垂直な面内において第1の長径を有する第1のビームを発生する第1の無線装置と、
伝搬方向に垂直な面内において前記第1の長径の長さ方向と異なる方向に第2の長径を有する第2のビームを発生する第2の無線装置とを備え、
前記第1の無線装置は、前記第1のビームを前記第2の無線装置の方向へ放射して電波を送受信し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを前記第1の無線装置の方向へ放射して電波を送受信する、無線通信システム。
【請求項2】
前記第1の無線装置は、前記第2の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ前記第1のビームを放射して前記電波を送受信し、
前記第2の無線装置は、前記第1の無線装置が存在する方向を探索し、その探索した方向へ前記第2のビームを放射して前記電波を送受信する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記第1の無線装置は、全方位性のビームによって電波を送信するとともに、前記第1のビームを複数の方向に走査して電波を受信し、その受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を前記第2の無線装置が存在する方向と決定し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを複数の方向に走査して前記全方位性のビームによって送信された電波を受信し、その受信した複数の電波のうち前記基準値以上の電波を受信した方向を前記第1の無線装置が存在する方向と決定するとともに、前記決定した方向に前記第2のビームによって前記電波を送信する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記第1の無線装置は、前記第1のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、確認応答を前記第2の無線装置から受信した方向を前記第2の無線装置が存在する方向と決定し、
前記第2の無線装置は、前記第2のビームを複数の方向に切換えて電波を送受信し、前記受信した複数の電波のうち基準値以上の電波を受信した方向を前記第1の無線装置が存在する方向として決定する、請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記第1の長径の長さ方向は、前記第2の長径の長さ方向と直交する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の無線通信システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−50229(P2006−50229A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228074(P2004−228074)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人情報通信研究機構、研究テーマ「自律分散型無線ネットワークの研究開発」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】
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