説明

無線通信システム

【課題】 複数本の漏洩伝送路を適用し、無線エリアを十分に拡大できる無線通信システムを提供する。
【解決手段】 本発明は、無線基地局と、当該無線基地局のアンテナとして作用する複数本の漏洩伝送路とを有する無線通信システムに関する。そして、複数本の漏洩伝送路を択一的に選択させ、無線基地局に接続させる切替装置を備えることを特徴とする。切替装置は、全ての漏洩伝送路を巡回的に選択する。又は、切替装置は、切替制御装置から出力された制御信号に従って、いずれかの漏洩伝送路を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩伝送路をアンテナとして適用している無線基地局を含む無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線LANのアンテナとして漏洩伝送路を用いる技術が知られている(非特許文献1参照)。また、漏洩伝送路を分岐接続する敷設形態により、無線エリアを拡大する方法が知られている。例えば、無線基地局のアンテナ端子に分配器を接続し、左右のそれぞれに延長する2本の漏洩伝送路を分配器に接続することにより、無線基地局に1本の漏洩伝送路を接続する場合より、無線エリアを拡大するようなことも提案されている。
【非特許文献1】社団法人電波産業会 規格書 ARIB STD−T66
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、漏洩伝送路を分岐接続する方法では、共通漏洩伝送路と分岐漏洩伝送路との接続に介在している分配器での損失がある。例えば、2分岐では3dB、4分岐では6dBといった非常に大きな電力損失がある。その結果、所望の特性が得られる漏洩伝送路の距離が短くなり、拡大しようとした無線エリアがさほど拡がらないという課題がある。
【0004】
そのため、複数本の漏洩伝送路を適用し、無線エリアを十分に拡大することができる無線通信システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、無線基地局と、当該無線基地局のアンテナとして作用する複数本の漏洩伝送路とを有する無線通信システムにおいて、上記複数本の漏洩伝送路を択一的に選択させ、上記無線基地局に接続させる切替装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の無線通信システムによれば、分配装置を用いずに、複数本の漏洩伝送路を択一的に選択して無線基地局に接続させるようにしたので、分岐ロスが生じることはなく、各漏洩伝送路の長さを、従来に比べ、削減された分岐ロス分だけ長くすること、言い換えると、無線エリアを十分に拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による無線通信システムの第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0008】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係る無線通信システム100の概略構成を示すブロック図である。図1において、無線通信システム100は、無線基地局1、切替装置2、切替制御装置3、受信信号判別装置4−1、4−2、漏洩伝送路5−1、5−2及び無線装置7(7−1、7−2)を構成要素としている。
【0009】
無線基地局1は、例えば、図示しない基地制御局に収容され、基地制御局の制御下で外部のネットワーク(例えば、公衆IP網)に接続し得るものである。無線基地局1は、無線装置7(7−1、7−2)と外部のネットワークとの通信や、無線装置7同士の通信に介在するものである。無線基地局1のアンテナとして、2本の漏洩伝送路5−1及び5−2が設けられている。
【0010】
無線基地局1におけるアンテナ端子には切替装置2が接続されている。切替装置2は、無線基地局1の共通なアンテナ端子を、漏洩伝送路5−1又は5−2に択一的に接続させるものである。
【0011】
切替装置2と漏洩伝送路5−1との経路上には受信信号判別装置4−1が介挿され、切替装置2と漏洩伝送路5−2との経路上には受信信号判別装置4−2が介挿されている。各受信信号判別装置4−1、4−2は、対応する漏洩伝送路5−1、5−2が、自己の無線エリア6−1、6−2に存在する無線装置7−1、7−2からの信号を捕捉して無線基地局1へ伝送してきた受信信号があるかを判別するものである。例えば、漏洩伝送路5−1、5−2における電圧レベルを閾値と比較することで判別するものである。なお、受信信号判別装置4−1、4−2は、無線基地局1及び漏洩伝送路5−1、5−2を授受する通信信号は双方向共にスルーさせるものである。
【0012】
切替制御装置3は、動作の項で明らかにするように、両受信信号判別装置4−1及び4−2の判別結果や、その直前の切替装置2の状態などに応じて、切替装置2を制御し、無線基地局1を漏洩伝送路5−1又は5−2の一方に択一的に接続させるものである。
【0013】
無線装置7(7−1、7−2)は、無線基地局1を介して、他の無線装置や外部のネットワークと通信するものである。無線装置7は、携帯型のものであっても良く、また、据置型のものであっても良い。また、無線基地局1及び無線装置7間の通信方式(デジタル変調方式等)は、第1の実施形態の特徴から離れており、限定されないものである。
【0014】
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態に係る無線通信システム100の各種動作を順に説明する。なお、図2〜図4を参照しながら説明する以下の動作は、例えば、IEEE802.11に準拠している。
【0015】
まず、切替装置2によって漏洩伝送路5−1側が選択され、漏洩伝送路5−1の無線エリア6−1内の無線装置7−1のみが稼動状態にある場合について、図2のシーケンス図を用いて説明する。
【0016】
無線基地局1は、無線エリア6−1、6−2の状態を把握すべく、例えば、所定周期でビーコンを送出する。無線基地局1から送出されたビーコンは、その時点では、切替装置2によって漏洩伝送路5−1側が選択されているので、切替装置2、受信信号判別装置4−1を経由し、漏洩伝送路5−1から放射され、無線装置7−1によって受信される(S11)。これにより、無線装置7−1は、自己の存在を認識させるために応答信号を返し、受信信号判別装置4−1、切替装置2を経由し、無線基地局1によって受信される(S12)。
【0017】
受信信号判別装置4−1は、自己を応答信号が通過していったので、無線エリア6−1内に稼動中の無線装置7−1があることを判別し、稼動無線装置があることを示すフラグ値“1”を切替制御装置3へ送信する(S13)。一方、受信信号判別装置4−2は、フラグを稼動している無線装置がないことを示す“0”のままとし、切替制御装置3はそのフラグの値“0”を認識する(S14)。
【0018】
切替制御装置3は、受信信号判別装置4−1のフラグ値が“1”であって、受信信号判別装置4−2のフラグ値が“0”であるため、すなわち、現在選択させている漏洩同軸ケーブル5−1の無線エリア6−1内のみに稼動している無線装置7−1があるため、切替を指示する切替制御信号を切替装置2には送信せず、漏洩伝送路5−1の選択状態を維持する。
【0019】
以上のようにして、選択中の漏洩伝送路5−1の無線エリア6−1内に存在する無線装置7−1が稼動状態にある場合には、その選択状態を継続し、無線基地局1及び無線装置7−1間の通信を継続させる。
【0020】
次に、切替装置2によって漏洩伝送路5−1側が選択されているが、無線エリア6−2内の無線装置7−2のみが稼動状態にある場合について、図3を用いて説明する。
【0021】
無線装置7−2は、通信を実行する前処理とし、周囲の状況の把握のためにプローブリクエスト(プローブ要求)を送信する(S21)。このとき、切替装置2が漏洩伝送路5−1側を選択しているため、このプローブリクエストを漏洩伝送路5−2が捕捉しても、受信信号判別装置4−2までしか届かない。受信信号判別装置4−2は、プローブリクエストを受信したことにより、漏洩伝送路5−2の無線エリア6−2内に稼動状態にある無線装置7−2が存在することを表すようにフラグ値を“1”にし、切替制御装置3はこのフラグ値“1”を取り込む(S22)。
【0022】
一方、このときには、漏洩伝送路5−1の無線エリア6−1内に稼動状態にある無線装置が存在していないので、受信信号判別装置4−1は、フラグ値を“0”にしており、切替制御装置3はこのフラグ値“0”を取り込む(S23)。
【0023】
切替制御装置3は、漏洩伝送路5−2側のフラグ値が“1”であって、漏洩伝送路5−1側のフラグ値が“0”であるので、漏洩伝送路5−2側を選択するように、切替装置2へ切替制御信号を送信する(S24)。これにより、切替装置2は、漏洩伝送路5−2側を選択し、無線エリア6−2が有効となる。切替装置2は、現在選択されているアンテナ情報を切替制御装置3へ送信する(S25)。
【0024】
無線装置7−2が有効となった無線エリア内6−2に存在するため、無線基地局1が送出したビーコンは無線装置7−2に到達し(S26)、無線装置7−2は、ビーコンに対する応答信号を返信する(S27)。
【0025】
以上のようにして、非選択状態の漏洩伝送路5−2の無線エリア内6−2に位置していた無線装置7−2は、無線基地局1と通信し得る状態に移行できる。
【0026】
次に、漏洩伝送路5−1側が選択されている状態であって、無線エリア6−1内の無線装置7−1と、無線エリア6−2内の無線装置7−2とが共に稼動状態にある場合について、図4を用いて説明する。
【0027】
漏洩伝送路5−1側が選択されているので、無線基地局1から送出されたビーコンは、切替装置2、受信信号判別装置4−1を経由し、漏洩伝送路5−1から放射され、無線装置7−1へ到達する(S31)。無線装置7−1は、応答信号を返信し、この応答信号は、受信信号判別装置4−1、切替装置2を経由し、無線基地局1に到達する(S32)。受信信号判別装置4−1は、この応答信号に基づき、無線エリア6−1内に、稼動状態の無線装置7−1があることを判別し、フラグの値を、稼動状態の無線装置7−1があることを示す値“1”にし、切替制御装置3がこのフラグ値“1”を取り込む(S33)。
【0028】
稼動状態の無線装置7−2は、無線基地局1へ向けて、プローブリクエストを送信する(S34)。このときには、切替装置2が漏洩伝送路5−1側を選択しているため、プローブリクエストは受信信号判別装置4−2には到達するが、それ以上は伝送されない。受信信号判別装置4−2は、フラグの値を、稼動状態の無線装置7−2があることを示す値“1”にし、切替制御装置3がこのフラグ値“1”を取り込む(S35)。
【0029】
切替制御装置3は、切替装置2に対し漏洩伝送路5−2側へ切替るように制御信号を送信する(S36)。切替装置2は、漏洩伝送路5−2側へ切替え、現在選択されている漏洩伝送路の情報(5−2)を切替制御装置3へ返信する(S37)。
【0030】
次に無線基地局1が送信したビーコンは、漏洩伝送路5−2側が選択されている状態に切り替わったので、無線装置7−2が受信し(S38)、無線装置7−2は応答信号を返信する(S39)。これ以降、上述と同様な動作が繰り返される。
【0031】
フラグ値“1”の漏洩伝送路が2つあるため、切替制御装置3は、適宜、切替装置2へ切替制御信号を伝送し、漏洩伝送路の切替を行う。このような稼働状態の無線装置を収容する漏洩伝送路が複数ある場合の漏洩伝送路間の切替方法については後述する。
【0032】
次に、漏洩伝送路(アンテナ)間の切替間隔について説明する。
【0033】
一般に、無線LANでは送受信のプロトコルにTCP若しくはUDPが用いられる。TCPは、常にデータの伝達確認を行っており、転送途中の障害やデータの重複、紛失などがあっても再送処理により、正確な信頼性の高い送受信を行うことができる。これに対して、UDPは、フロー制御や再送信などのメカニズムがなく、信頼性に欠けるが、リアルタイム性が求められる場面で有効である。UDPを用いる代表的な機器として無線IP電話端末が想定され、第1の実施形態においても、異なる無線エリア間で安定した無線通信を行う必要がある。無線IP電話端末ではSIPサーバを介した方式が主流となっており、符号化方式とパケット送出周期によって伝送帯域が決定される。パケット送出周期は、10ミリ秒以上の10ミリ秒単位で設定できることが多い。
【0034】
ここで、無線装置7−1と無線装置7−2が無線IP電話端末とし、パケット送出周期が10ミリ秒で通話を行う場合を例に、図5を参照しながら、漏洩伝送路(アンテナ)間の切替間隔について説明する。なお、図5は、漏洩伝送路間の切替間隔が長すぎ、有効に通信ができない場合を示しており、このような不都合を解決するために、漏洩伝送路間の切替間隔について、後述するような条件が必要となる。ここで、漏洩伝送路の切替間隔は、切替制御装置3に設定されている情報である。
【0035】
図5において、符号PSは各無線装置7−1、7−2におけるパケット送出のタイミングを示しており、図5の例は、相前後するパケット送出タイミングの時間差であるパケット送出周期が10ミリ秒(10ms)である。例えば、各無線装置7−1、7−2はそれぞれ、自己のタイマに従って、パケットを送出しており、両無線装置7−1及び7−2のパケット送出タイミングは非同期である。
【0036】
また、図5において、網掛けの区間SELは、その無線装置7−1、7−2を自己の無線エリア6−1、6−2内に位置させている漏洩伝送路5−1、5−2の選択区間を示している。符号LOSは、漏洩伝送路選択区間SELの間に位置するパケットロス区間を表している。パケットロス区間LOSは、その区間に、無線装置7−1、7−2が送出したパケットが無線基地局1に到達できない区間である。
【0037】
各無線装置7−1、7−2はそれぞれ、10ミリ秒ごとのパケット送出タイミングPSで、音声データを含んだパケットを送出する。このパケット送出時において、対応する漏洩伝送路5−1、5−2が選択されていれば、問題なく無線通信を行うことができる。一方、対応する漏洩伝送路5−1、5−2が選択されていなかった場合においても、次のパケット送出タイミングまでに、対応する漏洩伝送路5−1、5−2に切り替わっていれば、無線区間でのパケットの再送が起こり、無線通信を行うことができる。
【0038】
しかし、対応する漏洩伝送路5−1、5−2が選択されていない期間において送出されたパケットは全て無線基地局1に到達できない。このようなパケットロスが生じれば、音声途切れなどが起こり、通話品質が劣化する。
【0039】
そのため、再送パケットのロスが発生しないように、再送パケットの送出までに確実に対応する漏洩伝送路を選択するようにしておく必要がある。この条件を、漏洩伝送路(アンテナ)の数をN、パケット送出周期をPミリ秒として、一般化すると、漏洩伝送路切替間隔(アンテナ切替間隔)はP/(N−1)ミリ秒以下という条件になる。例えば、漏洩伝送路(アンテナ)の数を2、パケット送出周期を10ミリ秒であれば、漏洩伝送路切替間隔を10/(2−1)=10ミリ秒以下にしなければならない。
【0040】
次に、無線エリア6−1内の無線装置7−1と無線エリア6−2内の無線装置7−2とが共に稼動状態にある場合における、切替制御装置3による漏洩伝送路の切替タイミングについて説明する。
【0041】
例えば、無線装置7−1又は7−2からの信号(パケット)を無線基地局1が受信している最中に漏洩伝送路を切替ると、パケットロスとなり、無線区間でのデータの再送信が必要になり、通信品質が劣化する。そのため、切替制御装置3は、複数のフラグがたっている場合(フラグ値“1”の場合)には、データ送信が無事に終わったことを示す、無線基地局1が受け取ったACKプロトコルの信号、又は、無線基地局1が送出したACKプロトコルの信号を、当該切替制御装置3へ伝送させ、パケットが宛先装置に届いた直後に漏洩伝送路を他方に切替える。
【0042】
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、分配装置を用いずに、2本の漏洩伝送路を択一的に選択して無線基地局に接続させるようにしたので、分岐ロスが生じることはなく、各漏洩伝送路の長さを、従来に比べ、削減された分岐ロス分だけ長くすることが可能となる。言い換えると、無線エリアを十分に拡大することができる。
【0043】
なお、各漏洩伝送路の長さを従来と同程度にした場合には、無線基地局等における送信電力の削減が期待できる。
【0044】
また、漏洩伝送路の切替間隔を短くしたことにより、漏洩伝送路の切替えにより形成される異なる無線エリアの無線装置間で通信を行うことも可能となる。
【0045】
さらに、パケットの送信終了を検知して漏洩伝送路を切替えるため、安定した良い品質で通信を行うことができる。
【0046】
(A−4)第1の実施形態の変形実施形態
図6は、第1の実施形態の一部を変形した変形実施形態を示すブロック図である。この変形実施形態の無線通信システム100Aは、切替装置2、切替制御装置3及び受信信号判別装置4−1、4−2を、無線基地局1に内蔵させたものである。
【0047】
第1の実施形態に比較し、無線基地局1周囲についての設置必要空間の削減を期待できる。
【0048】
(B)第2の実施形態
次に、本発明による無線通信システムの第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0049】
(B−1)第2の実施形態の構成
図7は、第2の実施形態に係る無線通信システム200の概略構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。図7は、1個の無線基地局1のアンテナとして機能する漏洩伝送路が4本の例を示している。
【0050】
図7において、無線通信システム200は、無線基地局1、切替装置2、切替制御装置3、受信信号判別装置4、漏洩伝送路5−1〜5−4、及び、無線装置7(7−1、7−2)を構成要素としている。
【0051】
第2の実施形態の無線通信システム200においては、漏洩伝送路5−1〜5−4の本数を除けば、受信信号判別装置4として1個だけが、しかも、切替装置2より無線基地局1に近い位置に設けられている点が、第1の実施形態と異なっている。また、切替制御装置3による切替制御機能も、第1の実施形態と異なっている。以上のような相違点については、後述する動作説明で明らかにする。
【0052】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態に係る無線通信システム200の各種動作を順に説明する。なお、以下では、図7に示すように、無線エリア6−1及び6−2内に稼働中の無線装置7−1、7−2が存在するとして説明する。
【0053】
まず、無線エリア6内に通信すべき無線装置7があるか否かを確認する初期動作について説明する。初期動作は、全ての漏洩伝送路5−1〜5−4の無線エリア6−1〜6−4内に、稼働中の無線装置(7)が存在するか否かを確認する動作であり、各漏洩伝送路5−1〜5−4を逐次選択させる動作を伴っている。
【0054】
各種装置1〜4の電源が入ると、切替制御装置3は、切替装置2へ漏洩伝送路5−1を選択するように制御信号を送信する。これにより、切替装置2は、漏洩伝送路5−1を選択し、無線エリア6−1が有効となる。その結果、無線エリア6−1内に位置している無線装置7−1は、無線基地局1から出力され、漏洩伝送路5−1から送出されたビーコンを受信し、応答信号を送信する。
【0055】
受信信号判別装置4は、この応答信号を受信し、稼動状態にある無線装置(7−1)が現在の処理対象の無線エリア(6−1)にあることを示すようにフラグ値を“1”にし(フラグをセットし)、切替制御装置3はこのフラグ値“1”を取り込む。切替制御装置3は、漏洩伝送路5−1が選択されているので、稼動状態の無線装置7−1があることを漏洩伝送路5−1について紐付けて記憶する。
【0056】
なお、図7の場合とは異なり、無線エリア6−1内に無線装置が位置していない場合には、切替制御装置3はフラグ値“0”を取り込むことになり、切替制御装置3は、稼動状態の無線装置がないことを漏洩伝送路5−1について紐付けて記憶する。
【0057】
漏洩伝送路5−1を選択させた処理が終了すると、切替制御装置3は、漏洩伝送路5−2に切替るように制御信号を切替装置2へ送信する。以下、漏洩伝送路5−1を選択した場合と同様な動作が実行され、切替制御装置3において、漏洩伝送路5−2の無線エリア6−2内に稼動状態の無線装置があるか否かの情報が漏洩伝送路5−2に紐付けられて記憶される。
【0058】
以下同様にして、他の全ての漏洩伝送路(5−3、5−4)について、その無線エリア(6―3、6−4)内に稼動状態の無線装置があるか否かが確認され、その情報が漏洩伝送路に紐付けられて記憶される。図8は、図7のように、無線エリア6−1、6−2内に無線装置7−1、7−2が存在し、無線エリア6−3、6−4内に無線装置が存在しない場合における記憶情報を示している。
【0059】
次に、第2の実施形態における漏洩伝送路の切替について図9を用いて説明する。切替制御装置3は、図8の記憶情報に従って、各漏洩伝送路5−1〜5−4を択一的に選択させる。なお、図9は、その示している期間では、漏洩伝送路5−3、5−4の無線エリア6−3、6−4内に無線装置が存在するような変化が生じなかった場合を示している。また、図9の「選択区間」は大雑把な区間であり、切替えは、パケットの送出タイミングなどを考慮して定められる。
【0060】
切替制御装置3は、無線エリア6−1、6−2内に稼動状態の無線装置7−1、7−2がある漏洩伝送路5−1、5−2の選択割合が高く、無線エリア6−3、6−4内に稼動状態の無線装置がない漏洩伝送路5−3、5−4の選択割合が低くなるように、切替装置2による切替を制御する。図9は、前者と後者とが5:1の割合の例である。
【0061】
無線通信を安定して品質良く行うため、無線エリア6−1、6−2内に稼動状態の無線装置7−1、7−2がある漏洩伝送路5−1、5−2が常に選択されていることが望ましい。しかし、漏洩伝送路5−3、5−4の無線エリア6−3、6−4においても、通信を行いたいときに通信を行える必要があるため、適宜無線装置の有無をチェックする必要がある。そのため、漏洩伝送路の切替は、稼動状態の無線装置7があるエリアの選択割合を大きくし、稼動状態の無線装置がないエリアの選択頻度を小さくするように制御する。
【0062】
次に、第2の実施形態における漏洩伝送路の切替間隔について説明する。なお、漏洩伝送路の切替間隔は、切替制御装置3に設定されている情報である。
【0063】
漏洩伝送路の切替間隔は、漏洩伝送路の制御方法に依存し、第1の実施形態で説明したように、パケットロスが発生しないように設定する。例えば、図9に示すようなフラグ値“1”の漏洩伝送路間を切替選択し、その後、フラグ値“0”の漏洩伝送路を全て選択するような制御方法の場合には、切替装置2に接続された漏洩伝送路(アンテナ)の個数をMとし、パケット送出周期をPミリ秒として、一般化すると、漏洩伝送路切替間隔(アンテナ切替間隔)はP/(M−1)ミリ秒以下にする。例えば、漏洩伝送路(アンテナ)の数が4、パケット送出周期が10ミリ秒であれば、漏洩伝送路切替間隔を10/(4−1)=10/3ミリ秒以下にする。
【0064】
漏洩伝送路を切替るタイミングについては、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0065】
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によっても、分配装置を用いていないので、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0066】
(B−4)第2の実施形態の変形実施形態
図10は、第2の実施形態の一部を変形した変形実施形態を示すブロック図である。この変形実施形態の無線通信システム200Aは、切替装置2、切替制御装置3及び受信信号判別装置4を、無線基地局1に内蔵させたものである。
【0067】
(C)第3の実施形態
次に、本発明による無線通信システムの第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0068】
図11は、第3の実施形態に係る無線通信システム300の概略構成を示すブロック図であり、第1の実施形態に係る図1や第2の実施形態に係る図7との同一、対応部分には同一、対応符号を付して示している。なお、図11は、1個の無線基地局1のアンテナとして機能する漏洩伝送路が4本の例を示している。
【0069】
図11において、無線通信システム300は、無線基地局1、切替装置2、漏洩伝送路5−1〜5−4、及び、無線装置7(7−1、7−2)を構成要素としている。すなわち、第3の実施形態の場合、切替制御装置3や受信信号判別装置4は設けられていない。
【0070】
第3の実施形態の切替装置2は、全ての漏洩伝送路5−1〜5−4が選択されるように漏洩伝送路5−1〜5−4を順次切替えるものである。すなわち、無線エリア6−1〜6−4に無線装置7が存在する漏洩伝送路5−1〜5−4であるか否かを確認せず、無線エリア6−1、6−2に無線装置7−1、7−2が存在する漏洩伝送路5−1、5−2か、無線エリア6−3、6−4に無線装置が存在しない漏洩伝送路5−3、5−4を区別することなく、同程度に選択させるものである。
【0071】
図12は、第3の実施形態の切替装置2による漏洩伝送路5−1〜5−4の選択方法(切替方法)を説明するタイミングチャートである。図12は、漏洩伝送路5−1〜5−4をこの順に巡回的に切り替える例を示している。
【0072】
第3の実施形態でも、漏洩伝送路の切替間隔は、切替装置2に接続された漏洩伝送路の個数をMとし、パケット送出周期をPミリ秒として、一般化すると、P/(M−1)ミリ秒以下にする。例えば、漏洩伝送路(アンテナ)の数が4、パケット送出周期が10ミリ秒であれば、漏洩伝送路切替間隔を10/(4−1)=10/3ミリ秒以下にする。このように漏洩伝送路の切替間隔を設定することにより、パケットロスを防ぐことができる。
【0073】
漏洩伝送路を切替るタイミングについては、第1の実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0074】
第3の実施形態によっても、分配装置を用いていないので、第1の実施形態と同様な効果を奏することができる。
【0075】
図13は、第3の実施形態の一部を変形した変形実施形態を示すブロック図である。この変形実施形態の無線通信システム300Aは、切替装置2を無線基地局1に内蔵させたものである。
【0076】
(D)他の実施形態
本発明は、上記各実施形態のものに限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態を挙げることができる。
【0077】
上記各実施形態では、漏洩伝送路が2本又は4本のものを示したが、漏洩伝送路の数がこれら本数に限定されないことは勿論である。
【0078】
また、上記各実施形態では、各漏洩伝送路の無線エリアが重複しない場合を示したが、漏洩伝送路の無線エリアが重複する無線通信システムに対しても、本発明を適用することができる。例えば、2本の漏洩伝送路が平行に対向し、漏洩伝送路間の中間において無線エリアが重複するような場合にも、本発明を適用することができる。この場合には、その中間領域に位置する無線装置は、いずれの漏洩伝送路が選択されていても通信を行うことができる。なお、そのときのアンテナ切替間隔については、漏洩伝送路の本数Mの代わりに、無線通信エリアの個数Lを適用し、P/(L−1)ミリ秒以下とする。
【0079】
さらに、上記各実施形態では、切替装置が無線基地局の近傍に設けられたものを示したが、無線基地局及び切替装置間にも、1本の漏洩伝送路が介在するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る無線通信システムのアンテナ切替動作に関するシーケンス図(その1)である。
【図3】第1の実施形態に係る無線通信システムのアンテナ切替動作に関するシーケンス図(その2)である。
【図4】第1の実施形態に係る無線通信システムのアンテナ切替動作に関するシーケンス図(その3)である。
【図5】第1の実施形態に係る無線通信システムにおける漏洩伝送路間の切替間隔を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】第1の実施形態についての変形実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態に係る無線通信システムの漏洩伝送路と対応する無線エリアの無線装置稼動状況を示す説明図である。
【図9】第2の実施形態に係る無線通信システムの漏洩伝送路の選択状態を示すタイミングチャートである。
【図10】第2の実施形態についての変形実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】第3の実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【図12】第3の実施形態に係る無線通信システムの漏洩伝送路の選択状態を示すタイミングチャートである。
【図13】第3の実施形態についての変形実施形態に係る無線通信システムの概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0081】
1…無線基地局、2…切替装置、3…切替制御装置、4、4−1、4−2…受信信号判別装置、5、5−1〜5−4…漏洩伝送路、6、6−1〜6−4…漏洩伝送路の無線エリア、7、7−1、7−2…無線装置、100、100A、200、200A、300、300A…無線通信システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線基地局と、当該無線基地局のアンテナとして作用する複数本の漏洩伝送路とを有する無線通信システムにおいて、
上記複数本の漏洩伝送路を択一的に選択させ、上記無線基地局に接続させる切替装置を備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
上記無線基地局への上り信号を監視し、対応する上記漏洩伝送路による無線エリア内に無線装置が存在するかを判別する、上記各漏洩伝送路のそれぞれに設けられた複数の受信信号判別装置と、
上記受信信号判別装置の判別結果に基づき、無線エリア内に通信すべき無線装置がある上記漏洩伝送路のみを使用するように、上記切替装置による切替を制御する切替制御装置と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
自己の無線エリア内に通信すべき無線装置のある上記漏洩伝送路の数をN、上記無線基地局が送出するパケット若しくは上記無線基地局へ送出するパケットの間隔をPとしたとき、上記漏洩伝送路間の切替間隔をP/(N−1)以下にしていることを特徴とする請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
上記無線基地局への上り信号を監視し、上記切替装置で選択されている上記漏洩伝送路による無線エリア内に無線装置が存在するかを判別する受信信号判別装置と、
上記切替装置によって選択される上記漏洩伝送路を逐次切り替えさせると共に、そのときの上記受信信号判別装置の判別結果を取り込み、無線エリア内に通信すべき無線装置がある上記漏洩伝送路と、無線エリア内に通信すべき無線装置がない上記漏洩伝送路とを把握し、通信すべき無線装置がある無線エリアに対応する上記漏洩伝送路の選択割合が高く、通信すべき無線装置がない無線エリアに対応する上記漏洩伝送路の選択割合が低くなるように、上記切替装置による切替を制御する切替制御装置と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
上記切替装置は、全ての上記漏洩伝送路を巡回的に選択することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項6】
上記漏洩伝送路の数をM、上記無線基地局が送出するパケット若しくは上記無線基地局へ送出するパケットの間隔をPとしたとき、上記漏洩伝送路間の切替間隔をP/(M−1)以下にしていることを特徴とする請求項4又は5に記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−21937(P2009−21937A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184522(P2007−184522)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】