説明

無線通信装置及び近距離無線通信回路の通信モード切り替え方法

【課題】相対的に通信可能距離が遠距離であり狭帯域を占有する通信モード(通常モード)と、通信可能距離が近距離であり広帯域を占有する通信モード(近接モード)との切り替えを可能とするとともに、広帯域を占有する近接モードでの利得周波数特性の劣化を抑制する。
【解決手段】通常モードから近接モードに切り替える場合に、バイパス路1005は、増幅回路1003及び1004を迂回する。さらに、インピーダンス素子1013は、近接モードに切り替える場合に信号経路上に接続され、バイパス路1005による増幅回路1003及び1004の迂回の有無によるリアクタンスの変化を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離無線通信を行う無線通信装置の通信モード制御に関する。
【背景技術】
【0002】
通信可能距離が数メートル〜数十メートル程度である近距離無線通信技術が知られている。例えば、ワイヤレスUSB(Wireless USB Specification Revision 1.0)は、通信距離10m程度をターゲットとしており、通信距離3mで通信速度480Mbit/s、通信距離10mで通信速度110Mbit/sを想定している。
【0003】
ワイヤレスUSBは、物理層の無線プラットフォームにUWB(Ultra Wide Band)を採用している。UWBは、3.1G〜10.6GHzという広帯域を使用し、半径20m以下の短距離で、数100Mbit/s以上の通信速度を実現する。例えば、米国FCC(Federal Communication Committee)が定めるUWBスペクトルマスクでは、3.1G〜10.6GHzにおける送信電力密度の許容値(上限値)は−41.3dBm/MHzである。UWBの変調方式として、インパルス無線方式、MB−OFDM(MultiBand-Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式、PSK変調による直接拡散を行うDS(Direct Sequence)−UWB方式などが提案されている。MB−OFDM UWB方式の通信装置については、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
また、最近では、通信可能距離を数センチメートル程度の近接領域に制限した無線通信方式も提案されている。例えば、TransferJet(登録商標)は、通信可能距離として3cm以内という近接領域を想定した広帯域無線通信方式である。TransferJetを提案するTransferJetコンソーシアム(http://www.transferjet.org/en/index.html)の発表によれば、TransferJetは、マイクロ波帯(中心周波数4.48GHz)を使用し、平均送信電力を−70dBm/MHz以下とし、通信距離3cm以内で最大通信速度560Mbit/sである。
【特許文献1】国際公開第2008/056616号パンフレット
【特許文献2】特開平6−303154号公報
【特許文献3】特開平9−148852号公報
【特許文献4】特開平10−150429号公報
【特許文献5】特開2002−185354号公報
【特許文献6】特開2005−86738号公報
【特許文献7】特開2007−318325号公報
【特許文献8】特開2007−258904号公報
【特許文献9】特表2008−530959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者は、上述したMB−OFDM UWB方式等による近距離無線通信(例えば約10m以内)を行う通常モードと、より近接した領域(例えば数cm以内)で無線通信を行う近接モードとの間で動作モードを切り替え可能な無線通信装置の実現妥当性に関して検討を行った。例えば通常モードでは、UWB基準に従って送信電力密度を−41.3dBm/MHz以下とし、MB−OFDM方式に従って528MHzの占有帯域幅を用いて通信を行うことが考えられる。一方、近接モードでは、平均送信電力を−70dBm/MHz以下とすればよい。これにより、通信可能領域を数cm以内の至近距離に制限できる。さらに送信電力密度が−70dBm/MHz以下であれば、周波数利用に関する法的規制の適用を回避できる可能性がある。この場合、近接モードでは、500MHzを超える広帯域を用いた通信を行うこともでき、情報伝送速度の高速化が期待できる。
【0006】
上述したような通常モードから近接モードへの切り替えを可能とするためには、送信電力利得を約30dB低下させる必要がある。本願の発明者は、送信利得を約30dB低下させるために、送信信号を増幅するための複数の増幅器の一部を迂回する構成について検討した。この検討の結果、近接モード時に送信電力を低下させるだけでなく占有帯域幅を広げる場合、単に増幅器を迂回するのみでは問題があることが分かった。すなわち、低電力送信時に増幅器を迂回するのみでは、送信信号に対する利得の偏差が増幅器のリアクタンスの変化によって増大するため、広帯域にわたって平坦な利得周波数特性を得ることが困難である。ここで、利得の偏差とは所望帯域内における送信信号の最大値と最小値の差分を示している。
【0007】
UWBに関するものではないが、特許文献2〜6は、送信用の増幅器を迂回する迂回路を有する無線通信装置を開示している。これらの文献に開示された無線通信装置は、低電力動作時に増幅器を迂回することで送信電力を低下させる。しかしながら、特許文献2〜6は、送信電力の微調整または省電力化を主目的としており、低電力送信時に占有帯域幅を拡張することは想定していない。よって、特許文献2〜6は、低電力送信時の利得周波数特性を補償する機構について何ら開示していない。
【0008】
本発明は、上述した検討に基づいてなされたものであって、相対的に通信可能距離が遠距離であり狭帯域を占有する通信モード(通常モード)と、通信可能距離が近距離であり広帯域を占有する通信モード(近接モード)との切り替え機能を有し、広帯域を占有する近接モードでの利得周波数特性の劣化を抑制可能な無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様にかかる無線通信装置は、第1の通信モードと、前記第1の通信モードに比べて低い平均送信電力及び広い占有帯域幅を使用することによって前記第1の通信モードに比べて通信可能距離が短く且つ伝送速度が大きい第2の通信モードとの間で動作モードを切り替え可能な近距離無線通信回路を有する。さらに、前記近距離無線通信回路は、少なくとも1段の増幅回路、バイパス路、及び補正回路を有する。前記少なくとも1段の増幅回路は、送信信号を増幅する。前記バイパス路は、前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、前記少なくとも1段の増幅回路のうち少なくとも1つを迂回する。前記補正回路は、前記少なくとも1段の増幅回路及び前記バイパス路を含む前記近距離無線通信回路における送信信号の伝搬経路に接続される。さらに、前記補正回路は、前記バイパス路の回路動作の有無によるリアクタンスの変化を補償するリアクタンス素子を含む。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の通信モードと第2の通信モードとの間でモード切り替え可能な近距離無線通信回路の通信モード切り替え方法である。ここで、第2の通信モードは、第1の通信モードと、前記第1の通信モードに比べて低い平均送信電力及び広い占有帯域幅を使用することによって前記第1の通信モードに比べて通信可能距離が短く且つ伝送速度が大きい通信モードである。当該方法は、以下のステップ(a)及び(b)を含む。
(a)前記第1の通信モードから前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、前記近距離無線通信回路に含まれる少なくとも1段の送信用増幅回路のうち少なくとも1つをバイパス路よって迂回することで送信電力を低減するステップ、及び
(b)前記第1の通信モードから前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、リアクタンス素子を含む補正回路を制御することで、前記バイパス路の回路動作の有無によるリアクタンスの変化を補償するステップ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、相対的に通信可能距離が遠距離であり狭帯域を占有する通信モード(通常モード)と、通信可能距離が近距離であり広帯域を占有する通信モード(近接モード)との切り替えが可能となるとともに、広帯域を占有する近接モードでの利得周波数特性の劣化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下では、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0013】
<発明の実施の形態1>
本実施の形態にかかる無線通信装置1は、通常モードと近接モードとの間で通信モードを切り替え可能である。通常モードは、相対的に通信可能距離が遠距離(例えば約10m以内)であり狭帯域を占有する無線通信を行う通信モードである。一方、近接モードは、通常モードに比べてより近接した領域(例えば数cm以内)で広帯域を占有する無線通信を行う通信モードである。
【0014】
図1は、無線通信装置1の構成例を示すブロック図である。図1において、近距離無線通信回路10は、通信相手装置との間で近距離無線通信を行うための無線インタフェースである。近距離無線通信回路10は、メモリ(不図示)から送信データを取得し、MAC(Media Access Layer)フレームの生成、変調、D/A変換、周波数変換、信号増幅等の各処理を行って得られた送信信号をアンテナ11に出力する。また、近距離無線通信回路10は、アンテナ11によって受信された無線信号を入力し、信号増幅、周波数変換、A/D変換、復調等の各処理を行って得られる受信データをメモリ(不図示)に格納する。
【0015】
また、近距離無線通信回路10は、通信速度および通信速度の異なる少なくとも2つの通信モード(通常モードおよび近接モード)で動作する。通常モードは、近距離無線通信(例えば約10m以内)を行う動作モードである。一方、近接モードは、通常モードに比べてより近接した領域(例えば数cm以内)で無線通信を行う通信モードである。
【0016】
制御部12は、無線通信装置1の全体制御をおこなうと共に、近距離無線通信回路10を用いた通信相手装置との間のデータ送受信を制御する。より具体的に述べると、制御部12は、通常モードと近接モードの間での通信モードの切り替えを制御する。
【0017】
続いて以下では、近距離無線通信回路10における通常モードと近接モードの切り替えの具体例について説明する。例えば、近距離無線通信回路10がMB−OFDM方式のUWB通信回路である場合、通常モードおよび近接モードの無線パラメータはそれぞれ図3(a)及び(b)に示すように設定すればよい。図3(a)は、通常モードの無線パラメータの一例を示している。一方、図3(b)は、近接モードの無線パラメータの一例を示している。図3(a)及び(b)において、送信フレーム40は、UWBのMACレイヤで生成される送信フレームを示している。送信フレーム40は、プリアンブル及びヘッダ41、ペイロード42を含む。
【0018】
通常モードに関する図3(a)の例では、3.1G〜10.6GHzの周波数帯に含まれる1つのサブバンドf1(528MHz幅)に含まれる複数のサブキャリアを使用してOFDMによる多チャネル伝送を行う。通常モードでは、近接モードに比べて相対的に高い送信電力密度に設定する。例えば、図3(a)に示すように平均送信電力−41.3dBm/MHz以下となるよう送信電力密度を制御すればよい。また、通常モードでは、同一バンドグループに属する複数のサブバンドf1、f2及びf3の間で周波数ホッピングを行ってもよい。このようなUWB通信回路の具体例については、特許文献1に詳細に記載されている。
【0019】
一方、近接モードの場合、複数のサブバンドを同時に使用すればよい。図3(b)の例では、3つのサブバンドf1、f2及びf3を同時に使用し、これら3バンドに含まれるサブキャリア群を使用してOFDMによる多チャネル伝送を行う。つまり、図3(b)の例では、通常モードに比べて約3倍の占有帯域幅(約1.6GHz幅)を利用することでデータ送信レートの高速化を実現する。また、近接モードでは、通常モードに比べて低い送信電力密度に設定する。例えば、図3(b)に示すように平均送信電力−70dBm/MHz以下となるよう送信電力密度を制御すればよい。これにより、通信可能領域を近接領域(例えば数cm以内)に制限できる。
【0020】
図2は、MB−OFDM方式を採用した場合の近距離無線通信回路10の構成例を示すブロック図である。アナログフロントエンド(AFE)100は、D/Aコンバータ(DAC)109から供給される送信信号に対する周波数変換(アップコンバート)及び信号増幅を行い、得られた無線信号をアンテナ11に出力する。また、AFE100は、アンテナ11によって受信された無線信号に対する増幅処理及び周波数変換(ダウンコンバート)を行ない、得られたベースバンド信号又はIF(Intermediate Frequency)信号をA/Dコンバータ(ADC)101に供給する。
【0021】
ADC101、FFT(Fast Fourier Transform)部102、デマッピング部(DE-MAPPER)103及び復号化部(DECODER)104は、受信信号に対する処理回路である。ADC101は、受信信号のデジタルサンプリングを行う。FFT部102は、サンプリング後の受信信号に対するFFT演算を実行することによってOFDM復調を行う。デマッピング部103は、FFT演算によって得られた各サブキャリアの受信シンボル(位相・振幅情報)から送信データを復元し、パラレル‐シリアル変換を行って復号化部104に供給する。復号化部104は、デマッピング部103によって復元されたデータ列に対する逆スクランブル処理、誤り訂正等を行った後にMAC部105に供給する。
【0022】
MAC部105は、UWB MACフレームの生成・分解、MACレイヤ制御を実行する。送信側の符号化部(CODER)106、マッピング部(MAPPER)107、IFFT(Inverse FFT)部108、DAC109は、上述した受信側の処理部(ADC101、FFT部102、デマッピング部103及び復号化部104)の逆処理を行う。
【0023】
図2に示した構成例では、例えば、AFE100又はADC101において得られるRSSI(Received Signal Strength Indicator)、デマッピング部103において得られるLQI(Link Quality Indicator)、及び復号化部104において得られる符号誤り率(BER:Bit Error Rate)を受信信号の通信品質情報として取得可能である。これらの通信品質情報は、通信相手装置との間の通信距離に相関を有しているため、通信相手装置との間の近接モードによる通信可否の判定に利用することができる。例えば、制御部12は、通常モードでの通信品質を監視し、近接モードによる通信が可能な程度に通信品質が良好であると判定される場合に、近接モードへの切り替えを実行すればよい。
【0024】
以上、図1に示した近距離無線通信回路10の構成と動作モード切り替えの具体例について説明した。なお、図3(a)及び(b)に示した動作モードの切り替えは一例に過ぎない。例えば、図3(a)および(b)では、近接モードにおける占有帯域幅を通常モードの3倍以外としてもよい。また、近距離無線通信回路10は、MB−OFDM方式に限定されるものではなく、インパルス無線及びDS−UWB等の他のUWB通信回路であってもよいし、その他の近距離無線通信回路であってもよい。
【0025】
次に、通信モードの切り替えに応じて無線通信回路10の送信電力を増減させるためのAFE100の構成例について説明する。図4は、AFE100の構成例を示すブロック図である。なお、図4は、AFE100に含まれる送信側の構成要素を示している。
【0026】
図4において、ミキサ1001は、DAC101から供給される送信信号をローカル発振器(不図示)により生成されるローカル周波数信号と乗算することによって、送信信号周波数をUWBのキャリア周波数帯域までアップコンバートする。
【0027】
3段の増幅回路1002、1003及び1004は、ミキサ1001より出力されるアップコンバート後の送信信号を順次増幅し、増幅後の信号をアンテナ11に出力する。
【0028】
図4に示すバイパス路1005は、中段及び最後段の増幅回路1003及び1004を迂回して送信信号をアンテナ11に供給するための線路である。バイパス路1005の一端(接続点1010)は、増幅回路1002と1003の間に接続されており、バイパス路1005の他端(接続点1012)は、AFE100の出力端OUTに接続されている。
【0029】
バイパス路1005には、スイッチ1006が配置されている。スイッチ1006がONすることで、増幅回路1004をバイパスして増幅回路1003とアンテナ11の間を接続する線路が形成される。バイパス路の形成によって増幅回路1004による信号増幅が省略されるため、無線通信装置1の送信電力を低下させることができる。つまり、スイッチ1006のON/OFF制御によって、無線通信装置1の送信電力を調整できる。
【0030】
スイッチ1007は、増幅回路1003に対するバイアス電流Iを遮断可能である。同様に、スイッチ1008は、増幅回路1004に対するバイアス電流Iを遮断可能である。スイッチ1007及び1008のON/OFFは、上述したスイッチ1006のON/OFFと相補的に動作させればよい。つまり、スイッチ1006がONして増幅回路1003及び1004がバイパスされる場合に、スイッチ1007及び1008をOFFすればよい。これにより、信号増幅に寄与しない増幅回路1003及び1004に供給されるバイアス電流を遮断でき、消費電力を低減することができる。
【0031】
なお、図4の構成例では、増幅回路1003及び1004のバイアス電流を遮断するためのスイッチ1007及び1008を示したが、バイアス電流は必ずしも完全に遮断する必要はない。つまり、増幅回路1003及び1004をバイパスする際に、これらに対するバイアス電流を通常モード時(非バイパス時)に比べて減少させてもよい。
【0032】
コンデンサ1009及び1011は、直流カット用のカップリングコンデンサである。図4の構成例では、カップリングコンデンサ1009の後にバイパス路1005の一端(接続点1010)を接続している。また、カップリングコンデンサ1011の後にバイパス路1005の一端(接続点1012)を接続している。このような構成によって、スイッチ1006をFET(Field Effect Transistor)スイッチとする場合に、FETスイッチの動作点を低くすることができる。なお、カップリングコンデンサ1009及び1011と接続点1010及び1012の配置は入れ替えてもよい。例えば、コンデンサ1011の前にバイパス路1005の一端(接続点1012)を接続してもよい。この場合、スイッチ1006の動作点調整のために、増幅回路1004及び1004をバイパスする際には、増幅回路1003及び1004に対する電源電圧の供給を遮断するとよい。
【0033】
さらに、AFE100は、インピーダンス素子1013及び1014を有する。インピーダンス素子1013及び1014は、増幅回路1003及び1004をバイパスすることに伴う増幅回路1003及び1004のインピーダンスの変化を補正する補正回路である。増幅回路1002の出力側に接続されたインピーダンス素子1013は、通常モード時から近接モードに切り替える際に増幅回路1003及び1004のインピーダンス(主としてリアクタンス成分)を変化させることで、利得周波数特性の劣化を補償する。インピーダンス素子1014は、通常モード時から近接モードに切り替える際にインピーダンス(主として抵抗成分)を変化させることで、近接モード時のインピーダンス整合を行う。インピーダンス素子1013及び1014によるインピーダンス変更は、制御部12によって制御される。この制御は、バイパス路1005による増幅回路1003及び1004のバイパス動作と連動して行われる。
【0034】
図5は、AFE100に含まれるスイッチ1006及びインピーダンス素子1013及び1014のより具体的な構成例を示している。なお、図5では、増幅回路1003及び1004のバイアス電流を制御するためのスイッチ1007及び1008の図示を省略している。図5の例では、スイッチ1006は、FETスイッチとされている。また、インピーダンス素子1013は、容量性リアクタンス素子としてのコンデンサ1015と、制御用のFETスイッチ1016を含む。FETスイッチ1016は、制御部12によって制御される。FETスイッチ1016は、送信信号がバイパス路1005を通過する近接モード時にONする。
【0035】
制御部12は、スイッチ1006をONする際に、FETスイッチ1016も併せてONすればよい。なお、スイッチ1006をFETスイッチとし、当該FETスイッチのゲート閾値電圧をFETスイッチ1016のゲート閾値電圧と実質的に同一とすれば、2つのFETスイッチのON/OFFを容易に同調させることができる。近接モード時にFETスイッチ1016がONし、コンデンサ1015に信号が流れることによって共振点が移動する。このため、AFE100出力の利得偏差を補正することができる。一方、通常モード時には、FETスイッチ1016がOFFし、コンデンサ1015に信号が流れない。このため、インピーダンス素子1013が送信信号に影響を与えることはない。
【0036】
なお、FETスイッチ1016の動作点の関係から、FETスイッチ1016は図5に示すようにコンデンサ1015の下に配置するとよい。また、図5に示すFETスイッチ1016の配置であれば、近接モード時のFETスイッチ1016のオン抵抗が送信信号に影響を与えないという利点もある。
【0037】
コンデンサ1015の静電容量は、以下のように決定するとよい。ここでは、インピーダンス素子1013から見て後段に配置された増幅回路1003の動作を近接モード時に停止させる場合を考える。近接モード時に増幅回路1003を停止させると、増幅回路1002側から見た次段の入力容量が低下する。これは、通常モードでは増幅回路1003のゲート−ドレイン間容量CgdがMiller効果によってg倍されるのに対して、増幅回路1003を停止するとこの効果が消えるためである。よって、コンデンサ1015の静電容量は、ミラー効果の消失による静電容量の減少分を補償する値に決定すればよい。これにより、広帯域を占有する近接モード時の利得周波数特性の劣化を抑制することができる。
【0038】
図5の例では、インピーダンス素子1014は、インピーダンス整合用の抵抗1017、直流電流阻止のためのコンデンサ1018、制御用のFETスイッチ1019を含む。FETスイッチ1019は、制御部12によって制御される。FETスイッチ1019は、送信信号がバイパス路1005を通過する近接モード時にONする。FETスイッチ1019がONすることで、抵抗1017によるインピーダンス整合が行われる。広帯域増幅回路では、抵抗成分を利用するほうがリアクタンス成分を利用するよりも広い周波数帯域わたるインピーダンス整合を得やすい。
【0039】
抵抗1017の抵抗値は、以下のように決定するとよい。ここでは、インピーダンス素子1014から見て前段に配置された増幅回路1004の動作を近接モード時に停止させる場合を考える。近接モード時に増幅回路1004内の出力段のトランジスタ(不図示)をオフにすると、通常、出力−接地間に入るドレイン抵抗が消失する。これによりインピーダンスの整合が崩れる。このため、抵抗1017の大きさは、消失したドレイン抵抗を補う値に決定すればよい。また、直流電流を阻止して消費電流の増加を抑えるためのコンデンサ1018は、所望周波数範囲において抵抗1017に比べてインピーダンスが十分に小さいものを選択すればよい。
【0040】
ところで、図5に示したインピーダンス素子1013及び1014の回路構成は一例に過ぎない。例えば、インピーダンス素子1013を可変コンデンサ1つで構成してもよい。また、インピーダンス素子1013を複数のコンデンサと複数のFETスイッチを用いる構成としてもよい。また、送信信号の周波数特性(利得偏差)の補正に寄与するコンデンサだけでなく、コンデンサと並列に抵抗を配置してもよい。このようなコンデンサと抵抗の並列構成によれば、Sパラメータ(Scattering Parameter)の1つであるS11を補正することができる。無論この抵抗は可変抵抗であってもよい。このようにインピーダンス素子1013は、周波数特性だけでなくSパラメータなどの他の特性も補正可能できるよう構成してもよい。図6(a)は、RLC直列回路として構成されたインピーダンス素子1013の例である。図6(b)は、RLC並列回路として構成されたインピーダンス素子1013の例である。なお図4〜6では、抵抗、コンデンサ、インダクタを集中定数回路として表示しているが、UWB信号等の高周波信号を伝送する場合にはこれと等価な分布定数回路を設ければよい。
【0041】
また、インピーダンス素子1013及び1014の接続位置は図4、5及び7に示した位置に限定されるものではない。例えば、インピーダンス素子1013及び1014は、バイパス路1005に接続されてもよい。
【0042】
スイッチ1006、1007及び1008のON/OFF制御と、インピーダンス素子1013及び1014の制御は、上述した制御部12が通信モードの切り替えに応じて制御信号を出力することによって行えばよい。また、制御部12は、近接モードでの送信電力を所望の値(例えば、−70dBm/MHz以下)とするために、バイパスされない増幅回路1002のゲインを通常モードに比べて低減させてもよい。
【0043】
なお、図4及び5は、合計3段の増幅回路1002〜1004を含む回路構成を示しているが、増幅回路の段数は少なくとも1段であればよい。また、図4及び5に示すように複数段の増幅回路を有する回路構成では、近接モード選択時に少なくとも1段の増幅回路をバイパスすればよい。
【0044】
また、通常モード時の送信電力調整を容易とするため、増幅回路1003及び1004を図7に示すように構成してもよい。図7は、AFE100の他の構成例を示すブロック図である。図7中の増幅回路1003は、並列に配置された2つの増幅要素601及び602を含む。増幅要素601及び602によって増幅された信号は合成点603で加算される。同様に、図7中の増幅回路1004は、並列に配置された2つの増幅要素604及び605を含み、増幅された信号は合成点606で加算される。通常モード時に送信電力を低減する場合には、増幅回路1003が有する一方の増幅要素601のバイアス電流を減少さればよい。一方の増幅要素601を完全に停止すると増幅回路1003の利得が半分になるため、6dBだけ送信電力を低下させることができる。さらに、増幅回路1004に含まれる一方の増幅要素604も停止させると合計で12dBだけ送信電力を低下させることができる。
【0045】
上述したように、無線通信装置1は、通常モードと近接モードの間の送信電力差を大きくするために、通常モードから近接モードへの切り替えに応じて送信用の増幅回路の少なくとも一部をバイパスして送信信号をアンテナ11に供給する。
【0046】
さらに、無線通信装置1は、増幅回路がバイパスされる低電力出力時における利得偏差の増大を抑制するために、リアクタンス成分を含むインピーダンス素子1013によるインピーダンスの変更をバイパス路1005の制御と連動して行う。
【0047】
これにより、無線通信装置1は、送信電力−40dBm/MHz程度で遠距離・狭帯域(例えば500MHz)通信を行う通信モード(通常モード)と、送信電力−70dBm/MHz程度で近距離・広帯域(例えば1.5GHz)通信を行う通信モード(近接モード)の切り替えることができ、広帯域を占有する近接モードでの利得周波数特性の劣化を抑制することができる。
【0048】
<発明の実施の形態2>
図8は、本実施の形態にかかる無線通信装置が有するAFE200の送信側構成を示すブロック図である。なお、AFE200を除いて、本実施の形態にかかる無線通信装置の全体構成は、上述した無線通信装置1と同様とすればよい。なお、図8では、増幅回路1003及び1004のバイアス電流を制御するためのスイッチ1007及び1008の図示を省略している。
【0049】
AFE200は、上述したAFE100と比べてバイパス路1005の構成が異なる。AFE200のバイパス路1005には、減衰回路2001が配置されている。また、図8の構成例では、減衰回路2001の前後に2つのスイッチ1006A及びBが配置されている。スイッチ1006A及びBは、通常モード時にOFFし、近接モード時にONする。バイパス路1005の入り口側と出口側にそれぞれスイッチを設けることで、減衰回路2001が通常モード時の特性に影響を与えることを抑制できる。また、2つのスイッチを設けることで入出力間のアイソレーションを大きくできる。これにより、接続点1012からバイパス路1005を伝搬して接続点1010へ流れる帰還信号を阻止することができるため、発振を防止する効果もある。
【0050】
図8の構成例では、減衰回路2001は、FET2002を含む。FET2002は、スイッチ1006Aと1006Bの間の接続点2003においてバイパス路1005に接続されている。FET2002が、近接モード時にONすることで、FET2002のオン抵抗の値に応じてバイパス路1005を伝搬する信号が減衰する。比較的高抵抗が必要な場合には図8に示すように減衰回路2001としてFET2002を用いるとよい。FETを用いることで高抵抗を得やすい。なお、比較的低抵抗でよいときや精度の良い抵抗が必要な場合には、FET2002に代えて受動部品を用いればよい。
【0051】
また、図8に示すようにFET2002を用いる場合、FET2002は通常モード時にONしてもよい。例えば、図8に示すようにスイッチ1006A及びBがFETスイッチである場合、FETのドレイン−ソース間容量Cds等が存在するために、上述した帰還信号を完全に阻止することは困難である。しかしながら、スイッチ1006A及びBがOFFする通常モード時にFET2002がONすることによって、帰還信号を接続点2003からグランドへ逃がすことができるため、接続点1010へ流れる帰還信号を効果的に減少させることができる。FET2002のオン抵抗を低めに設定しておけばより効果的である。FET2002のオン抵抗は、ゲート電圧を変化させることによって、通常モード時と近接モード時とで変化させてもよい。
【0052】
このように、減衰回路2001に含まれるFET2002を近接モード時及び通常モード時にともにONすることで、減衰回路2001は2つの役割を果たすことができる。すなわち、近接モード時において、減衰回路2001は、バイパス路1005を伝搬する信号を減衰させる役割を果たす。一方、通常モード時には、減衰回路2001は、バイパス路1005を通って増幅回路1003の入力側に信号が帰還するのを妨げる役割を果たす。
【0053】
図8の構成例では、スイッチ1006A及びBと減衰回路2001としてNMOSトランジスタを用いている。PMOSトランジスタの使用を抑えることで、寄生容量を小さくできる。
【0054】
近接モード時に増幅回路をバイパスするのみでは送信信号電力を所望のレベル(例えば−70dBm/MHz)まで低下させることができない場合や、増幅回路1002のバイアス電流を低くしすぎると利得偏差などの特性が劣化する場合がある。これらの場合に、減衰回路2001が接続されたバイパス路1005を用いるとよい。なお、上述したように、減衰回路2001は、通常モード時にバイパス路1005を通る帰還信号を阻止する役割を有する。よって、近接モード時に減衰回路2001による減衰動作が不要である場合であっても、減衰回路2001が接続されたバイパス路1005を用いてもよい。この場合、減衰回路2001は、通常モード時にONし、近接モード時にOFFすればよい。
【0055】
なお、AFE200におけるインピーダンス素子1013及び1014の接続位置は図8に示した位置に限定されるものではない。例えば、インピーダンス素子1013及び1014は、減衰回路2001とともにバイパス路1005上のスイッチ1006A及びBの間に接続されてもよい。この場合、インピーダンス素子1013及び1014はスイッチ機能を有する必要はなく、減衰回路2001と同様に受動部品のみで構成してもよい。
【0056】
<発明の実施の形態3>
図9は、本実施本実施の形態にかかる無線通信装置3の構成を示すブロック図である。無線通信装置3は、無線通信装置1と同様に通常モードと近接モードの間で切り替え可能な近距離無線通信回路10を有する。さらに、無線通信装置3は、通信モードを切り替える際の通信途絶を抑制するため、通常モードから近接モードに切り替える際に過渡的な遷移モードを経由する。遷移モードとは、装置間の同期確立のための無線信号を通常モードで送信し、送信データを含む無線信号を近接モードで送信する通信モードである。制御部32は、遷移モードを経由した通信モードの切り替えを制御する。
【0057】
続いて以下では、制御部32の制御に基づいて実行される通常モードから近接モードへの移行手順の具体例について図10〜15を用いて説明する。図10は、通常モードから近接モードへの移行手順を説明するための無線通信装置3A及び3Bの配置例を示す図である。図10に示すように、通常モードによる通信が可能で近接モードによる通信が不可能な領域(例えば約10m以内)を"通常モード通信領域"と呼ぶ。近接モードによるデータ送受信が可能な"領域(例えば数cm以内)を"近接領域"と呼ぶ。また、"近接領域"と"通常モード通信領域"との間の中間的な領域を"中間領域"と呼ぶ。
【0058】
通常モード通信領域では、装置3B及び3Aは通常モードで通信を行う。すなわち、装置3Aは、装置3Bから通常モードで送信される無線信号を受信し、これの受信品質を計測する。図11は、"通常モード通信領域"での装置3A及び3Bの送信信号を示す図である。図11において、ビーコン信号71及び72は、装置1A及び1Bの間で同期を確立するために送受信される信号である。ビーコン信号71及び72は、プリアンブル73、ヘッダ74及びペイロード75を含む。図11中において、"BP"はビーコン期間(Beacon Period)、"DP"はデータ期間(Data Period)である。なお、図11は、近距離無線通信回路10をUWB通信回路とした場合の例である。図11に示すように、装置3A及び3Bは、相互にビーコン信号71及び72を送信し、スーパーフレームの同期を確立する。ここで、スーパーフレームとは、UWB MACで規定されている送信フレームであり、1スーパーフレーム期間は65.536msである。スーパーフレームは、256個のMAS(Medium Access Slot)に分割されている。1MAS期間は256μsである。スーパーフレームの先頭部分は、スーパーフレームの同期確立、各種制御信号の転送のために使用されるビーコン信号の送信期間(ビーコン期間と呼ばれる)として割り当てられている。
【0059】
さらに、装置3Bは、ビーコン期間以外のMASを利用して、通常モードでデータ信号76を送信する。データ信号76は、装置3Bから3Aへの送信データを含む信号である。このとき、データ信号76の送信タイミングは、ビーコン信号71によって指定するとよい。
【0060】
通常モード通信領域では、装置3Aは、装置3Bから送信されるビーコン信号71を受信し、ビーコン信号71の受信品質を計測する。ビーコン信号71の受信品質としては、例えば、プリアンブル73のRSSI、ペイロード75のRSSIを計測すればよい。装置3Aは、装置3Bからデータ期間中に送信されるデータ信号76の受信品質を測定してもよい。なお、受信品質の測定は、上述したRSSI、LQI及びBERのいずれか1つのみではなく、2つ以上の指標について行うとよい。本実施の形態では、RSSI、LQI、BER等の受信品質の測定値を指標として装置3A及び3Bの距離(接近度)を判定する。一般的にRSSIが大きくなるにつれて装置3A及び3Bの距離が近づいていると評価できる。しかしながら、ノイズ電力を測定している場合には、装置3A及び3Bの距離(接近度)とRSSIとの相関が低下する。また、一般的に装置間距離が徐々に近づくとBERが改善するが、受信側の装置のダイナミックレンジを超えるほど装置間距離が近すぎる場合には逆にBERが悪化する。このため、例えば復号化後のBERの測定とRSSI測定を併用するとよい。
【0061】
図12は、"中間領域"での装置3A及び3Bの送信信号を示す図である。中間領域では、装置3A及び3Bは、通常モードでビーコン信号71及び72の送信を行う。さらに、装置3Bは、ビーコン期間以外のMASを利用して、近接モードでデータ信号76を送信する。このとき、近接モードによるデータ信号76の送信タイミングは、ビーコン信号71によって指定するとよい。図12に示した例では、装置3Aは、近接モードで送信されるデータ信号76の受信品質を計測することによって、装置3A及び3Bの接近度を判定すればよい。
【0062】
図12に示したように、ビーコン信号71及び72を通常モードで送信することによって、装置3A及び3Bがビーコン信号の受信に失敗する可能性が小さくなり、スーパーフレームの同期状態を維持することができる。また、通常モードで送信されるビーコン信号を利用してデータ信号76の送信タイミングを通知することによって、データ信号76の送信タイミングを装置3Aに確実に伝達できる。
【0063】
図13は、"近接領域"での装置3A及び3Bの送信信号を示す図である。図13の例では、ビーコン信号71及び72も近接モードで送信される。また、装置3Bは、ビーコン期間以外のMASを利用して、近接モードでデータ信号76を送信する。このとき、図13に示すように、スーパーフレーム内のビーコン期間を除くMASを可能な限り近接モードでのデータ送信に利用するとよい。これによって、オーバーヘッド(データ送信に寄与しない時間)を減らし、実行データ送信レートを向上させることができる。なお、近接モードの送信電力を−70dBm/MHz以下とし、3.1G〜10.6GHzに含まれる周波数帯域を利用することによって通信可能距離は数cm以内に限定されるため、図13に示すようにビーコン期間を除くMASの大部分を占有しても周囲の通信装置に影響を与える可能性は小さい。
【0064】
次に、装置3A及び3Bの間で実行される通信モードの切り替え処理の具体例について、図14のシーケンス図を参照しながら説明する。なお、図14では、近接モードによるデータ転送時の受信側を装置3A、送信側を装置3Bとしている。
【0065】
ステップS101では、装置3A及び3Bが、各々が有する制御部32による制御に基づき、近距離無線通信回路10を用いて通常モードで接続する。
【0066】
ステップS102では、装置3Bが装置3Aに対してデータ信号76を通常モードで送信する。ステップS103では、装置3Aが中間領域に移動したか否かを判定する。当該判定は、装置3Bから送信されるデータ信号76又はビーコン信号71の装置3Aにおける受信品質を用いて行えばよい。
【0067】
中間領域への移動が検出された場合(ステップS103でYES)、装置3Aは遷移モードへの切り替え要求を装置3Bに送信する(ステップS104)。モード切り替え要求を受信した装置3Bは、ビーコン信号71の送信を通常モードで行い、送信データを含むデータ信号76の送信を近接モードで行うよう送信処理を切り替える(ステップS105)。当該送信処理は、図12に示した中間領域での送信処理に相当する。
【0068】
ステップS106では、装置3Aが近接領域に移動したか否か、言いかえると、装置1Aは、近接モードによるデータ受信の可否判定を行う。当該判定は、装置3Bから近接モードで送信されるデータ信号76の装置3Aにおける受信品質を用いて行えばよい。
【0069】
ステップS106にて近接モードによるデータ受信が可能と判定された場合、装置3A及び3Bは、近接モードによるデータ転送を開始する(ステップS107)。なお、ステップS106にて近接モードによるデータ受信が不可能と判定された場合、装置3A及び3Bは、通常モードに切り替えてもよい。
【0070】
図11〜14では、中間領域においてビーコン信号72を高電力で送信し、データ信号76を低電力で送信する例を示した。図15(a)〜(d)は、中間領域の遷移モードにおいて、同期確立のための無線信号を通常モードで送信し、試験用の送信データを含む無線信号を近接モードで送信する他の例を示している。図15(a)は、通常モード通信領域におけるデータ信号76の送信電力を示している。図15(a)の例では、プリアンブル761、ヘッダ762及びペイロード763のすべてを高電力で送信する。図15(b)は、中間領域におけるデータ信号76の送信電力を示している。図15(b)の例では、同期確立のためのプリアンブル761及びヘッダ762を高電力で送信し、試験用データを含むペイロード763を低電力で送信する。なお、図15(b)の遷移モードの例では、送信電力を高速で変化させる必要がある。そこで、送信電力の切り替え時間を確保するために、図15(c)に示すようにペイロード763の送信をヘッダ762から遅らせてもよい。図15(d)は、近接領域におけるデータ信号76の送信電力を示している。図15(d)の例では、プリアンブル761、ヘッダ762及びペイロード763のすべてを低電力で送信する。
【0071】
上述したように、本実施の形態にかかる無線通信装置3は、通常モードから近接モードに切り替える際に過渡的な遷移モードを経由することとした。遷移モードでは、装置間の同期確立のための無線信号(例えばビーコン信号71及び72)を通常モードで送信し、試験用の送信データを含む無線信号(例えば、データ信号76)を近接モードで送信する。例えば、通常モードと近接モードとの送信電力差が30dBm/MHz程度である場合、通常モードから近接モードに直接的に切り換えると装置3A及び3Bの間の同期を維持することができずに通信が途絶するおそれがある。しかしながら、上述したような遷移モードを経由する通信モード切り替えを行うことで、装置3A及び3Bの同期を維持できるため、通常モードから近接モードへ切り換える際の通信途絶の発生を抑制できる。
【0072】
なお、図10〜15を用いて説明した通信モードの変更手順は一例に過ぎない。例えば、通常モード動作領域、中間領域および近接領域にわたる全範囲で、通常モード又は近接モードのいずれか一方のみの受信品質の計測を行い、当該計測結果に基づいて近接モードの可否判定を行ってもよい。
【0073】
また、図10〜15では、通信品質の計測結果を参照して装置3A及び3Bの距離(接近度)を評価する例を示した。しかしながら、例えば、GPS(Global Positioning System)、DGPS(Differential GPS)等によって装置3A及び3Bの測位情報を取得し、これらの測位情報を用いて装置3A及び3Bが中間領域内に位置していることを判定してもよい。
【0074】
<発明の実施の形態4>
図16は、本実施の形態にかかる無線通信装置が有するAFE400の送信側構成を示すブロック図である。なお、図16では、増幅回路1003及び1004のバイアス電流を制御するためのスイッチ1007及び1008の図示を省略している。本実施の形態にかかる無線通信装置は、AFE400からアンテナ11に供給される送信電力を計測し、送信電力が基準値を超えて大きくなる場合にアンテナ11への電力供給を停止する機構を有する。
【0075】
図16において、電力検出部4001は、AFE400からアンテナ11に供給される送信電力の大きさを検出する。制御部4002は、電力検出部4001によって検出された送信電力値を参照し、送信電力の大きさが予め定められた範囲内となるように、スイッチ1006、増幅回路1002〜1004、インピーダンス素子1013及び1014、並びにスイッチ4003等を制御する。スイッチ4003は、AFE400とアンテナ11との間の電気的接続を遮断可能な回路である。なお、制御部4002は、本実施の形態にかかる無線通信装置の全体制御を担う制御部12と共通化してもよい。
【0076】
具体例を示すと、制御部4002は、電力検出部4001によって検出される送信電力値Pが以下の(1)式を満足するように、スイッチ1006、増幅回路1002〜1004等を制御すればよい。
−ΔP≦P≦P ・・・・ (1)
ここで、上限値を定める規定値Pは、WiMedia等の通信規格、各国の法規制等によって許容される最大送送信電力とすればよい。ΔPは、送信電力の許容範囲を示す値であるから、WiMedia等の通信規格の規定、受信回路の特性等に応じて適宜定めればよい。P及びΔPは、通常モード用及び近接モード用の値をそれぞれ予め設定しておけばよい。
【0077】
続いて以下では、本実施の形態にかかる無線通信装置が行う送信電力制御の具体例について図17のフローチャートを参照して説明する。ステップS201では、制御部12又は制御部4002が、選択された通信モードに関する設定を行う。例えば、近接モードが選択された場合、スイッチ1006がONとされ、増幅回路1003及び1004に対するバイアス電流の供給が遮断され、インピーダンス素子1013及び1014に信号が供給される。また、制御部4002は、近接モードに対応したP及びΔPを選択する。
【0078】
ステップS202では、電力検出部4001が、AFE400の送信電力を検出する。ステップS203では、制御部4002が、検出された送信電力値Pが規定値P以下であるか否かを判定する。送信電力値Pが規定値Pを超えると判定された場合(S203でNO)、制御部4002はスイッチ4003をOFFし、アンテナ11への電力供給を停止する(S204)。ステップS205において、制御部4002は、送信電力値Pが規定値P以下となるように、増幅回路1002〜1004のバイアス電流調整を行う。なお、制御部4002は、AFE400とアンテナ11とを接続する線路上に配置された可変減衰器(不図示)の減衰量を増大させることによって送信電力を低下させてもよい。
【0079】
一方、ステップS203にて送信電力値Pが規定値P以下であると判定された場合(S203でYES)、制御部4002はスイッチ4003をONし、アンテナ11へ電力を供給する(S206)。
【0080】
ステップS207では、制御部4002が、検出された送信電力値PがP−ΔP以上であるか否かを判定する。送信電力値PがP−ΔP未満と判定された場合(S207でNO)、制御部4002は、送信電力値PがP−ΔP以上となるように、増幅回路1002〜1004のバイアス電流調整を行う(S208)。一方、送信電力値PがP−ΔP以上と判定された場合(S207でYES)、制御部4002は、アンテナ11からの信号送信を開始(継続)する(S209)。ステップS209の後はS202に戻り、送信開始時だけでなく、送信継続中も送信電力の監視を継続するとよい。
【0081】
上述したように、本実施の形態にかかる無線通信装置は、送信電力を監視し、送信電力が規定値Pを超える場合に、アンテナ11からの出力を停止することとした。これにより、アンテナ11から異常な出力が行われることによる他システムへの干渉を抑制できる。
【0082】
なお、図16には、発明の実施の形態1の変形例を示したが、本実施の形態で説明したアンテナ11への電力供給を遮断する構成は、発明の実施の形態2と組み合わせることも可能である。
【0083】
ところで、発明の実施の形態1〜4で説明した制御部12、32又は制御部4002が主体となって実行する通信モードの切り替え制御は、ASIC、DSP等の半導体処理装置を用いて実現してもよい。また、この通信モードの切り替え制御の少なくとも一部は、近距離無線通信回路10が実行する少なくとも一部の処理(例えばベースバンド信号処理)と共通の半導体処理装置を用いて実現してもよい。
【0084】
また、制御部12、32又は制御部3002が主体となって実行する通信モードの切り替え制御は、通信モードの切り替え手順を記述した制御プログラムをマイクロプロセッサ等のコンピュータに実行させることによって実現してもよい。この制御プログラムは、様々な種類の記憶媒体に格納することが可能であり、また、通信媒体を介して伝達されることが可能である。ここで、記憶媒体には、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD、ROMカートリッジ、バッテリバックアップ付きRAMメモリカートリッジ、フラッシュメモリカートリッジ、不揮発性RAMカートリッジ等が含まれる。また、通信媒体には、電話回線等の有線通信媒体、マイクロ波回線等の無線通信媒体等が含まれ、インターネットも含まれる。
【0085】
さらに、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、既に述べた本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】発明の実施の形態1にかかる無線通信装置のブロック図である。
【図2】図1に示した近距離無線通信回路の構成例を示すブロック図である。
【図3】通常モードと近接モードの切り替え手法の一例を示す図である。
【図4】図2に示したAFEの構成例を示すブロック図である。
【図5】図2に示したAFEの構成例を示すブロック図である。
【図6】インピーダンス素子の構成例を示す図である。
【図7】図2に示したAFEの構成例を示すブロック図である。
【図8】発明の実施の形態2にかかる無線通信装置が有するAFEの構成例を示すブロック図である。
【図9】発明の実施の形態3にかかる無線通信装置のブロック図である。
【図10】近接モード可否判定を説明するための無線通信装置の配置例を示す図である。
【図11】図9の通常モード通信領域にある無線通信装置の送信データの一例を示す図である。
【図12】図9の中間領域にある無線通信の送信データの一例を示す図である。
【図13】図9の近接領域にある無線通信の送信データの一例を示す図である。
【図14】図9に示した装置間での通信モード切り替え処理に関するシーケンス図である。
【図15】(a):通常モード通信領域:、(b)及び(c):中間領域、(d):近接領域での送信データの他の例を示す図である。
【図16】発明の実施の形態4にかかる無線通信装置が有するAFEの構成例を示すブロック図である。
【図17】発明の実施の形態4にかかる無線通信装置による送信電力制御手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1、3、3A、3B 無線通信装置
10 近距離無線通信回路
11 アンテナ
12、32 制御部
40 送信フレーム
41 プリアンブル及びヘッダ
42 ペイロード
71、72 ビーコン信号
73 プリアンブル
74 ヘッダ
75 ペイロード
76 データ信号
100 アナログフロントエンド(AFE)
101 A/Dコンバータ(ADC)
102 FFT部
103 デマッピング部
104 復号化部
105 MAC部
106 符号化部
107 マッピング部
108 IFFT部
109 D/Aコンバータ(DAC)
761 プリアンブル
762 ヘッダ
763 ペイロード
1001 ミキサ
1002〜1004 増幅回路
1005 バイパス路
1006〜1008 スイッチ
1009、1011 コンデンサ
1010、1012 接続点
1013、1014 インピーダンス素子(補正回路)
1015 コンデンサ
1016 FET(Field Effect Transistor)
1017 抵抗
1018 コンデンサ
1019 FET
2001 減衰回路
2002 FET
4001 電力検出部
4002 制御部
4003 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の通信モードと、前記第1の通信モードに比べて低い平均送信電力及び広い占有帯域幅を使用することによって前記第1の通信モードに比べて通信可能距離が短く且つ伝送速度が大きい第2の通信モードとの間で動作モードを切り替え可能な近距離無線通信回路を備え、
前記近距離無線通信回路は、
送信信号を増幅する少なくとも1段の増幅回路と、
前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、前記少なくとも1段の増幅回路のうち少なくとも1つを迂回するバイパス路と、
前記少なくとも1段の増幅回路及び前記バイパス路を含む前記近距離無線通信回路における送信信号の伝搬経路に接続され、前記バイパス路の回路動作の有無によるリアクタンスの変化を補償するリアクタンス素子を含む補正回路と、を備える、
無線通信装置。
【請求項2】
前記第2の通信モードにおいて前記補正回路が有するリアクタンスの大きさは、前記近距離無線通信回路の送信信号に対する利得の偏差の増大を抑制するように決定されている、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記補正回路は、
前記バイパス路によって迂回される増幅回路の入力側に一端が接続される前記リアクタンス素子としてのコンデンサと、
前記コンデンサの他端と所定の電位との間にソースドレイン経路が接続されるスイッチトランジスタと、
を含む請求項1又は2に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記バイパス路によって迂回される増幅回路に供給されるバイアス電流を、前記第2の通信モードへの切り替えに応じて低下させる回路をさらに備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記補正回路は、前記バイパス路による増幅回路の迂回に伴う抵抗成分の変化を補償する抵抗性素子をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記バイパス路に接続され、前記第2の通信モード時に前記バイパス路を伝搬する信号を減衰させる減衰回路をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記減衰回路は、前記第1の通信モード時に前記バイパス路を通って前記少なくとも1つの増幅回路の入力側に帰還する帰還信号を減衰させる、請求項6に記載の無線通信装置。
【請求項8】
前記バイパス路は、前記少なくとも1つの増幅回路の入力側と出力側の間に配置され、互いに直列に接続された第1及び第2のスイッチを備え、
前記第1及び第2のスイッチは、前記第1の通信モード時にOFFし、前記第2の通信モード時にONし、
前記減衰回路は、前記第1及び第2のスイッチの相互接続点に接続されている、請求項6又は7に記載の無線通信回路。
【請求項9】
前記減衰回路は、一端が前記相互接続点側に他端がグランド側に接続された抵抗性素子を備え、
前記抵抗性素子の抵抗値は、前記第1の通信モード時と第2の通信モード時とで異なる、請求項8に記載の無線通信回路。
【請求項10】
前記減衰回路は、ソース−ドレイン経路が前記相互接続点とグランドとの間に接続され、前記第1の通信モード時及び第2の通信モード時にともにONするトランジスタを備える、請求項8に記載の無線通信回路。
【請求項11】
前記トランジスタのオン抵抗は、前記第1の通信モード時と第2の通信モード時とで異なる、請求項10に記載の無線通信回路。
【請求項12】
前記バイパス路に接続され、前記第1の通信モード時に前記バイパス路を通って前記少なくとも1つの増幅回路の入力側に帰還する帰還信号を減衰させる減衰回路をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項13】
前記バイパス路は、前記少なくとも1つの増幅回路の入力側と出力側の間に配置され、互いに直列に接続された第1及び第2のスイッチを備え、
前記第1及び第2のスイッチは、前記第1の通信モード時にOFFし、前記第2の通信モード時にONし、
前記減衰回路は、一端が前記第1及び第2のスイッチの相互接続点側に接続され、他端がグランド側に接続された抵抗性素子を備え、
前記抵抗性素子の抵抗値は、前記第1の通信モード時と第2の通信モード時とで異なり、前記第1の通信モード時に相対的に小さく、前記第2の通信モード時に相対的に大きい、請求項12に記載の無線通信回路。
【請求項14】
前記抵抗性素子は、前記相互接続点とグランドとの間にソース−ドレイン経路が接続され、前記第1の通信モード時にONし、前記第2の通信モード時にOFFするトランジスタを含む、請求項13に記載の無線通信回路。
【請求項15】
前記第1及び第2の通信モードの切り替えを制御するモード制御部をさらに備え、
前記モード制御部は、
前記第1の通信モードから前記第2の通信モードに切り替える際に、前記第1の通信モードと前記第2の通信モードとを時分割で切り換えるよう前記近距離無線通信回路を動作させ、通信相手装置との同期確立のための信号を前記第1の通信モードで送信することによって前記通信相手装置との同期を維持しつつ、前記第2の通信モードによる前記通信相手装置とのデータ送受信の可否を判定するための試験信号を前記第2の通信モードで送信する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項16】
前記モード制御部は、前記通信相手装置との間の通信距離に相関を有する通信品質の計測値を指標として、前記データ送受信の可否を判定する、請求項14に記載の無線通信装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの増幅回路は複数の増幅回路を含み、
前記バイパス路は、前記複数の増幅回路のうち最後段の前記増幅回路を含むとともに最前段の前記増幅回路を除いた少なくとも1つの前記増幅回路を迂回する、請求項1〜16のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項18】
前記少なくとも1段の増幅回路によって増幅された信号を送信するアンテナと、
前記アンテナに供給される信号の電力を検出する電力検出回路と、
前記少なくとも1段の増幅回路と前記アンテナとの間に配置され、前記電力検出回路の検出結果に応じて、前記アンテナに供給される前記信号の電力を減衰又は遮断する回路と、
をさらに備える、請求項1〜17のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項19】
前記第1の通信モードは、平均送信電力が−41.3dBm/MHz以下であり、3.1G〜10.6GHzに含まれる少なくとも500MHzの第1周波数幅を使用する通信モードであり、
前記第2の通信モードは、平均送信電力が−70dBm/MHz以下であり、前記第1の周波数幅より広帯域な第2の周波数幅を使用する通信モードである、請求項1〜18のいずれか1項に記載の無線通信装置。
【請求項20】
第1の通信モードと第2の通信モードとの間でモード切り替え可能な近距離無線通信回路の通信モード切り替え方法であって、
前記2の通信モードは、第1の通信モードと、前記第1の通信モードに比べて低い平均送信電力及び広い占有帯域幅を使用することによって前記第1の通信モードに比べて通信可能距離が短く且つ伝送速度が大きい通信モードであり、
前記方法は、
前記第1の通信モードから前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、前記近距離無線通信回路に含まれる少なくとも1段の送信用増幅回路のうち少なくとも1つをバイパス路よって迂回することで送信電力を低減するステップと、
前記第1の通信モードから前記第2の通信モードへの切り替えに応じて、リアクタンス素子を含む補正回路を制御することで、前記バイパス路の回路動作の有無によるリアクタンスの変化を補償するステップと、
を備える、通信モードの切り替え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−141758(P2010−141758A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317837(P2008−317837)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】