説明

焼結摺動部材および作業機連結装置

【課題】 耐摩耗性、耐焼付き性および耐ヒートクラック性に優れた焼結摺動部材および作業機連結装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る焼結摺動部材は、裏金21aと、該裏金21a上に焼結接合された鉄系焼結摺動体20とを備えた焼結摺動部材であって、前記鉄系焼結摺動体20は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなり、5〜50体積%の炭化物を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械用作業機連結装置に使用されるスラスト軸受等の複層焼結摺動部材に関し、より詳しくは、摺動面に耐摩耗性、耐焼付き性および耐ヒートクラック性に優れた鉄系焼結摺動材料を備えて裏金に一体化された焼結摺動部材、焼結スラスト軸受、フローティングシールおよびその焼結スラスト軸受に適用してなる作業機連結装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業機連結装置において、大きなスラスト荷重を受けて摺動させるスラスト軸受としては、より高面圧、低速のグリース潤滑下での耐焼付き性と耐摩耗性を考慮して、浸炭や高周波焼入れした鋼製のスラスト軸受が用いられている。また、近年、イージーメンテナンス化のニーズから、前記スラスト軸受の給脂間隔を延ばすために、例えば建設機械の作業機連結部に使用されるスラスト軸受として、WCと自溶性合金からなる耐焼付き性と耐摩耗性に優れた超硬溶射コーティングを鋼に施したスラスト軸受を使用することが一部実施されている。
【0003】
一方、建設機械の下転輪ローラアッセンブリに組込まれるフローティングシールは、内部の潤滑油の漏れを防止するとともに内部への上砂の侵入を防止するものであるために、耐食性に優れるとともに、硬質なCr型炭化物を30体積%以上に多量に晶出させることによってその焼付き性や耐摩耗性を改善した高硬度な高炭素高Cr鋳鉄で製造されていることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記作業機連結装置のスラスト軸受部においては、侵入する土砂による噛み込みや、例えば油圧ショベルのバケット部に用いられる連結装置においては極めて大きな偏荷重が作用することから、焼付きや摩耗が顕著に起こり易いために、作業前の頻繁な給脂作業が必要となっている。
【0005】
また、前述の超硬溶射コーティングを施したスラスト軸受を適用した場合においても、その溶射コーティング層の耐焼付き性が十分でなく、かつ、硬質なコーティング層が薄いために破損し易く、その破損片の更なる噛み込みによって損傷することが問題となっている。
【0006】
また、前記スラスト軸受の耐焼付き性と耐摩耗性を向上させる材料としてS45Cを用いて、その摺動面に高周波焼入れを施したスラスト軸受がよく利用されている。しかし、このスラスト軸受は耐ヒートクラック性が良くても、耐焼付き性不足によるかじりが発生し易く、さらに耐摩耗性が十分でなく、また冷間工具鋼や高速度鋼(SKD,SKH材料)等の各種工具鋼を適用した場合には、その耐ヒートクラック性が十分でなく、それを原因とする焼付きが発生し易くなり、かつ、極めて高価な鋼材であるとともに、製品形状に仕上げるまでの材料歩留まりを考慮した時に材料費と機械加工費が高価になるという問題がある。
【0007】
前述の減速装置や転輪装置中の潤滑油を密封するフローティングシールは、その機構において、土砂中の籾摺り(もみすり)運動によって微細な土砂粒子がシール面に侵入しながら摩耗が進行するものであるとともに、密封する潤滑油によってそのシール面が潤滑されているものであるために、極めて潤滑条件が厳しい。高硬度な高炭素高Cr鋳鉄製のフローティングシールでは、それらを組み込む際のセット圧(押し付け力)が高くなるとその摺動面において顕著な焼割れ(ヒートクラック)、焼付き、異常摩耗が発生し、油漏れを引き起こす問題、さらに、フローティングシール周辺部に土砂が詰り、フローティングシールを折損させる問題がある。
【0008】
さらに、近年のブルドーザ等の建設機械においては、より高速走行による作業効率の向上が要望され、フローティングシールの高速回転化によっても、前記焼割れ、焼付きや異常摩耗の発生を防止するため、高硬度炭化物を高体積%で分散させる高炭素高合金鋳鉄製シールが検討されているが、曲げ強度がより低下するために、折損しないフローティングシールの開発が望まれている。
【0009】
またさらに、下転輪ローラアッセンブリ等の長寿命化によるコスト削減が要望されており、現状のフローティングシール用鋳鋼材料が十分な耐摩耗性を持たない問題がある。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、耐摩耗性、耐焼付き性および耐ヒートクラック性に優れた焼結摺動部材、作業機連結装置およびフローティングシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなり、5〜50体積%の炭化物を含有するものであることを特徴とする。
【0012】
また、前述した鉄系焼結摺動体は、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有するものであっても良く、9重量%以上のCr、3.5重量%以上のMo、総量で4.5重量%以上のMoとWおよび3重量%以上のVからなる群から選ばれた1種以上を含有し、Cr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物からなる群から選ばれた1種以上の炭化物が前記マルテンサイト相に分散されていても良い。
【0013】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが0.9〜3.8重量%、Crが9〜35重量%、Vが0〜3重量%を含有し、その炭素含有量が0.143×(Cr重量%)−1.41+14×MC型炭化物体積分率≦C重量%≦0.156×(Cr重量%)−0.58+14×MC型炭化物体積分率の関係を満足し、0.2〜0.45重量%のC、6.5〜12重量%のCrを固溶するマルテンサイト相を有し、該マルテンサイト相中にCr型炭化物が5〜40体積%分散し、MC型炭化物が5体積%以下分散し、総炭化物量が5〜40体積%である組織からなり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Mo,W,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが1.8〜4.5重量%、Crが12〜30重量%、Vが3.5〜10重量%、Moが2〜6.4重量%またはMoとWが総量で2〜6.4重量%を含有し、前記マルテンサイト相は0.2〜0.45重量%のC、6.5〜12重量%のCrを固溶し、1〜3.5重量%のMo、総量で1〜3.5重量%のMoとWおよび0.4〜0.6重量%のVからなる群から選ばれた一種以上を固溶し、前記マルテンサイト相中にCr型炭化物が10〜35体積%分散し、MC型炭化物が5〜15体積%分散し、総炭化物量が15〜40体積%であり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Mo,W,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが0.6〜1.9重量%、Crが1〜7重量%、Vが0〜3重量%を含有し、Moが3.5重量%以上含有し、(Mo+0.5×W)が4.5〜30重量%を含有し、かつ、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相に5体積%以上のMC型炭化物と5〜40体積%のMC型炭化物が分散した組織からなり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが1.3〜3重量%、Crが1〜5重量%、Vが3〜12重量%、Moが10重量%以上、(Mo+W)が10〜23重量%を含有し、かつ、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相に15〜35体積%のMC型炭化物と5〜15体積%のMC型炭化物が分散した組織からなり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが0.8〜3.4重量%、Crが9〜28重量%、Vが0〜5重量%、Moが5重量%以上、(Mo+W)が5〜18重量%を含有し、かつ、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中に5〜25体積%のCr型炭化物と5〜25体積%のMC型炭化物と0〜5体積%のMC型炭化物が分散し、総炭化物量が10〜40体積%であり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る焼結摺動部材は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、Cが1.5〜3.2重量%、Crが7〜25重量%、Moが3.5重量%以上、(Mo+W)が5〜15重量%を含有し、かつ、VとTiの少なくとも一方が総量で3〜8重量%を含有し、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中に5〜20体積%のCr型炭化物と5〜20体積%のMC型炭化物と5〜15体積%のMC型炭化物が含有し、総炭化物量が15〜50体積%であり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,V,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有されることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る焼結摺動部材は、スラスト軸受であり、前記鉄系焼結摺動体はCr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が5〜25体積%で分散され、前記裏金の硬さがHv170以上であることを特徴とし、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有しても良い。
【0020】
本発明に係る焼結摺動部材は、フローティングシールであり、前記鉄系焼結摺動体はCr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が20〜40体積%で分散されることを特徴とし、前記裏金の硬さがHv170以上であっても良いし、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有しても良い。
【0021】
本発明に係る作業機連結装置は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材からなる軸受であって、前記鉄系焼結摺動体は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなり、5〜25体積%の炭化物を含有するものである軸受と、
前記軸受との組合せにおける相手摺動部材である軸受とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐摩耗性、耐焼付き性および耐ヒートクラック性に優れた焼結摺動部材および作業機連結装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)〜(c)はFe−Si−C−X4元系状態図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベル全体を示す斜視図(a)およびバケット連結部を説明する分解斜視図(b)である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。
【図4】(a)〜(c)は、スラスト軸受の構造を説明する図である。
【図5】(a)は、図4(c)に示す鉄系裏金にガス抜き穴および溝が設けられたスラスト軸受の一例を示す断面図であり、(b)は(a)に示すA部を拡大した断面図であり、(c)は(a)の平面図である。
【図6】(a)は、図4に示す鉄系焼結摺動体にガス抜き穴および溝を設けた例を示す平面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。
【図8】(a)はスラスト軸受を示す断面図であり、(b)は(a)に示すスラスト軸受の摺動面の各種油溝、窪みのパターン例を示す平面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。
【図10】本発明の第3の実施形態の変形例に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。
【図11】転輪アッセンブリの要部構造を説明する図である。
【図12】複層フローティングシールの構造を示す断面図である。
【図13】Cr型炭化物の中の合金元素濃度とそれに平衡する母相中の合金元素濃度との関係を示すグラフである。
【図14】MC型炭化物の中の合金元素濃度とそれに平衡する母相中の合金元素濃度との関係を示すグラフである。
【図15】Fe−C−Cr三元状態図である。
【図16】Fe−C−Mo系状態図である。
【図17】Fe−C−W状態図である。
【図18】鍔付きスラスト軸受の試験片形状を示す断面図である。
【図19】(a),(b)は揺動試験機を説明する図である。
【図20】(a)はNo.25の焼結組織を示す写真であり、(b)はNo.28の焼結組織を示す写真である。
【図21】No.32の焼結組織を示す写真およびX線マイクロアナライザー分析結果を示す図である。
【図22】(a),(b)は、焼結接合試験片の形状を示す図である。
【図23】フローティングシールテスターの概略を示す図である。
【図24】フローティングシールの耐摩耗性の試験結果を示す図である。
【図25】鉄系焼結摺動材料の抗折強度と靭性の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る油圧ショベル全体を示す斜視図であり、図2(b)は、バケット連結部を説明する分解斜視図である。図3は、本発明の第1の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。図4(a)〜(c)は、スラスト軸受の構造を説明する図である。
図2(a)に示すように、本実施形態に係る油圧ショベル1の作業機2は上部旋回体3を備えており、上部旋回体3はブーム連結装置7によってブーム4に連結されている。ブーム4はアーム連結装置8によってアーム5に連結されており、アーム5はバケット連結装置9によってバケット6に連結されている。これら連結装置7,8,9は、基本的には同一の構造とされており、例えばバケット連結装置9は、図2(b)に示すように、主に作業機連結ピン10および作業機ブッシュ11を備えて構成されている。以下にアーム5とバケット6との連結部に配されるバケット連結装置9Aの詳細構造について図3を参照しつつ説明する。
【0025】
図3に示すように、前記バケット連結装置9Aは、バケット(一方側の機械構成要素)6と、このバケット6に形成されたブラケット6a,6aに支持される作業機連結ピン(支持軸)10およびその作業機連結ピン10に外嵌される作業機ブッシュ(軸受ブッシュ)11,11を介して配されるアーム(他方側の機械構成要素)5とを、互いに回転可能に連結し、かつバケット6とアーム5との間に作用するスラスト荷重を受支するスラスト軸受12,12を備えて構成されている。このバケット連結装置9Aにおいて、作業機ブッシュ11はアーム5の先端部に圧入され、作業機連結ピン10はブラケット6aにピン固定用通しボルト13によって固定されている。なお、符号14で示されるのは、シール装置である。また、符号15および16で示されるのは、それぞれ潤滑剤供給口および潤滑剤供給路である。
【0026】
前記スラスト軸受12は、図4(a),(b),(c)に示すように摺動面(図の上面)においてスラスト荷重を受けながら回転揺動する機能を有し、耐摩耗性、耐焼付き性、耐ヒートクラック性に優れた硬質な鉄系焼結摺動体20が裏金21a,21bに焼結接合されて構成されている。結果として、作業機連結装置(連結装置7,8,9)は、裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた軸受と、前記軸受との組合せにおける相手摺動部材である軸受から構成される。尚、前記裏金は鉄系であることが好ましい。
【0027】
前記鉄系焼結摺動体20は、耐摩耗性と耐焼付き性を改善するために有効な炭化物を固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相中に5〜50体積%分散させた鉄系焼結材料である。また、前記の固溶炭素濃度範囲が得られ易く、かつ、より硬質で、耐焼付き性に優れた炭化物を得るためには、前記鉄系焼結摺動体20中に、Crが9重量%以上、Moが3.5重量%以上、MoとWの総量が4.5重量%以上およびVが3重量%以上のうち一種以上を含有し、Cr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物のうち一種以上を前記マルテンサイト相に分散させるものであることが好ましい。ここで、これらの炭化物の総量は5〜50体積%(体積分率:0.05〜0.5)とするのが好ましい。
【0028】
図4(a)は、中空円盤状の裏金21aに中空円盤状の鉄系焼結摺動体20が焼結接合された例である。バケット連結装置としてのスラスト軸受の支持方法としては、図4(b)に示すように、円筒状の裏金21bの一端面にスラスト荷重を受けて摺動する鍔部21cを設けて、この鍔部21cの摺動面に鉄系焼結摺動体20を0.5mm以上の厚さで焼結接合しても良い。つまり、スラスト軸受としては、平板状、ドーナツ型平板状のものが好ましいが、スラスト軸受の支持構造を別途作るよりも、円筒状部材の一端面にスラスト荷重を受けて摺動する鍔部を有する裏金形状とし、その摺動面に前記鉄系焼結摺動体を焼結接合して一体化したものをスラスト軸受としても良い。
【0029】
また、図4(c)に示すように、円筒状の裏金21bの内周面に作業機ブッシュ22が接合されて一体化されたスラスト軸受を用いても良い。裏金の円筒状内周面もしくは外周面に円筒状のCu合金系多孔質焼結摺動材料又はFe合金系多孔質焼結摺動材料からなる軸受を焼結接合して固定したものをスラスト軸受としても良い。つまり、作業機ブッシュ22は、Fe合金系またはCu合金系多孔質焼結体からなり、その気孔(通気孔)中に潤滑油物質、言い換えれば潤滑油もしくは潤滑油とワックス類からなる滴点60℃未満の潤滑組成物が充填されたものである。このようにすれば、アーム先端部にスラスト軸受が圧入される際の圧入力を高め、スラスト荷重を受ける鍔部21cでの仕組みからして、ブッシュの抜け出しを防止することができる。
【0030】
また、上記Fe合金系またはCu合金系多孔質焼結体からなる作業機ブッシュ22に代えて、次のような作業機ブッシュを用いることも可能である。作業機ブッシュは、耐摩耗性、耐焼付き性、耐ヒートクラック性に優れた硬質な鉄系焼結摺動体20と同等の鉄系焼結摺動材料を利用したものであり、摺動面にオイルポケットもしくは油溝が設けられている。この作業機ブッシュでは、高面圧、低摺動速度における摩擦抵抗が大きい使用環境においても十分な耐摩耗性等を得ることができる。
【0031】
なお、裏金に超硬溶射を施したスラスト軸受では、その裏金硬さが約Hv400以下の場合においては、土砂の噛み込みによって溶射膜が破損し易くなるために、溶射膜をより厚く形成する必要性があって、経済的に極めて不利になり易い。また裏金をより硬質にした場合においては、その溶射コーティング層を0.5mm以下に薄くできるが、裏金との接合強度がより弱くなることから、土砂の噛み込みや大きな偏荷重によって剥離、破損し易いことが問題となる。そこで、本実施形態においては、鉄系焼結摺動体の厚さを0.5mm以上とするが、硬さがHv170の軟質な裏金(降伏強度30kgf/mm)に焼結接合された鉄系焼結摺動体が土砂の噛み込みによって破損、剥離しないように、その厚さを1mm以上とすることが好ましい。また、鉄系焼結摺動体の曲げ強度は少なくとも30kgf/mm以上であることが好ましい。また、より摩耗性の激しい条件での使用環境であっても、4mmを越えて使用することは偏荷重によるたわみによる破損が起こり易くなることが予想され、また経済的ではない。また、一般的に焼結接合された接合面の接合強度は、溶射膜の接合強度(5〜10kgf/mm)に比べて極めて強固なものであり、通常は焼結材料せん断強度とほぼ同じ程度の強度が確保される。
【0032】
またさらに、本実施形態の鍔付き形状のスラスト軸受は、その円筒部を作業機本体に圧入して固定されることから、その圧入のし易さや圧入後の抜けを防止するために、裏金硬さはHv170以上、好ましくは220以上に調整されていることが好ましく、また、後の機械加工性を考慮した場合には、Hv400以下であることが好ましい。
【0033】
また、前記鍔付きスラスト軸受を本体に圧入した場合において、鍔部と本体との隙間を0.2mm以下に調整することが難しく、また偏荷重が作用した時の本体の撓み量を考慮した場合においても、0.4mm程度の撓みによって前記鉄系焼結摺動体が破損しないことが望まれる。
【0034】
図5(a)は、図4(c)に示す鉄系裏金にガス抜き穴および溝が設けられたスラスト軸受の一例を示す断面図であり、図5(b)は図5(a)に示すA部を拡大した断面図であり、図5(c)は図5(a)の平面図である。
本例においては、図5(b)に示すように鉄系裏金21bと鉄系焼結摺動体20との接合面にガス抜き穴23および溝24が形成されている。鉄系焼結摺動体20は、5〜25体積%の炭化物を固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%に調整されたマルテンサイト相に含有したものを用いることが好ましい。なお、鉄系焼結摺動体を鉄系裏金に焼結接合する際には、通常、多量のガスが発生し、鉄系裏金との接合面にガス溜まりによる接合欠陥が発生し易いが、本例では、ガス抜き穴23によってガスを抜くことができ、溝24によって焼結接合時に鉄系焼結摺動体に液相を発生させることができる。従って、鉄系焼結摺動体20を高密度に焼結でき、かつ鉄系裏金に高強度に接合することができる。尚、本例では、ガス抜き穴23と溝24を両方形成しているが、少なくとも一方を形成することも可能である。
本例では、鉄系裏金と鉄系焼結摺動体との接合面側の鉄系裏金にガス抜き穴および溝を形成しているが、鉄系焼結摺動体の摺動面に1〜10面積%の閉塞気孔または凹部を形成させるその成形体においては、焼結接合時に発生するガスのリーク(ガス抜け)性に優れることから、裏金接合面のガス抜き穴および溝形成を回避することが可能である。
また、前記閉塞気孔または凹部は、上記効果の他に、鉄系焼結摺動体の摺動面におけるオイルポケット(潤滑剤の溜り場所)として作用し、耐ヒートクラック性を向上させることが可能である。
【0035】
また、ガス抜き穴23が設けられる堰の高さは、鉄系焼結摺動体20を配した時の該摺動体20の厚さの中心以上の高さに調整されていることが好ましい。
また、図5に示すスラスト軸受との組合せにおける相手摺動部材としては、例えば浸炭焼入れ、高周波焼入れ等の硬化熱処理が施された鋼製スラスト軸受を用いても良い。これは他の実施形態及び実施例においても同様である。
【0036】
また、裏金と鉄系焼結摺動体の一体化方法としては、あらかじめ焼結した鉄系焼結摺動材料をロー付けなどの方法で一体化することもできるが、その焼結時の高密度化過程において寸法安定性が確保され難く、接合前加工によって顕著なコストアップが避けられない。このことから、本実施形態においては、鉄系焼結摺動体のドーナツ円盤状成形体(ドーナツ状平板)の内周面の少なくとも一部とその成形体の下面が鉄系裏金の外周面と平板の上面に焼結接合により固定されるように配置し、かつ、焼結接合時に焼結体から発生するガスが接合面に溜まってガス欠陥を形成させないように、鉄系裏金外周面および平面部の少なくとも一方での接合面の一部に焼結接合時に焼結体から発生するガスを抜くための穴(ガス抜き穴)と溝を設けた焼結スラスト軸受を開発した。前記穴と溝は、少なくとも一方が前記接合面に設けられていれば良い。
【0037】
図6(a)は、図4に示す鉄系焼結摺動体にガス抜き穴および溝を設けた例を示す平面図であり、図6(b)は図6(a)のB−B線に沿った断面図である。
本例では、鉄系焼結摺動体20側にガス抜き穴23Aおよび溝24Aを設けている。本例においても図5に示す例と同様の効果を得ることができる。
【0038】
本実施形態における鉄系焼結摺動体20は、少なくとも5体積%以上の炭化物と固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%のマルテンサイト相からなる組織を有するものとする。これにより、高面圧なスラスト面圧に耐え、かつ、潤滑条件の悪い状況下で耐摩耗性、耐焼付き性および耐ヒートクラック性を十分に改善することができる。
【0039】
また、鉄系焼結摺動体20においては、炭化物の分散量が25体積%を超えず、好ましくは15体積%以下とし、マルテンサイト相の固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%、より好ましくは0.2〜0.35重量%とし、150〜600℃の範囲で焼戻し処理を施すことにより、靭性と曲げ強度を回復した状態のものを使用することが好ましい形態である。これにより、スラスト軸受にかかる極めて大きい偏荷重に耐えることができる。
【0040】
前記炭化物は、硬質で安価なCr型炭化物および耐熱硬さに優れたMC型炭化物の少なくとも一方を主体とする。このような炭化物を焼結摺動材料中に析出分散させて利用することが経済的にも好ましい形態である。また、前記炭化物としてMC型炭化物を利用することも好ましく、このMC型炭化物は経済的な観点からも5体積%以下に抑えることが好ましい。また、より安価なCr型炭化物を主体として、(MC+MC)型炭化物が5体積%以下になるように調整されることが最も好ましい形態である。
【0041】
また、0.1〜1.5重量%のPをFeP合金の状態で添加することにより、鉄系焼結摺動体20の焼結密度向上と焼結接合性の改善を図ることができる。つまり、マルテンサイト相およびMC型炭化物の少なくとも一方への濃縮による低融点化によって焼結性と焼結接合性の改善を図ることができる。さらには、FeP,CrP,FeMoP,VP,FeTiP型等の燐化合物を析出させることにより、耐焼付き性の改善を図ることができる。また、MC型炭化物を主体とした炭化物を分散させる鉄系焼結摺動材料においては、含有するPがMC型炭化物中に濃縮しても接合安定性を高めるために、少なくとも0.3重量%以上添加することが好ましい。
【0042】
またさらに、鉄系焼結摺動材料にCu基合金相を粒状に1〜10体積%の範囲で分散するように添加することは好ましい形態である。さらに、摺動特性を改善する観点から、前記Cu基合金相に、P,Sn,Al,FeおよびNiからなる群から選ばれた1種以上が含有されるのが好ましい。これにより、摺動面における馴染み性改善を図ることができると共に、摺動途中で粒状のCu基合金相が優先的に摩耗されることによって摺動面にオイルポケットを形成させることができ、それにより耐焼付き性と耐ヒートクラック性の改善を図ることができる。
【0043】
また、より良い耐ヒートクラック性を得る手段として、本実施形態による焼結摺動部材は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%のマルテンサイト相に5〜50体積%の(Cr7C3+MC+M6C)型炭化物が分散し、さらに、平均孔径が0.03〜1.0mmの閉塞化された気孔を3〜10体積%分散させた鉄系焼結摺動体を鉄系裏金に焼結接合されることが好ましく、またさらに、前記鉄系焼結摺動体の摺動面に穴部を設けて、摺動面における穴部で形成される凹部が3〜10面積%分散されており、前記凹部の平均径は3mm以下であることが好ましい。
【0044】
さらに、例えばSiO粒子を鉄系焼結摺動材料に添加しておくことは、経済的にも極めて好ましい形態である。これにより、焼結時において、SiOを還元し、残りのSiを鉄系焼結摺動材料中に拡散固溶させることができ、それによって、SiO粒子跡に形成される閉塞気孔を摺動面のオイルポケットとして利用することができ、その結果、耐焼付き性と耐ヒートクラック性の改善を図ることができる。
【0045】
さらにまた、鉄系焼結摺動体の成形時に、少なくとも摺動面に、0.1〜3mmの深さの凹部を設けることは好ましい形態である。鉄系焼結摺動体を鉄系裏金に焼結接合することによって摺動面にオイルポケットが形成されるからである。
【0046】
また、前記鉄系焼結摺動体としての厚さは、従来の溶射コーティング皮膜が0.1〜0.3mmの範囲で施工されていることを勘案した場合に、土砂の噛み込みや偏荷重による皮膜の剥離、破損が観察されていることから、0.5mm以上とするが、耐摩耗寿命との関係から上限厚さが決められることが好ましい形態である。
また、耐摩耗性の観点からは、上記閉塞気孔と干渉しない鉄系焼結摺動体のビッカース硬さをHv500以上、より好ましくはHv700以上に確保しておくことが好ましい形態である。
【0047】
(第2の実施形態)
図7は、本発明の第2の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。図8(a)はスラスト軸受を示す断面図であり、図8(b)は図8(a)に示すスラスト軸受の摺動面の各種油溝、窪みのパターン例を示す平面図である。
【0048】
本実施形態においては、図7に示すように、アーム5に圧入されるスラスト軸受25とバケットブラケット6aに配置されるスラスト軸受26をいずれも鍔付き型のスラスト軸受としたものである。バケット6は作業内容に応じて適時交換して利用することが多く、かつメンテナンスが容易であることから、バケットブラケット6a用のスラスト軸受26の摺動面は前記鉄系焼結摺動材料を利用することなく、例えば、炭素鋼や低合金鋼を高周波焼入れしたものや浸炭した安価なスラスト軸受を利用することが経済的に好ましい。
図8(b)に示すように、摺動面(高周波焼入れ硬化摺動面)27に適正な溝(アール溝28a、ダイヤ型溝28b)や窪み(デインプル窪みもしくは穴29)を設けることは好ましい形態である。これにより、潤滑用グリースやそれに代わる潤滑組成物が該摺動面27に供給され易くなり、耐焼付き性、耐ヒートクラック性の改善を図ることができる。
【0049】
(第3の実施形態)
図9は、本発明の第3の実施形態に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。
【0050】
本実施形態において、その基本構成は図7に示す第2の実施形態と同様である。ただし、本実施形態の作業機プッシュ11Aは、多孔質で、その気孔中に潤滑組成物が充填された鉄合金系焼結体で構成されている。これにより、バケット連結装置の給脂間隔時間を延長化することができる。なお、本実施の形態では、作業機ブッシュ11Aに前記第1の実施形態もしくは第2の実施形態のスラスト軸受を組合せることが好ましい形態である。
【0051】
図10は、本発明の第3の実施形態の変形例に係るバケット連結装置の概略構造を説明する図である。本変形例は、第3の実施形態よりさらに好ましい形態である。
Moを主体とする硬質な溶射皮膜30が0.1mm以上形成された作業機ピンを組合せることによって、より給脂間隔の延長化を図ることが可能になり、バケット連結装置の給脂間隔時間を延長化できるようにしたものである。
【0052】
(第4の実施形態)
図11は、転輪アッセンブリの要部構造を説明する図である。本実施形態は、転輪アッセンブリにおけるフローティングシール装置に本発明が適用された例である。図12は、複層フローティングシール(フローティングシール)の構造を示す断面図である。
【0053】
図11に示すように、本実施形態に係る転輪アッセンブリ36は、転輪リテーナ49およびこの転輪リテーナ49に支持される転輪シャフト50と、その転輪シャフト50に外嵌される転輪ブッシュ(鍔付ブッシュ)51およびその転輪ブッシュ51を介して配される転輪ローラ52とが、互いに回転可能に連結された構造とされている。この転輪アッセンブリ36において、フローティングシール装置53は、シール面が相接するように配される一対のシールリング54,54と、各シールリング54に外嵌されるOリング55,55を備え、向き合った一対のシール面が、圧縮して取り付けられたOリング55の弾性力によって転輪シャフト50の軸方向に押し付けられ、適当な面圧で接しながら摺動し、外部からの水、土砂等の侵入と内部からの潤滑油の漏洩を防止するように構成されている。そして、一対のシールリング54,54のシール面に、少なくとも5〜50体積%の炭化物と固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなる鉄系焼結摺動体が焼結接合されている。また、前記の固溶炭素濃度範囲が得られ易く、かつ、より硬質で、耐焼付き性に優れた炭化物を得るためには、前記鉄系焼結摺動体中に、Crが9重量%以上、Moが3.5重量%以上、MoとWの総量が4.5重量%以上およびVが3重量%以上のうち一種以上を含有し、Cr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物のうち一種以上の炭化物をマルテンサイト相に分散させるものであることが好ましい。なお、図12に示すように、フローティングシールリングの焼結接合方法およびガス抜き穴23、溝24を有する構造は図5、図6に示されるスラスト軸受とほぼ同じである。符号Gは、より高速走行用の転輪シャフト50の表面に摺動特性に優れた表面処理を施すことを示し、例えば、燐酸Zn,燐酸Mn等の化成処理、Crメッキ、Mo溶射皮膜処理等が好ましい。
【0054】
本実施形態によれば、より耐焼付き性と耐ヒートクラック性に優れたフローティングシール装置を提供することができるが、より耐摩耗性を改善するためには、固溶炭素濃度を0.2〜0.45重量%に調整したマルテンサイト相にCr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物を総量で20〜40体積%分散させた鉄系焼結摺動体をHv170以上の鉄系裏金に焼結接合した焼結摺動部材を適用することが好ましい。
【0055】
また、歯車減速装置等に利用される大径のフローティングシール装置においては、そのシール面での摺動速度が速くなり、とりわけ、耐焼付き性と耐ヒートクラック性に優れたフローティングシールが必要とされるが、本実施形態によれば、鉄系焼結摺動材料中にCu粒子もしくはCu基合金粒子、Mo金属粒子および閉塞気孔の少なくとも一方を1〜10体積%の範囲で分散させることが好ましい。さらに、閉塞化された気孔は、3〜10体積%分散され、気孔の平均孔径が0.03〜1.0mmであることが好ましい。また、フローティングシールの摺動面(シール面)に1〜30面積%、好ましくは1〜10面積%又は3〜10面積%の凹部を設けることも好ましいが、上記閉塞気孔と凹部の大きさを、シール面の幅の約1/2以下とし、さらに、シール面の幅方向に0.5mm以下の大きさに制御することが好ましい形態である。尚、上記閉塞気孔と凹部の大きさはシール面の幅方向に1mm以下としても良い。
【0056】
なお、耐摩耗に優れ、安価な鉄系焼結摺動体としては、SKD1、SKD2、SKD11等の高炭素高Cr系工具鋼と同様にCr型炭化物をマルテンサイト相中に析出分散させたものが利用されるが、本実施例においては、SKD材料系の適正焼入れ温度900〜1000℃におけるFe−C−Cr三元系状態図(後述の図15参照)とその状態図における平衡関係(等炭素活量)を参考にして、Tie LineA,Bで囲まれる(オーステナイト+Cr型炭化物)の二相領域において、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%となることに着目して、鉄系焼結摺動体の炭素添加量とCr添加量の間において、次式の関係を満足させることとした。
0.143×(Cr重量%)−1.41≦(C重量%)≦0.156×(Cr重量%)−0.58
【0057】
さらに、Cr型炭化物が5〜50体積%分散されるCr添加量として9〜35重量%を設定した。また、Vはマルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性とCr7C3型炭化物の均一分散性に寄与するので、MC型炭化物を析出させない範囲のV添加の場合の炭素添加量とCr添加量の関係が利用されるが、V添加によるわずかなMC型炭化物(5体積%以下)を析出分散させる範囲が前記Vの作用を最大に引き出せるので、この場合のV添加量は0〜3重量%を含有し、かつ鉄系焼結摺動体の炭素添加量とCr添加量の間において、次式の関係を満足させることとした。
0.143×(Cr重量%)−1.41+14×MC炭化物の体積分率≦(C重量%)≦0.156×(Cr重量%)−0.58+14×MC炭化物の体積分率
【0058】
具体的には、Cが0.9〜3.8重量%、Crが9〜35重量%、Vが0〜3重量%を含有し、その炭素含有量が0.143×(Cr重量%)−1.41+14×MC型炭化物体積分率≦C重量%≦0.156×(Cr重量%)−0.58+14×MC型炭化物体積分率の関係を満足し、0.2〜0.45重量%のC、6.5〜12重量%のCrを固溶するマルテンサイト相を有し、該マルテンサイト相中にCr型炭化物が5〜40体積%分散し、MC型炭化物が5体積%以下分散し、総炭化物量が5〜40体積%である組織からなり、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Mo,W,Ti,Co,CuおよびAlからなる合金元素群から選ばれた1種以上が含有される鉄系焼結摺動体が好ましく、さらにSiの存在を考慮して、鉄系焼結摺動体の炭素含有量は、0.143×(Cr重量%)−1.41+0.15×(Si重量%)+14×MC型炭化物体積分率≦C重量%≦0.156×(Cr重量%)−0.58+0.15×(Si重量%)+14×MC型炭化物体積分率の関係を満足するものであり、前記鉄系焼結摺動体にはマルテンサイト相が形成されており、該マルテンサイト相は0.2〜0.45重量%のC、6.5〜12重量%のCrを固溶し、1〜5重量%のSiおよび0.5〜4重量%のAlの少なくとも一方を固溶することが好ましい。
【0059】
なお、前記Cr型炭化物とMC炭化物を析出分散した鉄系焼結摺動材料のマルテンサイト相中の適正な炭素濃度、Cr,V,Mo,Wなどの合金元素の濃度および炭化物量の調整は、鉄系焼結摺動材料の耐焼付き性、耐ヒートクラック性、耐摩耗性を調整することになる重要な要因であるのでより正確に検討する。本実施例での鉄系焼結摺動材料の炭素添加量と合金元素(X元素)添加量(C重量%、X重量%)は、分散するCr型炭化物とMC型炭化物の体積分率(fCr、fMC)、マルテンサイトの炭素と各種合金元素濃度(CMar、XMar)、Cr型炭化物の炭素と各種合金元素濃度(C73、X73)、および、MC型炭化物の炭素と各種合金元素濃度(CMC、XMC)と次式の関係を有する。
(C重量%)=CMar×(1−fCr)+C73×fCr+CMC×fMC
(X重量%)=XMar×(1−fCr)+X73×fCr+XMC×fMC
=XMar×{(1−fCr)+KX7×fCr+KXMC×fMC}
【0060】
上述した実施形態の範囲では、C73≒8.7重量%、CMC=14重量%と近似できるので、実施形態の適正炭素濃度範囲は、次式で記載される。
0.2×(1−fCr)+8.7×fCr+14×fMC≦(C重量%)≦0.45×(1−fCr)+8.7×fCr+14×fMC
また、合金元素X添加量も、同様に次式で算出される。
(X重量%)=XMar{(1−fCr−fMC)+KX7×fCr+KXMC×fMC}
ここで、KX7、KXMC(分配係数)はCr型炭化物、MC型炭化物とマルテンサイト相中のX濃度の比(=X73/XMar、=XMC/XMar)であって、実施形態においては、後述のように実測した各合金元素の分配係数を用いて、本実施形態の範囲における前記鉄系焼結摺動材料の適正な炭素、Cr,Mo,W,V,Si,Al,Ni,Co等の添加量が算出できるようにしている(後述ではKXMCをKXM/Cと記述する)。
【0061】
ここで、実施形態の範囲においては、KCr7=8、KMo7、KW7=2.5、KV7=13、KSi7、KAl7=0、KNi7=0.1、KCo7=0.23、KCrM/C=3.8、KMoM/C=3、KWM/C=8.2、KVM/C=119、KSiM/C、KAlM/C=0、KNiM/C、KCoM/C=0.05と実測したものである。また、本実施形態の範囲においては、マルテンサイト相中のCr濃度は6.5〜12重量%の範囲で設定されるが、Mo,W,V濃度は、後述するようにMo:0〜4重量%、W:0〜8重量、(Mo+0.5×W):0〜4重量%、V:0〜0.6重量%に規制されるものであり、マルテンサイト相の焼入性の確保や焼戻し軟化抵抗性の調整を目的にして、設定される値である。
【0062】
さらに、上記Crの分配係数KCr7は、広いCr濃度範囲にまたがるために、本発明範囲におけるKCr7を、マルテンサイト相中のCr濃度CrMar(重量%)を用いて
KCr7=−0.48×CrMar(重量%)+11.8
と設定されることがより好ましい。
【0063】
前述のように、潤滑性の厳しい状態で発現する境界潤滑下での摺動面の発熱によって、摺動面のマルテンサイト相の硬さが急激に軟化する場合には、耐焼付き性と耐摩耗性が劣化するものである。前記鉄系焼結摺動材料の焼戻し軟化抵抗性を高めるために、実施形態においては、安価なSiを1〜3.5重量%およびAlを0.5〜2重量%の少なくとも一方を添加し、マルテンサイト相中のSi濃度を1〜5重量%およびAl濃度を0.5〜4重量%の少なくとも一方の範囲に濃縮させて、焼戻し軟化抵抗性を高めた複層焼結摺動部材(焼結摺動部材)を開発した。
【0064】
また、前記マルテンサイト相中にMoを共存させる場合においては、本出願人が特願2003−380203号に記載したように、SiによってMoの焼戻し軟化抵抗性が有効に発現される最大濃度が減じるので、実施形態においては、経済性を考慮してマルテンサイト相中のMo,(Mo+W)の濃度範囲を0〜(4.0−0.5×(Si重量%+Al重量%))に調整することとし、鉄系焼結摺動材料にMoが0〜5.5重量%、(Mo+W)が0〜5.5重量%添加されることとした。焼結接合後にガス冷却による焼入れ硬化性を確保する観点から、Moを1〜5.5重量%添加することがより好ましい。また、実施形態においては、マルテンサイト相中の焼戻し軟化抵抗性を効率的に改善するMo濃度は0〜2.5重量%であることから、経済的なSi,Mo添加量としてはSiが1〜2.5重量%、Moが1〜2.8重量%であり、より好ましくはSiが1.5〜2.5重量%、Moが1〜2重量%である。
【0065】
Siはマルテンサイト相に多く固溶し、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗を顕著に高める経済的な元素である。このことから、例えば、SKD6,SKD61,SKD62等の炭化物を分散させないで使用する熱間工具鋼においては積極的に添加されている。鉄系焼結摺動材料においては焼結性を顕著に高めることと焼結時や焼入れ時のオーステナイト相中の炭素活量を顕著に高め、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度を0.15×Si重量%の関係で低減するする作用があることから、実施形態においては、前記Fe系焼結摺動材料中の適正炭素濃度を0.15×Si重量%の関係で高炭素側に調整されることが好ましい。
【0066】
なお、Siは顕著なαFe相を安定化する合金元素であり、Siの添加によって、A1,A3変態温度を顕著に高温度側に引き上げる作用を示すために、摺動面における耐ヒートクラック性を高める作用を示すと考えられるが、各種合金元素の単位重量%当りのA3変態温度変化(ΔA3=℃/重量%、Si:+40,Al:+70、Mo:+20、V:+40、W:+12、Mn:−30、Ni:−15、C:−220)から分かるように、Si以外にもAl,Mo,V,W,も耐ヒートクラック性を高めることが分かる。しかし、Siやこれらの合金元素が多く共存する場合においては、よりフェライト相が安定化し、適正な焼入れ処理が出来なくなるので、上限Si添加量は、熱力学的に計算されるFe−Si−C−X4元系状態図(図1(a),(b),(c)参照)を参考にして、Cr型炭化物を主体的に分散させるマルテンサイト相組成(0.2重量%C−6.5〜12重量%Cr)を検討した場合、3.5重量%Siの添加が可能であることから3.5重量%とした。また、後述するMC型炭化物を主体として分散させる実施形態(0.45重量%C−3重量%Mo−0.5重量%V)では2.5重量%とすることが好ましい(図1(a)、(b)、(c)参照)。
また、Alの添加量は、AlがSiよりも顕著にαFe相を安定化することから、Si添加量の約1/2に設定することとする。また、高濃度なSi,Alが添加される鉄系焼結摺動材料には、オーステナイト相を安定化するNi:1〜5重量%,Mn:0.5〜2重量%およびCu:1〜10重量%のうち一種以上を含有させることが好ましい(図1(a)、(b)、(c)参照)。
【0067】
また、前記境界潤滑下の摺動面温度が500℃を越える場合には、摺動面のマルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性をより高めることが望まれることから、実施形態においては、500℃以上での焼戻し軟化抵抗性がSiよりも効果的に発現するMo,W,Vを有効に活用し、600℃での焼戻し処理(1hr)でロックウェル硬さHRC50以上、好ましくはHRC55以上の硬さが維持できるように、少なくともMo:1.6(好ましくは2)〜6.5重量%、(Mo+W):1.6(好ましくは2)〜6.5重量%のいずれかを前記鉄系焼結摺動材料に含有させ、そのマルテンサイト相中でMo:1.5〜4重量%、(Mo+W):1.5〜4重量%およびV:0〜0.6重量%からなる群から選ばれた1種以上となるように調整した鉄系焼結摺動部材とすることが好ましい。
【0068】
なお、マルテンサイト相中のMo,W濃度は900〜1000℃の焼入れ温度におけるMC型炭化物の固溶度を考慮して、最大約4重量%まで固溶させることができ、Mo、Wのマルテンサイト相中の下限濃度は、あえて限定されるものではないが、前記SKD工具鋼や熱間工具鋼の焼戻し硬さ曲線を参考にして、これらの鋼材の焼戻し軟化抵抗性以上に改善するために、1.5重量%以上が好ましいこととしたが、2重量%以上がより好ましい。
【0069】
なお、鉄系焼結摺動材料に添加されるMo,Wは分散するCr型炭化物中に濃縮するので、後述の実施例で求めたMo,WのCr型炭化物とマルテンサイト相間の分配係数KMo7、KW7を用いて、前記Cr型炭化物の下限分散量と上限分散量およびマルテンサイト相中のMoおよびWの少なくとも一方の下限濃度、上限濃度の関係からMo:1.6〜6.4重量%、(Mo+W):1.6〜6.4重量%と設定されることが好ましい。さらに、マルテンサイト相中のMoおよびWの少なくとも一方の濃度が2〜4重量%と設定して、前記スラスト軸受用に適したCr:10〜25体積%ではMo:2.3〜5.5重量%、前記フローティングシール用に適したCr:20〜40体積%ではMo:2.6〜6.4重量%が好ましいこととしたが、より好ましくはCr:25〜40体積%、Mo:3.5〜6.4重量%である。
【0070】
前記Mo,Wの場合と同様に、Vについて検討する。マルテンサイト相中のVはMo,Wよりも顕著に焼戻し軟化抵抗性高める元素であるが、0.2〜0.45重量%のCを固溶するマルテンサイト相中のV濃度は、MC型炭化物が極めて安定な炭化物である。このことから、900〜1100℃の温度範囲では0.2〜0.6重量%であり、さらに、Cr型炭化物中に顕著に濃縮するV濃度を考慮すると、例えば、実施形態の範囲においては50体積%のCr型炭化物が析出する鉄系焼結摺動材料中において約3.5重量%まで、MC型炭化物が析出することなく添加される。また後述するように、炭化物が多量に分散するとともに、その強度が劣化することと経済性を考慮して、5〜40体積%のCr型炭化物が分散する鉄系焼結摺動材料を想定した場合には、Cr型炭化物量に応じて0.5〜3.0(より正確には2.9)重量%を添加することが好ましい。また、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を顕著に高めるVを最大限に利用するためには、経済性の観点から許される少量のMC炭化物を析出、分散させることが望ましいので、実施形態においては、MC型炭化物:5体積%以下を分散させることが好ましいこととし、実施形態の範囲におけるMC型炭化物中のV濃度が約45重量%であることを考慮して、Vの添加量を5重量以下、より好ましくは4重量%以下とした。
【0071】
さらに、適正な耐摩耗性と強靭性を必要とするスラスト軸受用の鉄系焼結摺動材料としては、前記(Cr+MC)の総炭化物量を10〜20体積%分散させることが好ましいので、C:1.1〜2.4重量%、Cr:10〜29重量%、Mo:1.8〜5重量%、V:1.1〜3.5重量%であることが好ましく、さらにまた、耐焼付き性を改善する観点からは、0.5〜5体積%のMC炭化物を少量分散させ、(Cr+MC)型炭化物の総量が20〜40体積%とすることがより好ましいので、C:1.9〜4重量%、Cr:15〜35重量%、Mo:2〜6.4重量%、V:2〜5重量%とすることが好ましい。
【0072】
さらに、前記スラスト軸受よりも優れた耐摩耗性を必要とするフローティングシールに適用する場合においては、前記鉄系焼結摺動材料の耐摩耗性と耐焼付き性をより高める必要性がある。少なくともCが1.8〜4.5重量%、Crが12〜30重量%、Vが3.5〜10重量%、Moが2〜6.4重量%またはMoとWが総量で2〜6.4重量%を含有し、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中にCr型炭化物よりも硬質なMC型炭化物を5〜15体積%析出分散させた鉄系焼結摺動材料を用いた焼結摺動部材を開発した。前記マルテンサイト相は0.2〜0.45重量%のC、6.5〜12重量%のCrを固溶し、1〜3.5重量%のMo、総量で1〜3.5重量%のMoとWおよび0.4〜0.6重量%のVからなる群から選ばれた一種以上を固溶されることが好ましい。ここで、鉄系焼結摺動材料の強靭性を考慮して、マルテンサイト相中に10〜35体積%のCr型炭化物と5〜15体積%MC型炭化物を総炭化物量で15〜40体積%析出分散させるものとし、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Co,Cu,Al等の合金元素の一種以上を含有させることが好ましいが、鉄系焼結摺動材料の強靭性を改善する観点からは総炭化物量を15〜30体積%に設定することがより好ましい。
【0073】
なお、(V+Ti)添加によるMC型炭化物の下限分散量は、後述する高速度鋼における平均値の5体積%とし、さらに、その上限分散量としては、経済性を考慮して15体積%と設定した。とりわけ、Cr型炭化物と共存させてMC型炭化物を分散させる場合には、Cr型炭化物にVが高濃度に濃縮するので、経済的な観点からはCr型炭化物を10〜25体積%に制限し、さらに、鉄系焼結摺動材料の強靭性を確保する観点から、少なくともC:1.8〜3.7重量%、V:3.7〜9重量%、Mo:2.5〜5.5重量%、(Mo+W):2.5〜5.5重量%を含有し、炭化物総量を15〜30体積%に調整することが好ましい。
【0074】
また、MC型炭化物を顕著に形成するTi、Zr,Nb,Hf等の合金元素は、そのマルテンサイト相中にほとんど固溶状態に無く、全量がMC型炭化物として分散すると近似される。また、極めて高価な元素類で、多量に添加することが経済的ではない。これらのことから、その添加量を3重量%以上として、かつ、TiC,ZrC,NbCの化学量論組成から計算される炭素量(重量%)を添加して、適正炭素添加濃度を調整することが好ましい。
【0075】
なお、鉄系焼結摺動材料の鉄系裏金への焼結接合は、ほぼ1150〜1220℃で実施され、この焼結接合近傍の温度から直接的にガス冷却による焼入れを実施しても、マルテンサイト相中における固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%に調整されている限り、問題はない。焼入れ温度が高いほど、マルテンサイト相中のV,Mo,W濃度がより大きくなり、焼戻し軟化抵抗性に好ましい。
【0076】
なお、マルテンサイト相の600℃での焼戻し軟化抵抗性は、ロックウェル硬さHRCで表記する焼戻しパラメータ△HRCと各マルテンサイト相中の合金元素濃度と次式の関係で改善される。従って、例えば、SKD1(2.02重量%C,0.34重量%Si,13.03重量%Cr,0.04重量%V)の600℃焼戻し硬さ(約HRC43)を基準にして、△HRCが7以上、より好ましくは12以上になるようにマルテンサイト相中の各合金元素濃度が調整されることが好ましい。
△HRC=0.5×(11×MoMar−7.5×WMar+25.7×VMar+5.8×SiMar+5.8×SiMar)
例えば、△HRC≧12の条件を達成するためには、Mo、W,Vの単独添加ではマルテンサイト相中の各合金元素は2.2重量%Mo以上、3.2重量%W以上、0.93重量%V以上を必要とし、前記最大固溶V濃度:約0.6重量%であることから、Mo,Wの添加なく、Vの単独添加だけでは焼戻し軟化抵抗性の改善が不十分となり、少なくともMoの複合添加によってマルテンサイト相中のMo濃度を1重量%以上に調整しておくことが必要となることがわかる。
【0077】
なお、MC型炭化物をCr型炭化物とともに分散させる場合の鉄系焼結摺動材料の適正炭素量が修正されることは前述したが、添加されるCr,Mo,WもMC型炭化物に顕著に濃縮する。このことから、前述の各合金元素のMC型炭化物とマルテンサイト間の分配係数を用いて、適正なマルテンサイト相中の各合金元素濃度を調整するための鉄系焼結摺動材料に添加されるCr,Mo,Wの適正な添加量を計算することができる。MC型炭化物中にはMo,W,V,Crが極めて高濃度に濃縮することから、単純な分配係数を用いるだけではその正確性が十分でない。従って、MC型炭化物は(V,Mo,W,Cr)型の複合炭化物として析出し、その炭化物の組成は、(V+Mo+W+Cr):80重量,C:15重量%,(Fe+Mn+等):5重量%からほぼ構成されているものとし、MC型炭化物中のV,Mo,W,Crの各濃度は、それぞれの合金元素のMC型炭化物とマルテンサイト間の分配係数(KVM/C=119,KMoM/C=3、KWM/C=8.2、KCrM/C=3.8)で定まる濃度比率で、それらの合金元素の総量が80重量%となるように修正を行うこととする。例えば、VMC重量%=(VMar×KVMC/((VMar×KVMC+CrMar×KCrMC−MoMar×KMoMC+WMar×KWMC)/0.8)と計算されるものと修正される(簡単のため、ここではKXM/CをKXMCと略記する)。例えば、後述する図21中に記載のNo.32のMC炭化物の近似的なマルテンサイト組成(2.0重量%Mo、2.0重量%W,4.5重量%Cr,0.45重量%V)から、マルテンサイト相中に分散するMC型炭化物の計算組成は、46.0重量%V−5.2重量%Mo−14.1重量%W−14.7重量%Crと計算され、後述する図21中に記載の分析結果とよく一致することから、この修正が好ましい方法であることがわかる。
【0078】
高硬度なSKH2(T1)、SKH10(T15)、SKH54(M4、M6)、SKH57等の高速度鋼は、多量のW,Moを含有し、1200℃以上の焼入れ温度から焼入れ処理と二回以上の焼戻し処理(約550〜580℃)を施して、残留オーステナイト相をほぼ完全に分解して、そのロックウェル硬さがHRC65以上となるように、固溶炭素濃度を0.5〜0.6重量%に調整されて使用される。前記高速度鋼は、顕著な焼戻し軟化抵抗性を発現させるために、固溶(Mo+W+V):5〜10重量%、固溶Cr:3.5〜4.5重量%の高合金マルテンサイト相中に5〜12体積%のFeMoC,FeCの結晶構造を基本とするMC型炭化物と1〜9体積%のVの構造を基本とするMC型炭化物の総炭化物量が7〜12体積%分散されている材料(参照文献:佐藤、西沢、「日本金属学会会報」2(1963)、P564.)である。このため、前記高Cr系工具鋼と同じく耐ヒートクラック性が十分でなく、また、前記フローティングシールなどに適用する場合には、炭化物が少ないために、耐焼付き性と耐摩耗性が十分でない問題がある。そこで本発明においては、前記Cr型炭化物とMC型炭化物をマルテンサイト相中に分散させた適正な炭素と合金元素添加量の決め方と同様の手法によって、MC型炭化物を多く分散させた場合の適正な炭素および合金元素の添加量を設定する必要がある。そこで本発明は、900〜1000℃のFe−C−Mo系の状態図(後述の図16参照)を参照しながら、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中にMC型炭化物が分散する鉄系焼結摺動材料におけるMo添加量に対する適正な炭素量が、
0.043×(Mo重量%)≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%)+0.36
を満足させるものと近似して表記され、また、前記Fe−C−Mo系と同様に、Fe−C−W系状態図(後述の図17を参照)について検討すると、オーステナイト(γ)とMC炭化物の二相領域を構成するTie Line A,Tie Line Bの勾配がほぼFe−C−Mo系状態図(図16のTie Lineの勾配の約1/2に相当し、かつ、MC型炭化物のオーステナイトへの固溶度がほぼ等しく近似できることから、MoとWが同時に添加された場合の鉄系焼結摺動材料のマルテンサイト相中の固溶炭素濃度を0.2〜0.45重量%に調整するための適正炭素量が、
0.043×(Mo重量%+0.5×W重量%)≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.36
を満足させ、かつ、MC型炭化物が5〜40体積%を分散され、(Mo+0.5×W)が4.5〜30重量%を含有する鉄系焼結摺動材料を開発した。なお、本発明の鉄系焼結摺動材料は、少なくともCが0.6〜1.9重量%、Crが1〜7重量%、Vが0〜3重量%およびMoが3.5重量%以上で、(Mo+0.5×W)が4.5〜30重量%(または、(Mo+W)が6〜30重量%)含有し、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%(好ましくは、固溶Mo濃度が2〜4重量%および固溶(Mo+W)濃度が2〜4重量%、固溶Cr濃度が1〜7重量%、固溶V濃度が0〜0.6重量%)のマルテンサイト相中に5体積%以上(好ましくは5〜40体積%)のMC型炭化物と5〜40体積%のMC型炭化物が、分散した組織からなり、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,N,B,Ti,Co,Cu,Alの一種以上の合金元素が必要に応じて含有されてなる鉄系焼結摺動材料が高強度、高靭性な鉄系裏金に焼結接合されてなる複層焼結摺動部材を開発した。
【0079】
また、MC型炭化物の分散量に応じた炭素添加量の修正量や合金元素添加量は前記の方法に従って設定されるので、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中にMC型炭化物とMC型炭化物が分散する鉄系焼結摺動材料におけるMo、W添加量に対する適正な炭素量が、次式を満足させることは明らかである。0.043×(Mo重量%+0.5×W重量%)+14×MC炭化物の体積分率≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.36+14×MC炭化物の体積分率
【0080】
なお、前記Cr型炭化物とMC炭化物を析出分散した鉄系焼結摺動材料のより正確な組成検討と同様な検討が必要である。本実施例でのMC型炭化物の体積分率fMCとMC炭化物の炭素濃度CMC(重量%)とを記述すると、鉄系焼結摺動材料の適正炭素量が、マルテンサイト相の固溶炭素濃度0.2、0.45重量%を用いて、次式の関係で表示される。
0.2×(1−fMC−fMC)−CMC×fMC+14×fMC≦(C重量%)≦0.45×(1−fMC−fMC)+CMC×fMC+14×fMC
さらにまた、前記の耐ヒートクラック性を高めるために、マルテンサイト相の上限固溶炭素濃度を0.35重量%とする場合には、0.35重量%を上式に当てはめて使用することが好ましい。
【0081】
なお、MC型炭化物の炭素濃度(CMC)は、MC型炭化物中のMo,Wの含有割合に応じて変化するものであるが、後述の実施例の結果から、MC炭化物とマルテンサイト相間のMo,Wの分配係数がKMo6≒KW6と近似されることがわかったので、次式のように近似されるものとした。
CMC=0.91×(Mo重量%/(Mo重量%+W重量%))+1.74
【0082】
なお、MC炭化物とマルテンサイト相間の各合金元素の分配係数は、KMo6=20、KW6=23、KV6=5.7,KCr6=0.95,KSi6=2.3,KAl6=2.3,KNi6=0.4,KCo6=0.5、KP6=2と実測される。従って、これらの分配係数を用いて前記鉄系焼結摺動材料に対する場合と同様に適正な合金元素の添加量が計算される。さらに、前記MC型炭化物中の合金元素濃度を修正するのと同様に、MC炭化物中のMo,W濃度が高く、FeMoCでは58重量%Mo,FeCでは70重量%Wまで固溶することから、MoとWが共存する場合には、MoMC/(MoMC+WMC)の比率に応じて(MoMC+WMC)重量%を計算することが好ましい。
【0083】
また、耐ヒートクラック性と強靭性を重視した鉄系焼結摺動材料としては、前記マルテンサイト相中の上限固溶炭素濃度を0.35重量%として、MC型炭化物が5〜20体積%、MC型炭化物が5体積%以下、総炭化物量が10〜25体積%分散されていることが好ましく、複層スラスト軸受(スラスト軸受)に好適である。より優れた耐焼付き性と耐摩耗性を必要とする前記フローティングシール等に適用する鉄系焼結摺動材料としては、MC型炭化物が15〜40体積%、MC型炭化物が5体積%以下とし、総炭化物量が、前記高速度鋼よりもより多い、20〜40体積分散されていることが好ましい。
【0084】
前記のように、高速度鋼は、焼入れ状態では20体積%以上の残留オーステナイト相が残留するために、550〜580℃での2回以上の焼戻し処理によって、残留オーステナイトを分解するとともに、焼戻し二次硬化によってHRC65以上に顕著に硬化された状態で使用される。このため、フローティングシールに適用する場合、摺動面間の初期馴染み性不良による油洩れや焼付きが多発する問題がある。本発明においては、前記馴染み性改善による耐焼付き性と0.3〜2.0mm程度の適正なシール幅とを確保するために、焼戻し処理後においても、残留オーステナイトがマトリックス中に5体積%以上、より好ましくは10〜40体積%分散させることとするが、40体積%以上の残留オーステナイトが存在する場合には、耐摩耗性が劣化するため、その上限値を40体積%とした。
【0085】
また、前記適正な残留オーステナイト量を確保するために,従来の高速度鋼では添加されないNiが1〜5重量%、Mnが〜2重量%、Cuが〜10重量%の一種以上が添加されることとした。
【0086】
また、前記フローティングシールは前述のように籾摺り状態においても十分なシール性を確保するために、適正なシール幅が確保される鉄系焼結摺動材料を選定することが重要である。シール幅が狭すぎる場合には、シール性が確保されないだけでなく、シール面での摺動面圧が高くなってシール面の焼付き、ヒートクラックを顕著に発現する。またさらに、シール幅が広すぎる場合には安定したシール性が確保されるが、シール面内の潤滑性が極めて過酷になるために、シール面の焼付き、ヒートクラックを顕著に発現する。このような問題があるので、従来のシール材料においてもそのシール幅が0.3〜2mmになるように選定されており、本発明においては、シール面間の潤滑性を改善する方策を提供している。
【0087】
なお、本発明におけるマルテンサイト相中の固溶炭素濃度の調整方法としては、従来組成の高速度鋼の熱処理データ(佐藤、西沢、「日本金属学会会報」2(1963)、P564.)に基づいて、焼入れ温度を900〜1150℃、より好ましくは900〜1000℃に設定し、焼入れ処理を施す方法を用いている。
【0088】
前記のように鉄系焼結摺動材料中においては、Cr型炭化物を分散させないために、そのCr添加量を1〜7重量%に制限している。その際のマルテンサイト相中のCr濃度もほぼ1〜7重量%になっており、Cr濃度が高いほど耐食性に優れる。前述のように、高い焼戻し軟化抵抗性を重視する場合には、本出願人が特願2002−380203号で開示するように、マルテンサイト相中のCr濃度が3.5重量%以上になると焼戻し処理によってCr型炭化物が析出して、Mo,W,V等による焼き戻し軟化抵抗性を劣化させることから、マルテンサイト相中の上限のCr濃度を3.5重量%とすることが好ましく、下限のCr濃度は焼入れ硬化性を考慮して、1重量%とすることが好ましい。なお、焼入れ性の確保は、マルテンサイト相中のNi,Mn,Moによっても十分調整されるものである。また、耐食性はマルテンサイト相中のCr濃度が1重量%であっても、Cr以外のMo,Ni,Cu,P,Si,Alの添加によって十分改善されるものである。例えば、従来からフローティングシールとしての耐食性に問題の無いニハード鋳鉄のマルテンサイト相組成は約5重量%Ni−1重量%Cr−1.5重量%Siである。
【0089】
また、MC型炭化物が40体積%分散し、MC型炭化物(V)が析出しない焼結摺動材料に添加される最大V添加量は、1.2重量%(より正確には1.15重量%)である。前記Cr型炭化物が40体積%分散し、MC型炭化物(V)が析出しない焼結摺動材料に添加される最大V添加量と比べた場合、本発明は、Vがより経済的にマルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を高める鉄系焼結摺動材料として適していることがわかる。
【0090】
またさらに、Vの焼戻し軟化抵抗性改善効果を最大限に利用する観点から、MC型炭化物を5,15,30、40体積%分散させて、MC型炭化物を分散させない場合のV添加量はそれぞれ0.5、0.7、1.0、1.2重量%である。さらに、5体積%のMC型炭化物を分散させる場合のV添加量は2.2〜4.5重量%と計算されることから、本発明におけるVの適正添加量は、0.5〜4.5重量%であることが好ましい。また、前記スラスト軸受に適用する、MCが5〜25体積%、MCが5体積%以下で総炭化物量が10〜25体積%分散された鉄系焼結摺動材料においては、Cが0.6〜1.6重量%、Crが1〜3重量%、Moが7.5重量%以上で(Mo+W)が7.5〜15重量%、Vが0.9〜4重量%である。そして、フローティングシール用に適用する、MCが20〜40体積%、MCが1〜5体積%で総炭化物量が20〜40体積%分散された鉄系焼結摺動材料においては、Cが0.8〜1.9重量%、Crが1〜3.5重量%、Moが13重量%以上で(Mo+W)が13〜25重量%、Vが1.3〜4.5重量%であることが好ましい。
【0091】
マルテンサイト相中のCr濃度が3.5重量%以下の場合の焼戻し軟化パラメータ△HRCがマルテンサイト相中の各合金元素Xの濃度(XMar重量%)によって次式で記述される(特願2002−380203号)。
△HRC=2.8×CrMar+11×MoMar−7.5×WMar+25.7×VMar+5.8×(SiMar+AlMar)
600℃での焼戻し(1hr)処理でHRC50以上、より好ましくはHRC55以上の硬さを確保するためには△HRCが27以上、および31以上であることが必要である。そして、MoMarが2〜4重量%、(MoMar−WMar)が2〜4重量%、CrMarが1〜3.5重量%、VMarが0〜0.6重量%、Siが0〜7重量%、Alが0〜4重量%の範囲でその条件を検討することができる。前述したように(SiMar+AlMar)を1.5重量%以上添加した場合には、Mo,W,Vの焼戻し軟化抵抗性の改善効果を減じるので、本発明の鉄系焼結摺動材料においては、(Si重量+Al重量%)を0.5〜1.5重量%以下で調整されることが好ましい。前記残留オーステナイト相の確保、焼入れ性の改善、耐食性の改善で添加されるNiとAlが共存した場合においては、顕著な時効硬化性を示し、焼戻し軟化抵抗性が改善されるので、Alを添加する鉄系焼結摺動材料においては、Niを強度添加することが望ましい。
【0092】
さらに、多量のMC型炭化物を分散させる鉄系焼結摺動材料は、多量のMo,Wを使用することから、より経済的なMoとWの添加方法を検討する。MC型炭化物の析出量に対する高価なW添加の影響はMo添加のそれと比べて約0.8倍、そして焼戻し軟化抵抗に対する影響度のMoとの比率は約0.7倍であり、さらに、MC型炭化物が共存して分散する場合には、MC型炭化物中にWがMoよりも多く濃縮しやすい。これらのことから、WよりもMoを主体に添加することがより経済的であり、かつ焼結性の観点からも、本発明においては、Wを添加しないことがより好ましいが、焼結用粉末の市場における入手性を考慮すると、従来のMo型高速度鋼中のW添加量(7重量%)よりも多くのWを添加することは経済的でない。
【0093】
また、前述したように鉄系焼結摺動材料をフローティングシールに適用する場合には、より耐摩耗性と耐焼付き性を改善する観点から、MC型炭化物を高体積%(5〜15体積%)で分散させることが好ましく、かつ総炭化物量を20〜50体積%に高めることが好ましい。そこで、少なくともCが1.3〜3重量%、Crが1〜5重量%、Vが3〜12重量%、および、Moが10重量%以上で(Mo+W)が10〜23重量%を含有し、かつ固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相に15〜35体積%のMC型炭化物と5〜15体積%のMC型炭化物が分散した組織(総炭化物量20〜40体積%)からなり、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Co,Cu,Al等の合金元素が含有され高硬度な鉄系焼結摺動材料を焼結接合した複層焼結摺動部材を開発した。
【0094】
上述したように、Mo,Wを主体にした鉄系焼結摺動材料を焼結接合した複層焼結摺動部材では、Cr型炭化物を主体に分散させた鉄系焼結摺動材料にくらべて経済的ではない。そこで、鉄系焼結摺動材料に、少なくともCが0.8〜3.4重量%、Crが9〜28重量%、Moが5重量%以上で、(Mo+W)が5〜18重量%、Vが5重量%以下含有し、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中に、耐摩耗性に優れたCr型炭化物を5〜25体積%、MC型炭化物を5体積%以下、耐焼付き性に優れたMC型炭化物を5〜25体積%分散させ、前記マルテンサイト相の総炭化物量が10〜40体積%であり、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Cu,Co,Alなどの合金元素の一種以上が必要に応じて含有されてなる鉄系焼結摺動材料が高強度な鉄系裏金に焼結接合されてなる複層焼結摺動部材を開発した。
【0095】
さらに、前記フローティングシール用鉄系焼結摺動材料としては、Cr型炭化物が10〜25体積%、MC炭化物が0.5〜5体積%と耐焼付き性に優れたMC型炭化物が10〜20体積%とし、分散させる総炭化物量を20〜40体積%とする。このような鉄系焼結摺動材料には、少なくともCが1.34〜3.4重量%、Crが11〜28重量%、Moが8重量%以上で(Mo+W)が8〜16重量%、Vが1〜5重量%含有することが好ましい。また、前記スラスト軸受用鉄系焼結摺動材料としては、Cr型炭化物が5〜10体積%、MC型炭化物が0.5〜5体積%と耐焼付き性に優れたMC型炭化物が5〜10体積%とし、分散させる総炭化物量を10〜20体積%とする。このような鉄系焼結摺動材料には、少なくともCが0.8〜2.0重量%、Crが9〜20重量%、Moが4.5重量%以上で(Mo+W)が4.5〜12重量%、Vが1〜4重量%含有することが好ましい。
【0096】
前記の(Cr型炭化物−MC型炭化物)を含有し、固溶炭素量が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相からなる鉄系焼結摺動材料中の適正炭素濃度(C重量%)は、CrのKCr6≒1と近似できることから、下記式
0.043×(Mo重量%+0.5×W重量%)+2×0.085×(Cr重量%−6.5)≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.33−2×0.085×(Cr重量%−6.5)
の関係を近似的に満足することが好ましい。
さらに、より正確には、鉄系焼結摺動材料の適正炭素濃度範囲は、下記式
0.2×(1−fCr−fMC−fMC)−8.7×fCr+2.65×fMC+14×fMC≦(C重量%)≦0.45×(1−fCr−fMC−fMC)−8.7×fCr+CMC×fMC+14×fMC
で記述され、適正な各合金元素の添加量も前記した関係式によって算出されることが好ましい。
【0097】
さらに、本発明におけるCr,Mo,W,V等の添加量は、CrMarが6.5〜12重量%、(MoMar+WMar)が2〜4重量%、Vが0〜0.6重量%の範囲で適正なfCr,fMC,fMCの炭化物量を設定することによって、前記計算方法から算出される。
【0098】
なお、鉄系焼結摺動材料の原料粉末の入手性を考慮し、その経済性を考慮した場合においては、前述した原料粉末を所定の割合で混合して使用することが好ましい。さらに、鉄系焼結摺動材料のベース合金鋼粉末に、Cr,Mo,W,V粉末や高合金粉末を添加して組成調整することによって、平均粒径40μm以上に粗大化させたCr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物を容易に析出させることができ、耐摩耗性と耐焼付き性を改善するために、これら粗大炭化物の1種以上を3体積%以上析出分散させることが好ましいこととした。
【0099】
前述した鉄系焼結摺動材料の耐摩耗性と靭性をより改善するために、少なくともCが0.8〜3.4重量%、Crが9〜28重量、Moが5重量%以上で、(Mo+W)が5〜18重量%、Vが0〜5重量%含有して、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中に5〜25体積%のCr型炭化物と5〜25体積%のMC型炭化物および0〜5体積%のMC型炭化物が総炭化物量で10〜40体積%析出分散され、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Cu、Co,Alなどの合金元素の一種以上が必要に応じて含有されてなる鉄系焼結摺動材料が高強度な鉄系裏金に焼結接合されてなる複層焼結摺動部材を開発した。
【0100】
また、前述した鉄系焼結摺動材料の耐摩耗性をより改善し、前記フローティングシール用鉄系焼結摺動材料として適用するために、10〜25体積%のCr炭化物、0.5〜5体積%:MC炭化物と、耐焼付き性に優れた10〜20体積%のMC炭化物として分散させる総炭化物量で20〜40体積%が分散する鉄系焼結摺動材料として、少なくともCが1.34〜3.4重量%、Crが11〜28重量%、Moが8重量%以上で(Mo+W)が8〜16重量%、Vが1〜5重量%を含有することが好ましく、また、前記スラスト軸受用鉄系焼結摺動材料としては、5〜10体積%のCr炭化物、0.5〜5体積%のMC炭化物と、耐焼付き性に優れた5〜10体積%のMC炭化物として分散させる総炭化物量で10〜20体積%が分散する鉄系焼結摺動材料として、少なくともCが0.8〜2重量%、Crが9〜20重量%、Moが4.5重量%以上で(Mo+W)が4.5〜12重量%、Vが1〜4重量%を含有することが好ましいこととした。
【0101】
前述した鉄系焼結摺動材料の耐摩耗性をより改善するために、少なくともCが1.5〜3.2重量%、Crが7〜25重量、Moが3.5重量%以上で、(Mo+W)が5〜15重量%、Vが3〜8重量%含有して、固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%のマルテンサイト相中に5〜20体積%のCr型炭化物と5〜20体積%のMC型炭化物および5〜15体積%のMC型炭化物が総炭化物量で15〜50体積%析出分散され、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Ti,Cu、Co,Alなどの合金元素の一種以上が必要に応じて含有されてなる鉄系焼結摺動材料が高強度な鉄系裏金に焼結接合されてなる複層焼結摺動部材を開発した。なお、強靭性を改善するには総炭化物量が15〜35体積%に調整されることがより好ましい。
【0102】
さらに、前記鉄系焼結摺動材料中に含有されるNi、Mn,Cuは、前述のように、オーステナイト安定化元素であって、焼入温度の低温度化に有効であり、かつ焼結性を高め、さらに、残留オーステナイト相を鉄系焼結摺動材料中に形成させ、摺動面における馴染み性を改善し、ヒートクラックの発生を抑制し、焼付き性の改善などに寄与する。しかし、過剰な添加は残留オーステナイトの増加による耐摩耗性の劣化に繋がることや、Niは高価な元素であることから1〜5重量%を添加量範囲とし、Mnは焼結性を阻害し易い元素であることから1〜2重量%を添加量範囲とし、さらに、Cuは焼結性を高める元素として0〜10重量%を添加量範囲とする。
【0103】
また、NiはAl、Moとの共存によって焼戻し処理によって時効硬化性を示し、さらに、Cuを共存添加させることによってその時効硬化性が促進されるので、これらの合金元素を積極的に添加することが好ましい。
また、Coは2〜12重量%の添加により、マルテンサイト母相の磁気変態温度を高めてマルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を高め、また、前記のようにSiは0.5〜3.5重量%、Alは0.2〜2.0重量%の添加により、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を高めるが、SiはMo,W,Vの焼戻し軟化抵抗性を低減する作用があるので、1.5重量%以下の範囲で使用されることが好ましい。
具体的には、1〜5重量%のNi、1〜2重量のMn、2〜12重量%のCoおよび0.2〜1.5重量%のAlからなる群から選ばれた1種以上を含有する鉄系焼結摺動材料を用いることが好ましい。
【0104】
前述した鉄系焼結摺動材料が高強度な鉄系裏金に焼結接合されてなる複合焼結摺動部材においては、その鉄系焼結摺動材料は、少なくとも相対密度で95%以上に緻密化されて、ガスもしくは潤滑油の洩れが無く、かつ焼入れ後にHRC55以上に硬質化されるとともに、前記裏金に十分強固に接合されていることが好ましい。そこで、その焼結接合過程において十分な液相成分を発生させる0.1〜1.5重量%のPと0.01〜0.2重量%のBのうち一種以上を添加し、FeP,CrP,FeMoP,VPおよびFeTiPからなる群から選ばれた1種以上の化合物を10体積%以下分散させた鉄系焼結摺動材料を焼結接合した複層焼結摺動部材を開発した。
【0105】
なお、Pの添加は鉄系焼結摺動材料の緻密化と焼結接合性の改善に有効であって、焼結性の改善がより明確に現れる0.1重量を下限添加量とし、0.5重量%以上の添加によって、CrP,FeMoP,VP,FeTiP等の燐化物が析出分散し、耐焼付き性が改善されるが、過剰なP添加は脆弱化の原因となる。このことから、1.5重量%をPの上限添加量とする。
また、Pと同様に、鉄系焼結摺動材料の緻密化と焼結接合性の改善にBの添加が有効であるが、0.2重量%以上の添加によって脆弱化しやすい。このことから、適正なB添加範囲は0.01〜0.2重量%とする。
【0106】
さらに、同様の焼結接合性を改善する観点と、前記耐ヒートクラック性を向上させる観点から、前記鉄系焼結摺動材料中に軟質なCu基合金相を粒状に1〜10体積%分散させ、摺動面における馴染み性を高め、さらに、摺動中に局部的なオイルポケットが形成され易くした複層焼結摺動部材を開発した。
【0107】
なお、Cu基合金としては、摺動特性を改善する観点から、Sn,Al,Si,P,Fe,Ni,Tiの一種以上が総量で5〜15重量%含有されることが好ましい。
【0108】
さらにまた、Mo金属粒子、W金属粒子および黒鉛粒子の少なくとも一つが1〜10体積%で分散され、前記一つが前記Cu又はCu合金相で囲まれていることによって、Mo,W金属固有の固体潤滑性の発現による鉄系焼結摺動材料の耐焼付き性を改善した複層焼結摺動部材を開発した。
【0109】
なお、MoおよびWの少なくとも一方の金属相粒子とCu粒子もしくはCu合金粒子と共存させる理由は、MoおよびWの少なくとも一方の金属粒子が、焼結接合時に鉄系焼結摺動材料と反応することを防止するためである。その際の鉄系焼結摺動材料においては、あらかじめCu成分が飽和状態に近い状態に調整されていることが好ましいが、鉄系焼結摺動材料と部分的に反応した場合においても、MC型炭化物、MoC炭化物およびMC型炭化物(WC)のうち少なくとも一つが耐摩耗性の改善につながることで選定されるものである。
【0110】
さらにまた、前記高密度に焼結接合された鉄系焼結摺動材料の摺動面に、平均粒径が0.03〜3mmの閉塞化された気孔を1〜10体積%分散形成させ、摺動面における潤滑性を改善したことを特徴とする複合焼結摺動部材を開発した。前記気孔がオイルポケットとして有効作用し始める気孔量を1体積%とし、気孔量が多すぎると鉄系焼結摺動材料が弱くなるので、その上限量を10体積%とする。なお、含油軸受の摺動面における気孔量を参考にすると、3〜10体積%の範囲に気孔量を調整することがより好ましい。また、上記気孔の平均径は複層焼結摺動部材としての用途によってコントロールされるものである。例えば前記複層フローティングシールにおいては、そのシール面幅の約1/2幅程度に調整され、より具体的には1mm以下、より好ましくは0.5mm以下に調整されることが好ましい。
【0111】
なお、上記サイズの閉塞気孔を形成させる方法としては、適当なサイズのSiOやNi酸化物粒子、Co酸化物粒子、Cu酸化物粒子、Fe酸化物粒子、Mo酸化物粒子、W酸化物粒子(中空粒子、造粒粒子でも可)等を前記鉄系焼結摺動材料用原料粉末に適正量配合して成型し、焼結時にそれらの酸化物粒子を炭素還元し、残留成分を鉄系焼結摺動材料中に固溶させることによって、容易に気孔を形成させることができる。また、平均粒径0.1〜1mmのSiC、Cu、樹脂等をあらかじめ混合、成型し、焼結過程において焼結摺動材料中に固溶させる、もしくは消失させることによって形成させることもできる。前記SiO、Cu,樹脂は短繊維状に加工しやすい素材であって、これら短繊維を使った気孔形成であってもよいが、これらの気孔が前記閉塞気孔化していることが必要である。
【0112】
さらに、前記閉塞気孔を分散させることは、製造コスト上割高になりやすいことや偏析によって均一分散性の確保が難しく、前記鉄系焼結摺動材料の強度低下をきたしやすい。そこで、前記鉄系焼結摺動材料混合粉末の成形品の、少なくとも摺動面において3〜10面積%の凹部状のオイルポケットを形成させ、焼結接合した複層焼結摺動部材を開発した。また、前記複層フローティングシールにおいては、上記凹部の大きさは、前記シール幅を横断して油漏れを引き起こさない大きさであって、約シール幅の1/2以下もしくはシール幅方向(シール面の幅方向)において1mm以下、より好ましくは0.5mm以下とする。
【0113】
さらに、炭化物形成元素としてのZr,Nb,Hf,Ta等やその他Ca,S,Nも必要性の範囲で添加しても良い。
【0114】
なお、前記鉄系焼結摺動材料は、焼結接合温度から1100℃以下、好ましくは、900〜1000℃の焼入れ温度に降温して、ガス焼入れされて使用されるものである。マルテンサイト相の靭性と曲げ強度を回復させるためには、150〜600℃での焼戻し処理が施された焼戻しマルテンサイト相として使用されることが好ましい。
また、550〜580℃の高温焼戻し処理による焼戻し二次硬化によってHRC65以上に硬化する場合には、前記フローティングシールにおいて、初期馴染み性が悪く、初期の油洩れが発生しやすい。このことから、本発明においては、焼戻しの上限温度を500℃以下に設定することが好ましい。したがって、本発明の製造方法としては、焼結接合後、900〜1100℃に炉内で降温保持した後にガス冷却してマルテンサイト相を形成させ、その複層焼結摺動部材を150〜500℃で一回の焼戻し処理を施すことがより経済的に好ましい。
【0115】
前述した鉄系焼結摺動材料中の炭化物量が5体積%以上に増量されるにつれて、その焼結摺動材料の耐摩耗性と耐焼付き性が改善される。但し、その炭化物の増量につれて強度の劣化と靭性の劣化が避けられない問題となり、前述のように偏荷重のかかり易いスラスト軸受にとってはとりわけ曲げ強度とその最大たわみ量が重要であり、400MPa以上の曲げ強度(200MPa以上の接合面における破断強度)とその破断時の最大たわみ量0.4mm以上を確保することが望まれる。このことから、前述の鉄系焼結摺動材料中の炭化物総量が30体積%以下になるように調整され、かつ、前述の焼入れした鉄系焼結摺動材料は100〜600℃の一回の焼戻し処理が施されることが好ましく、炭化物総分散量を20体積%以下にすることがより好ましく、経済的である。
【0116】
また、前記鉄系焼結摺動材料の焼結接合後の焼入れ操作は、焼結接合後に前述のように1100℃以下もしくは900〜1000℃に降温、保持した後に、ガス冷却による焼入れ操作を施し、鉄系焼結摺動材料は十分に焼入れ硬化される。鉄系裏金がフェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト相の混合組織になるようにして、焼結接合した鉄系焼結摺動材料の焼割れ、剥離の発生することを防止することが好ましい。前記鉄系焼結摺動材料は、Cr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が5〜25体積%で分散されていることが好ましいが、相手摺動材料が浸炭焼入れ、高周波焼入れ部材の場合においては、相手摺動材料に対するアタック性を考慮して、炭化物総量を5〜15体積%で分散させることがより好ましい。さらに、円筒状裏金の一端面に鍔付き部を設けたスラスト軸受においては、その円筒部を作業機本体に圧入して固定する必要性があることから、裏金硬さが少なくともビッカース硬さHv170以上であることが好ましく、鉄系焼結摺動材料の曲げ強度の下限値の降伏応力を備えるためにはHv240以上に硬化される鋼材で構成されることが好ましい。また、前記鉄系焼結摺動材料の摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%、好ましくは3〜10面積%含有させることにより、閉塞気孔または凹部が摺動面におけるオイルポケット(潤滑剤の溜り場所)として作用し、耐ヒートクラック性を向上させることができる。
【0117】
またさらに、円筒状裏金の一端面に鍔付き部を設けたスラスト軸受においては、スラスト面で耐焼付き性と耐ヒートクラック性を顕著に改善することによって、スラスト面へのグリース給脂間隔を500hr以上に延長化できる。従って、このスラスト軸受は、従来の使用されている高周波焼入れ法や浸炭焼入れ法によって製造されるスラスト軸受よりもよりイージーメンテナンスなスラスト軸受となる。円筒状裏金の内周面においても円筒ブッシュ(軸受け)を一体化しているので、この円筒ブッシュの給脂間隔の延長化を図る必要性がある。そこで、前記複層スラスト軸受の円筒状裏金の内周面に、通気性を有する銅系もしくは鉄系多孔質焼結摺動材料からなるとともに、その気孔中に潤滑油もしくは潤滑油とワックス類からなる潤滑組成物が充填されている円筒ブッシュが焼結接合され一体化された複層焼結摺動部材を開発した。なお、ここでは、銅系もしくは鉄系多孔質焼結摺動材料を用いているが、これに限定されるものではなく、銅系及び鉄系以外の他の多孔質焼結材料と用いることも可能である。
【0118】
また、前記スラスト軸受と同様に、建設機械の作業機ブッシュ(円筒状軸受)においても顕著な偏荷重下で使用されるために、前記潤滑油を含有する銅系もしくは鉄系多孔質焼結摺動材料であっても、耐焼付き姓、耐摩耗性が十分ではない。そこで、前記スラスト軸受用の鉄系焼結摺動材料を円筒状の鉄系裏金の内周面に焼結接合して一体化してなる複層焼結ブッシュ部材を開発した。
【0119】
円筒状鉄系裏金の内周面への一体化方法としては、前記鉄系焼結摺動材料を圧入、焼嵌めする方法や鉄系焼結摺動材料の焼結工程において同時に焼結接合する方法が好ましい。焼結接合する方法を採用する場合においては、鉄系焼結摺動材料に少なくとも、Al,Cu,Sn,Ti,Pの一種以上の合金元素が含有されていることが好ましい。
【0120】
前述した鉄系焼結摺動材料中の炭化物量が5体積%以上に増量するにつれて、その焼結摺動材料の耐摩耗性と耐焼付き性が改善される。建設機械用の減速機装置や転輪装置のオイルシール装置として利用されるフローティングシールに適用する場合には、より十分な耐土砂摩耗性を確保するとともに、より耐焼付き性の改善が必要となる。このことから、前記鉄系焼結摺動材料中の炭化物総量が20〜40体積%に調整されることが好ましく、より好ましくは、炭化物総量が25〜40体積%に調整されることである。
【実施例1】
【0121】
(鉄系焼結摺動材料の焼結後の平衡組成調査)
本実施例では、Fe−0.6重量%C−0.3重量%Si−0.45重量%Mn−15重量%Cr−3重量%Mo−1.2重量%V合金粉末と、Fe−0.6重量%C−0.3重量%Si−0.35重量%Mn−9重量%Cr−6重量%Mo−4重量%W−2重量%V合金粉末と、Fe−0.6重量%C−0.3重量Si−4.5重量%Cr−5重量%Mo−6重量%W−2重量%V合金粉末をベースにして、さらに、#350以下のNi,Co,Si,FeAl,FeP粉末および6μm平均径の黒鉛粉末を調整して表1に示す4種類の焼結合金混合粉末(A〜D)を混合調整し、さらに、混合調整した焼結用混合粉末に3重量%のパラフィンワックスを添加したものを1.0トン/cmの圧力でプレス成形したA,B組成の成形体を1190℃で、C組成の成形体を1135℃で、D組成の成形体を1230℃でそれぞれ2時間真空焼結し、その後、A〜D組成の焼結体を1000℃に炉冷し、1時間保持後に、400torrの窒素ガスで冷却焼入れを実施し、その焼結体試験片を切断研磨後に、X線マイクロアナライザー(EPMA)によってマルテンサイト母相とその母相に析出分散する炭化物中の各種合金元素濃度を調査した。その調査結果が表2に示されている。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
前記焼結合金A,Bは、高Crな15Cr−3Mo系合金に、3重量%のCoと2重量%または4重量%のNiを添加した合金であり、マルテンサイト相(母相)とCr型炭化物のみが平衡するものである。焼結合金Cは、Cr,Mo,W濃度を高めて、マルテンサイト母相中にCr型炭化物とMC型炭化物が平衡するようにしたものであり、焼結合金Dは、MC型炭化物とわずかなMC型炭化物が平衡するようにしたものである。
【0125】
表2中の母相、MおよびMCの欄はそれぞれの合金元素濃度を示しており、KM7はCr型炭化物と母相間の合金元素Mの分配係数(Cr型炭化物と母相間の合金元素重量%/母相中の合金元素重量%)、KM6はMC型炭化物と母相間の合金元素Mの分配係数(MC型炭化物中の合金元素重量%/母相中の合金元素重量%)、KMM/CはMC型炭化物と母相間の合金元素Mの分配係数(MC型炭化物中の合金元素重量%/母相中の合金元素重量%)を示しているが、それら各合金元素の分配係数を比較することによって、各種合金元素の特徴が検討できる。
【0126】
また、これらの結果を用いて、Cr型炭化物の中の合金元素濃度とそれと平衡する母相中の合金元素濃度の関係が図13に示され、MC型炭化物の中の合金元素濃度とそれと平衡する母相中の合金元素濃度の関係が図14に示されている。図13および図14によれば、各元素に関してはほぼ一定の比率で合金元素が分配されること、および、鉄系焼結摺動材料の組成が異なっていた場合においても、分配係数はほぼ同じになることがわかる。
【0127】
【表3】

【0128】
なお、各合金元素についての、本発明で使用するCr型炭化物、MC型炭化物、MC型炭化物とオーステナイト相(焼入れ後にマルテンサイト相になる)間の分配係数を表3にまとめて示したが、各合金元素については、
(1)Si,AlはM型炭化物にほとんど固溶せずにほぼ全量がマルテンサイト相中に濃縮し、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を高めること、
(2)VはM型炭化物へのCr,Mo,Wよりもより多く濃縮し、Cr型炭化物の微細化を図るが、MC型炭化物へはあまり濃縮せず、MC炭化物とマルテンサイト相からなる鋼材においてはMC型炭化物として析出し易く、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を顕著に高めること、
(3)Mo,WはM型炭化物よりもMC型炭化物に顕著に濃縮すること、
(4)CrはCr炭化物に頚著に濃縮するが、MC炭化物へはほぼ濃縮しないこと、
(5)Ni,Coはいずれの炭化物よりもマルテンサイト母相中に濃縮すること
等の特徴を有することが定量的にわかる。また、これらの分配係数を用いることによって、本発明の主旨とするマルテンサイト相の炭素、各合金元素濃度を設定でき、かつ分散させる炭化物の種類と量を設定することによって、適正な鉄系焼結摺動材料の組成を算出できる。
【0129】
前記各種合金元素の分配係数に基づいて、代表的なSKD,SKH工具鋼材の成分から、それら鋼材の標準焼入れ温度から焼入れたマルテンサイト母相の組成と炭化物量を解析することができるようになり、その結果を表4に示しているが、SKD材料(SKD1,SKD2,SKD11,D7、SKD12、焼入れ温度:950〜1000℃)のマルテンサイト母相は、Cr:4.5〜7重量%、C:0.65〜0.9重量%に調整され、Cr炭化物が8〜18体積%、MC炭化物が〜7体積%分散した組織となっており、マルテンサイト相中の固溶炭素量が高いことから、例えば耐ヒートクラックに優れた熱間加工用工具鋼(例えば、SKD7,SKD6,SKD61,SKD62)と比べて十分でないことがわかる。また、SKH材料(SKH2,SKH9)においてもマルテンサイト相中の固溶炭素量が0.5〜0.55重量%と比較的高いことから、十分なる耐ヒートクラック性が実現されないことがわかる。
【0130】
SKD1、SKD2、SKD11等の高炭素高Cr系工具鋼の標準焼入れ状態においては10〜15体積%のCr型炭化物が0.5〜0.7重量%の炭素を固溶するマルテンサイト相中に析出分散するために、マルテンサイト相が高炭素であることから耐ヒートクラック性が十分でないことがわかり、本実施例においては、SKD材料系の適正焼入れ温度900〜1000℃におけるFe−C−Cr三元系状態図(後述の図15)とその状態図における平衡関係(等炭素活量)を参考にして、Cr型炭化物が5〜40体積%、MC型炭化物が0〜5体積%、これらの総炭化物量が5〜40体積%分散して、かつマルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.2〜0.45重量%、固溶Cr濃度が6.5〜12重量%、固溶V濃度が0〜0.6重量%の範囲に調整されるように、少なくともCが0.9〜3.8重量%、Crが9〜35重量%、Vが0〜3重量%を含有し、かつ、0.143×(Cr重量%)−1.41+14×MC炭化物の体積分率≦(C重量%)≦0.156×(Cr重量%)−0.58+14×MC炭化物の体積分率の関係を満足させるようにCr、VとC添加量を調整し、さらに、Si,Mn,Ni,P,S,B,N,Mo,W,Ti,Co,CuおよびAl等からなる合金元素群から選ばれた1種以上が必要に応じて含有された鉄系焼結摺動体を焼結接合されてなる焼結摺動部材とすることが好ましい。なお、ここでは、0.143×(Cr重量%)−1.41+14×MC炭化物の体積分率≦(C重量%)≦0.156×(Cr重量%)−0.58+14×MC炭化物の体積分率の関係を満足させるようにCr、VとC添加量を調整しているが、0.143×(Cr重量%)−1.41+0.15×(Si重量%)+14×MC型炭化物体積分率≦C重量%≦0.156×(Cr重量%)−0.58+0.15×(Si重量%)+14×MC型炭化物体積分率の関係を満足するように炭素量を調整しても良い。
【0131】
【表4】

【0132】
したがって、SKD工具鋼と同等以上の耐摩耗性を発揮させるためには、10体積%以上の炭化物(例えばCr型炭化物)を分散させることが好ましく、Cが1.05〜3.8重量%、Crが12〜35重量%を含有する鉄系焼結摺動材料とすることが好ましい。より耐摩耗性を改善する観点からは、Cr型炭化物が15体積%以上となる、Cが1.45〜3.8重量%、Crが14〜35重量%であることがより好ましい。さらに、フローティングシールに適用する場合には、適正な摩耗寿命を確保するために、Cr型炭化物が20体積%以上となる、Cが1.85〜3.8重量%、Crが16.5〜35重量%であることが好ましい。また、鉄系焼結摺動材料に添加する上限のCr添加量は、適正な耐摩耗性と強度を確保するためとその経済性を勘案し、上限Cr型炭化物量を40体積%とすることが好ましい。
【0133】
また、熱間加工用工具鋼の耐ヒートクラック性を兼ね備える鉄系焼結摺動材料を得る方法としては、少なくとも、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.45重量%以下であることが好ましく、さらに、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.35重量%以下であることがより好ましい。つまり、より耐ヒートクラック性を高めるために、マルテンサイト相の上限の固溶炭素濃度を0.35重量%に調整することが好ましいので、適正な上限の炭素添加量が、(C重量%)≦0.156×(Cr重量%)−0.68+14×MC炭化物の体積分率の式によって記述される。
【0134】
また、焼割れ性が問題となり易い高周波焼入れ方法においても、通常0.5重量%以下の炭素鋼や合金鋼が選ばれていることと類似している。
【0135】
またさらに、Cr型炭化物とマルテンサイト相を主体とする鉄系焼結摺動材料においては、焼結接合後の焼入れ温度を900〜1000℃とした場合において、マルテンサイト相中の固溶炭素量を0.2〜0.45重量%にする条件として、900℃におけるFe−C−Cr三元状態図(図15中の2本のTie−LineA,Bで挟まれる鉄系焼結摺動材料中のCr重量%に対する適正な炭素量(C重量%)が次式で与えられることがわかる。
0.143×Cr重量%−1.41≦(C重量%)≦0.156×Cr重量%−0.58
【0136】
また、図15には、Cr型炭化物が10,20,30,40体積%分散する組成位置を破線で示しているが、Cr型炭化物を10体積%分散させる条件は(Cr重量%)≧10重量%であり、Cr型炭化物を40体積%以下分散させる条件は(Cr重量%)≦35重量%であることがわかる。
【0137】
さらに、本出願人が特願2002−380203号に記載したように、マルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性をより高めることによって、境界潤滑下で、かつ土砂の侵入がある摺動面での耐焼付き性と耐摩耗性を顕著に改善することができる。また、600℃の焼戻し処理によってもHRC50以上を維持できることが好ましく、さらに好ましくはHRC55以上を維持できることである。また、マルテンサイト相中の固溶炭素量が0.15〜0.45重量%である場合のマルテンサイト相中に固溶する各種合金元素濃度を前述した焼戻し軟化パラメータ△HRC式にあてはめて、合金設計されることが好ましい。
【0138】
また、図16(Fe−C−Mo系状態図)を参考にすると、(Fe,Mo)C型炭化物をほとんど析出分散させないMoの最大固溶度は、約4重量%(at 900、1000℃)であり、さらに、前述の10〜40体積%のCr型炭化物に濃縮するMoを考慮すると、好ましいMo添加量は0.6〜6.5重量%であることがわかる。
【0139】
また、後述の図17(Fe−C−W状態図)を参考にすると、Wについてもほぼ同じ議論ができる。鉄系焼結摺動材料に対するMo,Wの具体的な添加量はほぼ0.6〜7.0重量%である。Mo,Wが最も効率よく焼戻し軟化抵抗性を高める2.5重量%までをマトリックス相の最大固溶量とすることによってMo,W添加量を4重量%以下にすることが経済的にも好ましい。
【0140】
また、Vは前述のようにCr型炭化物に顕著に濃縮し、マルテンサイト相中に留まる量が極めて少なくなるため、マトリックス相の焼戻し軟化抵抗性を高める元素としては非効率である。VはCr型炭化物を微細化する作用を示すために、マルテンサイト相中にVの最大固溶量0.5重量%を固溶させた場合の鉄系焼結摺動材料に対するV添加量は、1.1〜3.9重量%(10〜40体積%Cr型炭化物)であり、Cr型炭化物を主体として分散させる鉄系焼結摺動材料においては、4重量%以下にすることが経済的にも好ましい。
【0141】
C型炭化物が主体となり、さらにMC型炭化物が分散するSKH系焼結摺動材料のマルテンサイト相中の固溶炭素濃度に関しては、佐藤、西沢の報告(「金属学会報」2(1963)、P564、第3図炭化物の固溶に伴う基質中の炭素濃度変化)を参考にすると、そのマルテンサイト相中の固溶炭素濃度を0.4重量%以下に調整するための簡便な方法が焼結接合後の焼入れ温度を900〜1100℃の温度範囲に設定することである。通常のSKH系高速度鋼における焼入れ温度が1200〜1350℃であることに比べ、著しく低温度側での焼入れ操作が本発明の基本の1つとなる。
【0142】
さらにまた、上述のFe−C−Cr系状態図を使ったものと同様の検討が、図16と図17に示したFe−C−Mo,Fe−C−W系状態図に基づいて展開でき、MC型炭化物と平衡するマルテンサイト相の炭素固溶度が0.15,0.45重量%を通るTie−Line A,Bは、同図中に数値化して示した通りである。Fe−C−Mo系とFe−C−W系のTie−Lineを比較すると、Fe−C−W系のTie−Lineの勾配はMoのそれの約1/2であること、MC型炭化物と平衡するマルテンサイト相中のMo,Wの重量%濃度がほぼ同じであることから、MoとWが共存添加された場合のMC型炭化物とマルテンサイト相の組成平衡関係が0.5×W重量%=Mo重量%として、Fe−C−Mo系状態図から読み取れることがわかる。前記Tie−Line A,Bから数値化される鉄系焼結摺動材料中の適正炭素濃度(C重量%)が、次式
0.043×(Mo重量%+0.5×W重量%)≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.33
で簡略的に記述できる。
なお、MC型炭化物を考慮すると、鉄系焼結摺動材料(鉄系焼結摺動体)の炭素含有量が、0.043(好ましくは0.05)×(Mo重量%+0.5×W重量%)+14×MC型炭化物体積分率≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.33+14×MC型炭化物体積分率の範囲にあることも可能である。またさらに、Cr型炭化物を考慮すると、鉄系焼結摺動材料の炭素含有量は、0.043×(Mo重量%+0.5×W重量%)+8.5×Cr型炭化物体積分率+14×MC型炭化物体積分率≦(C重量%)≦0.038×(Mo重量%+0.5×W重量%)+0.33−8.5×Cr型炭化物体積分率+14×MC型炭化物体積分率の範囲にあることも可能である。
【0143】
また、このことから、Moを主体的に使用して、W添加量を極力抑えることがより経済的であること、さらに、鉄系焼結摺動材料の焼結性やマルテンサイト相の焼戻し軟化抵抗性を高める観点からもMoを主体として添加することが好ましく、Wを添加しなくてもよいといえる。
【0144】
さらに、先のMo,W,Cr等の合金元素の分配係数KM6を用いて、マルテンサイト相中の炭素、各合金元素濃度を設定し、かつ分散させるMC型炭化物の量を設定することによって、適正な鉄系焼結摺動材料の組成を算出することができる。
【実施例2】
【0145】
(鉄系焼結摺動材の焼結接合試験とその摺動特性評価)
図18は、鍔付きスラスト軸受の試験片形状を示す断面図である。図19(a),(b)は揺動試験機を説明する図である。
本実施例では図18に示される形状の鍔付きスラスト軸受を用いて、図19(a)に示される揺動試験機により、2つの試験片の摺動面を相接するように配置し、一方の試験片の回転中心軸を他方の試験片に対して2°傾斜させ、荷重(P)を与えて、回転中心軸まわりに正逆方向の回転を繰り返す揺動操作を行う。揺動操作は、図19(b)に示す揺動角120°、揺動速度2m/minの揺動サイクル(横軸:時間、縦軸:角度)に従う。ここでは、片当り状態(前記傾斜状態)での荷重1トン毎の500サイクル揺動試験を行い、耐ヒートクラック性と耐焼付き性を発生した荷重で評価した。比較鋼材としては、SUJ2,SKD6,SKD11,SKH9の標準焼入れ焼戻し鋼材とSCM420H材に表面炭素量が0.8重量%になるように930℃で浸炭焼入れ焼戻したスラスト軸受を用いた。
【0146】
表5および表6に示す鉄系焼結摺動体をS50C炭素鋼の鍔部に1130〜1280℃の温度範囲で焼結接合し、その焼結接合性を超音波探傷法で評価した。なお、表5に示したNo.20〜No.30の鉄系焼結摺動材料は、表5のNo.16に示した合金鋼粉末をベースにして、さらに、#200メッシュ以下のCu,Cu−10重量%Sn,Fe25重量%P,Cu8重量%P,SiO破砕粉末および#300メッシュ以下のSi、Cr粉末、平均粒径6μmのMo,Ni,Co,Si,黒鉛(ロンザ社製KS6)粉末、さらに0.03〜0.5mmのMo/Cuメッキ粒子、黒鉛/Cuメッキ粒子を適正に配合したものである。
【0147】
【表5】

【0148】
【表6】

【0149】
また、表5および表6の配合原料には、3重量%のワックスを添加して、ハイスピードミキサーを使って、100℃で10分間混合造粒したものを図18に示す鍔付きスラスト軸受上面のドーナツ状平板に成形圧力1トン/cmの条件で成形し、真空焼却炉を用いて前記焼結温度で焼結接合した後に、960℃まで炉冷し、500torrのNガス冷却による焼入れを行い、さらに200℃で2時間の焼戻し処理を施した。
【0150】
表5および表6の中には、焼結接合率とヒートクラックもしくは焼付きの発生する荷重も示されている。
【0151】
No.1〜6の合金は、燐添加量を0.9〜1.6重量%と多量に配合し、鉄系焼結摺動材料の焼結性と鉄系裏金に対する焼結接合性を改善するとともに、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度を低くしながら、V添加によるMC型炭化物、Siを分散析出させたものである。No.1〜6の合金は、No.1(固溶炭素濃度0.6重量%)とNo.2,3,6との比較においてMC炭化物およびSiの分散によって耐ヒートクラック性が顕著に改善されることがわかる。また、No.1〜6の合金は、No.2とNo.4,5との比較において、マルテンサイト相中のMo、Cr濃度を高めることによる焼戻し軟化抵抗性の改善によって耐ヒートクラック性が顕著に改善されることがわかる。
さらに、FeP,VPの燐化合物が分散されるNo.1,2とSUJ2,SKD6,SKD11,SKH9,浸炭焼入れ鋼と比べ、燐化合物とMC型炭化物の分散、および、マルテンサイト中の固溶炭素濃度の低減によって耐ヒートクラック性が顕著に改善されることがわかる。
【0152】
また、No.7〜23の比較において、No.8,10,13,16のマルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.5重量%を超えるもの以外の耐ヒートクラック性は顕著に改善され、さらに、No.20,21に示すようにCr型炭化物の量的増大によって、耐ヒートクラック性が改善されることがわかる。また、No.17とNo.19の比較において、Si添加によってマルテンサイト相中の固溶炭素濃度が低減することにより、耐ヒートクラック性が改善されていることがわかる。またNo.14,15においては、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度を低減させることと分散させるMC炭化物量を増量することによって、No.22においては、Mo,Wの添加によるMC炭化物を分散させることによって、さらに、No.23においてはNi、Coの添加によって顕著に耐ヒートクラック性が改善される。
【0153】
なお、No.16の合金はフローティングシール用焼結摺動材料として耐食性と耐摩耗性に優れた基準組成として利用しているものである。No.24〜No.26はこのNo.16の合金(マルテンサイト相中の固溶炭素濃度0.9重量%)をベースにCu粒子もしくはCu合金粒子を分散させたものである。これらの添加による焼結性、焼結接合性にマイナス因子はなく、その耐ヒートクラック性はNo.16との比較において顕著に改善されていることがわかる。また、その組織は図20(a)に示すように、Cu粒子が粒状に分散され、摺動時の馴染み性改善に好都合であることがわかる。また、Cu10重量%Sn合金を添加したNo.25が耐ヒートクラック性により効果的であることがわかり、分散させるCu粒子の組成は、銅系摺動材料に好んで添加されるSn,Ni,Ti,P等の合金元素の一種以上が5〜15重量%含有されていることが好ましいことがわかる。
【0154】
No.27は炭化物以外にSiを分散させたものである。マルテンサイト相の固溶炭素濃度を0.4重量%以下に下げ、Cr型炭化物との共存によって、顕著に耐ヒートクラック性が改善されている。これはNo.6、No.9との比較において、Si粒子の分散による作用がより大きいことを示唆している。
【0155】
図20(b)に示すように、No.28は、No.16に2.5重量%のSiOを添加して、焼結時の炭素による強力な還元作用によってSiOを還元し、SiO粒子跡に気孔を形成させたものであり、焼結後の焼結材料中の炭素量を2重量%、Siを1.77重量%に調整したものである。その耐ヒートクラック性は、SiO還元気孔による潤滑促進作用によって、極めて顕著な改善が認められる。
【0156】
また、No.29,30は固体潤滑材となる黒鉛,Mo金属相を分散させたものであって、顕著な耐ヒートクラック性の改善が発現していることがわかる。したがって、W,CaF等についても同様の効果が期待できる。
【0157】
No.31〜No.36はMC型炭化物を主体として分散させた合金である。この合金は、Pの添加によって、焼結性と焼結接合性が顕著に改善されるとともに、燐化合物(FeMoP)の分散によって、耐ヒートクラック性が改善され、さらに、MC型炭化物の増量によっても耐ヒートクラック性が改善されることがわかる。
【0158】
図21は、No.32の焼結組織を示す写真およびX線マイクロアナライザー分析結果を示す図である。図21に示す写真によれば、焼結時に形成されるMC型炭化物とMC型炭化物が粒界に析出し、また、960℃の焼入れ温度への降温過程で粒内にそれらの炭化物および燐化合物(FeMoPもしくはVP)が析出していることがわかる。さらに、粒界に析出しているMC型炭化物とMC型炭化物をX線マイクロアナライザーで分析した結果(図21中に示す)から、Si,PはMC炭化物やCr型炭化物から顕著に排出されるのに対して、MC型炭化物へは顕著に濃縮していることが特徴的である(別の分析結果から、その分配係数KSi、KP=2)。従来のMC型炭化物を分散させる高速度鋼において、Si含有量は0.4重量%以下に制限されていると考えられる。その理由は、Siの多量添加が、MC型炭化物の低融点化が起こることによる焼入れ温度の低下を招き、焼戻し二次硬化性を得るための十分な固溶合金量が得られ難くなること、さらに、焼戻し処理におけるMC型炭化物の安定析出を促進し、Mo、Wの焼戻し軟化抵抗性の改善効果が減ずるように作用することによる。MC型炭化物を主体とする本発明範囲の鉄系焼結摺動材料においては、Si,Pの添加は、焼結性と焼結接合性を高めることから、前記必要な焼戻し軟化抵抗性を得るための上限Si添加量を1.5重量%に抑制し、焼結性と焼結接合性をより顕著に高めるにはSi添加量を0.35重量%以下に設定することがより好ましく、マルテンサイト中には多く固溶できないP、B、さらに、マルテンサイト相中のNi−Mo間の時効硬化性を促進するCu成分を添加することがより好ましい。
【0159】
No.37〜No.39はCr型炭化物とMC型炭化物を共存させたものである。炭素添加量を少なくして、Cr型炭化物量を減少させるとともにマルテンサイト相中の固溶炭素濃度を低減させたNo.38と、さらに、Ni添加による残留オーステナイトを多くしたNo.39においては、顕著に耐ヒートクラック性が改善される。
【実施例3】
【0160】
(鉄系焼結摺動材料のフローティングシール特性評価)
図22(a),(b)は、焼結接合試験片の形状を示す図である。図23は、フローティングシールテスターの概略を示す図である。
本実施例では、実施例2の表5および表6に示した組成の混合粉末を図22(a)に示すリング形状に成形圧力1トン/cmの条件で成形し、SS鋼材から加工したベース材に配置した後、真空雰囲気炉を使って、焼結層の相対密度が93%以上になるように、1100〜1280℃の温度で2時間焼結接合し、960℃に炉冷却した後に、30分間保持して400torrのNガス雰囲気下で焼入れ処理を施し、焼入れ後に200℃で2時間の焼戻し処理を施した焼結接合試験片を作成した。
【0161】
前記焼結接合試験片を図22(b)の一部拡大断面図に示す形状に研削後、図中に示す焼結接合試験片上面の幅2mmのシール面部をラップ加工して仕上げた後に、図23に示すフローティングシールテスター(摺動試験機)を用いて、フローティングシール装置のシール面が相接するように配される一対のシールリングを前記焼結接合試験片とし、シール面での荷重、回転速度を変更して、空中で耐ヒートクラック性と耐焼付き性の評価を実施し、SiOが約50重量%含有する泥水中で耐磨耗性の調査を実施した。
【0162】
なお、耐ヒートクラック性と耐焼付き性は、シール荷重(線圧=荷重/シール位置長さ)を2kg/cmとした条件で摺動抵抗が急激に増大する回転速度を調査することによって求め、耐摩耗性は、線圧2kgf/cm、シール面での周速1m/secの条件で500時間連続試験後のシール当り位置の移動量(mm)で評価した。なお、異常摩耗性を示す合金については線圧を1kgf/cmに下げて耐摩耗性を調査し、図24と表5および表6の右欄に耐ヒートクラック性を示すPV値として示した。
【0163】
また、前記耐摩耗性と耐焼付き性の比較材料として、Fe−3.4C−1.5Si−15Cr−2.5Mo−1.5NiとFe−3.5C−1.5Si−9Cr−6Mo−4.5W−2V−2Ni−3Coの組成の鋳鉄シール材料(FC15Cr3Mo,FC9Cr6Mo)および表6に記載したSKD11,SKH9を取り上げ、その結果についても図24と表6に示した。
【0164】
表5および表6の中に示した各合金のPV値はほぼ実施例2で評価した耐ヒートクラック限界荷重と同じ傾向を示すことがわかる。
【0165】
また、図24中の破線は、建設機械のフローティングシールとして望まれる耐摩耗性基準を示したものである。例えば、建設機械のフローティングシールとしては、(Cr型炭化物+MC型炭化物)が約15体積%分散し、マルテンサイト相中の固溶炭素濃度が0.45重量%以下に調整されたNo.3,No.17のような焼結合金の耐摩耗性が好ましく、さらに、炭化物量の増加に伴って耐摩耗性がより改善されることから、Cr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物からなる群から選ばれた1種以上の炭化物が20体積%以上含有されることがより好ましい。
【0166】
さらに、実施例2で明らかなように耐ヒートクラック性に課題を持つNo.13,No.16,No.37と前記高炭素高Cr,Mo鋳鉄では、線圧2kgf/cmで耐摩耗性を評価した場合、微細なヒートクラックを伴う顕著な異常摩耗性を示すが、マルテンサイト相中の固溶炭素量を0.5重量%以下に制御した焼結合金においては試験終了後にヒートクラックは観察されないことがわかった。
【実施例4】
【0167】
(鉄系焼結摺動材料の抗折強度と靭性)
本実施例では、実施例2の表5および表6に記載したNo.16,No.17,No.32の鉄系焼結摺動材料を例として、その抗折強度と靭性について調査し、その結果を各含有する炭化物体積%に対して図25に示した。なお、図25において、No.の後に記号/Temp.が付されているもの(例えばNo.16/Temp.)は焼戻し処理を施したものを示している。
【0168】
960℃からの焼入れ後に、200℃における焼戻しによって、前記焼結摺動材料の抗折強度が改善されると共に最大たわみ量も大きくなって靭性が改善されることがわかる。特に、No.16のようにマルテンサイト相中の固溶炭素濃度が高くかつ炭化物量が多い焼結合金ほどその傾向が強く現れている。
【0169】
また、200℃焼戻し処理を施した焼結摺動材料においては、炭化物量が多くなるほど抗折強度が低下し、大きな偏荷重を受けるスラスト軸受等では時として60kgf/mm程度の曲げ応力が作用する場合が多いので、炭化物量を25体積%以下とすることが好ましく、20体積%以下とすることがより好ましい。図11に示したようにフローティングシールはゴム製Oリングを介したシール機構で使用されることから、その曲げ応力が10kg/mmを越えることが無い。このことから、鉄系焼結摺動材料に分散される炭化物量は、50体積%程度まで可能となり、より好ましくは40体積%以下である。
【0170】
なお、後述するように、オーステナイトとCr型炭化物の平衡状態における各種合金元素Mの分配係数KM=(Cr型炭化物中の合金元素M重量%濃度/オーステナイト相中の合金元素M重量%濃度)を比較すると、V>Cr>Mo>Wの順でCr型炭化物への濃縮傾向が強く、VがCr型炭化物を効果的に微細化し(KV:17、KCr:6.5、KMo:2.5、KW7:2.9)、Si,Al,Ni,Coの各元素はCr型炭化物から顕著に排出され、オーステナイト相中に濃縮する傾向が強いことを明らかにしている。
【0171】
また、オーステナイトとMC型炭化物の平衡状態における各種合金元素Mの分配係数KMを先と同様に比較すると、W>Mo>V>Si,Pの順でMC型炭化物に濃縮するが(KW:23、KMo:20、KV:5.5、KSi:2.4)、Crは僅かにMC炭化物から排出されオーステナイト相に濃縮し、Ni,Coは顕著にMC型炭化物から排出されることを明らかにしている。
【0172】
なお、後述するように、VはオーステナイトとCr型炭化物の平衡時にはオーステナイト中のV濃度の17倍濃度でCr型炭化物に濃縮する。このため、10、20、30、40体積%のCr型炭化物と共存しながら、オーステナイト中のV濃度が0.5重量%を越えて、VがMC型炭化物を形成させるための鉄系焼結摺動材料に対するV添加量はそれぞれ1.1、1.7、2.3、3.9重量%以上でなくてはならないことが計算される。Cr型炭化物を主体に分散させる鉄系焼結摺動材料においては、Vを添加してMC型炭化物を析出させることにより耐摩耗性の改善を図ることは経済的でなく、V添加は焼結時におけるCr型炭化物の粗大化防止の観点から0.5〜4重量%の範囲にとどめることが好ましい。
【0173】
ただし、MC型炭化物を主体としてMC型炭化物を分散させる場合には、MC型炭化物へのVの濃縮がさほど大きなもので無いことから、10,20,30,40体積%のMC型炭化物と共存しながら、オーステナイト中のV濃度が0.5重量%を越えて、VがMC型炭化物を形成させるための鉄系焼結摺動材料に対するV添加量はそれぞれ0.74、0.97、1.21、1.44重量%以上でなくてはならないことが計算される。MC型炭化物を主体に分散させる鉄系焼結摺動材料においては、Vを添加してMC型炭化物を析出させることにより耐摩耗性の改善が効率的に図られることがわかる。このことは、MC型とMC型炭化物の合計が約13体積%を含有する高速度鋼SKH10(SAET15)において、V添加よりMC型炭化物量を約10体積%に高めて、耐磨耗性を顕著に改善していることと符合している。本発明のVの最大添加量としては、MC型炭化物が20体積%を上限として、10重量%とした。このMC型炭化物を多く分散させる場合には、V以外にもTi,Nb,Zr等の合金元素を多量に添加する必要があるが、これらの合金元素を多量に添加すると鉄系焼結摺動材料の経済性が悪くなる。従って、SKH10以外の高速度鋼に分散されるMC型炭化物を参考にすると、MC型炭化物は5体積%以下であることが好ましい。
【0174】
また、前記鉄系焼結摺動材料にTi,Nb,Zr等を添加し、MC型炭化物を分散させる場合の鉄系焼結摺動材料の適性炭素量は、MC型炭化物に使用される炭素量を余分に添加することが必要であって、その化学量論的な炭素量を添加することが必要となる。
【符号の説明】
【0175】
1 油圧ショベル
2 作業機
3 上部旋回体
4 ブーム
5 アーム
6 バケット
6a ブラケット
7 ブーム連結装置
8 アーム連結装置
9,9A バケット連結装置
10 作業機連結ピン
11,22 作業機ブッシュ
12a,12b,25,26 スラスト軸受
13 ボルト
14 シール装置
15 潤滑剤供給口
16 潤滑剤供給路
20 鉄系焼結摺動体
21a,21b 鉄系裏金
21c 鍔部
23,23A ガス抜き穴
24,24A 溝
27 摺動面
28a アール溝
28b ダイヤ型溝
29 穴
30 溶射皮膜
36 転輪アッセンブリ
49 転輪リテーナ
50 転輪シャフト
51 転輪ブッシュ(鍔付ブッシュ)
52 転輪ローラ
53 フローティングシール装置
54 シールリング
55 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた焼結摺動部材であって、
前記鉄系焼結摺動体は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなり、5〜50体積%の炭化物を含有するものであり、
前記鉄系焼結摺動体は、0.9〜3.8重量%のCを含有し、9〜35重量%のCr、1〜12重量%のMo、総量で1〜16.2重量%のMoとW、0.4〜6重量%のVからなる群から選ばれた1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Cr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物からなる群から選ばれた1種以上の炭化物が前記マルテンサイト相に分散されていることを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項2】
前記鉄系焼結摺動体は、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項3】
前記鉄系焼結摺動体は、Cr,Mo,W,V粉末や高合金粉末を添加して組成調整することによって、平均粒径40μm以上に粗大化させたCr型炭化物、MC型炭化物およびMC型炭化物の少なくとも1種以上を3体積%以上析出分散させたことを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項4】
前記鉄系焼結摺動体は、1〜5重量%のNi、1〜2重量のMn、2〜12重量%のCoおよび0.2〜1.5重量%のAlからなる群から選ばれた1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項5】
前記マルテンサイト相には5〜40体積%の残留オーステナイト相が分散されていることを特徴とする請求項4に記載の焼結摺動部材。
【請求項6】
前記鉄系焼結摺動体は、0.1〜1.5重量%のPおよび0.01〜0.2重量%のBの少なくとも1種を含有し、FeP,CrP,FeMoP,VPおよびFeTiPからなる群から選ばれた1種以上の化合物を10体積%以下分散している請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項7】
前記鉄系焼結摺動体は、P,Sn,Al,FeおよびNiからなる群から選ばれた1種以上が含有されるCu基合金を粒状に1〜10体積%分散している請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項8】
前記鉄系焼結摺動体は、Mo金属粒子、W金属粒子および黒鉛粒子の少なくとも一つが1〜10体積%で分散され、前記一つがCu又はCu合金相で囲まれていることを特徴とする請求項6に記載の焼結摺動部材。
【請求項9】
前記鉄系焼結摺動体は、1〜10体積%の閉塞化された気孔が分散され、該気孔の平均粒径が0.03〜3.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項10】
前記鉄系焼結摺動体は、その摺動面に対して3〜10面積%の複数の凹部が分散されていることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項11】
前記マルテンサイト相が150〜600℃で焼戻し処理が施された焼戻しマルテンサイト相であることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項12】
前記裏金は、円筒状部材と、該円筒状部材の一端面に設けられた、摺動面を有する鍔部とからなり、前記摺動面に前記鉄系焼結摺動体が0.5mm以上の厚さで固定されている請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項13】
前記鉄系焼結摺動体はドーナツ状平板の形状を有し、該ドーナツ状平板の内周面の少なくとも一部と該ドーナツ状平板の下面が前記裏金に焼結接合により固定されるものであって、前記鉄系焼結摺動体と前記裏金との接合面の一部に、焼結接合時に焼結体から発生するガスを抜くための穴および溝の少なくとも一方を設けることを特徴とする請求項1に記載の焼結摺動部材。
【請求項14】
請求項1に記載の焼結摺動部材はスラスト軸受であり、前記鉄系焼結摺動体はCrC型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が5〜25体積%で分散され、前記裏金の硬さがHv170以上であることを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項15】
請求項1に記載の焼結摺動部材はスラスト軸受であり、前記鉄系焼結摺動体はCr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が5〜25体積%で分散され、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有し、前記裏金の硬さがHv170以上であることを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項16】
前記裏金は、円筒状部材と、該円筒状部材の一端面に設けられたスラスト荷重を受けて摺動する鍔部とからなり、この鍔部の摺動面に前記鉄系焼結摺動体が焼結接合されており、前記円筒状部材の内周面に作業機ブッシュが固定され、該作業機ブッシュが多孔質焼結材料からなり、該多孔質焼結材料の気孔中に潤滑油又は潤滑油とワックス類からなる潤滑組成物が充填されていることを特徴とする請求項14又は15に記載の焼結摺動部材。
【請求項17】
前記多孔質焼結材料が前記鉄系焼結摺動体と同等の材料からなることを特徴とする請求項16に記載の焼結摺動部材。
【請求項18】
請求項1に記載の焼結摺動部材はフローティングシールであり、前記鉄系焼結摺動体はCr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が20〜40体積%で分散され、前記裏金の硬さがHv170以上であることを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項19】
請求項1に記載の焼結摺動部材はフローティングシールであり、前記鉄系焼結摺動体はCr型炭化物、MC型炭化物及びMC型炭化物の総量が20〜40体積%で分散され、その摺動面に閉塞気孔および凹部の少なくとも一方を1〜10面積%含有することを特徴とする焼結摺動部材。
【請求項20】
前記鉄系焼結摺動体には3〜10体積%の閉塞化された気孔が分散され、該気孔の平均孔径が0.03〜1.0mmであることを特徴とする請求項18又は19に記載の焼結摺動部材。
【請求項21】
前記シール面に凹部が3〜10面積%分散して形成され、前記凹部は前記シール面の幅方向に1mm以下の大きさであることを特徴とする請求項18又は19に記載の焼結摺動部材。
【請求項22】
前記マルテンサイト相には5〜40体積%の残留オーステナイト相が分散されていることを特徴とする請求項18又は19に記載の焼結摺動部材。
【請求項23】
裏金と、該裏金上に固定された鉄系焼結摺動体とを備えた請求項14又は15に記載の焼結摺動部材からなる軸受であって、前記鉄系焼結摺動体は、固溶炭素濃度が0.15〜0.5重量%に調整されたマルテンサイト相からなり、5〜25体積%の炭化物を含有するものである軸受と、
前記軸受との組合せにおける相手摺動部材である軸受と、
を具備することを特徴とする作業機連結装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2012−41639(P2012−41639A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221045(P2011−221045)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【分割の表示】特願2005−512523(P2005−512523)の分割
【原出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】