説明

熱伝導材及びその製造方法

【課題】非圧縮時には良好な熱伝導率が得られないものの、圧縮して実装される際には良好な熱伝導率が得られるように熱伝導材を構成することで、その熱伝導材を良好に軽量化すること。
【解決手段】熱伝導材1は、連続気泡3Aを有する発泡体として成形されたエラストマ3に、熱伝導フィラー5が充填されて構成されている。熱伝導材1の熱伝導率は、非圧縮時では0.3W/(m・K)以下で、一軸方向に20%圧縮したときの当該一軸方向の熱伝導率が圧縮時が1.0W/(m・K)以上となった。熱伝導率が0.4W/(m・K)以下であると、電子部品の熱対策用に使用するには不十分であるが、熱伝導率が1.0W/(m・K)以上であると、電子部品の熱対策用に十分使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品等の発熱源からの放熱、若しくは被冷却部または被加熱部への伝熱を促すため、その発熱源等に対して接触するように配置して使用される熱伝導材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シリコーン等のエラストマに熱伝導フィラーを充填し、混練・成形してなる熱伝導材が考えられている。この種の熱伝導材は、例えばシート状に成形することによって熱伝導シートとして使用され、電気・電子機器の内部において、例えば発熱源となる電子部品と、放熱板や筐体パネル等といったヒートシンクとなる部品(以下、単にヒートシンクという)との間に介在させるように配置される。このように熱伝導シートを配置した場合、電子部品等が発生する熱をヒートシンク側へ良好に逃がすことができる。このため、この種の熱伝導シートは、例えばCPUの高速化等のために不可欠な素材として注目を集めている。
【0003】
また、近年、携帯電話,ノートパソコン等の各種機器の軽量化が要請されており、電気自動車の分野では、燃費の向上のために軽量化の要請が特に強くなっている。そこで、この種の熱伝導材の製造過程で、発泡剤をエラストマに混練することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。その場合、熱伝導材をある程度軽量化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−211021号公報(段落0050)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来は、非圧縮の状態で熱伝導材の熱伝導率を評価している。一方、この種の熱伝導材は、例えば電子部品とヒートシンクとの間に潰して(圧縮して)挿入される。従来は、圧縮時と非圧縮時とで熱伝導率を変化させるといった思想がなかったので、熱伝導材の軽量化には限界があった。
【0006】
そこで、本発明は、非圧縮時には良好な熱伝導率が得られないものの、圧縮して実装される際には良好な熱伝導率が得られるように熱伝導材を構成することで、その熱伝導材を良好に軽量化することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達するためになされた本発明の熱伝導材は、熱伝導フィラーが充填され、連続気泡を有する発泡体として成形されたエラストマからなる熱伝導材であって、非圧縮時の熱伝導率が0.4W/(m・K)以下で、一軸方向に20%圧縮したときの当該一軸方向の熱伝導率が1.0W/(m・K)以上であることを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明の熱伝導材は、エラストマによって連続気泡を有する発泡体として成形されているので、容易に圧縮して潰すことができ、軽量化が可能である。また、上記エラストマには熱伝導フィラーが充填されており、そのように圧縮することによって、熱伝導フィラー同士が接触または近接して、熱伝導材の上記圧縮方向の熱伝導率が良好に向上する。
【0009】
そこで、本発明では、非圧縮時の熱伝導率が0.4W/(m・K)かそれ未満で、一軸方向に20%圧縮したときの当該一軸方向の熱伝導率が、熱伝導材として良好に利用可能な目安とされる1.0W/(m・K)か、それよりも高くなるようにしている。従って、圧縮して実装される際には良好な熱伝導性を有し、しかも、極めて良好に軽量化が可能である。
【0010】
なお、本発明の熱伝導材は密度が1g/cc以下であってもよく、その場合、電気自動車等の分野に応用した場合にも軽量化の効果を一層良好に発揮でき、市場のニーズに一層良好に応えることができる。
【0011】
また、上記エラストマがシリコーンによって構成され、上記熱伝導フィラーとして、水酸化アルミニウムまたはその脱水物を含み、上記連続気泡が上記熱伝導フィラーとしての水酸化アルミニウムの脱水反応によって形成されてもよい。上記エラストマがシリコーンによって構成されている場合、水酸化アルミニウムが脱水反応を起こす250℃以上の架橋温度で架橋を行ってもエラストマが分解されない。このため、本発明の熱伝導材は、シリコーンに熱伝導フィラーとしての水酸化アルミニウムを混練し、250℃以上の架橋温度で架橋することによって製造することができる。すると、架橋中に水酸化アルミニウムの脱水反応が起こり、分離された水は即座に水蒸気に変わるので、上記シリコーンを連続気泡を有する発泡体として成形することが容易にできる。従って、この場合、本発明の熱伝導材の製造を容易にして、その製造コストを良好に低減することができる。
【0012】
また、上記発泡体の少なくとも片面に、ガラスクロスによって補強された熱伝導シートが積層されてもよい。この場合、発泡体の片面に積層された熱伝導シートがガラスクロスによって補強されているので、その熱伝導シートに垂直な方向に上記発泡体を圧縮することで、本発明の熱伝導材の取り扱いが一層容易になる。しかも、上記熱伝導シートは熱伝導性を有するので、本発明の熱伝導材の熱伝導性を阻害しない。
【0013】
また、その場合、上記熱伝導シートの上記発泡体に積層された面とは反対面に、粘着層が設けられてもよい。その場合、粘着層を介して本発明の熱伝導材を電子部品等に直接取り付けることができ、取り扱いが一層容易になる。また、粘着層はある程度の流動性を有するので、本発明の熱伝導材をスライドさせながら実装することも可能となる。
【0014】
また、本発明の熱伝導材の製造方法は、液状のシリコーンに、熱伝導フィラーとして水酸化アルミニウムを混練し、該混練物を250℃以上の架橋温度で架橋することを特徴としている。このように、シリコーンに熱伝導フィラーとしての水酸化アルミニウムを混練し、250℃以上の架橋温度で架橋すると、架橋中に水酸化アルミニウムの脱水反応が起こり、分離された水は即座に水蒸気に変わる。このため、上記シリコーンは連続気泡を有する発泡体として成形される。従って、この場合、本発明の熱伝導材の製造を容易にして、その製造コストを良好に低減することができる。
【0015】
そして、その場合、上記水酸化アルミニウムの上記混練物に対する充填量が、30wt%〜80wt%であってもよい。この場合、得られた熱伝導材の熱伝導率を、前述のように非圧縮時が0.4W/(m・K)以下で圧縮時が1.0W/(m・K)以上とすることが容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用された熱伝導材及びその実装例を表す概略断面図である。
【図2】その熱伝導材の他の実装例及びその効果を現す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を説明する。図1(A)は、本発明が適用された熱伝導材1の構成を表す概略断面図である。図1(A)に示すように、本実施の形態の熱伝導材1は、連続気泡3Aを有する発泡体として成形されたエラストマ3に、熱伝導フィラー5が充填されて構成されている。
【0018】
本実施の形態では、以下の製造方法により熱伝導材1を製造した。すなわち、エラストマ3の一例としての液状シリコーン(例えば、東レ・ダウ製2液性シリコンエラストマー)に、熱伝導フィラー5の一例としての水酸化アルミニウム(例えば、日本軽金属製の平均粒径約10μmの市販品)と発泡剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル)とを加えて混練することにより、その液状シリコーンに水酸化アルミニウムを充填した。上記混合の方法としては、真空脱泡ミキサー等の機械を用いて混練する方法の他、押し出し,2本ロール,ニーダ,バンバリーミキサー等の種々の方法を適用することができる。この内、ミキサーを使用して混練する場合、作業性が向上する点で望ましい。
【0019】
続いて、上記混練物をシート状に成形した。この成形の方法としては、コーター,カレンダロール,押し出し,プレス等の機械を用いて成形する方法等、種々の方法を適用することができる。この内、コーターを用いて成形する場合、薄いシート(フィルム)の作製が簡単にできる、生産性がよいため大量生産に向いている、シート(フィルム)の厚さ精度が出し易い、といった点で望ましい。その際の架橋は、250℃以上(例えば、260℃)の架橋温度で施した。
【0020】
こうして得られた熱伝導材1は、架橋中に水酸化アルミニウムの脱水反応が起こって水蒸気を発生することにより、図1(A)に例示したように連続気泡3Aを有する発泡体として成形された。また、上記混連物に対する水酸化アルミニウムの充填量を、30wt%〜80wt%とした場合(例えば、シリコーン100重量部,発泡剤5重量部,水酸化アルミニウム420重量部の配合とした場合)、得られた熱伝導材1の熱伝導率は、非圧縮時では0.3W/(m・K)以下で、一軸方向に20%圧縮したときの当該一軸方向の熱伝導率が1.0W/(m・K)以上となった。熱伝導率が0.4W/(m・K)以下であると、電子部品の熱対策用に使用するには不十分であるが、熱伝導率が1.0W/(m・K)以上であると、電子部品の熱対策用に十分使用することができる。すなわち、熱伝導材1は、20%以上圧縮して使用すれば、熱伝導フィラー5同士が接触または近接することで、電子部品の熱対策用に十分使用可能な良好な熱伝導性を呈する。しかも、熱伝導材1は発泡体であるので、密度が1g/cc以下と極めて良好に軽量化することができた。
【0021】
図1(B)は、熱伝導材1の実装例を表す概略断面図である。図1(B)の実装例では、プリント配線基板11に実装されたIC等の電子部品13の表面に、本実施の形態の熱伝導材1を挟んで放熱板15(例えばフィンを有する金属製ヒートシンク)が積層されている。このようにして熱伝導材1を実装する場合、一般的に、熱伝導材1は上記積層方向に20%以上圧縮して実装される。このため、本実装例では、電子部品13で発生した熱を1.0W/(m・K)以上の熱伝導率で良好に放熱板15に伝達し、電子部品13の過熱を良好に抑制することができる。しかも、熱伝導材1は前述のように軽量であるので、電子部品13を備えた電子回路、及びその電子回路を備えた電気・電子機器を良好に軽量化することができる。また、このため、熱伝導材1は、電気自動車等の各種機器における特定部位の冷却,加熱の用途等、種々の分野に応用することができる。例えば、本発明の熱伝導材1を使用することによって電気自動車を軽量化することができれば、その燃費を良好に向上させることができる。
【0022】
また、熱伝導材1は、圧縮された部分だけが良好な熱伝導性を呈する。従って、次のように使用した場合、一層顕著な効果が生じる。すなわち、図2(A)の分解斜視図に示すように、プリント配線基板11の上に複数(例えば4個)の電子部品13が間隔を開けて配設された電子回路に対して、プリント配線基板11と同様の平面形状を有する熱伝導材1と放熱板15とを順次積層する。
【0023】
すると、図2(B)に示すように、熱伝導材1は、電子部品13に積層された部分が他の部分よりも多く圧縮され、その部分の熱伝導性が向上する。一方、放熱の必要がない上記他の部分では、熱伝導材1は熱伝導率の低い断熱部を構成する。このため、電子部品13で発生した熱を、矢印Hで示すように極めて効率的に放熱板15へ伝達することができ、その実装作業も極めて容易である。また、このように、圧力が加わった部分だけ熱が伝わるようにするこのとできる機能は、ホットカーペット,温水床暖房等にも応用可能である。
【0024】
なお、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、上記製造工程において、発泡剤は省略してもよい。また、発泡剤と脱水反応を起こさない熱伝導フィラーとを用いてもよい。熱伝導フィラーとしては、アルミナ,窒化ホウ素,マグネシア,窒化ケイ素,窒化アルミニウム等、種々の熱伝導フィラーを使用することができる。
【0025】
また、図1(C)に例示する熱伝導材100のように、エラストマ3を構成する発泡体の片面に、ガラスクロスによって補強され両面に粘着層(図示省略)が形成された熱伝導シート7を積層してもよい。この場合、熱伝導シート7のエラストマ3側の粘着層により、その熱伝導シート7がエラストマ3に積層固定される。この熱伝導シート7はガラスクロスによって補強されているので、その熱伝導シート7に垂直な方向に熱伝導材100を圧縮することで、取り扱いが一層容易になる。しかも、熱伝導シート7は熱伝導性を有するので、熱伝導材100の熱伝導性を阻害しない。
【0026】
また、この場合、エラストマ3とは反対側の粘着層を介して熱伝導材100を電子部品13等に直接取り付けることができ、取り扱いが一層容易になる。また、粘着層はある程度の流動性を有するので、熱伝導材100を熱伝導シート7と共にスライドさせながら実装することも可能となる。なお、この種の熱伝導シート7としては、熱伝導フィラー(例:アルミナ)を充填した材料をガラスクロスに含浸させた薄型の熱伝導シートを使用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1,100…熱伝導材 3…エラストマ 3A…連続気泡
5…熱伝導フィラー 7…熱伝導シート 11…プリント配線基板
13…電子部品 15…放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導フィラーが充填され、連続気泡を有する発泡体として成形されたエラストマからなる熱伝導材であって、
非圧縮時の熱伝導率が0.4W/(m・K)以下で、一軸方向に20%圧縮したときの当該一軸方向の熱伝導率が1.0W/(m・K)以上であることを特徴とする熱伝導材。
【請求項2】
密度が1g/cc以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導材。
【請求項3】
上記エラストマがシリコーンによって構成され、
上記熱伝導フィラーとして、水酸化アルミニウムまたはその脱水物を含み、
上記連続気泡が上記熱伝導フィラーとしての水酸化アルミニウムの脱水反応によって形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導材。
【請求項4】
上記発泡体の少なくとも片面に、ガラスクロスによって補強された熱伝導シートが積層されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導材。
【請求項5】
上記熱伝導シートの上記発泡体に積層された面とは反対面に、粘着層が設けられたことを特徴とする請求項4に記載の熱伝導材。
【請求項6】
液状のシリコーンに、熱伝導フィラーとして水酸化アルミニウムを混練し、
該混練物を250℃以上の架橋温度で架橋することを特徴とする熱伝導材の製造方法。
【請求項7】
上記水酸化アルミニウムの上記混練物に対する充填量が、30wt%〜80wt%であることを特徴とする請求項6に記載の熱伝導材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−104713(P2012−104713A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253006(P2010−253006)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】