説明

熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型

【課題】成形機の改造などが不要であり、標準の成形機を用いて、比較的高価な金属錯体などの改質用材料をロスなく、高濃度で、効率的に成形品表面に析出することのできる熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型を提供する。
【解決手段】この発明による熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型10は、内部に、溶融状態の樹脂を保持可能で、保持された溶融樹脂2の適宜部分に、高圧ガスまたは超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材3を注入・保持可能な溶融樹脂保持部30を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂の表面改質を実現する表面改質射出成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体や、二酸化炭素等の高圧ガスを媒体に利用する技術が研究されている。これに関連した先行技術文献として、例えば、特許文献1、特許文献2に示すようなものがある。
【特許文献1】特開2004−218062号公報
【特許文献2】特開2005−205898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形には、以下のような課題がある。
【0004】
すなわち、従来の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形では、超臨界流体に溶解した金属錯体などの改質用材料を成形機のノズル先端部分に導入して保持する構造になっている。そのため、成形機本体のスクリュー・シリンダーやノズル周り、ノズルの封止機構などの改造が必要である。また、これらの改造に加えて、成形機を作動させるソフト面でも専用の改造が必要となってくる。
【0005】
また、射出成形機のノズル先端部に、超臨界流体に溶解した金属錯体などの改質用材料を導入して成形する場合、金型がコールドランナーであれば、スプルー・ランナーで樹脂材料とともに金属錯体などの改質用材料をロスすることになる。金属錯体などが樹脂材料に対して比較的高価であることから、この場合は成形コストが増大することを免れない。
【0006】
また、金型がホットランナーの場合は、金属錯体の導入位置からキャビティ手前のゲートまで所要の容積・流動距離がある。そのため、溶融樹脂が導入位置からゲートまで移動する際に、金属錯体などの改質用材料が流路の圧損部分に分散してしまい、成形品表面に析出する金属錯体などの量が減る傾向にある。
【0007】
コールドランナー、ホットランナーいずれの場合も、スプルー・ランナーやデットスペースなどがある。そのため、金属錯体などの改質用材料が溶解した超臨界二酸化炭素を成形機ノズル近傍に注入したのでは、金属錯体のロスが少ない状態で金属錯体が成形品表面に最も析出する位置に注入することがきわめて困難である。
【0008】
この発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、成形機の改造などが不要であり、標準の成形機を用いて、比較的高価な金属錯体などの改質用材料をロスなく、高濃度で、効率的に成形品表面に析出することのできる熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の請求項1に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、内部に、溶融状態の樹脂を保持可能で、保持された溶融樹脂の適宜部分に、高圧ガスまたは超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材を注入・保持可能な溶融樹脂保持部を備えたことを特徴とするものである。
【0010】
この発明の請求項2に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項1記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記溶融樹脂保持部は、ゲートを介して金型キャビティと連通可能で、また、ホットランナーを介してスプルーブッシュと連通することを特徴とするものである。
【0011】
この発明の請求項3に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項2記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記溶融樹脂保持部は、前記ホットランナーとの接続部を実質的に後端とし、かつ、前記ゲートを先端とする空所内に、前記ゲートを開閉するゲートピンと、前記ゲートピンを挿通して当該ゲートピンの周囲との間に前記改質材の通路を形成する筒状のバルブ部材とを備え、前記バルブ部材の先端部と前記ゲートピンの先端背向部とが接離することで、前記通路の先端開口を開閉可能であることを特徴とするものである。
【0012】
この発明の請求項4に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記ゲートピンは、前記空所の後方に設けたシリンダ内のゲートピストンを圧力流体で作動させることにより、前記ゲートの開閉を切り換え可能であることを特徴とするものである。
【0013】
この発明の請求項5に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記バルブ部材は、前記空所の後方に設けたシリンダ内のバルブピストンを圧力流体で作動させることにより、前記通路の先端開口の開閉を切り換え可能であることを特徴とするものである。
【0014】
この発明の請求項6に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記バルブ部材は、軸線のまわりに回動可能であり、前記先端部と前記ゲートピンの先端背向部とを離間し前記通路の先端開口を開くことで前記通路からランナー部に前記改質材を注入した状態で、前記バルブ部材を軸線のまわりに回動することで、溶融樹脂および注入された前記改質材を撹拌することを特徴とするものである。
【0015】
この発明の請求項7に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項6記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記バルブ部材は、前記撹拌の効率上昇のため、外周に螺旋状の凹凸形状を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
この発明の請求項8に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項6記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記溶融樹脂保持部は、射出の際に樹脂の流動によって、溶融樹脂および注入された前記改質材の均一な拡散を促進するため、前記ランナー部の内周に螺旋状の凹凸形状を備えたことを特徴とするものである。
【0017】
この発明の請求項9に係る熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型は、請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型において、前記溶融樹脂保持部は、前記空所の後端面を担う保圧ピストンを備え、前記改質材が注入された溶融樹脂の圧力を成形機の背圧が効く状態に維持するため、前記保圧ピストンによる溶融樹脂の保持力を調整可能にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明は以上のように、内部に、溶融状態の樹脂を保持可能で、保持された溶融樹脂の適宜部分に、高圧ガスまたは超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材を注入・保持可能な溶融樹脂保持部を備えた構成としたので、金型内部で溶融樹脂に改質材を導入することができ、そのため、改造などを必要としない標準の成形機を用いて、比較的高価な金属錯体などの改質材をロスなく、高濃度で、効率的に成形品表面に析出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、この発明による熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型の一実施形態を示す要部の概略的断面図であり、この熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型10は、固定側金型20と、可動側金型60とを備え、可動側金型60にキャビティ70が形成されている。
【0021】
固定側金型20は、図示しない成形機のノズル1が密着するスプルーブッシュ21と、スプルーブッシュ21に連なるホットランナー22と、キャビティ70に通じるゲート23とを備えている。
【0022】
また、固定側金型20は、内部に、溶融状態の樹脂を保持可能で、保持された溶融樹脂2の適宜部分に、高圧ガスまたは超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材3を注入・保持可能な溶融樹脂保持部30を備えている。
【0023】
溶融樹脂保持部30は、ゲート23を介してキャビティ(金型キャビティ)70と連通可能であり、また、ホットランナー22を介してスプルーブッシュ21と連通する。すなわち、溶融樹脂保持部30は、ホットランナー22との接続部を実質的に後端とし、かつ、ゲート23を実質的に先端とする空所31に配置される。
【0024】
図2は、固定側金型20の要部の拡大断面図であり、溶融樹脂保持部30は、空所31内に、ゲート23を開閉するゲートピン40と、ゲートピン40を挿通してゲートピン40の周囲との間に改質材3の通路45を形成する筒状のバルブ部材50とを備えている。そして、バルブ部材50の先端部51とゲートピン40の先端背向部41とが接離することで、通路45の先端開口を開閉可能である。
【0025】
通路45の後端は、空所31の後方において改質材導入口24に連なっている。
【0026】
ゲートピン40は、空所31の後方に設けたゲートシリンダ42内のゲートピストン43を圧力流体(気体または液体)で作動させることにより、ゲート23の開閉を切り換え可能である。すなわち、ゲートピン前進口44aに圧力気体を適用することで、ゲートピン40はゲート23を閉じる。また、ゲートピン後退口44bに圧力気体を適用することで、ゲートピン40はゲート23を開く。
【0027】
バルブ部材50は、空所31の後方に設けたバルブシリンダ52内のバルブピストン53を圧力流体(気体または液体)で作動させることにより、通路45の先端開口の開閉を切り換え可能である。すなわち、バルブ部材前進口54aに圧力気体を適用することで、バルブ部材50は通路45の先端開口を閉じる。また、バルブ部材後退口54bに圧力気体を適用することで、バルブ部材50は通路45の先端開口を開く。
【0028】
また、バルブ部材50は、図示しない駆動源の作用により、軸線のまわりに回転可能である。そのため、後述するように、バルブ部材50の先端部51とゲートピン40の先端背向部41とを離間して通路45の先端開口を開き、溶融樹脂2を保持したランナー部35に通路45から改質材3を注入した状態で、バルブ部材50を軸線のまわりに回転させることで、バルブ部材50が、溶融樹脂2および注入された改質材3を撹拌する。
【0029】
バルブ部材50は、撹拌の効率上昇のため、ランナー部35に位置する外周に螺旋状の凹凸形状、具体的には凹凸状の螺旋溝56を備えている。
【0030】
溶融樹脂保持部30は、射出の際に樹脂の流動によって、溶融樹脂2および注入された改質材3の均一な拡散を促進するため、ランナー部35の内周に螺旋状の凹凸形状、具体的には凹凸状の螺旋溝36を備えている。
【0031】
溶融樹脂保持部30は、空所31の後端面を担う保圧ピストン33を備え、改質材3が注入された溶融樹脂2の圧力を成形機の背圧が効く状態に維持するため、保圧ピストン33による溶融樹脂2の保持力を調整可能にしてある。すなわち、保圧ピストン保持口34に適用する圧力流体(気体または液体)の圧力を調整することで、溶融樹脂2の保持力を調整可能になっている。
【0032】
図1に示すように、可動側金型60は、キャビティ70にカウンタープレッシャーを適用するためのカウンタープレッシャー口61を備えている。
【0033】
次に、図3〜9図を参照して、上記実施形態の作用について説明する。
【0034】
まず、図3に示すように、型締め状態にする。このとき、保圧ピストン保持口34に圧力気体を適用して、保圧ピストンを所定圧力で保持する。また、ゲートピン前進口44aに圧力気体を適用して、ゲートピン40によりゲート23を閉じる。また、バルブ部材前進口54aに圧力気体を適用して、バルブ部材50により通路45の先端開口を閉じる。そして、カウンタープレッシャー口61からキャビティ70にカウンタープレッシャーを適用する。
【0035】
この型締め状態で、成形機のノズル1からスプルーブッシュ21を介して、ホットランナー22および溶融樹脂保持部30内に溶融樹脂2を導入する。また、改質材導入口24から通路45内に、超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材3を導入する。このとき、通路45の先端開口は閉じているため、改質材3がランナー部35へ漏れ出すことはない。
【0036】
つぎに、図4に示すように、改質材3を注入する。すなわち、バルブ部材前進口54aに代えてバルブ部材後退口54bに圧力気体を適用し、バルブ部材50を後退させて、その先端部51とゲートピン40の先端背向部41とを離間させることで、通路45の先端開口を開く。これにより、図4に細かい多数の点で示すように、ランナー部35に保持されている溶融樹脂2内に、ランナー部35の先の部分から改質材3が注入される。注入された改質材3は、ランナー部35の後方へ向けて広がる。
【0037】
つぎに、図5に示すように、改質材3を混練する。すなわち、まず、バルブ部材後退口54bに代えて再びバルブ部材前進口54aに圧力気体を適用し、バルブ部材50を前進させて、通路45の先端開口を閉じる。これにより、改質材3の注入が終了する。その後、図示しない駆動源の作用により、バルブ部材50を軸線のまわりに回転させることで、バルブ部材50が、ランナー部35に保持されている溶融樹脂2および注入された改質材3を撹拌する。
【0038】
このとき、バルブ部材50は、ランナー部35に位置する外周に凹凸状の螺旋溝56を備えているため、高い撹拌効率が得られる。したがって、ランナー部35に保持されている溶融樹脂2に注入された改質材3は、溶融樹脂2とともに撹拌されて充分に混練される。
【0039】
つぎに、図6に示すように、射出前樹脂保持圧を調整する。すなわち、改質材3の注入・混練により、溶融樹脂保持部30において改質材3が注入された溶融樹脂2の圧力が一定以上高まると、成形機の背圧が効かなくなる虞がある。これを回避するため、保圧ピストン保持口34に適用する圧力気体の圧力を減圧方向に調整することで、保圧ピストン33による溶融樹脂2の保持力を減圧方向に調整する。これにより、溶融樹脂保持部30において改質材3が注入された溶融樹脂2の圧力を、成形機の背圧が効く状態に維持する。
【0040】
つぎに、図7に示すように、射出を開始する。すなわち、ゲートピン前進口44aに代えてゲートピン後退口44bに圧力気体を適用して、ゲート23を開く。このとき同時に、バルブ部材前進口54aに代えてバルブ部材後退口54bに圧力気体を適用して、通路45の先端開口を閉じたままバルブ部材50を後退させる。これにより、ゲートピン40がバルブ部材50とともに後退することで、溶融樹脂保持部30のランナー部35に保持されている改質材3が注入された溶融樹脂2を、キャビティ70内へ射出開始する。
【0041】
このとき、溶融樹脂保持部30は、ランナー部35の内周に凹凸状の螺旋溝36を備えているため、射出の際の樹脂の流動によって、溶融樹脂2および注入された改質材3が均一に拡散し、しかもその均一な拡散が促進される。
【0042】
つぎに、図8に示すように、保圧する。すなわち、改質材3が注入された溶融樹脂2が、キャビティ70内の隅々まで充分行きわたり、キャビティ70の壁面に接するスキン層が冷却固化するまで、キャビティ70内の樹脂2の圧力を保圧する。
【0043】
このとき、溶融樹脂2に注入された改質材3は、キャビティ70の壁面に接するスキン層に集まり、成形品の表面を覆うことになる。
【0044】
つぎに、図9に示すように、ゲート23を閉じる。すなわち、ゲートピン後退口44bに代えてゲートピン前進口44aに圧力気体を適用して、ゲートピン40によりゲート23を閉じる。このとき同時に、バルブ部材後退口54bに代えてバルブ部材前進口54aに圧力気体を適用して、通路45の先端開口を閉じたままバルブ部材50を前進させる。ゲート23が閉じたら、カウンタープレッシャー口61からキャビティ70へのカウンタープレッシャーの適用を解除する。そして冷却する。
【0045】
冷却完了後、型開きして取り出される成形品は、表面に金属錯体が還元されてできた金属微粒子が析出し、無電解ニッケルメッキが可能となる。
【実施例1】
【0046】
成形品の一例として熱可塑性樹脂にポリカーボネートを用い、中心にゲートを有するφ65mm、厚さ1.2mmの円盤形状を選定した。
【0047】
この円盤形状を射出成形すると同時に表面層(スキン層)の生成を制御するため、表面改質射出成形用金型10では、各部を温度制御するように構成した。すなわち、金型内溶融樹脂保持部30は325℃に温度制御される。また固定側金型20、可動側金型60は、図示しない温調回路を流れる120℃の冷却水によって温度制御される。なお射出成形機の可塑化シリンダーの温度は325℃とする。
【0048】
金型内部において、ゲート23、金属錯体の溶解した超臨界流体の導入口24をシールできる構造にした。また、内部に、溶融樹脂2と金属錯体の溶解した超臨界流体3を撹拌する構造を持ち、ランナー部35の外壁には、樹脂流動時の拡散を促す螺旋溝36が切ってある。溶融樹脂保持部30には、圧力調整用の機構(保圧ピストン33)を持つ。金型内の駆動源はそれぞれエアー、または高圧ガスを使用している。また、金型各部の気密が必要な部分については、図示しないOリングによってシールされる。
【0049】
射出成形機の図示しない可塑化シリンダーで急速に可塑化溶融された熱可塑性樹脂(ポリカーボネート)をノズル1先端から、金型内溶融樹脂保持部30に背圧5〜6MPa程度かけて計量し、充填後4mm程度サックバックする。
【0050】
ゲート23のシールは閉じたままの状態で、フローフロント部近傍に設置した超臨界流体の導入口(通路45の先端開口)を開き、表面改質材料としての金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトを溶解させ15MPa、45℃に調整した超臨界二酸化炭素を0.5cc導入し、導入口(通路45の先端開口)を閉じる。
【0051】
導入後、成形機の背圧によりスクリューが前進して樹脂密度が高まり、超臨界二酸化炭素の樹脂への溶解が促進される。これと同時に、金型内の溶融樹脂部分に設置した撹拌部を作動(バルブ部材を回転)させ、超臨界二酸化炭素の樹脂への溶解を均一化する。
【0052】
導入する超臨界二酸化炭素の圧力や量の設定によっては、成形機の背圧が効かなくなることがあるため、溶融樹脂保持部30の圧力調節機構(保圧ピストン33)を作動するようにしておく。溶融樹脂保持部30の圧力を減圧して、背圧による保持が可能な状態にし、所定の圧力で保持することにより、射出時の圧力損失差による発泡を抑制する。
【0053】
金型キャビティ70周りにシールを施し、高圧二酸化炭素を利用したカウンタープレッシャーを使用するなどの方法もある。
【0054】
つぎに、型締めされた金型キャビティ70内に射出充填する。充填の際、ランナー部35の外壁に切った螺旋溝36によって金属錯体の拡散が促進される。キャビティ70内のエアーと充填中にフローフロントから二酸化炭素の放出が発生するため、カウンタープレッシャーを利用しない場合は、金型にはエアベントを必ず設ける。
【0055】
充填完了後、保圧工程においてスキン層の冷却固化まで保持する。超臨界二酸化炭素によりスキン層部のガラス転移点が下がっており、表面が発泡しやすいため、発泡しない程度長めに保圧し、ゲート23のシールをして冷却工程へ移行する。冷却工程に移行した際、次のショットの工程ということで、前記の計量工程が開始される。
【0056】
冷却完了後、型開きし成形品取り出しとなる。成形品表面に金属錯体が還元されてできた金属微粒子が析出し、無電解ニッケルメッキが可能となる。
【0057】
この発明によれば、金型内部で改質材を導入することができ、また、成形機の改造などの必要がないため、標準の成形機で表面改質成形が可能となる。また従来の装置において、スプルー・ランナーやデットスペースなどによって金属材料(改質材)のロスが起こり、成形コストの上昇を招いていたが、この発明によれば、ランナーレスの状態で、金属材料(改質材)が成形品表面に高濃度で効率よく析出する部分への導入が可能になるため、成形コストの低減を図り、また、めっきした際の密着強度などの品質向上を図ることができる。
【0058】
なお、上記の実施形態では、金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材の媒体として超臨界流体を用いたが、これに限定するものでなく、均一な混合が可能であるなら、例えば二酸化炭素などの高圧ガスを改質材の媒体として用いることも可能である。
【0059】
また、上記の実施形態では、保圧ピストン33の調整、ゲートピン40の切り換え、バルブ部材50の切り換えを、すべて圧力気体で行っているが、これに限定するものでなく、例えば油圧などの圧力液体を用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明による熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型の一実施形態を示す要部の概略的断面図である。
【図2】固定側金型の要部の拡大断面図である。
【図3】型締め工程を示す概略的断面図である。
【図4】改質材注入工程を示す概略的断面図である。
【図5】改質材混練工程を示す概略的断面図である。
【図6】射出前樹脂保持圧調整工程を示す概略的断面図である。
【図7】射出開始工程を示す概略的断面図である。
【図8】保圧工程を示す概略的断面図である。
【図9】ゲート閉じ工程を示す概略的断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 成形機のノズル
2 溶融樹脂
3 改質材
10 熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型
20 固定側金型
21 スプルーブッシュ
22 ホットランナー
23 ゲート
24 改質材導入口
30 溶融樹脂保持部
31 空所
33 保圧ピストン
34 保圧ピストン保持口
35 ランナー部
36 螺旋溝
40 ゲートピン
41 先端背向部
42 ゲートシリンダ
43 ゲートピストン
44a ゲートピン前進口
44b ゲートピン後退口
45 通路
50 バルブ部材
51 先端部
52 バルブシリンダ
53 バルブピストン
54a バルブ部材前進口
54b バルブ部材後退口
56 螺旋溝
60 可動側金型
61 カウンタープレッシャー口
70 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に、溶融状態の樹脂を保持可能で、保持された溶融樹脂の適宜部分に、高圧ガスまたは超臨界流体に溶解した金属錯体、金属アルコキシドまたはその変性物からなる改質材を注入・保持可能な溶融樹脂保持部を備えたことを特徴とする熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項2】
前記溶融樹脂保持部は、ゲートを介して金型キャビティと連通可能で、また、ホットランナーを介してスプルーブッシュと連通することを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項3】
前記溶融樹脂保持部は、前記ホットランナーとの接続部を実質的に後端とし、かつ、前記ゲートを先端とする空所内に、前記ゲートを開閉するゲートピンと、前記ゲートピンを挿通して当該ゲートピンの周囲との間に前記改質材の通路を形成する筒状のバルブ部材とを備え、前記バルブ部材の先端部と前記ゲートピンの先端背向部とが接離することで、前記通路の先端開口を開閉可能であることを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項4】
前記ゲートピンは、前記空所の後方に設けたシリンダ内のゲートピストンを圧力流体で作動させることにより、前記ゲートの開閉を切り換え可能であることを特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項5】
前記バルブ部材は、前記空所の後方に設けたシリンダ内のバルブピストンを圧力流体で作動させることにより、前記通路の先端開口の開閉を切り換え可能であることを特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項6】
前記バルブ部材は、軸線のまわりに回動可能であり、前記先端部と前記ゲートピンの先端背向部とを離間し前記通路の先端開口を開くことで前記通路からランナー部に前記改質材を注入した状態で、前記バルブ部材を軸線のまわりに回動することで、溶融樹脂および注入された前記改質材を撹拌することを特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項7】
前記バルブ部材は、前記撹拌の効率上昇のため、外周に螺旋状の凹凸形状を備えたことを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項8】
前記溶融樹脂保持部は、射出の際に樹脂の流動によって、溶融樹脂および注入された前記改質材の均一な拡散を促進するため、前記ランナー部の内周に螺旋状の凹凸形状を備えたことを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。
【請求項9】
前記溶融樹脂保持部は、前記空所の後端面を担う保圧ピストンを備え、前記改質材が注入された溶融樹脂の圧力を成形機の背圧が効く状態に維持するため、前記保圧ピストンによる溶融樹脂の保持力を調整可能にしたことを特徴とする請求項3記載の熱可塑性樹脂の表面改質射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−6788(P2008−6788A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182459(P2006−182459)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】