説明

熱可塑性樹脂成形品の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂成形品の全体強度を均一にするとともに、成形品の軽量化をはかる。
【解決手段】予め3本以下の強化繊維により樹脂成形物の形状・大きさに合わせたフレキシブル織物を作成しておき、成形時にかかるフレキシブル織物を成形金型のキャビティ内に敷設した状態において可塑化された樹脂を射出注入するようにする。これにより樹脂成形製品の一部にウエルドラインを有していてもフレキシブル織物がウエルドライン部分を跨いで組成されているところから部分的強度低下の問題を全く生ずることがなく、しかも成形品の肉厚増加をするまでもなく、製品全体にわたり金属等の高強度材に近い高い強度を維持することができ、またこれによって著しい生産性の向上、ならびにコストの低減をはかることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形品の製造方法に関し、樹脂成形に際して生成されるウエルドラインに起因する部分的強度不足をなくし、成形品全体に亘る均質な強度を維持するとともに成形品の軽量化及び強度アップをはかるようにすることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
従来、不定形の樹脂成形品を成形する場合に溶融樹脂にカーボン等の繊維を混錬させ、これを金型内にインジェクション成形することにより、所謂繊維強化型の樹脂成形品を得る手法が盛んに実用されるようになった。一例としてこれまでに、成形品の肉厚:0.6〜5.0mmであり、かつ、ASTM−D790に基づく曲げ強度:100MPa以上、成形品表面のJIS B 0601に基づく算術平均粗さ(Ra):2μ以下、成形品表面のJIS B 0601に基づく最大高さ(Ry):10μ以下、成形品中に含まれる炭素繊維の重量平均繊維長:0.1〜1.0mmとした繊維強化プラスチック成形品が知られている(特開2002−67070号公報参照)。
【0003】
またペレットと略同一長さの強化繊維をペレットの長さ方向に配列した繊維を2〜40%含有する繊維強化熱可塑性樹脂を、圧縮比:1.5〜2.3、サブフライトとシリンダーバレル内壁との隙間:0.5〜2.0mmのダブルフライト形状のスクリューにより射出成形するようにすることにより、繊維の分散性に優れ、外観良好でかつ機械的特性に優れた射出成形品を得るようにした繊維強化熱可塑性樹脂の射出成形方法および成形品についても知られている(特開2002−283421号公報参照)。
【0004】
さらに40〜95質量%の熱可塑性樹脂中に、平均繊維長:0.3〜25mmの強化繊維を5〜60質量%含ませ、しかも繊維配向度30〜95%の範囲内に設定したことにより、強度とともに賦形性を良好にした繊維強化熱可塑性樹脂成形物も知られている(特開2002−309007号公報参照)。
【特許文献1】特開2002−67070号公報
【特許文献2】特開2002−283421号公報
【特許文献3】特開2002−309007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の樹脂成形法は、プラスチック材を如何にアルミや鉄などの高強度材に近づけるかに課題の中心があり、解決策としてグラスファイバーやカーボンファイバー等高強度のフィラーを用いる手法が多く採用されるようになった。そしてこれらのフィラーを溶融樹脂中に練りこんで成形品の強度を向上させるとともに、フィラーについても成形機に悪影響を与えない程度の長さに調整することに注意が注がれてきた。
【0006】
その結果、在来のプラスチック成形品に比べても、ある程度の耐久強度の向上がみられるようになったが、樹脂成形にはつぎのような致命的課題があるためにアルミや鉄などの高強度材に近づけることができない。すなわち、フィラーを溶融樹脂中に練りこんで高強度の樹脂成形品を成形する場合に、フィラーが一列に並ぶように均等配列されるのが理想であるが、現実には殆ど期待できず、予定強度に近づけるために樹脂を増量し、またフィラーの含有量を余分に混入させることがおこなわれる結果、必然的にコスト高となり、また成形条件にも悪影響を及ぼすことが避けられない。
【0007】
さらに強化フィラーの種類、成形中のフィラーにかかる重力影響、およびフィラーの流動性を良好にするための成形温度条件についてもある程度高い温度が要求されるが、成形機内のスクリューにおいて強化フィラーが切断されて細かくなる結果、予定強度に達しなくなることなどにより製品強度にバラツキを生じやすい。
【0008】
とくに一対の金型間に狭いゲートより樹脂を流し込んで樹脂成形体を成形する射出成形による場合においては、図4に樹脂成形品の一例をあらわしたように、狭いゲートGより一対の金型(図示省略)間に流し込まれた樹脂が鎖線P1〜P4であらわしたような軌跡に沿って成形品の形に順次成形される結果、樹脂が鎖線P1とP3およびP4との両側から合流して形成された樹脂成形品の一部に所謂ウエルドラインWを生ずるのを避けられず、その結果強化フィラーを混入させたとしても、この強化フィラーがウエルドラインを跨いで配列されることがないために、製品化後の長期使用の過程においてウエルドラインに沿った部分の応力腐食割れやヒビを生じ易いところから、樹脂成形製品全体において金属等の高強度材に近い十分な耐久強度を有することは著しく困難であるといわざるを得ない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明にあっては、上記した課題を解決し、最小限度の強化材使用により部分的な強度上のバラツキがなく成形品全体にわたり均質な高い強度を有し、金属等の高強度材に近い十分な耐久強度を有するとともに、特に軽量化した樹脂成形品を得ることができるようにしたものである。具体的には予め3本以内、好ましくは2本、さらに好ましくは1本の強化繊維をもって網目状に織ることにより樹脂成形物の形状・大きさに合わせたフレキシブル織物を組成するとともに、成形金型のキャビティ内に上記フレキシブル織物を敷設した状態において可塑化された樹脂を射出注入することにより、層内にフレキシブル織物をインサートした樹脂成形品を得るようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記したように予め3本以内の強化繊維により樹脂成形物の形状・大きさに合わせた全体的に高強度のフレキシブル織物を作成しておき、成形時にかかるフレキシブル織物を成形金型のキャビティ内に敷設した状態において可塑化された樹脂を射出注入するようにしたために、樹脂成形製品の一部にウエルドラインを有していてもフレキシブル織物がウエルドライン部分を跨いで組成されているところから部分的強度低下の問題を全く生ずることがなく、しかも成形品の肉厚増加をするまでもなく、製品全体にわたり金属等の高強度材に近い高い強度を維持することができ、またこれによって著しい生産性の向上、ならびにコストの低減をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において本発明の具体的な内容を図示の実施例をもとに説明をする。図1において1は一例としての熱可塑性の樹脂により成形された樹脂成形品をあらわしており、該樹脂成形品1の内部(樹脂層内)にはフレキシブル織物2がインサートされている。フレキシブル織物2は、予め樹脂成形物の形状・大きさに合わせて縦横に網目状に織ることにより組成されたものであり、フレキシブル織物の全体強度を維持する必要から3本以内の強化繊維をもって網目状に織ることにより組成されたものが用いられる。さらにこの場合に、より好ましくは2本、さらに好ましくは1本の強化繊維をもって網目状に織ることにより組成されたものが強度的により一層優れる。
【0012】
なお樹脂成形品の成形に用いられる樹脂については、ポリアミドやポリエーテル、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABSやPVAあるいはEVA樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、メタクリル、セルロース系、ポリカーボネート、ポリビチレンテレフタレート、フッ素系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミドなど、インジェクション成形に向いた熱可塑性樹脂が用いられる。
【0013】
この場合に射出成形品の機械特性を考慮すると、上記の中でも特にポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂の使用がより好ましく、さらにこれらの熱可塑性樹脂は単独でも、また混合物として、あるいは共重合体として使用してもよく、さらに必要に応じて臭素系あるいはシリコン系、赤リン等の難燃剤、さらにカーボンブラックやリン酸エーテルを添加使用するようにしてもよい。
【0014】
さらにフレキシブル織物2を組成するための強化繊維については、織物に組成しても容易には切れず、また折り曲げても簡単には折れない十分な柔軟性と強度を有するものである必要がある。そのような強化繊維としては、たとえば高密度ポリエチレン、アラミド、PBO、PVA、メチルメタアクリレート等の高強度合成繊維の使用が好ましいが、ポリエチレン、ビニロン等の一般的な繊維であってもある程度の樹脂成形品の強度維持が可能である。またこの場合に、成形後の樹脂製品について、その後の二次加工を予定する場合においては、結晶化を途中で止めた非結晶タイプのものを使用することができる。
【0015】
また、より高強度の強化繊維材としては、特殊な延伸プロセスによって高度に配向結晶化したポリプロピレン(PP)繊維と、PP繊維より融点が低いポリオレフィン樹脂が一体化したFRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics)線状体、つまりPP繊維で補強された高強度の複合モノフィラメント(FRTP線状体)の使用が理想的である。
【0016】
これはPPの融点以下、低融点ポリマーの融点以上の高温で、高倍率延伸をおこなうことで高強度FRTP線状体が得られ、従来のオレフィン系モノフィラメントと比較して強度、弾性率、熱収縮率、熱接着性等のすべてにおいて優れており、熱による自己接着性を兼ね備え、織布あるいはネット状の加工組成が自在にでき、しかもオレフィン素材で構成されているので、軽量かつ汎用樹脂の中で最も優れた耐薬品性を呈する。なかでも上記したFRTP線状体をエンドレス状に織物加工するFRTPーEL法による組成加工をおこなった場合においては強化繊維材として格段の強度向上がみられる。
【0017】
また強化繊維により網目状に組成されたフレキシブル織物2の組成状態、つまり編み方については所謂メリアス編みや、あるいは裏メリアス編み、ガーター編み、1目ゴム編み、かのこ編み、ドライブ編み、ネット編み、シェル編み、モヘアのメリアス編み 、段染め糸のメリアス編み、ミックス糸のメリアス編み、ブークレヤーンのメリアス編み、段染めミックス糸のメリアス編み、2本どりのメリアス編み等の編み方を用いることができる。
【0018】
この場合に、縦、横、斜め方向への伸び、および成形素材の熱による伸びの限度を見極めたうえで編み方を設定する必要があるが、成形機内における射出圧力に負けて配置位置がずれたりして成形品の強度にバラツキを生ずるのを防止するために、その伸びの程度は最終織物を金型にて押し当てて伸びる限度(強化繊維の本来的に持つ伸びを除く)0%伸びから30%程度伸びるところまで以下、すなわち図3に示したように、フレキシブル織物2の伸びに関しては、図3(A)の状態で伸び0%である幅aが、側方F方向に引き延ばした場合に、図3(B)にあらわしたように引き延ばし可能範囲が最大で30%、すなわちa〜1.3aの範囲内であるように成形する必要がある。
【0019】
さらに樹脂成形品の層内にフレキシブル織物2をインサートする場合に、樹脂成形品の使用箇所や使用目的等如何により、フレキシブル織物2のインサート箇所を変えることにより、より一層好ましい強度の樹脂成形品を得ることができる。すなわち図2にも示したように、樹脂成形品1の全体にわたり平均的に強度を向上させる場合においては(A)に示したようにフレキシブル織物2を樹脂成形品1の層内中央部にインサートすればよい。
【0020】
さらに樹脂成形品1におけるとくに内壁側の強度を向上させる必要がある場合においては(B)に示したようにフレキシブル織物2を樹脂成形品1の層内における強化面、すなわち内壁面に寄せて配置・インサートするものとし、また樹脂成形品1におけるとくに外壁側の強度を向上させる必要がある場合においては(C)に示したようにフレキシブル織物2を樹脂成形品1の層内における強化面、すなわち外壁面に寄せて配置・インサートするものとする。このようにすると、樹脂成形品1の使用箇所や目的等に合わせた強度を有する合理的な樹脂成形品1を得ることができる。
【0021】
[実施例1]スノーボード・スケートボードの製造
スノーボードやスケートボードは一般的には目的の異なる何層かの積層体として構成され、いずれの場合においても補強のための繊維層をもつが、この場合に使用される繊維については、例えばエポキシ樹脂やフェノール樹脂等を熱硬化させたグラスファイバーやカーボンファイバー等を接合した樹脂をハンドレイアップし、さらにプレス成形や圧縮成形により構成されているところから、工程中において加圧の不均一やエアの混入などに起因して各繊維の接合精度や強度にバラツキを生じ易い欠点がある。
【0022】
そこで積層体の少なくとも1つの層内に本発明によるFRTP(Fiber Reinforced Thermo Plastics)線状体により組成し、あるいはFRTPーEL法により組成したフレキシブル織物2をインサートして構成する。このようにすると例えばスノーボードやスケートボードの上面である足の滑り止め防止層の凸凹、あるいは下面(滑走面)の形状やインサート等の加工が短時間でしかも形状自在に構成することが可能となる。
【0023】
とくにFRTPーEL法により組成した場合においては、強化繊維の太さや量、編み方、複層もしくは単層の折り曲げあるいは袋状形成などが自在にコントロール可能となり、僅か1回の成形作業により角度の設定を含めて正確に成形することが可能となる。またこの場合に、ボードの曲率の変更などユーザーの好みに応じて二次加工により変化をもたせる加工を可能とすることができる。
【0024】
[実施例2]ゴルフヘッドの製造
ゴルフヘッドの製造法としてはアルミ、チタンなどの場合においては被銑金属の鋳造・鍛造法により、また少し変わったところではプレス成形やへら絞り法など使用材質如何により種々のものが知られているが、樹脂関連ではCFなどの強化繊維入りのヘッドが存在する。これは基本的には上金型と下金型間にシート状のCF強化繊維すなわちカーボン等の繊維表面に糸状のエポキシ等をコーティングしたテープを置いた状態で上下金型を閉じ、そこに樹脂材を注入するとともに、ある程度樹脂が硬化したところで金型から取り出し、これを乾燥させる(RIM法)。
【0025】
あるいは上下金型間にカーボン等の繊維糸のみを介在させ、上下の金型を閉じた後に樹脂の注入をおこない、ある程度樹脂が硬化したところで金型から取り出し、これを乾燥させる(S−RIM法)。なお上記のRIM法を含め、金型内に充填された樹脂の硬化は金型内に入り込んだエアを抜きながらオートクレーブによる真空乾燥により乾燥硬化させる。しかしながら上記のRIM法あるいはS−RIM法ではプレス加工が先におこなわれ、加圧力が弱くしか入れられず、しかも硬化樹脂が粘度的に軟らかいためにエアを巻き込みやすく何れの場合においても強度的に十分ではない。
【0026】
そこで本発明のFRTP法あるいはFRTPーEL法による場合には、熱可塑性樹脂を用いるために高粘度の樹脂を短時間にて高圧注入することができ、しかも上下の金型を開いた時点で樹脂の硬化が完了していることにより、織物強化繊維を短時間でインサートでき、しかも二次加工により内部にエアを送り込むことにより目的とする高強度ゴルフヘッドの製造を簡単におこなうことができる。
【0027】
[実施例3]魔法瓶の製造
魔法瓶は、一般的には内部を中空としたガラスあるいはSUSまたは金属などの瓶による内装部と、内装部の外側に、内装部との間に真空の断熱層を介在させた金属などの外装部とから構成されている。このために保温性を向上させる場合においては断熱層の厚みを増し、あるいは保温性に優れた金属材料を用いることになるが、断熱層の厚みを増すと、とくに内装部の耐久強度も増す必要があり、その結果容積の減少か、又は外装部の径大化が避けられない。
【0028】
さらに魔法瓶を小型・軽量化する場合においても、断熱層の厚み調製の問題のほかに上記した内装部の耐久強度向上の必要に迫られ、必然的に内装部または外装部の材質についてより高強度で薄手の材質のものが望まれるところからコスト高となるのが避けられない。
【0029】
そこで魔法瓶の製造に本発明のFRTP法あるいはFRTPーEL法による無端円筒状に組成した許可繊維によるフレキシブル織物を用い、これを熱可塑性樹脂を射出成形して作成した外装部の層内にインサートすることにより外装部の肉厚を薄くして、軽量でしかも高強度であり、また外観性に優れた魔法瓶を製造することが可能になる。
【0030】
具体的には、内装部および外装部としてガスバリヤー性に優れた樹脂を用い、あるいは樹脂の表面にアルミ蒸着や各種のコーティングを施すことによりガスバリヤー性を維持した樹脂を用い、予め凹状の下金型内に無端円筒状に組成した内装部用のフレキシブル織物と、これよりも径大の外装部用のフレキシブル織物とを、互いに一定の間隔を介して同軸状に配置するとともに、無端円筒状の内装部用フレキシブル織物の中心に魔法瓶の内容積を形成する凸状の上金型を挿入し、その後上下金型内に上記したガスバリヤー性に優れた樹脂を一定量射出成形し、さらに樹脂が固化しない間に上記した二つのフレキシブル織物の中間部分の樹脂内にエアを入れて一定の間隔を有する断熱部を形成する。
【0031】
樹脂が固化したところで金型を開き、樹脂成形物を取り出した後、上記断熱部からエアを抜いて上端の開口部を熱プレスにより閉塞し、真空の断熱部を形成して魔法瓶を形成することができる。なおこの場合に上記した金型内にあらかじめ設置される内装部用のフレキシブル織物と、これよりも径大の外装部用のフレキシブル織物とは、共に有底状にして内装部と外装部とを一体の構成とすることも可能である。
【0032】
[実施例4]その他の適用例
本願の発明は上記した実施例のほかにも、以下に例示する樹脂成形品その他種々の熱可塑性樹脂成形品の製造に適用が可能である。すなわち、小型のものでは航空機内で使用する機内食事用のトレイ、安全シューズのつま先カバー、自動車のヘッドレスト用支柱、自動車用ホイール、スポーツ観戦用のプロテクタ、卓球やテニス用のラケット、携帯電話筐体などに適用が可能である。
【0033】
また中型のものでは自動車やバイク用のハンドル、新幹線や私鉄特急車輌又は航空機用の座席テーブル、スキーのストック棒、スノーボード板、サーフボード板、ローラーボード板、各種ヘルメット、踏み切りのポール、竹刀など、また比較的大型のものでは薄型テレビ枠、大型テレビ枠、バイクのカウルやドロヨケ、スキー板、ガードレール、釣竿などに適用が可能である。さらに円柱(パイプ)状のものについても、ウエルドライン部分に強度不足を起こさずに成形が可能である。
【0034】
[軽量化に関して]
従来の樹脂材中に繊維フィラーを混練させたものは、フィラーが必ずしも一列に並ぶように均等配列されないことに配慮して予定強度に近づけるべく樹脂を増量するために成形品の重量増加が避けられず、またフィラーの含有量を余分に混入させる必要があるところから必然的にコスト高となるのに対し、本願の発明は余分な樹脂や繊維フィラーの使用を必要としないから著しい軽量化および低コスト化が可能となる。
【0035】
[生産性の向上に関して]
また従来の熱可塑性樹脂中に強化フィラーを混練する強化法による場合には、強化フィラーの種類、成形中のフィラーにかかる重力影響、およびフィラーの流動性を良好にするための成形温度条件の設定の問題、あるいは成形機内のスクリューにより強化フィラーが切断されて細かくなること、等にも一定の配慮を必要とする。
【0036】
また従来の熱可塑性樹脂として汎用されているのは比較的高い強度が得られる点でエポキシやフェノール樹脂の使用が主流であるが、本発明による強化繊維のフレキシブル織物、とりわけてFRTP法もしくはFRTPーEL法により組成されるものである場合においては、上記の樹脂に限らず、このほかにも例えば高密度ポリエチレンやビニロンその他低温の強度材の使用も可能となり、またガスバリア性、耐候性、耐薬品性等、樹脂本来の性質を変える新たな樹脂材の使用も可能となるところから生産性の著しい向上が見込まれる。
【0037】
[強度の向上に関して]
在来の熱可塑性樹脂中に強化フィラーを混練する強化法による場合には、成形機内のスクリューにより強化フィラーが切断されて細かくなること等に起因して予定強度に達せずに製品強度にバラツキを生じ、またさらに射出成形においては避けることのできないウエルドライン部分の強度劣化を生ずる等の問題があるのに対し、本願発明の方法による場合においては、従来の強化フラーに変えてフレキシブル編物をインサートするようにしたために、成形品に部分的応力を受けても応力分散が殆どなく、軽量でしかも成形品全体に亘り強靭な金属に近い材質特性を有した成形品を得ることが可能となる。
【0038】
さらに一対の金型を用いた射出成形の方法により成形品を成形するために、在来の熱硬化性樹脂の強化樹脂成形法(FRP法)やフラメントワインディング法のように半ば手作業に近い工法により強化フィラーを入れて成形する場合に比して強度的に安定し、再現性もよく、その結果強化材の含有量を減少させつつも全体強度の向上をはかることが可能となる。
【0039】
この場合において、とくに本発明によるFRTP法もしくはFRTPーEL法により組成されたフレキシブル織物を用いる場合においては、基本的に1本の強化繊維糸によりフレキシブル織物を組成するために、従来の強化フィラーを用いた場合のように強化フィラーの長さに比例して部分強度を確保するのではなく樹脂成形機の金型内において成形品全体にわたる内皮応力構造(モノコック構造)を構成することができる。
【0040】
さらに本発明によれば、成形品の使用目的に応じ、内圧や外圧、あるいは全体圧(絶対圧)等のように応力の受ける方向に合わせて予めフレキシブル織物の製作段階で対応設計することが可能となる、
【0041】
[成形性の向上に関して]
さらに、複雑形状の樹脂成形品の成形についても、予め該成形品の形状に合わせてフレキシブル編物を作成することにより、容易に成形加工することが可能となるほか、専用設備を用いて二次加工することにより、汎用のインジェクション技術では不可能な管状の成形品製造も可能となる。
【0042】
[品質の向上について]
本発明によるフレキシブル織物の強化材を用いることによって、樹脂本来のもつ風合い(色調)の自由度を確保することができる。また本発明によるFRTP法もしくはFRTPーEL法により組成されたフレキシブル織物を用いる場合においては、例えば性質・特性の異なる2本以上の強化繊維の組み合わせにより組成されたフレキシブル織物をインサートすることにより、例えば成形品に対し、部分的に強化し、あるいは耐摩耗性を持たせた特殊機能の樹脂成形品を得ることも可能となる。
【0043】
また透明樹脂を用いるとともに、インサートするフレキシブル織物に対し、着色や模様を施すことにより、摩耗のない独特のデザイン性を持たせた樹脂成形品を得ることができる。さらに本発明によるフレキシブル織物の使用は、これを組成する強化繊維の基本の第1として、ベクトランーカーボンファイバ代替ーPAR(ポリアリレートアルコール)繊維、であるためにカーボンファイバに比べて振動減衰性が良好であり、またナイフなどによる耐切創性や耐薬品性、さらに引張率に優れ、またアラミドに比してヤング率にも優れ、しかも低吸湿性である等、多くの特徴を有したものが使用されるために、樹脂成形材として従来品にない種々の特性を有したものの成形が可能となる。
【0044】
強化繊維の基本の第2として、ビニロンーグラスファイバ代替ーPVA(ポリビニルアルコール)繊維であるために、強度についてはポリエステルの3倍、ヤング率が1.6倍、比重が0.94であり、また伸度が少なく、クリープ性や乾熱収縮率もよく、耐酸や耐アルカリ性の面でも既製のポリエチレンよりも著しく優れ、また熱分解性もよく、さらに羊毛や綿に比べてもCO、CO、NH3、NcN、HS等の発生が少ない。
【0045】
また本発明の樹脂成形品は、従来の補強材であるグラスファイバーやカーボン繊維のような廃棄時にイオン撹乱物質やダイオキシンなど大気を汚染する物質の使用に比べ、燃焼によりエネルギー転換が可能な構造部材として使用可能とするなど地球環境保全に対応した商品づくりに寄与することができる。
【0046】
さらにフレキシブル織物を組成する補強材として、例えば金属ステンレスやエンドレス線状物等を用いて組成することにより樹脂成形品自体に耐電性を持たせ、あるいは耐電磁波機能をもたせる等、強度維持以外にも特殊な機能を持たせることも可能となり、また成形品の表面性状についても、細かい凹凸の形成やシボ加工なども可能であり、また表面美装についても従来の一般的な樹脂成形におけるのと同様の注意力をもって容易に施すことが可能である。
【0047】
またこの場合に、補強材と熱可塑性樹脂を熱可塑を利用して両方が混合しても問題の無いPAR繊維とポリエチレン等の組み合わせで作ればペレットに戻して何回でも原料のリサイクルが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明方法により成形された樹脂成形品の一例をあらわした斜視図(A)およびそのAーA部分断面図(B)。
【図2】本発明方法の応用例である射出樹脂成形品の部分断面図。
【図3】本発明方法において用いられるフレキシブル織物の一例である平面図(A)およびその側面FーF方向に引き伸ばした状態の平面図(B)。
【図4】従来の射出樹脂成形品の一例と、金型内での溶融熱可塑性樹脂の流動状態を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0049】
1 樹脂成形品
2 フレキシブル織物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め強化繊維により樹脂成形物の形状・大きさに合わせたフレキシブル織物を作成する工程と、成形金型のキャビティ内に上記フレキシブル織物を配置する工程と、成形金型のキャビティ内に上記フレキシブル織物を配置した状態において可塑化樹脂を射出注入する工程とからなる熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
フレキシブル織物が3本以内の強化繊維をもって網目状に織ることにより組成されたものであるところの請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
フレキシブル織物が3本以内の強化繊維により無端網目状に組成されたものであるところの請求項1に記載の熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
フレキシブル織物がFRTP法もしくはFRTPーEL法により組成されるものであるところの請求項1〜3のいずれか1に記載の熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
強化繊維により網目状に組成されたフレキシブル織物の伸び(強化繊維の本来的に持つ伸びを除く)について、30%以下としたものであるところの請求項1〜4のいずれか1に記載の熱可塑性樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
成形金型のキャビティ内のフレキシブル織物が、成形品の強化面に寄せて配置されるようにした請求項1又は請求項3に記載の熱可塑性樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−143049(P2009−143049A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320780(P2007−320780)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(503112112)ビクター工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】