熱可塑性飽和ポリエステルで被覆された金属撚線とその製造方法
【課題】 本発明が解決しようとする課題は、鋼撚線に直接塗装が実行でき、ピンホール等の傷がなく外表面が完璧に飽和ポリエステル被覆された撚線の製造方法を提示すること、また、その製造物として耐腐食性及び耐候性が高いだけでなく、所定の曲げに強く、耐衝撃性に優れた熱可塑性の飽和ポリエステル被覆の撚り線を提供することにある。
【解決手段】 本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものである。更に、本発明は粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた金属撚線の被覆方法を提示する。
【解決手段】 本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものである。更に、本発明は粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた金属撚線の被覆方法を提示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩害や種々の腐食条件の厳しい場所でも防食性に優れた、飽和ポリエステル樹脂系の粉体塗料で被膜された鋼やステンレス等の鉄材のみならずアルミニューム、銅及びその合金撚線の製造方法、及び、それによって製造された飽和ポリエステル樹脂系の粉体塗料で被膜された金属撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼撚線等の従来の表面処理は亜鉛メッキを施しただけの製品が主であった。そのため耐食性が低く悪条件下では長期使用は期待出来ないという大きな問題をもっていた。近年この問題を解決するものとして、種々の製品が製造提示されている。その1つは金属撚線の1本1本にエポキシ樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニール等の粉体塗装でこれを被膜し、その後これを撚って所定の製品を得る方法である。撚線には単純な7本撚りもあるが、21本、35本など多数の線が集合されており、撚り線を更に複数本撚って形成したものもある。この加工方法はその線の数だけ個々に被覆加工を行わなければならないため、その数の多い撚線の加工には手間と時間が掛かって高コストとなってしまう。また、被覆処理した線を撚るという工程が続くため、より大きな力を必要とされ、せっかく被覆処理した塗装面に傷が付いてしまうという重大な問題をもっている。
また、別の方法として特許文献1に示されているように、すでに撚り終えたロープ等を強力な力で再びより戻して線と線とに空間を作りそこへ粉体塗料で塗装処理し、その後又撚りかえすという方法で製造する方法も提示されている。この加工方法も鉄線の数が多くなればなるほど線間に空間を作ることが厄介となり、被覆を終えた縁を再度撚るという作業には更に大きな力が必要となる。その為塗装が傷つき又剥がれを生じるということは避けがたい。従って、最終的に傷の補修をせねばならないが工程が増えコストが嵩むだけでなく、製品の品質が落ちて問題である。この方法では7本撚り程度のものにしか適用出来ない。
【0003】
上記の問題を踏まえ、撚り線をほぐすことなくそのままの状態で被覆することが想到され、特許文献2にその方法が提示されている。その加工工程は図11に示されるように、線材を構成する素線は、まず前処理装置11として、ショットブラストあるいは化成処理装置により表面処理が施される。次に、高周波加熱などの加熱装置12により、次工程でプラスチックの粉体が溶融、付着するために必要な温度まで加熱する。このときの加熱温度は、用いるプラスチックの種類により適宜設定する。加熱された素線は、塗装装置13のところでその表面にプラスチック被覆がなされる。この塗装は、流動浸漬粉体塗装、静電粉体塗装等の粉体塗装によるもので、素線の撚り目が外表に現れるように被覆層を形成する。その後、水冷等の冷却装置14により前記プラスチック被覆層を養生、硬化させる。この硬化を行った後、この発明ではショットブラスト装置15により吹き付けを行い、プラスチック被覆層表面に肌荒れを起こして多数の凹凸を形成するようにしている。これはプレストレストコンクリート構造物等に使用される耐食性のPC鋼撚り線を想定したものでモルタルなどとの付着性を高めるための処理である。この発明はプラスチック被覆材としてエポキシ樹脂が好適とされるが、ポリエステル樹脂などでもよいと記載されている。
【0004】
しかし、上記の製造方法は熱硬化性樹脂を使用する被覆加工である。このため、樹脂として不飽和ポリエステルを採用してこの製造方法で鋼撚線の被覆を行った場合、固い被覆となり撚り線を曲げることが困難となる。鋼撚線はドラムに巻き付けたり、使用に際して曲げを必要とすることがあるが、この撚り線を強い力で曲げると被覆が傷ついたり、剥離したりしてしまうという重大な欠陥を有することになる。
【特許文献1】特開平9−57382号公報 「防食被覆された鋼撚り線の製造方法」 平成9年3月4日公開
【特許文献2】特開平5−111912号公報 「PC鋼撚り線及びその製造方法」 平成5年5月7日公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、鋼撚線に直接塗装が実行でき、ピンホール等の傷がなく外表面が完璧に飽和ポリエステル被覆された撚線の製造方法を提示すること、また、その製造物として耐腐食性及び耐候性が高いだけでなく、所定の曲げに強く、耐衝撃性に優れた熱可塑性の飽和ポリエステル被覆の撚り線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものである。
更に、本発明は粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた金属撚線の被覆方法を提示する。
また、本発明の金属撚線の被覆方法では、流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度により被膜厚を調整するようにした。
また、本発明の他の金属撚線の被覆方法では、金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布する工程と、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線を加熱する工程とを踏むようにした。
更に本発明の金属撚線の被覆方法は、飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用することを提示する。因みに80メッシュの網目寸法は180μmである。
【0007】
本発明の金属撚線は、イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体によって表面が被覆されている。
また、上記金属撚線の被覆樹脂には顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤の内の1つ以上が含まれているものを提示する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものであって、金属撚線に直接被覆加工を施すものであるから、如何に多数の線を撚った製品でも1回の工程で被覆加工をするので量産が可能であり又安価に製品を得ることができる。
更に、本発明の金属撚線の被覆方法は、粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えるものであるから、一応の被覆形成が出来たところでこの再度の加熱によって撚線間隙にたとえ気泡が残っていたとしてもそれを排除してより完璧な被覆を完成させることになる。
また、本発明の金属撚線の被覆方法では、流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度を変化させるだけの簡単な操作で被覆する膜厚を自在に調整することができる。
また、本発明の他の金属撚線の被覆方法では、予熱工程を省き直接金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布して後、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線を加熱する工程とを踏むようにしたことにより、極めて薄い被膜を施すことができた。
更に本発明の金属撚線の被覆方法は、飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用することにより、膜厚を40μmまで薄くしてもピンホールなどの欠陥は生じない。
【0009】
本発明の金属撚線は、イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体によって表面が被覆されているものであるから、耐腐食性及び耐候性が高いだけでなく、所定の曲げに強く、耐衝撃性に優れたものである。
また、本発明の金属撚線は、上記金属撚線の被覆樹脂には顔料、染料といった色素が含まれていればそれぞれに自然な色づけがなされるため、所望の色の製品を提供することが出来る。また、紫外線防止剤が混入されていれば野外に設置されても紫外線による劣化を受けることがない。酸化防止剤が混入されていれば長期使用においても酸化による劣化を防止することが出来る。蓄光剤が混入されていれば暗闇でも蛍光・燐光によってその存在を示す機能を備えることが出来る。そして、これらが複数含まれたものであれば、それらの機能を併せ持つものが提供できる。
本発明は飽和ポリエステル系樹脂の重合体と言う原料を用いこれを粉体塗料として、その原料の特異点を活用し撚線を表面被膜だけで中心部にも充分防食性に効果あらしめ長期使用に耐えられる製品の大量生産を可能にし新しい商品化を供給できると言う点で画期的なものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
鋼撚り線に直接被覆処理を行う本発明において使用する合成樹脂粉体塗料は、その性能として種々の要件が求められる。防食性に優れている事は当然であるが特に合成樹脂の欠点である耐候性が要求される。又被膜は強靭で傷がつきにくく、許容できる伸びも200%以上でなくてはならない。又長期に使用されるものの場合には密着強度は製品を保護し上記の性能を持続させるために不可欠な要件である。
ストランドやロープは数多くの線材が集合して撚線を形成しているのでその表面は凹凸形状となり、時によっては撚線にかかる力の加減で線と線との接点の間に間隙が生じている場合もある。これを充分カバーし間隙を埋めて完全なる被膜を形成することが更に重要な課題となる。その課題を解決するためには合成樹脂原料を選びその性質を活用した加工を工夫しなければならない。本発明者等はこのことを念頭に置いて多くの実験の結果、その素材として飽和ポリエステル樹脂共重合体を使用する事が最適であるとの知見を得たものである。本発明で用いる飽和ポリエステル樹脂は熱可塑性であるので熱硬化性樹脂に比べ柔軟であり又曲げに対しても強靭である。天日、塩害等の耐候性も良好で種々の共重合により好ましい性能を得ることが出来る。
本発明で用いる飽和ポリエステル樹脂には、特にイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルは密着性が抜群に優れ、試験によれば密着強度は150kg/cm2にも達することが確認できた。これはエポキシ樹脂の3〜5倍にあたる性能である。なお、素材としては必ずしもこれに限定されるものではなく、上記以外でも重合により好ましい結果が得られた。
【0011】
本発明の方法の工程を図1にフローチャートとして示す。ステップ1としてまずこの飽和ポリエステル樹脂を粉砕し、粉体状にする被覆加工の準備を行う。その際の粉体は80メッシユ以下で300メッシユ以上のものを用いるのが好ましい。これは粉体粒径でいえば50〜180μm程度のものである。この粉体樹脂を金属撚り線に被覆加工する工程であるが、但し厚めの被覆を施す場合には、この際ストランドやロープはあらかじめ加熱しておかなければならない。すなわち、飽和ポリエステル樹脂は230〜250℃で熔融することに対応させ、ストランドやロープは当該温度以上に加熱しておくことが必要とある。そこで、ステップ2の工程は金属撚り線を280〜300℃に予熱処理する工程となる。そうすることにより、ステップ3の粉体樹脂を被覆加工する工程において粉体は加熱物体に直接接した粒子から熔融し又そこへ重なつた粉体もその熱を受けて溶け、順次層を厚くして付着する。これには、静電塗装機によって吹きつける手法と流動浸漬法で粉体が浮遊している所を通過させる手法とが採用できる。所定時間で取り出せば撚り線表面に飽和ポリエステル樹脂が被膜された状態となってでてくるが、その際の時間と温度をコントロールすることにより、所望の膜厚を得ることができる。ステップ4でこれを冷却して飽和ポリエステル樹脂を固化し金属撚り線表面に安定した被膜を完成させる。
【0012】
さてここで、表面が平坦でない特殊構造の金属撚り線の被覆にとって、一番大事な特性について説明する。それは飽和ポリエステル樹脂は熔融点に達すると粘度が水と同じ1となることである。即ち、水と同様な粘性のないしゃぶしゃぶの液体となるため、どんな間隙にも入り込んで物体表面を万遍なく濡らすことができる。従って、多数の線が撚られた隙間の隅々にまで溶融した飽和ポリエステル樹脂が浸透した状態を実現させることが出来、その状態で固化させることにより完璧な被膜を形成することが出来る。本発明で使用する樹脂であるイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルと鋼との密着性を示す顕微鏡写真を図2に示す。A,B,Cと順に高倍率の写真となっている。明るく縞模様に見える部分が鋼であり、黒く見える部分が飽和ポリエステル樹脂である。この顕微鏡写真でその境界部分に着目すると数ミクロンの間隙にも飽和ポリエステル樹脂が浸透し残留気泡のない形態で完全に撚り線表面に密着して固着していることが確認できる。
このような被覆形態は他の樹脂粉体塗料では全く実現できないことで、溶融状態では粘度が1となる熱可塑性の飽和ポリエステル樹脂以外ではあり得ない現象である。本発明者等が被覆素材として熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を特定した根拠もここにある。この溶融状態での濡れ性の良さという物性に着目して金属撚り線の被覆に用いれば、その線材の表面のみならず線材と線材との接触部や、たとえ間隙があったとしてもその間隙にまで入り気泡の残らない状態で撚り線表面を被うことが出来る。
【0013】
更に、本発明ではストランド等を予備加熱した後に粉体を吹きつけ、この状態で一応の熔融被膜が施された後、更に後加熱する工程を加えるようにした。この工程を加えることにより、撚り線間隙に溶融樹脂の未浸透部分があったとしても、この後加熱工程において残留空気を追い出して熔融樹脂を奥深く流し込む駄目を押す浸漬がなされ、より完璧な被覆加工がなされる。事実この加工法によって処理した試作品の検査結果によれば、不都合の点は全く発見されなかった。
従来のストランドやロープを1本1本塗装して撚るという方法は、撚り線の構造上粉体塗料が間隙等に入らず完全に集合体の表面を被膜し内面を保護することが出来ない為、やむをえず行った加工法であるが、本発明によれば今まで不可能とされていたストランドやロープ等の防食が1回の塗装加工で可能になり、現在行われている加工法に比べ格段に効率がよく安価に大量の生産が可能となり、その実施効果は抜群である。
また、金属撚線は使用される状況に対応する性能が求められる場合がある。例えば道路で使用されるものには黒と黄の安全色の色つけや紫外線防止機能、酸化防止機能、夜間の夜光表示などであるが、これらの要求には飽和ポリエステル樹脂粉体に顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤を混入させて被覆加工を実施すればそれらの要求に容易に応えることが出来る。
尚、端末や切断面等の鋼露出面は別途補修剤を用いて塗装すれば内部に水分が入ることはなくこの部分からの問題を生じることはない。
【実施例】
【0014】
金属撚り線に熱可塑性飽和ポリエステルの被覆を施す本発明の方法を実施したシステム例を図3に示す。1は被覆前原料の金属撚り線10が巻かれた供給側ドラムであり、8は樹脂被覆された金属撚り線10の巻き取りドラムである。このシステムは金属撚り線10が供給側ドラム1から引き出され、巻き取りドラム8に巻き取られる経路の途上で順次必要な処理がなされる工程が配置されている。この実施例では亜鉛メッキを施した径0.2mmの鋼線材を、11本撚り合わせたストランドを用意し、これをドラム1に巻きとってコーテング装置にセットする。2は汚れ錆取り装置で、鋼撚り線10の洗浄をして付着した異物を除去し、表面をきれいにする。3は予熱炉で、鋼線材を熱可塑性飽和ポリエステルの溶融点230〜240℃以上にするため、高周波加熱方式で280〜300℃に加熱する。加熱された鋼撚り線10は塗装装置4に引き込まれる。この塗装装置4は流動浸漬法で塗装を行うもので、槽内にはイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルの粉体が収納され、槽の底部には粉体は通さないがエアーを通すメッシュが張られており、下方からエアーを吹き上げるような構造となっている。エアーが送り込まれると樹脂粉体は舞い上げられ、槽内で流動状態を作り上げる。この槽内を加熱された鋼撚り線10が通過する過程で付着した樹脂粉体が溶融状態となり、撚り線表面に広がり隙間無く濡らす。撚り線の送り速度は槽内滞在時間に反比例する関係にあり、この送り速度と予熱炉での加熱温度が被覆層の厚さを左右することになる。
【0015】
本実施例では塗装装置4を通過した後段に、後熱炉5が配置されており、表面に一応の樹脂被覆が形成されている撚り線を再度加熱する。この加熱方式も高周波加熱で、この際の加熱温度は飽和ポリエステル樹脂が要する温度を越えた240〜250℃に設定する。この加熱により、被覆樹脂は再度溶融状態となり、例え鋼撚り線と樹脂被膜の境界面に残留気泡があったとしても、この再度の浸漬によって、排除され境界面に完全な密着形態が実現される。6は冷却装置であって、この実施例では水冷が採用されている。この段階で冷却することにより、撚り線表面を隙間無く覆った樹脂層は固化され、しっかりと安定して撚り線表面を被覆することになる。7は乾燥機で、冷却用の水が残らないようにこの乾燥機を経ることで被覆表面を乾かす。以上の工程を経て完成された金属撚り線10は巻き取りドラム8に巻き取られ、完成品となる。
【0016】
上記のシステムを用いて製造した実施例を以下に示す。この際使用した塗装原料は飽和ポリエステル系粉体塗料でイソフタル酸15モル%を含み固有粘度0.8のポリエチレンイソテレフタレート共重合体で粉体のメッシュは80メッシュ以下であり、白色の顔料で着色されていた。被覆層の色は混入する顔料又は染料を選択することで適宜なものとすることが出来る。撚り線の移送速度を10m/minとし、予熱炉温度290℃、後熱炉温度375℃に設定して出来あがったストランドの被膜は、膜厚平均50μmで、ピンホールは無く撚り線表面の凹凸部や線材の接点部も完全に被膜されていた。これを取り出し90°直角に、180°折り返し状態に、更に隙間無く360°まで曲げてもクラックは生ぜず、戻した際にも何等の異状は見られなかった。これを塩水噴霧試験機にかけ7000時間を経過させたが錆やクラックは生ぜず全く表面状態には変化が見られなかった。
【0017】
また、上記の製造システムを用いて製造した被覆鋼撚線の仕上がり具合を示す。仕上がった被覆鋼撚線を切断し、その断面を顕微鏡で撮影した写真を図4乃至図9に示す。原料鋼撚線は図10に示されるように2mmφの鋼線を19本撚った線材で、この撚り線の移送速度は6.5m/minとし、加熱炉に高周波加熱方式のものと非高周波加熱方式のものと、更に加熱温度を変えて被覆加工を行ったそれぞれの製品について断面を比較観察した。写真中黒く丸形状に写っているのが鋼線、線間の最も黒く写っているところは空隙、バックとの境界がくっきり出ていないが撚り線を包んでいる白い部分が被覆樹脂である。
図4に示したものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度229℃で処理したものであるが、飽和ポリエステル樹脂の溶融点ぎりぎりの温度であるため、鋼との境界面への浸漬は良好に見えるが被覆層内に斑模様が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされなかったことを示している。被覆厚は130μmとなっている。なお、この膜厚は鋼線の最も外側に位置している表面と被覆の外表面間の厚さで示してある。図5のものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度248℃で処理したものである。鋼との境界面への浸漬は良好に見えるが被覆層内に局部的に斑模様が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされなかったことを示している。一応溶融点以上の加熱であるが粉体塗装時点で局部的に温度不足を起こしていることが認められる。この際の被覆厚は106μmであった。図6のものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度268℃で処理したものである。鋼との境界面への浸漬は良好、被覆層全体にわたり均一な被覆状態が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされたことを示している。加熱温度はこの温度以上に設定することが望ましいといえる。この際の被覆厚は130μmとなっており、この被覆厚寸法は加熱温度と塗装時間に依存するもので、加熱温度の高い方が厚くなることを示している。なお、加熱温度229℃で処理したものの被覆厚が130μmであったのは溶融が不完全であったためである。
【0018】
図7乃至図9に示したものは加熱炉に高周波加熱方式ではなく遠赤外方式の炉を用いて製造したものである。図7は加熱温度232℃で加工したものであるが、この顕微鏡写真からは撚り線間の鋼境界面に一部未浸漬部分があることが観察され、被覆層内にも若干斑模様が見受けられると共に、被覆外表面の状態も凹凸が出来ている。加熱不足であることが分かる。このサンプルの被覆厚は113μmであった。図8に示したものは加熱温度248℃で加工したものであるが、撚り線間の鋼境界面に小さいが一部未浸漬部分があることが観察され、被覆層内にも局部的に斑模様が見受けられる。この状態はやや加熱不足といえる。このときの被覆厚は120μmであった。図9に示したものは加熱温度を269℃に設定して製造したものである。撚り線間の鋼境界面にも浸漬はなされており、綺麗に仕上がっているように見えるが被覆層内に部分的に斑部分が観察される。このサンプルの被覆厚は108μmであった。
以上のことから、加熱温度は270度以上に設定することが必要であり、加熱方式は高周波加熱が適しているといえる。これは高周波加熱法の場合、瞬時に分布無く均等に加熱することが出来るためであると解される。他の加熱法を採用する場合は温度を高く設定するか加熱時間を十分にとることが必要となる。大量生産をするためには移送速度を速くすることが求められるので高周波加熱方式が最適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属撚り線に熱可塑性飽和ポリエステル系樹脂の被覆を施す方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明により熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が鋼表面を被覆した状態を、切り出し断面で観察した顕微鏡写真である。
【図3】本発明の被覆金属撚線の製造方法を実施するシステム例を説明する図である。
【図4】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度229℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図5】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度248℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図6】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度268℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図7】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度232℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図8】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度248℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図9】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度269℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図10】被覆前の鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図11】熱硬化性樹脂を用いて金属撚り線の被覆を実施する従来システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0020】
1 原料撚り線供給ドラム 2 汚れ・錆とり装置
3 予熱炉 4 塗装装置
5 後熱炉 6 水冷装置
7 乾燥機 8 被覆撚り線巻き取りドラム
【技術分野】
【0001】
本発明は塩害や種々の腐食条件の厳しい場所でも防食性に優れた、飽和ポリエステル樹脂系の粉体塗料で被膜された鋼やステンレス等の鉄材のみならずアルミニューム、銅及びその合金撚線の製造方法、及び、それによって製造された飽和ポリエステル樹脂系の粉体塗料で被膜された金属撚線に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼撚線等の従来の表面処理は亜鉛メッキを施しただけの製品が主であった。そのため耐食性が低く悪条件下では長期使用は期待出来ないという大きな問題をもっていた。近年この問題を解決するものとして、種々の製品が製造提示されている。その1つは金属撚線の1本1本にエポキシ樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニール等の粉体塗装でこれを被膜し、その後これを撚って所定の製品を得る方法である。撚線には単純な7本撚りもあるが、21本、35本など多数の線が集合されており、撚り線を更に複数本撚って形成したものもある。この加工方法はその線の数だけ個々に被覆加工を行わなければならないため、その数の多い撚線の加工には手間と時間が掛かって高コストとなってしまう。また、被覆処理した線を撚るという工程が続くため、より大きな力を必要とされ、せっかく被覆処理した塗装面に傷が付いてしまうという重大な問題をもっている。
また、別の方法として特許文献1に示されているように、すでに撚り終えたロープ等を強力な力で再びより戻して線と線とに空間を作りそこへ粉体塗料で塗装処理し、その後又撚りかえすという方法で製造する方法も提示されている。この加工方法も鉄線の数が多くなればなるほど線間に空間を作ることが厄介となり、被覆を終えた縁を再度撚るという作業には更に大きな力が必要となる。その為塗装が傷つき又剥がれを生じるということは避けがたい。従って、最終的に傷の補修をせねばならないが工程が増えコストが嵩むだけでなく、製品の品質が落ちて問題である。この方法では7本撚り程度のものにしか適用出来ない。
【0003】
上記の問題を踏まえ、撚り線をほぐすことなくそのままの状態で被覆することが想到され、特許文献2にその方法が提示されている。その加工工程は図11に示されるように、線材を構成する素線は、まず前処理装置11として、ショットブラストあるいは化成処理装置により表面処理が施される。次に、高周波加熱などの加熱装置12により、次工程でプラスチックの粉体が溶融、付着するために必要な温度まで加熱する。このときの加熱温度は、用いるプラスチックの種類により適宜設定する。加熱された素線は、塗装装置13のところでその表面にプラスチック被覆がなされる。この塗装は、流動浸漬粉体塗装、静電粉体塗装等の粉体塗装によるもので、素線の撚り目が外表に現れるように被覆層を形成する。その後、水冷等の冷却装置14により前記プラスチック被覆層を養生、硬化させる。この硬化を行った後、この発明ではショットブラスト装置15により吹き付けを行い、プラスチック被覆層表面に肌荒れを起こして多数の凹凸を形成するようにしている。これはプレストレストコンクリート構造物等に使用される耐食性のPC鋼撚り線を想定したものでモルタルなどとの付着性を高めるための処理である。この発明はプラスチック被覆材としてエポキシ樹脂が好適とされるが、ポリエステル樹脂などでもよいと記載されている。
【0004】
しかし、上記の製造方法は熱硬化性樹脂を使用する被覆加工である。このため、樹脂として不飽和ポリエステルを採用してこの製造方法で鋼撚線の被覆を行った場合、固い被覆となり撚り線を曲げることが困難となる。鋼撚線はドラムに巻き付けたり、使用に際して曲げを必要とすることがあるが、この撚り線を強い力で曲げると被覆が傷ついたり、剥離したりしてしまうという重大な欠陥を有することになる。
【特許文献1】特開平9−57382号公報 「防食被覆された鋼撚り線の製造方法」 平成9年3月4日公開
【特許文献2】特開平5−111912号公報 「PC鋼撚り線及びその製造方法」 平成5年5月7日公開
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、鋼撚線に直接塗装が実行でき、ピンホール等の傷がなく外表面が完璧に飽和ポリエステル被覆された撚線の製造方法を提示すること、また、その製造物として耐腐食性及び耐候性が高いだけでなく、所定の曲げに強く、耐衝撃性に優れた熱可塑性の飽和ポリエステル被覆の撚り線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものである。
更に、本発明は粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた金属撚線の被覆方法を提示する。
また、本発明の金属撚線の被覆方法では、流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度により被膜厚を調整するようにした。
また、本発明の他の金属撚線の被覆方法では、金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布する工程と、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線を加熱する工程とを踏むようにした。
更に本発明の金属撚線の被覆方法は、飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用することを提示する。因みに80メッシュの網目寸法は180μmである。
【0007】
本発明の金属撚線は、イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体によって表面が被覆されている。
また、上記金属撚線の被覆樹脂には顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤の内の1つ以上が含まれているものを提示する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の金属撚線の被覆方法は、金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏むものであって、金属撚線に直接被覆加工を施すものであるから、如何に多数の線を撚った製品でも1回の工程で被覆加工をするので量産が可能であり又安価に製品を得ることができる。
更に、本発明の金属撚線の被覆方法は、粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えるものであるから、一応の被覆形成が出来たところでこの再度の加熱によって撚線間隙にたとえ気泡が残っていたとしてもそれを排除してより完璧な被覆を完成させることになる。
また、本発明の金属撚線の被覆方法では、流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度を変化させるだけの簡単な操作で被覆する膜厚を自在に調整することができる。
また、本発明の他の金属撚線の被覆方法では、予熱工程を省き直接金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布して後、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線を加熱する工程とを踏むようにしたことにより、極めて薄い被膜を施すことができた。
更に本発明の金属撚線の被覆方法は、飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用することにより、膜厚を40μmまで薄くしてもピンホールなどの欠陥は生じない。
【0009】
本発明の金属撚線は、イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体によって表面が被覆されているものであるから、耐腐食性及び耐候性が高いだけでなく、所定の曲げに強く、耐衝撃性に優れたものである。
また、本発明の金属撚線は、上記金属撚線の被覆樹脂には顔料、染料といった色素が含まれていればそれぞれに自然な色づけがなされるため、所望の色の製品を提供することが出来る。また、紫外線防止剤が混入されていれば野外に設置されても紫外線による劣化を受けることがない。酸化防止剤が混入されていれば長期使用においても酸化による劣化を防止することが出来る。蓄光剤が混入されていれば暗闇でも蛍光・燐光によってその存在を示す機能を備えることが出来る。そして、これらが複数含まれたものであれば、それらの機能を併せ持つものが提供できる。
本発明は飽和ポリエステル系樹脂の重合体と言う原料を用いこれを粉体塗料として、その原料の特異点を活用し撚線を表面被膜だけで中心部にも充分防食性に効果あらしめ長期使用に耐えられる製品の大量生産を可能にし新しい商品化を供給できると言う点で画期的なものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
鋼撚り線に直接被覆処理を行う本発明において使用する合成樹脂粉体塗料は、その性能として種々の要件が求められる。防食性に優れている事は当然であるが特に合成樹脂の欠点である耐候性が要求される。又被膜は強靭で傷がつきにくく、許容できる伸びも200%以上でなくてはならない。又長期に使用されるものの場合には密着強度は製品を保護し上記の性能を持続させるために不可欠な要件である。
ストランドやロープは数多くの線材が集合して撚線を形成しているのでその表面は凹凸形状となり、時によっては撚線にかかる力の加減で線と線との接点の間に間隙が生じている場合もある。これを充分カバーし間隙を埋めて完全なる被膜を形成することが更に重要な課題となる。その課題を解決するためには合成樹脂原料を選びその性質を活用した加工を工夫しなければならない。本発明者等はこのことを念頭に置いて多くの実験の結果、その素材として飽和ポリエステル樹脂共重合体を使用する事が最適であるとの知見を得たものである。本発明で用いる飽和ポリエステル樹脂は熱可塑性であるので熱硬化性樹脂に比べ柔軟であり又曲げに対しても強靭である。天日、塩害等の耐候性も良好で種々の共重合により好ましい性能を得ることが出来る。
本発明で用いる飽和ポリエステル樹脂には、特にイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルは密着性が抜群に優れ、試験によれば密着強度は150kg/cm2にも達することが確認できた。これはエポキシ樹脂の3〜5倍にあたる性能である。なお、素材としては必ずしもこれに限定されるものではなく、上記以外でも重合により好ましい結果が得られた。
【0011】
本発明の方法の工程を図1にフローチャートとして示す。ステップ1としてまずこの飽和ポリエステル樹脂を粉砕し、粉体状にする被覆加工の準備を行う。その際の粉体は80メッシユ以下で300メッシユ以上のものを用いるのが好ましい。これは粉体粒径でいえば50〜180μm程度のものである。この粉体樹脂を金属撚り線に被覆加工する工程であるが、但し厚めの被覆を施す場合には、この際ストランドやロープはあらかじめ加熱しておかなければならない。すなわち、飽和ポリエステル樹脂は230〜250℃で熔融することに対応させ、ストランドやロープは当該温度以上に加熱しておくことが必要とある。そこで、ステップ2の工程は金属撚り線を280〜300℃に予熱処理する工程となる。そうすることにより、ステップ3の粉体樹脂を被覆加工する工程において粉体は加熱物体に直接接した粒子から熔融し又そこへ重なつた粉体もその熱を受けて溶け、順次層を厚くして付着する。これには、静電塗装機によって吹きつける手法と流動浸漬法で粉体が浮遊している所を通過させる手法とが採用できる。所定時間で取り出せば撚り線表面に飽和ポリエステル樹脂が被膜された状態となってでてくるが、その際の時間と温度をコントロールすることにより、所望の膜厚を得ることができる。ステップ4でこれを冷却して飽和ポリエステル樹脂を固化し金属撚り線表面に安定した被膜を完成させる。
【0012】
さてここで、表面が平坦でない特殊構造の金属撚り線の被覆にとって、一番大事な特性について説明する。それは飽和ポリエステル樹脂は熔融点に達すると粘度が水と同じ1となることである。即ち、水と同様な粘性のないしゃぶしゃぶの液体となるため、どんな間隙にも入り込んで物体表面を万遍なく濡らすことができる。従って、多数の線が撚られた隙間の隅々にまで溶融した飽和ポリエステル樹脂が浸透した状態を実現させることが出来、その状態で固化させることにより完璧な被膜を形成することが出来る。本発明で使用する樹脂であるイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルと鋼との密着性を示す顕微鏡写真を図2に示す。A,B,Cと順に高倍率の写真となっている。明るく縞模様に見える部分が鋼であり、黒く見える部分が飽和ポリエステル樹脂である。この顕微鏡写真でその境界部分に着目すると数ミクロンの間隙にも飽和ポリエステル樹脂が浸透し残留気泡のない形態で完全に撚り線表面に密着して固着していることが確認できる。
このような被覆形態は他の樹脂粉体塗料では全く実現できないことで、溶融状態では粘度が1となる熱可塑性の飽和ポリエステル樹脂以外ではあり得ない現象である。本発明者等が被覆素材として熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を特定した根拠もここにある。この溶融状態での濡れ性の良さという物性に着目して金属撚り線の被覆に用いれば、その線材の表面のみならず線材と線材との接触部や、たとえ間隙があったとしてもその間隙にまで入り気泡の残らない状態で撚り線表面を被うことが出来る。
【0013】
更に、本発明ではストランド等を予備加熱した後に粉体を吹きつけ、この状態で一応の熔融被膜が施された後、更に後加熱する工程を加えるようにした。この工程を加えることにより、撚り線間隙に溶融樹脂の未浸透部分があったとしても、この後加熱工程において残留空気を追い出して熔融樹脂を奥深く流し込む駄目を押す浸漬がなされ、より完璧な被覆加工がなされる。事実この加工法によって処理した試作品の検査結果によれば、不都合の点は全く発見されなかった。
従来のストランドやロープを1本1本塗装して撚るという方法は、撚り線の構造上粉体塗料が間隙等に入らず完全に集合体の表面を被膜し内面を保護することが出来ない為、やむをえず行った加工法であるが、本発明によれば今まで不可能とされていたストランドやロープ等の防食が1回の塗装加工で可能になり、現在行われている加工法に比べ格段に効率がよく安価に大量の生産が可能となり、その実施効果は抜群である。
また、金属撚線は使用される状況に対応する性能が求められる場合がある。例えば道路で使用されるものには黒と黄の安全色の色つけや紫外線防止機能、酸化防止機能、夜間の夜光表示などであるが、これらの要求には飽和ポリエステル樹脂粉体に顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤を混入させて被覆加工を実施すればそれらの要求に容易に応えることが出来る。
尚、端末や切断面等の鋼露出面は別途補修剤を用いて塗装すれば内部に水分が入ることはなくこの部分からの問題を生じることはない。
【実施例】
【0014】
金属撚り線に熱可塑性飽和ポリエステルの被覆を施す本発明の方法を実施したシステム例を図3に示す。1は被覆前原料の金属撚り線10が巻かれた供給側ドラムであり、8は樹脂被覆された金属撚り線10の巻き取りドラムである。このシステムは金属撚り線10が供給側ドラム1から引き出され、巻き取りドラム8に巻き取られる経路の途上で順次必要な処理がなされる工程が配置されている。この実施例では亜鉛メッキを施した径0.2mmの鋼線材を、11本撚り合わせたストランドを用意し、これをドラム1に巻きとってコーテング装置にセットする。2は汚れ錆取り装置で、鋼撚り線10の洗浄をして付着した異物を除去し、表面をきれいにする。3は予熱炉で、鋼線材を熱可塑性飽和ポリエステルの溶融点230〜240℃以上にするため、高周波加熱方式で280〜300℃に加熱する。加熱された鋼撚り線10は塗装装置4に引き込まれる。この塗装装置4は流動浸漬法で塗装を行うもので、槽内にはイソフタル酸8〜10モル%を含み固有粘度が0.7〜10.のイソテレフタル酸共重合の飽和ポリエステルの粉体が収納され、槽の底部には粉体は通さないがエアーを通すメッシュが張られており、下方からエアーを吹き上げるような構造となっている。エアーが送り込まれると樹脂粉体は舞い上げられ、槽内で流動状態を作り上げる。この槽内を加熱された鋼撚り線10が通過する過程で付着した樹脂粉体が溶融状態となり、撚り線表面に広がり隙間無く濡らす。撚り線の送り速度は槽内滞在時間に反比例する関係にあり、この送り速度と予熱炉での加熱温度が被覆層の厚さを左右することになる。
【0015】
本実施例では塗装装置4を通過した後段に、後熱炉5が配置されており、表面に一応の樹脂被覆が形成されている撚り線を再度加熱する。この加熱方式も高周波加熱で、この際の加熱温度は飽和ポリエステル樹脂が要する温度を越えた240〜250℃に設定する。この加熱により、被覆樹脂は再度溶融状態となり、例え鋼撚り線と樹脂被膜の境界面に残留気泡があったとしても、この再度の浸漬によって、排除され境界面に完全な密着形態が実現される。6は冷却装置であって、この実施例では水冷が採用されている。この段階で冷却することにより、撚り線表面を隙間無く覆った樹脂層は固化され、しっかりと安定して撚り線表面を被覆することになる。7は乾燥機で、冷却用の水が残らないようにこの乾燥機を経ることで被覆表面を乾かす。以上の工程を経て完成された金属撚り線10は巻き取りドラム8に巻き取られ、完成品となる。
【0016】
上記のシステムを用いて製造した実施例を以下に示す。この際使用した塗装原料は飽和ポリエステル系粉体塗料でイソフタル酸15モル%を含み固有粘度0.8のポリエチレンイソテレフタレート共重合体で粉体のメッシュは80メッシュ以下であり、白色の顔料で着色されていた。被覆層の色は混入する顔料又は染料を選択することで適宜なものとすることが出来る。撚り線の移送速度を10m/minとし、予熱炉温度290℃、後熱炉温度375℃に設定して出来あがったストランドの被膜は、膜厚平均50μmで、ピンホールは無く撚り線表面の凹凸部や線材の接点部も完全に被膜されていた。これを取り出し90°直角に、180°折り返し状態に、更に隙間無く360°まで曲げてもクラックは生ぜず、戻した際にも何等の異状は見られなかった。これを塩水噴霧試験機にかけ7000時間を経過させたが錆やクラックは生ぜず全く表面状態には変化が見られなかった。
【0017】
また、上記の製造システムを用いて製造した被覆鋼撚線の仕上がり具合を示す。仕上がった被覆鋼撚線を切断し、その断面を顕微鏡で撮影した写真を図4乃至図9に示す。原料鋼撚線は図10に示されるように2mmφの鋼線を19本撚った線材で、この撚り線の移送速度は6.5m/minとし、加熱炉に高周波加熱方式のものと非高周波加熱方式のものと、更に加熱温度を変えて被覆加工を行ったそれぞれの製品について断面を比較観察した。写真中黒く丸形状に写っているのが鋼線、線間の最も黒く写っているところは空隙、バックとの境界がくっきり出ていないが撚り線を包んでいる白い部分が被覆樹脂である。
図4に示したものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度229℃で処理したものであるが、飽和ポリエステル樹脂の溶融点ぎりぎりの温度であるため、鋼との境界面への浸漬は良好に見えるが被覆層内に斑模様が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされなかったことを示している。被覆厚は130μmとなっている。なお、この膜厚は鋼線の最も外側に位置している表面と被覆の外表面間の厚さで示してある。図5のものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度248℃で処理したものである。鋼との境界面への浸漬は良好に見えるが被覆層内に局部的に斑模様が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされなかったことを示している。一応溶融点以上の加熱であるが粉体塗装時点で局部的に温度不足を起こしていることが認められる。この際の被覆厚は106μmであった。図6のものは予熱炉に高周波炉を用い加熱温度268℃で処理したものである。鋼との境界面への浸漬は良好、被覆層全体にわたり均一な被覆状態が観察され、全体にわたっての十分な溶融がなされたことを示している。加熱温度はこの温度以上に設定することが望ましいといえる。この際の被覆厚は130μmとなっており、この被覆厚寸法は加熱温度と塗装時間に依存するもので、加熱温度の高い方が厚くなることを示している。なお、加熱温度229℃で処理したものの被覆厚が130μmであったのは溶融が不完全であったためである。
【0018】
図7乃至図9に示したものは加熱炉に高周波加熱方式ではなく遠赤外方式の炉を用いて製造したものである。図7は加熱温度232℃で加工したものであるが、この顕微鏡写真からは撚り線間の鋼境界面に一部未浸漬部分があることが観察され、被覆層内にも若干斑模様が見受けられると共に、被覆外表面の状態も凹凸が出来ている。加熱不足であることが分かる。このサンプルの被覆厚は113μmであった。図8に示したものは加熱温度248℃で加工したものであるが、撚り線間の鋼境界面に小さいが一部未浸漬部分があることが観察され、被覆層内にも局部的に斑模様が見受けられる。この状態はやや加熱不足といえる。このときの被覆厚は120μmであった。図9に示したものは加熱温度を269℃に設定して製造したものである。撚り線間の鋼境界面にも浸漬はなされており、綺麗に仕上がっているように見えるが被覆層内に部分的に斑部分が観察される。このサンプルの被覆厚は108μmであった。
以上のことから、加熱温度は270度以上に設定することが必要であり、加熱方式は高周波加熱が適しているといえる。これは高周波加熱法の場合、瞬時に分布無く均等に加熱することが出来るためであると解される。他の加熱法を採用する場合は温度を高く設定するか加熱時間を十分にとることが必要となる。大量生産をするためには移送速度を速くすることが求められるので高周波加熱方式が最適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の金属撚り線に熱可塑性飽和ポリエステル系樹脂の被覆を施す方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】本発明により熱可塑性飽和ポリエステル樹脂が鋼表面を被覆した状態を、切り出し断面で観察した顕微鏡写真である。
【図3】本発明の被覆金属撚線の製造方法を実施するシステム例を説明する図である。
【図4】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度229℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図5】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度248℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図6】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉使用、線加熱温度268℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図7】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度232℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図8】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度248℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図9】撚り線移送速度6.5m/min、高周波加熱炉未使用、線加熱温度269℃で造られた鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図10】被覆前の鋼撚り線の断面を写した写真である。
【図11】熱硬化性樹脂を用いて金属撚り線の被覆を実施する従来システムを説明する図である。
【符号の説明】
【0020】
1 原料撚り線供給ドラム 2 汚れ・錆とり装置
3 予熱炉 4 塗装装置
5 後熱炉 6 水冷装置
7 乾燥機 8 被覆撚り線巻き取りドラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏み、塗布された樹脂粉体は溶融状態となって撚線表面を被うことを特徴とする金属撚線の被覆方法。
【請求項2】
粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた請求項1に記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項3】
流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度により被膜厚を調整するものである請求項1又は2に記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項4】
金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布する工程と、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線加熱する工程とを踏み、塗布された粉体は溶融状態となって撚線表面を薄く被うことを特徴とする金属撚線の被覆方法。
【請求項5】
飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用した請求項1乃至4のいずれかに記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項6】
イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体が表面に被覆された金属撚線。
【請求項7】
被覆樹脂には顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤の内の1つ以上が含まれている請求項6に記載の金属撚線。
【請求項1】
金属撚線の表面を熱可塑性飽和ポリエステル樹脂の溶融点以上に加熱する工程と、該加熱された金属撚線の表面に前記樹脂の粉体を塗布する工程とを踏み、塗布された樹脂粉体は溶融状態となって撚線表面を被うことを特徴とする金属撚線の被覆方法。
【請求項2】
粉体を塗布する工程の後、再度加熱する後加熱工程を加えた請求項1に記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項3】
流動浸漬法で粉体を塗布する工程において、粉体が流動状体にある槽内を金属撚線通過する時間とその際の金属撚線の温度により被膜厚を調整するものである請求項1又は2に記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項4】
金属撚線の表面に静電塗装によって熱可塑性飽和ポリエステル樹脂を塗布する工程と、前記樹脂の溶融点以上に金属撚線加熱する工程とを踏み、塗布された粉体は溶融状態となって撚線表面を薄く被うことを特徴とする金属撚線の被覆方法。
【請求項5】
飽和ポリエステル樹脂粉体塗料には粒度が80メッシュ以下の微粒子粉体を採用した請求項1乃至4のいずれかに記載の金属撚線の被覆方法。
【請求項6】
イソフタル酸成分8〜20モル%固有粘度0.7〜1.0の熱可塑性ポリエチレンイソテレフタレート共重合体が表面に被覆された金属撚線。
【請求項7】
被覆樹脂には顔料、染料、及び紫外線防止剤、酸化防止剤、蓄光剤の内の1つ以上が含まれている請求項6に記載の金属撚線。
【図1】
【図3】
【図11】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図3】
【図11】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−122808(P2006−122808A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314058(P2004−314058)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(594047290)テリー工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(594047290)テリー工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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