説明

熱型赤外線検出素子

【課題】入射赤外線の効率的に吸収して感度を向上させることができる熱型赤外線検出素子の構造、特に、受光部を構成する赤外線吸収膜の構造の提供。
【解決手段】熱型赤外線検出素子の受光部11を構成する赤外線吸収膜(第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9)を、8〜14μmの波長帯(大気の窓)の短波長側(略8〜10μm)で吸収率が大きい新規なSiCOを材料とする膜と、上記波長帯の長波長側(略10〜14μm)で吸収率が大きいSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどを材料とする膜とを組み合わせた積層膜とする。これにより、従来の熱型赤外線検出素子では有効に利用することができなかった短波長側の赤外線をSiCO膜で吸収して上記波長帯全般の赤外線を有効に利用し、熱型赤外線検出素子の感度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱型赤外線検出素子に関し、特に、熱型赤外線検出素子の受光部を構成する赤外線吸収膜に関する。
【背景技術】
【0002】
熱型の赤外線検出素子は、一般に、物体から放射された赤外線を赤外線吸収膜で吸収して熱に変換し、マイクロブリッジ構造のダイアフラムを構成するボロメータ薄膜等の感熱抵抗体の温度を上昇させてその抵抗を変化させ、感熱抵抗体の抵抗変化から対象物の温度を測定するものである。
【0003】
具体的に説明すると、この種の熱型赤外線検出素子は、ボロメータ層と入射赤外線を吸収すると共にボロメータ層を保護する赤外線吸収膜とを備える受光部と、ボロメータ層と回路基板に予め形成された読み出し回路とを接続する配線を備える梁とで構成され、この梁により、受光部が回路基板の上に浮いた形で存在している。そして、入射した赤外線が赤外線吸収膜で吸収されて受光部の温度が上昇すると、ボロメータ層の抵抗が変化し、その抵抗変化が読み出し回路で検出されて、温度として出力される。このような構造の熱型赤外線検出素子は、例えば、特開2002−71452号公報などに記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−71452号公報(第5−8頁、第6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した熱型赤外線検出素子の感度(S/N比)を上げるためには、第1に、受光部の温度変化に対するボロメータ層の抵抗変化を大きくすることが重要であり、そのために、ボロメータ層として抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient Resistance)の大きい材料が使用されている。また、第2に、入射赤外線の吸収効率を上げることも重要であり、そのために、回路基板上の受光部に対向する位置に赤外線反射膜を設け、光学的共振構造が形成されるように受光部と赤外線反射膜との間隔が設定されている。更に、入射赤外線に対する吸収効率を上げるために、受光部を構成する赤外線吸収膜を、異なる材料からなる膜の積層構造にすることも行われている。
【0006】
ここで、熱型赤外線検出素子は、大気の窓と呼ばれる8〜14μmの波長帯の赤外線を検出するものであることから、赤外線吸収膜は上記波長帯の赤外線を吸収する材料で構成する必要があり、また、製造上の観点から成膜やエッチングなどが容易な材料で構成する必要もある。そこで、上記要求を満たす材料として、従来は、酸化シリコン(SiO)や窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)、酸窒化シリコン(SiON)、炭窒化シリコン(SiCN)などが用いられていた。
【0007】
しかしながら、これらの材料は上記波長帯の赤外線を吸収するものの、吸収率は上記波長帯の長波長側(略10〜14μm)で大きく、短波長側(略8〜10μm)で小さいため、上記波長帯の短波長側の赤外線を有効に利用しているとは言えない。
【0008】
具体的に説明すると、図14に示すように、SiCは波長13μm近傍で吸収率が最大となり、SiNやSiCN、SiONは波長12μm近傍で吸収率が最大となり、上記波長帯の長波長帯側の赤外線の吸収率は大きいが短波長側では吸収率が急激に小さくなり、SiONやSiNでは、8〜12μmの波長帯における吸収率はたかだか20%程度にしかならない。また、SiOは10μm近傍で吸収率が最大になるが、SiNやSiON、SiCに比べて吸収率が全体的に小さいため、上記波長帯の赤外線を効率的に吸収することはできない。そのため、これらの材料からなる赤外線吸収膜を組み合わせて積層したとしても上記波長帯の短波長側の赤外線を有効に利用することができず、その結果、熱型赤外線検出素子の感度を十分に上げることができないという問題があった。
【0009】
また、赤外線の吸収効率を上げる方法として赤外線吸収膜を厚くする方法も考えられるが、赤外線吸収膜を厚くすると受光部の熱容量が大きくなって入射赤外線に対する温度変化が小さくなってしまい、また、赤外線吸収膜は梁にも形成されていることから梁が太くなって回路基板側に流出する熱量が増加してしまい、この方法では熱型赤外線検出素子の感度を上げることができない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、入射赤外線を効率的に吸収して感度を向上させることができる熱型赤外線検出素子の構造、特に、受光部を構成する赤外線吸収膜の構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の構造体は、略8〜14μmの波長帯の赤外線を吸収するための構造体であって、前記構造体は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜の中にSiCOを材料とする膜を含むものである。
【0012】
また、本発明の熱型赤外線検出素子は、感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部が、一端が基板に固定される梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、前記赤外線吸収膜は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜の中にSiCOを材料とする膜を含むものである。
【0013】
また、本発明の熱型赤外線検出素子は、感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部が、一端が基板に固定される梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、前記赤外線吸収膜は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜は、SiCOを材料とする膜と、SiO、SiN、SiC、SiON及びSiCNの中のいずれかを材料とする膜とで構成されているものである。
【0014】
また、本発明の熱型赤外線検出素子は、感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部と、一端が前記感熱抵抗体に接続され他端が基板に形成された回路に接続される配線を含む梁とで構成され、前記受光部が前記梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、前記赤外線吸収膜は、前記感熱抵抗体の下層に形成される第1の赤外線吸収膜と、前記感熱抵抗体の上層に形成される第2の赤外線吸収膜と、前記第2の赤外線吸収膜に設けたスルーホールを介して前記感熱抵抗体に接続される前記配線の上層に形成される第3の赤外線吸収膜とを含む複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜は、SiCOを材料とする膜と、SiO、SiN、SiC、SiON及びSiCNの中のいずれかを材料とする膜とで構成されているものである。
【0015】
本発明においては、前記SiCOを材料とする膜は、最表層を除く層に形成されている構成とすることができる。
【0016】
また、本発明においては、前記複数種類の膜の内、一部の膜は前記受光部のみに形成され、他の膜は前記受光部及び前記梁の双方に連続して形成されている構成とすることもできる。
【0017】
また、本発明においては、前記SiCOからなる膜は、略9〜10μmの波長帯において赤外線に対する吸収率が最大になることが好ましい。
【0018】
このように、本発明では、熱型赤外線検出素子の受光部を構成する赤外線吸収膜などの赤外線を吸収する構造体を、8〜14μmの波長帯の短波長側で吸収率が大きいSiCOを材料とする膜と、上記波長帯の長波長側で吸収率が大きいSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどを材料とする膜とを組み合わせた積層構造にしているため、従来の熱型赤外線検出素子では有効に利用することができなかった短波長側の赤外線を効率的に吸収することができ、これにより、熱型赤外線検出素子の感度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の熱型赤外線検出素子によれば、8〜14μmの波長帯の大気の窓を通過して入射する赤外線を効率的に吸収することができ、これにより、熱型赤外線検出素子の感度を向上させることができる。
【0020】
その理由は、熱型赤外線検出素子の受光部を構成する赤外線吸収膜を、上記波長帯の短波長側(略8〜10μm)で吸収率が大きい、本願発明者が新規に見出したSiCOを材料とする膜と、上記波長帯の長波長側(略10〜14μm)で吸収率が大きいSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどを材料とする膜とを組み合わせた積層膜としているため、従来の熱型赤外線検出素子では有効に利用することができなかった短波長側の赤外線をSiCO膜で吸収することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
従来技術で示したように、8〜14μmの波長帯の大気の窓を通過する赤外線を検出する熱型赤外線検出素子の感度を向上させるためには、赤外線の吸収特性のよい材料で受光部を構成する赤外線吸収膜を形成することが重要であるが、従来より用いられているSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどの材料は、いずれも8〜10μm近傍の赤外線の吸収率が小さく、入射する赤外線を有効に利用することができないという問題があった。
【0022】
上記問題に対して、本願発明者は、様々な原料を用いて赤外線吸収膜を形成し、形成した赤外線吸収膜の赤外線吸収特性を測定した結果、シリコンと炭素と酸素とが1:1:1に結合して得られるSiCOが、成膜やエッチングが容易でプロセス適合性がよく、また、保護膜としての機能も十分に有し、更に、上記波長帯の中の短波長側(9〜10μm近傍)で吸収率が最大となり、ピークの吸収率が他の材料に比べて非常に高い(50%以上)ことを見出した。
【0023】
そこで、熱型赤外線検出素子の受光部を構成する赤外線吸収膜を、新規に見出したSiCOを材料とする膜と、公知の材料であるSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどを材料とする膜とを組み合わせた積層構造にすることにより、上記波長帯の短波長側から長波長側に至る広い範囲で赤外線吸収率を高めることに成功し、これにより、受光部の温度変化を大きくし、熱型赤外線検出素子の感度を向上させることができた。
【0024】
なお、このSiCOを材料とする膜を単独で使用すると上記波長帯の長波長側の吸収率が低下することから、本発明では新規なSiCOを材料とする膜と長波長側の吸収率が大きい従来の膜とを組み合わせて使用するが、積層構造の赤外線吸収膜の中のどの膜にSiCO膜を適用するかは任意であり、SiCO膜と組み合わせる他の膜の種類も任意に選択することができる。以下、このSiCO膜を赤外線吸収膜として利用した熱型赤外線検出素子について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0025】
上記した本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子について、図1乃至図13を参照して説明する。図1は、本実施例の熱型赤外線検出素子の一画素を電流経路に沿って描いた断面図であり、図2は、SiCOを含む各種材料の赤外線吸収特性を示す図である。また、図3は、SiCO/SiON積層膜の赤外線吸収特性を示す図であり、図4は、SiCO、SiCN、SiONを単層膜とした場合と積層膜とした場合の赤外線吸収特性を示す図である。図5乃至図11は、本実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を示す工程断面図であり、図12及び図13は、本実施例の熱型赤外線検出素子の他の構造を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、本実施例の熱型赤外線検出素子は、シリコンウェハなどの半導体ウェハ内部にCMOSプロセスにより読み出し回路2が作り込まれた回路基板1上に、Al、Ti、W、それらのシリサイド膜などからなる赤外線反射膜3が形成され、その上層にシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などからなる保護膜4が形成されている。また、空洞部12は、デバイス製造の途中段階ではパタ−ニングされた感光性ポリイミドで埋められており、デバイス製造の最終工程で酸素プラズマのアッシング等により除去される。この空洞部12を埋めている層は、一般的に犠牲層と呼ばれ、この犠牲層の上に受光部11が形成され、犠牲層の側面には、受光部11の端部に接続される梁10が形成されている。
【0027】
受光部11は、例えば、酸化バナジウムなどのボロメ−タ層6と8〜14μmの波長帯の赤外線を吸収すると共にボロメ−タ層6を保護する積層構造の赤外線吸収膜(ここでは、第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9)とで構成されている。また、梁10は、Tiなどの配線8と該配線8を保護する保護膜(ここでは受光部11と同様の第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9)とで構成され、回路基板1から空洞部12を介して受光部11を宙に浮かせるように支持し、熱分離構造を実現している。
【0028】
そして、8〜14μmの波長帯の大気の窓を通過して入射する赤外線は、第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9で吸収されて受光部11の温度を上昇させ、受光部11の温度上昇に伴ってボロメ−タ層6の抵抗が変化し、このボロメ−タ層6の抵抗変化が、電極部13、配線8、コンタクト部14を介して接続される読み出し回路2で検出される。
【0029】
なお、ボロメ−タ材料は抵抗温度係数(TCR)が大きい材料であればよく、酸化バナジウム以外に、NiMoCo酸化物、Ti金属薄膜、多結晶シリコン薄膜、非晶質シリコン薄膜、非晶質ゲルマニウム薄膜、非晶質シコンゲルマニウム薄膜、(La、Sr)MnO薄膜、YBaCuO薄膜などを用いることもできる。また、配線8の材料としては、熱伝導率が小さければよく、Ti以外にTi合金やNiCrでもよい。また、多結晶シリコンや非晶質シリコンをボロメ−タ材料に使用する場合には、配線8の代わりに、シリコンにボロンや砒素を高濃度に注入・拡散したものを使うこともできる。
【0030】
ここで、第1の赤外線吸収膜5や第2の赤外線吸収膜7、第3の赤外線吸収膜9の材料として、従来はSiOやSiN、SiC、SiON、SiCNなどが用いられていたが、図2に示すように、これらの材料は8〜14μmの波長帯の大気の窓の長波長側の吸収率が大きく、短波長側の吸収率が小さいため、これらの材料を組み合わせたとしても大気の窓を通過して入射する赤外線を効率的に吸収することができないという問題があった。そこで、本実施例では、本願発明者が新規に見出したSiCOが、9〜10μmで吸収率が最大になるという特徴を生かし、上記赤外線吸収膜のいずれかにSiCO膜を用いることによって入射赤外線を効率的に吸収できるようにしている。
【0031】
このSiCO膜は、RFスパッタ法やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成することができる。例えば、RFスパッタ法の場合は、SiCをターゲットとし、Ar及びOガスを用いて、ガス圧:0.01Torr程度、RFパワー:100W程度の成膜条件で容易に形成することができ、また、プラズマCVD法の場合は、SiH、C、NOを原料ガスとし、成膜温度:250℃程度、ガス圧:1Torr程度の成膜条件で容易に形成することができ、上記成膜条件では、シリコンと炭素と酸素とが1:1:1に結合した膜が形成されることを確認している。
【0032】
また、プラズマCVD法の場合は、原料ガスを変えれば異なる種類の膜を連続して成膜することができる。例えば、原料ガスとしてSiH、NH、NO、Nを用いて成膜した後、原料ガスをSiH、C、NOに変えて成膜すれば、12μm近傍で吸収率が最大となるSiON膜上に、9〜10μmで吸収率が最大となるSiCO膜を積層することができる。この積層膜の赤外線吸収特性を調べたところ、図3の実線に示すように、大気の窓の短波長側から長波長側の全体で吸収率が高いことを確認した。また、この積層膜の赤外線吸収特性は、各々の膜の赤外線吸収特性を重畳させた特性(図中の破線)とほぼ一致することから、各種の膜の赤外線吸収特性を調べておけば、積層膜がどのような赤外線吸収特性を示すかを推定することができる。
【0033】
なお、本発明では、受光部11を構成する赤外線吸収膜にSiCO膜が含まれていればよく、積層膜の組み合わせや積層順は任意に設定することができる。例えば、SiCO以外の材料としてSiO、SiN、SiC、SiON及びSiCNの5種類の材料がある場合は、積層膜の組み合わせとして、2層構造の場合は、(SiCOとSiO)、(SiCOとSiN)、(SiCOとSiC)、(SiCOとSiON)、(SiCOとSiCN)の5通り、3層構造の場合は、(SiCOとSiOとSiN)、(SiCOとSiOとSiC)、(SiCOとSiOとSiON)、(SiCOとSiOとSiCN)、(SiCOとSiNとSiC)、(SiCOとSiNとSiON)、(SiCOとSiNとSiCN)、(SiCOとSiCとSiON)、(SiCOとSiCとSiCN)、(SiCOとSiONとSiCN)の10通り(4層以上の場合も同様)が考えられる。また、3層以上の積層構造の場合に、2層以上に同じ種類の膜(例えば、SiN/SiCO/SiNなど)を用いることも可能であり、上記5種類以外の材料を用いることも可能である。
【0034】
上記いずれの組み合わせも赤外線吸収膜として利用可能であるが、更に、赤外線吸収特性や熱容量、屈折率、保護膜としての特性(例えば、吸湿性や機械的強度、膨張率など)、ボロメータ材料などの他の部材との相互作用、プロセスの適合性(例えば、他の部材とのエッチング選択性)、製造の容易性(例えば、成膜温度や原料ガスの種類)などを考慮すれば、より好ましい組み合わせを選択することができる。
【0035】
例えば、積層膜全体の熱容量を小さくし製造工程を簡単にすることを優先する場合は2層の積層膜とすればよく、また、入射赤外線の吸収効率を高めることを優先する場合は、受光部11のピーク波長が異なり、かつ、ピーク間の吸収率ができるだけ大きくなるような3層以上の積層膜とすればよい。例えば、SiCOとSiCNとSiONとを組み合わせた場合、赤外線吸収特性は図4に示すようになり、図3の組み合わせよりも更に8〜14μmの波長帯全体の吸収率を高めることができる。
【0036】
また、赤外線の吸収特性のみを考えた場合は積層順は任意であるが、例えば、SiCO膜やSiO膜は他の材料に比べて吸湿性が大きいことから、これらの膜は最上層(最表層)以外の層(図1の構造では第1の赤外線吸収膜5又は第2の赤外線吸収膜7)に用いた方が熱型赤外線検出素子の信頼性を高める上で有利である。
【0037】
また、積層膜を構成する各々の膜を厚くすると更に吸収率を大きくすることができるが、一方、受光部11の熱容量が大きくなってボロメータ膜6の温度変化が小さくなり、また、梁10が太くなって熱の流出が大きくなることから、各々の膜の厚みは吸収率や熱型赤外線検出素子に求められる性能などを総合的に勘案して設定する必要がある。従って、具体的な厚さは特に限定されないが、例えば、SiCO膜は吸収率のピーク値が大きいことから他の材料の膜よりも薄くすることができ、略0.05μm以上とすれば赤外線吸収膜として十分に機能することを確認している。
【0038】
次に、上記構造の熱型赤外線検出素子の製造方法について、一画素の構造を電流経路に沿って描いた図5乃至図11を参照して説明する。なお、以下に説明する構造や製造方法は例示であり、製造条件や膜厚などは適宜変更することができる。
【0039】
まず、図5に示すように、シリコンウェハなどの回路基板1内に、公知の手法を用いて信号読み出しのCMOS回路(読み出し回路2)などを形成する。次に、RFスパッタ法を用いて、回路基板1上にAl、Ti、Wなどの金属、又は、それらのシリサイド膜などを500nm程度の膜厚で堆積し、フォトリソグラフィ技術を用いて形成したレジストパターンをマスクとして部分的にエッチングし、各画素の受光部11に入射する赤外線を反射するための赤外線反射膜3を形成すると共に、一端がボロメータ層に接続される配線の他端と回路基板1内の読み出し回路2とを接続するためのコンタクト部14を形成する。そして、プラズマCVD法を用いて、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜などを堆積して、赤外線反射膜3及びコンタクト部14を保護するための保護膜4を形成する。
【0040】
次に、図6に示すように、回路基板1全面に感光性ポリイミド膜などの有機膜を塗布し、露光・現像により受光部11が形成される領域以外の感光性ポリイミド膜を除去した後、400℃程度の温度で焼締めを行い、マイクロブリッジ構造を形成するための犠牲層12aを形成する。この犠牲層12aの膜厚は、赤外線反射膜3と後述する受光部11とで光学的共振構造が形成されるように1.2μm程度の膜厚に設定される。
【0041】
次に、図7に示すように、RFスパッタ法又はプラズマCVD法を用いて、回路基板1全面にSiCO、SiO、SiN、SiC、SiON、SiCNなどの中から選択される材料(例えば、SiON)を300nm程度の膜厚で成膜し、犠牲層12aの上部及び側面に第1の赤外線吸収膜5を形成する。この第1の赤外線吸収膜5は上記の材料の中のどの材料を用いて形成してもよいが、後述する犠牲層12aのエッチングに対して耐性があり、その上に形成されるボロメータ層6を支持できる強度を有し、また、ボロメータ層6との密着性がよく相互作用のない材料を選択することが望ましい。なお、SiCOやSiC、SiCNなどのCを含む膜はRFスパッタ法又はプラズマCVD法のいずれかの方法で成膜することができ、SiO、SiN、SiONなどのCを含まない膜はプラズマCVD法で成膜することができる。
【0042】
次に、図8に示すように、第1の赤外線吸収膜5の上に、酸素雰囲気の反応性スパッタにより酸化バナジウムを堆積し、レジストパターンをマスクとして、フッ素系ガスを用いたプラズマエッチングにより酸化バナジウム薄膜を部分的にエッチングし、第1の赤外線吸収膜5上にボロメータ層6を形成する。なお、ここではボロメータ層6として酸化バナジウム薄膜を用いているが、上述した抵抗温度係数(TCR)の大きい他の材料を用いることもできる。
【0043】
次に、図9に示すように、RFスパッタ法又はプラズマCVD法を用いて、回路基板1全面にSiCO、SiO、SiN、SiC、SiON、SiCNなどの中から選択される材料(例えば、SiCO)を50nm程度の膜厚で成膜し、ボロメータ層6を保護する第2の赤外線吸収膜7を形成する。この第2の赤外線吸収膜7は上記の材料の中のどの材料を用いてもよいが、赤外線吸収特性を改善するために第1の赤外線吸収膜5とは異なる材料であり、かつ、ボロメータ層6との密着性がよく相互作用のない材料を選択することが望ましい。その後、レジストパターンをマスクとして、四フッ化炭素をエッチングガスとするプラズマエッチングを行い、コンタクト部14上の第1の赤外線吸収膜5及び第2の赤外線吸収膜7を除去すると共に、ボロメータ層6の端部の第2の赤外線吸収膜7を除去して電極部13を形成する。
【0044】
次に、図10に示すように、RFスパッタ法により、Ti、Ti合金、NiCr等の配線金属を成膜した後、レジストパターンをマスクとして、塩素と三塩化ホウ素の混合ガスを用いたプラズマエッチングにより配線金属を部分的にエッチングして配線8を形成する。この配線8は、ボロメータ層6の電極部13と回路基板1のコンタクト部14とを電気的に接続すると共に、受光部11を中空に保持する梁10としての役割を果たす。
【0045】
次に、図11に示すように、RFスパッタ法又はプラズマCVD法を用いて、回路基板1全面にSiCO、SiO、SiN、SiC、SiON、SiCNの中から選択される材料(例えば、SiCN)を300nm程度の膜厚で成膜し、ボロメータ層6及び配線8を保護する第3の赤外線吸収膜9を形成する。この第3の赤外線吸収膜9は上記の材料の中のどの材料を用いてもよいが、赤外線吸収特性を改善するために第1の赤外線吸収膜5及び第2の赤外線吸収膜7とは異なる材料であり、かつ、最表面に露出することから耐環境性のよい材料を選択することが望ましい。
【0046】
その後、レジストパターンをマスクとして、四フッ化炭素をエッチングガスとするプラズマエッチングを行い、第1の赤外線吸収膜5と第2の赤外線吸収膜7と第3の赤外線吸収膜9とを貫通するスルーホール(図示せず)を形成し、アッシング装置を用いて犠牲層12aを除去して、図1に示すように、受光部11が梁10でのみ回路基板1と接したマイクロブリッジ構造の熱型赤外線検出素子が形成される。
【0047】
このように、本実施例の熱型赤外線検出素子によれば、受光部11を構成する赤外線吸収膜(第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9)は、本願発明者が見出したSiCO膜と、SiO、SiN、SiC、SiON、SiCNなどの公知の材料の中から選択される材料で形成される膜とを組み合わせた積層膜で構成されているため、8〜14μmの波長帯全体の赤外線を効率的に吸収することができ、これにより、ボロメータ膜6の温度変化を大きくして熱型赤外線検出素子の感度を向上させることができる。
【0048】
なお、上記実施例では、赤外線吸収膜を第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9の3層構造としたが、本発明の赤外線吸収膜は、SiCO膜と他の材料の膜との積層膜であればよく、例えば、図12に示すように第1の赤外線吸収膜5と第2の赤外線吸収膜7の2層構造とし、一方をSiCO膜とする構成としてもよい。また、第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9以外の他の膜を追加する構成としてもよい。
【0049】
また、上記実施例では、第1の赤外線吸収膜5、第2の赤外線吸収膜7及び第3の赤外線吸収膜9を受光部11と梁10の双方に連続するように形成しているが、これらの赤外線吸収膜の全てが梁10に形成されている必要はなく、例えば、図13に示すように、第2の赤外線吸収膜7を受光部11上にのみに形成するなどの変更は可能である。このように、赤外線吸収膜の構成や形成領域を適宜設定することによって、受光部11の熱容量の増加や梁10からの熱の流出の増加などを抑えつつ、受光部11の赤外線吸収率を高めることもできる。
【0050】
また、上記実施例では、梁10によって受光部11が中空に支持される構造の熱型赤外線検出素子を示したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、受光部下層の基板をくり抜いて熱分離構造を実現した熱型赤外線検出素子などに対しても同様に適用することができる。また、図1や図12、図13の構造に加えて、受光部11の上部に余分な赤外線の入射を防止するための庇などを設けた熱型赤外線検出素子についても同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の構造は、熱型赤外線検出素子の受光部を構成する赤外線吸収膜に限らず、8〜14μmの波長帯の赤外線を吸収するための構造体全般に適用することができ、例えば、SiCO膜を含む構造体を赤外線遮光材料(例えば、車のガラスやサングラスに貼付するフィルム)として利用したり、バンドパスフィルタなどのフィルタ材料として利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の1画素の模式的な構造を電流経路に沿って描いた断面図である。
【図2】SiCOを含む、各種材料の赤外線吸収特性を示す図である。
【図3】SiCO/SiON積層膜の赤外線吸収特性を示す図である。
【図4】SiCO、SiCN、SiON、SiCO/SiCN/SiON積層膜の赤外線吸収特性を示す図である。
【図5】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図7】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図8】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図9】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図10】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図11】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の製造方法を模式的に示す工程断面図である。
【図12】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の他の構造を電流経路に沿って描いた断面図である。
【図13】本発明の一実施例に係る熱型赤外線検出素子の他の構造を電流経路に沿って描いた断面図である。
【図14】従来の各種材料の赤外線吸収特性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 回路基板
2 読み出し回路
3 赤外線反射膜
4 保護膜
5 第1の赤外線吸収膜
6 ボロメータ層
7 第2の赤外線吸収膜
8 配線
9 第3の赤外線吸収膜
10 梁
11 受光部
12 空洞部
12a 犠牲層
13 電極部
14 コンタクト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略8〜14μmの波長帯の赤外線を吸収するための構造体であって、
前記構造体は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜の中にSiCOを材料とする膜を含むことを特徴とする構造体。
【請求項2】
感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部が、一端が基板に固定される梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、
前記赤外線吸収膜は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜の中にSiCOを材料とする膜を含むことを特徴とする熱型赤外線検出素子。
【請求項3】
感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部が、一端が基板に固定される梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、
前記赤外線吸収膜は複数種類の膜からなり、前記複数種類の膜は、SiCOを材料とする膜と、SiO、SiN、SiC、SiON及びSiCNの中のいずれかを材料とする膜とで構成されていることを特徴とする熱型赤外線検出素子。
【請求項4】
感熱抵抗体と赤外線吸収膜とを備える受光部と、一端が前記感熱抵抗体に接続され他端が基板に形成された回路に接続される配線を含む梁とで構成され、前記受光部が前記梁によって中空に保持されてなる熱型赤外線検出素子において、
前記赤外線吸収膜は、前記感熱抵抗体の下層に形成される第1の赤外線吸収膜と、前記感熱抵抗体の上層に形成される第2の赤外線吸収膜と、前記第2の赤外線吸収膜に設けたスルーホールを介して前記感熱抵抗体に接続される前記配線の上層に形成される第3の赤外線吸収膜とを含む複数種類の膜からなり、
前記複数種類の膜は、SiCOを材料とする膜と、SiO、SiN、SiC、SiON及びSiCNの中のいずれかを材料とする膜とで構成されていることを特徴とする熱型赤外線検出素子。
【請求項5】
前記SiCOを材料とする膜は、最表層を除く層に形成されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一に記載の熱型赤外線検出素子。
【請求項6】
前記複数種類の膜の内、一部の膜は前記受光部のみに形成され、他の膜は前記受光部及び前記梁の双方に連続して形成されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一に記載の熱型赤外線検出素子。
【請求項7】
前記SiCOからなる膜は、略9〜10μmの波長帯において赤外線に対する吸収率が最大になることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一に記載の熱型赤外線検出素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−226890(P2006−226890A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42221(P2005−42221)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】