説明

熱延鋼板の製造方法及び溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】熱間圧延で鋼板表面に酸化スケール(黒皮スケール)の生成を抑制できる熱延鋼板の製造方法を提供する。また、Si含有熱延鋼板に対して、赤スケールに起因する表面欠陥の発生を防止して、良好な外観を有する熱延鋼板の製造方法を提供する。また、不めっきや赤スケールに起因する外観不良の発生を防止して美麗な外観を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造に適した熱延鋼板の製造方法を提供する。また、CGLの加熱炉の形式に係わらず、不めっきや赤スケールに起因する外観不良が発生せず、美麗な外観を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼スラブをスラブ加熱炉にて加熱するスラブ加熱工程、加熱した鋼スラブを粗圧延機及び仕上圧延機で熱間圧延してストリップとする工程、ストリップを巻取り機で巻き取る巻取り工程を行なう熱延鋼板の製造方法において、スラブ加熱工程〜巻取り工程までの工程の雰囲気を非酸化性雰囲気にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼スラブを熱間圧延する際に鋼表面に酸化スケールが生成するのを抑制し、良好な外観を有する熱延鋼板を製造する方法に関する。また、本発明は、溶融亜鉛めっきに適したSi含有熱延鋼板の製造方法に関する。また、本発明は、Si含有高強度鋼板を母材として溶融亜鉛めっき鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱延鋼板は、鋼スラブを熱間圧延し、巻取り機に巻き取られて製造される。巻取り機に巻き取られた熱延鋼板の表面には、スラブ加熱工程から巻取り工程までの熱間圧延工程で生成した酸化スケール(黒皮スケール)が存在する。
【0003】
熱延鋼板には、熱間圧延工程で生成した酸化スケールが存在する状態で出荷するもの(所謂「黒皮材」)と、酸化スケールを除去した状態で出荷するもの(所謂「白皮材」)がある。白皮材は、熱延鋼板を酸洗して表面の酸化スケールを除去した後出荷する。
【0004】
熱間圧延工程で酸化スケールの生成を抑制できれば、酸化スケールを除去するための酸洗工程が不要になるが、これまで、熱間圧延工程で酸化スケールの生成を抑制する技術は提案されていない。
【0005】
近年、地球環境の保全の見地から、自動車の燃費向上が重要な課題となっており、車体材料の高強度化により薄肉化を図り、車体そのものを軽量化しようとする動きが活発となってきている。鋼中にSiを添加すると、加工性に優れた高強度鋼板を製造出来る可能性がある。しかし、鋼中にSiを添加した鋼スラブを使用すると、熱間圧延工程で赤スケールと呼ばれる表面欠陥(以下「赤スケール疵」と記載する。)が多発する問題があり、熱延鋼板の外観品質を劣化させる。
【0006】
また、近年、自動車、家電、建材等の分野において、鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板、中でも防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。熱延鋼板は、溶融亜鉛めっき用途にも使用される。溶融亜鉛めっき用途に使用するときは、熱延鋼板を酸洗して表面の酸化スケールを除去した薄鋼板、または酸洗後さらに冷間圧延を施した薄鋼板をめっきの母材鋼板とする。この母材鋼板を、CGL(連続溶融亜鉛めっきライン)で、前処理工程にて脱脂して再結晶焼鈍し、その後、溶融亜鉛めっきを施し、またはさらに合金化処理を施すことで、溶融亜鉛めっき鋼板を製造する。
【0007】
Si含有高強度鋼板を溶融亜鉛めっきすると、赤スケール疵に起因する外観不良だけでなく、鋼板表層にSi酸化物が生成してめっき性を阻害する問題がある。
【0008】
CGLの加熱炉の形式には、DFF(直火型)、NOF(無酸化型)、オールラジアントチューブ型等があるが、近年、操業し易く、炉内ロールにピックアップが発生しにくいことからオールラジアントチューブ型CGLの建設が増加している。オールラジアントチューブ型CGLは、DFF(直火型)、NOF(無酸化型)と異なり、事前に酸化工程がないため、Si、Mn等の易酸化性元素を含む高強度鋼板は鋼板表層にSi酸化物、Mn酸化物が生成し、良好なめっき性を確保する上で不利である。
【0009】
めっきの母材鋼板にSi、Mn等の易酸化性元素を多量に含む高強度鋼板を使用して、オールラジアントチューブ型CGLで良好なめっき性を確保する技術として、特許文献1には、溶融亜鉛めっきままのめっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を製造する際に還元炉における加熱温度を雰囲気の水蒸気分圧との関係で規定するとともに、露点を上げ、酸素ポテンシャルを上げることで、Si、Mn等を内部酸化させる技術が開示され、特許文献2には、溶融亜鉛めっき後めっき層を合金化処理する溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を製造する際に還元炉における加熱温度を雰囲気の水蒸気分圧との関係で規定するとともに、露点を上げ、酸素ポテンシャルを上げることで、Si、Mn等を内部酸化させる技術が開示されている。しかしながら、これらの技術では、炉体の損傷が激しいため良好な外観を有するSi含有高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができない。
【0010】
また特許文献3には、還元帯の雰囲気として、酸化性ガスであるHO、O濃度の規定に加えて、さらにCO濃度を規定することで、酸素ポテンシャルを上げてSi、Mn等を内部酸化させて外部酸化を抑制し、めっき外観を改善する技術が開示されている。しかしながら、この技術には、COに起因する炉内汚染によるめっき外観の劣化や、鋼板表層への浸炭による機械特性の変化などの懸念がある。
【0011】
そのため、めっきの母材鋼板として、Si、Mn等の易酸化性元素を多量に含む高強度鋼板を使用した場合、オールラジアントチューブ型CGLでは、良好なめっき性を有する溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−323970号公報
【特許文献2】特開2004−315960号公報
【特許文献3】特開2006−233333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、熱間圧延工程で鋼板表面に酸化スケール(黒皮スケール)の生成を抑制できる熱延鋼板の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、Si含有熱延鋼板に対して、さらに、赤スケール疵の発生を防止して、美麗な外観を有する熱延鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、不めっきや赤スケール疵に起因する外観不良の発生を防止して美麗な外観を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造に適した熱延鋼板の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、CGLの加熱炉の形式に係わらず、不めっきや赤スケール疵に起因する外観不良が発生せず、美麗な外観を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の手段は、次のとおりである。
【0016】
[1]鋼スラブをスラブ加熱炉にて加熱するスラブ加熱工程、加熱した鋼スラブを粗圧延機及び仕上圧延機で熱間圧延してストリップとする工程、ストリップを巻取り機に巻き取る巻取り工程を行う熱延鋼板の製造方法において、スラブ加熱工程〜巻取り工程までの工程の雰囲気を非酸化性雰囲気にすることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【0017】
[2]前記非酸化性雰囲気はN雰囲気であることを特徴とする[1]に記載の熱延鋼板の製造方法。
【0018】
[3] 前記非酸化性雰囲気は、さらにHを1〜10vol%含み、かつ露点が−40℃〜+20℃であることを特徴とする[2]に記載の熱延鋼板の製造方法。
【0019】
[4]前記鋼スラブは、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.1〜1.8%、Mn:1.0〜2.7%、Al:0.01〜1.5%、P:0.005〜0.025%、S:0.01%以下を含むことを特徴とする[2]ま[3]に記載の熱延鋼板の製造方法。
【0020】
[5] 前記鋼スラブは、さらに、質量%で、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、B:0.001〜0.005%から選ばれる1種以上の元素を含むことを特徴とする[4]に記載の熱延鋼板の製造方法。
【0021】
[6] [4]又は[5]に記載の方法で製造した熱延鋼板を酸洗して酸化スケールを除去し、またはさらに冷間圧延し、その後、溶融亜鉛めっきすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0022】
[7] [6]に記載の方法で製造した溶融亜鉛めっき鋼板をさらに合金化処理することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スラブ加熱から熱間圧延して巻き取るまでの工程を非酸化性雰囲気に制御することで、鋼板表面の酸化スケール(黒皮スケール)の生成が抑制され、表面に酸化スケールのない熱延鋼板を製造できる。この熱延鋼板は、酸化スケールを除去する酸洗工程を行わなわずに「白皮材」の熱延鋼板として出荷できる。また、本発明によれば、酸洗工程の省略及び酸減りがなくなることによる歩留まり向上が可能になる。
【0024】
Si含有熱延鋼板では、Si、Mn、Al等の易酸化性元素が内部酸化されているため、赤スケール疵の発生、テンパーカラーの発生が防止され、美麗な外観の熱延鋼板を製造できる。このSi含有熱延鋼板を溶融亜鉛鋼板の母材鋼板とすると、CGLで焼鈍時にSi、Mn、Al等の易酸化性元素が選択外部酸化されることがないので、Si、Mn、Al等の易酸化性元素の選択外部酸化に起因する不めっきの発生を防止でき、また赤スケール疵に起因する外観不良も発生しないので、美麗な外観の溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】雰囲気制御設備を説明する概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0027】
図1は、本発明を実施する際に使用する雰囲気制御設備の実施形態を説明する概略斜視図である。図1において、1は鋼スラブ、2はスラブ加熱炉、3は粗圧延機、4は仕上圧延機、5は巻取り機、6は熱延鋼板(ストリップ)である。鋼スラブ1は、スラブ加熱炉2で所定温度に加熱され、粗圧延機3及び仕上圧延機4で熱間圧延されて所定厚みの熱延鋼板6となり、巻取り機5で巻き取られる。
【0028】
従来技術では、スラブ加熱炉〜巻取り機で巻き取られるまでの工程で、大気酸化によって鋼板表面に酸化スケールが不可避的に生成する。また、Si含有鋼スラブを使用すると、赤スケール疵が発生する問題がある。赤スケール疵とは、スラブ加熱時に何らかの原因で局所的にFe酸化スケールが生成したところと、地鉄界面にFeSiO(ファイアライト)が生成してFe酸化スケールの生成が抑制されたところが生じ、Fe酸化スケールが熱間圧延でのばされて筋状のスケール模様になった表面欠陥で、Si含有鋼板に特有の表面欠陥である。
【0029】
本発明では、図1に示すように、スラブ加熱炉2〜巻取り機5までの間は、囲いを設けて外気を遮断して酸素が混入しない設備とされ、この囲い内の雰囲気を鉄が酸化しない非酸化性雰囲気に制御する。
【0030】
鉄が酸化しない非酸化性雰囲気は、好ましくはN雰囲気である。He、Ar雰囲気でも構わないがコストアップとなるので好ましくない。
【0031】
さらに、N雰囲気にHを1〜10vol%含有させ、露点を−40℃〜+20℃の範囲内とすることが好ましい。Hを1vol%以上含有させ、かつ露点を+20℃以下とすることで、雰囲気に万が一外気が混入して鋼表面が酸化しても生成した鉄酸化物を還元できるため、テンパーカラーのない美麗な外観を得ることができる。露点は、20℃を超えると鉄が酸化し、−40℃未満は制御が困難でコストアップとなるので、−40℃〜20℃が好ましい。Hが1vol%未満では鋼表面に生成した鉄酸化物を還元できなくなる。H%は鉄酸化物還元の点からは高い方が有利であるが、10%を超えるとコストアップになる。従って、Hは1〜10vol%が好ましい。雰囲気の露点制御は、露点を上げる場合は加湿ガスを吹き込むことで、露点を下げる場合は水分を低減した乾燥Nを導入するか、雰囲気の水分を吸収除去することで可能である。
【0032】
雰囲気を上記のように制御する以外のスラブ加熱工程から巻取り工程まので製造条件は通常の方法でよい。
【0033】
なお、スラブ製造工程で形成される酸化スケールはスラブ加熱炉に装入する前に、研削等の手法で除去しておくことが必要である。
【0034】
本発明では、スラブ加熱工程から巻取り工程までの雰囲気を鉄が酸化しない非酸化性雰囲気に制御することで、鋼板表面の酸化スケールの生成が抑制され、巻取り機に巻き取られた鋼板表面には酸化スケールがないので、酸化スケールを除去するための酸洗を行うことなくそのまま白皮材として出荷できる表面状態が得られる。酸化スケールの生成を抑制する作用が奏される鋼スラブの成分組成は特に限定されない。
【0035】
鋼中にSiを添加したSi含有鋼は、スラブ加熱時に加熱雰囲気を非酸化性雰囲気に制御してFe酸化スケールが生成しないようにすると同時にスラブ表層に固溶するSiを内部酸化させることで、地鉄界面にFeSiO(ファイアライト)が生成しないため、熱延鋼板には赤スケール疵が発生しない。また、Mn、Alなどの易酸化性元素が添加されている場合は、スラブ加熱時に、Mn、Alなどの易酸化性元素が内部酸化される。
【0036】
Si、Mn、Alなどの易酸化性元素が内部酸化された熱延鋼板を酸洗し、または酸洗後さらに冷間圧延し、酸洗した熱延鋼板または冷間圧延した冷延鋼板をめっきの母材鋼板とすると、CGLの焼鈍過程で、内部酸化したSi、Mn、Al等の易酸化性元素が鋼板表面に移動することがないので、Si、Mn、Al等の易酸化性元素の外部酸化に起因するめっき不良が発生せず、また赤スケール疵に起因する外観不良も発生しない。
【0037】
赤スケール疵、テンパーカラーの発生を防止し、またCGLでSi等の易酸化性元素が外部酸化してめっき性を阻害するのを防止する点から、鋼中にSiを添加した鋼スラブは下記の成分組成が好ましい。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
【0038】
C:0.01〜0.15%
鋼の高強度化のために0.01%以上含有させる。0.15%を超えると溶接性が劣化するため、上限を0.15%に規定する。
【0039】
Si:0.1〜1.8%
Siは鋼の高強度化に有効な元素である。Si量が0.1%未満では、本発明によらずとも赤スケール疵が発生しない。Si量が1.8%を超えると、本発明法をもってしてもスラブ加熱工程でSiを十分に内部酸化できず、固溶Siが残存し、Siが表層で選択酸化してテンパーカラーが発生する。またCGLの焼鈍過程で残存した固溶Siが選択外部酸化してめっき不良となる。そのため1.8%以下に規定する。
【0040】
Mn:1.0〜2.7%
鋼を高強度化するにはMnを添加することがより効果的である。Mn量が1.0%未満では本発明によらずとも外観不良が発生しない。Mn量が2.7%を超えると、スラブ加熱工程でMnを十分に内部酸化できず、固溶Mnが残存し、Mnが表層で選択酸化してテンパーカラーが発生する。またCGLの焼鈍過程で残存した残存した固溶Mnが選択外部酸化してめっき不良となる。そのため2.7%以下に規定する。
【0041】
Al:0.01〜1.5%
下限は不可避的に混入する量である。Alは残留γ相安定化効果があり、機械特性向上のために添加することができる。そのためには、0.1%以上含有させることが好ましい。Al量が1.5%を超えると、スラブ加熱工程でAlを十分に内部酸化できず、固溶Alが残存し、Alが表層で選択酸化してテンパーカラーが発生する。またCGLの焼鈍過程で残存した固溶Alが選択外部酸化してめっき不良となる。そのため1.5%以下に規定する。
【0042】
P:0.005〜0.025%
Pは不可避的に含有される元素であり、一方セメンタイトの析出を遅延させ変態の進行を遅らせるため、0.005%以上含有させる。0.025%を超えると、溶接性が劣化するだけでなく、スラブ加熱工程で内部酸化しきれずにCGLの焼鈍過程で酸化して表面品質が劣化するため、0.025%以下に規定する。
【0043】
S:0.01%以下
Sは不可避的に含有される元素である。下限は規定しないが、多量に含有されると溶接性が劣化するだけでなく焼鈍時にSが表面に析出して外観が劣化するため0.01%以下に規定する。
【0044】
残部はFeおよび不可避的不純物である。なお、これらの成分元素に加えて、鋼板の機械特性を上昇させるために、必要であれば、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、B:0.001〜0.005%から選ばれる1種以上の元素を添加しても良い。なお、Cr、Mo、Nb、Cu、Niは単独もしくは2種以上の複合添加でSiの内部酸化を促進し、選択外部酸化を抑制する効果を有するため、これら元素は機械特性改善のためでなく、Siの内部酸化を促進させるために添加しても良い。
【0045】
上記元素を添加する場合の限定理由を説明する。
【0046】
Crは0.05%未満では焼き入れ性やSiの内部酸化を促進する効果が得られにくく、1.0%超えではかえってCrが選択外部酸化するため、めっき性が劣化する。そのため、Crは0.05〜1.0%に規定する。
【0047】
Moは0.05%未満では強度調整の効果やNb、Ni、Cuとの複合添加時におけるSiの内部酸化を促進する効果が得られにくく、1.0%超えではコストアップを招く。そのため、Moは0.05〜1.0%に規定する。
【0048】
Nbは0.005%未満では強度調整の効果やMoとの複合添加時におけるSiの内部酸化を促進する効果が得られにくく、0.05%超えではコストアップを招く。そのため、Nbは0.005〜0.05%に規定する。
【0049】
Tiは0.005%未満では強度調整の効果が得られにくく、0.05%超えではめっき性の劣化を招く。そのため、Tiは0.005〜0.05%に規定する。
【0050】
Cuは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やNiやMoとの複合添加時におけるSiの内部酸化を促進する効果が得られにくく、1.0%超えではコストアップを招く。そのため、Cuは0.05〜1.0%に規定する。
【0051】
Niは0.05%未満では残留γ相形成促進効果やCuやMoとの複合添加時におけるSiの内部酸化を促進する効果が得られにくく、1.0%超えではコストアップを招く。そのため、Niは0.05〜1.0%に規定する。
【0052】
Bは0.001%未満では焼き入れ促進効果が得られにくく、0.005%超えではめっき性が劣化する。そのため、Bは0.001〜0.005%に規定する。
但し言うまでもなく機械的特性改善上添加する必要がないと判断される場合は添加する必要はない。
【0053】
上記の成分組成を有する鋼スラブを用いて熱延鋼板を製造する際に、スラブ加熱工程から巻取り工程までを、外気を遮断して酸素が混入しない非酸化性の制御雰囲気下におくことで、鋼板表層のSi、Mn、Al等の易酸化性元素を内部酸化させることができる。すなわち、酸素が混入するとFeより酸化し易いSi、Mn、Alのような易酸化性元素は選択外部酸化されて内部酸化しないが、酸素が混入しない非酸化性雰囲気にすると、雰囲気中のHOから供給されたOが酸素供給源となり、Feが酸化せずに鋼中に固溶しているSi、Mn、Alのような易酸化性元素が内部酸化される。その結果、赤スケール疵、テンパーカラーの発生を防止できる。
【0054】
巻取り機に巻き取った熱延鋼板は、表面に熱間圧延工程の途中で生成した極薄い酸化皮膜が存在するので、めっきの母材鋼板とするときは、熱間圧延工程の後、通常の酸洗処理によって酸洗し、表面の酸化皮膜を完全に除去する。酸洗した熱延鋼板、または酸洗した熱延鋼板を常法で冷間圧延した冷延鋼板をめっきの母材鋼板とし、この母材鋼板をCGLに装入する。
【0055】
前記の母材鋼板(Si含有高強度鋼板)は、熱間圧延工程でSi、Mn、Alのような易酸化性元素が内部酸化されており、赤スケール疵もないので、CGLでは、加熱炉の形式に係わらず、DFF(直火型)、NOF(無酸化型)、オールラジアントチューブ型のいずれの加熱炉で加熱しても、内部酸化したSi、Mn、Al等の易酸化性元素の酸化物は鋼板表面に拡散しないので、良好なめっき性を確保でき、また赤スケール疵に起因する外観不良がなく、良好な外観が得られる。CGLの加熱炉の条件は通常の条件でよい。
【0056】
めっき付着量は片面あたり20〜120g/mが好ましい。20g/m未満は耐食性の確保が困難になり、120g/m超えは耐めっき剥離性が劣化する。また合金化溶融亜鉛めっき鋼板はめっき層のFe含有量は7〜15%が好ましい。7%未満は合金化ムラの発生、耐フレーキング性の劣化が起こり、15%超えは耐めっき剥離性が劣化する。
【0057】
溶融亜鉛めっき条件、合金化処理条件は通常の方法でよい。
【実施例1】
【0058】
表1に示す化学成分と残部がFe及び不可避的不純物からなる厚さ200mmの軟鋼スラブを準備し、下記の条件でスラブ加熱工程〜巻取り工程までを行う熱延鋼板製造のラボ試験を行った。すなわち、スラブを加熱炉で加熱した後、粗圧延機および仕上圧延機で圧延を行い厚さ3mmのストリップとし、巻取り機で巻き取った。加熱炉のスラブ加熱温度は1250℃、仕上圧延の仕上げ温度は900℃、巻取り温度は550℃とした。加熱炉〜巻取り機までの雰囲気を表2に記載の雰囲気に制御した。巻き取ったコイルを冷却した後巻き戻し、外観を評価した。外観は、色調を目視観察し、テンパーカラーの発生がなく、従来の白皮材と同等の外観を有するものを「白色」、従来の黒皮材と同等の黒色の外観をするものを「黒色」、テンパーカラーが発生し、薄褐色に変色した外観を有するものを「薄褐色」と評価した。評価が「白色」の熱延鋼板は、スケール除去の酸洗を行うことなく白皮材として出荷可能な外観である。評価が「薄褐色」、「黒色」の熱延鋼板は、白皮材として出荷するには、スケール除去の酸洗を行う必要がある外観である。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
結果を表2に示す。表2から明らかなように、雰囲気を本発明範囲内に制御した発明例の熱延鋼板は、そのまま白皮材として出荷できる美麗な外観が得られている。これに対して、雰囲気が本発明範囲外の比較例の熱延鋼板は、そのまま白皮材として出荷できる美麗な外観が得られていない。
【実施例2】
【0062】
Si含有鋼スラブを用いて熱延鋼板の製造実験を行った結果を説明する。
表3に示す化学成分と残部がFe及び不可避的不純物からなる厚さ300mmの鋼スラブを準備し、下記の条件でスラブ加熱工程〜巻取り工程までを行う熱延鋼板製造のラボ試験を行った。すなわち、スラブを加熱炉で加熱した後、粗圧延機及び仕上圧延機で圧延を行い厚さ3mmのストリップとし、巻取り機で巻き取った。加熱炉のスラブ加熱温度は1250℃、仕上圧延の仕上げ温度は900℃、巻取り温度は550℃とした。加熱炉〜巻取り機までの雰囲気を表4に記載の雰囲気に制御した。巻き取ったコイルを冷却した後巻き戻し、外観を目視観察し、色調と赤スケール疵の有無を評価した。色調は実施例1と同様の評価を行った。白皮材として出荷可能な外観であるか否かの判断基準も実施例1と同様である。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
結果を表4に示す。表4から明らかなように、本発明の請求項4又は請求項5で規定する鋼スラブを用いて本発明法で雰囲気制御をして熱延鋼板を製造した発明例の熱延鋼板は、そのまま白皮材として出荷できる程度の美麗な外観が得られており、赤スケール疵の発生もない。これに対して、雰囲気が本発明範囲外の比較例の熱延鋼板は、そのまま白皮材として出荷できる美麗な外観が得られていない。
【実施例3】
【0066】
実施例2で作成した熱延鋼板を酸洗して熱間圧延で生成した酸化皮膜を除去し、一部は酸洗ままの熱延鋼板とし、一部は酸洗後さらに圧下率50%で冷間圧延を施して冷延鋼板とした。前記で作製した熱延鋼板と冷延鋼板を、オールラジアント型CGLシミュレータで、850℃で焼鈍した後溶融亜鉛めっきし、一部はさらに合金化処理した。溶融亜鉛めっき後合金化処理を行う溶融亜鉛めっき鋼板(GA)は0.14%Al含有Zn浴、溶融亜鉛めっき後合金化処理を行わない溶融亜鉛めっき鋼板(GI)は0.18%Al含有Zn浴を用いた。めっき付着量はガスワイピングにより片面あたり50g/mに調節した。溶融亜鉛めっき方法、合金化処理方法は通常の方法で実施した。
【0067】
前記で製造しためっき鋼板の外観を観察し、赤スケール疵に起因する欠陥の発生有無、不めっきの有無を観察し、赤スケール疵に起因する欠陥、不めっきの少なくとも一方が認められるものを外観が不良、いずれも認められないものを外観が美麗と評価した。
【0068】
【表5】

【0069】
調査結果を表5に示す。表5から明らかなように、本発明の請求項4又は請求項5で規定する鋼スラブを用いて本発明法で製造された発明例の溶融亜鉛めっき鋼板は、Si、Mn、Al添加鋼であっても良好な外観のめっき鋼板が得られている。一方、本発明の請求項4又は請求項5で規定する成分組成範囲を外れる鋼スラブを使用して製造した溶融亜鉛めっき鋼板、または本発明法を外れる雰囲気条件で製造された溶融亜鉛めっき鋼板は、赤スケール疵または不めっきが発生し、外観が劣る。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、酸化スケールを除去する酸洗工程を行わなくても「白皮材」として出荷できる熱延鋼板を製造することができる。Si含有熱延鋼板では、Si、Mn、Al等の易酸化性元素が内部酸化されているため、赤スケール疵の発生、テンパーカラーの発生のない美麗な外観のSi含有熱延鋼板を製造することができる。このSi含有熱延鋼板を溶融亜鉛鋼板の母材鋼板とすると、CGLの焼鈍時にSi、Mn、Al等の易酸化性元素が選択外部酸化されることがなくなるので、Si、Mn、Al等の易酸化性元素の選択外部酸化に起因する不めっきの発生を防止でき、また赤スケール疵に起因する外観不良がなく、美麗な外観の溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 スラブ
2 スラブ加熱炉
3 粗圧延機
4 仕上げ圧延機
5 巻取り機
6 熱延鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼スラブをスラブ加熱炉にて加熱するスラブ加熱工程、加熱した鋼スラブを粗圧延機及び仕上圧延機で熱間圧延してストリップとする工程、ストリップを巻取り機に巻き取る巻取り工程を行う熱延鋼板の製造方法において、スラブ加熱工程〜巻取り工程までの工程の雰囲気を非酸化性雰囲気にすることを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記非酸化性雰囲気はN雰囲気であることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記非酸化性雰囲気は、さらにHを1〜10vol%含み、かつ露点が−40℃〜+20℃であることを特徴とする請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記鋼スラブは、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.1〜1.8%、Mn:1.0〜2.7%、Al:0.01〜1.5%、P:0.005〜0.025%、S:0.01%以下を含むことを特徴とする請求項2または3に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記鋼スラブは、さらに、質量%で、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜1.0%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.05%、Cu:0.05〜1.0%、Ni:0.05〜1.0%、B:0.001〜0.005%から選ばれる1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項4に記載の熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法で製造した熱延鋼板を酸洗して酸化スケールを除去し、またはさらに冷間圧延し、その後、溶融亜鉛めっきすることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で製造した溶融亜鉛めっき鋼板をさらに合金化処理することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224584(P2011−224584A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94621(P2010−94621)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】