説明

熱画像センサ

【課題】スタンドアロンの状態で所望の熱画像データのみを取得するとともに、センサ本体に熱画像データを保存する熱画像センサを提供する。
【解決手段】監視エリア内の赤外線量を赤外線検知部11で検知し、この検知した赤外線量に基づく赤外線検知情報と記憶部13に記憶される異常識別用閾値とを比較して監視エリア内において異常が発生したか否かを判別し、異常が発生したと判別すると、このときの赤外線検知情報と画像処理情報とに基づき作成された熱画像データを記憶部13の熱画像データ保存領域13aに保存する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温体から放射される赤外線を検知する赤外線素子を用いて熱画像データを取得する熱画像センサに関し、特にスタンドアロンの状態でも所望の熱画像データのみを取得してセンサ本体に保存できる熱画像センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体をはじめ検知対象となる様々な温体(物体や領域)は、その温度に応じた赤外線を放射しており、この放射される赤外線の熱エネルギーを電気エネルギーに変換するゼーベック効果を利用した赤外線検知素子(サーモパイル、焦電素子、ボロメータなど)を搭載した放射温度計などの赤外線センサが知られている。この赤外線センサは、赤外線センサの各画素で温体からの赤外線を受光して画素の温度変化を生じさせ、その温度変化による素子の電気的な性質の変化を読み出している。
【0003】
そして、近年ではこの種の赤外線センサを、例えば不審者の侵入を検知する人体検知センサ、火災から放射される赤外線を検知する炎検知センサ、工場内のボイラー室などで発生する機器の過熱や生産ライン上での異常温度等を検知する温度監視センサとして採用されている。
なお、この種の赤外線センサとしては、例えば下記特許文献1に開示されるような赤外線撮像装置が公知である。
【0004】
しかしながら、この種の赤外線センサを用いた監視システムでは、赤外線検知素子が一画素であったため、検知対象となる箇所の温度変化を点監視で行っていた。このため、ある一定の領域内全てを面監視する場合、複数台の赤外線センサを設置する必要があり、システム導入費用が嵩むとともに、各赤外線センサの管理業務が煩雑であった。
【0005】
そこで、複数箇所から放射する赤外線を検知するための装置として、赤外線センサを多画素化し、各画素で温体からの赤外線を受光して画素の温度変化を生じさせ、温体における局所的な温度差或いは温度勾配に比例させながら、その温度変化による温度分布を示す像として熱画像を得る熱画像センサが開発されている。
なお、この種の熱画像センサとしては、例えば下記特許文献2に開示されるものが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−273237号公報
【特許文献2】特許第3882640号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献2のような所定領域内を面監視可能な熱画像センサを用いた監視システムを採用することで、所望の領域全体を監視することできる。しかしながら、監視エリア内で火災などの異常が発生した場合、熱画像センサと接続される管理装置(PCなどの通信端末)との間の配線が断線したり接続不良が生じることがある。そのため、異常時の熱画像データが熱画像センサから出力されず、管理者が火災現場の熱画像データを確認することができなかった。
【0008】
従って、早急に出火場所や出火原因の特定が行えるよう、所望の領域全体の赤外線監視が行え、且つ出火時における火災現場の熱画像の保存が可能な熱画像センサの開発が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、スタンドアロンの状態であっても所望の熱画像データをセンサ本体に保存することができる熱画像センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の熱画像センサは、複数の画素を有し、監視エリア内から放射された赤外線量を検知する赤外線検知部と、
異常発生時に取得される熱画像データを保存する熱画像データ保存領域を有し、該赤外線検知部で検知した赤外線量に基づく赤外線検知情報が異常であるか否かの判別する異常識別用閾値を記憶する記憶部と、
前記赤外線検知情報と前記異常識別用閾値とを比較し、前記赤外線検知情報が異常であると判別した場合に当該赤外線検知情報に基づく熱画像データを作成し、前記記憶部の熱画像データ保存領域に保存させる処理制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の熱画像センサにおいて、さらに、前記熱画像データや前記処理制御部において判別された前記赤外線検知情報の異常の有無を示す判定信号を出力する入出力部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱画像センサによれば、火災などの異常が発生した場合であっても、スタンドアロンの状態でセンサ本体に異常発生時の熱画像データを保存することができるため、管理装置との間で接続される配線が断線したり接続不良が生じたとしても、異常発生後に異常発生時の状況確認をすることができる。
【0013】
また、取得した熱画像データの異常判別したときの判定結果を示す判定信号を外部出力することができるため、オペレータは即座に検知対象エリア内における異常を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る熱画像センサを用いた監視システムの採用例を示す概念図である。
【図2】同熱画像センサの構成を示す機能ブロック図である。
【図3】同熱画像センサの処理動作を説明するためのフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明に係る熱画像センサの構成について、図1、2を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、本例の熱画像センサ1を、図1に示すように例えば工場内のボイラー室、冷凍食品や熱処理を行う各種製品の製造ラインなどにおいて、所定領域内に設定温度以上(又は以下)の温体が侵入若しくは発生したか否かを監視する監視システムに採用した例で説明する。
【0017】
図2に示すように、熱画像センサ1は、赤外線検知部11、A/D変換部12、記憶部13、処理制御部14、入出力部15を備えて構成される。
【0018】
赤外線検知部11は、例えば複数の画素を有するサーモパイル素子などの多画素型熱型赤外線センサ構成され、各画素に入射する入射赤外線を画素毎に光電変換し、その電気信号(アナログ信号)を画素毎に出力している。
【0019】
A/D変換部12は、赤外線検知部11からの画素値(アナログ信号)をA/D変換してディジタル信号化した後、処理制御部14に出力している。
【0020】
記憶部13は、例えば磁気的、光学的記憶媒体やROM、RAMなどの半導体メモリからなる記憶メモリで構成される。記憶部13は、赤外線検知部11で検知した赤外線量に基づくディジタル信号を赤外線検知情報として画素毎に記憶している。また、記憶部13は、監視エリア内での温度変化に異常が発生したか否かを判別するための閾値となる異常識別用閾値を記憶している。
【0021】
さらに、記憶部13は、センサ本体の設置状態情報(例えば天井や床などの設置場所や天地位置など)、異常発生時に取得される熱画像データを作成するための処理情報である画像処理情報(例えば、補正が必要な画素の特定や周囲温度や各画素の赤外線量に応じた補正量などの画素補正処理情報など)の他、熱画像センサ1を構成する各部の各種制御データなどを記憶している。
【0022】
また、記憶部13は、赤外線検知部11で検知した赤外線量が異常識別用閾値を超えたときの各画素の赤外線検知情報に基づき作成された熱画像データを保存するための熱画像データ保存領域13aを有し、異常発生時に処理制御部14から出力される熱画像データを保存している。また、最新の熱画像を保存する際に保存領域の容量が不足していた場合、最も古いデータを削除したり、一定期間が経過すると最も古いデータから順次削除されるよう予め設定することもできる。
【0023】
なお、異常識別用閾値は、例えば使用環境、監視エリア内の検知範囲、検知対象となる異常と判断する状態の種類などに応じて設定される各種設定内容や、特殊な熱量変化に対応した多段階の閾値設定などに応じて最適な値を設定することができる。
【0024】
具体的には、監視エリア内における上限温度値/下限温度値、平均温度値の監視、温度幅(上昇/下降率)の変化の監視、設定時間以内/以上の温度変化の監視、所定温度のエリアの拡大/縮小の監視、温度幅変化の拡大/縮小の監視、所定数以上の極大点の出現/減少の監視、温度ムラの監視、エリア間の(最大、最小、平均)の差分などを適宜設定することができる。また、このような警報設定条件を任意に組み合わせて異常識別用閾値を設定することで、本例の火災検知以外に例えば配電盤内の構成部品(ブレーカ、端子部、リレーなど)、変圧器、送風機、リフロー炉、排気ダクトにおける異常発熱の監視、暗闇での熱源(人体や動物)の監視、パネルヒータなどの品質検査に用いることができる。
【0025】
処理制御部14は、例えばCPUやROM、RAMなどで構成されるマイクロコンピュータで構成され、判別処理手段14a、画像処理手段14bを備えている。
【0026】
判別処理手段14aは、記憶部13に記憶される画素毎の赤外線検知情報と異常識別用閾値とを比較し、赤外線検知情報が異常識別用閾値を越えた場合にのみ、異常状態が発生したと判別する。そして、判別処理手段14aは、異常発生にしたことを外部に通知するため、例えばEthernet(登録商標)やインターネットなどの通信ネットワーク15aを介して接続される管理装置(パソコンなど)に対して異常発生信号を出力するとともに、必要に応じて外部に異常発生の有無を示す接点信号である判定信号を出力する。また、判別処理手段14aは、異常発生時における監視エリア内の熱画像を記憶部13に保存するためのトリガとして、画像処理手段14bに異常発生信号を出力している。
【0027】
画像処理手段14bは、判別処理手段14aから異常発生信号を入力すると、記憶部13に記憶されたく画像処理情報と各画素が検知した赤外線量に応じた赤外線検知情報とに基づき画像処理を行って監視エリア内の熱画像データを作成し、記憶部13に出力している。
【0028】
入出力部15は、判別処理手段14aにおいて異常判別された際の判別の有無を示す判別信号(接点信号)の出力を行う接点I/Fや熱画像データの出力や外部からの各種設定内容の入力を行うための通信I/Fで構成される。
【0029】
次に、上述した熱画像センサ1における処理動作について、図3を参照しながら説明する。ここでは、本例の熱画像センサ1を用いた監視システムを工場内におけるボイラー室に採用し、エリア内の異常状態である火災を検知した際の熱画像データを保存する際の動作例について説明する。
【0030】
熱画像センサ1は、ボイラー室における所定エリアを監視するように設置されており、まず監視エリア内の赤外線量を検知すると(ST1)、赤外線検知部11の各画素で検知した赤外線量と記憶部13に記憶された画像処理情報とに基づき熱画像データを作成する(ST2)。次に、作成した熱画像データにおける赤外線量が異常識別用閾値を越えたか否かを判別する(ST3)。
【0031】
このとき、作成した熱画像データにおける赤外線量が異常識別用閾値を越えた場合は(ST3−Yes)、監視エリア内に異常状態である火災が発生したと判別し、この作成した熱画像データを記憶部13に出力する(ST4)。そして、熱画像データに保存日時を付した状態で保存した後(ST5)、再度ST1へ戻る。
一方、検知した赤外線量が異常識別用閾値を越えなかった場合は(ST3−No)、監視エリア内が正常であると判別し、再度ST1へ戻る。
【0032】
なお、ST4において、熱画像データを記憶する保存容量が不足している場合は、最も古い熱画像データを削除して保存処理を行うように設定することもできる。また、保存した熱画像データを外部出力する場合は、例えば熱画像センサ1とネットワーク接続される管理装置(PC)からのデータ要求に応じて熱画像データを出力する設定、所定間隔で定期的に出力する設定など、使用環境に応じて任意に設定することができる。
【0033】
このように、上述した熱画像センサ1は、監視エリア内の赤外線量を検知し、この検知した赤外線量に基づく赤外線検知情報と記憶部に記憶される異常識別用閾値とを比較して監視エリア内において異常状態が発生したか否かを判別し、異常状態が発生したと判別すると、このときの赤外線検知情報と画像処理情報とに基づき作成された熱画像データをセンサ本体に具備する記憶部13に保存する。
【0034】
これにより、火災などの異常状態が発生し、熱画像センサ1と接続される管理装置との間の配線が断線したり接続不良が生じた場合であっても、熱画像異常発生時の熱画像データを保存することができるので、異常発生後であっても異常発生時の状況を確認することができる。
【0035】
ところで、上述した形態では、熱画像センサ1と通信ネットワークを介して管理装置に対して熱画像データを出力する構成としているが、この構成に加え、例えば警報ブザー16や警報ランプ17など警報手段を用いて異常状態が発生したことを外部に発報する構成とすることもできる。この場合、熱画像センサ1が異常状態を検知した際の異常発生信号をトリガとし、警報手段が異常発生信号を入力したときに発報することで、例えば火災発生時に工場内の作業者や管理者が異常状態を即座に把握して適切に対処することができる。
【0036】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1…熱画像センサ
11…赤外線検知部
12…A/D変換部
13…記憶部
13a…熱画像データ保存領域
14…処理制御部
14a…判別処理手段
14b…画像処理手段
15…入出力部
15a…通信ネットワーク
16…警報ブザー
17…警報ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素を有し、監視エリア内から放射された赤外線量を検知する赤外線検知部と、
異常発生時に取得される熱画像データを保存する熱画像データ保存領域を有し、該赤外線検知部で検知した赤外線量に基づく赤外線検知情報が異常であるか否かの判別する異常識別用閾値を記憶する記憶部と、
前記赤外線検知情報と前記異常識別用閾値とを比較し、前記赤外線検知情報が異常であると判別した場合に当該赤外線検知情報に基づく熱画像データを作成し、前記記憶部の熱画像データ保存領域に保存させる処理制御部と、
を備えたことを特徴とする熱画像センサ。
【請求項2】
さらに、前記熱画像データや前記処理制御部において判別された前記赤外線検知情報の異常の有無を示す判定信号を出力する入出力部を備えたことを特徴とする請求項1記載の熱画像センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−185704(P2010−185704A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28660(P2009−28660)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(597081592)株式会社山形チノー (10)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】