説明

燃料噴射制御装置

【課題】FCCB補正を行った気筒において異常音が発生しないようにすることができる燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】FCCB補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、当該気筒において車両の減速時に当該FCCB補正量を使用するエンジン回転数の領域にエンジン回転数が突入したとき、FCCB補正量が所定量以上となった気筒での発生トルクを抑制させるべく噴射時期を遅らせる。これにより、当該気筒では燃焼のスピードが遅れるのでエンジンの発生トルクが抑制されるため、当該気筒でのエンジンの回転力が低下する。したがって、当該気筒において異常音を発生させてしまうことを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気筒間噴射量補正機能を備えた燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料噴射ポンプ内で高圧に圧縮された燃料を電磁スピル弁による制御によりディーゼルエンジンの燃料噴射ノズルに供給するように制御を行う燃料噴射制御装置が、例えば特許文献1で提案されている。
【0003】
上記のような燃料噴射制御装置では、一般的に、アイドル運転領域付近の各気筒におけるエンジン回転数の変動を検出し、各気筒の噴射量ばらつきを低減させ、エンジン振動を低減させるための気筒間噴射量補正(以下、FCCB補正という。Fuel Control Cylinder Balance;FCCB)による制御が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3780549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料噴射制御装置によりFCCB補正が行われると、以下のような状況において、エンジンに異常音(ノッキング音)が発生してしまうという問題がある。
【0006】
燃料噴射制御装置は、インジェクタの噴射量がデポジットの付着や摺動不良等の外乱により低下した場合に、FCCB補正により噴射量を増加させるように制御を行う。ここで、燃料噴射制御装置は、アイドル運転領域付近での指令レール圧時には、1気筒のみインジェクタの噴射量が低下すると、その領域でFCCB学習を行ってその学習値を記憶することとなる。しかし、噴射量が低下したインジェクタは、指令レール圧を上昇させると噴射量に異常がなく、正常量の噴射が可能になるものがある。
【0007】
そして、車両が減速するに伴ってエンジン回転数が下降し、エンジン回転数がFCCB補正制御を行うエンジン回転数領域に突入した場合、すなわちアイドル状態では、FCCB補正が行われた気筒では、インジェクタの噴射量がFCCB補正量の分だけ増加する。このため、当該気筒のインジェクタから燃料噴射されると、FCCB補正量の分だけ燃焼が早まって爆発力が強くなるので、当該気筒での発生トルクが抑制されないために異常音が発生してしまう。
【0008】
本発明は上記点に鑑み、FCCB補正を行った気筒においてアイドル時に異常音が発生しないようにすることができる燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、高圧燃料を蓄えるコモンレール(20)内の高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する複数のインジェクタ(30)を有する蓄圧式燃料噴射システムに適用され、各気筒におけるエンジン回転数の変動を検出し、当該変動に基づいて複数のインジェクタ(30)の噴射量ばらつきを低減させるための気筒間噴射量補正量を気筒毎に学習し、学習した当該気筒間噴射量補正量に基づいて複数のインジェクタ(30)それぞれの燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置であって、各気筒のうち学習により気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、車両の減速時に当該気筒間噴射量補正量を使用するエンジン回転数領域にエンジン回転数が突入したとき、気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒での発生トルクを抑制させる抑制手段(320、330)を備えていることを特徴とする。
【0010】
これによると、エンジン回転数が気筒間噴射量補正量を使用するエンジン回転数領域に突入したとしても、気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒では発生トルクが抑制されるので、当該気筒でのエンジンの回転力が低下する。したがって、当該気筒において異常音を発生させてしまうことを防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、抑制手段(320)は、気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒に対する燃料の噴射時期を指令時期より遅らせることにより発生トルクを抑制させることを特徴とする。
【0012】
これによると、当該気筒における燃焼が遅らされるので当該気筒での発生トルクが抑制され、当該気筒において異常音が発生しないようにすることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、抑制手段(330)は、気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒に対する噴射量指令値への気筒間噴射量補正量の反映を禁止することにより発生トルクを抑制させることを特徴とする。
【0014】
これによると、当該気筒では噴射量指令値に気筒間噴射量補正量が加算されないために燃料噴射されたとしても当該気筒における燃焼が遅らされるので、当該気筒での発生トルクが抑制され、当該気筒において異常音が発生しないようにすることができる。
【0015】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンECUが適用された蓄圧式燃料噴射システムの全体構成図である。
【図2】エンジンECUの制御の経緯およびエンジンの状態を示した図である。
【図3】FCCB補正量が所定量範囲を超えた気筒に対して行われる制御の内容を示した図である。
【図4】本発明の第2実施形態において、FCCB補正量が所定量範囲を超えた気筒に対して行われる制御の内容を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態で示される蓄圧式燃料噴射システムは、高圧燃料を蓄えるコモンレール内の高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する複数のインジェクタを有するものであり、例えば4気筒のディーゼルエンジンに適用される。
【0019】
図1は、燃料噴射制御装置としてのエンジンECUが適用された蓄圧式燃料噴射システムの全体構成図である。この図に示されるように、蓄圧式燃料噴射システム1は、燃料供給ポンプ10と、コモンレール20と、インジェクタ30と、エンジンECU40と、EDU(Electronic Driving Unit;EDU)50とを備えて構成されている。
【0020】
燃料供給ポンプ10は、コモンレール20に高圧燃料を圧送するものであり、フィードポンプ11と、吸入調量弁12と、プランジャ13と、逆止弁14とを備えて構成されている。この燃料供給ポンプ10では、フィードポンプ11により燃料供給ポンプ10と燃料タンク60とを繋ぐ吸入配管61を介して燃料タンク60から燃料が燃料供給ポンプ10内に汲み上げられる。当該燃料は、吸入調量弁12の流量の制御により、図示しないポンプ室に吸入される。また、エンジンによって回転するカムの回転に応じてプランジャ13がポンプシリンダ内を摺動することでポンプ室内の燃料が加圧される。そして、加圧された燃料圧力が逆止弁14の開弁圧を超えると、加圧された燃料が燃料供給ポンプ10とコモンレール20とを繋ぐ供給配管62を介してコモンレール20に供給される。なお、吸入調量弁12による流量制御はエンジンECU40から入力される制御信号に従って行われる。
【0021】
燃料供給ポンプ10内の過剰な燃料は燃料配管63を介して燃料タンク60に戻される。また、吸入配管61には、燃料タンク60より吸入された燃料を濾過して異物を除去するフェールフィルタ64が配置されている。
【0022】
なお、燃料供給ポンプ10には燃料温度を検出するための温度センサ80が取り付けられている。温度センサ80で検出された燃料温度に係る温度信号はエンジンECU40に入力され、エンジン制御に利用される。
【0023】
コモンレール20は、燃料供給ポンプ10より供給された高圧燃料を目標レール圧に保持して蓄える畜圧手段である。この目標レール圧は、例えばエンジン回転数等のディーゼルエンジンの運転状態に基づいて、エンジンECU40によって決定される。
【0024】
また、コモンレール20には、コモンレール20内の燃料圧力があらかじめ定められた上限値を超えたときに開弁してコモンレール20の燃料圧力を逃がすプレッシャリミッタ21が取り付けられている。プレッシャリミッタ21より流出した燃料は、燃料配管63を介して燃料タンク60に戻される。
【0025】
さらに、コモンレール20にはレール圧センサ22が取り付けられており、コモンレール20内の燃料圧力に応じた圧力信号がエンジンECU40に入力されるようになっている。
【0026】
インジェクタ30は、コモンレール20に蓄圧された燃料を気筒内に噴射するものであり、エンジンの気筒数に応じて各気筒に備え付けられている。また、インジェクタ30は燃料噴射弁を有し、EDU50により燃料噴射弁が開閉されることで気筒内に燃料を噴射する。このため、インジェクタ30は、コモンレール20とインジェクタ30とを繋ぐ各高圧配管65を介して各インジェクタ30に高圧燃料が供給されるようになっている。なお、図1では1気筒のみを示している。
【0027】
すなわち、各インジェクタ30では、高圧配管65を介してコモンレール20から燃料入口部31に高圧燃料が導入され、燃料出口部32から燃料配管63を介してインジェクタ30内部の燃料が燃料タンク60に向けて流出するようになっている。
【0028】
エンジンECU40は、レール圧センサ22の圧力信号、エンジン回転数を検出するためのエンジン回転数センサ70により検出されたパルス信号、および温度センサ80の温度信号等の各種センサの信号を入力し、これらの信号により推定されるエンジン運転状態に基づいてインジェクタ30からの燃料噴射を制御する。このため、エンジンECU40は、図示しないCPU、ROM、EEPROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを備え、マイクロコンピュータに記憶したプログラムに従って演算処理を行う。
【0029】
ここで、エンジン回転数センサ70は、エンジンのクランクシャフトの回転角度を検出するいわゆるクランク角センサである。すなわち、エンジン回転数センサ70は、エンジンのクランクシャフトに取り付けられたリング上の突起の通過を検知し、該突起の通過に伴うパルス信号を出力するものである。したがって、エンジンECU40は、エンジン回転数センサ70から入力されるパルス信号のパルス間隔を計測することによってエンジン回転数を算出する。
【0030】
エンジンECU40が行う制御としては、エンジンの状態や運転状況に基づいて噴射量の制御を行う燃料噴射量制御、走行状態に応じた噴射時期となるように制御を行う燃料噴射時期制御、メイン噴射の前に行う微小量の制御を行う燃料噴射率制御、エンジン回転数に応じて噴射圧力が最適化・高圧化となるように制御を行う燃料噴射圧力制御等がある。このうち、燃料噴射量制御、燃料噴射時期制御、燃料噴射率制御はインジェクタ30に対する制御であり、燃料噴射圧力制御は燃料供給ポンプ10に対する制御である。
【0031】
エンジンECU40は上記各制御を行うために、上記のエンジン回転数センサ70、温度センサ80、レール圧センサ22の他、図示しない気筒判別センサ、アクセル開度センサ、水温センサ等の各種のセンサから信号をそれぞれ入力している。気筒判別センサは、エンジンのカム軸の回転角を検出して燃料噴射する気筒を判別するセンサであり、アクセル開度センサはアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するセンサであり、水温センサはエンジン冷却水の温度を検出するセンサである。エンジンECU40はこれらのセンサの信号を用いて上記制御を行う。
【0032】
そして、エンジンECU40は、上記各制御を行うに際し、各気筒における1回の燃料噴射を例えばパイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフター噴射、ポスト噴射の順に5回の噴射に分ける複数噴射の制御を行っている。このような複数噴射の場合、パイロット噴射およびプレ噴射では燃料噴射されても燃焼は起こらず、メイン噴射し始めるときに気筒内で爆発的初期燃焼が起こる。
【0033】
なお、パイロット噴射は、メイン噴射の前に行われる噴射であり、爆発が起こる前に空気と燃料とを混合させることにより燃焼騒音を低減させる役割を果たす噴射である。したがって、パイロット噴射の量が多いと燃焼が起こって爆発音が発生する。
【0034】
エンジンECU40は、通常、エンジンの運転状態から以下のように燃料噴射量制御を気筒毎に行う。まず、エンジンECU40は、エンジン回転数センサ70から入力したパルス信号から求めたエンジン回転数と、アクセル開度センサから入力したアクセル開度と、水温センサから入力したエンジン冷却水の温度と、温度センサ80から入力した燃料の温度とを用いて基本制御噴射量を算出する。この基本制御噴射量がエンジンの運転状態から必要とされる噴射量(要求噴射量)となる。続いて、エンジンECU40は、基本制御噴射量を達成するために、基本制御噴射量とレール圧センサ22から入力したレール圧とから噴射量指令値を算出し、この算出された噴射量指令値に応じたパルス状の駆動信号をEDU50に出力する。EDU50が各インジェクタ30の燃料噴射弁を開閉すると、各インジェクタ30から燃料が噴射され、エンジンが動く。
【0035】
ここで、「基本制御噴射量」というときは、1回の爆発行程に用いられる燃料量である。したがって、複数噴射の場合にはパイロット噴射等の各噴射で用いられる燃料量の合計が基本制御噴射量に相当する。言い換えると、算出された基本制御噴射量がパイロット噴射量等に振り分けられる。
【0036】
また、エンジンECU40は、燃料噴射のタイミングを示す指令時期に従って、噴射量指令値に応じた駆動信号をEDU50に出力する。ここで、指令時期に従って気筒で噴射が行われるタイミングが噴射時期である。すなわち、指令時期は予め決められた噴射時期であり、噴射時期は上記各制御に応じて指令時期に対して早くまたは遅くされる。
【0037】
さらに、エンジンECU40は、上記の燃料噴射量制御において、エンジンの気筒毎の回転速度変動を検出し、全気筒の回転速度変動の平均値と比較し、その比較結果に応じて気筒間の回転速度変動が平滑化するように、気筒毎への噴射量補正量を学習する気筒間噴射量補正(FCCB補正)を行う。気筒間噴射量補正量(FCCB補正量)は、噴射量を増やす補正量と噴射量を減らす噴射量とがあり、上記の噴射量指令値に加算される。以下では、基本制御噴射量にFCCB補正量等が加算された最終的な噴射量を単に噴射量という。
【0038】
EDU50は、エンジンECU40から入力される駆動信号に基づいて、インジェクタ30の燃料噴射弁を開閉させる駆動装置である。以上が、本実施形態に係る蓄圧式燃料噴射システム1の全体構成である。
【0039】
次に、上記の蓄圧式燃料噴射システム1において、エンジンECU40がFCCB補正を行う噴射量制御について、図2および図3を参照して説明する。
【0040】
図2は、エンジンECU40の制御の経緯およびエンジンの状態を示した図である。図2で示される各状態は、車両のアイドル時の状態である。
【0041】
まず、制御100に示されるように、エンジンECU40により気筒間のエンジン回転変動量にてFCCB補正量の計算が行われる。このFCCB補正量の計算は、エンジン回転速度が安定したアイドリング状態で実行される。
【0042】
具体的には、エンジンECU40がエンジン回転数センサ70から入力されたパルス信号のパルス間隔を求め、エンジンの各気筒の燃焼毎の瞬時回転速度を算出する。この後、気筒毎の最高回転数と最低回転数との差分を算出する。これにより、エンジンの気筒毎の回転速度変動の検出値を算出する。そして、エンジンの全気筒の回転速度変動の平均値を算出し、気筒毎の回転速度変動の検出値と全気筒の回転速度変動の平均値から気筒毎の回転速度変動の偏差を算出する。この後、エンジンの各気筒間の回転速度変動が平滑化するように、エンジンの気筒毎への燃料噴射量を補正する。この補正量はエンジンECU40に学習値として記憶され、FCCB補正毎に更新されていく。
【0043】
上記の制御100において、各インジェクタ30に異常が生じていない正常時では、噴射量に対しての補正はほぼ必要ないので、状態200に示されるように、気筒間噴射量補正によるFCCB補正量は小さい。このFCCB補正量は、所定量内(所定量未満)であるとする。
【0044】
ここで、所定量とは、車両がアイドル状態のときに、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されるとこのFCCB補正が行われた気筒では通常よりも早期に燃焼・爆発を起こさせてしまうFCCB補正量である。したがって、FCCB補正量が所定量内の場合には、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されたとしても当該気筒で早期に燃焼は起こらずに通常のタイミングで燃焼が起こる。
【0045】
複数噴射においてFCCB補正量が所定量内の場合には、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されたとしてもパイロット噴射量やプレ噴射量が過大にならずにパイロット噴射やプレ噴射のときに早期の燃焼および爆発は起こらない。例えば、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されたことによってパイロット噴射の際に当該気筒で燃焼が起こってしまう場合には、FCCB補正量は所定量以上になっていると言える。
【0046】
そして、複数噴射のときにFCCB補正量が所定量内であれば、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されてもパイロット噴射時やプレ噴射時に当該気筒で早期の燃焼や爆発は起こらない。つまり、FCCB補正により、パイロット噴射量やプレ噴射量が正常となる。この後、制御110では、通常の噴射時期制御が行われる。
【0047】
一方、インジェクタ30の噴射量がデポジットの付着や摺動不良等の外乱により低下または増加したインジェクタ異常となることがある。この場合、制御100においてFCCB補正が行われると、状態210に示されるように、気筒間噴射量補正によるFCCB補正量は大きくなる。
【0048】
例えば、アイドル時では走行時よりも噴射量が少ないので、インジェクタ30の異常によりパイロット噴射やプレ噴射の際にインジェクタ30から燃料がまったく噴射されない場合も起こりうる。このような場合には、エンジンECU40によりアイドル時の基本制御噴射量(要求噴射量)が算出されたとしても、実際にはこの基本制御噴射量(要求噴射量)がインジェクタ30から噴射されない。したがって、気筒間噴射量補正によるFCCB補正量は、インジェクタ30から基本制御噴射量(要求噴射量)の燃料が噴射される噴射量となる。すなわち、アイドル時の基本制御噴射量(要求噴射量)とFCCB補正量とが等しくなる。これにより、パイロット噴射量やプレ噴射量はアイドル時に必要とされる正常な量となるので、当該気筒における燃焼は通常通りとなり、状態220に示されるように、異常音であるノッキング音は発生しない。
【0049】
なお、アイドル時にインジェクタ30の噴射量が通常よりも増加してしまっている場合には、インジェクタ30の噴射量を低下させるようなFCCB補正量が取得される。このFCCB補正量が基本制御噴射量に加算されることにより、アイドル時のインジェクタ30の噴射量が下げられて正常な噴射量となり、早期の燃焼による異常音がなくなる。複数噴射の場合には、パイロット噴射やプレ噴射の量が正常となるので、パイロット噴射時に早期の燃焼や爆発は起こらなくなる。
【0050】
また、上記のように気筒間噴射量補正によるFCCB補正量が大きい場合に、基本制御噴射量(要求噴射量)に対するFCCB補正量が不適切の場合がある。ここでいう「不適切」とは、基本制御噴射量に対するFCCB補正量が多かったり少なかったりすることにより正常な噴射量が得られないことを意味している。このような場合には、状態230に示されるように、パイロット噴射やプレ噴射の噴射量は正常の量に対して低下するかまたは過大となる。
【0051】
そして、状態230において、気筒間噴射量補正によるFCCB補正量が大きいことにより結果的にパイロット噴射量が正常な量よりも低下してしまった場合には、制御120に示される噴射時期制御については、エンジン回転数等から最適な噴射時期となるように制御されなければならないところ、パイロット噴射の量が通常よりも少なくなったことにより最適な噴射時期でのパイロット噴射ができなくなる。その結果、状態240に示されるように、異常音であるノッキング音が発生する。
【0052】
また、状態230において、気筒間噴射量補正によるFCCB補正量が大きいことにより結果的にパイロット噴射量が過大となった場合、すなわちFCCB補正量が所定値以上となった場合、通常の噴射時期で噴射すると、燃焼が早めに起こるので異常音が発生しやすくなる。このような場合、制御130に示されるように、噴射時期を遅らせるリタード制御が実施される。この制御について、図3に示されるフローチャートを参照して説明する。
【0053】
図3に示される処理は、制御100においてアイドル時に行われたFCCB補正が学習値として記憶された後に車両が走行し、再びアイドル状態になったときに、状態210においてFCCB補正量が所定量以上となった気筒に対して実行される。この処理は、各気筒のうちFCCB補正量の学習により当該FCCB補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、車両の減速時に当該FCCB補正量を使用するエンジン回転数領域にエンジン回転数が突入したとき、すなわちアイドル時にその気筒で異常音が発生してしまうことを防止するために発生トルクを抑制させる処理である。
【0054】
まず、ステップ300では、上述の制御100が行われる。すなわち、エンジン回転速度が安定したアイドリング状態のときに、エンジンECU40により、各気筒におけるエンジン回転数の変動が検出され、当該変動に基づいて複数のインジェクタ30の噴射量ばらつきを低減させるためのFCCB補正量が気筒毎に算出される。各FCCB補正量は学習値としてエンジンECU40にそれぞれ記憶される。このFCCB補正量の算出により、どの気筒でFCCB補正量が所定量以上となるかがエンジンECU40により把握される。
【0055】
続いて、ステップ310では、エンジン回転数がアイドル運転領域に突入したか否かが判定される。上述のように、アイドル時に、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されるとパイロット噴射量が正常な量よりも過大(状態230)となって早期に燃焼や爆発が起こることになるため、本ステップにてエンジン回転数の判定が行われる。すなわち、エンジン回転数センサ70のパルス信号がエンジンECU40に入力され、このパルス信号からエンジン回転数が算出された後、該エンジン回転数がアイドル運転領域の回転数を示すものであるかが判定される。
【0056】
本ステップにてエンジン回転数がアイドル運転領域に含まれないと判定された場合、つまり車両が走行状態にある場合には図3の処理は終了し、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算された噴射量制御が行われる。一方、エンジン回転数がアイドル運転領域に含まれると判定された場合、ステップ320に進む。
【0057】
そして、ステップ320では、アイドル時において、ステップ300により基本制御噴射量にFCCB補正量が加算された気筒の噴射時期を指令時期より遅らせるリタード制御が行われる。すなわち、基本制御噴射量にFCCB補正量が加算されるとパイロット噴射やプレ噴射の量が多くなって燃焼や爆発が早期に起こりやすくなり、異常音が発生しやすい状態になるが、本ステップにより噴射時期が遅らされることにより当該気筒での燃焼が遅らされるので、エンジンの発生トルクが抑制される。したがって、当該気筒におけるエンジンの回転力が低下するので、状態250に示されるように、異常音であるノッキング音は無くなる。なお、どの程度、噴射時期を遅らせるかについては、各エンジンの適合定数により決まる。また、本ステップを実行する手段は、本発明の抑制手段に相当する。
【0058】
ステップ320の後、図3の処理は終了する。そして、車両が走行可能状態にある限り、図3の処理が繰り返し実行される。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、FCCB補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、当該気筒において車両の減速時に当該FCCB補正量を使用するエンジン回転数領域にエンジン回転数が突入したとき、すなわちアイドル状態となったとき、その気筒での発生トルクを抑制させるべく噴射時期を遅らせることが特徴となっている。
【0060】
これによると、当該気筒では燃焼が通常よりも遅らされるので、当該気筒での発生トルクが抑制され、その結果、当該気筒でのエンジンの回転力が低下する。したがって、当該気筒において異常音を発生させてしまうことを防止することができる。
【0061】
上記では、主に、燃料噴射をパイロット噴射等の複数回に分けて行う場合について説明したが、噴射の回数は特に問題ではなく、もちろん1回の噴射で爆発行程が行われる場合についても図3に示される処理が行われる。
【0062】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。上記第1実施形態では、FCCB補正量が所定量以上となった気筒に対してはエンジンの発生トルクを抑制するために、噴射時期すなわち燃焼を遅らせることが特徴となっていたが、本実施形態では基本制御噴射量にFCCB補正量を反映させることを禁止することが特徴となっている。
【0063】
図4は、本実施形態において、FCCB補正量が所定量以上となった気筒に対して行われる処理の内容を示した図である。
【0064】
第1実施形態と同様に、ステップ300およびステップ310が行われる。そして、ステップ310にてエンジン回転数がアイドル運転領域に突入したと判定された場合、ステップ330に進む。
【0065】
ステップ330では、アイドル時において、ステップ300により基本制御噴射量にFCCB補正量が加算された気筒に対して、当該気筒の噴射量指令値へのFCCB補正量の反映が禁止される。すなわち、噴射量指令値は、FCCB補正量が加算されない基本制御噴射量に相当する値となる。これにより、インジェクタ30の異常によってアイドル時にインジェクタ30の噴射量が低下した場合であっても基本制御噴射量にFCCB補正量は加算されない。このため、複数噴射の場合ではパイロット噴射時に燃焼は起こらず、1回噴射の場合には燃焼が起こるタイミングが遅れる。つまり、FCCB補正量が反映されないために、燃焼が遅らされる。したがって、当該気筒での発生トルクが抑制され、当該気筒におけるエンジンの回転力が低下するので、状態250に示されるように、異常音であるノッキング音は無くなる。なお、本ステップを実行する手段は、本発明の抑制手段に相当する。
【0066】
以上説明したように、本実施形態では、FCCB補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、当該気筒において車両の減速時に当該FCCB補正量を使用するエンジン回転数領域にエンジン回転数が突入したとき、すなわちアイドル状態となったとき、その気筒での発生トルクを抑制させるべく指令噴射量に対するFCCB補正量の反映を禁止することが特徴となっている。
【0067】
これによると、当該気筒では噴射量指令値にFCCB補正量が加算されないために当該気筒で燃料噴射されたとしても当該気筒では燃焼が遅らされるので、当該気筒での発生トルクが抑制される。その結果、当該気筒でのエンジンの回転力が低下するため、当該気筒において異常音が発生しないようにすることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 燃料供給ポンプ
20 コモンレール
30 インジェクタ
40 エンジンECU
50 EDU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧燃料を蓄えるコモンレール(20)内の高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する複数のインジェクタ(30)を有する蓄圧式燃料噴射システムに適用され、
前記各気筒におけるエンジン回転数の変動を検出し、当該変動に基づいて前記複数のインジェクタ(30)の噴射量ばらつきを低減させるための気筒間噴射量補正量を前記気筒毎に学習し、学習した当該気筒間噴射量補正量に基づいて前記複数のインジェクタ(30)それぞれの燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置であって、
前記各気筒のうち前記学習により前記気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒が存在する場合、車両の減速時に当該気筒間噴射量補正量を使用するエンジン回転数領域にエンジン回転数が突入したとき、前記気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒での発生トルクを抑制させる抑制手段(320、330)を備えていることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記抑制手段(320)は、前記気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒に対する燃料の噴射時期を指令時期より遅らせることにより前記発生トルクを抑制させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記抑制手段(330)は、前記気筒間噴射量補正量が所定量以上となった気筒に対する噴射量指令値への前記気筒間噴射量補正量の反映を禁止することにより前記発生トルクを抑制させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−255432(P2010−255432A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102838(P2009−102838)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】