説明

燃料噴射制御装置

【課題】燃圧センサの個数削減を図った燃料噴射システムにおいて、その削減対象となった燃料噴射弁における噴射量を高精度で制御することを、マップ作成に要する作業負荷軽減を図りつつ実現可能にする。
【解決手段】センサ有り噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第1出力ΔNE(#1)、およびセンサ無し噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第2出力ΔNE(#2)を検出する出力検出手段S12と、第1出力を生じさせたセンサ有り噴射弁からの燃料噴射量である第1噴射量Q(#1)を、燃圧センサの検出値に基づき算出する第1噴射量算出手段S13と、第2出力を生じさせたセンサ無し噴射弁からの燃料噴射量である第2噴射量Q(#2)を、検出した第1出力、第2出力、および算出した第1噴射量に基づき推定する第2噴射量推定手段S15と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁から噴射された燃料の噴射量を推定して、その推定結果に基づき燃料噴射弁の作動を制御する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジン(内燃機関)では、燃料噴射弁から噴射させる燃料の噴射量指令値(開弁時間指令値)を、以下に説明する微小Q学習を実施して補正している。すなわち、燃料を噴射していない減速運転時に微小量の燃料を噴射する。すると、その微小噴射に伴いエンジン回転速度NEが僅かに上昇する。そして、この上昇量ΔNEに基づけばエンジンの出力トルクの増加量ΔTrq(仕事量)を算出でき、このトルク増加量ΔTrqに基づけば、実際の燃料噴射量Qactを算出できる。よって、このように算出した実噴射量Qactと微小噴射にかかる開弁時間指令値とのずれを噴射量補正値として学習(微小Q学習)し、開弁時間指令値を補正する。
【0003】
しかしながら、上記微小Q学習を実施するためには、トルク増加量ΔTrqを噴射量Qactに換算する換算値を、試験等により予め取得しておく必要がある。しかも、微小噴射時の燃料供給圧力(コモンレール内圧力)やエンジン回転速度NE、燃料温度等の各種噴射条件毎に前記換算値は異なる値となるため、前記試験を噴射条件毎に実施して換算値のマップを作成する必要があり、当該マップを作成する作業負荷が極めて大きい。
【0004】
この問題に対し特許文献1〜4等には、コモンレール(蓄圧容器)の吐出口から燃料噴射弁の噴孔に至るまでの燃料通路に燃圧センサを配置して、燃料噴射に伴い生じた圧力変化(燃圧波形)を検出する技術が開示されている。これによれば、検出した燃圧波形に基づき、時間経過に伴い変化する噴射率の値を表した噴射率波形を算出することができるので、例えば噴射率波形の面積(図2(b)中の網点部分)から噴射量を算出できるようになる。つまり、実際の噴射量を燃圧センサにより直接検出することができるので、上述した微小Q学習による補正を不要にでき、ひいては、先述した換算値マップの作成作業を不要にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−223182号公報
【特許文献2】特開2010−223183号公報
【特許文献3】特開2010−223184号公報
【特許文献4】特開2010−223185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1〜4記載の技術を多気筒エンジンに適用させる場合には、複数の燃料噴射弁の各々に対して燃圧センサを備えることとなり、多くの燃圧センサを要するので多大なコストアップを招く。
【0007】
この問題に対し、全ての燃料噴射弁のうち特定の噴射弁に対してのみ燃圧センサを備えさせるようにすると、燃圧センサの個数を低減できるものの、燃圧センサが備えられていない燃料噴射弁に対しては先述の微小Q学習が必要となり、換算値マップ作成に要する作業負荷が大きいとの問題が再浮上する。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、燃圧センサの個数削減を図った燃料噴射システムにおいて、その削減対象となった燃料噴射弁における噴射量を高精度で制御することを、マップ作成に要する作業負荷軽減を図りつつ実現可能にした燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、内燃機関の第1気筒に備えられた第1燃料噴射弁、および第2気筒に備えられた第2燃料噴射弁と、前記第1燃料噴射弁からの燃料噴射時に、前記第1燃料噴射弁の内部で生じた燃料の圧力変化を検出する燃圧センサと、を備える燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記内燃機関の出力であって、前記第1燃料噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第1出力、および前記第2燃料噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第2出力を検出する出力検出手段と、前記第1出力を生じさせた前記第1燃料噴射弁からの燃料噴射量である第1噴射量を、前記燃圧センサの検出値に基づき算出する第1噴射量算出手段と、前記第2出力を生じさせた前記第2燃料噴射弁からの燃料噴射量である第2噴射量を、検出した前記第1出力、前記第2出力、および算出した前記第1噴射量に基づき推定する第2噴射量推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、第1燃料噴射弁からの第1噴射量とその噴射による第1出力とを、内燃機関の運転中に検出できる。また、第2燃料噴射弁からの燃料噴射による第2出力を、内燃機関の運転中に検出できる。そして、第1噴射量および第1出力の相関と、第2噴射量および第2出力の相関とは類似すると見なすことができるため、検出した第1噴射量、第1出力および第2出力に基づけば、第2噴射量を精度よく推定できる筈である。
【0013】
したがって、第2燃料噴射弁については燃圧センサが備えられていなくても、上記発明の如く、検出した第1出力、第2出力および第1噴射量に基づき第2噴射量を推定すれば、第2出力から第2噴射量を換算するための換算値のマップを不要にできる。
【0014】
或いは、前記マップを用いた場合であっても、そのマップに記憶されている換算値を、推定した第2噴射量に基づき補正して換算値の精度向上を図ることができるため、噴射条件(例えば燃料供給圧力(コモンレール内圧力)やエンジン回転速度NE、燃料温度等)毎に換算値を記憶させるにあたり、噴射条件の領域分割数を少なくして換算値のデータ点数を少なくできる。よって、換算値のマップ作成に要する作業負荷軽減を図りつつ、燃圧センサの削減対象となった第2燃料噴射弁の噴射量を高精度で制御することを実現できる。
【0015】
請求項2記載の発明では、燃料噴射を停止して減速運転している時に、所定量未満の微小量の燃料を前記第1燃料噴射弁および前記第2燃料噴射弁から順次噴射し、それらの噴射に伴い生じた前記第1出力および前記第2出力を前記出力検出手段により検出させることを特徴とする(第1実施形態参照)。
【0016】
上記発明の如く、燃料噴射を停止して減速運転している時に微小量を噴射すれば、その微小量の噴射により生じた第1出力を高精度に検出できる。よって、第2噴射量推定手段による推定精度を向上できる。また、噴射の量を所定量未満に制限するので、当該噴射によりエンジン出力が変動することを、無視できる程度に小さくできる。
【0017】
請求項3記載の発明では、前記第1燃料噴射弁および前記第2燃料噴射弁から順次燃料を噴射して運転している時に、それらの噴射に伴い生じた前記第1出力および前記第2出力を前記出力検出手段により検出させることを特徴とする(第2実施形態参照)。
【0018】
これによれば、無噴射減速運転中であるか否かに拘わらず第2噴射量を推定できるので、第2噴射量を推定する機会を多くできる。よって、その推定値を用いて第2燃料噴射弁を噴射制御するにあたり、その制御の精度向上を促進できる。
【0019】
請求項4記載の発明では、検出した前記第1出力および算出した前記第1噴射量の相関を表した第1相関値を算出する第1相関値算出手段を備え、前記第2噴射量推定手段は、検出した前記第2出力および前記第1相関値に基づき前記第2噴射量を推定することを特徴とする(第1および第2実施形態参照)。
【0020】
これによれば、第1燃料噴射弁にかかる第1相関値を算出し、その第1相関値を用いて第2出力から第2噴射量を推定するので、燃圧センサが搭載されていない第2燃料噴射弁についても噴射量を把握できるようになる。よって、第2出力から第2噴射量を換算するための換算値のマップを不要にできる。
【0021】
請求項5記載の発明では、前記第2出力および前記第2噴射量の相関を表した第2相関値であって、試験により予め取得しておいた前記第2相関値を記憶する記憶手段と、検出した前記第1出力および算出した前記第1噴射量の相関を表した第1相関値に基づき、前記記憶手段に記憶されている前記第2相関値を補正する補正手段と、を備え、前記第2噴射量推定手段は、前記補正手段により補正された前記第2相関、および検出した前記第2出力に基づき前記第2噴射量を推定することを特徴とする(第3実施形態参照)。
【0022】
これによれば、記憶手段にマップ等の形式で記憶されている第2相関値(例えば先述した換算値)を、第1相関値に基づき補正して第2相関値の精度向上を図ることができる。よって、噴射条件(例えば燃料供給圧力(コモンレール内圧力)やエンジン回転速度NE、燃料温度等)毎に第2相関値を記憶させるにあたり、噴射条件の領域分割数を少なくして換算値のデータ点数を少なくできる。よって、予め試験して取得しておくべき第2相関値のデータ点数を少なくするようにできるので、第2相関値を取得する試験に要する作業負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料噴射制御装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図。
【図2】噴射指令信号に対応する噴射率および燃圧の変化を示す図。
【図3】第1実施形態において、センサ有り噴射弁(#1,#3)に対する噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図。
【図4】噴射時燃圧波形Wa、非噴射時燃圧波形Wu、噴射波形Wbを示す図。
【図5】第1実施形態において、センサ無し噴射弁10(#2,#4)から噴射される燃料の噴射量を推定する手順を示すフローチャート。
【図6】図5の処理による微小噴射を実施した場合の一態様を示すタイムチャート。
【図7】本発明の第2実施形態において、センサ無し噴射弁10(#2,#4)から噴射される燃料の噴射量を推定する手順を示すフローチャート。
【図8】図7の処理を実施した場合の一態様を示すタイムチャート。
【図9】本発明の第3実施形態において、センサ無し噴射弁10(#2,#4)から噴射される燃料の噴射量を推定する手順を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する燃料噴射状態推定装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ22、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を示す模式図である。
【0026】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射システムについて説明する。燃料タンク40内の燃料は、燃料ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10(#1〜#4)へ分配供給される。複数の燃料噴射弁10(#1〜#4)は、予め設定された順番で燃料の噴射を順次行う。本実施形態では、#1→#3→#4→#2の順番で噴射することを想定している。
【0027】
なお、燃料ポンプ41にはプランジャポンプが用いられているため、プランジャの往復動に同期して燃料は圧送される。そして、当該燃料ポンプ41はエンジン出力を駆動源としてクランク軸により駆動するので、1燃焼サイクル中に決められた回数だけ燃料ポンプ41から燃料を圧送することとなる。
【0028】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル形状の弁体12及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。弁体12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。
【0029】
ボデー11内には弁体12に背圧を付与する背圧室11cが形成されており、高圧通路11a及び低圧通路11dは背圧室11cと接続されている。高圧通路11a及び低圧通路11dと背圧室11cとの連通状態は制御弁14により切り替えられており、電磁コイルやピエゾ素子等のアクチュエータ13へ通電して制御弁14を図1の下方へ押し下げ作動させると、背圧室11cは低圧通路11dと連通して背圧室11c内の燃料圧力は低下する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が低下して弁体12はリフトアップ(開弁作動)する。これにより、弁体12のシート面12aがボデー11のシート面から離座して、噴孔11bから燃料が噴射される。
【0030】
一方、アクチュエータ13への通電をオフして制御弁14を図1の上方へ作動させると、背圧室11cは高圧通路11aと連通して背圧室11c内の燃料圧力は上昇する。その結果、弁体12へ付与される背圧力が上昇して弁体12はリフトダウン(閉弁作動)する。これにより、弁体12のシート面12aがボデー11のシート面に着座して、噴孔11bからの燃料噴射が停止される。
【0031】
したがって、ECU30がアクチュエータ13への通電を制御することで、弁体12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、弁体12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。
【0032】
燃料噴射弁10の内部燃料の圧力変化を検出する燃圧センサ22は、全ての燃料噴射弁10に搭載されているわけではなく、本実施形態では、#1,#3の燃料噴射弁10(センサ有り噴射弁)に燃圧センサ22が搭載され、#2,#4の燃料噴射弁10(センサ無し噴射弁)には燃圧センサ22が搭載されていない。なお、#1気筒のセンサ有り噴射弁10(#1)が「第1燃料噴射弁」に相当し、#2気筒のセンサ無し噴射弁10(#2)が「第2燃料噴射弁」に相当する。
【0033】
燃圧センサ22を有するセンサ装置20は、以下に説明するステム21(起歪体)、燃温センサ23及びモールドIC24等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子により構成される燃圧センサ22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号をECU30へ出力する。
【0034】
また、ダイヤフラム部21aには、温度センサ素子により構成される燃温センサ23が取り付けられている。この燃温センサ23により検出された温度は、分岐通路内の燃料の温度とみなすことができる。つまり、センサ装置20は燃温センサの機能を備えていると言える。但し、本発明の実施にあたり、この燃温センサ23は廃止してもよい。
【0035】
モールドIC24は、燃圧センサ22や燃温センサ23から出力された検出信号を増幅する増幅回路や、検出信号を送信する送信回路等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。モールドIC24はECU30と電気接続されており、増幅された検出信号はECU30に送信される。
【0036】
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tq(図2(a)参照)を、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき設定し、燃料噴射弁10へ出力することで燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0037】
次に、センサ有り噴射弁10(#1,#3)から燃料を噴射させる場合における、噴射制御の手法について、図2〜図4を用いて以下に説明する。
【0038】
例えば#1気筒の燃料噴射弁10(#1)で燃料噴射した時には、そのセンサ有り噴射弁10に搭載されている燃圧センサ22(#1)の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(図2(c)参照)として検出する。そして、検出した燃圧波形に基づき単位時間当たりの燃料噴射量の変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)を演算して噴射状態を検出する。そして、検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータRα,Rβ,Rmaxを学習するとともに、噴射指令信号(パルスオン時期t1、パルスオフ時期t2及びパルスオン期間Tq)と噴射状態との相関関係を特定する噴射率パラメータtd,teを学習する。
【0039】
具体的には、燃圧波形のうち、噴射開始に伴い燃圧降下を開始する変曲点P1から降下が終了する変曲点P2までの降下波形を、最小二乗法等により直線に近似した降下近似直線Lαを算出する。そして、降下近似直線Lαのうち基準値Bαとなる時期(LαとBαの交点時期LBα)を算出する。この交点時期LBαと噴射開始時期R1とは相関が高いことに着目し、交点時期LBαに基づき噴射開始時期R1を算出する。例えば、交点時期LBαよりも所定の遅れ時間Cαだけ前の時期を噴射開始時期R1として算出すればよい。
【0040】
また、燃圧波形のうち、噴射終了に伴い燃圧上昇を開始する変曲点P3から降下が終了する変曲点P5までの上昇波形を、最小二乗法等により直線に近似した上昇近似直線Lβを算出する。そして、上昇近似直線Lβのうち基準値Bβとなる時期(LβとBβの交点時期LBβ)を算出する。この交点時期LBβと噴射終了時期R4とは相関が高いことに着目し、交点時期LBβに基づき噴射終了時期R4を算出する。例えば、交点時期LBβよりも所定の遅れ時間Cβだけ前の時期を噴射終了時期R4として算出すればよい。
【0041】
次に、降下近似直線Lαの傾きと噴射率増加の傾きとは相関が高いことに着目し、図2(b)に示す噴射率波形のうち噴射増加を示す直線Rαの傾きを、降下近似直線Lαの傾きに基づき算出する。例えば、Lαの傾きに所定の係数を掛けてRαの傾きを算出すればよい。同様にして、上昇近似直線Lβの傾きと噴射率減少の傾きとは相関が高いので、噴射率波形のうち噴射減少を示す直線Rβの傾きを、上昇近似直線Lβの傾きに基づき算出する。
【0042】
次に、噴射率波形の直線Rα,Rβに基づき、噴射終了を指令したことに伴い弁体12がリフトダウンを開始する時期(閉弁作動開始時期R23)を算出する。具体的には、両直線Rα,Rβの交点を算出し、その交点時期を閉弁作動開始時期R23として算出する。また、噴射開始時期R1の噴射開始指令時期t1に対する遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)を算出する。また、閉弁作動開始時期R23の噴射終了指令時期t2に対する遅れ時間(閉弁開始遅れ時間te)を算出する。
【0043】
また、降下近似直線Lα及び上昇近似直線Lβの交点に対応した圧力を交点圧力Pαβとして算出し、後に詳述する基準圧力Pbaseと交点圧力Pαβとの圧力差ΔPγを算出し、この圧力差ΔPγと最大噴射率Rmaxとは相関が高いことに着目し、圧力差ΔPγに基づき最大噴射率Rmaxを算出する。具体的には、圧力差ΔPγに相関係数Cγを掛けることで最大噴射率Rmaxを算出する。但し、圧力差ΔPγが所定値ΔPγth未満である小噴射の場合には、上述の如くRmax=ΔPγ×Cγとする一方で、ΔPγ≧ΔPγthである大噴射の場合には、予め設定しておいた値(設定値Rγ)を最大噴射率Rmaxとして算出する。
【0044】
なお、上記「小噴射」とは、噴射率がRγに達する前に弁体12がリフトダウンを開始する態様の噴射を想定しており、シート面12aで燃料が絞られて噴射量が制限されている時の噴射率が最大噴射率Rmaxとなる。一方、上記「大噴射」とは、噴射率がRγに達した後に弁体12がリフトダウンを開始する態様の噴射を想定しており、噴孔11bで燃料が絞られて噴射量が制限されている時の噴射率が最大噴射率Rmaxとなる。要するに、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した以降も開弁状態を継続させる場合においては、図2(b)に示す噴射率波形は台形となる。一方、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させるような小噴射の場合には、噴射率波形は三角形となる。
【0045】
大噴射時の最大噴射率Rmaxである上記設定値Rγは、燃料噴射弁10の経年変化に伴い変化していく。例えば、噴孔11bにデポジット等の異物が堆積して噴射量が減少するといった経年劣化が進行すると、図2(c)に示す圧力降下量ΔPは小さくなっていく。また、シート面12aが磨耗して噴射量が増大するといった経年劣化が進行すると、圧力降下量ΔPは大きくなっていく。なお、圧力降下量ΔPとは、噴射率上昇に伴い生じた検出圧力の降下量のことであり、例えば、基準圧力Pbaseから変曲点P2までの圧力降下量、又は、変曲点P1から変曲点P2までの圧力降下量のことである。
【0046】
そこで本実施形態では、大噴射時の最大噴射率Rmax(設定値Rγ)と圧力降下量ΔPとは相関が高いことに着目し、圧力降下量ΔPの検出結果から設定値Rγを算出して学習する。つまり、大噴射時における最大噴射率Rmaxの学習値は、圧力降下量ΔPに基づく設定値Rγの学習値に相当する。
【0047】
以上により、燃圧波形から噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出することができる。そして、これらの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの学習値に基づき、噴射指令信号(図2(a)参照)に対応した噴射率波形(図2(b)参照)を算出することができる。なお、このように算出した噴射率波形の面積(図2(b)中の網点ハッチ参照)は噴射量に相当するので、噴射率パラメータに基づき噴射量を算出することもできる。
【0048】
図3は、これら噴射率パラメータの学習、及びセンサ有り噴射弁10(#1,#3)へ出力する噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図であり、ECU30により機能する各手段31,32,33について以下に説明する。噴射率パラメータ算出手段31は、燃圧センサ22により検出された燃圧波形に基づき噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0049】
学習手段32は、算出した噴射率パラメータをECU30のメモリ30aに記憶更新して学習する。なお、噴射率パラメータは、その時の供給燃圧(コモンレール42内の圧力)や燃料温度等に応じて異なる値となるため、供給燃圧又は後述する基準圧力Pbase(図2(c)参照)や、燃温センサ23により検出された燃温と関連付けて学習させることが望ましい。図3の例では、燃圧に対応する噴射率パラメータの値を噴射率パラメータマップMに記憶させている。
【0050】
設定手段33は、現状の燃圧に対応する噴射率パラメータ(学習値)を、噴射率パラメータマップMから取得する。そして、取得した噴射率パラメータに基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tqを設定する。そして、このように設定した噴射指令信号にしたがって燃料噴射弁10を作動させた時の燃圧波形を燃圧センサ22で検出し、検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータ算出手段31は噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0051】
要するに、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(つまり噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax)を検出して学習し、その学習値に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、実際の噴射状態に基づき噴射指令信号がフィードバック制御されることとなり、先述した経年劣化が進行しても、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう燃料噴射状態を高精度で制御できる。特に、実噴射量が目標噴射量となるように、噴射率パラメータに基づき噴射指令期間Tqを設定するようフィードバック制御することで、実噴射量が目標噴射量となるように補償している。
【0052】
以下の説明では、燃料噴射弁10から燃料を噴射させている気筒を噴射気筒(表気筒)、この噴射気筒が燃料を噴射している時に燃料噴射させていない気筒を非噴射気筒(裏気筒)とし、かつ、噴射気筒に対応する燃圧センサ22を噴射時燃圧センサ、非噴射気筒に対応する燃圧センサ22を非噴射時燃圧センサと呼ぶ。
【0053】
噴射時燃圧センサにより検出された燃圧波形である噴射時燃圧波形Wa(図4(a)参照)は、噴射による影響のみを表しているわけではなく、以下に例示する噴射以外の影響で生じた波形成分をも含んでいる。すなわち、燃料タンク40の燃料をコモンレール42へ圧送する燃料ポンプ41がプランジャポンプの如く間欠的に燃料を圧送するものである場合には、燃料噴射中にポンプ圧送が行われると、そのポンプ圧送期間中における噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が高くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Wa(図4(a)参照)には、噴射による燃圧変化を表した燃圧波形である噴射波形Wb(図4(c)参照)と、ポンプ圧送による燃圧上昇を表した燃圧波形(図4(b)中の実線Wu’参照)とが含まれていると言える。
【0054】
また、このようなポンプ圧送が燃料噴射中に行われなかった場合であっても、燃料を噴射した直後は、その噴射分だけ噴射システム内全体の燃圧が低下する。そのため、噴射時燃圧波形Waは全体的に圧力が低くなった波形となる。つまり、噴射時燃圧波形Waには、噴射による燃圧変化を表した噴射波形Wbの成分と、噴射システム内全体の燃圧低下を表した燃圧波形(図4(b)中の点線Wu参照)の成分とが含まれていると言える。
【0055】
そこで本実施形態では、非噴射気筒センサにより検出される非噴射時燃圧波形Wu’(Wu)はコモンレール内の燃圧(噴射システム内全体の燃圧)の変化を表していることに着目し、噴射気筒センサにより検出された噴射時燃圧波形Waから、非噴射気筒センサによる非噴射時燃圧波形Wu’(Wu)を差し引いて噴射波形Wbを演算する処理(裏消し処理)を実施している。なお、図2(c)に示す燃圧波形は噴射波形Wbである。
【0056】
また、多段噴射を実施する場合には、前段噴射にかかる燃圧波形の脈動Wc(図2(c)参照)が燃圧波形Waに重畳する。特に、前段噴射とのインターバルが短い場合には、燃圧波形Waは脈動Wcの影響を大きく受ける。そこで、非噴射時燃圧波形Wu’(Wu)に加えて脈動Wcを燃圧波形Waから差し引く処理(うねり消し処理)を実施して、噴射波形Wbを算出することが望ましい。
【0057】
以上、センサ有り噴射弁10(#1,#3)に対する噴射制御の手法について、図2〜図4を用いて説明してきたが、センサ無し噴射弁10(#2,#4)については、以下に説明する手法により噴射量を推定し、その推定した噴射量に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号Tqを設定する。
【0058】
図5は、センサ無し噴射弁10(#2,#4)から噴射される燃料の噴射量を推定する手順を示すフローチャートであり、当該処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータにより繰り返し実行される。
【0059】
先ず、図5に示すステップS10において、エンジン運転状態が、燃料を噴射していない無噴射状態であり、かつ、エンジン回転速度が低下している減速運転中であるか否かを判定する。無噴射減速運転中であると判定された場合には、次のステップS11において、予め所定量未満に設定された微小量の燃料を、センサ有り噴射弁10(#1)およびセンサ無し噴射弁10(#2)から順次噴射する。
【0060】
より詳細に説明すると、センサ有り噴射弁10(#1)に対する噴射指令期間Tq(#1)と、センサ無し噴射弁10(#2)に対する噴射指令期間Tq(#2)とを同じに設定している。また、Tq(#1)にかかる噴射開始時期t1a(図6(b)参照)を、例えば圧縮上死点よりも所定クランク角だけ進角させたタイミングで噴射させた場合、Tq(#2)にかかる噴射開始時期t1b(図6(d)参照)についても、同じクランク角だけ進角させたタイミングで噴射させる。要するに、各気筒での噴射条件を同じに設定している。
【0061】
また、センサ有り噴射弁10(#1)に対する噴射開始時期t1aから、センサ無し噴射弁10(#2)に対する噴射開始時期t1bまでのクランク軸回転角度が、所定角未満となるように設定している。換言すれば、t1aからt1bまでの時間間隔が所定時間未満となるように設定している。図6の例では、センサ有り噴射弁10(#1)からの微小噴射の直後に、センサ無し噴射弁10(#2)からの微小噴射を実施している。
【0062】
図6は、ステップS11にかかる微小噴射を実施した場合の一態様を示すタイムチャートである。図中の(b)(d)に示すように微小量を噴射するよう、センサ有り噴射弁10(#1)およびセンサ無し噴射弁10(#2)へ噴射指令を出力したことに伴い、(c)(d)中の符合Q(#1),Q(#2)に示す如く微小量の噴射が為されている。その結果、(a)に示すように、降下するエンジン回転速度NEがΔNE(#1),ΔNE(#2)だけ増大している。これらのΔNE(#1),ΔNE(#2)は、Q(#1),Q(#2)の燃焼に伴い生じたエンジン出力の増大分を表す。
【0063】
図5の説明に戻り、続くステップS12(出力検出手段)では、各々の微小噴射量Q(#1),Q(#2)に対する、エンジン回転速度の増大分ΔNE(#1),ΔNE(#2)を検出する。なお、ΔNE(#1)が「第1出力」に相当し、ΔNE(#2)が「第2出力」に相当する。
【0064】
続くステップS13(第1噴射量算出手段)では、ステップS11で実施した、センサ有り噴射弁10(#1)からの微小噴射量について、燃圧センサ22の検出値に基づき図2の手法により算出した値(実噴射量Q(#1))を取得する。続くステップS14では、ステップS12で検出したΔNE(#1)と、ステップS13で取得した実噴射量Q(#1)との相関値Ca(#1)を算出する。詳細には、図6中の式1に示すように、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる実噴射量Q(#1)とΔNE(#1)との比率を相関値Ca(#1)として算出する。
【0065】
続くステップS15(第2噴射量推定手段)では、ステップS11で実施したセンサ無し噴射弁10(#2)からの微小噴射の値(実噴射量Q(#2))を、ステップS14で算出した相関値Ca(#1)およびステップS12で検出したΔNE(#2)に基づき推定する。詳細には、図6中の式2に示すように、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる相関値Ca(#1)に、センサ無し噴射弁10(#2)にかかるΔNE(#2)を乗算して、実噴射量Q(#2)を算出する。
【0066】
要するに、センサ有り噴射弁10(#1)にかかるQ(#1)とΔNE(#1)との相関値Ca(#1)は、センサ無し噴射弁10(#2)にかかるQ(#2)とΔNE(#2)との相関値Ca(#2)と殆ど同じであると見なしており、検出可能なQ(#1)、ΔNE(#1)およびΔNE(#2)の値から、検出不能であるQ(#2)を推定している。なお、Q(#1)は「第1噴射量」に相当し、Q(#2)は「第2噴射量」に相当する。また、相関値Ca(#1)は「第1相関値」に相当する。
【0067】
ここで、センサ有り噴射弁10(#1)の噴射制御については、学習した噴射率パラメータを噴射率パラメータマップMに記憶させ、当該マップMの値を参照して、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1、t2、Tqを設定することは先述した通りである。これに対し、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射制御については、噴射率パラメータマップMの替わりに、目標噴射量Qに対する噴射指令期間Tqの値を記憶させたTq−Qマップを用いて噴射制御している。なお、Tq−Qマップは、基準圧力Pbaseやエンジン回転速度、燃料温度等と関連付けて、目標噴射量Qに対する噴射指令期間Tqの値をメモリ30aに記憶させることが望ましい。
【0068】
そして、Tq−Qマップに記憶されているTqの値は、図5の処理により推定した噴射量Q(#2)、およびステップS11にてセンサ無し噴射弁10(#2)に指令した指令信号Tq(図6(d)参照)との値に基づき補正される。例えば、Q(#2)に対するTq(#2)の比率を算出し、Tq−Qマップに記憶されているQに対するTq値が、前記比率となるようにTq値を補正する。
【0069】
以上により、本実施形態によれば、ΔNE(#2)から微小噴射量Q(#2)を換算するための換算値マップを要することなく、センサ無し噴射弁10(#2)にかかる微小噴射量Q(#2)を推定できる。また、このように推定した微小噴射量Q(#2)を用いて、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射制御に用いるTq−Qマップを補正するので、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射状態を高精度で制御できる。
【0070】
また、本実施形態によれば、無噴射減速運転中(S10:YES)に微小噴射を実施してΔNE(第1出力および第2出力に相当)を検出するので、その微小量の噴射に起因して生じたΔNE(#1,#2)を高精度に検出でき、ひいては微小噴射量Q(#2)の推定精度を向上できる。
【0071】
ここで、微小噴射を実施するにあたり、センサ有り噴射弁10(#1)に対する噴射開始時期t1aから、センサ無し噴射弁10(#2)に対する噴射開始時期t1bまでの時間間隔t1a〜t1bが長いほど、センサ有り噴射弁10(#1)での噴射条件と、センサ無し噴射弁10(#2)での噴射条件とが異なってくることが懸念される。前記噴射条件の具体例としては、基準圧力Pbaseやエンジン回転速度NE、燃料温度等が挙げられる。そして、上述の如く噴射条件が異なってくると、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる相関値Ca(#1)と、センサ無し噴射弁10(#2)にかかる相関値Ca(#2)とのずれが大きくなるので、微小噴射量Q(#2)の推定精度悪化が懸念される。この点を鑑みた本実施形態では、前記時間間隔t1a〜t1bが所定時間未満となるように微小噴射を実施することで、上記懸念の解消を図っている。
【0072】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、無噴射減速運転中(S10:YES)であることを条件として、微小噴射を実施してΔNE(第1出力および第2出力に相当)を検出している。これに対し、本実施形態では、このような条件に拘わらず、通常の走行時に瞬時NEを逐次検出し、その瞬時NEの変化に基づき第1出力および第2出力を検出する。以下、このように検出した出力を用いてセンサ無し噴射弁10(#2)からの噴射量を推定する本実施形態の手法について、図7および図8を用いて説明する。
【0073】
図7に示す処理は、ECU30が有するマイクロコンピュータによりエンジン運転中に繰り返し実行されるものであり、先ずステップS20において、エンジン回転速度NEの瞬時値(瞬時NE)を算出する。なお、図8(a)は瞬時NEの変化を示す。
【0074】
続くステップS21(出力検出手段)では、ステップS20で算出した瞬時NEに基づき、エンジン出力の瞬時値(瞬時トルク)を算出する。詳細には、瞬時NEの変化率に換算係数を乗算することで瞬時トルクを算出する。なお、図8(b)中の実線は瞬時トルクの変化を示す。
【0075】
続くステップS22(出力検出手段)では、ステップS21で算出した瞬時トルクに基づき、各気筒の仕事量Wを算出する。詳細には、各気筒の爆発周期(180CA)の区間において、瞬時トルクの値を積分した値(図8(b)中の斜線を付した面積)を、各気筒の仕事量Wとする。なお、図8(c)中の符号W(#1)〜W(#4)に示す各点は、各気筒の仕事量を表す。
【0076】
なお、仕事量W(#1)が「第1出力」に相当し、仕事量W(#2)が「第2出力」に相当する。ちなみに、検出した仕事量W(#1)〜W(#4)を用いて、各気筒の仕事量W(#1)〜W(#4)のばらつきを解消させるように、各気筒に対する噴射指令信号Tqを補正する気筒間補正を実施してもよい。
【0077】
続くステップS23(第1噴射量算出手段)では、#1気筒の仕事量W(#1)に寄与した燃料噴射量、つまり、センサ有り噴射弁10(#1)からの噴射量Q(#1)について、燃圧センサ22の検出値に基づき図2の手法により算出した値(実噴射量Q(#1))を取得する。
【0078】
続くステップS24では、ステップS22で算出した#1気筒の仕事量W(#1)と、ステップS23で取得した#1気筒の実噴射量Q(#1)との相関値Cb(#1)を算出する。詳細には、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる実噴射量Q(#1)と仕事量W(#1)との比率を相関値Cb(#1)として算出する。なお、相関値Cb(#1)は「第1相関値」に相当する。
【0079】
続くステップS25(第2噴射量推定手段)では、#2気筒の仕事量W(#2)に寄与した燃料噴射量、つまり、センサ無し噴射弁10(#2)からの実噴射量Q(#2)を、ステップS24で算出した相関値Cb(#1)およびステップS22で検出した#2気筒の仕事量W(#2)に基づき推定する。詳細には、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる相関値Cb(#1)に、センサ無し噴射弁10(#2)にかかる仕事量W(#2)を乗算して、実噴射量Q(#2)を算出する。
【0080】
要するに、センサ有り噴射弁10(#1)にかかるQ(#1)とW(#1)との相関値Cb(#1)は、センサ無し噴射弁10(#2)にかかるQ(#2)とW(#2)との相関値Cb(#2)と殆ど同じであると見なしており、検出可能なQ(#1)、W(#1)およびW(#2)の値から、検出不能であるQ(#2)を推定している。
【0081】
また、上記第1実施形態と同様にして、センサ有り噴射弁10(#1)の噴射制御については、噴射率パラメータマップMの値を参照して噴射指令信号t1、t2、Tqを設定し、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射制御については、Tq−Qマップを用いて噴射制御する。そして、Tq−Qマップに記憶されているTqの値は、図7の処理により推定した噴射量Q(#2)、およびその噴射量Q(#2)を噴射指令した時の指令信号Tqとの値に基づき補正される。例えば、Q(#2)に対するTq(#2)の比率を算出し、Tq−Qマップに記憶されているQに対するTq値が、前記比率となるようにTq値を補正する。
【0082】
以上により、本実施形態によれば、仕事量W(#2)から噴射量Q(#2)を換算するための換算値マップを要することなく、センサ無し噴射弁10(#2)にかかる噴射量Q(#2)を推定できる。また、このように推定した噴射量Q(#2)を用いて、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射制御に用いるTq−Qマップを補正するので、センサ無し噴射弁10(#2)の噴射状態を高精度で制御できる。
【0083】
また、本実施形態によれば、無噴射減速運転中であるか否かに拘わらずセンサ無し噴射弁10(#2)にかかる噴射量Q(#2)を推定できるので、上記第1実施形態に比べてTq−Qマップを補正する機会(学習機会)を多くでき、当該Tq−Qマップの精度向上を促進できる。
【0084】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、ΔNE(#2)から微小噴射量Q(#2)を換算するための換算値マップを廃止しているのに対し、本実施形態では、当該換算値マップを用いてセンサ無し噴射弁10(#2)の微小噴射量Q(#2)を算出している。以下、図9を用いて、本実施形態による微小噴射量Q(#2)の算出手法を説明する。
【0085】
先ず、センサ無し噴射弁10(#2)において、図5のステップS10〜S12と同様にして、無噴射減速運転時に微小噴射を実施し(手段F1)、エンジン回転速度の増大分ΔNE(#2)を検出する(手段F2)。そして、検出したΔNE(#2)をエンジンの出力トルクTrq(#2)に換算する(手段F3)。このトルク換算では、瞬時NEの変化率に換算係数を乗算することで瞬時トルクを算出し、算出した瞬時トルクの値を爆発周期(180CA)の区間において積分し、その積分値を出力トルクTrq(#2)として算出すればよい。
【0086】
ここで、メモリ30a(記憶手段)には、以下に説明するマップM1(図9参照)が予め記憶されている。すなわち、センサ無し噴射弁10(#2)から噴射された燃料の燃焼により生じた出力トルクTrq(#2)と、その出力トルクTrq(#2)を生じさせた燃料の噴射量Q(#2)との相関値Cc(#2)を、予め試験を実施して取得しておく。この試験により取得した相関値Cc(#2)を試験条件と関連付けて記憶させたのが、前記マップM1である。前記試験条件の具体例としては、微小噴射時の燃料供給圧力(基準圧力Pbase)やエンジン回転速度NE、燃料温度等が挙げられる。
【0087】
そして、次の手段F4では、前記マップM1のうち、手段F1により微小噴射させた時の条件に該当する相関値Cc(#2)を用いて、手段F3で算出したTrq(#2)を噴射量(#2)に換算する(手段F4)。詳細には、Trq(#2)に相関値Cc(#2)を乗算して噴射量(#2)を算出する。
【0088】
一方、センサ有り噴射弁10(#1)においても、手段F1〜F3と同様にして、無噴射減速運転時に微小噴射を実施し(手段F5)、エンジン回転速度の増大分ΔNE(#1)を検出し(手段F6)、検出したΔNE(#1)をエンジンの出力トルクTrq(#1)に換算する(手段F7)。そして、手段F1により微小噴射した時の噴射量Q(#1)について、燃圧センサ22の検出値に基づき図2の手法により算出した値(実噴射量Q(#1))を取得する(手段F8)。
【0089】
そして、次の手段F9では、手段F7で算出した出力トルクTrq(#1)と、手段F8で取得した実噴射量Q(#1)との相関値Cc(#1)を算出する。詳細には、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる実噴射量Q(#1)と出力トルクTrq(#1)との比率を相関値Cc(#1)として算出する。なお、相関値Cc(#1)は「第1相関値」に相当し、相関値Cc(#2)は「第2相関値」に相当する。
【0090】
さらに、手段F9(補正手段)は、算出した相関値Cc(#1)を用いて、先述したマップM1に記憶されている相関値Cc(#2)を補正する。詳細には、マップM1のうち、手段F5により微小噴射させた時の条件に該当する相関値Cc(#2)を、相関値Cc(#1)に置き換えて補正する。或いは、前記相関値Cc(#2)を相関値Cc(#1)に近づけるように補正する。
【0091】
要するに、基準圧力Pbaseやエンジン回転速度NE、燃料温度等の条件が同じであれば、センサ有り噴射弁10(#1)にかかる相関値Cc(#1)と、センサ無し噴射弁10(#2)にかかる相関値Cc(#2)とは殆ど同じであると見なしており、検出可能な相関値Cc(#1)から、検出不能である相関値Cc(#2)を補正している。
【0092】
以上により、本実施形態によれば、センサ無し噴射弁10(#2)について、出力トルクTrq(#2)を噴射量Q(#2)に換算するマップM1が必要となるものの、燃圧センサ22により把握可能な、センサ有り噴射弁10(#1)についての相関値Cc(#1)を用いてマップM1を補正するので、マップM1に記憶されている、センサ無し噴射弁10(#2)についての相関値Cc(#2)を高精度にできる。
【0093】
或いは、基準圧力Pbaseやエンジン回転速度NE、燃料温度等の各種条件と関連付けて相関値Cc(#2)を記憶させるにあたり、各種条件の領域数を少なくして、相関値Cc(#2)のデータ点数を少なくできる。よって、試験によりマップM1を作成する作業負荷の軽減を図ることができる。
【0094】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0095】
・上記第1実施形態では、微小噴射量の燃焼に伴い生じたエンジン回転速度NEの増大量ΔNEを、エンジン出力の増大分とみなして検出しているが、このような増大量ΔNEの検出に替え、例えば筒内圧センサにより燃焼室内の圧力の増大量を検出し、その筒内圧増大量をエンジン出力の増大分とみなして検出するようにしてもよい。
【0096】
・上記第2実施形態では、エンジン回転速度NEの変化に基づき瞬時トルク(仕事量W)を算出しているが、先述した筒内圧センサにより燃焼室内の圧力の変化を検出し、その筒内圧変化に基づき仕事量Wを検出するようにしてもよい。
【0097】
・上記第1実施形態では、ΔNE(#1)と噴射量Q(#1)との相関値Ca(#1)を、噴射量Q(#2)の推定に用いているが、ΔNE(#1)に基づきエンジンの出力トルクTrq(#1)の増加分を算出し、当該トルク増加分とΔNE(#1)との相関値を噴射量Q(#2)の推定に用いるようにしてもよい。
【0098】
・上記各実施形態では、燃圧センサ22を2つの気筒に搭載させているが、1つの気筒だけに搭載するようにしてもよい。また、図1に示す上記実施形態では、燃圧センサ22を燃料噴射弁10に搭載しているが、本発明にかかる燃圧センサはコモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料供給経路内の燃圧を検出するよう配置された燃圧センサであればよい。よって、例えばコモンレール42と燃料噴射弁10とを接続する高圧配管42bに燃圧センサを搭載してもよい。
【符号の説明】
【0099】
10(#1)…センサ有り噴射弁(第1燃料噴射弁)、10(#2)…センサ無し噴射弁(第2燃料噴射弁)、22…燃圧センサ、30a…記憶手段、Cb(#1),Cc(#1)…第1相関値、Cc(#2)…第2相関値、F9…補正手段、Q(#1)…第1噴射量、Q(#2)…第2噴射量、S12,S21,S22…出力検出手段、S13,S23…第1噴射量算出手段、S15,S25…第2噴射量推定手段、W(#1)…仕事量(第1出力)、W(#2)…仕事量(第2出力)、Ca(#1),ΔNE(#1)…エンジン回転速度の増大分(第1出力)、ΔNE(#2)…エンジン回転速度の増大分(第2出力)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の第1気筒に備えられた第1燃料噴射弁、および第2気筒に備えられた第2燃料噴射弁と、
前記第1燃料噴射弁からの燃料噴射時に、前記第1燃料噴射弁の内部で生じた燃料の圧力変化を検出する燃圧センサと、
を備える燃料噴射システムに適用され、
前記内燃機関の出力であって、前記第1燃料噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第1出力、および前記第2燃料噴射弁から噴射された燃料の燃焼に伴い生じた第2出力を検出する出力検出手段と、
前記第1出力を生じさせた前記第1燃料噴射弁からの燃料噴射量である第1噴射量を、前記燃圧センサの検出値に基づき算出する第1噴射量算出手段と、
前記第2出力を生じさせた前記第2燃料噴射弁からの燃料噴射量である第2噴射量を、検出した前記第1出力、前記第2出力、および算出した前記第1噴射量に基づき推定する第2噴射量推定手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
燃料噴射を停止して減速運転している時に、所定量未満の微小量の燃料を前記第1燃料噴射弁および前記第2燃料噴射弁から順次噴射し、それらの噴射に伴い生じた前記第1出力および前記第2出力を前記出力検出手段により検出させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記第1燃料噴射弁および前記第2燃料噴射弁から順次燃料を噴射して運転している時に、それらの噴射に伴い生じた前記第1出力および前記第2出力を前記出力検出手段により検出させることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
検出した前記第1出力および算出した前記第1噴射量の相関を表した第1相関値を算出する第1相関値算出手段を備え、
前記第2噴射量推定手段は、検出した前記第2出力および前記第1相関値に基づき前記第2噴射量を推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記第2出力および前記第2噴射量の相関を表した第2相関値であって、試験により予め取得しておいた前記第2相関値を記憶する記憶手段と、
検出した前記第1出力および算出した前記第1噴射量の相関を表した第1相関値に基づき、前記記憶手段に記憶されている前記第2相関値を補正する補正手段と、
を備え、
前記第2噴射量推定手段は、前記補正手段により補正された前記第2相関、および検出した前記第2出力に基づき前記第2噴射量を推定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44237(P2013−44237A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180319(P2011−180319)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】