説明

燃料電池自動二輪車

【課題】燃料電池内で生成される水の排水が乗員に飛散したり、タイヤに飛散したりしないようにする排水管兼用排気管のレイアウトを提供する。
【解決手段】燃料電池25から供給される湿潤な余剰ガスは希釈ボックス32で燃料電池25から排出され、加湿器30で空気を加湿した後のオフガスで希釈される。希釈ボックス32には排気管38が連結され、希釈された水素ガスは排気管38を経て排出される。水素ガスに混入される水蒸気は排気管38内で凝縮されて水となり、パワーユニット19内を貫通して車体後方に延長される排気管38を通じて排出される。排気管38の排気口(燃料電池の生成水の排水口でもある)は車体幅中央に位置するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池自動二輪車に関し、特に、燃料電池内で生成された水を車体外へ排出する排水装置を有する燃料電池自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保護や化石燃料に代わるエネルギ資源の確保の見地から燃料電池が着目されるようになり、燃料電池で発生する電気エネルギを利用して駆動されるモータを動力源とする燃料電池自動二輪車が開発されている。燃料電池では発電の際に燃料である水素から水素イオンと電子を放出し、この水素イオンがカソードで酸素および前記水素から放出された電子と結合して水を生成する。特開2001−313056号公報には、燃料電池の排水装置が開示されている。この排水装置では排出口を車体の側方に配設し、タイヤに排水がかからないように車体の側方に排水している。
【特許文献1】特開2001−313056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された排水装置では、車体の側方に排水口を配設しているので、足つき時の運転者や同乗者の足に排水が飛散するおそれがある。これを回避しようとすると、排水口や同乗者用の足置きステップ等の自由なレイアウトが困難となる。また、排出口を車体側面に配置すると車幅が大きくなるし、車体側面に露出する排水口によって車体の美観をそこなうおそれがある。したがって、燃料電池自動二輪車では排水口のレイアウトが課題である。
【0004】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、燃料電池内で生成された水を車体外に排出する排水口のレイアウトを工夫し、車輪や乗員の足等に水を飛散させることなく、かつ車幅の増大や美観の低下を回避することができる排水構造を有する燃料電池自動二輪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明は、燃料電池で発生する電力を電源とするモータで駆動される燃料電池自動二輪車において、前記燃料電池が後車輪よりも前部に配置されているとともに、前記モータを支承し、自動二輪車のフレームボディに対して上下方向に揺動自在に枢支されたパワーユニットと、前記燃料電池の内部で生成された水を外へ排出するため該燃料電池に連結され、かつ前記パワーユニット内を貫通して後車輪よりも後方に延長された排水管とを備え、前記排水管の後端部に排水口が設けられている点に第1の特徴がある。
【0006】
また、本発明は、前記排水管の途中に設けられ、前記パワーユニット内に収容されたサイレンサを備えている点に第2の特徴がある。
【発明の効果】
【0007】
上記第1の特徴を有する本発明によれば、排水管の排水口を車体後方に開口させたので、排水が乗員の足にかかるおそれがなくなる。また、車体側方へ排水管が張り出すことがないので、バンク角への影響が小さくなるし、美観上も好ましいものとなる。さらに、排水管をパワーユニット内に配置したので、パワーユニット内のスペースを有効に利用できるし、より好ましい外観を提供することができる。
【0008】
第2の特徴を有する本発明によれば、サイレンサをパワーユニット内に設けたので、排気音の低減効果が増大する。特に、燃料電池の生成水と排気が混入して排気と共に排水管から排出されるときの雑音の低減効果もある。また、サイレンサがパワーユニット内に収容されるので、外観が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車の右側面図であり、図2は該燃料電池自動二輪車の左側面図、図3は同正面図、図4は同背面図である。これらの図において、燃料電池自動二輪車1の左右一対の部分については、左のものに符号「L」を付し、右のものに符号「R」を付する。燃料電池自動二輪車は電気化学反応で電気エネルギを発生させるための水素供給系、酸素供給系、およびセルスタック(電極、セパレータ、電解質等を含む)からなる燃料発電機システムを備える。本明細書では、セルスタックおよびこれを収容するケーシング(ケーシングに付属する部材を含む)を併せて燃料電池と呼ぶ。
【0010】
燃料電池自動二輪車(以下、単に「自動二輪車」と呼ぶ)1のフレームボディ2は、ヘッドパイプ3と、ヘッドパイプ3に前端が接合されて車体後方(符号Rrで示す方向)に延びている上部フレーム4L、4Rならびに下部フレーム5L、5Rと、上部フレーム4L、4Rに前端を接合された後部フレーム6L、6Rとを含んでいる。後部フレーム6L、6Rには後上部サブフレーム7L、7Rの前部が接合され、上部フレーム4L、4Rの後部には後下部フレーム8L、8Rの後端が接合されている。後上部サブフレーム7L、7Rおよび後下部サブフレーム8L、8R、ならびに後上部サブフレーム7L、7Rと後下部サブフレーム8L、8Rとに端部が接続されたバンド9によってガスボンベ10L、10Rを車体に保持するボンベ保持部を構成している。ヘッドパイプ3にはステアリングステム11が回動自在に支持され、ステアリングステム11の上端にはハンドル12が結合され、下端には前車輪13を支持するフロントフォーク14が結合されている。
【0011】
上部フレーム4L、4Rと下部フレーム5L、5Rとは後端部で互いに接合され、その接合部には、車幅歩行水平に延びている枢軸15が設けられる。枢軸15はスイングアーム16の前部に連結されたスイングアーム16をフレームボディ2に対して揺動自在に支持する。スイングアーム16とスイングアーム16に支持された自動二輪車1の原動機としてのモータ17とモータドライバ18とによってパワーユニット19が構成されている。後部フレーム6L、6Rには、上端が結合されて斜め後下方に延びたリアサスペンション20が設けられ、リアサスペンション20の下端はスイングアーム16に結合されている。モータ17で駆動される軸21には後車輪22が結合されている。上部フレーム4L、4Rと後部フレーム6L、6Rとにまたがる領域の上部には電子制御装置(ECU)を収容するECUケース23が設けられる。乗員用のシート24は、このECUケース23を覆うように設けられる。
【0012】
フレームボディ2は上述の各フレームによって全体がクレードル型つまり籠型に形成され、その籠型のボディフレーム2で囲まれた機器搭載領域には、燃料電池25、電圧調整器(VCU)26、ウォータポンプ27、イオン交換器28、過給器29、加湿器30、気液分離器31、および希釈ボックス32、エアフローセンサ33、およびサーモスタット34が設けられる。過給器29は過給器モータ29aで回転される。
【0013】
具体的配置例としては、フレームボディ2内の前上部にウォータポンプ27が配置され、中央部下方に過給器29および加湿器30が配置され、過給器29および加湿器30の上方にVCU26が配置される。燃料電池25は、フレームボディ2の最後部つまり枢軸15の直前部でECUケース23の下方に収容される。燃料電池25は側面視長方形の外観を有しており、この長方形が縦長になるように設置される。燃料電池25の下方には気液分離器31と希釈ボックス32が設けられる。
【0014】
さらに、フレームボディ2の前方には燃料電池25の冷却水用ラジエータ35が設けられ、ヘッドパイプ3の上方を囲むようにエアクリーナ36とラジエータ35のリザーバタンク37が設けられる。
【0015】
VCU26は燃料電池25で発電された電力の電圧調整を行い、ウォータポンプ27は冷却システムの冷却液を循環させ、イオン交換器28は冷却水中のイオンを除去して燃料電池25の地絡を防ぐ。過給器29は反応ガスつまり空気を圧縮し、加湿器30は燃料電池25に供給される反応ガスと燃料電池25から排出される使用済み反応ガスとの間で水分の交換を行い、気液分離器31は反応に使用されなかった余剰水素ガス中で所定の膨張作用等によって生成された水分を回収する。希釈ボックス32はパージした水素ガスを使用済み反応ガスで希釈し、エアフローセンサ33は流入空気量を検出し、サーモスタット34は暖機運転時および過冷却時に冷却水の循環経路を切り換える。
【0016】
希釈ボックス32には、耐熱ゴム等の可撓性材料からなる排気管38が連結されており、この排気管38は斜め上後方に枢軸15近傍まで立ち上がり、そこからやや下がり気味に車体後方に延長されている。排気管38の途中にはサイレンサ39が設けられる。排気管38はパワーユニット19のケーシング内を通り、出口38aはパワーユニット19から車体幅方向中央部で後方に突出し、やや下方に向けて設けられている。なお、排気管38は燃料電池25の排気を車体外に放出するが、この排気管38には燃料電池25内で生成された水分も混入されて排気と共に排出されるので、排気管38は排水管としても機能し、出口38aは排水口としても機能する。すなわち、排気管38は燃料電池25内で生成された水分の排水管を兼ねる管部材であり、本明細書では排気管38は同時に排水管をも意味する。
【0017】
エアクリーナ36を取り囲むようにヘッドライト40が配置されている。ヘッドライト40は、エアクリーナ36から空気を取り込むエア通路と同心で配置され、ヘッドパイプ3に接合された支持パイプ41によって支持された環状の灯具40aと灯具40aに取り付けられた発光部40bとを有している。発光部40bは灯具40aの形状に沿って環状に配置された複数の発光ダイオードで構成することができる。
【0018】
車体の後部には、ヘッドライトと同様の環状に形成されたテールライト42が設けられる。テールライト42は灯具42aと発光部42bとからなり、発光部42bは灯具42aの形状に沿って環状に配置された複数の発光ダイオードで構成することができる。
【0019】
ガスボンベ10L、10Rを保持している後上部サブフレーム7L、7Rには、同乗者用の背もたれ43が取り付けられている。背もたれ43は後上部サブフレーム7L、7Rに結合された軸受け部44によりシート24に沿うように前倒し可能に設けられている。
【0020】
次に、燃料電池による発電システムを説明する。図5は、燃料電池25の冷却系統図である。冷却系統200は燃料電池25を冷却した冷媒をラジエータ35に循環させる経路を構成する。燃料電池25の下面には冷却水導入部を介して冷却水導入管50が接続され、上面の冷却水出口部には冷却水排出管51が接続される。冷却水排出管51は燃料電池25の上部から車体前部のラジエータ35側に向かって設けられた下がり勾配部を有し、端部がウォータポンプ27に接続される。ウォータポンプ27はさらにラジエータ35の上部でラジエータ35の第1タンク35aに接続される。冷却水排出管51には下り勾配部を設けているので、燃料電池25で発生した気泡がこの勾配部上部に溜まりやすく、燃料電池25の冷却水出口部に設けられるガス抜き孔から気泡を排出させやすいという利点がある。
【0021】
冷却水導入管50は、サーモスタット34を経由してラジエータ35の第2タンク35bに接続される。サーモスタット34は4つのポートを有していて、冷却水導入管50が接続されていない二つのポートのうち一つはイオン交換器28を介して冷却水排出管51に接続され、他の一つはラジエータ35の下部で第1タンク35aに接続されている。冷却水温度が低い始動時等には第1タンク35aを介してウォータポンプ27にサーモスタット34を接続し、ラジエータ35をバイパスして冷却水を循環させ、暖機運転時の発電効率を向上させている。そして、暖機運転終了後の通常運転時はサーモスタット34を経由して冷却水導入管50をラジエータ35の第2タンク35bに接続し、ラジエータ35で冷却された冷却水を燃料電池25に循環させる。
【0022】
図6は燃料電池への水素ガスの供給系統図である。水素ガス供給系統100は、ガスボンベ10L、10Rに充填されている高圧水素ガスを燃料電池25に供給する水素ガス供給部110と、燃料電池25で発電に使用された後の余剰水素ガスを燃料電池25へ循環して再使用するための余剰ガス循環部120とからなる。
【0023】
水素ガス供給部110は、ガスボンベ10L、10Rと、調圧ユニット53と、イジェクタユニット54とを含む。余剰ガス循環部120は、過給器29と、加湿器30と、気液分離器31と、希釈ボックス32と、排気管38に設けられたサイレンサ39とを含む。
【0024】
ガスボンベ10L、10Rに充填されている高圧水素ガスは、調圧ユニット53に含まれる手動弁531、電磁遮断弁532、第1レギュレータ533、および第2レギュレータ534等でイジェクタユニット54に対する供給圧力に調整される。圧力を調整された水素ガスはイジェクタユニット54の熱交換器541で冷却される。イジェクタユニット54は、イジェクタ542および差圧レギュレータ543を有していて、水素ガスは差圧レギュレータ543によって空気側の圧力に対して所定圧に調整される。イジェクタ542は新たな水素ガスだけでなく、気液分離器31からの未反応水素ガスも負圧で吸い込んで燃料電池25に導入する。
【0025】
水素ガスは燃料電池25で発電に供された後、湿潤な余剰ガスとして気液分離器31に導入される。気液分離器31では、供給された水素ガスから水分を分離抽出し、水分が抽出された未反応の水素ガスは戻り管路Pを介してイジェクタ542に循環される。
【0026】
また、燃料電池25における生成水の一部は、燃料電池25から排出される空気(オフガス)と共に水蒸気として加湿器30内に導入され、エアクリーナ36から取り込まれて過給器29で圧縮された新たな空気(酸化剤ガス)の加湿に供される。加湿された空気は燃料電池25に導入される。
希液分離器31で気液分離して抽出された水素ガスは燃料電池25に循環して再使用されるが、再使用を続けると不純物濃度が高くなるので、電磁弁55を開いて時々排出する。排出される水素ガスは希釈ボックス32に導入され、加湿器30を経て希釈ボックス32に導入される燃料電池25からのオフガスで希釈される。希釈された水素ガスはサイレンサ39を経由して外気に放出される。
【0027】
また、過給器29で圧縮された空気を加湿器30をバイパスして燃料電池25に供給するためのバイパス56を有する。低温始動時に燃料電池25を迅速に暖めるためにバイパス弁57を開いてバイパス56から燃料電池25へ空気を直接供給することができる。
【0028】
上記構成により、燃料電池25では、燃料極(マイナス極)の働きにより、ガスボンベ10L、10Rから供給された水素から電子が切り離され、電子が切り離された水素イオンは電解質を通り空気極(プラス極)に移動する。一方、水素から切り離された電子が空気極に戻るように回路が設けられ、空気極では空気中の酸素および戻ってきた電子が反応して水蒸気が発生する。この反応により、外部回路を継続的に電子が移動し、電流が流れる。モータ17はこの外部回路中に設けられる。燃料電池25で発電した電力は、例えばフロントフォーク14を挟んで縦長に配置されるバッテリ48(図3参照)に一旦蓄えられ、ここからモータ17に供給される。
【0029】
上述のように、本実施形態では、オフガスの排気管38を車体の後方に延長して車体の幅方向中央部から排気するようにした。したがって、排気中に含まれる水分がタイヤや乗員の足にかかるのを防止できる。なお、排気管38はパワーユニット19の内部を通すものに限定されず、例えば、後車輪を片持ちのスイングアームで支持する形式のパワーユニットを備える自動二輪車では、パワーユニットを設けていない側で車体に沿って排気管38を延長し、先端部つまり出口38aが車体幅中央に位置するように排気管38を屈曲させてもよい。また、本発明は、排気管38の出口38aが車体後方に突出していればよく、必ずしも車体幅中央に出口38aを配置するものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車の右側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車の左側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車の正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る燃料電池自動二輪車の背面図である。
【図5】燃料電池の冷却系統を示すブロック図である。
【図6】燃料電池の水素ガス供給系統図である。
【符号の説明】
【0031】
1…自動二輪車、 2…フレームボディ、 3…ヘッドパイプ、 10L、10R…ガスボンベ、 17…モータ、 19…パワーユニット、 25…燃料電池、 27…ウォータポンプ、 28…イオン交換器、 29…過給器、 30…加湿器、 31…気液分離器、 32…希釈ボックス、 35…ラジエータ、 38…排気管(排水管)、 38a…排水口(排気口)、 100…水素ガス供給系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池で発生する電力を電源とするモータで駆動される燃料電池自動二輪車において、
前記燃料電池が後車輪よりも前部に配置されているとともに、
前記モータを支承し、自動二輪車のフレームボディに対して上下方向に揺動自在に枢支されたパワーユニットと、
前記燃料電池の内部で生成された水を外へ排出するため該燃料電池に連結され、かつ前記パワーユニット内を貫通して後車輪よりも後方に延長された排水管とを備え、
前記排水管の後端部に排水口が設けられていることを特徴とする燃料電池自動二輪車。
【請求項2】
前記排水管の途中に設けられ、前記パワーユニット内に収容されたサイレンサを備えていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−213742(P2008−213742A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56273(P2007−56273)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】