説明

燃料電池車両

【課題】燃料電池車両において、簡易な構造で、車体の下部に搭載されたタンクの温度低下を抑制する。
【解決手段】燃料電池車両10は、車体の下部に搭載されたタンク18を覆って保護するカバー28を有する。カバー28は、タンク18より車両前方側に形成され、カバー28内に空気を導入する導入口32と、タンク18より車両後方側に形成され、導入口32からカバー28内に導入された空気を排出する排出口34とを有する。この構成により、車両走行時に、カバー28内を通過する走行風により、タンク18の温度低下を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池車両に関し、特に燃料電池に用いられる燃料ガスを貯蔵するタンクの搭載構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水素ガス等の燃料を燃料電池に供給し、その電池で発電した電力により走行する燃料電池車両が知られている。このような燃料電池車両においては、車室空間をできる限り確保するため、燃料電池に用いられる燃料ガスを高圧状態で貯蔵するタンクを車体下部に搭載する例がある。この場合、タンクはカバーによって覆われ、路面、飛び石、水などの外部環境から保護される。
【0003】
このようなタンクにおいては、タンクから燃料電池へ燃料ガスが供給され、タンク内の圧力が低下すると、通常、タンクの温度が低下する。そして、タンクの温度が大幅に低下すると、タンク自体の収縮によりタンクが劣化してしまう。
【0004】
下記特許文献1には、燃料電池と、燃料電池を冷却する冷却ファンと、燃料電池に供給される燃料ガスを貯蔵する燃料ボンベとを有する燃料電池二輪車が記載されている。この特許文献1の車両においては、冷却ファンが、燃料電池を冷却した後の暖かい空気を燃料ボンベに送ることで、燃料ガスの消費に伴う燃料ボンベの温度低下を防止している。
【0005】
下記特許文献2には、車体の屋根に設置されたガス燃料タンクと、ガス燃料タンクを覆って保護するルーフカバーとを有する車両が記載されている。また、この特許文献2には、ルーフカバーには、開口である外気導入部が形成され、車両走行時の走行風が外気導入部からルーフカバー内部に導入されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−78623号公報
【特許文献2】特開2006−188170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の燃料電池車両においては、タンクの温度が所定値(例えば−40℃)まで低下した場合、タンクの圧力の低下を抑制する、言い換えればタンクから燃料電池へ供給される燃料ガスの流量を減少させることで、タンクの温度低下を抑制していた。しかしながら、燃料ガスの流量の減少により燃料電池の出力が低下するので、車両の走行性能が低下してしまうという問題がある。
【0008】
上記特許文献1のように、空気を送るファンを設け、そのファンの動作によりタンクの温度低下を抑制することが考えられる。しかし、上述したように、車体の下部にタンクを搭載する燃料電池車両においては、車体の下部に、ファンと、このファンを保護するカバーとを設けなければならず、構造が複雑になってしまう。
【0009】
本発明の目的は、簡易な構造で、車体の下部に搭載されたタンクの温度低下を効果的に抑制することができる燃料電池車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車体の下部に搭載され、燃料電池に供給される燃料ガスを高圧状態で貯蔵するタンクと、タンクを覆って保護するカバーと、を有する燃料電池車両において、カバーは、タンクより車両前方側に形成され、カバー内に空気を導入する導入口と、タンクより車両後方側に形成され、導入口からカバー内に導入された空気を排出する排出口と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、燃料電池と導入口とを接続し、燃料電池から排出される排ガスが流れる排ガス路を有することができる。
【0012】
また、車体には、複数のタンクが車両前方から後方に向けて順に並んで搭載され、カバー内部には、導入口から導入された空気を、最も車両前方側に位置するタンクより後方へ導くダクトが設けられていることが好適である。
【0013】
また、カバー内部には、さらに、ダクトの出口から出た空気を、この出口より後方のタンクに案内するガイド部が設けられていることが好適である。
【0014】
また、排出口が、カバーの下面と後面の少なくとも一方に形成されることが好適である。
【0015】
さらに、導入口と排出口は、同じ形状であることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の燃料電池車両によれば、簡易な構造で、車体の下部に搭載されたタンクの温度低下を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る燃料電池車両に搭載される燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】タンクが搭載される車体の下部を側面から見たときの概略構成を示す図である。
【図3】カバー内部を上方から見下ろした平面図である。
【図4】別の態様におけるタンクが搭載される車体の下部を側面から見たときの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る燃料電池車両の実施形態について、図を用いて説明する。
【0019】
まず、本実施形態の燃料電池車両10に搭載される燃料電池システム12について図1を用いて説明する。燃料電池システム12は、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電を行なう燃料電池14を有する。なお、燃料電池システム12に用いられる燃料ガスは水素であり、酸化ガスは空気である。
【0020】
燃料電池14には、これのアノード(図示せず)に燃料ガスを供給する燃料ガス流路16と、燃料電池14のカソード(図示せず)に酸化ガスを供給する酸化ガス流路(図示せず)とが接続されている。
【0021】
燃料電池14は、例えばフッ素樹脂などの高分子材料により形成されたプロトン導電性の膜体である電解質膜を有する固体高分子型の燃料電池である。この電池の単位セル(図示せず)は、電解質膜をアノードとカソードとで挟んで構成される膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を、二枚のセパレータでさらに挟んで構成される。この単位セルを複数積層することにより、燃料電池14が構成される。
【0022】
燃料電池システム12は、燃料ガスを燃料電池14に供給する燃料ガス源として、タンク18を2個有する。タンク18は、燃料ガスを高圧状態(例えば70MPa)にして貯蔵する。タンク18と燃料電池14は、燃料ガス流路16で接続される。なお、タンク18の数は一例であって、本発明は、後述するようにタンク18の数2個に限定されない。
【0023】
燃料ガス流路16には、タンク18から燃料電池14に向けて主止弁20と減圧弁22とが順に取り付けられている。主止弁20は、各タンク16にそれぞれ対応するように燃料ガス流路16に取り付けられる。主止弁20は、電気信号により電磁石を駆動して弁を開閉する電磁弁である。そして、減圧弁22は、タンク18から導入される燃料ガスの圧力(例えば70MPa)を、燃料ガスの供給先である燃料電池14に適した圧力(例えば1MPa)まで減圧する装置である。
【0024】
このように構成される燃料電池システム12から出力される電力により原動機であるモータ(図示せず)が駆動することで、燃料電池車両10が走行する。
【0025】
次に、本実施形態の燃料電池車両10の構成について、図2,3を用いて説明する。図2は、タンクが搭載される車体の下部を側面から見たときの概略構成を示す図であり、図3は、カバー内部を上方から見下ろした平面図である。
【0026】
本実施形態における燃料電池車両10においては、車体の下部構造であるボディフレーム24の下部にタンク18が2個配置される。タンク18は、固定用ブラケット26を介してボディフレーム24に固定される。
【0027】
これらのタンク18は、内部に貯蔵された燃料ガスの圧力が分散されるように円筒状、いわゆるシリンダ状に形成される。そして、2個のタンク18は、車両前方から後方に向けて順に並んで、それぞれが車幅方向に延在するように配置される。
【0028】
また、ボディフレーム24には、タンク18を覆うカバー28が取り付けられる。カバー28は、いわゆるアンダーカバーであり、タンク18を覆うことにより、路面、飛び石、水などの外部環境からタンク18を保護し、タンク18の損傷または劣化を防止する。カバー28の下面には、カバー28内部に侵入した石または水などを落下させる石抜き孔30が形成される。
【0029】
本実施形態の燃料電池車両10においては、カバー28が、カバー28内に空気を導入する導入口32と、導入口32からカバー28に導入された空気を排出する排出口34とを有することを特徴とする。導入口32は、タンク18より車両前方側に形成され、排出口34は、タンク18より車両後方側に形成される。
【0030】
このように構成される燃料電池車両10においては、簡易な構造で、走行時に、外気がタンク18に供給される。すなわち、走行時に、走行風として空気が導入口32からカバー28内に導入され、導入された空気が、カバー28内のタンク18と積極的に熱交換を行ない、その後、排出口34から排出される。ここで、タンク18の温度が、導入された空気の温度より低い場合、タンク18と空気の熱交換によりタンク18を暖めることができる。よって、燃料ガスの消費に伴いタンク18の温度が大幅に低下したとしても、従来技術のように燃料電池の出力を抑制することなく、車両走行によってカバー28内に導入される空気により、タンク18の温度低下を抑制することができる。
【0031】
導入口32は、カバー28の前面に2個形成され、排出口34は、カバー28の前面に対向する後面に2個形成される。導入口32と排出口34とは、製造上のコストを削減するため、同じ形状である。なお、導入口32と排出口34の数は一例であって、本発明は、導入口32と排出口34の数2個に限定されない。また、本実施形態においては、排出口34がカバー28の後面に形成される場合について説明したが、この構成に限定されず、カバー28内のタンク18と熱交換した空気をスムーズに排出することができるのであれば、カバー28の下面に形成されてもよい。
【0032】
また、本実施形態の燃料電池車両10においては、2個のタンク18が車両前方から後方に向けて順に並んで搭載されている。このような構成では、前方に位置するタンク18との熱交換により冷やされた空気が、そのまま後方に位置するタンク18のほうへ流れるので、その後方に位置するタンク18に対する熱交換の効率が低下してしまう。そうすると、2個のタンク18の温度低下を均等に抑制することができなくなってしまう。
【0033】
そこで、図2,3に示されるように、カバー28内部には、導入口32から導入された空気を、前方に位置するタンク18より後方へと導くダクト36が設けられている。このダクト36により、後方に位置するタンク18に対して、このタンク18よりも前方に位置するタンク18に供給される空気と同じ温度の空気を供給することができる。これにより、2個のタンク18の温度低下が、できるかぎり均等に抑制される。
【0034】
ダクト36は、導入口32から導入される空気の一部を後方へ供給するため、導入口32の一部の領域に接続されている。そして、ダクト36は、前方のタンク18の下部を通るように形成される。しかし、本発明はこの構成に限定されず、前方に位置するタンク18より後方へと空気を導くのであれば、他のルート、例えば前方のタンク18の上部を通るように形成されてもよい。
【0035】
また、カバー28の内部には、ダクト36の出口から出た空気を、この出口より後方のタンク18に案内するガイド部38が設けられている。このガイド部38によりガイドされた空気は、後方に位置するタンク18に効果的に接触することができる。よって、後方に位置するタンク18と空気との接触面積が増大する。カバー28内を流れる空気との接触面積の増大により、後方のタンク18に対する熱交換の効率が向上するので、カバー28内のタンク18における温度低下の抑制を、さらに均一化することができる。
【0036】
ガイド部38は、図2に示されるように、カバー28から傾斜して突出する傾斜面を有し、この傾斜面に当接した空気が、目的のタンク18にガイドされる。また、ガイド部38は、図3に示されるように、車幅方向に延在して複数設けられる。なお、ガイド部38の数は一例であって、本発明は、ガイド部38の数に限定されない。
【0037】
本実施形態の燃料電池車両10によれば、上述したような簡易な構造で、タンク18と外気とが熱交換を行うことができるので、タンク18の温度低下を効果的に抑制することができる。
【0038】
次に、別の態様の燃料電池車両10について、図4を用いて説明する。図4は、別の態様におけるタンクが搭載される車体の下部を側面から見たときの概略構成を示す図である。なお、上記実施形態と同じ構成要素については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0039】
この態様の燃料電池車両10においては、ボディフレーム24の下部に、カバー28より前方に燃料電池14が配置される。燃料電池車両10は、燃料電池14と導入口32を接続し、燃料電池14から排出される排ガスが流れる排ガス路40を有する。この排ガス路40により、発電中の燃料電池14から高温(例えば80℃)の排ガスがカバー28内に導入される。このように、排ガスの温度は外気温度よりも高いので、上述した実施形態の燃料電池車両10の構成に比べ、タンク18の温度低下をより効果的に抑制することができる。
【0040】
この実施形態においては、燃料電池14がボディフレーム24の下部に配置される場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。燃料電池14の排ガスを、排ガス路40を設けてカバー28に送ることができるのであれば、燃料電池14をボディフレーム24の上部に設けることもできる。
【0041】
この実施形態においては、導入口32が排ガス路40に接続される場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されない。カバー28内に導入される空気量を所定量確保するため、導入口32の一部を排ガス路40に接続させるとともに、残りの部分を外部に開放させることもできる。
【0042】
上述した2つの実施形態においては、タンク18が2個である場合について説明したが、本発明はタンク18の数2個に限定されない。タンク18が1個である場合には、ダクト36とガイド部38を省くことができる。また、タンク18が3個以上である場合には、後方の複数のタンク18の熱交換効率を向上させるために、それらのタンク18に対応するダクト36とガイド部38をそれぞれ設けることが好適である。
【符号の説明】
【0043】
10 燃料電池車両、14 燃料電池、18 タンク、24 ボディフレーム、26 固定用ブラケット、28 カバー、30 石抜き孔、32 導入口、34 排出口、36 ダクト、38 ガイド部、40 排ガス路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下部に搭載され、燃料電池に供給される燃料ガスを高圧状態で貯蔵するタンクと、
タンクを覆って保護するカバーと、
を有する燃料電池車両において、
カバーは、
タンクより車両前方側に形成され、カバー内に空気を導入する導入口と、
タンクより車両後方側に形成され、導入口からカバー内に導入された空気を排出する排出口と、
を有することを特徴とする燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池車両において、
燃料電池と導入口とを接続し、燃料電池から排出される排ガスが流れる排ガス路を有する、
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池車両において、
車体には、複数のタンクが車両前方から後方に向けて順に並んで搭載され、
カバー内部には、導入口から導入された空気を、最も車両前方側に位置するタンクより後方へ導くダクトが設けられている、
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池車両において、
カバー内部には、さらに、ダクトの出口から出た空気を、この出口より後方のタンクに案内するガイド部が設けられている、
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の燃料電池車両において、
排出口が、カバーの下面と後面の少なくとも一方に形成される、
ことを特徴とする燃料電池車両。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の燃料電池車両において、
導入口と排出口は、同じ形状である、
ことを特徴とする燃料電池車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−194954(P2011−194954A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61865(P2010−61865)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】