説明

玉軸受

【課題】合成樹脂製保持器の強度を高めることにより、玉軸受の信頼性を向上させる。
【解決手段】軸方向に対向する2枚の合成樹脂製環状体6,6の対向面にボール3を収容する半球状のポケット7を周方向に間隔をおいて形成し、環状体6の隣り合うポケット7,7の間に形成された結合部8を、他方の環状体6の隣り合うポケット7,7の間に形成された結合部8に結合する合成樹脂製保持器4を有し、その合成樹脂製保持器4で内輪1と外輪2の間に組み込まれたボール3を保持する玉軸受において、結合部8の他方の環状体6の結合部8との合わせ面11とは反対側に、隣り合う一方のポケット7から他方のポケット7に至る壁14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂製保持器を組み込んだ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
主として高速回転用の玉軸受として、軸方向に対向する2枚の合成樹脂製環状体の対向面にボールを収容する半球状のポケットを周方向に間隔をおいて形成し、一方の環状体の隣り合うポケットの間に形成された結合部を、他方の環状体の隣り合うポケットの間に形成された結合部に結合する合成樹脂製保持器を有し、その合成樹脂製保持器で内輪と外輪の間に組み込まれたボールを保持するものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この玉軸受に組み込まれた合成樹脂製保持器を構成する環状体は、一般に、ポリアミド等の熱可塑性樹脂にガラス繊維などの繊維強化材を10〜30重量%添加したものを射出成形して製造される。
【0004】
【特許文献1】特開2003−343567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この合成樹脂製保持器は、ポケットの位置で環状体が薄くなっているので、環状体のポケットの位置に生じる応力が過大となると破損するおそれがある。特に、成形金型のキャビティ内で樹脂が合流するウエルド部が、環状体のポケットの位置に存在する場合、環状体がウエルド部で破損しやすい。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、合成樹脂製保持器の強度を高めることにより、玉軸受の信頼性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、合成樹脂製保持器を構成する環状体の前記結合部の他方の環状体の結合部との合わせ面とは反対側に、隣り合う一方のポケットから他方のポケットに至る壁を形成する構成を玉軸受に採用した。
【0008】
この玉軸受は、次の構成を加えると好ましい。
1)前記壁にゲートを配置して前記環状体を射出成形する。
2)前記壁を、径方向に対向して対をなして形成し、その各壁の縁に切欠きを形成する。
3)前記結合部の他方の環状体の結合部との合わせ面とは反対側の面と、前記壁の側面とが円弧状につながるようにする。
【0009】
上記2)の構成を加えたものは、さらに、前記切欠きを、前記環状体の径方向に見てV字状に形成し、その切欠きの底を円弧状に形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明の玉軸受は、合成樹脂製保持器を構成する環状体の結合部の他方の環状体の結合部との合わせ面とは反対側に、隣り合う一方のポケットから他方のポケットに至る壁を形成したので、環状体のポケットの位置に生じる応力が過大となりにくく、合成樹脂製保持器が破損しにくい。
【0011】
また、前記壁にゲートを配置して前記環状体を射出成形したものは、ゲートの大きさを大きくしてキャビティ内圧を確保し、これにより合成樹脂製保持器のウエルド部の強度を向上させることができる。
【0012】
また、前記壁を、径方向に対向して対をなして形成し、その各壁の縁に切欠きを形成したものは、壁間に溜まったグリースが壁の切欠きを通じて軸受の軌道面に供給されるので、軸受の潤滑性能に優れる。
【0013】
また、前記結合部の他方の環状体の結合部との合わせ面とは反対側の面と、前記壁の側面とが円弧状につながるようにしたものは、結合部と壁の間に応力集中を生じにくく、合成樹脂製保持器の強度が高い。
【0014】
さらに、前記切欠きを、前記環状体の径方向に見てV字状に形成し、その切欠きの底を円弧状に形成したものは、切欠きの底で応力集中が生じにくく、合成樹脂製保持器の強度が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、この発明の実施形態の玉軸受を示す。この玉軸受は、内輪1と、外輪2と、内輪1と外輪2の間に組み込まれた複数のボール3と、ボール3を保持する保持器4とを有する。また、この玉軸受には、内輪1と外輪2の間に封入されたグリースの漏れを防止するシール部材5が組み込まれている。
【0016】
保持器4は、図2に示す環状体6を、2枚軸方向に対向してなる。環状体6の対向面には、ボール3を収容する半球状のポケット7が周方向に間隔をおいて形成され、隣り合うポケット7、7の間に形成された結合部8には、係合爪9と係合孔10が形成されている。
【0017】
係合爪9は、図3に示すように、他方の環状体6の結合部8に突き合わせる合わせ面11から軸方向に突出して設けられ、図4に示すように、他方の環状体6の係合孔10に挿入される。また、係合爪9の先端には鈎部12が形成され、鈎部12は、係合爪9が他方の環状体6の係合孔10に挿入された状態で、係合孔10の内面に形成された段部13に係合し、これにより結合部8,8同士が結合される。
【0018】
結合部8の合わせ面11の反対側には、図3に示すように、隣り合う一方のポケット7から他方のポケット7に至る壁14が形成されている。壁14は、図5に示すように、径方向に対向して対をなして形成され、各壁14の側面14Aは、結合部8の合わせ面とは反対側の面8Aと円弧状につながっている。また、各壁14の縁には、図3に示すように径方向に見てV字状の切欠き15が形成され、各切欠き15の底は円弧状に形成されている。
【0019】
ポケット7の両端には、図3に示すように、グリース溜りをなす断面L字状の凹部16が形成されている。
【0020】
各環状体6は、合成樹脂の射出成形品からなり、必要に応じてガラス繊維等の繊維強化材が混入される。環状体6は、図2に示すように、内径側の各壁14の位置に金型のゲート17を配置して射出成形することにより形成されている。ゲート17から注入された樹脂は、隣り合うゲート17、17間のウエルド部18で合流している。
【0021】
環状体6の成形材料の母材としては、たとえばナイロン66やナイロン46などのポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0022】
また、母材に配合する繊維強化材としては、たとえばガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維などを用いることができる。これらの繊維は、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
この玉軸受は、たとえば次のようにして組み立てることができる。まず、内輪1と外輪2との間にボール3を組み込み、そのボール3の位置を周方向に調整する。その後、ボール3にポケット7を対応させて環状体6、6を対向配置し、その環状体6、6を互いに近づけて、各環状体6の係合爪9を他方の環状体6の係合孔10にそれぞれ挿入する。さらに環状体6、6を互いに近づけて、合わせ面11が互いに接触する位置まで係合爪9を係合孔10に挿入すると、係合爪9の鈎部12が係合孔10内の段部13に係合して環状体6、6が互いに結合する。
【0024】
この玉軸受は、保持器4を構成する環状体6の結合部8の合わせ面11の反対側に、隣り合う一方のポケット7から他方のポケット7に至る壁14を形成したので、環状体6がポケット7の位置で変形を生じにくく、ポケット7の位置に過大な応力を生じにくい。そのため、保持器4が破損しにくく、強度が高い。
【0025】
また、この玉軸受は、壁14の位置にゲート17を配置して環状体6を射出成形するので、壁14を設けない場合に比べてゲート17の大きさを大きくしてキャビティ内圧を確保することができ、これにより、ウエルド部18の強度を高め、保持器4の強度を向上させることができる。
【0026】
また、この玉軸受は、保持器4の壁14,14間に溜まったグリースが、壁14の切欠き15を通じて軸受の軌道面に徐々に供給されるので、運転初期の発熱を抑えてグリースの熱劣化を抑制するとともに、軸受の回転抵抗を抑えることができる。
【0027】
また、この玉軸受は、保持器4を構成する環状体6の結合部8の合わせ面11とは反対側の面8Aと、壁14の側面14Aとが円弧状につながっているので、結合部8と壁14の間に応力集中を生じにくく、保持器4の強度が高い。さらに、壁14の切欠き15の底を円弧状に形成したので、切欠き15の底で応力集中が生じにくく、保持器4の強度が高い。
【0028】
図では、ウエルド部18がポケット7の位置に形成されているが、結合部8の位置にウエルド部18が形成されるようにゲート17を配置するとより好ましい。このようにすると、環状体6の強度をより向上させることができる。
【0029】
切欠き15の位置は、図3に示すように、径方向に見て係合孔10の位置を避けて配置すると好ましい。このようにすると、環状体6の断面積を確保して、切欠き15を形成することによる環状体6の強度低下を抑えることができる。
【0030】
また、この玉軸受は、環状体6を射出成形する金型のゲート17が内径側の各壁14に配置されているので、いずれの結合部8に対しても同じ相対位置にウエルド部18がくる。そのため、環状体6の各々の結合部8が均等に成形収縮し、結合部8の合わせ面11の高さにばらつきが生じにくい。よって、環状体6、6を結合したときに、係合爪9に生じる応力を抑えることができる。また、この玉軸受は、例えば急加速、急停止を行なったときに、ボールと保持器の衝突により保持器の係合を外す向きに大きい力が生じても、保持器の係合爪9の係合が外れにくく、耐久性に優れる。
【0031】
図では、深溝玉軸受を例に挙げてこの発明の玉軸受を説明しているが、この発明は、他の形式の玉軸受に適用してもよく、たとえばアンギュラ玉軸受に適用してもよい。
【0032】
上記実施形態では、環状体6、6を同一形状として生産性を高めているが、2枚の環状体は別形状でもよく、たとえば、係合爪9を一方の環状体にのみ形成し、係合孔10を他方の環状体にのみ形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の実施形態の玉軸受を示す断面図
【図2】図1の合成樹脂製保持器を構成する一方の環状体を示す斜視図
【図3】図2の環状体を示す一部拡大断面図
【図4】図1の玉軸受を示す一部拡大断面図
【図5】図3のV−V線に沿った断面図
【符号の説明】
【0034】
3 ボール
4 保持器
6 環状体
7 ポケット
8 結合部
8A 合わせ面の反対側の面
11 合わせ面
14 壁
14A 側面
15 切欠き
17 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に対向する2枚の合成樹脂製環状体(6,6)の対向面にボール(3)を収容する半球状のポケット(7)を周方向に間隔をおいて形成し、前記環状体(6)の隣り合うポケット(7,7)の間に形成された結合部(8)を、他方の前記環状体(6)の隣り合うポケット(7,7)の間に形成された結合部(8)に結合した合成樹脂製保持器(4)を有し、その合成樹脂製保持器(4)で内輪(1)と外輪(2)の間に組み込まれたボール(3)を保持する玉軸受において、前記結合部(8)の他方の環状体(6)の結合部(8)との合わせ面(11)とは反対側に、隣り合う一方のポケット(7)から他方のポケット(7)に至る壁(14)を形成したことを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記壁(14)にゲート(17)を配置して前記環状体(6)を射出成形した請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記壁(14)を、径方向に対向して対をなして形成し、その各壁(14)の縁に切欠き(15)を形成した請求項1または2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記切欠き(15)を、前記環状体(6)の径方向に見てV字状に形成し、その切欠き(15)の底を円弧状に形成した請求項3に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記結合部(8)の他方の環状体(6)の結合部(8)との合わせ面(11)とは反対側の面(8A)と、前記壁(14)の側面(14A)とが円弧状につながる請求項1から4のいずれかに記載の玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−64166(P2008−64166A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241108(P2006−241108)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】