説明

珪酸質肥料用原料及びその製造方法

【課題】 中性環境下での溶解性が優れ、且つ石灰分が少ない珪酸質肥料を安価に得ることができる珪酸質肥料用原料を提供する。
【解決手段】 高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグであって、溶銑中の珪素を酸化させることにより生成したSiOと、CaOと、MgOとを含有し、SiO、CaO及びMgOの合計含有量が75mass%以上であり、且つCaO、MgO及びSiOの割合が、図1に示す点a、点b、点c、点d、点eおよび点fで囲まれる範囲内であるスラグからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸質肥料用原料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
珪酸質肥料は主に水稲に対する珪酸の補給を目的とした肥料であり、一般に0.5N塩酸(濃度0.5×10mol/mの塩酸水溶液)に溶解する珪酸(可溶性珪酸)を10mass%以上、アルカリ分(石灰、苦土)を35mass%以上含んでおり、水田の土壌保全や老朽水田の土壌改良剤として大量に使用されている。また、近年では珪酸質肥料が植物体を強化し、病害虫にかかり難くする作用を有することが注目されており、水稲のみならず、キュウリ等の野菜にも積極的に使用されるようになってきた。
珪酸質肥料は天然資源である珪灰石からも製造されるが、現在では多くの珪酸質肥料が高炉スラグを原料として製造されている。高炉スラグから珪酸質肥料を製造するには、例えば、特許文献1に示されるように、高炉から排出された溶融状態の高炉スラグを徐冷して固化させ、塊状の高炉スラグを乾燥させた後に粉砕し、所定の粒度にして珪酸質肥料とする。
【0003】
また最近では、溶銑予備処理工程で生じるスラグを珪酸質肥料の原料として用いる、以下のような提案がなされている。
特許文献2では、溶銑予備処理によって生じる主として転炉スラグを活用した珪酸質肥料が提案されている。
また、特許文献3では、スラグにカリ原料を添加するク溶性カリ肥料が提案されている。
【特許文献1】特開昭55−113687号公報
【特許文献2】特開2001−261471公報
【特許文献3】特許3451872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高炉スラグを原料として製造される珪酸質肥料は、0.5N塩酸に溶解する珪酸を多く含有するものの、水田での溶解性が十分でないという問題がある。このため珪酸質肥料の施用量を多くする必要があり、老齢化した農業従事者には負担の大きい施肥作業となっている。このような事情から、珪酸質資材を施用しない農家も増えてきており、水田での珪酸不足という問題が起きつつある。
【0005】
このような問題を解決するために、珪酸の溶解性に優れた肥料の開発が進められ、特許文献2に示されるような溶銑予備処理スラグを原料とする珪酸質肥料が提案されてきた。この特許文献2の珪酸質肥料は、塩基度(CaO/SiO)が1.5〜3.0と高いため、珪酸の溶解性には優れるが石灰(CaO)を多く含有する肥料となる。これは、溶銑予備処理工程では石灰の投入によって塩基度を調整し、脱珪処理、脱燐処理を行っているためである。石灰の投入量によりスラグの塩基度は変わってくるが、塩基度が低いスラグは全珪酸含有量は高いもののスラグ中の石灰分が少ないため、珪酸ネットワークが切断されにくく、珪酸の溶解性はそれほど高くない。一方、特許文献2のように塩基度の高いスラグは、スラグ中の石灰分が珪酸ネットワークを切断しやすいため珪酸の溶解性を増すが、スラグが含有する全珪酸量が減少するため可溶性珪酸含有量は減少する傾向があり、且つ石灰を多く含む肥料となる。したがって、このような珪酸質肥料を使用することにより、土壌には珪酸が投入されるとともに石灰資材も多く投入されることになる。
【0006】
わが国の農地は元々酸性土壌が多く、このため上記のような石灰分の多い珪酸質肥料を使用することは土壌改良の目的にも沿うものであった。しかしながら、昨今、珪酸質肥料をはじめとする肥料の施用量の増加に伴い酸性土壌の問題は減少しており、このため従来使用されてきたような石灰分の多い珪酸質肥料に代わって、石灰分の少ない肥料が求められている。
また、最近の農業では畑への稲わらの施用量が減少してきていることから、キュウリ、メロン、トマト、ピーマンなどの園芸作物でも珪酸不足を原因とする生育障害が報告されている。施設園芸では水田に比べて狭い農地に大量の肥料を施用するため、石灰分が多い肥料は農地のアルカリ化を招くため避けられている。そこで、珪酸の溶解性が優れかつ石灰分が少ない肥料が求められている。
特許文献3に示されるク溶性カリ肥料は、カリが珪酸ネットワークを切断するため珪酸の溶解性に優れるが、カリ原料を添加するため高価な肥料となる。
【0007】
また、肥料の成分は植物が生成する有機酸によって溶解・吸収されることから、従来では酸溶解性成分を肥料成分としてきたが、珪酸質肥料を多く施用している水田の環境はpH7程度の中性環境であることから、最近では肥料の溶解性もこのような環境下での溶解性で評価すべきであるという議論がある。
したがって本発明の目的は、珪酸の溶解性、特に中性環境下での溶解性が優れ、且つ石灰分が少ない珪酸質肥料を安価に得ることができる珪酸質肥料用原料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグ(溶銑中の珪素を酸化させることによって生成したSiOを含有するスラグ)を原料とする珪酸質肥料について、石灰分が少なく、且つ中性環境下での珪酸の溶解性が優れた組成範囲を見出すべく検討を重ね、その結果、CaO、MgO及びSiOの三元系の組成を最適化することにより、要求特性を満足できる珪酸質肥料が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグであって、SiOと、CaOと、MgOとを含有し、SiO、CaO及びMgOの合計含有量が75mass%以上であり、且つCaO、MgO及びSiOの割合が、図1に示す、点a(CaO:39.5mass%,MgO:4.0mass%,SiO:56.5mass%)、点b(CaO:35.8mass%,MgO:13.0mass%,SiO:51.2mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)および点f(CaO:60.6mass%,MgO:4.0mass%,SiO:35.4mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする珪酸質肥料用原料。
【0010】
(2)上記(1)の珪酸質肥料用原料において、スラグが中性リン酸緩衝液可溶性珪酸を0.15mass%以上含有することを特徴とする珪酸質肥料用原料。
(3)上記(1)又は(2)の珪酸質肥料用原料において、スラグが可溶性珪酸を10mass%以上含有することを特徴とする珪酸質肥料用原料。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの珪酸質肥料用原料において、CaO、MgO及びSiOの割合が、図2に示す、点g(CaO:38.7mass%,MgO:6.0mass%,SiO:55.3mass%)、点h(CaO:36.2mass%,MgO:12.0mass%,SiO:51.8mass%)、点i(CaO:38.6mass%,MgO:12.0mass%,SiO:49.4mass%)および点j(CaO:41.2mass%,MgO:6.0mass%,SiO:52.8mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする珪酸質肥料用原料。
【0011】
(5)上記(1)〜(3)のいずれかの珪酸質肥料用原料において、CaO、MgO及びSiOの割合が、図2に示す、点k(CaO:47.0mass%,MgO:4.0mass%,SiO:49.0mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)、点l(CaO:53.8mass%,MgO:10.0mass%,SiO:36.2mass%)および点m(CaO:53.8mass%,MgO:4.0mass%,SiO:42.2mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする珪酸質肥料用原料。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかの珪酸質肥料用原料において、スラグが溶銑脱珪スラグであることを特徴とする珪酸質肥料用原料。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかの珪酸質肥料用原料からなる又は該珪酸質肥料用原料を主原料としたことを特徴とする珪酸質肥料。
【0012】
(8)高炉溶銑の溶銑予備処理工程において、上記(1)〜(6)のいずれかの珪酸質肥料用原料を製造するに際し、溶銑に酸素源を供給して溶銑中の珪素を酸化させることにより珪酸を生成させ、該珪酸を含む溶融スラグにMgO源を添加し、該MgO源を溶融させて溶融スラグと融合させ、次いで、MgO源を融合した前記溶融スラグを回収して固化させることを特徴とする珪酸質肥料用原料の製造方法。
(9)上記(8)の製造方法において、溶融スラグに、MgO源とともに他の成分調整剤を添加することを特徴とする珪酸質肥料用原料の製造方法。
(10)上記(8)又は(9)の製造方法において、溶銑予備処理工程が溶銑脱珪工程であることを特徴とする珪酸質肥料用原料の製造方法。
(11)上記(8)〜(10)のいずれかの製造方法で得られた珪酸質肥料用原料を用いて珪酸質肥料を製造することを特徴とする珪酸質肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の珪酸質肥料用原料は、石灰分が少なく、且つ中性環境下での溶解性が優れた珪酸質肥料を安価に得ることができる。また、本発明の珪酸質肥料用原料の製造方法によれば、そのような珪酸質肥料用原料を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一般に珪酸質肥料中の珪酸の溶解性は、0.5mol塩酸溶液という強酸性の環境下での溶解性を測定する方法(肥料公定分析法に基づいた評価方法)で評価されているが、実際の多くの土壌はpH7程度の中性環境下であるために、珪酸質肥料は、このような中性環境下での珪酸の溶解性を高めることが重要であると考えられる。そこで本発明では、中性環境下での優れた珪酸溶解性を得るという観点から、珪酸質肥料用原料の成分組成を規定するものである。
【0015】
すなわち、本発明の珪酸質肥料用原料は、高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグであって、SiOと、CaOと、MgOとを含有し、SiO、CaO及びMgOの合計含有量が75mass%以上であり、且つCaO、MgO及びSiOの割合が、図1(CaO・MgO・SiOの三元系の組成)に示す、点a(CaO:39.5mass%,MgO:4.0mass%,SiO:56.5mass%)、点b(CaO:35.8mass%,MgO:13.0mass%,SiO:51.2mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)および点f(CaO:60.6mass%,MgO:4.0mass%,SiO:35.4mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなる。なお、スラグ中に含まれるSiOは、通常は溶銑中の珪素を酸化させることにより生成したものであるが、スラグに成分調整剤としてSiO源を添加する場合などもあり、したがって、溶銑中の珪素の酸化物以外のSiOを一部含むことがある。
【0016】
このような成分組成を有する珪酸質肥料用原料は、(1)十分な珪酸含有量を有する、(2)石灰分が少ない(低塩基度)、(3) 珪酸の溶解性、特に中性環境下での溶解性が優れる、(4)植物の生育に有用なMgOを相当量含有している、(5)安価に得ることができる、という全ての要求特性を満足するものである。
珪酸質肥料の中性環境下での珪酸の溶解性は、中性リン酸緩衝液可溶性で評価することができ、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸とは、0.02Mリン酸緩衝液(0.02M
NaHPO+0.02M NaHPO,pH=6.9〜7.0)に可溶な珪酸を指す。本発明の珪酸質肥料用原料は、中性環境下での珪酸の優れた溶解性を確保するため、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸を0.15mass%以上、好ましくは0.20mass%含有することが望ましい。
【0017】
なお、本発明では、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸の含有量は以下のような測定法による測定値とした。分析試料1gに0.02Mリン酸緩衝液(0.02M
NaHPO+0.02M NaHPO,pH=6.9〜7.0)10mLを加え40℃の水槽で5時間抽出する。この抽出期間中は、抽出開始から0分,30分,60分,120分,180分,240分,300分後の計7回、試験管を横にして左右に10回往復振とうし、溶出したシリカを測定する。
【0018】
以下、本発明の珪酸質肥料用原料の成分組成の限定理由について説明する。
図3は、図1に示したCaO・SiO・MgOの本発明範囲(点a−点b−点c−点d−点e−点fで囲まれる範囲)とともに、塩基度CaO/SiO(C/S)とCaO−SiO系又はCaO−MgO−SiO系の各種結晶相(珪酸塩)の組成を示したものであり、図中のCS,C,CMS,CMS,CMS,CMSは、それぞれ下記の結晶相を示している。
CS:ウォラストナイト[β−(Ca,Mg)O・SiO
:ランキナイト[3CaO・2SiO
CMS:ジオプサイド[(Ca,Mg)O・MgO・2SiO
CMS:モンチセライト[(Ca,Mg)O・MgO・SiO
MS:アケルマナイト[2CaO・MgO・2SiO
MS:メルウィナイト[3CaO・MgO・2SiO
【0019】
上記結晶相のうち、特に珪酸の中性リン酸緩衝液可溶性が優れるのはCMS(メルウィナイト)であり、一方、珪酸の中性リン酸緩衝液可溶性が劣るのはCMS(モンチセライト)とCMS(ジオプサイド)である。したがって、CMS(メルウィナイト)の生成量をなるべく多くし、一方においてCMS(モンチセライト)とCMS(ジオプサイド)の生成量を極力抑制することにより、珪酸の中性リン酸緩衝液可溶性に優れた珪酸質肥料用原料が得られる。具体的な条件としては、例えば、CMS(モンチセライト)については、その生成量を15mass%以下とすることが好ましい。
【0020】
ここで、図1,図3の点b−点c−点d−点eを結ぶ限界線(イ)は、CMS(モンチセライト)とCMS(ジオプサイド)の生成量との関係でMgOの限界量を規定するもので、この限界線(イ)を超えてMgOを含有させると、点b−点cを結ぶ範囲ではCMS(ジオプサイド)の生成量が多くなり、また、点c−点d−点eを結ぶ範囲ではCMS(モンチセライト)の生成量が15mass%を超えるようになり、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸≧0.15mass%を満足しなくなる。なお、図3に示されるように、この限界線(イ)では、0.7≦CaO/SiO≦0.95の範囲と0.95<CaO/SiO≦1.3の範囲とでMgOの限界量が異なっているが、これはCaO/SiOの高低によってMgOがCMS(モンチセライト)の生成に及ぼす影響が異なるためである。
【0021】
図1,図3の点a−点fを結ぶ限界線(ハ)は、MgOの下限量を規定するもので、MgO量がこの限界線(ハ)を下回るとCMS(メルウィナイト)の生成量が減少し、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸≧0.15mass%を満足しなくなる。
図1,図3の点e−点fを結ぶ限界線(ロ)は、溶銑脱珪スラグの成分組成面での実質的な限界であり、通常SiO量がこの限界線(ロ)を下回るような操業は行われない。また、SiO含有量が限界線(ロ)を下回ると、珪酸の含有量が少ないために珪酸質肥料としての特性が不十分になり、また、CaO/SiOが高くなり過ぎて、本発明が狙いとするアルカリ分が少ない肥料が得られなくなる。
【0022】
図1,図3の点a−点bを結ぶ限界線(ニ)は、CaO/SiO=0.7を規定するもので、CaO/SiO<0.7となると溶解性の悪い非晶質が生成しやすくなり、珪酸質肥料の特性を満足する結晶質が生成しにくくなり、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸≧0.15mass%を満足しなくなる。
また、本発明の珪酸質肥料用原料は、SiO+CaO+MgOの合計含有量を75mass%以上とするが、SiO+CaO+MgOが75mass%未満では三元系組成の結晶相に基づく中性リン酸緩衝液可溶性珪酸の生成が不十分となり、この場合も中性リン酸緩衝液可溶性珪酸≧0.15mass%を満足しなくなる。
【0023】
以上の結果から、本発明では珪酸質肥料用原料の成分組成を、SiO+CaO+MgOの合計含有量を75mass%以上とし、且つCaO、MgO及びSiOの割合を図1の限界線(イ)−(ロ)−(ハ)−(ニ)で区画された範囲内、すなわち、点a,点b,点c,点d,点e及び点fで囲まれる範囲内と規定する。
また、本発明の珪酸質肥料用原料は、珪酸質肥料の保証成分である可溶性珪酸(0.5mol塩酸溶液可溶性珪酸)を10mass%以上、より好ましくは20mass%、さらに好ましくは30mass%以上含有することが望ましい。
【0024】
また、本発明の珪酸質肥料用原料(スラグ)の成分組成のより好ましい範囲の1つは、SiO+CaO+MgOの合計含有量を75mass%以上とし、且つCaO、MgO及びSiOの割合を、図2に示す、点g(CaO:38.7mass%,MgO:6.0mass%,SiO:55.3mass%)、点h(CaO:36.2mass%,MgO:12.0mass%,SiO:51.8mass%)、点i(CaO:38.6mass%,MgO:12.0mass%,SiO:49.4mass%)および点j(CaO:41.2mass%,MgO:6.0mass%,SiO:52.8mass%)で囲まれる範囲内とした成分組成である。
【0025】
この組成範囲の珪酸質肥料用原料は、製造工程において石灰の添加量を抑えることで塩基度を0.70〜0.78に調整したスラグからなるもので、中性リン酸緩衝液可溶性珪酸を0.20mass%以上含有する。このような成分組成を有する珪酸質肥料用原料は、(1)石灰分が少ない(低塩基度)ため、土壌をアルカリ化させることがない、(2)中性リン酸緩衝液可溶性珪酸の含有量が0.20mass%以上であり、特に中性環境下での溶解性が優れる、(3)石灰を添加することなく若しくは少ない石灰添加量で製造できるため、より安価に得ることができる、という利点を有する。これは、肥料公定規格で規定された0.5mol塩酸溶液という強酸性の環境下で溶解する可溶性珪酸の含有量にとらわれず、水田など中性環境下で実際に植物がどれだけ珪酸を吸収しやすいかに注目したときに、より好ましい組成範囲であると考えられる。特に、酸性化しておらず土壌改質の必要がない土壌で栽培する作物に珪酸を供給する場合に適しており、優れた特性を発揮する。
【0026】
また、本発明の珪酸質肥料用原料(スラグ)の成分組成のより好ましいもう1つの範囲は、SiO+CaO+MgOの合計含有量を75mass%以上とし、且つCaO、MgO及びSiOの割合を、図2に示す、点k(CaO:47.0mass%,MgO:4.0mass%,SiO:49.0mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)、点l(CaO:53.8mass%,MgO:10.0mass%,SiO:36.2mass%)および点m(CaO:53.8mass%,MgO:4.0mass%,SiO:42.2mass%)で囲まれる範囲内とした成分組成である。
【0027】
この組成範囲の珪酸質肥料用原料は、製造工程において石灰の添加量を抑えることで塩基度を1.0〜1.5に調整したスラグからなるもので、肥料公定規格で規定された0.5mol塩酸溶液という強酸性の環境下で溶解する可溶性珪酸を30mass%以上含有する。このような成分組成を有する珪酸質肥料用原料は、(1)通常、珪酸質肥料の施用量は可溶性珪酸で設計されるが、可溶性珪酸含有量が30mass%以上と高いことから、珪酸質肥料の施用量を抑え農業労働の負担を軽くすることができる、(2)塩基度を1.5以下に抑えているため石灰分が少なく、土壌をアルカリ化させることが少ない、(3)中性リン酸緩衝液可溶性珪酸の含有量が0.20mass%前後であり、特に中性環境下での溶解性が優れる、(4)少ない石灰添加量で製造できるため、より安価に得ることができる、という利点を有する。これは、水田などの中性環境下で栽培する作物に珪酸を供給するのと同時に、少ない施用量で土壌改質を兼ねて石灰、苦土、鉄などを供給する場合に適しており、優れた特性を発揮する。
【0028】
本発明の珪酸質肥料用原料は、高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグからなるものであるが、珪酸含有量などの基本組成からして、特に、高炉溶銑の脱珪処理工程で回収される溶銑脱珪スラグが好ましい。溶銑予備処理として行われる溶銑の脱燐処理では、溶銑中の珪素濃度が低いほど脱燐処理効率が高まるため、脱燐処理前に溶銑の脱珪処理が行われる。この脱珪処理は高炉鋳床の溶銑樋内や溶銑保持容器内で行われ、溶銑中に酸素ガスや酸化鉄などの酸素源を添加することにより行われる。この溶銑中に添加された酸素源は溶銑中の珪素と反応して珪酸が生成し、この珪酸を含んだ所謂脱珪スラグが生成する。
【0029】
溶銑脱珪スラグの組成は、脱珪処理の際の造滓剤(CaO源)の添加量を調整すること、或いはSiO源やMgO源などの成分調整剤を添加することなどにより調整することができる。なお、スラグ中のMgO濃度については、通常、脱珪処理後の溶融スラグにMgO源を添加して濃度を高めるように調整するが、元の溶銑脱珪スラグの組成によっては、MgO源を添加しなくてよい場合もある。
【0030】
以上述べた本発明の珪酸質肥料用原料は、そのままで或いは破砕(粉砕)処理及び/又は整粒(粒度調整)を施した上で珪酸質肥料とすることができる。また、上記珪酸質肥料用原料、特に破砕処理及び/又は整粒された珪酸質肥料用原料は、適当なバインダーを用いた造粒工程を経て珪酸質肥料とすることが好ましく、このような珪酸質肥料は施肥の時の飛散、雨水による流出、地面の通水性や通気性の阻害といった問題が生じにくい。また、形状が規則的で且つ球状に近く、角張っていないため、取り扱い性も良好である。
また、本発明の珪酸質肥料用原料に他の添加成分を配合し、当該珪酸質肥料用原料を含む珪酸質肥料(例えば、当該珪酸質肥料用原料を主原料とする珪酸質肥料など)としてもよい。
【0031】
次に、上述した珪酸質肥料用原料を得るのに好適な製造方法について説明する。
この製造方法では、高炉溶銑の溶銑予備処理工程において、溶銑に酸素源を供給して溶銑中の珪素を酸化させることにより珪酸を生成させ、この珪酸を含む溶融スラグ(一般には、酸素源とともに造滓剤(CaO源)が添加され、スラグの一部となる)にMgO源(MgO原料)を添加し、このMgO源を溶融させて溶融スラグと融合させ、次いで、このMgO源を融合した溶融スラグを回収し、冷却して固化させる。なお、スラグの冷却条件に特別な制限はない。
【0032】
このような本発明の製造方法では、主たる原料であるスラグが溶融状態のものであるため、その原料を加熱して溶融する熱量が必要でない上に、MgO源の溶融に要する熱量の少なくとも一部が上記溶融スラグから供給されるので、二つの原料の融合が極めて熱経済的に行われる。また、主たる原料の一つが既に溶融されているので、処理が短時間で終了する利点がある。
【0033】
MgO源(MgO原料)としては、例えば、マグネシア(天然マグネシア、クリンカーなど)、ドロマイト、カンラン石などを用いることができる。また、溶融スラグにMgO源を添加する際に、MgO源とともに、SiO源などの他の成分調整剤を添加することもできる。SiO源としては、例えば、珪砂、フライアッシュ、ごみ焼却灰などのようなSiO分を多く含む物質が好適である。
【0034】
本発明の製造方法が適用される溶銑予備処理工程としては、溶銑の脱珪処理工程が特に好ましい。この脱珪処理工程では、鋳床の溶銑又は溶銑保持容器内に保持された溶銑に対して、酸素源(固体酸素源および/または気体酸素)が供給されて脱珪処理が行われ、溶銑中の珪素が酸化して生じた珪酸を含む脱珪スラグが生成する。また、溶銑保持容器内で行われる脱珪処理では、通常、酸素源とともに造滓剤(CaO源)が添加され、脱珪スラグの一部となる。このようにして生成した溶融状態の脱珪スラグに焼成ドロマイトなどのMgO源(MgO原料)を添加し、さらに必要に応じてSiO源などの他の成分調整剤を添加し、これらを溶融させて溶融スラグと融合させる。次いで、この成分調整剤が融合した溶融スラグを回収し、冷却して固化させることで、珪酸質肥料用原料である脱珪スラグが得られる。
【0035】
本発明法により製造される珪酸質肥料用原料は、粒度が適当であればそのまま珪酸質肥料とすることができるが、冷却・固化後の形状が塊状等の場合には、破砕処理及び/又は整粒(篩い分けなどにより粒度調整)を行い珪酸質肥料とする。また、場合によっては他の添加成分を配合して珪酸質肥料としてもよい。
珪酸質肥料用原料の破砕(粉砕)方法に特別な制限はなく、どのような方法を採用してもよい。例えば、ジョークラッシャー、ロッドミル、フレッドミル、インペラブレーカーなどの粉砕機を用いて粉砕処理することができる。また、整粒は任意の篩い分け装置などを用いて行えばよく、珪酸質肥料用原料を粉砕処理した後、整粒を行ってもよい。
【0036】
また、破砕処理及び/又は整粒された珪酸質肥料用原料は、適当なバインダーを用いた造粒工程を経て珪酸質肥料とすることが好ましく、このようにして造粒された珪酸質肥料は、施肥時の飛散、雨水による流出、地面の通水性や通気性の阻害といった問題を生じにくい。また、形状が規則的で且つ球状に近く、角張っていないため、取扱い性も良好である。
【0037】
造粒方法に特別な制限はなく、一般的な造粒方法を採用することができるが、例えば、上記粉砕処理によって得られた粉砕物とバインダーとを混合機で混合し、適量の水を加えながら造粒機で造粒し、しかる後、乾燥するという方法を採ることができる。
このようにして造粒された珪酸質肥料の平均粒径は0.5〜6mmが好ましい。平均粒径が0.5mm未満では施肥する時に風に吹き飛ばされたりして取り扱い性が悪くなり、一方、6mmを超えると均一に散布することが困難になる。より好ましい粒径は1〜5mmである。
【実施例】
【0038】
Si濃度が0.15mass%の高炉溶銑に対して溶銑鍋において脱珪処理を施し、珪酸質肥料の原料となる脱珪スラグを製造した。この脱珪処理では、生成した脱珪スラグ(溶融状態)に対して、必要に応じて焼成ドロマイト(MgO源)を添加して溶融させ、脱珪スラグと融合させた。次いで、この脱珪スラグを溶銑鍋から排出し、冷却固化させた後、破砕処理して珪酸質肥料用原料である粒状物とした。
【0039】
このようにして得られた珪酸質肥料用原料の成分組成と肥料特性を表1〜表4に示す。また、各実施例のCaO・MgO・SiOの三元系の組成を、本発明が規定する組成範囲とともに図4に示す。
これらによれば、本発明が規定する成分組成を満足することにより、珪酸の溶解性、特に中性環境下での溶解性が優れ、かつ石灰分が少ない珪酸質肥料用原料が得られることが判る。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】CaO・MgO・SiOの三元系組成において、本発明が規定する組成範囲を示す図面
【図2】CaO・MgO・SiOの三元系組成において、本発明が規定するより好ましい組成範囲を示す図面
【図3】CaO・MgO・SiOの三元系組成において、本発明が規定する組成範囲とともに、塩基度CaO/SiO、CaO−SiO系又はCaO−MgO−SiO系の各種結晶相の組成を示す図面
【図4】CaO・MgO・SiOの三元系組成において、本発明が規定する組成範囲と各実施例の組成を示す図面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉溶銑の溶銑予備処理工程で回収されるスラグであって、SiOと、CaOと、MgOとを含有し、SiO、CaO及びMgOの合計含有量が75mass%以上であり、且つCaO、MgO及びSiOの割合が、図1に示す、点a(CaO:39.5mass%,MgO:4.0mass%,SiO:56.5mass%)、点b(CaO:35.8mass%,MgO:13.0mass%,SiO:51.2mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)および点f(CaO:60.6mass%,MgO:4.0mass%,SiO:35.4mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする珪酸質肥料用原料。
【請求項2】
スラグが中性リン酸緩衝液可溶性珪酸を0.15mass%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の珪酸質肥料用原料。
【請求項3】
スラグが可溶性珪酸を10mass%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の珪酸質肥料用原料。
【請求項4】
CaO、MgO及びSiOの割合が、図2に示す、点g(CaO:38.7mass%,MgO:6.0mass%,SiO:55.3mass%)、点h(CaO:36.2mass%,MgO:12.0mass%,SiO:51.8mass%)、点i(CaO:38.6mass%,MgO:12.0mass%,SiO:49.4mass%)および点j(CaO:41.2mass%,MgO:6.0mass%,SiO:52.8mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の珪酸質肥料用原料。
【請求項5】
CaO、MgO及びSiOの割合が、図2に示す、点k(CaO:47.0mass%,MgO:4.0mass%,SiO:49.0mass%)、点c(CaO:42.6mass%,MgO:13.0mass%,SiO:44.4mass%)、点d(CaO:46.0mass%,MgO:15.5mass%,SiO:38.5mass%)、点e(CaO:48.7mass%,MgO:14.4mass%,SiO:36.9mass%)、点l(CaO:53.8mass%,MgO:10.0mass%,SiO:36.2mass%)および点m(CaO:53.8mass%,MgO:4.0mass%,SiO:42.2mass%)で囲まれる範囲内であるスラグからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の珪酸質肥料用原料。
【請求項6】
スラグが溶銑脱珪スラグであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の珪酸質肥料用原料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の珪酸質肥料用原料からなる又は該珪酸質肥料用原料を含むことを特徴とする珪酸質肥料。
【請求項8】
高炉溶銑の溶銑予備処理工程において、請求項1〜6のいずれかの珪酸質肥料用原料を製造するに際し、溶銑に酸素源を供給して溶銑中の珪素を酸化させることにより珪酸を生成させ、該珪酸を含む溶融スラグにMgO源を添加し、該MgO源を溶融させて溶融スラグと融合させ、次いで、MgO源を融合した前記溶融スラグを回収して固化させることを特徴とする珪酸質肥料用原料の製造方法。
【請求項9】
溶融スラグに、MgO源とともに他の成分調整剤を添加することを特徴とする請求項8に記載の珪酸質肥料用原料の製造方法。
【請求項10】
溶銑予備処理工程が溶銑脱珪工程であることを特徴とする請求項8又は9に記載の珪酸質肥料用原料の製造方法。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかの製造方法で得られた珪酸質肥料用原料を用いて珪酸質肥料を製造することを特徴とする珪酸質肥料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−306696(P2006−306696A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244708(P2005−244708)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】