説明

環状ポリオレフィンフィルム、偏光板および液晶表示装置

【課題】搬送性にすぐれ、面状が良好で、均一な光学特性を有する環状ポリオレフィンフィルムおよび該フィルムを生産性よく製造する方法を提供すること。また、該環状ポリオレフィンフィルムを有する光学補償フィルムを用いて構成される偏光板および液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とを含有することを特徴とする環状ポリオレフィンフィルム。特に環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とのセミIPN(半相互貫入型網目構造)型ポリマーアロイを含有することを特徴とする上記環状ポリオレフィンフィルム。また、それを用いた偏光板および液晶表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ポリオレフィンフィルム並びにそれを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は通常、ヨウ素、もしくは二色性染料をポリビニルアルコールに配向吸着させた偏光子の両側に、保護フィルムとして、セルローストリアセテートを主成分とするフィルム貼り合わせることで製造されている。セルローストリアセテートは、強靭性、難燃性、光学的等方性が高い(レターデーションが低い)などの特徴があり、上述の偏光板用保護フィルムとして広く使用されている。液晶表示装置は、偏光板と液晶セルから構成されている。現在、液晶表示装置の主流であるTNモードのTFT液晶表示装置においては、特許文献1に記載のように、光学補償シートを偏光板と液晶セルの間に挿入することにより、表示品位の高い液晶表示装置が実現されている。最近の液晶表示装置には表示性能に対する要求が厳しくなってきており、偏光板保護フィルム等の構成部材に対しても吸湿性、透湿性、環境耐性等の改良が望まれていた。
【0003】
環状ポリオレフィンフィルムはセルローストリアセテートフィルムの吸湿性や透湿性を改良できるフィルムとして注目され、熱溶融製膜及び溶液製膜による偏光板保護フィルムの開発が行われている。また、環状ポリオレフィンフィルムは、高い光学特性(Re/Rthなど)の発現性を有しており、位相差膜としての開発が行われている(特許文献2〜4)。一方で、セルロースエステルフィルムで熱架橋を実施しセルロースエステルフィルムのヘイズ、透明性を維持したままで、機械強度(引裂き強度)や偏光板耐久性が劣化しないような改良の試みがなされている(特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−50206号公報
【特許文献2】特開2003−212927号公報
【特許文献3】特開2004−126026号公報
【特許文献4】特開2002−114827号公報
【特許文献5】特開2004−292558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
環状ポリオレフィンフィルムを熱溶融製膜法で作製する場合、幅方向及び長さ方向の光学特性(Re/Rth、光軸)の変動が問題となっていた。また、ガラス転移温度(Tg)が200℃以上400℃以下という高Tgを持つ環状ポリオレフィンでは、熱溶融製膜時の温度が高温となるため厳密に制御して均一なフィルム(特に、光学特性の軸バラツキを低減したフィルム)を得ることが困難であった。
【0006】
一方、環状ポリオレフィンフィルムの溶液製膜では、光学特性の変動幅は比較的小さくして製膜でき、かつ高Tgのホ゜リマーも溶液化し製膜できる。しかし、近年の液晶表示装置に使用される位相差膜の軸ズレや、面状に対する要求はますます厳しくなってきており、単に、従来の技術で溶液製膜を行うだけでは不十分であった。具体的には、環状ポリオレフィンフィルムのロールフィルムを得る場合、溶融製膜法、溶液製膜法ともに、環状ポリオレフィンフィルム単体でロールフィルムを作製しようとすると、フィルム同士がうまく滑らず、時には、フィルムとフィルムを搬送させるパスロールとの間でキシミがおこり、滑らかに搬送したり、或いは滑らかにロールフィルムを巻くことが困難であった。従って、環状ポリオレフィンフィルムをロールで巻く場合には、必ず環状ポリオレフィンフィルムの間にラミネートフィルム(例えばポリエチレンテレフタレートフィルム)を挟んでロール形状にする必要があった。
【0007】
ラミネートフィルムを介して環状ポリオレフィンロールフィルムを作製しても、生産性を上げるために製膜速度を上げたり、あるいは光学特性の値を調整する為に乾燥条件を変更したりすることで前述のように、搬送中の環状ポリオレフィンとパスロールとの間でのキシミが発生して光学特性のバツキが大きくなったり、ひいては、フィルムが座屈し折れが発生するなどして、良好な面状を有し、均一な光学特性(正面レターデーション、厚さ方向のレターデーション、正面レターデーションの軸)を有するロールフィルムを生産性良く得ることが極めて困難であった。したがって環状ポリオレフィンフィルムで生産性良く、均一な光学特性、面状を有するロールフィルムを得るための技術が切望されていた。
【0008】
本発明の目的は、搬送性にすぐれ、面状が良好で、均一な光学特性を有する環状ポリオレフィンフィルムおよび該フィルムを生産性よく製造する方法を提供することである。
本発明の別の目的は、該環状ポリオレフィンフィルムを有する光学補償フィルムを用いて構成される偏光板および液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らによる鋭意検討の結果、環状ポリオレフィンフィルムの搬送性が悪い原因が、環状ポリオレフィンの弾性率の低さにあることを見出し、その改善策として環状ポリオレフィンフィルム中で熱架橋性化合物の架橋構造を形成させることを着想した。さらに、位相差フィルムでは光学的異方性が要求されるため、延伸を行う必要があるため、延伸前には、熱架橋が進行せず、延伸終了後に架橋を進行させる必要があり、フィルム乾燥条件を最適化することで、延伸前の熱架橋進行度を抑制し達成できることが分かった。本発明の環状ポリオレフィンフィルムは搬送性が向上する上、さらに驚くべきことに遅相軸角度のバラツキを低減できることがわかった。
さらに、熱架橋性化合物の架橋生成物と環状ポリオレフィンとのセミIPN構造(半相互貫入型網目構造)をとらせることにより、架橋構造を半相互貫入型網目構造とすることで、フィルム屑を溶媒に溶解させて環状ポリオレフィンの再回収を図る際にも、回収チップの再利用が可能であり、コスト的にも有利であることを見出した。
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0010】
(1)環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とを含有することを特徴とする環状ポリオレフィンフィルム。
(2)環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とのセミIPN(半相互貫入型網目構造)型ポリマーアロイを含有することを特徴とする上記(1)に記載の環状ポリオレフィンフィルム。
(3)前記熱架橋性化合物がエポキシ化合物、アミノ樹脂前駆体、イソシアネート化合物のいずれかであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の環状ポリオレフィンフィルム。
(4)弾性率が3000MPa以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルム。
【0011】
(5)環状ポリオレフィン及び熱架橋性化合物を有機溶媒に溶解してドープを作製する工程、該ドープを支持体上にフィルム状に流延する流延工程、該支持体から流延したフィルムを剥離する剥離工程、剥離後のフィルムを乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(6)前記ドープがさらに硬化触媒を含有することを特徴とする上記(5)記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(7)前記剥離工程以降に、フィルムを延伸する工程を含むことを特徴とする上記(6)に記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(8)フィルムを実質的に延伸する前の架橋反応率が10%以下であることを特徴とする上記(7)に記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
(8) 前記乾燥工程において、70℃以上にて加熱処理し、熱架橋性化合物の架橋反応を促進させることを特徴とする上記(5)〜(7)のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【0012】
(9) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする偏光板。
(10) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムまたは請求項10に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば搬送性にすぐれ、面状が良好で、均一な光学特性を有する環状ポリオレフィンフィルムおよび該フィルムを生産性よく製造する方法を提供することができる。
さらに、該環状ポリオレフィンフィルムからなる光学補償フィルムを用いて構成される偏光板および液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の環状ポリオレフィンフィルムは、環状ポリオレフィンと熱架橋性化合物の架橋生成物を含有することを特徴とする。
【0015】
まず、本発明に使用する環状ポリオレフィンについて説明する。
(環状ポリオレフィン)
本発明に用いる環状オレフィン構造を有する重合体樹脂の例には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などがある。本発明に好ましい重合体は下記一般式(II)で表される繰り返し単位を少なくとも1種以上含む付加(共)重合体環状ポリオレフィンおよび必要に応じ、一般式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種以上を更に含んでなる付加(共)重合体環状ポリオレフィンである。また、一般式(III)で表される環状繰り返し単位を少なくとも1種含む開環(共)重合体も好適に使用することができる。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
式中、mは0〜4の整数を表す。R1〜R6は水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基、X1〜X3、Y1〜Y3は水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜10の炭化水素基、−(CH2)nCOOR11、−(CH2)nOCOR12、−(CH2)nNCO、−(CH2)nNO2、−(CH2)nCN、−(CH2)nCONR1314、−(CH2)nNR1314、−(CH2)nOZ、−(CH2)nW、またはX1とY1あるいはX2とY2あるいはX3とY3から構成された(−CO)2O、(−CO)2NR15を示す。なお、R11,R12,R13,R14,R15は水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、Zは炭化水素基またはハロゲンで置換された炭化水素基、WはSiR16p3−p(R16は炭素数1〜10の炭化水素基、Dはハロゲン原子−OCOR16または−OR16、pは0〜3の整数を示す)、nは0〜10の整数を示す。
【0020】
1〜X3 、Y1 〜Y3の置換基に分極性の大きい官能基を導入することにより、光学フィルムの厚さ方向レターデーション(Rth)を大きくし、面内レターデーション(Re)の発現性を大きくすることが出来る。Re発現性の大きなフィルムは、製膜過程で延伸することによりRe値を大きくすることができる。
【0021】
ノルボルネン系重合体水素化物は、特開平1−240517号、特開平7−196736号、特開昭60−26024号、特開昭62−19801号、特開2003‐1159767号あるいは特開2004‐309979号等に開示されているように、多環状不飽和化合物を付加重合あるいはメタセシス開環重合したのち水素添加することにより作られる。本発明に用いるノルボルネン系重合体において、R5〜R6は水素原子又は−CH3 が好ましく、X3、及びY3 は水素原子、Cl、−COOCH3 が好ましく、その他の基は適宜選択される。このノルボルネン系樹脂は、JSR(株)からアートン(Arton)GあるいはアートンFという商品名で発売されており、また日本ゼオン(株)からゼオノア(Zeonor)ZF14、ZF16、ゼオネックス(Zeonex)250あるいはゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
【0022】
ノルボルネン系付加(共)重合体は、特開平10−7732号、特表2002−504184号、US2004229157A1号あるいはWO2004/070463A1号等に開示されている。ノルボルネン系多環状不飽和化合物同士を付加重合する事によって得られる。また、必要に応じ、ノルボルネン系多環状不飽和化合物と、エチレン、プロピレン、ブテン;ブタジエン、イソプレンのような共役ジエン;エチリデンノルボルネンのような非共役ジエン;アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの線状ジエン化合物とを付加重合することもできる。このノルボルネン系付加(共)重合体は、三井化学(株)よりアペルの商品名で発売されており、ガラス転移温度(Tg)の異なる例えばAPL8008T(Tg70℃)、APL6013T(Tg125℃)あるいはAPL6015T(Tg145℃)などのグレードがある。ポリプラスチック(株)よりTOPAS8007、同6013、同6015などのペレットが発売されている。更に、Ferrania社よりAppear3000が発売されている。
【0023】
(熱架橋性化合物による架橋生成物)
次に本発明において使用する熱架橋性化合物による架橋生成物について説明する。比較的分子量の小さい熱架橋性化合物は溶剤への溶解性が良好であり、環状ポリオレフィンと均一混合溶解したドープ溶液を作製することができる。環状ポリオレフィン、熱架橋性化合物、必要により硬化触媒を含有したドープ溶液を用いて溶液流延方法によりフィルムを作製し、さらに製造工程のいずれかの段階で熱架橋性化合物の架橋反応を促進させることで、相分離等を生じることなくヘイズが小さく光学的に透明な、膜強度に優れた光学用途に好適なフィルムを得ることができる。熱架橋性化合物の架橋反応は、溶液流延製膜法の乾燥工程における加熱処理段階で簡便かつ効率的に促進できる。本発明においては目的を達成できる範囲でどのような熱架橋性化合物を用いてもよく限定はされない。環状ポリオレフィンとの相溶性の観点から熱架橋性化合物としてエポキシ化合物、アミノ樹脂前駆体、またはイソシアネート化合物を用い、熱架橋反応によりフィルム中にエポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂といった架橋生成体を形成することが好ましい。
【0024】
なお、本発明においては環状ポリオレフィンと熱架橋性化合物や硬化触媒との間で架橋構造が形成されていてもよい。しかしながら、製造工程時に発生する屑を再度溶媒に溶かして、環状ポリオレフィン原料を回収し再利用することで製品の低コスト化が図れるという実用的・環境配慮的な観点からは、本発明のフィルムは環状ポリオレフィンと熱架橋性化合物や硬化触媒との間で架橋が生じていないセミIPN(半相互貫入型網目構造)型ポリマーアロイであることが好ましい。環状ポリオレフィンに存在する置換基の種類と架橋性化合物の種類とをお互いが架橋反応を生じないものに調整したり、硬化触媒の利用等によってセミIPN型ポリマーアロイを含有する環状ポリオレフィンフィルムを作製することができる。
以下、本発明において好ましく用いられる架橋生成体について説明する。
【0025】
(エポキシ樹脂)
本発明において架橋生成体として好ましく用いられるエポキシ樹脂は、下記一般式(I)〜(IV)で示される化合物から選ばれた少なくとも一種のエポキシ化合物の架橋体である。
【0026】
【化4】

【0027】
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、アルキル基またはハロゲン原子を表し、L1、L2は2価の脂肪族の有機基を表す。また、Mは酸素または窒素原子、Aはm価の連結基を表す。a,b,cは0〜4の整数、x,yは0〜20の実数、lは1または2、mは2〜4の整数を表す。)
【0028】
一般式(I)、(II)、(IV)において、L1、L2としては例えば、
【0029】
【化5】

【0030】
などが挙げられ、一般式(III)においてAとしては、
【0031】
【化6】

【0032】
などが挙げられる。R1、R2、R3のアルキル基としては、炭素数1〜3が好ましく、ハロゲン原子してはBr、Cl、Fなどが挙げられる。
【0033】
以下、一般式(I)、(II)、(III)または(IV)で示されるエポキシ化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
なお、構造式中にある変数x、yは実数であり、各々0〜20の範囲であれば何でもよい。x、yが必ずしも整数とならないのは、数種類の整数値を有するエポキシ化合物がある比率で混合された状態であり、その平均値を示しているからである。これらのエポキシ化合物は単独で用いても、2種類以上組み合わせても良い。
【0039】
一般式(I)〜(IV)で示される構造以外のエポキシ化合物の具体例としては下記化合物が挙げられる。
【0040】
【化11】

【0041】
次にエポキシ化合物とともに好ましく使用される硬化触媒について説明する。
硬化触媒は、エポキシ化合物の高分子化(または、架橋)反応を促進させ、かつ、環状ポリオレフィンを実質的に3次元架橋させない化合物である。硬化触媒は、それ自身がエポキシ化合物と縮合反応等を起こしたり、触媒として働き、エポキシ化合物同士の反応を促進することで、環状ポリオレフィン中に、網目構造を形成させる。硬化触媒としては、置換もしくは無置換のアミン類、イミダゾール類、メルカプタン類、酸無水物類、ポリアミド樹脂、有機酸ヒドラジド等が挙げられるが、中でも、アミン誘導体、酸無水物及びイミダゾール誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
好ましい具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
H−15 無水トリメリット酸
H−16 無水マレイン酸
H−17 無水フタル酸
H−18 無水メチルナジック酸
H−19 無水コハク酸
【0045】
【化14】

【0046】
【化15】

【0047】
その他、ポリスルフィド樹脂(スリーボンド社製Three Bond 2104)、 エチレングリコールビストリメート、グリセロールトリストメリテート等も用いることが出来るが、硬化触媒はこれらに限定されるわけではない。また、これらをお互いに併用して用いることも好ましい。
本発明においては、二官能のアミン誘導体が環状ポリオレフィンと架橋生成物とを架橋させずに網目構造を作るという点で最も好ましい。
なお、環状ポリオレフィンにおける3次元架橋の有無は、非架橋の環状ポリオレフィンを溶解する溶媒、例えば、塩化メチレンに浸漬し、環状ポリオレフィンが溶解するかどうかで判定することができる。
【0048】
本発明において、エポキシ化合物の使用量は、環状ポリオレフィンの質量に対して、1%〜30%であることが好ましい。より好ましくは2%〜20%であり、さらに好ましくは、3%〜15%である。
また、硬化触媒の使用量は、使用するエポキシ化合物の質量に対し、好ましくは1%〜100%、より好ましくは5%〜50%、さらに好ましくは10%〜40%である。
【0049】
(アミノ樹脂)
本発明において架橋生成体として好ましく用いられるアミノ樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹脂などが例として挙げられる。アミノ樹脂はアミノ樹脂前駆体の縮合によって形成されることが好ましい。
【0050】
本明細書においてアミノ樹脂前駆体とは、前記アミノ樹脂(好ましくはメラミン樹脂、尿素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹脂及びこれらの混合物からなる群から選ばれる樹脂)の形成に用いることが可能な化合物を指し、通常、該化合物が縮合することによってアミノ樹脂が形成される。
本発明に用いられるアミノ樹脂前駆体としては、下記一般式(1)〜(5)及びその多核体が好ましい。多核体の平均重合度は、1を超えて5以下であることが好ましい。
一般式(1):
【0051】
【化16】

【0052】
11及びR12は、水素原子又はCHOR10(R10は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)を表し、R11及びR12は同一であっても異なっていてもよい。CHOR10基のR10は、上記一般式(1)の中で同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
10がアルキル基の場合、炭素数は1〜12であり、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。炭素数が該上限値以内であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低下するといった問題が生じないため好ましい。
【0054】
11及びR12の具体例を下記に示す。
H、CHOCH3、CHOC、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOH等。
【0055】
一般式(2):
【0056】
【化17】

【0057】
21〜R24は、水素原子又はCHOR20(R20は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)を表し、R21〜R24は同一であっても異なっていてもよい。CHOR20基のR20は、上記一般式(2)のなかで同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
20がアルキル基の場合、炭素数は1〜12であり、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。炭素数が該上限値以内であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低下するといった問題が生じないため好ましい。
【0059】
21〜R24の具体例を下記に示す。
H、CHOCH3、CHOC、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOH等。
【0060】
一般式(3):
【0061】
【化18】

【0062】
31〜R34は、水素原子又はCHOR30(R30は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)を表し、R31〜R34は同一であっても異なっていてもよい。CHOR30基のR30は、上記一般式(3)のなかで同一であっても異なっていてもよい。
【0063】
30がアルキル基の場合、炭素数は1〜12であり、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。炭素数が該上限値以内であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低下するといった問題が生じないため好ましい。
【0064】
31〜R34の具体例を下記に示す。
H、CHOCH3、CHOC、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOH等。
【0065】
一般式(4):
【0066】
【化19】

【0067】
41及びR42は、水素原子又はCHOR40(R40は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)を表し、R41及びR42は同一であっても異なっていてもよい。R43は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。CHOR40基のR40は、上記一般式(4)のなかで同一であっても異なっていてもよい。
【0068】
40、R43がアルキル基の場合、炭素数は1〜12であり、炭素数1〜8が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。炭素数が該上限値以内であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低下するといった問題が生じないため好ましい。
【0069】
41及びR42の具体例を下記に示す。
H、CHOCH3、CHOC、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOC(n)、CHOC(i)、CHOH等。
【0070】
一般式(5):
【0071】
【化20】

【0072】
51〜R56は、水素原子又はCHOR50(R50は水素原子、又は炭素数1〜12のアルキル基を表す)を表し、R51〜R56は同一であっても異なっていてもよい。CHOR50基のR50は、上記一般式(5)のなかで同一であっても異なっていてもよい。
【0073】
50がアルキル基の場合、炭素数1〜12が好ましく、炭素数1〜8が更に好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。炭素数が12以下であれば、セルロースアシレートとの相溶性が低下するなどの問題が生じないので好ましい。
【0074】
次ぎにR51〜R56の具体例を下記に示す。
H、CHOCH3、CHOC、CH、CHi、CH、CHi、CHOH等。
【0075】
[アミノ樹脂前駆体の好適例]
下記に、本発明において好ましいアミノ樹脂前駆体を例示する。これらの多核体も好ましい化合物に含まれる。また本発明に用いられるアミノ樹脂前駆体は下記化合物例に限定されるものではない。
【0076】
【化21】

【0077】
【化22】

【0078】
【化23】

【0079】
【化24】

【0080】
【化25】

【0081】
上記式(E−5)〜(E−12)において、C基は、n−C又はi−Cの何れでもよい。
【0082】
これらの化合物のうち、架橋のしやすさ、フィルム強度の観点から、アミノ樹脂前駆体は(A−1)、(B−1)、(C−1)、(D−1)、(E−1)及び(E−4)の少なくともいずれかを用いることが最も好ましい。これらの複数を用いてもよい。
【0083】
本発明に用いられるアミノ樹脂前駆体は、市販されているアミノ樹脂形成材料に含有されている。例えば、「ニカラックMW−30HM」、「ニカラックMW−390」、「ニカラックMW−100LM」、「ニカラックMX−750LM」、「ニカラックMW−30M」、「ニカラックMW−30」、「ニカラックMW−22」、「ニカラックMS−11」、「ニカラックMS−001」、「ニカラックMX−730」、「ニカラックMX−750」、「ニカラックMX−706」、「ニカラックMX−035」、「ニカラックMX−45」、「ニカラックMX−410」「ニカラックMX−270」、「ニカラックMX−280」、「ニカラックMX−290」、「ニカラックBL−60」、「ニカラックBX−37」、「ニカラックBX−4000」{以上、(株)三和ケミカル製};「スミマールM−100」、「スミマールM−100C」、「スミマールM−56」、「スミマールM−40S」、「スミマールM−50W」、「スミマールM−40W」、「スミマールM−30W」、「スミマールMC−1」、「スミマールM−66B」、「スミマールM−65B」、「スミマールM−68B」、「スミマールM−22」{以上、住友化学(株)製};などを例示することができる。
【0084】
アミノ樹脂前駆体の添加量は、環状ポリオレフィンに対し3〜60質量%、好ましくは5〜50質量%、更に好ましくは7〜40質量%である。3質量%以上であれば、メラミン樹脂の良好な添加効果が発揮され、60質量%以下であれば、フィルムが脆くなって搬送性が低下するなどの問題が生じないので、この添加量範囲で使用することが好ましい。
【0085】
アミノ樹脂形成材料の工業的製法は次の2つに大別される:
(1)低固形分型アミノ樹脂形成材料の製造方法、
(2)高固形分型アミノ樹脂形成材料の製造方法。
低固形分型アミノ樹脂形成材料は一段法で製造されるが、高固形分型アミノ樹脂形成材料は多段法で製造される。この製法の違いによって、アミノ樹脂形成材料に含まれる、アミノ樹脂形成用単量体・多核体のアルキルエーテル化置換度、平均重合度、遊離ホルムアルデヒド含有量が異なる。
【0086】
本発明において好適なアミノ樹脂形成材料は、遊離ホルムアルデヒド含量が少ないという観点から、多段法により製造されたものが好ましい。好ましい遊離ホルムアルデヒド含量は5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。遊離ホルムアルデヒド含量が5質量%以下であれば、環境負荷が少なくなる観点から好ましい。
【0087】
〔ポリオール〕
本発明において、アミノ樹脂前駆体を架橋性化合物として用いる場合には、ポリオールを併用し、アミノ樹脂前駆体とポリオールとの架橋構造を形成する態様も好ましい。本発明においてポリオールとは水酸基を複数有する化合物のことである。本発明のポリオールとして好ましいものは、側鎖に水酸基を有するポリマーであり、アクリル系樹脂を特に好ましく用いることができる。
【0088】
側鎖に水酸基を有するアクリル系樹脂において、水酸基を有する重合単位を形成するためのモノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸の水酸基含有エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、又はこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)である。
【0089】
これらのモノマーに基づく、水酸基を有するアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル重合単位は、アクリル系樹脂中に2〜50質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜40質量%であり、更に好ましくは2〜30質量%である。
【0090】
上記の水酸基を有するモノマーに共重合される、水酸基を有しないモノマー単位としては、次のものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等;アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0092】
本発明において用いられるポリオールの質量平均分子量(Mw)は、500〜15000が好適である。500以上であれば透明フィルムの強度を保つことが可能であるし、15000以下ならばセルロースアシレートとの相溶性に問題が生じることがない。
【0093】
本発明において用いられるポリオールは、質量平均分子量が上記のとおり通常用いられるものより小さいことが好ましいので、通常の重合方法に比べ工夫を施すことが好ましい。このような工夫には、例えば、過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、連鎖移動剤を使用する方法、高温・高圧連続塊状重合法を使用する方法等があるが、中でも高温・高圧連続塊状重合法を用いることが好ましい。高温・高圧連続塊状重合法は、開始剤及び連鎖移動剤残渣、未溶解ゲル分が非常に少ないため、透明フィルムを形成したときに異物・輝点のような欠点が少なくなる。高温・高圧連続塊状重合法に関しては、米国特許第6,552,144号明細書、同第6,605,681号明細書、同第6,689,853号明細書、同第6,858,678号明細書、同第6,894,117号明細書等に記載がある。
【0094】
なお、本発明において用いられるポリオールの市販品としては、“ARUFON UH−2000”シリーズ;東亜合成(株)製がある。
【0095】
ポリオールの添加量は、環状ポリオレフィンに対して、5〜50質量%が好ましく、更に好ましくは10〜40質量%である。5質量%以上でフィルム強度向上、透湿度低下に有効であり、50質量%以下でフィルムの脆さがなくリワーク性に優れる。
【0096】
〔硬化触媒〕
アミノ樹脂前駆体を架橋性化合物として用いる場合には、ドープ中に硬化触媒として酸触媒を加えてもよい。この酸触媒は、例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、シュウ酸、マレイン酸、デカンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸類;パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレン(ジ)スルホン酸等のスルホン酸類;ジメチルリン酸、ジブチルリン酸、ジメチルピロリン酸、ジブチルピロリン酸等の有機アルキルリン酸エステル化合物などが挙げられる。これらの有機酸のうち硬化性の点から、スルホン酸類、なかでもドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ジノニルナフタレン(ジ)スルホン酸が特に好ましい。
【0097】
ドープの貯蔵安定性の点からは、上記の酸触媒を、通常の一般的な製膜温度で解離するブロック剤でブロックして用いるのが好ましい。ブロックされた酸触媒を用いると、ドープの貯蔵安定性が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。
【0098】
ブロック剤としてはアミンを用いるのがよく、アミンとしては、炭素原子数40以下の第一級、第二級、又は第三級のアルキルアミン、アルカノールアミン、脂環式アミン、及びN−ヘテロ環式アミンが好ましく、特にエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、n−、i−、s−及びt−ブチルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、及びトリ−イソプロパノールアミン等が好ましい。
【0099】
なお、酸触媒の市販品としては、例えば、「ネイキュア155」、「ネイキュア1051」、「ネイキュア5076」、「ネイキュア4054J」(KING INDUSTRIES,INC社製)等が挙げられる。ブロックする場合には、これらの酸触媒を上述のブロック剤でブロックして用いる。市販品としては、「ネイキュア2500」、「ネイキュア5225」、「ネイキュアX49−110」、「ネイキュア3525」、「ネイキュア4167」(KING INDUSTRIES、INC社製)等が挙げられる。
【0100】
硬化触媒の添加量は、フィルム乾燥温度、乾燥時間に拠るため一概に決められないが、アミノ樹脂前駆体に対して0.1〜10.0質量%、好ましくは0.2〜8.0質量%、より好ましくは0.3〜5.0質量%が好適である。0.1%以上であれば、硬化が十分に進行し、10.0質量%以下であればドープの液安定性が不良になるなどの問題が生じない。
【0101】
(イソシアネート樹脂)
本発明において架橋生成体として好ましく用いられるイソシアネート樹脂は、少なくとも一種のイソシアネート化合物の架橋体であることが好ましい。イソシアネート化合物として好ましいのは、複数のイソシアネート基を有しているポリイソシアネート化合物である。
【0102】
これらのポリイソシアネート化合物として、例えば、以下の一般式Aで表される化合物が挙げられる。
【0103】
一般式A:
O=C=N−L−(N=C=O)
式中、vは0、1または2であり、Lはアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基またはアラルキル基を部分構造として有する2価の連結基を表す。
【0104】
これらの基は、更に置換基を有していても良く、好ましい置換基の例は、ハロゲン(例えば、BrおよびCl)、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシル基等が挙げられる。
これらの例として、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネートなどの芳香環を有するイソシアネート、n−ブチルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系のイソシアネート、水素添加TDI、水素添加MDIなどの芳香環に水素添加したイソシアネートなど、また、製造元から入手できる特定のイソシアネート化合物の例を以下に示す。
【0105】
IC−1 デスモデュ(Desmodur)N100、モーベイ社、脂肪族イソシアネート、
IC−2 デスモデュN3300、モーベイ社、脂肪族イソシアネート、
IC−3 モンデュー(Mondur)TD−80、モーベイ社、芳香族イソシアネート、
IC−4 モンデューM、モーベイ社、芳香族イソシアネート、
IC−5 モンデューMRS、モーベイ社、ポリマーイソシアネート、
IC−6 デスモデュW、モーベイ社、脂肪族イソシアネート、
IC−7 パピ(Papi)27、ダウ社、ポリマーイソシアネート、
IC−8 イソシアネートT1890、ヒュルス(Huels)、脂肪族イソシアネート、
IC−9 オクタデシルイソシアネート、アルドリッヒ社、脂肪族イソシアネート。
更に、コロネート2030、コロネート2255、コロネート2513、コロネート2507、コロネートL、コロネートHL、コロネートHK、コロネートHX、コロネート341、コロネートMX、コロネート2067(以上日本ポリウレタン社製)、タケネートD103H、タケネートD204EA、タケネートD−172N、タケネートD−170N(以上武田薬品製)、スミジュール3200、スミジュール44V−20、スミジュールIL(以上住友バイエルウレタン社製)等を挙げることができる。しかしながら、本発明に用いるポリイソシアネート化合物は、これらに限定されない。
【0106】
また、これらのイソシアネート化合物と活性水素基含有化合物とを反応させたポリイソシアネートを用いてもよい。TDI、MDIなどの芳香環を有するイソシアネートを用いると、少量でヘイズが小さくなり、高湿条件での白濁がなくなり、保留性が向上するほか、吸水弾性率が向上し、また透湿性も向上する。また、脂肪族系のイソシアネートでは引裂強度の低下も抑えられる。
【0107】
これらの使用量は、環状ポリオレフィンに対し、質量比で0.1%〜10%、好ましくは、0.3〜5%の範囲である。多すぎると脆くなりフィルム搬送性が低下する。また、少なすぎる場合、効果のある架橋が形成されず、本発明の効果が得られない。
【0108】
本発明においてはイソシアネート化合物とともに水酸基含有化合物を用いることが好ましい。イソシアネート化合物と架橋する置換基を有さない環状ポリオレフィンを用いる場合においても、イソシアネート化合物に加えて水酸基含有化合物を共に用いることによりフィルム中に架橋体を形成することが可能になる。また環状ポリオレフィン中の置換基とイソシアネートとの架橋において、水酸基含有化合物がこれらの架橋中に更にウレタン結合を介して入り込むことで、分子量の増加によって吸水弾性率が大きくなる、また硬くなりすぎて脆くなる等を緩和する働きをすると考えられる。
【0109】
水酸基含有化合物と共に用いると、前記イソシアネート化合物がこれら水酸基含有化合物と反応してウレタン結合を形成してイソシアネート化合物を固定し、可塑化効果を向上させる。
【0110】
水酸基含有化合物としては、特に制限はなく、上記のようにイソシアネート化合物と反応するものであればよく、アルコール類或いはフェノール類等が挙げられるが、なかでも、後述する水酸基を含有する紫外線吸収剤が、このような役割を有するものとしても好ましい。しかしながら、特に二つ以上水酸基を有する化合物が好ましい。両末端水酸基を有するポリエステル、水酸基含有ポリエステルエーテル等のほか、また、次の一般式Bで表される多価アルコール等が前記熱架橋性化合物と共に用いるのが好ましいものとして挙げられる。
【0111】
一般式B
−(OH)
式中、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す。
【0112】
n価の脂肪族有機基としては、アルキレン基(例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等)、アルケニレン基(例えばエテニレン基等)、アルキニレン基(例えばエチニレン基等)、シクロアルキレン基(例えば1,4−シクロヘキサンジイル基等)、アルカントリイル基(例えば1,2,3−プロパントリイル基等)があげられる。n価の脂肪族有機基は置換基(例えばヒドロキシル基、アルキル基、ハロゲン原子等)を有するものを含む。芳香族有機基としてはアリーレン基(例えばフェニレン基等)が好ましい。nは2〜20が好ましい。
【0113】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール、また芳香族アルコールとしてキシリレンジオール、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンなどを挙げることができる。中でも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0114】
また、好ましいフェノール性水酸基の例としては、レゾルシン、ピロガロール等の化合物がある。
【0115】
多価アルコールの分子量は特に制限はないが、分子量300〜1500の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。透湿性、環状ポリオレフィンとの相溶性の点では小さい方が好ましい。多価アルコールは一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てOH基のままでもよく、また、一部エステル化、エーテル化してもよい。
【0116】
これらの水酸基を含有する化合物の使用量は、前記環状ポリオレフィンに対し、質量比で0.1%〜30%、好ましくは、0.3〜15%の範囲である。多すぎると、排除体積効果が働き反応が十分に進みにくくなり、有効な半相互侵入型架橋構造を有効にとることが困難となりフィルムが脆くなり搬送性が悪化し、また、少なすぎると、可塑化効果がなく脆くなり本発明の効果が得られない。従って、前記ポリイソシアネート化合物に対し、当量〜3倍量程度の量が好ましい。
【0117】
(微粒子)
本発明では、上記環状ポリオレフィン系樹脂に微粒子を添加することにより、その効果を更に高めることができる。微粒子の添加により、フィルム表面の動摩擦係数が低下することによりフィルムハンドリング時にフィルムに加わる応力を低減することに起因すると思われるが、本発明をより効果的に実施することができる。本発明で使用できる微粒子としては、有機あるいは無機化合物の微粒子を使用することができる。
【0118】
無機化合物としては、ケイ素を含む化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロングチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、更に好ましくはケイ素を含む無機化合物や金属酸化物であるが、フイルムの濁度を低減できるので、二酸化ケイ素が特に好ましく用いられる。二酸化ケイ素の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名を有する市販品が使用できる。酸化ジルコニウムの微粒子としては、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)等の商品名で市販されているものが使用できる。
【0119】
有機化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、澱粉等があり、またそれらの粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物を用いることができる。
【0120】
これらの微粒子の1次平均粒子径としては、ヘイズを低く抑えるという観点から、好ましくは、1〜20000nmであり、より好ましくは1〜10000nmであり更に好ましくは、2〜1000nmであり、特に好ましくは、5〜500nmである。微粒子の1次平均粒子径の測定は、透過型電子顕微鏡で粒子を平均粒径で求められる。購入した微粒子は凝集していることが多く、使用の前に公知の方法で分散することが好ましい。分散により二次粒子径を200〜1500nmにすることが好ましく、300〜1000nmが更に好ましい。微粒子の添加量は環状ポリオレフィン100質量部に対して0.01〜0.3質量部が好ましく、0.05〜0.2質量部がさらに好ましく、0.08〜0.12質量部が最も好ましい。
微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましいヘイズの範囲は2.0%以下であり、1.2%以下が更に好ましく、0.5%以下が特に好ましい。微粒子を添加した環状ポリオレフィンフィルムの好ましい動摩擦係数は0.8以下であり、0.5以下が特に好ましい。動摩擦係数は、JISやASTMが規定する方法に従い、鋼球を用いて測定できる。ヘイズは日本電色工業(株)製1001DP型ヘイズ計を用いて測定できる。
【0121】
(溶剤)
次に、本発明の環状ポリオレフィンを溶解する溶剤について記述する。本発明においては、環状ポリオレフィンを溶解し、流延,製膜してその目的が達成できる限りは、使用できる溶剤は特に限定されない。本発明で用いられる溶剤は、例えばジクロロメタン、クロロホルムの如き塩素系溶剤、炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素、環状炭化水素、芳香族炭化水素、エステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶剤が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。炭素原子数が3〜12の鎖状炭化水素類の例としては、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、デカンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12の環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン及びその誘導体が挙げられる。炭素原子数が3〜12の芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。2種類以上の官能基を有する有機溶剤の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。有機溶剤の好ましい沸点は35℃以上且つ150℃以下である。本発明に使用される溶剤は、乾燥性、粘度等の溶液物性調節のために2種以上の溶剤を混合して用いることができ、更に、混合溶媒で環状ポリオレフィンが溶解する限りは、貧溶媒を添加することも可能である。
【0122】
好ましい貧溶媒は使用するポリマー種により適宜選択することができる。良溶媒として塩素系有機溶剤を使用する場合は、アルコール類を好適に使用することができる。アルコール類としては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。貧溶媒のなかでも特に1価のアルコール類は、剥離抵抗低減効果があり、好ましく使用することができる。選択する良溶剤によって特に好ましいアルコール類は変化するが、乾燥負荷を考慮すると、沸点が120℃以下のアルコールが好ましく、炭素数が1〜6の1価アルコールが更に好ましく、炭素数1〜4のアルコール類が特に好ましく使用することができる。環状ポリオレフィン溶液を作成する上で特に好ましい混合溶剤は、ジクロロメタンを主溶剤とし、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールあるいはブタノールから選ばれる1種以上のアルコール類を貧溶媒にする組み合わせである。
【0123】
(添加剤)
本発明の環状ポリオレフィン溶液には、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、劣化防止剤、紫外線防止剤、レターデーション(光学異方性)調節剤、剥離促進剤、可塑剤、赤外吸収剤、など)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば20℃以下と20℃以上の紫外線吸収材料の混合や、同様に劣化防止剤の混合などである。さらにまた、赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報に記載されている。またその添加する時期は環状ポリオレフィン溶液(ドープ)作製工程において何れで添加しても良いが、ドープ調製工程の最後の調製工程に添加剤を添加し調製する工程を加えて行ってもよい。更にまた、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、環状ポリオレフィンフィルムが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。
【0124】
(劣化防止剤)
本発明の環状ポリオレフィン溶液には公知の劣化(酸化)防止剤、例えば、2,6−ジ−t−ブチル,4−メチルフェノール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、1,1’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系あるいはヒドロキノン系酸化防止剤を添加することができる。さらに、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどのリン系酸化防止剤をすることが好ましい。酸化防止剤の添加量は、環状ポリオレフィン100質量部に対して、0.05〜5.0質量部を添加する。
【0125】
(紫外線吸収剤)
本発明の環状ポリオレフィン溶液には、偏光板または液晶等の劣化防止の観点から、紫外線吸収剤が好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましく用いられる。本発明に好ましく用いられる紫外線吸収剤の具体例としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
ヒンダードフェノール系化合物の例としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系化合物の例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、(2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕などが挙げられる。
これらの紫外線防止剤の添加量は、環状ポリオレフィンに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0126】
(レターデーション発現剤)
本発明ではレターデーション値を発現するため、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として用いることができる。レターデーション発現剤を使用する場合は、ポリマー100質量部に対して、0.05乃至20質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがより好ましく、0.2乃至5質量部の範囲で使用することがさらに好ましく、0.5乃至2質量部の範囲で使用することが最も好ましい。二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250乃至400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0127】
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0128】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0129】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0130】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−。
【0131】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ基、カルボキ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基が含まれる。
【0132】
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0133】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0134】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミド基が含まれる。脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
【0135】
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリ基が含まれる。レターデーション発現剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
【0136】
本発明では1,3,5−トリアジン環を用いた化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができる。直線的な分子構造とは、熱力学的に最も安定な構造において棒状化合物の分子構造が直線的であることを意味する。熱力学的に最も安定な構造は、結晶構造解析または分子軌道計算によって求めることができる。例えば、分子軌道計算ソフト(例、WinMOPAC2000、富士通(株)製)を用いて分子軌道計算を行い、化合物の生成熱が最も小さくなるような分子の構造を求めることができる。分子構造が直線的であるとは、上記のように計算して求められる熱力学的に最も安定な構造において、分子構造で主鎖の構成する角度が140度以上であることを意味する。
【0137】
少なくとも二つの芳香族環を有する棒状化合物としては、下記一般式(X)で表される化合物が好ましい。
一般式(X): Ar1−L1−Ar2
【0138】
上記一般式(X)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。本明細書において、芳香族基は、アリール基(芳香族性炭化水素基)、置換アリール基、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基を含む。アリール基および置換アリール基の方が、芳香族性ヘテロ環基および置換芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性へテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性へテロ環は一般に最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子または硫黄原子が好ましく、窒素原子または硫黄原子がさらに好ましい。芳香族基の芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環およびピラジン環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0139】
一般式(X)において、L1は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基から選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造を有していてもよい。環状アルキレン基としては、シクロヘキシレンが好ましく、1,4−シクロへキシレンが特に好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状アルキレン基の方が分岐を有するアルキレン基よりも好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、より好ましくは1乃至15であり、さらに好ましくは1乃至10であり、さらに好ましくは1乃至8であり、最も好ましくは1乃至6である。
【0140】
アルケニレン基およびアルキニレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。アルケニレン基およびアルキニレン基の炭素原子数は、好ましくは2乃至10であり、より好ましくは2乃至8であり、さらに好ましくは2乃至6であり、さらに好ましくは2乃至4であり、最も好ましくは2(ビニレンまたはエチニレン)である。アリーレン基は、炭素原子数は6乃至20であることが好ましく、より好ましくは6乃至16であり、さらに好ましくは6乃至12である。一般式(X)の分子構造において、L1を挟んで、Ar1とAr2とが形成する角度は、140度以上であることが好ましい。
棒状化合物としては、下記式一般式(XI)で表される化合物がさらに好ましい。
一般式(XI):Ar1−L2−X−L3−Ar2
上記一般式(XIV)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、芳香族基である。芳香族基の定義および例は、一般式(X)のAr1およびAr2と同様である。
【0141】
一般式(XI)において、L2およびL3は、それぞれ独立に、アルキレン基、−O−、−CO−およびそれらの組み合わせからなる基より選ばれる二価の連結基である。アルキレン基は、環状構造よりも鎖状構造を有することが好ましく、分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造を有することがさらに好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましく、より好ましくは1乃至8であり、さらに好ましくは1乃至6であり、さらに好ましくは1乃至4であり、1または2(メチレンまたはエチレン)であることが最も好ましい。L2およびL3は、−O−CO−または−CO−O−であることが特に好ましい。一般式(XI)において、Xは、1,4−シクロへキシレン、ビニレンまたはエチニレンである。溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより短波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。レターデーション発現剤の添加量は、環状ポリオレフィン量の0.1乃至30質量%であることが好ましく、0.5乃至20質量%であることがさらに好ましい。
【0142】
(剥離促進剤)
環状ポリオレフィンフィルムの剥離抵抗を小さくする添加剤としては界面活性剤に効果の顕著なものが多くみつかっている。好ましい剥離剤としては燐酸エステル系の界面活性剤、カルボン酸あるいはカルボン酸塩系の界面活性剤、スルホン酸あるいはスルホン酸塩系の界面活性剤、硫酸エステル系の界面活性剤が効果的である。また上記界面活性剤の炭化水素鎖に結合している水素原子の一部をフッ素原子に置換したフッ素系界面活性剤も有効である。以下に剥離剤を例示する。
【0143】
RZ−1: C8 17O−P(=O)−(OH)2
RZ−2: C1225O−P(=O)−(OK)2
RZ−3: C1225OCH2 CH2 O−P(=O)−(OK)2
RZ−4: C1531(OCH2 CH2 5 O−P(=O)−(OK)2
RZ−5: {C1225O(CH2 CH2 O)5 2 −P(=O)−OH
RZ−6: {C1835(OCH2 CH2 8 O}2 −P(=O)−ONH4
RZ−7: (t−C4 9 3 −C6 2 −OCH2 CH2 O−P(=O)−(OK)2
RZ−8: (iso−C9 19−C6 4 −O−(CH2 CH2 O)5 −P(=O)−(OK)(OH)
RZ−9: C1225SO3 Na
RZ−10: C1225OSO3 Na
RZ−11: C1733COOH
RZ−12: C1733COOH・N(CH2 CH2 OH)3
RZ−13:iso−C8 17−C6 4 −O−(CH2 CH2 O)3 −(CH2 2 SO3 Na
RZ−14: (iso−C9 192 −C6 3 −O−(CH2 CH2 O)3 −(CH2 4 SO3 Na
RZ−15: トリイソプロピルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−16: トリ−t−ブチルナフタレンスルフォン酸ナトリウム
RZ−17: C1733CON(CH3 )CH2 CH2 SO3 Na
RZ−18: C1225−C6 4 SO3 ・NH4
【0144】
剥離剤の添加量は環状ポリオレフィンに対して0.05〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が更に好ましく、0.1〜0.5質量%が最も好ましい。
【0145】
(可塑剤)
環状ポリオレフィン系樹脂は、一般的に、セルロースアセテートに比較して柔軟性に乏しく、フィルムに曲げ応力やせん断応力がかかると、フィルムに割れ等が生じ易い。また、光学フィルムとして加工する際に、切断部にひびが入りやすく、切り屑が発生しやすい。発生した切り屑は、光学フィルムを汚染し、光学的欠陥の原因となっていた。これらの問題点を改良するため、可塑剤を添加することができる。具体的には、フタル酸エステル系、トリメリット酸エステル系、脂肪族二塩基酸エステル系、正リン酸エステル系、酢酸エステル系、ポリエステル・エポキシ化エステル系、リシノール酸エステル系、ポリオレフィン系、ポリエチレングリコール系化合物を挙げることができる。
【0146】
使用できる可塑剤としては、常温、常圧、液状で、かつ沸点が200℃以上の化合物から選択することが好ましい。具体的な化合物名としては、いかを例示することができる。
脂肪族二塩基酸エステル系としては、例えばジオクチルアジペート(230℃℃/760mmHg)、ジブチルアジペート(145℃/4mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルアジペート(335℃/760mmHg)、ジブチルジグリコールアジペート(230〜240℃/2mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート(220〜245℃/4mmHg)、ジ−2−エチルヘキシルセバケート(377℃/760mmHg)等;フタル酸エステル系としては、例えばジエチルフタレート(298℃/760mmHg)、ジヘプチルフタレート(235〜245℃/10mmHg)、ジ−n−オクチルフタレート(210℃/760mmHg)、ジイソデシルフタレート(420℃/760mmHg)等;ポリオレフィン系としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン等のパラフィンワックス類(平均分子量330〜600、融点45〜80℃)、流動パラフィン類(JIS規格K2231ISOVG8、同VG15、同VG32、同VG68、同VG100等)、パラフィンペレット類(融点56〜58℃、58〜60℃、60〜62℃等)、塩化パラフィン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリイソブテン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、スクアラン等を挙げることが出きる。
【0147】
可塑剤の添加量としては、環状ポリオレフィン系樹脂に対して、0.5から40.0質量%、好ましくは1.0質量%から30.0質量%、より好ましくは3.0%から20.0質量%である。可塑剤の添加量がこれより少ないと可塑効果が不十分で、加工適性が向上しない。また、これ以上になると長時間経時した場合に、可塑剤ご分離溶出する場合が有り、光学的ムラ、他部品への汚染等が発生し、好ましくない。
【0148】
(ドープ調製)
次に本発明の環状ポリオレフィン溶液(ドープ)の調製については、室温攪拌溶解による方法、室温で攪拌してポリマーを膨潤させた後−20℃から−100℃まで冷却し再度20℃から100℃に加熱して溶解する冷却溶解法、密閉容器中で主溶剤の沸点以上の温度にして溶解する高温溶解方法、さらには溶剤の臨界点まで高温高圧にして溶解する方法などがある。溶解性のよいポリマーは室温溶解が好ましいが、溶解性の悪いポリマーは密閉容器中で加熱溶解する。ジクロロメタンを主溶剤に選んだときは、多くの環状ポリオレフィンは20℃〜100℃の加熱により溶解することが出来る。
【0149】
本発明において、架橋性化合物として熱架橋性の化合物を用いる場合、該化合物は熱硬化性であり通常80℃〜200℃の範囲で硬化反応が進む。従って熱架橋性化合物の添加後において、過剰な温度がかからないように注意する必要がある。好ましくは、熱架橋性化合物以外の各種添加剤を含む環状ポリオレフィン溶液を調製後、熱架橋性化合物を含む溶液を添加・混合することが望ましい。
【0150】
熱架橋性化合物を含む溶液は、通常濾過が実施され、環状ポリオレフィン溶液との混合には、スタティックミキサー、回転攪拌装置等の混合装置が好ましく用いられる。
【0151】
本発明の環状ポリオレフィン溶液の粘度は25℃で1Pa・s〜500Pa・sの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは5Pa・s〜200Pa・sの範囲である。粘度の測定は次のようにして行った。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)に直径 4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて測定した。試料溶液は予め測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に測定を開始した。
【0152】
更に溶解し易くするために低い濃度で溶解してから、濃縮手段を用いて濃縮してもよい。濃縮の方法としては、特に限定するものはないが、例えば、低濃度溶液を筒体とその内部の周方向に回転する回転羽根外周の回転軌跡との間に導くとともに、溶液との間に温度差を与えて溶剤を蒸発させながら高濃度溶液を得る方法(例えば、特開平4−259511号公報等)、加熱した低濃度溶液をノズルから容器内に吹き込み、溶液をノズルから容器内壁に当たるまでの間で溶剤をフラッシュ蒸発させるとともに、溶剤蒸気を容器から抜き出し、高濃度溶液を容器底から抜き出す方法(例えば、米国特許第2,541,012号、米国特許第2,858,229号、米国特許第4,414,341号、米国特許第4,504,355号各明細書等などに記載の方法)等で実施できる。
【0153】
溶液は流延に先だって金網やネルなどの適当な濾材を用いて、未溶解物やゴミ、不純物などの異物を濾過除去しておくのが好ましい。環状ポリオレフィン溶液の濾過には絶対濾過精度が0.1μm〜100μmのフィルターが用いられ、さらには絶対濾過精度が0.5μm〜25μmであるフィルターを用いることが好ましく用いられる。フィルターの厚さは、0.1mm〜10mmが好ましく、更には0.2mm〜2mmが好ましい。その場合、濾過圧力は1.6MPa以下、より好ましくは1.3MPa以下、更には1.0MPa以下、特に好ましくは0.6MPa以下で濾過することが好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂等の従来公知である材料を好ましく用いることができ、またセラミックス、金属等も好ましく用いられる。
環状ポリオレフィン溶液の製膜直前の粘度は、製膜の際に流延可能な範囲であればよく、通常5Pa・s〜1000Pa・sの範囲に調製されることが好ましく、15Pa・s〜500Pa・sがより好ましく、30Pa・s〜200Pa・sが更に好ましい。なお、この時の温度はその流延時の温度であれば特に限定されないが、好ましくは−5℃〜70℃であり、より好ましくは−5℃〜35℃である。
【0154】
環状ポリオレフィン溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムを製造する方法は、公知の溶融製膜および溶液製膜方法等の各種の方法を使用することができるが、光学用フィルム用途としては、平面性、膜厚均一性等に優れる溶液流延法を好適に使用することができる。特に溶液流延法では、溶融製膜が困難なガラス転移温度(Tg)が200℃以上、400℃以下という高Tgを持つ環状ポリオレフィンポリマーを用いてもフィルム製膜できるという点で好ましい。さらに本発明において架橋ポリマーを熱架橋性化合物から作製する場合には、溶融製膜法では溶融時の熱により架橋反応が進んでしまい、フィルム製膜が困難になるため、溶液流延製膜法を用いることが非常に効果的で好ましい。環状ポリオレフィンフィルムの製膜ラインの一例を図1に示す。図1において環状ポリオレフィン系樹脂と溶媒とはミキシングタンク10内に注入され、撹拌翼11で撹拌されてドープ12が調製される。この時、ドープ12には、微粒子分散物、可塑剤及び紫外線吸収剤などの添加剤を混合してもよい。ドープ12は、ポンプ13により濾過装置14に送られて不純物が除去される。さらに、ドープ12は、一定の流量で流延ダイ15に送られ、ベルト16上に流延される。そして、図示しない駆動装置により回転駆動されるベルト16上で徐々に溶剤が揮発し、フィルム17が形成される。なお、ベルトに代えてドラムに流延してもよい。さらに特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平7−032391号、特開平3−193316号、特開平5−086212号、特開昭62−037113号、特開平2−276607号、特開昭55−014201号、特開平2−111511号、および特開平2−208650号の各公報に記載のセルロースアシレート製膜技術を本発明では応用できる。
【0155】
溶液の流延方法としては、調製されたドープを加圧ダイから金属支持体上に均一に押し出す方法、一旦金属支持体上に流延されたドープをブレードで膜厚を調節するドクターブレードによる方法、或いは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、加圧ダイによる方法が好ましい。加圧ダイにはコートハンガータイプやTダイタイプ等があるがいずれも好ましく用いることができる。また、ここで挙げた方法以外にも従来知られているセルローストリアセテート溶液を流延製膜する種々の方法で実施でき、用いる溶剤の沸点等の違いを考慮して各条件を設定することによりそれぞれの公報に記載の内容と同様の効果が得られる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムを製造するのに使用されるエンドレスに走行する金属支持体としては、表面がクロムメッキによって鏡面仕上げされたドラムや表面研磨によって鏡面仕上げされたステンレスベルト(バンドといってもよい)が用いられる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製造に用いられる加圧ダイは、金属支持体の上方に1基或いは2基以上の設置でもよい。好ましくは1基または2基である。2基以上設置する場合には流延するドープ量をそれぞれのダイに種々な割合にわけてもよく、複数の精密定量ギヤアポンプからそれぞれの割合でダイにドープを送液してもよい。流延に用いられる環状ポリオレフィン溶液の温度は、−10℃〜55℃が好ましくより好ましくは25℃〜50℃である。その場合、工程のすべてが同一でもよく、あるいは工程の各所で異なっていてもよい。異なる場合は、流延直前で所望の温度であればよい。
【0156】
環状ポリオレフィンフィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(例えばドラム或いはバンド)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶剤の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶剤の内の最も沸点の低い溶剤の沸点より1℃〜10℃低い温度に設定することが好ましい。尚、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
【0157】
次に乾燥時初期のなりゆき風によるスジ状、マダラ状のムラを低減する方法について詳細する。
図2は、本発明に好ましく用いられる製膜装置の流延バンドへのドープのキャストから初期膜の形成に至る工程の概略部分図である。
流延膜69中の溶媒を蒸発させるため送風口70が流延バンド34の周面近くに設けられている。図2に示されているように流延直後の流延膜69に乾燥風が吹き付けられることによる流延膜69の面状変動を抑制するため流延ダイ31の近傍にはラビリンスシール50が取り付けられている。また、ラビリンスシール50と送風口70との間に急速乾燥用の送風口(以下、急速乾燥送風口と称する)73が設けられている。急速乾燥送風口73及びその他の送風口70には給気装置51が取り付けられている。急速乾燥送風口73は複数のノズル73aを有しており、流延膜69表面に乾燥風57を当てることで、流延膜69の表面に初期膜69aを形成する。急速乾燥送風口73に設けられているノズルは図2では4個を示しているが、本発明はそれに限定されるものではない。ラビリンスシール50と急速乾燥送風口73との距離をL1(mm)とする。その領域を成行風領域Aと称する。急速乾燥送風口73の長さをL2(mm)とする。また、減圧チャンバ68には減圧装置(例えば、ルーツ式ブロワーなど)76が接続している。
なお、乾燥風57を流延膜69にあてる時間は、20秒以上であることが好ましい。乾燥風57の送風時間が20秒未満であると、初期膜69aの形成が進行しないおそれがある。この場合には、面状に優れるフィルムを得ることができない場合がある。
【0158】
急速乾燥送風口73に備えられるノズル73aについて図3に示すノズルの例によってさらに説明する。図3に示すようにノズルからの乾燥風送風方向は様々な態様のものを用いることができる。例えば、図3(a)に示すように流延膜69の両縁のノズル52a,52bから流延膜69の中央部に乾燥風を当てるものがある。また、(b)に示すように流延膜69の幅方向における中央部にノズル53を設け、前記中央部から両縁に乾燥風を当てるものでも良い。さらに、(c)に示すように流延膜69のノズル54から吸引口55に向けて乾燥風を流延膜69に当てるものでも良い。また、ノズルの形状は特に限定されるものではない。
【0159】
流延ダイ31から流延バンド34にかけては流延ビードが形成され、流延バンド34上
には流延膜69が形成される。流延時のドープ22の温度は、−10℃〜57℃であるこ
とが好ましい。また、流延ビードを安定させるために、この流延ビードの背面が減圧チャ
ンバ68により所望の圧力値に制御されることが好ましい。ビード背面は、前面よりも−
2000Pa〜−10Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ68
にはジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つように温度制
御されることが好ましい。減圧チャンバ68の温度は特に限定されるものではないが、用
いられている有機溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所
望のものに保つために流延ダイ31のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けるこ
とが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲であるこ
とが好ましい。
【0160】
流延ダイ31からドープ22は流延ビードを形成して、流延バンド34上に流延される
。流延時におけるドープ22の粘度(レオメーターで測定)は10Pa・s以上100P
a・s以下であることが好ましく、12Pa・s以上50Pa・s以下であることがより
好ましく、最も好ましくは15Pa・s以上40Pa・s以下である。流延ビードは流延
バンド34上で流延膜69を形成する。なお、流延ビードが流延バンド34に接地する位
置を流延開始位置34aと称する。ドープ22の粘度が10Pa・s未満であると、粘度
が低くなり過ぎて乾燥風によるムラを受けやすくなり流延膜69の面状が悪化すると共に
初期膜69aの形成が困難となる場合がある。さらに、含有溶媒量が多いため、流延膜6
9の乾燥初期段階における溶媒の揮発が激しくおこり、乾燥不良(例えば、発泡など)が
生じたり,溶媒回収設備の大型化が必要となったりするおそれがある。
【0161】
流延膜69は流延バンド34の移動に伴い移動する。流延膜69の上方には自然な風(
以下、成行風と称する)が発生している。なお、流延後から乾燥風が送られるまでの領域
を成行風領域Aと称する。成行風領域Aにはラビリンスシール50が設けられ、下流側の
成行風56が流延ダイ31近傍に逆流することを防止している。通常この成行風56は、
風速が2m/s以下の弱い風である。しかしながら、乱雑な流れである成行風56が、流
延膜69の表面に当たると面状の悪化をもたらす。そこで、成行風領域Aの長さL1(m
m)は極力短い方が良い。しかしながら、フィルム製造ライン20の各装置の配置位置の
関係上、長さL1(mm)は3000mm以下であれば良く、より好ましくは2000m
m以下であり、さらに好ましくは1000mm以下である。また、流延膜69が成行風領
域Aを通過する時間は15秒以下であることが好ましく、より好ましくは10秒以下であ
り、最も好ましくは7秒以下である。
【0162】
次に、流延膜69は急速乾燥送風口73が上部に配置されている箇所まで連続的に搬送
される。急速乾燥送風口73のノズル73aから乾燥風57が流延膜69に向けて送風さ
れる。流延膜69は、乾燥風57が当たることで、その表面に初期膜69aが形成される
。この初期膜69aのレベリング効果により流延膜69の表面は平滑化されて乾燥される
。なお、本発明において初期膜69aの形成は乾燥風57を当てる方法に限定されるもの
ではない。例えば、赤外線ヒータ加熱,マイクロ波加熱などで初期膜69aを形成しても
良い。
【0163】
乾燥風57の風速は、3m/s以上15m/s以下であることが好ましく、より好まし
くは4m/s以上12m/s以下であり、最も好ましくは4m/s以上10m/s以下で
ある。風速が3m/s未満であると初期膜69aの形成が遅れ、初期膜形成前に流延膜6
9の面状の悪化が生じるおそれがある。また、風速が15m/sを超えると、流延膜69
に乾燥風57が強く当たり過ぎるため面状が優れる初期膜69aが形成されないおそれが
生じる。
【0164】
乾燥風57のガス濃度は、25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以
下であり、最も好ましくは18%以下である。なお、本発明においてガス濃度とは、赤外
線分析法で測定される乾燥風57中の揮発溶媒成分を意味する。形成直後の流延膜69に
は多量の溶媒が含有している。そのため、乾燥風57のガス濃度が25%を超えると、含
有溶媒量が多い流延膜69からの溶媒の揮発が遅くなり、初期膜69aの形成が困難とな
る場合がある。
【0165】
乾燥風57の温度は40℃以上120℃以下であることが好ましく、より好ましくは4
5℃以上110℃以下であり、最も好ましくは50℃以上100℃以下である。温度が4
0℃未満であると流延膜69からの溶媒の揮発が進行し難いため膜面が良好な初期膜69
aの形成が困難となるおそれがある。また、温度が120℃を超えると、流延膜69中の
溶媒が発泡などして、急激な揮発が生じるおそれがある。この場合には、面状が良好な初
期膜69aの形成が困難となるおそれがある。
【0166】
本発明において、成行風56が流延膜69にあたる時間は、流延後から15秒以下とす
ることが好ましく、より好ましくは10秒以下であり、最も好ましくは7秒以下である。
流延膜69に成行風56があたる時間が15秒を超えると、急速乾燥でなくなる。そのた
め、流延膜69表面に均一な初期膜69aが形成される前に、流延膜69表面に厚みムラ
が形成されてしまい、面状が均一なフィルムが得られない。また、乾燥時間が長くなるためフィルムの生産性が落ちることになる。
【0167】
生乾きのフィルムを金属支持体から剥離するとき、剥離抵抗(剥離荷重)が大きいと、製膜方向にフィルムが不規則に伸ばされて光学的な異方性ムラ(剥ぎ段ムラ)を生じる。
特に剥離荷重が大きいときは、製膜方向に段状に伸ばされたところと伸ばされていないところが交互に生じて、レターデーションに分布を生じる。液晶表示装置に装填すると線状あるいは帯状にムラが見えるようになる。このような問題を発生させないためには、フィルムの剥離荷重をフィルム剥離幅1cmあたり0.25N以下にすることが好ましい。剥離荷重はより好ましくは0.2N/cm以下、さらに好ましくは0.15N以下、特に好ましくは0.10N以下である。剥離荷重0.2N/cm以下のときはムラが現れやすい液晶表示装置においても剥離起因のムラは全く認められず、特に好ましい。剥離荷重を小さくする方法としては、前述のように剥離剤を添加する方法と、使用する溶剤組成の選択による方法がある。本環状ポリオレフィンフィルムの場合は、アルコール系溶剤の添加量を増大させることによりその効果が顕著となる。
【0168】
剥離荷重の測定は次のようにして行う。製膜装置の金属支持体と同じ材質・表面粗さの金属板上にドープを滴下し、ドクターブレードを用いて均等な厚さに展延し乾燥する。カッターナイフでフィルムに均等幅の切れ込みを入れ、フィルムの先端を手で剥がしてストレンゲージにつながったクリップで挟み、ストレンゲージを斜め45度方向に引き上げながら、荷重変化を測定する。剥離されたフィルム中の揮発分も測定する。乾燥時間を変えて何回か同じ測定を行い、実際の製膜工程における剥離時残留揮発分と同じ時の剥離荷重を定める。剥離速度が速くなると剥離荷重は大きくなる傾向があり、実際に近い剥離速度で測定することが好ましい。
剥離時の好ましい残留揮発分濃度は20質量%〜150質量%である。20質量%〜120質量%が更に好ましく、20質量%〜100質量%が特に好ましい。高揮発分で剥離すると乾燥速度が稼げて、生産性が向上して好ましい。一方、高揮発分ではフィルムの強度や弾性が小さく、剥離力に負けて切断したり伸びてしまう。また剥離後の自己保持力が乏しく、変形、シワ、クニックを生じやすくなる。またレターデーションに分布を生じる原因になる。なお、フィルムの乾量を基準とした揮発分Xは、 揮発分X(%)={(フィルム試料の質量(g)−B)/B}×100 から求めている。フィルム試料の質量は、テンターに導入する前のフィルムの一部をフィルム試料として取り出して測定した値である。また、Bは、その試料フィルムを115℃で空気恒温槽にて1時間乾燥した後に測定した質量(g)である。
【0169】
本発明の環状ポリオレフィンフィルムを延伸処理する場合は、剥離のすぐ後の未だフィルム中に溶剤が十分に残留している状態で行うのが好ましい。延伸の目的は、(1)シワや変形のない平面性に優れたフィルムを得るため及び、(2)フィルムの面内レターデーションを大きくするために行う。(1)の目的で延伸を行うときは、比較的高い温度で延伸を行い、延伸倍率も1%から15%までの低倍率の延伸を行う。2から10%の延伸が特に好ましい。(1)と(2)の両方の目的、あるいは(2)だけの目的で延伸する場合は、比較的低い温度で、延伸倍率も2から150%で延伸する。
【0170】
フィルム中に残留溶媒が残っているときに延伸すると乾燥フィルムに比べて低い温度で延伸できる。環状ポリオレフィンは高いガラス転移点(Tg)を有するポリマーが多いが、ポリマー固有のTgよりも低い温度で延伸することができる。
フィルムの延伸は、縦あるいは横だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよい。VA液晶セルやOCB液晶セル用位相差フィルムの複屈折は、幅方向の屈折率が長さ方向の屈折率よりも大きくなることが、ポリビニルアルコールとロールツーロールで貼りあわせができる点でより好ましい。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。
【0171】
フィルム17がテンター18に導入される時の、フィルム17中の揮発分は、5質量%〜250質量%であることが好まく、10質量%〜120質量%が特に好ましい。250質量%を超えるとフィルムの自己支持性がなくなり、テンター18による延伸が困難になる。また、反対に10質量%より小さい時には、フィルム17の乾燥が進んでいるためフィルム17の延伸が困難になる。
【0172】
テンター18では、図示しないクリップによりフィルム17の両側縁部が挟持され、引っ張り装置によりフィルム17の幅方向で引っ張られることでフィルム17が延伸される。なお、テンター18はクリップを用いているが、これに代えてピンを用いたテンターであってもよい。なお、延伸時の幅方向におけるフィルム17の張力は、フィルム17の組成や延伸率によって異なるが250〜5000N/cm2 が好ましい。
【0173】
実質的に延伸するとは、1%以上延伸することを表している。本発明においては、実質的に延伸する前の架橋性化合物の架橋反応率が10%以下であることが好ましく、8%以下がさらに好ましく、7%以下であることがより好ましい。これは、実質的に延伸を行う際には、延伸の均一性を維持する目的で好ましい。架橋反応率が10%を超えたところで延伸を行うと、延伸が均一に行われない可能性が高くなる。ここで、架橋反応率の測定は、下記の方法で行った。
環状ポリオレフィン、熱架橋性化合物、流延時の溶媒を溶解させる溶媒でかつ、熱架橋性化合物の架橋生成物を溶解させない溶媒を選択する。各ゾーンから取り出した、例えば、実質的に延伸する前の、剥ぎ取り直後のフィルムを上記溶媒に約5時間浸漬する。必要に応じて、溶媒の沸点より5℃以下の温度で溶解させてもよい。5時間経過後に、不溶物の固形分が残っている場合は反応が進行し熱架橋性化合物の架橋生成物が生じたことになるため、この不溶物中に含まれる溶媒を十分乾燥させたのちに重量を測定し、フィルムサンプリング時の熱架橋性化合物の架橋生成物重量(Ag)とした。さらに、残った溶液に対して、環状ポリオレフィン、流延時の溶媒は溶解させるが、未反応の熱架橋性化合物を溶解させない溶媒を選択し、熱架橋性化合物を沈殿、析出させフィルムサンプリング時の熱架橋性化合物重量を測定した(Bg)。このA、Bを用いて、A/(A+B)×100により架橋反応率を計算した。
【0174】
図1に示すように、テンター18を出たフィルム17はローラ23、24により乾燥ゾーン20に送られて複数のローラ19で搬送されながら乾燥されたのち、冷却ゾーン21を通過して常温まで冷却されて巻き取り機22で巻き取られる。環状ポリオレフィンフィルムは延伸後更に乾燥し、残留揮発分を2%以下にして巻き取る。巻き取る前にフィルムの両端にナーリングを施すことも可能である。好ましいナーリングの幅は3mm〜50mm、より好ましくは5mm〜30mm、高さは1〜50μmであり、好ましくは2〜20μm、より好ましくは3〜10μmである。これは片押しであっても両押しであっても良い。このようにして巻き取られたフィルム17を用いて、偏光板保護フィルムや位相差フィルムが製造される。
【0175】
架橋ポリマーの硬化反応は、流延工程、剥離工程、及び必要によっては延伸工程を経た後の上記乾燥工程の熱により進行させることが好ましい。硬化反応に適した乾燥温度・時間は、架橋性化合物の種類や含有量、触媒添加量により異なるが、通常40℃〜250℃、3分〜40分である。乾燥温度としては70℃以上であることが好ましい。例えば乾燥温度130℃の場合、20分〜30分が好適である。
【0176】
なお、上記実施形態では、単層のフィルムを製膜する際に用いる流延ダイ15を用いたが、この他に、マルチマニフォールド型の共流延ダイを用いて複層構成のフィルムを製造する場合にも、本発明を適用することができる。同様にして、フィードブロック型の共流延ダイを用いてもよい。さらには、2個の流延口を用いて、第1の流延ダイから支持体に成型したフィルム上に第2の流延ダイから流延を行う製造方法においても、総厚みが本発明の範囲に入るように各流延ダイを調節して、本発明を適用してもよい。なお、各流延ダイはコートハンガーダイを使用しているが、これに限定されるものではなく、Tダイ等の他の形状であってもよい。特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号、特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号、特開昭56−162617号、特開昭61−94724号、特開昭61−94725号、特公昭44−20235号公報に記載されている方法を使用することもできる。
【0177】
本発明の出来上がり(乾燥後)の環状ポリオレフィンフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、通常5μm〜500μmの範囲であり、30μm〜150μmの範囲が好ましく、特に液晶表示装置用には40μm〜110μmであることが好ましい。
フィルム厚さの調製は、所望の厚さおよび本発明に厚さ分布になるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。以上のようにして得られた環状ポリオレフィンフィルムの幅は0.5μm〜3mが好ましく、より好ましくは0.6μm〜2.5m、さらに好ましくは0.8μm〜2.2mである。長さは1ロールあたり100m〜10000mで巻き取るのが好ましく、より好ましくは500m〜7000mであり、さらに好ましくは1000m〜6000mである。全幅のRe値のばらつきが±5nmであることが好ましく、±3nmであることが更に好ましい。また、Rth値のバラツキは±10nmが好ましく、±5nmであることが更に好ましい。また、長さ方向のRe値、及びRth値のバラツキも幅方向のバラツキの範囲内であることが好ましい。
【0178】
(環状ポリオレフィンフィルムの光学特性)
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの好ましい光学特性は、フィルムの用途により異なる。偏光板保護フィルム用途の場合は、面内レターデーション(Re)は5nm以下が好ましく、3nm以下が更に好ましい。厚さ方向レターデーション(Rth)も50nm以下が好ましく、35nm以下が更に好ましく、10nm以下が特に好ましい。環状ポリオレフィンフィルムを位相差フィルムとして使用する場合は、位相差フィルムの種類によってReやRthの範囲は異なり、多様なニーズがあるが、0nm≦Re≦100nm、40nm≦Rth≦400nmであることが好ましい。TNモードなら0nm≦Re≦20nm、40nm≦Rth≦80nm、VAモードなら20nm≦Re≦80nm、80nm≦Rth≦400nmがより好ましく、特にVAモードで好ましい範囲は、30nm≦Re≦75nm、120nm≦Rth≦250nmであり、一枚の位相差膜で補償する場合は、50nm≦Re≦75nm、180nm≦Rth≦250nm、2枚の位相差膜で補償する場合は、30nm≦Re≦50nm、80nm≦Rth≦140nmであることがVAモードの補償膜の場合、黒表示時のカラーシフト、コントラストの視野角依存性の点でよりし好ましい態様である。本発明の環状ポリオレフィンフィルムは使用するポリマー構造、添加剤の種類及び添加量、延伸倍率、剥離時の残留揮発分などの工程条件を適宜調節することで所望の光学特性を実現することができる。剥離時の残留揮発分は40〜85wt%内で調節することで厚さ方向のレターデーションRthを180〜300nmに幅広く制御することが可能である。剥離時の残留揮発分が多いほど、Rthは小さくなり、剥離時の残留揮発分が少ないほどRthは大きくなる。金属支持体上の乾燥(片面乾燥)時間を短くする(つまり剥離時残留揮発分が多い)ことで、面配向を緩和させてRthを低くすることが自在にでき、工程条件を調節することにより様々な用途に応じた様々なレターデーションを発現することが可能である。分子内に適度な割合で分極率の大きな置換基を含有していることが望ましい。
【0179】
[レターデーション、Re、Rth]
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。Reは自動複屈折計例えばKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(自動複屈折計例えばKOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基に自動複屈折計例えばKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。本明細書においては特にことわらない限り測定は25℃60%RHで行い、測定波長は590nmとする。
【0180】
(フィルムの弾性率)
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの(流延方向の)弾性率の好ましい範囲は、3000MPa以上であり、より好ましい範囲は3300MPa以上であり、さらに好ましくは3500MPa以上である。環状ポリオレフィンフィルムは、自由体積が大きいために、セルローストリアセテートフィルムなどと比べて弾性率の値は小さい。フジタック(TD80UL:富士写真フイルム製)で4000MPa程度、ゼオノア(日本ゼオン製;ZF14)で2300MPaである。本発明らの鋭意検討により、環状ポリオレフィンフィルムの搬送性の悪さは、弾性率の低さにあることを見出した。
驚くべきことに、環状ポリオレフィンフィルムでも、弾性率の向上が図れれば搬送性が向上する。明確な理由は定かではないが、弾性率が低いと分子レベルでフィルム最表面同士が接触する有効面積が多くなり、キシミ、摩擦抵抗の増加、により搬送性が低下するのではないかと考えられる。公開技報2001−1745に記述があるように、一般にはマット剤(無機微粒子)をフィルム最表面に分散させることで、フィルム同士の滑り性(搬送性)を改良する方法が開示されている。
この方法で環状ポリオレフィンフィルムのスベリ性をある程度は改善できるが、元来環状ポリオレフィンが低い弾性率を有するためマット剤が有効に再表面に存在する確率が低くなり、劇的な搬送性向上にはつながらなかった。ところが、環状ポリオレフィンと熱架橋性化合物の半相互貫入型網目構造(セミIPN)をとらせ、フィルムの弾性率を向上させることで搬送性が劇的に向上し、さらにマット剤を添加することでも、さらに搬送性が良くなった。
具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STM T50BPを用い、23℃・70%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。
【0181】
(偏光板)
偏光板は、通常、偏光子およびその両側に配置された二枚の透明保護膜を有する。両方または一方の保護膜として、本発明の環状ポリオレフィンフィルムを用いることができる。他方の保護膜は、通常のセルロースアセテートフィルム等を用いてもよい。偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。本発明の環状ポリオレフィンフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、フィルムは後述の如き表面処理を行い、しかる後にフィルム処理面と偏光子を接着剤を用いて貼り合わせる。使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス、ゼラチン等が挙げられる。偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
【0182】
本発明の環状ポリオレフィンフィルムの偏光子への貼り合せ方は、偏光子の透過軸と本発明の環状ポリオレフィンフィルムの遅相軸を一致させるように貼り合せることが好ましい。なお、偏光板クロスニコル下で作製した偏光板の評価を行ったところ、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(透過軸と直交する軸)との直交精度が1°より大きいと、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して光抜けが生じることがわかった。この場合、液晶セルと組み合わせた場合に、十分な黒レベルやコントラストが得られないことになる。したがって、本発明の環状ポリオレフィンフィルムの主屈折率nxの方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが1°以内、好ましくは0.5°以内であることが好ましい。
偏光板の単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTの測定にはUV3100PC(島津製作所社製)を用いることができる。測定では、380nm〜780nmの範囲で測定し、単板、平行、直交透過率ともに、10回測定の平均値を用いることができる。
偏光板耐久性試験は(1)偏光板のみと(2)偏光板をガラスに粘着剤を介して貼り付けた、2種類の形態で次のように行うことができる。偏光板のみの測定は、2つの偏光子の間に光学補償膜が挟まれるように組み合わせて直交、同じものを2つ用意し測定する。ガラス貼り付け状態のものはガラスの上に偏光板を光学補償膜がガラス側にくるように貼り付けた試料(約5cm×5cm)を2つ作成する。単板透過率測定ではこの試料のフィルムの側を光源に向けてセットして測定する。2つの試料をそれぞれ測定し、その平均値を単板の透過率とする。偏光性能の好ましい範囲としては単板透過率TT、平行透過率PT、直交透過率CTの順でそれぞれ、40.5≦TT≦45、32≦PT≦39.5、CT≦1.5であり、より好ましい範囲としては41.0≦TT≦44.5、34≦PT≦39.0、CT≦1.3である。また偏光板耐久性試験ではその変化量はより小さい方が好ましい。
【0183】
(環状ポリオレフィンフィルムの表面処理)
本発明では、偏光子と保護フィルムとの接着性を改良するため、環状ポリオレフィン保護フィルムの表面を表面処理することが好ましい。表面処理については、接着性を改善できる限りいかなる方法を利用してもよいが、好ましい表面処理としては、例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理及び火炎処理が挙げられる。ここでいうグロー放電処理とは、低圧ガス下でおこる、いわゆる低温プラズマのことである。本発明では大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。その他、グロー放電処理の詳細については、米国特許第3462335号、米国特許第3761299号、米国特許第4072769号及び英国特許第891469号の各公報に記載されている。放電雰囲気ガス組成を放電開始後にポリエステル支持体自身が放電処理を受けることにより容器内に発生する気体種のみにした特表昭59−556430号公報に記載された方法も用いられる。また真空グロー放電処理する際に、フィルムの表面温度を80℃以上180℃以下にして放電処理を行う特公昭60−16614号公報に記載された方法も適用できる。
【0184】
グロー放電処理時の真空度は0.5Pa〜3000Paが好ましく、より好ましくは2Pa〜300Paである。また、電圧は500V〜5000Vの間が好ましく、より好ましくは500V〜3000Vである。使用する放電周波数は、直流から数千MHz、より好ましくは50Hz〜20MHz、さらに好ましくは1KHz〜1MHzである。放電処理強度は、0.01kV・A・分/m2〜5kV・A・分/m2が好ましく、より好ましくは0.15kV・A・分/m2〜1kV・A・分/m2である。
【0185】
本発明では、表面処理として紫外線照射法を行うことも好ましい。例えば、特公昭43−2603号、特公昭43−2604号、特公昭45−3828号の各公報に記載の処理方法によって行うことができる。水銀灯は石英管からなる高圧水銀灯で、紫外線の波長が180〜380nmの間であるものが好ましい。紫外線照射の方法については、光源は保護フィルムの表面温度が150℃前後にまで上昇することが支持体の性能上問題なければ、主波長が365nmの高圧水銀灯ランプを使用することができる。低温処理が必要とされる場合には主波長が254nmの低圧水銀灯が好ましい。またオゾンレスタイプの高圧水銀ランプ、及び低圧水銀ランプを使用する事も可能である。処理光量に関しては処理光量が多いほど熱可塑性飽和脂環式構造含有重合体樹脂フィルムと偏光子との接着力は向上するが、光量の増加に伴い該フイルムが着色し、また脆くなるという問題が発生する。従って、365nmを主波長とする高圧水銀ランプで、照射光量20mJ/cm2〜10000mJ/cm2がよく、より好ましくは50mJ/cm2〜2000mJ/cm2である。254nmを主波長とする低圧水銀ランプの場合には、照射光量100mJ/cm2〜10000mJ/cm2がよく、より好ましくは300mJ/cm2〜1500mJ/cm2である。
【0186】
さらに、本発明では表面処理としてコロナ放電処理を行うことも好ましい。例えば、特公昭39−12838号、特開昭47−19824号、特開昭48−28067号、特開昭52−42114号の各公報に記載等の処理方法によって行うことができる。コロナ放電処理装置は、Pillar社製ソリッドステートコロナ処理機、LEPEL型表面処理機、VETAPHON型処理機等を用いることができる。処理は空気中での常圧にて行うことができる。処理時の放電周波数は、5KV〜40kV、より好ましくは10kV〜30KVであり、波形は交流正弦波が好ましい。電極と誘電体ロールのギャップ透明ランスは0.1mm〜10mm、より好ましくは1.0mm〜2.0mmである。放電は、放電帯域に設けられた誘電サポートローラーの上方で処理し、処理量は、0.34kV・A・分/m2〜0.4kV・A・分/m2、より好ましくは0.344kV・A・分/m2〜0.38kV・A・分/m2である。
【0187】
本発明では、表面処理として火炎処理を行うことも好ましい。用いるガスは天然ガス、液化プロパンガス、都市ガスのいずれでもかまわないが、空気との混合比が重要である。なぜなら、火炎処理による表面処理の効果は活性な酸素を含むプラズマによってもたらされると考えられるからであり、火炎の重要な性質であるプラズマの活性(温度)と酸素がどれだけ多くあるかがポイントである。このポイントの支配因子はガス/酸素比であり、過不足なく反応する場合にエネルギー密度が最も高くなりプラズマの活性が高くなる。具体的には、天然ガス/空気の好ましい混合比は容積比で1/6〜1/10、好ましくは1/7〜1/9である。また、液化プロパンガス/空気の場合は1/14〜1/22、好ましくは1/16〜1/19、都市ガス/空気の場合は1/2〜1/8、好ましくは1/3〜1/7である。また、火炎処理量は1kcal/m2〜50kcal/m2、より好ましくは3kcal/m2〜20kcal/m2の範囲で行うとよい。またバーナーの内炎の先端とフィルムの距離は3cm〜7cm、より好ましくは4cm〜6cmにするとよい。バーナーのノズル形状は、フリンバーナー社(米国)のリボン式、ワイズ社(米国)の多穴式、エアロジェン(英国)のリボン式、春日電機(日本)の千鳥型多穴式、小池酸素(日本)の千鳥型多穴式が好ましい。火炎処理にフィルムを支えるバックアップロールは中空型ロールであり、冷却水を通して水冷し、常に20℃〜50℃の一定温度で処理するのがよい。
【0188】
表面処理の程度については、表面処理の種類、環状ポリオレフィンの種類によって好ましい範囲も異なるが、表面処理の結果、表面処理を施された保護フィルムの表面の純水との接触角が、50°未満となるのが好ましい。前記接触角は、25°以上45°未満であるのがより好ましい。保護フィルム表面の純水との接触角が上記範囲にあると、保護フィルムと偏光膜との接着強度が良好となる。
【0189】
(接着剤)
ポリビニルアルコールからなる偏光子と、表面処理された環状ポリオレフィンらなる保護フィルムとを貼合する際には、水溶性ポリマーを含有する接着剤を用いることが好ましい。前記接着剤に好ましく使用される水溶性ポリマーとしては、N−ビニルピロリドン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸β−ヒドロキシエチル、メタクリル酸β−ヒドロキシエチル、ビニルアルコール、メチルビニルエーテル、酢酸ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド,ジアセトンアクリルアミド、ビニルイミダゾールなどエチレン性不飽和モノマーを構成要素として有する単独重合体もしくは共重合体、またポリオキシエチレン、ボリオキシプロピレン、ポリ−2−メチルオキサゾリン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースゼラチン、などが挙げられる。本発明では、この中でもPVA及びゼラチンが好ましい。
【0190】
接着剤にPVAを用いる場合の好ましいPVA特性は、前述の偏光子に用いるPVAの好ましい特性と同様である。本発明では、さらに架橋剤を併用することが好ましい。PVAを接着剤に使用する場合に好ましく併用される架橋剤は、ホウ酸、多価アルデヒド、多官能イソシナネート化合物、多官能エポキシ化合物等が挙げられるが、本発明ではホウ酸が特に好ましい。接着剤にゼラチンを用いる場合、いわゆる石灰処理ゼラチン、酸処理ゼラチン、酵素処理ゼラチン、ゼラチン誘導体及び変性ゼラチン等を用いることができる。これらのゼラチンのうち、好ましく用いられるのは石灰処理ゼラチン、酸処理ラチンである。接着剤にゼラチンを用いる場合に、好ましく併用される架橋剤としては、活性ハロゲン化合物(2,4−ジクロル−6−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジン及びそのナトリウム塩など)及び活性ビニル化合物(1,3−ビスビニルスルホニル−2−プロパノール、1,2−ビスビニルスルホニルアセトアミド)エタン、ビス(ビニルスルホニルメチル)エーテルあるいはビニルスルホニル基を側鎖に有するビニル系ポリマーなど)、N−カルバモイルピリジニウム塩類((1−モルホリノカルボニル−3−ピリジニオ)メタンスルホナートなど)やハロアミジニウム塩類(1−(1−クロロ−1−ピリジノメチレン)ピロリジニウム2−ナフタレンスルホナートなど)等が挙げられる。本発明では、活性ハロゲン化合物及び活性ビニル化合物が特に好ましく使用される。
【0191】
上述の架橋剤を併用する場合の架橋剤の好ましい添加量は、接着剤中の水溶性ポリマーに対し、0.1質量%以上、40質量%未満であり、さらに好ましくは、0.5質量%以上、30質量%未満である。保護フィルムもしくは偏光子の少なくとも一方の表面に接着剤を塗布して、接着剤層を形成して、貼合するのが好ましく、保護フィルムの表面処理面に接着剤を塗布して、接着剤層を形成し、偏光子の表面に貼合するのが好ましい。接着剤層厚みは、乾燥後に0.01μm〜5μmが好ましく、0.05μm〜3μmが特に好ましい。
【0192】
(反射防止層)
偏光板の、液晶セルと反対側に配置される透明保護膜には反射防止層などの機能性膜を設けることが好ましい。特に、本発明では透明保護膜上に少なくとも光散乱層と低屈折率層がこの順で積層した反射防止層または透明保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層が好適に用いられる。以下にそれらの好ましい例を記載する。
【0193】
透明保護膜上に光散乱層と低屈折率層を設けた反射防止層の好ましい例について述べる。光散乱層にはマット粒子が分散しているのが好ましく、光散乱層のマット粒子以外の部分の素材の屈折率は1.50〜2.00の範囲にあることが好ましく、低屈折率層の屈折率は1.35〜1.49の範囲にあることが好ましい。光散乱層は、防眩性とハードコート性を兼ね備えていてもよく、1層でもよいし、複数層、例えば2層〜4層で構成されていてもよい。
【0194】
反射防止層は、その表面凹凸形状として、中心線平均粗さRaが0.08〜0.40μm、10点平均粗さRzがRaの10倍以下、平均山谷距離Smが1〜100μm、凹凸最深部からの凸部高さの標準偏差が0.5μm以下、中心線を基準とした平均山谷距離Smの標準偏差が20μm以下、傾斜角0〜5度の面が10%以上となるように設計することで、十分な防眩性と目視での均一なマット感が達成され、好ましい。
また、CIE標準C光源下での反射光の色味がa*値−2〜2、b*値−3〜3、380nm〜780nmの範囲内での反射率の最小値と最大値の比が0.5〜0.99であることで、反射光の色味がニュートラルとなり、好ましい。またC光源下での透過光のb*値を0〜3とすることで、表示装置に適用した際の白表示の黄色味が低減され、好ましい。
また、面光源上と本発明の反射防止フィルムの間に120μm×40μmの格子を挿入してフィルム上で輝度分布を測定した際の輝度分布の標準偏差が20以下であると、高精細パネルに本発明のフィルムを適用したときのギラツキが低減され、好ましい。
【0195】
反射防止層は、その光学特性として、鏡面反射率2.5%以下、透過率90%以上、60度光沢度70%以下とすることで、外光の反射を抑制でき、視認性が向上するため好ましい。特に鏡面反射率は1%以下がより好ましく、0.5%以下であることが最も好ましい。ヘイズ20%〜50%、内部ヘイズ/全ヘイズ値(比)が0.3〜1、光散乱層までのヘイズ値から低屈折率層を形成後のヘイズ値の低下が15%以内、くし幅0.5mmにおける透過像鮮明度20%〜50%、垂直透過光/垂直から2度傾斜方向の透過率比が1.5〜5.0とすることで、高精細LCDパネル上でのギラツキ防止、文字等のボケの低減が達成され、好ましい。
【0196】
(低屈折率層)
反射防止フィルムの低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.49が好ましく、より好ましくは1.30〜1.44の範囲にある。さらに、低屈折率層は下記数式を満たすことが低反射率化の点で好ましい。
(m/4)×0.7<n1d1<(m/4)×1.3
式中、mは正の奇数であり、n1は低屈折率層の屈折率であり、そしてd1は低屈折率層の膜厚(nm)である。また、λは波長であり、500nm〜550nmの範囲の値である。
【0197】
低屈折率層を形成する素材について以下に説明する。
低屈折率層には、低屈折率バインダーとして、含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。フッ素ポリマーとしては動摩擦係数0.03〜0.20、水に対する接触角90°〜120°、純水の滑落角が70°以下の熱または電離放射線により架橋する含フッ素ポリマーが好ましい。本発明の反射防止フィルムを画像表示装置に装着した時、市販の接着テープとの剥離力が低いほどシールやメモを貼り付けた後に剥がれ易くなり好ましく、4.9N(500gf)以下が好ましく、2.94N(300gf)以下がより好ましく、0.98N(100gf)以下が最も好ましい。また、微小硬度計で測定した表面硬度が高いほど、傷がつき難く、0.3GPa以上が好ましく、0.5GPa以上がより好ましい。
【0198】
低屈折率層に用いられる含フッ素ポリマーとしてはパーフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロデシル)トリエトキシシラン)の加水分解、脱水縮合物の他、含フッ素モノマー単位と架橋反応性付与のための構成単位を構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。
【0199】
含フッ素モノマーの具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられるが、好ましくはパーフルオロオレフィン類であり、屈折率、溶解性、透明性、入手性等の観点から特に好ましくはヘキサフルオロプロピレンである。
【0200】
架橋反応性付与のための構成単位としてはグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテルのように分子内にあらかじめ自己架橋性官能基を有するモノマーの重合によって得られる構成単位、カルボキシル基やヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基等を有するモノマー(例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、マレイン酸、クロトン酸等)の重合によって得られる構成単位、これらの構成単位に高分子反応によって(メタ)アクリルロイル基等の架橋反応性基を導入した構成単位(例えばヒドロキシ基に対してアクリル酸クロリドを作用させる等の手法で導入できる)が挙げられる。
【0201】
また上記含フッ素モノマー単位、架橋反応性付与のための構成単位以外に溶剤への溶解性、皮膜の透明性等の観点から適宜フッ素原子を含有しないモノマーを共重合することもできる。併用可能なモノマー単位には特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート等)、スチレン誘導体(スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、アクリルアミド類(N−tert−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類、アクリロ二トリル誘導体等を挙げることができる。上記のポリマーに対しては特開平10−25388号および特開平10−147739号各公報に記載のごとく適宜硬化剤を併用しても良い。
【0202】
(光散乱層)
光散乱層は、表面散乱および/または内部散乱による光拡散性と、フィルムの耐擦傷性を向上するためのハードコート性をフィルムに寄与する目的で形成される。従って、ハードコート性を付与するためのバインダー、光拡散性を付与するためのマット粒子、および必要に応じて高屈折率化、架橋収縮防止、高強度化のための無機フィラーを含んで形成される。光散乱層の膜厚は、ハードコート性を付与する観点並びにカールの発生及び脆性の悪化の抑制の観点から、1μm〜10μmが好ましく、1.2μm〜6μmがより好ましい。
【0203】
散乱層のバインダーとしては、飽和炭化水素鎖またはポリエーテル鎖を主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素鎖を主鎖として有するポリマーであることがさらに好ましい。また、バインダーポリマーは架橋構造を有することが好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有するバインダーポリマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの重合体が好ましい。飽和炭化水素鎖を主鎖として有し、かつ架橋構造を有するバインダーポリマーとしては、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの(共)重合体が好ましい。バインダーポリマーを高屈折率にするには、このモノマーの構造中に芳香族環や、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄原子、リン原子、及び窒素原子から選ばれた少なくとも1種の原子を含むものを選択することもできる。
【0204】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、上記のエチレンオキサイド変性体、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。上記モノマーは2種以上併用してもよい。
【0205】
高屈折率モノマーの具体例としては、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビニルナフタレン、ビニルフェニルスルフィド、4−メタクリロキシフェニル−4'−メトキシフェニルチオエーテル等が挙げられる。これらのモノマーも2種以上併用してもよい。
【0206】
これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子および無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線または熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。これらの光ラジカル開始剤等は公知のものを使用することができる。
【0207】
ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキシ化合物の開環重合体が好ましい。多官能エポシキ化合物の開環重合は、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤の存在下、電離放射線の照射または加熱により行うことができる。
従って、多官能エポシキシ化合物、光酸発生剤あるいは熱酸発生剤、マット粒子および無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線または熱による重合反応により硬化して反射防止膜を形成することができる。
【0208】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりにまたはそれに加えて、架橋性官能基を有するモノマーを用いてポリマー中に架橋性官能基を導入し、この架橋性官能基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。
架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。すなわち、本発明において架橋性官能基は、すぐには反応を示すものではなくとも、分解した結果反応性を示すものであってもよい。
これら架橋性官能基を有するバインダーポリマーは塗布後、加熱することによって架橋構造を形成することができる。
【0209】
光散乱層には、防眩性付与の目的で、フィラー粒子より大きく、平均粒径が1μm〜10μm、好ましくは1.5μm〜7.0μmのマット粒子、例えば無機化合物の粒子または樹脂粒子が含有されることが好ましい。
上記マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO2粒子等の無機化合物の粒子;アクリル粒子、架橋アクリル粒子、ポリスチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の樹脂粒子が好ましく挙げられる。なかでも架橋スチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋アクリルスチレン粒子、シリカ粒子が好ましい。マット粒子の形状は、球状あるいは不定形のいずれも使用できる。
【0210】
また、粒子径の異なる2種以上のマット粒子を併用して用いてもよい。より大きな粒子径のマット粒子で防眩性を付与し、より小さな粒子径のマット粒子で別の光学特性を付与することが可能である。
【0211】
さらに、上記マット粒子の粒子径分布としては単分散であることが最も好ましく、各粒子の粒子径は、それぞれ同一に近ければ近いほど良い。例えば平均粒子径よりも20%以上粒子径が大きな粒子を粗大粒子と規定した場合には、この粗大粒子の割合は全粒子数の1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。このような粒子径分布を持つマット粒子は通常の合成反応後に、分級によって得られ、分級の回数を上げることやその程度を強くすることにより、より好ましい分布の微粒子を得ることができる。
【0212】
上記マット粒子は、形成された光散乱層のマット粒子量が好ましくは10mg/m2〜1000mg/m2、より好ましくは100mg/m2〜700mg/m2となるように光散乱層に含有される。マット粒子の粒度分布はコールターカウンター法により測定し、測定された分布を粒子数分布に換算する。
【0213】
光散乱層には、層の屈折率を高めるために、上記のマット粒子に加えて、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物からなり、平均粒径が0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.06μm以下である無機フィラーが含有されることが好ましい。
また逆に、マット粒子との屈折率差を大きくするために、高屈折率マット粒子を用いた光散乱層では層の屈折率を低目に保つためにケイ素の酸化物を用いることも好ましい。好ましい粒径は前述の無機フィラーと同じである。
光散乱層に用いられる無機フィラーの具体例としては、TiO2、ZrO2、Al23、In23、ZnO、SnO2、Sb23、ITOとSiO2等が挙げられる。TiO2およびZrO2が高屈折率化の点で特に好ましい。該無機フィラーは表面をシランカップリング処理またはチタンカップリング処理されることも好ましく、フィラー表面にバインダー種と反応できる官能基を有する表面処理剤が好ましく用いられる。これらの無機フィラーの添加量は、光散乱層の全質量の10%〜90%であることが好ましく、より好ましくは20%〜80%であり、特に好ましくは30%〜75%である。なお、このようなフィラーは、粒径が光の波長よりも十分小さいために散乱が生じず、バインダーポリマーに該フィラーが分散した分散体は光学的に均一な物質として振舞う。
【0214】
光散乱層のバインダーおよび無機フィラーの混合物のバルクの屈折率は、1.48〜2.00であることが好ましく、より好ましくは1.50〜1.80である。屈折率を上記範囲とするには、バインダー及び無機フィラーの種類及び量割合を適宜選択すればよい。どのように選択するかは、予め実験的に容易に知ることができる。
【0215】
光散乱層は、特に塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状均一性を確保するために、フッ素系、シリコーン系の何れかの界面活性剤、あるいはその両者を防眩層形成用の塗布組成物中に含有することが好ましい。特にフッ素系の界面活性剤は、より少ない添加量において、本発明の反射防止フィルムの塗布ムラ、乾燥ムラ、点欠陥等の面状故障を改良する効果が現れるため、好ましく用いられる。面状均一性を高めつつ、高速塗布適性を持たせることにより生産性を高めることが目的である。
【0216】
次に透明保護膜上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層がこの順で積層した反射防止層について述べる。
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計されることが好ましい。高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。また、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。更には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい(例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等参照)。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0217】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成ることが好ましい。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物等が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(例えば特開2001−166104:特開2001−310432号公報等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6210858号公報、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
【0218】
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
更に、ラジカル重合性及び/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個有する多官能性化合物含有組成物と、加水分解性基を有する有機金属化合物及びその部分縮合体を含有する組成物とから選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の組成物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0219】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。また、厚さは5nm〜10mμであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
【0220】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55であることが好ましく、より好ましくは1.30〜1.50である。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。例えば、特開平9−222503号公報明細書段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報明細書段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0221】
架橋または重合性基を有する含フッ素及び/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0222】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1nm〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。低屈折率層の膜厚は、30nm〜200nmであることが好ましく、50nm〜150nmであることがさらに好ましく、60nm〜120nmであることが最も好ましい。
【0223】
(反射防止層の他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0224】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた透明保護膜に物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光及び/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒径0.2μm〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2μm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5μm〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0225】
(帯電防止層)
帯電防止層を設ける場合には体積抵抗率が10−8Ωcm−3以下の導電性を付与することが好ましい。吸湿性物質や水溶性無機塩、ある種の界面活性剤、カチオンポリマー、アニオンポリマー、コロイダルシリカ等の使用により10−8Ωcm−3の体積抵抗率の付与は可能であるが、温湿度依存性が大きく、低湿では十分な導電性を確保できない問題がある。そのため、導電性層素材としては金属酸化物が好ましい。金属酸化物には着色しているものがあるが、これらの金属酸化物を導電性層素材として用いるとフィルム全体が着色してしまい好ましくない。着色のない金属酸化物を形成する金属としてZn、Ti、Al、In、Si、Mg、Ba、Mo、W、またはVをあげることができ、これを主成分とした金属酸化物を用いることが好ましい。具体的な例としては、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、In23、SiO2、MgO、BaO、MoO3、V25等、あるいはこれらの複合酸化物がよく、特にZnO、TiO2、及びSnO2が好ましい。異種原子を含む例としては、例えばZnOに対してはAl、In等の添加物、SnO2に対してはSb、Nb、ハロゲン元素等の添加、またTiO2に対してはNb、TA等の添加が効果的である。更にまた、特公昭59−6235号公報に記載の如く、他の結晶性金属粒子あるいは繊維状物(例えば酸化チタン)に上記の金属酸化物を付着させた素材を使用しても良い。尚、体積抵抗値と表面抵抗値は別の物性値であり単純に比較することはできないが、体積抵抗値で10−8Ωcm−3以下の導電性を確保するためには、該導電層が概ね10−10Ω/□以下の表面抵抗値を有していればよく更に好ましくは10−8Ω/□である。導電層の表面抵抗値は帯電防止層を最表層としたときの値として測定されることが必要であり、本特許に記載の積層フィルムを形成する途中の段階で測定することができる。
【0226】
(液晶表示装置)
本発明の環状ポリオレフィンフィルム、該フィルムからなる位相差フィルム、該フィルムを用いた偏光板は、様々な表示モードの液晶セル、液晶表示装置に用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。このうち、OCBモードまたはVAモードに好ましく用いることができる。
【0227】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置である。OCBモードの液晶セルは、米国特許第4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
【0228】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845頁記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59頁(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
VAモードの液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。本発明の透過型液晶表示装置の一つの態様では、本発明の位相差フィルムは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。
本発明の透過型液晶表示装置の別の態様では、液晶セルと偏光子との間に配置される偏光板の透明保護膜として、本発明の環状ポリオレフィンフィルムからなる位相差フィルムが用いられる。その場合、一方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)透明保護膜のみに上記の位相差フィルムを用いてもよいし、あるいは双方の偏光板の(液晶セルと偏光子との間の)二枚の透明保護膜に、上記の位相差フィルムを用いてもよい。一方の偏光板のみに上記位相差フィルムを使用する場合は、液晶セルのバックライト側偏光板の液晶セル側保護膜として使用するのが特に好ましい。液晶セルへの張り合わせは、本発明の環状ポリオレフィンフィルムはVAセル側にすることが好ましい。保護膜は通常のセルレートアシレートフィルムでも良い。たとえば、40μm〜80μmが好ましく、市販のKC4UX2M(コニカオプト(株)製40μm)、KC5UX(コニカオプト(株)製60μm)、TD80(富士写真フイルム製80μm)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0229】
OCBモードの液晶表示装置やTN液晶表示装置では、視野角拡大のために光学補償フィルムが使用される。OCBセル用光学補償フィルムは光学一軸あるいは二軸性フィルムの上にディスコティック液晶をハイブリッド配向させて固定した光学異方性層を設けたものが用いられる。TNセル用光学補償フィルムは光学等方性あるいは厚さ方向に光学軸を有するフィルムの上にディスコティック液晶をハイブリッド配向させて固定した光学異方性層を設けたものが用いられる。本発明の環状ポリオレフィンフィルムは上記OCBセル用光学補償フィルムやTNセル用光学補償フィルム作成に有用である。
【実施例】
【0230】
以下、本発明を実施例により更に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0231】
(セルロースアセテート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、撹拌して各成分を溶解し、セルロースアシレート溶液Aを調製した。
【0232】
<環状ポリオレフィン重合体P−1の合成>
精製トルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部を反応釜に投入した。次いでトルエン中に溶解したエチルヘキサノエート−Ni25mmol%(対モノマー質量)、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロン0.225mol%(対モノマー質量)及びトルエンに溶解したトリエチルアルミニウム0.25mol%(対モノマー質量)を反応釜に投入した。室温で攪拌しながら18時間反応させた。反応終了後過剰のエタノール中に反応混合物を投入し、重合物沈殿を生成させた。沈殿を精製し得られた重合体(P−1)を真空乾燥で65℃24時間乾燥した。
【0233】
(準備1)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
【0234】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン溶液 D−1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィンP−1 150質量部
ジクロロメタン 380質量部
メタノール 70質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0235】
次に上記方法で作成した環状ポリオレフィン溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、微粒子分散液M−1を調製した。
【0236】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子分散液 M−1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)) 2質量部
ジクロロメタン 73質量部
メタノール 10質量部
環状ポリオレフィン溶液 D−1 10質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0237】
(準備2)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
【0238】
――――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン溶液 D−2
――――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン:Appear 3000 100質量部
メチレンクロライド 380質量部
メタノール 70質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0239】
次に上記方法で作成した環状ポリオレフィン溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、微粒子分散液M−2を調製した。
【0240】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子分散液 M−2
―――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)製) 2質量部
メチレンクロライド 73質量部
メタノール 10質量部
環状ポリオレフィン溶液 D−2 10質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0241】
(準備3)
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
【0242】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン溶液 D−3
―――――――――――――――――――――――――――――――――
環状ポリオレフィン:Zeonor ZF‐14 100質量部
パラフィンワックス135(日本精蝋(株)) 10質量部
シクロヘキサン 450質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0243】
次に上記方法で作成した環状ポリオレフィン溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、微粒子分散液M−3を調製した。
【0244】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
微粒子分散液 M−3
―――――――――――――――――――――――――――――――――
平均粒径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)) 2質量部
シクロヘキサン 83質量部
環状ポリオレフィン溶液 D−3 10質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0245】
(熱架橋性化合物溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し撹拌して、エポキシ化合物溶液を調製した。
【0246】
<熱架橋性化合物溶液組成>
エポキシ化合物I−3 20質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 68質量部
エタノール(第2溶媒) 12質量部
【0247】
(高分子化促進剤溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し攪拌して、高分子化促進剤溶液を調製した。
<高分子化促進剤溶液組成>
高分子化促進剤H−4 20質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 68質量部
エタノール(第2溶媒) 12質量部
【0248】
(環状ポリオレフィンフィルム試料101の作製)
上記環状ポリオレフィン溶液D-1を94.6質量部、微粒子分散液M-1を1.3質量部、熱架橋性化合物溶液(上記エポキシ化合物溶液)7.1質量部、上記高分子化促進剤溶液2.37質量部を、それぞれを濾過後に混合し、製膜用ドープを調製した。表1に示した添加量は高分子ポリマー(環状ポリオレフィン)100質量部に対する熱架橋性化合物、高分子化促進剤、硬化剤の質量部を表す。図1、2に示した製膜ラインで流延し、ドープが自己支持性を持つまでベルト16上で乾燥した後にフィルム17として揮発分Xは50〜75重量%ではぎ取った。ベルト上での乾燥温度は65℃、乾燥風量は200m/時間、乾燥時間は2分であった。この時点で、架橋反応率は5%であった。
【0249】
テンター18への導入時のフィルム17の揮発分Xは剥ぎ取りの揮発分から5%低い値であった。テンター18で延伸率は8%、テンター内温度は140℃として幅方向にフィルムを延伸させながら搬送させた。テンターでの乾燥時間は約2分であり、テンター出口でのフィルムの揮発分は5〜15重量%であった。テンター離脱直後から100N/mのテンションでロール搬送を行い、さらに140℃で35分乾燥して巻き取った。この時のフィルムの乾燥厚みは80μm、ロールフィルムの巾は1380mm、全長2600mであった。架橋反応率は99%でありほぼ架橋反応が進行していた。
製造したフィルムの厚さ、Reレターデーション、Rthレターデーションは、搬送性が○、◎のものについては、いずれも80μ±1μm、Reは55±5nm、200±15nmの範囲であった。
【0250】
製造したフィルムの搬送性、フィルム弾性率、遅相軸角度のバラツキの標準偏差を表1に記す。
(搬送性の評価)
フィルムの搬送性評価は、剥ぎ取り以降の工程、つまりテンターゾーン、後乾燥ゾーン、巻き取りゾーンでそれぞれ5箇所、20箇所、1ヶ所ずつ観察ポイントを決め10分間連続観察(各ゾーンの各箇所同時に観察)を約5分間隔のインターバルで100回観察を行い(観察中は同じ製造条件のもの)、下記のように表記した。
◎: フィルムにはシワ、座屈などが全く発生しなかった。
○: フィルムにはシワ、座屈などが1回発生した。
△: フィルムにはシワ、座屈などが2回発生した。
×: フィルムにはシワ、座屈などが10回以上発生した。
【0251】
熱架橋性化合物及び高分子化促進剤/硬化剤の種類、添加量を表1の内容に変更した以外は上記と同様の方法で本発明および比較例の環状ポリオレフィンフィルムの試料を作製して表1に示した。
【0252】
【表1】

【0253】
各試料の弾性率を測定した。
具体的な測定方法としては、東洋ボールドウィン製万能引っ張り試験機STMーT50BPを用い、25℃・60%雰囲気中、引っ張り速度10%/分で0.5%伸びにおける応力を測定し、弾性率を求めた。結果を表1に示す。
【0254】
作製した環状ポリオレフィンフィルムは、熱架橋性化合物による架橋構造を形成することにより弾性率が向上し、搬送性が向上していることが分かる。また、弾性率がほぼ同じでも(103と116、204と221、301と320)、弾性率が3000MPaを超える場合には、マット剤微粒子が存在することで搬送性が向上していることが分かる。弾性率が3300MPa以上であることが好ましいことも分かる。
また、搬送性の良し悪しと出来上がったフィルムの遅相軸角度のばらつきの標準偏差がほぼ対応していることが分かる。環状ポリオレフィンフィルムで搬送性が◎のものはどれも遅相軸角度のバラツキの標準偏差が0.5度以下となり光学的に均一なフィルムが得られた。
また、試料101、204、304については以下の通りであった。
試料101のフィルムの厚さ、Reレターデーション、Rthレターデーションは、順に80μm、Reは60nm、210nmであった。
試料204のフィルムの厚さ、Reレターデーション、Rthレターデーションは、順に80μm、Reは55nm、200nmであった。
試料304のフィルムの厚さ、Reレターデーション、Rthレターデーションは、順に80μm、Reは55nm、205nmであった。
【0255】
〔実施例2〕
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。実施例1で作製した環状ポリオレフィンフィルム(101)にグロー放電処理(周波数3000Hz、4200Vの高周波数電圧を上下電極間に引加、20秒処理)を行った。一方、市販の80μmのセルローストリアセテートフィルム(TD80UF)に下記鹸化処理を行った。その後ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の互いに異なる側にそれぞれを貼り付け、70℃で10分以上乾燥し、偏光板Aを作製した。セルローストリアセテートフィルムの鹸化処理条件は以下のように行った。
1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を調整し、55℃に保温した。0.01Nの希硫酸水溶液を調整し、35℃に保温した。TD80UFを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し、水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
偏光板Aは、偏光子のそれぞれ片側に環状ポリオレフィンフィルム101と市販のセルローストリアセテートフィルム(TD80UF)とを有しているが、偏光子の透過軸と環状ポリオレフィンフィルム101の遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸とTD80UFの遅相軸とは、直交するように配置した。
【0256】
上記と同様にして環状ポリオレフィンフィルム101の代わりに試料204とする以外は全く同様にして偏光板Bを作成した。
更に、上記と全く同様にして試料101の代わりに試料304とする以外は全く同様にして偏光板Cを作成した。
【0257】
<VA液晶セルの作製>
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のリターデーション(即ち、記液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。この垂直配向型液晶セルの上側(観察者側)には市販品のスーパーハイコントラスト品(例えば、株式会社サンリッツ社製HLC2-5618)を用いた。液晶セルの下側(バックライト側)には作製した偏光板A〜Cを、環状ポリオレフィンフィルムが液晶セル側にくるように粘着剤を介して貼り付けた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
作製した液晶表示装置を観察した結果、全ての階調において、正面方向および視野角方向もニュートラルな黒表示が実現できていた。また環境湿度変化させた後でも、画沿い表示にムラが無く、良好なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0258】
【図1】本発明の環状ポリオレフィンフィルムの製膜ラインの一例の概略図である。
【図2】本発明に適した製膜装置の流延キャスト部から初期膜の形成に至る工程の概略部分図である。
【図3】急速乾燥送風口に備えられるノズルの形状を例示した図である。
【符号の説明】
【0259】
10 ミキシングタンク環
11 撹拌翼
12 ドープ
13 ポンプ
14 濾過装置
15 流延ダイ
16 ベルト
17 フィルム
31 流延ダイ
34 流延バンド
50 ラビリンスシール
51 給気装置
52a、52b ノズル
53、54 ノズル
55 吸引口
57 乾燥風
69 流延膜
69a 初期膜
70 送風口
73 急速乾燥送風口
L1 ラビリンスシール50と急速乾燥送風口73との距離(mm)
L2 急速乾燥送風口73の長さ(mm)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とを含有することを特徴とする環状ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】
環状ポリオレフィンと、熱架橋性化合物の架橋生成物とのセミIPN(半相互貫入型網目構造)型ポリマーアロイを含有することを特徴とする請求項1記載の環状ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
前記熱架橋性化合物がエポキシ化合物、アミノ樹脂前駆体、イソシアネート化合物のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の環状ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
弾性率が3000MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
環状ポリオレフィン及び熱架橋性化合物を有機溶媒に溶解してドープを作製する工程、該ドープを支持体上にフィルム状に流延する流延工程、該支持体から流延したフィルムを剥離する剥離工程、剥離後のフィルムを乾燥する乾燥工程を含むことを特徴とする環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ドープがさらに硬化触媒を含有することを特徴とする請求項5記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記剥離工程以降に、フィルムを延伸する工程を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項8】
フィルムを実質的に延伸する前の架橋反応率が10%以下であることを特徴とする請求項7のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記乾燥工程において、70℃以上にて加熱処理し、熱架橋性化合物の架橋反応を促進させることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の環状ポリオレフィンフィルムまたは請求項10に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−91941(P2007−91941A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284981(P2005−284981)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】