説明

環状樹脂成形品

【課題】 良好な寸法精度を維持しつつ剛性を向上した成形品であって、インサート部材と樹脂部材とをインサート成形により一体化した環状樹脂成形品を提供する。
【解決手段】 樹脂成形部が、ウェブ13、ボス12およびリム14とからなり、ウェブ13表面に同心円上に略等間隔に設けられた複数のゲート31から射出成形されるとともに、ウェブ13内に前記ゲート31に対向する部位に貫通孔22を穿設したインサート部材21を埋設し、前記インサート部材21の周囲に前記樹脂成形部を一体的に形成した環状樹脂成形品11において、環状樹脂成形品11の軸方向から見て貫通穴22を覆うような形状でウェブから突出あるいは凹入する流れ制御部16をウェブに設けたことを特徴とする環状樹脂成形品。流れ制御部16は軸方向から見て円形状であることが好ましく、さらに、貫通孔22と同心円状に設けられることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形により形成される環状樹脂成形品、特に金属インサートにより剛性を大きくしながらも寸法精度の優れた樹脂製歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属代替品として汎用されているエンジニアリングプラスチックにより射出成形される合成樹脂歯車、プーリー等の環状樹脂成形品は、外周面や内周面の真円度等に厳しい精度が要求されている一方、相手側の歯車やラック等と噛み合って動力伝達する際に受ける機械的力に耐える剛性を大きくしたものが要求されている。
【0003】
そこで、樹脂成形部特にウェブ内に金属インサートを埋設した樹脂歯車等の環状樹脂成形品をインサート成形することが提案されている。そして、この種の成形品では、従来、周方向に連続した円盤状の金属インサートを成形用金型内に配し、金型内に溶融樹脂を注入固化せしめて、金属インサートとボス、ウェブ、リムならびに歯等からなる樹脂成形部とを一体形成するが、樹脂の成形収縮を周方向に亘りできる限り均一化するため、ウェブの表面に同心円上に略等間隔に設けられた複数のゲートから樹脂を注入し射出成形している。
【0004】
しかしながら、ゲートから注入した樹脂は、金属インサートの表面上に沿って樹脂成形部の片面のウェブ、ボス、リム等を充填してから、金属インサートの裏面側に廻り込んで他面の樹脂成形部を充填成形していくため、樹脂の流れが不均一で偏ったものとなり、また樹脂の注入開始から終了まで成形に要する時間や樹脂の流動距離が長くなり、歯部をはじめとする樹脂成形部への充填不均一を招き、良好な寸法精度が得られないという問題があった。また、金型内の樹脂成形部の樹脂流動路が狭い場合には流動抵抗が大きくなり、成形性が悪化して成形品の精密成形に対する大きな障害となる。
【0005】
かかる課題を解決する技術としては、特許文献1に記載された技術があり、出願人によって実用化されている。当該技術においては、ウェブに同心円状に設けられるゲート位置に対向する位置に、インサート部材に貫通穴を穿設して、該貫通孔により、ゲートから射出した樹脂がインサート部材の表側と裏側に流動して樹脂成形部を形成することにより、良好な寸法精度を維持しながら剛性を向上させた成形品を得ることができる。
【特許文献1】特開2002−347081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された技術においてもなお、図6に示すように、射出された樹脂がインサート部材92の表側と裏側に均一に回り込むことができず、成形品の寸法精度が悪化するなどの成形不良を起こすことがあった。例えば、図6に示すように、ゲート91から射出された溶融樹脂が、ゲートと反対側の面(裏面)には、ゲート側の面(表面)よりも遅れて達し(左側図)、そのため、ウェブ部分のキャビティ93内に広がっていくのが裏面側では相対的に遅くなってしまい、表面と裏面との樹脂の充填状況の差異によって、インサート部材92が面外方向に変形してしまうことがある(右側図)。かかる状態で樹脂歯車の射出成形が行われると、面外方向に弾性変形したインサート部材の復元力によって樹脂歯車が変形してしまい、良好な寸法精度を維持できなくなったり、あるいは、インサート部材の面外変形が著しい場合には、インサート部材92がウェブ表面に露出したりして、成形不良となる。
【0007】
また、ウェブとインサート部材の配置によっては、逆に、ゲートと反対側の面の方が、ゲート側の面よりも、溶融樹脂の充填が速くなることもあり、その場合も、同様に精度劣化や成形不良の原因となるため、表面側と裏面側の樹脂充填の速度を均一化して、樹脂成形品の成形不良や精度劣化を防止することが望まれていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、良好な寸法精度を維持しつつ剛性を向上した成形品であって、インサート部材と樹脂部材とをインサート成形により一体化した環状樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、鋭意検討の結果、成型品軸方向から見て貫通穴を覆うような形状にウェブから突出あるいは凹入するような流れ制御部を設けると、インサート部材の表側と裏側の樹脂流れを均一に調整できることを知見し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、樹脂成形部が、ウェブ、ウェブの内周部に形成されるボスおよびウェブの外周部に形成されるリムとからなり、ウェブ表面に同心円上に略等間隔に設けられた複数のゲートから射出成形されるとともに、少なくとも前記ウェブ内に前記ゲートに対向する部位に貫通孔を穿設したインサート部材を埋設し、前記インサート部材の周囲に前記樹脂成形部を一体的に形成した環状樹脂成形品において、環状樹脂成形品の軸方向から見て貫通穴を覆うような形状でウェブから突出あるいは凹入する流れ制御部をウェブに設けたことを特徴とする環状樹脂成形品である。
【0011】
また、本発明においては、流れ制御部が環状樹脂成形品の軸方向から見て円形状に設けられることが好ましく(請求項2)、さらに、流れ制御部が環状樹脂成形品の軸方向から見て貫通孔と同心円状に設けられることが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ウェブ肉厚内に金属インサートを埋設した環状樹脂成形品であっても、金属インサートの表裏両面での樹脂の流れを確実に制御してほぼ均等に樹脂を充填・成形収縮させることができ、インサート部材の面外変形を抑制し、成形不良を防止するとともに、環状樹脂成形品の寸法精度を良好に維持して、剛性が高いにもかかわらず高精度な環状樹脂成形品を得ることができる。
【0013】
また、流れ制御部を円形状に設ければ(請求項2)、成形金型の調整が行いやすくなり、高精度の樹脂歯車を得るための労力が節約される。さらに、流れ制御部を貫通孔と同心円状に設ければ(請求項3)、得られる環状樹脂成形品の精度をさらに高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の環状樹脂成形品の実施形態としては外歯歯車やプーリーなどの円盤状成形品が挙げられるが、以下、外歯歯車を例として、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明による環状樹脂成形品を外歯歯車に応用した一実施例について、その表面側及び裏面側の平面形状、およびそのA−A断面構造を示す図である。
【0016】
本実施例における合成樹脂歯車11は、樹脂成形部として、図示しない回転軸がその軸孔に一体的に嵌着される中空円筒状のボス12と、このボス12の外周からその半径方向に延びる回転軸方向に肉抜きされた円環状のウェブ13と、このウェブ13の外周から半径方向に広がる円環状のリム14とからなり、リム14の外周には所定ピッチの歯部15が形成されている。そして、インサート部材として、図2に示すような貫通孔22を有するドーナツ状の金属インサートプレート21が上記樹脂成形部の射出成形時に、ウェブ13の内部にインサートされている。
【0017】
上記合成樹脂歯車11は、射出成形時にウェブ13表面に同心円上に略等間隔に設けられた6点のゲート31から図示しない成形金型のキャビティ内に注入され、各ゲート31を中心にして放射状に広がる溶融樹脂により形成されるが、金属インサートプレート21の周方向に沿って各ゲート31に対向して穿設された複数の貫通孔22を直ちに通過して裏面側のキャビティにも表面側と同様に樹脂が速やかに充填される。
【0018】
本実施例における合成樹脂歯車においては、さらに、ウェブ13のゲート31が設けられる面(表面)とは反対側の面(裏面)には、ゲート31および貫通孔22と対向する位置に、歯車軸方向から見て貫通孔22全体を覆うように貫通孔よりも大径の円形状を有する流れ制御部16が、短円柱状にウェブ13から突き出すような形状で設けられている。
【0019】
本実施例においては、流れ制御部16を設けたことによって、ゲート31側からウェブ裏面側のキャビティの入り口が比較的広く設けられるようになるので、ウェブ裏面側への溶融樹脂の供給を促進することができる。従って、従来技術の樹脂歯車において、図6に示したようにウェブ表側の樹脂供給が速く、ウェブ裏面側の樹脂供給が遅くなるような場合に、本実施例のような流れ制御部16を設けることにより、図3にゲート付近の拡大断面図として示すように、ウェブ表面とウェブ裏面との樹脂供給の速度差を補償することができ、金属インサートプレート21の表裏両面側において、各ゲート31から流入する樹脂のリム14やその外周の歯部15に到達する時間差を均一化して、金属インサートプレート21の面外変形を未然に防止するあるいは抑制するとともに、樹脂冷却の熱履歴に差が生じなくすることができ、成形品の精度劣化や成形不良を防止することができる。
【0020】
特に、本発明においては、樹脂歯車11の軸方向から見て、貫通孔22全体を覆うように流れ制御部16を設けているので、表面と裏面の溶融樹脂の流れのコントロールを非常に効果的に行うことができ、流れ制御部の直径や高さを変更することにより、裏面側のキャビティへの樹脂の流れやすさを調整し、表面と裏面の流れ速度の均一化を容易に図ることができる。
【0021】
また、本実施形態においては、軸方向から見て円形状を有する流れ制御部16が円柱状に突出して設けられているため、成形金型の調整もしやすい。すなわち、ウェブ表面と裏面の樹脂の流れを均一化すべく、流れ制御部16の径や高さを調整する場合には、成形金型の流れ制御部16を形成する部分が単純な円柱形状穴であるため、拡径や穴を深くする加工が簡単であり、金型の調整が行いやすい。
【0022】
さらに、本実施形態においては、樹脂歯車11の軸方向から見て、貫通孔22と同心円状に円柱状の流れ制御部16を設けている。流れ制御部16を貫通孔22と同心円状に設けることは本発明の必須要件ではないが、そのようにすれば、ゲート31位置から、ウェブ13全体に均一に樹脂を広げることができ、高精度な射出成形品の製造に好適である。
【0023】
以上、図示実施例につき説明したが、本発明は上記実施例の態様のみに限定されるものでなく、種々の改変をして実施することができる。以下に本発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその説明を省略する。
【0024】
上記実施形態では、環状樹脂成形品として外歯歯車11について説明したが、本発明の環状樹脂成形品としては歯車のほか、円周カム、プーリー、ウォーム等であってもよく、また、歯車も平歯車形態に限られず傘歯車、はすば歯車等の形態であってもよい。
【0025】
また、流れ制御部16の形状は、上記形状に限られず、例えば、図4に示すように、ゲート31に対向する貫通孔22を覆うような円形断面を有する円柱状窪み部分によって流れ制御部16’を形成しても良い。流れ制御部を設けていないときの環状樹脂成形品のウェブ表側の樹脂供給が遅く、ウェブ裏面側の樹脂供給が速いような場合には、図4に示すような流れ制御部16’を設けることにより、ウェブ表面とウェブ裏面との樹脂供給の速度の差を補償し、均一化することができ、同様の効果を発揮できる。すなわち、本発明の流れ制御部は、環状樹脂成形品の軸方向から見て、貫通孔22を覆うような形状でウェブから突出または凹入する形状であれば良く、流れ制御部が突出するか凹入するかは特に限定されるものではない。
【0026】
この実施形態においても、流れ制御部16’の形状を円柱状の窪み部分で形成されるようにすれば、成形金型の改修・調整時に、流れ制御部16’の径や深さの変更を容易に行うことができ、より好ましい。すなわち、流れ制御部は、環状樹脂成形品の軸方向から見て、円形状に設けられていることが好ましい。なお、流れ制御部を軸方向から見て、円形状に設けることは必須ではないので、樹脂の流れの調整上の要件などに応じて、流れ制御部を楕円や四角形、あるいは円環状に設けても良い。
【0027】
さらに、図5には、流れ制御部の構成に関し、さらに他の実施形態を示す。本実施形態においては、流れ制御部17は、ウェブ13のゲート31が設けられた側すなわち表面側に、貫通孔22を覆うような円形断面を有する窪み形状に設けられている。本実施形態においても、流れ制御部17の働きにより、ウェブのゲートが設けられた面(表面)側の樹脂流れ速度が抑えられて、ウェブ表面とウェブ裏面との樹脂供給の速度を均一化することができ、高精度の樹脂歯車を得ることができる。
【0028】
このように、流れ制御部は、ウェブの表面側(ゲートが設けられた面側)、ウェブの裏面側(ゲートとは反対側)のいずれに設けても良く、ウェブ表面とウェブ裏面との樹脂供給の速度が均一化されるように、円柱状に突出させたり、凹入させ(窪ませ)たりして樹脂の流れを調整すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の環状樹脂成形品によれば、環状樹脂成形品の寸法精度を良好に維持して、剛性が高いにもかかわらず高精度な環状樹脂成形品を得ることができ、OA機器などに活用できてその利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す図である。
【図2】ウェブに埋設されるインサート部材を示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態おける溶融樹脂の流れを示す図である。
【図4】本発明における流れ制御部の他の実施形態を示す図である。
【図5】本発明における流れ制御部のさらに他の実施形態を示す図である。
【図6】従来例における溶融樹脂の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0031】
11 環状樹脂成形品(合成樹脂製外歯歯車)
12 ボス
13 ウェブ
14 リム
15 歯部
16、16’ 流れ制御部
17 流れ制御部
21 インサート部材
22 貫通孔
31 樹脂の射出ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形部が、ウェブ、ウェブの内周部に形成されるボスおよびウェブの外周部に形成されるリムとからなり、ウェブ表面に同心円上に略等間隔に設けられた複数のゲートから射出成形されるとともに、少なくとも前記ウェブ内に前記ゲートに対向する部位に貫通孔を穿設したインサート部材を埋設し、前記インサート部材の周囲に前記樹脂成形部を一体的に形成した環状樹脂成形品において、
環状樹脂成形品の軸方向から見て貫通穴を覆うような形状でウェブから突出あるいは凹入する流れ制御部をウェブに設けたことを特徴とする環状樹脂成形品。
【請求項2】
流れ制御部が環状樹脂成形品の軸方向から見て円形状に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の環状樹脂成形品。
【請求項3】
流れ制御部が環状樹脂成形品の軸方向から見て貫通孔と同心円状に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の環状樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−125822(P2010−125822A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306284(P2008−306284)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【出願人】(000108498)タイガースポリマー株式会社 (187)
【Fターム(参考)】