説明

生体成分検出装置

【課題】 冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系フォトダイオードを用いて、生体成分を高感度で検出することができる生体成分検出装置を提供する。
【解決手段】 受光層3がIII−V族半導体の多重量子井戸構造を有し、pn接合15は不純物元素を受光層内に選択拡散して形成したものであり、受光層における不純物濃度が5×1016/cm以下であり、拡散濃度分布調整層の拡散前のn型不純物濃度が2×1015/cm以下であって受光層側の厚み範囲に低い不純物濃度範囲を有し、生体成分検出装置は、波長3μm以下の生体成分の吸収帯に含まれる、少なくとも1つの波長の光を受光して、検査をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外域の光に対して受光感度をもつ半導体受光素子を用いた生体成分検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血液、体脂肪などの生体成分等は、近赤外域に吸収帯を持つので、近赤外分光法は、非侵襲の分析法として注目され、研究および実用化が急速に進んでいる。とくに近年、糖尿病、肥満等に注目が集まり、血糖中の主成分であるグルコース、コレステロール、脂質等の吸収スペクトル帯が近赤外域にあるため、生体の皮膚等を用いた研究が盛んに行われている。近赤外分光による分析では、出力信号に、必要な情報と、受光素子に起因する大きなノイズが含まれている。このため、センサ(受光素子)の性能向上に全面的に頼らずに、出力信号について必要な情報を抽出するために、分光学的方法またはケモメトリックスなどが重要な手法として用いられている。
【0003】
上記センサ(受光素子)は、近赤外域では、電子管タイプと固体素子のフォトダイオード(PD)とに、大別される。このなかで、PDは、小型で、一次元アレイおよび二次元アレイなどの高集積化が容易なので、多くの研究開発が行われている(非特許文献1)。本発明は、PDを用いた生体成分についての検出装置を対象にする。現在、次のようなPD、またはPDアレイが用いられている。
(1)赤外域にまで受光感度を持ち、近赤外域にも受光感度をもつPD、またはそのアレイ。このようなフォトダイオードには、たとえばゲルマニウム(Ge)系PD、硫化鉛(PbS)系PD、HgCdTe系PD、またはその一次元アレイ、二次元アレイがある。
(2)近赤外域の波長1.7μm以下に受光感度を持つInP系PD、そのInP系PDの範疇に入るInGaAs系PD、またはそのアレイ。ここで、InP系PDとは、InP基板に形成されるIII−V族化合物半導体の受光層を含むPDをいい、InGaAs系PDも含まれる。
【0004】
上記のフォトダイオードのうち、(1)は、ノイズを抑制するため冷却する場合が多く、たとえば液体窒素温度(77K)やペルチエ素子で冷却して稼動させるものが多い。このため、装置が大がかりになり装置コストが大きくなる。室温でも用いることはできるが、波長域2.5μm以下の範囲で暗電流が大きく、検出能力が劣るという問題を有している。(2)一方、InP系PDの短所は、(I)InPに格子整合するInGaAsは暗電流が低いが、受光感度が近赤外域の1.7μm以下の波長域に限定されること、および(II)受光可能な波長域を2.6μmまで拡大したextended−InGaAsでは暗電流が大きく冷却する必要があること、である。したがって、InP系PDでは、生体成分の検査で重要となる2.0μm以上の光を、用いることができないか、または用いる場合には冷却する必要がある。
【0005】
近赤外光を用いた生体成分検出においては、糖尿病に直接関係する血糖値(グルコース、ぶどう糖など)を対象とするものが圧倒的に多く(特許文献1〜4)、次いで、体脂肪についての検出(特許文献5)がなされている。また、美容関連では、肌のしわに関係するコラーゲンの近赤外光による測定がなされている(特許文献6)。また、角膜の手術中のコラーゲン等の分布に関連して赤外線の測定を行う提案がなされている(特許文献7)。
これらの生体成分検出では、近赤外光の分光装置に、InGaAs、PbS、Ge、HgCdTe、ステップバッファ層を多段に設けたextended−InGaAsなどの単素子またはアレイ型が用いられている。受光波長域は、上記すべての生体成分検出装置に共通する範囲は1μm〜1.8μmである。ただし、2.0μmまたは2.5μm程度を上限に設定しているものも認められる。
【0006】
InGaAsについては、上述のように、受光感度を近赤外の長波長側まで拡大する課題がある。これを改善するために、下記の方策が提案されている。
(K1)InGaAs受光層のIn組成を高め、InP基板との格子不整合は、その間に挿入してIn組成を段階的に変えたステップバッファ層によって吸収する(特許文献8)。
(K2)InGaAs受光層にNを含有させてGaInNAs受光層とする(特許文献9)。InP基板との格子整合は、Nを多量に含有させることで満足させる。
(K3)GaAsSbとInGaAsとのタイプII型多重量子井戸構造によって、受光域の長波長化をはかる(非特許文献2)。InP基板との格子整合は、満たされている。
(K4)二次元アレイ化は、受光素子(画素)間に、素子分離溝をウエットエッチングを形成することで実現する(特許文献10)。
【非特許文献1】中山雅夫「赤外線検出素子の技術動向」センサー技術、1989年3月号(Vol.9, No.3),p.61-64
【非特許文献2】R.Sidhu,"A Long-Wavelength Photodiode on InP Using Lattice-Matched GaInAs-GaAsSb Type-II Quantum Wells, IEEE Photonics Technology Letters, Vol.17, No.12(2005), pp.2715-2717
【特許文献1】特開2002−065645号公報
【特許文献2】特開平11−216131号公報
【特許文献3】特表2005−519682号公報
【特許文献4】特開平11−128209号公報
【特許文献5】特開2001−95806号公報
【特許文献6】特開2005−83901号公報
【特許文献7】特開平10−118108号公報
【特許文献8】特開2002−373999号公報
【特許文献9】特開平9−219563号公報
【特許文献10】特開2001−144278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の生体成分検出装置では、全体をまとめると最大2.5μmまでの近赤外光を利用する機構が提案されている(特許文献1〜6)。受光感度が良好であれば、波長の上限は大きいほうが多くの情報を得ることができるので好ましい。しかし、波長1.7μmを超える範囲を受光するには、上述したように、PbS、HgCdTeなどを用いた受光素子では、暗電流が大きく、検出能力が低く、検出分解能を高める課題がある。また、検出能力を高めるために冷却して使用すると、生体成分検出装置が大掛かりになり、消費電力も大きくなる。
InP基板に格子整合するInGaAs受光素子は、検出能力に優れるが、感度は波長1.7μm以下であり、それより長波長域に吸収スペクトルを多くもつ生体成分の検出には不適である。とくに、生体のように、多くの生体成分が複合して生体組織を形成している場合、1つの検出対象の生体成分を、当該生体成分起因の2つ以上の吸収帯を用いて、総合的に検出することが分解能を向上するのに望ましい。このような2つ以上の吸収帯を用いる生体成分の検出では、しかしながら、感度波長域1.7μm以下では、きわめて不十分である。
【0008】
一方、冷却が不要で、近赤外域の長波長側に受光感度を有する受光素子および受光素子アレイは、上記(K1)〜(K4)に示すように、いくつかの候補はある。しかし、それぞれに次の課題を残している。
(K1):InP基板と受光層とが、完全に格子整合しないため、高格子欠陥密度に起因する暗電流が非常に高い。このため十分高いダイナミックレンジ(S/N比)を得られず、高ノイズである。このため暗点(画像抜け)が多くなる。
また、積層体のトップ層をなす窓層について、格子整合を実現するために、InPを用いることができず、InAsP窓層とする必要がある。このため、生体成分によっては重要な吸収帯が位置する近赤外域から短波長側の感度が劣化する。
(K2):InPに格子整合しながら、バンドギャップを長波長化するために、Nを10at%程度にすると、良好な結晶のGaInNAsを得ることは非常に難しい。さらに、受光感度を十分高くするために、厚み2μm程度のGaInNAs得ることは、ほとんど不可能なくらい困難である。要は、鮮明な像を得ることができない。
(K3):多重量子井戸構造の受光層に、通常の方法で不純物を導入すると多重量子井戸構造の結晶性が害される。このため、製造歩留りが低下して製品コストを増大させ、かつ結晶性についても良好なものが得にくい。したがって、受光波長域は2.5μm程度まで長波長化できるが、鮮明な像を得ることができない。
(K4):ウエットエッチングにより素子分離してアレイ化するためには、エッチャントが、溝に十分深く、均一に回り込む必要がある。しかし、エッチャントは、溝に十分深く、均一に回り込まず、制御は難しい。このため製造歩留りが低くなる。
一方、ドライエッチングでは、受光素子へのダメージが発生する。とくに生体成分検出装置のように、波長に応じて回折された光を受光する装置の場合、上記ダメージは許容できない。
【0009】
冷却機構なしで暗電流を抑制したフォトダイオードを用いて、高い感度で近赤外分光が、簡単に行えるようになれば、生体成分について日常的に有用な情報を得ることができることになり、健康管理、疾病治癒などに関連した多くの分野の発展を促すことができる。
本発明は、冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系フォトダイオードを用いて、生体成分を高感度で検出することができる生体成分検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の生体成分検出装置は、近赤外域の光を利用して、生体の成分を検出するための装置である。この装置は、近赤外域の光を受光するIII−V族半導体による受光素子を備え、受光素子がInP基板上に形成された多重量子井戸構造の受光層を有し、受光層のバンドギャップ波長が1.8μm以上3μm以下であり、InP基板と反対側の受光層の面に接して、III−V族化合物半導体の拡散濃度分布調整層を備え、その拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギがInPよりも小さい。受光素子では、拡散濃度分布調整層を通して受光層へと届く、不純物元素の選択拡散によってpn接合が形成され、受光層における不純物元素の濃度が5×1016/cm以下であり、拡散濃度分布調整層の拡散前のn型不純物濃度が、2×1015/cm以下であり、該拡散濃度分布調整層は、受光層側の厚み範囲に低い不純物濃度範囲を有する。そして、生体からの透過光または反射光について、波長3μm以下の少なくとも1つの波長の光を受光素子により受光して、検出をすることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によって、近赤外域に対応したバンドギャップエネルギを有する多重量子井戸構造を、不純物濃度を5×1016cm−3以下に低くすることにより多重量子井戸構造を破壊されず、すなわち結晶性を損なわずに、形成することができる。そして、受光素子のpn接合形成のための不純物が選択拡散され、すなわち周縁部から内側に平面的に周囲限定されて、個々の受光素子に分離されるように導入される。このため、各受光素子を高精度で形成しやすく、素子分離溝を設ける必要がないので、暗電流の低い受光素子を形成することができる。このため、波長3μm以下において、冷却なしで高い感度の受光をすることができる。生体成分(分子)の吸収帯は、波長0.9μm〜3μmに、いくつも存在するので、上記の生体成分検出装置によって、これら複数の吸収帯を同時に用いて検出することができる。これによって検出精度を向上させることができる。
【0012】
拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギをInPより小さくすることによって、拡散濃度分布調整層の受光層側の厚み範囲の不純物濃度を低くしても、電気抵抗を低く抑えることができ、このため応答速度の低下防止に資することができる。さらに詳しく説明すると、拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギをInP基板のバンドギャップエネルギより小さくした理由は、次のとおりである。
(1)III−V族化合物半導体により近赤外域用の受光層を形成したとき、その受光層のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギを窓層に用いる場合があり、その場合、格子整合性等も考慮して、半導体基板と同じ材料が用いられることが多い。拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギは、窓層のバンドギャップエネルギより小さく、受光層のバンドギャップエネルギより大きいことを前提としている。受光層のバンドギャップエネルギより小さい場合には、エピタキシャル層表面を入射面とする構造を採用したとき、拡散濃度分布調整層が対象とする光を吸収し、受光層の受光感度を低下させるからである。
(2)窓層に通常用いられる大きなバンドギャップエネルギの材料よりも小さいバンドギャップエネルギの材料を用いることにより、不純物濃度を低くしても電気抵抗増大の程度、または電気伝導度の低下の程度を小さくすることができる。この結果、上記のように電圧印加状態において応答速度の低下を抑制できる。
【0013】
ここで、検出とは、あらかじめ所定成分の検量線(所定成分の濃度と、その波長での光の強度または吸収度との関係)を作成しておいて、所定成分の濃度または含有率を求めることであってもよいし、そのような検量線を用いない手法であってもよい。なお、上記のpn接合は、次のように、広く解釈されるべきである。受光層内において、不純物元素が選択拡散で導入される側と反対の面側の領域の不純物濃度が、真性半導体とみなせるほど低い不純物領域(i領域と呼ばれる)であり、上記拡散導入された不純物領域と当該i領域との間に形成される接合をも含むものである。すなわち上記のpn接合は、pi接合またはni接合などであってもよく、さらに、これらpi接合またはni接合におけるp濃度またはn濃度が非常に低い場合も含むものである。
【0014】
拡散濃度分布調整層は、不純物元素の濃度が、受光層と接する面と反対側の面側にある1×1018/cm以上の領域と、受光層側にある2×1016/cm以下の領域と、2つの領域の間にあり2つの領域よりも厚みが薄く不純物元素の濃度が2×1016/cmより大きく、1×1018/cmより小さい領域と、を有するようにできる。これによって、表面トップ側に位置する電極の界面抵抗を抑えながら、またはオーミック接触を可能にしながら、かつ多重量子井戸構造の良好な結晶性を確保することができる。拡散濃度分布調整層内の部分における低い不純物濃度に起因する電気抵抗の増大または電気伝導度の低下の問題は、上記のように、拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギをInP相当のそれよりも小さくすることにより軽減することができる。
【0015】
上記の受光層をタイプIIの量子井戸構造とすることができる。これによって、電磁波の吸収の際に、電子の高い価電子帯の層から低い導電帯の層への遷移が可能となり、より長波長域の光に対する受光感度を獲得することが容易になる。
【0016】
上記の受光層を、(InGaAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造、または(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)の多重量子井戸構造とすることができる。ここで、(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)は、(GaInNAsP/GaAsSb)、(GaInNAsSb/GaAsSb)、(GaInNAsPSb/GaAsSb)、または(GaInNAs/GaAsSb)を意味する。これによって、これまで蓄積した材料および技術を用いて、容易に、結晶性に優れ、暗電流の低い受光素子を得ることができる。
【0017】
上記のInP基板を、(100)から[111]方向または[11−1]方向に、5°〜20°傾斜したオフアングル基板とすることができる。これによって、欠陥密度が小さく結晶性に優れた、多重量子井戸構造の受光層を含む積層体を得ることができる。この結果、暗電流が抑制され、暗点が少ない受光素子アレイや検出装置を得ることができる。
【0018】
上記の不純物元素を亜鉛(Zn)とし、拡散濃度分布調整層をInGaAsから形成することができる。これにより、電気抵抗の不純物濃度依存性が小さく、不純物濃度が低くても電気抵抗はそれほど高くならない材料で、拡散濃度分布調整層を形成することができる。電気抵抗の増大抑制は、応答速度の劣化を防止する。また、不純物の亜鉛は、これまでの選択拡散の実績が豊富であり、高い精度で拡散領域を形成することができる。このため、拡散濃度分布調整層内で、拡散導入側の上側で高い濃度の不純物を、受光層側の下側で低い濃度としながら、その下側での電気抵抗を高めないようにできる。このため量子井戸構造を有する受光層内に、高い不純物濃度の領域を形成しないようにできる。この結果、応答性を低下させずに、結晶性の良好な量子井戸構造の受光素子を得ることができる。なお、InGaAsのバンドギャップエネルギは0.75eVである。
【0019】
拡散濃度分布調整層の上にInP窓層を備えることができる。InPによる窓層の形成は、内部の半導体積層構造の結晶性を損なわないことから、エピタキシャル層を入射面側とする構造を採用した場合、受光層より入射側での近赤外光の吸収などを防止しながら、暗電流の抑制にも有効に作用する。また、InPの結晶表面にパッシベーション膜を形成する技術は、他の結晶表面に形成する場合、たとえばInGaAsの表面にパッシベーション膜を形成する技術よりも蓄積があり、技術的に確立されており、表面での電流リークを容易に抑制することができる。
【0020】
上記のInP基板、受光層の量子井戸構造を構成する各層、拡散濃度分布調整層、およびInP窓層、の任意の相互間において、格子整合度(|Δa/a|:ただし、aは格子定数、Δaは相互間の格子定数差)を0.002以下とすることができる。この構成により、普通に入手ができるInP基板を用いて、結晶性に優れた受光層を得ることができる。このため、波長1.8μm以上の近赤外光の受光素子または受光素子アレイにおいて、暗電流を画期的に抑制することができる。
【0021】
上記の受光素子は、一次元または二次元にアレイ化した構造をとることができる。受光素子アレイは、受光素子が、複数、半導体積層構造を共通にし、かつ不純物元素が受光素子ごとに受光層内に選択拡散されて形成されており、一次元または二次元に配列されている。この構成によれば、受光素子が個々の不純物拡散領域で形成されるため、素子分離溝を設ける必要がない。このため、高精度で形成しやすく、暗電流を低くできる受光素子アレイを形成することができる。
【0022】
検査をする生体部分に、スーパーコンティニウム光源(SC光源)または発光ダイオード(LED)による光を照射し、生体部分からの透過光または反射光を受光することができる。通常ハロゲンランプが光源として用いられるが、ハロゲンランプは発熱するため、照射することで熱や不快感を感じる場合がある。これに対して、SC光源やLEDは発熱しないことから生体に関する測定用光源に適している。本発明の生体成分検出装置は、上記のSC光源、LEDの場合、および通常のハロゲンランプの場合を含めて、上記の受光素子または受光素子アレイで受光した結果に基づき演算をして、生体に含まれる成分の濃度を算出する制御部とを備えるのが普通である。
【0023】
上記受光素子の二次元アレイを含む撮像装置を備え、該撮像装置により検出対象の生体に含まれる成分の分布像を形成することができる。これによって、感覚的に理解しやすい対象物中の所定成分の分布像を得ることができる。
【0024】
上記の波長域の光を、生体に照射し、該生体からの反射光または該生体からの透過光を、受光して、生体に含まれる、グルコース、ぶどう糖、ヘモグロビン、コレステロール、アルブミン、活性酸素、脂肪、およびコラーゲンの少なくとも1つの成分を検出することができる。これによって、ヒトの血液中の糖やコレステロール濃度を、簡単に知ることができる。この結果、国民の数十パーセントに達する糖尿病患者およびその予備軍の状態を、精度よく日常的に知ることができ、治療や病気の進行を止めることができる。また、血管や血液の成分濃度を簡単に得られるので、脳梗塞、心筋梗塞などの成人病の予防などにも有用である。メタボリック症候群など、上記の疾病の前段階の状態ともいえる症候について、客観的なデータを手軽に自ら得ることができ、対策を講じやすい。
さらに、目尻のしわ等の生成に関連するコラーゲン不足を、近赤外の撮像装置によって、簡単に分布像として確認することができる。コラーゲンを含めて、多くの美肌関連成分の検出に用いることができる。
【0025】
上記検出部位の光の照射側に、または照射側から見て検出部位の後に、位置して、光を分光する分光部と、分光された波長に応じて位置する複数の受光素子または受光素子アレイと、受光素子または受光素子アレイで受光した結果に基づき演算をして、生体の成分濃度を算出する制御部とを備えることができる。これによって、多波長同時受光などを、迅速に、かつ精度よく行うことができる。分光部は、回折格子などで形成するのが好ましい。また、制御部には、記憶部、外部からの入力部などが含まれており、対象波長の検量線などがあらかじめ入力され、記憶されていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の生体成分検出装置によれば、冷却機構なしで暗電流を減らし、受光感度を波長1.8μm以上に拡大したInP系受光素子を用いて、生体成分を高感度で検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(実施の形態1−半導体受光素子アレイの構造−)
図1は、本発明の実施の形態における受光素子10を示す断面図である。図1によれば、受光素子10は、InP基板1の上に次の構成のIII−V族半導体積層構造(エピタキシャルウエハ)を有する。
(InP基板1/InPバッファ層2/InGaAsまたはGaInNAsとGaAsSbとの多重量子井戸構造の受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
InP窓層5から多重量子井戸構造の受光層3にまで届くように位置するp型領域6は、SiN膜の選択拡散マスクパターン36の開口部から、p型不純物のZnが選択拡散されることで形成される。受光素子10の周縁部の内側に、平面的に周囲限定されて拡散導入されるということは、上記SiN膜の選択拡散マスクパターン36を用いて拡散することによって達せられる。
【0028】
p型領域6にはAuZnによるp側電極11が、またInP基板1の裏面にはAuGeNiのn側電極12が、それぞれオーミック接触するように設けられている。この場合、InP基板1にはn型不純物がドープされ、所定レベルの導電性を確保されている。InP基板1の裏面には、またSiONの反射防止膜35を設け、InP基板の裏面側から光を入射するようにして使用することもできるようになっている。
【0029】
多重量子井戸構造の受光層3には、上記のp型領域6の境界フロントに対応する位置にpn接合が形成され、上記のp側電極11およびn側電極12間に逆バイアス電圧を印加することにより、n型不純物濃度が低い側(n型不純物バックグラウンド)により広く空乏層を生じる。多重量子井戸構造の受光層3におけるバックグラウンドは、n型不純物濃度(キャリア濃度)で5×1015/cm程度またはそれ以下である。そして、pn接合の位置15は、多重量子井戸の受光層3のバックグラウンド(n型キャリア濃度)と、p型不純物のZnの濃度プロファイルとの交点で決まる。すなわち図2に示す位置となる。
【0030】
拡散濃度分布調整層4内では、InP窓層5の表面5aから選択拡散されたp型不純物の濃度が、InP窓層側における高濃度領域から受光層側にかけて急峻に低下している。このため、受光層3内では、Zn濃度は5×1016/cm以下の不純物濃度を容易に実現することができる。図2では、受光層3内のZn濃度は、より低い1×1016/cm程度以下が実現されている。
【0031】
本発明が対象とする受光素子10は、近赤外域からその長波長側に受光感度を有することを追求するので、窓層には、受光層3のバンドギャップエネルギより大きいバンドギャップエネルギの材料を用いるのが好ましい。このため、窓層には、通常、受光層よりもバンドギャップエネルギが大きく、格子整合の良い材料であるInPが用いられる。InPとほぼ同じバンドギャップエネルギを有するInAlAsを用いてもよい。
【0032】
(本実施の形態の受光素子アレイのポイント)
本実施の形態における特徴は、次の要素で構成される点にある。
1.多重量子井戸構造は、選択拡散で不純物を高濃度に導入した場合、その構造が破壊されるため、選択拡散による不純物導入を低く抑える必要がある。通常、上記の拡散導入するp型不純物の濃度を5×1016/cm以下とする必要がある。
【0033】
2.上記の低いp型不純物の濃度を、実生産上、再現性よく安定して得るために、InGaAsによる拡散濃度分布調整層4を、受光層3の上に設ける。この拡散濃度分布調整層4において、受光層側の厚み範囲が、上記のような低い不純物濃度になると、その低い不純物濃度の範囲の電気伝導性は低下し、または電気抵抗は増大する。拡散濃度分布調整層4における低不純物濃度範囲の電気伝導性が低下すると、応答性が低下して、たとえば良好な動画を得ることができない。しかしながら、InP相当のバンドギャップエネルギより小さいバンドギャップエネルギの材料、具体的には1.34eV未満のバンドギャップエネルギを持つIII−V族半導体材料によって拡散濃度分布調整層を形成した場合には、不純物濃度が低くても、電気伝導性は非常に大幅には低下しない。上記拡散濃度分布調整層の要件を満たすIII−V族半導体材料として、たとえばInGaAsなどを挙げることができる。
受光層の不純物濃度を5×1016/cm以下とする理由をさらに詳しく説明する。p型不純物(Zn)の選択拡散の深さが深くなるなどして受光層3内におけるZn濃度が1×1017cm−3を超えると、超えた高濃度部分では量子井戸層を構成するInGaAsとGaAsSbの原子が相互に入り乱れ超格子構造が破壊される。破壊された部分の結晶品質は低下し、暗電流が増加するなど素子特性を劣化させる。ここで、Zn濃度は通常はSIMS分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy:二次イオン質量分析法)で測定するが、1017cm−3台あるいは1016cm−3台の濃度の分析は難しく、比較的大きな測定誤差が発生する。上記の詳細説明は、Zn濃度について倍または半分の精度での議論であるが、それはこの測定精度のあらさからきている。したがって、たとえば5×1016/cmと、6×1016/cmとの相違を議論するのは、測定精度上、難しく、またそれほど大きな意味がない。
【0034】
拡散濃度分布調整層にバンドギャップエネルギの狭い材料を用いると、不純物濃度が低くても電気抵抗の増加を抑制することができる。逆バイアス電圧印加等に対する応答速度は、容量および電気抵抗によるCR時定数で決まると考えられるので、電気抵抗Rの増大を、上記のように抑制することにより応答速度を短くすることができる。
【0035】
3.本実施の形態では、多重量子井戸構造をタイプIIとする。タイプIの量子井戸構造では、バンドギャップエネルギの小さい半導体層を、バンドギャップエネルギの大きい半導体層で挟みながら、近赤外域に受光感度を持たせる受光素子の場合、小さいバンドギャップエネルギの半導体層のバンドギャップにより受光感度の波長上限(カットオフ波長)が定まる。すなわち、光による電子または正孔の遷移は、小さいバンドギャップエネルギの半導体層内で行われる(直接遷移)。この場合、カットオフ波長をより長波長域まで拡大する材料は、III−V族化合物半導体内で、非常に限定される。これに対して、タイプIIの量子井戸構造では、フェルミエネルギを共通にして異なる2種の半導体層が交互に積層されたとき、第1の半導体の伝導帯と、第2の半導体の価電子帯とのエネルギ差が、受光感度の波長上限(カットオフ波長)を決める。すなわち、光による電子または正孔の遷移は、第2の半導体の価電子帯と、第1の半導体の伝導帯との間で行われる(間接遷移)。このため、第2の半導体の価電子帯のエネルギを、第1の半導体の価電子帯より高くし、かつ第1の半導体の伝導帯のエネルギを、第2の半導体の伝導帯のエネルギより低くすることにより、1つの半導体内の直接遷移による場合よりも、受光感度の長波長化を実現しやすい。
【0036】
4.上述のように、選択拡散マスクパターンを用いて選択拡散により、受光素子の周縁部より内側に、平面的に周囲限定してp型不純物を拡散導入するので、上記のpn接合は受光素子の端面に露出しない。この結果、光電流のリークは抑制される。
【0037】
図3は、上記の受光素子10を、共通のInP基板を含むエピタキシャルウエハに複数個配列した受光素子アレイ50を示す断面図である。受光素子10が複数個、素子分離溝なしに配列されている点に特徴を持つ。上述の4.で述べたように、各受光素子の内側にp型領域6が限定され、隣接する受光素子とは、確実に区分けされている。受光層3が多重量子井戸構造で形成されており、受光層3の上に拡散濃度分布調整層4が配置されて、受光層3内のp型不純物濃度が5×1016/cm以下とされている点などは、図1の受光素子10と同じである。
【0038】
次に、図1に示す受光素子10の製造方法について説明する。n型InP基板1上に、2μm厚みのInPバッファ層2またはInGaAsバッファ層2を成膜する。次いで、(InGaAs/GaAsSb)または(GaInNAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造の受光層3を形成する。InPと格子整合するようInGaAsの組成はIn0.53Ga0.47Asとし、GaAsSbの組成はGaAs0.52Sb0.48とする。これにより格子整合度(|Δa/a|:ただし、aは格子定数、Δaは相互間の格子定数差)を0.002以下とする。単位量子井戸構造を形成するInGaAs層(またはGaInNAs層)の厚みは5nmであり、ペア数(単位量子井戸の繰り返し数)は300である。次いで、受光層3の上に、Zn拡散導入の際の拡散濃度分布調整層4として、厚み1μmのInGaAs層をエピタキシャル成長し、次いで、最後に厚み1μmのInP窓層5をエピタキシャル成長する。上記の受光層3および拡散濃度分布調整層4は、ともにMBE(Molecular Beam Epitaxy)法によってエピタキシャル成長するのがよい。また、InP窓層5は、MBE法でエピタキシャル成長してもよいし、拡散濃度調整層4を成長させた後、MBE装置から取り出して、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によってエピタキシャル成長してもよい。
【0039】
InPバッファ層2またはInGaAsバッファ層2は、ノンドープでもよいし、Siなどn型ドーパントを1×1017/cm程度ドーピングしてもよい。GaInNAs/GaAsSbの多重量子井戸構造の受光層3、InGaAsの拡散濃度分布調整層4、およびInP窓層5は、ノンドープが望ましいが、Siなどn型ドーパントを極微量(たとえば2×1015/cm程度)ドーピングしてもよい。また、InP基板1とバッファ層2との間に、n型ドーパントを1E18cm−3程度ドープしたn側電極を形成するための高濃度のn側電極形成層を挿入してもよい。また、InP基板1は、Feドープの半絶縁性InP基板であってもよい。この場合は、その半絶縁性InP基板1とバッファ層2との間に、n型ドーパントを1×1018/cm程度ドープしたn側電極形成層を挿入する。
【0040】
上述のInP基板1を含む積層構造(エピタキシャルウエハ)を用いて、光デバイスを製造する。InP窓層5の表面5aに形成したSiNマスクパターン36を用いて、その開口部からZnを選択拡散してInGaAs/GaAsSb(またはGaInNAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層3内に届くようにp型領域6を形成する。p型領域6のフロント先端部がpn接合15を形成する。このとき、Zn濃度が1×1018/cm程度以上の高濃度領域は、InGaAs拡散濃度分布調整層4内に限定される。すなわち、上記高濃度不純物分布は、InP窓層5の表面5aから深さ方向に、InGaAs拡散濃度分布調整層4内にまで連続し、さらに拡散濃度分布調整層4内のより深い位置で5×1016/cm以下に低下する。そして、pn接合15の近傍におけるZn濃度分布は、傾斜型接合を示すような分布になっている。
【0041】
受光素子10の一次元または二次元配列、すなわち図3に示す受光素子アレイは、素子分離用のメサエッチングをすることなくZnの選択拡散(受光素子の周縁部の内側になるように平面的に周囲限定した拡散)によって、隣り合う受光素子どうし分離する。すなわち、Zn選択拡散領域6が1つの受光素子10の主要部となり、1つの画素を形成するが、Znが拡散していない領域が、各画素を分離する。このため、メサエッチングに付随する結晶の損傷などを受けることがなく、暗電流を抑制することができる。
【0042】
不純物の選択拡散によってpn接合を形成する場合、拡散が深さ方向だけでなく横方向(深さ直交方向)にも進行するので、素子間隔を一定以上、狭くすることができない懸念が、上記特許文献10に表明されている。しかしながら、実際にZnの選択拡散を行ってみると、最表面にInP窓層5があり、その下にInGaAs拡散濃度分布調整層4が配置された構造では、横方向の拡散は、深さ方向と同程度またはそれ以下に収まることが確認された。すなわち、Znの選択拡散において、Znはマスクパターンの開口径よりも横方向に広がるが、その程度は小さく、図1、図3などに模式的に示すように、マスクパターン開口部よりも少し広がるだけである。
【0043】
図4は、本発明とは異なる参考例1における受光素子110を示す断面図である。参考例1の受光素子110では、次の積層構造を有する。
(InP基板101/InPまたはInGaAsバッファ層102/(GaInNAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層103/InP窓層105)
p型領域106は、選択拡散マスクパターンを用いてInP窓層105の表面105aから受光層103内に届くように選択拡散されることで、形成されている。p型領域106の先端にpn接合115が形成される。本発明の実施の形態における積層構造と比較して、拡散濃度分布調整層がないことが相違点である。すなわち、InP窓層105の直下に、多重量子井戸構造の受光層103が配置されている。
【0044】
拡散濃度分布調整層がないと、図5に示すように、たとえばZn濃度分布は多重量子井戸構造の受光層103まで高い濃度となる。すなわち、多重量子井戸構造内において、5×1016/cmを超えて1×1018/cmの高い不純物濃度領域が形成される。多重量子井戸構造に高濃度不純物が導入されると、その構造が破壊され、暗電流が大きく増大する。逆に、このような高濃度不純物領域が、多重量子井戸構造内に形成されないようにするために、拡散濃度分布調整層を設けて選択拡散を行うのである。
【0045】
しかしながら、Znの選択拡散において、次のような考え方が成立する余地がある。
(1)拡散導入時間を短時間に限定して、高濃度領域が多重量子井戸構造103内にかからないようにする。
(2)InP窓層105の厚みを厚くして、拡散濃度分布調整層の役割をInP窓層105に分担させる。
図6は、上記の(1)および(2)の場合を検討するための参考例2における受光素子110を示す断面図である。参考例2の受光素子110では、参考例1の受光素子とほぼ同じ積層構造を有するが、InP窓層105の厚みは、参考例1よりも厚くしており、上記(2)の場合に対応するが、(1)の場合も検討することは可能である。図6の積層構造において、多重量子井戸構造103内にZnの高濃度領域を形成しないように選択拡散を行った結果、得られたのが図7に示すZn濃度分布である。図7に示すZn濃度分布の場合、InP窓層105内において、Zn濃度は、高濃度から低濃度へと急峻に低下し、受光層側のInP窓層105内において、1×1016/cm程度の低濃度不純物領域が形成される。
【0046】
InP窓層105内において、1×1016/cm程度の低濃度不純物領域が形成されると、その領域では、繰り返し説明してきたように電気抵抗が高くなり、応答速度が低下する。このため、窓層を形成するほどバンドギャップエネルギが大きい材料に、具体的にはその典型材料であるInP窓層105に、拡散濃度分布調整層の役割を果たさせることはできない。このことは、上記(1)および(2)の場合について同じである。よって、拡散濃度調整層には、バンドギャップエネルギがInP相当以下、具体的には1.34eV未満を満たす材料を用いるのがよい。すなわち、低濃度不純物領域でも、電気伝導度の低下が比較的小さく、電気抵抗の増加が比較的小さいInGaAsのような材料を用いる必要がある。
【0047】
(実施の形態2−生体成分検出装置における撮像装置(成分の分布像形成装置)の構造−)
図8は本発明の実施の形態2における、生体成分検出装置に含まれる撮像装置(受光素子アレイ)の概要を示す図である。レンズなどの光学部品は省略してある。図9は、上記の撮像装置または検出装置(イメージセンサ)70のうちの受光素子アレイ50を説明するための図である。図10は、図9の受光素子アレイ50のうちの1つの受光素子を示す図である。図8において、この撮像装置70は、共通のInP基板51の上に形成された受光素子10がエピタキシャル層側を、実装基板の機能を有するマルチプレクサ71に向けて、いわゆるエピダウン実装されている。各受光素子10のエピタキシャル層のp型領域6と電気的に接続されるp側電極11と、共通のn型InP基板51(1)に設けられるn側電極12とは、マルチプレクサ71に接続され、電気信号をマルチプレクサに送り、マルチプレクサ71では各受光素子における電気信号を受けて、対象物の全体像を形成する処理を行う。n側電極12およびp側電極11は、それぞれはんだバンプ12b,11bを介在させてマルチプレクサ71と電気的に接続される。入射光は、InP基板51の裏面に形成したAR(Anti-Reflection)膜35を通して導入され、p型領域6と受光層3との界面であるpn接合15で受光される。p型領域6は、保護膜を兼ねるSiNのZn拡散マスク36の開口部から導入される。Zn拡散マスクパターン36は、その上に形成された保護膜のSiON膜パターン43とともにそのまま残される。受光素子アレイおよび各受光素子の構造については、図9および図10を用いて、次に詳しく説明する。
【0048】
図9において、受光素子アレイ50の受光素子10は、共通のInP基板51(1)に設けられている。各受光素子でSWIR帯の光を受光することにより生じた電流信号は、上述のように実装基板を兼ねたマルチプレクサ71に送られ、画像形成の処理がなされる。各受光素子のサイズやピッチ、アレイの大きさを変えながら、画素数を変化させる。図9に示す受光素子アレイ50は9万画素のものである。図10に示す受光素子10は、InP基板1の上に形成された複数のエピタキシャル膜を有し、また、p型領域6を形成する際に用いた、p型不純物導入用の拡散マスク36を残している。p型領域6にはp部電極11が接続され、はんだバンプなどによりマルチプレクサ71など実装基板の配線などへと接続される。
【0049】
図11は、図8に示したエピダウンの受光素子と異なり、エピアップ実装の受光素子を説明する断面図である。本発明においては、撮像装置内の受光素子はエピダウン実装でもエピアップ実装でも、どちらでもよい。この受光素子10は、n型InP基板1上に、下から順に、n型InPバッファ層2/受光層3/拡散濃度分布調整層4/InP窓層5/拡散マスク36/反射防止膜(AR膜:Anti-Reflection)35が位置している。p型領域6は、InP窓層5から拡散濃度分布調整層4を経て受光層3内のpn接合15まで形成されている。また、n側電極12がn型InP基板の裏面に位置し、p側電極11は、p型領域6のInP窓層5の表面に位置し、配線電極27に電気的に接続されている。本実施の形態においては、受光層3は、波長1.0μm〜3.0μmの範囲の光を受光する。具体的には、受光層3は、上述のタイプIIの多重量子井戸構造によって形成される。
【0050】
図11に示す受光素子は、上記したようにエピアップ実装され、エピタキシャル層すなわちInP窓層5の側から光を入射される。本実施の形態における受光素子は、上述のように、エピアップ実装でもエピダウン実装でもよく、図12に示すように、エピダウン実装され、InP基板1の裏面側から光を入射されるタイプでもよい。図12のエピダウン実装の受光素子10の場合、InP基板1の裏面にAR膜35が施される。拡散濃度調整層4、InP窓層5、p側電極11および保護膜を兼ねるSiNの拡散マスク36は、エピアップ実装の場合と同様に設けられる。図12に示すエピダウン実装の場合、InP基板などInPはSWIR帯光に透明なので、SWIR帯光は吸収されることなく、受光層3のpn接合15に到達する。図12の構造においても、受光層は、上述のタイプIIの多重量子井戸構造によって形成される。以後の本発明例においても、とくに断らない限り、同様である。
【0051】
p側電極11と、n側電極12とは、図11に示すようにInP基板1を間に挟んで対向する位置に配置してもよいし、図12に示すようにInP基板1の同じ側の位置に配置してもよい。図12に示す構造の場合、図9に示す受光素子アレイ50の各受光素子10と集積回路とはフリップチップ実装により電気的に接続される。図11および図12の構造の受光素子において、pn接合15に到達した光は吸収され、電流信号を生じ、上述のように、集積回路を通して各々一画素の像に変換される。
【0052】
InP基板1は、(100)から[111]方向または[11−1]方向に5度〜20度傾斜したオフアングル基板とするのがよい。より望ましくは、(100)から[111]方向または[11−1]方向に10度〜15度傾斜させる。このような大きなオフ角基板を用いることにより、欠陥密度が小さく結晶性に優れたn型InPバッファ層2、タイプIIの量子井戸構造の受光層3、InGaAs拡散濃度分布調整層4およびInP窓層5を得ることができる。この結果、暗電流が抑制され、暗点が少ない受光素子アレイや検出装置を得ることができる。このため、微弱なSWIR帯の宇宙光を受光して撮像する装置の性能を大きく向上させる受光層を得ることができる。すなわち上記オフアングル基板を用いて形成された受光素子の有する作用は、宇宙光を受光して撮像する撮像装置の品質向上にとくに有用である。
【0053】
上記のような大きなオフ角は、InP基板について提唱されたことはなく、本発明者らによってはじめて確認されたものであり、InP基板上に良好な結晶性のエピタキシャル膜を成長させる場合の重要な要素である。たとえば、非常に長波長域の発光及び受光が可能であるとする、上記の量子井戸構造の受光層3中に、Nを含む化合物半導体、たとえばGaInNAsが含まれる場合、上記のような大きなオフ角のInP基板を用いない限り、実際には、実用に耐える、良好なエピアキシャル層として形成されることは不可能である。すなわち、上記のような大きなオフ角のInP基板を用いない限り、Nを含む化合物半導体、たとえばGaInNAsは暗電流を抑制し、暗点を減らした受光層になることはない。この結果、微弱なSWIR帯の宇宙光を用いて鮮明な画像を得ることができない。上記例としてあげたGaInNAsだけでなく、GaInNAsPおよびGaInNAsSbにおいてもInP基板のオフ角は、上記のような大きい角度範囲が、良好な結晶性を得るのに必要であるという点で同じである。
【0054】
図11および図12に示す受光素子10では、受光層3を覆うように位置するInGaAs拡散濃度調整層4およびInP窓層5を備える。受光層3の格子定数がInP基板1の格子定数と同じであるため、受光層3の上に、暗電流を小さくすることで定評があるInGaAs拡散濃度調整層4およびInP窓層5を形成することができる。このため、暗電流を抑制し、素子信頼性を向上させることができる。
【0055】
(実施の形態3:生体成分検出装置(1)−血糖値:反射光による測定−)
図13は、本発明の実施の形態3における生体成分検出装置100を示す図である。また図14は、図13の生体成分検出装置100におけるプローブを示す図である。糖尿病患者にとって、自身の血糖値を知ることは、重要であり、血糖値の上昇に対してインシュリン投与により、これを低下させる。このため患者は、血糖値を日常的に測定するが、血液を採取することなく、非侵襲的に精度よく測定できれば、患者にとって好ましい。
非侵襲的な血糖値測定は、皮膚組織中のグルコース濃度が血液中のグルコース濃度と高い正の相関関係を有することに基づいており、皮膚組織中のグルコース濃度をもって血糖値とする。皮膚組織中のグルコース濃度は、数十〜数百mg/dlと微量であるため、皮膚に近赤外光を照射し、皮膚組織を透過または拡散反射した光を、高い精度で捉える必要がある。
【0056】
高い精度で微量のグルコース濃度を測定するためには、グルコースの近赤外域の吸収帯において、2つ以上の吸収帯を用いることが効果的である。グルコースは、波長1μm〜3μmの範囲に多くの吸収帯をもつが、従来のInGaAsアレイを用いる限り、精度よく測定できるのは、波長1.7μm以下の近赤外光であり、それより長波長域の吸収帯の光については、高精度の測定はできなかった。図13に示すように、図8に示す検出装置70を用いることにより、波長3.0μmまで拡大して受光することができる。また、回折格子91と受光素子アレイ50との位置合わせをしておくことで、グルコースの吸収スペクトルを1回(1チャンス)の照射および受光で行うことができる。したがって、波長1.8μm以上の吸収帯を用いてグルコース濃度を測定することが容易となり、皮膚中の微量のグルコースを精度よく簡単に測定することが可能になる。
【0057】
グルコース濃度の測定精度を上げるための、次の要因がある。吸光度やベースラインの変動をできるだけ抑えることで、スペクトル測定の安定度を高めることができる。測定されるスペクトルに変動を与える装置上の要素には、光源、受光素子ユニットなどの部品間の位置関係の変動、環境温度の経時変化等がある。これらの変動を補正するために、生体信号とは別個にセラミック板等の基準板を反射させたレファレンス信号を測定し、それを基準光とするのが一般的である。このため、スペクトル測定を安定して行うためには、レファレンス信号の安定した測定が可能であることが重要となる。
【0058】
図13を例にとると、検出部位の測定における近赤外光は、つぎの経路をとる。
光源73→拡散板74→照射用光ファイバ81→センシング部(プローブ)83→検出部位→センシング部(プローブ)83→情報搭載光ファイバ82→回折格子(分光器)91→検出装置70→濃度算出用マイコン85b
上記の経路をとる場合、照射用光ファイバと情報搭載光ファイバとが付いたプローブを、検出部位(皮膚)にあてる。一方、レファレンス信号の測定は、上記の検出部位が、基準板に置き換わるだけである。上記のプローブを、皮膚から離して基準板に押し当てる操作を行う。上記のレファレンス信号および生体信号をもとにして、濃度算出用マイコンはグルコース濃度を算出する。
【0059】
上記の方式によるレファレンス信号の測定は、プローブと基準板との位置再現のばらつき、およびレファレンス信号と生体信号との測定時差の発生があり、測定ごとの上記作業の繰り返しがレファレンス信号の安定的な測定を困難にする。このため、従来、レファレンス信号変動によるスペクトル測定の不安定性を十分に補正できず、精度よくグルコース濃度分析を行うことが困難であった。図14に示すプローブ83は、このレファレンス信号測定の不安定性を解消する。基準板の測定を行うことなく、直接、照射用光ファイバ81と情報搭載光ファイバ82とを繋ぐ光ファイバ84を配置して、それぞれにスイッチSW1,SW2,SW3を配置する。これによって、プローブと基準板との位置再現のばらつきはなくなり、レファレンス信号と生体信号との測定時差は軽減される。スイッチSW1,SW2,SW3は、手動でもよいし、マイコン85bからの指示で自動的にオンオフされる自動スイッチにしてもよい。
【0060】
(実施の形態4:生体成分検出装置(2)−血糖値:透過光による測定−)
図15は、本発明の実施の形態4における生体成分検出装置100を示す図である。図15において、受光部に上述の検出装置70を用い、グルコースの近赤外域の長波長域に位置する吸収帯を用いて濃度測定を行うという点では、実施の形態3と同じである。本実施の形態では、生体を透過した近赤外光を測定してグルコース濃度を求める点で、実施の形態3と相違する。図15に示す例は、ヒトの指の透過光を受光するが、皮膚、筋肉、血液など多くの生体組織の情報を得ることができる。
【0061】
レファレンス信号の測定は、生体(指)の装入時には退き、生体が退いた時に装入される基準板の透過光によって行う。基準板の厚みは、基準板の材料にもよるが透過光の光量が十分あるように薄くしておくのがよい。基準板の移動は、アクチュエータ75によって行うことで、位置や姿勢(角度)のばらつきが生じないようにする。
上記のような基準板を用いる代わりに、図14に示したように、照射用光ファイバ81と情報搭載光ファイバ82とを迂回して繋ぐ光ファイバ84を配置して、それぞれの光ファイバ81,82,84にスイッチを設けてもよい。
【0062】
(実施の形態5:生体成分検出装置(3)−血糖値:透過光による測定−)
図16は、本発明の実施の形態5における生体成分検出装置100を示す図である。この生体成分検出装置100では、筐体77の一部に生体装入溝77aを設けて、その生体装入溝77aに装入された生体の透過光を用いて血糖値を検出する点に特徴がある。装入される生体部位は、肩から先、たとえば腕や掌を想定して、これらのうちの最大サイズの生体装入溝77aとすることができる。特別に耳たぶを専門にした生体装入溝77aであってもよい。
【0063】
近赤外光の経路は、つぎのとおりである。
光源73→集光レンズ87→反射鏡76→集光レンズ87→照射用光ファイバ81→検出部位→受光端部82a→押圧調整アクチュエータ82b→情報搭載光ファイバ82→集光レンズ87→回折格子91→検出装置70(図8参照)
掌で手刀をつくったときの小指の下方は、骨を介在させずに光を通すことができるので、血糖値の測定には有効である。上記の生体装入溝77aは、とくに上記の小指下方の掌部に対象を絞る必要はなく、上記押圧調整アクチュエータ82bなどによって、位置合わせを行うことができる。これによって、患者が自身で、簡単に、精度よく、血糖値を測定することが可能となる。
検出装置70内の受光素子アレイ50が、近赤外域の長波長域まで受光可能であり、測定精度を向上させることについては、実施の形態3および4と同じである。光源は、ハロゲンランプ等を用いるのがよいが、この生体成分検出装置100の場合、光源には、発熱の小さいコンティニューム光源やLEDを用いることが好ましい。
【0064】
(実施の形態6:生体成分検出装置(4)−血糖値:1つのプローブによる複数サンプリングによる精度向上−)
図17は、本発明の実施の形態6における生体成分検出装置100を示す図である。また図18は、図17の生体成分検出装置100におけるプローブの部分の拡大図である。この生体成分検出装置100では、検出部位(皮膚)に近赤外光を照射して、反射光から情報を得る。そのとき、照射光およびプローブは、図18に示すように、単一であるが、プローブ83内に3つの受光端部61,62,63が収納されている。これら3つの受光端部61,62,63で受光された近赤外光は、それぞれ別の情報搭載光ファイバ82を伝播する。回折格子91で分光され、検出装置70(図8参照)で受光される際に、選択スイッチ66によって、受光端部61,62,63で取り込まれて伝播してきた光を、別個に分光して受光する。本実施の形態における特徴は、1つのプローブ内に複数の受光端部を収納し、反射光を複数位置で取り込んで分光、解析する点にある。受光端部には、プリズム、光ファイバなどを用いることができる。
【0065】
皮膚に照射された近赤外光は、皮膚内の表層部を拡散したあと、外部に出て、それが受光端部に取り込まれる。複数の取り込み、または複数サンプリングを行うことで、検出部位の皮膚における近赤外光の経路が、特別な一つではなく平均化される。この皮膚表層部における経路の平均化によって、血糖値データの信頼性を大きく向上させることができる。このような複数サンプリングの効果を確実に得るためには、受光端部の相互の間隔dは、たとえば1mm程度以上はあることが好ましい。
図17に示す生体成分検出装置100は、受光端部61,62,63のそれぞれの光について、波長1μmから3μmまでのスペクトルを示すことができる。演算部(マイコン)85は、それぞれの受光端部からの光について、同一の複数の波長、またはそれぞれについて異なる複数の波長を用いて、生体成分濃度を得ることができる。生体成分としては、血糖値だけでなく、コレステロール、アルブミン、ヘモグロビン、ビリルビンなどを精度よく検出することができる。
【0066】
(実施の形態7:生体成分検出装置(5)−体脂肪−)
図19は、本発明の実施の形態7における生体成分検出装置100を示す図である。本実施の形態では、生体成分を体脂肪とする。体脂肪は近赤外域に複数の吸収帯をもつので、近赤外スペクトルにより、検出を行うことができる。体脂肪の検出には、圧力を付加することが行われる。図19において、テーブル95にはプローブ83が嵌め込まれ、そのプローブ83に、生体(指)が載せられる。プローブ83には、照射用光ファイバ81と情報搭載光ファイバ82が装着されている。指には、エアバック96によって圧力が加わるようになっている。エアバック96は、ハウジング97に収納され、エア配管69により空気の装入や放出が行われる。圧力計68に基づき、マイコン85はエアポンプ69を適宜稼動させ、エア配管69から空気をエアバック96に送り込み、指に圧力を付加することができる。
【0067】
また、近赤外光の経路はつぎのとおりである。
光源73→照射用光ファイバ81→プローブ83→指→プローブ83→情報搭載光ファイバ82→回折格子91→検出装置70(図8参照)→マイコン85
指にかかる圧力は圧力計68で知ることができ、圧力ごとに、体脂肪の比率を知ることができる。さらに、従来は、体脂肪の近赤外光による検出では、もっぱら1.21μmの吸収ピークが用いられていた。上記のように、検出装置70内の受光素子アレイ50(図3、図8参照)を用いることにより、波長3μmまで、受光可能域を拡大できるので、3μmまでのより長波長域の吸収ピークを用いて、体脂肪率をより高精度で検出することができる。
【0068】
(実施の形態8:生体成分検出装置(6)−角膜のコラーゲン分布検出−)
ここでは、特定の課題を解決するのではなく、生体中とくに光に敏感な眼の角膜におけるコラーゲン分布の検出に、本発明に係る生体成分検出装置が有用であることを提唱する。角膜は、主としてコラーゲンと組織液とから構成される。このコラーゲンは、美容上、重要な成分であり、吸収帯は、1μm〜3μmの範囲に多く分布する。このため、図3または図8に示した本発明の受光素子アレイ50または撮像装置70による検出に適している。
図20は、本発明の実施の形態8における生体成分検出装置(眼のコラーゲン分布像形成装置)100を示す図である。眼の見え方は角膜だけで決まるものではないが、角膜の状態を知ることは必要である。
凹面鏡76は近赤外光に対する反射率が大きいものを用いるのがよく、たとえば金(Au)で形成したものを用いる。凹面鏡76は、眼の正面ではなく傍らに位置して、角膜から出た光を反射して、角膜の像を撮像装置70に結像させるようにする。フィルタ72は、コラーゲンの吸収帯に属する1μm〜3μmの光を透過させるものがよい。制御部85のマイクロコンピュータ85bは、撮像装置70の画素の出力信号に基づいて、角膜Cにおけるコラーゲン分布像を形成し、表示装置85cに表示する。本発明に係る撮像装置70は、たとえば図8に示すものを用いるのがよい。暗電流が低く、長波長側にまで感度が高いため、S/N比の高い、鮮明なコラーゲン分布像を得ることができる。このため、眼におけるコラーゲンの果たす作用などの理解に役立つ。
【0069】
眼は光に対して非常に敏感に反応するので、できれば光源73は使用しないことが好ましい。図21は、SWIR宇宙光の強度分布を示す図である。たとえば、このSWIR宇宙光のスペクトルのピークIを、光源に用いることができる。ピークIの波長は、1.4μm付近にあり、コラーゲンの吸収帯に近い。このため、図21において、光源73を除いて、SWIR宇宙光で代用することができる。または、人工の光源73を用いるにしても、光を近赤外域に限定して、しかもそのピーク値をSWIR宇宙光のピーク強度のたとえば2倍とすることでもよい。上記SWIR宇宙光を光源にすることでアイセーフが確実に実現される。上記のように、SWIR宇宙光を用いたり、強度レベルの低い光源を用いることができるのは、本発明に係る撮像装置70の暗電流を低くできるからである。すなわち微弱な信号でも、鮮明な画像を形成することができるからである。
【0070】
(実施の形態9:生体成分検出装置(7)−角膜矯正手術における角膜コラーゲン分布検出−)
ArFエキシマレーザを用いて、角膜を蒸散させ、精密な角膜矯正手術を行う方法が知られている。このような角膜矯正手術は、矯正量の制御性がよい、手術が自動化されている、安定性に優れる、術後の感染性副作用が少ない、角膜の強度低下が少ない等の利点を有している。しかしながら、上記の角膜矯正手術は、弱度近視と中程度近視に対する臨床試験結果は有効であるのに対し、ArFエキシマレーザによる角膜中央部へのレーザ照射回数を増加させると、生体液の角膜表面への浸出が顕著になり、角膜の蒸散が進まなくなる。このため、強度近視に対して予定した矯正量を得ることができず、手術の成功率が悪くなるという問題があった。角膜にArFエキシマレーザを照射したとき、蒸散時に角膜表面から発生するキノコ状の噴霧を取り除くために窒素ガスを吹き付けると、表面が乾燥して蒸散面の平滑化が悪化するという問題があった。
【0071】
上記のように、術中における角膜表面の湿潤状態は、蒸散の良否を左右する重要な要因となっており、術中の角膜表面の湿潤状態をモニタする必要がある。ArFエキシマレーザの照射による角膜蒸散のとき、主にコラーゲンがレーザを吸収して蒸散し、角膜の約80%を占める組織液は、残存角膜から浸出し、その部分の組成が変化してArFエキシマレーザの吸収が変化する。コラーゲンの蒸散に費やされたArFエキシマレーザは、コラーゲンの分子の振動、回転に変換され、温度上昇が生じる。このため、温度の4乗に比例した強度の赤外光が放射される。この赤外光をモニタすることで、角膜の湿潤状態を検出することができるとの提案がなされている(特許文献7)。この方法では、1つの角膜Cの全体に対して、赤外線の波形が一つ対応するだけなので、角膜全体の平均的な湿潤状態についての情報が得られるだけである。しかし、実際は、組織液の浸出は、1つの角膜のなかで、島状に分かれて生じるため、角膜の各位置の湿潤状態の情報があったほうが好ましい。
【0072】
本発明に係る撮像装置70または受光素子二次元アレイ50を用いることによって、角膜の各位置におけるコラーゲン濃度の情報を明確に得ることが可能である。術中に過渡的に浸出が生じるときの、角膜全体にわたるコラーゲン分布推移を検出することができる。このような検出は、角膜の状態に貴重な情報をもたらすことは明らかである。この場合、上記パルスレーザのパルス幅は10nsのオーダであり、その後の数ms〜1000msの間のコラーゲン分布を検出することが重要である。ArFエキシマレーザショット後、10ns程度で、角膜蒸散のキノコ雲状の噴霧が発生するが、この噴霧の影響をなるべく受けないように、角膜表面のコラーゲン分布を数ms〜数十msのオーダで追跡して検出する必要がある。
【0073】
図22および図23は、本発明の実施の形態9における、手術中の角膜のコラーゲン分布を検出する装置を説明するための図である。光源73は、図示しないArFエキシマレーザの出射部と重ならないように配置する。図22において、光学系は、角膜の像を、撮像装置70または受光素子二次元アレイ50に結像するように構成されている。角膜のコラーゲンが多い箇所は画素または受光素子の出力電圧は小さく(暗く)、またコラーゲンが少ない箇所では出力電圧は高く(明るく)なる。ArFエキシマレーザショットの直後、撮像装置70または受光素子二次元アレイ50、の各画素の出力電圧の波形(時間推移)は、制御部85に含まれる処理装置85bに入力され、記憶される。撮像装置70の画素または二次元アレイの受光素子10は、図23に示すように、細かく区分けされた角膜Cの各位置に対応づけられる。
【0074】
本発明に係る撮像装置70は、角膜の各位置のコラーゲン分布を医学的に把握するのに十分すぎるほどの密度で画素を形成することができる。そして、隣接する画素間でのクロストークも小さく、暗電流も非常に小さくすることができる。また、上述のように、拡散濃度分布調整層をInGaAsで形成することで応答時間を短くすることが可能である。このため、各画素において出力電圧波形を、高い追随性をもって高精度で得ることができる。このような画素の波形をすべて集めて角膜の地図上でコラーゲン分布濃度をプロットすれば、ArFエキシマレーザショット直後における角膜全体での浸出状況を把握することができる。
【0075】
(実施の形態10:生体成分検出装置(8)−顔面のコラーゲン分布像−)
顔面のコラーゲン分布像は、美容的に、重要である。たとえば、唇の端や目尻にしわが出来ている場合、コラーゲン濃度は低いとされる(特許文献6)。コラーゲン濃度が高いことと、皺のない張りのある肌とは相関が高い可能性がある。本実施の形態における撮像装置70の構成は、実施の形態8または9と、同じであり、図示はしない。
本発明に係る撮像装置70を用いれば、顔面の鮮明なコラーゲン分布像を得ることができる。また、上述のように、顔面のコラーゲン分布像の撮像には、アイセーフが問題とされる。本発明に係る撮像装置70は、微弱な信号でも鮮明な像を得ることができるので、光源を用いずにSWIR宇宙光を用いることができる。また、光源を用いる場合でも、発光強度の低い光源を用いることができる。このため、アイセーフの問題を克服するのが容易である。
【実施例】
【0076】
−半導体受光素子アレイの構造についての実施例−
本発明の受光素子アレイの素子間隔または画素ピッチをどの程度まで小さくできるか、図24に示す受光素子アレイを用いた実施例によって検証した。受光素子間隔または画素ピッチは、図24に示すように、SiN選択拡散マスクパターン36の非開口部の幅である。Znの選択拡散の後に、p側電極11はAuZnにより、またn側電極12はAuGeNiにより、それぞれ形成した。図3の場合、InP基板1にFeドープの半絶縁性基板を用いているので、高濃度不純物のバッファ層2にn側電極12を設けているが、図1に示すようにn型InP基板を用いる場合には、基板裏面にn側電極を設けてもよいし、または基板表面側に基板と隣接するn型半導体層(たとえばバッファ層2)にn側電極を設けてもよい。本実施例では、図3の受光素子アレイのp側電極11とn側電極12との間に5Vの逆バイアス電圧を印加して、暗電流を測定した。InP窓層5の厚みは0.6μmと1.6μmの2種類について、また素子間隔は3μm〜20μmの範囲にわたって7種類の素子間隔について、それぞれ受光素子アレイを製造して、暗電流を測定した。拡散濃度分布調整層4の厚みは1μmとした。
【0077】
結果を図25に示す。図25によれば、InP窓層5の厚みが0.6μmと薄い場合、素子間隔または画素ピッチを5μmまで小さくしても、暗電流は1×10−10A(アンペア)とすることができる。InP窓層5の厚みが1.6μmの場合には、上述したように、横方向へのZnの拡散が広がり、素子間隔7μmを超えないと、1×10−10Aとすることができない。しかし、本実施例によって、InP窓層5の厚みを0.6μmと薄くし、かつ拡散濃度分布調整層を配置することによって、素子間隔5μmとすることができることを確認した。
【0078】
拡散濃度分布調整層4の作用については、Znの深さ方向濃度分布をSIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析によって検証した。図26に、Znの深さ方向濃度分布を示す。図26によれば、InGaAs拡散濃度分布調整層4と受光層3との界面において、Znのパイルアップのピーク値は5×1016cm-3以下に抑制されている。このため、受光層3のn型キャリア濃度のバックグラウンドと、Zn濃度との交差位置(図中○印)に形成されるpn接合において、Zn濃度は確実に低くすることができ、結晶性等の劣化を防止することができる。そして、この拡散濃度分布調整層4の配置によって、受光層の多重量子井戸構造にその本来の作用を奏させることが可能になる。
【0079】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、InP系PDの画期的な性能向上によって、既存の装置に比べて、高精度な検査を容易に行うことができるので、健康および美容の分野で大きな貢献をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態1における受光素子を示す断面図である。
【図2】図1の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1における受光素子アレイを示す断面図である。
【図4】本発明と異なる参考例1の受光素子の断面図である。
【図5】図4の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図6】本発明と異なる参考例2の受光素子の断面図である。
【図7】図6の受光素子におけるZn濃度分布を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態2における撮像装置の概要を示す図である。
【図9】図8の撮像装置の受光素子アレイを示す図である。
【図10】図9の受光素子アレイにおける一つの受光素子を示す図である。
【図11】エピアップ実装の受光素子の断面図である。
【図12】エピダウン(フリップチップ)実装の受光素子の断面図である。
【図13】本発明の実施の形態3における生体成分検出装置(1)を示す図である。
【図14】図13の生体成分検出装置のプローブの拡大図である。
【図15】本発明の実施の形態4における生体成分検出装置(2)を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態5における生体成分検出装置(3)を示す図である。
【図17】本発明の実施の形態6における生体成分検出装置(4)を示す図である。
【図18】図17の生体成分検出装置のプローブの拡大図である。
【図19】本発明の実施の形態7における生体成分検出装置(5)を示す図である。
【図20】本発明の実施の形態8における生体成分検出装置(6)を示す図である。
【図21】SWIR宇宙光スペクトルと本発明例の受光素子の感度分布を示す図である。
【図22】本発明の実施の形態9における生体成分検出装置(7)を示す図である。
【図23】コラーゲンが検出される角膜上の位置を示す図である。
【図24】実施例に用いた受光素子アレイの部分断面図である。
【図25】実施例において測定した暗電流と素子間隔との関係を示す図である。
【図26】実施例におけるZnの深さ方向濃度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
1 InP基板、2 バッファ層、3 多重量子井戸構造の受光層、4 拡散濃度分布調整層、5 InP窓層、5a 窓層の表面、6 p型領域、10 受光素子、11 p側電極、12 n側電極、12b はんだバンプ、15 pn接合、35 反射防止膜、36 選択拡散マスクパターン、27 配線電極、43 SiON膜、50 受光素子アレイ、51 InP基板、61,62,63 受光端部、66 選択スイッチ、67エアポンプ、68 圧力計、69 エア配管、70 撮像装置(検出装置)、71 マルチプレクサ(実装基板)、72 フィルタ、73 光源、74 拡散板、75 アクチュエータ、76 凹面鏡、77 筐体、77a 生体装入溝、81 照射用光ファイバ、82 情報搭載光ファイバ、82a 受光端部、82b 押圧調整アクチュエータ、83 プローブ、84 光ファイバ、85 制御部、85b マイコン(演算部、CPU)、85c 表示部(出力装置)、87,87a,87b 集光レンズ、91 回折格子(分光器)、95 テーブル、96 エアバッグ、100 生体成分検出装置、C 角膜、E 眼。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外域の光を利用して、生体の成分を検出するための装置であって、
前記近赤外域の光を受光するIII−V族半導体による受光素子を備え、
前記受光素子がInP基板上に形成された多重量子井戸構造の受光層を有し、
前記受光層のバンドギャップ波長が1.8μm以上3μm以下であり、
前記InP基板と反対側の前記受光層の面に接して、III−V族半導体の拡散濃度分布調整層を備え、
前記拡散濃度分布調整層のバンドギャップエネルギがInPよりも小さく、
前記受光素子では、前記拡散濃度分布調整層を通して前記受光層へと届く、不純物元素の選択拡散によってpn接合が形成され、
前記受光層における前記不純物元素の濃度が5×1016/cm以下であり、
前記拡散濃度分布調整層の拡散前のn型不純物濃度が、2×1015/cm以下であり、該拡散濃度分布調整層は、受光層側の厚み範囲に低い不純物濃度範囲を有し、
前記生体からの透過光または反射光について、波長3μm以下の少なくとも1つの波長の光を前記受光素子により受光して、前記検出をすることを特徴とする、生体成分検出装置。
【請求項2】
前記拡散濃度分布調整層は、前記不純物元素の濃度が、前記受光層と接する面と反対側の面側にある1×1018/cm以上の領域と、前記受光層側にある2×1016/cm以下の領域と、前記2つの領域の間にあり前記2つの領域よりも厚みが薄く前記不純物元素の濃度が2×1016/cmより大きく、1×1018/cmより小さい領域と、を有することを特徴とする、請求項1に記載の生体成分検出装置。
【請求項3】
前記受光層がタイプIIの量子井戸構造であることを特徴とする、請求項1または2に記載の生体成分検出装置。
【請求項4】
前記受光層が(InGaAs/GaAsSb)の多重量子井戸構造、または(GaInNAs(P,Sb)/GaAsSb)の多重量子井戸構造であることを特徴とする、請求項3に記載の生体成分検出装置。
【請求項5】
前記InP基板は、(100)から[111]方向または[11−1]方向に、5°〜20°傾斜したオフアングル基板であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項6】
前記不純物元素が亜鉛(Zn)であり、前記拡散濃度分布調整層がInGaAsから形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項7】
前記拡散濃度分布調整層の上にInP窓層を備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項8】
前記InP基板、前記受光層の量子井戸構造を構成する各層、拡散濃度分布調整層、および前記InP窓層の任意の相互間において、格子整合度(|Δa/a|:ただし、aは格子定数、Δaは相互間の格子定数差)が0.002以下であることを特徴とする、請求項7に記載の生体成分検出装置。
【請求項9】
前記受光素子が、一次元または二次元にアレイ化していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項10】
前記生体の検出部位に、スーパーコンティニウム光源(SC光源)または発光ダイオード(LED)による光を照射し、前記検出部位からの透過光または反射光を受光することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項11】
前記受光素子の二次元アレイを含む撮像装置を備え、該撮像装置により前記検査対象の生体に含まれる成分の分布像を形成することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項12】
前記波長域の光を、前記生体に照射し、該生体からの反射光または該生体からの透過光を、受光して、前記生体に含まれる、グルコース、ぶどう糖、ヘモグロビン、コレステロール、アルブミン、活性酸素、脂肪、およびコラーゲンの少なくとも1つの成分を検出することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1つに記載の生体成分検出装置。
【請求項13】
前記検出部位の前記光の照射側に、または照射側から見て前記検出部位の後に、位置して、光を分光する分光部と、前記分光された波長に応じて位置する複数の受光素子または受光素子アレイと、前記受光素子または受光素子アレイで受光した結果に基づき演算をして、前記生体の成分濃度を算出する制御部とを備えることを特徴とする、請求項12に記載の生体成分検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−151401(P2011−151401A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34558(P2011−34558)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【分割の表示】特願2008−326276(P2008−326276)の分割
【原出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【特許番号】特許第4721147号(P4721147)
【特許公報発行日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】