説明

生分解性導電性シートとその製造方法および成形品

【課題】 成形性、透明性、耐水性が良好で、トレーやキャリアテープなどの成形品に成形した後でも帯電防止レベルの導電性を備え、かつ、電気的なショートや収納した電子部品への傷付け、カバーテープなどの他材料とのシール不良などの不都合がなく、しかも、廃棄時における生分解性残渣が低減され、環境面からも好適な導電性シートを提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液から形成された導電性塗膜を備えた生分解性導電性シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品を収納して搬送するキャリアテープなどの成形に好適な生分解性導電性シートとその製造方法および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の包装や搬送には、シートが立体成形されたトレー、キャリアテープなどの成形品が使用される場合がある。このような成形品に使用されるシートには、静電気からの電子部品の保護や除塵を目的として、帯電防止レベルの導電性を備えていることが求められる。また、このようなシートは、環境面から、生分解性を有するものであることが好ましい。
導電性と生分解性とを備え、上述の用途に使用されるシートとしては、カーボンブラックなどの導電性物質が分散した生分解性樹脂からなる表層を備えた多層構造の導電性シートがあり、特許文献1に開示されているものや、一般に流通しているもの(表面抵抗値10〜10Ω、厚み300〜1000μm程度)などがある。
【0003】
ところが、このような導電性シートは、通常、導電性物質を生分解性樹脂に混練し、これを共押出法、押出ラミネート法などの押出成形法によりシート状にする方法で製造されるため、それに起因した以下のような問題があった。
まず、カーボンブラックなどの導電性物質は、生分解性樹脂に対する分散性が悪い。よって、生分解性樹脂に導電性物質を混練したものをシート状に押し出した際、得られたシート中に部分的に導電性物質が凝集してしまう場合があった。このように導電性物質が部分的に凝集したシートを表層として有する導電性シートから、トレーやキャリアテープなどの成形品を成形すると、凝集した導電性物質が摩擦などで成形品から脱落しやすく、この脱落物が収納した電子部品に付着して電気的にショートする場合があった。また、電子部品が特にハードディスクドライブなどの部品である場合には、脱落物がディスクに付着し、ヘッドとの間に挟まって傷を付けてしまうという問題もあった。
【0004】
また、導電性物質が混練された生分解性樹脂は、導電性物質を含むために伸びが小さく、成形性が悪い。そのため、場合によっては、成形時に表層が部分的に断裂してしまい、導電性シートの導電性が失われてしまうこともあった。
【0005】
さらに、一般に押出成形で成形されるシートは、10μmを超える厚みを有している場合が多い。このように厚さが大きく、しかもカーボンブラックなどの黒色の導電性物質を含むと、そのシートは黒色不透明となる。よって、このようなシートからなる表層を備えた導電性シートでトレーやキャリアテープなどを成形し電子部品を収納した後には、電子部品をトレーやキャリアテープを通して目視や画像処理で確認できない。そのため、電子部品の検査は収納前に行う必要があり、検査効率が良くないという問題があった。
また、このように表層がある程度の厚さを有していると、これに含まれる導電性物質の量も必然的に多くなる。ところが、導電性物質は生分解性を有していないために、このような表層が形成された導電性シートやその成形品を廃棄した場合、導電性物質が多量の生分解性残渣となり、二次汚染を発生させる懸念がある。
【0006】
このような問題を解決するものとして、生分解性樹脂シートの片面にπ電子共役系導電性組成物層を設けた導電性シートが特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2000−355089号公報
【特許文献2】特開2002−104499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示のπ電子共役系導電性組成物層は、バインダー成分を含まないπ電子共役系導電性組成物の溶液を生分解性樹脂シートに塗布した後、乾燥することで形成されたものであるため、生分解性樹脂シートへの密着性や耐擦傷性が不十分である。そのため、このような組成物層を有する導電性シートからキャリアテープなどを成形し、電子部品を収納した場合、組成物層が剥離して電子部品に付着し、電気的なショートを引き起こす可能性がある。また、このような組成物層は耐水性もないため、水分によって組成物層が流失し、簡単に導電性を失ってしまうことも懸念される。さらに、キャリアテープには、通常、電子部品の収納後にカバーテープがシールされるが、このような組成物層はシール性が乏しく、一般のカバーテープのシールが困難である。また、仮にシールできたとしても、組成物層とともに容易に剥離してしまうことが考えられる。よって、このような組成物層を有する導電性シートからキャリアテープを成形し、電子部品を収納したとしても、電子部品の搬送時や実装時の振動などでカバーテープが部分的に剥がれるなどして、電子部品の安定な収納や搬送が困難となり、実装不良などの不都合を引き起こす可能性もある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、成形性、透明性、耐水性が良好で、トレーやキャリアテープなどの成形品に成形した後でも帯電防止レベルの導電性を備え、かつ、電気的なショートや収納した電子部品への傷付け、カバーテープなどの他材料とのシール不良などの不都合がなく、しかも、廃棄時における生分解性残渣が低減され、環境面からも好適な導電性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生分解性導電性シートは、ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液から形成された導電性塗膜を備えたことを特徴とする。
前記導電性塗膜の厚さは0.1〜5μmであることが好ましい。
前記導電性物質は、導電性フィラーおよび/またはπ電子共役系導電性高分子であることが好ましい。
本発明の成形品は、前記いずれかに記載の生分解性導電性シートが成形されたことを特徴とする。
本発明の生分解性導電性シートの製造方法は、ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液を塗布し、導電性塗膜を形成する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形性、透明性、耐水性が良好で、トレーやキャリアテープなどの成形品に成形した後でも帯電防止レベルの導電性を備え、かつ、電気的なショートや収納した電子部品への傷付け、カバーテープなどの他材料とのシール不良などの不都合がなく、しかも、廃棄時における生分解性残渣が低減され、環境面からも好適な導電性シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の生分解性導電性シートは、ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートと、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液からなる導電性塗膜とを備えたものであって、導電性塗膜は、基材シートの片面または両面に形成されている。
【0012】
基材シートを構成するポリ乳酸系生分解性樹脂とは、乳酸、具体的には、D−乳酸またはL−乳酸の単独重合体またはそれらの共重合体をいう。すなわち、構成単位がL−乳酸であるポリ(L−乳酸)、構造単位がD−乳酸であるポリ(D−乳酸)、さらにはL−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリ(DL−乳酸)がある。また、これらの混合体も含まれる。
【0013】
このようなポリ乳酸系生分解性樹脂は、縮重合法、開環重合法などの公知の方法で製造できる。例えば、縮重合法では、D−乳酸、L−乳酸またはこれらの混合物を直接脱水縮重合することにより、任意の組成を持つポリ乳酸が得られる。また、開環重合法では、乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調製剤等を用いながら、所定の触媒の存在下で開環重合することにより、任意の組成を持つポリ乳酸が得られる。ラクチドには、L−乳酸の二量体であるL−ラクチド、D−乳酸の二量体であるD−ラクチド、D−乳酸とL−乳酸の二量体であるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつポリ乳酸系生分解性樹脂が得られる。
【0014】
ポリ乳酸系生分解性樹脂は、乳酸のみを構成単位とする重合体でもよいが、乳酸以外のヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/またはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用してもよい。
【0015】
共重合されるヒドロキシカルボン酸としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
共重合される脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、オクタデカン二酸、およびドデカン二酸等が挙げられる。
【0016】
基材シートは、上述のポリ乳酸系生分解性樹脂からなるものであれば、いかなる成形法により製造されたものでもよい。また、延伸されたものでも未延伸のものでもよいが、未延伸のものの方がトレーやキャリアテープなどの成形品に成形しやすいため好ましい。基材シートの厚さにも特に制限はなく、生分解性導電性シートの用途に応じて適宜決定される。例えば、トレーやキャリアテープなどに成形される場合には、収納する電子部品の大きさや質量に適した厚さの基材シートが使用され、通常は0.2〜1mm程度の厚さが好適である。
なお、基材シートは、ポリ乳酸系生分解性樹脂にその特性に影響を与えない範囲で添加剤などの他の成分が配合され、シート状に成形されたものでもよい。
【0017】
基材シートの少なくとも片面に形成される導電性塗膜は、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液が塗布された後、乾燥して形成されるものである。
ここで使用される生分解性樹脂エマルションは、水系溶媒中に、樹脂成分であるポリ乳酸系などの生分解性樹脂が乳化、分散したものであって、界面活性剤などの添加剤を含んでいてもよい。
また、生分解性樹脂エマルションに含まれる樹脂の好ましい粒径は1μm未満である。また、好ましい固形分濃度は20〜30質量%である。粒径がこのような範囲であると、平滑で薄い導電性塗膜を形成しやすいとともに、形成される導電性塗膜の透明性が優れるため好適である。また、固形分濃度がこのような範囲であると、生分解性樹脂エマルションの取扱性の点から好ましい。
【0018】
生分解性樹脂エマルションに分散される導電性物質としては、導電性フィラーやπ電子共役系導電性高分子が好適に例示できる。
導電性フィラーとしては、導電性カーボンや、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物が挙げられ、これらを1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。また、導電性フィラーのサイズには特に制限はなく、導電性塗膜の透明性と導電性とのバランスなどにより適宜選択される。
また、導電性フィラーは、フィラーのままで生分解性樹脂エマルションに直接添加しても、あらかじめ水などの溶媒に分散させ、分散体の形態で生分解性エマルションに添加してもよいが、特に、導電性物質として導電性カーボンを選択し、導電性カーボンの水分散体を添加する形態が好ましい。その場合、この水分散体は、固形分濃度が5〜30質量%、粘度が100〜10000mPa・sの範囲であることが好ましい。固形分濃度や粘度がこのような範囲であると、取扱性に優れるうえ、生分解性樹脂エマルションへの混合、分散が容易であり好ましい。
【0019】
生分解性樹脂エマルションに導電性物質として導電性フィラーが添加され、分散液が調製される場合、生分解性樹脂と導電性フィラーとの比率は、いずれも固形分として、生分解性樹脂100質量部に対して導電性フィラーが10〜200質量部の範囲が好ましい。ここで導電性フィラーが10質量部未満であると、導電性塗膜に帯電防止レベルの導電性(10〜1010Ω程度の表面抵抗値)を付与できない場合があり、一方、200質量部を超えると、生分解性導電性シートを廃棄した際の生分解性残渣が増加する傾向や、導電性塗膜の塗膜形成性が低下する傾向がある。また、特に導電性フィラーが導電性カーボンである場合には、10〜100質量部の範囲が好ましく、金属酸化物である場合には、100〜200質量部の範囲が好ましい。
【0020】
π電子共役系導電性高分子は、共役二重結合を備えたモノマーであるアニリンまたはアニリン誘導体、ピロールまたはピロール誘導体、チオフェンまたはチオフェン誘導体からなる群より選ばれる1種以上を、無機酸、有機スルホン酸等のドーパントの存在下で酸化重合剤と接触させることで得られるものであり、導電性カーボンなど黒色の導電性物質よりも、より透明性の高い導電性塗膜を形成しやすい点で好適に使用される。
ドーパントはアクセプター性であればよく、例えば、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン類、五フッ化リン等のルイス酸、塩化水素、硫酸等のプロトン酸、塩化第二鉄などの遷移金属塩化物等が挙げられる。
酸化重合剤には金属系と非金属系とがあるが、反応媒体中で電解酸化重合法と同程度の酸化電位を有する酸化剤が好適である。金属系酸化剤としては鉄(III)塩、モリブデン(V)塩、ルテニウム(III)塩、クロム酸(IV)、重クロム酸(VI)、過マンガン酸(VII)等があげられる。非金属系酸化剤としては、過酸化水素等の過酸化物、ペルオキソ二硫酸等のペルオキソ酸類、次亜塩素酸等の酸素酸類が挙げられる。
【0021】
π電子共役系導電性高分子の好適な具体例としては、2−アミノアニソール−4−スルホン酸からなる高分子や、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))などが例示できる。また、π電子共役系導電性高分子は1種単独で使用しても2種以上を混合して使用してもよく、さらに、上述の導電性フィラーと併用してもよい。
【0022】
生分解性樹脂エマルションに導電性物質としてπ電子共役系導電性高分子が添加され、分散液が調製される場合、生分解性樹脂とπ電子共役系導電性高分子との比率は、生分解性樹脂(固形分)100質量部に対してπ電子共役系導電性高分子が0.5〜5.0質量部の範囲が好ましい。ここでπ電子共役系導電性高分子が0.5質量部未満であると、導電性塗膜に帯電防止レベルの導電性を付与できない場合があり、一方、5.0質量部を超えると、生分解性導電性シートを廃棄した際の生分解性残渣が増加する傾向や、導電性塗膜の透明性が低下する傾向がある。また、導電性の点からは5.0質量部で十分であり、それを超えて添加してもコスト的にデメリットとなるだけである。
【0023】
基材シートに導電性塗膜を形成する方法としては、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質を分散させて分散液を調製し、この分散液を基材シートの少なくとも片面に塗布後、乾燥すればよい。
【0024】
このような方法によれば、導電性物質が良好に分散した導電性塗膜を形成でき、導電性物質が部分的に凝集することがない。よって、得られた生分解性導電性シートからトレー、キャリアテープなどの成形品を成形し、これに電子部品を収納した場合に、導電性物質からなる凝集物の脱落による電気的なショートや、電子部品の傷付けなどが生じない。また、こうして形成された導電性塗膜は、生分解性樹脂エマルション中の生分解性樹脂がバインダーとして作用し、基材シートへの密着性や耐擦傷性が十分であるため、電気的なショートなどを引き起こすことなく安定に導電性を維持し、電子部品を確実に収納、搬送し、実装不良を引き起こすこともない。また、導電性塗膜の耐水性やシール性も良好であり、水分による導電性の低下や、一般のカバーテープなど他材料とのシールがしにくいといった問題もない。
【0025】
さらに、このような方法によれば、導電性塗膜を10μm以下の厚さで形成することができる。そのため、導電性塗膜に含まれる導電性物質の量を低く抑えることができ、廃棄時の生分解性残渣を低減でき、二次汚染を回避できる。また、導電性塗膜の透明性が向上し、この生分解性導電性シートからトレー、キャリアテープなどの成形品を得て、これに電子部品を収納した後に、その確認を成形品を通しての目視や画像処理で良好に行える。また、導電性塗膜の厚さが10μm以下であると、導電性塗膜を形成しても基材シートの成形性はほとんど低下しない。よって、成形性の良好な生分解性導電性シートを得ることができ、この生分解性導電性シートをトレー、キャリアテープなどに成形した場合に、導電性塗膜が部分的に断裂するなどして導電性を失うこともない。
より好ましい導電性塗膜の厚みは0.1〜5μmである。このような範囲であれば、成形性、透明性、生分解性残渣の低減などの観点からより好ましく、帯電防止レベルの導電性も安定に備えることができる。
【0026】
なお、分散液の塗布には、バーコータなどの各種コータを使用できる。また、グラビアコーティング法などにより、導電性塗膜を一定の厚みで形成するのではなく、部分的に薄く形成して、斑状としてもよい。そのような方法によれば、導電性カーボンなど透明性を確保しにくい導電性フィラーを使用した場合でも、導電性塗膜の薄い部分は透明性を維持でき、そのため、先に述べた目視や画像処理などによる確認ができ好適である。
【0027】
このような生分解性導電性シートは、各種成形品の成形材料として使用できるが、特に上述の優れた特性を有しているため、電子部品を収納するトレーやキャリアテープなどの成形品の成形材料として好適である。また、成形方法としては、真空成形、圧空成形、プレス成形などを適宜採用できる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
[実施例1]
基材シートとして、ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる厚さ0.3mmの未延伸シート(ユニチカ(株)製テラマックSS−300)を用意した。
一方、生分解性樹脂エマルション(ユニチカ(株)製LAE015S、固形分濃度50〜55質量%、粒子径<1μm、粘度200〜400mP・s)を、固形分濃度20〜30質量%に調整した後、これに、導電性カーボン水分散体(ライオン(株)製ライオンペースト356A、固形分濃度11.5質量%、粘度900mP・s)を混合して、導電性塗膜形成用の分散液を調製した。この際、分散液における生分解性樹脂と導電性カーボンとの比率(固形分)が、生分解性樹脂100質量部に対して導電性カーボンが45質量部となるようにした。
ついで、基材シートの片面に、調製した分散液をバーコータで塗布後、ドライヤで乾燥して水分を除去し、厚さ10μmの導電性塗膜が形成された生分解性導電性シートを得た。そして、この生分解性導電性シートを真空成形機で、エンボスキャリアテープに成形した。
【0029】
[実施例2]
導電性塗膜の厚さを5μmとした以外は実施例1と同様にして生分解性導電性シートを得て、さらにエンボスキャリアテープに成形した。
【0030】
[実施例3]
導電性カーボン水分散体の代わりに、π電子共役系導電性高分子であるPEDOTの溶液(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)1.2質量%溶液)を用い、3μmの厚さの導電性塗膜を形成した。この際、分散液における生分解性樹脂とPEDOTとの比率(固形分)が、生分解性樹脂100質量部に対してPEDOTが1.0質量部となるようにした。それ以外は実施例1と同様にして生分解性導電性シートを得て、さらにエンボスキャリアテープに成形した。
【0031】
[比較例1]
Tダイ3層押出機を用いて、厚さ250μmの生分解性樹脂からなる基材シートの両面に、導電性カーボンを混練した生分解性樹脂からなる厚さ25μmの導電層が形成された3層構造の生分解性導電性シート(全体の厚み300μm)を製造した。そして、この生分解性導電性シートから実施例1と同様にしてエンボスキャリアテープを成形した。
【0032】
[比較例2]
実施例1と同様の基材シートを用意し、その片面に、実施例3で使用したものと同様のPEDOTの溶液を単独で塗布後乾燥して、生分解性導電性シートを製造した。そして、この生分解性導電性シートから実施例1と同様にしてエンボスキャリアテープを成形した。
【0033】
[評価]
各例で得られた生分解性導電性シートに対して、以下の性能を評価した。
(1)密着性
得られた生分解性導電性シートの導電性塗膜の上にセロハン粘着テープを貼り付け、勢いよく剥がした際に、導電性塗膜が著しく剥がれるものを×、わずかに、あるいは部分的に剥がれるものを△、剥がれないものを○として表1に示した。
(2)擦傷性
得られた生分解性導電性シートの導電性塗膜側と、基材シートとしても使用したユニチカ(株)製テラマックSS−300とを擦り合わせた際に、導電性塗膜が簡単に剥がれるものを×、わずかに、あるいは部分的に剥がれるものを△、剥がれないものを○として表1に示した。
(3)耐水性
得られた生分解性導電性シートを、その導電性塗膜側を上に向けて水道蛇口の真下に置き、水道水を流した。30秒間経過後、水道水を止めて生分解性導電性シートを乾燥し、表面抵抗値を測定した。
水道水による処理前後の表面抵抗値[Ω]の変化が、1桁以下のものを○、2桁のものを△、3桁以上であるものを×として表1に示した。
(4)透明性
電子部品の端子部を上に向けて置き、その上に得られた生分解性導電性シートをさらに置いた場合に、端子部が目視確認できるものを○、わずかに見えるものを△、見えないものを×として表1に示した。
(5)生分解性
市販のコンポスト装置で30日以内にほとんど分解できたものを○、部分的に分解できたものを△、ほとんど分解できなかったものを×として表1に示した。
(6)生分解性残渣
市販のコンポスト装置で生分解させた後の残渣の量が、導電性塗膜が形成されていない基材シート(ユニチカ(株)製テラマックSS−300)と同等の場合を◎、ほとんど残らない場合を○、大量に残った場合を×とし、○と×の中間を△として表1に示した。
(7)カバーテープとのヒートシール性
信越ポリマー(株)製カバーテープSP−ASDを、100〜200℃の範囲の温度でヒートシールした際に、20〜70gfの剥離強度を発現できるものを○、それ以外のものを×として表1に示した。
【0034】
各例で得られた生分解性導電性シートをエンボスキャリアテープに成形した際の成形性と、成形前後の表面抵抗値の変化を評価した。
(8)成形性
導電性塗膜が形成されていない基材シート(ユニチカ(株)製テラマックSS−300)と同等の成形性の場合を○、部分的に金型形状を再現できなかった場合を△、成形時に穴があいてしまったものを×として表1に示した。
(9)表面抵抗値の変化
成形前後の表面抵抗値[Ω]の変化が、1桁のものを○、2桁のものを△、3桁以上であるものを×として表1に示した。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の生分解性導電性シートは、成形性、透明性が良好で、帯電防止レベルの導電性を備えていることなどから、トレー、キャリアテープなどの成形品の成形材料として好適である。また、生分解性導電性シートを使用することにより、石油系樹脂の使用量を抑制して二酸化炭素の排出量を削減することができ、環境面で好適であるが、特に本発明の生分解性導電性シートは、廃棄時における生分解性残渣が非常に少ないため、二次汚染の懸念もなく、産業上非常に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液から形成された導電性塗膜を備えたことを特徴とする生分解性導電性シート。
【請求項2】
前記導電性塗膜の厚さが0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の生分解性導電性シート。
【請求項3】
前記導電性物質が、導電性フィラーであることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性導電性シート。
【請求項4】
前記導電性物質が、π電子共役系導電性高分子であることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性導電性シート。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の生分解性導電性シートが成形されたことを特徴とする成形品。
【請求項6】
ポリ乳酸系生分解性樹脂からなる基材シートの少なくとも片面に、生分解性樹脂エマルション中に導電性物質が分散した分散液を塗布し、導電性塗膜を形成する工程を有することを特徴とする生分解性導電性シートの製造方法。


【公開番号】特開2006−347009(P2006−347009A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176235(P2005−176235)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】