説明

産業車両の制御装置

【課題】トルコン車においてもバキューム圧が低下した場合の安全性を向上させることができる産業車両の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンの始動後(S2)、バキューム圧Pvが所定値Pth以下であって(S3)、シフトレバーがニュートラル以外の位置にあるときには(S4)、ヒューエルカットソレノイドバルブが閉じられ(S5)、燃料供給が停止されてエンジンが強制的に停止される(S6)。その後、シフトレバーをニュートラル位置にすれば(S7)、エンジンを再始動させることができる。バキューム圧Pvが所定値Pth以下であって(S3)、シフトレバーがニュートラル位置にある場合には(S4)、エンジンは停止されず、アクセルペダルを踏み込むことによりエンジンの回転数が上がり、バキュームポンプの回転数が上がってバキューム圧Pvは早急に回復する(S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、バキュームアシストブレーキを有する産業車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば,トーイングトラクタ、フォークリフト等の産業車両においては、バキュームアシストブレーキが備えられている。このバキュームアシストブレーキは、ブレーキ踏力をバキューム圧から得られるアシスト力により増幅させてブレーキ力(制動力)を高めたものである。軽いブレーキ踏力によって強いブレーキ力を容易に得ることができるため、産業車両のように車速は遅いが重量が大きい車両においても優れた制動特性を得ることができる。
【0003】
バキュームアシストブレーキにおいて用いられるバキューム圧は、例えばエンジンのクランクシャフトの回転に連動して駆動されるバキュームポンプによる負圧を利用して発生させている。ところが、万一、長期間の停止等に起因してバキューム圧が低下すると、バキューム圧によるアシスト力が十分に作動しなくなってしまう。
そこで、本発明者は、バキューム圧が所定値以下に低下したときにアクセルペダルが踏み込まれるとエンジンを強制的に停止させるようにした産業車両の安全装置を発明した。この産業車両の安全装置が特許文献1に開示されている。これにより、バキューム圧が低下した場合の安全性の向上がなされることとなる。
【0004】
【特許文献1】特開2000−318483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トルクコンバータを用いた、いわゆるトルコン車においては、エンジンの始動後にシフトレバーをニュートラル位置からD(ドライブ)位置あるいはR(リバース)位置等に動かすと、アクセルペダルを踏み込まなくても車両が動き出す特性を有している。このため、万一、バキューム圧が低下していると、バキュームアシストブレーキによりブレーキ踏力をアシストしてブレーキ力を十分に高めることができなくなってしまう。
この発明はこのような問題点を解消するためになされたもので、トルコン車においてもバキューム圧が低下した場合の安全性を向上させることができる産業車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る産業車両の制御装置は、バキューム圧が所定値以下のときにオンし、所定値を越えたときにオフするバキュームスイッチを備えると共に、シフトレバーがニュートラル位置にあるときにオンし、ニュートラル以外の位置にあるときにオフするニュートラルセーフティスイッチを備え、バキュームスイッチがオンすると共にニュートラルセーフティスイッチがオフすると制御手段によってエンジンを強制的に停止させるようにしたものである。
【0007】
さらに、アクセルアームを移動させてエンジンの回転数を上げるアイドルアップソレノイドバルブを備え、バキュームスイッチがオンし且つニュートラルセーフティスイッチがオンしたときに制御手段がアイドルアップソレノイドバルブを駆動してエンジンの回転数を上げることによりバキューム圧を上昇させるように構成することもできる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、バキューム圧が所定値以下の場合に、シフトレバーをニュートラル以外の位置にすると制御手段がエンジンを強制的に停止させるので、トルコン車においてもバキューム圧が低下した場合の安全性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に実施の形態1に係る産業車両の制御装置の構成を示す。この産業車両は、バキューム圧によりブレーキ踏力を増幅させてブレーキ力を高めるバキュームアシストブレーキを備えたものである。バッテリ1がキースイッチ2のB接点に接続され、キースイッチ2のM接点にバキュームスイッチ3とバキュームブザー4が互いに直列に接続されている。キースイッチ2にはニュートラルセーフティスイッチ5が接続され、ニュートラルセーフティスイッチ5に第1のニュートラルセーフティリレー6の励磁部6aと第2のニュートラルセーフティリレー7の励磁部7aとが互いに並列に接続されている。
【0010】
また、キースイッチ2のM接点には、第2のニュートラルセーフティリレー7の接点7bを介してバキュームリレー8の接点8b及びヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の励磁部9aが順次接続されている。バキュームリレー8の励磁部8aはバキュームスイッチ3に接続されている。さらに、キースイッチ2のM接点にヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の接点9bとヒューエルカットソレノイドバルブ(FCV)10が互いに直列に接続されている。
また、バッテリ1にスタータリレー11の接点11bを介してスタータ12が接続され、キースイッチ2のST接点に第1のニュートラルセーフティリレー6の接点6bを介してスタータリレー11の励磁部11aが接続されている。
【0011】
バキュームスイッチ3は、バキューム圧Pvを検出するセンサに接続されており、検出されたバキューム圧Pvが所定値Pth以下のときにオンし、所定値Pthを越えたときにオフするように構成されている。バキュームスイッチ3のオン/オフの境界となる所定値Pthは,例えば500mmHgとすることができる。ただし、この所定圧力は、産業車両の種類等によって任意に設定することができる。
ニュートラルセーフティスイッチ5は、シフトレバーの位置を検出するシフトセンサに接続されており、シフトレバーがニュートラル位置にあるときにオンし、ニュートラル以外の位置にあるときにはオフするように構成されている。
ヒューエルカットソレノイドバルブ10は、通電が遮断されることにより閉じてエンジンへの燃料供給を停止するためのものである。
【0012】
なお、第1のニュートラルセーフティリレー6の接点6b、バキュームリレー8の接点8b及びスタータリレー11の接点11bはいずれも常開接点であり、第2のニュートラルセーフティリレー7の接点7bとヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の接点9bは常閉接点である。
第2のニュートラルセーフティリレー7、バキュームリレー8、ヒューエルカットソレノイドバルブリレー9及びヒューエルカットソレノイドバルブ10により、この発明の制御手段が構成されている。
【0013】
次に、この実施の形態1の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。まず、キースイッチ2をオン状態にしてB接点とM接点とを導通させると、ステップS1でシフトレバーがニュートラル位置にあるか否かが判定され、ニュートラル位置にある場合には、ニュートラルセーフティスイッチ5がオンし、第1のニュートラルセーフティリレー6の励磁部6aが通電されて接点6bが閉じる。そこで、ステップS2でキースイッチ2を操作して一旦イグニッションオン状態にし、B接点とST接点とを導通させると、スタータリレー11の励磁部11aが通電されて接点11bが閉じ、スタータ12が駆動されてエンジンが始動する。
【0014】
キースイッチ2がオン状態に戻されると、ステップS3でバキューム圧Pvと所定値Pthとが比較される。バキューム圧Pvが所定値Pth以下である場合には、バキュームスイッチ3がオンし、バキュームブザー4が作動して運転手にバキューム圧の低下状態が知らされると共にバキュームリレー8の励磁部8aが通電されて接点8bが閉じる。さらに、ステップS4でシフトレバーがニュートラル位置にあるか否かが判定され、ニュートラル以外の位置にあるときには、ニュートラルセーフティスイッチ5がオフし、第2のニュートラルセーフティリレー7の励磁部7aの通電が遮断されて常閉接点7bが閉じる。このため、第2のニュートラルセーフティリレー7の接点7b及びバキュームリレー8の接点8bを介してヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の励磁部9aが通電され、常閉接点9bが開く。これにより、ステップS5でヒューエルカットソレノイドバルブ(FCV)10は通電が遮断されて閉じ、燃料供給が停止されてステップS6でエンジンが強制的に停止される。
【0015】
このように、エンジンの始動後にバキューム圧Pvが所定値Pth以下の場合に、シフトレバーをニュートラル以外の位置にすることによりエンジンが強制的に停止されるため、トルコン車においても車両が動き出すことはなく、バキューム圧が低下した場合の安全性が向上する。
その後、ステップS7でシフトレバーをニュートラル位置にすれば、ステップS2に戻ってエンジンを再始動させることができる。
【0016】
ステップS4でシフトレバーがニュートラル位置にあると判定された場合には、ニュートラルセーフティスイッチ5がオンするので、第2のニュートラルセーフティリレー7の励磁部7aが通電されて常閉接点7bが開き、ヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の励磁部9aへの通電が遮断される。このため、ヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の常閉接点9bが閉じ、ヒューエルカットソレノイドバルブ(FCV)10は通電されて開いたままとなる。そこで、ステップS8でアクセルペダルを踏み込むことにより、エンジンの回転数を上げてバキュームポンプの回転数を上げ、バキューム圧Pvを早急に回復させることができる。
【0017】
バキューム圧Pvが上昇してステップS3でバキューム圧Pvが所定値Pthを越えると、バキュームスイッチ3がオフするため、バキュームリレー8の励磁部8aへの通電が遮断されて接点8bが開く。これにより、シフトレバーの位置に関わらずに、ヒューエルカットソレノイドバルブリレー9の励磁部9aへ通電されなくなり、常閉接点9bが閉じてヒューエルカットソレノイドバルブ(FCV)10は開いたままとなる。
【0018】
そこで、ステップS9でシフトレバーをD(ドライブ)位置あるいはR(リバース)位置等に動かすことにより、ステップS10で車両の走行が可能となる。
車両の走行中に何らかの原因によりステップS11でバキューム圧Pvが所定値Pth以下となった場合には、ステップS5に進んでヒューエルカットソレノイドバルブ(FCV)10を閉じ、ステップS6でエンジンを強制的に停止する。
【0019】
このように、実施の形態1においては、バキューム圧Pvが所定値Pth以下の場合に、シフトレバーをニュートラル以外の位置にするとエンジンが強制的に停止され、シフトレバーをニュートラル位置にするとアクセルペダルを踏み込んでエンジンの回転数を上げることによりバキューム圧Pvを早急に回復させることが可能となる。
【0020】
実施の形態2
図3に実施の形態2に係る産業車両の制御装置におけるアクセルアーム近傍の機械的構造を示す。回動自在に配設されたアクセルアーム21の一端部にアクセルペダル22が載置されている。また、リンク23の中間部が回動自在に支持されており、このリンク23の一端部がアクセルアーム21の中間部に当接し、リンク23の他端部にはスプリング24を介してアイドルアップソレノイドバルブ25の作動軸25aが連結されている。リンク23の他端部の近傍にリターンスプリング26が連結されており、このリターンスプリング26によりリンク23はその他端部がストッパボルト27に押しつけられるように図3において反時計回り方向に付勢されている。
【0021】
実施の形態2に係る産業車両の制御装置の回路構成を図4に示す。この制御装置は、図1に示した実施の形態1の制御装置において、ニュートラルセーフティスイッチ5に第3のニュートラルセーフティリレー28の励磁部28aが接続されると共にバキュームスイッチ3にニュートラルセーフティリレー28の接点28bを介してアイドルアップソレノイドバルブリレー29の励磁部29aが接続され、さらにバッテリ1にアイドルアップソレノイドバルブリレー29の接点29bを介してアイドルアップソレノイドバルブ25が接続されたものである。
この実施の形態2においては、第2のニュートラルセーフティリレー7、バキュームリレー8、ヒューエルカットソレノイドバルブリレー9及びヒューエルカットソレノイドバルブ10に加えてアイドルアップソレノイドバルブ25、第3のニュートラルセーフティリレー28及びアイドルアップソレノイドバルブリレー29により制御手段が構成されている。
【0022】
図2のフローチャートのステップS4のように、バキューム圧Pvが所定値Pth以下である場合で且つシフトレバーがニュートラル位置にあると判定された場合には、ニュートラルセーフティスイッチ5がオンするので、第3のニュートラルセーフティリレー28の励磁部28aが通電されて接点28bが閉じ、アイドルアップソレノイドバルブリレー29の励磁部29aに通電がなされる。このため、アイドルアップソレノイドバルブリレー29の接点29bが閉じてアイドルアップソレノイドバルブ25が通電する。
これにより、アイドルアップソレノイドバルブ25はスプリング24を介してリンク23の他端部を引っ張り、リンク23が図3において時計回り方向に回動し、アクセルアーム21がBで示される位置まで押し下げられる。その結果、アクセルペダル22を踏み込まなくてもエンジンの回転数が上がり、バキューム圧Pvが早急に回復することとなる。
【0023】
バキューム圧Pvが上昇して所定値Pthを越えると、バキュームスイッチ3がオフするため、アイドルアップソレノイドバルブリレー29の励磁部29aへの通電が遮断されて接点29bが開き、アイドルアップソレノイドバルブ25が通電しなくなる。従って、アイドルアップソレノイドバルブ25がリンク23の他端部を引っ張る牽引力がなくなり、リンク23は他端部がストッパボルト27に当接するまでリターンスプリング26の付勢力によって図3における反時計回り方向に回動する。その結果、アクセルアーム21はAで示される位置まで戻り、エンジンの回転数はアイドル状態の回転数にまで低下する。
【0024】
このように、実施の形態2においては、バキューム圧Pvが所定値Pth以下の場合にシフトレバーをニュートラル位置にすると、アクセルペダルを踏み込まなくても自動的にアイドルアップソレノイドバルブ25が駆動してアクセルアーム21を移動させることによりエンジンの回転数を上げ、バキューム圧Pvを早急に回復させることが可能となる。
【0025】
なお、実施の形態1及び2では、図1及び図4に示されるような回路を形成したが、これに限るものではなく、所定のソフトウエアにより作動するコンピュータを制御手段として用いて、例えば図2のフローチャートに示されるようにヒューエルカットソレノイドバルブ10及びアイドルアップソレノイドバルブ25等を制御することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1に係る産業車両の制御装置の構成を示す回路図である。
【図2】実施の形態1の動作を示すフローチャートである。
【図3】実施の形態2に係る産業車両の制御装置におけるアクセルアーム近傍の機械的構造を示す図である。
【図4】実施の形態2に係る産業車両の制御装置の構成を示す回路図である。
【符号の説明】
【0027】
1 バッテリ、2 キースイッチ、3 バキュームスイッチ、4 バキュームブザー、5 ニュートラルセーフティスイッチ、6 第1のニュートラルセーフティリレー、7 第2のニュートラルセーフティリレー、8 バキュームリレー、9 ヒューエルカットソレノイドバルブリレー、10 ヒューエルカットソレノイドバルブ、11 スタータリレー、12 スタータ、21 アクセルアーム、22 アクセルペダル、23 リンク、24 スプリング、25 アイドルアップソレノイドバルブ、26 リターンスプリング、27 ストッパボルト、28 第3のニュートラルセーフティリレー、29 アイドルアップソレノイドバルブリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バキューム圧によりブレーキ踏力を増幅させてブレーキ力を高めるバキュームアシストブレーキを備えた産業車両の制御装置において、
バキューム圧が所定値以下のときにオンし、所定値を越えたときにオフするバキュームスイッチと、
シフトレバーがニュートラル位置にあるときにオンし、ニュートラル以外の位置にあるときにオフするニュートラルセーフティスイッチと、
前記バキュームスイッチがオンすると共に前記ニュートラルセーフティスイッチがオフするとエンジンを強制的に停止させる制御手段と
を備えたことを特徴とする産業車両の制御装置。
【請求項2】
アクセルアームを移動させてエンジンの回転数を上げるアイドルアップソレノイドバルブをさらに備え、
前記制御手段は、前記バキュームスイッチがオンし且つ前記ニュートラルセーフティスイッチがオンしたときに前記アイドルアップソレノイドバルブを駆動してエンジンの回転数を上げることによりバキューム圧を上昇させる請求項1に記載の産業車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−196703(P2007−196703A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14074(P2006−14074)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】