説明

画像記録装置

【課題】記録用紙などの被記録媒体を原因とする画像記録装置の異常状態を早期に且つ確実に判定することが可能な画像記録装置を提供すること。
【解決手段】プラテン42上に端が反り返った記録用紙が搬送され、その上をキャリッジ38が移動すると、キャリッジ38と記録用紙とが接触する。このとき、記録用紙がキャリッジ38の移動方向に圧縮される。これにより、記録用紙の圧縮部に弾性が生じる。キャリッジ38は、上記弾性による反力を受けて、移動方向とは逆の方向へ押し返される。このとき、押光学センサ35で読み取られた矩形波に基づいて制御部64がキャリッジ38の逆方向への移動を検出する。この検出結果を受けて、制御部64が用紙詰まりを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラテン上を搬送される被記録媒体に対して画像を記録するインクジェット方式の画像記録装置に関し、特に、画像記録装置の異常状態を判定することが可能な画像記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像記録装置は、多数のノズルが並設された記録ヘッドを備えている。画像が記録されるべき被記録媒体(典型的には記録用紙)は、上記記録ヘッドの下方に搬送される。記録ヘッドは、キャリッジに搭載されている。キャリッジは、記録用紙の搬送方向に直交する方向(以下「主走査方向」と称する)に往復動可能に支持されている。記録ヘッドは、キャリッジと共に主走査方向へ移動しつつ、所定のタイミングで上記ノズルからインク滴を吐出する。これにより、記録用紙に画像が記録される。
【0003】
この種の画像記録装置においては、記録用紙とノズルとが近接して配置されている。そのため、例えば、端辺が反り返った状態の記録用紙が記録ヘッドの下方に搬送されると、キャリッジの移動中にキャリッジ又は記録ヘッドと記録用紙とが接触して、キャリッジの移動範囲において用紙詰まり(ジャム)が生じる場合がある。キャリッジが記録用紙に接触すると、キャリッジに負荷がかかり、キャリッジの移動速度が低下する。従来、キャリッジの移動範囲における用紙詰まりを検出する手段として、キャリッジの移動速度を検出し、キャリッジの移動制御中に移動速度が閾値より低下したと判断された場合に、用紙詰まりと判定する手法が知られている(特許文献1〜特許文献4参照)。
【0004】
また、用紙詰まりを判定する手段として、特許文献1には、キャリッジの加速状態および減速状態でキャリッジの速度が所定時間変化しないと判断された場合に、用紙詰まりと判定する手法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−211769号公報
【特許文献2】特開昭55−114578号公報
【特許文献3】特開平2−147267号公報
【特許文献4】特開平11−208051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前掲の各特許文献に記載の用紙詰まりを判定する従来の判定手法は、キャリッジの移動速度の変動にもとづいて行うものである。しかしながら、キャリッジの移動速度の変動を検出するには、一定の時間を必要とする。そのため、従来の判定手法では、用紙詰まりが発生してから用紙詰まりと判定されるまでに時間がかかり過ぎるという問題がある。特に、ファーストプリントタイム(プリント開始指示がなされてから1枚目の記録用紙の後端がトレイに排出される迄の時間)を減縮するため、キャリッジの移動速度が高速化された近年の画像記録装置では、判定に要する時間が長いと、キャリッジや記録ヘッドに過大な負担がかかり、キャリッジの脱落や記録ヘッドの故障という重大な問題に発展しかねない。
【0007】
また、キャリッジの速度が低下する要因は、用紙詰まりに限らず、例えば、キャリッジと支持部材との摺動部の状態なども挙げられる。また、キャリッジの移動速度は、画像記録装置の使用状態、設置環境などもにも影響する。それにもかかわらず、キャリッジの速度が低下したことをもって用紙詰まりを判定する従来の判定手法では、画像記録装置が正常状態であるにもかかわらず誤って用紙詰まりと判定する場合があり得る。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、記録用紙などの被記録媒体を原因とする画像記録装置の異常状態を早期に且つ確実に判定することが可能な画像記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明は、プラテン上を搬送される被記録媒体に対して画像を記録するインクジェット方式の画像記録装置であって、キャリッジと、伝達手段と、移動制御手段と、方向検出手段と、第1判定手段とを具備する画像記録装置として構成されている。キャリッジに記録ヘッドが搭載されている。このキャリッジは、被記録媒体の搬送方向に直交する第1方向へ移動可能に支持されている。伝達手段は、所定の駆動源の動力を上記キャリッジに伝達するものである。移動制御手段は、上記駆動源を制御して上記キャリッジを上記第1方向に往復動させる。方向検出手段は、上記移動制御手段による移動制御中に上記キャリッジの移動方向を検出する。そして、第1判定手段は、上記移動制御手段による一方向への移動制御中に上記方向検出手段によって上記キャリッジの逆方向への移動が検出されたことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定する。
【0010】
本画像記録装置においては、プラテン上に搬送されてきた記録用紙(被記録媒体)に対して記録ヘッドが画像記録を行う。詳細には、キャリッジが記録用紙に対して往復動している間に、記録ヘッドから選択的にインク滴が記録用紙に向けて吐出される。例えば、プラテン上で記録用紙とキャリッジとが接触するなどして該キャリッジの移動方向とは逆の方向へ過大な負荷がかかると、移動制御手段が制御する方向に反して、キャリッジは、逆の方向へ移動する。このとき、上記方向検出手段によって上記キャリッジの逆方向への移動が検出され、その検出結果に基づいて、上記第1判定手段によって、当該画像記録装置が異常状態であると判定される。これにより、当該画像記録装置の異常状態を迅速且つ確実に判定することができる。
【0011】
(2) 上記第1判定手段は、上記移動制御手段による上記キャリッジの加速制御若しくは減速制御中に、当該画像記録装置を異常状態と判定するものである。
【0012】
上記移動制御手段による加速制御若しくは減速制御中におけるキャリッジの実際の加速度は、画像記録装置の使用環境や使用頻度、或いはキャリッジの支持状態などに起因して変動する場合がある。そのため、加速制御若しくは減速制御中は、画像記録装置の異常状態を判定するにあたり、定速制御中に比べて高い判定精度が要求される。したがって、上記加速制御若しくは減速制御中においては、判定精度の高い第1判定手段で上記異常状態を判定することが望ましい。
【0013】
(3) 本画像記録装置は、上記キャリッジの移動速度を検出する速度検出手段と、上記移動制御手段による定速制御中に上記速度検出手段によって検出された速度が所定速度よりも低下したことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定する第2判定手段を更に備える。
【0014】
これにより、第1判定手段及び第2判定手段の双方で当該画像記録装置の異常状態を判定可能となる。また、加減速制御中は第1判定手段で判定し、定速制御中は第2判定手段で判定するというように、適宜最適な判定手段を採用することも可能である。
【0015】
(4) 上記第2判定手段は、上記キャリッジの速度が上記所定速度よりも低下した状態を所定時間維持したことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定するものであることが望ましい。これにより、誤判定の発生率が低下する。
【0016】
(5) 上記第1判定手段又は上記第2判定手段は、上記プラテン上における被記録媒体の詰まりを当該画像記録装置の異常状態と判定するものである。本画像記録装置においては、第1判定手段や第2判定手段は被記録媒体の紙詰まりの判定に好適である。
【0017】
(6) 本画像記録装置は、上記第1判定手段若しくは上記第2判定手段による判定結果に基づいて上記キャリッジの移動を停止させる停止制御手段を更に備えることが望ましい。これにより、キャリッジに対して付与される負荷が除去されるため、画像記録装置の異常状態が、キャリッジの脱落などのような不具合に発展するということがない。
【0018】
(7) また、本画像記録装置は、上記第1判定手段若しくは上記第2判定手段による判定結果をエラー情報として出力する出力手段を更に備えるものであることが望ましい。これにより、ユーザはエラー情報を容易に確認することができる。
【0019】
(8) 上記伝達手段は、上記キャリッジの移動範囲の両端それぞれに配置され、上記所定の駆動源からの駆動力を受けるプーリと、上記プーリに巻回され、一部が上記キャリッジに連結されるベルトとを有する。
【0020】
例えば、記録用紙の詰まりなどが生じてキャリッジに過大な負荷がかけられて、プーリの周速度とキャリッジの速度とに差が生じると、プーリとベルトとが滑り、ベルトが削られる場合がある。したがって、このような伝達手段が採用された画像記録装置においては、画像記録装置の異常状態を正確に判定可能な本発明が好ましく適用され得る。
【0021】
(9) また、上記プーリが、焼結材料で形成されてなるものであることが好ましい。一般に、焼結材料で形成されたプーリは、合成樹脂で形成されたものと比べて表面粗さが大きい。そのため、プーリによるベルトの摩耗の度合い、特に、ベルトに歯が設けられている場合はその歯の削れ度合いが大きい。したがって、上記プーリが焼結材料で形成されている場合は、異常状態を正確に判定可能な本発明が適用されることで、ベルトの摩耗が抑えられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、記録用紙などの被記録媒体を原因とする画像記録装置の異常状態を早期に且つ確実に判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る画像記録装置の一例である複合機1の外観構成を示す斜視図である。図2は、プリンタ部2の主要構成を示す部分拡大断面図である。図3は、プリンタ部2の主要構成を示す平面図であり、主としてプリンタ部2の略中央から装置背面側の構成が示されている。図4は、プリンタ部2の主要構成を示す斜視図であり、画像記録ユニット24の構成が示されている。図5は、フォトトランジスタ133,134の出力波形を模式的に示す波形図である。図6は、記録用紙Pとキャリッジ38とが接触する状態を示す模式図である。図7は、複合機1の制御部64の構成を示すブロック図である。図8は、キャリッジ10の速度変化を模式的に示す特性図である。図9は、制御部64により実行される異常判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。図10は、定速制御中における異常判定の手法を説明するための模式図であって、キャリッジ10の速度変化が模式的に示されている。
【0025】
複合機1は、プリンタ部2とスキャナ部3とを一体的に備えた多機能装置(MFP:Multi Function Product)であり、プリント機能、スキャン機能、コピー機能、ファクシミリ機能等を有する。複合機1のうちプリンタ部2が、本発明に係るインクジェット方式の画像記録装置に相当する。したがって、プリント機能以外の機能は任意のものであり、例えば、スキャナ部3が省略されたプリント機能のみを有するプリンタとして本発明に係る画像記録装置が実施されてもよい。
【0026】
複合機1のプリンタ部2は、主にコンピュータ等の外部情報機器と接続されて、該コンピュータ等から送信された画像データや文書データを含む印刷データに基づいて、記録用紙(本発明の被記録媒体に相当)に画像や文書を記録する。なお、複合機1は、デジタルカメラ等が接続されて、デジタルカメラ等から出力される画像データを記録用紙に記録したり、メモリカード等の各種記憶媒体が装填されて、該記憶媒体に記録された画像データ等を記録用紙に記録することも可能である。
【0027】
図1に示されるように、複合機1は概ね直方体に形成されている。複合機1の下部がプリンタ部2である。プリンタ部2は、正面に開口9が形成されている。給紙トレイ20及び排紙トレイ21は、開口9の内側に上下2段に設けられている。給紙トレイ20に収容された記録用紙(記録媒体)がプリンタ部2の内部へ給送されて、その記録用紙に所望の画像が記録されると、その後、画像記録済みの記録用紙が排紙トレイ21へ排出される。
【0028】
複合機1の上部はスキャナ部3である。このスキャナ部3は、所謂フラットベッドスキャナとして構成されている。複合機1の天板としての原稿カバー30がスキャナ部3の上部に開閉自在に設けられている。原稿カバー30の下側に、図示しないプラテンガラス及びイメージセンサが設けられている。プラテンガラスに載置された原稿の画像がイメージセンサによって読み取られる。なお、本発明を実現するうえでスキャナ部3は関係しないため、ここでは、スキャナ部3の詳細な説明を省略する。
【0029】
図1に示されるように、複合機1の正面上部には、プリンタ部2やスキャナ部3を操作するための操作パネル4が設けられている。操作パネル4は、各種操作ボタンや液晶表示部から構成されている。複合機1は、操作パネル4からの操作指示に基づいて動作する。複合機1が外部のコンピュータに接続されている場合には、該コンピュータからプリンタドライバ又はスキャナドライバを介して送信される指示に基づいても複合機1が動作する。
【0030】
以下、複合機1の内部構成、特にプリンタ部2の構成について説明する。
【0031】
図2に示されるように、複合機1の底側に給紙トレイ20が設けられ、給紙トレイ20の奥側に分離傾斜板22が設けられている。分離傾斜板22は、給紙トレイ20から重送された記録用紙を分離して、最上位置の記録用紙を上方へ案内する。用紙搬送路23は、分離傾斜板22から上方へ向かった後、正面側へ曲がって、複合機1の背面側から正面側へと延び、画像記録ユニット24を経て排紙トレイ21へ通じている。したがって、給紙トレイ20に収容された記録用紙は、用紙搬送路23により下方から上方へUターンするように案内されて画像記録ユニット24に至り、画像記録ユニット24により画像記録が行われた後、排紙トレイ21に排出される。
【0032】
給紙トレイ20の上側に給紙ローラ25が設けられている。給紙ローラ25は、給紙トレイ20に積載された記録用紙を用紙搬送路23へ供給する。給紙ローラ25は、給紙アーム26の先端に軸支されている。給紙ローラ25は、LFモータ71(図4参照)を駆動源として駆動伝達機構27を介して回転駆動される。この駆動伝達機構27は複数のギアを有し、これらが噛合されることにより構成されている。
【0033】
給紙アーム26は、基軸29に支持されている。給紙アーム26は、基軸29を回動軸として回転可能に設けられており、このため、給紙トレイ20に接離可能に上下動することができる。ただし、給紙アーム26は、自重により又はバネ等で付勢されることにより、給紙トレイ20に接触するように下側へ回動付勢されており、給紙トレイ20が挿抜される際に上側へ退避するようになっている。給紙アーム26が下側へ回動されることにより、その先端に軸支された給紙ローラ25が給紙トレイ20上の記録用紙に圧接する。その状態で、給紙ローラ25が回転されることにより、給紙ローラ25のローラ面と記録用紙との間の摩擦力により、最上位置の記録用紙が分離傾斜板22へ送り出される。記録用紙は、その先端が分離傾斜板22に当接して上方へ案内され、用紙搬送路23へ送り込まれる。給紙ローラ25によって最上位置の記録用紙が送り出される際に、その直下の記録用紙が摩擦や静電気の作用によって共に送り出される場合があるが、該記録用紙は分離傾斜板22との当接によって制止される。
【0034】
用紙搬送路23は、画像記録ユニット24等が配設されている箇所以外は、所定間隔で対向する外側ガイド面と内側ガイド面とによって区画形成されている。例えば、複合機1の背面側の用紙搬送路23の湾曲部17は、外側ガイド部材18と内側ガイド部材19とが装置フレームに固定されることにより構成されている。
【0035】
図2に示されるように、用紙搬送路23には、画像記録ユニット24が配置されている。画像記録ユニット24は、インクジェット記録ヘッド39(本発明の記録ヘッドに相当)と、このインクジェット記録ヘッド39を搭載するキャリッジ38(本発明のキャリッジの一例)とを備えている。キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向と直交する主走査方向(図2の紙面に垂直な方向、本発明の第1方向に相当)へ往復動可能に支持されている。
【0036】
インクジェット記録ヘッド39には、複合機1内にインクジェット記録ヘッド39とは独立に配置されたインクカートリッジから各色のインクが供給される。キャリッジ38が往復動される間に、インクジェット記録ヘッド39から各色インクが微小なインク滴として選択的に吐出されることにより、プラテン42(本発明のプラテンに相当)上を搬送される記録用紙に画像記録が行われる。
【0037】
図3及び図4に示されるように、用紙搬送路23の上側において一対のガイドレール43,44が配置されている。これらガイドレール43,44は、記録用紙の搬送方向(図3の上側から下側方向)に所定距離を隔てられて対向しており、且つ記録用紙の搬送方向と直交する主走査方向(図3の左右方向)に延設されている。ガイドレール43,44は、プリンタ部2の筐体内に設けられ、プリンタ部2を構成する各部材を支持するフレームの一部を構成している。キャリッジ38は、ガイドレール43,44を跨ぐようにして記録用紙の搬送方向と直交する主走査方向(第1方向)に摺動可能に載置されている。
【0038】
ガイドレール43は、記録用紙の搬送方向上流側に配設されている。このガイドレール43は、用紙搬送路23の幅方向(図3の左右方向)の長さがキャリッジ38の往復動範囲より長い平板状のものである。また、ガイドレール44は、記録用紙の搬送方向下流側に配設されている。このガイドレール44は、用紙搬送路23の幅方向の長さがガイドレール43とほぼ同じ長さの平板状のものである。キャリッジ38の搬送方向上流側の端部がガイドレール43に載置され、キャリッジ38の搬送方向下流側の端部がガイドレール44に載置されており、キャリッジ38は、各ガイドレール43,44の長手方向に摺動されるようになっている。
【0039】
ガイドレール44の搬送方向上流側の縁部45は、上方へ向かって略直角に曲折されている。ガイドレール43,44に担持されたキャリッジ38は、縁部45をローラ対等の狭持部材により摺動可能に狭持している。これにより、キャリッジ38は、記録用紙の搬送方向に対して位置決めされ、且つ、記録用紙の搬送方向と直交する方向に摺動することができる。つまり、キャリッジ38は、ガイドレール43,44上に摺動自在に担持され、ガイドレール44の縁部45を基準として、記録用紙の搬送方向と直交する方向に往復動する。なお、図示されていないが、縁部45には、キャリッジ38の摺動を円滑にするためにグリースなどの潤滑剤が塗布されている。
【0040】
ガイドレール44の上面には、図3に示されるように、ベルト駆動伝達機構46(本発明の伝達手段の一例)が配設されている。ベルト駆動伝達機構46は、駆動プーリ47(本発明のプーリの一例)と、従動プーリ48(本発明のプーリの一例)と、無端環状のベルト49(本発明のベルトの一例)とを有する。
【0041】
駆動プーリ47及び従動プーリ48は、用紙搬送路23の幅方向の両端付近にそれぞれ設けられている。換言すれば、駆動プーリ47及び従動プーリ48は、キャリッジ38の移動範囲の両端にそれぞれ配設されている。 駆動プーリ47の周面には、等間隔ごとに突出状の歯が設けられている。駆動プーリ47と従動プーリ48との間に、無端環状のベルト49が張架されている。ベルト49の内側には、駆動プーリ47の周面の歯と噛合される歯が設けられている。駆動プーリ49の歯と歯の間の谷部にベルト49の歯が噛み合う。駆動プーリ47の軸にCRモータ73(本発明の所定の駆動源に相当、図4参照)の駆動軸が連結されている。CRモータ73から駆動力が駆動プーリ47の軸に伝達されると、駆動プーリ47の回転によりベルト49が周運動する。なお、ベルト49は無端環状のもののほか、有端のベルトの両端部をキャリッジ38に固着するものも採用され得る。
【0042】
キャリッジ38は、その底面側においてベルト49に連結されている。したがって、ベルト49の周運動に基づいて、キャリッジ38が縁部45を基準としてガイドレール43,44上を往復動する。このようなキャリッジ38にインクジェット記録ヘッド39が搭載されて、インクジェット記録ヘッド39が、用紙搬送路23の幅方向を主走査方向(第1方向)として往復動される。
【0043】
本実施形態では、駆動プーリ47は、焼結材料で形成されている。樹脂材料で形成された従来のプーリは、樹脂という性質上、軸とプーリとの連結部が滑り易い。そのため、駆動プーリ47の回転駆動中にキャリッジ38が記録用紙と接触するなどしてベルト49に過大な負荷がかかると、駆動プーリ47の回転だけが停止し、軸だけが空回りする場合がある。この場合、上記連結部に発生する摩擦熱などによって上記連結部が緩み、駆動プーリ47が軸から抜けるという問題がある。これに対して、焼結材料で駆動プーリ47を形成すれば、軸と駆動プーリ47との連結部の摩擦力が上がるため、軸が空回りするということがなくなる。
【0044】
しかしながら、上述の如くベルト49に過大な負荷がかかった場合に駆動プーリ47が回転駆動されると、駆動プーリ47の周面とベルト49との接触部における歯の噛み合いが外れ、歯の噛み合い位置がずれる現象(以下「歯飛び」と称する。)が生じる。また、ベルト49に対して駆動プーリ47が空回りするおそれもある。上記歯飛びや上記空回りは、駆動プーリ47及びベルト49を摩耗する原因である。特に、本実施形態では、駆動プーリ47が焼結材料で形成されているため、駆動プーリ47によってベルト49が削られやすい。場合によっては、ベルト49は、その内側に設けられた歯が無くなるほど削られる。ベルト49の摩耗は、キャリッジ38の移動制御の精度に影響を与えるため好ましくない。本実施形態では、後述するように、キャリッジ38が記録用紙と接触するといった異常が発生した場合には、CRモータ73(図7参照)が直ぐに停止されて、キャリッジ38が止められる。そのため、ベルト49が激しく摩耗しない。
【0045】
図3に示されるように、ガイドレール44には、エンコーダストリップ50が配設されている。エンコーダストリップ50は、透明な樹脂からなる帯状のものである。ガイドレール44の幅方向(キャリッジ38の往復動方向)の両端には、その上面から起立するように一対の支持部33,34が形成されている。エンコーダストリップ50は、その両端部が支持部33,34に係止されて、縁部45に沿って架設されている。なお、エンコーダストリップ50はバネなどによって張力が付与されている。
【0046】
エンコーダストリップ50には、光を透過させる透光部と光を遮断する遮光部とが、長手方向に等ピッチで交互に配置されたパターンが記されている。キャリッジ38の上面のエンコーダストリップ50に対応する位置には、透過型センサである光学センサ35が設けられている。エンコーダストリップ50と光学センサ35とによって、キャリッジ38の位置を検出するためのリニアエンコーダが構成される。本実施形態では、光学センサ35と後述する制御部64(図7参照)とによって、本発明の方向検出手段及び速度検出手段が具現化されている。
【0047】
光学センサ35は、キャリッジ38の移動とともにエンコーダストリップ50の長手方向に沿って往復動し、その往復動の際にエンコーダストリップ50のパターンに応じた矩形波を制御部64(図7参照)へ信号として出力する。制御部64では、受けとった矩形波に基づいて、後述するようにして、キャリッジ38の位置や速度、実際の移動方向が求められる。なお、実際は、光学センサ35から出力される信号は正弦波であり、この正弦波に対して周知のフィルタ処理を施すことによって図5に示される矩形波が生成されるのであるが、ここでは、フィルタ処理に関する詳細な説明は省略する。
【0048】
光学センサ35は、例えば、1つの発光素子(例えばLED)と2つの受光素子(例えばフォトトランジスタ)とを有するものであり、エンコーダストリップ50を挟んで一方側に発光素子が配置されており、他方側に受光素子が配置されて構成されている。キャリッジ38とともに光学センサ35が移動すると、各受光素子からエンコーダストリップ50のパターンに応じた矩形波が出力される。具体的には、一方の受光素子から、図5(A)に示されるように、波長λの矩形波133Aが出力される。また、他方の受光素子から、図5(B)に示されるように、矩形波133Aと同波長であって4分の1波長(1/4λ)だけ位相がずらされた矩形波134Aが出力される。
【0049】
制御部64(図7参照)では、矩形波133A又は1334Aを解析して、信号レベルが変化した回数をカウントすることにより、キャリッジ38の位置が検知される。また、矩形波133A又は1334Aから求められた波長λと周波数fとから、キャリッジ38の移動速度が算出される。なお、周波数fや波長λを求めるには、少なくとも2つ以上のパルスを検出する必要がある。つまり、キャリッジ38の移動速度は、少なくとも2つ以上のパルスが入力されるまで算出できない。もちろん、信頼性の高い移動速度を算出するために、それ以上のパルスの入力が必要とされる。したがって、移動速度の算出にはある程度の時間を要する。
【0050】
本実施形態では、4分の1波長(1/4λ)だけ位相がずらされた矩形波133Aと矩形波134Aとによってキャリッジ38の移動方向が検出される。例えば、光学センサ35が図6の矢印54の方向へ移動したときに、図5の紙面左側から矩形波が制御部64(図7参照)に入力したとする。この場合、図6の矢印55の方向へ光学センサ35が移動すると、図5の紙面右側から矩形波が制御部64に入力することになる。矩形波133AがLOWレベルからHIレベルに変化した時点における矩形波134Aの信号レベルの状態は、光学センサ35の移動方向、換言すれば、キャリッジ38の移動方向によって異なる(図5の矢印60,61参照)。したがって、矩形波133AがHIレベルに変化した時点における矩形波134Aの信号レベルを監視することによって、キャリッジ38の移動方向を検出することができる。なお、キャリッジ38の移動方向は、1つのパルスが制御部64に入力されれば検出可能である。そのため、キャリッジ38の移動方向の検出処理は、2つ以上のパルスを要する移動速度の算出処理に比べると格段に速い。
【0051】
図2及び図3に示されるように、用紙搬送路23の下側には、インクジェット記録ヘッド39と対向してプラテン42が配設されている。プラテン42は、キャリッジ38の往復動範囲のうち、記録用紙が通過する中央部分に亘って配設されている。プラテン42の幅は、搬送可能な記録用紙の最大幅より十分に大きいものであり、記録用紙の両端は常にプラテン42の上を通過する。
【0052】
図3に示されるように、記録用紙が通過しない範囲、すなわちインクジェット記録ヘッド39による画像記録範囲外には、パージ機構51や廃インクトレイ84等のメンテナンスユニットが配設されている。パージ機構51は、インクジェット記録ヘッド39のノズルから気泡や異物を吸引除去するものである。本実施形態では、画像記録を行わない場合は、キャリッジ38はパージ機構51上に配置される。つまり、キャリッジ38は、次の画像記録指示があるまで、パージ機構51上で待機する。
【0053】
図2および図4に示されるように、画像記録ユニット24の上流側には、搬送ローラ87とピンチローラ88とを有する一対の搬送ローラ対89が設けられている。画像記録ユニット24の下流側には、排紙ローラ90と該排紙ローラ90の上方に設けられた拍車91とを有する一対の排出ローラ対92が設けられている。搬送ローラ87は、該搬送ローラ87の軸方向の一端に連結されたLFモータ71(図4参照)から駆動力が伝達されて、所定の改行幅で間欠駆動される。搬送ローラ87と排紙ローラ90とはギアなどの伝達機構により連結されており、該伝達機構を介して搬送ローラ87から駆動力が排紙ローラ90に伝達される。従って、搬送ローラ87および排紙ローラ90の回転は同期されている。用紙搬送路23を搬送されている記録用紙は、搬送ローラ対89によってプラテン42上へ搬送される。そして、プラテン42上で画像が記録された記録済みの記録用紙は、排出ローラ対92によって排紙トレイ21へ搬送される。
【0054】
このように構成された複合機1において、先端や側端が折れ曲がったり、或いは反り返った記録用紙がプラテン42に搬送されて、その上をキャリッジ38が往復動すると、記録用紙とキャリッジ38又はインクジェット記録ヘッド39とが接触する。これにより、キャリッジ38の移動範囲において用紙詰まりが発生する。図6に示されるように、例えば、側端が反り返った記録用紙Pがプラテン42に搬送された場合は(図6(A)参照)、キャリッジ38を矢印54の方向へ移動させると、記録用紙Pとキャリッジ38とが接触して記録用紙Pが潰されてしまい、図6(B)に示されるように、記録用紙Pがキャリッジ38の移動方向に圧縮される。このとき、記録用紙Pの圧縮された部位に弾性が生じる。
【0055】
記録用紙Pにキャリッジ38が接触したことによりキャリッジ38が停止すると、ベルト49の周運動も停止する。しかしながら、CRモータ73によって駆動プーリ47は回転駆動される。このとき、上述したように、駆動プーリ47の歯とベルト49の歯との噛み合い位置がずれる歯飛び現象が生じる。駆動プーリ47の歯とベルト49の歯との噛み合い位置がずれる瞬間は、CRモータ73の駆動力が駆動プーリ47に伝達されないため、一時的にベルト49がフリーになる。このとき、図6(B)に示されるように圧縮された記録用紙Pによって、キャリッジ38は、制御部64の制御により移動されるべき方向(矢印54)とは逆の方向(矢印55)へ押し返される(図6(C)参照)。また、上記歯飛び現象によってベルト49がフリーにならなくても、記録用紙Pの圧縮された部位に生じた弾性力如何によっては、当該弾性力によってキャリッジ38が移動されるべき方向(矢印54)とは逆の方向(矢印55)へ押し返される場合もあり得る。本実施形態では、キャリッジ38が制御により移動されるべき方向とは逆の方向へ押し返されたことをもって、制御部64によって用紙詰まりが判定される。なお、制御部64の構成及び制御部64により実行される判定処理については、後段で詳細に説明する。
【0056】
以下、図7のブロック図を参照して、複合機1の制御部64の概略構成について説明する。制御部64は、プリンタ部3のみでなくスキャナ部2も含む複合機1の全体動作を制御するものであり、メイン基板などによって構成される。なお、スキャナ部3に関する構成は、本発明の主要な構成ではないのでその詳細な説明は省略される。
【0057】
制御部64は、図7に示されるように、CPU65、ROM66、RAM67、EEPROM68を主とするマイクロコンピュータとして構成されている。この制御部64によって、本発明の移動制御手段、第1判定手段、第2判定手段が実現される。
【0058】
ROM66には、複合機1の各種動作を制御するためのプログラムや制御に用いられる各種データ等が格納されている。RAM67は、CPU65が上記プログラムを実行する際に用いるデータや演算結果、或いは後述するトライ回数をカウントしたカウント値を一時的に記録する記憶領域、又は演算の際の作業領域として使用される。また、EEPROM68には、電源オフ後も保持すべき設定やフラグ等が格納される。
【0059】
バス69を介して制御部64とASIC(Application Specific Integrated Circuit)70とが接続されている。ASIC70は、CPU65からの指令に従い、LFモータ71やCRモータ73に通電する相励磁信号等を生成する。この信号は、各モータ71,73を駆動するための駆動回路72,74に付与され、これら駆動回路72,74を介して駆動信号が各モータ71,73に通電される。このようにして、モータ71,73の回転制御が行われる。
【0060】
駆動回路72は、給紙ローラ25、搬送ローラ87、排紙ローラ90及びパージ機構51に接続されたLFモータ71を駆動させるものであり、ASIC70からの出力信号を受けて、LFモータ71を回転するための電気信号を生成する。この電気信号を受けてLFモータ71が回転し、LFモータ71の回転力がギアや駆動軸等からなる周知の駆動伝達機構を介して、給紙ローラ25、搬送ローラ87、排紙ローラ90、及びパージ機構51へ伝達される。すなわち、前述のように、本実施形態に係る複合機1では、LFモータ71は、給紙トレイ20からの記録用紙の給紙のほか、プラテン42上に位置する記録用紙の搬送や記録済みの記録用紙の排紙トレイ21への排出の駆動源となっている。
【0061】
駆動回路74は、CRモータ73を駆動させるものであり、ASIC70からの出力信号を受けて、CRモータ73を回転するための電気信号を生成する。この電気信号を受けてCRモータ73が回転し、CRモータ73の回転力がベルト駆動伝達機構46を介して、キャリッジ38へ伝達されることによりキャリッジ38が往復動される。このようにして、キャリッジ38の往復動が制御部64により制御される。本実施形態では、画像記録指示があるまで、キャリッジ38はパージ機構51上で待機している。この状態から、図8に示されるように、キャリッジ38が所定速度に達するまで加速される(図8の矢印137の領域)。その後、所定速度に到達したキャリッジ38は、一定期間だけ定速状態で速度制御され(図8の矢印138の領域)、その後、減速される(図8の矢印139の領域)。
【0062】
駆動回路75は、インクジェット記録ヘッド39を所定のタイミングで駆動させるものである。駆動回路75は、CPU65から出力される駆動制御手順に基づいて、ASIC70において生成された出力信号を受け、インクジェット記録ヘッド39を駆動制御する。この駆動回路75は、図示しないヘッド制御基板に搭載されており、所定のケーブルを介して制御部64を構成するメイン基板からヘッド制御基板へ信号が伝送される。これにより、インクジェット記録ヘッド39は、所定のタイミングで各色インクを記録用紙に対して選択的に吐出する。
【0063】
バス69を介して制御部64と光学センサ35とが接続されている。光学センサ35は、エンコーダストリップ50のパターンに基づいてキャリッジ38の変位量を電気信号(図5に示される矩形波)に変換し、この信号を制御部64へ送る。制御部64は、この信号を解析してキャリッジ38の位置を検出し、上記信号に基づいてキャリッジ38の速度や移動方向を求めている。キャリッジ38は、複合機1の電源オンにより、ガイドレール43,44の一方の端まで移動されて、キャリッジ38の検知位置が初期化される。この初期位置から、キャリッジ38がガイドレール43,44上を移動すると、キャリッジ38に設けられた光学センサ35がエンコーダストリップ50のパターンを検知し、上述したように、キャリッジ38の位置、速度、移動方向が求められる。制御部64は、これらの検出結果に基づいてキャリッジ38の往復動を制御すべく、CRモータ73の回転を制御する。
【0064】
ASIC70には、スキャナ部3や、複合機1の操作指示を行うための操作パネル4、パソコン等の外部情報機器とパラレルケーブルやUSBケーブルを介してデータの送受信を行うためのパラレルインタフェース78及びUSBインタフェース79等が接続されている。さらに、ファクシミリ機能を実現するためのNCU(Network Control Unit)80やモデム(MODEM)81が接続されている。
【0065】
以下、図9のフローチャートに従って、制御部64により行われる異常判定処理の手順の一例について説明する。図中のS1,S2,…は処理手順(ステップ)番号を示す。処理はステップS1から開始される。
【0066】
複合機1において、画像記録指示とともに印刷データが受信されると、制御部64は、給紙ローラ25を駆動させて、給紙トレイ20に収容された記録用紙を用紙搬送路23へ給送する給紙動作を開始する。その後、搬送ローラ対89によってプラテン42上の所定位置に記録用紙が搬送されると、ステップS1以降の異常判定処理が開始される。
【0067】
まず、ステップS1では、制御部64は、CRモータ73を制御して、記録用紙に対して画像記録を行うべく、パージ機構51上で待機しているキャリッジ38を印刷データに基づき定められた記録用紙上の目標位置へ移動させる。
【0068】
次のステップS2では、制御部64によってキャリッジ38が移動制御されている間に、キャリッジ38が逆方向へ移動したかどうかが判断される。本実施形態では、制御部64による加速制御、定速制御、減速制御のいずれにおいても、キャリッジ38の逆方向への移動の有無の判断が行われる。かかる判断は、光学センサ35から出力される矩形波に基づいて求められたキャリッジ38の実際の移動方向と、制御されるべき方向と実際の方向とを比較判定することによって行われる。
【0069】
上記ステップS2において、キャリッジ38が制御部64の制御により本来移動しなければならない方向とは逆の方向へ移動したことが検出されると(S2のYes)、CRモータ73の回転駆動が停止されて、キャリッジ38の移動が停止される(S9)。その後、複合機1が異常状態であることを示すエラー情報が出力される(S10)。当該エラー信号の出力先は、例えば、複合機1と接続された外部情報機器や、操作パネル4に設けられた液晶表示部などである。上記エラー情報としては、具体的には、プラテン42上において用紙詰まりが発生したことを示す情報である。
【0070】
上記ステップS2において、キャリッジ38の逆方向への移動が検出されなかった場合は(S2のNo)、次のステップS3において、キャリッジ38が目標位置に到達したかどうかが判断される。かかる判断は、例えば、光学センサ35から出力される矩形波に基づいて検出されたキャリッジ38の位置に基づいて行われる。ここで、目標位置に到達したと判断されると(S3のYes)、制御部64による異常判定処理が終了する。
【0071】
上記ステップS3において、キャリッジ38が目標位置に到達したことが検出されない場合は(S3のNo)、ステップS4において予め設定された時間Tが経過するまで、ステップS2及びステップS3の処理が繰り返される。一方、キャリッジ38が目標位置に到達しない状態で、ステップS4において上記時間Tが経過した場合(S4のYes)、つまり、タイムアップした場合は、キャリッジ38が上記目標位置に到達する前に何らかの原因でキャリッジ38が停止しているか、或いは、極めて遅い速度で移動していると考えられる。この場合は、まず、キャリッジ38を目標位置へ移動させる制御を行った回数(以下「トライ回数」と称する。)がRAM67に一時的に記憶される。要するに、上記トライ回数がカウントアップされる。
【0072】
そして、次のステップS5において、トライ回数が予め定められた制限回数N以上であるかどうかが制御部64によって判断される。なお、制限回数Nは、任意に設定可能な要素であり、例えば、EEPROM68にその設定情報が予め記憶されている。制御部64は、RAM67に記憶されたトライ回数と上記制限回数Nとを比較することにより、ステップS5の判断処理を行う。本実施形態では、上記制限回数Nは3回に設定されている。
【0073】
ステップS6において、トライ回数が3回未満の場合は、制御部64は、CRモータ73の駆動制御を一端停止させた後に再びCRモータ73を駆動させてキャリッジ38を移動させる(S7)。その後、上述したステップS2以降の処理が実行される。本実施形態では、上記制限回数Nが3回に設定されている。そのため、キャリッジ38の逆方向への移動が検出されず(S1のNo)、目標位置にキャリッジ38が到達しない場合(S3のNo)は、ステップS6でトライ回数が3回以上と判断されるまで、ステップS2以降の処理が繰り返される。
【0074】
ステップS6で、トライ回数が3回以上であると判断されると、RAM67のカウント値がリセットされ(S8)、キャリッジ38が停止される(S9)。そして、上述したように、複合機1が異常状態であることを示すエラー情報が出力される(S10)。
【0075】
このように、本実施形態では、制御部64によるCRモータ73の制御により本来移動すべき方向へキャリッジ38が移動しておらず、逆方向へ移動したことが検出された場合に(S2)、キャリッジ38の移動が停止され(S9)、複合機1が異常状態であることを示すエラー情報が出力される(S10)。そのため、複合機1の異常状態を迅速且つ確実に判定することが可能である。なお、キャリッジ38の移動速度が急激に低下した場合は、それを検出することが困難であるか、或いは検出に時間を要する。しかしながら、キャリッジ38が逆方向へ移動しておれば、その移動は直ぐに検出可能であるため、特に、このように急激に移動速度が低下した場合には、キャリッジ38が逆方向へ移動したことをもって複合機1の異常状態を判定する本発明は、迅速且つ確実な判定結果を得られるという効果を奏する。
【0076】
なお、上述の実施形態では、キャリッジ38の加速制御中、定速制御中、移動制御中にキャリッジ38が逆方向へ移動したことをもってエラー情報を出力することとしたが、例えば、図8の矢印137で示される加速領域、矢印139で示される減速領域でのみ、上述した本発明の異常判定処理を行うようにしてもよい。この場合、定速領域(図8のの矢印138の領域)では、上述した従来の手法と同様の判定処理、つまり、図10に示されるように、キャリッジ38の移動速度が、定速領域で制御されるべき規定の速度Vよりも遅い所定の速度V未満となった場合に、エラー情報を出力するようにしてもよい。もちろん、加速領域や減速領域、定速領域ごとに判定手法を切り換えずに、全領域において本発明の異常判定処理と従来の判定処理とを並列に行ってもかまわない。
【0077】
なお、上述の実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る画像記録装置の一例である複合機1の外観構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、プリンタ部2の主要構成を示す部分拡大断面図である。
【図3】図3は、プリンタ部2の主要構成を示す平面図であり、主としてプリンタ部2の略中央から装置背面側の構成が示されている。
【図4】図4は、プリンタ部2の主要構成を示す斜視図であり、画像記録ユニット24の構成が示されている。
【図5】図5は、フォトトランジスタ133,134の出力波形を模式的に示す波形図である。
【図6】図6は、記録用紙Pとキャリッジ38とが接触する状態を示す模式図である。
【図7】図7は、複合機1の制御部64の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、キャリッジ10の速度変化を模式的に示す特性図である。
【図9】図9は、制御部64により実行される異常判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【図10】図10は、定速制御中における異常判定の手法を説明するための模式図であって、キャリッジ10の速度変化が模式的に示されている。
【符号の説明】
【0079】
1・・・複合機
2・・・プリンタ部
24・・・画像記録ユニット
35・・・光学センサ
38・・・キャリッジ
39・・・インクジェット記録ヘッド
42・・・プラテン
46・・・ベルト駆動伝達機構
47・・・駆動プーリ
48・・・従動プーリ
49・・・ベルト
64・・・制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラテン上を搬送される被記録媒体に対して画像を記録するインクジェット方式の画像記録装置であって、
記録ヘッドが搭載され、被記録媒体の搬送方向に直交する第1方向へ移動可能に支持されたキャリッジと、
所定の駆動源の動力を上記キャリッジに伝達する伝達手段と、
上記駆動源を制御して上記キャリッジを上記第1方向に往復動させる移動制御手段と、
上記移動制御手段による移動制御中に上記キャリッジの移動方向を検出する方向検出手段と、
上記移動制御手段による一方向への移動制御中に上記方向検出手段によって上記キャリッジの逆方向への移動が検出されたことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定する第1判定手段と、を具備する画像記録装置。
【請求項2】
上記第1判定手段は、上記移動制御手段による上記キャリッジの加速制御若しくは減速制御中に、当該画像記録装置を異常状態と判定する請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
上記キャリッジの移動速度を検出する速度検出手段と、
上記移動制御手段による定速制御中に上記速度検出手段によって検出された速度が所定速度よりも低下したことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定する第2判定手段を更に備える請求項1又は2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
上記第2判定手段は、上記キャリッジの速度が上記所定速度よりも低下した状態を所定時間維持したことを条件に、当該画像記録装置を異常状態と判定するものである請求項3に記載の画像記録装置。
【請求項5】
上記第1判定手段又は上記第2判定手段は、上記プラテン上における被記録媒体の詰まりを当該画像記録装置の異常状態と判定する請求項1から4のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項6】
上記第1判定手段若しくは上記第2判定手段による判定結果に基づいて上記キャリッジの移動を停止させる停止制御手段を更に備える請求項1から5のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項7】
上記第1判定手段若しくは上記第2判定手段による判定結果をエラー情報として出力する出力手段を更に備える請求項1から6のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項8】
上記伝達手段は、
上記キャリッジの移動範囲の両端それぞれに配置され、上記所定の駆動源からの駆動力を受けるプーリと、
上記プーリに巻回され、一部が上記キャリッジに連結されるベルトとを有する請求項1から7のいずれかに記載の画像記録装置。
【請求項9】
上記プーリは、焼結材料で形成されてなる請求項8に記載の画像記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−18506(P2009−18506A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183060(P2007−183060)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】