説明

異方性球状材料の方向測定方法および球状弾性表面波素子の製造方法

【課題】
異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を形成することを可能とする。
【解決手段】
異方性を有する球状材料の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生させる弾性波発生工程と、大円に沿って周回した弾性表面波の所定の物理量を測定する測定工程と、球状材料に対し、弾性波発生工程および測定工程を行う弾性表面波発生状況測定工程と、弾性表面波発生状況測定工程で測定された物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する決定工程とを有する異方性球状材料の方向測定方法において、弾性波発生工程は、球状材料をすだれ状電極を有する露光マスクに接近または接触させて電気信号を印加して弾性表面波を発生させ、測定工程は露光マスクにより物理量を測定する異方性球状材料の方向測定方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に球状弾性表面波素子の方位を制御した加工に利用される異方性球状材料の方向測定方法ならびに球状弾性表面波素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体上にすだれ状電極を設けて、一方のすだれ状電極に高周波電圧を供給することにより弾性表面波を発生させ、他方のすだれ状電極がその弾性表面波を受信する弾性表面波素子は従来から良く知られており、遅延線、発振素子及び共振素子、周波数を選択するフィルター、化学センサ、バイオセンサ、またはリモートタグ等に使用されている。
【0003】
このような弾性表面波素子において、すだれ状電極間を弾性表面波が伝搬する際の伝搬損失を出来る限り小さくし、伝搬特性の計測精度を飛躍的に高めるものとして、球状弾性表面波素子がある(例えば、特許文献1または2参照)。この球状弾性表面波素子は、高性能な水素ガスセンサなどに応用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
球状弾性表面波素子のなかで、基材として異方性のある圧電結晶球などの球状材料を用いる場合、結晶方位が異方性を示す方向となるため、球状材料の表面においてどの結晶軸に対してどの位置にすだれ状電極を設けるかにより、弾性表面波の伝搬速度や振幅や減衰率に大きな違いが生じ、さらに発生しやすい周波数も変化することで特性に大きな差が生じる。特に、励起する弾性表面波の伝搬モードが変化して素子の特性が全く変化してしまう。このため、特定の好適な結晶方位の位置にすだれ状電極を形成することが望ましい。
【0005】
また、球状弾性表面波素子を利用したセンサにおいては、多重周回を利用して高感度化を達成できるが、感応膜を形成する下地の結晶方位が感応膜の特性に影響を与える場合があるため、特定の好適な結晶方位の位置に感応膜を形成することが望ましい。さらに、弾性表面波を分岐させる球状弾性表面波素子においては、分岐のための回折パターンを用いるが、回折パターンの下地の結晶方位が回折効率や方向に影響を与えるため、特定の好適な結晶方位の位置に回折パターンを形成することが望ましい。
【0006】
結晶方位を測定する方法として、X線ラウエ法や光の偏光面の旋光性を利用した方法がある。しかし、X線ラウエ法では、球状材料として水晶のような軽元素材を使用する場合、通常の装置で発生できるX線の強度では、球状材料からの回折は弱く、その検出には10分以上の時間が必要で、球状弾性表面波素子の作製プロセスに用いることは困難であるという問題があった。また、光の偏光面の旋光性を利用した方法は、簡便で高速であるが、球状材料として水晶などを使用する場合、結晶のZ軸を決定する事が出来るのみで、結晶のX軸あるいはY軸を測定する事は出来ず、Z軸の正負の向きも判定できないという問題があった。そこで、これらの問題を解決するために、球に加工する前の平面基板の段階でレーザーにより方位をマーキングする方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
特許文献等は以下の通り。
【特許文献1】特開2001−272381号公報
【特許文献2】米国特許第6566787号明細書
【非特許文献1】山中一司、他(Kazushi YAMANAKA,et.Al.),「ボール・エスエーダブリュー・デバイス・フォー・ハイドロジェン・ガス・センサー(Ball SAW Device for Hydrogen Gas Sensor)」,アイイーイーイー・ウルトラソニック・シンポジウム(IEEE ultrasonic symposium),(米国),2003年,p.299
【特許文献3】特開2005−150496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、球に加工した後にマークが小さかったり、あるいは光学系及びその画像解析装置が高価な為に容易にマークを見出しにくいため、特定の好適な結晶方位の位置にすだれ状電極、感応膜および回折パターンなどの薄膜構造を高速で形成することができないという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を形成して高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる異方性球状材料の方向測定方法および球状弾性表面波素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法は、異方性を有する球状材料の表面の所定の位置に、前記球状材料の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生させる弾性波発生工程と、
前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定する測定工程と、
前記球状材料に対し、前記弾性波発生工程および前記測定工程を行う弾性表面波発生状況測定工程と、
前記弾性表面波発生状況測定工程で測定された前記物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する決定工程とを、
有することを特徴とする異方性球状材料の方向測定方法において、
前記弾性波発生工程は、前記球状材料をすだれ状電極を有する露光マスクに接近または接触させて電気信号を印加することにより前記弾性表面波を発生させ、
前記測定工程は、前記弾性波発生工程で前記球状材料に接近または接触させられた前記露光マスクにより前記物理量を測定する、
ことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法では、球状材料の異方性により、各回転角ごとに測定された物理量が、各回転角に対して周期的に変化する。このため、その物理量の変化に基づいて、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。決定された異方性を示す方向に基づいて、球状材料の特定の好適な位置にすだれ状電極などの薄膜構造を形成することにより、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0012】
測定される弾性表面波の所定の物理量は、球状材料の異方性により変化する物理量であればいかなるものであってもよく、例えば弾性表面波の振幅や信号強度、周波数から成る。決定工程では、測定された物理量の各回転角に対する周期的な変化から直接、異方性を示す方向を決定してもよく、測定された物理量の周期的な変化と理論的に計算される物理量の周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を決定してもよい。
【0013】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、前記弾性波発生工程は、前記球状材料をすだれ状電極を有する露光マスクに接近または接触させることにより前記弾性表面波を発生させ、前記測定工程は、前記弾性波発生工程で前記球状材料に接近または接触させられた前記圧電素子により前記物理量を測定する。この場合、球状材料が圧電体から成ることにより、すだれ状電極を有する露光マスクで弾性表面波の発生や物理量の測定をすることができる。
【0014】
球状材料と露光マスクとの距離が近いほど、発生する弾性表面波の信号強度が大きくなり、球状材料と露光マスクとを接触させることにより、弾性表面波の信号強度が最も大きく、測定の信頼性が高くなり、かつ、露光マスクと感光性樹脂膜が接触における露光マスクの汚れや、感光性樹脂膜の破壊を防ぐことができる。球状材料にすだれ状電極をフォトリソグラフィー技術で形成する為に使用する露光用マスクそのものを使用して球状材料の方位を求めることが出来るから、結晶方位の検出から短時間で、球状材料にすだれ状電極形成の為の露光を行うことが出来る。さらに、結晶方位を測定した同一の球状材料の保持するステージから載せ換える必要もないことから何よりも正確な方位の露光を可能にする。
【0015】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、弾性表面波発生状況測定工程は、各回転角によらず前記球状材料と前記露光マスクとの間隔または接触状態が一定になるよう、前記弾性波発生工程および前記測定工程を繰り返す、ことが好ましい。この場合、測定精度を一定に保つことができる。球状材料と露光マスクとの間隔または接触状態をモニターしたり、露光マスクの電気的反射によるインピーダンス変化や、発生した弾性表面波の物理量の変化を計測したりする等の公知の様々な手段を用いることにより、球状材料と露光マスクとの間隔や接触状態を一定にすることができる。
【0016】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法で、前記球状材料は異方性を有する結晶球から成る、ことが好ましい。この場合、結晶方位が異方性を示す方向となるため、結晶方位を精度良く決定することができる。球状材料は、例えば、水晶から成る。
【0017】
前記大円は、前記球状材料の異方性を示す一つの方向に対して垂直な平面上に設けられていてもよい。水晶のような三方晶系の結晶球を使用する場合、あらかじめ光の偏光面の旋回性を利用した方法により、結晶球のZ軸を求めることができる。このため、弾性表面波が伝搬する大円を、Z軸に対して垂直な平面上に設けることにより、結晶球のX軸およびY軸を手早く精度良く決定することができる。
【0018】
なお、本発明に用いる方向測定装置は、保持手段と弾性表面波発生手段と弾性表面波測定手段と回転手段と表示手段とを有し、前記保持手段は異方性を有する球状材料を、前記球状材料の中心を通る軸の一方向から保持可能に設けられ、前記弾性表面波発生手段は前記保持手段に保持された前記球状材料の表面の所定の位置で、大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能に設けられ、前記弾性表面波測定手段は、前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波を電気的に検出してその所定の物理量を測定可能に設けられ、前記回転手段は前記保持手段に保持された前記球状材料に対し、その周囲で前記大円に沿って前記弾性表面波発生手段および前記弾性表面波測定手段を相対的に回転可能に設けられ、前記表示手段は前記弾性表面波制御部により測定された前記物理量を表示可能に設けられているものを用いることなどが考えられる。
【0019】
これにより、本発明に係る異方性球状材料の方向測定方法を容易に実施することができる。本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置では、回転手段により、球状材料の周囲で大円に沿って弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段を相対的に回転させ、異なる回転角で弾性表面波の発生および物理量の測定を行う。このとき、球状材料の異方性により、各回転角ごとに測定された物理量が、各回転角に対して周期的に変化する。このため、その物理量の変化に基づいて、異方性を示す方向(結晶の場合は結晶軸で定義された方向)を精度良く決定することができる。決定された異方性を示す方向に基づいて、球状材料の特定の好適な位置に露光をすることができ、これによりこの露光を用いてすだれ状電極などの薄膜構造を形成することができる。従って、これにより高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0020】
水晶のような三方晶系の結晶球を使用する場合、あらかじめ求められた結晶球のZ軸の一方向から、保持手段で結晶球を保持して保持手段を回転させることで、結晶球のX軸およびY軸を精度良く決定することができる。球状材料は圧電体結晶から成り、弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段は、共通のすだれ状電極を有する露光マスクから成っている。
【0021】
測定される弾性表面波の所定の物理量は、球状材料の異方性により変化する物理量であればいかなるものであってもよく、例えば弾性表面波の振幅や減衰定数、それらの周波数応答から成る。測定された物理量の各回転角に対する周期的な変化から直接、異方性を示す方向を決定してもよく、測定された物理量の周期的な変化と理論的に予測される物理量の周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を理論的に導出してもよい。しかし、球状材料表面のあらゆる表面における出力特性が明確であり、周期的な測定結果や場合によっては複数の測定結果を必要とせず一回の測定で方位を求めて露光工程に入ることも本発明は除かない。
【0022】
本発明に係る異方性球状材料の方向測定装置で、前記保持手段は真空吸引により前記球状材料を保持可能であってもよい。
【0023】
薄膜構造は、例えば、ディップやスプレーによるレジストの塗布する工程を露光前に設け、現像、製膜、リフトオフを露光後に順次適用する方法等により、球状材料の表面に設けることができる。
【0024】
また、露光マスクについて、通常の作成が容易な露光マスクは遮光領域と導電性領域が一致する場合は、たとえばクロム露光マスクと呼ばれる安価な露光マスクを用いて実施できる。
【0025】
あるいは、すだれ状電極形状部分をITOなどの透明導電膜を使って作製し、すだれ状電極部分以外(遮光領域)を遮光性樹脂(黒色樹脂:CFの樹脂ブラック材料)でパターン形成することで、露光パターンと結晶の方位決定に使用する電極パターンを独立に設計することが可能になる。
【0026】
つまり、結晶方位を決定する為に透明なすだれ状電極を有するが、露光するパターンはすだれ状電極を球状材料の表面に形成するためのパターンで必ずしもある必要はない。
【0027】
この方法の利点は、球状材料表面上にパターン化を行う露光用のすだれ状電極間隔は狭いままで、球状材料の方位を求めるための電極パターン間隔を広くして、露光マスクと球状材料の相対距離と位置合わせ精度が低くても実施出来ることである。
【0028】
電極パターン間隔が広いと、球状材料表面により低い周波数の弾性表面波を励起することから、たとえばレジストが形成された状態でも弾性表面波の減衰を小さくして、位置あわせ用の弾性表面波を周回させる事ができる場合がある。ただし、レジスト溜りが球状材料の下部にできない事が条件になる。
【0029】
この場合、すだれ状電極に接続されるべき導線パターンを結晶球表面上に形成する際のフォトリソグラフィープロセスの露光に使用してもよいし、あるいはすだれ状電極を形成する前工程として、すだれ状電極を形成すべき球状材料上の位置を指し示す為のマークを作成する露光プロセスに使用してもよい。
【0030】
また本発明は、光感光性樹脂を用いたエッチングやリフトオフによるパターニング手法
を中心に説明したが、例えば紫外線硬化樹脂を球状材料表面にコート形成して後に硬化のための紫外線照射プロセスに使用しても良く、あるいは、光ではなく、電子線の照射によって感光する樹脂を用いるパターン化の方法にも使用することが出来る。
【0031】
また、本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、露光パターンもしくはそのネガパターンを兼ねることを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法を行うことを特徴とする構成も可能である。
【0032】
露光パターンそのもの場合は、露光マスクのすだれ状電極が遮光性材料でできている構成が考えられるが、他方、ネガパターンで露光するときは、すだれ状電極が透明導電膜でそのネガパターンもしくはそれに一部沿う様なパターンに遮光膜が形成される。この場合、露光部分が硬化し、他の部分を現像により除去するものでもいいし、逆に現像部分が脆弱化し現像により他の部分が残るものでも良い。
【0033】
また、本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、異方性球状材料表面に感光性材料を設け、露光し、パターン化することを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法を行うことを特徴とする構成も可能である。
【0034】
また、本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、測定工程が感光性材料を設ける前に行われることを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法を行うことを特徴とする構成が好ましい。弾性表面波がレジスト膜によって吸収されることがない利点は大きく、結晶球の方位を変えるときに保持材がレジスト膜を傷つけることがない。
【0035】
また、本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、前記露光マスクを用いて薄膜構造を設けることが、前記露光工程前に球状材料表面に予め設けられた導電性膜を、前記露光工程によってパターン化された感光性材料の現像の後に、エッチングすることを特徴とする構成も可能である。
【0036】
また、具体的には、露光のあと、現像後にエッチングを行って露光されたパターン形状に金属膜をパターン化し薄膜を製造する方法などを用いることができる。
【0037】
また、本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法は、前記露光マスクを用いて薄膜構造を設けることが、前記露光工程によってパターン化された感光性材料の現像の後に、導電性材料を製膜することを特徴とする構成も可能である。
【0038】
具体的には、露光現像後に真空蒸着やスパッタ方法に従って金属膜を製膜し、その後に、感光性樹脂パターンをそのうえに形成された金属膜と同時に取り除くことでパターン化された薄膜を製造するリフトオフ法などを用いることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、異方性を示す方向を精度良く決定することができ、特定の好適な位置に薄膜構造を簡便に形成して高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる異方性球状材料の方向測定方法および球状弾性表面波素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
【0041】
図1乃至図7は、本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法および球状弾性表面波素子の製造方法を示している。
【0042】
まず、直径3.3mmの水晶球の溶剤を使用した超音波洗浄を行ったのち、球状材料表面へのポジ型レジスト(東京応化工業製OFPR−800など)コートをスピンコーターを用いて厚さ1ミクロンにおこなう。なお、この場合コートはスプレイ法などの採用も可能である。
【0043】
次に、図1に示すように、異方性球状材料の方向測定装置10は、2つのマニピュレータ11a,11bと弾性表面波制御手段12と光源13と光源側偏光手段14と出力側偏光手段15と画像出力手段16と表示手段(図示せず)とを有している。なお、球状材料1は、異方性を有する水晶の圧電結晶球から成っている。
【0044】
図1に示すように、各マニピュレータ11a,11bは、アーム部21とアーム部21の先端に設けられた吸引部22とを有している。各マニピュレータ11a,11bは、球状材料1を吸引部22でゆるやかな真空吸引により保持可能になっている。吸引部22は、吸引方向に沿った中心軸を中心として回転可能になっている。
【0045】
一方のマニピュレータ11aは、球状材料1の中心を通る垂直軸(図1中のZ軸)の下方から、球状材料1を保持可能に配置され、垂直軸に沿って進退可能になっている。一方のマニピュレータ11aは、垂直軸を中心として、保持した球状材料1を回転可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、一方のマニピュレータ11aに保持された球状材料1の中心を通る水平方向の第1水平軸(図1中のX軸)の一方向から、球状材料1を保持可能に配置され、第1水平軸に沿って進退可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、第1水平軸を中心として、保持した球状材料1を回転可能になっている。他方のマニピュレータ11bは、保持手段および回転手段を成している。
【0046】
図1に示すように、弾性表面波制御手段12は、支持ステージ23と露光マスク24とを有し、弾性表面波発生手段および弾性表面波測定手段を成している。
【0047】
露光マスク24は、図7に示す様な透明電極31と樹脂ブラック32をパターン化して形成されている。
【0048】
支持ステージ23は、一方のマニピュレータ11aの上方に配置され、垂直軸に沿って移動して一方のマニピュレータ11aに保持された球状材料1との間隔を調整可能になっている。また、支持ステージ23は、一方のマニピュレータ11aの吸引部22と同軸で回転可能になっている。露光マスク24は、透明基板上に作成された1対のすだれ状電極25を有し、支持ステージ23の下面の回転中心に固定されている。露光マスク24は、すだれ状電極25に高周波電圧を印加可能で、且つその出力を測定可能になっている。
【0049】
弾性表面波制御手段12は、支持ステージ23を下方に移動して、他方のマニピュレータ11bに保持された球状材料1に露光マスク24のすだれ状電極25を接近または接触させることにより、球状材料1の表面に、第1水平軸に垂直な平面上の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生可能になっている。また、弾性表面波制御手段12は、球状材料1に接近または接触した露光マスク24のすだれ状電極25により、大円に沿って周回した弾性表面波の所定の物理量を測定可能になっている。これにより、他方のマニピュレータ11bは、吸引部22を回転させることにより、吸引部22で保持した球状材料1に対し、その周囲で第1水平軸に垂直な平面上の大円に沿って、弾性表面波制御手段12を相対的に回転可能に構成されている。
【0050】
図1に示すように、光源13は、垂直軸および第1水平軸に垂直な第2水平軸(図1中のY軸)上に、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1から所定の間隔をあけて配置されている。光源側偏光手段14は、偏光板と拡散板とから成り、光源13
と各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1との間に配置されている。出力側偏光手段15は、偏光板から成り、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1に対して、光源側偏光手段14の反対側に配置されている。画像出力手段16は、CCDカメラ26とそれに接続されたモニタ画面(図示せず)とを有し、出力側偏光手段15に対して、各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1の反対側に配置されている。画像出力手段16は、CCDカメラ26で各マニピュレータ11a,11bに保持された球状材料1を撮影し、モニタ画面に出力するようになっている。
【0051】
表示手段は、コンピュータから成り、弾性表面波制御手段12の露光マスク24のすだれ状電極25に接続されている。表示手段は、露光マスク24により測定された弾性表面波の所定の物理量を取得し、ディスプレイ画面に表示可能になっている。また、表示手段は、取得した所定の物理量のメモリへの保存や解析、プリンタへの印刷などが可能になっている。
【0052】
なお、具体的な一例では、球状材料1は、直径が10mmである。各マニピュレータ11a,11bは、垂直軸または第1水平軸に沿った移動を1μm単位、吸引部22の回転を1/250°単位でコントロール可能である。
【0053】
本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法は、異方性球状材料の方向測定装置10により、以下のようにして実施される。
【0054】
まず、光の偏光面の旋光性による同心円状マークを用いる既知の方法により、結晶球から成る球状材料1のZ軸を決定する。すなわち、各マニピュレータ11a,11bのいずれか一方の吸引部22で球状材料1を保持し、光源13からの光を光源側偏光手段14を介して球状材料1に当て、球状材料1を通過した光を出力側偏光手段15を介して画像出力手段16で観測する。このとき、画像出力手段16のモニタ画面には、干渉縞が観測される。この干渉縞の中心位置がZ軸に対応するため、吸引部22を回転させたり各マニピュレータ11a,11b間で球状材料1を受け渡したりしながら、モニタ画面の中心に干渉縞の中心を位置づける。これにより、球状材料1のZ軸が第2水平軸に一致し、Z軸を決定することができる。
【0055】
図2(a)に示すように、Z軸が第2水平軸に一致した状態の球状材料1を、一方のマニピュレータ11aにより保持する。次に、図2(b)に示すように、一方のマニピュレータ11aの吸引部22を90度回転させ、他方のマニピュレータ11bを接近させて、他方のマニピュレータ11bにより球状材料1をZ軸上の点で保持する。次に、図2(c)に示すように、一方のマニピュレータ11aを球状材料1から離し、下方に移動して後退させる。
【0056】
図2(d)に示すように、支持ステージ23を下降させて、露光マスク24の1対のすだれ状電極25を球状材料1の表面に接触させる。これにより、球状材料1の大円に沿って周回する弾性表面波を発生させ、大円に沿って周回した弾性表面波の信号強度や周波数を測定することができる。
【0057】
次に、図2(e)に示すように、球状材料1とすだれ状電極25とを一定の間隙をもって非接触状態で相対させるよう、支持ステージ23を移動して固定する。さらに、他方のマニピュレータ11bを回転させながら、第1水平軸周りに球状材料1を回転させて、互いに異なる複数の回転角ごとに弾性表面波の発生と測定を繰り返す。このとき、球状材料1とすだれ状電極25とを非接触にすることにより、球状材料1とすだれ状電極25との摩擦を解消してなめらかに滑らせて、すだれ状電極25の損傷を防止するとともに、精密な姿勢制御が可能である。
【0058】
ここで、図3(a)および(b)に示すように、理論解析結果により、水晶について、平板上での各結晶軸と異方性との関係が知られている。すなわち、図3(b)に示すように、測定される弾性表面波の速度は、回転角γの関数として60度周期で増減することが知られている。このとき、速度が最小になるのが結晶の−Y軸の方位であり、これに90度直交する方向がX軸の方位である。結晶球上の弾性表面波については、その伝搬に従い、結晶軸に対する伝搬方向が刻一刻と変化するため、その解析は容易ではない。しかし、図3(c)に示すように、局所的な伝搬を考え、方位を一定とみなすことにより、平板上と同様の扱いが可能である。
【0059】
図4に示すように、他方のマニピュレータ11bの各回転角ごとに測定された、信号強度に比例する表面のメタライズによる相対速度変化は、回転角に対して周期的に変化する。図4に示す測定された信号強度の周期的な変化と理論的に計算される周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。すなわち、図4に示す弾性表面波の信号強度が最小になる方位角γを測定することにより、−Y軸方位を決定することができる。また−Y軸に90度直交する方向として、X軸方位を決定することができる。
【0060】
また、図5に示すように、波長が一定の条件で送受信を行うために、他方のマニピュレータ11bの各回転角ごとに測定された周波数は、回転角に対して周期的に変化する。図5に示す測定された周波数の周期的な変化と、図3(b)に示す理論的に計算される周期的な変化とを比較することにより、異方性を示す方向を精度良く決定することができる。すなわち、図5に示す弾性表面波の周波数が最低になる方位角γを測定することにより、−Y軸方位を決定することができる。また−Y軸に90度直交する方向として、X軸方位を決定することができる。
【0061】
こうして決定された異方性を示す結晶方位に基づいて、露光を行う。露光は、波長4360Å(g線)の平行光を用い、例えば、露光量60mJ/cm2である。
【0062】
次に、現像液によるレジスト現像を実施する。例えば現像液には、東京応化工業製NMD−3などを用いることができる。
【0063】
この上から、水晶よりなる結晶球を真空蒸着装置にセットして、クロム(500Å)、金(1500Å)の蒸着を実施する。
【0064】
次に、レジストのリフトオフ実施を行い、最後にレジスト薄膜を除去して洗浄を行って薄膜の製造を終わる。
【0065】
これにより、球状材料1の特定の好適な位置にすだれ状電極を形成することにより、高精度な球状弾性表面波素子を作成することができる。
【0066】
この様な本発明に使用する導電性露光マスクは図7、図8に示すように球形結晶球の表面形状に合わせて凹面に形成することでより精度良く露光出来る。弾性表面波励起用の電極と結晶球の距離が離れていない為により微細なパターンを露光できる。
【0067】
また、別な方法として、図9で示した様な下記の順で製造することも可能である。
1)直径3.3mmの水晶球の溶剤を使用した超音波洗浄
2)結晶球表面半球面へのクロム(500Å)、金(1500Å)の真空蒸着製膜(図9(a)参照)
3)結晶球の真空蒸着膜の形成されていない面をすだれ状電極側に対向させて固定
4)クロム露光マスク(パターンについては図6参照)を準備して素子上方からXステージを用いて接近させ結晶球に接近
5)周波数50MHzのバースト信号の印加(バースト信号幅約1マイクロ秒)、その出力のデジタルオシロスコープを用いた測定
6)得られた信号波形の周波数解析(FFT)中心周波数とその強度の測定
ただし、出力が無い場合、結晶球の方位を傾斜ステージと回転ステージを傾斜して、最も強い信号をえることが出来る方位に制御
7)回転ステージを回転させながら信号測定を行い、最も強く弾性表面波を励起検出する周波数である中心周波数を測定
8)周波数最大の位置に回転ステージを固定
9)結晶球表面へのポジ型レジスト(東京応化工業製OFPR−800など)コートを製膜
ただし、スプレー法などの採用も可能であり、この操作のプロセスで、結晶球の方位を見失わないように結晶球にあらかじめマーキングを行い結晶球を取り外して後に同じ方位に再度セットできるようにしても良い
10)結晶球の120度回転により金属膜形成領域を露光マスクに対向させる
11)露光(波長4360Å(g線)の平行光を用い、露光量60mJ/cm2
12)現像液によるレジスト現像(現像液:東京応化工業製NMD−3など)(図9(b)参照)
13)結晶球を金とクロムのエッチング液に浸漬してエッチング(図9(c)参照)
この後レジストを除去して(図9(d)参照)これで製造を終わる。
【0068】
さらに、図10で示した様に、順に、(a)結晶方位制御、(b)レジスト成膜、(c)結晶球回転、(d)高温エアーノズルによるによるレジストベーク、(e)結晶球回転、(f)露光を行うことも可能である。この場合、結晶球のZ軸周回経路においては周回経路上に3箇所の結晶軸の全く同じ位置が存在する為、周回のある範囲の測定を行って結晶方位を測定し、その結果を元に、測定で傷つけられたり、露光マスクの接近で異物付着の可能性の無い結晶球上の場所に露光マスクが来る様に回転ステージを回転させ、もって露光を行うことも出来る。
【0069】
このように、本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法、および球状弾性表面波素子の製造方法によれば、結晶方向の測定から露光プロセスに支持ステージから球状材料をとりはずす必要もなく、工程が簡便である。さらに、厳密な結晶方位に応じて送受信感度が変化する結晶球を用いた球状弾性表面波素子の最適化ができる。
【0070】
例えば、球状弾性表面波素子の周回特性、分岐型球状弾性表面波素子の回折効率および、球状弾性表面波素子のセンサ感度を最適化することができる。また、感応膜を形成する下地の結晶方位が感応膜の特性に影響を与える場合、感応膜を形成する方位を制御することにより、感度や応答速度の向上が期待できる。この結果、従来の球状弾性表面波素子では不可能だった、遅延線、発振素子及び共振素子、周波数を選択するフィルター、化学センサ、バイオセンサ、またはリモートタグ等の性能の飛躍的向上を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法の手順を示す(上段)側面図、(下段)弾性表面波制御手段の平面図である。
【図3】弾性表面波の音速異方性の理論を示す(a)水晶の平板上の各結晶軸と回転角γとの関係を示す斜視図、(b)水晶の平板での回転角γの関数としての速度変化を示すグラフ、(c)水晶の結晶球上の各結晶軸と回転角γとの関係を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法および異方性球状材料の方向測定装置により測定される、マニピュレータの回転角γの関数としての、信号強度を表わす表面のメタライズによる表面波の相対速度の変化ΔV/V(×10-3)を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態の異方性球状材料の方向測定方法および異方性球状材料の方向測定装置により測定される、マニピュレータの回転角γの関数としての信号周波数fの変化を速度VR(=λRf)の変化に換算したグラフである。
【図6】本発明に用いられる露光マスクのパターン部分の拡大平面図である。
【図7】本発明に用いられる露光マスクのパターン部分の拡大斜視図である。
【図8】本発明に用いられる露光マスクの露光状態の拡大断面図である。
【図9】本発明に用いられる製造方法の拡大断面図である。
【図10】本発明に用いられる別な製造方法の拡大断面図で、1)は結晶方位制御工程、2)はレジスト成膜工程、3)は球状材料の回転工程、4)はレジストベーク工程、5)は球状材料の回転工程、6)は露光工程である。
【符号の説明】
【0072】
1 球状材料
10 異方性球状材料の方向測定装置
11a,11b マニピュレータ
12 弾性表面波制御手段
13 光源
14 光源側偏光手段
15 出力側偏光手段
16 画像出力手段
21 アーム部
22 吸引部
23 支持ステージ
24 露光マスク
25 すだれ状電極
26 CCDカメラ
31 透明導電膜
32 樹脂ブラック
41 凹面
42 クロムパターン(電極機能を兼ねる)
43 高周波信号線
51 露光マスク
52 クロムパターン
53 球状素子(ニオブ酸リチウム結晶球)
61 球状素子
62 電極材料
63 レジスト
64 エッチング液
71 球状素子
72 電極付き露光マスク
73 レジスト
74 レジスト噴霧装置
75 高温エアーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性を有する球状材料の表面の所定の位置に、前記球状材料の大円に沿って伝搬する弾性表面波を発生させる弾性波発生工程と、
前記所定の位置における前記大円に沿って周回した前記弾性表面波の所定の物理量を測定する測定工程と、
前記球状材料に対し、前記弾性波発生工程および前記測定工程を行う弾性表面波発生状況測定工程と、
前記弾性表面波発生状況測定工程で測定された前記物理量に基づいて、異方性を示す方向を決定する決定工程とを、
有することを特徴とする異方性球状材料の方向測定方法において、
前記弾性波発生工程は、前記球状材料をすだれ状電極を有する露光マスクに接近または接触させて電気信号を印加することにより前記弾性表面波を発生させ、
前記測定工程は、前記弾性波発生工程で前記球状材料に接近または接触させられた前記露光マスクにより前記物理量を測定する、
ことを特徴とする異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項2】
前記弾性表面波発生状況測定工程は、前記球状材料の互いに異なる複数の表面部位において前記球状材料と前記露光マスクとの間隔または接触状態を一定にする機能を有した、前記弾性波発生工程および前記測定工程を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項3】
前記球状材料は異方性と圧電性を有する結晶球から成る、ことを特徴とする請求項1または2記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項4】
前記物理量とは、弾性表面波が前記すだれ状電極によって励起した電気信号により測定される、弾性表面波の強度、あるいは減衰率、あるいは強度の周波数依存性であることを特徴とする請求項1,2または3記載の異方性球状材料の方向測定方法。
【請求項5】
請求項1乃至4何れか記載の異方性球状材料の方向測定方法で決定された前記球状材料の異方性を示す方向に基づいて、前記球状材料の所定の表面位置に前記露光マスクを用いて薄膜構造を設ける、ことを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の露光マスクのすだれ状電極が、露光パターンもしくはそのネガパターンを兼ねることを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の前記薄膜構造を設けることが、異方性球状材料表面に感光性材料を設け、露光し、パターン化する工程を有することを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
前記測定工程が、感光性材料を設ける前に行われることを特徴とする請求項7記載の球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
前記露光マスクを用いて薄膜構造を設けることが、前記露光工程前に球状材料表面に予め設けられた導電性膜を、前記露光工程によってパターニングされた感光性材料の現像の後に、エッチングすることを特徴とする請求項7または8記載の球状弾性表面波素子の製造方法
【請求項10】
前記露光マスクを用いて薄膜構造を設けることが、前記露光工程によってパターニングされた感光性材料の現像の後に、導電性材料を製膜した後に、感光性材料を感光性材料上
の導電性材料と共に除去することを特徴とする請求項7または8記載の球状弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−128855(P2008−128855A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315142(P2006−315142)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】