説明

発光素子およびその製造方法、ならびに、これを備える光プリントヘッド

【課題】 小型化が可能な発光素子およびその製造方法、ならびに、これを備える光プリントヘッドを提供する。
【解決手段】 本発明の実施形態の一例である発光素子アレイ11は、[110]方向および[1−10]方向に沿って切断されて、矩形状に形成された化合物半導体からなる素子基板20と、素子基板20の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体層からなる発光素子40と、[110]方向および[1−10]方向の端部に、他方方向に沿って延び、素子基板20の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体からなる化合物層50と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子およびその製造方法、ならびに、これを備える光プリントヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の上に、複数の発光素子を配列した発光素子アレイが種々提案されている。例えば、特許文献1の図1に記載された発光素子アレイでは、GaAs基板の上に、GaAs層及びAlGaAs層を積層して形成された複数の発光素子(発光部)が配列されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−242507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本願発明者らの調査によれば、GaAs基板等の閃亜鉛鉱型の結晶構造を有する半導体基板を[1−10]方向にダイシングした場合、このダイシングによって得られる切断面が、[110]方向にダイシングした場合に比べて、チッピング(欠けやひび等)の発生数が多く、そのチッピングの大きさも大きくなることを発見した。
【0005】
なお、本願においては、結晶格子における
【0006】
【数1】

【0007】
方向を、便宜上、[1−10]方向と記載する。
【0008】
上述の発見によると、特許文献1の図1の発光素子アレイでは、発光素子の配列方向とは垂直な方向がこの[1−10]方向に対応し、この方向にGaAs基板をダイシングしているため、この方向の切断面の切断状態が悪くなっている。そのため、この切断面は、その切断面の一番近くに配置される発光素子がチッピングによる損傷を受けないように、この発光素子からある程度離す必要があった。このチッピングによって生じるひびは、振動などによって大きくなる場合がある。
【0009】
本発明は上述の事情のもとで考え出されたものであって、小型化が可能な発光素子およびその製造方法、ならびに、これを備える光プリントヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る発光素子は、第1方向および第2方向に沿って切断されて、矩形状に形成
された化合物半導体からなる基板と、前記基板の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体層からなる発光素子と、前記第1方向および前記第2方向の少なくとも一方方向の端部に、他方方向に沿って延び、前記基板の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体からなる化合物層と、を含む。
【0011】
本発明に係る光プリントヘッドは、本発明に係る発光素子アレイを備えている。
【0012】
本発明に係る発光素子の製造方法は、化合物半導体層が連続してエピタキシャル成長された、化合物半導体からなる基板を準備する工程と、前記化合物半導体層をエッチングすることによって、発光素子を形成する工程と、前記化合物半導体層をエッチングすることによって、第1方向および第2方向の少なくとも一方に沿った切断領域に化合物層を形成する工程と、前記基板を、前記切断領域に沿って切断する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、小型化が可能な発光素子およびその製造方法、ならびに、これを備える光プリントヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る発光素子アレイの実施形態の一例を示す平面図である。
【図2】図1に示した発光素子アレイのII−II線断面図である。
【図3】図1に示した発光素子アレイのIII−III線断面図である。
【図4】図1に示した発光素子アレイの製造工程を示す要部断面図である。
【図5】図1に示した発光素子アレイの製造工程を示す要部断面図である。
【図6】図1に示した発光素子アレイの製造方法を説明するための平面図である。
【図7】本発明に係る光プリントヘッドの実施形態の一例を示す概略断面図である。
【図8】図7に示した光プリントヘッドを備える画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<発光素子アレイ>
以下、本発明に係る発光素子の一実施形態の一例について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1〜図3に示したように、本実施形態に係る発光素子アレイ11は、素子基板20、DBR層30、発光素子40、化合物層50、保護層60、表面電極70、および裏面電極80を備えている。このDBR層30は、素子基板20の上に設けられている。この発光素子40は、DBR層30の上に複数設けられている。この表面電極70は、各発光素子40に接続されている。なお、この「DBR」は、Distributed Bragg. Reflector(分布ブラッグ反射体)の略称である。
【0017】
素子基板20は、他の構成部材を支持する支持基体として機能している。この素子基板20は、GaAs基板で形成されている。本実施形態の素子基板20には、n型不純物がドープされている。このn型不純物としては、例えばSi(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、S(硫黄)、O(酸素)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)などのIV族、VI族の元素が挙げられる。本実施形態の素子基板20は、n型不純物であるSiが例えば0.7×1018〜1.9×1018〔atoms/cc〕の範囲程度の濃度でドーピングされ、n型の導電性を有している。この素子基板20の厚さは、例えば350〔μm〕の厚みとされる。なお、このGaAsにドープされる不純物はn型のものに限られず、p型のものであってもよい。
【0018】
この素子基板20は、一方の主面の面方位が(100)となるように形成されている。この素子基板20は、[110]方向、又は[1−10]方向に沿って4辺が切断されており、矩形状に形成されている。なお、本実施形態においては、結晶格子における
【0019】
【数1】

【0020】
方向を、便宜上、[1−10]方向と記載している。
【0021】
DBR層30は、発光素子40から発する光を反射させる機能を担うものである。このDBR層30は、基板3の一方の主面の上に設けられており、全体を覆っている。このDBR層30は、複数の発光素子40の下側に共通して延びている。
【0022】
このDBR層30は、互いに屈折率の異なる2つの層が交互に積層されて形成されている。本実施形態のDBR層30は、AlGaAsからなる第1層と、第1層とAlの含有率の異なるAlGaAsからなる第2層と、を1組として、5〜20組を交互に積層することで形成されている。このDBR層30の厚さは、例えば0.5〜2〔μm〕の範囲の厚みとなっている。
【0023】
また、このDBR層30には、素子基板20にドープされている不純物と同型のものがドープされている。つまり、本実施形態のDBR層30には、n型不純物がドープされている。本実施形態では、DBR層30にこのn型不純物としてSiがドーピングされている。このSiのドーピング濃度は、例えば2×1018〔atoms/cc〕の濃さ程度とする。
【0024】
発光素子40は、発光素子アレイ11が示す画素に対応する画素素子として機能する。図1に示したように、各発光素子40は、[1−10]方向に沿って配列されており、互いに離間して設けられている。各発光素子40はそれぞれ、平面視において矩形状に形成されている。この発光素子40は、一方の組の側面40a(図2の左右の側面)が[1−10]方向に沿っており、他方の組の側面40b(図3の左右の側面)が[110]方向に沿っている。1つの発光素子40の[1−10]方向に沿った幅W40としては、例えば5〜15〔μm〕の範囲程度の大きさが挙げられる。この発光素子40は、[1−10]方向に沿った幅W40が5〔μm〕となるように設けられている。また、一つの発光素子40の中心と、該発光素子40に隣接する他の発光素子40の中心との離間距離の値としては、例えば5.2〜84.7〔μm〕の範囲程度の値が挙げられる。本実施形態の発光素子40は、中心間の離間距離が21.15〔μm〕に設定されている。
【0025】
この各発光素子40の一方の組の側面40aは、図2に示したように逆メサ形状をしている。この各発光素子40の他方の組の側面40bは、図3に示したように順メサ形状をしている。なお、図2では、[1−10]方向が紙面の奥から手前に向かう方向であり、図3では、[110]方向が紙面の奥から手前に向かう方向である。なお、本実施形態において、「逆メサ形状」とは、発光素子40の幅が底面で最も狭く且つ上面で最も広くなった形状のみならず、発光素子40の幅が底面と上面との間の位置で最も狭くなった形状を含むものとする。一方、「順メサ形状」とは、発光素子40の幅が底面で最も広く且つ
上面で最も狭くなった形状をいう。
【0026】
また、図2及び図3に示したように各発光素子40は、n型クラッド層41、活性層42、p型クラッド層43、電流拡散層44を有している。この各発光素子40は、DBR層30の上に、n型クラッド層41、活性層42、p型クラッド層43、及び電流拡散層44、を順次エピタキシャル成長させて積層することで形成されている。そのため、各発光素子40は、DBR層30に接するように設けられている。そのため、この発光素子40は、n型クラッド層41、活性層42、p型クラッド層43、及び電流拡散層44が積層されて構成されている。
【0027】
なお、本実施形態では、n型クラッド層41が発光素子40におけるn型半導体領域を構成しており、p型クラッド層43及び電流拡散層44が発光素子40におけるp型半導体領域を構成している。つまり、この発光素子40は、n型半導体領域であるn型クラッド層41と、活性層42と、p型半導体領域であるp型クラッド層43及び電流拡散層44と、でダブルへテロ接合をしている。この発光素子40は、電圧を印加して、電子と正孔とを再結合させることによって発光するように構成されている。
【0028】
n型クラッド層41は、DBR層30の上に接して設けられている。このn型クラッド層41には、n型不純物がドープされている。本実施形態のn型クラッド層41は、AlInPにn型不純物としてSiがドーピングされている。Siのドーピング濃度は、例えば、8×1017〔atoms/cc〕程度の濃さとされる。このn型クラッド層41の厚さは、例えば0.5〔μm〕程度の厚みとされる。また、このn型クラッド層41は、屈折率が3.2となるように形成されている。
【0029】
活性層42は、電子と正孔との再結合が主として生じる領域とするものであり、発光層として機能するものである。この活性層42は、n型クラッド層41の上に接して設けられている。この活性層42には、n型クラッド層41及びp型クラッド層43に比べてバンドギャップが小さくなっている。本実施形態の活性層42は、AlGaInPからなり、不純物がドーピングされていない。この活性層42の厚さは、例えば0.3〔μm〕程度の厚みとされる。また、この活性層42は、屈折率が3.2となるように形成されている。
【0030】
p型クラッド層43は、活性層42の上に接して設けられている。このp型クラッド層43には、p型不純物がドープされている。このp型不純物としては、例えばBe(ベリリウム)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)などの元素が挙げられる。本実施形態のp型クラッド層43は、AlInPにp型不純物としてMgがドーピングされている。Mgのドーピング濃度は、例えば、7×1017〔atoms/cc〕程度の濃さとされる。このp型クラッド層43の厚さは、例えば0.4〔μm〕程度の厚みとされる。また、このp型クラッド層43は、屈折率が3.2となるように形成されている。このp型クラッド層43は、電荷の閉じ込め効果を高めるため、0.2〔μm〕以上の厚みとすることが好ましい。
【0031】
電流拡散層44は、p型クラッド層43の上に接して設けられている。この電流拡散層44は、表面電極70から発光素子40に流れる電流を拡散して、p型クラッド層43の広い領域に電流を流すのに寄与している。この電流拡散層44には、p型不純物がドープされている。本実施形態の電流拡散層44は、GaPにp型不純物としてMgがドーピングされている。Mgのドーピング濃度は、例えば、1.5×1018〔atoms/cc〕程度の濃さとされる。この電流拡散層44の厚さは、例えば1.1〔μm〕程度の厚みとされる。この電流拡散層44は、p型クラッド層43の上に表面電極70を設ける際に当該表面電極70がp型クラッド層43に拡散するのを低減するために、0.05〔μm
〕以上の厚みとすることが好ましい。また、この電流拡散層44は、屈折率が3.2となるように形成されている。さらに、この電流拡散層44は、活性層42から発する光の波長に対する減衰量が小さいものが好ましい。GaPが545.77〔nm〕以下の波長の光を吸収することから、活性層42から発する光の波長は、545.77〔nm〕より大きいことが好ましい。
【0032】
また、この電流拡散層44は、厚みを厚くすることによって、表面電極70から供給される電力を活性層42の広い領域に供給したり、側面を全反射させて光強度を高めたりすることができる。そのため、電流拡散層44は、照明などの光強度を大きくする用途の場合、厚くすることが求められており、一般的に8〔μm〕以上の厚みが用いられている。しかしながら、活性層42を広い領域で発光させると、隣り合う発光素子40の間で光の漏れが生じてしまい、結果として、各発光素子40が発する光の分離性が低下してしまい、高密度化が困難になる場合がある。
【0033】
化合物層50は、素子基板20の上に形成されている。この化合物層50は、素子基板20の[110]方向における端部に、[1−10]方向に沿って延びて形成されている。また、この化合物層50は、素子基板20の[1−10]方向における端部に、[110]方向に沿って延びて形成されている。つまり、本実施形態の化合物層50は、素子基板20の端部に沿って延びて、中央部を囲んでいる。この化合物層50は、n型クラッド層41と同じ組成をしている。
【0034】
なお、本実施形態の化合物層50は、素子基板20の[110]方向における端部、および[1−10]方向における端部に形成されているが、どちらか一方の端部のみに形成されていてもよい。どちらか一方に形成する場合は、チッピングが生じやすい一方である[110]方向における端部に形成することが好ましい。
【0035】
図2及び図3に示したように、DBR層30、発光素子40、及び化合物層50の露出する表面は、保護層60によって全体的に覆われている。この保護層60は、第1保護層61と、第2保護層62と、を含んで構成されている。このような保護層60は、例えば蒸着法、CVD法、スパッタ法、フォトリソグラフィ技術、印刷技術などを用いる種々の周知の製造方法によって形成できる。
【0036】
第1保護層61は、発光素子40を保護する機能を有するものである。この第1保護層61は、発光素子40を覆うように形成されており、被覆層として設けられている。この第1保護層61を形成する材料としては、例えばSiN系材料、SiO系材料などが挙げられる。本実施形態の第1保護層61は、電気絶縁性及び透光性を有するSiOによって形成されている。この第1保護層61は、発光素子40の電流拡散層44の上面の上に積層方向に貫通している貫通孔51aを有している。なお、図1では、説明の便宜上、第1保護層61を図示していない。また、この第1保護層61は、屈折率が1.41となるように形成されている。
【0037】
なお、p型クラッド層43及び電流拡散層44の積層厚みの最小厚さの範囲は、発光素子40及び第1保護層61の材料によって変動するのは勿論のこと、電流拡散層44の側面の傾きによっても変動する。例えば電流拡散層44がメサ構造である場合と逆メサ構造である場合とでは異なっている。
【0038】
第2保護層62は、図2に示したように、発光素子40の[1−10]方向に沿う側面40aの逆メサ形状によって形成される凹部10aを埋めるように第1保護層61の上に形成されている。また、この第2保護層62は、図1に示したように、発光素子40の[1−10]方向に沿う側面40aの全体に接しておらず、部分的に接するように設けられ
ている。なお、図1では、この第2保護層62の形成領域を斑点模様で示している。この第2保護層62は、逆メサ形状によって、表面電極70が断線するのを低減している。第2保護層62の材料としては、例えばポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0039】
表面電極70は、発光素子40の発光に寄与する電圧を印加するものである。この表面電極40は、図1及び図2に示したように、パッド部60aと、リード部60bと、を有している。この表面電極70の形成材料としては、例えばAuSb合金、AuGe合金、Ni系合金、CrとAuとの積層体などが挙げられる。また、この表面電極70の厚さとしては、例えば0.5〜5〔μm〕の範囲の厚みが挙げられる。
【0040】
パッド部60aは、保護層60の上に千鳥状に配置されており、他の部位に比べて面積が大きく設けられている。リード部60bは、保護層60の上に設けられており、発光素子40と、パッド部60aとを電気的に接続している。
【0041】
このリード部60bは、第1保護層61の貫通孔52を通じて発光素子40の電流拡散層44に電気的に接続されている。また、このリード部60bは、第2保護層62の上を跨いで設けられている。このように、リード部60bが第2保護層62を跨いで設けられていることによって、リード部60bを蒸着などの技術で形成する際に、リード部60bに断線が生じるのを低減している。
【0042】
図2に示すように、基板3における発光素子40が形成された面とは反対側の面(他方の主面)の上には、当該反対側の面の全体に亘って裏面電極80(第二電極)が形成されている。この裏面電極80は、例えば、厚さが3000〜4000〔Å〕のAuとGeとの合金層と、厚さが250〔Å〕程度のCr層と、厚さが1〔μm〕程度のAu層との積層体で形成することができる。
【0043】
次に、本実施例の発光素子アレイ11の使用方法について説明する。この発光素子アレイ11は、表面電極70と裏面電極80とを駆動回路(図示せず)に電気的に接続して使用される。この発光素子アレイ11では、複数の表面電極70のうちの1つと、裏面電極80に順方向の電圧を印加することで、選択的に電圧を印加した表面電極70に電気的に接続されている1つの発光素子40の活性層42を発光させることができる。本実施例の発光素子アレイ11は、このようにして複数の発光素子40を選択的に発光させることができる。その他、選択的に発光させる発光素子40の制御には、周知の制御方法が用いられる。
【0044】
発光素子アレイ11は、[110]方向および[1−10]方向に沿って切断されて、矩形状に形成された化合物半導体からなる素子基板20と、素子基板20の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体層からなる発光素子40と、[110]方向および[1−10]方向の端部に、他方方向に沿って延び、素子基板20の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体からなる化合物層50と、を含む。この発光素子アレイ11では、素子基板20の周囲に、チッピングなどによってクラックが生じていたとしても、このクラックが広がるのを化合物層50で抑えることができる。そのため、この発光素子アレイ11では、発光素子40を素子基板20の端部に近づけることができ、小型化を図ることができる。
【0045】
次に、発光素子アレイ11の製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図4及び図5は、発光素子アレイ11の製造工程を説明するための要部断面図である。なお、図4(a)〜(c)及び図5(d)〜(f)において、左図は、発光素子アレイ11のII−II線に沿った断面における製造工程を示す。右図は、発光素子アレイ11
のIII−III線に沿った断面における製造工程を示す。また、ここでは、円盤状の一枚のウエハ基板20X(半導体ウエハ)に、連結した状態の複数の発光素子アレイ11を同時に作り込む場合について説明する。
【0046】
まず、図4(a)に示したように、DBR層30、n型クラッド膜41X、活性膜42X、p型クラッド膜43X、及び電流拡散膜44Xが一方の表面に連続してエピタキシャル成長された、円盤状の一枚のウエハ基板20Xを準備する。この円盤状のウエハ基板20Xは、後述のダイシングによって切断して、矩形状の素子基板20となるものである。また、DBR層30、n型クラッド膜41X、活性膜42X、p型クラッド膜43X、及び電流拡散膜44Xは、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成することができる。なお、このウエハ基板20Xには、[110]方
向を示すオリフラ10Xaを有している。
【0047】
そして、図4(a)に示したように、公知のフォトリソグラフィ法などを用いて、電流拡散層44の上にフォトレジストからなるエッチングマスク45を形成する。このエッチングマスク45は、後述するように、n型クラッド膜41X、活性膜42X、p型クラッド膜43X、及び電流拡散膜44X(以下、これらの膜41X〜44Xをまとめて化合物半導体膜40Xという)をエッチングして、複数の発光素子40を形成する際に用いるものである。このエッチングマスク45は、直交する辺が[110]方向と、[1−10]方向と、に沿う矩形状に形成するとともに、[1−10]方向に列状に並べて設けている。
【0048】
次に、図4(b)に示したように、化合物半導体膜40Xを表面反応律速でエッチングして、n型クラッド層41、活性層42、p型クラッド層43、及び電流拡散層44を形成し、複数の発光素子40を[1−10]方向に沿って列をなして形成する。また、このとき、化合物半導体膜40Xの結晶方位に依存して、図4(b)の左図に示すように発光素子40の[1−10]方向に沿う側面が逆メサ形状に形成され、図4(b)の右図に示すように発光素子40の[110]方向に沿う側面が順メサ形状に形成される。なお、表面反応律速のエッチング液としては、例えばHSOとHとHOとを所定の割合で混合したものが挙げられる。このHSOとHとHOとの混合比としては、例えばHSO:H:HO=1:12:37が挙げられる。そして、エッチング終了後に、エッチングマスク45を除去する。
【0049】
この発光素子40を形成するのに併せて、上述のエッチングマスク45を化合物層50の形成領域にも形成する。この状態でエッチングすることで、化合物層50の形成領域の上に、n型クラッド膜41X、活性膜42X、p型クラッド膜43X、及び電流拡散膜44Xの一部が残る。このうち、活性膜42X、p型クラッド膜43X、及び電流拡散膜44Xの一部をさらにエッチングすることで、化合物層50が形成される。なお、このエッチングの際に、n型クラッド膜41Xの一部をエッチングしても良い。
【0050】
続いて、図4(c)に示したように、発光素子40が形成されているDBR層30の上に、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの薄膜形成技術を用いて、第1保護膜
(図示せず)を形成した後に、フォトリソグラフィ法などを用いて貫通孔を形成して、第1保護層61を形成する。なお、このとき、図4(c)の左図に示したように、発光素子40の逆メサ形状の側面にも第1保護膜が形成されているが、これは、CVD法などによって化学反応を用いて堆積させているためである。
【0051】
次いで、図5(d)の左図に示したように、形成された第1保護層61の上に、スピンコート法などを用いてポリイミド樹脂の前駆体などを塗布し、フォトリソグラフィ法等を用いて第2保護膜(図示せず)を所定の形状に形成して、第2保護層62を形成する。こ
の第2保護膜52は、先に化合物半導体膜40Xをエッチングした際の窪みに設けられることとなる。
【0052】
次に、第1保護層61及び第2保護層62の上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法により所望のパターンを露光して、現像した後に、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法などを用いて、表面電極70に加工する金属膜(図示せず)を形成する。そして、リフトオフ法によって、フォトレジストを除去し、図5(e)に示すように表面電極70を所定の形状に形成する。
【0053】
そして、図5(f)に示したように、円盤状のウエハ基板20Xにおける発光素子40が形成された面と反対側の面に、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法などを用いて裏面電極80を形成する。
【0054】
以上の工程により、図6に示したように、円盤状の一枚のウエハ基板20Xに複数の発光素子アレイ11が連結された発光素子アレイの連結基板11Xが形成される。
【0055】
最後に、このウエハ基板20Xをダイシングによって切断し、図1に示したように矩形状の個々の発光素子アレイ11に分離する。このとき、直交する辺がそれぞれ[110]方向と[1−10]方向とに沿うように図6のウエハ基板20Xを切断する。このダイシングは、化合物層60に沿って行われる。この化合物層60は、ウエハ基板20Xの組成と異なっている。そのため、このダイシングの際に、ウエハ基板20Xにチッピングが生じるのを化合物層60が抑えることができる。また、チッピングが生じたとしても、このチッピングが広がるのを抑えることができる。また、このウエハ基板20Xは、エピタキシャル成長しているので、金属材料などを成膜させた場合に比べてウエハ基板20Xに密着させて、チッピングの広がりを好適に抑えることができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、図2及び図3に示すように、発光素子40のp型半導体領域(p型クラッド層43及び電流拡散層44)と、n型半導体領域(n型クラッド層13)との間に順方向電圧を印加するために、電流拡散層44上に表面電極70を接続し、素子基板20の上に裏面電極80を接続しているが、これに限定されるものではない。例えば、図示しないが、素子基板20の上に裏面電極80を設けず、n型クラッド層41の上面を露出させて、この露出部分に裏面電極80を接続するように設けてもよい。
【0058】
また、上記実施形態おける発光素子40は、DBR層30側からn型半導体領域及びp型半導体領域を順に形成しているが、これに限定されるものではない。例えば、逆に、DBR層30側からp型半導体領域及びn型半導体領域を順に形成してもよい。この場合、DBR層30及び素子基板20にp型不純物をドーピングし、p型の導電性を有するようにする。
【0059】
また、発光素子40は、p型半導体領域とn型半導体領域とによってpn接合領域が形成される限り、上記実施形態のようにn型半導体領域とp型半導体領域との間に活性層42などの他の層を設けた構成や、逆に活性層42を省略した構成にしてもよい。
【0060】
また、発光素子40を構成する半導体材料は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば、所望の発光波長を有するように適宜選択すればよい。また、DBR層30を構成する半導体材料は、例えば、発光素子40から発せられる光に対して高い反射性を有するように適宜選択すればよい。また、上記実施形態では、素子基板20としてGaAs基
板を用いているが、DBR層30及び発光素子40の各半導体層を結晶成長可能なものである限り、特に限定されるものではない。
【0061】
<光プリントヘッド>
以下、本発明に係る光プリントヘッドの一実施形態の一例について、図面を参照しつつ説明する。
【0062】
図7に示した光プリントヘッド10は、発光素子アレイ11、筐体12、レンズアレイ13、制御回路(図示せず)を備えている。
【0063】
筐体12は、発光素子アレイ11、レンズアレイ13、制御回路の保持部材として機能するものである。筐体12は、支持面12aと、貫通孔12bとを有している。この支持面12aの上には、発光素子アレイ11が載置されている。また、貫通孔12bは、支持面12aと外部とに連通しており、中にレンズアレイ13が嵌合されている。このレンズアレイ13は、筐体12に接着剤で固定されている。この筐体311の構成材料としては、例えばアルミニウムやステンレスなどの金属や、ポリフェニレンスルファイド(PPS)やポリカーボネートなどの樹脂材料が挙げられる。
【0064】
レンズアレイ13は、複数のレンズ13aを含んでなり、発行素子アレイ11の発する光を集光する機能を担うものである。レンズアレイ13は、発光素子アレイ11の上方向に配置されており、各レンズ13aは、発光素子40に対応して配列されている。つまり、発光素子40のそれぞれの上方にレンズ13aがそれぞれ設けられている。本実施形態においてレンズアレイ13は、各レンズ13aが二つの焦点を有しており、一方の焦点位置に発光素子40が位置し、他方の焦点位置に被照射物が位置している。このレンズアレイ13は、所定の角度以下の入射角で入射された光が結像するように構成されており、対応する発光素子40の光のみが所定の角度以下で入射されるように配置されている。
【0065】
制御回路は、外部からの画像データに基づいて発光素子アレイ11の駆動を個別制御するためのものである。
【0066】
本実施形態の光プリントヘッド10は、発光素子アレイ11を備えているので、光の利用効率を高めることができる。
【0067】
<画像形成装置>
以下、光プリントヘッド10を備える画像形成装置の一例について、図面を参照しつつ説明する。
【0068】
図8示した画像形成装置1は、光プリントヘッド10、感光体2、駆動装置(図示せず)、帯電装置3、現像装置4、転写装置5、定着装置6、クリーニング装置7、除電装置8を備えている。
【0069】
光プリントヘッド10は、画像形成装置1において、感光体2の表面に静電潜像を形成するためのものであり、レーザ光を出射可能とされている。この光プリントヘッド10では、画像信号に応じてレーザ光を感光体10の表面に照射することにより、光照射部分の電位を減衰させて静電潜像が形成される。
【0070】
感光体2は、画像信号に基づいた静電潜像及びトナー像が形成されるものであり、図8に示す矢印A方向に回転可能となるように構成されている。また、本実施形態では、円筒状に形成されているものが採用されている。
【0071】
駆動機構3は、感光体2を矢印A方向に回転させる機能を担うものである。
【0072】
帯電装置3は、感光体2の表面を、感光体2の光導電層の種類に応じて、正極性又は負極性に帯電させる機能を担うものである。
【0073】
現像装置4は、感光体2の静電潜像を現像してトナー像を形成する機能を担うものである。この現像装置4は、磁性キャリアと絶縁性トナーとから成る二成分系現像剤、又は磁性トナーから成る一成分系現像剤など現像剤を保持している。静電潜像は、このトナーによって現像されて、トナー像となる。トナー像の帯電極性は、正規現像により画像形成が行われる場合には、感光体2の表面の帯電極性と逆極性とされ、反転現像により画像形成が行われる場合には、感光体2の表面の帯電極性と同極性とされる。
【0074】
転写装置5は、感光体2と転写装置5との間の転写領域に給紙された記録紙Pにトナー像を転写するためのものである。この転写装置5は、転写用チャージャ及び分離用チャージャを備えている。この転写装置5では、転写用チャージャにおいて記録紙Pの背面(非記録面)がトナー像とは逆極性に帯電され、この帯電電荷とトナー像との静電引力によって、記録紙Pの上にトナー像が転写される。転写装置5ではさらに、トナー像の転写と同時的に、分離用チャージャにおいて記録紙Pの背面が交流帯電させられ、記録紙Pが感光体2の表面から速やかに分離させられる。
【0075】
定着装置6は、記録紙Pに転写されたトナー像を定着させる機能を担うものである。この定着装置6は、一対の定着ローラ6a、6bを備えている。この定着装置6では、一対の定着ローラ6a、6bの間に記録紙Pを通過させることにより、熱、圧力などによって記録紙Pに対してトナー像が定着させられる。
【0076】
クリーニング装置7は、感光体2の表面に残存するトナーを除去する機能を担うものである。
【0077】
除電装置8は、感光体2の表面の電荷を除去するためのものである。この除電装置8は、たとえば光照射により、感光体2の表面の電荷を除去するように構成される。
【0078】
この画像形成装置1は、発光素子アレイ11を備えているので、光の利用効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0079】
1・・・画像形成装置
2・・・感光体
3・・・制御装置
10・・・光プリントヘッド
11・・・発光素子アレイ
11X・・・発光素子アレイの連結基体
12・・・筐体
13・・・レンズアレイ
20・・・素子基板
20X・・・ウエハ基板
20Xa・・・オリフラ
30・・・DBR層
40・・・発光素子
40X・・・化合物半導体膜
41・・・n型クラッド層
41X・・・n型クラッド膜
42・・・活性層
42X・・・活性膜
43・・・p型クラッド層
43X・・・p型クラッド膜
44・・・電流拡散層
44X・・電流拡散膜
45・・・エッチングマスク
50・・・化合物層
60・・・保護層
61・・・第1保護層
62・・・第2保護層
70・・・表面電極
80・・・裏面電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向および第2方向に沿って切断されて、矩形状に形成された化合物半導体からなる基板と、
前記基板の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体層からなる発光素子と、
前記第1方向および前記第2方向の少なくとも一方方向の端部に、他方方向に沿って延び、前記基板の上に連続してエピタキシャル成長された化合物半導体からなる化合物層と、
を含む、発光素子。
【請求項2】
前記化合物層における前記化合物半導体は、前記化合物半導体層における前記基板側の一部と同一組成である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光素子は、複数あり、前記第1方向および前記第2方向の少なくとも一方方向に沿って配列されている、請求項1または2に発光素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の発光素子と、
前記発光素子の発する光を集光するレンズと、を備える、光プリントヘッド。
【請求項5】
化合物半導体層が連続してエピタキシャル成長された、化合物半導体からなる基板を準備する工程と、
前記化合物半導体層をエッチングすることによって、発光素子を形成する工程と、
前記化合物半導体層をエッチングすることによって、第1方向および第2方向の少なくとも一方に沿った切断領域に化合物層を形成する工程と、
前記基板を、前記切断領域に沿って切断する工程と、
を備える、発光素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−204937(P2011−204937A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71285(P2010−71285)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】