説明

発光素子

【課題】発光効率の高い新規な構成を有する有機トランジスタ型発光素子、低コストな製造方法ディスプレイ装置を提案する。
【解決手段】下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなる。


(式中、Ar〜Arはそれぞれ芳香族基を表わす。R〜Rはそれぞれハロゲン、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層を有する発光素子、その製造方法及びそれを利用したディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報端末の普及に伴い、コンピュータ用のディスプレイとしてフラットパネルディスプレイに対するニーズが高まっている。また、さらに情報化の進展に伴い、従来紙媒体で提供されていた情報が電子化されて提供される機会が増え、薄くて軽い、手軽に持ち運びが可能なモバイル用表示媒体として、電子ペーパーあるいはデジタルペーパーへのニーズも高まりつつある。
【0003】
一般に平板型のディスプレイ装置においては液晶、有機EL、電気泳動などを利用した素子を用いて表示媒体を形成している。また、こうした表示媒体では画面輝度の均一性や画面書き換え速度などを確保するために、画像駆動素子として薄膜トランジスタ(TFT)により構成されたアクティブ駆動素子を用いる技術が主流になっている。
【0004】
ここでTFT素子は、通常、ガラス基板上に、主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体薄膜や、ソース、ドレイン、ゲート電極などの金属薄膜を基板上に順次形成していくことで製造される。このTFTを用いるフラットパネルディスプレイの製造には通常、CVD、スパッタリングなどの真空系設備や高温処理工程を要する薄膜形成工程に加え、精度の高いフォトリソグラフ工程が必要とされ、設備コスト、ランニングコストの負荷が非常に大きい。さらに、近年のディスプレイの大画面化のニーズに伴い、それらのコストは非常に膨大なものとなっている。
【0005】
近年、従来のTFT素子のデメリットを補う技術として、有機半導体材料を用いた有機TFT素子の研究開発が盛んに進められている(特許文献1参照)。この有機TFT素子は低温プロセスで製造可能であるため、軽く、割れにくい樹脂基板を用いることができ、さらに、樹脂フィルムを支持体として用いたフレキシブルなディスプレイが実現できると言われている。また、大気圧下で、印刷や塗布などのウェットプロセスで製造できる有機半導体材料を用いることで、生産性に優れ、非常に低コストのディスプレイが実現できる。
【0006】
一方で、このような有機半導体材料を用いた有機TFT素子の研究成果の一環として、発光型トランジスタの報告もなされている(特許文献2、非特許文献1参照)。これを使用すれば、従来のように表示媒体と画像駆動素子を別々に形成することなく、新規な構成のディスプレイが実現できる可能性がある。
【0007】
しかしながら、この研究はまだその発光現象が確認されたという初歩的な段階であり、それをディスプレイへ応用するためにどのようにすべきか具体的なことはこれからの研究を待たなければならない状況である。
【0008】
【特許文献1】特開平10−190001号公報
【特許文献2】特開2004−311221号公報
【非特許文献1】Applied Physics Letters, 2004, 84, 3037
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記のような実情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、発光効率の高い新規な構成を有する有機トランジスタ型発光素子を提案することにある。
また第2の目的は、このような有機トランジスタ型発光素子の低コストな製造方法を提案することにある。
さらに第3の目的は、このような有機トランジスタ型発光素子を利用したディスプレイ装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、以下の(1)から(13)の構成により、上記目的に対して有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明によれば、以下の(1)から(13)が提供される。
(1)「下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子;
【0011】
【化1】

(式中、Ar、Ar、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。)」、
(2)「下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子;
【0012】
【化2】

(式中、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)」、
(3)「下記一般式(III)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子;
【0013】
【化3】

(式中、Arは置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。zは0から5の整数を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)」、
(4)「前記第一の電極と第二の電極の間に電圧を印加した状態で、第三の電極に印加する電圧を制御することにより、第一の電極と第二の電極の間の領域における発光の輝度を制御することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の発光素子」、
(5)「前記第一の電極と第二の電極の間に電圧を印加した状態で、第三の電極に印加する電圧を制御することにより、第一の電極と第二の電極の間に流れる電流を変調することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の発光素子」、
(6)「前記半導体層は、一般式(I)から(III)のいずれかで表わされる繰り返し単位を有する重合体と、少なくとも一種の電子輸送能を有する化合物を含むことを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の発光素子」、
(7)「前記半導体層は、一般式(I)から(III)のいずれかで表わされる繰り返し単位を有する重合体と、少なくとも一種の電子輸送能を有する化合物の混合物からなることを特徴とする前記(1)乃至(6)のいずれかに記載の発光素子」、
(8)「前記電子輸送能を有する化合物がルブレンであることを特徴とする前記(6)または(7)に記載の発光素子」、
(9)「前記第一の電極と第二の電極が対向している電極間距離より、対向している領域の電極長さを長くしたことを特徴とする前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の発光素子」
(10)「前記第一の電極および第二の電極は、それぞれ半導体層への電子注入能を有する部位と正孔注入能を有する部位からなることを特徴とする前記(1)乃至(9)のいずれかに記載の発光素子」、
(11)「前記第一の電極および第二の電極の少なくとも一方が、半導体層への電子注入能を有する部材と、正孔注入能を有する部材の積層構造であることを特徴とする前記(1)乃至(10)のいずれかに記載の発光素子」、
(12)「前記第一の電極および第二の電極の半導体層に接する部分の少なくとも一部が、マグネシウムと金の合金からなることを特徴とする前記(1)乃至(11)のいずれかに記載の発光素子」、
(13)「前記(1)乃至(12)のいずれかに記載の発光素子を複数個配置し、各素子からの発光強度の変調を利用したことを特徴とするディスプレイ装置」
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、トランジスタ動作と発光動作を同一素子で行なうことが可能な、新規な構成の発光素子が提供され、また、トランジスタ動作と発光動作を同一素子で行なうことが可能であり、より高効率に発光する新規な構成の発光素子が提供され、さらに、このような発光素子を用いた新規なディスプレイ装置が提供され、また、このような発光素子及びディスプレイ装置の低コストな製造方法が提供されるという極めて優れた効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施形態について説明する。
図1、図2は本発明に係る発光素子の概略構造の一例である。デバイスには空間的に分離されたゲート電極(4)、ソース電極(2)、ドレイン電極(3)が設けられている。ゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁層(5)が設けられており、ソース電極(2)及びドレイン電極(3)は有機半導体材料(1)によって隔てられている。
通常、図1または図2で示したデバイスは基板上に作成されるため、図1及び図2で例示される構造体の上部或いは下部には基板が存在する。
本発明の発光素子はソース電極(2)及びドレイン電極(3)の間に所望の電圧を印加することにより、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の間の有機半導体材料(1)が発光する。さらにゲート電極(4)への印加電圧を変調することにより、この発光強度は制御される。加えて、本素子はソース電極(2)とドレイン電極(3)間への電圧印加により、有機半導体層(1)内を通じてソース電極(2)とドレイン電極(3)の間に電流が流れ、この電流量はゲート電極(4)への電圧の印加により変調が可能である。即ち本発明の素子は発光素子と同時にトランジスタ素子としての機能を併せ持つ(例えば後ほど詳述される図6、図7のグラフを参照)。
【0016】
本発明のデバイスにおいては、有機半導体層(1)は下記一般式(I)で示される繰り返し単位を含有する重合体を主成分とする。
【0017】
【化4】

(式中、Ar、Ar、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。)
【0018】
本発明の有機半導体材料(1)は、芳香環上に置換基を有していてもよい。溶解性の向上の観点からはアルキル基やアルコキシ基、アルキルチオ基などが挙げられる。これら置換基の炭素数が増加すれば溶解性はより向上するが、その反面電荷輸送特性は低下してしまうため、溶解性が損なわれない範囲で所望の特性が得られるような置換基を選択することが好ましい。その場合の好適な置換基の例としては炭素数が1〜25のアルキル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基が挙げられる。更に好適には、炭素数が2〜18のアルキル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基が挙げられる。これら置換基は同一のものを複数導入してもよいし、異なるものを複数導入してもよい。また、これらのアルキル基、アルコキシ基及びアルキルチオ基はさらにハロゲン原子、シアノ基、アリール基、ヒドロキシル基、カルボキシル基または炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖もしくは環状のアルキル基やアルコキシ基、アルキルチオ基で置換されたアリール基を含有していてもよい。
【0019】
アルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等を一例として挙げることができ、アルコキシ基、アルキルチオ基としては上記アルキル基の結合位に酸素原子または硫黄原子を挿入してアルコキシ基、アルキルチオ基としたものが一例として挙げられる。
【0020】
上記重合体は、アルキル基やアルコキシ基、アルキルチオ基の存在により、溶媒への溶解性がさらに向上する。これらの材質において溶解性を向上させることは、フィルムの湿式成膜過程の製造許容範囲が大きくなることから重要である。例えば塗工溶媒の選択肢の拡大、溶液調製時の温度範囲の拡大、溶媒の乾燥時の温度及び圧力範囲の拡大となり、これらプロセッシビリティーの高さにより、結果的に高純度で均一性の高い高品質な薄膜が得られる可能性が高くなる。
【0021】
前記一般式(I)における芳香族基としては単環基、多環基(縮合多環基、非縮合多環基)の芳香族炭化水素あるいは芳香族複素環由来の基の何れでもよく、一例として以下のものを挙げることができる。例えばベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル、ピレン、フルオレン、9,9−ジメチルフルオレン、アズレン、アントラセン、トリフェニレン、クリセン、9−ベンジリデンフルオレン、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン、トリフェニルアミン、チオフェン、ビチオフェン、ベンゾチオフェン、ジチエニルベンゼン、フラン、ベンゾフラン、カルバゾール等の一価基または二価基が挙げられる。
【0022】
また、これら芳香族基は以下に示す置換基を有していてもよい。
(1)ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基。
(2)炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖の、アルキル基、アルコキシ基。これらはさらにハロゲン原子、シアノ基、フェニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルキルチオ基で置換されていてもよい。
(3)アリールオキシ基。(アリール基としてフェニル基、ナフチル基を有するアリールオキシ基が挙げられる。これらは、ハロゲン原子を置換基として含有しても良く、炭素数1〜25の直鎖または分岐鎖の、アルキル基またはアルコキシ基あるいはアルキルチオ基を含有していても良い。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−クロロフェノキシ基、6−メチル−2−ナフチルオキシ基等が挙げられる。)
(4)アルキルチオ基又はアリールチオ基。(アルキルチオ基又はアリールチオ基としては、具体的にはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。)
(5)アルキル置換アミノ基。(具体的には、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(p−トリル)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ユロリジル基等が挙げられる。)
(6)アシル基。(アシル基としては、具体的にはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、マロニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。)
【0023】
上記一般式(I)に示されるくり返し単位を含む重合体のうち、より好ましい第一の態様は下記一般式(II)で表わされる。
【0024】
【化5】

(式中、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)
【0025】
上記一般式(II)に示されるくり返し単位を含む重合体のうち、さらに好ましい第一の態様は下記一般式(III)で表わされる。
【0026】
【化6】

(式中、Arは置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。zは0から5の整数を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)
【0027】
以下に、本発明における一般式(I)で表わされる、重合体の繰り返し単位の具体例を列挙する。なおこれら具体例は本発明を制限的に提示しているものでも、限定する意図で開示しているものでもない。
【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
【化19】

【0041】
【化20】

【0042】
【化21】

【0043】
【化22】

【0044】
【化23】

【0045】
【化24】

【0046】
【化25】

【0047】
【化26】

【0048】
【化27】

【0049】
【化28】

【0050】
【化29】

【0051】
【化30】

【0052】
【化31】

【0053】
【化32】

【0054】
【化33】

【0055】
【化34】

【0056】
[重合体の製造]
前記一般式に示される繰り返し単位を含む重合体の製造方法は、例えばカルボニル化合物とホスホネートを用いたWittig−Horner反応、カルボニル化合物とホスホニウム塩を用いたWittig反応、ビニル置換体とハロゲン化物を用いたHeck反応、アミンとハロゲン化物を用いたUllmann反応などを用いることができ、公知の方法により製造可能である。特にWittig−Horner反応およびWittig反応は反応操作の簡便さから有効である。
【0057】
一例としてWittig−Horner反応を用いた本発明における重合体の製造方法について説明する。
本発明における重合体は、下記の反応式で示されるように、ホスホン酸エステル化合物およびカルボニル化合物が化学量論的に等しく存在する溶液と、その2倍モル量以上の塩基を混合させることにより重合反応が進行し、得ることができる。
【0058】
【化35】

【0059】
本発明のアリールアミン重合体を製造する場合には、例えば、Aとしてアリールアミン部位、BとしてArの組み合わせのモノマーを用いるか、またはAとしてAr、Bとしてアリールアミン部位の組み合わせのモノマーを用いればよい。
【0060】
上記Wittig−Horner反応に使用する塩基はホスホネートカルボアニオンが形成されるものであれば特に限定されず、金属アルコシド、金属ヒドリド、有機リチウム化合物等が挙げられ、例えばカリウムt−ブトキシド、ナトリウムt−ブトキシド、リチウムt−ブトキシド、カリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウム2−メチル−2−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、水素化ナトリウム、水素化カリウム、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、s−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウム、リチウムナフチリド、リチウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド等を挙げることができる。
【0061】
反応に用いる塩基の量は、通常ホスホン酸エステル化合物の重合活性点に対して同量使用するだけでよいが、さらに過剰量用いても支障ない。
上記の塩基は固形状態や懸濁溶液の状態で反応系内に添加してもよいが、得られる重合体の均質性が良好になるために、特に均一溶液として添加することが好ましい。塩基を溶解する溶媒としては、使用する塩基と安定な溶液を形成する溶媒を選択しなければならないが、その他の要因として塩基の溶解度が高いものがよく、また反応系で生成する高分子量体の反応溶媒に対する溶解性を損ねないものがよく、さらに生成する高分子量体が良好に溶解する溶媒がよく、用いる塩基と製造する高分子量体の特性に応じて、一般に知られているアルコール系、エーテル系、アミン系、炭化水素系溶媒等から任意に選択することができる。
【0062】
塩基とそれを均一に溶解する溶媒の組み合わせとしては、例えばナトリウムメトキシドのメタノール溶液、ナトリウムエトキシドのエタノール溶液、カリウムt−ブトキシドの2−プロパノール溶液、カリウムt−ブトキシドの2−メチル−2−プロパノール溶液、カリウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液、カリウムt−ブトキシドのジオキサン溶液、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液、メチルリチウムのエーテル溶液、リチウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液、リチウムジイソプロピルアミドのシクロヘキサン溶液、カリウムビストリメチルシリルアミドのトルエン溶液等をはじめとして、種々の組み合わせの溶液が挙げられ、幾つかの溶液は市販品として容易に入手することができる。温和な反応条件、取り扱いの容易さの観点から好ましくは金属アルコキシド系の溶液が用いられ、生成する重合体の溶解性、取り扱いの容易さ、反応の効率性、生成する重合体の溶解性等の観点からより、好ましくは金属t−ブトキシドのエーテル系溶液が用いられ、さらに好ましくはカリウムt−ブトキシドのテトラヒドロフラン溶液が用いられる。
【0063】
上記重合反応はホスホン酸エステル化合物およびアルデヒド化合物の溶液に塩基溶液を添加してもよく、塩基溶液にホスホン酸エステル化合物およびアルデヒド化合物の溶液を加えてもよく、同時に反応系に加えてもよく、添加の順序に制約はない。
上記重合反応における重合時間は、用いられるモノマーの反応性、または望まれる重合体の分子量等に応じて適宜設定すればよいが、0.2時間〜30時間が好適である。
上記重合反応における反応温度は特に制御する必要なく室温において良好に重合反応が進行するが、反応効率をより上げるために加熱したり、または冷却してより温和な条件にすることも可能である。
【0064】
また、以上の重合操作において分子量を調節するために分子量調節剤、または末端修飾基として重合体の末端を封止するための封止剤を反応系に添加することも可能であり、反応開始時に添加しておくことも可能である。従って、本発明におけるアリールアミン重合体の末端には停止剤に基づく置換基が結合してもよい。
分子量調節剤、末端封止剤としては、ベンジルホスホン酸ジエチル、ベンズアルデヒド等、反応活性基を1個有する化合物が挙げられる。
【0065】
本発明の重合体の好ましい分子量はポリスチレン換算数平均分子量で1000〜1000000であり、より好ましくは2000〜500000である。分子量が小さすぎる場合にはクラックの発生等成膜性が悪化し実用性に乏しくなる。また分子量が大きすぎる場合には、一般の有機溶媒への溶解性が悪くなり、溶液の粘度が高くなって塗工が困難になり、やはり実用性上問題になる。
【0066】
また、機械的特性を改良するために重合時に分岐化剤を少量加えることもできる。使用される分岐化剤は、重合反応活性基を3つ以上(同種でも異種でもよい)有する化合物である。これらの分岐化剤は単独で使用してもよく、また複数併用してもよい。
【0067】
以上のようにして得られたアリールアミン重合体は、重合に使用した塩基、未反応モノマー、末端停止剤、また、重合中に発生した無機塩等の不純物を除去して使用される。これら精製操作は再沈澱、抽出、ソックスレー抽出、限外濾過、透析等をはじめとする従来公知の方法を使用できる。
【0068】
〔ジカルボニル化合物〕
本発明で用いる重合体のための上記ジカルボニル化合物は、公知の種々の反応により合成することが可能である。例として下記Vilsmeier反応、
【0069】
【化36】

あるいは、アリールリチウム化合物と、DMF、N−ホルミルモルホリン、N−ホルミルピペリジン等をはじめとするアシル化剤との反応(RCOX中、Xは脱離基を表わす)、
【0070】
【化37】

あるいは、下記Gatterman反応、
【0071】
【化38】

あるいは、ヒドロキシメチル化合物の各種酸化反応、
【0072】
【化39】

等を一例として挙げることができ、これら反応を用いてジカルボニル化合物を合成することができる。
【0073】
〔ホスホン酸ジエステル化合物〕
また、本発明における重合体のための上記ホスホン酸ジエステル化合物についても、公知の種々の反応により合成することが可能であるが、下記Michaelis−Arbuzov反応が特に有効である。
【0074】
【化40】

【0075】
〔有機半導体層〕
本発明の発光素子における有機半導体層は、上記説明したアリールアミン重合体と、少なくとも一種の電子輸送能を有する化合物から構成されていてもよい。電子輸送能を有する化合物とは、当然のことながらホール輸送性も示すバイポーラー性の化合物であってもよい。電子輸送能を有する化合物のうち、特に好適にはルブレンが用いられ、これは炭素数1から25のアルキル基またはアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン、アミノ基、アルキルアミノ基等の置換基を有していてもよい。
【0076】
有機半導体層を形成する際の製造法の容易さという観点から、好適には有機半導体層はアリールアミン重合体と電子輸送性化合物の混合物により構成されることが好ましい。この場合、半導体層を形成するためには、本発明のアリールアミン重合体と該電子輸送性化合物を溶剤に溶解、或いは分散した溶液を作製し、湿式成膜法にて半導体層を製造することが可能である。
本発明の素子の半導体層中における、アリールアミン重合体に対する電子輸送性化合物の添加量は特に制限無いが、アリールアミン重合体1重量部に対し、電子輸送性化合物1重量部以下が好ましい。
【0077】
本発明における重合体は種々の一般的有機溶媒、例えばジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロベンゼン及びキシレン等に対し、良好な溶解性を示す。従って本発明の重合体と前記電子輸送性化合物を溶解できる適当な溶媒により適当な濃度の溶液を作製し、これを用いて湿式成膜法により半導体薄膜を作製することができる。
【0078】
有機半導体層を形成するための湿式成膜法としては、スピンコート法、ディッピング法、ブレード塗工法、スプレー塗工法、キャスト法、インクジェット法、印刷法等の公知の湿式成膜技術によって薄膜化することができる。これら公知の成膜方法により、クラックがなく、強度、靭性、耐久性等に優れた良好な薄膜を作製することが可能である。これら各種成膜法に対し、上記記載の溶媒種から適切な溶媒が選択される。また、湿式成膜した後、残留する溶剤により、素子が悪影響を受けることがある。従って、成膜後、乾燥工程を経るのが好ましい。乾燥工程は、素子を室温に静置することにより自然に溶剤が揮発するのを待つことも可能であるし、加熱して溶剤を揮発させることも可能である。また大気圧下で行ってもいいし、減圧下で行なうことによりさらに効率的に乾燥が可能となる。
【0079】
〔発光素子、ディスプレイ装置〕
本発明のトランジスタ型の発光素子において、上記重合体を主成分として形成される有機半導体材層は、図1及び図2に示す様にいずれの構造においても有機半導体層はソース電極およびドレイン電極に挟まれるようになっている。有機半導体層の厚みは、均一なフィルム(即ち、材質のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼす凹凸やピンホールがない薄膜)が形成されるような厚みに選択される。有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、得られた発光トランジスタの特性は、有機半導体層の膜厚に大きく左右される場合が多く、その膜厚は、有機半導体により異なるが、一般に1μm以下、特に10〜300nmが好ましい。
【0080】
本発明の発光デバイスは、通常、ガラス、シリコン、プラスチック等よりなる基板に形成される。特に好適な一例はプラスチックフィルムであり、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ボリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。このように、プラスチックフィルムを用いることで、ガラス基板を用いる場合に比べて軽量化を図ることができ、可搬性を高めることができるとともに、衝撃に対する耐性を向上できる。加えて可撓性があるため、フレキシブルな有機トランジスタ型発光素子シートが実現でき、曲げて使用するような用途にも適用できる。また、導電性の基板を用いることにより、ゲート電極を兼ねることが可能である。
【0081】
また、絶縁層はゲート電極及び半導体層の間に配置される。好適な絶縁材は当業者には周知である。例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン等の無機系材料や、またはフレキシビリティー、軽量、安価なデバイスが所望される場合にはポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシリレン、ハロゲンで置換されたポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等はじめとする高分子化合物や、各種絶縁性LB膜等の種々の有機系材料が挙げられ、これらの材料を2つ以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定しないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0082】
これら絶縁層の作製法としては特に制限はなく、たとえばCVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法、スピンコーティング法、ディッピング法、印刷法、インクジェット法、およびLB法などが挙げられ、いずれも使用可能である。また、シリコンをゲート電極と基板を兼ねて用いる場合にはシリコンの熱酸化により得られる酸化シリコンが好適である。
【0083】
ゲート絶縁層上に有機半導体を形成する場合、ゲート絶縁層表面に、任意の表面処理を施してもよい。シランカップリング剤、たとえばアルキルトリクロロシラン、アルキルトリアルコキシシラン、トリクロロメチルシラザン、ヘキサメチルジシラザンや、アルキル燐酸、アルキルスルホン酸、アルキルカルボン酸などの自己組織化配向膜が好適に用いられる。
【0084】
本発明のデバイスは、3つの空間的に分離された電極(ソース、ドレイン、ゲート電極)を有する。ゲート電極は、絶縁層と接触している。各電極は周知の従来技術を用いて基板上に形成される。
【0085】
本発明のトランジスタ型発光素子において、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極の電極材料としては種々の導電性材料が用いられるが、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、酸化スズ・アンチモン、酸化インジウム・スズ(ITO)、フッ素ドープ酸化亜鉛、亜鉛、炭素、グラファイト、グラッシーカーボン、銀ペーストおよびカーボンペースト、リチウム、ベリリウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、マンガン、ジルコニウム、ガリウム、ニオブ、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、アルミニウム、マグネシウム/金合金、マグネシウム/銅合金、マグネシウム/銀合金、マグネシウム/アルミニウム合金、マグネシウム/インジウム合金、その他の合金や混合物、またはドーピング等で導電率を向上させた無機および有機半導体、たとえばシリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン等が用いられる。また、発光する光をゲート電極面側から外部に取り出すような構成とした場合には、ITO等の透光性材料によってゲート電極を透明電極とする。ソース電極およびドレイン電極は一例として挙げた導電性材料やその他の導電性材料から選定されるが、得られたトランジスタ型発光素子の特性は、電極材料に大きく左右される場合が多い。電極材料は使用する有機半導体材料により異なるが、有機半導体材料中にホール及びエレクトロンを効率的に注入できるようなエネルギーレベルにあるものを選択したほうがよい。このことから、これらの材料を単体で使用する他に、ソース電極およびドレイン電極をそれぞれ異なる材料で構成することも非常に有効である。また電極材料を複数組み合わせて使用することも可能である。具体的には、マグネシウム/金合金と金の組み合わせ、マグネシウム/銅合金と金の組み合わせ、マグネシウム/銀合金と金の組み合わせ、マグネシウム/アルミニウム合金と金の組み合わせ、マグネシウム/インジウム合金と金の組み合わせ等、2種の材料を組み合わせたり、さらに3種以上の材料を組み合わせて使用することができる。
また、このような導電性金属材料の他に、シリコン半導体材料を用いることができるのはいうまでもない。特にゲート電極に支持体機能を持たせるような構造の場合、ゲート電極としてドーピングしたシリコン基板が好適に使用される。
【0086】
また、複数種の材料によりソース電極やドレイン電極を形成する場合、電極を部分的に異なる材料で作製してもよいが、複数種の材料の積層構造とした電極が、デバイスの製造の容易さの観点からは大変好ましい。例えばアルミニウムと金の積層、クロムと金の積層等が一例として挙げられるが、なかでも特に図3に例示する様に、マグネシウム/金合金と金の2層からなる電極が好適に用いられる。
【0087】
これら電極層ならびにパターンは、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、低エネルギーイオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法、プラズマ重合法、電解重合法、化学重合法、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法などの膜形成技術とフォトリソグラフィー/エッチング手法、あるいはリフトオフ手法を組み合わせて形成される。
あるいはインクジェット法によって被接触、ダイレクト製作による手法もよい方法である。また、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法によって製作してもよい。
このような溶液あるいはペースト状材料を使用して、ソース電極、ドレイン電極等を形成する場合、上記の導電性材料を含む、溶液、ペースト、インク、分散液などの流動性電極材料が用いられる。中でも、導電性ポリマー、または白金、金、銀、銅を含有する金属微粒子を含む流動性電極材料が好ましい。また、溶媒や分散媒体としては、有機半導体へのダメージを抑制するため、水を60%以上、好ましくは90%以上含有する溶媒または分散媒体であることが好ましい。
【0088】
金属微粒子を含有する流動性電極材料としては、粒子径が1〜50nm、好ましくは1〜10nmの金属微粒子を、必要に応じて分散安定剤を用いて、水や任意の有機溶剤である分散媒中に分散した材料が使用される。
金属微粒子の材料としては白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、テルル、レニウム、イリジウム、アルミニウム、ルテニウム、ゲルマニウム、モリブデン、タングステン、亜鉛等を用いることができる。
このような金属微粒子の分散物の製造方法として、ガス中蒸発法、スパッタリング法、金属蒸気合成法などの物理的生成法や、コロイド法、共沈法などの、液相で金属イオンを還元して金属微粒子を生成する化学的生成法が挙げられるが、好適に使用される分散物としては、好ましくは、コロイド法、ガス中蒸発法により製造された金属微粒子の分散物である。
【0089】
次に、ソース電極およびドレイン電極の形状について説明する。本発明の素子では互いに対向しているソース電極とドレイン電極の電極間距離より、対向している領域の電極長さを長くすることにより、より効率的に発光することが見出された。
図4によって説明する。図4では構成を単純化するため、ソース電極(2)とドレイン電極(3)のパターンのみを示している。(a)はソース電極(2)とドレイン電極(3)の電極間距離(l)より、ソース電極(2)とドレイン電極(3)が対向している領域の電極長さ(w)が短い(l>w)場合であり、(b)は長い(l<w)場合である。
(a)のような場合は、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の電位差を大きくとらなければならず発光効率も悪く論外であるが、(b)のようにすると、電位差を小さくしても、すなわち低エネルギーであっても良好に発光する。
より好ましくは、両者の比(l/w)が1以下となるように、電極パターンを形成する。その場合、(b)のような単純な矩形パターンの電極形状であってもできなくはないが、より好ましくは、両者の比を大きく取れるようなパターン形状とするのがよい。図5に一例を示す。
この例では、ソース電極(2)とドレイン電極(3)のパターンの互いに対向する側が互いにくし歯状になっていて、くしの歯が相互に入れ違い構造になっているものである。こうすることにより、ソース電極(2)とドレイン電極(3)が対向している領域の電極長さ(w)を長くすることができる。図示しないが、くし歯の対向している外周辺長さがソース電極(2)とドレイン電極(3)が対向している領域の電極長さ(w)となる。図示した(l)は、ソース電極(2)とドレイン電極(3)の電極間距離である。
【0090】
以上、本発明の発光型有機薄膜トランジスタ素子の構成例、好適に使用される材料例を説明したが、次に、本発明のより具体的な使用例を説明する。本発明は、発光現象をともなう有機薄膜トランジスタという特性を活かし、発光素子として使用される。
通常、薄膜トランジスタ素子は素子駆動機能を利用し、別途形成された液晶、電気泳動素子、あるいは有機EL素子といった表示デバイスと組み合わされ、ディスプレイとして機能する。液晶ディスプレイや電気泳動ディスプレイは、数百×数百〜数万×数万のオーダーのマトリクス配列された薄膜トランジスタ素子を画素ごとに有する。各薄膜トランジスタ素子の電極には、液晶や電気泳動素子などの出力素子が接続され、表示装置における画素を構成して画素のスイッチングを行なっている。
これに対し、本発明においては、有機トランジスタ素子そのものが発光素子を兼ねることができるので、別途、液晶、電気泳動素子、あるいは有機EL素子といった表示デバイスを形成する必要がなく、有機トランジスタ素子を複数個マトリックス状に配列し、有機トランジスタの発光のON/OFFを行なうことにより、そのままディスプレイ装置として機能させることができる。また、単にON/OFF制御だけではなく、ゲート電圧を段階的に変えることにより、発光量も変えられるので、階調表現豊かなディスプレイ装置として機能させることができる。すなわち、液晶や電気泳動などの出力素子を別途必要としない大変簡単な構成の自発光型ディスプレイが実現できる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
先ず、本発明における有機半導体材料の製造例を示す。
合成例1(重合体1の合成)
【0092】
【化41】

1L四つ口フラスコに、上記のジアルデヒド8.48g(26.88mmol)及びジホスホネート15.18g(26.88mmol)を入れ、窒素置換してテトラヒドロフラン800mlを加えた。この溶液にカリウムt−ブトキシドの1.0mol・dm−3テトラヒドロフラン溶液95ml(95mmol)を滴下し10分間撹拌した後、ベンジルホスホン酸ジエチル0.614g(2.69mmol)を加え80分間撹拌した。次にベンズアルデヒド0.571g(5.38mmol)を加えさらに2時間撹拌した。酢酸およそ5mlを加えて反応を終了した。反応溶液を水に注ぎ、析出した重合体を濾取した。得られた重合体を、テトラヒドロフラン及びメタノールを用いて再沈澱により精製した。さらにジクロロメタンに溶解し、溶液を脱イオン水で水洗した後、ジクロロメタンを留去して重合体1を13.04g得た。収率85%。
元素分析値(計算値);C:83.80%(84.02%)、H:8.10%、(7.93%)、N:2.15%(2.45%)。
示差走査熱量測定から求めたガラス転移温度は132℃であった。GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量は27100、重量平均分子量は109100であった。
【0093】
上記重合体1の合成で用いたジアルデヒド及びジホスホネートはつぎのように合成されたものである。
[ジアルデヒドの合成]
[ジブロモトリフェニルアミンの合成]
【0094】
【化42】

【0095】
4−メチルトリフェニルアミン45.3g(0.175mol)をクロロホルム400mlに溶解し、これにN−ブロモサクシイミド63.4g(0.350mol)を粉末で少量づつ室温にて25分を要して添加した。反応温度は40℃を越えないようにした。添加後室温にて2時間攪拌したのち、水を加えた。
有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥したのち溶媒を留去し油状物を得た。これをカラムクロマト処理(SiO 60 溶離液;トルエン/ヘキサン=1/5vol)し、無色のプリズム晶67.8g(92.9%)を得た。mp.82.5〜84.5℃(solvent adduct)
[ジブロモトリフェニルアミンのホルミル化]
【0096】
【化43】

【0097】
1L四つ口フラスコに4,4’−ジブロモ−4”−メチルトリフェニルアミン30.00g(71.92mmol)を入れ、系内を窒素置換した。乾燥THF 400mlを加えて−70℃に冷却した後、n−BuLi 1.57Mヘキサン溶液100mL(157mmol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後1時間撹拌し、乾燥DMF 100mL(1.29mol)を滴下し、寒剤浴をはずして30分撹拌した。2Lビーカーに氷及び飽和塩化アンモニウム水溶液を入れ、反応溶液をゆっくりと注いだ。有機層と水層を分離した後、水層を酢酸エチルで3回抽出した。合わせた有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。吸引濾過により乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去し、残渣をカラムクロマトグラフィー(5%酢酸エチル/トルエン)により精製し13.84g(43.88mmol)の目的化合物(mp:150.5−151℃)を得た。収率61%。
〔ジホスホネートの合成〕
〔1−(3,7−ジメチルオクチルオキシ)−4−メトキシベンゼンの合成〕
【0098】
【化44】

【0099】
300mL四つ口フラスコに水素化ナトリウム(abt.60% in oil)7.748g(187mmol)を入れ、系内を窒素置換した。乾燥DMF 50mlを加えて0℃に冷却した後、p−メトキシフェノール23.18g(187mmol)のDMF 50ml溶液をゆっくりと滴下し、滴下終了後、氷浴をはずして1時間撹拌した。ここに1−クロロ−3,7−ジメチルオクタン30.00g(170mmol)を加え、100℃に加熱して2時間撹拌した。放冷後、水及びヘキサンを加えた。有機層と水層を分離した後、水層をヘキサンで3回抽出した。合わせた有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。吸引濾過により乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去し、得られた液体を減圧蒸留して目的化合物(bp:150−152℃,2mmHg)39.74g(150mmol)を得た。収率88%。
IR(KBr)/cm−1;2955,2929,2870,1509,1467,1233,1043,824,738,523.
〔ビスクロロメチル化〕
【0100】
【化45】


500mL四つ口フラスコに1−(3,7−ジメチルオクチルオキシ)−4−メトキシベンゼン39.74g(150mmol)、パラホルムアルデヒド(abt. 75%)16.85g(420mmol)、及び37%塩酸 77.02g(782mmol)を加えた。ここに無水酢酸 142mLを反応系内の温度が70℃を超えない速度で滴下し、滴下終了後70℃に加熱して3.5時間撹拌した。放冷後0℃に冷却し、飽和酢酸ナトリウム水溶液140mlを加え、さらに25%水酸化ナトリウム水溶液100mlを系内の温度が30℃を超えない速度で滴下した。滴下終了後55℃に加熱して固形分を溶解した後、激しく撹拌しながら0℃に冷却した。吸引濾過を行ない、得られた固体を酢酸エチルに溶解し、水で数回洗浄し、無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥した。吸引濾過により乾燥剤を濾別した後、溶媒を減圧留去し、得られた固体をヘキサンから−20℃で再結晶し、目的化合物45.75g(127mmol)(mp:65℃)を得た。収率88%。
IR(KBr)/cm−1;2954,2926,2870,1518,1466,1415,1318,1263,1229,1182,1139,1034,875,733,693,611.
〔Michaelis-Arbuzov反応〕
【0101】
【化46】

【0102】
100mL四つ口フラスコに2,5−ビス(クロロメチル)−1−3,7−ジメチルオクチルオキシ−4−メトキシベンゼン16.00g(44.28mmol)及び、亜リン酸トリエチル30.4mL(177.1mmol)を入れ、徐々に150℃まで昇温した。150℃で3.5時間撹拌した後、亜リン酸トリエチルを減圧留去した(2mmHg)。得られた液体をヘキサンから−20℃で再結晶し、無色ワックス状固体として目的化合物23.47g(41.57mmol)を得た。収率94%。
IR(neat,NaCl)/cm−1;2955,2928,2870,1510,1466,1413,1393,1245,1216,1163,1097,1053,1027,964,887,832,778.
【0103】
実施例1
合成例1に記載したプロセスによって製造された有機半導体材料を用いて図1に示される構造の薄膜デバイスを作製した。n−ドープされてゲート電極として作用するシリコン基板表面を熱酸化してSiOの絶縁層を300nm形成した後、SiO上にポジ型レジストを塗布した。次にマスクアライナーにて露光し、現像液にて露光部分を除去してソース及びドレイン電極形状を形成した。次にMgとAuを共蒸着してMgAu合金(atom比=1:1)をおよそ20nm厚で蒸着した後、引き続きAuをおよそ30nm蒸着し、レジストを除去してMgAu合金とAuの積層構造である一対の櫛形電極を作製した(電極間距離10μm)。この電極上に、合成例1にて製造した重合体に対して、ルブレンを1.9wt%添加した材料のジクロロメタン溶液(固形分濃度:約1.0wt%)をスピンコートし、その後乾燥することにより、およそ100nmの膜厚の有機半導体層を作製した。
ゲート電圧を変えたときのソース・ドレイン電流を測定した結果を図6に示す。図6に示すように、作製した素子は良好なトランジスタ特性を示し、ゲート電圧の変調によってソース・ドレイン電極間に流れる電流量を変調することができた。この際作製した素子は明瞭な発光を示し、ゲート電圧の変調により発光輝度を変調し、最大2cd/mの輝度で発光した。ドレイン電流に対する発光の量子効率を求めた結果を図7に示した。
【0104】
実施例2〜6
実施例1と同様の方法により、ソース・ドレイン間の電極距離を変えた素子を作製し、実施例1同様に発光輝度を測定した。結果を表1に示した。これらの素子は高輝度の発光を示した。また、これらの素子は何れもゲート電圧の変調によって、ソース・ドレイン電極間に流れる電流量を変調することができた。
【0105】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明に係る発光素子の概略構造の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る発光素子の概略構造の他の例を示す図である。
【図3】本発明に係る発光素子の概略構造の他の例を示す図である。
【図4】ソース電極及びドレイン電極の形状を説明するための図である。
【図5】ソース電極及びドレイン電極の他の形状を説明するための図である。
【図6】ゲート電圧を変えたときのソース・ドレイン電流を測定した結果を示す図である。
【図7】ドレイン電流に対する発光の量子効率を求めた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1…有機半導体層
2…ソース電極
3…ドレイン電極
4…ゲート電極
5…ゲート絶縁層
6…金
7…マグネシウム/金合金
l…電極間距離
w…電極長さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子。
【化1】

(式中、Ar、Ar、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。)
【請求項2】
下記一般式(II)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子。
【化2】

(式中、Ar、Arはそれぞれ独立に置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)
【請求項3】
下記一般式(III)で表わされる繰り返し単位を有する重合体を含有する半導体層と、この半導体層に接し、半導体層へ正孔を注入するための第一の電極および半導体層へ電子を注入するための第二の電極を設けてなる構造体と、該構造体に絶縁体を介して設けた第三の電極とからなることを特徴とする発光素子。
【化3】

(式中、Arは置換もしくは無置換の、単環式、非縮合多環式または縮合多環式の芳香族基を表わす。R、R、R、R、R、R、Rはそれぞれ独立にハロゲン原子、置換もしくは無置換の、アルキル基またはアルコキシ基もしくはアルキルチオ基から選択される基を表わす。zは0から5の整数を表わし、x、yはそれぞれ独立に0から4の整数を表わし、R、R、Rが各々複数存在する場合には、同一でも別異でもよい。)
【請求項4】
前記第一の電極と第二の電極の間に電圧を印加した状態で、第三の電極に印加する電圧を制御することにより、第一の電極と第二の電極の間の領域における発光の輝度を制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記第一の電極と第二の電極の間に電圧を印加した状態で、第三の電極に印加する電圧を制御することにより、第一の電極と第二の電極の間に流れる電流を変調することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記半導体層は、一般式(I)から(III)のいずれかで表わされる繰り返し単位を有する重合体と、少なくとも一種の電子輸送能を有する化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の発光素子。
【請求項7】
前記半導体層は、一般式(I)から(III)のいずれかで表わされる繰り返し単位を有する重合体と、少なくとも一種の電子輸送能を有する化合物の混合物からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の発光素子。
【請求項8】
前記電子輸送能を有する化合物がルブレンであることを特徴とする請求項6または7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記第一の電極と第二の電極が対向している電極間距離より、対向している領域の電極長さを長くしたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の発光素子。
【請求項10】
前記第一の電極および第二の電極は、それぞれ半導体層への電子注入能を有する部位と正孔注入能を有する部位からなることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の発光素子。
【請求項11】
前記第一の電極および第二の電極の少なくとも一方が、半導体層への電子注入能を有する部材と、正孔注入能を有する部材の積層構造であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の発光素子。
【請求項12】
前記第一の電極および第二の電極の半導体層に接する部分の少なくとも一部が、マグネシウムと金の合金からなることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の発光素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかに記載の発光素子を複数個配置し、各素子からの発光強度の変調を利用したことを特徴とするディスプレイ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−319102(P2006−319102A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139692(P2005−139692)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】