説明

皮膚外用剤及びその製造方法

【課題】皮膚に塗布することによって、安全に、皮膚の加齢や疾病に伴う機能不全の予防、又は治療効果を発揮する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】表皮又は真皮細胞に存在するレチノイン酸受容体(RAR)活性化作用を有するクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含む皮膚外用剤であり、さらに、ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及び/又はコラーゲン産生促進作用を有する皮膚外用剤であり、好ましくはクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、カンキツ類、特に温州みかんである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤に関するものであり、さらに詳しくは、表皮又は真皮細胞に存在するレチノイン酸受容体(RAR)の活性化作用を有する皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚は人間の体内と体外を仕切る器官であり、外敵に対する免疫機能や、体内の水分の保持、感覚や体温の調節など多岐にわたる機能を有している。しかしながら、皮膚は老化に伴って、その機能を徐々に低下させ、角質細胞中の脂質の減少や、コラーゲンなどの繊維の切断などが引き起こされる。これにともなって、それぞれ水分の保持量の減少や肌のハリが無くなり、シワなどが発生するようになる。特にシミやシワは女性には精神的な負担となりえる。またアトピー性皮膚炎などの疾患患者の皮膚中の脂質量を測定すると、構成に変化は無いが、セラミドなどの保水性に関わる脂質が減少していることが明らかとなっており、水分蒸散量などが有意に高いことが分かっている(非特許文献1)。
【0003】
これらの皮膚の異常などを治療する物質としては、トレチノイン(特許文献1)が挙げられる。トレチノインは、体内でレチノイン酸受容体(RAR)を活性化することが知られているオールトランスレチノイン酸(ATRA)の別名で、その作用は皮膚中に発現しているRARのα、β、γ型を活性化し、標的となる遺伝子の活性をコントロールすることで得られる。例えば、ATRAを使用すると表皮角化細胞の強い増殖促進作用が見られ、皮膚のターンオーバーを進めることでメラニンの排出による美白作用やしわなどの改善作用があることに加え、真皮においては繊維芽細胞のコラーゲン産生促進し、コラーゲンを分解してしわやたるみの原因を作り出すマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)群の発現の減少作用をもち、たるみなどの改善作用も有している(非特許文献2)。
【0004】
しかしながらATRAを用いると、ATRAを体外へ排出するタンパク質の発現が上昇し、その効果が薄れる場合や、レチノイン酸症候群といわれる発熱、呼吸困難、胸水貯留、肝不全、腎不全を伴う副作用を引き起こし、時には生命も失うことがある。またRARを活性化する合成のレチノイドであるカフェ酸誘導体(特許文献2)やAM80(商品名:タミバロテン)も販売されているが、使用を続けた場合の安全性に問題がある。またATRAや合成レチノイドは生体に対する吸収性が低く、効果を得るためには投与量を増やさなければならない。よってATRAは一部の白血病の治療としては認可を受けているが、日本においては皮膚への使用に関しては認可を得ておらず、特定の病院で自由診療として使用されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−293746号公報
【特許文献2】WO2005/092322パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NARDO etal., Acta Derm Venereol(Stockh)78,27―30(1998)
【非特許文献2】Nicholson etal., EMBO J 9,4443−4454(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、皮膚に塗布することによって、安全に、皮膚の加齢や疾病に伴う機能不全の予防、又は治療効果を発揮する皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有することにより、RARの活性化を介して皮膚の改善が見られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明の第一は、表皮又は真皮細胞に存在するレチノイン酸受容体(RAR)活性化作用を有するクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含む皮膚外用剤を要旨とするものであり、さらに、ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及び/又はコラーゲン産生促進作用を有する皮膚外用剤であり、好ましくはクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、カンキツ類由来のものである皮膚外用剤であり、さらに好ましくはカンキツ類が、温州みかんである皮膚外用剤であり、アトピー性皮膚炎、皮膚の老化、シミ、シワ、たるみ又はそばかすの少なくとも1つの予防又は治療、もしくは美白又は保湿性の皮膚質向上のための用いられる皮膚外用剤である。
【0010】
本発明の第二は、カンキツ類植物を搾汁しその残さから、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を得ることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法、又はカンキツ類植物に酵素を添加して酵素処理して、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を得ることを特徴とする皮膚外用剤の製造方法、又はカンキツ類植物に有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を抽出することを特徴とする皮膚外用剤の製造方法を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリプトキサンチンはRARの活性化作用を含有しているため、皮膚のターンオーバーの促進作用、コラーゲン産生促進作用が得られる。また、さらにスフィンゴ脂質を含ませることにより、角質中の水分保持機能の向上作用が見られる。また本発明は由来が化粧品としても使われているカンキツ類なので安全性が高い組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の皮膚外用剤の正常ヒト皮膚繊維芽細胞増殖活性を示す図である。
【図2】本発明の皮膚外用剤のコラーゲン産生促進活性を示す図である。
【図3】本発明の皮膚外用剤のRAR活性化作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。最初に、第一の本発明である皮膚外用剤について説明する。本発明に含有されるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体は、α型でもβ型でもよく、特に限定されるものではない。また、クリプトキサンチンの誘導体としては、例えばクリプトキサンチンの脂肪酸エステルが存在し、具体的には、パルミトイルエステル、ミリストイルエステル、ラウリルエステルなどの誘導体も含まれる。
【0014】
本発明で用いられるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体は、その由来について特に限定されないが、中でもカンキツ類が好ましい。カンキツ類とは、ミカン科などに属する植物を挙げることができる。より具体的には、イヨカン、温州みかん、オレンジ、カボス、カワバタ、キシュウミカン、清見、キンカン、グレープフルーツ、ゲッキツ、三宝柑、シイクワサー、ジャバラ、スウィーティー、スダチ、ダイダイ、タチバナ、デコポン、ナツダイダイ、ハッサク、バレンシアオレンジ、晩白柚、ヒュウガナツ、ブンタン、ポンカン、マンダリンオレンジ、ヤツシロ、ユズ、ライム、レモン、カラタチなどを例示することができる(これらと同等又は類似の品種のものも含む)。その中でも温州みかんが、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の含有率が高く望ましい。
【0015】
本発明の皮膚外用剤においては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する限りはその量については限定されない。例えば、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を0.00001%以上(質量比)、100%未満、好ましくは0.0001%以上(質量比)、50%未満、更に好ましくは0.01%以上(質量比)、10%未満の割合で配合することができる。
【0016】
本発明の皮膚外用剤には、上記したクリプトキサンチン及び/又はその誘導体のほかに、スフィンゴ脂質を含ませることが保湿性を高める作用があり好ましい。ここで、スフィンゴ脂質とは、スフィンゴシンと称する炭素数14〜24程度からなるアミノアルコールあるいはこれと類似した構造を有する長鎖アミノアルコールと、長鎖脂肪酸などの脂肪酸とがアミド結合した一群の化合物を言い、それらに糖類が結合した化合物や、リン酸基が結合した化合物なども含まれる。脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、直鎖又は分岐鎖であってもよく、1以上の水酸基が置換していてもよい。また、アミノアルコールの水酸基には、糖、リン酸、シアル酸、コリン、エタノールアミンなどが結合していてもよい。糖類としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、ラクトースなどが結合していても良く、リン酸基が結合したものでは、リン酸基を介してイノシトール、更に糖が結合したスフィンゴ脂質も含まれる。本発明においては、特定の鎖長のものや構造のものを対象としているわけではなく、スフィンゴ脂質と呼ばれる全てのものが含まれる。
【0017】
上記したスフィンゴ脂質の由来としては、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の由来である上述した植物が好適に使用できる。
【0018】
スフィンゴ脂質を含ませる場合の含有量としては、0.00001%以上(質量比)、100%未満、好ましくは0.001%以上(質量比)、50%未満、更に好ましくは0.1%以上(質量比)20%未満の割合で配合することが出来る。
【0019】
上述した本発明の皮膚外用剤は、さらに効果を損なわない範囲内で、一般的に外用剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することができる。
【0020】
本発明の皮膚外用剤は、皮膚に塗布することによりRARの活性化作用を通じて、ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及び/又はコラーゲン産生促進作用を有し、その結果として、アトピー性皮膚炎、皮膚の老化、シミ、シワ、たるみ、そばかすの少なくとも1つの予防若しくは治療、又は美白、保湿性等の皮膚質向上効果が得られるものである。
【0021】
本発明の皮膚外用剤を塗布する方法としては、皮膚外用剤を溶媒に単独で分散させて用いても良いし、他の機能性成分と併用しても良い。
【0022】
次に、上記した皮膚外用剤の製造方法について説明する。そのような製造方法としては、カンキツ類植物を搾汁しその残さから、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する皮膚外用剤を得る方法、カンキツ類植物に酵素を添加して酵素処理して、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する皮膚外用剤を得る方法、及びカンキツ類植物に有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する皮膚外用剤を抽出する方法が挙げられる。以下、順次これらの方法について説明する。
【0023】
カンキツ類植物を搾汁した残さ、すなわち搾汁粕は、カンキツ類植物の果実をインライン搾汁機、チョッパーヘルパー搾汁機、ブラウン搾汁機などにより搾汁した後、パドル型又はスクリュー型のフィニシャーなどでろ過又は篩別、または遠心分離によって果汁を調製した搾汁残さを集めることにより調製される。このように調製されたカンキツ類植物の果実の搾汁残さは、そのままでもよいし、これらに対しすりつぶし、破砕、粉砕、加熱、脱水、乾燥などの物理的処理を行ったものでもよい。
【0024】
酵素処理は、カンキツ類植物の果実そのまま、あるいはすりつぶし、破砕、粉砕、加熱、脱水、乾燥などの物理的処理を行なったもの、さらに上記のようにして得られる搾汁残さに対して酵素を添加することにより行なわれる。
【0025】
酵素処理に使用する酵素としては、カンキツ類植物に含まれる有機物、特に細胞壁などを構成する生体高分子などを分解できることが出来るものであれば、特に限定されず、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、キシラナーゼ、プロテアーゼ、ペプチターゼ、リパーゼ、マレーションエンザイム(細胞壁崩壊酵素)などが用いられる。これらの中でも、糖質加水分解酵素であるセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、キシラナーゼ、マレーションエンザイムが、有効成分であるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体を濃縮する効率が高く望ましい。
【0026】
添加する酵素剤は、これらの精製酵素を用いてもよいし、これらの活性を示す微生物菌体や培養物、これらの粗精製物を用いてもよい。これらの酵素は単独で用いても良いし、2種類以上の酵素を混合して用いてもよい。添加する酵素の量は特に限定されず、酵素の反応性に応じて添加すればよい。例えば、ペクチナーゼを用いる場合であれば、被抽出物100gに対して1〜100,000ユニットであることが好ましく、更に10〜10,000ユニットであることが好ましい。
【0027】
上記酵素を添加した後、攪拌などにより酵素と被抽出物を均一に混合して酵素反応を進行させる。このときの反応温度としては酵素が失活せず、かつ腐敗の起こりにくい条件、またクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が喪失しない条件化で行うことが望ましい。具体的には、温度は0〜90℃、好ましくは0〜80℃、更に好ましくは0〜70℃が良い。反応のpHとしては酵素の至適条件下で行うのが望ましいことは言うまでもなく、pH2〜12、好ましくはpH3〜8とするのが良い。反応時間は使用する搾汁残さと酵素の量に依存するが、通常1〜48時間に設定するのが作業上好ましい。反応の際、この反応物を攪拌しながら反応を行っても良いし、静置反応でも良い。
【0028】
酵素処理終了後、酵素処理された反応物をそのまま用いてもよいし、何らかの加工を行ったものを用いてもよい。具体的には、反応物を固液分離した残さ、固液分離した残さを乾燥させたもの、固液分離せず反応物をそのまま乾燥させたものなどを用いてもよい。また溶剤や水、超臨界二酸化炭素などを用いて成分などを抽出したものを用いてもよい。更に、引き続いて不純物類を取り除いてもよい。不純物の除去方法としては、例えば水洗浄、有機溶媒洗浄、シリカゲルカラムや樹脂カラム、逆相カラムなどを通す方法、活性炭処理、極性の異なる溶媒による分配、再結晶法、真空蒸留法などが挙げられる。特に酵素処理反応物を固液分離した後、固形分に再度水を添加・攪拌した後に固液分離する水洗浄は、酵素処理で生成した糖などの反応性生物を容易に除去できるため好ましい方法である。
【0029】
カンキツ類植物に有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体とスフィンゴ脂質を含有する皮膚外用剤を抽出する方法において用いられる溶剤としては、原料であるカンキツ類植物又はその加工品よりRAR活性化作用を持つ画分が得られ、本発明を損なうものでなければいかなるものでもよい。また、一種類の溶剤を単独で用いても複数の溶剤を混合して用いてもよい。そのような溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、へキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ピリジン類、超臨界二酸化炭素等が使用できる。これらのうち、アセトン、エタノール、ヘキサン、超臨界二酸化炭素は抽出されるクリプトキサンチン及び/又はその誘導体が多く好ましい。
【0030】
また、これらの有機溶媒で抽出する際には抽出効率を上げるために、例えば水、界面活性剤等の添加物を、本発明の効果を損なわない範囲で加えることが出来る。さらに、上記有機溶媒による抽出のほか、近年注目の超臨界抽出法も利用することができる。
【0031】
本発明の皮膚外用剤とは、化粧品、医薬部外品、医薬品のいずれにも用いることでき、その剤形としては、特に限定されず、例えば、乳液、クリーム、化粧水(ローション)、パック、洗浄剤、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、分散液、軟膏、液剤、エアゾール、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、オイル、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、マニキュア・ペディキュア(及び除去剤)、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、パーマネント剤、染毛料、ひげ剃り剤、ゲル剤、エッセンス剤、洗浄剤、浴用剤、打粉、石けん(ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料)、歯磨き剤、洗口料等、いずれの剤形であっても良い。また、人間や動物に直接触れる可能性のあるものも含まれ、台所・浴室・トイレ用洗剤、ガラスクリーナー、メガネ・コンタクトレンズ用洗浄剤、自動車用洗剤、衛生用品、ウェットペーパーなどに含浸させたものも含まれる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に示す。なお本発明はこの実施例によりその範囲を限定するものではない。
【0033】
なお、実施例中、β−クリプトキサンチン及び/又はその誘導体の含量の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行なった。すなわち、HPLC装置として、LC−10A(島津製作所製)を用い、ResolveC18(φ3.9×150mm、ウォーターズ社製)カラムを接続し、メタノールを等量加えた試料を導入した。移動相には、メタノール:酢酸エチル=7:3、カラム温度30℃、流速1.0ml/min、検出波長450nmで分析した。
【0034】
実施例1
温州みかんから果汁を絞った後の残さ(みかんジュース粕、水分率約90%)800gに飲食品加工用のペクチナーゼ酵素剤であるスミチームPX(新日本化学工業株式会社製、ペクチナーゼ5,000ユニット/g、アラバナーゼ90ユニット/g)1gとセルラーゼ/ヘミセルラーゼ酵素剤であるセルラーゼY−NC(ヤクルト薬品工業株式会社製セルラーゼ30,000ユニット/g)1gを添加し、よくかき混ぜて室温8時間静置反応を行った。この反応液を遠心分離して上清を除去した後、水を添加して攪拌し、再度遠心分離により上清を除去した。この沈殿物を凍結乾燥機により乾燥し、ミキサー型粉砕機で粉砕・粉末化した。本粉末中にはβ−クリプトキサンチン(フリー体換算)が0.5質量%含まれていた。
得られた温州みかん粉末を重量の3倍量のエタノールで抽出し、得られた抽出液をエバポレーターで減圧濃縮した。濃縮後の残存物を本発明の皮膚外用剤とした。この皮膚外用剤にはβ−クリプトキサンチンが1%(フリー体として換算)含まれていた。
【0035】
試験例1〔ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進効果〕
正常ヒト皮膚繊維芽細胞(NHDF:クラボウ社製 KF−4109)を5.0×10cell/wellとなるように24wellプレート(IWAKI社製)に播種し、24時間培養後、実施例1で得られた皮膚外用剤を培地(クラボウ社製 M−106−500S)と0.01、0.05、0.1%とになるように混合し、交換をすることで、試薬の細胞に対する作用を検出する。培地を24hごとに交換し、72hまで培養を行った後、細胞の増殖促進活性はCCK8(同人化学社製)を用いて測定した。各wellの培地500μlにCCK8を50μl添加し、培養を行っているCO2インキュベーターで2時間反応を行った。その後、プレートリーダー(大日本住友製薬社製)で450nmの波長を測定することによって、細胞の生存数を比率にて求めた。
得られた結果を図1に示した。細胞の増殖促進活性に関してはコントロールと比べ、有意に増加していた。
【0036】
試験例2〔コラーゲン産生促進効果〕
また、試験例1の試験と全く同様の方法にて、正常ヒト皮膚繊維芽細胞中のコラーゲン量はSircol Collagen Assay Kit(Biocolor社製)を使用して測定を行った。培養後の細胞の培地を除き、1mlのSircol Dye reagentを加え、室温にて30分振とう反応を行う。反応後、未反応の溶液を除き、Alkali reagentを加えて、染色液を抽出する。抽出した溶液を96wellプレート(IWAKI社製)に100μlづつ分注し、プレートリーダー(大日本住友製薬社製)にて540nmの吸光度を測定することによってコラーゲンの測定を行った。
得られた結果を図2に示した。コラーゲンの産生促進活性に関しても、産生が促進され、本発明の皮膚外用剤のコラーゲンの産生促進活性が明らかとなった。
【0037】
なお、試験例1及び2において、本発明の皮膚外用剤にRARの活性化阻害剤であるLE540(和光純薬製)を併用して試験を行ったところ、細胞の増殖促進活性が有意に低下し、またコラーゲン産生促進活性もコントロールと変わらなかった。
【0038】
試験例3〔RAR活性化促進効果〕
本発明の皮膚外用剤について、RAR活性化促進効果を測定した。RARα型とγ型活性測定キット(Mycrosystems製)を用い、以下のようにしてRARα又はγ活性化作用を試験した。なお活性化の測定に関してはポジティブコントロールであるATRAを使用し、実験系が成立していることを確かめた。すなわち、RARα又はγを付属の0.1M氷冷緩衝液A10mlに混和し、このRARα又はγ溶液を100μl/ウェルとなるように分注を行いプレートにRARα又はγを固定化させる。2〜8℃で一晩静置して、氷冷緩衝液Aを120μl/ウェル加え3回洗浄する。そこにTIF2−BAP液を100μl/ウェル添加し、実施例1で得られた皮膚外用剤を終濃度が0.01、0.05、0.1%になるように1μl添加し、4℃で1時間静置する。その後、氷冷緩衝液Bを120μl/ウェルとなるように加え、3回洗浄し、基質液を100μl/ウェルとなるように加え、37℃で3〜5時間反応させる。0.5Nの水酸化ナトリウム25μl/ウェルを加えて反応を終了させ、プレートリーダー(大日本住友製薬社製)で405nmの吸光度を測定した。
その結果、図3の結果を得た。これより実施例1の組成物はRARα型とγ型を濃度依存的に活性化する作用を持っていることが明らかとなった。
【0039】
実施例2
実施例1で得られた抽出物を使用して、以下の処方例を作成した。
【0040】
処方例1 乳液
抽出物 1.00%
SURFHOPE(R)SE COSME C−1216 3.00%
グリセリン 12.00%
スクアラン 6.00%
TORAY(R) SH 200 (6cs) 24.00%
ポリプロピレングリコール 1.00%
CARBOPOL(R) 940 0.06%
脱イオン水 47.62%
防腐剤 0.20%
エタノール 5.00%
0.1%水酸化ナトリウム水溶液 0.12%
【0041】
処方例2 日焼け止めクリーム
抽出物 1.00%
SURFHOPE(R) SE COSME C−1216 1.00%
SURFHOPE(R) SE COSME C−1816 1.00%
脱イオン水 2.00%
90%グリセリン 4.00%
DPPG(R) 5.00%
LIPONATE(R) NPGC−2 5.00%
PARSOL(R) 1789 1.00%
PARSOL(R) MCX 5.00%
PARSOL(R) 340 0.50%
EUSOLEX(R) 6300 2.00%
防腐剤 0.50%
OXYLESS(R) CLEAR 0.10%
DOW CORNING(R) 1501 FLUID 1.00%
PARSOL(R) HS 4.00%
CARBOPOL(R) ULTREZ20 0.50%
EDTA 0.10%
脱イオン水 62.90%
トリエタノールアミン99% 3.20%
香料 0.20%
【0042】
処方例3 保湿クリーム
抽出物 1.00%
脱イオン水 67.80%
SOLANACE STARCH 0.80%
グリセリン 2.00%
SURFHOPE(R) SE COSME C−1815 1.50%
キサンタガム 0.20%
SURFHOPE(R) SE COSME C−1805 3.50%
DPPG(R) 6.00%
MOD(R) 3.00%
ISIS(R) 4.00%
イソノナン酸イソノニル 5.00%
防腐剤 0.50%
セトステアリルアルコール 0.50%
DOW CORNING(R) 345 FLUID 2.00%
小麦粉エキス 2.00%
香料 0.20%
【0043】
試験例4〔官能試験〕
処方例1の乳液と、処方例1から抽出物を抜いた乳液(プラセボ)を用いて女性36人(22〜45才)を対象に1ヶ月間の二重盲検法を用いた使用試験を行った。試験期間中温州みかん、柿、マンゴーなどβ-クリプトキサンチンを多く含む食品の摂取は禁止し、塗布は夜間に行うこととした。試用期間終了後、肌のしわ、たるみ及びしみ、そばかす等の改善効果の有無をアンケートにより判定した。
【0044】
表1にその結果を示す。本発明の皮膚外用剤を使用することで、しわ、たるみ、しみ、そばかすのいずれも改善したと感じる者が多かった。また試験期間中の皮膚のトラブルや処方成分の劣化などは見られなかった
【0045】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含むことを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項2】
表皮又は真皮細胞に存在するレチノイン酸受容体(RAR)活性化作用を有する請求項1記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖促進作用及び/又はコラーゲン産生促進作用を有する請求項2記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
クリプトキサンチン及び/又はその誘導体が、カンキツ類由来のものである請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
カンキツ類が、温州みかんである請求項4記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
アトピー性皮膚炎、皮膚の老化、シミ、シワ、たるみ又はそばかすの少なくとも1つの予防又は治療に用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項7】
美白又は保湿性の皮膚質向上のための用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の皮膚外用剤。
【請求項8】
カンキツ類植物を搾汁しその残さから、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を得ることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の皮膚外用剤の製造方法。
【請求項9】
カンキツ類植物に酵素を添加して酵素処理して、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を得ることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の皮膚外用剤の製造方法。
【請求項10】
カンキツ類植物に有機溶剤を添加し該有機溶剤中に、クリプトキサンチン及び/又はその誘導体を含有する組成物を抽出することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の皮膚外用剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254591(P2010−254591A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104081(P2009−104081)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】