説明

皮膚損傷治療剤

【課題】創傷等の治療剤として有用な皮膚損傷治療剤の提供。
【解決手段】一般式[I]:


(式中、Rは式:


で示される基、Xは式:=N−で示される基又は式:


で示される基)で示される化合物又はその薬理的に許容し得る塩を有効成分とする皮膚損傷治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な皮膚損傷治療剤及び皮膚微小血管内皮細胞増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚組織は種々の要因により、創傷、褥瘡、熱傷潰瘍等の損傷を生じ得るが、これら皮膚損傷のうち、特に褥瘡等の慢性皮膚潰瘍は、治癒に長期間を要する場合も少からずあることから、患者の苦痛という観点だけでなく、医療経済上も無視できない問題として認識されている。
【0003】
皮膚損傷の治癒は、概略、(1)炎症相、(2)細胞増殖相及び(3)表皮及び真皮の再構築相からなる一連の過程を経て達成されるが、これらの過程においては、血小板由来増殖因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、肝細胞増殖因子(HGF)等の増殖因子を含む多様な因子が極めて複雑な関連のもとで機能していると考えられている。また、組織病理学的(histopathological)な観点からは、皮膚損傷の治癒においては、一過性に生じる血管新生(angiogenesis)が必須のイベントであると考えられるが、上記増殖因子のうち、例えば、VEGFは血管新生の主要な促進因子であり、当該作用に基づいて皮膚損傷の治癒を促進することが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
皮膚損傷の治療薬としては、プロスタグランジンE製剤(アルプロスタジルアルファデックス)、ジブチリルcAMP(ブクラデシンナトリウム)、白糖/ポビドンヨード製剤、トレチノイントコフェリル製剤等が知られているが、これらの薬剤は、慢性皮膚潰瘍等の難治性皮膚損傷に対する治療効果の面では充分とは言い難い。
【0005】
最近になって、増殖因子の一つであるbFGFが、その生理活性(線維芽細胞、血管内皮細胞及び血管平滑筋細胞の増殖作用)に基づく血管新生促進作用に着目して開発され、難治性皮膚潰瘍の治療剤として実用化されている。
【0006】
上記以外にも、種々の薬物について、皮膚損傷治癒促進剤としての使用が提案されている。例えば、プロスタグランジンI(PGI)誘導体が動物モデルにおける創傷治癒促進効果を示すこと(例えば、非特許文献3参照)、或いは、勃起不全治療薬として臨床的に使用されているシルデナフィルの如きホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤について、サイクリックGMP(cGMP)の細胞内濃度上昇を介した血管拡張作用に基づいて創傷治癒を促進することが期待されるとの報告もある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、これらは未だ実用化には到っていない。
【0007】
一方、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害作用を有するある種の化合物、例えば、ベンゾフラン誘導体の如き含酸素複素環化合物(例えば、特許文献2参照)、またはニコチン酸誘導体(例えば、特許文献3参照)に創傷治癒促進効果が期待できる旨の報告がある。しかしながら、創傷治癒過程におけるこれら化合物の作用機作はもとより、創傷治癒促進剤としての当該薬剤の臨床上の有用性も未だ確立されたものではない。
【0008】
尚、本発明の有効成分であるピリジン置換ナフタレン誘導体及びピリジン置換イソキノリン誘導体等は、これらが選択的PDE4阻害活性に基づく気管支収縮抑制作用及び抗気道炎症作用を有する薬剤(抗喘息薬)として有用であることは知られている(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)。しかしながら、当該化合物が創傷等の皮膚損傷の治癒促進作用を有することについては報告されていない。
【0009】
【特許文献1】国際公開第2002/015893号パンフレット(第1〜3頁)
【0010】
【特許文献2】米国特許第6716987号明細書(Column 1及び2)
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0195233号明細書(第1頁及び第10頁)
【特許文献4】欧州特許第748805号明細書(第2頁)
【特許文献5】欧州特許第848000号明細書(第2頁)
【非特許文献1】Amrican Journal of Pathology(2004):164(6):p1935−47
【非特許文献2】FASEB Journal(2004):18(11):p1264−66
【非特許文献3】Japanese Journal of Pharmacology(1995):Vol.67(Suppl.I):p275(P3−116)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、創傷もしくは皮膚潰瘍等の治療剤として有用な新規皮膚損傷治療剤を提供するものである。また、本発明は、新規な皮膚微小血管内皮細胞増殖促進剤をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一般式[I]:
【0013】
【化1】

【0014】
[式中、Rは式:
【0015】
【化2】

【0016】
で示される置換ピリジル基、
はC1−6アルコキシ−C1−6アルキル基、
及びRは同一又は異なってC1−6アルコキシ基、
Xは式:=N−で示される基又は式:
【0017】
【化3】

【0018】
で示される基、
環式基Aは含窒素10員二環式複素環式基(該二環式複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよく、かつ置換基を有していてもよい)、並びに
点線は二重結合の存在又は非存在を表す。]
で示されるピリジン化合物又はその薬理的に許容し得る塩を有効成分としてなる皮膚損傷治療剤に関する。また、本発明は、上記ピリジン化合物[I]又はその薬理的に許容し得る塩の皮膚損傷治療剤(もしくは皮膚微小血管内皮細胞増殖促進剤)製造のための使用にも関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の皮膚損傷治療剤は、創傷(外傷性創傷、術後創傷等)、褥瘡、難治性皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍を含む血管障害性皮膚潰瘍、糖尿病性皮膚潰瘍、外傷性皮膚潰瘍及び術後の皮膚潰瘍等)の治癒促進に有用である。
【0020】
本発明における有効成分である化合物[I]又はその薬理的に許容し得る塩の皮膚損傷治癒促進における作用機作は、現時点では確定的なものではないが、当該化合物[I]が優れた皮膚微小血管内皮細胞増殖促進作用を示すことから、血管内皮特異的なマイトジェンであるVEGF産生増強、それによる血管内皮細胞増殖・遊走・増殖促進、次いで標的組織における血管新生が促進されるという一連のメカニズム(VEGF刺激により産生され得る他の増殖因子、例えばFGF等の協働的関与の可能性も含む)が想定され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の有効成分であるピリジン化合物[I]の具体例としては、例えば、Rが式:
【0022】
【化4】

【0023】
で示される基であり、環式基Aにおける含窒素10員二環式複素環式基が、窒素原子以外に更に窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる異項原子を含有していてもよい含窒素10員二環式複素環式基(該複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよい)である化合物があげられる。
【0024】
上記のような含窒素10員二環式複素環式基としては、例えば、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基又はベンゾチアジニル基等(該複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよい)があげられる。また、環式基Aにおける含窒素10員二環式複素環式基は、置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、水酸基、オキソ基、飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基置換C1−6アルコキシ基、ジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基及び飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基から選ばれる1個以上の基があげられる。更に、上記の二環式複素環式基上の置換基が飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基(又は飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基を含む基)である場合、このような6員複素単環式基としては、例えば、ピリジル基、ジヒドロピリジル基、ピリミジニル基、モルホリノ基又はピペリジニル基等があげられる。
【0025】
上記の如き置換基を有する環式基Aのうち、例えば、少なくともオキソ基及び/又は水酸基で置換された含窒素10員二環式複素環式基が好ましく、このような複素環式基としては、例えば、下記式:
【0026】
【化5】

【0027】
で示される複素環式基等があげられる。尚、該複素環式基は、オキソ基及び/又は水酸基に加えて、前記で例示した置換基を更に有していてもよい。
【0028】
より具体的には、本発明の有効成分であるピリジン化合物[I]としては、下記一般式[I−A]又は[I−B]:
【0029】
【化6】

【0030】
[式中、R11は式:
【0031】
【化7】

【0032】
で示される基、環式基Aは(1)水酸基及びピリジル基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(2)水酸基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(3)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ヘキサヒドロキノリル基、(4)水酸基、モルホリノ−C1−6アルコキシ基、ピリジル−C1−6アルコキシ基、ピペリジニル−C1−6アルコキシ基及びモルホリノ基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)イソキノリル基、(5)水酸基、ジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基、ピリジル基及びピリミジニル基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)フタラジニル基、(6)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キナゾリニル基、(7)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノキサリニル基、或いは(8)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)ナフチリジニル基を表し、他の記号は前記と同一意味を有する。]
で示される化合物があげられる。
【0033】
本発明の有効成分であるピリジン化合物[I]の他の具体例としては、例えば、Rが式:
【0034】
【化8】

【0035】
で示される2−オキソ−1−置換ピリジン−4−イル基であり、Xが式:
【0036】
【化9】

【0037】
で示される基である化合物があげられ、より具体的には、Rがメトキシエチル基であり、R及びRがエトキシ基である化合物があげられる。
【0038】
本発明の有効成分である上記ピリジン化合物[I]のうち、薬効上好ましい化合物としては、例えば、一般式[I−A]又は[I−B]において、R11が式:
【0039】
【化10】

【0040】
で示される2−置換ピリジン−4−イル基であり、R及びRが同一又は異なって、メトキシ基及びエトキシ基から選ばれる基である化合物があげられる。
【0041】
上記のうち、薬効上より好ましい化合物としては、一般式[I−A]又は[I−B]において、R11における環式基Aが(a)水酸基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(b)ピリジル−C1−6アルコキシ基及びモルホリノ−C1−6アルコキシ基から選ばれる基で置換されたオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)イソキノリル基、(c)ピリジル基、ピリミジニル基及びジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基から選ばれる基で置換されたオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)フタラジニル基、又は(d)オキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キナゾリニル基である化合物等があげられる。
【0042】
上記のうち、薬効上更に好ましい化合物としては、例えば、環式基Aが式:
【0043】
【化11】

【0044】
で示される基である化合物があげられる。
【0045】
上記のうち、薬効上とりわけ好ましい化合物としては、例えば、
2−(4−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−1−イル)−4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]ピリジン;
4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]−2−(1−オキソ−1,2−ジヒドロ−5−(2−モルホリノエトキシ)−イソキノリン−2−イル)ピリジン;
4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]−2−(1−オキソ−1,2−ジヒドロ−5−(3−ピリジルメトキシ)−イソキノリン−2−イル)ピリジン;
4−(3−ヒドロキシメチル−6,7−ジメトキシイソキノリン−1−イル)−2−[4−(3−ピリジル)フタラジン−1(2H)−オン−2−イル]ピリジン;及び
4−[(3S)−3−ヒドロキシメチル−3,4−ジヒドロ−6,7−ジメトキシイソキノリン−1−イル]−2−[1−オキソ−5−(3−ピリジルメトキシ)−1,2−ジヒドロイソキノリン−2−イル]ピリジン;
からなる群から選ばれる化合物またはそれらの薬理的に許容し得る塩があげられる。
【0046】
本発明の有効成分である化合物[I]は、そのジヒドロイソキノリン骨格上もしくは環式基A上に不斉炭素原子を有する場合、当該不斉炭素原子に基づく複数の立体異性体(ジアステレオマー異性体、光学異性体)として存在しうるが、本発明の有効成分には、これらのうちのいずれか1個の立体異性体またはその混合物のいずれもが包含される。
【0047】
上記化合物[I]の薬理的に許容し得る塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩又は臭化水素酸塩の如き無機酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩又はマレイン酸塩の如き有機酸塩があげられる。
【0048】
上記化合物[I]又はその薬理的に許容し得る塩は、既知の方法、例えば、EP748805B1、EP848000B1またはU.S.Pat.5342941記載の方法により得ることができる。
【0049】
有効成分である上記化合物[I]又はその薬理的に許容し得る塩の投与量は、患者の年齢、体重もしくは状態、或いは皮膚損傷の種類や程度によっても異なるが、通常、1日当り0.05〜100mg/wound、とりわけ0.1〜10mg/wound程度とするのが好ましい。その投与回数は必要に応じて適宜決定すればよく、例えば、創傷等が実質的に完治するまでの期間中、1日当り1〜4回、とりわけ1回とするのが好ましい。
【0050】
本発明の皮膚損傷治療剤は、優れた皮膚微小血管内皮細胞増殖促進作用を有し、これにより、各種の皮膚損傷、例えば、創傷(外傷性創傷、術後創傷等)、褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍を含む血管障害性皮膚潰瘍、糖尿病性皮膚潰瘍、外傷性皮膚潰瘍及び術後の皮膚潰瘍等)の治癒促進に使用することができる。
【0051】
また、本発明の有効成分である化合物[I]には、少なくとも皮膚損傷治療における有効投与量の範囲においては、局所投与にとって好ましくない作用(例えば、細胞毒性、光感作性等)を実質的に示さない化合物が包含される。このような化合物からなる皮膚損傷治療剤は安全性の面からも有用である。
【0052】
本発明の皮膚損傷治療剤には、有効成分である化合物[I]又はその薬理的に許容し得る塩に加えて、所望により、吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、着香料、分散剤、湿潤剤、安定剤、防腐剤、懸濁剤、界面活性剤等の医薬製剤用添加剤を単独もしくは2種以上を混合して配合することができる。
【0053】
吸収促進剤としては、例えば、炭素数20以下の1価アルコール(エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ステアリルアルコール等)、ピロリドン誘導体(2−ピロリドン、1−メチル−2−ピロリドン等)、尿素類(尿素、チオ尿素等)、シクロデキストリン(α−シクロデキストリン等)、メントール、1−ドデシルアザシクロヘプタン2−オン、チオグリコール酸カルシウム、リモネン等が挙げられる。該吸収促進剤の含有量は、剤型や基剤成分等によって異なるが、通常、吸収促進作用を効果的に発現させる観点からは、0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上とすることが望ましく、副作用発現抑制の観点からは、10重量%以下、好ましくは5重量%以下とすることが望ましい。
【0054】
pH調整剤の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸又はリン酸等の無機酸、酢酸、コハク酸、フマル酸又はリンゴ酸等の有機酸或いはこれら酸の金属塩等が挙げられる。該pH調整剤の配合量は、剤型や基剤成分等により異なるが、通常、製剤のpHが4〜8となるような範囲で配合するのが好ましい。
【0055】
保存剤の具体例としては、例えば、パラオキシ安息香酸、メチルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、パラオキシ安息香酸メチル等が挙げられる。
【0056】
着香料の具体例としては、例えば、メントール、ローズ油、ユーカリ油、d−カンフル等が挙げられ、また分散剤の具体例としては、例えば、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、無水ケイ酸等が挙げられる。
【0057】
湿潤剤の具体例としては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられ、また安定剤の具体例としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、トコフェロール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸等が挙げられる。
【0058】
懸濁剤の具体例としては、例えば、トラガント末、アラビアゴム末、ベントナイト、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられ、また、界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、セスキオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル等が挙げられる。
【0059】
本発明の皮膚損傷治療剤は、皮膚損傷部位への直接投与を目的とした外用剤として使用することができ、その剤形としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、リニメント剤、パップ剤、プラスター剤、パッチ剤、硬膏剤、ゲル剤、液剤等が挙げられる。
【0060】
前記剤型が軟膏剤又はクリーム剤である場合には、基剤として、油脂性基剤又は乳剤性基剤を用いることができる。
【0061】
油脂性基剤としては、例えば、炭化水素類(炭素数12〜32の炭化水素、流動パラフィン、白色ワセリン、スクワレン、スクワラン又はプラスチベース等)、高級アルコール(ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール又はオレイルアルコールの如き炭素数12〜30の脂肪族1価アルコール等)、高級脂肪酸(パルミチン酸又はステアリン酸の如き炭素数6〜32の飽和又は不飽和脂肪酸)、高級脂肪酸エステル(パルミチン酸ミリスチル又はステアリン酸ステアリルの如き脂肪酸エステル;ラノリン又はカルナウバロウの如き炭素数10〜32の脂肪酸と炭素数14〜32の脂肪族1価アルコールとのエステル;グリセリルモノラウリレートの如き炭素数10〜22の飽和もしくは不飽和脂肪酸とグリセリンとのエステル又はそれらの水素添加物等)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、植物油、動物油等が挙げられる。
【0062】
乳剤性基剤としては、例えば、水中油型基剤、油中水型基剤、懸濁型基剤等が挙げられる。水中油型基剤としては、界面活性剤の存在下又は非存在下で、前記ラノリン、プロピレングリコール、ステアリルアルコール、ワセリン、シリコン油、流動パラフィン、グリセリルモノステアレート、ポリエチレングリコール等の成分を水相中に乳化、分散せしめた基剤等が挙げられる。油中水型基剤としては、ワセリン、高級脂肪族アルコール、流動パラフィン等の成分に、非イオン性界面活性剤の存在下で、水を加え、乳化、分散せしめた基剤等が挙げられる。また、懸濁性基剤としては、水にデンプン、グリセリン、高粘度カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマーなどの懸濁化剤を加えてゲル状にした水性基剤等が挙げられる。
【0063】
本発明の皮膚損傷治療剤は、慣用の外用剤調製方法によって製造することができる。例えば、軟膏剤又はクリーム剤は、それぞれの剤型に応じて基剤の原料を混練、乳化又は懸濁せしめて基剤を調製した後、有効成分及び各種添加剤を加え、スクリューミキサー等の混合機中で混合することにより製造することができる。
【0064】
本発明の皮膚損傷治癒促進剤は、懸濁型、乳剤型もしくは溶液型ローション剤のいずれの剤形でも使用することができる。懸濁型ローションの基剤としては、アラビアゴム、トラガントゴム等のゴム類、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース類、ベントナイト等の粘土類の懸濁剤と水の混合物等が挙げられる。乳剤型ローションの基剤としては、水とステアリン酸又はオレイン酸等の脂肪酸、ステアリルアルコール又はセチルアルコールの如き高級アルコール等の油性物質を乳化させた基剤等が挙げられる。溶液型ローションの基剤としては、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール等のアルコール等が挙げられる。該ローション剤は、例えば、精製水に種々の基剤成分を添加して混合、攪拌した後、有効成分及び添加剤を加えて混合し、所望に応じて濾過を行なうことにより、製造することができる。
【0065】
リニメント剤のための基剤としては、例えば、オリーブ油等の植物油類、エタノールもしくはイソプロパノール等のアルコール類、或いはそれらと水との混合物等が挙げられる。該リニメント剤は、例えば、基剤に有効成分を溶解し、所望により、これに製剤用添加物を加えて混合することにより、製造することができる。
【0066】
パップ剤のための基剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールもしくはポリビニルピロリドン等の水溶性高分子化合物等が挙げられる。該パップ剤は、例えば、有効成分、基剤及び所望の製剤用添加物を混合し、加熱後冷却することにより、製造することができる。
【0067】
プラスター剤、パッチ剤又は硬膏剤のための基剤としては、例えば、不織布等の支持体、天然ゴム又はイソプレンゴム等の弾性体、亜鉛華、酸化チタン等の充填剤、テルペン樹脂等の粘着付与剤、酢酸ビニル等の剥離処理剤、流動パラフィン等の軟化剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の老化防止剤等を適宜組合わせて使用することができる。該プラスター剤、パッチ剤、硬膏剤等は、溶液法や熱圧法などの常法により製造することができる。
【0068】
液剤調製のための溶媒としては、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG400等)、プロピレングリコール、プロピレンカーボネート又はこれらの混合物等があげられる。また、該液剤は、ガーゼ、創面被覆材等に含浸させて使用することもできる。
【0069】
上記製剤中への有効成分の配合量は、剤形によっても異なるが、例えば、軟膏剤の場合には、0.0025〜5重量%、とりわけ0.005〜0.5重量%とするのが好ましく、また、液剤の場合には0.1〜200mg/mL、とりわけ0.2〜20mg/mLとするのが好ましい。
【0070】
本発明の皮膚損傷治療剤は、必要に応じ、他の創傷治療薬もしくは皮膚潰瘍治療薬と併用してもよく、また、要すれば、本発明の皮膚損傷治療剤中に、創傷等の皮膚損傷治癒促進効果が期待される他の生理活性物質(例えば、PDGF、TGF−α、TGF−β、bFGF、EGFもしくはKGFの如き増殖因子等)を配合してもよい。
【0071】
以下、実験例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明に係る有効成分である化合物[I]には、下記第1表(その1〜その11)記載の化合物が包含される。尚、該第1表記載のうち、その分子内に不斉炭素原子を含有する化合物は、それが光学活性体である旨の表示がない限り、いずれもラセミ混合物である。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
【表7】

【0079】
【表8】

【0080】
【表9】

【0081】
【表10】

【0082】
【表11】

【実施例】
【0083】
実験例1
[PDE4阻害薬の皮膚微小血管内皮細胞増殖促進作用/in vitro]
(方法)
各検体化合物の創傷治癒促進作用を、下記手順に従い、in vitro皮膚微小血管内皮細胞増殖作用を指標として検討した。内皮細胞としては、正常成人ヒト皮膚微小血管内皮細胞(Hybridoma(1996):15(4):p279−288)を使用した。
【0084】
上記内皮細胞懸濁液(2×10 cells/mL、Cryo HMVEC−Ad、Cambrex製)を48穴プレートに250μL/wellで播種した。該細胞を増殖用培地(ブレットキットEGM−2−MV:Cambrex製)で1日培養した後、培地を測定用培地(450μL、ブレットキットEGM−2−MV(bFGF、EGF及びVEGFフリー))に交換する。検体化合物を0.1%(v/v)ジメチルスルホキシド含有水に溶解させた溶液(50μL)を各ウェルに添加して96時間培養する。培養終了後、培養液を吸引除去し、0.05%トリプシン−0.02%エチレンジアミン四酢酸を含むIsotonII(500μL、Beckmann−Coulter製)を添加し細胞を懸濁する。さらにIsotonII(5mL)を添加して11倍に希釈し、Coulter−CounterZ1(Beckmann−Coulter製)で細胞数を計測した。尚、陰性コントロールとして0.1%(v/v)ジメチルスルホキシド含有水のみを、また陽性コントロールとして、検体溶液に代えてbFGF溶液(0.1μg/mL培地)をそれぞれ添加して上記と同様にして内皮細胞の培養を行った。
(結果)
各検体の皮膚微小血管内皮細胞増殖作用を下記第2〜5表に示す。これらの結果から明らかな通り、いずれの検体化合物も0.1〜1μMでbFGF(0.1μg/mL培地)と同等以上の皮膚微小血管内皮細胞増殖促進作用を示した。
【0085】
【表12】

【0086】
【表13】

【0087】
【表14】

【0088】
【表15】

【0089】
実験例2
[PDE4阻害薬の創傷治癒促進作用/in vivo]
(方 法)
糖尿病自然発症雌性マウス(C57BL/KsJ−db/db Jcl、9週齢、体重30〜45g、1群当り4匹、日本クレア)を10〜12週齢になるまで予備飼育する。ペントバルビタール麻酔下でマウスの背部を剪毛し、エタノールで清拭後、背部正中部に円形(2cm)の皮膚全層欠損創を作製した。該創面に各検体化合物の生理食塩水溶液(20μL)を滴下投与した後、創面をポリウレタン製フィルムドレッシング(Bioclusive、ジョンソンエンドジョンソン製)で密封した。以後、創傷が完治するまでの間、検体化合物の投与、フィルムドレッシングの交換、創面の清拭及び創面積の測定を2〜4日間隔で行った。尚、対照群には、検体溶液に代えて生理食塩水(20μL)を投与した。
【0090】
(結 果)
結果を下記第6〜8表に示す。当該結果から明らかな通り、各検体投与群の創傷完治までに要した期間は、対照群に較べて有意に短かった。
【0091】
【表16】

【0092】
【表17】

【0093】
【表18】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の皮膚損傷治療剤は、各種の皮膚損傷、例えば、創傷(外傷性創傷、術後創傷等)、褥瘡、皮膚潰瘍(熱傷潰瘍、下腿潰瘍を含む血管障害性皮膚潰瘍、糖尿病性皮膚潰瘍、外傷性皮膚潰瘍及び術後の皮膚潰瘍等)の治癒促進に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]:
【化1】

[式中、Rは式:
【化2】

で示される置換ピリジル基、RはC1−6アルコキシ−C1−6アルキル基、R及びRは同一又は異なってC1−6アルコキシ基、Xは式:=N−で示される基又は式:
【化3】

で示される基、環式基Aは置換基を有していてもよい含窒素10員二環式複素環式基(該二環式複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよい)、並びに点線は二重結合の存在又は非存在を表す。]
で示されるピリジン化合物又はその薬理的に許容し得る塩を有効成分としてなる皮膚損傷治療剤。
【請求項2】
Rが式:
【化4】

で示される基であり、環式基Aにおける含窒素10員二環式複素環式基が、窒素原子以外に更に窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる異項原子を含有していてもよい含窒素10員二環式複素環式基(該複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよい)である請求項1記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項3】
環式基Aにおける含窒素10員二環式複素環式基が、キノリル基、イソキノリル基、キナゾリニル基、フタラジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基及びベンゾチアジニル基から選ばれる含窒素10員二環式複素環式基(該複素環式基は一部又は全部が水素化されていてもよい)である請求項2記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項4】
環式基Aが、水酸基、オキソ基、飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基置換C1−6アルコキシ基、ジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基及び飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基から選ばれる1個以上の基で置換されていてもよい含窒素10員二環式複素環式基である請求項3記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項5】
飽和もしくは不飽和含窒素6員複素単環式基がピリジル基、ジヒドロピリジル基、ピリミジニル基、モルホリノ基又はピペリジニル基である請求項4記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項6】
環式基Aが、少なくともオキソ基及び/又は水酸基で置換された含窒素10員二環式複素環式基である請求項4記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項7】
有効成分が、下記一般式[I−A]又は[I−B]:
【化5】

[式中、R11は式:
【化6】

で示される基、環式基Aは(1)水酸基及びピリジル基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(2)水酸基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(3)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ヘキサヒドロキノリル基、(4)水酸基、モルホリノ−C1−6アルコキシ基、ピリジル−C1−6アルコキシ基、ピペリジニル−C1−6アルコキシ基及びモルホリノ基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)イソキノリル基、(5)水酸基、ジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基、ピリジル基及びピリミジニル基から選ばれる基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)フタラジニル基、(6)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キナゾリニル基、(7)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノキサリニル基、或いは(8)水酸基で置換されていてもよいオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)ナフチリジニル基、R及びRは同一又は異なってC1−6アルコキシ基を表す。]
で示される化合物又はその薬理的に許容し得る塩である請求項6記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項8】
Rが式:
【化7】

で示される置換ピリジル基であり、Xが式:
【化8】

で示される基である請求項1記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項9】
がメトキシエチル基であり、R及びRがエトキシ基である請求項8記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項10】
Rが式:
【化9】

で示される置換ピリジル基であり、R及びRが同一又は異なって、メトキシ基及びエトキシ基から選ばれる基である請求項7記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項11】
環式基Aが(a)水酸基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キノリル基、(b)ピリジル−C1−6アルコキシ基及びモルホリノ−C1−6アルコキシ基から選ばれる基で置換されたオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)イソキノリル基、(c)ピリジル基、ピリミジニル基及びジ(C1−6アルキル)アミノフェニル基から選ばれる基で置換されたオキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)フタラジニル基、又は(d)オキソ基置換ジヒドロ(もしくはテトラヒドロ)キナゾリニル基である請求項10記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項12】
環式基Aが式:
【化10】

で示される基である請求項11記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項13】
2−(4−ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−1−イル)−4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]ピリジン;
4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]−2−(1−オキソ−1,2−ジヒドロ−5−(2−モルホリノエトキシ)−イソキノリン−2−イル)ピリジン;
4−[2,3−ビス(ヒドロキシメチル)−6,7−ジメトキシナフタレン−1−イル]−2−(1−オキソ−1,2−ジヒドロ−5−(3−ピリジルメトキシ)−イソキノリン−2−イル)ピリジン;
4−(3−ヒドロキシメチル−6,7−ジメトキシイソキノリン−1−イル)−2−[4−(3−ピリジル)フタラジン−1(2H)−オン−2−イル]ピリジン;及び
4−[(3S)−3−ヒドロキシメチル−3,4−ジヒドロ−6,7−ジメトキシイソキノリン−1−イル]−2−[1−オキソ−5−(3−ピリジルメトキシ)−1,2−ジヒドロイソキノリン−2−イル]ピリジン;
からなる群から選ばれる化合物またはそれらの薬理的に許容し得る塩を有効成分としてなる皮膚損傷治療剤。
【請求項14】
皮膚損傷が創傷である請求項1乃至13のいずれか1に記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項15】
皮膚損傷が褥瘡である請求項1乃至13のいずれか1に記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項16】
皮膚損傷が、熱傷潰瘍、下腿潰瘍を含む血管障害性皮膚潰瘍、糖尿病性皮膚潰瘍、外傷性皮膚潰瘍及び術後の皮膚潰瘍から選ばれる皮膚潰瘍である請求項1乃至13のいずれか1に記載の皮膚損傷治療剤。
【請求項17】
請求項1乃至13のいずれか1に記載の化合物又はその薬理的に許容し得る塩を有効成分としてなる皮膚微小血管内皮細胞増殖促進剤。

【公開番号】特開2006−151964(P2006−151964A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313669(P2005−313669)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000002956)田辺製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】