皮膜系の形成方法、該方法で形成される皮膜系及び被覆部品
【課題】金属基材上に設け熱サイクルに付したとき通常は割れたり剥げたりする厚さを有するようにセラミック皮膜全体をコロイド系プロセスで形成することができる、皮膜系及びコロイド系皮膜法を提供する。
【解決手段】表面領域12,16,18上に前駆体プライマー層を形成した後、前駆体プライマー層より厚い少なくとも1つの前駆体コーティング層14を前駆体プライマー層上に形成する。前駆体プライマー層は第1のセラミック材料の粒子と前駆体を含有している。前駆体コーティング層は第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の粒子と前駆体を含有している。その後、前駆体プライマー層と前駆体コーティング層を加熱して、それぞれ本質的に第1及び第2のセラミック材料の粒子とマトリックスからなるセラミック膜20とセラミック皮膜層をそれぞれ形成する。
【解決手段】表面領域12,16,18上に前駆体プライマー層を形成した後、前駆体プライマー層より厚い少なくとも1つの前駆体コーティング層14を前駆体プライマー層上に形成する。前駆体プライマー層は第1のセラミック材料の粒子と前駆体を含有している。前駆体コーティング層は第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の粒子と前駆体を含有している。その後、前駆体プライマー層と前駆体コーティング層を加熱して、それぞれ本質的に第1及び第2のセラミック材料の粒子とマトリックスからなるセラミック膜20とセラミック皮膜層をそれぞれ形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に皮膜系及びその堆積方法に関する。より具体的には、本発明は、ゾル(コロイド懸濁液)又はゾル−ゲルのようなコロイド系プロセス、特に金属基材上に堆積し熱サイクルに付したときに通常は割れたり剥げたりする厚さを有するセラミック皮膜全体がコロイド系プロセスで形成されるプロセスを用いてセラミック皮膜を形成する方法に関する。狭く調整された大きさ、反応性及び組成を有する粒子を含有するゾル又はスラリーから形成される限定された厚さのセラミック膜によって、亀裂及び剥落に対する抵抗力が増進される。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの最高タービン入口温度は、高温ガス通路部品、特に静翼及び動翼のようなタービン部品が高温ガス流の熱、酸化及び腐食の影響に耐えられ、かつ充分な機械的強度を維持できる能力によって制限される。従って、より高い温度及び応力で作動する高性能ガスタービンで満足に機能する部品に使用される進歩した材料系を見出す必要性が継続して存在している。一般的なアプローチは、部品の表面を環境的かつ熱的に保護性の皮膜系で保護することである。かかる皮膜系は通例、部品表面を環境的に保護すると共に、遮熱効果を提供するが酸化、侵食及び腐食に対する抵抗力は殆ど提供しない遮熱コーティング(TBC)に付着する金属ボンドコートを含んでいる。TBCは通例セラミック材料から形成され、その広く使用されている一例はイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。金属ボンドコートがセラミックTBCに付着し、下にある基材を保護する能力は通例、その表面上に、セラミックTBCをボンドコートに化学的に結合する酸化アルミニウム(アルミナ)の薄層のような付着性の酸化物スケールを形成することによって増進される。このために、様々なボンドコートが提案されており、その注目に値する例として、アルミニウム金属間化合物(主としてβ相ニッケルアルミナイド(β−NiAl)及び白金アルミナイド(PtAl))を含有する拡散皮膜、並びにMCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属及び/又は反応性金属である)のようなオーバーレイ皮膜がある。
【0003】
上記タイプの皮膜系の実用寿命は通例、高温で、ボンドコート上での酸化物スケールの過度の成長及びボンドコートとセラミックTBCとの界面域内に生じる欠陥のために限定される。熱の過渡的変化により誘発される応力と相俟った界面域の熱的に誘発された悪化、セラミックTBC及び金属ボンドコート及び基材の間の熱膨張の不一致、並びに酸化物の成長は最終的にTBCの剥落に至る。TBCの剥落抵抗性は、ボンドコート及びTBC(これらは通例溶射及び物理気相成長(PVD)、特に電子ビーム物理気相成長(EBPVD)のような技術によって設けられる)に対する加工処理上及び組成上の改変を通して相当進歩している。しかし、これらの技術は、比較的に高いコスト及び視線方向(line-of-sight)堆積に限定されるなどの短所及び制約がある。これらのうち後者は複雑な幾何学を有するノズルダブレットのような部品を保護する能力を複雑にする。
【0004】
これらの短所及び制約を克服するために探究されている1つのアプローチは、ゾル系プロセス及びコロイド系プロセス、例えばゾル−ゲル法を使用してTBCを堆積することである。当技術分野で周知のように、コロイド系プロセスでは、TBCとして所望のセラミックの金属アルコキシド、金属塩化物又は有機金属化合物のような液状前駆体の複数の層を堆積させる必要がある。この前駆体はまた所望のセラミックの粒子を含有していてもよい(コロイドといわれることが多い)。乾燥後、この堆積層を加熱して前駆体を所望のセラミックに変換する。前駆体層の堆積は浸漬、溶射、刷毛塗りなどによることができ、このため他の場合には視線方向プロセスによって被覆することが困難な表面の被覆が可能である。しかし、コロイド系プロセスで形成されたTBCその他のセラミック皮膜は通例低い引張付着及び亀裂を示す。例えば、図3及び図4の顕微鏡写真は、約100μmの厚さを有するYSZ TBCの劣悪な付着及び貫通亀裂(through-crack)を明らかに示している。このコーティングは、ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の前駆体としてそれぞれ塩化ジルコニウム六水和物(ZrOCl2−8H2O)及びイットリウムメトキシド(C9H21O6Y)を使用し、YSZ(8モル%のイットリア)の粒子(d50約130nm)を分散させて、ゾル−ゲル法によりPtAl拡散ボンドコート上に形成された。これらのコーティングはまた、熱サイクルに付したとき、図5の顕微鏡写真で明らかなように、早期に剥落する傾向がある。図5の顕微鏡写真は、図3及び図4のコーティングを形成するのに用いたのと同じプロセスで形成されたYSZ TBCを示している。このコーティングは、室温と約2000°F(約1090℃)の1時間のサイクルを使用した熱サイクルに付したものであり、約60サイクルの完了時に約20%の剥落に持ちこたえた。
【0005】
コロイド系皮膜の結合を高めるための進行中の試みがある。典型的な例として、基材表面を粗面化、酸化又はそのpHを調節して結合強度を増大する処理がある。これらの方法はある程度の成功しか収めなかったので、化学的に適合性のボンドコートを使用したり、TBCコーティングを堆積する前にアルミナの薄膜をボンドコートに付けたりするといったような追加及び代わりの工程も試されている。このうちの後者はTBCコーティング中への酸化物の成長を促進しようとするものである。しかし、これらの方法もまた限定された成功を収めたのみであり、その結果ゾル−ゲル法その他のコロイド系プロセスで設けられるセラミック皮膜は通例約50μm以下、多くは25μm未満の厚さに制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7282271号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属基材上に設け熱サイクルに付したとき通常は割れたり剥げたりする厚さを有するようにセラミック皮膜全体をコロイド系プロセスで形成することができる、皮膜系及びコロイド系皮膜法を提供する。限定された厚さを有し、狭く調整された大きさ、反応性及び組成を有するセラミック粒子を含有するように形成されたセラミック膜を含ませることによって、亀裂及び剥落に対する抵抗力が増進される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様では、本方法は、部品の表面領域の上にそれと接する前駆体プライマー層を形成し、次いで前駆体プライマー層の上にそれと接する少なくとも1つの前駆体コーティング層を形成することを含んでいる。前駆体プライマー層は、約30μm以下の厚さを有しており、主成分を有する第1のセラミック材料の前駆体及び第1のセラミック材料の粒子の分散物を含んでいる。前駆体プライマー層の粒子は約20〜約100nmのメジアン粒径(d50)を有する。前駆体コーティング層は、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有しており、第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含んでいる。次に、これらの前駆体プライマー及びコーティング層を加熱して、前駆体プライマー層からセラミック膜を、前駆体コーティング層からセラミック皮膜層を形成する。セラミック膜は30μm以下の厚さを有しており、本質的に第1のセラミック材料のマトリックス中の第1のセラミック材料の粒子からなる。セラミック皮膜層はセラミック膜よりも大きな厚さを有しており、本質的に第2のセラミック材料のマトリックス中の第2のセラミック材料の粒子からなる。
【0009】
本発明の別の態様は、上記方法で形成された皮膜系、並びにかかる皮膜系で保護される部品である。この皮膜系のセラミック皮膜層は、非限定例として、TBC、耐食性又は耐エロージョン性皮膜、ハーメチックシールなどであり、セラミック皮膜から恩恵を受けるガスタービン部品及び多種多様な他の部品に施工することができる。
【0010】
本方法及びその結果得られる皮膜系の注目に値する態様は、前駆体プライマー層の粒径及び厚さ並びに得られるセラミック膜の厚さが、セラミック皮膜層を少なくとも200μm以下の厚さで塗工したとき剥落に抵抗し熱サイクルを生き延びることができるセラミック皮膜層の充分な付着を達成するように限定されることである。このセラミック膜の有効性は、本発明のセラミック膜を有する皮膜系と有さない皮膜系を製造して試験することによって明らかにされ、本セラミック膜を含むものは含まないものより4倍以上長い熱サイクル寿命を示すことができる。本セラミック膜がコロイド系プロセスで塗工される厚いセラミック皮膜のための堅牢な基盤及び結合を提供できる能力によって、TBC及び同様な厚いセラミック皮膜を設けるのに広く使用されているが視線方向及びその他の幾何学的制約により制限されるPVDその他の典型的なプロセスと比べて重大なコストの利点を得ることができる。
【0011】
本発明のその他の態様及び利点は以下の詳細な説明からより良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、セラミック膜がセラミック皮膜を基材上の金属ボンドコートに付着している、本発明の一実施形態による皮膜系を有する基材の断面図を概略的に表す。
【図2】図2は、図1のセラミック膜及びセラミック皮膜の化学的組成の説明図である。
【図3】図3は、従来技術の手法に従ってゾル−ゲル法で形成されたセラミック皮膜の顕微鏡写真である。
【図4】図4は、図3のセラミック皮膜の拡大顕微鏡写真であり、堆積させたままのコーティング内の劣悪な付着及び貫通亀裂を明らかに示している。
【図5】図5は、図3のセラミック皮膜の熱サイクル後の顕微鏡写真であり、コーティングの亀裂及び剥落をさらに明らかに示している。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に従ってゾル−ゲルから形成されセラミック膜上に堆積させたセラミック皮膜の顕微鏡写真である。
【図7】図7は、図6のセラミック皮膜の拡大顕微鏡写真であり、セラミック皮膜が堆積させたままの状態で本質的に亀裂がなくセラミック膜に充分に付着していることを明らかに示している。
【図8】図8は、図6のセラミック皮膜の熱サイクル後の顕微鏡写真であり、セラミック皮膜が本質的に亀裂がなくセラミック膜に充分に付着したのままであったことを明らかに示している。
【図9】図9は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【図10】図10は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【図11】図11は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、ある部品10の金属基材領域12を概略的に表す。この部品10はガスタービンエンジン部品であることができ、その具体例としてはタービン動翼及びタービン静翼のような高温ガス通路部品があるが、その他の応用も予測可能であり、本発明の範囲内である。基材領域12は、金属ボンドコート16でこの基材領域12に付着した外側セラミック皮膜14を含む皮膜系によって保護されるものとして示してある。基材領域12は金属材料、例えばニッケル基又はコバルト基超合金であるのが好ましいが、他の様々な材料も本発明に従って保護することができる。図1は、ボンドコート16及びその下にある基材領域12に対するセラミック皮膜14の付着を増進するためにボンドコート16の表面上に連続した付着性の酸化物スケール18を有するボンドコート16を示す。酸化物スケール18はボンドコート16を酸化性雰囲気に曝すことにより形成することができ、従ってこのスケール18は熱成長酸化物(TGO)ということができる。酸化物スケール18の厚さはボンドコート16の組成及び加工処理法に応じて変化するが、約100〜約500nmの厚さが典型的であり許容可能である。ボンドコート16は皮膜系内に存在して下にある部品10の基材領域12に対して環境からの保護を提供するのが好ましいが、場合によっては基材領域12の組成が酸化、腐食又はその他の環境の攻撃源に対して充分に抵抗性であり及び/又はその表面上に連続した付着性の酸化物スケールを形成することができるのであればボンドコート16を省略することができよう。
【0014】
ボンドコート16は酸化性雰囲気に曝したときにその表面上に酸化物スケール18としてアルミナを形成することができるアルミニウムを含有する組成であるのが好ましいが、他のボンドコート組成の使用も想定される。ボンドコート16に好ましい組成としては、白金改質アルミナイド(PtAl)拡散皮膜又はβ相(NiAl)ニッケルアルミナイドオーバーレイ皮膜のようなアルミナイド皮膜があるが、その他のボンドコート組成、例えば、MCrAlXオーバーレイ皮膜合金(ここでMは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属及び/又は反応性金属である)の使用も想定される。当技術分野では公知のように、ボンドコート16が拡散アルミナイド皮膜であれば、ボンドコート16を形成するのに適切な方法は、アルミニウムを堆積させ、基材領域12の表面中に拡散させて基材領域12の表面上及びその下にアルミナイド金属間化合物を形成することである。ボンドコート16がオーバーレイ皮膜である場合、ボンドコート16に望ましい組成物はプラズマ溶射又は別の物理気相成長(PVD)法により、基材領域12との相互拡散を最小にして基材領域12の表面上に直接堆積させることができる。その他のプロセスも基材領域12にボンドコート16を付けるのに使用することができると考えられる。ボンドコート16の厚さはその組成及び種類に依存する。PtAl及びNiAlボンドコートの場合、典型的な厚さは約20μm以下、例えば約4〜約12μmである。その組成及び堆積法を含めてボンドコートのその他の面は従来技術で周知であり、従ってここではさらに詳細に記載はしない。
【0015】
セラミック皮膜14は遮熱コーティング(TBC)、耐食性又は耐エロージョン性皮膜、ハーメチックシール又はその他の付着性のセラミック皮膜を利用することができるあらゆる用途に使用することができる。TBCとして典型的な材料としては、セラミック、特にイットリア(Y2O3)(例えば、約4〜約20重量%のイットリア)で少なくとも部分的に安定化されたジルコニア(ZrO2)があるが、他の又は追加の安定剤の使用も本発明の範囲内である。約7重量%(約4モル%)のイットリアで部分的に安定化されたジルコニアはその低い熱伝導率、安定性、良好な機械的特性及び耐磨耗性の組合せのために最も広く使用されているTBC材料であり、従って本発明のセラミック皮膜14に特に適したセラミック材料であると考えられるが、4モル%未満及び4モル超のイットリア含量も本発明の範囲内である。TBCとして使用する場合、セラミック皮膜14の厚さは通例約250μm〜約750μmの範囲であるが、それより薄い又は厚い厚さも想定される。
【0016】
本発明の好ましい態様では、セラミック皮膜14はゾル−ゲル系、コロイド系又はスラリー系プロセスにより形成される。このプロセスでは、コーティング14として所望のセラミック材料の前駆体を含有する溶液を塗工して少なくとも1つ、好ましくは複数の前駆体コーティング層を形成し、これを次に熱加工して前駆体をセラミック材料に変換する。ゾル−ゲル法に特に適した前駆体としては、限定されることはないが、アセチルアセトネート、オキシ塩化物−ヒドロキシ酸化物、硝酸塩及び有機金属化合物がある。この前駆体は、前駆体コーティング層の熱加工後セラミック皮膜14内に分散したまま残存するセラミック粒子の分散物を含有するのが好ましい。以前は、ゾル−ゲル法で形成されるセラミック皮膜の厚さは、このコーティングが図3〜図5により証明されるように割れたり剥落したりする傾向があるので、多くの場合約10μm以下に厳しく制限されていた。特定の理論に縛られることは望まないが、図3〜図5の従来技術のゾル−ゲルTBCで堅牢な結合が欠如している理由は、主として、コロイド状の粒子が懸濁液中で下にある基材表面から遠過ぎ、粒子の反応性が表面と強い結合を形成するには不十分であるためと考えられる。
【0017】
本発明は、図1に概略的に表わされているように(正確な縮尺ではない)、ボンドコート16の上を覆いセラミック皮膜14と直接接触するセラミック膜20を皮膜系に含ませることによって、少なくとも200μm、好ましくは少なくとも約500μm以上の厚さでセラミック皮膜14が付着性であることを可能にすることを意図したものである。セラミック膜20はコロイド系、スラリー系又はゾル−ゲル系プロセスによって形成されるのが好ましく、すなわち、セラミック粒子をセラミック材料の前駆体中に分散させた後、得られたプライマー混合物をボンドコート16の表面に塗工して前駆体プライマー層を形成する。コロイド系及びスラリー系プロセスに特に適した前駆体としては、限定されることはないが、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル、ブチルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルプロピレン、フェノール樹脂、水溶性樹脂及びアルコール−可溶性樹脂がある。コロイド又はスラリーに基づくプライマー混合物は種々のやり方で、例えば、溶射、ディップコーティング又は刷毛塗りのようなゾル−ゲルに基づく塗工法の代表的なもので塗工することができ、その後得られた前駆体プライマー層を加熱して前駆体を変換して、分散したセラミック粒子を含有するセラミック材料のマトリックスを形成する。前駆体プライマー層の粒径及び厚さ並びに得られるセラミック膜20の厚さを制限するとセラミック皮膜14の劇的に改良された付着が達成された。粒子の組成、反応性及び表面形態も関連があると考えられる。粒子の組成及び反応性は、おそらくは改良された熱成長酸化物スケール18の結果として、セラミック皮膜14の化学的結合を高めると考えられる。さらに、セラミック膜20と酸化物スケール18との間の結合、並びにセラミック膜20とセラミック皮膜14との間の結合の程度及び強さは、セラミック膜20の組成及び厚さによって調節されると考えられる。
【0018】
セラミック膜20及びコーティング14は同じ主成分を有するものとして形成することができ、好ましくはそのように形成するにもかかわらず、セラミック膜20はセラミック皮膜14及びコーティング14を形成するあらゆる層と物理的に区別できる。例えば、両者が、イットリア、例えば約4〜約20重量%のイットリアで少なくとも部分的に安定化されたジルコニアを使用する場合のように、モル%で他のあらゆる個々の構成成分より多くのジルコニアを含有していてもよい。具体例として、セラミック膜20及びコーティング14は両者とも同一のモル%のイットリアを含有するYSZからなるセラミックマトリックスを有し得る。図2に示すようにそれらのマトリックスが両者とも主としてジルコニアであっても、セラミック膜20がコーティング14の適当な付着を達成することができる酸化物スケール18の熱成長を増進するためには、セラミック膜20内に分散した粒子(図2には示していない)がコーティング14内に分散した粒子とは異ならなければならない。この差違は、セラミック膜20とコーティング14の最初に設けた層とが両方ともゾル−ゲル(コロイドに基づく)プロセスで形成されていても、またセラミック膜20とコーティング14が同じマトリックス材料及び/又は同じ組成の粒子を含有していても、存在する。注目すべきことに、コーティング14の最初に設ける層の厚さを単に低減することにより、コロイド系プロセス(例えばゾル−ゲル)を用いて形成されたセラミック皮膜14の付着を増進する試みでは適当な付着が得られていない。
【0019】
以上のことに鑑み、本発明は、セラミック膜20が、限定された厚さを有し、コーティング14のマトリックス材料と同じであるか又はそうでなくても適合性である組成を有するマトリックスを含有し、かつセラミック膜20がコーティング14及び下にある金属の表面(例えば、ボンドコート16)とうまく結合できるようにする限定された大きさと特定の組成の粒子の分散物を含有していなければならない決定事項に基づいている。
【0020】
セラミック膜20が比較的厚いセラミック皮膜の金属基材への結合を高める能力はセラミック皮膜14及びセラミック膜20のマトリックス及び粒子の組成としてYSZを用いて立証されているが、その他のコーティング組成もセラミック膜20の恩恵を受けると考えられる。セラミック膜20を含ませることで得られる秀でた付着は、例えば、ゾル−ゲル法により設けられたが熱サイクル試験において極めて早期に又は時期尚早に不合格となった図3〜図5のTBCコーティングと比較して増大した熱サイクル寿命及び引張付着強度によって立証された。様々な厚さのセラミック膜20を用いて実施した一連の試験において、セラミック膜20を組み込んだ皮膜系は増大した熱サイクル性能及び増大した引張付着を示したが、セラミック膜20をもたないがその他の点では組成及び構造において一致するコーティングは許容可能な引張付着レベルを示さないで熱サイクル中早期に剥落した。
【0021】
本発明に至ることになった研究において、本発明の範囲内のセラミック膜を有するコーティングともたないように製造した試片に対して熱サイクル(炉サイクル試験又はFCT)及び付着試験を行った。これらの皮膜系をPtAl又はNiAl金属間化合物から形成されたボタン上に設けた。セラミック皮膜及び(存在する場合は)セラミック膜のマトリックス用の前駆体溶液は、エチルセルロースとテルピネオールのバインダー混合物をそれぞれジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の前駆体としてのジルコニウム2,4−ペンタンジオネート及びイットリウム2,4−ペンタンジオネートと組み合わせて作成したゾル−ゲルであった。YSZ粒子を各々の前駆体溶液に分散してプライマー混合物又はコーティング混合物を形成した。
【0022】
この研究で、プライマー混合物(これは、堆積及び変換後、図1のセラミック膜20のようなセラミック膜を形成する)を形成するために前駆体溶液と組み合わせたYSZ粒子は、約4モル%のイットリアを含有するYSZをプライマー混合物の約5〜約40重量%の量で含んでいた。メジアン粒径(d50)は約20〜約150nmの範囲、粒子表面積は約9〜約20m2/gの範囲、そして粒子結晶粒径は約5〜約50nmの範囲であった。プライマー混合物(並びに、従って前駆体プライマー層及び得られるセラミック膜)の粒子は、その小さい一次粒子径、低い結晶性及び高い反応性(表面積及び結晶粒径に帰因する)によって選択した。これは、粒子の焼結可能性を促進するため、かつボタン試片上の熱成長酸化物(TGO)スケールに対するより堅牢な結合を増進するために理論付けられた。
【0023】
この研究でコーティング混合物を形成する(そして、堆積及び変換後、共同して図1のセラミック皮膜14のようなセラミック皮膜を定める個々のセラミック層を形成する)ために前駆体溶液と組み合わせたYSZ粒子は、約4モル%のイットリアを含有するYSZをコーティング混合物の約10〜約40重量%の量で含んでいた。メジアン粒径(d50)は約50nm〜約10μmの範囲であり、粒子表面積は約11〜約117m2/gの範囲であった。上記プライマー混合物の粒子と比較して、コーティング混合物(並びに、従って、前駆体コーティング層及び得られるセラミック皮膜)の粒子は、より低い反応性及びより低い焼結可能性となるように選択した。これは、理論により、収縮を調節し、前駆体コーティング層からセラミック皮膜層への変換中の層割れを低減するであろう。
【0024】
プライマー及びコーティング混合物の堆積に先立って、ボタンを2時間の酸化処理にかけて約100〜約250nmの厚さを有するアルミナスケールを作成した。皮膜系中にセラミック膜を組み込ませる予定のボタンに対して、溶射により各々のボタン上にプライマー混合物を堆積させて約4〜約20μmの厚さを有する単一の層を形成した。全てのボタンに対して、溶射によりコーティング混合物を堆積させて、各々が約6〜約12μmの厚さを有する複数の層を形成した。コーティングにより、約150℃の温度で約15分の持続時間の間1以上の硬化処理を行って溶媒を除くと共にプライマー及びコーティング混合物中のバインダーを硬化させて、プライマー混合物でコートされてないボタン試片の酸化した表面上に直接蓄積された個々の前駆体コーティング層及びプライマー混合物でコートされたボタン試片の前駆体プライマー層の表面上に直接蓄積された個々の前駆体コーティング層を得た。その後、ボタンを約1000℃で熱処理にかけてバインダーを焼失させると共に前駆体を変換して、それぞれのYSZ粒子の分散物を含有する本質的に同じYSZマトリックスを有するセラミック皮膜層(前駆体コーティング層から形成される)及び、存在する場合には、セラミック膜(前駆体プライマー層から形成される)を得た。得られたセラミック膜は約4〜約20μmの厚さを有し、個々のセラミック皮膜層は約6〜約12μmの厚さを有しており、これらの個々のセラミック皮膜層は共同して約100〜約500μmの厚さを有するセラミック皮膜を形成していた。
【0025】
熱サイクル研究の試験条件は、室温と約2000°F(約1090℃)との1時間のサイクルを含んでいた。その皮膜系が約20%の剥落に持ちこたえたら個々のボタンを熱サイクルから外した。皮膜系の付着強度(ボタンの表面に対して垂直)は公知の引張付着試験技術を用いて測定した。すなわち、引張破壊が起こるまで増大していく引張荷重をかけた。
【0026】
選択された試験片及び研究の結果を図9、10及び11の表I、表II及び表IIIに要約して示す。表I、表II及び表IIIで、東ソー4YM−1及び東ソー4YMは約4モル%のイットリアで安定化されたジルコニアの粉末を表す(以下、M%YSZという表記を用いて、モル%のイットリア含量を示す)。これらの粉末は、東ソー(株)から得られたものであり、約25nmの一次結晶粒径を有していた。これをミルで粉砕して約60nmの平均粒径(d50)を得た。また、表I、表II及び表IIIで、Unitec 4YはUnitec Ceramics社からUnitec−0001Hという表示で市販されている4M%YSZ粉末(一次結晶粒径約12nm、平均粒径(d50)約250nm)であり、MELox 3YはMEL Chemicals社から市販されている3M%YSZ粉末(一次結晶粒径約62nm、平均粒径(d50)約250nm)であり、東ソー4Y焼成は、緩く集合した粉末として粒子を部分的に焼結するため上記東ソー4YMを約1100℃焼成で熱処理した後のものである。V−0006は市販のポリマーバインダー系である。表I、表II及び表IIIに記載した層の数は硬化工程の前に堆積させた層の数を示し、各々の層は一回の溶射で形成された。上述したように、堆積後全ての試料は約1000℃で処理して、バインダーを焼失すると共に前駆体プライマー及びコーティング層を変換した。
【0027】
表I及びIIのデータは、FCT寿命が、皮膜系に組み込まれたセラミック膜の存在によって(表II)、セラミック膜を欠く皮膜系(表I)と比較して約2〜約4倍改良されたことを明らかに示している。また、30μmを超える厚さのセラミック膜(表には示してない)は、焼成中の容積収縮の結果壊れ、そのためFCT試験中にその上を覆っているセラミック皮膜の剥落が生じた。図6及び図7は、この研究中に製造し試験した皮膜系の1つを例示している。この皮膜系は、厚いセラミック皮膜(約150μm)が薄いセラミック膜(約8μm)の上を覆っている。セラミック皮膜(図1のセラミック皮膜14に対応する)は、メジアン粒径(d50)が約50〜約250nmで、粒子表面積が約40〜約100m2/gのUnitec−001H YSZ粒子を約30重量%含有するYSZマトリックスを有する。セラミック膜(図1のセラミック膜20に対応する)は、セラミック皮膜と同じYSZマトリックスを有しているが、メジアン粒径(d50)が約40〜約70nmで、粒子表面積が約15〜約20m2/gの東ソー4YM YSZ粒子を約20重量%含有していた。図6及び図7に示した堆積したまま及び焼成した状態で、セラミック皮膜は、亀裂がなくセラミック膜に十分に付着していることを見ることができ、これは図3及び図4の従来技術の皮膜系と全く対照的である。熱サイクル試験に付した場合、このコーティングは、図8から明らかなように、100回の熱サイクルの完了後切断したときに亀裂がなく充分に付着していた。かかる結果もまた、図5に示した従来技術の皮膜系と対照的である。
【0028】
本研究の結果から、少なくとも500μmの厚さのセラミック皮膜14が、堆積したままの状態で亀裂がなくかつ十分に付着し、また許容可能な熱サイクル及び付着特性を示すことができるためには、セラミック膜20内の粒子の組成、反応性、大きさ及び表面形態学並びにセラミック膜20の厚さを慎重に制御しなければならないと結論された。特に、セラミック膜20内のセラミック粒子は約20〜約100nm、さらに好ましくは約50〜約100nmのメジアン粒径(d50)を有するのが好ましいという結論を得た。前駆体プライマー層では粒子が約10〜約40重量%を構成するのが好ましく、セラミック膜20では粒子が約15〜約30重量%、さらに好ましくは約20〜約25重量%を構成するのが好ましい。さらに、前駆体プライマー層を30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは約4〜約20μmの厚さで堆積させて、30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは約4〜約20μmの厚さを有するセラミック膜を得るべきであると結論された。これらの制限が満たされると、ゾル−ゲル又はその他の適切なコロイド系皮膜混合物を堆積させることにより、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有する亀裂がなく充分に付着したセラミック皮膜14を形成して、セラミック膜よりも大きな厚さを有するセラミック皮膜14を得ることができる。TBCとして使用する場合、セラミック皮膜14及び薄膜20のセラミックマトリックス及び粒子として好ましい材料としてはYSZ、特に約4モル%のイットリアを含有するYSZがあり、セラミック皮膜14の厚さは通例少なくとも200μmであり、例えば約250〜約750μmの範囲、場合によってさらに好ましくは約250〜約500μmである。
【0029】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明して来たが、他の形態も当業者が採用することができるのは明白である。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0030】
10 部品
12 基材領域
14 コーティング
16 ボンドコート
18 スケール
20 薄膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に皮膜系及びその堆積方法に関する。より具体的には、本発明は、ゾル(コロイド懸濁液)又はゾル−ゲルのようなコロイド系プロセス、特に金属基材上に堆積し熱サイクルに付したときに通常は割れたり剥げたりする厚さを有するセラミック皮膜全体がコロイド系プロセスで形成されるプロセスを用いてセラミック皮膜を形成する方法に関する。狭く調整された大きさ、反応性及び組成を有する粒子を含有するゾル又はスラリーから形成される限定された厚さのセラミック膜によって、亀裂及び剥落に対する抵抗力が増進される。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの最高タービン入口温度は、高温ガス通路部品、特に静翼及び動翼のようなタービン部品が高温ガス流の熱、酸化及び腐食の影響に耐えられ、かつ充分な機械的強度を維持できる能力によって制限される。従って、より高い温度及び応力で作動する高性能ガスタービンで満足に機能する部品に使用される進歩した材料系を見出す必要性が継続して存在している。一般的なアプローチは、部品の表面を環境的かつ熱的に保護性の皮膜系で保護することである。かかる皮膜系は通例、部品表面を環境的に保護すると共に、遮熱効果を提供するが酸化、侵食及び腐食に対する抵抗力は殆ど提供しない遮熱コーティング(TBC)に付着する金属ボンドコートを含んでいる。TBCは通例セラミック材料から形成され、その広く使用されている一例はイットリア安定化ジルコニア(YSZ)である。金属ボンドコートがセラミックTBCに付着し、下にある基材を保護する能力は通例、その表面上に、セラミックTBCをボンドコートに化学的に結合する酸化アルミニウム(アルミナ)の薄層のような付着性の酸化物スケールを形成することによって増進される。このために、様々なボンドコートが提案されており、その注目に値する例として、アルミニウム金属間化合物(主としてβ相ニッケルアルミナイド(β−NiAl)及び白金アルミナイド(PtAl))を含有する拡散皮膜、並びにMCrAlX(式中、Mは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属及び/又は反応性金属である)のようなオーバーレイ皮膜がある。
【0003】
上記タイプの皮膜系の実用寿命は通例、高温で、ボンドコート上での酸化物スケールの過度の成長及びボンドコートとセラミックTBCとの界面域内に生じる欠陥のために限定される。熱の過渡的変化により誘発される応力と相俟った界面域の熱的に誘発された悪化、セラミックTBC及び金属ボンドコート及び基材の間の熱膨張の不一致、並びに酸化物の成長は最終的にTBCの剥落に至る。TBCの剥落抵抗性は、ボンドコート及びTBC(これらは通例溶射及び物理気相成長(PVD)、特に電子ビーム物理気相成長(EBPVD)のような技術によって設けられる)に対する加工処理上及び組成上の改変を通して相当進歩している。しかし、これらの技術は、比較的に高いコスト及び視線方向(line-of-sight)堆積に限定されるなどの短所及び制約がある。これらのうち後者は複雑な幾何学を有するノズルダブレットのような部品を保護する能力を複雑にする。
【0004】
これらの短所及び制約を克服するために探究されている1つのアプローチは、ゾル系プロセス及びコロイド系プロセス、例えばゾル−ゲル法を使用してTBCを堆積することである。当技術分野で周知のように、コロイド系プロセスでは、TBCとして所望のセラミックの金属アルコキシド、金属塩化物又は有機金属化合物のような液状前駆体の複数の層を堆積させる必要がある。この前駆体はまた所望のセラミックの粒子を含有していてもよい(コロイドといわれることが多い)。乾燥後、この堆積層を加熱して前駆体を所望のセラミックに変換する。前駆体層の堆積は浸漬、溶射、刷毛塗りなどによることができ、このため他の場合には視線方向プロセスによって被覆することが困難な表面の被覆が可能である。しかし、コロイド系プロセスで形成されたTBCその他のセラミック皮膜は通例低い引張付着及び亀裂を示す。例えば、図3及び図4の顕微鏡写真は、約100μmの厚さを有するYSZ TBCの劣悪な付着及び貫通亀裂(through-crack)を明らかに示している。このコーティングは、ジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の前駆体としてそれぞれ塩化ジルコニウム六水和物(ZrOCl2−8H2O)及びイットリウムメトキシド(C9H21O6Y)を使用し、YSZ(8モル%のイットリア)の粒子(d50約130nm)を分散させて、ゾル−ゲル法によりPtAl拡散ボンドコート上に形成された。これらのコーティングはまた、熱サイクルに付したとき、図5の顕微鏡写真で明らかなように、早期に剥落する傾向がある。図5の顕微鏡写真は、図3及び図4のコーティングを形成するのに用いたのと同じプロセスで形成されたYSZ TBCを示している。このコーティングは、室温と約2000°F(約1090℃)の1時間のサイクルを使用した熱サイクルに付したものであり、約60サイクルの完了時に約20%の剥落に持ちこたえた。
【0005】
コロイド系皮膜の結合を高めるための進行中の試みがある。典型的な例として、基材表面を粗面化、酸化又はそのpHを調節して結合強度を増大する処理がある。これらの方法はある程度の成功しか収めなかったので、化学的に適合性のボンドコートを使用したり、TBCコーティングを堆積する前にアルミナの薄膜をボンドコートに付けたりするといったような追加及び代わりの工程も試されている。このうちの後者はTBCコーティング中への酸化物の成長を促進しようとするものである。しかし、これらの方法もまた限定された成功を収めたのみであり、その結果ゾル−ゲル法その他のコロイド系プロセスで設けられるセラミック皮膜は通例約50μm以下、多くは25μm未満の厚さに制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7282271号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、金属基材上に設け熱サイクルに付したとき通常は割れたり剥げたりする厚さを有するようにセラミック皮膜全体をコロイド系プロセスで形成することができる、皮膜系及びコロイド系皮膜法を提供する。限定された厚さを有し、狭く調整された大きさ、反応性及び組成を有するセラミック粒子を含有するように形成されたセラミック膜を含ませることによって、亀裂及び剥落に対する抵抗力が増進される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様では、本方法は、部品の表面領域の上にそれと接する前駆体プライマー層を形成し、次いで前駆体プライマー層の上にそれと接する少なくとも1つの前駆体コーティング層を形成することを含んでいる。前駆体プライマー層は、約30μm以下の厚さを有しており、主成分を有する第1のセラミック材料の前駆体及び第1のセラミック材料の粒子の分散物を含んでいる。前駆体プライマー層の粒子は約20〜約100nmのメジアン粒径(d50)を有する。前駆体コーティング層は、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有しており、第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含んでいる。次に、これらの前駆体プライマー及びコーティング層を加熱して、前駆体プライマー層からセラミック膜を、前駆体コーティング層からセラミック皮膜層を形成する。セラミック膜は30μm以下の厚さを有しており、本質的に第1のセラミック材料のマトリックス中の第1のセラミック材料の粒子からなる。セラミック皮膜層はセラミック膜よりも大きな厚さを有しており、本質的に第2のセラミック材料のマトリックス中の第2のセラミック材料の粒子からなる。
【0009】
本発明の別の態様は、上記方法で形成された皮膜系、並びにかかる皮膜系で保護される部品である。この皮膜系のセラミック皮膜層は、非限定例として、TBC、耐食性又は耐エロージョン性皮膜、ハーメチックシールなどであり、セラミック皮膜から恩恵を受けるガスタービン部品及び多種多様な他の部品に施工することができる。
【0010】
本方法及びその結果得られる皮膜系の注目に値する態様は、前駆体プライマー層の粒径及び厚さ並びに得られるセラミック膜の厚さが、セラミック皮膜層を少なくとも200μm以下の厚さで塗工したとき剥落に抵抗し熱サイクルを生き延びることができるセラミック皮膜層の充分な付着を達成するように限定されることである。このセラミック膜の有効性は、本発明のセラミック膜を有する皮膜系と有さない皮膜系を製造して試験することによって明らかにされ、本セラミック膜を含むものは含まないものより4倍以上長い熱サイクル寿命を示すことができる。本セラミック膜がコロイド系プロセスで塗工される厚いセラミック皮膜のための堅牢な基盤及び結合を提供できる能力によって、TBC及び同様な厚いセラミック皮膜を設けるのに広く使用されているが視線方向及びその他の幾何学的制約により制限されるPVDその他の典型的なプロセスと比べて重大なコストの利点を得ることができる。
【0011】
本発明のその他の態様及び利点は以下の詳細な説明からより良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、セラミック膜がセラミック皮膜を基材上の金属ボンドコートに付着している、本発明の一実施形態による皮膜系を有する基材の断面図を概略的に表す。
【図2】図2は、図1のセラミック膜及びセラミック皮膜の化学的組成の説明図である。
【図3】図3は、従来技術の手法に従ってゾル−ゲル法で形成されたセラミック皮膜の顕微鏡写真である。
【図4】図4は、図3のセラミック皮膜の拡大顕微鏡写真であり、堆積させたままのコーティング内の劣悪な付着及び貫通亀裂を明らかに示している。
【図5】図5は、図3のセラミック皮膜の熱サイクル後の顕微鏡写真であり、コーティングの亀裂及び剥落をさらに明らかに示している。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に従ってゾル−ゲルから形成されセラミック膜上に堆積させたセラミック皮膜の顕微鏡写真である。
【図7】図7は、図6のセラミック皮膜の拡大顕微鏡写真であり、セラミック皮膜が堆積させたままの状態で本質的に亀裂がなくセラミック膜に充分に付着していることを明らかに示している。
【図8】図8は、図6のセラミック皮膜の熱サイクル後の顕微鏡写真であり、セラミック皮膜が本質的に亀裂がなくセラミック膜に充分に付着したのままであったことを明らかに示している。
【図9】図9は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【図10】図10は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【図11】図11は、本発明の完成に至る研究で得られた試験片及び結果をまとめて示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、ある部品10の金属基材領域12を概略的に表す。この部品10はガスタービンエンジン部品であることができ、その具体例としてはタービン動翼及びタービン静翼のような高温ガス通路部品があるが、その他の応用も予測可能であり、本発明の範囲内である。基材領域12は、金属ボンドコート16でこの基材領域12に付着した外側セラミック皮膜14を含む皮膜系によって保護されるものとして示してある。基材領域12は金属材料、例えばニッケル基又はコバルト基超合金であるのが好ましいが、他の様々な材料も本発明に従って保護することができる。図1は、ボンドコート16及びその下にある基材領域12に対するセラミック皮膜14の付着を増進するためにボンドコート16の表面上に連続した付着性の酸化物スケール18を有するボンドコート16を示す。酸化物スケール18はボンドコート16を酸化性雰囲気に曝すことにより形成することができ、従ってこのスケール18は熱成長酸化物(TGO)ということができる。酸化物スケール18の厚さはボンドコート16の組成及び加工処理法に応じて変化するが、約100〜約500nmの厚さが典型的であり許容可能である。ボンドコート16は皮膜系内に存在して下にある部品10の基材領域12に対して環境からの保護を提供するのが好ましいが、場合によっては基材領域12の組成が酸化、腐食又はその他の環境の攻撃源に対して充分に抵抗性であり及び/又はその表面上に連続した付着性の酸化物スケールを形成することができるのであればボンドコート16を省略することができよう。
【0014】
ボンドコート16は酸化性雰囲気に曝したときにその表面上に酸化物スケール18としてアルミナを形成することができるアルミニウムを含有する組成であるのが好ましいが、他のボンドコート組成の使用も想定される。ボンドコート16に好ましい組成としては、白金改質アルミナイド(PtAl)拡散皮膜又はβ相(NiAl)ニッケルアルミナイドオーバーレイ皮膜のようなアルミナイド皮膜があるが、その他のボンドコート組成、例えば、MCrAlXオーバーレイ皮膜合金(ここでMは鉄、コバルト及び/又はニッケルであり、Xはイットリウム、希土類金属及び/又は反応性金属である)の使用も想定される。当技術分野では公知のように、ボンドコート16が拡散アルミナイド皮膜であれば、ボンドコート16を形成するのに適切な方法は、アルミニウムを堆積させ、基材領域12の表面中に拡散させて基材領域12の表面上及びその下にアルミナイド金属間化合物を形成することである。ボンドコート16がオーバーレイ皮膜である場合、ボンドコート16に望ましい組成物はプラズマ溶射又は別の物理気相成長(PVD)法により、基材領域12との相互拡散を最小にして基材領域12の表面上に直接堆積させることができる。その他のプロセスも基材領域12にボンドコート16を付けるのに使用することができると考えられる。ボンドコート16の厚さはその組成及び種類に依存する。PtAl及びNiAlボンドコートの場合、典型的な厚さは約20μm以下、例えば約4〜約12μmである。その組成及び堆積法を含めてボンドコートのその他の面は従来技術で周知であり、従ってここではさらに詳細に記載はしない。
【0015】
セラミック皮膜14は遮熱コーティング(TBC)、耐食性又は耐エロージョン性皮膜、ハーメチックシール又はその他の付着性のセラミック皮膜を利用することができるあらゆる用途に使用することができる。TBCとして典型的な材料としては、セラミック、特にイットリア(Y2O3)(例えば、約4〜約20重量%のイットリア)で少なくとも部分的に安定化されたジルコニア(ZrO2)があるが、他の又は追加の安定剤の使用も本発明の範囲内である。約7重量%(約4モル%)のイットリアで部分的に安定化されたジルコニアはその低い熱伝導率、安定性、良好な機械的特性及び耐磨耗性の組合せのために最も広く使用されているTBC材料であり、従って本発明のセラミック皮膜14に特に適したセラミック材料であると考えられるが、4モル%未満及び4モル超のイットリア含量も本発明の範囲内である。TBCとして使用する場合、セラミック皮膜14の厚さは通例約250μm〜約750μmの範囲であるが、それより薄い又は厚い厚さも想定される。
【0016】
本発明の好ましい態様では、セラミック皮膜14はゾル−ゲル系、コロイド系又はスラリー系プロセスにより形成される。このプロセスでは、コーティング14として所望のセラミック材料の前駆体を含有する溶液を塗工して少なくとも1つ、好ましくは複数の前駆体コーティング層を形成し、これを次に熱加工して前駆体をセラミック材料に変換する。ゾル−ゲル法に特に適した前駆体としては、限定されることはないが、アセチルアセトネート、オキシ塩化物−ヒドロキシ酸化物、硝酸塩及び有機金属化合物がある。この前駆体は、前駆体コーティング層の熱加工後セラミック皮膜14内に分散したまま残存するセラミック粒子の分散物を含有するのが好ましい。以前は、ゾル−ゲル法で形成されるセラミック皮膜の厚さは、このコーティングが図3〜図5により証明されるように割れたり剥落したりする傾向があるので、多くの場合約10μm以下に厳しく制限されていた。特定の理論に縛られることは望まないが、図3〜図5の従来技術のゾル−ゲルTBCで堅牢な結合が欠如している理由は、主として、コロイド状の粒子が懸濁液中で下にある基材表面から遠過ぎ、粒子の反応性が表面と強い結合を形成するには不十分であるためと考えられる。
【0017】
本発明は、図1に概略的に表わされているように(正確な縮尺ではない)、ボンドコート16の上を覆いセラミック皮膜14と直接接触するセラミック膜20を皮膜系に含ませることによって、少なくとも200μm、好ましくは少なくとも約500μm以上の厚さでセラミック皮膜14が付着性であることを可能にすることを意図したものである。セラミック膜20はコロイド系、スラリー系又はゾル−ゲル系プロセスによって形成されるのが好ましく、すなわち、セラミック粒子をセラミック材料の前駆体中に分散させた後、得られたプライマー混合物をボンドコート16の表面に塗工して前駆体プライマー層を形成する。コロイド系及びスラリー系プロセスに特に適した前駆体としては、限定されることはないが、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリル、ブチルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルプロピレン、フェノール樹脂、水溶性樹脂及びアルコール−可溶性樹脂がある。コロイド又はスラリーに基づくプライマー混合物は種々のやり方で、例えば、溶射、ディップコーティング又は刷毛塗りのようなゾル−ゲルに基づく塗工法の代表的なもので塗工することができ、その後得られた前駆体プライマー層を加熱して前駆体を変換して、分散したセラミック粒子を含有するセラミック材料のマトリックスを形成する。前駆体プライマー層の粒径及び厚さ並びに得られるセラミック膜20の厚さを制限するとセラミック皮膜14の劇的に改良された付着が達成された。粒子の組成、反応性及び表面形態も関連があると考えられる。粒子の組成及び反応性は、おそらくは改良された熱成長酸化物スケール18の結果として、セラミック皮膜14の化学的結合を高めると考えられる。さらに、セラミック膜20と酸化物スケール18との間の結合、並びにセラミック膜20とセラミック皮膜14との間の結合の程度及び強さは、セラミック膜20の組成及び厚さによって調節されると考えられる。
【0018】
セラミック膜20及びコーティング14は同じ主成分を有するものとして形成することができ、好ましくはそのように形成するにもかかわらず、セラミック膜20はセラミック皮膜14及びコーティング14を形成するあらゆる層と物理的に区別できる。例えば、両者が、イットリア、例えば約4〜約20重量%のイットリアで少なくとも部分的に安定化されたジルコニアを使用する場合のように、モル%で他のあらゆる個々の構成成分より多くのジルコニアを含有していてもよい。具体例として、セラミック膜20及びコーティング14は両者とも同一のモル%のイットリアを含有するYSZからなるセラミックマトリックスを有し得る。図2に示すようにそれらのマトリックスが両者とも主としてジルコニアであっても、セラミック膜20がコーティング14の適当な付着を達成することができる酸化物スケール18の熱成長を増進するためには、セラミック膜20内に分散した粒子(図2には示していない)がコーティング14内に分散した粒子とは異ならなければならない。この差違は、セラミック膜20とコーティング14の最初に設けた層とが両方ともゾル−ゲル(コロイドに基づく)プロセスで形成されていても、またセラミック膜20とコーティング14が同じマトリックス材料及び/又は同じ組成の粒子を含有していても、存在する。注目すべきことに、コーティング14の最初に設ける層の厚さを単に低減することにより、コロイド系プロセス(例えばゾル−ゲル)を用いて形成されたセラミック皮膜14の付着を増進する試みでは適当な付着が得られていない。
【0019】
以上のことに鑑み、本発明は、セラミック膜20が、限定された厚さを有し、コーティング14のマトリックス材料と同じであるか又はそうでなくても適合性である組成を有するマトリックスを含有し、かつセラミック膜20がコーティング14及び下にある金属の表面(例えば、ボンドコート16)とうまく結合できるようにする限定された大きさと特定の組成の粒子の分散物を含有していなければならない決定事項に基づいている。
【0020】
セラミック膜20が比較的厚いセラミック皮膜の金属基材への結合を高める能力はセラミック皮膜14及びセラミック膜20のマトリックス及び粒子の組成としてYSZを用いて立証されているが、その他のコーティング組成もセラミック膜20の恩恵を受けると考えられる。セラミック膜20を含ませることで得られる秀でた付着は、例えば、ゾル−ゲル法により設けられたが熱サイクル試験において極めて早期に又は時期尚早に不合格となった図3〜図5のTBCコーティングと比較して増大した熱サイクル寿命及び引張付着強度によって立証された。様々な厚さのセラミック膜20を用いて実施した一連の試験において、セラミック膜20を組み込んだ皮膜系は増大した熱サイクル性能及び増大した引張付着を示したが、セラミック膜20をもたないがその他の点では組成及び構造において一致するコーティングは許容可能な引張付着レベルを示さないで熱サイクル中早期に剥落した。
【0021】
本発明に至ることになった研究において、本発明の範囲内のセラミック膜を有するコーティングともたないように製造した試片に対して熱サイクル(炉サイクル試験又はFCT)及び付着試験を行った。これらの皮膜系をPtAl又はNiAl金属間化合物から形成されたボタン上に設けた。セラミック皮膜及び(存在する場合は)セラミック膜のマトリックス用の前駆体溶液は、エチルセルロースとテルピネオールのバインダー混合物をそれぞれジルコニア(ZrO2)及びイットリア(Y2O3)の前駆体としてのジルコニウム2,4−ペンタンジオネート及びイットリウム2,4−ペンタンジオネートと組み合わせて作成したゾル−ゲルであった。YSZ粒子を各々の前駆体溶液に分散してプライマー混合物又はコーティング混合物を形成した。
【0022】
この研究で、プライマー混合物(これは、堆積及び変換後、図1のセラミック膜20のようなセラミック膜を形成する)を形成するために前駆体溶液と組み合わせたYSZ粒子は、約4モル%のイットリアを含有するYSZをプライマー混合物の約5〜約40重量%の量で含んでいた。メジアン粒径(d50)は約20〜約150nmの範囲、粒子表面積は約9〜約20m2/gの範囲、そして粒子結晶粒径は約5〜約50nmの範囲であった。プライマー混合物(並びに、従って前駆体プライマー層及び得られるセラミック膜)の粒子は、その小さい一次粒子径、低い結晶性及び高い反応性(表面積及び結晶粒径に帰因する)によって選択した。これは、粒子の焼結可能性を促進するため、かつボタン試片上の熱成長酸化物(TGO)スケールに対するより堅牢な結合を増進するために理論付けられた。
【0023】
この研究でコーティング混合物を形成する(そして、堆積及び変換後、共同して図1のセラミック皮膜14のようなセラミック皮膜を定める個々のセラミック層を形成する)ために前駆体溶液と組み合わせたYSZ粒子は、約4モル%のイットリアを含有するYSZをコーティング混合物の約10〜約40重量%の量で含んでいた。メジアン粒径(d50)は約50nm〜約10μmの範囲であり、粒子表面積は約11〜約117m2/gの範囲であった。上記プライマー混合物の粒子と比較して、コーティング混合物(並びに、従って、前駆体コーティング層及び得られるセラミック皮膜)の粒子は、より低い反応性及びより低い焼結可能性となるように選択した。これは、理論により、収縮を調節し、前駆体コーティング層からセラミック皮膜層への変換中の層割れを低減するであろう。
【0024】
プライマー及びコーティング混合物の堆積に先立って、ボタンを2時間の酸化処理にかけて約100〜約250nmの厚さを有するアルミナスケールを作成した。皮膜系中にセラミック膜を組み込ませる予定のボタンに対して、溶射により各々のボタン上にプライマー混合物を堆積させて約4〜約20μmの厚さを有する単一の層を形成した。全てのボタンに対して、溶射によりコーティング混合物を堆積させて、各々が約6〜約12μmの厚さを有する複数の層を形成した。コーティングにより、約150℃の温度で約15分の持続時間の間1以上の硬化処理を行って溶媒を除くと共にプライマー及びコーティング混合物中のバインダーを硬化させて、プライマー混合物でコートされてないボタン試片の酸化した表面上に直接蓄積された個々の前駆体コーティング層及びプライマー混合物でコートされたボタン試片の前駆体プライマー層の表面上に直接蓄積された個々の前駆体コーティング層を得た。その後、ボタンを約1000℃で熱処理にかけてバインダーを焼失させると共に前駆体を変換して、それぞれのYSZ粒子の分散物を含有する本質的に同じYSZマトリックスを有するセラミック皮膜層(前駆体コーティング層から形成される)及び、存在する場合には、セラミック膜(前駆体プライマー層から形成される)を得た。得られたセラミック膜は約4〜約20μmの厚さを有し、個々のセラミック皮膜層は約6〜約12μmの厚さを有しており、これらの個々のセラミック皮膜層は共同して約100〜約500μmの厚さを有するセラミック皮膜を形成していた。
【0025】
熱サイクル研究の試験条件は、室温と約2000°F(約1090℃)との1時間のサイクルを含んでいた。その皮膜系が約20%の剥落に持ちこたえたら個々のボタンを熱サイクルから外した。皮膜系の付着強度(ボタンの表面に対して垂直)は公知の引張付着試験技術を用いて測定した。すなわち、引張破壊が起こるまで増大していく引張荷重をかけた。
【0026】
選択された試験片及び研究の結果を図9、10及び11の表I、表II及び表IIIに要約して示す。表I、表II及び表IIIで、東ソー4YM−1及び東ソー4YMは約4モル%のイットリアで安定化されたジルコニアの粉末を表す(以下、M%YSZという表記を用いて、モル%のイットリア含量を示す)。これらの粉末は、東ソー(株)から得られたものであり、約25nmの一次結晶粒径を有していた。これをミルで粉砕して約60nmの平均粒径(d50)を得た。また、表I、表II及び表IIIで、Unitec 4YはUnitec Ceramics社からUnitec−0001Hという表示で市販されている4M%YSZ粉末(一次結晶粒径約12nm、平均粒径(d50)約250nm)であり、MELox 3YはMEL Chemicals社から市販されている3M%YSZ粉末(一次結晶粒径約62nm、平均粒径(d50)約250nm)であり、東ソー4Y焼成は、緩く集合した粉末として粒子を部分的に焼結するため上記東ソー4YMを約1100℃焼成で熱処理した後のものである。V−0006は市販のポリマーバインダー系である。表I、表II及び表IIIに記載した層の数は硬化工程の前に堆積させた層の数を示し、各々の層は一回の溶射で形成された。上述したように、堆積後全ての試料は約1000℃で処理して、バインダーを焼失すると共に前駆体プライマー及びコーティング層を変換した。
【0027】
表I及びIIのデータは、FCT寿命が、皮膜系に組み込まれたセラミック膜の存在によって(表II)、セラミック膜を欠く皮膜系(表I)と比較して約2〜約4倍改良されたことを明らかに示している。また、30μmを超える厚さのセラミック膜(表には示してない)は、焼成中の容積収縮の結果壊れ、そのためFCT試験中にその上を覆っているセラミック皮膜の剥落が生じた。図6及び図7は、この研究中に製造し試験した皮膜系の1つを例示している。この皮膜系は、厚いセラミック皮膜(約150μm)が薄いセラミック膜(約8μm)の上を覆っている。セラミック皮膜(図1のセラミック皮膜14に対応する)は、メジアン粒径(d50)が約50〜約250nmで、粒子表面積が約40〜約100m2/gのUnitec−001H YSZ粒子を約30重量%含有するYSZマトリックスを有する。セラミック膜(図1のセラミック膜20に対応する)は、セラミック皮膜と同じYSZマトリックスを有しているが、メジアン粒径(d50)が約40〜約70nmで、粒子表面積が約15〜約20m2/gの東ソー4YM YSZ粒子を約20重量%含有していた。図6及び図7に示した堆積したまま及び焼成した状態で、セラミック皮膜は、亀裂がなくセラミック膜に十分に付着していることを見ることができ、これは図3及び図4の従来技術の皮膜系と全く対照的である。熱サイクル試験に付した場合、このコーティングは、図8から明らかなように、100回の熱サイクルの完了後切断したときに亀裂がなく充分に付着していた。かかる結果もまた、図5に示した従来技術の皮膜系と対照的である。
【0028】
本研究の結果から、少なくとも500μmの厚さのセラミック皮膜14が、堆積したままの状態で亀裂がなくかつ十分に付着し、また許容可能な熱サイクル及び付着特性を示すことができるためには、セラミック膜20内の粒子の組成、反応性、大きさ及び表面形態学並びにセラミック膜20の厚さを慎重に制御しなければならないと結論された。特に、セラミック膜20内のセラミック粒子は約20〜約100nm、さらに好ましくは約50〜約100nmのメジアン粒径(d50)を有するのが好ましいという結論を得た。前駆体プライマー層では粒子が約10〜約40重量%を構成するのが好ましく、セラミック膜20では粒子が約15〜約30重量%、さらに好ましくは約20〜約25重量%を構成するのが好ましい。さらに、前駆体プライマー層を30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは約4〜約20μmの厚さで堆積させて、30μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは約4〜約20μmの厚さを有するセラミック膜を得るべきであると結論された。これらの制限が満たされると、ゾル−ゲル又はその他の適切なコロイド系皮膜混合物を堆積させることにより、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有する亀裂がなく充分に付着したセラミック皮膜14を形成して、セラミック膜よりも大きな厚さを有するセラミック皮膜14を得ることができる。TBCとして使用する場合、セラミック皮膜14及び薄膜20のセラミックマトリックス及び粒子として好ましい材料としてはYSZ、特に約4モル%のイットリアを含有するYSZがあり、セラミック皮膜14の厚さは通例少なくとも200μmであり、例えば約250〜約750μmの範囲、場合によってさらに好ましくは約250〜約500μmである。
【0029】
好ましい実施形態に関連して本発明を説明して来たが、他の形態も当業者が採用することができるのは明白である。従って、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0030】
10 部品
12 基材領域
14 コーティング
16 ボンドコート
18 スケール
20 薄膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品(10)上に皮膜系を形成する方法であって、
部品(10)の表面領域(12,16,18)の上にそれと接する厚さ30μm以下の前駆体プライマー層であって、主成分を有する第1のセラミック材料の前駆体及び約20〜約100nmのメジアン粒径を有する第1のセラミック材料の粒子の分散物を含む前駆体プライマー層を形成し、
前駆体プライマー層の上にそれと接する少なくとも1つの前駆体コーティング層であって、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有し、第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含む前駆体コーティング層を形成し、次いで
前駆体プライマー層及び前駆体コーティング層を加熱して、上記前駆体プライマー層から、30μm以下の厚さを有し、第1のセラミック材料のマトリックス中の第1のセラミック材料の粒子からなるセラミック膜(20)を形成するとともに、上記前駆体コーティング層から、上記セラミック膜(20)よりも大きな厚さを有し、第2のセラミック材料のマトリックス中の第2のセラミック材料の粒子からなるセラミック皮膜層(14)を形成することを特徴とする方法
【請求項2】
前駆体プライマー層及び前駆体コーティング層の少なくとも1つを、コロイド又はスラリーの塗工によって形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前駆体コーティング層を、ゾル−ゲルの塗工によって形成する、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
第1及び第2のセラミック材料がイットリアで安定化されたジルコニアを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
さらに、複数の追加の前駆体層を前駆体コーティング層上に形成することを含んでおり、追加の前駆体層が前駆体コーティング層より大きい合計厚さを有し、第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含んでおり、加熱工程により前記追加の前駆体層が本質的に第2のセラミック材料からなる追加のセラミック層(14)を形成し、セラミック皮膜層(14)及び追加のセラミック層(14)の合計厚さが少なくとも200μmである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
部品(10)上の表面領域(12,16,18)が部品(10)上の金属ボンドコート(16)からなる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
表面領域(12,16,18)がさらに酸化物スケール(18)を含んでおり、酸化物スケール(18)の上にそれと接する前駆体プライマー層を設ける、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
酸化物スケール(18)がアルミナを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
部品(10)がニッケル基又はコバルト基超合金から形成されたガスタービンエンジン部品(10)である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法によって形成される皮膜系。
【請求項1】
部品(10)上に皮膜系を形成する方法であって、
部品(10)の表面領域(12,16,18)の上にそれと接する厚さ30μm以下の前駆体プライマー層であって、主成分を有する第1のセラミック材料の前駆体及び約20〜約100nmのメジアン粒径を有する第1のセラミック材料の粒子の分散物を含む前駆体プライマー層を形成し、
前駆体プライマー層の上にそれと接する少なくとも1つの前駆体コーティング層であって、前駆体プライマー層よりも大きな厚さを有し、第1のセラミック材料と同じ主成分を有する第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含む前駆体コーティング層を形成し、次いで
前駆体プライマー層及び前駆体コーティング層を加熱して、上記前駆体プライマー層から、30μm以下の厚さを有し、第1のセラミック材料のマトリックス中の第1のセラミック材料の粒子からなるセラミック膜(20)を形成するとともに、上記前駆体コーティング層から、上記セラミック膜(20)よりも大きな厚さを有し、第2のセラミック材料のマトリックス中の第2のセラミック材料の粒子からなるセラミック皮膜層(14)を形成することを特徴とする方法
【請求項2】
前駆体プライマー層及び前駆体コーティング層の少なくとも1つを、コロイド又はスラリーの塗工によって形成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前駆体コーティング層を、ゾル−ゲルの塗工によって形成する、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
第1及び第2のセラミック材料がイットリアで安定化されたジルコニアを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
さらに、複数の追加の前駆体層を前駆体コーティング層上に形成することを含んでおり、追加の前駆体層が前駆体コーティング層より大きい合計厚さを有し、第2のセラミック材料の前駆体及び第2のセラミック材料の粒子の分散物を含んでおり、加熱工程により前記追加の前駆体層が本質的に第2のセラミック材料からなる追加のセラミック層(14)を形成し、セラミック皮膜層(14)及び追加のセラミック層(14)の合計厚さが少なくとも200μmである、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
部品(10)上の表面領域(12,16,18)が部品(10)上の金属ボンドコート(16)からなる、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
表面領域(12,16,18)がさらに酸化物スケール(18)を含んでおり、酸化物スケール(18)の上にそれと接する前駆体プライマー層を設ける、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
酸化物スケール(18)がアルミナを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
部品(10)がニッケル基又はコバルト基超合金から形成されたガスタービンエンジン部品(10)である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法によって形成される皮膜系。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−80149(P2011−80149A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226123(P2010−226123)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】
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