説明

真空シール構造、真空シール方法および真空装置

【課題】簡単な構造で作業性良く付け外しが可能であり、大型の機器であっても作業性良く真空容器内部に導入することができる真空シール構造、真空シール方法および真空装置を提供する。
【解決手段】真空容器の一部11の開口部11aに設けられた段差部12と、段差部12に並置されていて側端面に隙間20を有する複数のフランジ30と、隙間20に沿って形成されていて真空容器の一部11の大気側の面と複数のフランジ30の大気側の面および複数のフランジ30の大気側の面同士からなる真空シール面21を覆う弾性部材41とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器の真空シール技術について、真空シール構造、真空シール方法、および真空装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空シール構造として、例えば、図1に示す構造が知られている。この従来の真空シール構造は、真空容器の一部11に設けられた開口部11aと、その開口部11aにより形成される空間を塞ぐためのフランジ30と、これらの間に設けられたOリング40とで構成されており、Oリング40を挟持した真空容器の一部11とフランジ30がボルト52等の締結手段で固定されることにより真空容器内が気密に封止される。このような真空シール構造では、特許文献1乃至3に開示された例のように、真空容器外部から内部に配管、測定手段、電力供給手段等の機器を導入する場合に、これらの機器の一部をフランジ30に気密に貫通させてフィードスルーとしたものを真空容器の一部11に着脱自在に取り付けることができるため、機器の取り付けやメンテナンス等の作業が容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003‐229368号公報(段落0007、図5)
【特許文献2】特開2004‐106068号公報(段落0006、図1)
【特許文献3】特開2007‐128670号公報(段落0016、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、真空容器内部に導入して用いられる様々な機器の内、例えばプラズマ発生手段を真空容器内部に取り付けてプラズマ処理装置とする場合には、プラズマ処理をするための基板が一辺数メートルの大面積になることがある。そして、このような大面積の基板に対応するためには、処理面積の大きな大型のプラズマ発生手段を真空容器内部に導入することが望ましい。
【0005】
また、プラズマ発生手段として誘導結合型のプラズマを発生させるアンテナ、即ち、ラダー型、ループ型、平板型等のような平面導体であって大型のものを採用すると、一つのアンテナで大きな処理面積を得ることができる。このような平面導体は、通常、高周波電力を流すための給電電極および終端電極が平面導体の両端部近傍に設けられる。この給電電極および終端電極は、製造時やメンテナンス時における作業性を考慮すると、例示した特許文献1乃至3のように、フィードスルーとして気密に貫通するように設けられたフランジを介して、真空容器内部に取り付けられることが望ましい。
【0006】
しかしながら、前述したような大型の平面導体を、フランジを介して真空容器内部に取り付けると、その取り付け部となる給電電極および終端電極それぞれのフィードスルー間の距離は数メートルに及ぶことがある。このような場合に、従来の真空シール構造を用いて平面導体を真空容器内部に導入しようとすると、図2または図3に示す例のような構成をとらざるを得ない。ここで、開口部10aは、真空容器10に設けられている。給電電極81および終端電極82は、フランジ30にフィードスルーとして気密に貫通して設けられ、それぞれフランジ30付きフィードスルー83、84または85を形成している。フランジ30付きフィードスルー83および84は、開口部10aにより形成される空間を覆うようにして真空容器の一部10aに設置され、Oリング40およびボルト52を用いて真空シールされている。平面導体80は給電電極81および終端電極82に接続されている。
【0007】
即ち、図2に示す例ように、二つのフランジ付きフィードスルー83および84を別個に離して設けるか、あるいは、図3に示す例のように、平面導体80と同等の幅寸法を有する単一のフランジ30付きフィードスルー85を設ける必要がある。
【0008】
前者の図2に示す例では、フランジ30付きフィードスルー83および84を真空容器10外部から取り付けて真空シールした後に、真空容器10内部から給電電極81および終端電極82に平面導体80を接続する必要があるが、真空容器10内部での接続作業は、真空容器10内部の空間が狭いと作業性が悪い。一方、後者の図3に示す例では、予めフランジ30付きフィードスルー85に平面導体80を接続して一体化しておいたものを真空容器10外部から取り付けることができる。したがって、真空容器10内部での接続作業がないため作業性は良い。しかし、このようにフランジ30付きフィードスルー85と平面導体80を一体化したものは、平面導体80が大型になるにしたがいフランジ30も大型になるため、重量が著しく増大して取り扱いが困難になる点で作業性は悪い。
【0009】
このように、従来の真空シール構造では、真空容器10内部に大型の機器を導入しようとすると、真空容器10内部からの接続作業を要するか、フランジ30のサイズが大きくなって重量が取り扱い困難なようになるかして作業性が悪くなるという問題がある。大型の機器を真空容器10内部に導入するには、真空容器10外部で予め当該機器をフランジ30に取り付けておくことが望ましく、なおかつ、それは人手で取り扱えるような重量であることが望ましい。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡単な構造で作業性良く付け外しが可能で、例えばプラズマ処理手段のような大型の機器であっても作業性良く真空容器内部に導入することを可能にする真空シール構造、真空シール方法および真空装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の真空シール構造は、上記の課題を解決するために、真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間を気密封止するための真空シール構造であって、開口部に設けられた段差部と、段差部に並置されていて、側端面に隙間を有する複数のフランジと、隙間に沿って形成されていて、真空容器の一部の大気側の面と複数のフランジの大気側の面および複数のフランジの大気側の面同士からなる真空シール面を覆う弾性部材とを備えているようにしたものである。
【0012】
また、本発明の真空シール構造は、真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間を気密封止するための真空シール構造であって、開口部に設けられた段差部と、段差部に設置されていて、側端面に隙間を有するフランジと、隙間に沿って形成されていて真空容器の一部の大気側の面とフランジの大気側の面とからなる真空シール面を覆う弾性部材とを備えているようにしたものである。
【0013】
好ましくは、上記の複数のフランジが並置される構成を有する真空シール構造において、複数のフランジの並置されている方向とは直交する方向に複数の真空シール構造が並設されていてもよい。
【0014】
好ましくは、複数のフランジの並置方向におけるそれぞれのフランジの幅寸法は、同一でなくてもよい。
【0015】
好ましくは、真空シール面を構成する複数の面は、それぞれ同一平面上にあってもよい。
【0016】
好ましくは、真空シール面に弾性部材を設置するための凹部が設けられていてもよい。
【0017】
好ましくは、弾性部材が押さえ板により押圧されていてもよい。
【0018】
好ましくは、押さえ板のフランジと対向する領域に貫通口が設けられていても良い。
【0019】
好ましくは、弾性部材がシート状であってもよい。
【0020】
好ましくは、弾性部材には、隙間に挿入される突起部が設けられていてもよい。
【0021】
好ましくは、開口部およびフランジが曲面を含んでいてもよい。
【0022】
好ましくは、フランジの少なくとも一つにフィードスルーが設けられていてもよい。
【0023】
本発明の真空シール方法は、真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間から真空中で用いられる各種機器を真空容器内部に導入して空間を気密封止するための真空シール方法であって、各種機器の一部にフランジを取り付けた後に各種機器を空間から真空容器内部に導入し、フランジの側端面に隙間を有するようにフランジを開口部に設けられた段差部に設置することにより各種機器を前記フランジを介して真空容器の一部に支持させる第一のステップと、少なくとも一つの他のフランジを他のフランジの側端面に隙間を有するように段差部に設置することにより空間を塞ぐ第二のステップと、隙間に沿って形成されていて真空容器の一部の大気側の面と空間を塞ぐすべてのフランジの大気側の面とからなる真空シール面および空間を塞ぐすべてのフランジの大気側の面同士からなる真空シール面を弾性部材で覆う第三のステップとを備えているようにしたものである。
【0024】
本発明の真空装置は、前述した真空シール構造を備えているようにしたものである。
【0025】
本発明の真空装置は、導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す真空装置であって、真空排気されかつガスが導入される真空容器と、真空容器内に設けられていて基板を保持するホルダと、真空容器内にホルダの基板保持面に対向するように設けられる平面導体と、平面導体に取り付けられる給電電極および終端電極と、給電電極および終端電極を経由して平面導体に高周波電力を供給して平面導体に高周波電流を流す高周波電源と、上記の本発明の真空シール構造のうち複数のフランジからなるものと、を備え、真空シール構造において、給電電極および終端電極は、それぞれ別個のフランジに取り付けられていて、少なくとも一つのフランジが給電電極および終端電極に取り付けられたフランジの間に設置されているようにしたものである。
【0026】
好ましくは、給電電極および終端電極は、ブロック状であり、方形をなす平面導体のホルダとは反対側の裏面の両端部にそれぞれ取り付けられていて、平面導体に高周波電流を流す方向と直交する方向に延びていてもよい。
【0027】
本発明の真空装置は、導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す真空装置であって、真空排気されかつガスが導入される真空容器と、真空容器内に設けられていて基板を保持するホルダと、真空容器内にホルダの基板保持面に対向するように設けられる平面導体と、平面導体に取り付けられる給電電極と、平面導体に取り付けられる二つの終電電極と、給電電極および二つの終端電極を経由して平面導体に高周波電力を供給して平面導体に高周波電流を流す高周波電源と、上記の本発明の真空シール構造のうち複数のフランジからなるものと、を備え、真空シール構造において、給電電極および二つの終端電極は、それぞれ別個のフランジに取り付けられていて、少なくとも一つのフランジが給電電極および二つの終端電極に取り付けられたフランジの間にそれぞれ設置されているようにしたものである。
【0028】
好ましくは、給電電極および二つ終端電極は、ブロック状であり、二つの終端電極は、方形をなす平面導体のホルダとは反対側の裏面の両端部にそれぞれ取り付けられていて平面導体に高周波電流を流す方向と直交する方向に延びており、給電電極は、平面導体の裏面の中央部に取り付けられていて二つの終端電極と同じ方向に延びていてもよい。
【発明の効果】
【0029】
請求項2に記載の発明によれば、弾性部材が真空容器の一部の大気側の面とフランジの大気側の面との隙間近傍の面と広く気密に密着するので、真空シール構造が簡単でありながらも、真空容器内に高い真空度を確保することができる。しかも、フランジを真空容器に溶接やボルト等で固定しなくても良いので、付け外しが容易であり作業性良く真空シール構造を設けることができる。
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明と同様の効果に加えて次の更なる効果を奏する。即ち、真空容器の開口部の内側に複数のフランジが連続的に並置されるので、大型の機器を真空容器内部に導入するために、真空容器の開口部が例えば一辺数メートル以上の大型になる場合であっても、その開口部の閉塞を複数のフランジで分担することができる。したがって、フランジ一つ当りの重量を軽減するのでフランジの取り扱い性が良好になり、作業性良く真空シール構造を設けることができる。
【0031】
請求項3に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、真空シール構造が複数並設されているので、大型の機器を真空容器内部に複数接近させて導入する場合に、作業性良く真空シール構造を設けることができる。
【0032】
請求項4に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、複数のフランジのいずれかにフィードスルーを設けて各種機器を真空容器内に導入する場合には、そのフィードスルーを設けたフランジの幅寸法を小さくし、その分他のフランジの幅寸法を大きくすれば、機器付フランジが小型化・軽量化される。したがって、機器付フランジの取り扱い性および作業性を向上させることができる。
【0033】
請求項5に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、弾性部材の真空シール面に接触する部分を面一にし、弾性部材の形状がシンプルになるので、その加工や調達が容易になる。
【0034】
請求項6に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、弾性部材が凹み部の真空シール面に保持されるので、弾性部材を設置する際の位置決めが容易になる。
【0035】
請求項7に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、押さえ板が弾性部材と真空シール面との密着性を保持するので、真空容器内部が加圧になっても、その圧で弾性部材が浮き上がってずれることがない。また、真空シール構造を真空容器の側面に設ける場合には、フランジを真空容器に固定するので、フランジの脱落防止の用に供することができる。
【0036】
請求項8に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、押さえ板は、貫通口を設けることにより軽量化されるので、その取り扱い性が向上する。
【0037】
請求項9に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、シート状の弾性部材は、弾性部材と真空シール面との沿面距離を大きくするので、より確実に真空シールを実現することができる。
【0038】
請求項10に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、突起部が隙間の位置に保持されるので、組み立て作業時における弾性部材の位置決めが容易になり、作業性を向上させることができる。しかも、突起部がスペーサーとして機能し、フランジ同士の隙間に物理的に一定の距離を確保する。したがって、フランジ同士が擦れることがなくなり、その削りカスによる真空容器内へのコンタミネーションを防止することができる。
【0039】
請求項11に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、開口部およびフランジが曲面を含んでいても、可撓性の弾性部材が真空シール面の形状に追随して変形し、真空シール面に密着するので真空シールを実現することができる。このため、真空容器やフランジに取り付ける機器の形状に合わせて、真空シールの形状を柔軟に設計することができる。
【0040】
請求項12に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、真空容器内に、各種機器を作業性良く導入することができる。
【0041】
請求項13に記載の発明によれば、真空中で用いられる各種機器を真空容器内部に導入するときに、その取り付け部に予めフランジを取り付けておくことができ、なおかつ、そのフランジの大きさを小さくすることができる。それゆえ、本発明の真空シール構造は、大型の機器を真空容器内部に導入する際の真空容器内部からの機器の取り付け作業をなくすことができるとともに、フランジを小さくして軽量化することができるので、その作業性の向上を図ることができる。
【0042】
請求項14に記載の発明によれば、前述した本発明の真空シール構造を用いているので、簡単な構成で作業性良く真空装置を製造でき、その製造コストを低減することができる。
【0043】
請求項15に記載の発明によれば、前述した本発明の真空シール構造を用いているので、簡単な構成で作業性良く誘導電界によって生じるプラズマを用いて処理を施す真空装置を製造でき、その製造コストを低減することができる。
【0044】
請求項16に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、ブロック状の給電電極および終端電極を備えているので、平面導体において一様に高周波電力を供給することができ、大面積の基板に対するプラズマ処理が可能となる。
【0045】
請求項17に記載の発明によれば、前述した本発明の真空シール構造を用いているので、簡単な構成で作業性良く誘導電界によって生じるプラズマを用いて処理を施す二つの終端電極を有する真空装置を製造でき、その製造コストを低減することができる。
【0046】
請求項18に記載の発明によれば、次の更なる効果を奏する。即ち、ブロック状の給電電極および二つの終端電極を備えているので、平面導体において一様に高周波電力を供給することができ、より大面積の基板に対するプラズマ処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来の真空シール構造を示す断面図である。
【図2】従来の真空シール構造、真空シール方法および真空装置を示す断面図である。
【図3】従来の他の真空シール構造、真空シール方法および真空装置を示す断面図である。
【図4】本発明の真空シール構造の一実施形態を示し、図11(A)および図12(A)の平面図をY−Y方向に見た断面図である。
【図5】本発明の真空シール構造の一実施形態における開口部の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図6】本発明の真空シール構造の一実施形態における開口部の他の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図7】本発明の真空シール構造の一実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の真空シール構造の一実施形態を示し、(A)は断面図、(B)は下面図である。
【図9】本発明の真空シール構造の一実施形態におけるフランジの設置状態の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図10】本発明の真空シール構造一実施形態におけるフランジの設置状態の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図11】本発明の真空シール構造の一実施形態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図12】本発明の真空シール構造の一実施形態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図および図19(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図13】本発明の真空シール構造の一実施形態における弾性部材の例を示す断面図である。
【図14】本発明の真空シール構造の一実施形態における弾性部材の例を示す断面図である。
【図15】本発明の真空シール構造の一実施形態を示す断面図である。
【図16】本発明の真空シール構造の一実施形態における押さえ板の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図17】本発明の真空シール構造の一実施形態における押さえ板の例を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をX−X方向に見た断面図である。
【図18】本発明の真空シール構造の一実施形態を示す断面図である。
【図19】本発明の真空シール構造の一実施形態を示し、(A)は平面図、(B)は(A)の平面図をY−Y方向に見た断面図である。
【図20】本発明の真空シール方法の一実施形態を示し、(A)は第一のステップを示す断面図、(B)は第二のステップを示す断面図、(C)は第三のステップを示す断面図、(D)は他の実施形態を示す断面図である。
【図21】本発明の真空装置の一実施形態を示す断面図である。
【図22】図21中の平面導体周りの例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図23】本発明の真空装置の一実施形態を示す断面図である。
【図24】図23中の平面導体周りの例を示し、(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図25】図21中の平面導体周りの他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
(1)真空シール構造
図4にこの発明に係る真空シール構造の一実施形態を示す。この構造は、真空容器の一部11に設けられた開口部11aを気密封止するための真空シール構造である。
【0049】
図4において、11は真空容器の一部である。11aは開口部で、真空容器の一部11に設けられる。30はフランジで、開口部11aの内側に配置されて開口部11aにより形成される空間を塞ぐ。12は段差部で、開口部11aに設けられフランジ30と当接することによりフランジ30が真空容器の一部11aに支持される。20は開口部とフランジとの隙間である。21は真空シール面で、隙間20に沿って形成され真空容器の一部11の大気側の面とフランジ30の大気側の面、またはフランジ30の大気側の面同士からなる。41は弾性部材で、真空シール面21を覆う。
【0050】
このような構成では、弾性部材41が真空容器の一部11の大気側の面とフランジ30の大気側の面との隙間20、またはフランジ30の大気側の面同士からなる隙間20の近傍の面と広く気密に密着するので、真空シール構造が簡単でありながらも、真空容器内に高い真空度を確保することができる。しかも、フランジ30を真空容器の一部11に溶接やボルト等で固定しなくても良いので、付け外しが容易であり作業性良く真空シール構造を設けることができる。
【0051】
真空容器の一部11は、例えばアルミニウム、ステンレス、チタン等を含む金属製であるが、これに限られるものではなく、真空容器の耐圧や化学耐性等に応じて種々の材質を選択することができる。
【0052】
開口部11aは、真空容器の一部11に設けられた貫通口であって、その貫通口を形成する真空容器の一部11の断面領域をいう。開口部11aは真空容器のいずれの場所にあってもよい。
【0053】
図5(A)に示す例のように、開口部11aにより形成される空間は方形であってもよく、その他円形、楕円形等の曲面を含む形状であってもよい。このような曲面を含む開口部11aでは、その内側に設けられるフランジ30も、開口部11aの形状に対応した曲面を含むこととなる。
【0054】
また、開口部11aに設けられる段差部12は、開口部11aにより形成される空間が方形である場合には、対向し合う開口部11aの二対ある面の内、少なくとも一対の面に設けられていればよい。フランジ30は、少なくともその両端の二点で十分に支持されていれば安定して固定されるからである。
【0055】
図5(B)に示す例のように、開口部11aにおける真空容器の一部11の大気側の面からの段差部12の深さLは、フランジの厚み相当であることが好ましい。即ち、段差部12にフランジ30を当接させた場合に、真空容器の一部11の大気側の面とフランジ30の大気側の面とが、同一平面となるようにすることが好ましい。
【0056】
段差部12は、開口部11aの幅全域に設けてもよいが、図6に示す例のように、幅の短い段差部12をフランジ30の支持が可能な程度に、一定の間隔を空けて複数設けるようにしてもよい。このような段差部12では、図7に示す例のように、ねじ込み式のストッパー13を段差部12としてもよい。その他に、図8に示す例のように、はめ込み式のストッパー14を段差部12としてもよい。この例において、はめ込み式のストッパー14はC型であるが、これに限られずコの字型であってもよい。
【0057】
フランジ30は、例えばアルミニウムやステンレスの他、アルミナ、セラミックス、ガラス、ポリサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等の通称エンジニアリングプラスティック等を含む材料が用いられる。フランジ30は、図9に示す例のように、開口部11aの内側に嵌め込むようにして設けられる。ここで、フランジ30は、その真空側の面の一部が段差部12に当接して真空容器の一部11に支持される。
【0058】
フランジ30または段差部12が、セラミックス、ガラス等の機械的強度の弱い材質である場合には、フランジ30と段差部12との当たり面に図示しない樹脂等の緩衝材を挿入してもよい。
【0059】
一方、図10に示す例のように、フランジ30は、分割して開口部11aの内側に連続的に複数並置される構成とすれば、例えば一辺が数メートルであるような大型の開口部11aにより形成される空間に真空シール構造を設ける場合に好適である。当実施例の真空シール構造は、弾性部材41によって真空容器内部に通じる隙間20を真空容器の一部11の大気側の面とフランジ30の大気側の面で封止する構成であるので、複数のフランジ30を開口部11aの内側に連続的に並置しての真空シールが可能となる。たとえ並置するフランジ30の数が多くなったとしても、後述する真空シール面に合わせて成型した一体型の弾性部材41で隙間20を封止すればよいので、真空シール構造が簡単であり、その製造コストを安価にすることが可能となる。
【0060】
また、このような構成では、開口部11aにより形成される空間の閉塞を複数のフランジ30で分担し、フランジ30一つ当りの重量を軽減するので、フランジ30の取り扱い性が良好となる。したがって、開口部11aに作業性良く真空シール構造を設けることができる。隙間20は、フランジ30と開口部11aとの間の他にも、並置されている複数のフランジ30同士の間に前述した範囲の大きさで形成される。
【0061】
複数のフランジ30が並置される方向におけるそれぞれのフランジ30の幅寸法は、同一でなくてもよい。複数のフランジ30のいずれかにフィードスルーを気密に設けて各種機器を真空容器内に導入する場合には、そのフィードスルーを設けたフランジ30(機器付きフランジ)の幅寸法を小さくし、その分他のフランジ30の幅寸法を大きくすれば、機器付きフランジが小型化・軽量化される。したがって、機器付フランジの取り扱い性および作業性を向上させることができる。
【0062】
フランジ30に熱電対等の測定子、センサ、気体や流体の配管、電源やその他各種機器のフィードスルーを設けることにより、真空容器内部に様々な機器を導入することができる。フランジ30にフィードスルーを気密に設けるには、溶接やロー付け等の一般的な公知技術を用いればよい。
【0063】
フランジ30と開口部11aとの間、即ち、フランジ30の側面の周囲には隙間20が形成されている。隙間20の大きさは、0.5〜1mmの範囲であることが好ましいが、この範囲よりも大きくてもよく、その場合にはその隙間20を覆う弾性部材41の幅および厚みを適宜大きくすればよい。また、後述するが、弾性部材41に設けた突起部42を隙間20に挿入する場合には、隙間20の大きさは例えば5〜10mmの範囲であってもよい。
【0064】
一方、隙間20を設けない構成は好ましくない。この場合フランジ30と開口部11aおよび他のフランジ30との当たり面に閉じ込められたガスは、真空容器内部のガスを真空排気してもすぐには排出されないため、例えば、プラズマ処理用の真空装置に適用する場合には、そのガスがコンタミネーションの原因となるからである。段差部12とフランジ30との当たり面においても、上記と同様の現象が起こり得るが、この部分の当たり面の面積は小さく、また、真空容器内部の空間に直結している。したがって、当たり面に閉じ込められたガスは比較的容易に事前排出されるため、ガスコンタミネーションをもたらす可能性は低くなる。
【0065】
このようなガスコンタミネーションを確実に防止するためには、フランジ30と当接する側の段差部12の表面に、図示しない排気用の溝(スリット)を設けることが好ましい。しかも、スリットを設けることにより、隙間20の空間に存在するガスを効果的に排気することも可能となる。スリットは、段差部12が開口部11aの全周に設けられていて、隙間20の空間が真空容器内部に直結していないような場合には、当該空間に存在するガスの真空容器内部への排出口としても機能するので得に好ましい構成となる。
【0066】
図9に示す例のように、真空シール面21は、真空容器内部に通じる隙間20を気密に塞ぐために弾性部材41で覆われるべき面であり、隙間20の全領域に沿って、隙間20を形成するフランジ30の大気側の面と真空容器の一部11の大気側の面とで構成される。また、図10に示す例のように、複数のフランジ30を開口部11aの内側に並置する構成では、真空シール面21は、さらにフランジ30の大気側の面同士でも構成される。
【0067】
図11および図12に示す例のように、真空シール面21は、弾性部材41で覆われることにより当実施例の真空シール構造をなす。真空容器内部が真空になると、真空シール面21は弾性部材41と密着するので、真空容器の一部11に設けられた開口部11aにより形成される空間は気密に封止される。
【0068】
弾性部材41は、例えば、フッ素ゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、スチレンゴム等の汎用、真空シール用のゴム部材を用いることができ、その形状は、シート状であることが好ましい。このようなシート状の弾性部材41は、真空シール面21に角部がある場合であっても、確実に真空シール面21を覆い密着するので、安定した真空シールを実現することができる。なお、弾性部材41の真空シール面21と接する面にグリースを塗布すれば、弾性部材41と真空シール面21との密着性を向上させることができる。
【0069】
前述したように、真空シール面21を構成する真空容器の一部11およびフランジ30の大気側の面は、それぞれ同一平面上にあることが好ましい。しかし、図13に示す例のように、真空シール面21を構成する複数の面は、必ずしもそれぞれ同一平面上になくてもよい。このような場合には、真空シール面21に設けられる弾性部材41に、真空シール面21の形状に合わせて段差を設ける等適宜変更される。
【0070】
また、弾性部材41には、図14に示す例のように、隙間20に挿入される突起部42が設けられていてもよい。このような弾性部材41を用いると、真空シール面21の沿面距離が長くなるので、より確実な真空シールを実現することができる。しかも、突起部42が隙間20の位置に保持されるので、組み立て作業時における弾性部材41の位置決めが容易になり、作業性を向上させることができる。さらに、突起部42がスペーサーとして機能し、真空容器の一部11とフランジ30との隙間20およびフランジ30同士の隙間20に物理的に一定の距離を確保する。したがって、それらは擦れることがなくなり、その削りカスを原因とする真空容器内へのコンタミネーションを防止することができる。
【0071】
図15に示す例のように、真空シール面21は、弾性部材41を設置するための凹部22が設けられていることが好ましい。弾性部材41が凹部22の真空シール面21に保持されるので、弾性部材41を設置する際の位置決めが容易になる。また、凹部22は、弾性部材41の形状がシート状である場合には、真空シール構造の断面から見て四角形であることが好ましい。
【0072】
図16および図17に示す例のように、弾性部材41は、押さえ板50で押圧されていてもよい。押さえ板50は、例えばボルト52等で真空容器の一部11に固定される。弾性部材41は、押さえ板50で押圧されなくても、真空シール面21に気密に密着して真空シール面21を気密に封止するが、押さえ板50を設けると、押さえ板50が弾性部材41と真空シール面21との密着を保持するようになる。したがって、真空容器内部にガスを封入する等して真空容器内部が加圧になったとしても、その圧力で弾性部材41が浮き上がってずれることを防止することができる。また、フランジ30を真空容器の一部11に固定するので、真空シール構造を真空容器の側面に設ける場合には、フランジ30の脱落防止の用に供することができる。
【0073】
また、押さえ板50には、フランジ30の露出部と対向する領域に貫通口51が設けられていてもよい。このような貫通口51には、フランジ30から延びるフィードスルーの導出部分が通される。また、押さえ板50は、貫通口51を設けることにより軽量化されるので、取り扱い性が向上する。図16および図17で示した例では、押さえ板50のフランジ30の露出部と対向する全ての領域に貫通口51を設けているが、フィードスルーの導出部分を通すために必要な領域のみに貫通口51を設ける等、貫通口51の場所と大きさは目的に応じて適宜決めればよい。
【0074】
他の実施形態として、図18に示す例のように、フランジ31に開口部31aを設けて、開口部31aにより形成される空間に前述した真空シール構造を形成してもよい。このような構成は、熱電対等の測定子やパイプ等の比較的小型のフィードスルー33を設ける場合に適している。
【0075】
また、図19に示す例のように、一つの開口部11aにおいて複数のフランジ30の並置されている方向とは直交する方向に複数の開口部11aを並設し、それぞれに前述した真空シール構造を設けてもよい。この場合、複数の開口部11aを互いに接近するよう設ければ、隙間20の全てを一つの弾性部材41で覆うことが可能となる。もっとも、開口部11aのサイズや並設される数より作業性を考慮して開口部11aごとに一つの弾性部材41を用いてもよい。
【0076】
(2)真空シール方法
次に、本発明の真空シール構造を形成するための真空シール方法について説明する。
【0077】
前述したような真空中で用いられる各種機器、特に真空容器に出入りする長い配管や大型のプラズマ発生手段等の機器であって、機器の一部に取り付けた複数のフランジにおけるフィードスルー間の距離が長いものを真空容器内部に導入するには、開口部に複数のフランジを連続的に並置する本発明の真空シール方法が好適である。その例として、プラズマ発生手段である平面導体を真空容器内部に導入する場合の真空シール方法を図20を参照しながら説明する。
【0078】
図20Aは、当実施例の真空シール方法の第一のステップを示している。平面導体80は、その両端に給電電極81および終端電極82が設けられている。給電電極81および終端電極82は、それぞれ別個にフランジ30を気密に貫通してフィードスルーを形成しておりフランジ30と一体化している。このように、平面導体80は、予めフランジ30と一体化された状態で、真空容器外部から真空容器の一部11の開口部11aに設けられた段差部12に設置され、真空容器内部に導入される。このとき、二つのフランジ30と開口部11aとの間には、前述したような隙間20がそれぞれ形成されている。
【0079】
図20Bは、当実施例の真空シール方法の第二のステップを示している。給電電極81および終端電極82が設けられた二つのフランジ30の間の開口部11aにより形成される空間を塞ぐように、他のフランジ32が、まだフランジが設置されていない領域の段差部12に設置される。このとき、他のフランジ32と開口部11aおよび隣り合うフランジ30との間には、前述したような隙間20がそれぞれ形成されている。
【0080】
図20Cは、当実施例の真空シール方法の第三のステップを示している。開口部11aとフランジ30およびフランジ32との隙間20に沿って形成される真空シール面21を一つの弾性部材41で覆うことにより、真空シール構造が形成される。なお、図20Dに示す例のように、弾性部材41を押さえ板50で押圧した構成としてもよい。このとき、押さえ板50は、フランジ30およびフランジ32の露出部と対向する領域に貫通口51が設けられていてもよく、ボルト52等の締結手段によって真空容器の一部11に固定される。
【0081】
上記の例では、二つのフィードスルーを備える機器を用いたが、フィードスルーの数が一つあるいは三つ以上であっても当実施例の真空シール方法を適用することができる。また、他のフランジ32は、複数に分割して設けてもよい。
【0082】
このような真空シール方法を用いて大型の機器を真空容器内部に導入すると、その取り付け部に予めフランジ30を取り付けておくことができ、なおかつ、そのフランジ30の大きさを小さくすることができる。それゆえ、本発明の真空シール方法は、大型の機器を真空容器内部に導入する場合に、真空容器内部からの大型の機器の取り付け作業をなくすことができるとともに、フランジ30を小さくして軽量化することができるので、その作業性の向上を図ることができる。
【0083】
(3)真空装置
次に本発明の真空シール構造を備えた真空装置について説明する。
【0084】
前述した真空シール構造および真空シール方法は、真空装置一般に適用することができる。特に、開口部の内側に複数のフランジを連続的に並置する構成は、大型の機器を真空装置の真空容器内部に導入する場合に好適である。
【0085】
図21に真空装置として本発明の真空シール構造を備えたプラズマ処理装置の一実施形態を示す。
【0086】
この装置は、平面導体80に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマ3を生成し、当該プラズマ3を用いて基板60に処理を施す誘導結合型のプラズマ処理装置である。
【0087】
基板60は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットディスプレイ用のフレキシブル基板等であるが、これに限られるものではない。
【0088】
このプラズマ処理装置は、例えば金属製の真空容器10を備えている。真空容器10内部は、排気口15を通して図示しない真空排気装置によって真空排気される。
【0089】
真空容器10内部には、基板60に施す処理内容に応じたガス2が、ガス導入部16を通して導入される。例えば、プラズマCVDによって基板60に膜形成を行う場合は、ガス2は、原料ガスを希釈ガス(例えばH2)で希釈したガスである。
【0090】
真空容器10内部には、基板60を保持するホルダ61が設けられている。この例では、ホルダ61は軸63に支持されている。軸63が真空容器10を貫通する部分には、電気絶縁機能および真空シール機能を有する軸受部64が設けられている。この例のように、ホルダ61にバイアス電源70から軸63を経由して負のバイアス電圧を印加するようにしてもよい。バイアス電圧は負のパルス電圧でもよい。このようなバイアス電圧によって、例えば、プラズマ3中の正イオンが基板60に入射するときのエネルギーを制御して、基板60の表面に形成される膜の結晶化度を制御することができる。
【0091】
この例のように、ホルダ61内には、基板60を加熱するヒータ62を設けておいてもよい。基板60の周縁部には、当該周縁部に膜が形成されているのを防止するマスク(シャドーマスクとも呼ばれる)71を設けておいてもよい。マスク71の周辺部に、ガス2の流れを一様化すると共に、プラズマ3が基板60の保持機構等に達するのを防止する等のための仕切り板72を設けておいてもよい。
【0092】
真空容器10内部に、より具体的には真空容器10の天井面を構成するフランジ30および32の内側に、ホルダ61の基板保持面に対向するように、平面導体80が設けられている。平面導体80の形状は方形の他、曲面を有していてもよい。また、平面導体80は、板状であることが好ましいが、これに限られず、ラダー型、ループ型等の公知のアンテナであってもよい。
【0093】
平面導体80の材質は、例えば、銅、アルミニウム等であるが、これに限られるものではない。後述する給電電極81および終端電極82も同様である。
【0094】
平面導体80には、給電電極81および終端電極82が設けられる。給電電極81および終端電極82は、後述する高周波電源91からの高周波電流を平面導体80に流すためのものである。より具体的には、給電電極81は、平面導体80に高周波電源91からの高周波電流を整合回路92を介して供給するための接続部であり、終端電極82は、平面導体80の端部を直接またはキャパシタを介して接地部に接続し、高周波電源91から平面導体80にかけて高周波電流の閉ループを作るための接続部である。
【0095】
ここで、平面導体80の好ましい例として方形の平面導体80を用いて説明する。図22も参照して、方形の平面導体80の辺を特定するために互いに直交する二方向をX方向およびY方向とし、X方向を高周波電流1を流す方向とすると、平面導体80はX方向に平行な二辺80aおよびY方向に平行な二辺80bを有している。平面導体80は、長方形でも良いし、正方形でもよい。図22の平面導体80は長方形の場合の一例であり、この例ではX方向に平行な二辺80aが長辺であるが、これに限られる物ではない。平面導体80の平面形状を具体的にどのようなものにするかは、例えば、基板60の平面形状に応じて決めればよい。
【0096】
平面導体80のホルダ61側の面を表面、ホルダ61とは反対側の面を裏面と呼ぶと、平面導体80の裏面のX方向の両端部に、平面導体80の辺80bに沿ってY方向に延びているブロック状の給電電極81および終端電極82が取り付けられている。
【0097】
給電電極81および終端電極82のY方向の長さは、高周波電流1をY方向においてできるだけ一様に流すために、平面導体80のY方向に平行な辺80bの長さに近づける(例えば辺80bの長さと実質的に同じにする)のが好ましいけれども、辺80bの長さより幾分小さくてもよいし、大きくてもよい。数値で表せば、給電電極81および終端電極82のY方向の長さは、例えば、辺80bの85%以上の長さにすればよい。後述する他の例でも同様である。
【0098】
平面導体80のX方向の長さは、終端電極82でのインピーダンスの不整合で生じる反射力や、プラズマ生成時の誘電率の増加に伴う波長変化を考慮して、上記高周波電力の真空中における波長の1/8(13.56MHzの場合で2.75m)程度以下にするのが好ましい。そのようにすれば、給電電極81と終端電極82との間で定在波が生じにくくなり、定在波に起因してプラズマ密度分布がX方向において不均一になることを抑制することができる。
【0099】
この真空装置においては、前述したような平面導体80に加えて、前述したようなブロック状の給電電極81および終端電極82を備えているので、平面導体80にY方向において一様に高周波電力を供給することができ、大面積の基板に対するプラズマ処理が可能である。
【0100】
また、図23および図24に示す例のように、平面導体80の裏面のX方向の両端部に前述したような二つの終端電極82を取り付け、平面導体80の裏面の中央部に前述したような給電電極81を取り付けてもよい。そのようにすれば、定在波を抑制するためには、中央部の給電電極81と片方の終端電極82との間の距離を、高周波電力の波長に対して所定割合以下、例えば前述した1/8程度以下にすればよいので、同じように定在波発生を抑制する場合に、図21および図22に示した例に比べて、平面導体80のX方向の長さを約2倍まで大きくすることが可能となる。したがって、より大型の基板60に対応することが可能になる。
【0101】
給電電極81および終端電極82の形状は、平面導体80が前述したような板状導体ではなくラダー型やループ型等である場合にはブロック状に限られず、板状導体や導線であってもよい。また、取り付け位置は前述した平面導体80の裏面ではなく側面や表面であってもよい。
【0102】
給電電極81および終端電極82は、フィードスルーとしてそれぞれフランジ30に気密に貫通して取り付けられている。当該フランジ30は、絶縁物であることが好ましいが、絶縁物でなくても給電電極81と終端電極82との接触領域に絶縁処理がなされていればよい。
【0103】
フランジ30は、真空容器10に設けられた開口部10aの内側に設置され、開口部10aに設けられた段差部12に支持されている。真空容器10内部に導入された平面導体80は、給電電極81および終端電極82、フランジ30を介して真空容器10に取り付けられている。給電電極81および終端電極82が取り付けられているフランジ30の間には、さらに他のフランジ32が設置されている。給電電極81および二つの終端電極82を備えた構成でも同様に、給電電極81と終端電極82との間に他のフランジ32がそれぞれ設置されている。当該他のフランジ32は、一つであっても、分割して複数であってもよい。
【0104】
このような複数のフランジ30および32は、それぞれの間およびそれぞれの開口部10aとの間に隙間20を有するようにして並置されている。また、弾性部材41は、隙間20に沿って形成されている真空容器10の大気側の面とフランジ30および32の大気側の面との真空シール面(図示せず)と、フランジ30および32の大気側の面同士からなる真空シール面(図示せず)を覆っている。弾性部材41を押さえ板50で押圧してもよく、押さえ板50には、フランジ30および32の露出部と対向する領域に貫通口51が設けられていてもよい。
【0105】
また、複数のフランジ30および32が並置される方向におけるそれぞれのフランジの幅寸法は、同一でなくてもよい。真空シール面を構成する複数の面は、同一平面上にあってもよい。弾性部材41はシート状であってもよい。真空シール面には、弾性部材41を設置するための凹部を設けていてもよい。弾性部材41には、隙間20に挿入される突起部が設けられていてもよい。開口部10aおよびフランジ30および32は、曲面を含んでいてもよい。
【0106】
図25に示す例のように、平面導体80は、Y方向に複数並設していてもよい。そのようにすると、より大型の平面導体80を構成することができる。したがって、平面導体80の大型化が容易であり、ひいては大型の基板60への対応も容易になる。
【0107】
上記複数の平面導体80には、それぞれ上述したように給電電極81および終端電極82にフランジ30が気密に取り付けられる。複数の平面導体80のそれぞれは、図19に示す構成の複数の開口部11aのそれぞれに設けられ、上述した真空シール構造を形成して真空容器10に取り付けられる。
【0108】
給電電極81は、接続導体94、整合回路92、およびその出力バー93を経由して、高周波電源91の一端に接続されている。高周波電源91の他端は接地されている。終端電極82は、接続導体95を経由して、整合回路92の近傍の接地部に接続されている。終端電極82は、直接接地してもよいし、キャパシタを介して接地してもよい。接続導体94、95は、高周波電流をY方向においてできるだけ一様に流すために、給電電極81、終端電極82のY方向の寸法と同程度の幅を持つ板状のものが好ましい。その他、接続導体94、95は、同軸ケーブルや撚り線ケーブルであってもよい。真空容器10の天井側外部は、この例のように、高周波の漏洩を防止するシールドボックス90で覆っておくのが好ましい。
【0109】
当実施例の真空装置は、本発明の真空シール構造および真空シール方法を用いて真空容器10外部で予めフランジ30と一体化された大型の平面導体80を真空容器10内部に作業性良く導入することができる。したがって、大面積の基板60のプラズマ処理を行うことができるとともに、製造コストを安価にすることができる。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記の実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
1 … 高周波電流
2 … ガス
3 … プラズマ
10 … 真空容器
11 … 真空容器の一部
10a … 開口部
11a … 開口部
12 … 段差部
13 … ねじ込み式のストッパー
14 … はめ込み式のストッパー
15 … 排気口
16 … ガス導入部
20 … 隙間
21 … 真空シール面
22 … 凹部
30 … フランジ
31 … フランジ
31a … 開口部
32 … フランジ
33 … フィードスルー
40 … Oリング
41 … 弾性部材
42 … 突起部
50 … 押さえ板
51 … 貫通口
52 … ボルト
60 … 基板
61 … ホルダ
62 … ヒータ
63 … 軸
64 … 軸受部
70 … バイアス電源
71 … マスク
72 … 仕切り板
80 … 平面導体
80a … 平面導体のX方向に平行な辺
80b … 平面導体のY方向の平行な辺
81 … 給電電極
82 … 終端電極
83 … フランジ付きフィードスルー
84 … フランジ付きフィードスルー
85 … フランジ付きフィードスルー
90 … シールドボックス
91 … 高周波電源
92 … 整合回路
93 … 出力バー
94 … 接続導体
95 … 接続導体
L … 段差部の深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間を気密封止するための真空シール構造であって、
前記開口部に設けられた段差部と、
前記段差部に並置されていて側端面に隙間を有する複数のフランジと、
前記隙間に沿って形成されていて前記真空容器の一部の大気側の面と前記複数のフランジの大気側の面および前記複数のフランジの大気側の面同士からなる真空シール面を覆う弾性部材と、
を備えていることを特徴とする真空シール構造。
【請求項2】
真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間を気密封止するための真空シール構造であって、
前記開口部に設けられた段差部と、
前記段差部に設置されていて側端面に隙間を有するフランジと、
前記隙間に沿って形成されていて前記真空容器の一部の大気側の面と前記フランジの大気側の面とからなる真空シール面を覆う弾性部材と、
を備えていることを特徴とする真空シール構造。
【請求項3】
請求項1に記載の真空シール構造において、前記複数のフランジの並置されている方向とは直交する方向に複数の前記真空シール構造が並設されていることを特徴とする真空シール構造。
【請求項4】
前記複数のフランジの並置方向におけるそれぞれのフランジ幅寸法は、同一でないことを特徴とする請求項1または3に記載の真空シール構造。
【請求項5】
前記真空シール面を構成する複数の面は、それぞれ同一平面上にあることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項6】
前記真空シール面に前記弾性部材を設置するための凹部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項7】
前記弾性部材は、押さえ板により押圧されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項8】
前記押さえ板の前記フランジの露出部と対向する領域に貫通口が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の真空シール構造。
【請求項9】
前記弾性部材は、シート状であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項10】
前記弾性部材には、前記隙間に挿入される突起部が設けられていることを特徴とする請求項9に記載の真空シール構造。
【請求項11】
開口部およびフランジは、曲面を含んでいることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項12】
前記フランジの少なくとも一つにフィードスルーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の真空シール構造。
【請求項13】
真空容器の一部に設けられた開口部により形成される空間から真空中で用いられる各種機器を真空容器内部に導入して前記空間を気密封止するための真空シール方法であって、
前記各種機器の一部にフランジを取り付けた後に前記各種機器を前記空間から前記真空容器内部に導入し、前記フランジの側端面に隙間を有するように前記フランジを前記開口部に設けられた段差部に設置することにより前記各種機器を前記フランジを介して前記真空容器の一部に支持させる第一のステップと、
少なくとも一つの他のフランジを前記他のフランジの側端面に隙間を有するように前記段差部に設置することにより前記空間を塞ぐ第二のステップと、
前記隙間に沿って形成されていて前記真空容器の一部の大気側の面と前記空間を塞ぐすべてのフランジの大気側の面とからなる真空シール面および前記空間を塞ぐすべてのフランジの大気側の面同士からなる真空シール面を弾性部材で覆う第三のステップと、
を備えていることを特徴とする真空シール方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれかに記載の真空シール構造を備えていることを特徴とする真空装置。
【請求項15】
導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す真空装置であって、
真空排気されかつガスが導入される真空容器と、
前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、
前記真空容器内に前記ホルダの基板保持面に対向するように設けられる平面導体と、
前記平面導体に取り付けられる給電電極および終端電極と、
前記給電電極および前記終端電極を経由して前記平面導体に高周波電力を供給して前記平面導体に高周波電流を流す高周波電源と、
請求項1、3乃至12のいずれかに記載の真空シール構造と、
を備え、
前記真空シール構造において、前記給電電極および前記終端電極は、それぞれ別個のフランジに取り付けられていて、少なくとも一つのフランジが、前記給電電極に取り付けられたフランジと前記終端電極に取り付けられたフランジとの間に設置されていることを特徴とする真空装置。
【請求項16】
前記給電電極および前記終端電極は、ブロック状であり、方形をなす前記平面導体の前記ホルダとは反対側の裏面の両端部にそれぞれ取り付けられていて、前記平面導体に高周波電流を流す方向と直交する方向に延びていることを特徴とする請求項15に記載の真空装置。
【請求項17】
導体に高周波電流を流すことによって発生する誘導電界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて基板に処理を施す真空装置であって、
真空排気されかつガスが導入される真空容器と、
前記真空容器内に設けられていて前記基板を保持するホルダと、
前記真空容器内に前記ホルダの基板保持面に対向するように設けられる平面導体と、
前記平面導体に取り付けられる給電電極と、
前記平面導体に取り付けられる二つの終電電極と、
前記給電電極および前記二つの終端電極を経由して前記平面導体に高周波電力を供給して前記平面導体に高周波電流を流す高周波電源と、
請求項1、3乃至12のいずれかに記載の真空シール構造と、
を備え、
前記真空シール構造において、前記給電電極および前記二つの終端電極は、それぞれ別個のフランジに取り付けられていて、少なくとも一つのフランジが前記給電電極および前記二つの終端電極に取り付けられたフランジの間にそれぞれ設置されていることを特徴とする真空装置。
【請求項18】
前記給電電極および前記二つの終端電極は、ブロック状であり、前記二つの終端電極は、方形をなす前記平面導体の前記ホルダとは反対側の裏面の両端部にそれぞれ取り付けられていて前記平面導体に高周波電流を流す方向と直交する方向に延びており、前記給電電極は、前記平面導体の裏面の中央部に取り付けられていて前記二つの終端電極と同じ方向に延びていることを特徴とする請求項17に記載の真空装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−202744(P2011−202744A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71000(P2010−71000)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】