説明

真空処理装置及び真空処理方法

【課題】同一の処理室で、自然酸化膜が除去された後にシリコン基板の界面の酸素を確実に除去する。
【解決手段】NH及びN及びNFを導入し、シリコン基板5の酸化表面にNHxFyを作用させることで(NHSiFを生成し、シリコン基板5を所定温度に制御することにより(NHSiFを昇華させてシリコン基板5の表面の酸化膜を除去し、続けてNH及びN及びNFを導入し、温度が維持された状態でシリコン基板の表面にFラジカルを作用させてシリコン層をエッチングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空状態の処理室で処理、例えば、エッチングを行う真空処理装置及び真空処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造する工程において、例えば、半導体基板(半導体ウエハ)のコンタクトホールの底部のウエハ上に形成された自然酸化膜(例えば、SiO)を除去する必要がある。自然酸化膜を除去する技術として、ラジカル状態の水素(H)とNFガスを使用するものが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示された技術は、所定の真空状態にされた処理室内に処理ガスを導入し、所定の真空状態の雰囲気に配置されたシリコンウエハの酸化表面(SiO)と反応させて反応生成物(NHSiFを生成する。その後、処理室を加熱してシリコン基板を所定温度に制御することにより、(NHSiFを昇華させてシリコン基板の表面の自然酸化膜を除去(エッチング)する技術である。
【0004】
近年、自然酸化膜を除去したシリコンウエハの表面(単結晶シリコン、ポリシリコン)に対する清浄度合いに対する要求が高まっているのが現状であり、自然酸化膜を除去した後のシリコン面の更なる浄化性が要求されている。自然酸化膜との界面のシリコン面には、シリコンの格子間に酸素が存在していることも考えられ、自然酸化膜を除去した後であっても酸素が残存する虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−203404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、自然酸化膜を除去する処理装置を用い、自然酸化膜が除去された後に基板の面の酸素を確実に除去することができる真空処理装置及び真空処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の真空処理装置は、基板が配置されると共に内部が所定の真空状態にされる処理室と、ラジカル状態の第1処理ガスまたは補助処理ガスを前記処理室内に導入する第1処理ガス導入手段と、前記第1処理ガスまたは前記補助処理ガスと反応する第2処理ガスを前記処理室内に導入する第2処理ガス導入手段と、前記処理室内を所定の温度に制御することで、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと前記基板表面の自然酸化膜とを反応させ生成した反応生成物を除去する温度制御手段と、前記第1処理ガス導入手段から導入される前記補助処理ガスと前記第2処理ガス導入手段から導入される第2処理ガスの導入状況を制御し、前記自然酸化膜が除去された前記基板の表層を、前記補助処理ガスと前記第2処理ガスにより所定の厚さ除去する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本発明では、基板の自然酸化膜を除去した後に、制御手段により、第1処理ガス導入手段と第2処理ガス導入手段の双方から補助処理ガスを導入し、制御手段により自然酸化膜が除去された後の基板の表層を補助処理ガスより所定の厚さ除去する。このため、自然酸化膜を除去する処理装置を用い、自然酸化膜が除去された後に基板の面の酸素を確実に除去することができる。
【0009】
そして、請求項2に係る本発明の真空処理装置は、請求項1に記載の真空処理装置において、前記処理室の内部には複数枚の前記基板が収容され、前記複数枚の前記基板は、所定間隔で互いに平行に配されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る本発明では、バッチ処理により自然酸化膜の除去及び自然酸化膜が除去された基板の表層の除去を行うことができる。
【0011】
また、請求項3に係る本発明の真空処理装置は、請求項1に記載の真空処理装置において、前記処理室の内部には一枚の基板が収容されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る本発明では、枚葉式処理により自然酸化膜の除去及び自然酸化膜が除去された基板の表層の除去を行うことができる。
【0013】
また、請求項4に係る本発明の真空処理装置は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の真空処理装置において、前記第1処理ガスがHラジカルを生成させるガスであり、前記第2処理ガスがNHxFy及びFラジカルを生成させるガスであり、前記基板がシリコン基板であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る本発明の真空処理装置は、請求項4に記載の真空処理装置において、前記第1処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNであり、前記第2処理ガスがNFであり、前記温度制御手段は、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと自然酸化膜とを反応させることで生成した反応生成物が形成された前記シリコン基板の温度を所定温度に制御し、前記反応生成物を昇華させることにより前記シリコン基板の表面から自然酸化膜を除去し、前記制御手段は、自然酸化膜が除去された前記シリコン基板の表面に前記補助処理ガスと第2処理ガスによりFラジカルを作用させることで前記シリコン基板のシリコン層を所定の厚さ除去することを特徴とする。
【0015】
請求項4及び請求項5に係る本発明では、第1処理ガスと第2処理ガスとシリコン基板(シリコンウエハ)表面の酸化膜とを反応させ反応生成物を生成し、シリコンウエハを所定温度に制御することにより、反応生成物を昇華させてシリコンウエハの表面の自然酸化膜を除去(エッチング)し、シリコンウエハの表面にFラジカルを作用させてシリコン層を所定の厚さ除去することができる。
【0016】
また、請求項6に係る本発明の真空処理装置は、請求項5に記載の真空処理装置において、前記補助処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNであることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る本発明では、補助処理ガスとして処理ガスを導入してシリコン基板の表面にFラジカルを作用させることができる。
【0018】
また、請求項7に係る本発明の真空処理装置は、請求項6に記載の真空処理装置において、前記制御手段には、前記Fラジカルを作用させる際に、前記補助処理ガスのNHまたはHの一方もしくは双方を停止し、Nのみを導入させる停止手段が備えられていることを特徴とする。
【0019】
請求項7に係る本発明では、第1処理ガスのNHまたはHの一方もしくは双方を停止させて補助処理ガスとすることができる。
【0020】
また、請求項8に係る本発明の真空処理装置は、基板が配置されると共に内部が所定の真空状態にされる処理室と、ラジカル状態の第1処理ガスと補助処理ガスを前記処理室内に導入する第1処理ガス導入手段と、前記第1処理ガスと反応する第2処理ガスを前記処理室内に導入する第2処理ガス導入手段と、前記処理室内を所定の温度に制御することで、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと前記基板表面の自然酸化膜とを反応させ生成した反応生成物を除去する温度制御手段と、前記第1処理ガス導入手段から導入される前記補助処理ガスの導入状況を制御し、前記自然酸化膜が除去された前記基板の表層を、前記補助処理ガスにより所定の厚さ除去する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項8に係る本発明では、基板の自然酸化膜を除去した後に、制御手段により、ラジカル状態の補助処理ガスを第1処理ガス導入手段から処理室内に導入し、自然酸化膜が除去された後の基板の表層を補助処理ガスより所定の厚さ除去する。このため、自然酸化膜を除去する処理装置を用い、自然酸化膜が除去された後に基板の面の酸素を確実に除去することができる。
【0022】
また、本発明の請求項9に係る真空処理装置は、請求項8の真空処理装置において、前記補助処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNとNFであることを特徴とする。
【0023】
請求項9に係る本発明では、ラジカル状態のすべての補助処理ガスを同一のガス導入手段から導入することができる。
【0024】
また、請求項10に係る真空処理装置は、請求項9に記載の真空処理装置において、 前記制御手段には、前記Fラジカルを作用させる際に、前記補助処理ガスのNHまたはNの一方もしくは双方を停止し、NとNFを導入させる停止手段が備えられていることを特徴とする。
【0025】
請求項10に係る本発明では、NHまたはNの一方もしくは双方を停止させて、NとNFを補助処理ガスとすることができる。
【0026】
上記目的を達成するための請求項11に係る本発明の真空処理方法は、処理ガスを導入し、所定の真空状態の雰囲気に配置されたシリコン基板の酸化表面と反応させ、反応生成物を生成し、シリコン基板を所定温度に制御することにより前記反応生成物を昇華させてシリコン基板の表面の酸化膜を除去し、酸化膜が除去された前記シリコン基板の配置を維持した状態で、補助処理ガスを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させ所定厚のシリコン層を除去することを特徴とする。
【0027】
請求項11に係る本発明では、自然酸化膜が除去された後のシリコン基板の表層を補助処理ガスにより所定の厚さ除去し、自然酸化膜を除去する処理装置を用い、自然酸化膜が除去された後に基板の面の酸素を確実に除去することができる。
【0028】
そして、請求項12に係る本発明の真空処理方法は、請求項11に記載の真空処理方法において、前記処理ガスはNHまたはNの少なくともいずれか一方とN及びNFであり、前記反応生成物を100℃〜200℃の雰囲気で昇華させ、前記補助処理ガスとして前記処理ガスを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させることを特徴とする。
【0029】
請求項12に係る本発明では、補助処理ガスとして処理ガスを導入してシリコン基板の表面にFラジカルを作用させることができる。
【0030】
また、請求項13に係る本発明の真空処理方法は、請求項12に記載の真空処理方法において、前記補助処理ガスを同一のガス導入手段から導入することを特徴とする。
【0031】
請求項13に係る本発明では、同一のガス導入手段を用いて、補助処理ガスを導入し
てシリコン基板の表面にFラジカルを作用させることができる。
【0032】
また、請求項14に係る本発明の真空処理方法は、請求項11に記載の真空処理方法において、前記処理ガスはNHまたはNの少なくともいずれか一方とN及びNFであり、前記反応生成物を100℃〜200℃の雰囲気で昇華させ、前記補助処理ガスとしてNとNFを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させることを特徴とする。
【0033】
請求項14に係る本発明では、補助処理ガスとしてNとNFを導入してシリコン基板の表面にFラジカルを作用させることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の真空処理装置及び真空処理方法は、自然酸化膜を除去する処理装置を用い、自然酸化膜が除去された後に基板の面の酸素を確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態例に係る真空処理装置の全体構成図である。
【図2】処理装置の概略構成図である。
【図3】自然酸化膜を除去する際の処理ガスの状況を表す概念図である。
【図4】自然酸化膜除去の工程説明図である。
【図5】自然酸化膜の除去状況を表すグラフである。
【図6】シリコン層を除去する際の処理ガスの状況を表す概念図である。
【図7】シリコン層除去の工程説明図である。
【図8】シリコン層の除去状況を表すグラフである。
【図9】自然酸化膜除去及びシリコン層除去の処理ガスの経時変化を表すタイムチャートである。
【図10】具体的な用途を表す概略図である。
【図11】シリコン層を除去する際の処理ガスの状況を表す概念図である。
【図12】シリコン層除去の工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1から図10に基づいて本発明の第1実施形態例を説明する。
【0037】
図1には本発明の第1実施形態例に係る真空処理装置の全体構成、図2には処理装置の概略構成、図3には自然酸化膜を除去する際の処理ガスの状況を表す概念、図4には自然酸化膜除去の工程説明、図5には自然酸化膜の除去状況を表すグラフ、図6にはシリコン層を除去する際の処理ガスの状況を表す概念、図7にはシリコン層除去の工程説明、図8にはシリコン層の除去状況を表すグラフ、図9には自然酸化膜除去及びシリコン層除去の処理ガスの経時変化、図10には具体的な用途を表す概略を示してある。
【0038】
図1、図2に基づいて真空処理装置の構成を説明する。
図1に示すように、真空処理装置(エッチング装置)1には真空排気系に接続される仕込取出槽2が備えられ、仕込取出槽2の上方には処理室としての真空処理槽3が備えられている。仕込取出槽2の内部には所定速度で回転可能なターンテーブル4が設けられ、ターンテーブル4には基板としてのシリコン基板5を保持するボート6が支持される。ボート6にはシリコン基板5が複数枚(例えば、50枚)収容され、複数枚のシリコン基板5は所定間隔で互いに平行に配されている。
【0039】
シリコン基板5のシリコンは、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)の何れであってもよく、以下には、単にシリコンと称してある。このため、ポリシリコンのシリコン基板を適用した場合、後述するシリコン層のエッチングは、ポリシリコン層のエッチングとなる。
【0040】
仕込取出槽2の上部には鉛直方向に伸びる送りねじ7が設けられ、送りねじ7の駆動によりターンテーブル4が昇降動作する。仕込取出槽2と真空処理槽3は連通口8を介して内部が連通し、シャッタ手段9により雰囲気的に隔離されるようになっている。シャッタ手段9の開閉及びターンテーブル4の昇降により、仕込取出槽2と真空処理槽3の間でボート6(シリコン基板5)の受け渡しが行われる。
【0041】
尚、図中の符号で10は、真空処理槽3の内部の真空排気を行う排出部である。
【0042】
真空処理槽3の側部にはラジカル状態の水素(Hラジカル:H)が導入される第1導入口11が2箇所に設けられ、真空処理槽3の内部には第2処理ガス(処理ガス)としてのNFが導入されるシャワーノズル12が設けられている。2箇所の第1導入口11から導入されるHラジカルHとシャワーノズル12から導入されるNFが反応することにより、真空処理槽3の内部に前駆体NHxFyが生成される。
【0043】
図2に示すように、第1導入口11には第1導入路13が接続され、第1導入路13にはプラズマ発生部14が設けられている。プラズマ発生部14はマイクロ波により処理ガスをプラズマ状態にするものである。第1導入路13には流量調整手段15を介して第1処理ガスとしてのNHガス及びNガスが供給され、プラズマ発生部14でNHガス及びNガスがプラズマ状態にされることによりHラジカルHが生成される。シャワーノズル12には流量調整手段16を介してNFガスが供給される。
【0044】
第1導入口11、第1導入路13及び流量調整手段15により第1処理ガス導入手段が構成され、シャワーノズル12、流量調整手段16により第2処理ガス導入手段が構成されている。
【0045】
真空処理槽3には温度制御手段としての図示しないランプヒータが設けられ、ランプヒータにより真空処理槽3の内部の温度、即ち、シリコン基板5の温度が所定状態に制御される。流量調整手段15、16による処理ガスの流通状況、及び、ランプヒータの動作状態は制御手段としての図示しない制御装置により適宜制御される。
【0046】
上述した真空処理装置1では、シリコン基板5を保持したボート6が真空処理槽3の内部に搬入され、真空処理槽3の内部を機密状態にして所定の圧力になるように真空排気が行われる。
【0047】
制御装置からの指令により、処理ガス(NHガスまたはHの少なくともいずれか一方とNガス、NFガス)を真空処理槽3に導入し、所定の真空状態の雰囲気に配置されたシリコン基板5の自然酸化表面(SiO)と処理ガスとを反応(低温での吸着反応)させることで、反応生成物(Fy及びNHxの化合物{(NHSiF})を生成する。そして、ランプヒータを動作させてシリコン基板5を所定温度に制御することにより(高温にすることにより)、反応生成物((NHSiF)を昇華させてシリコン基板5の表面の自然酸化膜を除去(エッチング)する。
【0048】
更に、自然酸化膜が除去されたシリコン基板5の配置を維持した状態で、制御装置からの指令により、補助処理ガスとしてNHまたはHの少なくともいずれか一方とガス及びNガス、NFガスを真空処理槽3に導入する。即ち、自然酸化膜をエッチングする際の処理ガスと同一の処理ガスを導入する。真空処理槽3に生成されたラジカル状態のF(Fラジカル:F)をシリコン基板5の表面に作用させ、所定厚のシリコン層をエッチングする。
【0049】
この時、NHxFyがFラジカル:Fと共に真空処理槽3に存在するが、NHxFyは高温雰囲気ではシリコン基板5の表面には作用しない。このため、制御装置によりランプヒータの動作が制御されることにより、自然酸化膜をエッチングした際の所定温度(例えば、100℃〜200℃)の状態がシリコン層をエッチングする際にも維持され、自然酸化膜がエッチングされた後は、Fラジカル:Fだけをシリコン基板5の表面に作用させて所定厚のシリコン層をエッチングすることができる。
【0050】
図3〜図5に基づいて自然酸化膜のエッチングを説明する。
図3に示すように、第1導入路13からNHガス及びNガスを導入し、プラズマ発生部でHラジカルHを生成し、第1導入口11からHラジカルHを真空処理槽3に導入する。同時に、シャワーノズル12からNFガスを真空処理槽3に導入し、HラジカルHとNFガスを混合させて反応させてNHxFyを生成させる。
即ち、
+NF→NHxFy(NHFH、NHFHF等)
【0051】
図4(a)に示すように、NHxFyとシリコン基板5の自然酸化表面(SiO)が反応し、図4(b)に示すように、Fy及びNHxの化合物である(NHSiFが生成される。
即ち、
NHxFy+SiO→(NHSiF+HO↑
【0052】
その後、ランプヒータ(図2参照)により真空処理槽3を加熱し(例えば、100℃〜200℃)、図4(c)に示すように、(NHSiFを分解して昇華させ、シリコン基板5の表面から除去する。
即ち、
(NHSiF→NH↑+HF↑+SiF
【0053】
シリコン基板5の表面をエッチングして(NHSiFを除去することで、図4(d)に示すように、シリコン基板5の表面の自然酸化膜が除去され、清浄な表面とされる。この時、図5に○印で示すように、自然酸化膜はエッチング時間に応じてエッチング量が増加し、図5に□印で示すように、シリコン層はエッチング時間が長くなってもエッチング量はほとんど変化がなく、シリコン層はエッチングされていないことが判る。
【0054】
更に、自然酸化膜が除去されたシリコン基板5の配置を維持した状態で、即ち、同一の真空処理槽3で、自然酸化膜が除去されたシリコン基板5の表面(シリコン層)をエッチングする。これにより、酸化膜の界面とされたシリコン面の酸素、例えば、シリコンの金属格子間等に存在する虞のある酸素が除去され、表面から酸素が確実に除去されたシリコン基板5を得ることができる。しかも、自然酸化膜をエッチングする装置でシリコン層をエッチングするため、搬送による酸化等が生じることがなく、極めて簡単な処理で高い表面清浄度を有するシリコン基板5を得ることができる。
【0055】
図6〜図9に基づいて自然酸化膜が除去された後のシリコン層のエッチングを説明する。
図6に示すように、第1導入路13からNHガス及びNガスを導入し、プラズマ発生部14でHラジカルH及びNラジカルNを生成し、第1導入口11からHラジカルH及びNラジカルNを真空処理槽3に導入する。同時に、シャワーノズル12からNFガスを真空処理槽3に導入し、HラジカルHとNFガスを混合させて反応させて前駆体NHxFyを生成させると共に、NラジカルNとNFガスを混合させて反応させてFラジカルFを生成させる。
即ち、
+NF→NHxFy(NHFH、NHFHF等)
+NF→N+F+F(3F等)
【0056】
図7(a)に示すように、真空処理槽3の内部は、自然酸化膜を除去、即ち、(NHSiFを分解・昇華するために加熱雰囲気に維持されている。このため、前駆体NHxFyは高温に維持されたシリコン基板5の表面(シリコン面)と反応せず、図7(b)に示すように、FラジカルFがシリコン基板5の表面に作用して表面がエッチングされる。
即ち、
Si+4F→SiF
【0057】
これにより、図7(c)に示すように、自然酸化膜の界面とされたシリコン面の酸素が除去され、表面から酸素が確実に除去されたシリコン基板5を得ることができる。この時、図8に□印で示すように、シリコン層はエッチング時間に応じてエッチング量が増加し、図8に△印で示すように、シリコン層以外の層(例えば、SiN)はエッチング時間が長くなってもエッチング量はほとんど変化がなく、シリコン層だけがエッチングされることが判る。
【0058】
上述した自然酸化膜のエッチング及びシリコン層のエッチングにおける処理ガス(NHガス及びNガス、NFガス)の導入状況を図9に基づいて説明する。
【0059】
時間t1から時間t2の間(例えば、520sec)は処理ガスが導入(ON)され、ランプヒータがOFFにされ、前駆体NHxFyが自然酸化膜SiOと反応する処理が実施される(図4(a)(b)参照)。時間t2から時間t3の間は処理ガスが停止(OFF)され、ランプヒータがONにされ、化合物である(NHSiFが分解して昇華され自然酸化膜SiOがエッチングされる(図4(c)(d)参照)。
【0060】
続いて、時間t3から時間t4の間(例えば、50〜210sec)は再び処理ガスが導入(ON)され、ランプヒータがOFFにされ、FラジカルFを生成させる。加熱雰囲気に保たれ、時間t4以降温度維持のために適宜ランプヒータがON・OFFされ、FラジカルFによりシリコン層がエッチングされる(図7(a)(b)(c)参照)。
【0061】
尚、時間t3の時点で処理槽内を冷却するクーリング工程を実施することも可能である。
【0062】
上述したように、第1実施形態例では、同一の真空処理槽3の内部で、自然酸化膜の除去と自然酸化膜が除去されたシリコン層の除去が行える。このため、自然酸化膜を除去する真空処理装置1を用い、簡単な制御で短時間に、自然酸化膜が除去された後にシリコン基板5の界面の酸素を確実に除去することができる。従って、簡単な真空処理装置1及び処理方法により、極めて性能が高い表面を有するシリコン基板5を得ることが可能になる。
【0063】
上述した自然酸化膜の除去と自然酸化膜が除去されたシリコン層の除去は、図10に示すように、半導体基板のコンタクトホール21の底面の清浄処理に用いられる。即ち、コンタクトホール21の自然酸化膜が(NHSiFの昇華により除去され、その後、連続してシリコン層が除去される。これにより、酸素が確実に除去された底面を有するコンタクトホール21を形成することができ、その後、配線用の金属を積層した際に抵抗が極めて少ない配線を実現することができる。
【0064】
図11、図12に基づいて自然酸化膜が除去された後のシリコン層のエッチング方法(真空処理方法)の第2実施形態例を説明する。図11には本発明の第2実施形態例におけるシリコン層を除去する際の処理ガスの状況を表す概念、図12には本発明の第2実施形態例におけるシリコン層除去の工程説明を示してある。尚、真空処理装置1の構成は第1実施形態例と同一であるので構成の説明は省略してある。
【0065】
第2実施形態例に係るエッチング方法は、自然酸化膜を除去する場合、第1処理ガス、第2処理ガス(処理ガス)としてNHガス、N及びNFガスを用い、シリコン層を除去する場合、補助処理ガスとしてNHガスを停止し、NとNFを用いる。つまり、シリコン層を除去する場合、真空処理装置1の内部に前駆体NHxFyを生成させずにFラジカルFをシリコン基板5に作用させる。このため、以下にはシリコン層の除去について説明してある。
【0066】
図11に示すように、第1導入路13からNガスを導入し(NHガスを停止し)、プラズマ発生部14でNラジカルNを生成し、第1導入口11からNラジカルNを真空処理槽3に導入する。同時に、シャワーノズル12からNFガスを真空処理槽3に導入し、NラジカルNとNFガスを混合させて反応させてFラジカルFを生成させる。
即ち、
+NF→N+F+F(3F等)
【0067】
図12(a)に示すように、真空処理槽3の内部にFラジカルFが導入され、図12(b)に示すように、FラジカルFがシリコン基板5の表面に作用して表面がエッチングされる。
即ち、
Si+4F→SiF
【0068】
これにより、図12(c)に示すように、自然酸化膜の界面とされたシリコン面の酸素が除去され、表面から酸素が確実に除去されたシリコン基板5を得ることができる。また、NHガスを停止しているので、前駆体NHxFyが生成されず、比較的低温の場合でもFラジカルFをシリコン基板5の表面に作用させることができ、短時間でシリコン層のエッチングを行うことができる。
【0069】
上述したように、第2実施形態例では、第1実施形態例と同様に、同一の真空処理槽3の内部で、自然酸化膜の除去と自然酸化膜が除去されたシリコン層の除去が行え、簡単な制御で短時間に、自然酸化膜が除去された後にシリコン基板5の界面の酸素を確実に除去することができる。従って、簡単な真空処理装置1及び処理方法により、極めて性能が高い表面を有するシリコン基板5を得ることが可能になる。
【0070】
尚、上述した各実施形態例では、シリコン層のエッチングの際、NHガス及びNガスとNFガスを別々のガス導入手段から導入しているが、これに限らず、プラズマ発生部を有する同一のガス導入手段からすべてのガスを導入してもよい。この場合には、NFガスに直接プラズマを印加してFラジカルを作成することができる。
【0071】
また、上述した各実施形態例では、処理室の内部に複数枚の基板を所定間隔で互いに平行に配する、いわゆるバッチ式の成膜装置について記載しているが、処理室内に基板を一枚づつ配する、いわゆる、枚葉式装置で処理を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、真空状態の処理室でエッチングを行う真空処理装置及び真空処理方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 真空処理装置
2 仕込取出槽
3 真空処理槽
4 ターンテーブル
5 シリコン基板
6 ボート
7 送りねじ
8 連通口
9 シャッタ手段
10 排出部
11 第1導入口
12 シャワーノズル
13 第1導入路
14 プラズマ発生部
15、16 流量調整手段
21 コンタクトホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が配置されると共に内部が所定の真空状態にされる処理室と、
ラジカル状態の第1処理ガスまたは補助処理ガスを前記処理室内に導入する第1処理ガス導入手段と、
前記第1処理ガスまたは補助処理ガスと反応する第2処理ガスを前記処理室内に導入する第2処理ガス導入手段と、
前記処理室内を所定の温度に制御することで、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと前記基板表面の自然酸化膜とを反応させ生成した反応生成物を除去する温度制御手段と、
前記第1処理ガス導入手段から導入される前記補助処理ガスと前記第2処理ガス導入手段から導入される第2処理ガスの導入状況を制御し、前記自然酸化膜が除去された前記基板の表層を、前記補助処理ガスと前記第2処理ガスにより所定の厚さ除去する制御手段とを備えた
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空処理装置において、
前記処理室の内部には複数枚の前記基板が収容され、
前記複数枚の前記基板は、所定間隔で互いに平行に配されている
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の真空処理装置において、
前記処理室の内部には一枚の基板が収容されている
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の真空処理装置において、
前記第1処理ガスがHラジカルを生成させるガスであり、
前記第2処理ガスがNHxFy及びFラジカルを生成させるガスであり、
前記基板がシリコン基板である
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の真空処理装置において、
前記第1処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNであり、
前記第2処理ガスがNFであり、
前記温度制御手段は、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと自然酸化膜とを反応させることで生成した反応生成物が形成された前記シリコン基板の温度を所定温度に制御し、前記反応生成物を昇華させることにより前記シリコン基板の表面から自然酸化膜を除去し、
前記制御手段は、自然酸化膜が除去された前記シリコン基板の表面に前記補助処理ガスと第2処理ガスによりFラジカルを作用させることで前記シリコン基板のシリコン層を所定の厚さ除去する
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の真空処理装置において、
前記補助処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNである
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の真空処理装置において、
前記制御手段には、前記Fラジカルを作用させる際に、前記補助処理ガスのNHまたはNの一方もしくは双方を停止し、Nのみを導入させる停止手段が備えられている
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項8】
基板が配置されると共に内部が所定の真空状態にされる処理室と、
ラジカル状態の第1処理ガスと補助処理ガスを前記処理室内に導入する第1処理ガス導入手段と、
前記第1処理ガスと反応する第2処理ガスを前記処理室内に導入する第2処理ガス導入手段と、
前記処理室内を所定の温度に制御することで、前記第1処理ガスと前記第2処理ガスと前記基板表面の自然酸化膜とを反応させ生成した反応生成物を除去する温度制御手段と、
前記第1処理ガス導入手段から導入される前記補助処理ガスの導入状況を制御し、前記自然酸化膜が除去された前記基板の表層を、前記補助処理ガスにより所定の厚さ除去する制御手段とを備えた
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の真空処理装置において、
前記補助処理ガスがNHまたはNの少なくともいずれか一方とNとNFである
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の真空処理装置において、
前記制御手段には、前記Fラジカルを作用させる際に、前記補助処理ガスのNHまたはNの一方もしくは双方を停止し、NとNFを導入させる停止手段が備えられている
ことを特徴とする真空処理装置。
【請求項11】
処理ガスを導入し、所定の真空状態の雰囲気に配置されたシリコン基板の酸化表面と反応させ、反応生成物を生成し、シリコン基板を所定温度に制御することにより前記反応生成物を昇華させてシリコン基板の表面の酸化膜を除去し、酸化膜が除去された前記シリコン基板の配置を維持した状態で、補助処理ガスを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させ所定厚のシリコン層を除去する
ことを特徴とする真空処理方法。
【請求項12】
請求項11に記載の真空処理方法において、
前記処理ガスはNHまたはNの少なくともいずれか一方とN及びNFであり、
前記反応生成物を100℃〜200℃の雰囲気で昇華させ、
前記補助処理ガスとして前記処理ガスを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させる
ことを特徴とする真空処理方法。
【請求項13】
請求項12に記載の真空処理方法において、
前記補助処理ガスを同一のガス導入手段から導入する
ことを特徴とする真空処理方法。
【請求項14】
請求項11に記載の真空処理方法において、
前記処理ガスはNHまたはNの少なくともいずれか一方とN及びNFであり、
前記反応生成物を100℃〜200℃の雰囲気で昇華させ、
前記補助処理ガスとしてNとNFを導入して前記シリコン基板の表面にFラジカルを作用させる
ことを特徴とする真空処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−165954(P2010−165954A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8255(P2009−8255)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】