説明

真空容器

【課題】極高真空領域まで真空排気される真空容器のシール材としてエラストマー素材のシール材を使用することができる真空容器を提供する。
【解決手段】2分割される真空容器12の合せ面にシール材20を有して気密に保持される真空容器12であって、合せ面の真空容器の内側にラビリンス形成装置を備え、ラビリンス形成装置22は、凹部23が形成された凹部材23と、凹部23aの内面と僅かな隙間を有して配置される凸部25を有する凸部材25aと、凹部材23aに凸部材25aを近づける方向に動作させる上下動機構28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器に係り、特に、繰り返し使用可能なシール材を用いることができる極高真空まで排気可能な真空容器に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器内を高いレベルの真空域に維持するには、極めて微量なリーク量しか許容することができない。そのため、開口部のシール部材としてメタルシール(メタルOリング)が使用される。
【0003】
例えば、10−7〜10−9Pa程の極高真空に真空排気される真空容器の場合、開口部分のシール材として、ガス放出速度が小さいメタル素材のシール材(メタルシール)が使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−287521
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メタルシールは塑性変形するためメンテナンスなどで真空容器を開放する毎に新品に交換する必要がありコストを要するという問題があった。そのため、極高真空の真空容器のシール材として繰り返し使用できるシール材を使用することが望ましい。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するものであり、極高真空領域まで真空排気される真空容器のシール材として繰り返し使用できるシール材を使用することができる真空容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る真空容器は、分割部の合せ面にシール材を挟んで気密に保持される真空容器であって、合せ面から前記真空容器内にガスを導出するガス導出路を形成できるガス導出路形成装置を備え、ガス導出路形成装置は、凹部が形成された凹部材と、凹部の内面と隙間を有して配置される凸部を有する凸部材と、凸部材若しくは凹部材の一方を他方に近づける方向に動作させる駆動装置とを有し、ガス導出路は、凸部材と凹部の内面との隙間によって形成され、駆動装置によって凸部材若しくは凹部材の一方を他方に近づけて配置されたときにのみ形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、極高真空の雰囲気とする真空処理装置の真空容器のシール材として、繰り返し使用可能なシール材を用いることかできる。これにより、真空容器のメンテナンスの作業工数の低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置の概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る真空処理装置を大気開放した際の概略図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るラビリンス形成装置を閉じる動作を段階的に示した模式図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るラビリンス形成装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は発明を具体化した一例であって本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0011】
本願明細書中では、真空容器を備える真空処理装置S(インライン型のスパッタリング成膜装置)を例に挙げて説明するが本発明はこの限りではない。例えば、他のPVD装置やCVD装置などにも本発明に搭載されたラビリンス形成装置は好適に適用可能である。
【0012】
図1〜3は本発明の第1の実施形態に係る真空容器について説明した図であり、図1は真空処理装置の概略図、図2は真空処理装置を大気開放した際の概略図、図3は真空処理装置を閉じる動作を段階的に示した模式図である。なお、図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略されている。
【0013】
図1に示す真空処理装置Sは、真空ポンプ10によって内部を排気可能な真空容器12を備えた真空処理装置であり、真空容器12、真空容器12の中央上部に配置されているプラズマ発生装置14(カソード)、中央下部の基板ホルダー18、プラズマ発生装置14に電力を供給する電源を有している。プラズマ発生装置14には成膜材料16(ターゲット)を配置でき、基板ホルダー18上には基板Wを配置できる。真空処理装置Sは、基板ホルダー18に配置した基板W上に、成膜材料16からスパッタされた成膜物質を堆積させて成膜(真空処理)する装置である。
【0014】
真空容器12は、内部を真空排気できる略直方体状の金属容器であり、図1で上側に位置する第1部材12aと、下側に位置する第2部材12bに分割できる構成である。第1部材12aと第2部材12bの分割部(開口部)の合せ面には溝13が一周に亘り無端状に設けられている。この溝13に嵌めるように、エラストマー素材のOリングからなるシール材20が配置されている。そして、分割部の合せ面から真空側(内側)には、真空容器12の内周に沿うように一周に亘り、後述のガス導出路が形成できるようにラビリンス形成装置22(ガス導出路形成装置)が設けられている。
【0015】
シール材20として、エラストマー素材と金属を組み合わせて、繰り返し使用可能に構成したものを用いてもよいことはもちろんである。Oリングの材料としては、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロエラストマー、シリコンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)などがあるが、ここではフッ素ゴムを用いた例を説明する。
【0016】
本実施形態において、第1部材12aと第2部材12bは上下方向に分割されるが、分割される方向や領域については適宜変更できることはもちろんである。例えば、第1部材12aと第2部材12bは左右方向に分割する真空容器でもよい。また、第1部材12aと第2部材12bの関係は、開口部を有する真空容器とその開口部を塞ぐハッチ状の蓋という関係であっても本発明を適用できる。
【0017】
ラビリンス形成装置22(ガス導出路形成装置)は、断面幅1〜2mm、深さ5〜20mmの凹部23aが形成された凹部材23と、凹部材23の凹部23aに差し込むことができる凸部25aを有する凸部材25と、凸部材25を上下動する上下動機構28とを有してなる。本実施形態では凹部材23を上部側に、凸部材25を下部側に配置されている。上下動機構28によって凸部材25を移動させて、凸部材25の凸部25aを凹部材23の凹部23aに挿し込むことで、凹部23aの内面と凸部25aとの隙間によって形成されるラビリンス形状のガス導出路(ラビリンス経路)を形成することができる。この隙間(所定の隙間)は0.01〜20mm程度の幅、且つ数十mm程度の経路長さに形成される。ガス導出路の幅が狭いほど、又は経路長が長いほどコンダクタンスが小さくなるため、到達真空度を上昇させることができる。
【0018】
ガス導出路は、合せ面から真空容器内へ向かうガスの流通経路が凹凸を有するラビリンス形状になっている。また、凹部23aと凸部25aは真空容器12の内周面に沿って無端状に形成されているため、無端状の合せ面に沿って真空容器12内に一周にわたって途切れることなくガス導出路を形成できる。
【0019】
ラビリンス形成装置22によって、合せ面から真空容器12の内側に放出されたガスを通過させるガス導出路を形成できる。すなわち、合せ面から真空容器12の内側に放出されたガスは、ガス導出路又は、凸部材25と第2部材12bとの隙間を通過しないと真空容器12の内部に侵入することができない。なお、合せ面から放出されるガスの多くはシール材20からのアウトガスである。
【0020】
凸部材25と第2部材12bとの隙間は、ガス導出路よりも狭い幅、若しくは長さが長くなるように設定されている。すなわち、凸部材25と第2部材12bとの隙間は、ガス導出路よりもコンダクタンスが小さくなるように形成されている。従って、合せ面から真空容器12の内側に侵入するガスの大半はガス導出路を通過することになる。なお、真空容器12では、凹部材23と第1部材12aは一体に形成されているため第1部材12aと凹部材23の間には隙間は存在しない。
【0021】
合せ面は第1部材12aと第2部材12bの分割部に形成されるため無端状に形成されている。そのため、ガス導出路も合せ面に沿って真空容器12内側一周に無端状に形成されると効果的である。もちろん、合せ面の一部分にのみガス導出路を形成した場合でもある程度の効果が期待できる。合せ面に沿って形成されたガス導出路の長さに応じて、合せ面から真空容器12内部に流入するガスの量が減少するためである。合せ面からのガス放出量に応じて、形成するガス導出路の形状や、合せ面に対向して形成された長さ(合せ面に沿って真空容器12内側に形成される長さ)が設定される。
【0022】
ここでラビリンス形状のガス導出路(ラビリンス経路)とは、凹部23aの内面と凸部25aの間に形成された蛇行したガス導出路をいう。ラビリンス形成装置22によって、シール材20部分(合せ面)から成膜雰囲気(真空容器内)までのガスが流れる通路のコンダクタンスを小さくし、シール材20からの成膜雰囲気へのガス放出速度をメタル素材のシール材と同等まで減らすことができる。ラビリンス経路としては蛇行した経路以外にもガスが流れる通路の経路長を長くしてコンダクタンスが小さくした経路であればよいものとする。
【0023】
また、ラビリンス形成装置22は、凸部材25を上下動させて凹部材23に近づける駆動装置としての上下動機構28を備えている。上下動機構28は、真空容器12底面の形成された開口12aを介して上下する軸部材29と、軸部材29に連結された不図示のエアシリンダと、軸部材29とエアシリンダの間を気密に保持するベローズ管(不図示)などからなる。
【0024】
上下動機構28により、真空容器12内部のラビリンス形成装置22の凸部材25を上下駆動させ、ラビリンス経路の形成及び開放を適宜行うことができる。図2は上下動機構28によって凸部材25を下方に移動させた状態であり、このとき、凹部材23の内面に凸部材25が挿入されていない状態であるためラビリンス経路は形成されていない。なお、上下動機構28によって駆動される部材は凸部材25と凹部材23のいずれでもよく、凸部材25若しくは凹部材23の一方を他方に近づける方向に動作させるものであれば本発明に適用できる。
【0025】
図3に、真空容器の排気工程と上下動機構の動作タイミングについて説明する。
図3(a)は、真空容器12の初期状態を示しておりラビリンス経路は形成されていない。なお、本明細書においては、ラビリンス経路が形成されない凸部材25と凹部材23の位置関係を「ラビリンス経路の開放状態」という。図3(b)は、低真空から中真空までの真空排気粗引き後、高真空までの真空排気を行う際の状態を示しており、ラビリンス経路の開放状態が維持される。図3(c)は、真空容器12内の圧力が成膜処理圧力に達した後、成膜などの真空処理を行う直前の状態を示している。すなわち、ラビリンス経路を形成した状態で真空処理が行われる。
【0026】
このように上下動機構28を制御することにより、ラビリンス経路の開放状態で真空排気を行い、真空度が所定圧力に到達後にラビリンス経路を形成するができる。従って、排気時間を従来の通りに保ちながら成膜処理時にはシール材20からのガス放出速度を低下させて成膜への影響を抑えることが可能となる。
【0027】
本発明の効果についてより詳しく説明すると、真空容器12内の真空度低下を抑えるには、シール材20から発生したガスが真空容器12内に入り込む速度を遅くする必要がある。そして、シール材20からのアウトガスが真空側(真空容器内)に入り込む速度を遅くするには、成膜処理が行われる空間(真空容器内)からシール材20までのガスのコンダクタンスを小さくすると効果的である。
【0028】
ここで、コンダクタンスはガス導出路の広さ(断面積)と長さで決まるため、断面積が小さく、長いガス導出路を設けることでコンダクタンスを小さくすることができる。そのため、本発明では、ガス導出路にラビリンス経路を形成することで真空容器12のシール材20からのガス放出速度を擬似的に小さくしている。従って、本発明を用いることで、極高真空領域まで真空排気される真空容器のシール材として繰り返し使用できるシール材を使用することができ、そのため、製造コストや作業工数の低減及び環境アセスメントの向上を図ることができる。また、真空度が所定圧力に到達後にラビリンス経路を形成することで、コンダクタンスの小さな隙間の内部を排気する必要がなく排気時間を延長する必要がない。
【0029】
図4は本発明の第2の実施形態に係るラビリンス形成装置の断面模式図であり、合せ面とラビリンス形成装置32の周辺の模式図である。本実施形態は上述の第1の実施形態と比べて、ラビリンス形成装置32の構成に特徴を有している。なお、図面の煩雑化を防ぐため一部を除いて省略するとともに、第1の実施形態と同様の部材には同じ符号を付してその説明を省略した。
【0030】
本実施形態のラビリンス形成装置32(ガス導出路形成装置)は、第1実施形態のラビリンス形成装置22と同様に、分割部の合せ面から真空側(内側)に真空容器12の内周に沿うように一周に亘りガス導出路を形成する装置であり、凸部材35、凹部材33、第2凸部材37、上下動機構28を有している。凸部材35は第1部材12aの合せ面の真空側に一体に形成されており、凹部材33が上下動機構28に取り付けられて上下動可能に構成さている。また、第2部材12bの合せ面の真空側には第2凸部37aを備える第2凸部材37が一体に形成さている。
【0031】
凹部材33は、2箇所の凹部33a,33bを有しており、凹部33aには第2凸部37aが挿入され、凹部33bには凸部35aが挿入されることでラビリンス経路が形成される。本実施形態のラビリンス経路は、凹部材33を上昇させたときに、凹部33aの内面と凸部37aの間、および、凹部33bの内面と凸部35aの間に形成することができる。図4は上下動機構28によって凹部材33を上方に移動(上昇)させた状態であり、ラビリンス経路が形成されている。
【0032】
ラビリンス形成装置32によって、第2部材12bと凹部材33の間にもラビリンス経路を形成することができる。本実施形態の効果は上述の第1実施形態とほぼ同様であるが、第1実施形態の構造よりもラビリンス形成装置32をコンパクトに形成することができる。
【0033】
本発明によれば、極高真空の雰囲気とする真空処理装置の真空容器のシール材として、繰り返し使用可能なシール材を用いることかできる。これにより、メタルOリング(メタルシール)の交換コストを必要としなくなり、また、真空容器をメンテナンスする際の作業工数の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0034】
S 真空処理装置
10 真空ポンプ
12 真空容器
12a 第1部材
12b 第2部材
13 溝
14 プラズマ発生装置
15 開口
16 成膜材料
20 シール材
22,32 ラビリンス形成装置
23,33 凹部材
23a,33a 凹部
25,35 凸部材
25a,35a 凸部
28 上下動機構(駆動装置)
29 軸部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
分割部の合せ面にシール材を挟んで気密に保持される真空容器であって、
前記合せ面から前記真空容器内にガスを導出するガス導出路を形成できるガス導出路形成装置を備え、
前記ガス導出路形成装置は、凹部が形成された凹部材と、前記凹部の内面と隙間を有して配置される凸部を有する凸部材と、前記凸部材若しくは前記凹部材の一方を他方に近づける方向に動作させる駆動装置とを有し、
前記ガス導出路は、前記凸部材と前記凹部の内面との隙間によって形成され、前記駆動装置によって前記凸部材若しくは前記凹部材の一方を他方に近づけて配置されたときにのみ形成されることを特徴とする真空容器。
【請求項2】
前記ガス導出路形成装置は、前記真空容器内を真空排気するときには前記ガス導出路を形成せず、前記真空容器内で真空処理を行うときに前記ガス導出路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空容器。
【請求項3】
前記ガス導出路形成装置は、前記合せ面に沿って無端状に前記ガス導出路を形成できることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空容器。
【請求項4】
前記シール材は、エラストマー素材から形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の真空容器。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−127386(P2012−127386A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277752(P2010−277752)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】