説明

真空蒸着方法、真空蒸着装置及び有機EL表示装置の製造方法

【課題】シャドウマスクを使用することなく高精細な薄膜パターンの蒸着形成を容易にする。
【解決手段】蒸発源2から蒸発した有機EL材料の蒸着分子23が有機EL表示用基板5に到達する前に上記蒸着分子23を帯電させる段階と、発光層16を形成する箇所に対応して位置する画素電極14の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体21に、帯電された蒸着分子23の帯電極性とは異なる極性で且つ有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、発光層16を形成しない箇所に対応して位置する画素電極14の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体21に、帯電された蒸着分子23の帯電極性と同じ極性で且つ有機EL材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器内で蒸着材料を蒸発させて被着体に被着させ、蒸着材料の薄膜パターンを形成する真空蒸着方法に関し、特に高精細な薄膜パターンの形成を容易にしようとする真空蒸着方法、真空蒸着装置及び有機EL表示装置の製造方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の真空蒸着方法は、真空容器内で、所定パターンに対応した形状の開口を有するシャドウマスクを被着体に対してアライメントした後、被着体上に密着させ、蒸発源から蒸着材料を蒸発させて上記シャドウマスクを介して上記被着体に被着させ、蒸着材料の薄膜パターンを形成するものとなっていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−73804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような従来の真空蒸着方法において使用するシャドウマスクは、一般に、薄い金属板に所定形状の開口を例えばエッチング等により形成して作られるので、開口を高精度に形成することが困難であり、又金属板の熱膨張による位置ずれや反り等の影響で例えば300dpi以上の高精細な薄膜パターンの形成が困難であった。
【0005】
また、従来のシャドウマスクを用いた真空蒸着方法においては、例えば反り等により生じたシャドウマスクの下側の隙間に蒸着材料が回り込んで、被着体の目標箇所の周辺部分にも蒸着材料が被着するという問題があった。特に、有機EL表示装置の製造においては、シャドウマスクにより覆われた隣接する画素に、該画素とは異なる色の蒸着材料としての有機EL材料(発光層形成材料)が回り込んで被着した場合、混色が発生するという問題があった。特に、画素パターンが高精細になればなるほど上記問題は顕著になり、シャドウマスクを用いた真空蒸着方法においては、高精細な有機EL表示装置の製造が困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に対処し、高精細な薄膜パターンの形成を容易にしようとする真空蒸着方法、真空蒸着装置及び有機EL表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による真空蒸着方法は、真空容器内で蒸着材料を蒸発源から蒸発させて、被着体に予め定められた複数個所に選択的に被着させ、前記蒸着材料の薄膜パターンを形成する真空蒸着方法であって、前記蒸発源から蒸発した前記蒸着材料の分子が前記被着体に到達する前に前記蒸着材料の分子を帯電させる段階と、前記被着体に予め設けられた複数の電極にて、前記薄膜パターンを形成する箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、前記薄膜パターンを形成しない箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記蒸着材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、を行うものである。
【0008】
さらに、前記電極は、前記基板側の面に電気的に接触させて抵抗体を設け、該抵抗体に通電して発熱させるようにしたものである。これにより、電極の基板側の面に電気的に接触させて設けた抵抗体に通電して発熱させる。
【0009】
また、本発明による真空蒸着装置は、真空容器内で蒸着材料を蒸発源から蒸発させて被着体に予め定められた複数個所に選択的に被着させ、前記蒸着材料の薄膜パターンを形成する真空蒸着装置であって、前記蒸発源から蒸発した前記蒸着材料の分子が前記被着体に到達する前に前記蒸着材料の分子を帯電させる帯電手段と、前記被着体に予め設けられた複数の電極にて、前記薄膜パターンを形成する箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電し、前記薄膜パターンを形成しない箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記蒸着材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する電圧印加手段を備えたものである。
【0010】
このような構成により、電圧印加手段により被着体に予め設けられた複数の電極にて、薄膜パターンを形成する箇所に対応して位置する電極に、上記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電し、薄膜パターンを形成しない箇所に対応して位置する電極に、上記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ蒸着材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電した状態で、真空容器内で蒸着材料を蒸発させ、帯電手段により上記蒸着材料の分子が被着体に到達する前に蒸着材料の分子を帯電させ、上記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電された電極上のみに蒸着材料を被着させて薄膜パターンを形成する。
【0011】
さらに、前記電極は、前記基板側の面に電気的に接触させて抵抗体を設け、該抵抗体に通電して発熱させるようにしたものである。これにより、電極の基板側の面に電気的に接触させて設けた抵抗体に通電して発熱させる。
【0012】
さらに、本発明による有機EL表示装置の製造方法は、真空容器内で有機EL材料を蒸発源から蒸発させて、基板面にマトリクス状に設けられた複数の画素電極上に選択的に被着させ、前記有機EL材料の発光層を形成する有機EL表示装置の製造方法であって、前記蒸発源から蒸発した前記有機EL材料の分子が前記基板面に到達する前に前記有機EL材料の分子を帯電させる段階と、前記発光層を形成する箇所に対応して位置する画素電極の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体に、前記帯電された有機EL材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、前記発光層を形成しない箇所に対応して位置する画素電極の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体に、前記帯電された有機EL材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記有機EL材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、を行うものである。
【0013】
また、前記有機EL材料は、赤、緑、青の各色に対応した3種類の有機EL材料であり、赤色に対応した前記有機EL材料を使用して該赤色に対応した前記画素電極上に赤色の発光層を形成する工程と、緑色に対応した前記有機EL材料を使用して該緑色に対応した前記画素電極上に緑色の発光層を形成する工程と、青色に対応した前記有機EL材料を使用して該青色に対応した前記画素電極上に青色の発光層を形成する工程と、を順次行うものである。これにより、赤、緑、青の各色に対応した3種類の有機EL材料を夫々蒸発させて、対応色の画素電極上に各色の発光層を形成する。
【0014】
さらに、前記3種類の有機EL材料は、夫々昇華温度が異なり、昇華温度の高い有機EL材料から順番に選択して蒸着される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1,3に係る発明によれば、シャドウマスクを使用することなく高精細な薄膜パターンを真空蒸着により容易に形成することができる。したがって、高精細な有機EL表示装置の製造が容易になる。
【0016】
また、請求項2,4に係る発明によれば、抵抗体を発熱させて画素電極を所望の温度に容易に加熱することができる。
【0017】
さらに、請求項5,6に係る発明によれば、高密度に画素が形成された有機EL表示用基板の各画素電極上にシャドウマスクを使用することなく発光層を真空蒸着により容易に形成することができる。したがって、高精細な有機EL表示装置の製造が容易になる。
【0018】
そして、請求項7に係る発明によれば、前工程で発光層が形成された画素電極を後工程において加熱しても上記発光層が昇華することがない。したがって、後工程の別の発光層形成時に、該別の発光層の有機EL材料を昇華させるのに十分な温度まで上記画素電極を加熱することができ、上記画素電極の発光層上に別の発光層が被着するのを防止することができる。これにより、混色ない高品質の有機EL表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による真空蒸着装置の実施形態を示す概要図である。
【図2】有機EL表示装置を示す説明図である。
【図3】上記有機EL表示装置の画素回路を示す説明図である。
【図4】有機EL素子構成を示す模式図である。
【図5】本発明による有機EL表示装置の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明による有機EL表示装置の製造方法における各画素電極への電圧印加について示す説明図である。
【図7】赤色有機EL材料の蒸着時における各画素電極への印加電圧を示す説明図である。
【図8】赤色有機EL材料の蒸着時における画素電極の温度変化を示すグラフである。
【図9】赤色蒸着分子が対応色の画素電極に選択的に被着する様子を示す説明図である。
【図10】本発明による有機EL表示装置の発光層形成工程を示す説明図である。
【図11】上記発光層形成工程における画素電極の温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明による真空蒸着装置の実施形態の概略構成を示す部分断面正面図である。この真空蒸着装置は、蒸着材料を蒸発させて被着体に被着させ、蒸着材料の薄膜パターンを形成するもので、真空容器1と、蒸発源2と、基板保持部3と、帯電手段25と、電圧印加手段4とを備えて構成されている。以下、被着体が有機EL表示用基板5である場合について説明する。
【0021】
一般に、有機EL表示装置は、図2に示すように、基板表面に複数の走査線6と信号線7とが縦横に配線されており、それぞれの交差部に対応して一つの画素8が設けられた構成となっている。また、各画素8は、図3に示すように、有機EL素子9と、駆動トランジスタ10と、サンプリングトランジスタ11と、保持容量12とを備えて構成されている。また、有機EL素子9は、図4に示すように、基板13面側から陽極としての画素電極14、ホール輸送層15、発光層16、電子輸送層17、陰極としての対向電極18をこの順に積層した構成を成しており、画素電極14が駆動トランジスタ10のソースに接続されている。そして、有機EL表示用基板5の周辺領域には、図2に示すように、走査線6を駆動する走査線駆動回路19と輝度情報に応じた映像信号を信号線7に供給する信号線駆動回路20とが設けられている。これにより、走査線駆動回路19による駆動により、サンプリングトランジスタ11を介して信号線7から書き込まれた映像信号が保持容量12に保持され、保持された信号量に応じた電流が有機EL素子9に供給され、この電流値に応じた輝度で有機EL素子9が発光する。ここで、本実施形態の真空蒸着装置を使用して製造される有機EL表示装置は、図4に示すように画素電極14の下面に電気的に接触させて抵抗体21を設け、該抵抗体21に通電するための加熱用配線22を図2に示すように複数の走査線6に平行に設けており、図3に示すように、駆動トランジスタ10を介さずに抵抗体21に対して外部から通電できるようになっている。なお、図4において、符号23は絶縁層を示す。このように構成された本発明の有機EL表示装置の上記抵抗体21及び加熱用配線22は、発光層を蒸着形成する際にのみ使用され、製品として完成した後は何ら機能しないものである。また、本実施形態において使用する有機EL表示用基板5は、発光層16を形成する前の状態のものを言う。
【0022】
上記真空容器1は、内部を一定の真空状態に保持する密閉容器であり、図示省略の真空ポンプが接続されて、該真空ポンプの駆動により内部の空気を排気して真空状態にするようになっている。そして、リークバルブを開いて大気を容器内にリークさせ、内部を大気圧にさせた状態で容器を開き、内部の有機EL表示用基板5の取付け及び取外しや蒸着材料のセット等ができるようになっている。
【0023】
上記真空容器1内部の底部側には、蒸発源2が設けられている。この蒸発源2は、蒸着材料としての有機EL材料(発光層形成材料)を加熱して溶融させ、有機EL材料の蒸気を発生させるものであり、有機EL材料を入れる容器(図示省略)と有機EL材料を加熱蒸発させるための加熱手段(図示省略)とを備えて構成されている。そして、赤色用蒸発源2r、緑色用蒸発源2g及び青色用蒸発源2bが並べて備えられ、各蒸発源2r〜2bの容器の上方には、近接してシャッタ24が設けられている。図1においては、緑色用蒸発源2gのシャッタ24が開かれ、緑色有機EL材料が蒸着されている状態を示している。なお、各色の蒸発源2r〜2bは、夫々待機位置から後述の基板保持部3に保持された有機EL表示用基板5の真下の位置まで移動可能に設けられてもよい。
【0024】
上記真空容器1内にて上記蒸発源2に対向してその上方には、基板保持部3が設けられている。この基板保持部3は、有機EL表示用基板5の被着面を下側にして保持するもので、金属材料で形成される。そして、有機EL表示用基板5の周辺領域に設けられている加熱用配線22の電極端子部に電気的に接続する図示省略の接続手段が設けられている。
【0025】
上記真空容器1内にて上記蒸発源2と基板保持部3との間には、帯電手段25が設けられている。この帯電手段25は、蒸発源2から蒸発した有機EL材料の蒸着分子26(図9参照)が有機EL表示用基板5面に到達する前に有機EL材料の蒸着分子26を帯電させるものであり、例えば、蒸着分子26に電子ビーム27を照射して蒸着分子26を帯電させるようになっている。又は、真空容器1内でのグロー放電を利用して蒸着分子26を帯電させてもよく、帯電方法は特に限定されない。
【0026】
上記基板保持部3の接続手段に結線して真空容器1の外部には、電圧印加手段4が備えられている。この電圧印加手段4は、発光層16を形成する箇所に対応して位置する画素電極14に電気的に接触する抵抗体21に、帯電された蒸着分子26の帯電極性とは異なる極性で且つ有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電し、発光層16を形成しない箇所に対応して位置する画素電極14に電気的に接触する抵抗体21に、帯電された蒸着分子26の帯電極性と同じ極性で且つ有機EL材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電させるものである。これにより、抵抗体21には、印加電圧に応じた電流が流れ、その結果ジュール熱が発生して画素電極14を所望の温度に加熱することができる。
【0027】
次に、このように構成された真空蒸着装置の動作及び有機EL表示装置の製造方法について図5のフローチャートを参照して説明する。なお、以下の説明においては、昇華温度が赤色有機EL材料、緑色有機EL材料及び青色有機EL材料の順に低くなるように各有機EL材料が選択されており、赤色発光層16r、緑色発光層16g、青色発光層16b(図10参照)をこの順に形成する場合について述べる。
【0028】
先ず、ステップS1においては、真空容器1を開いて内部の三つの蒸発源2r〜2bの容器に夫々対応色の有機EL材料をセットすると共に、基板保持部3に有機EL表示用基板5を被着面を下にして保持し、有機EL表示用基板5の周辺領域に設けられた加熱用配線22の電極端子部に接続手段を取り付けて蒸着開始準備を行う。
【0029】
次に、ステップS2においては、真空容器1を閉じた後、真空ポンプを駆動して容器内の空気を排気し、容器内を予め設定された圧力の真空状態にする。
【0030】
ステップS3においては、帯電手段25を駆動して、蒸発源2から有機EL表示用基板5に向かう有機EL材料の蒸着分子26の経路に例えば電子ビーム27を照射し、蒸着分子26を負極性に帯電し得るようにする。
【0031】
ステップS4においては、電圧印加手段4により各画素8の画素電極14に接触する抵抗体21に予め設定された電圧を印加して通電する。この場合、図6(a)に示すように、赤色画素8rの画素電極14rに接触する抵抗体21には、帯電された蒸着分子26の負極性とは反対の正極性で且つ赤色有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧+Vrを印加する。ここで画素電極14rに印加する電圧は、一定電圧であってもよいが、望ましくは、図7に示すように一定周期のパルス状のものがよい。パルス状の電圧の方が電場の広がりが小さくて周辺部への影響が小さくなる。したがって、帯電された蒸着分子26を画素電極14上に効率よく引き寄せることができる。一方、緑色画素8g及び青色画素8bの各画素電極14g,14bに接触する抵抗体21には、図7に示すように、帯電された蒸着分子26の負極性と同じ負極性で且つ画素電極14g,14bに赤色有機EL材料の昇華温度以上の温度を発生させ得る一定電圧−Vg,−Vbを印加して通電する。
【0032】
ステップS5においては、赤色用蒸発源2rを駆動し、赤色有機EL材料を蒸発させる。この場合、赤色有機EL材料の蒸発が安定し、また、図8又は図11に示すように画素電極14g,14bの温度が赤色有機EL材料(R材料)の昇華温度以上となるまでの一定時間待った後、シャッタ24を開き蒸着を開始する。これにより、赤色有機EL材料の蒸着分子26が帯電手段25によって負極性に帯電されて有機EL表示用基板5に向かって進む。
【0033】
ステップS6においては、赤色有機EL材料の蒸着を予め定められた一定時間だけ行い、一定時間経過後シャッタ24を閉じると共に赤色用蒸発源2rの駆動を停止して赤色有機EL材料の蒸着を終了する。この場合、赤色画素8rの画素電極14rに接触する抵抗体21には、図9又は図10(a)に示すように、帯電された赤色蒸着分子26の負極性とは反対の正極性の電圧+Vrが印加されているので、赤色蒸着分子26は画素電極14rに引き寄せられて画素電極14r上に被着する。このとき、画素電極14rの温度Trは、図8又は図11に示すように赤色有機EL材料の昇華温度よりも低いため、赤色有機EL材料は画素電極14rに被着してそのまま留まり、図10(a)に示すように一定厚みの赤色発光層16rが形成される。一方、緑色画素8g及び青色画素8bの各画素電極14g,14bに接触する抵抗体21には、図9に示すように、帯電された赤色蒸着分子26の負極性と同じ負極性の電圧−Vg,−Vbが印加されているので、赤色蒸着分子26の多くは画素電極14g,14bに反発されて画素電極14g,14b上に被着しない。同時に、画素電極14g,14bの温度Tg,Tbは、図8に示すように赤色有機EL材料の昇華温度よりも高くなっているため、該画素電極14g,14bに被着した一部の赤色有機EL材料も再昇華して画素電極14g,14b上に留まることができず、図10(a)に示すように各画素電極14g,14b上には赤色発光層16rは形成されない。
【0034】
ステップS7においては、全ての発光層16の蒸着形成を終了したか否かが判定される。この場合、赤色発光層16rが形成されただけであるので、ステップS7は“NO”判定となってステップS4に戻る。
【0035】
ステップS4においては、図6(b)に示すように、緑色画素8gの画素電極14gに接触する抵抗体21に帯電された蒸着分子26の負極性とは反対の正極性で且つ緑色有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得るパルス状の電圧+Vgを印加して通電する。一方、赤色画素8r及び青色画素8bの各画素電極14r,14bに接触する抵抗体21には、図7に示すように、帯電された蒸着分子26の負極性と同じ負極性で且つ画素電極14r,14bに緑色有機EL材料の昇華温度以上の温度を発生させ得る一定電圧−Vr,−Vbを印加して通電する。この場合、赤色画素8rの画素電極14rに接触する抵抗体21に対する印加電圧−Vrは、緑色有機EL材料の蒸着時に、前工程で形成した赤色発光層16rが再昇華しないように、画素電極14rの温度Trが緑色有機EL材料の昇華温度よりも高く、赤色有機EL材料の昇華温度よりも低いか、又は高くてもその昇華温度近傍となるように設定されるとよい。
【0036】
ステップS5においては、緑色用蒸発源2gを駆動し、緑色有機EL材料を蒸発させる。この場合、緑色有機EL材料の蒸発が安定し、また、図11に示すように画素電極14r,14bの温度が緑色有機EL材料(G材料)の昇華温度以上となるまでの一定時間待った後、シャッタ24を開き蒸着を開始する。これにより、緑色有機EL材料の蒸着分子26が帯電手段25によって負極性に帯電されて有機EL表示用基板5に向かって進む。
【0037】
ステップS6においては、緑色有機EL材料の蒸着を予め定められた一定時間だけ行い、一定時間経過後シャッタ24を閉じると共に緑色用蒸発源2gの駆動を停止して緑色有機EL材料の蒸着を終了する。この場合、緑色画素8gの画素電極14gに接触する抵抗体21には、図10(b)に示すように、帯電された緑色蒸着分子26の負極性とは反対の正極性の電圧+Vgが印加されているので、緑色蒸着分子26は画素電極14gに引き寄せられて画素電極14g上に被着する。このとき、画素電極14gの温度Tgは、図11に示すように緑色有機EL材料の昇華温度よりも低いため、緑色有機EL材料は画素電極14gに被着してそのまま留まり、図10(b)に示すように一定厚みの緑色発光層16gが形成される。一方、赤色画素8r及び青色画素8bの各画素電極14r,14bに接触する抵抗体21には、図10(b)に示すように、帯電された緑色蒸着分子26の負極性と同じ負極性の電圧−Vr,−Vbが印加されているので、緑色蒸着分子26の多くは画素電極14r,14bに反発して画素電極14r,14b上に被着しない。同時に、画素電極14r,14bの温度Tr,Tbは、図11に示すように緑色有機EL材料の昇華温度よりも高くなっているため、該画素電極14r,14bに被着した一部の緑色有機EL材料も再昇華して画素電極14r,14b上に留まることができず、図10(b)に示すように各画素電極14r,14b上には緑色発光層16gは形成されない。
【0038】
ステップS7においては、再び、全ての発光層16の蒸着形成を終了したか否かが判定される。この場合、赤色及び緑色発光層16r,16gが形成されただけであるので、ステップS6は“NO”判定となってステップS4に戻り、再度ステップS4〜S7が実行される。
【0039】
即ち、ステップS4においては、図6(c)に示すように、青色画素8bの画素電極14bに接触する抵抗体21に帯電された蒸着分子26の負極性とは反対の正極性で且つ青色有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得るパルス状の電圧+Vbを印加して通電する。一方、赤色画素8r及び緑色画素8gの各画素電極14r,14gに接触する抵抗体21には、図7に示すように、帯電された蒸着分子26の負極性と同じ負極性で且つ画素電極14r,14gに青色有機EL材料の昇華温度以上の温度を発生させ得る一定電圧−Vr,−Vgを印加して通電する。この場合、赤色及び緑色画素8r,8gの画素電極14r,14gに接触する抵抗体21に対する印加電圧(−Vr,−Vg)は、青色有機EL材料の蒸着時に、前工程で形成した赤色及び緑色発光層16r,16gが再昇華しないように、各画素電極14r,14gの温度Tr,Tgが青色有機EL材料の昇華温度よりも高く、緑色有機EL材料の昇華温度よりも低いか、又は高くてもその昇華温度近傍となるように設定されるとよい。
【0040】
ステップS5においては、青色用蒸発源2bを駆動し、青色有機EL材料を蒸発させる。この場合、青色有機EL材料の蒸発が安定し、また、図11に示すように画素電極14r,14gの温度が青色有機EL材料(B材料)の昇華温度以上となるまでの一定時間待った後、シャッタ24を開き蒸着を開始する。これにより、青色有機EL材料の蒸着分子26が帯電手段25によって負極性に帯電されて有機EL表示用基板5に向かって進む。
【0041】
ステップS6においては、青色有機EL材料の蒸着を予め定められた一定時間だけ行い、一定時間経過後シャッタ24を閉じると共に青色用蒸発源2bの駆動を停止して青色有機EL材料の蒸着を終了する。この場合、青色画素8bの画素電極14bに接触する抵抗体21には、図10(c)に示すように、帯電された青色蒸着分子26の負極性とは反対の正極性の電圧+Vbが印加されているので、青色蒸着分子26は画素電極14bに引き寄せられて画素電極14b上に被着する。このとき、画素電極14bの温度Tbは、図11に示すように青色有機EL材料の昇華温度よりも低いため、青色有機EL材料は画素電極14bに被着してそのまま留まり、図10(c)に示すように一定厚みの青色発光層16bが形成される。一方、赤色画素8r及び緑色画素8gの各画素電極14r,14gに接触する抵抗体21には、図10(c)に示すように、帯電された青色蒸着分子26の負極性と同じ負極性の電圧−Vr,−Vgが印加されているので、青色蒸着分子26の多くは画素電極14r,14gに反発されて画素電極14r,14g上に被着しない。同時に、画素電極14r,14gの温度Tr,Tgは、図11に示すように青色有機EL材料の昇華温度よりも高くなっているため、該画素電極14r,14gに被着した一部の青色有機EL材料も再昇華して画素電極14r,14b上に留まることができず、図10(b)に示すように各画素電極14r,14g上には青色発光層16bは形成されない。
【0042】
ステップS7においては、再々度、全ての発光層16の蒸着形成を終了したか否かが判定される。この場合、全ての色の有機EL材料の蒸着を終えたので、ステップS6は“YES”判定となって蒸着工程を終了する。
【0043】
なお、図5に示す有機EL表示装置の製造方法において、ステップS3とステップS4とは、順番を入れ替えてもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、画素電極14に電気的に接触させて設けた抵抗体21に通電して発熱させ、画素電極14を加熱する場合について説明したが、本発明はこれに限られず、抵抗体21は設けず、画素電極14に通電して画素電極14を所望の温度に発熱させてもよい。
【0045】
さらに、以上の説明においては、有機EL表示装置を製造する場合について述べたが、本発明はこれに限られず、本発明の真空蒸着方法により製造できる如何なる製品の製造方法にも適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…真空容器
2,2r,2g,2b…蒸発源
4…電圧印加手段
5…有機EL表示用基板(被着体)
14,14r,14g,14b…画素電極(電極)
16,16r,16g,16b…発光層(薄膜パターン)
21…抵抗体
25…帯電手段
26…蒸着分子(蒸着材料の分子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で蒸着材料を蒸発源から蒸発させて被着体に予め定められた複数個所に選択的に被着させ、前記蒸着材料の薄膜パターンを形成する真空蒸着方法であって、
前記蒸発源から蒸発した前記蒸着材料の分子が前記被着体に到達する前に前記蒸着材料の分子を帯電させる段階と、
前記被着体に予め設けられた複数の電極にて、前記薄膜パターンを形成する箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、
前記薄膜パターンを形成しない箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記蒸着材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、
を行うことを特徴とする真空蒸着方法。
【請求項2】
前記電極は、前記基板側の面に電気的に接触させて抵抗体を設け、該抵抗体に通電して発熱させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着方法。
【請求項3】
真空容器内で蒸着材料を蒸発源から蒸発させて被着体に予め定められた複数個所に選択的に被着させ、前記蒸着材料の薄膜パターンを形成する真空蒸着装置であって、
前記蒸発源から蒸発した前記蒸着材料の分子が前記被着体に到達する前に前記蒸着材料の分子を帯電させる帯電手段と、
前記被着体に予め設けられた複数の電極にて、前記薄膜パターンを形成する箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記蒸着材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電し、前記薄膜パターンを形成しない箇所に対応して位置する電極に、前記帯電された蒸着材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記蒸着材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する電圧印加手段を備えたことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項4】
前記電極は、前記基板側の面に電気的に接触させて抵抗体を設け、該抵抗体に通電して発熱させるようにしたことを特徴とする請求項3記載の真空蒸着装置。
【請求項5】
真空容器内で有機EL材料を蒸発源から蒸発させて、基板面にマトリクス状に設けられた複数の画素電極上に選択的に被着させ、前記有機EL材料の発光層を形成する有機EL表示装置の製造方法であって、
前記蒸発源から蒸発した前記有機EL材料の分子が前記基板面に到達する前に前記有機EL材料の分子を帯電させる段階と、
前記発光層を形成する箇所に対応して位置する画素電極の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体に、前記帯電された有機EL材料の分子の帯電極性とは異なる極性で且つ前記有機EL材料を昇華させない程度に制限された温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、
前記発光層を形成しない箇所に対応して位置する画素電極の基板側の面に電気的に接触させて設けられた抵抗体に、前記帯電された有機EL材料の分子の帯電極性と同じ極性で且つ前記有機EL材料を昇華させるのに十分な温度を発生させ得る電圧を印加して通電する段階と、
を行うことを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項6】
前記有機EL材料は、赤、緑、青の各色に対応した3種類の有機EL材料であり、
赤色に対応した前記有機EL材料を使用して該赤色に対応した前記画素電極上に赤色の発光層を形成する工程と、
緑色に対応した前記有機EL材料を使用して該緑色に対応した前記画素電極上に緑色の発光層を形成する工程と、
青色に対応した前記有機EL材料を使用して該青色に対応した前記画素電極上に青色の発光層を形成する工程と、
を順次行うことを特徴とする請求項5記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項7】
前記3種類の有機EL材料は、夫々昇華温度が異なり、昇華温度の高い有機EL材料から順番に選択して蒸着されることを特徴とする請求項6記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−41686(P2013−41686A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176252(P2011−176252)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】