説明

研磨用シートの製造方法及び研磨用シート

【課題】 水性ポリウレタン樹脂を繊維基材の全体にわたって均一に固着させることを可能とし、十分な硬度を有し、磨耗しにくく長寿命で、しかも形態安定性にも優れた研磨用シートを効率よくかつ確実に得ることを可能とすると共に、製造環境や環境汚染の問題も同時に解決できる研磨用シートの製造方法、並びに、その製造方法により得られる研磨用シートを提供すること。
【解決手段】 (A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して研磨用シートを得ることを特徴とする研磨用シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用シートの製造方法及び研磨用シートに関し、より詳しくは、半導体用ウエハーの鏡面研磨、半導体集積回路の基材として用いられる多層配線工程又は素子分離工程において半導体ウエハーの導電膜又は絶縁膜を平坦化する化学的機械的研磨やメモリーディスク、光化学部品レンズ等の精密研磨に好適に用いることのできる研磨用シートの製造方法及び研磨用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウエハー、メモリーディスク、光化学部品レンズ等の精密研磨は、研磨用シートを被研磨体に対して圧接して研粒と水等からなる研磨液を供給しつつ、研磨用シートと被研磨体とを相対的に磨り動かすことによって行なわれていた。そして、このような精密研磨に用いる研磨用シートの製造方法としては、繊維シート基材にポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を含浸させた後に湿式凝固する方法が開示されている。
【0003】
例えば、特許第2740143号公報(特許文献1)においては、多孔質研磨パッド材料の製造方法が開示されている。このような製造方法によって得られる研磨用シートは、繊維とポリウレタン樹脂との構造体であって多くの隙間を有しており、この隙間に研磨液を保持できると共に、隙間を通して研磨くずを排出できるという特徴を有していた。
【0004】
しかしながら、このような製造方法においては、ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を使用して研磨用シートを製造するが、有機溶剤溶液の引火性や毒性が高いために製造環境が悪いという問題があった。また、このような製造方法においては、湿式凝固工程において使用した溶媒(通常は水)をそのまま廃棄すると、溶媒中に含まれる有機溶剤を原因として地球環境を悪化させるため、製造の際に有機溶剤を回収する必要が生じて多大な手間やコストがかかるという問題があった。
【特許文献1】特許第2740143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このような前記問題点を解決するため、研磨用シートの製造方法に関して有機溶剤を回収する必要のない水性ポリウレタンを用いる研磨用シートの製造方法を利用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、このような製造方法においては、水性ポリウレタンを乾式凝固させるため、繊維基材に水性ポリウレタンを含浸せしめた後に100℃以上で加熱乾燥させて溶媒である水を蒸発させる必要があることから、水の蒸発と一緒にポリウレタンも繊維基材の両表面へと移動してしまう、いわゆるマイグレーションが生じてしまうという問題があった。そのため、製造された研磨用シートは、基材の両表面近傍において十分な量のポリウレタンが固着しているものの、基材の内部(特に中心付近)にはポリウレタンの固着量が少ないか、極端な場合にはほとんど固着せず、ポリウレタンが偏在した研磨用シートとなってしまっていた。そして、このような固着状態の研磨用シートは、摩耗しやすく寿命が短い上に、研磨時にかかる圧力と熱によって変形し易いという問題があり、半導体ウエハー、メモリーディスク、光化学部品レンズ等の精密研磨に用いることができなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水性ポリウレタン樹脂を繊維基材の全体にわたって均一に固着させることを可能とし、適度な硬度を有し、磨耗しにくく長寿命で、しかも形態安定性にも優れた研磨用シートを効率よくかつ確実に得ることを可能とすると共に、製造環境や環境汚染の問題も同時に解決することが可能な研磨用シートの製造方法、並びに、その製造方法により得られる研磨用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の水性ポリウレタン樹脂、特定の有機酸塩及び水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥することにより、乾燥中に水性ポリウレタン樹脂がマイグレーションして偏在することなく、均一に不織布の内部にまで水性ポリウレタン樹脂が固着した研磨用シートが得られることを見い出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の研磨用シートの製造方法は、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して研磨用シートを得ることを特徴とするものである。
【0010】
このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる前記混合液としては、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩との配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.5〜100:20であることが好ましい。
【0011】
また、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂であることが好ましい。
【0012】
また、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基の含有量が、0.5〜4.0質量%であることが好ましい。
【0013】
さらに、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いられる(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の100%モジュラスの値としては、10〜25MPaであることが好ましい。
【0014】
また、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる前記炭素数が1〜4であるカルボン酸としては、蟻酸又は酢酸であることが好ましい。
【0015】
また、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる前記混合液としては、pH値が7.0〜9.0でかつ凝固温度が35〜60℃であることが好ましい。
【0016】
さらに、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる前記不織布としては、酸化チタンの含有量が0.1質量%以下の繊維からなる不織布であることが好ましい。
【0017】
また、このような本発明の研磨用シートの製造方法に用いる前記繊維としては、ポリエステル繊維であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の研磨用シートは、前記本発明の製造方法により得られることを特徴とする研磨用シートである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の研磨用シートの製造方法によれば、溶媒である水が蒸発するよりも比較的低い温度でポリウレタンを凝固及び固着させることができるため、溶媒である水の蒸発による影響が少なく、不織布基材全体に亘ってポリウレタンが均一に固着した研磨用シートを製造することができる。また、本発明の研磨用シートの製造方法によれば、適度な硬度を有しており、摩耗しにくく長寿命であると共に、研磨時に変形しにくい研磨用シートを生産性良く製造することができる。そして、本発明の製造方法においては水性ポリウレタン樹脂を用いているため、ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を用いた場合に発生する有機溶剤の回収コスト及び労力を削減することが可能となり、更に火災の危険性、作業環境の悪化、及び環境汚染という課題をも同時に解決することが可能となる。
【0020】
また、本発明の研磨用シートは、前記製造方法により得たものであるため摩耗しにくく長寿命であり、しかも研磨時に変形しにくいため精密な研磨をする際に用いることができる。
【0021】
従って、本発明によれば、水性ポリウレタン樹脂を繊維基材の全体にわたって均一に固着させることを可能とし、適度な硬度を有し、磨耗しにくく長寿命で、しかも形態安定性にも優れた研磨用シートを効率よくかつ確実に得ることを可能とすると共に、製造環境や環境汚染の問題も同時に解決することが可能な研磨用シートの製造方法、並びに、その製造方法により得られる研磨用シートを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の研磨用シートの製造方法は、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して研磨用シートを得るものである。
【0024】
このような本発明にかかる(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は、ウレタン樹脂骨格中に親水成分としてカルボキシル基を含有したポリウレタン樹脂である。このような(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂としては、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を好適に用いることができる。
【0025】
このような(a)有機ジイソシアネートとしては、特に制限は無く、2個のイソシアネート基を有する脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート及び芳香族ジイソシアネートを使用することができる。このような(a)有機ジイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらのジイソシアネート化合物は1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。このような(a)有機ジイソシアネートの中でも、脂肪族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネート化合物は、無黄変性を研磨用シートに与えるので好適に用いることができ、特にヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート及び、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンを好適に用いることができる。
【0026】
また、(b)ポリオールとしては、2個以上のヒドロキシル基を有するものであれば特に制限は無く、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等の他、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルエステルポリオールも使用することができる。
【0027】
このようなポリエステルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレン)アジペート、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物、ノナンジオールとダイマー酸の重縮合物、エチレングリコールとアジピン酸とダイマー酸の共重縮合等を挙げることができる。
【0028】
また、前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0029】
さらに、前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの単独重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドのランダム共重合体やブロック共重合体等を挙げることができる。
【0030】
また、このような(b)ポリオールは、1種を単独で用いることができ、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。更に、このような(b)ポリオールの平均分子量としては、500〜5000であることが好ましく、1000〜3000であることがより好ましい。また、このような(b)ポリオールとしては、得られるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂によって研磨用シートに適度な硬さを付与できるという観点から、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールを使用することが好ましい。
【0031】
また、(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等を挙げることができる。更に、このようなカルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物としては、カルボキシル基を有するジオールと、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸とを反応させて得られるペンダント型カルボキシル基を有するポリエステルポリオールを用いることもできる。なお、前記カルボキシル基を有するジオールに代えて、ジオール成分として、カルボキシル基を有さないジオールを混合して反応させても良い。また、このようなカルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
また、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを製造する際には、必要に応じて2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤を使用することができる。
【0033】
このような2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤としては、分子量が400以下であることが好ましく、特に300以下が好ましい。このような低分子量鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の低分子量ポリアミン等を挙げることができる。これらの2個以上の活性水素原子を有する低分子量鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
本発明において、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーを製造する具体的な方法としては特に制限は無く、例えば、従来公知の一段式のいわゆるワンショット法、多段式のイソシアネート重付加反応法等により製造することができる。この時の反応温度は、40〜150℃であることが好ましい。反応の際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキサノエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒を添加することができる。また、反応中又は反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶剤を添加することができる。このような有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を使用することができる。
【0035】
また、本発明において、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和の方法としては、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの調製前又は調整後に適宜の方法を用いて行うことができる。このようなカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和に用いる化合物に特に制限は無く、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチル−ジエタノールアミン、N,N−ジメチルモノエタノールアミン、N,N−ジエチルモノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。これらの中でも、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン等のヒドロキシル基を有さない第3級アミン類が特に好ましい。
【0036】
また、本発明において、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させる際に用いる乳化機器に特に制限は無く、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパー等を挙げることができる。また、乳化分散させる際には、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を、特に乳化剤を用いずに室温〜40℃の温度範囲で水に乳化分散させて、イソシアネート基と水との反応を極力抑えることが好ましい。更に、必要に応じてリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、アジピン酸、塩化ベンゾイル等の反応抑制剤を添加することができる。
【0037】
さらに、本発明において、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を水に乳化分散させた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させることで目的とする(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液を得ることができる。
【0038】
このような(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン等のジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン;ジ第1級アミン及びモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン;ジ第1級アミンのモノケチミン等の水溶性アミン誘導体;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、琥珀酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、1,1’−エチレンヒドラジン、1,1’−トリメチレンヒドラジン、1,1’−(1,4−ブチレン)ジヒドラジン等のヒドラジン誘導体を挙げることができる。これらのアミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
また、本発明において、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の鎖伸長反応は、前記したカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化分散物に、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を添加して行うことができる。また、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物に、前記したカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物の乳化分散物を添加して行うこともできる。鎖伸長反応は、反応温度20〜40℃で行うことが好ましく、通常は30〜120分間で完結する。なお、カルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーを製造する際に有機溶剤を使用した場合には、例えば、鎖伸長反応を終えた後、減圧蒸留等により有機溶剤を除去することが好ましい。
【0040】
本発明において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の100%モジュラスの値としては、10〜25MPaであることが好ましく、12〜20MPaであることがより好ましい。100%モジュラスの値が10MPa未満の場合には、研磨用シートとしての耐久性が弱くなる傾向にあり、他方、25MPaを超えると、研磨用シートが硬くなるため研磨用シートの製造過程において巻き取りができない等の不具合が生じる傾向にある。なお、100%モジュラスの値は、JIS K 6251(1993)に準じて測定し、ダンベル状3号形の試験片を用いて、標線間距離が100%伸びたとき(2倍に伸びたとき)における所定伸び引張応力(MPa)の値である。
【0041】
また、本発明において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基の含有量としては、0.5〜4.0質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることがより好ましい。カルボキシル基含有量が0.5質量%未満の場合には、得られる(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の貯蔵安定が悪くなる傾向にあり、他方、4.0質量%を超えると、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩と混合した際に生じる感熱凝固温度が高くなってしまい、研磨シートの製造の際にマイグレーション防止の効果が弱くなる傾向にある。
【0042】
さらに、本発明において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂は乳化分散液の形で保有することが好ましく、そのpH値は、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.0未満では、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液の貯蔵安定が悪くなる傾向にあり、他方、pH値が9.0を超えると、研磨シート製造の際にマイグレーション防止の効果が弱くなる傾向にある。
【0043】
また、本発明にかかる(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩としては、炭素数が1〜4であるカルボン酸を用いたアンモニウム塩であれば特に制限されず、市販されているものを用いることもできる。このような炭素数1〜4であるカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、アクリル酸、イソクロトン酸等のカルボン酸が挙げられる。このような炭素数1〜4のカルボン酸の中でも、混合液の含浸性、乾燥工程におけるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂のマイグレーション防止性、及び乾燥中において揮発し、研磨用シートに残留することが少ないこと等の理由から、蟻酸又は酢酸を好適に用いることができる。
【0044】
本発明の研磨用シートの製造方法において、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩を(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液に混合する際に、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩を固体(粉体)の状態で(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液に混合することも可能であるが、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液の安定性を保持するという観点から、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩を水溶液の状態で混合することが好ましい。
【0045】
このような(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩の水溶液において、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩の濃度としては、1〜50質量%であることが好ましく、10〜30質量%がより好ましい。炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩の濃度が1質量%未満の水溶液の場合には、乾燥時のマイグレーション防止性を発揮させるために多量の前記水溶液を(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液に添加する必要があり、それに伴って混合液中の(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂濃度が下がることになる。そのため、必要量のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂を不織布に固着させるために多量の混合液を含浸させることが必要となるため、乾燥中に揮発させる水分量が多くなってしまい、乾燥時間が長くなって経済性が悪くなってしまう傾向にある。一方、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩の濃度が50質量%を超えると、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液との混合時に析出物が発生する等、乳化分散液の安定性を損なう傾向にある。
【0046】
また、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩水溶液のpH値としては、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。pH値が7.0未満であると(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の乳化分散液との混合時に析出物が発生する傾向にあり、他方、pH値が9.0を超えると乾燥工程においてマイグレーション防止効果が弱くなる傾向にある。
【0047】
また、本発明にかかる(C)水は、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂及び(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩を混合する際に、溶媒としての役割を有するものであり、イオン交換水又は蒸留水を好適に用いることができる。
【0048】
本発明において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を調製する方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を用いることができる。
【0049】
また、前記混合液において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩との配合比としては、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.5〜100:20であることが好ましく、100:2〜100:10であることがより好ましい。(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩との配合比が100:0.5を超えた場合、すなわち炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩が0.5より少ない場合には、乾燥工程においてマイグレーション防止効果が弱くなる傾向にあり、他方、100:20未満である場合、すなわち炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩が20より多い場合には、夏場の気温雰囲気下において、混合液がゲル化してしまう傾向にある。
【0050】
また、前記混合液のpH値としては、7.0〜9.0であることが好ましく、7.5〜8.5であることがより好ましい。混合液のpH値が7.0未満であると、該混合液の安定性が悪くなる傾向にあり、他方、pH値が9.0を超えると、乾燥工程においてマイグレーション防止効果が弱くなる傾向にある。
【0051】
さらに、前記混合液の感熱凝固温度としては、35〜60℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。ここで感熱凝固温度とは、前記の混合液50gを100mLのガラス製ビーカーに取り、内容物を撹拌しつつ、そのビーカーを95℃の恒温水漕に漬けて徐々に加熱し、内容物が流動性を失い凝固する時の温度である。感熱凝固温度が35℃未満の場合には、夏場の気温雰囲気下において、混合液がゲル化してしまう傾向にあり、他方、60℃を超える場合には、感熱凝固がシャープに発現しないために、乾燥工程においてマイグレーション防止性が弱くなる傾向にある。
【0052】
また、前記混合液中の(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の含有量としては、15〜35質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。前記混合液中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の含有量が15質量%未満であると、必要量のポリウレタン樹脂を固着させるために不織布に対して多量の前記混合液を含浸させることになることから、乾燥で揮発させる水分量が多くなって乾燥時間が長くなるため、経済性が悪くなる傾向にある。一方、前記混合液中のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の含有量が35質量%を超えると、前記混合液の安定性が悪くなる傾向にある。
【0053】
さらに、本発明にかかる不織布としては特に限定されるものではないが、例えば、ニードルパンチ法、水流絡合法等で製造した絡合不織布を使用することができる。このような不織布の中でもニードルパンチ法により製造した絡合不織布は、繊維同士をある程度離れた状態にすることができるため、ポリウレタン樹脂を凝固、固着させた場合に研磨シートに適度な隙間を生じさせて目詰まりがし難いことから好適に用いることができる。
【0054】
このような不織布の中でも、酸化チタン量が0.1質量%以下(より好ましくは0.08質量%以下)の繊維からなる不織布を用いることが好ましい。酸化チタン量が0.1質量%を超えると、得られる研磨用シートに金属元素が多く含まれてしまい、シリコンウェハー等の被研磨体中に研磨用シートに含まれる金属元素が多く取り込まれやすく、その結果、電気特性に悪影響を及ぼす可能性が高くなる傾向にあるためである。なお、ポリエステル繊維はその光沢性を制御するための添加剤として、酸化チタンを多量(0.3〜3質量%程度)に添加することが一般的であるため、酸化チタン量が0.1質量%以下のポリエステル繊維は非常に特殊である。また、この酸化チタン量とはEN 1122:2001に基づくICP(プラズマ発光分光分析装置)を用いて、湿式分解法にて前処理し、測定した値をいう。
【0055】
また、前記不織布を構成する繊維としては、特に限定するものではなく、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維等の1種類以上を用いて製造された繊維を挙げることができ、研磨液によって膨潤することがないという観点から、特にポリエステル繊維が好適である。
【0056】
さらに、前記不織布を構成する個々の繊維の繊度としては、特に限定するものではないが、繊維の柔軟性を高くして得られる研磨用シートを用いて研磨する際に研粒のあたりが柔らかくなり被研磨物の研磨表面に傷がつきにくくなるという観点から、繊度は6.6dtex以下であることが好ましく、5.5dtex以下であることがより好ましい。なお、繊度の下限は特に限定するものではないが、1.1dtexが適当である。また、同様の理由で、前記不織布を構成する繊維全体の平均繊度は5.5dtex以下であることが好ましく、4.4dtex以下であることがより好ましい。なお、前記不織布を構成する繊維全体の平均繊度の下限としては、1.7dtex以上であることが好ましい。また、ここに言う「繊度」とは、JIS L 1015(1999)に規定されているA法により得られる値をいい、「平均繊度」は不織布の厚さ方向断面を走査型電子顕微鏡にて500倍の倍率で撮影し、繊維の長さ方向に対して直角に切断された繊維断面を表している任意の100本を抽出し、個々の直径をノギスで計測して、100本の算術平均繊維直径を算出した後に、繊維の密度をもとに繊度(1000mあたりの重さ(g))に換算した値をいう。
【0057】
また、前記不織布を構成する繊維の繊維長としては特に限定するものではないが、繊維同士の結合強度が得られ易いようにするという観点から、繊維長は20〜100mmであることが好ましく、30〜80mmであることがより好ましい。なお、ここに言う「繊維長」とは、JIS L 1015(1999)(化学繊維ステープル試験法)B法(補正ステープルダイヤグラム法)により得られる繊維の長さをいう。
【0058】
さらに、前記不織布の目付としては、100〜400g/mであることが好ましく、200〜300g/mであることがより好ましい。目付が400g/mを超えると緻密な構造の研磨用シートとなり易く、研磨用シートの目詰りが早くなる傾向があり、他方、目付が100g/mより低目付であると、得られる研磨用シートの厚さが薄くなって研磨機への取り付け作業性が低下することに加え、研磨用シート1枚あたりの被研磨物処理量が少なくなる傾向にある。なお、ここに言う「目付」はJIS L 1096(1999)「一般織物試験方法」の8.4.2「織物の標準状態における単位面積あたりの質量」に定義されている値をいう。
【0059】
また、前記不織布の厚さとしては、0.8〜2mm(20gf/cm荷重時)であることが好ましく、1〜1.8mmであることがより好ましい。厚さが2mmより厚いと、研磨用シート使用初期と使用末期とで厚さが大きく変化する傾向にあり、0.8mmより薄いと、研磨機への取り付け作業性が低下することに加え、研磨用シート1枚あたりの被研磨物処理量が少なくなる傾向にある。
【0060】
本発明の研磨用シートの製造方法において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液中には、本発明の目的を損なわない範囲で加工適性を付与するために各種の添加剤を併用することができる。例えば、低級アルコール、グリコール系溶剤、アルコール系の非イオン界面活性剤、アセチレングリコール系の非イオン界面活性剤、シリコーン系の界面活性剤、フッ素系の界面活性剤等の各種浸透剤;酸化防止剤、耐光向上剤、紫外線防止剤等の各種安定化剤;鉱物油系、シリコーン系等の各種消泡剤;ウレタン化触媒、可塑剤、顔料等の着色剤、可使時間延長剤等を加えることができ、これらは1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
このような添加剤の中でも、特に浸透剤を使用することが好ましい。浸透剤を用いることで、前記不織布に前記混合液を速やかに含浸させることが可能となると共に、前記不織布にポリウレタン樹脂を均一に固着させる効果が得られるためである。このような浸透剤としては、一般に用いられているものであればよく特に制限されないが、乾燥時の揮発性が高く残留しない点から、低級アルコール、グリコール系溶剤を用いることが特に好ましい。
【0062】
また、本発明の製造方法において、前記不織布に前記混合液を含浸させる方法としては、特に制限は無く、例えば、dip−nip方式からなる含浸加工、噴霧処理等の従来より公知の方法が好ましく採用でき、前記混合液の濃度及び処理条件等も適宜選択することができる。
【0063】
本発明の製造方法において、前記混合液を前記不織布内部に含浸させた後に乾燥する方法としては、特に制限は無く、例えば、熱風を用いた乾式乾燥;ハイテンパルチャースチーマー(H.T.S.)やハイプレッシャースチーマー(H.P.S.)を用いた湿式乾燥;マイクロ波照射式乾燥等を用いることができ、連続加工性の点で熱風を用いた乾式乾燥を好適に用いることができる。このような乾燥方法は、1種を単独で用いることができ、又は、2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、前記熱風を用いた乾式乾燥を用いる場合においては、その処理温度を60〜190℃とし、処理時間を1〜20分とすることが好ましく、処理温度100〜170℃とし、処理時間を2〜5分とすることがより好ましい。
【0064】
このようにして(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して、本発明の研磨用シートを得ることができる。
【0065】
このような本発明の研磨用シートにおいて、研磨用シートにおけるポリウレタン樹脂等の固着固形分の量としては、特に制限されないが、研磨用シート中に(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂に由来する成分が30〜80質量%、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩に由来する成分が2〜7質量%程度であることが好ましい。
【0066】
本発明により得られる研磨用シートは、レンズ、反射ミラー等の光学材料、シリコンウエハー、ハードディスク用のガラス基板、情報記録用樹脂板やセラミック板等の高度の表面平坦性が要求される分野で、研磨用シート及び/又は研磨用パッドとして使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
なお、実施例及び比較例により得られた研磨用シートは、下記の評価方法で評価した。
【0069】
(1)マイグレーション防止性
走査型電子顕微鏡[日本電子(株)製、JSM5600LV]を用いて研磨用シートの断面を60倍の倍率で観察し、不織布の中央部に存在するポリウレタン樹脂の固着状態と不織布の表面部に存在するポリウレタン樹脂の固着状態を比較して次の基準に従って評価した。
5級:研磨用シート断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量に全く差異が認められず、マイグレーションが生じていない。
4級:研磨用シート断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量に殆ど差異が認められず、マイグレーションが生じていない。
3級:研磨用シート断面において、中央部と表面部とで、樹脂固着量にわずかに差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の10%には樹脂固着が認められない。
2級:研磨用シート断面に於いて、中央部と表面部とで、樹脂固着量にかなり差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の30%には樹脂固着が認められない。
1級:研磨用シート断面に於いて、中央部と表面部とで、樹脂固着量に著しく差異が認められ、全体の厚さに占める中央部の50%には樹脂固着が認められない。
【0070】
(2)摩耗試験
JIS L 1096(1999)のテーバー形法に準じ、テーバー摩耗試験機[安田精機製作所製、NO.101]により、硬質輪H−22を用い、荷重500gをかけて研磨用シートを3000回摩耗させた後、マイクロメーターによって研磨用シートの摩耗部の厚さ(Tr)を測定し、マイクロメーターによって測定した非摩耗部の厚さ(Tn)と比較して、次式によって研削度(Sd、単位:%)を算出し、次の基準に従って評価した。
式:Sd=[1−(Tr/Tn)]×100
5級:研削度が10%以下である。
4級:研削度が10%を超えており、かつ20%以下である。
3級:研削度が20%を超えており、かつ30%以下である。
2級:研削度が30%を超えており、かつ40%以下である。
1級:研削度が40%を超えている。
【0071】
(3)硬度試験
JIS K 6253(1993)の硬さ試験法に準じ、デュロメータ硬さ試験機[(株)テクロック製、shoreA(針入方式)]により、5枚重ねした研磨用シートの硬度を測定した。
【0072】
(4)形態安定性試験
JIS R 3453(1995)の圧縮率、復元率測定法に準じた圧縮復元率測定装置[テスター産業(株)製]を用い、研磨用シートを予め50℃の恒温層内に放置しエージング処理した後に2枚重ねにして試料とした。そして、初荷重量1.75kg/cm2、全荷重70kg/cm2、初荷重量1.75kg/cm2の条件サイクルにより、前記試料を圧縮、復元させ、それぞれの荷重状態での前記試料の厚さを計測して次式により復元率(Rr、単位:%)を算出し、次の基準に従って評価した。
式:Rr=[(R−M)/(P−M)]×100
(式中、Pは最初の初荷重量(1.75kg/cm2)を負荷した時の厚さを示し、Mは全荷重量(70kg/cm2)を負荷した時の厚さを示し、Rは初荷重量(1.75kg/cm2)の負荷状態に戻した時の厚さを示す。)
5級:復元率が50%以上である。
4級:復元率が40%以上、50%未満である。
3級:復元率が30%以上、40%未満である。
2級:復元率が20%以上、30%未満である。
1級:復元率が20%未満である。
【0073】
[合成例1〜3及び比較合成例1]
以下に、本発明に用いるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の合成例、及び比較例に用いる水性ポリウレタン樹脂の比較合成例を示す。
【0074】
(合成例1)
攪拌機、環流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)146.8g、1,4−ブタンジオール6.3g、ジメチロールプロピオン酸10.0g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート81.8gを加え、80℃で420分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.25質量%のカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0075】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン7.2gを加えて40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行った溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水412.0gを徐々に加えてカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、ピペラジン6水和物14.5gと、ジエチレントリアミン1.3gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、90分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度70.0mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値7.8、平均粒子径100nmの安定なカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0076】
このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量は1.4質量%であり、100%モジュラスは18MPaであった。また、このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性が無いものであった。
【0077】
(合成例2)
攪拌機、環流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量1000)87.8g、ジメチロールプロピオン酸32.8g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート124.4gを加え、80℃で300分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が3.42質量%のカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0078】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン23.5gを加えて40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水400.0gを徐々に加えてカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、60質量%水加ヒドラジン9.5gと、ジエチレントリアミン2.0gとを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、90分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度150.0mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値8.1、平均粒子径50nmの安定なカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0079】
このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカボキシル基含有量は4.5質量%であり、100%モジュラスは20MPaであった。また、このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性が無いものであった。
【0080】
(合成例3)
攪拌機、環流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)146.8g、1,4−ブタンジオール6.3g、ジメチロールプロピオン酸10.0g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン105gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート81.8gを加え、80℃で420分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.25質量%のカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0081】
前記溶液を50℃以下に冷却した後、トリエチルアミン9.1gを加えて40℃で30分間中和反応を行った。次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水410.1gを徐々に加えてカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を乳化分散せしめ、分散液を得た。そして、ピペラジン6水和物14.5gと、ジエチレントリアミン1.3gを水20gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、90分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度90.0mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値9.5、平均粒子径70nmの安定なカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0082】
このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量は1.4質量%であり、100%モジュラスは18MPaであった。また、このカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物は、90℃加熱においてもゲル化せず、感熱凝固性が無いものであった。
【0083】
(比較合成例1)
攪拌機、環流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量1000)76.1g、ポリオキシエチレンポリプロピレンランダム共重合物グリコール(平均分子量1000、オキシエチレン基含有70質量%)16.9g、1,4−ブタンジオール1.5g、トリメチロールプロパン1.9g、ジブチル錫ジラウレート0.001g及びメチルエチルケトン60gを仕込み、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート40.4gを加え、80℃で300分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基の含有量が2.10質量%のイソシアネート基末端プレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
【0084】
前記溶液を30℃以下に冷却した後、デシルリン酸エステル0.1g及びポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル(HLB=15)6.0gを添加し、均一に混合した後、ディスパー羽根を用いて水254.0gを徐々に加え転相乳化、分散を行い分散液を得た。そして、ピペラジン6水和物2.0gと、ジエチレントリアミン0.8gを水11.3gに溶解したポリアミン水溶液を前記分散液に添加し、90分間鎖伸長反応させた後、減圧下、35℃にて脱溶剤を行い、不揮発分35.0質量%、粘度50.0mPa・s(BM粘度計、1号ローター、60rpm)、pH値8.2、平均粒子径520nmの安定な水性ポリウレタン樹脂の水分散物を得た。
【0085】
この水性ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基含有量は0.0質量%であり、100%モジュラスは4MPaであった。また、この水性ポリウレタン樹脂の水分散物は、45℃にてゲル化が生じ、感熱凝固性を有するものであった。
【0086】
以下に、表1に合成例1〜3、比較合成例1の性状をまとめて示す。
【0087】
【表1】

【0088】
[不織布]
酸化チタン量が0.07質量%のポリエステル繊維(繊度:3.3dtex、繊維長:64mm、帝人(株)製、商品名:テイジンテトロンTA04B)のみをカード機により開繊して繊維ウエブを形成した後に、針密度1000本/cmでニードルパンチを実施して、ポリエステル絡合不織布(目付:265g/m、厚さ:1.65mm、平均繊度:3.3dtex)を製造した。
【0089】
[実施例1〜4及び比較例5]
(実施例1)
合成例1で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸アンモニアの10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液におけるカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:5であり、pH値は7.9、感熱凝固温度は45℃、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0090】
前記混合液を、ポリエステル絡合不織布に、スリットマングルを用いて、ピックアップ300質量%となるように含浸させた後、熱風乾燥機にて、温度150℃で3分間乾燥を行い、ポリウレタン樹脂を凝固、固着させたポリウレタン固着不織布(目付:480g/m、厚さ:1.45mm)を得た。次いで、このポリウレタン固着不織布の両面にバフィング処理を実施して、研磨用シート(目付:400g/m、厚さ:1.2mm)を得た。
【0091】
(実施例2)
合成例1で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸アンモニアの20質量%水溶液(pH値7.3)26.3g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水7.7gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:15であり、pH値は7.6、感熱凝固温度は45℃、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0092】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0093】
(実施例3)
合成例2で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸アンモニアの10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂:酢酸アンモニアは100:5であり、pH値は8.0、感熱凝固温度は51℃、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0094】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0095】
(実施例4)
合成例3で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸アンモニアの10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:5であり、pH値は9.2、感熱凝固温度は70℃、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0096】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0097】
(比較例1)
合成例1で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水34.0gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:0であり、pH値は7.8、感熱凝固温度は90℃以上であり、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0098】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0099】
(比較例2)
合成例1で得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸の10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液のカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と酢酸の配合比は100:5であり、pH値は7.9、感熱凝固温度は20℃以下であり、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0100】
なお、前記混合液は、酢酸の10質量%水溶液を添加した際に、瞬時に混合液がゲル化したため、研磨用シートの製造は断念した。
【0101】
(比較例3)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水34.0gを均一に混合して混合液を調整した。この混合液の水性ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:0であり、pH値は8.2、感熱凝固温度は45℃、水性ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0102】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0103】
(比較例4)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、酢酸アンモニアの10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。前記混合液の水性ポリウレタン樹脂と酢酸アンモニアの配合比は100:5であり、pH値は7.9、感熱凝固温度は45℃、水性ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0104】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0105】
(比較例5)
比較合成例1で得られた水性ポリウレタン樹脂の水分散物100g、塩化カルシウムの10質量%水溶液(pH値7.3)17.5g、テキスポートBG[アルコール系浸透剤、商品名、日華化学(株)製]の50質量%水溶液6.0g及び水16.5gを均一に混合して混合液を調整した。この混合液の水性ポリウレタン樹脂と塩化カルシウムは100:5であり、pH値は8.1、感熱凝固温度は35℃、水性ポリウレタン樹脂量は25質量%であった。
【0106】
このような混合液を用いるようにした以外は、実施例1と同様に処理して研磨用シートを得た。
【0107】
以下に、実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた研磨用シートの評価結果をまとめて表2に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
実施例1〜4で得られた研磨用シートにおいては、マイグレーションが認められず、不織布内部まで樹脂が均一に固着しており、耐摩耗性、硬度、通気性に優れていることが確認された。また、実施例1〜4で得られた研磨用シートには界面活性剤、無機塩等の残留物が無いため、研磨用シートとしての品質に優れていることが確認された。
【0110】
一方、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩を含まず、カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂のみを用いた比較例1で得られた研磨用シートにおいては、乾燥時に著しいマイグレーションが生じたことが認められ、研磨用シートとしての耐摩耗性が不十分であった。
【0111】
また、比較例2においては、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩の代わりに酢酸水溶液を用いたが、混合液がゲル化してしまったため研磨用シートの製造ができず、加工適性が不十分であった。
【0112】
さらに、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩を用いずに、界面活性剤にて乳化し得られた感熱凝固性を有する水性ポリウレタン樹脂のみを用いた比較例3で得られた研磨用シートにおいては、感熱凝固性を有しながらも、マイグレーション防止性が不十分であり、研磨用シートとしての耐摩耗性も不十分であった。また、研磨用シートに界面活性剤が残留するために、研磨用シートとしての品質も不十分であった。
【0113】
また、界面活性剤にて乳化し得られた水性ポリウレタン樹脂を用いた比較例4で得られた研磨用シートにおいては、比較例3と同様な結果が認められ、感熱凝固性を有していても、界面活性剤にて乳化し得られた水性ポリウレタン樹脂のマイグレーション防止に対しては、炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩は効果が無いことが確認された。
【0114】
炭素数1〜4のカルボン酸のアンモニウム塩の代わりに、塩化カルシウムからなる無機塩水溶液を用い、界面活性剤にて乳化し得られた水性ポリウレタン樹脂と混合した比較例5で得られた研磨用シートにおいては、無機塩水溶液により感熱凝固温度が下がり、ややマイグレーション防止性は向上したが、実施例1〜5で得られた研磨用シートと比較した場合、マイグレーション防止性は不十分であり、更に、研磨用シートとしての耐摩耗性が不十分であることが確認された。また、比較例5で得られた研磨用シートには界面活性剤、無機塩が残留するため、研磨用シートとしての品質が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上説明したように、本発明の研磨用シートの製造方法によれば、不織布内部に均一に樹脂を固着することができ、研磨用シートとして要求される研磨用シートの耐摩耗性、形態安定性に優れた研磨用シートを得ることが可能となる。
【0116】
また、本発明の研磨用シートの製造方法によれば、有機溶剤系ポリウレタン樹脂を用いずに、水性ポリウレタン樹脂を用いて研磨用シートを製造することが可能である。これにより、加工中に排出される有機溶剤による大気汚染や水質汚濁、溶剤の回収労力、作業者の労働環境等の問題を軽減することが可能となる。
【0117】
さらに、本発明の製造方法により得られる研磨用シートは、界面活性剤、無機塩等の不純物を含まず研磨用シートとしての品質に優れ、研磨対象物に対し、安定した研磨性を付与することができるため、レンズ、反射ミラー等の光学材料、シリコンウエハー、ハードディスク用のガラス基板、アルミ基板、及び一般的な金属研磨加工等の産業分野においてそのまま利用することができ、高度の表面平坦性が要求される材料の平坦化加工を安定、且つ、高い研磨効率で提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂、(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩及び(C)水を含む混合液を、不織布に含浸させた後に乾燥して研磨用シートを得ることを特徴とする研磨用シートの製造方法。
【請求項2】
前記混合液において、(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂と(B)炭素数が1〜4であるカルボン酸のアンモニウム塩との配合比が、固形分の質量換算で(A):(B)=100:0.5〜100:20であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項3】
(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂が、(a)有機ジイソシアネート、(b)ポリオール及び(c)カルボキシル基と2個以上の活性水素とを有する化合物を反応させて得られるカルボキシル基含有イソシアネート基末端プレポリマーを中和して水に自己乳化によって乳化分散せしめた後、(d)アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上有するポリアミン化合物を用いて鎖伸長反応させて得られたカルボキシル基含有ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項4】
(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂中のカルボキシル基の含有量が、0.5〜4.0質量%であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項5】
(A)カルボキシル基含有ポリウレタン樹脂の100%モジュラスの値が、10〜25MPaであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項6】
前記炭素数が1〜4であるカルボン酸が、蟻酸又は酢酸であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項7】
前記混合液のpH値が7.0〜9.0でかつ凝固温度が35〜60℃であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項8】
前記不織布が、酸化チタンの含有量が0.1質量%以下の繊維からなる不織布であることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項9】
前記繊維が、ポリエステル繊維であることを特徴とする請求項8に記載の研磨用シートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の製造方法により得られることを特徴とする研磨用シート。

【公開番号】特開2006−36909(P2006−36909A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−218518(P2004−218518)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】