説明

硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材及びその製造方法

【解決手段】硫黄をドープしたチタニアドープ石英ガラス部材。
【効果】本発明によれば、EUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張となる温度を有し、広い低熱膨張温度域を有する、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材、その製造方法、及びこの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材からなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用光学部材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面精度の高い、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板、ミラー材等のEUVリソグラフィ用部材として有用な、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材及びその製造方法に関する。更に、本発明は、EUVリソグラフィ用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年の半導体集積回路の高集積化はめざましい。この傾向に伴い、半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、現在ではArFエキシマレーザ(193nm)を使用するリソグラフィが主流となっている。今後、更なる高集積化を実現するために液浸化技術、ダブルパターニング等のArFエキシマレーザを使用したリソグラフィの延命が図られた後、極端紫外光(EUV:Extreme Ultraviolet)を使用したリソグラフィへの移行が有望視されている。
【0003】
EUVリソグラフィは、波長70nm以下の軟X線、特に13nm付近の波長を光源に使用すると予想されている。かかる波長においては、高い透過性を有する物質がないため、反射型光学系がEUVリソグラフィにおいては採用されることになる。このとき、反射は基板上に堆積させたシリコン、モリブデン等の反射多層膜によってなされるが、入射したEUV光のうち数十%は反射されずに基板にまで到達して熱へと転化する。これまでのリソグラフィ技術に比べて光源波長が極端に短いEUVリソグラフィにおいては、基板等のリソグラフィ光学系で用いられる各部材に到達した熱による僅かな熱膨張によってもリソグラフィ精度に悪影響を及ぼす。従って、反射ミラー、マスク、ステージ等の各部材には低膨張材料の使用が必須となる。低膨張材料としては、チタニアをドープした石英ガラスが公知である。チタニアを一定量添加することで石英ガラスを低熱膨張化することができる。
【0004】
これまで、EUV入射光による基材の温度上昇は5℃以下と予想されてきた。そのためEUVリソグラフィ用部材には室温レベル(19〜25℃付近)での低熱膨張化が必要と考えられてきた。しかし、EUVリソグラフィの実用機、つまりスループットの高い露光機においては50〜80℃程度まで基材温度が上昇することが予想されている。従って、基材のゼロ膨張となる温度の修正と同時に、より広温度域(−50〜150℃程度)で低熱膨張化する材料の開発が必要となっている。
【0005】
チタニアドープ石英ガラスの低熱膨張化する温度域を広くする方法として、例えば特開2005−104820号公報(特許文献1)には、チタニアドープ石英ガラスにフッ素をドープすること及び仮想温度を下げることが開示されている。しかし、チタニアドープ石英ガラスの仮想温度を下げること及びフッ素をドープする方法では、必ずしも十分に広い低熱膨張温度域を有さない。また、一般的にチタニアドープ石英ガラスにフッ素をドープする方法としては、あらかじめチタニアドープ多孔質シリカ母材を作製し、当該母材を、例えばSiF4といったフッ素を含有する雰囲気に曝露したのち、加熱ガラス化する方法が取られる。しかし、SiF4等のガスは一般的に高価であり、製造コストを上昇させる一因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−104820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、よりEUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張となる温度を有し、広い低熱膨張温度域を有する、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材、このような硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材からなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板、ミラー材等のEUVリソグラフィ用光学部材、及び硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、よりEUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張温度を有し、かつ広い低熱膨張温度域を有するチタニアドープ石英ガラス部材を得るためには、チタニアドープ石英ガラスに硫黄を共添加することが好適であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材、EUVリソグラフィ用部材、及び硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法を提供する。
請求項1:
硫黄を共添加したことを特徴とするチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項2:
硫黄濃度が10ppm以上であることを特徴とする請求項1記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項3:
チタニアを3〜10質量%含有することを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項4:
−50〜150℃における熱膨張曲線の傾きが−2.0×10-9/℃2以上+2.0×10-9/℃2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項5:
0〜100℃における熱膨張曲線の傾きが−1.5×10-9/℃2以上+1.5×10-9/℃2以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項6:
−50〜150℃における熱膨張係数が−100×10-9/℃以上+100×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項7:
0〜100℃における熱膨張係数が−75×10-9/℃以上+75×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項8:
20〜80℃における熱膨張係数が−50×10-9/℃以上+50×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項9:
0〜100℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項10:
20〜80℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
請求項11:
請求項1乃至10のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材から形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
請求項12:
EUVリソグラフィ用フォトマスク基板又はミラー材であることを特徴とする請求項11記載のEUVリソグラフィ用部材。
請求項13:
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより火炎加水分解させて得た合成シリカ微粒子を回転するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスを製造する工程において、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスと同時に硫黄源原料ガスを供給して硫黄をドープすることを特徴とする硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法。
請求項14:
硫黄源原料が、硫黄の酸化物又は塩化物であることを特徴とする請求項13記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、EUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張となる温度を有し、広い低熱膨張温度域を有する、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材、その製造方法、及びこの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材からなるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板、ミラー材等のEUVリソグラフィ用光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1で作製した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴットの中心部及び外周部における熱膨張曲線である。
【図2】実施例2で作製した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴットの中心部及び外周部における熱膨張曲線である。
【図3】実施例3で作製した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴットの中心部及び外周部における熱膨張曲線である。
【図4】比較例1で作製した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴットの中心部及び外周部における熱膨張曲線である。
【図5】実施例1〜3及び比較例1で用いたバーナの構成を示すもので、(a)はチタニアドープ石英ガラスインゴット製造装置を示す概略図、(b)はこれに用いる酸水素火炎バーナの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、チタニアドープ石英ガラスに硫黄を共添加することにより広い低熱膨張温度域を有する特性を備えており、このような硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスは、EUVリソグラフィの実用機用の光学部材に好適である。
【0013】
EUVリソグラフィは、32nm、22nmノードの半導体微細加工技術への適用が期待されている。EUVリソグラフィにおいては反射光学系が採用されることになる。このとき、反射は基板上に堆積させたシリコン、モリブデン等の反射多層膜によってなされるが、入射したEUV光のうち数十%は反射されずに基板にまで到達して熱へと転化する。これまでのリソグラフィ技術に比べて光源波長が極端に短いEUVリソグラフィにおいては、基板等のリソグラフィ光学系で用いられる各部材に到達した熱による僅かな熱膨張によってもリソグラフィ精度に悪影響を及ぼす。従って、反射ミラー、マスク、ステージ等の各部材には低膨張材料の使用が必須となる。
【0014】
これまで、EUV入射光による基材の温度上昇は5℃以下と予想されてきた。そのためEUVリソグラフィ用部材には室温レベル(19〜25℃付近)での低熱膨張化が必要と考えられてきた。しかし、EUVリソグラフィの実用機、つまりスループットの高い露光機においては50〜80℃程度まで基材温度が上昇することが予想されている。従って、基材のゼロ膨張となる温度の修正と同時に、より広温度域で低熱膨張化する材料の開発が必要となっている。
【0015】
本発明者らは、チタニアドープ石英ガラスに更に硫黄を共添加することにより、より広温度域(−50〜150℃)で低熱膨張化させることができることを見出した。即ち、本発明のチタニアドープ石英ガラス部材は、硫黄を含有する。硫黄を共添加することによりチタニアドープ石英ガラスがより広温度域で低熱膨張化するようになり、EUVリソグラフィの実用機に搭載させる光学部材として好適なものにすることができる。
【0016】
本発明においては、チタニアドープ石英ガラスが低熱膨張化する温度域を十分に広くすること、及び高い表面精度が要求されるEUVリソグラフィ用光学部材としてチタニアドープ石英ガラス中に内包物(インクルージョン)の発生を抑制する観点から、共添加する硫黄は10ppm以上であり、より好ましくは100ppm以上であり、更に好ましくは500ppm以上であり、特に好ましくは1,000ppmより多い場合である。共添加する硫黄の上限は50,000ppm以下、好ましくは10,000ppm以下、更に好ましくは5,000ppm以下、特に2,000ppm以下であることが望ましい。なお、チタニアドープ石英ガラス中の硫黄の含有量は、イオンクロマトグラフ法によって測定することができる。
【0017】
また、EUVリソグラフィの露光温度域において低熱膨張化させるために、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、チタニアを3〜10質量%含有することが望ましく、6〜9質量%含有することがより好ましい。なお、チタニアの含有量は電子線マイクロアナライザ(EPMA)法により測定することができる。
【0018】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、−50〜150℃における熱膨張曲線の傾きが−2.0×10-9/℃2以上+2.0×10-9/℃2以下であることが好ましく、より好ましくは、0〜100℃における熱膨張曲線の傾きが−1.5×10-9/℃2以上+1.5×10-9/℃2以下である。チタニアドープ石英ガラスに上記濃度の硫黄を共添加することにより、EUVリソグラフィの露光温度域における熱膨張曲線の傾きを小さくすることができ、光学部材の温度変化により発生する波面収差を抑制することができるため、より良好なリソグラフィが可能となる。
なお、本発明における熱膨張曲線の傾きとは、熱膨張曲線の温度に対する微分値である。
【0019】
また、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、−50〜150℃における熱膨張係数が−100×10-9/℃以上+100×10-9/℃以下であることが好ましい。より好ましくは、0〜100℃における熱膨張係数が−75×10-9/℃以上+75×10-9/℃以下であり、更に好ましくは、20〜80℃における熱膨張係数が−50×10-9/℃以上+50×10-9/℃以下である。チタニアドープ石英ガラスに上記濃度の硫黄を共添加することにより、EUVリソグラフィの露光温度域における熱膨張係数の絶対値を小さくすることができ、光学部材の温度変化により発生する波面収差の発生を最小限に抑えられ、より良好なリソグラフィが可能となる。
【0020】
更に、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、0〜100℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することが好ましく、より好ましくは20〜80℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有する。硫黄と共に石英ガラスに上記濃度のチタニアを添加することにより、EUVリソグラフィの露光温度域に熱膨張係数がゼロとなる温度を有することができ、より効果的にEUVリソグラフィ露光時の波面収差の発生を抑制することができる。
なお、熱膨張係数及び熱膨張曲線は、アルバック理工(株)製,LIX−2によって測定することができる。
【0021】
また、本発明のチタニアドープ石英ガラスには、ケイ素、チタン、硫黄、酸素、水素及び塩素以外の元素がそれぞれ1,000ppm以下であれば含まれていても問題はない。例えば、フッ素を含有することで、より広温度域での低熱膨張化が期待できる。
【0022】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材の素材として好適であるが、特にウェハ上に高画質かつ微細なパターンの転写が可能となるため、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板として最も好適である。また、ミラー材としても好適である。
【0023】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、石英ガラス製造炉内に設けたバーナに、水素ガスを含む可燃性ガス及び酸素ガスを含む支燃性ガスを供給して燃焼させることによりバーナ先端に形成される酸水素炎中に、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガスと同時に硫黄源原料ガスを供給して、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを加水分解することにより生成した硫黄を含有した酸化ケイ素、硫黄を含有した酸化チタン及びそれらの複合体微粒子を、バーナ先端前方に配設したターゲット上に付着させると同時に溶融ガラス化させて成長させる直接法によりインゴットを作製し、得られたインゴットを熱間成型して所定の形状に成型後、成型後のインゴットをアニール処理することによって製造することができるが、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、上記可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス及び硫黄源原料ガスの各々の供給流量の変動を±1%以内に制御すると共に、上記石英ガラス製造炉内を流通させるガスとして導入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動を±2.5℃以内に制御して、上記ターゲットを5rpm以上の回転数で回転させ、上記微粒子をターゲット上に付着させて製造することにより得ることができる。
【0024】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造炉は、竪型及び横型のいずれも使用することができるが、種材等のターゲットの回転数は2rpm以上、好ましくは5rpm以上、より好ましくは15rpm以上、更に好ましくは30rpm以上である。これは硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス中の脈理、歪み等の構造的、組成的に不均一な領域は、回転するターゲットの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度の不均一性に大きく依存して発生するからである。そこで、ターゲットの回転数を上げ、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスが成長する部分の温度を均一化することで、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生を抑えることができる。なお、ターゲットの回転数の上限は適宜選定されるが、通常200rpm以下である。
【0025】
また、ターゲットの回転数は硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスのOH基濃度分布にも影響する。硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスのOH基濃度分布は熱膨張係数に影響するため、本発明においてはOH基濃度分布が200ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であることが好ましい。OH基濃度分布を抑制するためには、チタニアドープ石英ガラスインゴット作製時の成長面を均熱化することが好ましく、そのため、OH基濃度分布を抑制する観点からもターゲットの回転数は少なくとも5rpm以上に保持することが好ましい。なお、OH基濃度は赤外分光光度計で測定することができる。具体的には、フーリエ変換赤外分光光度計にて波数4,522cm-1の吸光係数より求めることができ、換算式として
OH基濃度(ppm)=(4,522cm-1における吸光係数)/T×4400
を用いることができる。但し、Tは測定サンプルの厚さ(cm)である。
【0026】
硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの構造的、組成的に不均一な領域の発生は、チタニアドープ石英ガラスの製造時に使用するケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、硫黄源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの各々を安定供給することによって抑えることができる。そのために、本発明の製造方法においては、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス、硫黄源原料ガス、可燃性ガス及び支燃性ガスの各々の供給流量の変動を±1%以内、好ましくは±0.5%以内、更に好ましくは±0.25%以内に制御することが好ましい。
【0027】
可燃性ガス、支燃性ガス、ケイ素源原料ガス、チタン源原料ガス及び硫黄源原料ガスの各々の供給流量の変動が±1%より大きく、また、石英ガラス製造炉内に導入する空気、石英ガラス製造炉からの排気及び石英ガラス製造炉周囲の外気の各々の温度の変動が±2.5℃より大きい環境で作製された硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスには、構造的、組成的に不均一な領域が発生し、EUVリソグラフィ用フォトマスク基板等のEUVリソグラフィ用部材に要求される高い表面精度を達成できる硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材を得ることが困難となる場合がある。
【0028】
ケイ素源原料ガスは、公知の有機ケイ素化合物を使用することができ、具体的には、四塩化ケイ素、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等の塩素系シラン化合物、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン等が使用できる。
【0029】
チタン源原料ガスも公知の化合物を使用することができ、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン等のチタンハロゲン化物、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等のチタンアルコキシド等を使用できる。
【0030】
硫黄源原料ガスも公知の化合物を使用することができ、具体的には四フッ化硫黄、六フッ化硫黄、二酸化硫黄、塩化チオニル、塩化硫黄、二塩化硫黄等が使用できる。環境面、安全面、沸点等を考慮し、二酸化硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄を硫黄源原料として使用することが望ましい。
【0031】
一方、可燃性ガスとしては水素を含有するものが用いられ、更に必要に応じて一酸化炭素、メタン、プロパン等のガスを併用したものが用いられる。一方、支燃性ガスとしては酸素ガスを含むものが用いられる。
【0032】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、ミラー、ステージ、フォトマスク基板等のそれぞれのEUVリソグラフィ用部材に合った所定の形状にすべく、1,500〜1,800℃で、1〜10時間熱間成型を行うが、前記の製造炉で製造した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの成長軸と成型軸が平行になるように熱間成型を行うことが好ましい。なお、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、1,000mmφ以下の大きさとすることが好ましい。これ以上の大きさにおいては、熱間成型時に適切な温度勾配の維持、炉内の温度ムラを抑制することが難しいからである。
【0033】
熱間成型した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスは、アニール処理を行う。アニール処理は、熱間成型により生じた硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス中の歪みを低下させる効果がある。アニール処理条件は公知の条件を用いることができ、温度700〜1,300℃、大気中で1〜200時間保持した後、当該温度から500℃の温度までの冷却を1〜20℃/hrの速度で実施すればよい。アニール処理により硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの仮想温度を下げることができる。
【0034】
本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の仮想温度は、1,200℃以下であることが好ましく、より好ましくは1,150℃以下であり、更に好ましくは1,100℃以下である。仮想温度の分布は、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの熱膨張係数に影響するため、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の仮想温度分布(ΔFT)は、30℃以下が好ましく、より好ましくは20℃以下であり、更に好ましくは10℃以下である。仮想温度分布を上記温度範囲とするためには、上記アニール処理を行うと共に、OH基濃度分布を抑制することが有効である。
なお、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスの仮想温度は、J.Non−Cryst.Solids 185 (1995) 191.記載の方法で測定することができる。
【0035】
アニール処理した硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスを、適宜研削加工やスライス加工により所定のサイズに加工した後、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、炭化ケイ素、ダイアモンド、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の研磨剤を使用して両面研磨機により研磨することによりEUVリソグラフィ用部材に形成することが可能である。本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスからは、研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内の最も高い位置と最も低い位置との差(PV平坦度)が200nm以下、好ましくは100nm以下であるEUVリソグラフィ用フォトマスク基板を形成することができる。平坦度を上記範囲とするには両面研磨機による研磨と共に、イオンビーム、プラズマエッチング等による局所的な研磨技術を併用することが有効である。平坦度が大きすぎると、EUVリソグラフィにおいて良好な結像が困難となる場合がある。なお、PV平坦度はフィゾー型干渉計(ZYGO MARK IV)を用いて測定できる。また、本発明の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスからミラー材、特に直径500mm以下の大きさのミラー材を有効に形成することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
図5に示す特開平08−031723号公報に記載のバーナを使用した。ここで、図5において、図5(a)中、1はSiCl4供給管、2はTiCl4供給管、3はSCl2供給管、4は流量計、5,6,7は水素ガス供給管、8,9,10,11は酸素ガス供給管、12は酸水素火炎バーナ、13は酸水素炎、14は硫黄を共添加したチタニアドープシリカ微粒子、15は支持体、16はインゴットを示す。また、図5(b)は、上記バーナ12の横断面図であり、このバーナ12はノズル18〜22からなる5重管17の外側に外殻管23を有し、この外殻管23内にノズル24を有する構造とされ、中心ノズル(第1ノズル)18には、上記SiCl4、TiCl4及びSCl2供給管1,2,3からSiCl4、TiCl4、SCl2が供給されると共に、酸素供給管11から酸素ガスが供給される。なお、必要によりアルゴンガス等の不活性ガスを供給させることもできる。また、第2ノズル19、第4ノズル21には酸素ガスが酸素ガス供給管8,9から供給され、第3ノズル20、第5ノズル22には水素ガスが水素ガス供給管5,6から供給される。更に、外殻管23には水素ガスが水素ガス供給管7から、ノズル24には酸素ガスが酸素ガス供給管10から供給される。
【0038】
表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎中で四塩化ケイ素、四塩化チタン、二塩化硫黄の加水分解反応により生成したSiO2、TiO2及びSO2を、石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させると同時に溶融ガラス化させることで、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2%であった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0039】
得られた120mmφ×400mmLのインゴットを1,700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1,100℃,150時間保持した後、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。アニール後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴット(I)を得た。このインゴット(I)からスライス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ1mmの両面を鏡面化した研磨基板を得た。この研磨基板の対角線上のOH基濃度分布、仮想温度分布、チタニア濃度及び硫黄濃度を測定し、それぞれの最大値及び最小値を表2に示す。
【0040】
残りのインゴット(I)の152.4mm×152.4mm角内、中心部及び中心部から152.4mm×152.4mm角内の対角線上に100mmの位置(外周部)から熱膨張曲線測定用サンプルを取得し、−50〜150℃までの熱膨張曲線を測定した。結果を図1に示す。−50〜150℃及び0〜100℃の各温度域における熱膨張曲線の傾きの絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。また、−50〜150℃、0〜100℃及び20〜80℃の各温度域における熱膨張係数の絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。更に−50〜150℃までの熱膨張曲線で熱膨張係数がゼロとなる温度(ゼロ膨張温度)を表3に示す。
【0041】
更にインゴット(I)から厚さ6.7mmの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ6.35mmの研磨基板を得た。作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での最も高い位置と最も低い位置との差(露光利用領域のPV平坦度)をレーザ干渉計を用いて測定した。その結果を表2に示す。
得られた硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、EUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張温度を有し、かつ広い低熱膨張温度域を有し、かつ研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内でのPV平坦度も小さく、EUV用フォトマスク基板として好適なものが得られた。
【0042】
[実施例2]
図5に記載のバーナを使用し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎中で四塩化ケイ素、四塩化チタン、二塩化硫黄の加水分解反応により生成したSiO2、TiO2及びSO2を、石英製バーナの先方に設置した2rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させると同時に溶融ガラス化させることで硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2%であった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0043】
得られた120mmφ×400mmLのインゴットを1,700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1,100℃,150時間保持した後、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。アニール後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴット(II)を得た。このインゴット(II)からスライス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ1mmの両面を鏡面化した研磨基板を得た。この研磨基板の対角線上のOH基濃度分布、仮想温度分布、チタニア濃度及び硫黄濃度を測定し、それぞれの最大値及び最小値を表2に示す。
【0044】
残りのインゴット(II)の152.4mm×152.4mm角内、中心部及び中心部から152.4mm×152.4mm角内の対角線上に100mmの位置(外周部)から熱膨張曲線測定用サンプルを取得し、−50〜150℃までの熱膨張曲線を測定した。結果を図2に示す。−50〜150℃及び0〜100℃の各温度域における熱膨張曲線の傾きの絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。また、−50〜150℃、0〜100℃及び20〜80℃の各温度域における熱膨張係数の絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。更に−50〜150℃までの熱膨張曲線で熱膨張係数がゼロとなる温度(ゼロ膨張温度)を表3に示す。
【0045】
更にインゴット(II)から厚さ6.7mmの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ6.35mmの研磨基板を得た。作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での最も高い位置と最も低い位置との差(露光利用領域のPV平坦度)をレーザ干渉計を用いて測定した。その結果を表2に示す。
得られた硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、EUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張温度を有し、かつ広い低熱膨張温度域を有し、かつ研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内でのPV平坦度も小さく、EUV用フォトマスク基板として好適なものが得られたが、基板外周部においては中心部とは異なる熱膨張曲線を示した。
【0046】
[実施例3]
図5に記載のバーナを使用し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎中で四塩化ケイ素、四塩化チタン、二塩化硫黄の加水分解反応により生成したSiO2、TiO2及びSO2を石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させると同時に溶融ガラス化させることで硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2%であった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0047】
得られた120mmφ×400mmLのインゴットを1,700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1,100℃,150時間保持した後、アニール炉の電源を切り、室温まで急冷(約600℃/hr)した。アニール後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラスインゴット(III)を得た。このインゴット(III)からスライス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ1mmの両面を鏡面化した研磨基板を得た。この研磨基板の対角線上のOH基濃度分布、仮想温度分布、チタニア濃度及び硫黄濃度を測定し、それぞれの最大値及び最小値を表2に示す。
【0048】
残りのインゴット(III)の152.4mm×152.4mm角内、中心部及び中心部から152.4mm×152.4mm角内の対角線上に100mmの位置(外周部)から熱膨張曲線測定用サンプルを取得し、−50〜150℃までの熱膨張曲線を測定した。結果を図3に示す。−50〜150℃及び0〜100℃の各温度域における熱膨張曲線の傾きの絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。また、−50〜150℃、0〜100℃及び20〜80℃の各温度域における熱膨張係数の絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。更に−50〜150℃までの熱膨張曲線で熱膨張係数がゼロとなる温度(ゼロ膨張温度)を表3に示す。
【0049】
更にインゴット(III)から厚さ6.7mmの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ6.35mmの研磨基板を得た。作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での最も高い位置と最も低い位置との差(露光利用領域のPV平坦度)をレーザ干渉計を用いて測定した。その結果を表2に示す。
得られた硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材は、EUVリソグラフィの実用機に適したゼロ膨張温度を有し、かつ広い低熱膨張温度域を有し、かつ研磨後の基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内でのPV平坦度も小さく、EUV用フォトマスク基板として好適なものが得られたが、基板外周部においては中心部とは異なる熱膨張曲線を示した。
【0050】
[比較例1]
図5に記載のバーナを使用し、表1に記載のガスをそれぞれのノズルに供給して、酸水素炎中で四塩化ケイ素、四塩化チタンの加水分解反応により生成したSiO2及びTiO2を石英製バーナの先方に設置した50rpmで回転しながら10mm/hrで後退するターゲット材に付着させると同時に溶融ガラス化させることでチタニアドープ石英ガラスのインゴットを製造した。このとき、各種ガスの流量変動は±0.2%であった。また、チタニアドープ石英ガラス製造炉へ供給される空気、排気されるガス、製造炉の外気温の温度変動は±1℃であった。
【0051】
得られた120mmφ×400mmLのインゴットを1,700℃で6時間加熱することにより熱間成型した。その後、大気中で1,100℃,150時間保持した後、500℃まで5℃/hrの速度で徐冷した。アニール後のインゴットを152.4mm×152.4mm角柱状に研削し、チタニアドープ石英ガラスインゴット(IV)を得た。このインゴット(IV)からスライス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ1mmの両面を鏡面化した研磨基板を得た。この研磨基板の対角線上のOH基濃度分布、仮想温度分布、チタニア濃度及び硫黄濃度を測定し、それぞれの最大値及び最小値を表3に示す。
【0052】
残りのインゴット(IV)の152.4mm×152.4mm角内、中心部及び中心部から152.4mm×152.4mm角内の対角線上に100mmの位置(外周部)から熱膨張曲線測定用サンプルを取得し、−50〜150℃までの熱膨張曲線を測定した。結果を図4に示す。−50〜150℃及び0〜100℃の各温度域における熱膨張曲線の傾きの絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。また、−50〜150℃、0〜100℃及び20〜80℃の各温度域における熱膨張係数の絶対値のうち、最も大きい値を表3に示す。更に−50〜150℃までの熱膨張曲線で熱膨張係数がゼロとなる温度(ゼロ膨張温度)を表3に示す。
【0053】
更にインゴット(IV)から厚さ6.7mmの硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス基板を切り出し、スェードタイプの研磨布、酸化セリウム研磨材を使用し、12B型両面研磨機(不二越機械工業(株)製)により6時間研磨した後、研磨材をコロイダルシリカに変更して1時間研磨し、厚さ6.35mmの研磨基板を得た。作製した基板面中央部142.4mm×142.4mm角の領域内での最も高い位置と最も低い位置との差(露光利用領域のPV平坦度)をレーザ干渉計を用いて測定した。その結果を表2に示す。
得られたチタニアドープ石英ガラス部材は、EUVリソグラフィの実用機の動作温度域において、熱膨張曲線の傾きが大きく、熱膨張係数が大きく変化するものとなった。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【符号の説明】
【0057】
1 SiCl4供給管
2 TiCl4供給管
3 SCl2供給管
4 流量計
5,6,7 水素ガス供給管
8,9,10,11 酸素ガス供給管
12 酸水素火炎バーナ
13 酸水素炎
14 硫黄を共添加したチタニアドープシリカ微粒子
15 支持体
16 インゴット
17 5重管
18,19,20,21,22 ノズル
23 外殻管
24 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を共添加したことを特徴とするチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項2】
硫黄濃度が10ppm以上であることを特徴とする請求項1記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項3】
チタニアを3〜10質量%含有することを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項4】
−50〜150℃における熱膨張曲線の傾きが−2.0×10-9/℃2以上+2.0×10-9/℃2以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項5】
0〜100℃における熱膨張曲線の傾きが−1.5×10-9/℃2以上+1.5×10-9/℃2以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項6】
−50〜150℃における熱膨張係数が−100×10-9/℃以上+100×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項7】
0〜100℃における熱膨張係数が−75×10-9/℃以上+75×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項8】
20〜80℃における熱膨張係数が−50×10-9/℃以上+50×10-9/℃以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項9】
0〜100℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項10】
20〜80℃の温度範囲に熱膨張係数がゼロになる温度を有することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材から形成されたことを特徴とするEUVリソグラフィ用部材。
【請求項12】
EUVリソグラフィ用フォトマスク基板又はミラー材であることを特徴とする請求項11記載のEUVリソグラフィ用部材。
【請求項13】
ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスを可燃性ガス及び支燃性ガスにより火炎加水分解させて得た合成シリカ微粒子を回転するターゲット上に堆積すると同時に溶融ガラス化してチタニアドープ石英ガラスを製造する工程において、ケイ素源原料ガス及びチタン源原料ガスと同時に硫黄源原料ガスを供給して硫黄をドープすることを特徴とする硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法。
【請求項14】
硫黄源原料が、硫黄の酸化物又は塩化物であることを特徴とする請求項13記載の硫黄を共添加したチタニアドープ石英ガラス部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−121857(P2011−121857A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234269(P2010−234269)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】