説明

磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法

【課題】本発明は、液相エピタキシャル(LPE)法により育成した磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法に関し、鉛の含有量を削減した磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】液相エピタキシャル成長法により育成され、化学式 BiNaPbM13−x−y−zFe5−wM212(式中のM1はY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも1種類以上の元素、M2はGa、Al、In、Ti、Ge、Si、Ptから選択される少なくとも1種類以上の元素であり、0.5<x≦2.0、0<y≦0.8、0≦z<0.01、0.19≦3−x−y−z<2.5、0≦w≦1.6)で示される磁性ガーネット単結晶である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相エピタキシャル(LPE)法により育成した磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信用光アイソレータや光サーキュレータ等に使用されるファラデー回転子は一般にLPE法により育成された磁性ガーネット単結晶から作製される。LPE法で用いられる溶媒にはBやBi等と共にPbOが使われており、このため磁性ガーネット単結晶の育成時に結晶中に少量の鉛が混入する。従来、通信用光デバイスでは化学式Bi3−x−yM1PbFe5−z−wM2M312において、Pbの量yが0.03〜0.06程度である磁性ガーネット単結晶をファラデー回転子の材料にしている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−044026号公報
【特許文献2】特開2001−044027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが近年の環境保護運動の高まりと共に、全ての工業製品で環境負荷物質である鉛の含有量を削減させる努力がなされている。従って、LPE法により育成する磁性ガーネット単結晶においても、少量ではあるが混入する鉛が環境汚染の要因になり得るとして問題になってきた。そこでファラデー回転子を構成する材料である磁性ガーネット単結晶に含有する鉛の量を削減する必要が生じている。
【0005】
本発明の目的は、鉛の含有量を削減した磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、液相エピタキシャル成長法により育成され、化学式 BiNaPbM13−x−y−zFe5−wM212(式中のM1はY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも1種類以上の元素、M2はGa、Al、In、Ti、Ge、Si、Ptから選択される少なくとも1種類以上の元素であり、0.5<x≦2.0、0<y≦0.8、0≦z<0.01、0.19≦3−x−y−z<2.5、0≦w≦1.6)で示されることを特徴とする磁性ガーネット単結晶によって達成される。
上記本発明の磁性ガーネット単結晶であって、前記yは0<y≦0.05であることを特徴とする。
【0007】
また、上記目的は、上記本発明の磁性ガーネット単結晶で形成されることを特徴とする光学素子により達成される。
さらに上記目的は、Naを含む融液を生成し、前記融液を用いて液相エピタキシャル成長法により磁性ガーネット単結晶を育成することを特徴とする磁性ガーネット単結晶の製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ファラデー回転子に用いられる磁性ガーネット単結晶に含まれるPb量を削減し、あるいは完全に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態による磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法について説明する。液相エピタキシャル法で磁性ガーネット単結晶膜の育成に使用する溶媒には通常、PbO及び、B、Biが用いられる。Biはファラデー回転子に使用される磁性ガーネット単結晶の主要な構成元素でもあり、溶媒と溶質の両方の役割を兼ねている。そして主な溶質には各種希土類元素の酸化物、Fe、及びFeと置換できる非磁性元素の酸化物が用いられる。本願における希土類元素は、単独で安定してFeとガーネット単結晶を作ることができるY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどである。また、Feと置換できる非磁性元素は、Ga、Al、In、Ti、Ge、Si、Ptなどである。
【0010】
図1は、本実施の形態における磁性ガーネット単結晶に入り得る各元素の価数とイオン半径とを示している。Pbは2価の電荷を持つカチオン(陽イオン)の状態で単結晶育成中に磁性ガーネット単結晶膜に入る。磁性ガーネット単結晶を構成するBiや希土類元素のカチオンの電荷は基本的に3価であるため、2価の電荷を持つPbのカチオンがガーネット単結晶中に入ると、電荷のバランスが崩れることになる。そこでガーネット単結晶に入り得る4価の電荷を持つカチオンが融液中に存在すると、そのカチオンはPbカチオンの2価の電荷を補償するようにガーネット単結晶に取り込まれる。なおPbはイオン半径が希土類元素と比べて大きいため、溶液中に占める割合に比べてわずかな量が希土類鉄ガーネット単結晶に入るだけである。
【0011】
Naは1価の電荷を持つカチオンの状態で単結晶育成中に磁性ガーネット単結晶膜に入る。Pbと同様に、4価の電荷を持つカチオンを当該磁性ガーネット単結晶に取り込むことにより、磁性ガーネット単結晶に入ったNaの1価の電荷を補償することが可能である。Naのイオン半径は通常の希土類元素よりは大きいがPbよりは小さい。そのためNaは、磁性ガーネット単結晶内に希土類元素よりは入り難いがPbより安定的に入り易い。
【0012】
NaとPbは両方とも、磁性ガーネット単結晶中で希土類元素と比べ電荷の価数が小さく、またイオン半径が大きな元素である。但し、Naのイオン半径の方がPbより希土類元素のイオン半径に近いため、PbとNaが同時に単結晶育成用の融液中に存在する場合には、Naの方がPbよりガーネット単結晶に入り易い傾向がある。NaカチオンとPbカチオンの価数は希土類元素のカチオンの価数より小さい点では同じ特性を有しているが、Naは優先的にガーネット単結晶に入るためPbがガーネット単結晶に入るのを妨害する効果を有する。従って、Naを磁性ガーネット単結晶に加えることにより、ガーネット単結晶中に入るPbの量を化学式で0.01未満に削減させることができる。
2006年7月には、電気電子機器における有害物質の使用を規制するRoHS(Restriction on Hazardous Substances;有害物質使用制限)指令がEU(欧州連合)で施行される。RoHS指令で規定されるPbの最大許容量は、重量比で1000ppmである。本実施の形態による磁性ガーネット単結晶の組成においては、Pbの量が化学式で0.01未満であれば上記の最大許容量以下にすることも可能になる。従って本実施の形態によれば、RoHS指令に適合した光学素子が得られる。
【0013】
またNaと酸素とを含有する物質は他の酸化物と比べて低い温度で溶解するものが多いため、磁性ガーネット単結晶を育成する際の溶媒としても有効である。例えばNaOHを含む溶媒で育成されたNaが入った磁性ガーネット単結晶は、欠陥や割れのない優れた品質が得られる。そのため溶媒の材料からPbOを除外し、Naを含む物質とBi及びBを溶媒に用いて、Naの入った磁性ガーネット単結晶を育成することにより、Pbが完全に除かれた磁性ガーネット単結晶を得ることが可能である。
【0014】
Naを含む溶媒で磁性ガーネット単結晶を育成する場合には、Naを含まない溶媒に比して溶液の過飽和状態をより安定に保つことができる。そのためBiは化学式で2.0程度まで安定してガーネット単結晶に入ることができる。またファラデー回転子として十分な回転係数(deg./μm)を得るためには、Biは化学式で0.5以上は必要である。
【0015】
非磁性元素が化学式で1.6より多くFeと置換して磁性ガーネット単結晶に入ってくると、磁性ガーネット単結晶のキュリー点が室温付近の温度値まで下がり、ファラデー回転子として使えなくなる。そのためFeと置換される非磁性元素は化学式で1.6以下とすることが必要となる。
【0016】
Naがガーネット単結晶に多く入るには、ガーネット単結晶の電荷のバランスを取るために、Ti、Ge、Si、Ptなどの4価の電荷が安定なイオンと共にガーネット単結晶に取り込まれる必要がある。Naが化学式で0.8以上ガーネット単結晶に入るには、4価の電荷で安定なイオンが化学式で1.6以上ガーネット単結晶に入る必要がある。Feと置換可能なTi、Ge、Si、Ptなどの元素が化学式で1.6以上あると、磁性ガーネット単結晶はそのキュリー点が室温以下になってしまいファラデー回転子として使えなくなる。そのためNaのガーネット単結晶に入る量は化学式で0.8までとすることが必要である。
また別の観点として、ガーネット単結晶に入るNaが多くなると、当該ガーネット単結晶を用いて作製されたファラデー回転子の挿入損失が増加してしまう。従って、挿入損失の小さいファラデー回転子を得るためには、Naのガーネット単結晶に入る量は化学式で0.05以下であることが望ましい。
【0017】
La、Ce、Pr、Nd、Pmなどの元素は単独ではFeとガーネット単結晶を作ることは困難であるが、ガーネット単結晶の構成元素の一部として入ることは可能である。
【0018】
以下、本実施の形態による磁性ガーネット単結晶及びそれを用いた光学素子並びに磁性ガーネット単結晶の製造方法について、図1を参照しつつ実施例1乃至12を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
図2は、磁性ガーネット単結晶の製造工程の一部を示している。図2に示すように、金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。
【0019】
磁性ガーネット単結晶膜を育成するための基板には、引き上げ法により育成したガーネット単結晶のインゴットから作製された単結晶ウェハを用いる。本実施例では、単結晶育成用基板としてCaMgZr置換GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)単結晶基板((GdCa)(GaMgZr)12)10を用いている。
【0020】
CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、745℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚500μmのBi置換希土類鉄ガーネット単結晶(磁性ガーネット単結晶)膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.30Gd1.20Yb0.50Fe5.0012であり、Naは検出できたが組成を確定することはできなかった。また、Pbは検出されなかった。次にICP(Inductively Coupled Plasma;高周波誘導結合プラズマ)分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は、(BiGdYb)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。従ってこの単結晶にPbは含有されてないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対してファラデー回転角45deg(度)となる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コート(反射防止膜)を成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0021】
(実施例2)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、B、GeO、Bi
、PbO、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、745℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚500μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.30Gd1.18Yb0.50Na0.02Fe4.95Ge0.0512であり、Pbは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Pbの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiGdYbNa)2.991Pb0.009(FeGe)5.00012であることが分かった。Pbの含有量が非常に少なくなっていることが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0022】
(実施例3)
金製のルツボ4にTb、Ho、Fe、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、775℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚510μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.04Tb1.67Ho0.29Fe5.0012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiTbHo)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0023】
(実施例4)
金製のルツボ4にEu、Lu、Fe、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、810℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を35時間行った。膜厚450μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi0.76Eu1.70Lu0.54Fe5.0012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiEuLu)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.31μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.31μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0024】
(実施例5)
金製のルツボ4にDy、Y、Sm、Fe、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、745℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚450μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.29Dy1.200.41Sm0.10Fe5.0012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiDyYSm)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0025】
(実施例6)
金製のルツボ4にGd、Er、Tm、Fe、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、710℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を20時間行った。膜厚300μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.60Gd0.27Er0.73Tm0.40Fe5.0012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiGdErTm)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.31μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.31μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として使用可能な特性であった。
【0026】
(実施例7)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、Ga、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、786℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚550μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi0.95Gd1.67Yb0.38Fe4.80Ga0.2012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiGdYb)2.998Na0.002(FeGa)5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0027】
(実施例8)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、Al、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、772℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚530μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.07Gd1.67Yb0.26Fe4.80Al0.2012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiGdYb)2.998Na0.002(FeAl)5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0028】
(実施例9)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、In、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、805℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を45時間行った。膜厚500μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi0.79Gd1.67Yb0.54Fe4.90In0.1012であり、Naは検出されたが組成を確定させることはできなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は(BiGdYb)2.998Na0.002(FeIn)5.00012であることが分かった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.31μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.31μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0029】
(実施例10)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、GeO、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、790℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を42時間行った。膜厚570μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi0.93Gd1.67Yb0.20Na0.20Fe4.60Ge0.4012であった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0030】
(実施例11)
白金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、TiO、SiO、B、Bi、NaOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、746℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を36時間行った。膜厚480μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.28Gd1.20Yb0.50Na0.02Fe4.96Ti0.01Si0.01Pt0.0212であった。この単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対して回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【0031】
(実施例12)
金製のルツボ4にGd、Yb、Fe、B、Bi、NaOH、KOHを充填して、電気炉に配置した。950℃まで炉温を上げてルツボ4内の材料を溶解し、金製の攪拌用冶具を使用して融液8を攪拌した。CaMgZr置換GGG基板10を金製の固定冶具2に取り付けて炉内に投入し、745℃まで炉温を下げてから基板10の片面を融液8に接触させてエピタキシャル成長を40時間行った。膜厚500μmの磁性ガーネット単結晶膜12が得られた。育成した単結晶を蛍光X線分析法により組成分析したところ、組成はBi1.30Gd1.20Yb0.50Fe5.0012であり、Naは検出できたが組成を確定することはできなかった。また、PbとKは検出されなかった。次にICP分析法で詳しく組成を評価したところ、Naの含有量を確定できた。その結果、磁性ガーネット単結晶の化学式は、(BiGdYb)2.998Na0.002Fe5.00012であることが分かった。従ってこの単結晶にPbは含有されていないことが確認された。育成した単結晶膜12を加工して、波長1.55μmの光に対してファラデー回転角45degとなる単結晶板を作製した。その単結晶板の研磨面に無反射コートを成膜してファラデー回転子とした。波長1.55μmの光を入射させて、作製した回転子の光学特性を評価したところ、ファラデー回転子として問題のない特性であった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態における磁性ガーネット単結晶に入り得る各元素の価数とイオン半径とを示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における磁性ガーネット単結晶の製造工程の一部を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
2 固定冶具
4 ルツボ
8 融液
10 基板
12 単結晶膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相エピタキシャル成長法により育成され、
化学式 BiNaPbM13−x−y−zFe5−wM212
(式中のM1はY、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選択される少なくとも1種類以上の元素、M2はGa、Al、In、Ti、Ge、Si、Ptから選択される少なくとも1種類以上の元素であり、0.5<x≦2.0、0<y≦0.8、0≦z<0.01、0.19≦3−x−y−z<2.5、0≦w≦1.6)
で示されること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶。
【請求項2】
請求項1記載の磁性ガーネット単結晶であって、
前記yは0<y≦0.05であること
を特徴とする磁性ガーネット単結晶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁性ガーネット単結晶で形成されることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−217278(P2007−217278A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71191(P2007−71191)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【分割の表示】特願2005−286734(P2005−286734)の分割
【原出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】