説明

磁性体と誘電体との複合焼結体、およびその製造方法、ならびにそれを用いた電子部品

【課題】 本発明は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を含むとともに、耐湿性の高い磁性体と誘電体との複合焼結体、およびその製造方法、ならびにそれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【解決手段】 Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶とを含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、CuKα特性X線回折による、BaTiO結晶の2θ=31.7°付近のピーク強度I1に対するバリウムカルシウムシリケートの2θ=21.5°付近のピーク強度I2の比I2/I1が0.06以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体と誘電体との複合焼結体、およびその製造方法、ならびにそれを用いた電子部品に関し、例えば、機器の高周波ノイズ対策用EMIフィルタ等に用いられる、磁性体の性質と誘電体の性質とを合わせ持つ磁性体と誘電体との複合焼結体にコンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されている電子部品に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の高周波ノイズ対策用としては、EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタが多く用いられている。近年では、携帯電話機、無線LAN等の移動体通
信機器の高周波化に伴い、EMIフィルタにも数百MHz〜数GHzの高周波帯域でも使用可能なフィルタ特性が求められている。
【0003】
一般的に、このような電子機器のノイズ対策用として使用されているEMIフィルタは、コンデンサとインダクタとを個々に組み合わせて構成されているものが多い。しかし、近年では電子機器の小型化に伴い、磁性体により形成されるインダクタ層と、誘電体により形成されるコンデンサ層とを積層して両者を一体化した複合積層体の中に、銀電極などでコイルを形成したものが提案されてきている。その一例として、磁性体と誘電体とが混合焼成された複合焼結体の内部に、銀あるいは銀−パラジウム電極などでコイルを形成したノイズフィルタがある(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
用いられる磁性体材料としては、数MHz〜数百MHz帯領域で比透磁率が高いMn−Zn系、Ni−Zn系、Ni−Cu−Zn系等のスピネル型フェライトが多く用いられてきた。しかし、このスピネル型フェライトは、磁気異方性が低いために数百MHzの周波数で自然共鳴を起こしてしまい、透磁率の周波数限界(スネークの限界)を超えることができず、数百MHz〜数GHz帯領域では十分な透磁率が得られないため、高い周波数帯域でのフィルタ材料には適用することができなかった。
【0005】
そこで、最近では、スピネル型フェライトの周波数限界を超えた高い周波数領域まで比透磁率を維持する六方晶フェライトが、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として提案されている。
【0006】
この六方晶フェライトは、c軸に対して垂直な面内に磁化容易軸を持ち、フェロックスプレーナ型フェライトとも呼ばれる磁性体材料である。フェロックスプレーナ型の代表的なフェライトとしては、Co置換系Z型六方晶Baフェライト(3BaO・2CoO・12Fe)、Co置換系Y型六方晶Baフェライト(2BaO・2CoO・6Fe)、Co置換系W型六方晶Baフェライト(BaO・2CoO・8Fe)等が知られている。
【0007】
これらのフェロックスプレーナ型フェライトの中でも、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約1050℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として有望視されている。
【0008】
また、フェライトの焼成温度を低くするため、フェライト粉末とホウ珪酸ガラス粉末とを混合して製造する、磁性焼結体が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−249294号公報
【特許文献2】特開平1−110708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本願発明者は、六方晶Baフェライト粉末とガラス粉末とを混合して焼成することで、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を析出させ、100MHzにおける比透磁率に対する、GHz帯領域での比透磁率の低下を少なくする検討を行なってきた。
【0011】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を用いることで、GHz帯領域での比透磁率を高めることができた一方、長期の信頼性試験において、耐湿性が十分でないことがあった。
【0012】
したがって、本発明は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を含むとともに、耐湿性の高い磁性体と誘電体との複合焼結体、およびその製造方法、ならびにそれを用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶と前記Feを含むBaTiO結晶とを含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、CuKα特性X線回折による、Feを含むBaTiO結晶の2θ=31.7°付近のピーク強度I1に対するバリウムカルシウムシリケートの2θ=21.5°付近のピーク強度I2の比I2/I1が0.06以下であることを特徴とする。
【0014】
また、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.48°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26であることが好ましい。
【0015】
さらに、SrTiO結晶を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の電子部品は、前記磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法は、LiO換算で5.0モル%以上のLiと、CaO換算で8.4〜25.4モル%のCaと、SiO換算で11.2〜26.1モル%のSiとを含み、軟化点が400〜490℃のガラス粉末、六方晶Baフェライト粉末およびMgTiO粉末を、前記六方晶Baフェライト粉末、前記MgTiO粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記MgTiO粉末が4.8〜20.0体積%、前記ガラス粉末が4.8〜24.8体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体によれば、Feを含むBaTiO結晶に対するバリウムカルシウムシリケートの量が少ないため、磁性体と誘電体との複合焼結体の耐湿信頼性を高くできる。
【0019】
本発明の電子部品によれば、耐湿信頼性を高くできる。
【0020】
本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法によれば、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とBaTiO結晶とを析出させる一方でバリウムカルシウムシリケートの生成を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の電子部品の一実施例であるLC複合電子部品のEMIフィルタの縦断面図である。
【図2】(a)は、本発明の一実施例である複合焼結体のX線回折図であり、(b)および(c)は、本発明の範囲外の複合焼結体のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の電子部品の一実施例であるLC複合電子部品のEMIフィルタの縦断面図ある。絶縁層である磁性体と誘電体との複合焼結体層1(以下で、複合焼結体層と呼ぶことがある)が複数積層され、複合焼結体層1の表面に銀系導体層2(以下で、導体層と呼ぶことがある)が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた銀系導体層2同士を電気的に接続する銀系ビアホール導体(以下で、ビアホール導体と呼ぶことがある)3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。電子部品には、銀系導体層2により、コンデンサ回路がコンデンサ部4に形成されており、インダクタ回路がインダクタ部5に形成されている。
【0023】
このような電子部品の複合焼結体層1などに用いられる、誘電体と磁性体との特性を併せ持つ発明の磁性体と誘電体との複合焼結体は、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶とを含んでおり、CuKα特性X線回折(以下で、単にX線回折ということがある)による、BaTiO結晶の2θ=31.7°付近のピーク強度I1に対するバリウムカルシウムシリケートの2θ=21.5°付近のピーク強度I2の比I2/I1が0.06以下である。
【0024】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、Zn:Cu:Feの元素比が5:2:26であり、X線回折での第1ピークが2θ=35.48°〜35.55°の範囲にあるものがよく、組成式では、おおよそLi0.20Zn0.43Cu0.17Fe2.20と表されるものである。スピネル型フェライトは、一般的には、1GHz程度で比透磁率が急激に低下してしまうものであるが、前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶のフェライトでは、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能である。
【0025】
また、Feを含むBaTiO結晶は、X線回折の結果から結晶構造は通常の純粋なBaTiO結晶と同様の正方晶であるが、含まれるFeによりピークの位置がずれている。BaTiOの第1ピークは2θ=約31.5°であるが、Feを含むBaTiO結晶では2θ=約31.7°であり、ピークが2θ=31.65〜31.75の範囲であることで判定できる。また、結晶が具体的にどのようなものであるかを特定したわけではないが、組成としては、おおよそBa(TI0.8Fe0.2)Oの比率で構成されている。Feを含むBaTiO結晶の誘電率が高いため、複合焼結体層1の誘電率を高くできる。また、このFeを含むBaTiO結晶は、原料に最初から入れておいたものが残ったBaTiO結晶と比較して誘電正接が低いなっている。これは、生成される結晶粒子が小さいことが原因のひとつであると考えられる。
【0026】
磁性体と誘電体との複合焼結体は、SrTiO結晶を含むことで、より誘電率を高くできる。通常のBaTiOを原料に入れて焼成後にBaTiOが残るような複合焼結体は、誘電正接が比較的大きくなってしまう。
【0027】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、六方晶Baフェライト粉末とLiを含む所定の組成および特性を有するガラス粉末と混合し、焼成することで得られている。しかし、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶が生成され、十分焼結するような、ガラス粉末としてはSiとCaとが含まれるものを使用する必要があり、焼成過程において、バリウムカルシウムシリケートが生じることがある。生じるバリウムカルシウムシリケートの量が多いと、焼成後の初期特性としては、吸水率が低く、十分な耐湿性を示しても、長期的な信頼性試験では、耐湿性が十分でないことがあった。原料にMgTiO粉末を加え、六方晶Baフェライト粉末とMgTiO粉末とガラス粉末とを混合し、焼成することで、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶とを得るようにすれば、バリウムカルシウムシリケート生成が少なくなることが分かった。
【0028】
バリウムカルシウムシリケートは六方晶であり、組成としては(Ba1.3Ca0.7)SiOである。この第1ピーク2θ=約21.5°のピーク強度I2と、焼成過程で生じるFeを含むBaTiO結晶の2θ=約31.7のピーク強度I2を比較し、バリウムカルシウムシリケートの生成が少ないI2/I1が0.06以下とすることにより、長期的な信頼性試験では、耐湿性を高くできる。
【0029】
次に、本発明の磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法について説明する。
【0030】
まず、六方晶Baフェライト粉末を作成する。六方晶Baフェライト粉末は、原料として、それぞれ酸化物換算でFeを57〜63モル%、MOを18〜22モル%(ただし、MはCuおよびZnを含み、さらに任成分としてCoを含んでもよい)、BaOを残部となるように調合する。この際、各原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。
【0031】
六方晶Baフェライトは、六方晶系結晶構造を有しているとともに磁化容易軸を持っているもののことである。具体的には、六方晶フェライトは結晶方向により異なる異方性磁界を持つために回転磁化共鳴周波数(fr)が高くなるとともに、c軸に垂直な結晶面(c面)内のa軸が磁界の方向に容易に磁化され、かつ外部磁界の方向の変化に容易に追従して磁化の向きが変化する。このため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能であり、後述の本焼成後に六方晶Baフェライトが残っても、GHz帯での高い透磁率を維持できる。
【0032】
また、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約1050℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、六方晶Baフェライトの中でもY型六方晶Baフェライトを使用するのが好ましい。
【0033】
このような配合比率で混合した粉末を、大気中で900〜1300℃の温度範囲で、1〜10時間仮焼した後、粉砕することによって六方晶Baフェライト粉末を得ることができる。
【0034】
粉砕に際しては振動ミル、回転ミル、バレルミル等を用いて、磁性体材料を鋼鉄ボール、セラミックボール等のメディアと、水またはイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール等の有機溶剤を用いて湿式で行なうことができる。
【0035】
その際、六方晶Baフェライトの素原料となる粉末は、平均粒子径が0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmであることが仮焼時の焼結性を高める点で望ましい。なお
、「平均粒子径」とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径d50を意味する。粉体の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法によるマイクロトラック粒度分布測定装置X−100(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
【0036】
かくして得られる六方晶Baフェライト粉末を、MgTiO粉末と後述のガラス粉末と混合し、焼成(本焼成)することで、磁性体と誘電体との複合焼結体が得られる。上述以外の原料として、SrTiO粉末、BaTiO粉末あるいはCaTiO粉末を加えることで誘電率を高くできる。SrTiOは、CaTiOおよびMgTiOより、100MHzにおける比誘電率が大きいために好ましい。また、SrTiO粉末を加えることで誘電正接が大きくならない。
【0037】
次に、本焼成で使用するガラスについて説明する。使用するガラス粉末は、LiO換算で5.0モル%以上のLiと、CaO換算で8.4〜25.4モル%のCaと、SiO換算で11.2〜26.1モル%のSiとを含み、軟化点が400〜490℃のものである。このガラスは、六方晶Baフェライトと混合して焼成することによりLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を析出する。また、軟化点を下げるためCaを上述の範囲で含ませる。組成の残部としては、B3、BaOなどが例示できる。軟化点を低くする点からBを含むことが好ましいが、Bだけではガラスの反応性が高くなりすぎるため、BaOを含ませてもよい。BaOもCaOやBと比較すると効果が少なくなるが、軟化点を低くできる。また。他の組成が混ざったものであってもかまわない。
【0038】
軟化点が400〜490℃であることにより、低温で焼結が進むようにできるとともに、適切な温度で焼成が進むことでLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶が生成される。軟化点が400℃より低くい場合、低温での焼結はできるが、結晶はほとんど析出しなくなる。軟化点が505℃以上では、バリウムカルシウムシリケートの生成が多くなる。
【0039】
Liはガラスの軟化点を下げる役目をはたすとともに、六方晶Baフェライトと反応する。ガラスが軟化して焼結が進む際に、Liは六方晶Baフェライトと反応し、六方晶Baフェライトの大部分、もしくはほとんどがLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶に変わる。また、この際の残部とMgTiO粉末とが反応し、Feを含むBaTiO3結晶が生成されるとともに、さらにその残部にバリウムカルシウムシリケートが残り難くすることができる。
【0040】
また、上述のように軟化点を低くするため、Ca量は、CaO換算で8.4モル%以上とする。また、試験した範囲では、Ca量が25.4モル%以下の範囲で上述の反応が進んだ。
【0041】
ガラス中のSi量が多いと、焼成の際に六方晶Baフェライトを分解する反応が大きく進む。この反応の生成物は比透磁率が低いので、この反応を抑制するため、SiO換算で26.1モル%以下のSiを含有するガラスを用いる。また、Si量が増えると、他の組成の比率が相対的に低くなり、軟化点の温度を低くし難くなるため、Si量は少ない方が望ましい。また、SiOは、ガラスの骨材であるため、ガラスとなるように、SiO換算で11.2モル%以上のSiを含有するガラスを用いる。
【0042】
さらにまた、ガラスの軟化点を低くするため、B換算のB量は、25.5モル%以上であることが好ましい。また、Bが多くなると、焼成過程で六方晶Baフェライトを分解するようになるため、B換算のB量は、43.5モル%以下であることが好ま
しい。
【0043】
ガラスの残部の組成としては、BaOであることが好ましい。
【0044】
ガラス粉末の量は、ガラス粉末以外の複合焼結体の原料とガラス粉末を合わせた合量に対して4.8〜24.8体積%とする。4.8体積%以上とすることで、焼結体を十分焼結させることができる。24.8体積%以下とすることで、焼結体中のガラスの体積が増えること、および焼成過程での六方晶BaフェライトあるいはMgTiO以外のアルカリ土類金属のチタン酸塩の分解量が増えることによる、比透磁率あるいは比誘電率の低下を抑制できる。
【0045】
ガラス粉末は、平均粒子径が0.3〜2.0μmのものを使用する。
【0046】
MgTiO粉末の量は、MgTiO粉末以外の複合焼結体の原料とMgTiO粉末を合わせた合量に対して4.8〜20.0体積%とすることで上述の反応を進める。MgTiO粉末の平均粒子径は、反応を進めるため、0.1〜3.0μm、さらには0.5〜2.2μmであることが好ましい。
【0047】
原料には、他に誘電体として、SrTiOを主成分とするものを加えるのが好ましく、BaTiOおよびCaTiOが混合したものであってもよい。混合は、それぞれの粉末を混ぜたものでも、所望の組成比の素原料を仮焼などで合成して固溶体にしたものでもよい。誘電体材料中のSrTiOの比率は、90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、特に99質量%以上(残部は不純物)が好ましい。
【0048】
SrTiO粉末の平均粒子径は、誘電体と磁性体との複合焼結体層の透磁率、誘電率を高くするために、0.1〜3.0μm、さらには1.2〜2.2μmであることが好ましい。
【0049】
SrTiO粉末の量は、必要とされる比誘電率および比透磁率に変わるが、誘電率を高くするためには、原料粉末全体の中で5体積%以上、特に10体積%以上が好ましい。また、アルカリ土類金属のチタン酸塩の誘電体が増えると焼結性が低くなるため、原料粉末全体の中で25体積%以下、特に15体積%以下が好ましい。
【0050】
SrTiO粉末の平均粒子径が細かすぎると、六方晶Baフェライト粉末間の至るところにSrTiO粉末が分散配置され、六方晶Baフェライトの焼結を阻害し、所望の透磁率を得られないことになる。また、高い比透磁率を得るためには誘電体材料の量をそれほど多くできなく、そのような状態でも比誘電率を高くするため、SrTiO粉末は、ある程度平均粒子径が大きい方が好ましい。すなわち、原料の混合時のSrTiO粉末の平均粒子径は1.2〜2.2μmが好ましい。
【0051】
原料組成中にはAlを実質的に含まないことが好ましい。Alは、磁性体材料や誘電体材料を作る際の仮焼合成後の粉砕などに、アルミナのメディアを用いることなどで、不純物として混じることがある。また、Y型六方晶Baフェライトの原料となる鉄の中に微量含まれていることもある。Alが含まれると、複合焼結体層の焼成時にAlを含む複合酸化物結晶(例えば、ZnAl結晶など)が生成され、その際にY型六方晶BaフェライトまたはSrTiOが分解されることがある。Al量を少なくすることにより、この分解を抑制できるので、100MHzにおける比透磁率あるいは100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。そのため、原料組成中あるいは複合焼結体層中のAlの量はAl換算で0.05質量%以下、特に0.03質量%以下であることが好ましい。また、Al量を少なくすることにより、ZnAl結晶などの誘電損失の大き
い結晶の生成を抑制できるので、誘電損失を低くすることができる。
【0052】
また、複合焼結体層をX線回折で測定した際に、複合焼結体層に含まれているAlを含む結晶のピーク強度が、複合焼結体層に含まれている結晶のうち最も高いピーク強度を有する結晶のピーク強度に対して100分の1以下であるようにするのが好ましい。ZnAl結晶以外のAlを含む結晶としては、不純物などとして含まれることがあるSiと反応して生じるBaAlSi結晶が挙げられる。
【0053】
以上説明したように、本発明の製造方法では、ガラス粉末、六方晶Baフェライト粉末およびMgTiO粉末を混合し、焼成することでLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶との複合焼結体を作製する。原料の結晶が残る場合もあるが、バリウムカルシウムシリケートも含めて他の結晶は少ない。
【0054】
図2(a)〜(c)は、磁性体と誘電体との複合焼結体のX線回折の結果である。六方晶Baフェライト粉末およびガラス粉末以外の原料は、図2(a)で示した複合焼結体ではMgTiO粉末およびSrTiO粉末であり(後述の試料No.9)、図2(b)で示した複合焼結体ではBaTiO粉末であり(試料No.13)、図2(c)で示した複合焼結体ではSrTiO粉末である(試料No.7)。
【0055】
また、C1はLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶のピーク。Eは、バリウムカルシウムシリケートのピーク(2θ=約21.5°)、FはFeを含むBaTiO結晶のピーク(2θ=約31.7°)、GはBaTiO結晶のピーク(2θ=約31.5°)、HはSrTiO結晶のピークである。
【0056】
図2(a)は本発明の一実施例の複合焼結体のX線回折であり、原料の六方晶Baフェライトと、MgTiOのピークはほとんど観察されず、結晶としては、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFはFeを含むBaTiO結晶とSrTiO結晶とがほとんどであり、残りは非晶質層である。
【0057】
図2(b)ではBaTiO結晶が観察され、バリウムカルシウムシリケートも生成されている。図2(c)ではSrTiO結晶が観察され、バリウムカルシウムシリケートも生成されている。このように原料にMgTiOを含まない系では、バリウムカルシウムシリケートが生成されることになる。
【0058】
このように、六方晶Baフェライト粉末とLi、Ca、Baを含むガラス粉末とを焼成して、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶を生成させると、バリウムカルシウムシリケートが生成されるが、MgTiO粉末を添加することで、バリウムカルシウムシリケートの生成を少なくすることができる。また、BaTiO粉末およびSrTiO粉末は、基本的には焼成後もそのまま残るが、MgTiO粉末は、分解し、Feを含むBaTiO結晶が生成される。
【0059】
このような焼結体を用いた電子部品を製造するには、原料として、例えば、50〜85体積%のY型六方晶Baフェライト粉末、5〜25体積%のSrTiO粉末および15〜35質量%の、組成がSiO換算で17.0質量%のSiと、B換算で29.2質量%のBと、CaO換算で21.5質量%のCaと、BaO換算で19.84質量%のBaと、LiO換算で12.5質量%で軟化点が410℃のガラス粉末を用いる。
【0060】
これらの原料に対して、適当な有機バインダ、分散剤、溶媒を添加、混合してスラリーを調製し、これを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法により、シート状に成形し、厚さ25μmのグリーンシートを作製する。
【0061】
そして、前述のグリーンシートに所望によりスルーホールを形成した後、スルーホール内に、導体ペーストを充填する。
【0062】
続いて、導体ペーストをスクリーン印刷で、前述のグリーンシートに塗布して、乾燥し、銀系導体層となる導体を形成する。なお、銀系導体層の厚さは焼成後2〜15μm程度である。
【0063】
複数の導体を形成されたグリーンシートを、所望の銀系導体層が形成されるように位置合わせして積層圧着し、積層体を作製する。酸化性雰囲気中、または低酸化性雰囲気中、200〜500℃で脱バインダ処理した後、酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気で900〜1200℃で焼成され、電子部品となる。
【0064】
この電子部品にさらに、端子電極を形成してもよい。端子電極は、銀、銀/パラジウムあるいは銀/白金等の銀合金を主成分とする導電材料等から成り、かかる導電材料を用いて作製した導体ペーストを積層体の表面に従来周知のディップ法やスクリーン印刷等によって所定パターンに塗布し、これを高温で焼成することによって形成さる。この端子電極には、さらにニッケルメッキや金メッキ、すずメッキ、半田メッキ等のメッキ処理を施してもよい。
【0065】
上述したような工程を経ることによって、前述したように高い透磁率、および誘電率を有するとともに、数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でもノイズの減衰特性が高いとともに、抗折強度の高い電子部品を得ることができる。
【0066】
このようにして作製した電子部品であるEMIフィルタ部品を、図1をもとに説明する。複数の複合焼結体層1が積層され、この複合焼結体層1の表面に導体層2が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた導体層2同士を電気的に接続するビアホール導体3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。
【0067】
さらに、これらの導体層2およびビアホール導体3により複数の複合焼結体層1からなる絶縁基体の内部には、回路的にインダクタ部4およびコンデンサ部5が形成され、フィルタ回路をなしている。
【0068】
このインダクタ部4は、導体層2およびビアホール導体3により多層のコイル状に形成されているが、通常、回路のインダクタンスを増加させるためには、このコイルの巻き数を増加させる必要がある。しかし、本実施形態の複合磁性材料のような透磁率の高い磁性材料を用いた場合、コイルの巻き数を増やさずとも必要なインダクタンスを得ることが可能となる。これより、導体層2の積層数を減らすことができるため、電子部品の小型、低背化が可能になる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0070】
まず、Fe粉末、CoO粉末、CuO粉末、ZnO粉末およびBaCO粉末を出発原料とし、組成比がBa2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222となるように調合をした。調合した粉末に、有機溶媒としてIPA、メディアとして鋼鉄ボールを加えて湿式混合し、乾燥した後、大気中、950℃で仮焼し、さらに湿式で72時間粉砕し、平均粒子径1μmのY型六方晶Baフェライトを主結晶とする磁性体材料(100MHzにおける比誘電率:25、100MHzにおける比透磁率:15)を得た。
【0071】
なお、比較例で使用する磁性体材料として、ニッケル亜鉛スピネルフェライト(Ni,Zn)Fe)粉末を準備した。
【0072】
次に、誘電体材料として、SrTiO粉末(平均粒子径0.9μm、100MHzにおける比誘電率:180、100MHzにおける比透磁率:1.0)、BaTiO粉末およびMgTiO粉末を準備した。
【0073】
次に、ガラス粉末として表1に記載のものを準備した。ガラス粉末の平均粒子径はいずれも0.6μmのものを用いた。以上の粉末を表1に示す混合比となるように、有機溶媒にIPA、メディアに鋼鉄ボールを用いて湿式混合し、乾燥した後、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価できるようにプレス成形し、大気中、表1記載の温度で2時間焼成し、焼結体を得た。
【0074】
また、調合は、各粉末の密度をあらかじめ測定し、その密度から体積比を質量比に換算して行なった。なお、Y型六方晶Baフェライトの密度は、5.4g/cm、SrTiOの密度は5.1g/cm、試料No.1などに使用したガラスの密度は3.0g/cmであった。
【0075】
なお、試料No.23の比較例として、組成式でLi0.20Zn0.43Cu0.17Fe2.20で表される比率で原料粉末を調合、仮焼し、仮焼後粉砕した粉末をBi粉末と質量比99.5:0.5で混合して焼成し、焼結体を得た。
【0076】
かくして得られた磁性焼結体、もしくは誘電体と磁性体との複合焼結体について、比透磁率、抗折強度および吸水率を評価した。比透磁率については、100MHzと1GHzでの値を測定した。ここで測定した比透磁率の値は、別に作製した電子部品を評価したフィルタ特性の評価結果と整合した。なお、この比透磁率は、同軸管を用いたSパラメータ法により測定した。
【0077】
X線回折を行ない、その結果をリートベルト解析し、複合焼結体層に含まれている結晶の種類と含まれている結晶全体に対するそれらの割合を求めた。表1のフェライト結晶の欄にフェライト結晶の多い順に記載した。フェライト、SrTiOおよびバリウムカルシウムシリケート以外の結晶は10質量%以下であった。また、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶中のZn:Cu:Feの元素のモル比はいずれも5:2:26であった。
【0078】
また、試料の断面において、BaTiO結晶の組成について分析した。TEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)でBaおよびTiが観察される部分について他の成分を調べるとFeが観察され、その組成比は約Ba:Ti:Fe=1:0.8:0.2であった。一方、CuKα特性X線回折では純粋なBaTiOから少しシフトしたピークが観察され、2θ=31.7°付近にピークを持つFeを含むBaTiO結晶が生成されていることが分かった。
【0079】
吸水率は、通常通り焼成後に測定するとともに、10時間煮沸した後にも測定した。また、電極間が33μmの複合焼結体層の試料を作成し、PCBT(120℃、2気圧、不飽和、10V)を行なった。100時間後に10個の試料の中で抵抗が10−6Ω/mm
以下となったものが1つ以上あった場合をNGとした。10時間煮沸後の吸水率が0.10%以上の試料とPCBTでNGと判定されたの試料は同じであった。
【0080】
【表1】

【0081】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶とを含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、CuKα特性X線回折による、BaTiO結晶の2θ=31.7°付近のピーク強度I1に対するバリウムカルシウムシリケートの2θ=21.5°付近のピーク強度I2の比I2/I1が0.06以下である試料1、2、4
〜6、8〜10、12、14、16、18および20〜22では、PCBT100時間でOKであった。
【0082】
なお、ここで、ピーク強度は、測定された絶対値ではなく、その角度付近のバックグランドレベルとの差である。
【0083】
また、六方晶Baフェライト粉末を原料とするもので、MgTiO粉末を原料に加えなかった試料No.3、7および13にはFeを含むBaTiOの2θ=31.7°のピークは、観察されなかった。
【0084】
ガラス中のSi量の多い試料No.15および16では、Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶よりも亜鉛スピネルフェライトが多く生成され、100MHzの比透磁率は2.2以下と低くなった。
【0085】
軟化点が505℃と高いガラスを使用した試料No.17は、初期の吸水率も高く、バリウムカルシウムシリケートも生成されており、PCBTもNGであった。
【0086】
また、2θ=35.48°〜35.55のLi−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は100MHzにおける比透磁率が3.1以上で、100MHzにおける比透磁率に対する1GHzにおける比透磁率が0.58以上と低下が少なくなった。
【符号の説明】
【0087】
1・・・磁性体と誘電体との複合焼結体層
2・・・導体層
3・・・ビアホール導体
4・・・インダクタ部
5・・・コンデンサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶とFeを含むBaTiO結晶とを含む磁性体と誘電体との複合焼結体であって、CuKα特性X線回折による、前記Feを含むBaTiO結晶の2θ=31.7°付近のピーク強度I1に対するバリウムカルシウムシリケートの2θ=21.5°付近のピーク強度I2の比I2/I1が0.06以下であることを特徴とする磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項2】
前記Li−Zn−Cu−Fe−Oスピネル型結晶は、CuKα特性X線回折の第1ピークが2θ=35.48°〜35.55°の範囲にあり、Zn:Cu:Feの元素のモル比が5:2:26であることを特徴とする請求項1に記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項3】
SrTiO結晶を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の磁性体と誘電体との複合焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の磁性体と誘電体との複合焼結体からなる絶縁基体の内部または表面に、コンデンサ回路およびインダクタ回路が形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項5】
LiO換算で5.0モル%以上のLiと、CaO換算で8.4〜25.4モル%のCaと、SiO換算で11.2〜26.1モル%のSiとを含み、軟化点が400〜490℃のガラス粉末、六方晶Baフェライト粉末およびMgTiO粉末を、前記六方晶Baフェライト粉末、前記MgTiO粉末および前記ガラス粉末の合量に対して前記MgTiO粉末が4.8〜20.0体積%、前記ガラス粉末が4.8〜24.8体積%となるように混合し、成形した成形体を焼成することを特徴とする磁性体と誘電体との複合焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−256058(P2011−256058A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130021(P2010−130021)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】