説明

磁性体内包CNTの析出装置、磁性体内包CNTの析出方法、磁性体内包CNT、磁気力顕微鏡、スピン・トランジスタ、スピン・ダイオード、スピン電界効果トランジスタ、スピンpinダイオード

【課題】強磁性体をCNTに十分に内包させる。
【解決手段】炭素の供給源である液体又は気体のアルコール5中で基板7の表面に配置された陰極の電極11により前記基板7との間に強磁性体の金属板15を挟み、前記金属板15が備える尖端部19を前記陰極に対し間隔を置いて前記基板上に配置された陽極に指向させ、前記電極9,11間で前記基板7を介して通電すると共に前記金属板15の尖端部19に可視光又は紫外光を照射し、棒状の磁性体金属25を内包したCNT27を析出させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体内包CNTの析出装置、磁性体内包CNTの析出方法、磁性体内包CNT、磁気力顕微鏡、スピン・トランジスタ、スピン・ダイオード、スピン電界効果トランジスタ及びスピンpinダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン・ナノ・チューブ(CNT)は、炭素原子からなる直径数ナノメートルの円筒状の超微細材であり、優れた機械強度と電気導電性とを有する。これらの有効性より、従来の金属では限界が近い集積回路における微細化配線としての電子デバイスへの応用が期待されている。
【0003】
近年では、CNTに強磁性体を内包して磁気力顕微鏡のプローブ等として用いるものもある。この強磁性体を内包させる方法としては、例えば特許文献1のように、CNT形成後に強磁性体を蒸着等によって入れ込まれる。
【0004】
しかしながら、かかる従来の方法では、強磁性体を十分に内包できないおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−227806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、強磁性体を十分に内包できないおそれがあった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、強磁性体を十分に内包するために、炭素の供給源である液体又は気体中で基板の表面に配置された陰極側の電極により前記基板との間に強磁性体の金属板を挟み、前記金属板が備える尖端部を前記陰極側の電極に対し間隔を置いて前記基板上に配置された陽極側の電極に指向させ、前記電極間で前記基板を介して通電すると共に前記金属板の尖端部に可視光又は紫外光を照射し、棒状の磁性体金属を内包したCNTを析出させる磁性体内包CNTの析出装置及び方法を最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、電極間での基板を介した通電により、電流経路上の金属板の尖端部を溶融させながら周囲にCNTを析出させることができると共に、赤外光の照射により、金属板の溶融部分周囲へのCNTの析出を確実に促進させることができる。この結果、棒状の強磁性体金属を十分に内包した磁性体内包CNTを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】磁性体内包CNTの析出装置の概略構成図である(実施例1)。
【図2】図1の析出装置の要部を示す斜視図である(実施例1)。
【図3】図2の要部を示す側面図である(実施例1)。
【図4】図2の要部を示す平面図である(実施例1)。
【図5】磁性体内包CNTの析出結果を示すSEM像である(実施例1)。
【図6】図5の磁性体内包CNTを示す拡大SEM像である(実施例1)。
【図7】図6の磁性体内包CNTの概略断面図である(実施例1)。
【図8】図6の磁性体内包CNTの先端部を示す拡大SEM像である(実施例1)。
【図9】磁性体内包CNTの析出装置の要部を示す概略正面図である(実施例2)。
【図10】磁性体内包CNTが適用された磁気力顕微鏡を示す概念図である(実施例3)。
【図11】磁性体内包CNTを備えたスピン・トランジスタの概略断面図である(実施例4)。
【図12】磁性体内包CNTを備えたスピン・ダイオードの概略断面図である(実施例5)。
【図13】磁性体内包CNTを備えたスピン電界効果トランジスタの概略断面図である(実施例6)。
【図14】磁性体内包CNTを備えたスピンpinダイオードの概略断面図である(実施例7)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
強磁性体を十分に内包するという目的を、陰極側の電極により基板との間に強磁性体の金属板を挟むと共にその尖端部を陽極側の電極に指向させた状態で、電極間の通電制御及び先端部に対する可視光又は紫外光の照射制御を行うことで実現した。
【実施例1】
【0011】
[磁性体内包CNTの析出装置]
図1は、本発明の実施例1に係る磁性体内包CNTの析出装置の概略構成図、図2は、図1の析出装置の要部を示す斜視図、図3は、図2の要部を示す側面図、図4は、図2の要部を示す平面図である。
【0012】
本実施例の磁性体内包CNT(カーボン・ナノ・チューブ)の析出装置1は、図1のように、容器3内に炭素の供給源である液体又は気体のアルコール5が収容されている。本実施例では、アルコール5として液体のエタノール(C2H6O:99.95%)が用いられている。なお、アルコール5は、メタノール、ブタノール、或いはプロパノール等を用いることも可能である。
【0013】
また、アルコール5には、不純物としての金属アルコキシド(B(OCH3)3、TM−Al、TM−GaやP(OCH3)3、TB−P、TB−As)を混入できるようになっている。
【0014】
この容器3のアルコール5中には、基板7が配置されている。本実施例の基板7は、n型シリコン基板(例えば、幅10mm×長さ40mm×厚み0.6mm、1〜10Ω・cm)が用いられている。
【0015】
ただし、基板としては、例えばシリコン以外の半導体(C、Ge、Sn、Pb、BN、AlP、GaAs、InSb、TlBi、ZnSe)、金属(W、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mg、Al、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Rd、Ag、Cd、In、Sb、Ta)、或いは絶縁物である酸化物(TiO2、ZnO、Al2O3、La2Ti2O7、LaOCuS)からなるものも用いることができる。
【0016】
前記基板7には、図1〜図4のように、電極9,11が接続され、電極9,11は、直流電源13に接続されている。これにより、直流電源13は、基板7に表面通電又は沿面放電させる構成となっている。この直流電源13には、パルス電源14が隣接して設けられている。
【0017】
電極9,11は、ステンレスからなる棒状に形成され、基板7両端に相互に間隔を置いて配置されている。陽極側の電極9は、その先端が基板7の上面(一側面)に突当接触している。陰極側の電極11は、その先端が基板7上に配置された金属板15を介して基板7の上面に突当接触している。従って、電極9,11間での電流経路は、陽極側の電極9から基板7、金属板15を介して陰極側の電極11へと形成される。
【0018】
金属板15は、強磁性体金属からなる箔又はメッシュによって構成されている。本実施例の金属板15としては、ニッケルからなるメッシュが用いられている。ただし、金属基板7は、他の強磁性体(3d:Sc、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、4f:Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の箔やメッシュであっても良い。
【0019】
金属板15の一側は、略半円形状の本体部17となっており、この本体部17の一部が陰極側の電極11と基板7との間に挟まれている。金属板15の他側には、尖端部19が設けられている。
【0020】
尖端部19は、楔状に形成され、本体部17側から陽極側の電極9に向けて漸次先細りとなっている。従って、尖端部19は、陽極側の電極9に指向している。このため、金属板15は、電極9,11間での電流経路を尖端部19によって限定することができる。
【0021】
この金属板15の尖端部19上方には、第1照射部21が配置されている。第1照射部21は、可視光又は紫外光を金属板15の尖端部19に照射する。本実施例の第1照射部21は、可視光としてのアルゴンレーザーを照射するようになっている。
[磁性体内包CNTの析出方法]
本実施例の磁性体内包CNTの析出方法では、図1の析出装置1において直流電源13及びパルス電源14による通電制御及び第1照射部21による照射制御により棒状の強磁性体金属を内包したCNTを析出させる。
【0022】
具体的には、直流電源13によって例えば10〜15A程度の電流を3分間通電する。これにより、電流経路上の金属板15の尖端部19が発熱して溶融する。この溶融部分を触媒としながら周囲にアルコール5の熱分解による炭素(CNT)が析出する。このCNTは、陰極側の電極11から陽極側の電極9へ向けて析出成長する。なお、電極近傍の温度は、10A時に約1000℃、15A時に約1200℃に達する。
【0023】
析出したCNTは、アルコール5に対する不純物の添加がないとi型に、不純物としての金属アルコキシド(B(OCH3)3、TM−Al、TM−Ga)が添加されるとp型に、金属アルコキシド(P(OCH3)3、TB−P、TB−As)が添加されるとn型になる。
【0024】
前記通電の際には、第1照射部21によってアルゴンレーザーを金属板15の尖端部19に照射する。アルゴンレーザーの出力は、例えば通電が15Aの場合に457nm、0.3W、通電が10Aの場合に514nm、1.5Wとする。これにより、金属板15の溶融部分周囲へのCNTの析出を確実に促進させることができる。
【0025】
こうして、金属板15の溶融とCNTの成長の制御により、棒状の強磁性体金属を形成しながら周囲に析出したCNTの層を形成することができる。結果として、本実施例では、棒状の強磁性体金属を十分に内包した磁性体内包CNTを確実に形成することができる。
【0026】
図5は、磁性体内包CNTの析出結果を示すSEM像、図6は、図5の磁性体内包CNTを示す拡大SEM像、図7は、図6の磁性体内包CNTの概略断面図、図8は、図6の磁性体内包CNTの先端部を示す拡大SEM像である。
【0027】
図5のように、金属板15の尖端部19には、複数の磁性体内包CNT23が形成されているのが分かる。各磁性体内包CNT23は、図6及び図7のように、棒状の強磁性体金属25周囲に筒状のCNT27の層を備えており、強磁性体金属25がCNT27内に十分且つ確実に内包されている。
【0028】
磁性体内包CNT23は、全体として基端側から先端側に向けて漸次小径となっており、先端部が楔状に形成されている。本実施例では、通電が10A、アルゴンレーザーの出力が514nm、1.5Wの場合、長さ300nm、先端径15nm、根本径45nmと細く、通電が15A、アルゴンレーザーの出力が457nm、0.3Wの場合、長さ670nm、直径70nmのCNT27の層に270nmの長さを持った強磁性体金属25が内包されている。
【0029】
また、CNT27の層は、図8のように30層に積層形成されている。各層の厚みは、0.36nm程度となっており、CNT27の層全体の厚みは、10nm程度となっている。
【0030】
なお、磁性体内包CNT23の大きさやCNT27の層数は、直流電源13及びパルス電源14による通電制御及び第1照射部21による照射制御の条件を変更すれば、調整することができる。
[実施例1の効果]
本実施例の析出装置1は、炭素の供給源である液体又は気体のアルコール5中で基板7の表面に相互に間隔をおいて配置された一対の電極9,11と、この電極9,11の陰極側と基板7との間に一部が挟まれ電極9,11の陽極側へ指向した尖端部19を有する強磁性体の金属板15と、両電極9,11に接続され基板7に表面通電又は沿面放電させる直流電源13と、金属板15の尖端部19に可視光又は紫外光を照射する第1照射部21とを備え、直流電源13による通電制御及び第1照射部21による照射制御により棒状の強磁性体金属25を内包したCNT27を析出させる。
【0031】
また、本実施例の析出方法は、炭素の供給源である液体又は気体のアルコール5中で基板7の表面に配置された陰極の電極11により基板7との間に強磁性体の金属板15を挟み、金属板15が備える尖端部19を陰極側の電極11に対し間隔を置いて基板7上に配置された陽極側の電極9に指向させ、電極9,11間で基板7を介して通電すると共に金属板15の尖端部19に可視光又は紫外光を照射し、棒状の強磁性体金属25を内包したCNT27を析出させる。
【0032】
従って、本実施例の析出装置1及び析出方法では、電極9,11間での通電制御によって電流経路上の金属板15の尖端部19を溶融させ、この溶融部分を触媒としながら周囲に炭素(CNT)を析出させることができる。同時に、赤外光の照射制御によって金属板15の溶融部分周囲へのCNTの析出を確実に促進させることができる。
【0033】
このように、本実施例では、金属板15の溶融とCNTの成長とを制御しながら、棒状の強磁性体金属25を十分に内包した磁性体内包CNTを形成することができる。
【0034】
また、金属板15は、箔又はメッシュであるため、溶融の制御を容易に行わせることができる。
【実施例2】
【0035】
図9は、本発明の実施例2に係り磁性体内包CNTの析出装置の要部を示す概略正面図である。なお、本実施例の析出装置は、上記実施例1の析出装置と基本的構成が共通しているため、対応する構成に同符号又は同符号にAを付して詳細な説明を省略する。
【0036】
本実施例の析出装置1Aは、図9のように、第1照射部21Aに加えて第2照射部29を備えたものである。第2照射部29は、赤外光(近赤外光)を金属板15の尖端部19に照射するものである。
【0037】
第1及び第2照射部21A,29は、金属板15の尖端部19直上からずれて配置されると共に尖端部19に向けて傾斜している。従って、第1及び第2照射部21A,29は、金属板15の尖端部19に対して同時照射ができるようになっている。
【0038】
本実施例の析出装置1A及び析出方法では、上記実施例と同様の作用効果を奏することができるのに加え、金属板15の尖端部19に対して第1照射部21Aによるアルゴンレーザーと同時に第2照射部29による赤外光を照射することができる。
【0039】
従って、本実施例では、赤外光によって金属板15の溶融を促進しながらアルゴンレーザーによってCNTの析出を促進することができる。このため、より容易且つ確実に金属板15の溶融とCNTの成長とを制御することができ、より容易且つ確実に棒状の強磁性体金属25を十分に内包した磁性体内包CNT23を形成することができる。
【実施例3】
【0040】
図10は、本発明の実施例3に係り磁性体内包CNTが適用された磁気力顕微鏡を示す概念図である。
【0041】
本実施例の磁気力顕微鏡31は、図10のように、上記実施例1又は2の磁性体内包CNT23をプローブ33として用いたものである。
【0042】
すなわち、磁気力顕微鏡31は、試料であるハードディスク35上に、反磁性カンチレバー37が配置されている。反磁性カンチレバー37の基端部は、圧電素子38に接続されて振動されるようになっている。反磁性カンチレバー37の先端部には、磁性体内包CNT23からなるプローブ33がハードディスク35に向けて取り付けられている。プローブ33の取り付けは、例えば集束イオンビーム等によって行われている。
【0043】
反磁性カンチレバー37上には、発光源39と受光素子41とが配置されている。発光源39は、レーザー光を反磁性カンチレバー37に対して照射し、受光素子41は、反磁性カンチレバー37で反射したレーザー光を受光する。
【0044】
このような本実施例の磁気力顕微鏡31では、反磁性カンチレバー37を共振周波数で振動させ、プローブ33とハードディスク35との漏れ磁束が相互作用すると、その漏れ磁束の強さを計測することができる。これをマッピングすればハードディスク35表面の磁気構造を画像化することができる。
【0045】
かかる本実施例の磁気力顕微鏡31では、プローブ33が磁性体内包CNT23からなるため、CNT27の特徴である細くても強靭なことで鮮明な画像を得ることができる。加えて、CNT27内に十分に内包された棒状の強磁性体金属25により相互間力を大きくして更に鮮明な画像を得ることができる。
【実施例4】
【0046】
図11は、本発明の実施例4に係り磁性体内包CNTを備えたスピン・トランジスタ(スピン偏光制御フォト・トランジスタ)の概略断面図である。なお、本実施例の磁性体内包CNTは、基本構成が上記実施例1又は2の磁性体内包CNTと共通しているため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にBを付して詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施例のスピン・トランジスタ43は、図11のように、p型又はn型のCNT27を有した磁性体内包CNT23Bを備えている。このCNT27の中間部には、一部を分断した分断部45を備えている。
【0048】
分断部45は、切欠からなり部分的に強磁性体金属25を露出させている。この分断部45に対応して半導体層としての部分CNT46が形成されている。ただし、半導体層としては、シリコン等を用いることも可能である。
【0049】
部分CNT46は、CNT27とは逆のn型又はp型となっている。部分CNT46は、CNT27の分断部45を包囲すると共に内周側が分断部45を介して強磁性体金属25に接触している。
【0050】
部分CNT46の外周には、第1の電極47が形成されている。この第1の電極47の両側には、CNT27外周に第2、第3の電極49,51が形成されている。第2の電極49は、磁性体内包CNT23Bの先端側に配置され、第3の電極51は、磁性体内包CNT23Bの基端側に配置されている。
【0051】
かかるスピン・トランジスタ43の形成は、まず上記実施例1又は2の析出方法によってp型又はn型の磁性体内包CNT23Bを形成し、中間部に分断部45を切削加工する。
【0052】
次いで、アルコール5中に添加される不純物を変更して更に実施例1又は2の析出方法を適用し、磁性体内包CNT23Bの外側にn型又はp型のCNTの層を形成する。
【0053】
こうして形成されたn型又はp型のCNTの層を切削加工して部分CNT46を形成することができる。
【0054】
次いで、電極をスパッタ、蒸着、或いは集束イオンビームによって形成し、形成した電極を切削加工することで第1、第2、第3の電極47,49,51を形成することができる。
【0055】
このような本実施例のスピン・トランジスタ43では、磁性体金属25に接したCNT27の層がスピン軌道の相互作用が小さいために、電極49から電極51を流れる電子や正孔のスピンの向きが保存される。これに電極47から電流を流すとスピン流が乱されるため、スピン・トランジスタとしての作用が発現する。
【0056】
また、電極47を取り除き、そこに偏光させた光を照射することによってもスピン流が乱されるため、スピン偏光制御フォト・トランジスタとしての作用が発現する。
【0057】
従って、本実施例では、スピン・トランジスタ(スピン偏光制御フォト・トランジスタ)43を容易に形成することができながら、磁性体内包CNT23Bに強磁性体金属25が十分に内包されているため、スピン・トランジスタ(スピン偏光制御フォト・トランジスタ)43の性能を向上することができる。
【実施例5】
【0058】
図12は、本発明の実施例5に係り磁性体内包CNTを備えたスピン・ダイオード(スピン偏光制御フォト・ダイオード、スピン偏光発光ダイオード)の概略断面図である。なお、本実施例の磁性体内包CNTは、基本構成が上記実施例1、2又は4の磁性体内包CNTと共通しているため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にCを付して詳細な説明を省略する。
【0059】
本実施例のスピン・ダイオード53は、図12のように、p型又はn型のCNT27を有した磁性体内包CNT23Cを備えている。
【0060】
この磁性体内包CNT23Cの中間部には、CNT27の一部を包囲する半導体層としての部分CNT46が形成されている。ただし、半導体層としては、シリコン等を用いることも可能である。
【0061】
部分CNT46Cは、CNT27とは逆のn型又はp型となっている。部分CNT46Cの外周には、第1の電極47Cが形成されている。この第1の電極47Cの一側である磁性体内包CNT23Cの先端側には、CNT27外周に第2の電極49Cが形成されている。
【0062】
かかるスピン・ダイオード53の形成は、上記実施例3のスピン・トランジスタ43同様に行わせることができる。すなわち、スピン・ダイオード53の形成時には、上記実施例3のスピン・トランジスタ43の形成に対して、分断部45の形成及び第3の電極51の形成を省略すればよい。
【0063】
このような本実施例のスピン・ダイオード53では、磁性体金属25に接したCNT27の層がスピン軌道の相互作用が小さいために、電極47Cから電極49Cを流れる電子や正孔のスピンの向きが保存される。印加電圧を高め、この電流を増していくと、スピン流が乱されるため電圧−電流特性が非線形となり、スピン・ダイオードとしての作用が発現する。
【0064】
また、CNT46とCNT27の境界に偏光させた光を照射することによってもスピン流が乱されるため、スピン偏光制御フォト・ダイオードとしての作用が発現する。さらに、CNT46とCNT27の境界において、スピン流の通電によるスピン偏光の発光ダイオードとしての作用が発現する。
【0065】
従って、本実施例では、スピン・ダイオード(スピン偏光制御フォト・ダイオード、スピン偏光発光ダイオード)53を容易に形成することができながら、磁性体内包CNT23Cに強磁性体金属25が十分に内包されているため、スピン・ダイオード53(スピン偏光制御フォト・ダイオード、スピン偏光発光ダイオード)の性能を向上することができる。
【実施例6】
【0066】
図13は、本発明の実施例6に係り磁性体内包CNTを備えたスピン電界効果トランジスタ(スピン偏光制御フォト電界効果トランジスタ)の概略断面図である。なお、本実施例の磁性体内包CNTは、基本構成が上記実施例1、2又は5の磁性体内包CNTと共通しているため、対応する構成部分に同符号或いは同符号にDを付して詳細な説明を省略する。
【0067】
本実施例のスピン電界効果トランジスタ55は、図13のように、p型又はn型のCNT27を有した磁性体内包CNT23Dを備えている。CNT27の外周には、中間部から先端部側にかけて包囲するように形成された絶縁層57を備えている。絶縁層57は、例えばi型のCNTからなっているが、シリカ等によって形成することも可能である。
【0068】
この絶縁層57の中間部外周には、第1半導体層としての第1部分CNT59が設けられている。第1部分CNT59は、磁性体内包CNT23Dの中間部を絶縁層57の外周部から包囲する。この第1部分CNT59は、CNT27とは逆のn型又はp型となっている。この第1部分CNT59の外周には、第1の電極47Dが形成されている。
【0069】
絶縁層57の先端部外周には、第2半導体層としての第2部分CNT61が設けられている。第2部分CNT61は、磁性体内包CNT23Dの先端部を絶縁層57の外周部から包囲するn型又はp型のCNTからなっている。この第2部分CNT61の外周には、第2の電極49Dが形成されている。
【0070】
また、磁性体内包CNT23Dの中間部には、第3の電極51DがCNT27外周に設けられている。
【0071】
かかるスピン電界効果トランジスタ55の形成は、まず上記実施例1又は2の析出方法によってp型又はn型の磁性体内包CNT23Dを形成する。
【0072】
次いで、アルコール5中に添加される不純物をなくして更に実施例1又は2の析出方法を適用し、磁性体内包CNT23Dの外側にi型のCNTの層を形成する。そして、形成したi型のCNTの層を切削加工して絶縁層57を形成する。
【0073】
絶縁層57の形成後は、アルコール5中に添加される不純物の変更によって、CNT27とは逆のn型又はp型のCNTの層を形成する。このCNTの層を切削加工し第1及び第2部分CNT59,61を形成することができる。
【0074】
次いで、電極をスパッタ、蒸着、或いは集束イオンビームによって形成し、形成した電極に対する切削加工によって第1、第2、第3の電極47D,49D,51Dを形成することができる。
【0075】
このような本実施例のスピン電界効果トランジスタ55では、絶縁層57はスピン拡散長だけスピンの向きが伝搬し、CNT27に作用する。このとき電極47Dに印加した電界によりスピン相互作用が変化するため、スピン電界効果トランジスタ55としての作用が発現する。
【0076】
また、電極51Dを取り除き、そこに偏光させた光を照射することによってもスピン拡散長が変化するため、スピン偏光制御フォト電界効果トランジスタとしての作用が発現する。
【0077】
従って、本実施例では、スピン電界効果トランジスタ(スピン偏光制御フォト電界効果トランジスタ)55を容易に形成することができながら、磁性体内包CNT23Dに強磁性体金属25が十分に内包されているため、スピン電界効果トランジスタ(スピン偏光制御フォト電界効果トランジスタ)55の性能を向上することができる。
【実施例7】
【0078】
図14は、本発明の実施例7に係り磁性体内包CNTを備えたスピンpinダイオード(スピン偏光制御フォトpinダイオード、スピン偏光発光pinダイオード)の概略断面図である。なお、本実施例では、図13の実施例6と基本構成が共通するため、対応する部分に同符号或いは同符号にEを付して重複した説明を省略する。
【0079】
本実施例のスピンpinダイオード55Eは、図14のように、絶縁層としてのi型のCNT27を有した磁性体内包CNT23Eを備えている。
【0080】
この磁性体内包CNT23Eの中間部及び先端部外周には、n型又はp型の第1半導体層である第1部分CNT59及び第2半導体層である第2部分CNT61が設けられている。
【0081】
第1部分CNT59は、磁性体内包CNT23Eの中間部を外周側から包囲し、第2部分CNT61は、磁性体内包CNT23Dの先端部を外周側から包囲する。第1及び第2部分CNT59,61の外周には、第1及び第2の電極47E,49Eが形成されている。
【0082】
かかるスピンpinダイオード55Eの形成は、上記実施例6と同様に行わせることができる。すなわち、実施例6のスピン電界効果トランジスタ55の形成に対して、絶縁層57及び第3の電極51Dの形成を省略すればよい。
【0083】
このような本実施例のスピンpinダイオード55Eでは、磁性体金属25に接したi型CNT27の層はスピン拡散長だけスピンの向きが伝搬する。電極47Eから電極49Eを拡散して再結合する電子や正孔のスピンの向きが保存される。印加電圧を高め、この電流を増していくと、スピン拡散長が変化するため電圧−電流特性は非線形となり、スピンpinダイオードとしての作用が発現する。
【0084】
また、CNT59とCNT27およびCNT61の境界に偏光させた光を照射することによってもスピン拡散長が変化するためスピン偏光制御フォトpinダイオードとしての作用が発現する。さらに、CNT59とCNT27およびCNT61の境界において、スピン流の通電によるスピン偏光の発光pinダイオードとしての作用が発現する。
【0085】
従って、本実施例では、スピンpinダイオード(スピン偏光制御フォトpinダイオード、スピン偏光発光pinダイオード)55Eを容易に形成することができながら、磁性体内包CNT23Eに強磁性体金属25が十分に内包されているため、スピンpinダイオード(スピン偏光制御フォトpinダイオード、スピン偏光発光pinダイオード)55Eの性能を向上することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 析出装置
5 アルコール
7 基板
9,11 電極
13 直流電源
15 金属板
19 尖端部
21 第1照射部
23 磁性体内包CNT
25 磁性体金属
27 CNT
29 第2照射部
31 磁気力顕微鏡
33 プローブ
37 反磁性カンチレバー
43 スピン・トランジスタ(スピン偏光制御フォト・トランジスタ)
45 分断部
46 部分CNT(半導体層)
47,47C,47D,47E 第1の電極
49,49C,49D,49E 第2の電極
51,51D 第3の電極
53 スピン・ダイオード(スピン偏光制御フォト・ダイオード、スピン偏光発光ダイオード)
55 スピン電界トランジスタ(スピン偏光制御フォト電界効果トランジスタ)
55E スピンpinダイオード(スピン偏光制御フォトpinダイオード、スピン偏光発光pinダイオード)
57 絶縁層
59 第1部分CNT(第1半導体層)
61 第2部分CNT(第2半導体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素の供給源である液体又は気体中で基板の表面に相互に間隔をおいて配置された一対の電極と、
この電極の陰極側と前記基板との間に一部が挟まれ前記電極の陽極側へ指向した尖端部を有する強磁性体の金属板と、
前記両電極に接続され前記基板に表面通電又は沿面放電させる直流電源と、
前記金属板の尖端部に可視光又は紫外光を照射する第1照射部とを備え、
前記直流電源による通電制御及び第1照射部による照射制御により棒状の磁性体金属を内包したCNTを析出させる、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁性体内包CNTの析出装置であって、
前記金属板の尖端部に赤外光を照射する第2照射部を備え、
前記直流電源による通電制御及び第1,第2照射部による照射制御により棒状の磁性体金属を内包したCNTを析出させる、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の磁性体内包CNTの析出装置であって、
前記金属板は、メッシュ又は箔である、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出装置。
【請求項4】
炭素の供給源である液体又は気体中で基板の表面に配置された陰極側の電極により前記基板との間に強磁性体の金属板を挟み、
前記金属板が備える尖端部を前記陰極側の電極に対し間隔を置いて前記基板上に配置された陽極側の電極に指向させ、
前記電極間で前記基板を介して通電すると共に前記金属板の尖端部に可視光又は紫外光を照射し、
棒状の磁性体金属を内包したCNTを析出させる、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出方法。
【請求項5】
請求項4記載の磁性体内包CNTの析出方法であって、
前記金属板の先端部に、前記可視光又は紫外光と共に赤外光を照射する、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の磁性体内包CNTの析出方法であって、
前記液体又は気体中に不純物を選択して添加し、p型又はn型のCNTを析出させる、
ことを特徴とする磁性体内包CNTの析出方法。
【請求項7】
請求項4〜6の何れかに記載の磁性体内包CNTの析出方法により形成される磁性体内包CNTであって、
棒状の磁性体金属の周りにCNTの層を備えた、
ことを特徴とする磁性体内包CNT。
【請求項8】
請求項7記載の磁性体内包CNTであって、
前記CNTは、p型又はn型である、
ことを特徴とする磁性体内包CNT。
【請求項9】
請求項7又は8記載の磁性体内包CNTを用いた磁気力顕微鏡であって、
前記磁性体内包CNTを、反磁性カンチレバーの先端にプローブとして固定した、
ことを特徴とする磁気力顕微鏡。
【請求項10】
請求項7又は8記載の磁性体内包CNTを用いたスピン・トランジスタであって、
前記CNTの一部を分断した分断部と、
この分断部を包囲するn型又はp型の半導体層と、
この半導体層の外周に形成された第1の電極と、
この第1の電極の両側で前記CNT外周に形成された第2、第3の電極と、
を備えたことを特徴とするスピン・トランジスタ。
【請求項11】
請求項7又は8記載の磁性体内包CNTを用いたスピン・ダイオードであって、
前記CNTの一部を包囲するn型又はp型の半導体層と、
この半導体層の外周に形成された第1の電極と、
この第1の電極の一側で前記CNT外周に形成された第2の電極と、
を備えたことを特徴とするスピン・ダイオード。
【請求項12】
請求項7又は8記載の磁性体内包CNTを用いたスピン電界効果トランジスタであって、
前記CNTの中間部から先端部側にかけて包囲するように形成された絶縁層と、
前記中間部を前記絶縁層の外周部から包囲するn型又はp型の第1半導体層と、
この第1半導体層の外周に形成された第1の電極と、
前記先端部を前記絶縁層の外周部から包囲するn型又はp型の第2半導体層と、
この第2半導体層の外周に形成された第2の電極と、
前記第1及び第2の電極間で前記絶縁層の外周に形成された第3の電極と、
を備えたことを特徴とするスピン電界効果トランジスタ。
【請求項13】
請求項7又は8記載の磁性体内包CNTを用いたスピンpinダイオードであって、
前記CNTの一部を包囲するn型又はp型の第1半導体層と、
この第1半導体層の外周に形成された第1の電極と、
この第1の電極の一側で前記CNTを包囲するn型又はp型の第2半導体層と、
この第2半導体層の外周に形成された第2の電極と、
を備えたことを特徴とするスピンpinダイオード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−56776(P2012−56776A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198325(P2010−198325)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人電気学会 刊行物名 平成22年 電気学会全国大会 講演論文集 該当ページ 第109ページ 発行日 平成22年3月5日
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】