説明

磁気センサ及び磁気センサの製造方法

【課題】簡単で安価な方法で磁気抵抗素子と永久磁石との位置決め誤差を解消し、高精度でかつ小型化が可能な好適な磁気センサを提供すること。
【解決手段】検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出する磁気センサにおいて、前記磁気センサは、基板と、この基板の表面に形成された磁気抵抗素子と、前記基板における前記磁気抵抗素子の形成面と反対面に形成された磁性体とを具備し、前記磁性体は、磁性粉と樹脂とを混合したものを前記基板の凹部に流し込んで硬化し、着磁したものからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物の運動によって生じる相対的な磁界変化を検出する磁気センサにおいて、磁気抵抗素子に印加するバイアス磁界を発生させるバイアス磁石を具備した磁気センサ及び磁気センサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
検出対象物の運動によって生じる相対的な磁界変化を検出する磁気センサにおいて、Ni、Fe、Co等の強磁性金属を主成分とする合金の薄膜で形成された磁気抵抗素子が広く使用されている。この磁気抵抗素子は、磁界の強さ方向に応じて抵抗値が変化する性質を有し、磁気抵抗素子の応答は、ΔR/R(ΔR=強磁性薄膜金属の抵抗の変化、R=強磁性薄膜金属の公称抵抗)として測定される。
【0003】
例えば、図5(a)に示すように、強磁性薄膜金属からなる磁気抵抗素子の電流の流れる方向(Y方向)に対して垂直の方向(X方向)に磁界Hが印加されているとき、磁界の強さ(H)と磁気抵抗素子の抵抗値変化を表すΔR/Rとの関係は、図5(b)に示すような釣鐘形状(ΔR/RはHに略比例して減少)のグラフとなる。この磁気抵抗素子の抵抗値変化を強磁性薄膜金属のパターンで等価回路を組み電圧変化として出力に変換することで、磁気センサが構成される。等価回路の一例としては、例えば、図5(c)に示すように2つの磁気抵抗素子を用いる場合や、図5(d)に示すように4つの磁気抵抗素子を用いる場合など、様々な回路構成が既に提案されている。
【0004】
このように抵抗値変化が飽和しない領域で磁気センサとして活用する場合、NiFe合金で約300A/m、NiCo合金及びNiFeCo合金で約1kA/mの異方性磁界を持つことにより、図6のように磁界を正負連続印加した時にゼロ磁界近辺ではヒステリシスが生じるという問題がある。
【0005】
しかしながら、図7(a)に示すように、磁気抵抗素子の延伸方向に並行にバイアス磁界(Fe合金で約300A/m以上、NiCo合金及びNiFeCo合金で約1kA/m以上)を印加することで、図7(b)の破線ようにヒステリシスは解消される。更に磁界強度を上げると、図7(c)で示すように、動作範囲(抵抗値変化率が飽和しない範囲)が高磁界側に広がる。
【0006】
また、正負の磁界の判定が必要な場合、図8(a)に示すように、磁気抵抗素子の延伸方向に垂直にバイアス磁界を印加することで、図8(b)の破線のようにバイアス磁界の強度に応じて動作点(抵抗値変化が0%の点)がシフトする。よって磁界の正負の判定が可能となる。
【0007】
このように磁気抵抗素子にX〜Y方向にバイアス磁界を印加した磁気センサは、各種用途に使用できる。このような磁気抵抗素子にバイアス磁界を印加して利用する磁気センサとしては、例えば、特許文献1及び特許文献2が既に提案されている。
【0008】
特許文献1に記載の磁気式検出器は、磁気抵抗素子とバイアス磁界用磁石を同時に位置決めするための位置決め部を設けたことを特徴とするものであり、従来の位置決め冶具による取り付けが不要となり、取り付け時間が減少するという効果を実現している。
【0009】
また、特許文献2に記載の磁気抵抗センサは、磁石からの磁力線が、少なくともセンサの敏感なエリア内のセンシング方向(y方向)において垂直にガイドされるようにしてなる構造を前記磁石が有することを特徴とするもので、これにより、センサ要素の特性曲線のオフセットの原因となるセンサ要素と磁石間の位置決め平面内の敏感な方向における磁場が最小に抑えられ、磁気抵抗センサのその後のトリミングが不要となるというものである。
【特許文献1】特開平11−211409号公報
【特許文献2】特表2005−501265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1に記載の磁気式検出器及び特許文献2に記載の磁気抵抗センサは、それぞれ用途は異なるものの、いずれも磁気抵抗素子へのバイアス磁界を印加する方法として永久磁石を接着する方法を採用している。この種の用途では、磁気抵抗素子に印加される磁界強度として約15mT以上の磁束密度が必要である。このような場合、小さくて強力な永久磁石を磁気抵抗素子に近接接着するより、大きな永久磁石を磁気抵抗素子より離間して接着する方法の方が、接着による位置決め誤差によるバイアス磁界の強度のばらつきがある程度緩和される。すなわち、バイアス磁界を発生する永久磁石は、小型化して近接配置しようとすると位置決めが難しいという問題点がある。
【0011】
等価回路を構成する磁気抵抗素子(例えば、図5(d)で示した等価回路の各磁気抵抗素子(R1〜R4))に印加される磁界が不均一であると、Voutのオフセット電位が変動したり、出力感度のばらつきや出力波形に歪が生じたりするという問題が生じる。これと同様の問題を解決するめに、特許文献2では永久磁石の形状に工夫を凝らし、特許文献1では接着精度の向上がはかられている。
【0012】
しかしながら、磁気抵抗素子が形成された基板とリードフレームの接着精度、パッケージ成型精度、永久磁石の接着精度等、接着工法を取る限り工法そのものの精度に限界があるという問題点がある。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、簡単で安価な方法で磁気抵抗素子と永久磁石との位置決め誤差を解消し、高精度でかつ小型化が可能な好適な磁気センサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の発明は、検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出する磁気センサにおいて、前記磁気センサは、基板と、この基板の表面に形成された磁気抵抗素子と、前記基板における前記磁気抵抗素子の形成面と反対面に形成された磁性体とを具備し、前記磁性体は、磁性粉と樹脂とを混合したものを前記基板の凹部に流し込んで硬化し、着磁したものからなることを特徴とする磁気センサである。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1に加えて、磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたことを特徴とする磁気センサである。
【0016】
請求項3記載の発明は、磁気センサと検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出するための磁気センサを、基板に磁気抵抗素子と磁性体とを設けて形成する方法において、前記基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とからなることを特徴とする磁気センサの製造方法である。
【0017】
請求項4記載の発明は、磁気センサと検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出するための磁気センサを、基板に磁気抵抗素子と磁性体とを設けて形成する方法において、シリコン、ガラス又はセラミックからなる前記基板の一方の面に、磁気抵抗素子、電極、保護膜等を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に、エッチング工法又はマイクロブラスト工法で凹部を形成し、この凹部に、磁性粉と樹脂とを混合したものをポッティング又は印刷工法で流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とからなることを特徴とする磁気センサの製造方法である。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4に加えて、硬化物に着磁して永久磁石を構成した後に、この磁性体を目的の磁力となるように研磨する工程を付加したことを特徴とする磁気センサの製造方法である。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項3、4又は5に加えて、磁性体を構成する硬化物中の磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたことを特徴とする磁気センサの製造方法である。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項3又は4において、基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程との工程のうち、いずれか一方の工程を先に行い、いずれか他方の工程を後で行うようにしたことを特徴とする磁気センサの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、磁性粉と樹脂とを混合したものを基板に流し込んで硬化し、この硬化物を後から着磁して永久磁石を構成するようにしたので、磁気抵抗素子との位置関係精度が保証される。よって磁気抵抗素子に均一にバイアス磁界が印加されVoutのオフセット電位が変動したり、出力感度のばらつきや出力波形に歪が生じたりするという問題点が解消され高精度で小型化が可能となる。また、磁気抵抗素子との位置関係精度は保証され、かつ磁性体を着磁した後の磁石の形状も凹部の形状によって決定され形状精度も保証される。よって磁気抵抗素子に均一にバイアス磁界が印加されVoutのオフセット電位が変動したり、出力感度のばらつきや出力波形に歪が生じたりするという問題点が解消され高精度で小型化が可能となる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたので、磁気抵抗素子に印加されるバイアス磁界の磁力が、混合率に比例して約30mT以下の範囲となり、広範囲でかつばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来る。また、希土類(SmFeN)の磁性粉では、VSM測定にてiHc(保持力)で約700kA/mとなり、反磁界に強い特性が得られることが出来る。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とによって磁気センサを形成するようにしたので、磁気抵抗素子との位置関係精度は保証され、かつ磁性体を着磁した後の磁石の形状も凹部の形状によって決定され形状精度も保証される。よって磁気抵抗素子に均一にバイアス磁界が印加されVoutのオフセット電位が変動したり、出力感度のばらつきや出力波形に歪が生じたりするという問題点が解消され高精度で小型化が可能となる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、シリコン、ガラス又はセラミックからなる基板の一方の面に、磁気抵抗素子、電極、保護膜等を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に、エッチング工法又はマイクロブラスト工法で凹部を形成し、この凹部に、磁性粉と樹脂とを混合したものをポッティング又は印刷工法で流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とによって磁気センサを形成するようにしたので、エッチング工法又はマイクロブラスト工法によって凹部形状の精度は数μm以下の精度が可能となる。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、請求項3又は4に加えて、硬化物に着磁して永久磁石を構成した後に、この永久磁石からなる磁性体を目的の磁力となるように研磨する工程を付加したので、着磁後のバイアス磁界の磁力は、磁性体厚に比例したばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来た。このことにより、磁性粉の混合率や硬化後の着磁量を変更することなく磁気抵抗素子に印加される磁界強度を広い範囲で調整することが可能となる。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたので、磁気抵抗素子に印加されるバイアス磁界の磁力が、混合率に比例して約30mT以下の範囲となり、広範囲でかつばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来る。また、希土類(SmFeN)の磁性粉では、VSM測定にてiHc(保持力)で約700kA/mとなり、反磁界に強い特性が得られることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明による磁気センサは、磁気センサと検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出するための磁気センサを、基板に磁気抵抗素子と磁性体とを設けて形成する方法において、シリコン、ガラス又はセラミックからなる前記基板の一方の面に、磁気抵抗素子、電極、保護膜等を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に、エッチング工法又はマイクロブラスト工法で凹部を形成し、この凹部に、磁性粉と樹脂とを混合したものをポッティング又は印刷工法で流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とからなることを特徴とする。以下、詳細に説明を行う。
【実施例1】
【0028】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すのは、本発明の一実施例として個片化された磁気センサ10の構造図を示す。磁気センサ10は、基板13の表面に磁気抵抗素子11と電極12が形成されている。基板13の裏面には凹部14が形成され、この凹部14には、磁性粉と樹脂の硬化物であり、硬化後に着磁されて永久磁石とした磁性体15が形成されており、この磁性体15を用いた磁気センサとこの磁気センサの製造方法が本発明の特徴である。
【0029】
磁性粉と樹脂の硬化物である磁性体を着磁することで永久磁石となり、この永久磁石から磁気抵抗素子にバイアス磁界が印加される。小さな永久磁石であっても磁気抵抗素子に近接しているため、約30mTの比較的大きなバイアス磁界が磁気抵抗素子に印加でき、磁気センサとして小型化が可能となる。また、永久磁石が磁気抵抗素子に近接しているが、従来技術と異なり接着工法をとらないため磁気抵抗素子との位置関係精度は保証され、かつ永久磁石の形状も凹部の形状によって決定され形状精度も保証される。よって、磁気抵抗素子に均一にバイアス磁界が印加されることになり、Voutのオフセット電位が変動したり、出力感度のばらつきや出力波形に歪が生じたりするという問題点を解消して高精度で小型な磁気センサを構成することが可能となる。
【0030】
この本発明の磁気センサ10の製造方法の一例を図2に基づいて説明する。この図2に基づいて説明する製造方法は、複数の磁気センサを同一基板上に同時に形成した上で、後から個片化するものである。
先ず、図2(a)に示すように、シリコン、ガラス若しくはセラミックからなる基板13の表面に、磁気抵抗素子11や電極12、保護膜等(図示せず)をアレイ状に形成する工程によって、基板13の表面の加工を行う。
【0031】
次に、図2(b)に示すように、基板13の裏面には、エッチィング工法、若しくはマイクロブラスト工法によって凹部14がアレイ状に形成される。この凹部14は、基板13の表面に形成した各磁気抵抗素子と位置関係が調整されている。マイクロブラスト工法では、シリコンカーバイト若しくはアルミナで#300〜1000の粒径で行えば、製作された凹部14の形状の精度は、エッチィング工法と同様数μm以下の精度が可能となる。表面の磁気抵抗素子のパターン位置と、裏面の凹部(61)はフォトリソグラフィでアライメントされているため、数μm以下の位置精度が保証される。
【0032】
前記実施例では、基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程を先に行い、基板の他方の面であって、磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで磁性体となる硬化物を形成する工程を後で行ったが、順序を逆にして基板の他方の面であって、磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで磁性体となる硬化物を形成する工程を先に行い、基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程を後で行うようにしてもよい。
【0033】
前記凹部14の形成後、図2(c)に示すように、個片化される前の状態においてこの凹部14に磁性粉と樹脂の混合物である磁性体15をポッティング若しくは印刷工法で流し込み、その後に硬化処理を行う。このことで、個々の磁気センサの磁性体量は均一化できる。最後に、磁性体15の着磁を行うことで、磁性体15が永久磁石となって磁気センサ10が完成する。なお、磁性体15への着磁は、図2(c)に示す一体基板の状態で行ってもよいし、個片化後に着磁してもよい。
【0034】
このように、磁性体15をポッティング若しくは印刷工法で流し込み硬化してこれを着磁することで、着磁後の永久磁石の機能としてばらつきが軽減される。また、磁石の磁性方向は着磁で設定できる為、容易に極性方向が定めることが可能である。さらに、この構造の特徴として、コイル又はヨーク付きコイルで容易に着磁が行える為、飽和着磁(磁性粉特性である保持力の2〜5倍)が可能となり、磁性粉と樹脂の混合物である磁性体でも安定性のある磁気特性が得られる。
【0035】
以上のようにして構成された磁気センサ10の特性について説明する。
一例として、図4(a)に示すように、大きさ2mm×2mm、厚さ0.35mmのガラス基板13の表面に、磁気抵抗素子11及び電極12を形成して特性を測定することとした(本出願人による先の特開2006−208025号公報の図3に記載)。このガラス基板13の表面には、図3(a)に示すパターンの磁気抵抗素子を形成する。この8つの磁気抵抗素子は、図3(b)のように結線してそれぞれ電極12(図3(a)においては省略)を形成する。また、図4(a)に示すように、基板13の裏面にφ1.5深さ0.25mmの凹部(55)を形成し、この凹部14に磁性粉と樹脂混合物である磁性体を流し込み硬化し磁性体15を作成する。その後、図4(b)に示す極性方向となるように空芯コイルにて、飽和磁場で着磁を行う。この着磁により、磁性体15は永久磁石となり、図4(c)に示すように各磁気抵抗素子にバイアス磁界が印加される。
【0036】
以上のような構造において、図3(b)に示す結線状態におけるVout1〜Vout4のオフセット電位の測定を着磁前後で行ったところ、電位の変動が約1mV/V以下で抑えられることができた。
【0037】
次に、磁性粉についてフェライト系磁性粉及び希土類(SmFeN)系磁性粉で、エポキシ樹脂との混合率を変え、磁性体を製作し、フェライト系で1000kA/m、希土類(SmFeN)で2400kA/mで着磁を行い磁気抵抗素子に印加されたバイアス磁界の強度を確認した。
【0038】
フェライト系の磁性粉では、図4(c)で示した各々の磁気抵抗素子に印加されるバイアス磁界の磁力が、約10mT以下の範囲において、ばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来た。
【0039】
希土類(SmFeN)の磁性粉を50〜90wt%の配合率で定めると、図7aで示した各々の磁気抵抗素子に印加されるバイアス磁界の磁力が、混合率に比例して約30mT以下の範囲となり、広範囲でかつばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来た。
また、希土類(SmFeN)の磁性粉では、VSM測定にてiHc(保持力)で約700kA/mとなり、反磁界に強い特性が得られることが出来た。好ましい状態として希土類(SmFeN)の磁性粉を用いることでVout1〜Vout4のオフセット電位の変動が無く動作範囲(検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化の範囲)を広く取ることが可能である。
【0040】
さらに、図4(b)の着磁前の状態(図2(c)の状態)で裏面を研磨し、基板厚と磁性体厚を削り段階的に薄くした。すると、着磁後のバイアス磁界の磁力は、磁性体厚に比例したばらつきの少ない磁界強度を得ることが出来た。このことにより、初期の工程で磁性粉の混合率や硬化後の着磁量を変更することなく製造し、製造後に研磨することで磁気抵抗素子に印加される磁界強度を広い範囲で調整することが可能であることが分かった。
【0041】
前記実施例においては、図3(a)に示す磁気抵抗素子のパターンで説明を行ったが、これは一例に過ぎず、本発明はこれに制限されるものではなく、様々なパターンレイアウトのものに対して適用できるものである(例えば、特開平11−211409号公報の図9、特開昭59−19810号公報の図8に記載など)。即ち、本発明の製造方法を永久磁石の接着工法を用いていた磁気センサに対して適用することで、従来の永久磁石の接着工法のリードフレームの接着精度、パッケージ成型精度、永久磁石の接着精度等に限界があるという問題点を解消し、高精度でかつ小型化が可能な好適な磁気センサを提供することが可能となる。
【0042】
また、本発明は、応用として電流センサ、地磁気センサ等の比較的小さな動作範囲(バイアス磁界)のものに対しても適用できるものであり、これを制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明による磁気センサ10の構成を表した断面図である。
【図2】本発明による磁気センサ10の製造工程を表した模式図である。
【図3】(a)は、本発明による磁気センサ10の基板表面に形成する磁気抵抗素子パターンの一例を表した模式図であり、(b)はその結線を表した回路図である。
【図4】(a)は、本発明による磁気センサ10の磁性体15の流し込み前の状態を表した断面図であり、(b)は、磁性体15を流し込み後の状態を表した断面図であり、(c)は、着磁後のバイアス磁界の方向を表した模式図である。
【図5】(a)は、一般的な磁気抵抗素子の構造を表した斜視図であり、(b)は、磁気抵抗素子への印加磁界と抵抗値変化の関係を表したグラフであり、(c)及び(d)は、磁気抵抗素子を用いた等価回路の一例を表した模式図である。
【図6】磁気抵抗素子に生じるヒステリシスの様子を表したグラフである。
【図7】(a)は、磁気抵抗そしの延伸方向に平行にバイアス磁界を印加した場合の状態を表した模式図であり、(b)及び(c)は、この場合の特性を表したグラフである。
【図8】(a)は、磁気抵抗そしの延伸方向に垂直にバイアス磁界を印加した場合の状態を表した模式図であり、(b)は、この場合の特性を表したグラフである。
【符号の説明】
【0044】
10…磁気センサ、11…磁気抵抗素子、12…電極、13…基板、14…凹部、15…磁性体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出する磁気センサにおいて、前記磁気センサは、基板と、この基板の表面に形成された磁気抵抗素子と、前記基板における前記磁気抵抗素子の形成面と反対面に形成された磁性体とを具備し、前記磁性体は、磁性粉と樹脂とを混合したものを前記基板の凹部に流し込んで硬化し、着磁したものからなることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
磁気センサと検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出するための磁気センサを、基板に磁気抵抗素子と磁性体とを設けて形成する方法において、前記基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とからなることを特徴とする磁気センサの製造方法。
【請求項4】
磁気センサと検出対象物との間の相対的運動によって生じる磁界変化を検出するための磁気センサを、基板に磁気抵抗素子と磁性体とを設けて形成する方法において、シリコン、ガラス又はセラミックからなる前記基板の一方の面に、磁気抵抗素子、電極、保護膜等を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に、エッチング工法又はマイクロブラスト工法で凹部を形成し、この凹部に、磁性粉と樹脂とを混合したものをポッティング又は印刷工法で流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程と、この硬化物に着磁して永久磁石を構成する工程とからなることを特徴とする磁気センサの製造方法。
【請求項5】
硬化物に着磁して永久磁石を構成した後に、この永久磁石からなる磁性体を目的の磁力となるように研磨する工程を付加したことを特徴とする請求項3又は4記載の磁気センサの製造方法。
【請求項6】
磁性体を構成する硬化物中の磁性粉は、磁性体全体に対し希土類で50〜90wt%の配合率としたことを特徴とする請求項3、4又は5記載の磁気センサの製造方法。
【請求項7】
基板の一方の面に磁気抵抗素子を形成する工程と、前記基板の他方の面であって、前記磁気抵抗素子に関連した位置に形成した凹部に磁性粉と樹脂とを混合したものを流し込んで前記磁性体となる硬化物を形成する工程との工程のうち、いずれか一方の工程を先に行い、いずれか他方の工程を後で行うようにしたことを特徴とする請求項3又は4記載の磁気センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−264866(P2009−264866A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113552(P2008−113552)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000236447)浜松光電株式会社 (20)
【Fターム(参考)】