説明

磁気センサ調整方法、及び、磁気センサ調整装置

【課題】磁気センサの調整が煩雑となることが抑制された磁気センサ調整方法、及び、磁気センサ調整装置を提供する。
【解決手段】磁電変換素子(20)、磁石(30)、及び、磁電変換素子(20)の出力信号を閾値電圧に基づいて二値化する信号処理部(43)を有する磁気センサ(10)の出力特性を調整する磁気センサ調整方法であって、磁性体(70)と磁気センサ(10)との距離が第1距離の時の磁電変換素子(20)の第1出力信号の電圧値Va、及び、磁性体(70)と磁気センサ(10)との距離が第2距離の時に出力される磁電変換素子(20)の第2出力信号の電圧値Vbを計測し、磁電変換素子(20)の出力特性に関わる係数をa,b、閾値電圧をVthとすると、Vth=a×ln(Vb−Va)+b+Vaが成立するように磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁電変換素子、該磁電変換素子の周囲に磁界を形成する磁石、及び、磁電変換素子の出力信号を閾値電圧に基づいて二値化する信号処理部を有し、回転体の回転状態を検出する磁気センサの出力特性を調整する磁気センサ調整方法、及び、磁気センサ調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、マグネットと被検知体ユニットとの間に配置された磁界検出部と、該磁界検出部が出力する検出波形を閾値に基づいて二値化する波形処理部と、閾値を調整して設定する閾値調整・設定部と、を有する磁気センサの調整方法が提案されている。被検知体ユニットには、移動経路(回転方向)に沿って、磁気的に非等価な第一被検知部と第二被検知部とが交互に配置されており、第一被検知部(第二被検知部)と磁界検出部とが検知ギャップ長だけ離れている。この磁気センサの調整方法では、上記した検知ギャップ長を複数の設定値間で変更しつつ、それら検知ギャップ長の設定値毎に磁界検出部の検出波形を取得する。そして、取得した複数の検出波形を同相にて重ね合わせたときの波形間の交点が示す交点レベル値を算出し、算出した交点レベル値と一致するように閾値を調整する。
【0003】
検知ギャップ長が当初の設定値からずれた場合、得られる検出波形の振幅が変化し、二値化が変動することとなる。しかしながら、特許文献1の発明者によれば、検知ギャップ長の影響によって変化した波形を同相で重ね合わせると、検知ギャップ長とは無関係に、各検出波形が一点で交わることが判明した。この交点の電圧レベルは、検知ギャップ長に依存しない値である。したがって、上記したように、交点レベル値と一致するように閾値を調整することで、検知ギャップ長に依らずに二値化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−301645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示される磁気センサの調整方法では、検知ギャップ長を複数の設定値間で変更するために、検知ギャップ長が一律となった被検知用の被検知体ユニットに代えて、検知ギャップ長の互いに異なる区間が混在した調整用の可変ギャップ被検知体ユニットを磁気センサに組み付けている。可変ギャップ被検知体ユニットは回転体なので、可変ギャップ被検知体ユニットと被調整対象となる磁気センサとを対向させるには、可変ギャップ被検知体ユニットの周方向に磁気センサを配置しなければならない。一個の磁気センサを調整対象とする場合、上記方法でも、磁気センサの調整が煩雑と成る可能性は少ない。しかしながら、例えば、千個の磁気センサを調整対象とする場合、それら磁気センサを周方向に順次並べなくてはならず、調整が煩雑となる虞がある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、磁気センサの調整が煩雑となることが抑制された磁気センサ調整方法、及び、磁気センサ調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、磁電変換素子(20)、該磁電変換素子(20)の周囲に磁界を形成する磁石(30)、及び、磁電変換素子(20)の出力信号を閾値電圧に基づいて二値化する信号処理部(43)を有し、回転体の回転状態を検出する磁気センサ(10)の出力特性を調整する磁気センサ調整方法であって、磁石(30)が形成する磁界を変動するための磁性体(70)と磁気センサ(10)とが、第1距離だけ離れているときに出力される磁電変換素子(20)の第1出力信号の電圧値Va、及び、磁性体(70)と磁気センサ(10)が、第1距離とは異なる第2距離だけ離れているときに出力される磁電変換素子(20)の第2出力信号の電圧値Vbを計測する計測工程と、該計測工程後、磁電変換素子(20)の出力特性に関わる係数をa,b、閾値電圧をVthとすると、下記式
【数1】

が成立するように、磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する調整工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明者が検討したところ、以下の点が判明した。回転体と磁電変換素子(20)との距離(検知ギャップ長)を複数の設定値間で変更し、これら検知ギャップ長の設定値毎に磁電変換素子(20)の出力信号(波形信号)を取得する。そして、取得した複数の波形信号を同相にて重ね合わせたときの信号間の交点の電圧値V0(検知ギャップ長に依存しない電圧値)を算出する。これを、複数の磁気センサ(10)で算出し、各磁気センサ(10)の出力感度(Vb−Va)との相関を示したデータ点を作成した。そして、そのデータ点を結ぶ近似式を作成したところ、V0=α×ln(Vb−Va)+β(α、βは実数)が成立することが判明した。これによれば、請求項1に記載のように、磁電変換素子(20)の波形信号ではなく、電圧値Va,Vbを計測した後、数式1が成立するように磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整することで、閾値電圧Vthの電圧レベルを、検知ギャップ長に依存しない電圧値に設定することができる。
【0009】
電圧値Va,Vbを取得するには、請求項1に記載のように、磁気センサ(10)と磁性体(70)との相対距離を二度変更するだけでよくなる。これによれば、磁性体(70)の形状として、円形ではなく、被調整対象となる複数の磁気センサ(10)との対向配置が容易となる形状を選択することができる。この結果、磁気センサ(10)の調整が煩雑となることが抑制される。
【0010】
請求項2に記載のように、磁気センサ(10)と磁性体(70)との対向方向に垂直な方向に、複数の磁気センサ(10)が磁性体(70)の主面と対向するように、列を成して並んでおり、計測工程を行う前に、複数の磁気センサ(10)の内の任意の一つを、磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する調整部(80)と電気的に接続する接続工程を有し、該接続工程〜調整工程を全ての磁気センサ(10)で行う構成が好適である。
【0011】
このように、被調整対象である複数の磁気センサ(10)が直線状に配置されるので、磁気センサ(10)が弧状に配置される構成と比べて、磁気センサ(10)の調整が煩雑となることが抑制される。また、磁気センサ(10)と調整部(80)との電気的な接続が制御されるので、各磁気センサに1つの調整部が設けられる構成と比べて、磁気センサ(10)を調整する装置(磁気センサ調整装置)の体格の増大が抑制される。
【0012】
請求項3に記載のように、計測工程を行う前に、調整対象となる、複数の磁気センサ(10)の内から任意に一つの磁気センサ(10)を選択する選択工程と、該選択工程後、選択した磁気センサ(10)と回転状態の回転体とを対向させて、選択した磁気センサ(10)と回転体との相対距離を少なくとも2度変化させることで、各相対距離間での磁電変換素子(20)の出力信号を取得する第1取得工程と、該第1取得工程後、各相対距離間における磁電変換素子(20)の出力信号の位相を合わせて、各出力信号を重ねることで、各出力信号が交わる交点の電圧値V0を算出する第1算出工程と、該第1算出工程後、選択した磁気センサ(10)と磁性体(70)とを対向させて、磁性体(70)と磁気センサ(10)とが第3距離だけ離れているときに出力される磁電変換素子(20)の第3出力信号の電圧値Vc、及び、磁性体(70)と磁気センサ(10)とが第3距離とは異なる第4距離だけ離れているときに出力される磁電変換素子(20)の第4出力信号の電圧値Vdを取得する第2取得工程と、選択工程〜第2取得工程を複数回行うことで、第1算出工程にて算出した複数の交点の電圧値V0と、該交点の電圧値V0に対応する、第2取得工程にて取得した複数の電圧値の差分Vd−Vcとのデータ点を取得するデータ取得工程と、該データ取得工程後、データ点の関係を下記式
【数2】

で近似することで、係数a,bを算出する第2算出工程と、を有し、第2算出工程後、計測工程及び調整工程を、調整対象となる全ての磁気センサ(10)で行うのが良い。
【0013】
これによれば、被調整対象である複数の磁気センサ(10)の調整(計測工程及び調整工程)を行う前に、係数a,bが算出される。
【0014】
なお、詳しくは実施形態で説明するが、温度特性の補正を行うには、請求項4に記載のように、第1温度で選択工程〜第2算出工程を行うことで第1温度での係数a,bを算出し、第1温度とは異なる第2温度で選択工程〜第2算出工程を行うことで第2温度での係数a,bを算出する。そして、請求項5に記載のように、第1温度で計測工程及び調整工程を行った後、第2温度で計測工程及び調整工程を行う。これによれば、第1温度での計測工程及び調整工程にて、オフセットの補正(磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルの調整)が為され、第2温度での計測工程及び調整工程にて、温度特性の補正が為される。
【0015】
請求項6,7に記載の発明の作用効果は、請求項1,2に記載の発明の作用効果と同等なので、その記載を省略する。
【0016】
なお、請求項7に記載の制御部(90)としては、請求項8に記載のように、制御部(90)は、磁気センサ(10)と調整部(80)との間に配置された選択スイッチ(91)と、該選択スイッチ(91)の開閉を制御する開閉制御部(92)と、を有する構成を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る磁気センサ調整装置の概略構成を示す上面図である。
【図2】磁気センサの概略構成を示す断面図である。
【図3】図1に示す磁気センサ調整装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】磁電変換素子の波形信号を示すグラフであり、(a)は室温、(b)は高温を示している。
【図5】交点の電圧値V0と電圧値の差分Vd−Vcとの関係を示すグラフであり、(a)は室温、(b)は高温を示している。
【図6】磁気センサの変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る磁気センサ調整装置の概略構成を示す上面図である。図2は、磁気センサの概略構成を示す断面図である。図3は、図1に示す磁気センサ調整装置の概略構成を示すブロック図である。図4は、磁電変換素子の波形信号を示すグラフであり、(a)は室温、(b)は高温を示している。図5は、交点の電圧値V0と電圧値の差分Vd−Vcとの関係を示すグラフであり、(a)は室温、(b)は高温を示している。なお、図4及び図5それぞれの縦軸と横軸の単位は任意単位である。
【0019】
図1に示すように、磁気センサ調整装置100は、要部として、磁気センサ10の磁石30が形成する磁界を変動するための磁性体70と、磁気センサ10及び磁性体70の少なくとも一方を移動させる移動部(図示略)と、磁気センサ10の出力特性を調整する調整部80と、を有する。本実施形態に係る磁気センサ調整装置100は、上記構成要素の他に、磁気センサ10と調整部80との電気的な接続を制御する制御部90を有する。
【0020】
以下、磁気センサ調整装置100を説明する前に、被調整対象である磁気センサ10を図2及び図3に基づいて説明する。磁気センサ10は、表面に複数の歯が並んだ回転体(図示略)の回転状態を検出するものである。磁気センサ10は、磁気の変化を電気信号に変換する磁電変換素子20と、該磁電変換素子20の周囲に磁界を形成する磁石30と、磁電変換素子20の出力信号を処理する処理部40と、処理部40と外部とで電気信号を送受信するためのターミナル50と、ターミナル50がインサート成形され、磁電変換素子20及び処理部40が搭載された台座60と、を有する。本実施形態では、磁電変換素子20及び処理部40が、1枚のチップ11に搭載され、チップ11が台座60に搭載されている。
【0021】
磁電変換素子20は、磁気の印加方向に応じて抵抗が変化する磁気抵抗効果素子21を複数有する。図2に示すように、2つの磁気抵抗効果素子21がハの字に配置され、図3に示すように、これら2つの磁気抵抗効果素子21によってハーフブリッジ回路が構成されている。本実施形態では、上記したハーフブリッジ回路が2つ構成されており、これら2つのハーフブリッジ回路によってフルブリッジ回路が構成されている。これら2つのハーフブリッジ回路それぞれの中点が、処理部40のアンプ41に接続されている。
【0022】
磁石30は、円筒磁石であり、磁性体70側の端部がN極、その反対側がS極に着磁されている。図2に示すように、磁石30の中空内に、磁電変換素子20及び処理部40が配置されており、磁電変換素子20が磁石30のN極によって囲まれている。一般に、円筒磁石の中空と外とでは、中空の方が磁界の安定度が高い。そのため、上記構成の場合、磁電変換素子20に印加される磁束が、急激に変動することが抑制される。
【0023】
処理部40は、図3に示すように、アンプ41、補正部42、コンパレータ43、及び、出力バッファ44を有する。アンプ41の入力端子に、2つのハーフブリッジ回路それぞれの中点が接続され、アンプ41の出力端子がコンパレータ43の入力端子に接続されている。そして、アンプ41とコンパレータ43とを接続する配線に、補正部42の入力端子が接続され、コンパレータ43の出力端子が出力バッファ44の入力端子に接続されている。最後に、出力バッファ44の出力端子が、チップ11の端子に接続され、外部(ターミナル50)に出力される構成となっている。
【0024】
上記接続構成により、アンプ41にて、磁電変換素子20の出力信号が差動増幅され、補正部42にて、差動増幅された出力信号のオフセット及び温度特性が補正される。そして、コンパレータ43にて、補正された出力信号が閾値電圧Vthに基づいて二値化処理され、二値化処理された出力信号が、出力バッファ44を介してターミナル50に出力される。コンパレータ43が、特許請求の範囲に記載の信号処理部に相当する。
【0025】
なお、二値化処理とは、閾値電圧Vthよりも電圧値が大きいか小さいかによって、信号を2つの電圧レベル(LoレベルとHiレベル)に分けることである。そのため、磁気センサ10の出力特性とは、電圧レベルのことではなく、2つの電圧レベルの切り替わるタイミングを示している。すなわち、LoレベルからHiレベルへの信号の立ち上がりエッジ、及び、HiレベルからLoレベルへの信号の立ち下りエッジを示している。
【0026】
図3に示すように、補正部42は、オフセット補正回路42aと、温度補正回路42bと、を有する。オフセット補正回路42aは、オフセット電圧Voffをアンプ41の出力信号に畳重し、温度補正回路42bは、温特電圧Vtをアンプ41の出力信号に畳重する。そうすることで、オフセットと温度特性とを補正する。なお、処理部40の構成要素41〜44の詳細な構成は、例えば特開2004−301645号公報に示されるように周知なので、その説明を本実施形態では割愛する。
【0027】
ターミナル50は、グランドと電気的に接続される接地ターミナル51と、処理部40を介した磁電変換素子20の出力信号を外部に出力する出力ターミナル52と、電源と電気的に接続される電源ターミナル53と、を有する。
【0028】
台座60は、直方形状を成し、磁石30のN極側の端部にチップ11(磁電変換素子20及び処理部40)が搭載され、S極側の端部にターミナル50がインサート成形されている。図示しないが、チップ11の搭載面には配線パターンが形成されており、チップ11と配線パターン、及び、配線パターンとターミナル50それぞれは接続部材(図示略)を介して電気的に接続されている。台座60へのチップ11の搭載、及び、チップ11とターミナル50との電気的な接続終了後、台座60は磁石30の中空内に挿入され、台座60(磁電変換素子20)と磁石30との位置が決定される。
【0029】
次に、磁気センサ調整装置100を説明する。上記したように、磁気センサ調整装置100は、磁性体70、移動部(図示略)、調整部80、及び、制御部90を有する。図1に示すように、磁性体70は、直方形状を成し、複数の磁気センサ10が磁性体70の主面と対向するように、磁気センサ10と磁性体70との対向方向に垂直な方向に、列を成して並んでいる。本実施形態では、移動部によって、磁性体70が対向方向に移動可能となっている。
【0030】
調整部80は、磁電変換素子20の出力信号を計測する計測部(図示略)と、後述する係数a,b、及び、閾値電圧Vthを記憶する記憶部(図示略)と、該記憶部から係数a,bを読み出して後述する数式4を演算し、その演算結果と閾値電圧Vthとの差を演算する演算部(図示略)と、該演算部の演算結果に基づいて、磁気センサ10のオフセット電圧Voff及び温特電圧Vtを書き換える書換部(図示略)と、を有する。
【0031】
制御部90は、磁気センサ10と調整部80との間に配置された選択スイッチ91と、該選択スイッチ91の開閉を制御する開閉制御部92と、を有する。開閉制御部92は、複数の選択スイッチ91の内、1つの選択スイッチ91を順次閉状態とすることで、1つの磁気センサ10と調整部80とを順次電気的に接続する。
【0032】
次に、本実施形態に係る磁気センサ調整方法を説明する。先ず、図1に示すように、被調整対象となる複数の磁気センサ10を、選択スイッチ91を介して調整部80と電気的に接続し、磁性体70と対向させる。そして、開閉制御部92によって、複数の磁気センサ10の内の任意の一つを調整部80と電気的に接続する。以上が接続工程である。
【0033】
接続工程後、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を、磁電変換素子20に印加される磁界が磁性体70によって変動する程度の距離(第1距離)とする。この第1距離における磁電変換素子20の出力信号(第1出力信号)の電圧値Vaを調整部80の計測部にて計測する。次いで、移動部によって磁性体70を磁気センサ10に近づけることで、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を、第1距離よりも短い第2距離(図1で磁性体70を破線で示す位置)とする。この第2距離における磁電変換素子20の出力信号(第2出力信号)の電圧値Vbを計測部にて計測する。以上が、計測工程である。
【0034】
該計測工程後、調整部80の演算部は、記憶部から係数a,bを読み出して、下記式を計算する。
【数4】

【0035】
次いで、演算部は、演算結果と閾値電圧Vthとの差を演算する。その差に基づいて、調整部80の書換部は、オフセット電圧Voff及び温特電圧Vtを書き換えることで、下記式
【数5】

が成立するように磁電変換素子20(アンプ41)の出力信号の電圧レベルを調整する。以上が、調整工程である。上記した接続工程〜調整工程を、全ての磁気センサ10にて行うことで、全ての磁気センサ10の調整が終了となる。
【0036】
なお、本実施形態では、上記した接続工程〜調整工程を、温度の異なる雰囲気下、すなわち、室温と、室温よりも高い高温下で行う。こうすることで、オフセットの補正だけではなく温度特性の補正も行うが、そのことについては後述する。ちなみに、室温が、特許請求の範囲に記載の第1温度に相当し、高温が、特許請求の範囲に記載の第2温度に相当する。
【0037】
上記した係数a,bは、下記工程を経ることで算出される。計測工程を行う前に、調整対象となる、複数の磁気センサ10の内から任意の一つの磁気センサ10を選択する。以上が、選択工程である。
【0038】
選択工程後、選択した磁気センサ10と回転状態の回転体とを対向させて、選択した磁気センサ10と回転体との相対距離を移動部によって少なくとも2度変化させる。そうすることで、各相対距離間での磁電変換素子20の出力信号(出力波形)を取得する。以上が、第1取得工程である。
【0039】
第1取得工程後、図4に示すように、各相対距離間における磁電変換素子20の出力波形の位相を合わせて、各出力波形を重ねる。そうすることで、各出力波形が交わる交点の電圧値V0を算出する。以上が、第1算出工程である。なお、第1算出工程での電圧値V0の算出は、演算部にて行われる。図4の縦軸は磁電変換素子20の出力波形の電圧、横軸は出力波形の位相(回転体の回転角度)を示している。
【0040】
第1算出工程後、選択した磁気センサ10と磁性体70とを対向させて、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を第3距離とする。この第3距離における磁電変換素子20の出力信号(第3出力信号)の電圧値Vcを調整部80の計測部で取得する。次いで、移動部によって磁性体70を磁気センサ10に近づけることで、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を、第3距離よりも短い第4距離とする。この第4距離における磁電変換素子20の出力信号(第4出力信号)の電圧値Vdを計測部にて取得する。以上が、第2取得工程である。
【0041】
なお、本実施形態では、第3距離は第1距離に等しく、第4距離は第2距離に等しい。そして、第1距離と第2距離との差は、回転体の歯の長さに等しくなっている。
【0042】
上記した選択工程〜第2取得工程を複数回(例えば8回)行うことで、第1算出工程にて算出した複数の交点の電圧値V0と、該交点の電圧値V0に対応する、第2取得工程にて取得した複数の電圧値の差分Vd−Vcとのデータ点を取得する。以上が、データ取得工程である。
【0043】
データ取得工程後、図5に示すように、データ点の関係を下記式
【数6】

で近似することで、係数a,bを算出する。以上が、第2算出工程である。なお、データ取得工程でのデータ点の取得及び係数a,bの算出は、演算部にて行われ、算出された係数a,bは、記憶部に記憶される。図5の縦軸は交点の電圧値V0、横軸は電圧値の差分Vd−Vcを示している。
【0044】
以上の工程を経ることで、被調整対象である複数の磁気センサ10の調整(接続工程〜調整工程)を行う前に、係数a,bが算出される。
【0045】
なお、本実施形態では、温度特性を補正するために、室温、及び、室温よりも温度の高い高温下それぞれにおいて、第1取得工程〜第2算出工程を行う。こうすることで、室温での係数a1,b1だけではなく、高温での係数a2,b2も算出する。
【0046】
次に、磁電変換素子20(アンプ41)の出力信号の電圧レベルの調整について詳説する。上記した調整工程では、数式5が成立するように(閾値電圧Vthと数式4で示された電圧値の電圧レベルとが一致するように)磁電変換素子20(アンプ41)の出力信号の電圧レベルを調整する、と記載した。これを実現するためには、オフセット電圧Voffを調整する。また、温度特性を調整するには、温特電圧Vtを調整する。
【0047】
以下、オフセットの補正と温度特性の補正とを説明する。先ず、被調整対象である磁気センサ10のオフセット電圧Voff、温特電圧Vt、及び、閾値電圧Vthを適当な値に定めておく。そして、室温で電圧値Va1,Vb1を計測し、係数a1,b1に基づいて、数式4を計算する。ここで、適当に調整しておいた閾値電圧Vthと数式4によって算出した室温の電圧値との差分を取る。この差分に基づいて、オフセット電圧Voffが決定され、調整部80の書換部によってオフセット電圧Voffが書き換えられる(調整される)。この結果、室温にて、数式5が成立する。
【0048】
オフセット電圧Voffの調整後、高温で電圧値Va2,Vb2を計測し、係数a2,b2に基づいて、数式4を計算する。ここで、オフセット補正した閾値電圧Vthと数式4によって算出した高温の電圧値との差分を取る。この差分に基づいて、温特電圧Vtが決定され、調整部80の書換部によって温特電圧Vtが書き換えられる(調整される)。この結果、温度が変化した場合においても、数式5が成立する。
【0049】
次に、本実施形態に係る磁気センサ調整方法、及び、磁気センサ調整装置100の作用効果を説明する。本発明者が検討したところ、以下の点が判明した。回転体と磁電変換素子20との距離(検知ギャップ長)を複数の設定値間で変更し、これら検知ギャップ長の設定値毎に磁電変換素子20の出力信号(波形信号)を取得する。そして、取得した複数の波形信号を同相にて重ね合わせたときの信号間の交点の電圧値V0(検知ギャップ長に依存しない電圧値)を算出する。これを、複数の磁気センサ10で算出し、各磁気センサ10の出力感度(Vb−Va)との相関を示したデータ点を作成した。そして、そのデータ点を結ぶ近似式を作成したところ、V0=α×ln(Vb−Va)+β(α、βは実数)が成立することが判明した。これによれば、磁電変換素子20の波形信号ではなく、電圧値Va,Vbを計測した後、数式5が成立するように磁電変換素子の出力信号の電圧レベルを調整することで、閾値電圧Vthの電圧レベルを、検知ギャップ長に依存しない電圧値に設定することができる。
【0050】
電圧値Va,Vbを取得するには、上記したように、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を二度変更するだけでよくなる。これによれば、磁性体70の形状として、円形ではなく、被調整対象となる複数の磁気センサ10との対向配置が容易となる形状を選択することができる。この結果、磁気センサ10の調整が煩雑となることが抑制される。
【0051】
本実施形態では、磁性体70は直方形状を成し、磁気センサ10と磁性体70との対向方向に垂直な方向に、複数の磁気センサ10が磁性体70の主面と対向するように、列を成して並んでいる。このように、被調整対象である複数の磁気センサ10が直線状に配置されるので、複数の磁気センサ10が弧状に配置される構成と比べて、磁気センサ10の調整が煩雑となることが抑制される。
【0052】
本実施形態では、接続工程にて、複数の磁気センサ10の内の任意の一つを調整部80と電気的に接続した後、計測工程及び調整工程を行う。このように、磁気センサ10と調整部80との電気的な接続が制御されるので、各磁気センサ10に1つの調整部80が設けられる構成と比べて、磁気センサ調整装置100の体格の増大が抑制される。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0054】
本実施形態では、磁電変換素子20及び処理部40が、1枚のチップ11に搭載された例を示した。しかしながら、図6に示すように、磁電変換素子20及び処理部40それぞれが別のチップ12,13に搭載された構成と採用することもできる。図6は、磁気センサの変形例を示すブロック図である。
【0055】
本実施形態では、室温、及び、高温で各工程を行う例を示した。もちろんであるが、各工程を行う温度としては、上記例に限定されず、例えば、室温、及び、室温よりも低い低温で行っても良い。
【0056】
本実施形態では、磁性体70が移動部によって移動する例を示した。しかしながら、磁気センサ10と磁性体70との相対距離を変更するためには、上記例に限定されない。例えば、移動部によって磁気センサ10を移動しても良いし、磁性体70と磁気センサ10の両方を移動しても良い。
【符号の説明】
【0057】
10・・・磁気センサ
20・・・磁電変換素子
21・・・磁気抵抗効果素子
30・・・磁石
40・・・調整部
42・・・補正部
43・・・コンパレータ
70・・・磁性体
80・・・調整部
90・・・制御部
100・・・磁気センサ調整装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁電変換素子(20)、該磁電変換素子(20)の周囲に磁界を形成する磁石(30)、及び、前記磁電変換素子(20)の出力信号を閾値電圧に基づいて二値化する信号処理部(43)を有し、回転体の回転状態を検出する磁気センサ(10)の出力特性を調整する磁気センサ調整方法であって、
前記磁石(30)が形成する磁界を変動するための磁性体(70)と前記磁気センサ(10)とが、第1距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第1出力信号の電圧値Va、及び、前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)が、前記第1距離とは異なる第2距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第2出力信号の電圧値Vbを計測する計測工程と、
該計測工程後、前記磁電変換素子(20)の出力特性に関わる係数をa,b、前記閾値電圧をVthとすると、下記式
【数1】

が成立するように、前記磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する調整工程と、を有することを特徴とする磁気センサ調整方法。
【請求項2】
前記磁気センサ(10)と前記磁性体(70)との対向方向に垂直な方向に、複数の前記磁気センサ(10)が前記磁性体(70)の主面と対向するように、列を成して並んでおり、
前記計測工程を行う前に、複数の前記磁気センサ(10)の内の任意の一つを、前記磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する調整部(80)と電気的に接続する接続工程を有し、
該接続工程〜前記調整工程を全ての磁気センサ(10)で行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ調整方法。
【請求項3】
前記計測工程を行う前に、調整対象となる、複数の前記磁気センサ(10)の内から任意に一つの磁気センサ(10)を選択する選択工程と、
該選択工程後、選択した磁気センサ(10)と回転状態の前記回転体とを対向させて、選択した磁気センサ(10)と前記回転体との相対距離を少なくとも2度変化させることで、各相対距離間での前記磁電変換素子(20)の出力信号を取得する第1取得工程と、
該第1取得工程後、各相対距離間における前記磁電変換素子(20)の出力信号の位相を合わせて、各出力信号を重ねることで、各出力信号が交わる交点の電圧値V0を算出する第1算出工程と、
該第1算出工程後、選択した磁気センサ(10)と前記磁性体(70)とを対向させて、前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)とが第3距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第3出力信号の電圧値Vc、及び、前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)とが前記第3距離とは異なる第4距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第4出力信号の電圧値Vdを取得する第2取得工程と、
前記選択工程〜前記第2取得工程を複数回行うことで、前記第1算出工程にて算出した複数の交点の電圧値V0と、該交点の電圧値V0に対応する、前記第2取得工程にて取得した複数の電圧値の差分Vd−Vcとのデータ点を取得するデータ取得工程と、
該データ取得工程後、前記データ点の関係を下記式
【数2】

で近似することで、前記係数a,bを算出する第2算出工程と、を有し、
前記第2算出工程後、前記計測工程及び前記調整工程を、調整対象となる全ての磁気センサ(10)で行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気センサ調整方法。
【請求項4】
第1温度で前記選択工程〜前記第2算出工程を行うことで前記第1温度での係数a,bを算出し、前記第1温度とは異なる第2温度で前記選択工程〜前記第2算出工程を行うことで前記第2温度での係数a,bを算出することを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ調整方法。
【請求項5】
前記第1温度で前記計測工程及び前記調整工程を行った後、前記第2温度で前記計測工程及び前記調整工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の磁気センサ調整方法。
【請求項6】
磁電変換素子(20)、該磁電変換素子(20)の周囲に磁界を形成する磁石(30)、及び、前記磁電変換素子(20)の出力信号を閾値電圧に基づいて二値化する信号処理部(43)を有し、回転体の回転状態を検出する磁気センサ(10)の出力特性を調整する磁気センサ調整装置であって、
前記磁石(30)が形成する磁界を変動するための磁性体(70)と、
該磁性体(70)及び前記磁気センサ(10)の少なくとも一方を移動させることで、前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)との相対距離を変動する移動部と、
前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)とが、第1距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第1出力信号の電圧値Va、及び、前記磁性体(70)と前記磁気センサ(10)とが、前記第1距離とは異なる第2距離だけ離れているときに出力される前記磁電変換素子(20)の第2出力信号の電圧値Vbに基づいて、前記磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整する調整部(80)と、を有し、
前記調整部(80)は、前記磁電変換素子(20)の出力特性に関わる係数をa,b、前記閾値電圧をVthとすると、下記式
【数3】

が成立するように、前記磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整することを特徴とする磁気センサ調整装置。
【請求項7】
前記磁気センサ(10)と前記磁性体(70)との対向方向に垂直な方向に、複数の前記磁気センサ(10)が前記磁性体(70)の主面と対向するように、列を成して並んでおり、
前記磁気センサ(10)と前記調整部(80)との電気的な接続を制御する制御部(90)を有し、
前記制御部(90)によって、複数の前記磁気センサ(10)の内の任意の一つを前記調整部(80)と電気的に接続し、前記調整部(80)によって、選択した前記磁気センサ(10)のVa,Vb及び前記数式3に基づいて前記磁電変換素子(20)の出力信号の電圧レベルを調整することを、全ての前記磁気センサ(10)で行うことを特徴とする請求項6に記載の磁気センサ調整装置。
【請求項8】
前記制御部(90)は、前記磁気センサ(10)と前記調整部(80)との間に配置された選択スイッチ(91)と、該選択スイッチ(91)の開閉を制御する開閉制御部(92)と、を有することを特徴とする請求項7に記載の磁気センサ調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185077(P2012−185077A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49229(P2011−49229)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】