説明

磁気センサ

【課題】 特に、軟磁性体と磁気抵抗効果素子間でオフセットが生じても、外乱感度を小さくすることができる磁気センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 軟磁性体3のY1側部側に位置し、感度軸方向P1がY2、Y1からの水平磁界成分を受ける第1磁気抵抗効果素子S1と、軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向P2はY1、Y2からの水平磁界成分を受ける第2の磁気抵抗効果素子S2と、軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向がY2、Y2からの水平磁界成分を受ける第3磁気抵抗効果素子S3、軟磁性体のY1側部側に位置し、感度軸方向がY1、Y1からの水平磁界成分を受ける第4磁気抵抗効果素子S4と備える。S1とS2とが直列接続されたA素子群と、S3とS4とが直列接続されたB素子群が構成される。A素子群とB素子群とが直列接続されるとともに、A素子群とB素子群の間に出力端子が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁界成分を検知できる磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気抵抗効果素子を用いた磁気センサは例えば、携帯電話等の携帯機器に組み込まれる地磁気を検知する地磁気センサとして使用できる。
【0003】
地磁気センサは、水平面内にて直交するX軸方向及びY軸方向と、前記水平面に直交する垂直方向(Z軸方向)との磁界成分を夫々検知することができるように構成されている。
【0004】
図7は従来構造における問題点を説明するための磁気センサの模式図である。なお図7(a)は図7(b)に示す平面図の磁気センサを矢印方向αから見た側面から見た図であり、磁気センサの一部分だけを抽出したものである。
【0005】
図7(a)に示すように、垂直磁界成分HAは、軟磁性体70に集磁され、上面70aから軟磁性体70の内部に進入する。前記垂直磁界成分HAは、軟磁性体70内を通過し、下面70bの端部付近から外方に発せられるときに、水平方向の磁界成分HB,HCに変換される。水平磁界成分HB,HCにより、磁気抵抗効果素子71,72の電気抵抗値が変動する。
【0006】
図7(b)に示すように、磁気抵抗効果素子71と磁気抵抗効果素子72の感度軸方向Pは共に同じ方向である。このとき磁気抵抗効果素子71に流入する水平磁界成分HBと、磁気抵抗効果素子72に流入する水平磁界成分HCとがY1−Y2方向において反平行となっており、磁気抵抗効果素子71の電気抵抗値が大きくなると、磁気抵抗効果素子72の電気抵抵抗値は小さくなる。したがって、磁気抵抗効果素子71と磁気抵抗効果素子72とを直列に接続し、図8に示すブリッジ回路を構成することで出力を得ることができる。
【0007】
図7(a)に示すように、軟磁性体70の中心線OAと、各磁気抵抗効果素子71,72の中心線OBとの間にY1−Y2方向へのギャップTA,TBが設けられ、理想的には、ギャップTA,TBが共に同じ値で、且つ所定寸法となるように調整することで、外乱感度をほぼゼロにすることが可能になる。ここで外乱感度とは、感度軸方向と平行な方向への外乱磁界の検知を指す。
【0008】
今、図7に示すギャップTA,TBが理想的な寸法値にあり、オフセット寸法=0と設定すると、軟磁性体70が各磁気抵抗効果素子71,72に対してY1−Y2方向にずれることで、オフセット量が大きくなる。
【0009】
図9は、従来型の磁気センサのオフセット量と外乱感度との関係を示すグラフである。ここでは、理想的なギャップTA,TBを2.5μmとし、軟磁性体70を磁気抵抗効果素子71,72に対してY1−Y2方向にずらしていき、理想的なギャップに対するずれをオフセット量とした。
【0010】
図9に示すようにオフセット量の変動により、外乱感度を持ってしまうことがわかった。特に無磁場状態、すなわち磁気抵抗効果素子71,72に対して磁界印加がない状態においても外乱感度を持ってしまうことがわかっている。その要因は定かでないが、平面視による軟磁性体70と磁気抵抗効果素子71,72との重なり具合による素子内での磁化状態の乱れ、特に磁気抵抗効果素子71,72を構成する素子部73の両側に素子部73内のフリー磁性層の磁化方向を規制するためのバイアス層74が設けられており(図7(b)参照)、このバイアス層74の磁化状態やバイアス層74から素子部73内へのバイアス磁界が軟磁性体70との重なり具合によって何らかの影響を受けているのではないかと考えられる。
従来では、上記の外乱感度を、オフセット量の寸法管理により制御してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−149312号公報
【特許文献2】特開2004−61380号公報
【特許文献3】特開2003−149312号公報
【特許文献4】WO2011/068146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来では、外乱感度を小さくするために、オフセット量をできるだけ小さくしようとしていた。
【0013】
しかしながら、例えば、図9に示すように、外乱感度を絶対値で2%程度以内に収めようとすると、オフセット量の寸法管理は非常にシビアになり、外乱感度を小さくするには、より高い加工精度が必要とされた。このように従来では、加工プロセスでオフセット量の寸法管理を制御しなければならず、歩留まりの低下や外乱感度のばらつきが生じやすい状況にあった。
【0014】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、軟磁性体と磁気抵抗効果素子間でオフセットが生じても、外乱感度を小さくすることができる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明における磁気センサは、
基板上に磁性層と非磁性層とが積層されて成る磁気抵抗効果を発揮する磁気抵抗効果素子と、外部からの垂直磁界成分を水平方向への水平磁界成分に変換し、前記水平磁界成分を前記磁気抵抗効果素子に与える前記磁気抵抗効果素子と非接触の軟磁性体と、を有し、
平面視にて直交する2方向を、X1−X2方向とY1−Y2方向としたとき、
前記磁気抵抗効果素子は、平面視にて、前記軟磁性体のY1側部側に位置し、感度軸方向がY2方向で、Y1方向からの水平磁界成分を受ける第1の磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向はY1方向で、Y2方向からの水平磁界成分を受ける第2の磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向がY2方向で、Y2方向からの水平磁界成分を受ける第3磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY1側部側に位置し、感度軸方向がY1方向で、Y1方向からの水平磁界成分を受ける第4磁気抵抗効果素子と、を備え、
前記第1磁気抵抗効果素子と前記第2磁気抵抗効果素子とが直列に接続されたA素子群が構成され、前記第3磁気抵抗効果素子と前記第4磁気抵抗効果素子とが直列に接続されたB素子群が構成され、
前記A素子群と前記B素子群とが入力端子とグランド端子の間で直列接続されるとともに、前記A素子群と前記B素子群の間に出力端子が設けられることを特徴とするものである。
【0016】
これにより、軟磁性体と磁気抵抗効果素子間でオフセットが生じても、外乱感度を小さくすることができる。
【0017】
本発明では、前記第1磁気抵抗効果素子及び前記第3磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第1積層部を備え、
前記第2磁気抵抗効果素子及び前記第4磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第2積層部を備え、
前記第1積層部と前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の構成が異なり、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y2方向であり、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y1方向であることが好ましい。
【0018】
上記において、前記固定磁性層は、複数の磁性層と、各磁性層間に介在する非磁性中間層との積層構造を備え、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層と、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層とでは前記磁性層の数が一方では奇数で他方では偶数となっていることが好ましい。また、前記固定磁性層は反強磁性層との間で生じる交換結合磁界により磁化方向が固定されることが好ましい。
【0019】
あるいは本発明では、前記第1磁気抵抗効果素子及び前記第3磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第1積層部を備え、
前記第2磁気抵抗効果素子及び前記第4磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第2積層部を備え、
前記第1積層部と前記第2積層部を構成する前記固定磁性層は、同じ積層構造のセルフピン止め型であり、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y2方向であり、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y1方向である構成であってもよい。
【0020】
また本発明では、前記第1積層部及び前記第2積層部のX1−X2方向の両側にバイアス層が設けられ、前記フリー磁性層の磁化は無磁場状態で略X1−X2方向に向けられていることが好ましい。
【0021】
また本発明では、前記第1積層部、及び前記第2積層部は、夫々、X1−X2方向に前記バイアス層を介して複数、連設されていることが好ましい。
【0022】
また本発明では、複数の前記軟磁性体は、夫々、X1−X2方向に延出して形成されるとともに、各軟磁性体は、Y1−Y2方向に間隔を空けて並設されており、
各軟磁性体のY1側部側及びY2側部側の夫々に、前記第1磁気抵抗効果素子、前記第2磁気抵抗効果素子、前記第3磁気抵抗効果素子あるいは前記第4磁気抵抗効果素子が配置されていることが好ましい。
【0023】
また本発明では、前記A素子群と前記B素子群とが二組、設けられ、ブリッジ回路が構成されていることが好ましい。
【0024】
また本発明では、各磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性体の下面端部の近傍に配置されていることが好ましい。
【0025】
また本発明では、前記基板上に各磁気抵抗効果素子が形成され、各磁気抵抗効果素子上から前記基板上にかけて絶縁層が形成され、前記絶縁層上に前記軟磁性体が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、軟磁性体と磁気抵抗効果素子間でオフセットが生じても、外乱感度を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本実施形態におけるZ軸磁気センサの平面図である。
【図2】図2は、本実施形態におけるZ軸磁気センサの回路図である。
【図3】図3(a)は、第1磁気抵抗効果素子と第2磁気抵抗効果素子及び軟磁性体との位置関係を示す部分拡大縦断面図、図3(b)は、第3磁気抵抗効果素子と第4磁気抵抗効果素子及び軟磁性体との位置関係を示す部分拡大縦断面図である。
【図4】図4(a)は、第1積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図、図4(b)は、第2積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図である。
【図5】図4と異なる積層部の構造であり、図5(a)は、第1積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図、図5(b)は、第2積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図である。
【図6】図6は、本実施例、比較例1及び比較例2の磁気センサを用いて実験を行った、オフセット量と外乱感度との関係を示すグラフである。
【図7】図7は従来の磁気センサの構造であり、図7(a)は、図7(b)に示す平面図の磁気センサを矢印方向αから見た側面から見た図であり、磁気センサの一部分だけを抽出したものである。
【図8】図8は、従来における磁気センサの回路図である。
【図9】図9は、従来例の磁気センサを用いて実験を行った、オフセット量と外乱感度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本実施形態におけるZ軸磁気センサの平面図であり、図2は、本実施形態におけるZ軸磁気センサの回路図であり、図3(a)は、第1磁気抵抗効果素子と第2磁気抵抗効果素子及び軟磁性体との位置関係を示す部分拡大縦断面図、図3(b)は、第3磁気抵抗効果素子と第4磁気抵抗効果素子及び軟磁性体との位置関係を示す部分拡大縦断面図であり、図4(a)は、第1積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図、図4(b)は、第2積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図であり、図5は、図4と異なる積層部の構造であり、図5(a)は、第1積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図、図5(b)は、第2積層部を高さ方向に切断した部分拡大縦断面図である。
【0029】
本実施形態における磁気抵抗効果素子を備えたZ軸磁気センサ1は、例えば携帯電話等の携帯機器に搭載される地磁気センサとして構成される。
【0030】
各図に示すX軸方向、及びY軸方向は水平面内にて直交する2方向を示し、Z軸方向は前記水平面に対して直交する方向を示している。
【0031】
Z軸磁気センサ1は、図3に示すように、基板2上に形成された第1磁気抵抗効果素子S1〜第4磁気抵抗効果素子S4と、軟磁性体3とを有して構成される。
【0032】
図3に示すようにシリコン等で形成された基板2上に絶縁層4を介して各磁気抵抗効果素子S1〜S4が形成される。
【0033】
図1に示すように基板上には第1磁気抵抗効果素子S1、第2磁気抵抗効果素子S2、第3磁気抵抗効果素子S3及び第4磁気抵抗効果素子S4が形成されている。
【0034】
第1磁気抵抗効果素子S1及び第3磁気抵抗効果素子S3は、X1−X2方向に間隔を空けた複数の第1積層部10と、各第1積層部10の端部及び中間部に設けられた複数のバイアス層11とを有して構成されている。
【0035】
また第2磁気抵抗効果素子S2及び第4磁気抵抗効果素子S4は、X1−X2方向に間隔を空けた複数の第2積層部12と、各第2積層部12の端部及び中間部に設けられたバイアス層13とを有して構成されている。
【0036】
図1に示すように第1積層部10はY2方向が感度軸方向P1であり、第2積層部12はY1方向が感度軸方向P2である。
【0037】
図1に示すように、第1磁気抵抗効果素子S1は、平面視にて、軟磁性体3のY1側部3a側に配置されており、第2磁気抵抗効果素子S2は、平面視にて、軟磁性体3のY2側部3b側に配置されている。また第3磁気抵抗効果素子S3は、平面視にて、軟磁性体3のY2側部3b側に配置されており、第4磁気抵抗効果素子S4は、平面視にて、軟磁性体3のY1側部3a側に配置されている。
【0038】
図3に示すように、垂直磁界成分H1は、軟磁性体3に集磁され、上面3aから軟磁性体3の内部に進入する。前記垂直磁界成分H1は、軟磁性体3内を通過し、下面3bの端部近傍から外方に発せられるときに、Y1方向への水平磁界成分H2とY2方向への水平磁界成分H3とに変換される。水平磁界成分H2,H3の方向は、各磁気抵抗効果素子S1〜S4の各層の界面に平行な方向であり、磁気抵抗効果素子S1〜S4は、水平磁界成分H2,H3の作用により電気抵抗値が変動する。
【0039】
図3(a)に示すように第1磁気抵抗効果素子S1は感度軸方向P1がY2方向で、Y1方向からの水平磁界成分H2を受けるため電気抵抗値は大きくなる。また図3(a)に示すように第2磁気抵抗効果素子S2は感度軸方向P2がY1方向であり,Y2方向からの水平磁界成分H3を受けるため電気抵抗値は大きくなる。
【0040】
また図3(b)に示すように、第3磁気抵抗効果素子S3は感度軸方向P1がY2方向で、Y2方向からの水平磁界成分H3を受けるため電気抵抗値は小さくなる。また図3(b)に示すように第4磁気抵抗効果素子S4は感度軸方向P2がY1方向であり,Y1方向からの水平磁界成分H2を受けるため電気抵抗値は小さくなる。
【0041】
図1及び図2に示すように第1磁気抵抗効果素子S1と第2磁気抵抗効果素子S2とが直列接続されてA素子群15が構成され、第3磁気抵抗効果素子S3と第4磁気抵抗効果素子S4とが直列接続されてB素子群16が構成されている。
【0042】
そして図1、図2に示すように、A素子群15とB素子群16とが二組設けられてブリッジ回路が構成されている。Vddは入力端子、GNDはグランド端子、V1、V2は出力端子を示している。なお、フルブリッジ回路(図2)とすることが好ましいがハーフブリッジ回路(図2のA素子群15とB素子群16が一組ずつ)としても後述する本実施形態の効果を得ることができる。
【0043】
A素子群15を構成する第1磁気抵抗効果素子S1及び第2磁気抵抗効果素子S2はどちらも垂直磁界成分H1が作用すると水平磁界成分H2,H3により電気抵抗値が大きくなり(図3(a)参照)、B素子群16を構成する第3磁気抵抗効果素子S3及び第4磁気抵抗効果素子S4はどちらも垂直磁界成分H1が作用すると水平磁界成分H2,H3により電気抵抗値が小さくなる(図3(a)参照)、したがって図2に示すブリッジ回路により出力を得ることができ垂直磁界成分を検出することができる。
【0044】
図4(a)は第1積層部10、図4(b)は、第2積層部12の積層構造を示す。
図4(a)に示すように、第1積層部10は、例えば下から非磁性下地層60、固定磁性層61、非磁性層62、フリー磁性層63及び保護層64の順に積層されて成膜される。第1積層部10を構成する各層は、例えばスパッタにて成膜される。
【0045】
図4(a)に示す実施形態では、固定磁性層61は第1磁性層61aと第2磁性層61bと、第1磁性層61a及び第2磁性層61b間に介在する非磁性中間層61cとの積層フェリ構造である。各磁性層61a,61bはCoFe合金(コバルト−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。非磁性中間層61cはRu等である。非磁性層62はCu(銅)などの非磁性材料で形成される。フリー磁性層63は、NiFe合金(ニッケル−鉄合金)などの軟磁性材料で形成されている。保護層64はTa(タンタル)などである。
【0046】
本実施形態では固定磁性層61を積層フェリ構造として、第1磁性層61aと第2磁性層61bとが反平行に磁化固定されたセルフピン止め型である。図4(a)に示すセルフピン止め型では、反強磁性層を用いず、よって磁場中熱処理を施すことなく固定磁性層61を構成する各磁性層61a,61cを磁化固定している。なお、各磁性層61a,61bの磁化固定力は、外部磁界が作用したときでも磁化揺らぎが生じない程度の大きさであれば足りる。
【0047】
図4(a)に示すように、第1積層部10を構成する第2磁性層61bの固定磁化方向(P1;感度軸方向)はY2方向であり磁気抵抗効果に関与する。この固定磁化方向(P1)が固定磁性層61の固定磁化方向である。
【0048】
一方、図4(b)に示す第2積層部12も下から非磁性下地層60、固定磁性層61、非磁性層62、フリー磁性層63及び保護層64の順に積層されて積層構造であり、第1積層部10と変わらない。すなわち第2積層部12の固定磁性層61もセルフピン止め型である。
【0049】
ただし、第1積層部10と異なって、第2磁性層61bの固定磁化方向(P2;感度軸方向)がY1方向である。
【0050】
固定磁性層61をセルフピン止め型とすることで、磁場中熱処理が必要なく、図4(a)(b)に示す第1積層部10と第2積層部12とを同じ積層構造としても、成膜時の磁場方向を変えることで、感度軸方向を反平行に出来る。
【0051】
あるいは、図5(a)(b)に示すように、第1積層部10及び第2積層部12を夫々、下から非磁性下地層60、反強磁性層65、固定磁性層66、非磁性層62、フリー磁性層63及び保護層64の順に積層する。図5では、磁場中熱処理により反強磁性層65と固定磁性層66との間に交換結合磁界(Hex)を生じさせて固定磁性層66を固定磁化する。
【0052】
図5(a)に示す第1積層部10では、固定磁性層66が、磁性層66a,66b,66cと非磁性中間層66d,66eとが交互に積層された積層フェリ構造であり、磁性層66a,66b,66cは3層、設けられている。一方、図5(b)に示す第2積層部12では、固定磁性層66が、磁性層66a,66bと非磁性中間層66dとが交互に積層された積層フェリ構造であり、磁性層66a,66bは2層、設けられている。
【0053】
図5(a)に示す第1積層部10及び第2積層部12に対する磁場中熱処理を同時に行なうことが可能である。第1積層部10を構成する各磁性層66a,66b,66cは互いに反平行に固定磁化され、図5(a)に示すように、非磁性層62に接する磁性層66cはY2方向に磁化固定されており、Y2方向が感度軸方向である。また、図5(b)に示すように、第2積層部12の非磁性層62に接する磁性層66bはY1方向に磁化固定されており、Y1方向が感度軸方向である。このように第1積層部10と第2積層部12とで積層フェリ構造の磁性層の数を変えることで、感度軸方向を反平行にすることができる。
【0054】
また図1に示すように各積層部10,12のX1−X2方向の両側にはバイアス層11,13が設けられ、バイアス層11,13からのバイアス磁界により各積層部10,12のフリー磁性層63の磁化方向は無磁場状態でX1−X2方向に向けられている。
【0055】
図6は、本実施例、比較例1及び比較例2の磁気センサを用いて実験を行った、オフセット量と外乱感度との関係を示すグラフである。
【0056】
図6に示す比較例1とは、本実施形態における第1磁気抵抗効果素子S1と第3磁気抵抗効果素子とを用いてブリッジ回路を構成した磁気センサであり、比較例2とは、本実施形態における第2磁気抵抗効果素子S2と第4磁気抵抗効果素子S4とを用いてブリッジ回路を構成した磁気センサである。比較例1、比較例2は図8に示すブリッジ回路を構成している。なお比較例1、比較例2は、感度軸方向が逆方向となっている。一方、実施例は、図2に示すブリッジ回路を構成している。
【0057】
今、図3の状態が、実施例、比較例1、及び比較例2において、外乱感度がゼロとなるオフセット量=0μmの位置であるとする。すなわち軟磁性体3の中心線O1と、各磁気抵抗効果素子S1〜S4の中心線O2との間のギャップT1,T2が所定寸法とされている。磁気抵抗効果素子の位置はそのままで軟磁性体3をY1−Y2方向にずらしてオフセット量を変化させて外乱感度を測定した。
【0058】
図6に示すように比較例1及び比較例2は共に、オフセット量(絶対値)が大きくなることで、外乱感度(絶対値)が大きくなった。ただし、比較例1と比較例2とは感度軸方向が反平行であり、図6のように外乱感度のオフセット依存性が逆傾向になることがわかった。
【0059】
本実施例は図2に示すように、比較例1を構成する第1磁気抵抗効果素子S1及び第3磁気抵抗効果素子S3と、比較例2を構成する第2磁気抵抗効果素子S2及び第4磁気抵抗効果素子S4とを直列接続した構成である。これにより、外乱感度のオフセット依存性をキャンセル(相殺)することができる。したがって図6に示すように、実施例では、オフセットずれがあっても外乱感度をほぼゼロにすることが出来た。
【0060】
また、図5に示したように、第1積層部10と第2積層部12とで積層構造が異なっていると抵抗温度係数(TCR)が異なるが、第1積層部10を備える第1磁気抵抗効果素子S1及び第3磁気抵抗効果素子S3と、第2積層部12を備える第2磁気抵抗効果素子S2及び第4磁気抵抗効果素子S4とを直列接続したことで温度依存性を自己キャンセルできる。
【0061】
図1に示すように、複数本の軟磁性体3が、夫々、X1−X2方向に延出して形成されており、各軟磁性体3がY1−Y2方向に間隔を空けて並設されている。図1では、各軟磁性体3のX1側部及びX2側部が軟磁性体3と一体化した連設部5により接続されている。各軟磁性体3は例えばメッキ法により図3に示すようにZ1−Z2方向に高く形成されるが、各軟磁性体3の機械的強度は弱くなる。このため各軟磁性体3を補強すべく各軟磁性体3を連設部5により接続した。
【0062】
図1に示すように、各軟磁性体3のY1側部3aあるいはY2側部3bに夫々、第1磁気抵抗効果素子S1、第2磁気抵抗効果素子S2、第3磁気抵抗効果素子S3あるいは第4磁気抵抗効果素子S4を割り振って設けた。これにより、各磁気抵抗効果素子S1〜S4及び各端子を図3に示すブリッジ回路に接続しやすくなる。なお図1では、直列接続される第1磁気抵抗効果素子S1と第2磁気抵抗効果素子S2、及び直列接続される第3磁気抵抗効果素子S3と第4磁気抵抗効果素子S4とを夫々、一列としているが、これは図面を簡略化したものであり、複数列を直列接続する構成とすることで長いミアンダ形状を構成でき、消費電流を低減させることができる。
【0063】
また本実施形態では、軟磁性体3の下面端部近傍に、各磁気抵抗効果素子S1〜S4を配置できる。したがって磁気抵抗効果素子S1〜S4及び軟磁性体3をコンパクトに配置できZ軸磁気センサ1の小型化を促進できる。
【符号の説明】
【0064】
H1 垂直磁界成分
H2、H3 水平磁界成分
P1、P2 感度軸方向
S1〜S4 磁気抵抗効果素子
1 Z軸磁気センサ
3 軟磁性体
3a Y1側部
3b Y2側部
10 第1積層部
11、13 バイアス層
12 第2積層部
15 A素子群
16 B素子群
61、66 固定磁性層
61a、61b、66a、66b、66c 磁性層
62 非磁性層
63 フリー磁性層
65 反強磁性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に磁性層と非磁性層とが積層されて成る磁気抵抗効果を発揮する磁気抵抗効果素子と、外部からの垂直磁界成分を水平方向への水平磁界成分に変換し、前記水平磁界成分を前記磁気抵抗効果素子に与える前記磁気抵抗効果素子と非接触の軟磁性体と、を有し、
平面視にて直交する2方向を、X1−X2方向とY1−Y2方向としたとき、
前記磁気抵抗効果素子は、平面視にて、前記軟磁性体のY1側部側に位置し、感度軸方向がY2方向で、Y1方向からの水平磁界成分を受ける第1の磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向はY1方向で、Y2方向からの水平磁界成分を受ける第2の磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY2側部側に位置し、感度軸方向がY2方向で、Y2方向からの水平磁界成分を受ける第3磁気抵抗効果素子と、前記軟磁性体のY1側部側に位置し、感度軸方向がY1方向で、Y1方向からの水平磁界成分を受ける第4磁気抵抗効果素子と、を備え、
前記第1磁気抵抗効果素子と前記第2磁気抵抗効果素子とが直列に接続されたA素子群が構成され、前記第3磁気抵抗効果素子と前記第4磁気抵抗効果素子とが直列に接続されたB素子群が構成され、
前記A素子群と前記B素子群とが入力端子とグランド端子の間で直列接続されるとともに、前記A素子群と前記B素子群の間に出力端子が設けられることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記第1磁気抵抗効果素子及び前記第3磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第1積層部を備え、
前記第2磁気抵抗効果素子及び前記第4磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第2積層部を備え、
前記第1積層部と前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の構成が異なり、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y2方向であり、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y1方向である請求項1記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記固定磁性層は、複数の磁性層と、各磁性層間に介在する非磁性中間層との積層構造を備え、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層と、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層とでは前記磁性層の数が一方では奇数で他方では偶数となっている請求項2記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記固定磁性層は反強磁性層との間で生じる交換結合磁界により磁化方向が固定される請求項3記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記第1磁気抵抗効果素子及び前記第3磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第1積層部を備え、
前記第2磁気抵抗効果素子及び前記第4磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定される固定磁性層と、前記水平磁界成分により磁化方向が変動するフリー磁性層とが非磁性層を介して積層された同じ第2積層部を備え、
前記第1積層部と前記第2積層部を構成する前記固定磁性層は、同じ積層構造のセルフピン止め型であり、前記第1積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y2方向であり、前記第2積層部を構成する前記固定磁性層の磁気抵抗効果に関与する固定磁化方向は、Y1方向である請求項1記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記第1積層部及び前記第2積層部のX1−X2方向の両側にバイアス層が設けられ、前記フリー磁性層の磁化は無磁場状態で略X1−X2方向に向けられている請求項2ないし5のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記第1積層部、及び前記第2積層部は、夫々、X1−X2方向に前記バイアス層を介して複数、連設されている請求項6記載の磁気センサ。
【請求項8】
複数の前記軟磁性体は、夫々、X1−X2方向に延出して形成されるとともに、各軟磁性体は、Y1−Y2方向に間隔を空けて並設されており、
各軟磁性体のY1側部側及びY2側部側の夫々に、前記第1磁気抵抗効果素子、前記第2磁気抵抗効果素子、前記第3磁気抵抗効果素子あるいは前記第4磁気抵抗効果素子が配置されている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記A素子群と前記B素子群とが二組、設けられ、ブリッジ回路が構成されている請求項1ないし8のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項10】
各磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性体の下面端部の近傍に配置されている請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記基板上に各磁気抵抗効果素子が形成され、各磁気抵抗効果素子上から前記基板上にかけて絶縁層が形成され、前記絶縁層上に前記軟磁性体が形成されている請求項1ないし10のいずれか1項に記載の磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32989(P2013−32989A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169548(P2011−169548)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】