説明

磁気メモリ、及びその駆動方法

【課題】高記録密度の磁気メモリを実現する。
【解決手段】情報記録媒体としての磁性細線1に対し、リザーブ領域95の長さに等しい長さで、等間隔に記録素子16a〜16dまたは再生素子17a〜17dを配置している。例えば情報の記録時に、端子21aと端子21cとを選択して電圧を印加し、記録領域94a内の磁壁をリザーブ領域95に向かって移動させると、リザーブ領域95の長さ分、磁壁を移動させる間に、全磁区が、記録素子16aおよび16bのどちらかを通過する。情報の再生時についても、記録領域94bの磁区についても、同じことがいえる。したがって、記録領域94a・94bの全磁区の記録再生を可能としながら、従来より遥かに高密度の記録再生を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録再生装置、特に、磁性細線における磁区中の磁気モーメントを用いてデータを記録再生する磁気メモリに関する。
【0002】
具体的には、本発明はデータが記録された磁区を電流により移動させることが可能な磁気メモリ、特にその配線構造に関するもの、並びにその駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、ハードディスクドライブ(HDD;Hard Disk Drive)、又は固体ランダム・アクセス・メモリ(RAM;Random Access Memory)などの不揮発性メモリが多くの商品に用いられている。
【0004】
HDDに関しては、100GB(ギガバイト)を超える大量のデータを安価に記録することができる。しかし、HDDでは、データを記録するために、回転している情報記録媒体から数nm離れたところで、読み書きヘッドを移動させなければならない。したがって、HDDに振動を加えると、読み書きヘッドが情報記録媒体を物理的に損傷し、HDDが故障する可能性がある。
【0005】
固体ランダム・アクセス・メモリ(RAM)に関しては、1GBのデータを記録することができるものが開発されているが、HDDに比べて、1GBあたりの単価が高価なものとなっている。さらに、代表的な固体ランダム・アクセス・メモリ(RAM)であるフラッシュ・メモリは、記録をする際に1μsec以上のアクセス時間が必要であり、これは他のメモリと比較すると非常に大きい時間である。さらに、フラッシュ・メモリにおける書き換え回数は、100万回程度であり、これ以上のデータの書き込みを行うと、セルに記録したデータが消失してしまうという問題がある。
【0006】
その他の固体ランダム・アクセス・メモリである、強誘電体RAM(FeRAM)、OUM(Ovonic Unified Memory)、又はMRAM(Magnetic RAM)においても、数MB程度の容量しか実現されていない。
【0007】
以上のように、不揮発性メモリ素子には、HDDのような、情報記録媒体と再生又は読み取り素子間のギャップ制御や駆動機構が無く、低コスト、かつHDDに匹敵する記録容量を有し、さらに、書き換え回数が無制限であることが要求されている。
【0008】
このような課題を克服するために考案された情報記録媒体が、基板と垂直方向に配置した磁性細線に情報を多数記録する、MRTM(Magnetic Race Track Memory)である。MRTMの記録及び再生時のアクセス時間は、1ns〜100nsであり、従来のDRAM(Dynamic RAM)と同等である。また、MRTMは、他の情報記録媒体より小さいチップ面積に多くの情報を記録することが可能なため、低コスト化を実現することができる。また、MRTMは、HDDのような機構系を備えないため、既存の半導体と同等の堅牢性を備えている。そのため、すべての不揮発性メモリを置き換えるようなユニバーサルメモリとしての応用が期待される。MRTMについては、特許文献1および2に詳細に記載されているため、以下では簡単に紹介するにとどめる。
【0009】
図8は、特許文献1および2に記載されているMRTMの単位セルの構成図である。図8を参照して、MRTMを説明する。MRTMの単位セル900Bは、シリコン基板120上に垂直に配置したU字型形状の磁性細線101と、記録素子106と、再生素子107と、磁性細線101に電流901を供給する電源とにより構成されている。
【0010】
さらに、磁性細線101は、物理的な切り込みで区切られた複数の磁区903から成る。MRTMは、各磁区903の磁化の向きにより、情報の“1”又は“0”を記録している。つまり、データが“1”又は“0”である1ビットを記録する、磁性材料でできたビット・セルが、基板に対して垂直に多数積層されていることになる。例えば、10ミクロンの長さの磁性細線101に、1つあたり0.1ミクロンの長さを有する磁区を形成すれば、100ビットもの情報を垂直方向に積層して記録することができる。
【0011】
次に、MRTMにおける情報の記録再生方法について説明する。図8に示すように、磁性細線101は、情報を記録する領域である記録領域904と、それ以外の領域であるリザーブ領域905とに分けられている。また、記録情報は、記録領域904中の磁区903に記録されている。
【0012】
情報を再生する場合には、磁性細線101に電流901を流すことによって、情報が記録されている磁区903を区切る磁壁を、記録領域904からリザーブ領域905へと移動させる。これにより、再生したい情報が記録されている磁区903を再生素子107上部に移動させる。なお、電流901はパルス電流であり、その方向又はパルス数により、磁壁が移動する方向又は距離を制御することができる。
【0013】
図9は、記録素子106及び再生素子107の近傍を拡大したものである。再生素子107は、図9に示すようにTMR(Tunnel Magneto Resistance)素子908を含んでおり、TMR素子908の上に移動してきた磁区903の磁化により、TMR素子908の自由層909における磁化の向きが変化する。この自由層の磁化の向きをTMR効果により検知することによって、情報の“1”、又は“0”を読み取ることができる。
【0014】
また、情報を記録する場合は、再生時と同様に磁性細線101に電流901を流すことによって(図8参照)、情報が記録されている磁区903間を区切る磁壁を、記録領域904からリザーブ領域905へと移動させる。これにより、記録したい磁区903を記録素子106上部に移動させる。ここで、記録素子106に電流を流し、それにより発生する磁界によって、記録素子106上部にある磁区903の磁化の方向を設定する。これにより、情報の“1”又は“0”を記録することができる。
【0015】
また、図10は、MRTM900の主要部の概略図である。図10に示すように、MRTM900は、単位セル900Bを電気的に直列に複数接続させることで構成されている。この構成では、磁性細線101に電流901を流し、直列に接続されている磁性細線101中の磁壁を同時に移動させ、上記に記した方法により情報の記録再生を行う。
【特許文献1】米国特許第6834005号(2004年12月21日発行)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0094427号(2005年5月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、これまでのMRTMにおいては、図10に示すように、複数の磁性細線101を電気的に直列に繋いで配線している。そのため、配線抵抗が非常に大きくなり、磁性細線101に電流901を供給する際の消費電力が大きくなるという問題がある。
【0017】
また、磁性細線101が直列に繋がれているために、すべての磁性細線101に同じ電流901が供給されることになる。そのため、すべての情報が記録されている磁区903間を区切るすべての磁壁は、同時に同じ方向に移動することになる。したがって、任意のセルの磁壁を個別に移動させることができないため、従来のMRTMは、ランダム・アクセス性に劣る。その結果、情報処理スピードが下がってしまうという欠点を有している。
【0018】
また、MRTMの動作原理では、磁性細線101に電流901を流すことによって情報が記録されている磁区903間を区切る磁壁を記録領域904からリザーブ領域905へと移動させ、情報を記録再生するようになっている。このため、磁性細線101全体に情報を記録しておくことはできない。図8及び図10に示した、従来の方式では、リザーブ領域905は、記録領域904から磁壁の移動を受け入れるため、記録領域904と同等の長さを必要とする。これにより、記録領域904は、最大で磁性細線101の長さの半分程度に限られてしまうという課題を有する。
【0019】
以上のように、特許文献1又は特許文献2に開示された技術では、消費電力が大きくなり、ランダム・アクセス性に劣り、記録領域は磁性細線の半分程度の記録密度である。
【0020】
本発明は、特に、従来のMRTMの記録密度が低いという問題に着目してなされたものであり、その目的は、より高記録密度を実現できる磁気メモリを提供することにある。さらなる目的は、低消費電力で、ランダム・アクセス性にも優れた磁気メモリを実現し、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る磁気メモリは、上記課題を解決するために、
情報記録媒体としての磁性細線と、
上記磁性細線へ情報を記録するための記録素子および上記磁性細線から情報を読み取るための再生素子の少なくとも一方とを有し、
上記磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に供給される電流により移動させることで、上記記録素子による情報の記録または上記再生素子による情報の再生を行う磁気メモリにおいて、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを有し、
上記磁性細線の両端部を除いて、上記記録素子および再生素子の少なくとも一方を磁性細線に対して等しい間隔に設けるとともに、
上記リザーブ領域に対して、磁性細線の長手方向に沿って正逆両方向に、上記磁壁を移動させることができる電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を設け、
上記リザーブ領域の長さを、上記間隔と等しい長さに設定したことを特徴とする。
【0022】
上記の構成によれば、磁性細線には、磁区を格納している記録領域と、情報の記録または再生のために、記録領域から磁壁の移動を受け入れるリザーブ領域とが存在している。また、これらの各領域は、磁性細線中で直列的に並んでいる。このリザーブ領域には、端子に対する電圧印加の仕方によって、磁壁を磁性細線の長手方向に沿って正逆どちら向きにも移動させることができる。
【0023】
このようなリザーブ領域の長さは、記録素子または再生素子の配置間隔に等しく設定されている。すなわち、リザーブ領域の一端部に隣接して存在している磁壁を、当該リザーブ領域の他端部まで移動させる距離と、ある記録素子または再生素子から、その隣の記録素子または再生素子まで、磁壁を移動させる距離とが等しい。したがって、リザーブ領域の一端側に存在している全ての記録領域内の磁壁を、リザーブ領域に向かって一方向に移動させたとすると、それらの全ての磁壁が、リザーブ領域の長さ分の移動をする間に、どれかの記録素子または再生素子を通過することになる。
【0024】
これにより、記録素子または再生素子の配置間隔に等しい長さのリザーブ領域が1つあれば、リザーブ領域以外を全て記録領域としても、情報の記録または再生を適正に行うことができる。したがって、本発明の磁気メモリは、従来の磁気メモリに比べて、遥かに、記録密度を向上させることができる。
【0025】
なお、「上記リザーブ領域の長さを、上記間隔と等しい長さに設定したこと」を「磁性細線における磁壁の位置を制御するために、磁性細線に設けた物理的くびれの数について、記録素子または再生素子の配置間隔内に含まれる数と、リザーブ領域に含まれる数とを等しく設定したこと」と言い換えることができる。
【0026】
本発明に係る磁気メモリは、上記課題を解決するために、
情報記録媒体としての磁性細線と、
上記磁性細線へ情報を記録するための記録素子および上記磁性細線から情報を読み取るための再生素子の少なくとも一方とを有し、
上記磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に供給される電流により移動させることで、上記磁区に対して、上記記録素子による情報の記録または上記再生素子による情報の再生を行う磁気メモリにおいて、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを含む複数の領域を有し、
隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させることができるように、上記磁性細線内における上記磁壁の移動を制御する電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を備えたことを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、磁性細線は、複数の領域を有し、これら複数の領域は、磁区を格納している記録領域と、記録領域から移動した磁区を一時的に格納するリザーブ領域とを有している。さらに、隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、各記録領域内の磁区を移動させるために、電流を流すための電圧を印加する端子が設けられている。
【0028】
したがって、端子に対する電圧印加の仕方によって、リザーブ領域は、両隣の記録領域のそれぞれから、磁区を受け入れることができる。換言すれば、本発明は、1つのリザーブ領域が両隣の記録領域によって共有される構成になっている。
【0029】
これにより、1つのリザーブ領域を有効に使用することができるため、磁性細線全体に対するリザーブ領域の占める割合が減少することになる。この結果、磁性細線全体に対する記録領域の占める割合を増やすことができる。したがって、磁気メモリの記録密度を高めることができる。
【0030】
なお、磁性細線は、最小単位として、1つのリザーブ領域と、そのリザーブ領域の両隣にある2つの記録領域とを有していてもよい。あるいは、複数のリザーブ領域と、それぞれのリザーブ領域の両端に記録領域とを有していてもよい。いずれの場合でも、磁性細線全体に対するリザーブ領域の占める割合が減少し、磁気メモリの記録密度が増大する。
【0031】
本発明の磁気メモリにおいて、上記記録素子および上記再生素子の少なくとも一方は、前記磁性細線を少なくとも3つ以上の領域に均等に分割する間隔で配置され、該間隔と、上記リザーブ領域の長さとが等しいことを特徴とする。
【0032】
これにより、リザーブ領域の一端部に隣接して存在している磁壁を、当該リザーブ領域の他端部まで移動させる距離と、ある記録素子または再生素子から、その隣の記録素子または再生素子まで、磁壁を移動させる距離とが等しい。したがって、リザーブ領域の一端側に存在している全ての記録領域内の磁壁を、リザーブ領域に向かって一方向に移動させたとすると、それらの全ての磁壁が、リザーブ領域の長さ分の移動をする間に、どれかの記録素子または再生素子を通過することになる。
【0033】
さらに、リザーブ領域の他端側に存在している全ての記録領域内の磁壁を、リザーブ領域に向かって、上記と逆向きの一方向に移動させたとすると、それらの全ての磁壁が、リザーブ領域の長さ分の移動をする間に、どれかの記録素子または再生素子を通過することになる。
【0034】
これにより、リザーブ領域を両隣の記録領域が共有する構成によって、情報の記録密度を向上させることができる効果に加えて、1つのリザーブ領域がありさえすれば、磁性細線の残りの領域を全て記録領域としても、記録領域内の全磁区に対し、情報を記録または再生することができる。したがって、上記の構成は、磁性細線の記録密度を最大限に増やすことができる。
【0035】
本発明の磁気メモリにおいて、上記リザーブ領域が、その両端を記録領域によって挟まれる位置関係にある場合、上記端子は、上記リザーブ領域とその両隣に配置した記録領域との各隣接部、および各記録領域における、上記隣接部と反対側の各端部に、設けられていることが好ましい。
【0036】
上記の構成によれば、リザーブ領域およびその両端に隣接して配置した記録領域を1組として考えた場合に、一方の記録領域における、リザーブ領域と隣接していない端部(A1)、当該一方の記録領域における隣接部(B1)、他方の記録領域における隣接部(B2)、並びに、当該他方の記録領域における、リザーブ領域と隣接していない端部(A2)のそれぞれに、端子が設けられている。
【0037】
したがって、例えば、ある磁区が、一方の記録領域の端部(A1)の付近に位置していたとしても、端部(A1)と隣接部(B2)とにそれぞれ配置された端子を選択し、極性の異なる電圧を各端子に印加することにより、当該磁区を一方の記録領域からリザーブ領域に移動させることができる。
【0038】
同様に、他の磁区が、他方の記録領域の端部(A2)の付近に位置していたとしても、端部(A2)と隣接部(B1)とにそれぞれ配置された端子を選択し、極性が異なり、かつ、その極性の異ならせ方が、上記とは反対の電圧を各端子に印加することにより、当該磁区を他方の記録領域からリザーブ領域に移動させることができる。
【0039】
すなわち、一つの記録領域の端から端まで、例えば端部(A1)から隣接部(B1)まで、または端部(A2)から隣接部(B2)までにわたって形成された全ての磁区に対して、リザーブ領域に移動させる移動量および移動方向を制御することが可能になる。
【0040】
本発明の磁気メモリにおいて、上記端子は、上記リザーブ領域およびその両端に位置する記録領域と、組を成して設けられていることが好ましい。
【0041】
すなわち、本発明に係る磁性細線が、複数のリザーブ領域と、それぞれのリザーブ領域が、両端の記録領域によって挟まれている構成の場合であっても、上記端子は、リザーブ領域および記録領域のそれぞれの組み合わせ毎に組を成して、複数設けられている。
【0042】
この構成によれば、「隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させる」という上述の制御を、1つ1つのリザーブ領域について、それぞれの組をなす端子を用いて、独立させることができる。この結果、磁区を移動させるための電流を流す磁性細線の長さを小分けして、短くすることができるので、従来技術とは異なり、配線抵抗を小さくし、消費電力を低減することができる。
【0043】
また、従来技術のように、磁性細線に形成された全ての磁区を一度に移動させる必要が無くなる。つまり、所望の端子を用いた駆動により、記録または再生を行いたい磁区を絞り込んで移動させることができる。この結果、本発明の磁気メモリは、ランダム・アクセス性に優れ、高速処理に対応可能となる。
【0044】
本発明の磁気メモリにおいて、上記各記録領域の長さと、上記リザーブ領域の長さとは、均等であってもよい。
【0045】
上記の構成によれば、リザーブ領域の両端に位置する各記録領域の長さとリザーブ領域の長さとが均等なので、1つの記録領域の端から端まで形成された複数の磁区を、リザーブ領域に移動させる場合に、記録領域内の全磁区を、リザーブ領域に格納することができる。このことは、リザーブ領域を挟む記録領域のどちらについても当てはまる。
【0046】
この結果、リザーブ領域に隣接する記録領域内の全磁区は、リザーブ領域と記録領域との隣接部を通過するから、記録素子および再生素子の少なくとも一方を、当該隣接部に設けておけば、リザーブ領域に隣接する記録領域内の全磁区について、情報を記録または再生することができる。したがって、従来より、記録素子または再生素子の配置数を少なく抑えながら、記録密度を向上させることができる。
【0047】
本発明の磁気メモリにおいて、上記記録素子および再生素子の少なくとも一方と、上記端子とが、上記各隣接部において組を成して設けられていることが好ましい。
【0048】
これにより、記録素子および再生素子の少なくとも一方と、端子とは、リザーブ領域とその両隣に位置する記録領域との各隣接部において、互いに近接して設けられた構成となる。この結果、記録領域からリザーブ領域に移動してくる磁区の情報は、リザーブ領域の端部付近に配された記録素子または再生素子によって、記録または再生される。したがって、リザーブ領域に無駄が生じない。
【0049】
これに対し、例えば、記録素子および再生素子の少なくとも一方と、端子とが、離間して配置されていると、その離間した距離だけリザーブ領域を確保しないと、記録領域の全ての磁区の情報を記録または再生できなくなる。
【0050】
したがって、上記本発明の構成は、磁気メモリの記録密度を向上させるのに寄与する。
【0051】
本発明の磁気メモリにおいて、上記リザーブ領域の数と記録領域の数との合計数が奇数の場合、中央の領域をリザーブ領域として、情報の記録または再生が行われ、上記合計数が偶数の場合、中央で隣接した2つの領域のどちらか1つをリザーブ領域として、情報の記録または再生が行われるようにしてもよい。
【0052】
上記の構成によれば、磁性細線は、領域の数が奇数の場合、中央の領域のみがリザーブ領域となり、残りの領域は全て記録領域となる。あるいは、領域の数が偶数の場合、中央で隣接する2つの領域のどちらか1つがリザーブ領域となり、残りの領域はすべて記録領域となる。これにより、記録領域の数を増加することができる。したがって、記録密度を高めることができる。
【0053】
なお、複数の領域の1つをリザーブ領域として確保しておけば、そのリザーブ領域に隣接する記録領域から、そのリザーブ領域に磁壁を移動させれば、記録領域に磁区の無い空き領域を形成することができる。すなわち、リザーブ領域自体が、磁区の移動に伴って、隣接する記録領域へ移動する。
【0054】
前述したように、リザーブ領域およびその両隣に配置した記録領域と、組を成して端子を設け、リザーブ領域に対して、両隣の記録領域のそれぞれから、磁区を受け入れる構成とすることが、高速なランダムアクセスを可能とするには最も好ましい。しかし、3つ以上の記録領域に対し、1つのリザーブ領域を設けるだけでも、上述のようにリザーブ領域自体が移動するため、1つのリザーブ領域を全ての記録領域が共有できる。したがって、記録密度を高めるという効果を変わりなく得ることができる。
【0055】
なお、上記磁気メモリを有し、該磁気メモリに情報を記録する、または該磁気メモリに記録された情報を再生する情報処理装置は、その磁気メモリに情報を高密度に記録することができ、記録した情報に対するランダムアクセスを高速に行うことができるという、本発明に特有の効果を奏する。
【0056】
本発明の情報記録媒体の駆動方法は、
情報記録媒体としての磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に電流を供給することにより移動させる情報記録媒体の駆動方法であって、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動に伴う磁区の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを有し、
隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させることができるように、上記磁性細線内おける上記磁壁の移動を制御する電流を流すことを特徴としている。
【0057】
上記の構成によれば、既に説明したように、1つのリザーブ領域を両隣の記録領域が共有することにより、1つのリザーブ領域を有効に使用することができる。この結果、磁性細線全体に対する記録領域の占める割合を増やすことができるため、磁気メモリの記録密度を高めることができる。
【0058】
また、本発明の情報記録媒体の駆動方法は、上記リザーブ領域とその両端に位置する記録領域との各隣接部、および各記録領域における、上記隣接部と反対側の各端部に設けた端子の中から、選択した2つの端子間のみに上記電流を流すことによって、上記2つの端子間に存在する磁壁のみを移動させることを特徴としている。
【0059】
上記の構成によれば、磁性細線中の各部に配置された端子の中から選択した2端子間のみに電流を流すことによって、所望の端子間に存在する磁壁のみを移動させることができる。したがって、従来のように、情報の記録時または再生時に、磁性細線全体に駆動電流を流す必要が無くなるので、磁壁を移動させるための消費電力を低減することができる。また、端子の選択によって、移動させる磁壁を絞り込むことができるので、高速なランダムアクセスを可能にする。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを有し、上記磁性細線の両端部を除いて、上記記録素子および再生素子の少なくとも一方を磁性細線に対して等しい間隔に設けるとともに、上記リザーブ領域に対して、磁性細線の長手方向に沿って正逆両方向に、上記磁壁を移動させることができる電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を設け、上記リザーブ領域の長さを、上記間隔と等しい長さに設定している。
【0061】
これにより、記録素子または再生素子の配置間隔に等しい長さのリザーブ領域が1つあれば、リザーブ領域以外を全て記録領域としても、情報の記録または再生を適正に行うことができる。この結果、本発明の磁気メモリは、従来の磁気メモリに比べて、遥かに、記録密度を向上させることができるという効果を奏する。
【0062】
さらに、本発明によれば、磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを含む複数の領域を有し、隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させることができるように、上記磁性細線内における上記磁壁の移動を制御する電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を備えている。
【0063】
これにより、1つのリザーブ領域が両隣の記録領域によって共有されるので、本発明の磁気メモリは、従来より高記録密度を実現することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
[実施の形態]
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0065】
(単位セル20)
図1は本発明に係る磁気メモリを構成する単位構造としての単位セル20を示す概略図である。
【0066】
図1に示すように、単位セル20は、情報記録媒体としての磁性細線1と、磁性細線1に情報を記録するための記録素子16a及び16bと、磁性細線1から情報を読み取るための再生素子17a及び17bと、上記磁性細線1に後述する電流を供給するための端子21a〜21dとから構成されている。
【0067】
上記磁性細線1は、図8、及び図10で示した従来の磁性細線101と同様に、物理的な切れ込み(くびれ)で区切られた複数の磁区93から成る。情報の“1”又は“0”は、各磁区93における磁化の向きにより記録されるので、 “1”又は“0”の1ビットデータを記録する、磁性材料でできたビット・セルが、図示しない基板に対して垂直に多数積層されていることになる。
【0068】
なお、図示の便宜上、図1等に明示していないが、上記物理的切れ込みは、磁性細線1全体に等間隔に形成されている。隣接する磁区93同士を仕切る磁壁を移動させるとき、磁壁は、物理的切れ込みの形成位置で安定して止まる。したがって、物理的切れ込みは、磁壁の位置を制御する役割を持っている。
【0069】
また、本発明に係る上記単位セル20は、図8に示す単位セル900Bを電気的に3つ直列に接続した形状をしている。なお、磁性細線1に流すパルス電流の向きとパルス数とによって、磁性細線1中に形成された磁壁が移動する方向および距離を制御することができる。
【0070】
磁性細線1は、図8に示した特許文献1及び2に記載されているMRTMの単位セル900Bの構成図と同様に、情報を記録して保存する領域である記録領域94a又は94bと、それ以外の領域であるリザーブ領域95とに分けられている。
【0071】
上記記録領域94a又は94bは、情報の記録または再生を開始する初期状態において、リザーブ領域95の両隣に、隣接して配置されている。この配置状態であれば、リザーブ領域95は、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動に伴う磁区の移動を、上記記録領域94aおよび94bのどちらからでも受け入れることができる。
【0072】
また、上記端子21a〜21dは、リザーブ領域95とその両隣に配置した記録領域94aおよび94bとの各隣接部、および記録領域94aおよび94bにおける、上記隣接部と反対側の各端部に、設けられている。すなわち、単位セル20の一端部に相当する記録領域94aの一端部には、端子21aが設けられている。リザーブ領域95の両端には、端子21bと端子21cとが設けられている。単位セル20の他端部に相当する記録領域94bの一端部には、端子21dが設けられている。
【0073】
ここで、端子21bは、記録領域94aとリザーブ領域95とに共通する端子である。また、端子21cは、記録領域94bとリザーブ領域95とに共通する端子である。
【0074】
このように、磁性細線1に電流を供給するための端子21a〜21dは、単位セル20の両端に配置されるとともに、リザーブ領域95を挟み込む位置に配置されており、図示しない電源により所望の端子にプラスもしくはマイナスの電圧を印加することができる。
【0075】
次に、上記記録素子16a及び再生素子17aは、リザーブ領域95と記録領域94aとの隣接部において、端子21bと組を成して設けられている。また、上記記録素子16b及び再生素子17bは、リザーブ領域95と記録領域94bとの隣接部において、端子21cと組を成して設けられている。
【0076】
より具体的には、記録素子16a、16b及び再生素子17a、17bは、磁性細線1を少なくとも3つ以上の領域に均等に分割するような位置に、それぞれ一対ずつ配置されている。これにより、記録素子16a、16b及び再生素子17a、17bによって分割された磁性細線1の中央の分割領域の一つがリザーブ領域95となり、その他の分割領域が記録領域94a、94bとなっている。
【0077】
したがって、記録素子16aと、その次に配置された隣の記録素子16bとの間の配置間隔は、リザーブ領域95の長さと等しくなっている。
【0078】
上記の構成を備えた単位セル20において、記録時または再生時の動作を説明する。例えば、端子21aにプラスの電圧を印加し、端子21cにマイナスの電圧を印加すると、端子21aから端子21cに、記録領域94aからリザーブ領域95を通って、電流が流れる。記録領域94aに形成された磁区を区切る磁壁は、この電流により、リザーブ領域95へ移動する。
【0079】
上記磁壁が記録領域94aからリザーブ領域95へ移動するとき、記録素子16aはデータを磁区に記録し、再生素子17bはデータを磁区から読み取る。結果として、記録領域94aに存在していた磁区が、リザーブ領域95に移動する。記録領域94aの長さは、リザーブ領域95の長さと等しいから、記録領域94aに存在していた全ての磁区を、リザーブ領域95に移動させることができる。したがって、リザーブ領域95に隣接する記録領域94aまたは94b内の全磁区は、リザーブ領域95と記録領域94aまたは94bとの隣接部を通過するから、記録素子16a・16bおよび再生素子17a・17bの少なくとも一方を、当該隣接部に設けておけば、記録領域94aまたは94b内の全磁区について、情報を記録または再生することができる。
【0080】
この結果、従来の図10に示す構成と比較して明らかなように、磁性細線の同じ長さに対して、記録素子または再生素子の配置数を減らすことができる。
【0081】
一方、記録領域94bの磁区に対し、データの記録または再生を行うためには、端子21dにプラスの電圧を印加し、端子21bにマイナスの電圧を印加する。この場合、データの記録は、記録素子16bによって行われ、データの再生は、再生素子17bによって行われる。
【0082】
上記により、記録領域94aと記録領域94bとは、リザーブ領域95を共有することができる。これにより、1つの記録領域に対して必要とされるリザーブ領域の数を減少することができる。したがって、減少したリザーブ領域の数の分、記録領域を増加することができるので、磁性細線1は、記録密度(単位長さあたりの記録容量)を高くすることができる。
【0083】
より具体的には、単位セル20の構成では、磁性細線1の3分の2を記録領域に充てることができる。従来の構成では、磁性細線の2分の1を記録領域に充てることしかできなかったので、単位セル20の記録密度は、従来の約1.33倍に増大する。
【0084】
(磁気メモリ10)
図2は、本実施の形態にかかる磁気メモリ10の主要部の概略図である。図2に示すように、磁気メモリ10は、上記単位セル20を電気的に直列に複数接続することで構成されている。
なお、ある単位セル20と他の単位セル20との接続部には、共通端子を1つ設けておけばよい。
このように、電気的に直列に接続する単位セル20の数を増やす程、磁気メモリ10の記録容量を上げることができる。
【0085】
また、端子21a〜21dが、各記録領域94a、94bおよび各リザーブ領域95の両端部に配されているため、任意の単位セル20における任意の記録領域に対応する2つの端子を選択することによって、所望の磁区にアクセスすることができる。
【0086】
この結果、磁壁を移動させる電流の経路が、従来より大幅に短くなるので、磁気メモリの消費電力を従来より大幅に低減することができる。また、所望の端子を用いた駆動により、記録または再生を行いたい磁区を絞り込んで移動させることができるので、本発明の磁気メモリは、ランダム・アクセス性に優れ、高速処理に対応可能となる。
【0087】
(記録素子・再生素子・端子の配置)
図3は、単位セル20に配置された記録素子16a及び16b、再生素子17a及び17b、及び端子21a〜21dの様々な配置を示した図である。いずれの配置においても、記録素子16a、16b及び再生素子17a、17bは、磁性細線1を少なくとも3つ以上の領域に均等に分割するような位置に設けるという、本発明にとって重要な条件を満たしている。
【0088】
図3(a)に示すように、端子21a〜21dが磁性細線1の下側に配置されており、磁性細線1の上側に記録素子16a又は16bと、再生素子17a又は17bとを隣接して配置しても構わない。
【0089】
また、図3(b)に示すように、端子21a〜21dが磁性細線1の上側に配置されており、磁性細線1の下側に記録素子16a又は16bと、再生素子17a又は17bとを隣接して配置しても構わない。
【0090】
さらに、図3(c)に示すように、磁性細線1の上側に端子21a〜21dを配置し、磁性細線1を挟み込むようにして記録素子16a又は16bと、再生素子17a又は17bとを配置しても構わない。
【0091】
ここで、端子21a〜21dの材料については特に限定されるものではなく、磁気メモリ10の構成等に応じて適宜選択の上、採用すればよい。例えば、電気抵抗が低く断面積を小さくすることができ、消費電力を低減することが可能であるとの理由から、銅・アルミニウム・ニッケル・白金等の金属線が好ましいといえる。
【0092】
一方、磁性細線1を形成する材料としては、磁気エネルギー(磁化)、交換相互作用エネルギー、磁気異方性エネルギー、又はダンピング係数を適切に選択した強磁性(フェロ磁性、又はフェリ磁性)を示す磁性材料であることが望ましい。これら磁性材料の代表的なものとしては、パーマロイ、FeNi合金、CoFe合金、Ni、Fe、Coからなる合金、Ni、Fe、又はCoからなる合金にB、Zr、Hf、Cr、Pd、又はPtを添加した磁性材料がある。その他に希土類−遷移金属合金なども挙げることができる。
【0093】
磁性材料(例えばパーマロイ)からなる磁性細線1は、Si基板上にSi、SiO、Si膜などを形成し、これにトレンチと呼ばれる高アスペクト比の穴を形成した後に、その中に磁性材料を充填して作製する。
【0094】
トレンチの寸法の一例としては、断面積100nm×100nmであり、深さは0.5μm〜10μmである。上記寸法は、一例として示したものであり、この形状に限定されるものではない。また、断面形状は円形でも四角形でも構わない。
【0095】
トレンチの形成および磁性材料の充填方法としては、例えば、DRAM製造プロセスにおいて使用されている半導体のエッチング方法を用いてトレンチを形成した後に、メッキ法を用いて磁性材料を充填する方法がある。
【0096】
また、本実施の形態にかかる磁気メモリ10の構成要素は、すべて半導体プロセスを用いて製造することができる。
【0097】
(磁気メモリ駆動方法)
次に図4(a)〜(c)を用いて、本実施の形態にかかる磁気メモリ10の駆動方法・作用について説明する。図4(a)〜(c)は本実施の形態にかかる磁気メモリ10の駆動方法を説明する図である。
【0098】
図4(a)に示すように、単位セル20の初期状態では、記録領域94a(端子21a〜21b間)、及び記録領域94b(端子21c〜21d間)に情報が記録されており、端子21b〜21c間は、リザーブ領域95となっている。
【0099】
ここで、本実施の形態における単位セル20の端子21a〜21dの各々に、図示しない電源によって、プラスもしくは、マイナスの電圧を印加する。電圧を印加する端子21a〜21dの組み合わせを適時制御することによって、単位セル20中から選択した端子間の磁壁のみを、磁性細線1の長手方向に沿った正逆いずれの方向にも移動させることができる。
【0100】
例えば、端子21aにプラス、端子21cにマイナスの電圧を印加し、端子21b、及び21dを開放した場合、端子21a→端子21cの方向に電流が流れることになる。そのため、図4(b)に示すように、磁性細線1における記録領域94a中の磁壁は、端子21cに向かって移動することになる。また、記録領域94b中の磁壁は、記録領域94bが存在する磁性細線1の端子21cと端子21d間に電流が流れないため移動しない。
【0101】
なお、磁壁は、電流の流れる方向と同じ方向に動くものとして説明する。磁性細線1の磁性材料の種類によっては、電流の流れる方向と逆方向に動く場合もある。
【0102】
また、逆に、端子21aにマイナス、端子21cにプラスの電圧を印加し、端子21b、及び21dを開放する。すなわち、端子21c→端子21aに電流を流す。これにより、図4(b)において、端子21aから端子21cの方向に移動させた磁壁を、逆にリザーブ領域95から記録領域94aに戻すことができる。
【0103】
一方、端子21dにプラス、端子21bにマイナスの電圧を印加し、端子21a、及び端子21cを開放した場合、端子21d→端子21bの方向に電流が流れることになる。そのため、図4(c)に示すように、磁性細線1における記録領域94b中の磁壁は、端子21bに向かって移動することになる。また、記録領域94a中の磁壁は、記録領域94aが存在する磁性細線1の端子21aと端子21bとの間に電流が流れないため移動しない。
【0104】
また、逆に、端子21dにマイナス、端子21bにプラスの電圧を印加し、端子21a、及び21cを開放する。すなわち、端子21b→端子21dの方向に電流を流す。これにより、図4(c)において、端子21bから端子21bの方向に移動させた磁壁を、逆にリザーブ領域95から記録領域94bに戻すことが可能となる。
【0105】
また、本実施の形態において、記録素子16a及び16bと再生素子17a及び17bとは、磁性細線1を均等に分割する位置に配置され、各端子で区切られる領域をそれぞれ記録領域94a、94b、及びリザーブ領域95としている。また、磁性細線1に電流を供給するための端子21a〜21dは、磁性細線1の両端及び、リザーブ領域95を挟み込むように配置されている。
【0106】
ここで、リザーブ領域95は、記録領域94aもしくは記録領域94bから移動してきた磁壁を一時的に格納するための領域である。すべての情報の記録又は再生をする為には、情報が記録されているすべての磁区を区切る磁壁が、記録素子16a及び16b、及び再生素子17a及び17b上を通過する必要がある。
【0107】
その為には、リザーブ領域95の長さは、情報が記録されている磁区間を区切る磁壁が移動する長さと同等か、又はそれ以上にする必要がある。
【0108】
例えば、記録素子16a及び16b、再生素子17a及び17bを、磁性細線1を均等に分割する位置に配置しなかった場合、(1)リザーブ領域の長さ<磁壁が移動する長さ、(2)リザーブ領域の長さ>磁壁が移動する長さの2つのパターンとなる。
【0109】
(1)のリザーブ領域の長さ<磁壁が移動する長さの場合では、記録領域から移動してきた磁壁を格納するためのリザーブ領域が不足するため、記録素子と再生素子の上を、情報が記録されたすべての磁区を移動させることができず、記録領域にある磁区すべてを記録又は再生をすることができない。
【0110】
また、(2)のリザーブ領域の長さ>磁壁が移動する長さの場合では、記録素子と再生素子の上を、情報が記録されたすべての磁区が移動することが可能となるが、リザーブ領域が余るため、余った磁性細線の長さ分、記録領域が小さくなる。すなわち、磁性細線の記録容量が小さくなる。
【0111】
したがって、記録容量を最大にするためには、記録領域94a又は94bから磁壁が移動する長さとリザーブ領域95とが同じ長さで有る方が望ましく、磁性細線1を均等に分割する位置に記録素子16a及び16b、再生素子17a及び17bを配置し、各端子で区切られる領域をそれぞれ記録領域94a、94b、又はリザーブ領域95とするのが好ましい。
【0112】
また、端子21bは、記録素子16a及び再生素子17aに近接し、また、端子21cは、記録素子16b及び再生素子17bに近接して配置されることが望ましい。端子21bと記録素子16aおよび再生素子17a、又は、端子21cと記録素子16b及び再生素子17bとの間に距離があると、その距離分だけ余分にリザーブ領域95が必要となる。したがって、記録密度を上げるためには、なるべく近接して記録素子16aと再生素子17aと端子21b、又は記録素子16bと再生素子17bと端子21cとを設置する必要がある。
【0113】
(記録領域への情報の記録又は再生)
次に、上記で説明したメモリの駆動方法を用いて、記録領域94a及び94bへの情報の記録又は再生について説明する。
【0114】
情報を再生する場合は、上記記載の方法により端子21a〜21dに加える電圧を制御し、所望の記録領域94aもしくは94bの磁壁を所望の方向に移動させ、再生を行いたい情報が記録されている磁区をそれぞれ再生素子17aもしくは17bの設置位置に移動する。
【0115】
例えば、記録領域94a中に記録されている情報の再生をする場合は、端子21aにプラス、端子21cにマイナスの電圧を印加し、端子21b、及び21dを開放することによって、端子21a→端子21cの方向に電流を流す。この場合、図4(b)に示すように、磁性細線1における記録領域94a中の磁壁は、端子21cに向かって移動し、再生をしたい情報が記録されている磁区を再生素子17aの設置位置に移動させる。
【0116】
再生素子17aは、図9を参照して説明したように、TMR(トンネル磁気抵抗)素子を含んでおり、TMR素子の設置位置に移動してきた磁区93(図1)の磁化の向きにより、TMR素子の自由層の磁化の向きが変化する。再生素子17aは、この自由層の磁化の向きをTMR効果により検知することによって、情報の“1”又は“0”を読み取ることができる。
【0117】
また、記録領域94bの情報を再生する場合は、端子21dにプラス、端子21bにマイナスの電圧を印加し、端子21a、及び21cを開放することによって、端子21d→端子21bの方向に電流を流す。この場合、図4(c)に示すように、磁性細線1における記録領域94b中の磁壁が、端子21bに向かって移動することになるので、再生をしたい情報が記録されている磁区を再生素子17bの設置位置に移動させる。
【0118】
次に、情報を記録する場合は、再生時と同様に、端子21a〜21dに加える電圧を制御し、所望の記録領域94aもしくは94bの磁壁を所望の方向に移動させ、記録をしたい磁区を記録素子16aもしくは16bの設置位置に移動させる。ここで、記録素子16aおよび16bに電流を流し、それにより発生する磁界によって、記録素子上部に位置する磁区の磁化の方向を設定することで“1”、又は“0”を記録する。
【0119】
ただし、隣接する単位セル20を同時に記録又は再生する場合、以下に示す動作はできない。このことについて、図5を用いて以下に説明する。図5は、磁気メモリ10の単位セル20と単位セル20’とを直列に接続した構成の図である。また、単位セル20と単位セル20’の接続部では、それぞれ端子21dと端子21a’とが共通の端子となっている。
【0120】
単位セル20’中の記録領域94a’の磁壁を移動させる為には、上記記載したように、端子21a’にプラス、端子21c’にマイナスの電圧を印加し、端子21b’、及び21d’を開放する。この時、端子21a’→端子21c’の方向に電流が流れることになる。そのため、図5に示すように、磁性細線1’における記録領域94a’中の磁壁は、端子21c’に向かって移動することになる。
【0121】
一方、単位セル20中の記録領域94aの磁壁を単位セル20’中の記録領域94a’の磁壁と同時に移動させる為には、端子21aにプラス、端子21cにマイナスの電圧を印加し、端子21b、及び21dを開放する必要がある。この時、端子21a→端子21cの方向に電流が流れるが、単位セル20’を同時に駆動しているため、共通の端子である端子21d(21a’)は、プラスに印加されている。
【0122】
この状態では、端子21cがマイナスに印加されているため、記録領域94bの端子21d→21cの方向にも電流が流れることとなる。この場合、記録領域94b中の磁壁が移動する先のリザーブ領域が無いことから、記録領域94b中に記録されている情報が消滅してしまう。
【0123】
よって、実際に本実施形態に係る磁気メモリを駆動する場合においては、直列に接続された複数の単位セル20を、所定の時間差をもって駆動する時分割走査方式を採用することが必要となる。時分割走査方式を用いた場合は、単位セル20を直列に複数接続して構成した磁気メモリ10を複数個用意してグループとし、複数の磁気メモリ10を同時に駆動して情報処理をする。こうすれば、アクセス速度が落ちることはない。
【0124】
従来の構造では、磁気メモリ900(図10参照)を構成する単位セルすべてに電流が流れるため、消費電力が大きくなる。したがって、複数の磁気メモリ900を同時に駆動することは、さらなる消費電力の増大を招くため困難であった。本実施形態のように、磁気メモリ10の一部のみを駆動する方式においては、低消費電力のために、複数の磁気メモリ10を同時に駆動することが可能となる。
【0125】
以上の説明の様に、本実施の形態においては、磁性細線1を、情報を記録するための記録素子16a及び16b、情報を再生するための再生素子17a及び17bで均等に分割し、分割領域の一つをリザーブ領域95とし、その他の分割領域を記録領域としている。情報の記録又は再生の際には、リザーブ領域95の両端と磁性細線1の両端に配置された端子21a〜21dの電圧を制御することにより、リザーブ領域95の両隣にある記録領域94aおよび94bを各々駆動することが可能となる。したがって、従来の磁性細線全体を駆動する方式に比べ、消費電力、及びランダム・アクセス性に優れた磁気メモリを実現することが可能となる。
【0126】
また、端子21a〜21dに印加する電圧を制御し、記録領域94aと94b中の情報が記録された磁区93を、同じリザーブ領域95に各々移動させることにより、記録領域94a及び94bが、リザーブ領域95を共通に使用することが可能となる。このため、図8及び図10に示した従来の方法に比べて、単位長さあたりのリザーブ領域95が少なくて済む。結果として、磁気メモリ10は、記録領域94a及び94bを従来に比べて大きく取ることができ、高密度記録が可能となる。
【0127】
(磁性細線連結の一例)
一例として、図6は、従来の磁気メモリ900の単位セル900B5つ分の長さを有する単位セル30の概略図である。この単位セル30の場合においても、磁性細線1を均等に5分割する位置に記録素子16a〜16d及び再生素子17a〜17dを配置し、中央の分割領域をリザーブ領域95としている。さらに、リザーブ領域95の左右に隣接した残りの分割領域を記録領域94a及び94bとしている。記録領域94a及び94bは、それぞれ、磁性細線1全体の5分の2の長さを有している。
【0128】
また、磁性細線1に電流を供給するための端子21a〜21dは、単位セル30の両端及び、リザーブ領域95を挟み込むように配置されている。言い換えると、上記端子21a〜21dは、記録領域94a及び94bの各両端部と、リザーブ領域95の両端部に設けられているともいえるし、リザーブ領域95とその両隣に配置した記録領域94a及び94bとの各隣接部、および各記録領域94a及び94bにおける、上記隣接部と反対側の各端部に、設けられているともいえる。
【0129】
この場合においても、端子21a〜21dに印加される電圧を制御することにより、各記録領域94a及び94bが、1つのリザーブ領域95を共有できるので、上記と同様の効果を示す。
【0130】
なお、磁性細線1を均等に5分割する位置に記録素子16a〜16d及び再生素子17a〜17dを配置したことによって、例えば、記録領域94aの中央に、記録素子16a及び再生素子17aが設けられている。記録領域94aの右半分のU字領域に存在している磁区をリザーブ領域95に移動させると、その右半分のU字領域が、記録領域94aの左半分のU字領域に存在している磁区を移動させるためのリザーブ領域の役割をする。記録領域94aの中央に設けた記録素子16a及び再生素子17aは、左半分のU字領域に存在している磁区を、右半分のU字領域に移動させるときに、記録または再生を行う。
【0131】
結局、記録素子16a〜16d及び再生素子17a〜17dは、リザーブ領域の長さを単位として、磁性細線1を等分割した位置に配置することが好ましい。
【0132】
上記のように、記録素子16a〜16d、または再生素子17a〜17dを、リザーブ領域95の長さと等しい長さの間隔で、しかも磁性細線1に対して等間隔に配置すると、リザーブ領域95の一端部(例えば端子21bの位置)に隣接して存在している磁壁を、当該リザーブ領域95の他端部(例えば端子21cの位置)まで移動させる距離と、ある記録素子(例えば16a)から、その隣の記録素子(例えば16b)まで、磁壁を移動させる距離とが等しくなる。
【0133】
したがって、リザーブ領域の一端側(例えば端子21aと端子21bとの間)に存在している記録領域(例えば94a)内の全ての磁壁を、リザーブ領域95に向かって一方向に移動させたとすると、それらの全ての磁壁が、リザーブ領域95の長さ分の移動をする間に、どれかの記録素子(具体的には、16aおよび16bのどちらか)を通過することになる。
【0134】
つまり、上記の例示に基づいて具体的に説明すると、記録領域94aの左半分に位置する磁区は、記録素子16aを通過することによって、必要に応じた記録が行われ、記録領域94aの右半分に位置する磁区は、同時に、記録素子16bを通過することによって、必要に応じた記録が行われる。記録領域94bについても同じことがいえるし、また、再生についても記録と同じことがいえる。
【0135】
このように、磁性細線を均等に5分割(少なくとも3分割以上であればよい)する位置に記録素子及び再生素子の少なくとも一方を配置し、中央の分割領域をリザーブ領域とし、残りの分割領域を記録領域としたことによって、磁区が移動できる距離(=リザーブ領域の長さ)で、複数の記録素子のいずれかの上、または再生素子のいずれかの上を、全ての記録領域中の磁区が通過することができる。
【0136】
したがって、記録素子または再生素子の配置間隔に等しい長さのリザーブ領域が1つあれば、リザーブ領域以外を全て記録領域としても、情報の記録または再生を適正に行うことができる。したがって、記録素子及び再生素子の少なくとも一方を、リザーブ領域の長さに等しい長さで等間隔に配置した場合、磁性細線の記録密度を最も大きくすることができる。
【0137】
なお、図6に示すように、例えば記録素子16b・16cを、リザーブ領域95の両端部に設けることは、本発明にとって必須条件ではない。例えば、記録素子16bをリザーブ領域95の途中位置に配置し、残りの記録素子16a・16c・16dを、リザーブ領域95の長さと同じ長さの間隔で配置しさえすれば、全ての磁区に対する記録を適正に行うことができる。
【0138】
ただし、例えば、記録素子16bをリザーブ領域95の途中位置に配置すると、図6の構成の場合でいえば、記録素子の必要数が1つ増えるので、記録素子16b・16cを、リザーブ領域95の両端部に設けることは、記録素子の数を必要最小限にするために好ましい。
【0139】
上記の場合に限らず、磁性細線は、複数の領域の数が奇数の場合、中央の領域をリザーブ領域とし、複数の領域の数が偶数の場合、中央で隣接した2つの領域のどちらか1つをリザーブ領域としてもよい。例えば、複数の領域が6の場合、中央で隣接した2つの領域のどちらか1つをリザーブ領域としてもよい。
【0140】
図6に示したように、磁性細線1の長さを長くすれば、単位長さ辺りの端子の数が減少し、低コスト化、大記録容量化などのメリットがある。しかしながら、電流が流れる磁性細線の長さが長くなるため、低消費電力、ランダム・アクセス性の点では不利である。このことに関しては、磁気メモリの用途に応じて、単位セル30の長さを適時選択して実施する。
【0141】
また、本発明に係る磁気メモリは、情報処理装置により情報を記録、または記録された情報を再生させるメモリであってもよい。例えば、情報処理装置は、情報処理を実行するとき、主記憶装置として本発明の磁気メモリを使用してもよい。
【0142】
なお、上記のように、記録素子または再生素子の配置間隔とリザーブ領域の長さとを等しく設定した構成を説明した。しかし、磁性細線に物理的くびれを形成することによって、磁壁の位置決めをする場合には、磁性細線に物理的くびれを等間隔に設けるため、上記の構成を、「磁性細線に設けた物理的くびれの数について、記録素子または再生素子の配置間隔内に含まれる数と、リザーブ領域に含まれる数とを等しく設定した構成」と、言い換えることもできる。
【0143】
仮に、記録素子または再生素子の配置間隔内に含まれる数より、リザーブ領域に含まれる数が少ないとすると、素子間に存在する磁壁をリザーブ領域に移動させようとした場合、リザーブ領域は、すべての磁壁の移動を受け入れることができない。
【0144】
また、仮に、磁性細線に物理的くびれを等間隔に設けない構成を採用した場合、例えば、素子の配置間隔内に含まれる数より、リザーブ領域に含まれる数が少ないとすると、リザーブ領域内のくびれの間隔が、素子間のくびれの間隔よりも大きくなる。このような場合には、例えば図6の構成において、リザーブ領域95の長さを記録素子16a・16bの配置間隔および記録素子16c・16dの配置間隔より長くすることによって、本発明の所期の動作を実現することができる。
【0145】
(磁性細線連結による記録領域の拡大を図る例)
なお、記録領域904を大きくする他の手段としては、図10で示した従来の磁気メモリ900を構成する磁性細線101のすべてを足し合わせた長さを有する磁性細線101によって、単位セルを構成することが考えられる。
【0146】
図7は、従来の磁気メモリ900を構成する単位セル900B中の磁性細線101のすべてを足し合わせた長さを有する磁性細線1を用いたMRTMの概略図である。すなわち、図7に示すように、記録素子16及び再生素子17は、図6に示す構成と同様に、リザーブ領域45の長さを単位として、磁性細線1を等分割した位置に配置する。なお、磁性細線1を記録素子16及び再生素子17の配置によって等分割した複数の領域のうち、磁性細線1の端部に位置する分割領域を上記リザーブ領域45に設定し、残りの領域のすべてを記録領域44に設定する。
【0147】
このような構成によっても、磁性細線1の端部に位置するリザーブ領域45に向かって、記録領域44の全磁区を移動させると、磁区が移動できる距離(=リザーブ領域45の長さ)で、複数の記録素子16のいずれかの上、または再生素子17のいずれかの上を、全ての磁区が通過することができる。したがって、各記録素子16及び再生素子17が、情報の記録または再生を支障なく行うことができる。これにより、単位長さ辺りの記録領域44の割合を、従来より格段に大きくすることが可能である。
【0148】
しかしながら、この方法では、記録容量は大きくなるものの、上記に記載した消費電力、および、ランダム・アクセス性の課題を解決することはできないので、図2または図6に示す構成に比べると不利である。
【0149】
また、本実施の形態においては、一例として図8、及び図10で示した従来の磁気メモリ900の単位セル900B中の磁性細線101の3つ分程度の長さを有する磁性細線1において、磁性細線1を3等分にする位置に記録素子16及び再生素子17をそれぞれ配置しているが、単位セルを形成する磁性細線1の長さは、これに限定されるものではない。
【0150】
(他の構成)
なお本発明を、以下に示す構成としても実現できる。
【0151】
(第1の構成)
記録媒体である磁性細線と、
前記磁性細線に記録及び再生を行うための記録再生素子とから構成され、
前記磁性細線は電気的に直列接続された磁性細線列を複数形成することによってメモリチップとなり、
磁気情報の記録又は再生時に、前記磁性細線に電流を供給する電源により、前記磁性細線に記録された磁区間に形成される磁壁を電流によって移動させ、磁気情報の記録及び再生を行うメモリにおいて、
前記記録再生素子は、前記磁性細線を少なくとも3つ以上の領域に分割するように配置し、分割された磁性細線の端部以外の分割領域の一つ以上を磁壁が格納されるリザーブ領域とし、その他の分割領域を情報が記録されるための記録領域とし、前記磁性細線に電流を供給する電源の端子を前記磁性細線の両端及び、前記リザーブ領域の両端に配置していることを特徴とする磁気メモリ。
【0152】
(第2の構成)
前記記録再生素子は、前記磁性細線を少なくとも3つ以上の領域に均等に分割するように配置していることを特徴とする第1の構成に記載の磁気メモリ。
【0153】
(第3の構成)
前記記録再生素子によって分割された前記磁性細線の分割数が奇数の場合には、中央の分割領域をリザーブ領域とし、分割数が偶数の場合には、中央の分割領域どちらかをリザーブ領域とし、分割領域が奇数、偶数共に、リザーブ領域以外の分割領域を記録領域としていることを特徴とする第1及び第2の構成に記載の磁気メモリ。
【0154】
(第4の構成)
前記リザーブ領域の両端に配置された電流を供給するための前記端子は、前記記録再生素子と同位置に配置されていることを特徴とする第1〜第3の構成のいずれか1つに記載の磁気メモリ。
【0155】
(第5の構成)
記録媒体である磁性細線と、
前記磁性細線に記録及び再生を行うための記録再生素子とから構成され、
前記磁性細線は電気的に直列接続された磁性細線列を形成することによってメモリチップとなる磁気メモリにおいて、
前記記録再生素子は、前記磁性細線を少なくとも3つ以上の領域に分割するように配置し、分割された磁性細線の端部以外の分割領域の一つ以上を磁壁が格納されるリザーブ領域とし、その他の分割領域を情報が記録されるための記録領域とし、前記磁性細線に電流を供給する電源の端子を前記磁性細線の両端及び、前記リザーブ領域の両端に配置し、
磁気情報の記録再生時に、前記磁性細線に電流を供給する電源により、前記磁性細線に配置された端子の中より選択した2端子間のみに電流を流すことによって前記磁性細線中の所望の端子間の磁壁のみを移動させることを特徴とした磁気メモリの駆動方法。
【0156】
(第6の構成)
前記記録再生素子は、前記磁性細線を均等に分割するように配置され、前記記録再生素子によって分割された前記磁性細線の中央の分割領域の一つ以上をリザーブ領域とし、他を記録領域とした場合、リザーブ領域の両端と磁性細線の両端に配置された前記端子の電圧を制御することにより、リザーブ領域の両端にある記録領域を各々移動させ、リザーブ領域を共通に利用することを特徴とした第5の構成に記載の磁気メモリの駆動方法。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明によれば、記録密度を向上させることができ、さらに、情報記録媒体の微小化に伴う消費電力の増加を防ぎ、ランダムアクセスすることが可能となる。したがって、MRTMが、すべての不揮発性メモリを置き換えるようなユニバーサルメモリとして用いられる可能性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1は、本実施の形態にかかる磁気メモリにおいて、メモリを構成する単位セルの概略図を示している。
【図2】図2は、磁気メモリの主要部の概略図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、単位セルに配置された記録素子、再生素子、及び端子の様々な配置を示した図である
【図4】図4(a)〜(c)は本実施の形態にかかる磁気メモリの駆動方法を説明する図である。
【図5】図5は、複数の単位セルを直列に接続した構造の磁気メモリを示す図である。
【図6】図6は、従来の磁気メモリの単位セル5つ分の長さを有する単位セルの概略図である。
【図7】図7は、従来の磁気メモリを構成する磁性細線のすべてを足し合わせた長さを有する磁性細線を単位セルとするMRTMの概略図である。
【図8】図8は、従来のMRTMの単位セルと、その一部を拡大して示す構成図である。
【図9】図9は、図8に示す記録素子及び再生素子の近傍を拡大した図である。
【図10】図10は、従来のMRTMの主要部を示す概略図である。
【符号の説明】
【0159】
1 磁性細線
10 磁気メモリ
16 記録素子
16a・16b 記録素子
17 再生素子
17a・17b 再生素子
20 単位セル
21a・21b・21c・21d 端子
30 単位セル
44 記録領域
45 リザーブ領域
93 磁区
94a・94b 記録領域
95 リザーブ領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体としての磁性細線と、
上記磁性細線へ情報を記録するための記録素子および上記磁性細線から情報を読み取るための再生素子の少なくとも一方とを有し、
上記磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に供給される電流により移動させることで、上記磁区に対して、上記記録素子による情報の記録または上記再生素子による情報の再生を行う磁気メモリにおいて、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを有し、
上記磁性細線の両端部を除いて、上記記録素子および再生素子の少なくとも一方を磁性細線に対して等しい間隔に設けるとともに、
上記リザーブ領域に対して、磁性細線の長手方向に沿って正逆両方向に、上記磁壁を移動させることができる電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を設け、
上記リザーブ領域の長さを、上記間隔と等しい長さに設定したことを特徴とする磁気メモリ。
【請求項2】
情報記録媒体としての磁性細線と、
上記磁性細線へ情報を記録するための記録素子および上記磁性細線から情報を読み取るための再生素子の少なくとも一方とを有し、
上記磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に供給される電流により移動させることで、上記磁区に対して、上記記録素子による情報の記録または上記再生素子による情報の再生を行う磁気メモリにおいて、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを含む複数の領域を有し、
隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させることができるように、上記磁性細線内における上記磁壁の移動を制御する電流を、磁性細線に流すための電圧を印加する端子を備えたこと
を特徴とする磁気メモリ。
【請求項3】
上記記録素子および上記再生素子の少なくとも一方は、前記磁性細線を少なくとも3つ以上の領域に均等に分割する間隔で配置され、
該間隔と、上記リザーブ領域の長さとが等しいことを特徴とする請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項4】
上記リザーブ領域が、その両端を記録領域によって挟まれる位置関係にある場合、上記端子は、上記リザーブ領域とその両端に位置する記録領域との各隣接部、および各記録領域における、上記隣接部と反対側の各端部に、設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気メモリ。
【請求項5】
上記端子は、上記リザーブ領域およびその両端に位置する記録領域と、組を成して設けられていることを特徴とする請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項6】
上記各記録領域の長さと、上記リザーブ領域の長さとは、均等であることを特徴とする請求項2または3に記載の磁気メモリ。
【請求項7】
上記記録素子および再生素子の少なくとも一方と、上記端子とが、上記各隣接部において組を成して設けられていることを特徴とする請求項4に記載の磁気メモリ。
【請求項8】
上記リザーブ領域の数と記録領域の数との合計数が奇数の場合、中央の領域をリザーブ領域として、情報の記録または再生が行われ、上記合計数が偶数の場合、中央で隣接した2つの領域のどちらか1つをリザーブ領域として、情報の記録または再生が行われることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気メモリ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の磁気メモリを有し、該磁気メモリに情報を記録する、または該磁気メモリに記録された情報を再生する情報処理装置。
【請求項10】
情報記録媒体としての磁性細線に形成された複数の磁区を仕切る磁壁を、情報の記録または再生時に、磁性細線に電流を供給することにより移動させる情報記録媒体の駆動方法であって、
上記磁性細線は、磁区を格納する記録領域と、情報の記録または再生時に、上記磁壁の移動に伴う磁区の移動を、上記記録領域から受け入れるリザーブ領域とを有し、
隣接する記録領域によって両側から挟まれたリザーブ領域に、両側の記録領域のそれぞれから磁壁を移動させることができるように、上記磁性細線内おける上記磁壁の移動を制御する電流を流すことを特徴とする情報記録媒体の駆動方法。
【請求項11】
上記リザーブ領域とその両端に位置する記録領域との各隣接部、および各記録領域における、上記隣接部と反対側の各端部に設けた端子の中から、選択した2つの端子間のみに上記電流を流すことによって、上記2つの端子間に存在する磁壁のみを移動させることを特徴とする請求項10に記載の情報記録媒体の駆動方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−273064(P2007−273064A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100916(P2006−100916)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】