磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを有する計測アセンブリ
【課題】センサーの出力が線形となり、有効利用可能な測定信号を容易に得ることができる測定アセンブリを提供する。
【解決手段】本発明は、磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを有する。センサーは、基準要素(2)と分離要素(3)と磁界を感知する要素(4)との積層体(1)を備え、基準要素(2)と感知要素(4)がそれぞれ第1方向と第2方向における第1磁気異方性と第2磁気異方性を有する。感知要素(4)は、強磁性材料層(FM1)と反強磁性材料層(AF1)との重畳体からなっており、この重畳体は、測定用磁界の方向における成分が、測定用磁界の強度の関数として可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメント(10)を与えるようになっている。
【解決手段】本発明は、磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを有する。センサーは、基準要素(2)と分離要素(3)と磁界を感知する要素(4)との積層体(1)を備え、基準要素(2)と感知要素(4)がそれぞれ第1方向と第2方向における第1磁気異方性と第2磁気異方性を有する。感知要素(4)は、強磁性材料層(FM1)と反強磁性材料層(AF1)との重畳体からなっており、この重畳体は、測定用磁界の方向における成分が、測定用磁界の強度の関数として可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメント(10)を与えるようになっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを有する計測アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気抵抗センサーは、測定すべき磁界の変化によって誘導される単一磁気材料の電気抵抗の変化を有効に利用している。これは異方性磁気抵抗センサーの動作原理である。しかしながら、その抵抗の変化は小さい。巨大磁気抵抗の発見(1988年)並びに室温でのトンネル磁気抵抗の発見(1995年)以来、室温で50%を超える抵抗変化を有する他のセンサー構造が工夫されてきた。
【0003】
これらのセンサーは、磁気基準要素と、分離要素と、磁界を感知する磁気要素との積層体を備えており、この積層体は、測定すべき磁界に応じた電気抵抗変化を有するように構成されている。
【0004】
より詳細には、この積層体は、分離要素によって分離された基準要素と感知要素とをそれぞれ形成する二つの磁気構造を備えることができる。この構成において、基準要素の磁気モーメントの向きは測定すべき磁界の作用によって変化しないようになっているが、感知要素の磁気モーメントの向きは前記磁界の作用によって変化し得る。
【0005】
分離要素が導電性である場合(例えば、金属層または半導体層の場合)、センサーは、磁気構造の磁化の相対方向に対する電流の依存性を表す巨大磁気抵抗を有効に利用する。そして、分離要素が電気絶縁性である場合、センサーは、スピンアップ電子とスピンダウン電子の界面バンド構造に依存すると共に、任意のスピンチャンネルに対してそれらの磁化の相対方向に依存するトンネル磁気抵抗を有効に利用する。これらのセンサーは、高感度であり、理論的には、振幅の大きさが数桁変化し得る磁界の検出に使用することができる。
【0006】
高性能磁気抵抗センサーを得るために、測定すべき磁界に電気抵抗変化を関係付けることができるように、磁気構造の磁気モーメントの相対方向を制御できる必要がある。より詳細には、基準要素の磁気異方性軸が感知要素の磁気異方性軸に対して直交することにより、センサーの出力が線形となり、有効利用可能な測定信号を容易に得ることができる。
【0007】
特許文献1には、センサーが記載されている。該センサーにおいて、感知要素はその磁気異方性が形状エネルギーに起因する強磁性材料層からなり、基準要素は強磁性材料から形成された層と反強磁性材料から形成され層であって、その異方性が前記層との間の交換に起因する層との重畳体からなる。従って、この文献によれば、形状エネルギーは感知要素を得るために使用され、交換異方性は基準要素を得るため、即ち、この磁界に対して固定された磁気モーメントを得るために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2809185号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この解決法は、センサーの設計の観点と得られる測定性能の観点との両方から由来するいくつかの不都合を有している。
設計に関しては、感知要素の異方性を誘導する形状エネルギーの使用は、実現が困難で高価になることがわかる。これは、特許文献1によって説明されているように、隣接無配向Si(111)表面の使用を必要とするためである。しかしながら、この基板は特別高価であり、産業的に使用するのに困難である。これは、ゆっくりした温度低下を伴う高温(900℃)での熱処理が、形状異方性を観察するために必要な段階の積み重ねを得るのに必要なためである。更に、この使用は、センサーのモジュール化度に有害な特定の異方性方向を与える。また、これらの基板は、信号を処理するためのASIC上への感知要素の集積に適していない。
【0010】
測定性能に関しては、既知のセンサーの使用範囲が適合するのは困難であり、いずれにしてもそれは比較的限定されたままであることがわかる。より詳細には、この使用範囲は、センサーのモジュール化度にも影響を与えるセンサーのサイズに依存している。更に、積層体の上部の上の反強磁性層の配置が、測定の信頼性についての問題を引き起こす。これは、反強磁性層の構造(texture)が、強いブロッキングのために、従って高温での動作範囲のために必要であることが明らかであるためである。しかしながら、反強磁性層が非晶質絶縁層の上に配置されている場合、その構造は失われ、ブロッキングは不十分となり、センサーは室温よりも少し高い温度に対してもはや機能しなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらのすべての不都合を解決するために、本発明は、感知要素の磁気異方性が、強磁性材料層と反強磁性材料層との間の界面に存在する交換によって誘導される磁気抵抗センサーを提案する。
【0012】
そのために、一態様によれば、本発明は、磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを備える。センサーは、基準要素と分離要素と磁界感知要素との積層体を備え、前記基準要素と前記感知要素はそれぞれ第1方向および第2方向において第1磁気異方性および第2磁気異方性を有する。前記感知要素は強磁性材料層と反強磁性材料層との重畳体を備え、該重畳体は、測定すべき磁界の方向に向いた成分が測定すべき磁界の強度に対して可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメントを得るように構成されている。積層体は、感知要素の磁化方向が基準要素の磁化方向に対して変化し、かつ計測すべき磁界の強度に関連して積層体の電気抵抗の変化を誘起するように、計測すべき磁界の影響下にある。電子処理回路は、測定すべき磁界の強度を得るために積層体の電気抵抗の変化を処理する。
【0013】
本発明の他の目的および利点は、添付図面を参照して与えられる以下の記述の間に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるセンサーの実施のために基板上に配置された層の積層体の第1の実施を図式的に示す斜視図。
【図2】本発明によるセンサーの実施のために基板上に配置された層の積層体の第2の実施を図式的に示す斜視図。
【図3】図1と図2による積層体における異方性軸と磁化と測定すべき磁界との磁気構成を示す図。
【図4a】図3の構成に従うと共に図1の積層体に対する感知要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図4b】図3の構成に従うと共に図1の積層体に対する基準要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図5a】図3の構成に従うと共に図2の積層体に対する感知要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図5b】図3の構成に従うと共に図2の積層体に対する基準要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図6】図4aと図4bに示された磁化変化に起因する接合の電気抵抗の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図7】図5aと図5bに示された磁化変化に起因する接合の電気抵抗の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図8】本発明によるセンサーの電気的感度と磁気的感度の温度に対する変化を示す図。
【図9】その全感度の温度に対する変化を示す図。
【図10】最適センサーの全感度の温度に対する変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで特に重要な特性は、強磁性材料FM1と反強磁性材料AF1が共通界面を有する場合に、交換を示す磁気軸に直交して磁界が印加されたときに得られる応答である。この場合、壁の核形成と伝搬による磁化の反転(交換を示す磁気軸に沿って磁界が印加されたときの反転)プロセスは、磁化の可逆性回転(交換を示す磁気軸に垂直に磁界が印加されたときの反転)によって置き換えられる。よって、ヒステリシス作用は図4aの反転作用によって置き換えられる。更に、かなり広い磁界範囲において、信号は線形となる。
【0016】
形式的には、印加された磁界に対する磁化の応答の勾配は以下の式で与えられる。
【0017】
【数1】
ここで、MSは強磁性層FM1の飽和磁化、tFは強磁性層FM1の厚み、KFは強磁性層FM1の異方性定数、Jは強磁性層と反強磁性層の間に存在する結合である。KF=0の場合、印加された磁界の方向における層FM1の磁化の成分を解析的に確かめることは可能である。即ち、
【0018】
【数2】
である。
【0019】
従って、強磁性/反強磁性共通界面の形成は、その方向が強磁性層の中で制御可能である磁気異方性軸を生じさせる。小振幅磁界における応答は、可逆的であって、勾配を有し、よって、MS,tFおよびJの関数によって調節可能である、将来のセンサーの感度を有する。
【0020】
本発明は、基準要素2と分離要素3と磁界を感知する要素4との積層体を備えた磁気抵抗磁界センサーに関するものである。基準要素2と感知要素4はそれぞれ、第1方向および第2方向において第1磁気異方性5および第2磁気異方性6を有している。
【0021】
この種類のセンサーは、測定すべき磁界の影響の下、感知要素4の磁化方向10が基準要素2の磁化方向に対して変化し、これが前記磁界の強度に対する積層体1の電気抵抗変化を誘導する。
【0022】
第1の実施例によれば、分離要素3は、例えば、酸化アルミニウムおよび/または窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化タンタル、酸化マグネシウム、または酸化チタン酸ストロンチウムをベースにした電気絶縁材料の層Sを備える。その結果、磁気抵抗センサーは、絶縁層Sによって分離された二つの磁気要素2,4によって形成された接合のトンネル磁気抵抗特性を有効に利用する。この実施例においては、抵抗測定は、層Sの水平面に垂直に行われる。
【0023】
第2の実施例によれば、分離要素3は、例えば、銅などの金属をベースにするか半導体をベースにした導電性材料の層Sを備える。その結果、磁気抵抗センサーは、導電層Sによって分離された二つの磁気要素2,4によって形成された「スピンバルブ」の巨大磁気抵抗特性を有効に利用する。この実施例においては、抵抗測定は、層Sの水平面に垂直か平行に行われる。
【0024】
これらの二つ実施例においては、磁気抵抗効果は、測定すべき磁界に対する積層体1の電気抵抗変化を引き起こし、この変化は前記磁界の強度を得るために電子処理回路において有効に利用される。特定の方法においては、測定すべき磁界がない場合に第1異方性5が第2異方性6に対して垂直であるという条件を設けることによって、抵抗変化の有効利用が容易となる。
【0025】
図1は積層体1の第1実施態様を示す。この積層体は、基準要素2としての強磁性材料層FM2と、感知要素4としての強磁性材料層FM1と反強磁性材料層AF1との重畳体とを備えている。強磁性材料FM1,FM2は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、またはこれらの材料の合金をベースにしている。基準要素2の強磁性材料と感知要素4の強磁性材料は、センサーのために要求される特性により、本質的に同じまたは異なるものとすることができる。反強磁性材料は、IrMn、FeMn、PtMn、NiMn、または他のマンガンに基づく化合物をベースとすることができる。
【0026】
強磁性材料と反強磁性材料が共通界面を有する場合、ヒステリシスサイクルにおける磁界の変位によって主として表される「交換バイアス」と呼ばれる効果を観察することができる。その結果、強磁性層FM1は、反強磁性材料AF1によって与えられる異方性方向6を有している。この異方性方向6は、層AF1の堆積の間、強磁性層FM1の磁化を飽和させることによって、または堆積後、磁界のもとでの熱処理によって、制御可能になるという利点を有する。この熱処理においては、サンプルは、反強磁性材料AF1のブロッキング温度よりも高い温度に加熱された後に、この温度よりも低い温度に冷却される。この冷却の間、確実に強磁性層FM1の磁化をその層の異方性に対して望ましい方向に飽和させる必要がある。
【0027】
前記積層体1は、例えばシリコンまたはガラス製のものである基板7の上に堆積されており、前記反強磁性材料層AF1はその基板の上に配置されている。これを行うために、真空カソードスパッタリング技術を使用することができ、これにより望ましい材料の薄層を連続的に堆積させることが可能となる。酸化アルミニウム層の堆積に関しては、真空カソードスパッタリングによってアルミニウム層を堆積させたのち、酸素下でこの層を酸化させるようにすることができる。
【0028】
反強磁性材料層AF1の欠陥の形成を制限するために、基板7の上にバッファー層、例えば、非晶質タンタル膜8を堆積させることを想定することができる。該バッファー層は、反強磁性材料AF1がその上に堆積する表面の状態を改善することを意図したものである。
【0029】
この実施態様においては、基準要素2の異方性5は、印加された磁界の方向にこの異方性5を向けるように、磁界下で強磁性材料層FM2を堆積させるか、あるいは、例えば、基準要素2が異方性5の方向においてより大きい寸法を有するようにすることによって、強磁性材料層FM2に形状異方性を生じさせるかのいずれかによって得られる。基準要素2は、測定すべき磁界範囲よりも高い抗磁界を有するようになっている。従って、磁界を印加することによって、基準要素2の磁気モーメントを変更せずに、感知要素4の磁気モーメントの方向を変更することができる。
【0030】
一例として、以下の磁気トンネル接合が実現された。
ガラス/Ta(5nm)/Co(10nm)/IrMn(10nm)/Co(10nm)/AlOx/Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)/Pt(4nm)
ガラスは基板を構成し、Ta/Co二重層はバッファー層である。感知要素は、IrMn(10nm)/Co(10nm)二重層からなっている。Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)基準要素は、抗磁界を増加するために追加されたプラチナを有するコバルトからなっている。Pt(40nm)層は保護層である。
【0031】
これらの層は、5×10−7ミリバール(5×10−5パスカル)より低いベース圧力下の室温でのカソードスパッタリングによって堆積されたものである。堆積の間のアルゴン圧は5×10−3ミリバール(0.5パスカル)であった。
【0032】
絶縁層(AlOx)を得るために、カソードスパッタリングチャンバ内での10−1ミリバール(50パスカル)の純酸素プラズマ下の35秒間300Wの連続発光放電を用いて、1.3nm金属層の堆積後に酸化が行われた。サンプルは、真空を破壊することなく、このチャンバに転送された。
【0033】
成長後、サンプルは、IrMn層の中に「交換バイアス」を生じさせると共に、この層の異方性方向を、Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)/Pt(4nm)層の異方性方向に対して直交させるために、300エルステッド(23874A/m)の磁界のある所で、200℃で30分間熱処理された。
【0034】
接合の形成は、UVリソグラフィーとイオンビームエッチングによる既知の方法で行われた。
図2に示す第2実施態様によれば、基準要素2は、強磁性材料層FM2と反強磁性材料層AF2とを備え、感知要素4は図1に示すものと同様である。この実施により、測定すべき磁界に関しては基準要素2のより大きい安定性を得ることが可能となる(図5b)。
【0035】
従って、この実施態様においては、センサーは、積層体AF1/FM1/FM2/AF2を備え、反強磁性材料AF1とAF2は、それぞれ異なるブロッキング温度T1とT2を有し、例えば、T1>T2である。図3に示す磁気構成を得るために、以下の手順を続けて行うことができる。
【0036】
・積層体1を磁界下で温度T>T1で熱処理して、感知要素4内および基準要素2内にそれぞれ印加磁界に平行な異方性を誘導する。
・積層体1を、前のステップで印加された磁界に直交する磁界下で、T1とT2との間の温度Tで熱処理して、印加された磁界に平行な、従って、感知要素4の異方性に対して垂直な異方性5を基準要素2内に誘導する。
【0037】
これらの二つの実施態様においては、感知要素4は、その磁気モーメント10が測定すべき磁界に対して変化するように構成されており、基準要素2は、その磁気モーメント9の方向および向きが測定すべき磁界に対して固定されるように構成されている。
【0038】
これらの特性は、測定すべき磁界の強度に対して、使用される材料の性質およびそれぞれの層の厚みの少なくともいずれかを変えることによって得られる。より詳しくは、それらの層の厚みは、10nm程度であって、測定すべき磁界の強度範囲において、望ましい接合、トンネル、または巨大磁気抵抗を得るようにすることができる。
【0039】
図3は、それぞれ基準要素2と感知要素4の異方性軸5,6と磁化9,10に対する可能な磁気構成を示す。この構成において、ゼロ磁界のもとでは、磁気モーメント10,9は直交する。測定すべき磁界11が、基準要素2の異方性5の方向に平行な一定方向に印加された場合、それに起因して感知層4の磁気モーメント10の(位置10'への)回転
が生じるが、基準層2の磁化9は一定のままである。
【0040】
図4aと図5aに見られるように、印加磁界の方向における感知要素4の磁化変化は、測定すべき磁界の強度の変化の広い範囲(図4aと図5aにおいて−50エルステッド(−3979A/m)から+50エルステッド(+3979A/m))にわたって線形的であるが、基準要素2の磁化はこの範囲にわたって一定のままである(図4bと図5b)。基準要素2の磁化(図4b)に関しては、測定すべき磁界の影響下での磁気の反転に相当する抗磁界は、100エルステッド(7958A/m)(図4b)または300エルステッド(23874A/m)(図5b)程度のものであり、図4aの直線範囲をはるかに超えている。
【0041】
従って、本発明の積層体1の抵抗変化は、図6および図7に示されるように得られ、それは、測定すべき磁界強度の大きな範囲にわたって直線反転応答を有するという事実を、重要な特性として含んでいる。よって、抵抗変化が測定すべき磁界の強度に対して直線的であるため、この変化の法則を電子処理回路において特に簡単な方法で用いて、積層体1の抵抗との相関から磁界の強度を得ることができる。
【0042】
また、センサーの全体感度Sは、電気的な感度Seと磁気的な感度Smに分解されることは明らかであり、S=Se×Smとなる。但し、Se=(Rp−RAP)/2であり、Sm=1/Hexである。ここで、RPとRAPは、それぞれ基準要素と感知要素の磁化の平行整列および反平行整列に対する接合の抵抗であり、Hex=J/(MstF)はIrMn/Co二重層における有効交換磁界である。
【0043】
磁気的感度と電気的感度は上記サンプルについて別々に測定された。そのために、磁界に対する抵抗は、(RP−RAP)/2とHexを明確に得るために、感知要素の反強磁性層の異方性方向に平行な印加磁界を用いて、種々の温度で測定された。
【0044】
図8は、得られた結果を示す。この図において、曲線(●)は電気的感度を表し、曲線(○)は磁気的感度の逆数を表し、それぞれ430Kまでの温度に対する値を表す。
磁気的感度は温度と共に直線的に変化する。驚くことには、同じことが電気的感度にも当てはまる。従って、全体感度も温度と共に直線的に変化する(この場合には図9に示すように増加する)。
【0045】
実際に、図8を細かく解析すると、接合の抵抗は温度に対して以下の法則に従って変化することがわかる。
【0046】
【数3】
ここで、Cは定数、dは絶縁層の厚み、Φは接合バリアの高さ(eV)である。
【0047】
従って、バリアのパラメータdおよびΦ、特にその厚みを変更することによって、Seの勾配を設定することが可能である。それ故、所与のバリア高さを有する接合に対して、温度に対するSeの勾配がSmの勾配を補償し、センサーの全感度が温度に依存しなくなるように、絶縁層の厚みを決定することが可能となる。
【0048】
上記サンプルの全体感度の温度に対する変化は図10に示されており、変化がほとんどないことに注目することができる。
【符号の説明】
【0049】
AF1,AF2…反強磁性材料層、FM1,FM2…強磁性材料層、1…積層体、2…基準要素、3…分離要素、4…感知要素、7…基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを有する計測アセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気抵抗センサーは、測定すべき磁界の変化によって誘導される単一磁気材料の電気抵抗の変化を有効に利用している。これは異方性磁気抵抗センサーの動作原理である。しかしながら、その抵抗の変化は小さい。巨大磁気抵抗の発見(1988年)並びに室温でのトンネル磁気抵抗の発見(1995年)以来、室温で50%を超える抵抗変化を有する他のセンサー構造が工夫されてきた。
【0003】
これらのセンサーは、磁気基準要素と、分離要素と、磁界を感知する磁気要素との積層体を備えており、この積層体は、測定すべき磁界に応じた電気抵抗変化を有するように構成されている。
【0004】
より詳細には、この積層体は、分離要素によって分離された基準要素と感知要素とをそれぞれ形成する二つの磁気構造を備えることができる。この構成において、基準要素の磁気モーメントの向きは測定すべき磁界の作用によって変化しないようになっているが、感知要素の磁気モーメントの向きは前記磁界の作用によって変化し得る。
【0005】
分離要素が導電性である場合(例えば、金属層または半導体層の場合)、センサーは、磁気構造の磁化の相対方向に対する電流の依存性を表す巨大磁気抵抗を有効に利用する。そして、分離要素が電気絶縁性である場合、センサーは、スピンアップ電子とスピンダウン電子の界面バンド構造に依存すると共に、任意のスピンチャンネルに対してそれらの磁化の相対方向に依存するトンネル磁気抵抗を有効に利用する。これらのセンサーは、高感度であり、理論的には、振幅の大きさが数桁変化し得る磁界の検出に使用することができる。
【0006】
高性能磁気抵抗センサーを得るために、測定すべき磁界に電気抵抗変化を関係付けることができるように、磁気構造の磁気モーメントの相対方向を制御できる必要がある。より詳細には、基準要素の磁気異方性軸が感知要素の磁気異方性軸に対して直交することにより、センサーの出力が線形となり、有効利用可能な測定信号を容易に得ることができる。
【0007】
特許文献1には、センサーが記載されている。該センサーにおいて、感知要素はその磁気異方性が形状エネルギーに起因する強磁性材料層からなり、基準要素は強磁性材料から形成された層と反強磁性材料から形成され層であって、その異方性が前記層との間の交換に起因する層との重畳体からなる。従って、この文献によれば、形状エネルギーは感知要素を得るために使用され、交換異方性は基準要素を得るため、即ち、この磁界に対して固定された磁気モーメントを得るために使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2809185号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この解決法は、センサーの設計の観点と得られる測定性能の観点との両方から由来するいくつかの不都合を有している。
設計に関しては、感知要素の異方性を誘導する形状エネルギーの使用は、実現が困難で高価になることがわかる。これは、特許文献1によって説明されているように、隣接無配向Si(111)表面の使用を必要とするためである。しかしながら、この基板は特別高価であり、産業的に使用するのに困難である。これは、ゆっくりした温度低下を伴う高温(900℃)での熱処理が、形状異方性を観察するために必要な段階の積み重ねを得るのに必要なためである。更に、この使用は、センサーのモジュール化度に有害な特定の異方性方向を与える。また、これらの基板は、信号を処理するためのASIC上への感知要素の集積に適していない。
【0010】
測定性能に関しては、既知のセンサーの使用範囲が適合するのは困難であり、いずれにしてもそれは比較的限定されたままであることがわかる。より詳細には、この使用範囲は、センサーのモジュール化度にも影響を与えるセンサーのサイズに依存している。更に、積層体の上部の上の反強磁性層の配置が、測定の信頼性についての問題を引き起こす。これは、反強磁性層の構造(texture)が、強いブロッキングのために、従って高温での動作範囲のために必要であることが明らかであるためである。しかしながら、反強磁性層が非晶質絶縁層の上に配置されている場合、その構造は失われ、ブロッキングは不十分となり、センサーは室温よりも少し高い温度に対してもはや機能しなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらのすべての不都合を解決するために、本発明は、感知要素の磁気異方性が、強磁性材料層と反強磁性材料層との間の界面に存在する交換によって誘導される磁気抵抗センサーを提案する。
【0012】
そのために、一態様によれば、本発明は、磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを備える。センサーは、基準要素と分離要素と磁界感知要素との積層体を備え、前記基準要素と前記感知要素はそれぞれ第1方向および第2方向において第1磁気異方性および第2磁気異方性を有する。前記感知要素は強磁性材料層と反強磁性材料層との重畳体を備え、該重畳体は、測定すべき磁界の方向に向いた成分が測定すべき磁界の強度に対して可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメントを得るように構成されている。積層体は、感知要素の磁化方向が基準要素の磁化方向に対して変化し、かつ計測すべき磁界の強度に関連して積層体の電気抵抗の変化を誘起するように、計測すべき磁界の影響下にある。電子処理回路は、測定すべき磁界の強度を得るために積層体の電気抵抗の変化を処理する。
【0013】
本発明の他の目的および利点は、添付図面を参照して与えられる以下の記述の間に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるセンサーの実施のために基板上に配置された層の積層体の第1の実施を図式的に示す斜視図。
【図2】本発明によるセンサーの実施のために基板上に配置された層の積層体の第2の実施を図式的に示す斜視図。
【図3】図1と図2による積層体における異方性軸と磁化と測定すべき磁界との磁気構成を示す図。
【図4a】図3の構成に従うと共に図1の積層体に対する感知要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図4b】図3の構成に従うと共に図1の積層体に対する基準要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図5a】図3の構成に従うと共に図2の積層体に対する感知要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図5b】図3の構成に従うと共に図2の積層体に対する基準要素の磁化の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図6】図4aと図4bに示された磁化変化に起因する接合の電気抵抗の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図7】図5aと図5bに示された磁化変化に起因する接合の電気抵抗の測定すべき磁界に対する変化を示す図。
【図8】本発明によるセンサーの電気的感度と磁気的感度の温度に対する変化を示す図。
【図9】その全感度の温度に対する変化を示す図。
【図10】最適センサーの全感度の温度に対する変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで特に重要な特性は、強磁性材料FM1と反強磁性材料AF1が共通界面を有する場合に、交換を示す磁気軸に直交して磁界が印加されたときに得られる応答である。この場合、壁の核形成と伝搬による磁化の反転(交換を示す磁気軸に沿って磁界が印加されたときの反転)プロセスは、磁化の可逆性回転(交換を示す磁気軸に垂直に磁界が印加されたときの反転)によって置き換えられる。よって、ヒステリシス作用は図4aの反転作用によって置き換えられる。更に、かなり広い磁界範囲において、信号は線形となる。
【0016】
形式的には、印加された磁界に対する磁化の応答の勾配は以下の式で与えられる。
【0017】
【数1】
ここで、MSは強磁性層FM1の飽和磁化、tFは強磁性層FM1の厚み、KFは強磁性層FM1の異方性定数、Jは強磁性層と反強磁性層の間に存在する結合である。KF=0の場合、印加された磁界の方向における層FM1の磁化の成分を解析的に確かめることは可能である。即ち、
【0018】
【数2】
である。
【0019】
従って、強磁性/反強磁性共通界面の形成は、その方向が強磁性層の中で制御可能である磁気異方性軸を生じさせる。小振幅磁界における応答は、可逆的であって、勾配を有し、よって、MS,tFおよびJの関数によって調節可能である、将来のセンサーの感度を有する。
【0020】
本発明は、基準要素2と分離要素3と磁界を感知する要素4との積層体を備えた磁気抵抗磁界センサーに関するものである。基準要素2と感知要素4はそれぞれ、第1方向および第2方向において第1磁気異方性5および第2磁気異方性6を有している。
【0021】
この種類のセンサーは、測定すべき磁界の影響の下、感知要素4の磁化方向10が基準要素2の磁化方向に対して変化し、これが前記磁界の強度に対する積層体1の電気抵抗変化を誘導する。
【0022】
第1の実施例によれば、分離要素3は、例えば、酸化アルミニウムおよび/または窒化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化タンタル、酸化マグネシウム、または酸化チタン酸ストロンチウムをベースにした電気絶縁材料の層Sを備える。その結果、磁気抵抗センサーは、絶縁層Sによって分離された二つの磁気要素2,4によって形成された接合のトンネル磁気抵抗特性を有効に利用する。この実施例においては、抵抗測定は、層Sの水平面に垂直に行われる。
【0023】
第2の実施例によれば、分離要素3は、例えば、銅などの金属をベースにするか半導体をベースにした導電性材料の層Sを備える。その結果、磁気抵抗センサーは、導電層Sによって分離された二つの磁気要素2,4によって形成された「スピンバルブ」の巨大磁気抵抗特性を有効に利用する。この実施例においては、抵抗測定は、層Sの水平面に垂直か平行に行われる。
【0024】
これらの二つ実施例においては、磁気抵抗効果は、測定すべき磁界に対する積層体1の電気抵抗変化を引き起こし、この変化は前記磁界の強度を得るために電子処理回路において有効に利用される。特定の方法においては、測定すべき磁界がない場合に第1異方性5が第2異方性6に対して垂直であるという条件を設けることによって、抵抗変化の有効利用が容易となる。
【0025】
図1は積層体1の第1実施態様を示す。この積層体は、基準要素2としての強磁性材料層FM2と、感知要素4としての強磁性材料層FM1と反強磁性材料層AF1との重畳体とを備えている。強磁性材料FM1,FM2は、例えば、コバルト、鉄、ニッケル、またはこれらの材料の合金をベースにしている。基準要素2の強磁性材料と感知要素4の強磁性材料は、センサーのために要求される特性により、本質的に同じまたは異なるものとすることができる。反強磁性材料は、IrMn、FeMn、PtMn、NiMn、または他のマンガンに基づく化合物をベースとすることができる。
【0026】
強磁性材料と反強磁性材料が共通界面を有する場合、ヒステリシスサイクルにおける磁界の変位によって主として表される「交換バイアス」と呼ばれる効果を観察することができる。その結果、強磁性層FM1は、反強磁性材料AF1によって与えられる異方性方向6を有している。この異方性方向6は、層AF1の堆積の間、強磁性層FM1の磁化を飽和させることによって、または堆積後、磁界のもとでの熱処理によって、制御可能になるという利点を有する。この熱処理においては、サンプルは、反強磁性材料AF1のブロッキング温度よりも高い温度に加熱された後に、この温度よりも低い温度に冷却される。この冷却の間、確実に強磁性層FM1の磁化をその層の異方性に対して望ましい方向に飽和させる必要がある。
【0027】
前記積層体1は、例えばシリコンまたはガラス製のものである基板7の上に堆積されており、前記反強磁性材料層AF1はその基板の上に配置されている。これを行うために、真空カソードスパッタリング技術を使用することができ、これにより望ましい材料の薄層を連続的に堆積させることが可能となる。酸化アルミニウム層の堆積に関しては、真空カソードスパッタリングによってアルミニウム層を堆積させたのち、酸素下でこの層を酸化させるようにすることができる。
【0028】
反強磁性材料層AF1の欠陥の形成を制限するために、基板7の上にバッファー層、例えば、非晶質タンタル膜8を堆積させることを想定することができる。該バッファー層は、反強磁性材料AF1がその上に堆積する表面の状態を改善することを意図したものである。
【0029】
この実施態様においては、基準要素2の異方性5は、印加された磁界の方向にこの異方性5を向けるように、磁界下で強磁性材料層FM2を堆積させるか、あるいは、例えば、基準要素2が異方性5の方向においてより大きい寸法を有するようにすることによって、強磁性材料層FM2に形状異方性を生じさせるかのいずれかによって得られる。基準要素2は、測定すべき磁界範囲よりも高い抗磁界を有するようになっている。従って、磁界を印加することによって、基準要素2の磁気モーメントを変更せずに、感知要素4の磁気モーメントの方向を変更することができる。
【0030】
一例として、以下の磁気トンネル接合が実現された。
ガラス/Ta(5nm)/Co(10nm)/IrMn(10nm)/Co(10nm)/AlOx/Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)/Pt(4nm)
ガラスは基板を構成し、Ta/Co二重層はバッファー層である。感知要素は、IrMn(10nm)/Co(10nm)二重層からなっている。Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)基準要素は、抗磁界を増加するために追加されたプラチナを有するコバルトからなっている。Pt(40nm)層は保護層である。
【0031】
これらの層は、5×10−7ミリバール(5×10−5パスカル)より低いベース圧力下の室温でのカソードスパッタリングによって堆積されたものである。堆積の間のアルゴン圧は5×10−3ミリバール(0.5パスカル)であった。
【0032】
絶縁層(AlOx)を得るために、カソードスパッタリングチャンバ内での10−1ミリバール(50パスカル)の純酸素プラズマ下の35秒間300Wの連続発光放電を用いて、1.3nm金属層の堆積後に酸化が行われた。サンプルは、真空を破壊することなく、このチャンバに転送された。
【0033】
成長後、サンプルは、IrMn層の中に「交換バイアス」を生じさせると共に、この層の異方性方向を、Co(2nm)/Co80Pt20(5nm)/Pt(4nm)層の異方性方向に対して直交させるために、300エルステッド(23874A/m)の磁界のある所で、200℃で30分間熱処理された。
【0034】
接合の形成は、UVリソグラフィーとイオンビームエッチングによる既知の方法で行われた。
図2に示す第2実施態様によれば、基準要素2は、強磁性材料層FM2と反強磁性材料層AF2とを備え、感知要素4は図1に示すものと同様である。この実施により、測定すべき磁界に関しては基準要素2のより大きい安定性を得ることが可能となる(図5b)。
【0035】
従って、この実施態様においては、センサーは、積層体AF1/FM1/FM2/AF2を備え、反強磁性材料AF1とAF2は、それぞれ異なるブロッキング温度T1とT2を有し、例えば、T1>T2である。図3に示す磁気構成を得るために、以下の手順を続けて行うことができる。
【0036】
・積層体1を磁界下で温度T>T1で熱処理して、感知要素4内および基準要素2内にそれぞれ印加磁界に平行な異方性を誘導する。
・積層体1を、前のステップで印加された磁界に直交する磁界下で、T1とT2との間の温度Tで熱処理して、印加された磁界に平行な、従って、感知要素4の異方性に対して垂直な異方性5を基準要素2内に誘導する。
【0037】
これらの二つの実施態様においては、感知要素4は、その磁気モーメント10が測定すべき磁界に対して変化するように構成されており、基準要素2は、その磁気モーメント9の方向および向きが測定すべき磁界に対して固定されるように構成されている。
【0038】
これらの特性は、測定すべき磁界の強度に対して、使用される材料の性質およびそれぞれの層の厚みの少なくともいずれかを変えることによって得られる。より詳しくは、それらの層の厚みは、10nm程度であって、測定すべき磁界の強度範囲において、望ましい接合、トンネル、または巨大磁気抵抗を得るようにすることができる。
【0039】
図3は、それぞれ基準要素2と感知要素4の異方性軸5,6と磁化9,10に対する可能な磁気構成を示す。この構成において、ゼロ磁界のもとでは、磁気モーメント10,9は直交する。測定すべき磁界11が、基準要素2の異方性5の方向に平行な一定方向に印加された場合、それに起因して感知層4の磁気モーメント10の(位置10'への)回転
が生じるが、基準層2の磁化9は一定のままである。
【0040】
図4aと図5aに見られるように、印加磁界の方向における感知要素4の磁化変化は、測定すべき磁界の強度の変化の広い範囲(図4aと図5aにおいて−50エルステッド(−3979A/m)から+50エルステッド(+3979A/m))にわたって線形的であるが、基準要素2の磁化はこの範囲にわたって一定のままである(図4bと図5b)。基準要素2の磁化(図4b)に関しては、測定すべき磁界の影響下での磁気の反転に相当する抗磁界は、100エルステッド(7958A/m)(図4b)または300エルステッド(23874A/m)(図5b)程度のものであり、図4aの直線範囲をはるかに超えている。
【0041】
従って、本発明の積層体1の抵抗変化は、図6および図7に示されるように得られ、それは、測定すべき磁界強度の大きな範囲にわたって直線反転応答を有するという事実を、重要な特性として含んでいる。よって、抵抗変化が測定すべき磁界の強度に対して直線的であるため、この変化の法則を電子処理回路において特に簡単な方法で用いて、積層体1の抵抗との相関から磁界の強度を得ることができる。
【0042】
また、センサーの全体感度Sは、電気的な感度Seと磁気的な感度Smに分解されることは明らかであり、S=Se×Smとなる。但し、Se=(Rp−RAP)/2であり、Sm=1/Hexである。ここで、RPとRAPは、それぞれ基準要素と感知要素の磁化の平行整列および反平行整列に対する接合の抵抗であり、Hex=J/(MstF)はIrMn/Co二重層における有効交換磁界である。
【0043】
磁気的感度と電気的感度は上記サンプルについて別々に測定された。そのために、磁界に対する抵抗は、(RP−RAP)/2とHexを明確に得るために、感知要素の反強磁性層の異方性方向に平行な印加磁界を用いて、種々の温度で測定された。
【0044】
図8は、得られた結果を示す。この図において、曲線(●)は電気的感度を表し、曲線(○)は磁気的感度の逆数を表し、それぞれ430Kまでの温度に対する値を表す。
磁気的感度は温度と共に直線的に変化する。驚くことには、同じことが電気的感度にも当てはまる。従って、全体感度も温度と共に直線的に変化する(この場合には図9に示すように増加する)。
【0045】
実際に、図8を細かく解析すると、接合の抵抗は温度に対して以下の法則に従って変化することがわかる。
【0046】
【数3】
ここで、Cは定数、dは絶縁層の厚み、Φは接合バリアの高さ(eV)である。
【0047】
従って、バリアのパラメータdおよびΦ、特にその厚みを変更することによって、Seの勾配を設定することが可能である。それ故、所与のバリア高さを有する接合に対して、温度に対するSeの勾配がSmの勾配を補償し、センサーの全感度が温度に依存しなくなるように、絶縁層の厚みを決定することが可能となる。
【0048】
上記サンプルの全体感度の温度に対する変化は図10に示されており、変化がほとんどないことに注目することができる。
【符号の説明】
【0049】
AF1,AF2…反強磁性材料層、FM1,FM2…強磁性材料層、1…積層体、2…基準要素、3…分離要素、4…感知要素、7…基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを備える計測アセンブリであって、
前記磁気抵抗磁界センサーは、基準要素(2)と分離要素(3)と磁界感知要素(4)とを積層して形成された積層体(1)を備え、前記基準要素(2)および前記感知要素(4)は、それぞれ、第1方向および第2方向において第1磁気異方性(5)および第2磁気異方性(6)を有し、前記感知要素(4)は強磁性材料層(FM1)と反強磁性材料層(AF1)とを積層して形成された重畳体を備え、該重畳体は、測定すべき磁界の方向に向いた成分が測定すべき磁界の強度に対して可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメントを得るように構成され、
前記積層体(1)は、前記感知要素(4)の磁化方向(10)が前記基準要素(2)の磁化方向に対して変化し、かつ計測すべき磁界の強度に関連して前記積層体(1)の電気抵抗の変化を誘起するように、計測すべき磁界の影響下にあり、
前記電子処理回路は、測定すべき磁界の強度を得るために積層体(1)の電気抵抗の変化を処理する、計測アセンブリ。
【請求項2】
前記第1異方性(5)は前記第2異方性(6)に対して垂直であることを特徴とする請求項1に記載の計測アセンブリ。
【請求項3】
前記基準要素(2)は、測定すべき磁界に対して固定された磁化の方向および向き(9)を有する強磁性材料層(FM2)を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサー。
【請求項4】
前記基準要素(2)は、強磁性材料層(FM2)と反強磁性材料層(AF2)とを積層して形成された重畳体を備え、該重畳体は測定すべき磁界に対して固定された磁化の方向および向き(9)を得るように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の計測アセンブリ。
【請求項5】
前記基準要素(2)の反強磁性材料層(AF2)のブロッキング温度は前記感知要素(4)の反強磁性材料層(AF1)のブロッキング温度と異なることを特徴とする請求項4に記載の計測アセンブリ。
【請求項6】
前記感知要素(4)の反強磁性材料層(AF1)は基板(7)上に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項7】
前記基板(7)は前記反強磁性材料層(AF1)が配置される表面の条件を改善するためのものである材料の層(8)を備えることを特徴とする請求項6に記載の計測アセンブリ。
【請求項8】
前記分離要素(3)は導電性材料層(S)から形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項9】
前記分離要素(3)は電気絶縁材料層(S)からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項10】
前記センサーの感度が実質的に温度に依存しないことを特徴とする請求項9に記載の計測アセンブリ。
【請求項11】
前記分離要素(3)の厚みは、前記基準要素(2)と前記分離要素(3)と前記感知要素(4)とからなる前記積層体(1)によって構成される磁気トンネル接合のバリア高さによって、当該センサーの電気的感度の温度に対する変化が当該センサーの磁気的感度の温度に対する変化を補償するようになっていることを特徴とする請求項10に記載の計測アセンブリ。
【請求項1】
磁界の強度を計測するための磁気抵抗磁界センサーと電子処理回路とを備える計測アセンブリであって、
前記磁気抵抗磁界センサーは、基準要素(2)と分離要素(3)と磁界感知要素(4)とを積層して形成された積層体(1)を備え、前記基準要素(2)および前記感知要素(4)は、それぞれ、第1方向および第2方向において第1磁気異方性(5)および第2磁気異方性(6)を有し、前記感知要素(4)は強磁性材料層(FM1)と反強磁性材料層(AF1)とを積層して形成された重畳体を備え、該重畳体は、測定すべき磁界の方向に向いた成分が測定すべき磁界の強度に対して可逆的に変化すると共に調整可能磁界範囲において直線的に変化する磁気モーメントを得るように構成され、
前記積層体(1)は、前記感知要素(4)の磁化方向(10)が前記基準要素(2)の磁化方向に対して変化し、かつ計測すべき磁界の強度に関連して前記積層体(1)の電気抵抗の変化を誘起するように、計測すべき磁界の影響下にあり、
前記電子処理回路は、測定すべき磁界の強度を得るために積層体(1)の電気抵抗の変化を処理する、計測アセンブリ。
【請求項2】
前記第1異方性(5)は前記第2異方性(6)に対して垂直であることを特徴とする請求項1に記載の計測アセンブリ。
【請求項3】
前記基準要素(2)は、測定すべき磁界に対して固定された磁化の方向および向き(9)を有する強磁性材料層(FM2)を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセンサー。
【請求項4】
前記基準要素(2)は、強磁性材料層(FM2)と反強磁性材料層(AF2)とを積層して形成された重畳体を備え、該重畳体は測定すべき磁界に対して固定された磁化の方向および向き(9)を得るように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の計測アセンブリ。
【請求項5】
前記基準要素(2)の反強磁性材料層(AF2)のブロッキング温度は前記感知要素(4)の反強磁性材料層(AF1)のブロッキング温度と異なることを特徴とする請求項4に記載の計測アセンブリ。
【請求項6】
前記感知要素(4)の反強磁性材料層(AF1)は基板(7)上に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項7】
前記基板(7)は前記反強磁性材料層(AF1)が配置される表面の条件を改善するためのものである材料の層(8)を備えることを特徴とする請求項6に記載の計測アセンブリ。
【請求項8】
前記分離要素(3)は導電性材料層(S)から形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項9】
前記分離要素(3)は電気絶縁材料層(S)からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の計測アセンブリ。
【請求項10】
前記センサーの感度が実質的に温度に依存しないことを特徴とする請求項9に記載の計測アセンブリ。
【請求項11】
前記分離要素(3)の厚みは、前記基準要素(2)と前記分離要素(3)と前記感知要素(4)とからなる前記積層体(1)によって構成される磁気トンネル接合のバリア高さによって、当該センサーの電気的感度の温度に対する変化が当該センサーの磁気的感度の温度に対する変化を補償するようになっていることを特徴とする請求項10に記載の計測アセンブリ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−159988(P2011−159988A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76732(P2011−76732)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【分割の表示】特願2006−505711(P2006−505711)の分割
【原出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【出願人】(591035793)エヌテエヌ−エス.エヌ.エール.ルルモン (20)
【氏名又は名称原語表記】NTN−S.N.R.ROULEMENTS
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【分割の表示】特願2006−505711(P2006−505711)の分割
【原出願日】平成16年3月10日(2004.3.10)
【出願人】(591035793)エヌテエヌ−エス.エヌ.エール.ルルモン (20)
【氏名又は名称原語表記】NTN−S.N.R.ROULEMENTS
【Fターム(参考)】
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