説明

磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法

【課題】装置の複雑化や製造コストの増加を抑えつつ、移動する帯状又は板状の磁性体に交番磁界を印加しながら、当該磁性体の磁気特性を安定して精度良く測定することができる磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法を提供すること。
【解決手段】移動する磁性体Fを交番磁界で磁化して磁気特性を測定する磁気特性測定装置1を提供する。この磁気特性測定装置1は、磁性体Fの通過位置近傍に配置された磁化器10,20と、磁化器による磁束を検出する検出コイル13,23と、検出コイルから出力される検出電圧を入力信号として、磁性体に誘起された磁束密度を測定する磁束密度測定部102,202と、励磁電流の値から算出した磁界の大きさと磁束密度とに基づいて、磁気特性を算出する磁気特性算出部103,203と、磁性体が通過する速さVに基づいて該速さに起因した誤差が低減するように磁気特性を補正する磁気特性補正部400と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状又は板状の磁性体を測定対象とし当該測定対象の磁気特性測定装置及び磁気特性測定方法に関し、特に帯状又は板状の金属磁性体の磁気特性を製造ライン等においてオンラインで測定するのに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄業などの製造業において、製造製品の品質管理は非常に重要である。例えば、上記製鉄業における薄鋼板は、自動車のボディや家電製品の外板に用いられることが多く、この目的のために、通常はプレス加工等の成型が施される。薄鋼板のプレス加工を精度よく安定して行うためには、加工する薄鋼板の降伏点(Yp)や引張強度(Ts)、伸び率(EL)などといった機械的性質が予め判っていることが重要である。一方、このような加工が施される薄鋼板は、通常はコイル状に巻取られた状態で出荷されることが多い。このコイルの長手方向や幅方向において薄鋼板の機械的性質が不均一である場合、薄鋼板を同一の条件で加工しようとしても、機械的性質の不均一に起因した成型性の差異が生じてしまう。よって、薄鋼板の安定した加工が困難となる場合がある。従って、製造工程において、製造される薄鋼板の機械的性質などを予め測定することが、その後のプレス加工等のために重要である。
【0003】
一方、上記で例示した薄鋼板等の帯状又は板状の金属磁性体の機械的性質は、その磁性体の保磁力や残留磁束密度(残留磁化)といった磁気特性との間に相関関係を有することが知られている。また、金属磁性体の保磁力と結晶粒径との間にも相関関係が存在することも知られてる。従って、薄鋼板などの金属磁性体の磁気特性を測定することは、金属磁性体の機械的性質を測定する上で効果的である。
【0004】
例えば特許文献1,2には、薄鋼板の保磁力を測定して結晶粒径を評価する技術が開示されている。この特許文献1,2に係る保磁力測定装置は、薄鋼板の近傍に配置されたヨーク式の磁化器を有する。そして、この保磁力測定装置は、磁化器の励磁コイルに交流電流を流して、磁化器から交番磁界を発生させて薄鋼板を磁化する。このとき、磁化器のヨーク(鉄芯)と薄鋼板とは磁気回路を構成し、当該磁気回路内を磁束が周回する。更に、保磁力測定装置は、磁極に巻き付けられた検出コイルを有し、この検出コイルに誘起される電圧を測定して時間積分することにより磁束を測定する。当該磁束の時間変化すなわち磁化曲線の測定結果から、保磁力測定装置は保磁力に相当する値を測定し、予め実験的に求めた保磁力相当値と結晶粒径との関係式から結晶粒径を算出する。
【0005】
また特許文献3には、薄鋼板の保磁力を測定する技術が開示されている。この特許文献3に記載された保磁力測定装置は、上記特許文献1,2と同様に、薄鋼板の近傍に配置されたヨーク式の磁化器で薄鋼板を磁化する。そして、この保磁力測定装置は、薄鋼板の表面近傍において、磁界と漏洩磁束を検出する。更に、保磁力測定装置は、検出した漏洩磁束で測定されるバルクハウゼンノイズ(Barkhausen Noise)が最大となるタイミングで磁界強度を測定することにより、保磁力を測定する。そして、この技術では、保磁力と相関関係の存在する物性値や機械的性質を算出する。
【0006】
【特許文献1】特開平6−213872号公報
【特許文献2】特開平6−265525号公報
【特許文献3】特開2001−141701号公報
【特許文献4】特開昭62−294987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、上記特許文献1〜3に係る保磁力測定装置において、製造中の製品(これらの場合薄鋼板)の磁気特性(これらの場合保磁力等)を安定して測定するためには、当該製品である帯状又は板状の金属磁性体を安定して磁化させ、その磁化による磁気特性を正確に計る必要がある。しかしながら、製造ライン上の金属磁性体は、所定の速さで通板されるため、その速さに起因した測定誤差が生じることがある。従って、上記の保磁力測定装置などは、移動する金属磁性体の磁気特性を安定して精度よく測定することができない恐れがある。このような誤差は、測定したい磁気特性だけでなく、その後に算出する機械的性質の誤差としても反映されるため、ひいては適切な品質管理を行うことが難しくなる可能性がある。
【0008】
このような誤差は、磁化される金属磁性体が移動することより、適切に磁化されないことが原因の一つと考えられ、これに対して、上記特許文献4では、ヨーク式の磁化器を使用して、通板中の薄鋼板を直流磁化し、その際、通板の速さに応じて磁化器への励磁電流を増減することにより、薄鋼板内の磁束密度を一定にする試みが行われている。しかしながら、この特許文献4の磁化器では、大電流を動的に制御するための別途の特別な手段が必要となる。従って装置自身の構成が複雑になり製造コストも増加してしまう恐れがある。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、装置の複雑化や製造コストの増加を抑えつつ、製造工程などにおいて移動する帯状又は板状の磁性体に交番磁界を印加しながら、当該磁性体の磁気特性を安定して精度良く測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、移動する帯状又は板状の金属磁性体を交番磁界で磁化して該磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、上記磁性体が通過する通過位置近傍に配置され、ヨーク及び該ヨークの外側に巻かれた励磁コイルを有して上記磁性体を磁化する磁化器と、上記磁化器に配置され、上記磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する検出コイルと、上記検出コイルから出力される検出電圧を入力信号として、上記磁化器により上記磁性体に誘起された磁束密度を測定する磁束密度測定部と、上記磁化器の励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、上記磁束密度測定部が測定した上記磁性体の磁束密度とに基づいて、上記磁性体の磁気特性を算出する磁気特性算出部と、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さに基づいて、上記磁気特性算出部が算出した磁気特性を、該速さに起因した誤差が低減するように補正する磁気特性補正部と、を有することを特徴とする、磁気特性測定装置が提供される。
【0011】
この構成によれば、磁化器が発生させる磁界により、磁性体を磁化させることができる。その磁界に応じた磁性体の磁束密度を、検出コイルと磁束密度測定部とにより測定することができる。そして、磁気特性算出部により、磁化器の励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、磁束密度測定部により測定された磁性体の磁束密度とに基づいて、磁性体の磁気特性を算出することができる。更に、磁気特性補正部により、磁性体が通過位置を通過する速さに基づいて、磁気特性算出部が算出した磁気特性を補正することができる。その結果、速さに起因した誤差を減少させることができ、より安定して精度良い磁気特性を測定することができる。また、算出した磁気特性を直接速さに対して補正するため、より正確な値を測定することが可能である。更に、励磁電流等を変更する必要がないため、装置の構成を複雑化したり、製造コストを増加させずに済む。
【0012】
また、上記磁気特性補正部は、上記磁気特性算出部が算出した一の磁気特性を補正するために、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さに加えて、上記磁気特性算出部が算出した他の磁気特性及び上記一の磁気特性の少なくとも一方に更に基づいて、上記一の磁気特性における上記速さに起因した誤差を算出してもよい。
この構成によれば、磁気特性補正部が、速さと共に、磁気特性算出部が算出した一の磁気特性及び他の磁気特性の少なくとも一方に基づいて、一の磁気特性における誤差を算出する。従って、測定している磁性体の磁気特性が反映されるため、より正確な誤差を算出することができる。また、速さと磁気特性算出部が算出した磁気特性とに基づいて誤差を算出できるので、誤差算出用に他の測定装置などを使用せずに済み、容易に構成することができる。なお、誤差算出に使用される磁気特性と、その誤差により補正される磁気特性(一の磁気特性)とは、同じ磁気特性であってもよいが、異なる磁気特性であってもよい。
【0013】
また、上記磁気特性補正部は、
上記一の磁気特性及び上記他の磁気特性の少なくとも一方に基づいて、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さの変化に対する上記誤差の変化量を算出し、該変化量と上記速さとに基づいて、上記誤差を算出してもよい。
この構成によれば、磁気特性補正部により、磁気特性算出部が算出した磁気特性算出部が算出した一の磁気特性及び他の磁気特性の少なくとも一方に基づいて、速さの変化に対する誤差の変化量(傾きなど)を算出することができる。そして、その変化量と速さとに基づいて、一の磁気特性における誤差を算出することができる。
【0014】
また、上記磁気特性算出部は、上記磁性体の上記一の磁気特性を含む2以上の上記磁気特性を算出し、上記磁気特性補正部は、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さと、上記磁気特性算出部が算出した2の磁気特性間の比とに基づいて、上記一の磁気特性における上記速さに起因した誤差を算出してもよい。
この構成によれば、磁気特性補正部により、速さと、2の磁気特性間の比とに基づいて、補正される磁気特性における誤差を算出することができる。なお、磁気特性補正部で補正される磁気特性に含まれる誤差の1つとして、磁性体の速さに起因したものがあるが、その誤差は、各磁性体毎に異なる場合がある。上記構成のように磁性体の磁気特性に基づいて誤差を算出すれば磁性体毎の依存度合を低減することができるが、この構成のように2の磁気特性間の比とに基づいて誤差を算出する場合、2つの磁気特性それぞれに含まれる各磁性体毎の依存度合が打ち消すことができ、更に磁性体毎の依存度を低減できる。また、2つの磁気特性の両者には、やはり磁性体の速さに起因した誤差も含まれるが、その誤差も、この構成の場合には打ち消すことができる。
なお、上記磁気特性算出部は、上記磁性体が前記通過位置を通過する速さと、該磁気特性補正部が誤差を補正する一の磁気特性に対する、該一の磁気特性と異なる他の磁気特性の比と、に基づいて、一の磁気特性における速さに起因した誤差を算出することが望ましい。
【0015】
また、上記磁化器は、上記帯状又は板状の磁性体を挟んで互いに対向配置された第1の磁化器及び第2の磁化器を含み、上記検出コイルは、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器にそれぞれ配置され、上記第1の磁化器又は上記第2の磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する第1の検出コイル及び第2の検出コイルを含み、上記磁束密度測定部は、上記第1の検出コイル及び上記第2の検出コイルそれぞれから出力される検出電圧を入力信号として、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器により上記磁性体に誘起された磁束密度を測定し、上記磁気特性算出部は、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれの励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、上記磁束密度測定部が測定した上記磁性体の磁束密度とに基づいて、上記磁性体の磁気特性を算出し、上記磁気特性補正部は、上記磁気特性算出部が算出した磁気特性を、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さに基づいて該速さに起因した誤差が低減するように補正すると共に、上記第1の磁化器と上記第2の磁化器との間における上記磁性体の通過位置の変位量に応じて該変位量に起因した誤差が低減するように補正してもよい。
この構成によれば、第1の磁化器及び第2の磁化器がそれぞれ発生させる磁界により、磁性体を磁化させることができる。その磁界に応じた磁性体の磁束密度を、第1の検出コイル及び第2の検出コイルと磁束密度測定部とにより測定することができる。そして、磁気特性算出部により、第1の磁化器及び第2の磁化器それぞれの励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、磁束密度測定部により測定された磁性体の磁束密度とに基づいて、磁性体の磁気特性を算出することができる。更に、磁気特性補正部により、2つの磁化器間の磁性体の通過位置の変位量に応じて磁気特性を補正することができる。その結果、該変位量に起因した誤差を減少させることができ、より安定して精度良い磁気特性を測定することができる。また、上記構成は、磁性体に接触した他の構成などに組み込む必要がなく、他の構成を別途配置する必要もない。よって、より容易に装置を配置することも可能である。
【0016】
また、上記第1の磁化器と上記第2の磁化器と間における上記磁性体の通過位置の変位量を算出する変位量算出部を更に有し、上記磁束密度測定部は、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器が発生させた磁界それぞれによる上記磁性体の磁束密度を検出し、上記磁気特性算出部は、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれの磁界の大きさと、該磁界それぞれによる上記磁束密度と、に基づいて、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性を算出し、上記変位量算出部は、上記磁気特性算出部が算出し上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性に基づいて、上記磁性体の通過位置の変位量を算出してもよい。
この構成によれば、磁束密度測定部により、第1の磁化器及び第2の磁化器それぞれの磁界に応じた2つの磁束密度を検出することができ、磁気特性算出部により、2つの磁束密度それぞれに応じた磁気特性を算出することができる。この2つの磁束密度は第1の磁化器及び第2の磁化器それぞれの磁化力を反映しており、この磁化力は各磁化器と磁性体との距離を反映している。よって、変位量算出部は、この2つの磁気特性に基づいて、磁性体の通過位置の変位量を算出することができる。
【0017】
また、上記磁気特性算出部は、上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれに対応し最大磁束密度を含む上記磁気特性を算出し、上記変位量算出部は、上記第1の磁化器に対応した上記最大磁束密度と、上記第2の磁化器に対応した上記最大磁束密度との比に基づいて、上記磁性体の通過位置の変位量を算出してもよい。
【0018】
また、上記磁気特性補正部は、上記磁気特性算出部が算出し上記第1の磁化器及び上記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性の平均値を補正してもよい。
【0019】
また、上記第1の磁化器と上記第2の磁化器との間における上記磁性体の通過位置の変位量を測定する変位計を更に有し、上記磁気特性補正部は、上記変位計が測定した上記通過位置の変位量に応じて、上記磁気特性算出部が算出した磁気特性を補正してもよい。
【0020】
また、上記磁気特性算出部は、上記磁性体の保磁力を含む磁気特性を算出し、上記磁気特性補正部は、上記磁気特性算出部が算出した保磁力を補正してもよい。
【0021】
また、上記磁気特性補正部が補正した上記磁性体の磁気特性と、該磁性体の磁気特性と機械的性質との間の既知の相関関係と、に基づいて、上記磁性体の機械的性質を算出する機械的性質算出部を更に有してもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、移動する帯状又は板状の金属磁性体を交番磁界で磁化して該磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、上記磁性体が通過する通過位置近傍に配置され、ヨーク及び該ヨークの外側に巻かれた励磁コイルを有する磁化器により、上記磁性体を磁化する磁化ステップと、上記磁化器に配置された検出コイルにより、上記磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する磁束検出ステップと、上記磁束検出ステップで出力された検出電圧から、上記磁化器により上記磁性体に誘起された磁束密度を測定する磁束密度測定ステップと、上記磁化器の励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、上記磁束密度測定ステップで測定した上記磁性体の磁束密度とに基づいて、上記磁性体の磁気特性を算出する磁気特性算出ステップと、上記磁性体が上記通過位置を通過する速さに基づいて、上記磁気特性算出ステップで算出した磁気特性を、該速さに起因した誤差が低減するように補正する磁気特性補正ステップと、を有することを特徴とする、磁気特性測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、製造工程などにおいて移動する帯状又は板状の磁性体に、当該磁性体面の両側に磁化器を配置して交番磁界を印加し、磁性体内の誘導される磁束に相当する磁束を測定することにより磁性体の磁気特性を算出し、その測定した磁気特性を磁性体の移動する速さに応じて補正することができるので、装置を複雑化させたり製造コストを増加させることなく、当該磁性体の磁気特性を安定して精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0025】
本発明の実施形態に係る磁気特性測定装置は、磁性体材料を製造する様々な製造業等に適用することができる。以下では、説明の便宜上、磁気特性測定装置の適用例として、製鉄業に適用され、磁性体材料として帯状又は板状の金属磁性体である「薄鋼板」を例に挙げて説明する。
【0026】
この磁気特性測定装置は、以下で説明するように、薄鋼板を磁化させることにより、薄鋼板の磁気特性を測定する。この「磁気特性」とは、磁性体が磁化された場合にその磁性体が示す磁気的な諸特性を意味する。磁気特性としては、例えば、鉄損・最大磁束密度(飽和磁束密度)・保磁力・透磁率(最大透磁率や初期透磁率等)・残留磁束密度(残留磁化)などが挙げられる。以下では説明の便宜上、磁気特性測定装置が、これらの磁気特性の中でも「保磁力」を測定することを目的とする場合について説明する。しかし、磁気特性測定装置が測定することが可能な磁気特性は、保磁力に限定されるものではない。以下で説明する磁気特性測定装置は、薄鋼板を交番磁界を印加して交流磁化させることにより得られる「磁化曲線」を利用して磁気特性を測定する。よって、磁気特性測定装置が測定することが可能な磁気特性は、薄鋼板の保磁力に限定されず、例えば、鉄損・磁束密度・最大磁束密度・透磁率・残留磁束密度などのように、磁化曲線の特徴量等であってもよい。なお、ここで例示する磁性体の薄鋼板は強磁性体であるため、この磁化曲線は「磁気ヒステリシス曲線(図3等参照。)」となる(以下単に「ヒステリシスループ」ともいう。)。
【0027】
また、通常の磁気工学における保磁力とは、磁性体を準静的に交番磁界で磁化することにより得られるヒステリシスループ(特にメジャーループ)において、磁化又は磁束密度がゼロとなるときの外部磁界の大きさを意味する。一方、製造工程などにおいて搬送ロール上を移動する薄鋼板を測定対象とする場合、準静的な交番磁界で薄鋼板を磁化して、その磁界と磁束密度を測定することは困難である。そこで、本発明の実施形態に係る磁気特性測定装置は、搬送ロール上を移動する薄鋼板を交番磁界で磁化して、磁化器のヨークと薄鋼板で構成する磁気回路内の磁束を測定することにより磁気特性を測定する。従って、この磁化に用いられる交番磁界は、準静的ではなく、磁気特性測定装置が測定する保磁力は、磁気工学における保磁力とは厳密には異なる可能性がある。しかし、磁気特性測定装置が測定する保磁力は、磁気工学における保磁力に相当した保磁力(「保磁力相当値」ともいう。)であり、以下では説明の便宜上、「保磁力」には、磁気工学における保磁力だけでなく、保磁力相当値をも含むものとし、例えば最大磁束密度や残留磁束密度などの他の磁気特性も同様にその相当値を含むものとする。
【0028】
なお、磁気工学における保磁力と保磁力相当値との対応関係を、実測等により予め求めておくことにより、保磁力相当値から磁気工学における保磁力を算出することができるが、必ずしも必要ではない。
【0029】
更に、本実施形態の磁気特性測定装置では、測定した磁気特性(ここでは保磁力)から、薄鋼板の機械的性質をも算出する。この「機械的性質(機械的特性とも言う。)」とは、薄鋼板の機械的な変形及び破壊等に関する諸性質を意味する。また、このような機械的性質は、例えば、強度・硬さ・靱性・疲労・加工性などに大別される。機械的性質を限定するものではないが、これらの各機械的性質の具体的な例を挙げれば以下の通りである。
強度 :例えば、降伏点・引張強度・圧縮強さ・クリープ強さ等
硬さ :例えば、ビッカース硬さ・ブリネル硬さ・ロックウェル硬さ等
靭性 :例えば、シャルピー衝撃値・アイゾット衝撃値等
疲労 :例えば、低サイクル疲労・高サイクル疲労等
加工性:例えば、伸び率・絞り性・r値等
薄鋼板等の磁性体の磁気特性は、その磁性体の結晶粒径や転位密度などとの間に相関関係が存在する。一方、磁性体の機械的性質も、磁性体の結晶粒径や転位密度などとの間に相関関係が存在することがある。よって、磁性体の磁気特性と磁性体の機械的性質との間には、相関関係が存在する場合がある(図11、図17〜図21等参照。)。本発明の実施形態に係る磁気特性測定装置は、この相関関係の一例を利用して、薄鋼板の機械的性質をも算出する。以下では説明の便宜上、この磁気特性測定装置が、機械的性質として上記の例示した性質のうちの降伏点を測定する場合について説明する。しかし、これはあくまで例示であり、磁気特性測定装置が測定する機械的性質は、測定した磁気特性と相関関係が存在する様々な機械的性質を算出することが可能であることは言うまでもない。
【0030】
つまり、以下では説明の便宜上、本発明の実施形態に係る磁気特性測定装置が、鋼板の保磁力を測定し、その保磁力から鋼板の降伏点を算出する場合を例に挙げて説明する。
【0031】
<一実施形態>
まず、図1を参照しつつ、本発明の一実施形態の磁気特性測定装置の構成について説明する。
【0032】
(磁気特性測定装置の構成)
図1に示すように、本発明の一実施形態の磁気特性測定装置1は、磁化器10,20と、発振器31と、励磁電源32と、磁界測定部101,201と、磁束密度測定部102,202と、磁気特性算出部103,203と、変位量算出部301と、相関データ記憶部302と、平均磁気特性算出部303と、磁気特性補正部400と、機械的性質算出部501と、機械的性質データ記憶部502とを有する。
【0033】
磁化器10,20は、両磁化器10,20の間に薄鋼板Fを挟んで対向配置される。つまり、磁化器10は、通板される薄鋼板Fの片方の面に対向して配置され、磁化器20は、通板される薄鋼板Fの他方の面に対向して配置される。磁化器10と磁化器20との間の間隙を、ここでは「ギャップ(空隙)」ともいう。つまり、薄鋼板Fは、このギャップと直交する方向に移動する。また、薄鋼板Fが通板される速さ(「通過速さ」や「通板速さ」、「移動速さ」ともいう。また、速さを「速度」ともいう。)をVとする。そして、磁化器20から磁化器10に向けた方向を「ギャップ方向x(図1中のx方向)」ともいい、ギャップ方向xにおける薄鋼板Fの位置を「パスライン(通過位置の一例)」ともいう。ギャップ方向における磁化器10と磁化器20との間の基準位置からのパスラインの「ずれ量」を、ここでは「変位量Δx」ともいう。つまり、変位量Δxは、パスラインを表す。なお、この変位量Δxの基準位置は、例えば磁化器10と磁化器20との間の中間点であってもよいが、中間点から所定の距離ずれた位置であってもよい。また、磁化器10と磁化器20との間のギャップは、通板する薄鋼板Fの厚みや磁化器10,20の磁界の強さにもよるが、例えば約20〜150mmに設定することが望ましい。このギャップが20mm程度未満である場合には、薄鋼板Fの振動や反りなどにより薄鋼板Fと磁化器10,20とが接触する可能性が高くなる。また、ギャップが150mm程度超過である場合には、磁化器10,20により薄鋼板Fに印加される磁界が弱くなり過ぎることがある。なお、磁化器10,20と薄鋼板Fとが接触しない限り、ギャップは狭い方が薄鋼板Fを磁化するのに効果的であることは明らかである。
【0034】
磁化器10,20のそれぞれは、薄鋼板Fに所定の間隔を開けて対向した2以上の磁極を有する(図1には2つの磁極を有する場合を例示している。)。磁化器10,20は、この磁極から交番磁界Hを発生させることにより、薄鋼板Fを磁化させる。この磁化器10と磁化器20は、それぞれ同じ仕様(形状及び構成部材等)で形成されることが望ましいが異なっていてもよい。磁化器10と磁化器20との仕様を同じにすることにより、測定条件を薄鋼板Fの両面に対して対称にすることができ、安定化させることができる。図1に示した本実施形態に係る磁気特性測定装置1は、同様の仕様の2つの磁化器10,20を有し、磁化器10,20はそれぞれ、ヨーク11,21と、励磁コイル12,22と、検出コイル13,23とを有する。よって、以下では、磁化器10を例に挙げて説明する。なお、磁化器10と磁化器20とは、薄鋼板Fを挟んで対称に配置されることが望ましい。また、磁化器10のヨーク11・励磁コイル12・検出コイル13は、それぞれ磁化器20のヨーク21・励磁コイル22・検出コイル23に対応している。
【0035】
ヨーク(鉄芯)11は、コア部材の一例であって、薄鋼板Fに対して磁束を導く磁路を構成する。ヨーク11は、略コの字状の形状を有し、略コの字の各先端部に薄鋼板Fの面に対向した磁極を有する。つまり、ヨーク11は、薄鋼板Fに対して略垂直に設けられた2つの腕部(両腕部)と、薄鋼板Fとは反対側において両腕部それぞれの端部を接続する中央部とで構成されている。このヨーク11は、軟磁気特性の良い電磁鋼板やNi−Znフェライト等のような透磁率の高い材質で形成される。ヨーク11を電磁鋼板で形成する場合には、薄い電磁鋼板を複数積層してヨーク11を成型することにより、交番磁界を発生するときの渦電流損を抑えることができる。
【0036】
励磁コイル12は、ヨーク11の両腕部に巻き付けられ、交流電流が通電されることにより磁界Hを発生させる。なお、各腕部に巻き付けられた励磁コイル12は、ヨーク11中に発生する磁界Hが互いに強め合う方向に磁界Hを発生させる。つまり、一方の腕部の磁極と他方の腕部の磁極とが互いに異なり、磁化器10がU字型の磁石のような磁界を発生するように、励磁コイル12は磁界Hを発生させる。この励磁コイル12の巻線としては、例えばポリイミド被覆銅線やエナメル被覆銅線などのような周知の銅線を用いることができる。上述の通り、ここでは励磁コイル12は、ヨーク11の両腕部に巻き付けられた2つの励磁コイルである場合を示しているが、本発明はかかる例に限定されない。励磁コイル12は、例えば、ヨーク11の中央部や片方の腕部に巻き付けられた1つの励磁コイル、又はヨーク11の所定の位置に巻き付けられた3以上の励磁コイルであってもよい。また、磁化器10が3以上の磁極を有する場合、各磁極に対応するように励磁コイルの個数を設定することも可能である。
【0037】
このように構成された磁化器10,20には、発振器31及び励磁電源32により交流の電流が通電される。発振器31は、測定すべき所定の周波数の正弦波信号(電圧信号)を生成する。交番磁界Hの周波数は、例えば、磁化器10,20の間のギャップを薄鋼板Fが通過する間に数回以上、磁界が交番する程度に高い周波数に設定されることが好ましい。一方、交番磁界Hの周波数は、高すぎると表皮効果の影響により薄鋼板Fの全板厚を磁化することが難しくなるので、表皮効果を抑制して薄鋼板の全板厚を磁化しうる程度の周波数以下に設定されることが好ましい。より具体的には、この周波数は、例えば、薄鋼板Fについては約40〜70Hzに設定してもよいが、測定対象に応じて適宜選択すればよい。
【0038】
また、励磁電源32は、発振器31で生成された正弦波信号(電圧信号)を増幅させて、交流の励磁電流を出力する。励磁電源32としては、入力電圧(交流)の振幅に比例した振幅値の交流電流を出力する定電流(CC)タイプの電流増幅器を用いることができる。励磁電源32から励磁コイル12,22へ出力される励磁電流の振幅値は、交番磁界Hの振幅値を決定する。発振器31及び励磁電源32でそれぞれ決定される周波数及び振幅値等は、上記条件等に従い実際に測定に有効な値となるように、実験等によって予め設定される。
【0039】
発振器31及び励磁電源32により生成された励磁電流(それに伴う交流電圧:励磁電圧)は、並列に2系統に出力される。つまり、この励磁電源32には、磁化器10の励磁コイル12と磁化器20の励磁コイル22とが並列に接続されており、両励磁コイル12,22に同時に励磁電圧が印加され、両励磁コイル12,22に同時に交流の励磁電流が通電して、両磁化器10,20それぞれからは、交番磁界Hが生成される。なお、励磁コイル12及び励磁コイル22それぞれを2つ又は3つ以上で構成するときの結線については、並列及び直列のどちらであってもよい。また、励磁コイル12と励磁コイル22とを励磁電源32に直列接続することも可能であるが、励磁コイル12,22を励磁させるための励磁電圧が高くなるので、測定するのに十分な励磁電流を得ることができないときがある。
【0040】
ここでは各磁化器10,20が生成する磁界を区別するために、磁化器10が生成した磁界を「磁界H1」といい、磁化器20が生成した磁界を「磁界H2」という。なお、相互に対向する磁化器10の磁極と磁化器20の磁極とが同じ極性(N極同士、又は、S極同士)を有するように、各励磁コイル12,22は励磁電源32と結線される。よって、薄鋼板Fには2台の磁化器10,20が発生させた磁界H1,H2が加算されて印加される。言わば、磁界H1と磁界H2とにより誘起された磁束が加算されて薄鋼板F内に発生する。なお、当該現象は、より厳密には、磁化器10,20のヨーク11,21、ギャップ、及び薄鋼板Fにより構成される磁気回路について、励磁コイル12,22により発生する起磁力により説明できる。
【0041】
磁化器10,20には、磁束値を測定するための検出コイル13,23が配置される。磁化器10を例に挙げて説明する。磁化器10では上述の構成により、ヨーク11、薄鋼板F、及びヨーク11と薄鋼板Fとの間のギャップにより磁気回路が構成され、励磁コイル12により発生した起磁力により、磁束Φ1が当該磁気回路(磁路)を流れることになる。検出コイル13は、ヨーク11の少なくとも1方の磁極近傍(例えばヨーク端部である磁極部)において、磁束Φ1をできるだけ漏れ無く測定するために磁極面を囲むように巻かれ、磁極面の外周より大きなコイル断面を有する。従って、検出コイル13は、磁極と薄鋼板Fとの間のギャップに発生する磁束Φ1の時間変化を、電磁誘導により検出して検出信号(電流値又は電圧値)を出力する。なお、磁気回路内の磁束Φ1は、磁気回路内の各位置において大きさ及び位相が若干異なる。しかし、磁化器10を薄鋼板Fに近接して配置することにより、検出コイル13により測定した磁束Φを近似的に薄鋼板Fの磁束Φ1と同一であると見なすことができる。すなわち、検出コイル13は、薄鋼板Fの磁束Φ1に相当する磁束Φ1(磁束相当値)を測定する。また、図1には、検出コイル13がヨーク11の腕部の磁極近傍に配置される場合を示しているが、検出コイル13は、ヨーク11中を通過する磁束Φ1を測定することができる位置であれば任意の位置に配置することができる(例えば中央部など。)。しかし、検出コイル13が図1に示すように磁極近傍に配置される場合、磁気回路からの漏洩磁束の影響を抑制することができて、検出コイル13が検出する磁束Φ1の相当値における漏れ磁束等の誤差を低減させることができる。
【0042】
一方、検出コイル23は、検出コイル13と同様に磁化器20に配置される。そして、検出コイル13と検出コイル23とも、薄鋼板Fを挟んで対称に配置される。従って、検出コイル13は、磁化器10が発生する磁界H1に応じた磁束Φ1の時間変化を測定するのに対して、検出コイル23は、磁化器20が発生する磁界H2に応じた磁束Φ2の時間変化をする。各検出コイル13,23から出力された検出信号は、それぞれ磁束密度測定部102又は磁束密度測定部202に出力される。
【0043】
磁束密度測定部102は、検出コイル13から出力された検出信号(磁束Φ1相当)に基づいて、磁化器10が発生させた磁界H1に応じた薄鋼板Fの磁束密度B1(相当値)を測定する。一方、磁束密度測定部202は、検出コイル23から出力された検出信号(磁束Φ2相当)に基づいて、磁化器20が発生させた磁界H2に応じた薄鋼板Fの磁束密度B2(相当値)を測定する。なお、各磁束密度測定部102,202は、検出コイル13又は検出コイル23自身による電圧降下を抑制するために高入力インピーダンスの増幅器を有する。検出コイル13又は検出コイル23は、それぞれ対応する磁束密度測定部102,202の増幅器に接続され、各増幅器は、接続された検出コイル13又は検出コイル23の両端間に誘起される誘導電圧(検出信号)を、予め定められたゲインで増幅する。そして、磁束密度測定部102,202のそれぞれは、増幅した誘導電圧から、各検出コイル13,23のコイル形成面を通過した磁束Φ1,Φ2の時間微分値(相当値)を算出する(誘導電圧=−dΦ/dt)。そして、磁束密度測定部102,202のそれぞれは、磁束Φ1,Φ2の時間微分値を時間軸に対して積分することにより、磁束Φ1,Φ2を求め、この磁束Φ1,Φ2と予め設定されたコイル形成面の面積Sとにより、薄鋼板Fの磁束密度B1,B2(相当値)を算出する(B=Φ/S)。以上の信号処理は、検出信号を増幅した後、A/D変換器でデジタル信号にしてから実施することが望ましい。
【0044】
磁界測定部101,201は、それぞれ励磁電源32と、励磁コイル12又は励磁コイル22との間に配置される。そして、磁界測定部101,201のそれぞれは、磁化器10が発生させた磁界H1、又は、磁化器20が発生させた磁界H2を測定する。より具体的には、各磁界測定部101,201は、例えば、励磁電源32と、励磁コイル12又は励磁コイル22との間の接続線路上に直列に配置され、抵抗値R(例えば0.1〜1Ω程度)が既知の抵抗器を有する。そして、各磁界測定部101,201は、抵抗器の端子間電圧を測定し、この端子間電圧及び抵抗値Rより各接続線路上に流れる励磁電流値を測定する(励磁電流=端子間電圧/R)。そして、磁界測定部101,201は、励磁電流値から、磁化器10又は磁化器20が発生させる磁界H1又は磁界H2の大きさを算出する(磁界=励磁コイルの巻き数×励磁電流)。なお、ここでは、磁界測定部101,201が抵抗器を有する場合を説明したが、磁界測定部101,201は、抵抗器の代わりにCT(電流センサ)等の電流プローブを有し、この電流プローブにより励磁電流を測定してもよい。
【0045】
磁気特性算出部103,203は、磁界H1と磁束密度B1から磁化器10に対応したヒステリシスループL1を算出し、磁界H2と磁束密度B2から磁化器20に対応したヒステリシスループL2を算出する。そのために磁気特性算出部103,203は、例えば、多チャンネルのオシロスコープ、又はA/D(アナログ/デジタル)変換器及び測定値を処理するデータ処理部を備える。この磁気特性算出部103,203が算出するヒステリシスループL1,L2も薄鋼板Fの磁気的な性質を反映しており、磁気特性の一例である。このヒステリシスループL1,L2を図3に示す。
【0046】
図3は、本実施形態に係る磁気特性測定装置が測定する磁気特性の一例を説明するための説明図である。図3(A)は、磁化器10に対応したヒステリシスループL1を示し、図3(B)は、磁化器20に対応したヒステリシスループL2を示す。なお、本実施形態では、磁気特性測定装置が磁気特性の一例として、薄鋼板Fの保磁力Hcを測定する場合について説明する。各ヒステリシスループL1,L2において、磁束密度B1,B2が0となるときの磁界H1,H2の大きさの絶対値が、各磁化器10,20に対応した薄鋼板Fの保磁力Hc1,Hc2(相当値)を表す。また、磁界H1,H2が0となるときの磁束密度B1,B2の絶対値が、各磁化器10,20に対応した残留磁束密度Br1,Br2(相当値)を表す。そして、磁束密度B1,B2の最大値が最大磁束密度Bm1,Bm2(相当値)を表し、磁界H1,H2の大きさの最大値が最大磁界Hm1,Hm2(相当値)を表す。そこで、磁気特性算出部103,203は、これらの各ヒステリシスループL1,L2から、磁気特性として必要に応じた特徴量を抽出する。なお、本実施形態に係る磁気特性測定装置1は、上述の通り、磁気特性の一例として保磁力Hcを測定することを目的とするので、磁気特性算出部103,203のそれぞれは、少なくとも保磁力Hc1又は保磁力Hc2を抽出する。また、本実施形態に係る磁気特性測定装置1は、後述する薄鋼板Fの通板速さVによる誤差を求める際に、測定することを目的とする特徴量(ここでは保磁力Hc)、又は、それ以外の少なくとも1つの特徴量を使用することが可能である。また、この磁気特性測定装置1は、後述する薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxを求める際にも、測定することを目的とする特徴量(ここでは保磁力Hc)と同じ特徴量を使用することも可能であるが、ここではその特徴量以外の少なくとも1つの特徴量を使用する。この場合、測定する特徴量と、変位量Δxを求めるのに使用する特徴量とが異なることにより、パスラインの変位量Δxによる、測定する特徴量の誤差に対する補正の精度を向上させることが可能である。従って、磁気特性算出部103,203は、それぞれこれらの特徴量をも算出する。但し、通板速さVによる誤差を求める際に使用する特徴量と、変位量Δxを求める際に使用する特徴量とは異なる特徴量であってもよいが、本実施形態ではこれらの特徴量は、同じ最大磁束密度Bm1,Bm2である場合を例に説明する。なお、この特徴量は、最大磁束密度Bm1,Bm2に限定されるものではなく、例えば最大磁束密度Bm1,Bm2に達した際の磁界の大きさである最大磁界Hm1,Hm2(図16参照)、保磁力Hc1,Hc2、残留磁束密度Br1,Br2などであってもよい。
【0047】
つまり、磁気特性算出部103,203は、磁界H1,H2の大きさと、磁束密度B1,B2とから、各磁化器10,20に対して少なくとも2つずつの磁気特性(ここでは、保磁力Hc1,Hc2と、最大磁束密度Bm1,Bm2)を算出する。
【0048】
なお、ここでは磁気特性算出部103,203がヒステリシスループL1,L2を一旦算出し、各特徴量を抽出する場合について説明したが、磁気特性算出部103,203は、磁界H1,H2の大きさと磁束密度B1,B2とから、直接少なくとも2以上の磁気特性(特徴量)を算出してもよい。準静的に測定したヒステリシスループに対するアナロジー(類比)から、磁束密度B1,B2の変化が最も急峻な時刻における磁界H1,H2の大きさが、保磁力Hc1,Hc2に相当すると考えられる。よって、直接少なくとも2以上の磁気特性を算出する場合、例えば、磁束密度測定部102,202は、磁束Φ1,Φ2の時間微分値(相当値)を磁気特性算出部103,203に出力し(測定した検出コイルの電圧値に当たる)、磁気特性算出部103,203は、この時間微分値が最大又は最小となる時刻における磁界H1,H2の大きさを、保磁力Hc1,Hc2(相当値)として抽出してもよい。また、最大磁束密度Bm1,Bm2については、例えば、磁気特性算出部103,203は、磁束密度測定部102,202から出力された磁束密度B1,B2の最大値又は最小値を測定して、最大磁束密度Bm1,Bm2として抽出してもよい。一方、磁気特性として残留磁束密度Br1,Br2を測定する場合には、磁気特性算出部103,203は、例えば、磁界H1,H2の大きさが0となる時刻における磁束密度B1,B2を測定すればよい。更に、磁気特性として最大磁界Hm1,Hm2を測定する場合には、磁気特性算出部103,203は、磁束密度B1,B2が最大磁束密度Bm1,Bm2となる時刻における磁界H1,H2の大きさを測定すればよい。また、単に磁界H1,H2の最大値を、それぞれの最大値として求めることも可能である。
【0049】
変位量算出部301は、磁気特性算出部103,203が算出した2つの最大磁束密度Bm1,Bm2を取得する。そして、変位量算出部301は、この2つの最大磁束密度Bm1,Bm2に基づいて、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δx(ギャップ方向xの変動:通過位置の一例)を算出する。
【0050】
より具体的に説明する。
上述の通り、磁気特性算出部103,203は、それぞれ磁化器10又は磁化器20に対応した磁気特性を算出する。磁化器10及び磁化器20は同様の構成を有し、かつ、同一の対象(薄鋼板F)について測定するので、磁化器10に対応した磁気特性と、磁化器20に対応した磁気特性とは、一見すると、ほぼ一致することが予想される。しかしながら、本発明の発明者らは磁気特性測定装置等について鋭意研究を行った結果、各磁化器10,20で測定する磁気特性は、必ずしも一致しないことを見いだした。つまり、製造工程などにおいて通板される薄鋼板Fは、振動したり、反りなどの平坦でない形状等を有するので、パスラインにはギャップの中心からの「ずれ量」である変位量Δxが存在する。この変位量Δxは、薄鋼板Fに実際に印加される磁界H1,H2の大きさ、及び、その磁界H1,H2に応じた磁束密度B1,B2に影響を及ぼす。本発明の発明者らは、更に鋭意研究を行った結果、パスラインの変位量Δxと磁気特性の一例である最大磁束密度比(例えば、Bm1/Bm2)との間には、図4に示すような略一次関数的な相関関係が存在することを見いだした。薄鋼板Fの変動により薄鋼板Fが近づいた磁化器では、磁気抵抗が減少して、最大磁束密度が増加し、逆に薄鋼板Fが遠くなった磁化器では、磁気抵抗が増加して、最大磁束密度が減少する。その結果、図4に示すような相関関係が発生している。そこで、変位量算出部301は、このような変位量Δxと最大磁束密度比(Bm1/Bm2)との間の相関関係を利用して、変位量Δxをリアルタイムに算出する。
【0051】
つまり、図4に示す変位量Δxと最大磁束密度比(Bm1/Bm2)との間の相関関係を、予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、最大磁束密度比(Bm1/Bm2)を代入すると変位量Δxをかえす近似関数(相関関数、図4参照。)を算出しておき、この算出した近似関数を、相関データ記憶部302に記録しておく。そして、変位量算出部301は、最大磁束密度Bm1,Bm2に基づいて、まず、最大磁束密度比(Bm1/Bm2)を算出する。そして、変位量算出部301は、相関データ記憶部302から近似関数を取得して、その近似関数と最大磁束密度比(Bm1/Bm2)とから、変位量Δxを算出する。
【0052】
平均磁気特性算出部303は、磁気特性算出部103,203が算出した2つの保磁力Hc1,Hc2を取得する。そして、平均磁気特性算出部303は、この2つの保磁力Hc1,Hc2に基づいて、平均保磁力Hc0を算出する。また、平均磁気特性算出部303は、更に、磁気特性算出部103,203が算出した2つの最大磁束密度Bm1,Bm2を取得してもよい。そして、平均磁気特性算出部303は、この2つの最大磁束密度Bm1,Bm2に基づいて、平均最大磁束密度Bm0を算出してもよい。
【0053】
磁気特性補正部400は、平均磁気特性算出部303が算出した平均保磁力Hc0に含まれる誤差を補正して、保磁力Hcを算出する。この平均保磁力Hc0には、例えば、薄鋼板Fの通板速さV、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δx、薄鋼板Fの温度T、薄鋼板Fの応力Sなどに起因した誤差が含まれている。そこで、磁気特性補正部400は、これらの誤差が低減するように、平均保磁力Hc0を補正して、後段の機械的性質算出部501に保磁力Hcとして出力する。
【0054】
そのために磁気特性補正部400は、図2に示すように、変位量補正部410と、変位量補正データ記憶部411と、速さ補正部420と、速さ補正データ記憶部421と、温度補正部430と、温度補正データ記憶部431と、応力補正部440と、応力補正データ記憶部441とを有する。これらの各構成について、順次説明する。
【0055】
変位量補正部410は、変位量算出部301が算出した変位量Δxと、平均磁気特性算出部303が算出した平均保磁力Hc0とを取得する。そして、変位量補正部410は、変位量Δxに応じて、平均保磁力Hc0を補正する。
【0056】
より具体的に説明する。
本発明の発明者らは、上述の通り、パスラインの変位量Δxにより磁気特性が変動することなどを見いだしたが、本発明の発明者らは、鋭意研究を行った結果、パスラインの変位量Δxと磁気特性の誤差との間には、略2次関数的な相関関係が存在することをも更に見いだした。この変位量Δxと、磁気特性の誤差(ここでは平均保磁力Hc0の誤差ΔHc)との関係を、図5に示す。図5(A)には、変位量Δxが約−25mm〜約25mm程度における誤差ΔHcを示し、図5(B)には、変位量Δxが約−10mm〜約10mm程度における誤差ΔHcの拡大図を示す。そこで、変位量補正部410は、この変位量Δxと平均保磁力Hc0の誤差ΔHcとの相関関係を利用して、この誤差ΔHcが低減するように、平均保磁力Hc0を補正して、薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。
【0057】
つまり、図5に示す変位量Δxと平均保磁力Hc0の誤差ΔHcとの間の相関関係を、薄鋼板Fに応じて予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、変位量Δxを代入すると誤差ΔHc(%)をかえす近似関数(相関関数、図5参照。ここでは「変位量補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した変位量補正関数を、変位量補正データ記憶部411に記憶しておく。そして、変位量補正部410は、変位量補正データ記憶部411から変位量補正関数を取得して、その変位量補正関数と変位量Δxとから、誤差ΔHc(%)を算出する。更に、変位量補正部410は、誤差ΔHc(%)と平均保磁力ΔHc0(A)とから、平均保磁力Hc0に応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出し、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、変位量Δxに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。
【0058】
このような変位量補正部410を備えない場合、図5(B)に示すように、薄鋼板Fの変位量Δxが±5mm程度変化するだけで、保磁力Hcは、約2〜3%程度変動してしまう。これに対して、変位量補正部410による補正後の保磁力Hcの誤差ΔHcを、図6に示す。図6に示すように、変位量補正部410は、薄鋼板Fの変位量Δxが±10mm程度変化しても、誤差ΔHcを約1%程度以下にまで補正することが可能である。
【0059】
なお、この変位量Δxと平均保磁力Hc0の誤差ΔHcとの相関関係は、薄鋼板Fの仕様(例えば、厚みや成分など)により異なることがある。そのときには、薄鋼板Fの仕様に対応して補正関数を予め準備するのがよい。
【0060】
速さ補正部420は、変位量補正部410が補正した保磁力Hcを、更に、薄鋼板Fがパスラインを通過する通過速さVに起因した誤差が低減するように補正する。この補正を行うために、速さ補正部420は、例えば、薄鋼板Fの速さVを測定する速さ測定装置、薄鋼板Fを通板させるロールなどの駆動装置、その駆動装置や製造ライン全体を制御する制御装置など(図示せず)から、その速さVを取得する。また、この速さ補正部420は、薄鋼板Fの通板速さVだけでなく、磁気特性算出部103,203が算出した1又は2以上の磁気特性(本実施形態では、平均磁気特性算出部303が算出した平均磁気特性)を使用して、より正確な誤差補正を行うことができる。そのために、速さ補正部420は、平均磁気特性算出部303から平均保磁力Hc0と平均最大磁束密度Bm0とを取得する。
【0061】
より具体的にこの速さ補正部420について説明する。
本発明の発明者らは、上述の通り、パスラインの変位量Δxによる磁気特性の変動を補正することを可能にしたが、更に、磁気特性測定精度を向上させるべく鋭意研究を行った結果、薄鋼板F(つまり測定対象の磁性体)がパスラインを通過する通過速さVによっても、測定される磁気特性に変動が生じることを発見した。この速さVに依存した磁気特性(保磁力Hc)の誤差ΔHcを図7に示す。図7(A)〜(C)は、それぞれ種類や磁気特性が異なる薄鋼板Fについての、速さVの変化に対する保磁力Hcの誤差ΔHcの変化を示す。ここでは、図7(A)の薄鋼板FをA材とし、図7(B)の薄鋼板FをB材とし、図7(C)の薄鋼板FをC材とする。
【0062】
図7に示すように、保磁力Hcの誤差ΔHcは、薄鋼板Fの通板速さVに対して略一次関数的な変化を示すことを、本発明の発明者らは突き止めた。なお、本発明の発明者らは、このように通板速さVにより磁気特性の誤差ΔHcが変化する原因を、以下のように考察している。薄鋼板Fが交番磁界中を移動することにより、外部から印加される磁場の変化を妨げる渦電流が薄鋼板Fに発生する。その結果、磁界測定部101、201や検出コイル13,23による測定結果に影響が出て、保磁力Hcの上昇を招くことになる。一方、交番磁界の印加している際に薄鋼板Fが移動することにより、磁化反転が必要となる体積が、正確な磁気特性を測定するために必要な体積よりも減少してしまう。その結果、やはり磁界測定部101、201や検出コイル13,23による測定結果に影響が出て、保磁力Hcの低下を招くことになる。この渦電流による影響と、磁化反転の体積減少による影響とは、共に、薄鋼板Fが速さVによって移動することに起因しており、両者共に速さVに依存する。従って、保磁力Hcには、薄鋼板Fがパスラインを通過する速さVに起因した誤差ΔHcが含まれることになる。なお、ここで説明した通板速さVに起因した誤差ΔHcの発生原因は、本発明を限定するものではなく、他の原因でこのような誤差ΔHcが生じているとしてもよいことは、言うまでもない。
【0063】
(第1の速さ補正)
そこで、例えば、速さ補正部420が速さVを使用してその速さVに起因した誤差ΔHcを補正する場合、図7(A)〜(B)に示す速さVと保磁力Hcの誤差ΔHcとの間の相関関係を、薄鋼板Fに応じて予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、速さVを代入すると誤差ΔHc(%)をかえす近似関数(相関関数。ここでは「第1速さ補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した第1速さ補正関数を、速さ補正データ記憶部421に記憶しておく。そして、速さ補正部420は、速さ補正データ記憶部421から第1速さ補正関数を取得して、その第1速さ補正関数と速さVとから、誤差ΔHc(%)を算出する。更に、速さ補正部420は、誤差ΔHc(%)と保磁力Hc(A)とから、保磁力Hcに応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出し、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、速さVに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。従って、この速さ補正部420は、速さVに起因した誤差ΔHcをも低減させた保磁力Hcを算出するとができる。
【0064】
なお、この速さVに依存した誤差ΔHcの原因として考察した渦電流による影響と、磁化反転の体積減少による影響とのどちらの影響が強いかは、薄鋼板Fの磁気特性に依存すると考えられる。そこで、上記の速さ補正を行う場合、速さ補正データ記憶部421には、薄鋼板Fの種類など毎に第1速さ補正関数(図7(A)〜(C)等)が記録され、速さ補正部420は、その測定対象の薄鋼板Fに応じた第1速さ補正関数を取得して使用することが望ましい。
【0065】
(第2の速さ補正)
しかしながら、本発明の発明者らは、各薄鋼板F(A材〜C材等)に対する速さVと誤差ΔHcとの依存性について、更に鋭意研究を行った結果、薄鋼板Fの磁気特性と、速さVの変化に対する誤差ΔHc(%)の変化量(以下、「傾き」ともいう。)との間にも、相関関係があることを見出した。この磁気特性と、誤差ΔHcの傾きとの相関関係を、図8(A)及び(B)に示す。なお、図8(A)〜(C)の横軸における磁気特性は、薄鋼板Fが静止している際に測定したものである。図8(A)は、平均最大磁束密度Bm0と誤差ΔHcの傾きとの相関関係を示し、図8(B)は、平均保磁力Hc0と誤差ΔHcの傾きとの相関関係を示す。例えば、図8(A)に示すように、平均最大磁束密度Bm0と誤差ΔHcの傾きとの間には、略一次関数的な相関関係が存在することが判る。一方、例えば、図8(B)からも同様に、平均保磁力Hc0と誤差ΔHcの傾きとの間には、略一次関数的な相関関係が存在することが判る。なお、ここでは、誤差ΔHcの傾きとの間に相関関係が存在する磁気特性として、両磁化器10,20等からえられる両磁気特性の平均値を示しているが、磁化器10等及び磁化器20等から得られるどちらか一方の磁気特性(保磁力Hc1,Hc2、残留最大磁束密度Bm1,Bm2等)であっても、同様の相関関係が存在する。
【0066】
そこで、速さ補正部420は、上記第1の速さ補正に代えて、以下のように速さ補正を行うことが可能である。つまり、図8(A)、(B)に示す磁気特性と誤差ΔHcの傾きとの相関関係を予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、磁気特性を代入すると誤差ΔHc(%)の傾きをかえす近似関数(相関関数。ここでは「第2速さ補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した第2速さ補正関数を、速さ補正データ記憶部421に記憶しておく。そして、速さ補正部420は、速さ補正データ記憶部421から第2速さ補正関数を取得して、その第2速さ補正関数と、平均磁気特性算出部303から取得した磁気特性とから、誤差ΔHc(%)の傾きを算出する。更に、速さ補正部420は、この算出した傾きから、上記第1速さ補正関数を算出する。その後は、上記同様に、速さ補正部420は、算出した第1速さ補正関数と速さVとから、誤差ΔHc(%)を算出し、誤差ΔHc(%)と保磁力Hc(A)とから、保磁力Hcに応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出する。そして、速さ補正部420は、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、速さVに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。従って、このような速さ補正を行う速さ補正部420は、薄鋼板F毎に予め上記第1速さ補正関数を求めておく必要なく、速さVに起因した誤差ΔHcをも低減させた保磁力Hcを算出することが可能である。
【0067】
なお、速さ補正部420は、誤差ΔHcの傾きを、図8(A)に示す第2速さ補正関数を使用すれば、平均最大磁束密度Bm0により算出することができ、図8(B)に示す第2速さ補正関数を使用すれば、平均保磁力Hc0により算出することができる。どちらの第2速さ補正関数及び磁気特性を使用するのかについては、適宜選択が可能であるが、例えば、測定された両磁気特性や、その誤差、測定したい薄鋼板Fの鋼種などに応じて、適宜選択することが望ましい。但し、図8(A)及び図8(B)からも判るように、平均保磁力Hc0に対する相関関係の方が、平均最大磁束密度Bm0に対する相関関係よりも相関が強いため、薄鋼板Fに対しては、平均保磁力Hc0を使用することが望ましい。しかし、もちろん、この例に限定されるものではない。また、ここでは、誤差ΔHcの傾きを算出する際に使用する磁気特性の例として、平均最大磁束密度Bm0と平均保磁力Hc0を例示しているが、この例にも限定されるものではない。上述のように、磁気特性算出部103,203が算出する保磁力Hc1,Hc2、最大磁束密度Bm1,Bm2や、他の磁気特性やその平均値であっても、誤差ΔHcの傾きとの間に相関関係が認められる磁気特性であれば使用することが可能である。更に言えば、誤差ΔHcの傾きを算出する際に使用する磁気特性は、変位量補正部410により補正された保磁力Hc自体であってもよい。
【0068】
また、図8(A)及び(B)に示す磁気特性は、上述の通り、薄鋼板Fが静止している際に測定されたものであり、薄鋼板Fの移動中に測定できる磁気特性値とは若干異なる。しかし、静止時の磁気特性に対する移動中の磁気特性の誤差は、比較的小さい。従って、静止時の磁気特性から求まる補正関数を誤差算出時に使用したとしても、その結果得られる保磁力Hcに含まれる誤差は非常に小さくなる。つまり、例えば、図7(A)〜(C)に示す、静止時の磁気特性に対する移動中の磁気特性の誤差は、約±2%以下と比較的小さい。よって、例えば、静止時の磁気特性から求められた図8(B)に示す第2速さ補正関数を使用する場合、第2速さ補正関数の傾きが−0.0495であることから、その第2補正関数により算出される誤差ΔHcの傾きにおける誤差は、(約±2%)×(−0.0495)=(約±0.1%)となり、非常に小さく抑えられることになる。よって、このように静止時に測定された磁気特性を使用して誤差ΔHcの傾きを算出したとしても、補正の精度への影響は非常に小さい。
【0069】
(第3の速さ補正)
本発明の発明者らは、更に精度の良い誤差ΔHcを算出して、磁気特性の補正精度を高めるべく鋭意研究を行った結果、2種類の磁気特性間の比と、誤差ΔHcの傾きとの間の相関関係は、上記一の磁気特性に対する相関関係よりも強いことを見出した。
【0070】
2種類の磁気特性間の比の例として、測定すべき磁気特性である保磁力(平均保磁力Hc0)に対する、最大磁束密度(平均最大磁束密度)の比である場合について説明する。この場合の比と誤差ΔHcの傾きとの相関関係を図8(C)に示す。図8(C)の相関関係と、図8(A)又は(B)の相関関係とを比較すると、図8(C)の相関関係の方が相関が強いことが判る。従って、このような相関関係を使用して速さ補正を行うことにより、薄鋼板Fの磁気特性やその通板速さVなどに依存した誤差算出上の誤差を更に低減することができる。
【0071】
そこで、速さ補正部420は、上記第1又は第2の速さ補正に代えて、以下のように速さ補正を行うことが可能である。つまり、図8(C)に示す2種類の磁気特性の比と誤差ΔHcの傾きとの相関関係を予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、2種類の磁気特性の比を代入すると誤差ΔHc(%)の傾きをかえす近似関数(相関関数。ここでは「第3速さ補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した第3速さ補正関数を、速さ補正データ記憶部421に記憶しておく。そして、速さ補正部420は、平均磁気特性算出部303が算出した平均保磁力Hc0と平均最大磁束密度Bm0との差を算出する。その後、速さ補正部420は、速さ補正データ記憶部421から第3速さ補正関数を取得して、その第3速さ補正関数と、算出した比とから、誤差ΔHc(%)の傾きを算出する。更に、速さ補正部420は、この算出した傾きから、上記第1速さ補正関数を算出する。その後は、上記同様に、速さ補正部420は、算出した第1速さ補正関数と速さVとから、誤差ΔHc(%)を算出し、誤差ΔHc(%)と保磁力Hc(A)とから、保磁力Hcに応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出する。そして、速さ補正部420は、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、速さVに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。従って、このような速さ補正を行う速さ補正部420は、薄鋼板F毎に予め上記第1速さ補正関数を求めておく必要なく、更に、測定対象の薄鋼板Fの磁気特性やその通板速さVに寄らずに、速さVに起因した誤差ΔHcを精度良く算出して、その誤差ΔHcを低減させた保磁力Hcを算出することが可能である。
【0072】
なお、ここでは、2種類の磁気特性間の比として、平均保磁力Hc0に対する平均最大磁束密度Bm0の比を例に挙げたが、この比に使用される磁気特性も、この例に限定されるものではなく、測定対象である保磁力Hcの誤差ΔHcの傾きに対して相関関係のある2種類の磁気特性であれば、様々な磁気特性を使用することが可能である。しかし、この例の場合、平均保磁力Hc0に対する平均最大磁束密度Bm0の比(平均最大磁束密度Bm0/平均保磁力Hc0)は、薄鋼板Fの透磁率を直接的又は間接的に表していると言えるため、誤差ΔHcの傾きに対する相関関係が強くなる。よって、平均保磁力Hc0に対する平均最大磁束密度Bm0の比を使用することが望ましい。
【0073】
また、上記第1の速さ補正〜第3の速さ補正のうち、どの速さ補正を行うかは、速さ補正部420により適宜選択することができる。例えば、平均保磁力Hc0と平均最大磁束密度Bm0との両者が得られ測定値の信頼性が高い場合には、上記第3の速さ補正を行い、一方の測定値が得られない場合やその信頼性が低い場合には、上記第2の速さ補正を行うことも可能である。そして、両測定値の信頼性も低い場合などに、上記第1の速さ補正を行うことも可能である。
【0074】
次に、磁気特性補正部400が有する残りの構成について説明する。
温度補正部430は、速さ補正部420が補正した保磁力Hcを、薄鋼板Fの温度Tに基づいて補正する。この補正を行うために、温度補正部430は、例えば、薄鋼板Fの温度Tを測定する温度測定装置、温度Tを含めた製造ライン全体を制御する制御装置など(図示せず)から、薄鋼板Fの温度Tを取得する。一方、薄鋼板Fの温度Tと、保磁力Hcの誤差ΔHcとの間には、図9に示すような相関関係が存在する。そこで、図9に示すような温度Tと保磁力Hcの誤差ΔHcとの間の相関関係を、薄鋼板Fに応じて予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、温度T(℃)を代入すると誤差ΔHc(%)をかえす近似関数(相関関数。ここでは「温度補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した温度補正関数を、温度補正データ記憶部431に記憶しておく。そして、温度補正部430は、温度補正データ記憶部431から温度補正関数を取得して、その温度補正関数と薄鋼板Fの温度T(℃)とから、誤差ΔHc(%)を算出する。更に、温度補正部430は、誤差ΔHc(%)と保磁力Hc(A)とから、保磁力Hcに応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出し、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、温度Tに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。従って、この温度補正部430は、温度Tに起因した誤差ΔHcをも低減させた保磁力Hcを算出するとができる。なお、温度Tと保磁力Hcの誤差ΔHcとの間の相関関係は、薄鋼板Fの磁気特性等により異なる(図9中、○(丸)・◇(四角)・△(三角)の各データ点は、それぞれA材・B材・C材に相当する。)。よって、温度補正データ記憶部431には、薄鋼板F毎の温度補正関数が記録され、温度補正部430は、測定対象の薄鋼板Fに応じて温度補正関数を取得することが望ましい。
【0075】
応力補正部440は、温度補正部430が補正した保磁力Hcを、薄鋼板Fの応力S(張力)に基づいて補正する。この補正を行うために、応力補正部440は、例えば、薄鋼板Fの応力Sを測定する応力測定装置、製造ライン全体を制御する制御装置など(図示せず)から、薄鋼板Fの応力Sを取得する。一方、薄鋼板Fの応力Sと、保磁力Hcの誤差ΔHcとの間には、図10に示すような相関関係が存在する。そこで、図10に示すような応力Sと保磁力Hcの誤差ΔHcとの間の相関関係を、薄鋼板Fに応じて予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、応力S(MPa)を代入すると誤差ΔHc(%)をかえす近似関数(相関関数。ここでは「応力補正関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した応力補正関数を、応力補正データ記憶部441に記憶しておく。そして、応力補正部440は、応力補正データ記憶部441から応力補正関数を取得して、その応力補正関数と薄鋼板Fの応力S(MPa)とから、誤差ΔHc(%)を算出する。更に、応力補正部440は、誤差ΔHc(%)と保磁力Hcとから、保磁力Hcに応じた誤差ΔHc(A)の大きさを算出し、この誤差ΔHcの大きさを平均保磁力Hc0に加算又は減算して、応力Sに対する誤差を低減させた薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。従って、この応力補正部440は、応力Sに起因した誤差ΔHcをも低減させた保磁力Hcを算出するとができる。なお、応力Sと保磁力Hcの誤差ΔHcとの間の相関関係は、薄鋼板Fの磁気特性等により異なる(図10中、○(丸)・◇(四角)・△(三角)の各データ点は、それぞれA材・B材・C材に相当する。)。よって、応力補正データ記憶部441には、薄鋼板F毎の応力補正関数が記録され、応力補正部440は、測定対象の薄鋼板Fに応じて応力補正関数を取得することが望ましい。
【0076】
再び図1を参照し、磁気特性測定装置1が有する他の構成について説明する。
機械的性質算出部501は、磁気特性補正部400が補正した保磁力Hcから、薄鋼板Fの機械的性質の一例として降伏点Ypを算出する。より具体的には、薄鋼板Fの保磁力Hcと降伏点Ypとの間には、図11に示すような相関関係が存在する。従って、薄鋼板Fに応じて保磁力Hcと降伏点Ypとの間の相関関係を、予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、保磁力Hcを代入すると降伏点Ypをかえす近似関数(相関関数、図11参照。ここでは「機械的性質関数」ともいう。)を算出しておき、この算出した機械的性質関数を、機械的性質データ記憶部502に記憶しておく。そして、機械的性質算出部501は、機械的性質データ記憶部502から機械的性質関数を取得して、この機械的性質関数に変位量補正部410が補正した保磁力Hcを代入して、薄鋼板Fの降伏点Ypを求めることができる。
【0077】
なお、図11に示す機械的性質関数も薄鋼板Fの性質(例えば、厚みや成分など)により異なる。よって、機械的性質データ記憶部502には、薄鋼板Fの性質に応じた複数の機械的性質関数を記録しておき、機械的性質算出部501は、薄鋼板Fの製造ラインの制御装置等から薄鋼板Fの性質に関する情報を取得して、この情報に示された性質に応じた機械的性質関数を、機械的性質データ記憶部502から取得して使用することも可能である。
【0078】
また、磁気特性補正部400で補正された薄鋼板Fの保磁力Hc、及び、機械的性質算出部501で算出された薄鋼板Fの降伏点Ypの少なくとも1方は、例えば、別途の表示装置に表示されたり、別途の記憶装置に記録されてもよい。
【0079】
(磁気特性測定装置の動作)
以上、本実施形態に係る磁気特性測定装置1の構成等について説明した。次に、図12を参照しつつ、磁気特性測定装置1の動作について説明する。
【0080】
図12に示すように、まず、ステップS01が処理され、磁化器10,20に磁界H1,H2を発生させて、磁化器10,20の間を通過する薄鋼板Fを磁化させる(磁化ステップ)。次に、ステップS11が処理され、磁界測定部101により各磁化器10,20の磁界H1,H2の大きさを測定する(磁界測定ステップ)。そして、ステップS12が処理され、検出コイル13,23及び磁束密度測定部102,202により、薄鋼板Fの各磁化器10,20に応じた磁束密度B1,B2を測定する(磁束検出ステップ、磁束密度測定ステップ)。そして、ステップS21に進む。
【0081】
ステップS21(磁気特性算出ステップ)では、磁気特性算出部103が、磁界H1の大きさ及び磁束密度B1に基づいて、磁気特性として、ヒステリシスループL1を算出し、このヒステリシスループL1から保磁力Hc1と最大磁束密度Bm1を抽出する。一方、磁気特性算出部203が、磁界H2の大きさ及び磁束密度B2に基づいて、磁気特性として、ヒステリシスループL2を算出し、このヒステリシスループL2から保磁力Hc2と最大磁束密度Bm2を抽出する。ただしこの際、上述の通り、一旦ヒステリシスループL1,L2を算出することは、必ずしも必要ではない。そして、ステップS31に進む。
【0082】
ステップS31(通過位置算出ステップの一例)では、変位量算出部301が、最大磁束密度Bm1,Bm2と相関データ記憶部302に記録された近似関数(図4参照。)とに基づいて、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxを算出する。そして、ステップS32に進み、平均磁気特性算出部303が、保磁力Hc1,Hc2から平均保磁力Hc0を算出する。そして、ステップS41に進む。
【0083】
ステップS41(変位量補正ステップ(磁気特性補正ステップの一例))では、磁気特性補正部400が有する変位量補正部410が、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxに応じ、変位量補正データ記憶部411に記録された補正関数(図5参照。)を使用して平均保磁力Hc0を補正して薄鋼板Fの保磁力Hcを算出する。そして、ステップS42に進む。
【0084】
ステップS42(速さ補正ステップ(磁気特性補正ステップの一例))では、磁気特性補正部400が有する速さ補正部420が、薄鋼板Fの通板速さVに応じて、速さ補正データ記憶部421に記録された補正関数(図7又は図8参照。)を使用して保磁力Hcを補正して、速さVに起因した誤差ΔHcが低減した保磁力Hcを算出する。そして、ステップS43に進む。
【0085】
ステップS43(温度補正ステップ(磁気特性補正ステップの一例))では、磁気特性補正部400が有する温度補正部430が、薄鋼板Fの温度Tに応じて、温度補正データ記憶部431に記録された補正関数(図9参照。)を使用して保磁力Hcを補正して、薄鋼板Fの温度Tに起因した誤差ΔHcが低減した保磁力Hcを算出する。そして、ステップS44に進む。
【0086】
ステップS44(応力補正ステップ(磁気特性補正ステップの一例))では、磁気特性補正部400が有する応力補正部440が、薄鋼板Fの応力Sに応じて、応力補正データ記憶部441に記録された補正関数(図10参照。)を使用して保磁力Hcを補正して、薄鋼板Fの応力Sに起因した誤差ΔHcが低減した保磁力Hcを算出する。そして、ステップS51に進む。
【0087】
ステップS51では、機械的性質算出部501が、補正された保磁力Hcと、機械的性質データ記憶部502に記録された機械的性質関数(図11参照。)とに基づいて、薄鋼板Fの機械的性質として、降伏点Ypを算出する。
【0088】
かかる動作を通じて、磁気特性測定装置1は、通板される薄鋼板Fの磁気特性を、更に安定して精度良く、かつ、容易に測定することができる。
【0089】
(磁気特性測定装置による測定結果の一例)
以上、本実施形態に係る磁気特性測定装置1の構成及び動作等について説明した。次に、図13〜図15を参照して、このように構成された磁気特性測定装置1による測定結果の一例を説明する。図13は、本実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例を説明するための説明図である。図14は、本実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例における効果を説明するための説明図である。図15は、本実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例における効果を説明するための説明図である。
【0090】
なお、ここで説明する測定結果の一例の測定条件を説明すれば、以下の通りである。
磁化器10,20は、それぞれ板厚が0.23mmの電磁鋼板を積層して形成した。この際の各磁化器10,20中の2つの磁極の間隔は、約200mm、磁化器10,20の幅(図1における紙面と垂直な方向の幅)は、約100mmとなるように、両磁化器10,20を形成した。このように形成した磁化器10,20を、両者のギャップの間隔が約50mmとなるように対向して配置した。また、発振器31の周波数を50Hzとし、励磁コイル12,22に流される励磁電流の振幅を3.6Aとした。なお、励磁コイル12としては、直径2mmのエナメル被覆銅線を150ターンずつ、磁化器10の両腕部に巻き付けて形成した。一方、検出コイル13としては、直径0.2mmのエナメル被覆銅線を使用し、5ターン巻くことにより形成した。そして、励磁コイル22及び検出コイル23も、励磁コイル12及び検出コイル13と同様に形成した。そして、図3〜図11等に示した必要な測定値を取得して各補正関数などを磁気特性測定装置1に記録した。なお、上記磁気測定装置の構成及び動作において例示した各測定結果(図3〜図11参照。)を測定した際に使用した測定条件も、上記と同様の条件で測定した。
【0091】
まず、図13及び図14を参照しつつ、変位量補正部410によるパスラインの変位量Δxの補正に対する測定例について説明する。この変位量Δxの補正に対する測定例では、磁化器10,20間に通板される測定対象として、機械試験により求められた降伏点Ypが約330MPaと機械的性質が既知の薄鋼板Fを用意した。この薄鋼板Fの板厚は、約1mmとした。
【0092】
上記のような測定条件下において、磁気特性測定装置1により薄鋼板Fの機械的性質を測定した結果を図13に示す。図13に示すように、本実施形態に係る磁気特性測定装置1によれば、薄鋼板Fのパスラインの変動(Δx=±10mm)に対して、降伏点Ypの測定誤差ΔYpは、約5MPa程度に抑制することが可能であることが見て取れる。
【0093】
一方、図14には、変位量補正部410等を備えず、補正をしていない平均保磁力Hc0から薄鋼板Fの機械的性質を算出した結果を示す。図14に示すように、平均保磁力Hc0を補正しない場合、薄鋼板Fのパスラインの変動量Δxが±4mm存在すれば、降伏点Ypの測定誤差ΔYpは、約10MPa程度も存在し、更に変動量Δxの絶対値が増加すれば、測定誤差ΔYpは、2次関数的に増加してしまうことが判る。これに対して、上述の通り、本実施形態に係る磁気特性測定装置1は、変位量補正部410等を備えることにより、Δx=±4mmにおいて、降伏点Ypの測定誤差ΔYpを約半分以下に抑えることができる。
【0094】
次に、図15を参照しつつ、速さ補正部420による速さVの補正に対する測定例について説明する。この速さVの補正に対する測定例では、磁化器10,20間に通板速さVで通板される測定対象として、降伏点Ypが約510MPaと機械的性質が既知の薄鋼板Fを用意した。これらの薄鋼板Fの板厚も、約1mmとした。そして、薄鋼板Fの通板速さVを、0〜167mpmの範囲で変化させて、本実施形態に係る磁気特性測定装置1による磁気特性測定を行った。
【0095】
上記のような測定条件下において、磁気特性測定装置1により機械的性質を測定した結果を図15に示す。なお、速さ補正部420による速さVの補正を行った測定例を、図15では白抜きの四角(□)で示した。この場合、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxは、その薄鋼板Fをギャップの中心を移動する台上に載せて測定したため、ほぼゼロに等しい。また、図15には更に、上記図13及び図14で示した変位量Δxの補正を行った測定例(つまり真の降伏点が約330MPaの薄鋼板F)をも、黒塗りの四角(◆)で併記した。
【0096】
図15(A)は、磁気特性補正部400による補正を行う前の平均保磁力Hc0を横軸にして、静止中の測定対象に対して試験を行い得られた機械的性質(降伏点Yp)、つまり真の機械的性質を縦軸にしている。図15(A)に示すように、速さVの変化に対して、測定結果である平均保磁力Hc0に約0.03(A)程度の誤差ΔHcが生じていることが判る。
【0097】
図15(B)は、図15(A)の測定結果である平均保磁力Hc0から機械的性質算出部501により機械的性質(降伏点Yp)を算出した結果を示している。この際、横軸を、その算出結果である機械的性質、つまり、補正前の降伏点Ypの測定値とし、縦軸を、上記同様真の機械的性質とした。この図15(B)では、破線で示す線からの各測定点のずれ量が機械的性質の誤差を示すことなる。図15(B)に示すように、速さVの変化に対する機械的性質には、平均保磁力Hc0の誤差が反映されて約50MPa(=約10%)程度誤差ΔYpが生じていることが判る。
【0098】
これらに対して、図15(C)は、図15(A)の測定結果である平均保磁力Hc0に、磁気特性補正部400による補正(速さV補正又は変位量Δx補正)を行って、誤差ΔHcが低減した保磁力Hcを算出し、その保磁力Hcから機械的性質算出部501により機械的性質(降伏点Yp)を算出した結果を示している。この際、横軸を、磁気特性補正部400による補正が行われた保磁力Hcから算出された機械的性質、つまり、補正後の降伏点Ypの測定値とし、縦軸を、上記同様真の機械的性質とした。この図15(C)でも、破線で示す線からの各測定点のずれ量が機械的性質の誤差を示すことなる。図15(C)に示すように、速さVの変化に対する機械的性質の誤差ΔYpは、約20MPa(=約4%)程度にまで減少していることが判る。なお、この図15(A)〜(C)では、上述の通り、変位量Δxの補正を行った測定例(つまり真の降伏点が約330MPaの薄鋼板F)をも、黒塗りの四角(◆)で併記したが、この測定例からも、変位量Δxの補正により誤差が大幅に減少していることが判る。なお、磁気特性補正部400は、速さVの補正を行った測定例に、更に変位量Δx補正、温度T補正、応力S補正を行うことにより、測定誤差を減少させることが可能である。
【0099】
(磁気特性測定装置による効果の一例)
以上、本発明の一実施形態に係る磁気特性測定装置1の構成、動作及び測定例等について説明した。この磁気特性測定装置1によれば、磁気特性補正部400を備えることにより、薄鋼板Fの通板中においても、通板速さV等に起因した誤差を低減させて、より安定して精度よく薄鋼板Fの保磁力Hcを測定することができる。その結果、磁気特性測定装置1は、更に安定して精度よく薄鋼板Fの降伏点Ypを算出することが可能である。
【0100】
特に、磁気特性測定装置1は、速さ補正部420等を備えることにより、薄鋼板Fの速さVと磁気特性測定装置1が測定する磁気特性とにより、速さVに起因した誤差を補正することができる。従って、例えば、磁化器10,20に流す励磁電流を増減させて大電流を流すことが可能な特別な手段等を必要とせず、装置構成が単純で安価に製造可能である。また、この際、磁気特性測定装置1は、交流磁化を行うことができるため、直流磁化を行う場合のように薄鋼板Fに磁気が残留して鉄粉等が付着することにより製品としての品質が劣化してしまうようなことがなく、製造への影響を少なく抑えて磁気特性を測定することが可能である。
【0101】
また、変位量算出部301等を備えることにより、薄鋼板Fに接触して変位量Δxを測定する変位計などの別途のセンサを配置することなく、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxを算出することができる。また、磁化器10,20等の構成も、製造工程中を通板する薄鋼板Fの近傍に容易に配置することが可能である。従って、磁気特性測定装置1は、容易に磁気特性を測定することが可能である。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0103】
(変位量算出等の変更例)
例えば、上記実施形態では、変位量算出部301等により、磁気特性の一つである最大磁束密度Bm1,Bm2から、薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxを算出する場合について説明した。しかし、変位量Δxの算出に使用される磁気特性は、この例に限定されるものではない。つまり、変位量算出部301は、変位量Δxとの間に相関関係がある様々な磁気特性に基づいて、変位量Δxを算出することが可能である。このような磁気特性の例としては、例えば、図16に示すような最大磁界Hm1,Hm2の強度比(例えばHm1/Hm2)や、保磁力比(例えばHc1/Hc2)、残留磁束密度比(例えばBr1/Br2)などが挙げられる。例えば、磁気特性が最大磁界Hm1,Hm2の強度比(Hm1/Hm2)(以下「最大磁界比」ともいう。)である場合には、変位量算出部301により、以下のように変位量Δxが算出される。つまり、図4に示す相関関係の代わりに、図16に示す変位量Δxと最大磁界比(Hm1/Hm2)との間の相関関係を、予め実験等により測定し、この測定結果を使用して、最大磁界比(Hm1/Hm2)を代入すると変位量Δxをかえす近似関数(相関関数、図16参照。)を算出しておき、この算出した近似関数を、相関データ記憶部302に記録しておく。そして、変位量算出部301は、最大磁界Hm1,Hm2に基づいて、まず、最大磁界比(Hm1/Hm2)を算出する。そして、変位量算出部301は、相関データ記憶部302から近似関数を取得して、その近似関数と最大磁界比(Hm1/Hm2)とから、変位量Δxを算出することができる。
なお、薄鋼板Fは、上記実施形態で説明した最大磁束密度比(Bm1/Bm2)や最大磁界比(Hm1/Hm2)は、例えば保磁力比や残留磁束密度比等の他の磁気特性に比べて、変位量Δxに対する相関関係が強い。よって、薄鋼板Fの場合には、変位量算出部301は、最大磁束密度比(Bm1/Bm2)又は最大磁界比(Hm1/Hm2)を使用して変位量を算出することが望ましい。但し、変位量算出部301は、例えば、磁気特性算出部103,203による各磁気特性に対する算出精度等を考慮して、当該精度が最も高い磁気特性を使用して、変位量Δxを算出することも可能である。
【0104】
また、磁気特性測定装置1は、変位量Δxを、磁気特性に寄らずに検出してもよい。この際、磁気特性測定装置1は、変異量Δxを直接的又は間接的に検出できる他の方法でも、簡便であれば用いることができる。また、この場合、磁気特性測定装置1は、変位量算出部301を必ずしも備える必要はない。磁気特性測定装置1は、例えば、薄鋼板Fに接触して薄鋼板Fのパスラインの変位量Δxを測定する機械式変位計や、薄鋼板Fに対して光を発し薄鋼板Fにおける反射光から変位量Δxを測定する光学式変位計などのように、薄鋼板Fの変位量Δxを測定する変位計(センサ)を備えてもよい。図12に示した磁気特性測定装置1の動作中のステップS32の代わりに変位量測定ステップを処理してもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、磁気特性測定装置1は、平均磁気特性算出部303を備える場合について説明した。しかし、本発明はかかる例に限定されず、磁気特性測定装置1は、平均磁気特性算出部303を備えなくてもよい。この場合、例えば、変位量補正データ記憶部411等には、保磁力Hc1及び保磁力Hc2のどちらか一方と変位量Δxとの相関関係を表した補正関数を記録しておき、変位量補正部410等は、この補正関数と、補正関数に表された保磁力Hc1又は保磁力Hc2とに基づいて、薄鋼板Fの保磁力Hcを算出することも可能である。
【0106】
また、上記実施形態では、磁気特性補正部400における保磁力Hcへの補正として、変位量補正部410による変位量Δxに対する補正、速さ補正部420による薄鋼板Fの通板の速さ(移動の速さ)Vに対する補正、温度補正部430による温度Tに対する補正、そして、応力補正部440による応力Sに対する補正の順で行われる場合について説明した。しかしながら、各補正を行う順番は、この例に限定されるものではない。例えば、まず、速さ補正を行った後に、他の補正を行うことなども可能である。また、変位量Δxによる補正、温度Tによる補正、及び、応力Sによる補正の少なくとも1つを行わないことも可能である。なお、上記のように磁気特性測定装置1が平均磁気特性算出部303を備えない場合、始めに補正を行う補正部が、保磁力Hc1又は保磁力Hc2に基づいて、上記同様、薄鋼板Fの保磁力Hcを算出することが望ましい。
【0107】
(磁化器の個数についての変更例)
また、上記実施形態では、2つの磁化器10,20を備えて、2つの磁化器10,20それぞれに対して検出コイル13,23、磁界測定部101,201、磁束密度測定部102,202及び磁気特性算出部103,203を備える場合について説明した。しかし、磁化器の個数は、2つに限定されるものではなく、1つや3つ以上であってもよい。磁化器が3つ以上の場合には、検出コイル、磁界測定部、磁束密度測定部及び磁気特性算出部等を、各磁化器に対応する個数備えることが望ましい。また、磁化器が1つの場合、つまり、例えば磁化器10のみの場合、他方の磁化器20に対する検出コイル23、磁界測定部201、磁束密度測定部202及び磁気特性算出部203は、必ずしも必要ではなく、逆も同様である。
【0108】
この1つの磁化器10のみを備える場合、変位量算出部301及び平均磁気特性算出部303も必ずしも必要ではない。この場合、上記のように、変異量Δxを直接的又は間接的に検出できる他の方法により変位量を算出又は測定することが可能な変位計を備えることが望ましい。つまり、変位量補正部410は、変位量算出部301から出力された変位量Δxの代わりに、変位計で測定された変位量Δxを使用して、平均磁気特性算出部303が算出した平均磁気特性(平均保磁力Hc0)の代わりに、磁気特性算出部103で算出された磁気特性(保磁力Hc1)を補正して、保磁力Hcを算出することができる。また、このような1つの磁化器、又は、上記実施形態のような2つの対向する磁化器の組を、薄鋼板Fの幅方向に複数並べて、機械的性質の幅方向の変化を測定することも可能である。
【0109】
(機械的性質の変更例)
また、上記実施形態では、機械的性質として降伏点Ypを例に挙げて説明した。しかしながら、この機械的性質は、上述の通り、この例に限定されるものではない。機械的性質としては、磁気特性との間に何らかの相関関係が認められるものであれば、如何なる機械的性質も算出可能である。なお、機械的性質は、上述の通り、測定対象の機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味し、その降伏点Yp以外の例としては、引張強度・伸び率・絞り・硬さ・衝撃値・疲れ強さ・クリープ強さなどが挙げられる。ここで機械的性質算出部501による他の機械的性質の幾つかの算出例について説明する。
【0110】
上記実施形態に係る機械的性質算出部501は、薄鋼板Fにおいて予め測定した保磁力Hcと降伏点Ypとの相関関係を表した機械的性質関数を機械的性質データ記憶部502から取得して、その機械的性質関数に基づいて、磁気特性補正部400が補正した保磁力Hcから降伏点Ypを算出する。そして、この機械的性質関数として、図11を例示した。機械的性質算出部501は、他の機械的性質を求める場合も、同様に算出することが可能である。
【0111】
例えば、図17には、薄鋼板Fに対する保磁力Hcと引張強度Tsとの相関関係(つまり機械的性質関数)を示す。また、図18には、薄鋼板Fに対する保磁力Hcと伸び率ELとの相関関係(つまり機械的性質関数)を示す。図11に示した保磁力Hcと降伏点Ypとの間の機械的性質関数に代えてか加えて、この図17に示す保磁力Hcと引張強度Tsとの機械的性質関数、及び、図18に示す保磁力Hcと伸び率ELとの機械的性質関数の少なくとも一方をも予め実験等により求めて、機械的性質データ記憶部502に記録しておく。そして、機械的性質算出部501は、機械的性質データ記憶部502から機械的性質関数を取得して、これらの機械的性質関数に磁気特性補正部400が補正した保磁力Hcを代入して、薄鋼板Fの降伏点Ypだけでなく引張強度Tsや伸び率ELを求めることが可能である。
【0112】
なお、引張強度Tsや伸び率ELなどの機械的性質も薄鋼板Fの性質(例えば、厚みや成分など)により異なる。よって、機械的性質データ記憶部502には、薄鋼板Fの性質に応じた複数の機械的性質関数を記録しておき、機械的性質算出部501は、薄鋼板Fの製造工程の制御装置等から薄鋼板Fの性質に関する情報を取得して、この情報に示された性質に応じた機械的性質関数を、機械的性質データ記憶部502から取得して使用することが望ましい。
【0113】
このように、機械的性質は、上記実施形態での例「降伏点Yp」に限定されるものではなく、ここで図17及び図18に例示した「引張強度Ts」及び「伸び率EL」であってもよい。もちろん、この機械的性質は、これら以外にも、例えば絞り・硬さ・衝撃値・疲れ強さ・クリープ強さなどのように、機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味し、かつ、磁気特性との間に相関関係が存在するものであってもよく、機械的性質算出部501は、これらの様々な機械的性質を上記同様に算出可能であることは言うまでもない。
【0114】
(磁気特性の変更例)
また、これらの機械的性質は薄鋼板Fの磁気特性から算出され、上記実施形態では、その磁気特性として「保磁力Hc(相当値)」を例に挙げて説明した。しかしながら、この磁気特性も、上述の通り、この例に限定されるものではない。磁気特性としては、様々な磁気的性質の特性値を採用することができる。ただし、単に磁気特性を算出するだけでなく、上記のように機械的性質を算出する場合には、磁気特性測定装置1が測定する磁気測定は、機械的性質との間に何らかの相関関係が認められるものであることが望ましい。なお、磁気特性とは、上述の通り、磁性体が磁化された場合にその磁性体が示す磁気的な諸特性を意味し、その保磁力Hc以外の例としては、鉄損・最大磁束密度(飽和磁束密度)・透磁率・残留磁束密度(残留磁化)などが挙げられる。ここで、機械的性質との間に相関関係が存在する磁気特性の他の例として、残留磁束密度Brについて説明する。
【0115】
磁気特性の例としての残留磁束密度Brと機械的性質との相関関係(つまり機械的性質関数)を、図19〜図21に示す。図19には、薄鋼板Fに対する残留磁束密度Brと降伏点Ypとの機械的性質関数を示す。図20には、薄鋼板Fに対する残留磁束密度Brと引張強度Tsとの機械的性質関数を示す。そして図21には、薄鋼板Fに対する残留磁束密度Brと伸び率ELとの機械的性質関数を示す。図19〜図21に示すように、磁気特性の例としての残留磁束密度Brと機械的性質と間にも相関関係が存在する。
【0116】
そこで、磁気特性として残留磁束密度Brを使用する場合、図19〜図21に示すような残留磁束密度Brと各磁気特性との間の機械的性質関数を、予め実験等により測定して作成し、機械的性質データ記憶部502に記録しておく。一方、磁気特性算出部103,203と、平均磁気特性算出部303と、磁気特性補正部400となどにより、残留磁束密度Brを算出する。そして、機械的性質算出部501は、これらの機械的性質関数を機械的性質データ記憶部502から取得して、その機械的性質関数に基づいて、磁気特性補正部400が補正した残留磁束密度Brから降伏点Yp・引張強度Ts・伸び率ELなどの機械的性質を算出することができる。ただし、この場合も機械的性質は、これらの例に限定されるものではない。
【0117】
なお、磁気特性算出部103,203と平均磁気特性算出部303と磁気特性補正部400となどによる残留磁束密度Brの算出は、上記保磁力Hcの場合と同様に行うことが可能である。より具体的に説明すると以下の通りである。
【0118】
上述の通り、磁気特性算出部103,203は、図3に示すような各磁化器10,20に応じたヒステリシスループL1,L2を算出する。このヒステリシスループL1,L2中、磁界H1,H2が0となるときの磁束密度B1,B2の絶対値が、各磁化器10,20に対応した残留磁束密度Br1,Br2を表す。そこで、磁気特性算出部103,203は、各磁化器10,20に対応した保磁力Hc1,Hc2に代えて、ヒステリシスループL1,L2から残留磁束密度Br1,Br2を算出する。
【0119】
そして、平均磁気特性算出部303は、磁気特性算出部103,203が算出した2つの残留磁束密度Br1,Br2に基づいて、平均残留磁束密度Br0を算出する。
【0120】
その後、磁気特性補正部400は、変位量算出部301が算出した変位量Δxや速さV,温度T,応力S等に応じて、この平均残留磁束密度Br0を補正する。この場合、図5,図8〜図10等に示した変位量Δx,速さV,温度T又は応力Sと平均保磁力Hc0の誤差ΔHcとの間の補正関数の代わりに、図22に示すような、変位量Δx,速さV,温度T又は応力Sと平均残留磁束密度Br0の誤差ΔBr(%)との間の同様な補正関数を、予め実験等により測定及び算出して、変位量補正データ記憶部411,速さ補正データ記憶部421,温度補正データ記憶部431又は応力補正データ記憶部441に記録しておく。そして、磁気特性補正部400は、変位量Δx,速さV,温度T又は応力Sと図22に示す補正関数とにより、上記同様に、平均残留磁束密度Br0の誤差ΔBrを算出し、その誤差ΔBrを平均残留磁束密度Br0に加算又は減算して、誤差を低減させた薄鋼板Fの残留磁束密度Brを算出することが可能である。
【0121】
このように、磁気特性も、上記実施形態での例「保磁力Hc」に限定されるものではなく、図19〜図21で例示した「残留磁束密度Br」であってもよい。もちろん、この磁気特性は、これら以外にも、例えば鉄損・磁束密度・最大磁束密度(飽和磁束密度)・最大透磁率などの磁気的な諸特性を意味するものであればよく、磁気特性測定装置1は、これらの様々な磁気特性を上記同様に測定可能であることは言うまでもない。この際、機械的性質を算出しないのであれば、磁気特性測定装置1は、磁気特性として機械的性質との間に相関関係が認められないような磁気測定をも測定可能である。
【0122】
また、上記一実施形態で説明した一連の処理の少なくとも一部は、専用のハードウエアにより実行させてもよいが、ソフトウエアにより実行させてもよい。一連の処理をソフトウエアにより行う場合、汎用又は専用のコンピュータにプログラムを実行させることにより、上記の一連の処理を実現することができる。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)と、HDD(Hard Disk Drive)・ROM(Read Only Memory)・RAM(Random Access Memory)等の記録装置と、LAN(Local Area Network)・インターネット等のネットワークに接続された通信装置と、マウス・キーボード等の入力装置と、フレキシブルディスク、各種のCD(Compact Disc)・MO(Magneto Optical)ディスク・DVD(Digital Versatile Disc)等の光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体等を読み書きするドライブと、モニタなどの表示装置・スピーカやヘッドホンなどの音声出力装置などの出力装置等と、を有してもよい。そして、このコンピュータは、記録装置・リムーバブル記録媒体に記録されたプログラム、又はネットワークを介して取得したプログラムを実行することにより、上記一連の処理を実行してもよい。
【0123】
尚、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気特性測定装置の構成について説明するための説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る磁気特性補正部の構成について説明するための説明図である。
【図3】同実施形態に係る磁気特性測定装置が測定する磁気特性の一例を説明するための説明図である。
【図4】同実施形態に係る磁気特性測定装置によるパスラインの変位量の算出について説明するための説明図である。
【図5】同実施形態に係る磁気特性測定装置による変位量に対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図6】同実施形態に係る磁気特性測定装置による変位量に対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図7】同実施形態に係る磁気特性測定装置による通板速さに対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図8】同実施形態に係る磁気特性測定装置による通板速さに対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図9】同実施形態に係る磁気特性測定装置による温度に対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図10】同実施形態に係る磁気特性測定装置による応力に対する磁気特性の補正について説明するための説明図である。
【図11】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出について説明するための説明図である。
【図12】同実施形態に係る磁気特性測定装置の動作について説明するための説明図である。
【図13】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例を説明するための説明図である。
【図14】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例における効果を説明するための説明図である。
【図15】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出結果の一例における効果を説明するための説明図である。
【図16】同実施形態に係る磁気特性測定装置によるパスラインの変位量の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図17】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図18】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図19】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図20】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図21】同実施形態に係る磁気特性測定装置による機械的性質の算出の変更例について説明するための説明図である。
【図22】同実施形態に係る磁気特性測定装置による磁気特性の補正の変更例について説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0125】
1 磁気特性測定装置
10,20 磁化器
11,21 ヨーク
12,22 励磁コイル
13,23 検出コイル
31 発振器
32 励磁電源
101,201 磁界測定部
102,202 磁束密度測定部
103,203 磁気特性算出部
301 変位量算出部
302 相関データ記憶部
303 平均磁気特性算出部
400 磁気特性補正部
410 変位量補正部
411 変位量補正データ記憶部
420 速さ補正部
421 速さ補正データ記憶部
430 温度補正部
431 温度補正データ記憶部
440 応力補正部
441 応力補正データ記憶部
501 機械的性質算出部
502 機械的性質データ記憶部
F 薄鋼板
H,H1,H2 磁界
Hm1,Hm2 最大磁界
Hc,Hc1,Hc2 保磁力
Hc0 平均保磁力
B1,B2 磁束密度
Bm0 平均最大磁束密度
Bm1,Bm2 最大磁束密度
Br,Br1,Br2 残留磁束密度
Br0 平均残留磁束密度
Δx 変位量
V 速さ
T 温度
S 応力
Yp 降伏点
Ts 引張強度
EL 伸び率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する帯状又は板状の金属磁性体を交番磁界で磁化して該磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定装置であって、
前記磁性体が通過する通過位置近傍に配置され、ヨーク及び該ヨークの外側に巻かれた励磁コイルを有して前記磁性体を磁化する磁化器と、
前記磁化器に配置され、前記磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する検出コイルと、
前記検出コイルから出力される検出電圧を入力信号として、前記磁化器により前記磁性体に誘起された磁束密度を測定する磁束密度測定部と、
前記磁化器の励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、前記磁束密度測定部が測定した前記磁性体の磁束密度とに基づいて、前記磁性体の磁気特性を算出する磁気特性算出部と、
前記磁性体が前記通過位置を通過する速さに基づいて、前記磁気特性算出部が算出した磁気特性を、該速さに起因した誤差が低減するように補正する磁気特性補正部と、
を有することを特徴とする、磁気特性測定装置。
【請求項2】
前記磁気特性補正部は、前記磁気特性算出部が算出した一の磁気特性を補正するために、前記磁性体が前記通過位置を通過する速さに加えて、前記磁気特性算出部が算出した他の磁気特性及び前記一の磁気特性の少なくとも一方に更に基づいて、前記一の磁気特性における前記速さに起因した誤差を算出することを特徴とする、請求項1に記載の磁気特性測定装置。
【請求項3】
前記磁気特性補正部は、
前記一の磁気特性及び前記他の磁気特性の少なくとも一方に基づいて、前記磁性体が前記通過位置を通過する速さの変化に対する前記誤差の変化量を算出し、
該変化量と前記速さとに基づいて、前記誤差を算出することを特徴とする、請求項2に記載の磁気特性測定装置。
【請求項4】
前記磁気特性算出部は、前記磁性体の前記一の磁気特性を含む2以上の前記磁気特性を算出し、
前記磁気特性補正部は、前記磁性体が前記通過位置を通過する速さと、前記磁気特性算出部が算出した2の磁気特性間の比とに基づいて、前記一の磁気特性における前記速さに起因した誤差を算出することを特徴とする、請求項2又は3に記載の磁気特性測定装置。
【請求項5】
前記磁化器は、前記帯状又は板状の磁性体を挟んで互いに対向配置された第1の磁化器及び第2の磁化器を含み、
前記検出コイルは、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器にそれぞれ配置され、前記第1の磁化器又は前記第2の磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する第1の検出コイル及び第2の検出コイルを含み、
前記磁束密度測定部は、前記第1の検出コイル及び前記第2の検出コイルそれぞれから出力される検出電圧を入力信号として、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器により前記磁性体に誘起された磁束密度を測定し、
前記磁気特性算出部は、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれの励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、前記磁束密度測定部が測定した前記磁性体の磁束密度とに基づいて、前記磁性体の磁気特性を算出し、
前記磁気特性補正部は、前記磁気特性算出部が算出した磁気特性を、前記磁性体が前記通過位置を通過する速さに基づいて該速さに起因した誤差が低減するように補正すると共に、前記第1の磁化器と前記第2の磁化器との間における前記磁性体の通過位置の変位量に応じて該変位量に起因した誤差が低減するように補正する、請求項1〜4のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項6】
前記第1の磁化器と前記第2の磁化器と間における前記磁性体の通過位置の変位量を算出する変位量算出部を更に有し、
前記磁束密度測定部は、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器が発生させた磁界それぞれによる前記磁性体の磁束密度を検出し、
前記磁気特性算出部は、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれの磁界の大きさと、該磁界それぞれによる前記磁束密度と、に基づいて、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性を算出し、
前記変位量算出部は、前記磁気特性算出部が算出し前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性に基づいて、前記磁性体の通過位置の変位量を算出することを特徴とする、請求項5に記載の磁気特性測定装置。
【請求項7】
前記磁気特性算出部は、前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれに対応し最大磁束密度を含む前記磁気特性を算出し、
前記変位量算出部は、前記第1の磁化器に対応した前記最大磁束密度と、前記第2の磁化器に対応した前記最大磁束密度との比に基づいて、前記磁性体の通過位置の変位量を算出することを特徴とする、請求項6に記載の磁気特性測定装置。
【請求項8】
前記磁気特性補正部は、前記磁気特性算出部が算出し前記第1の磁化器及び前記第2の磁化器それぞれに対応した磁気特性の平均値を補正することを特徴とする、請求項6又は7に記載の磁気特性測定装置。
【請求項9】
前記第1の磁化器と前記第2の磁化器との間における前記磁性体の通過位置の変位量を測定する変位計を更に有し、
前記磁気特性補正部は、前記変位計が測定した前記通過位置の変位量に応じて、前記磁気特性算出部が算出した磁気特性を補正することを特徴とする、請求項5に記載の磁気特性測定装置。
【請求項10】
前記磁気特性算出部は、前記磁性体の保磁力を含む磁気特性を算出し、
前記磁気特性補正部は、前記磁気特性算出部が算出した保磁力を補正することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項11】
前記磁気特性補正部が補正した前記磁性体の磁気特性と、該磁性体の磁気特性と機械的性質との間の既知の相関関係と、に基づいて、前記磁性体の機械的性質を算出する機械的性質算出部を更に有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の磁気特性測定装置。
【請求項12】
移動する帯状又は板状の金属磁性体を交番磁界で磁化して該磁性体の磁気特性を測定する磁気特性測定方法であって、
前記磁性体が通過する通過位置近傍に配置され、ヨーク及び該ヨークの外側に巻かれた励磁コイルを有する磁化器により、前記磁性体を磁化する磁化ステップと、
前記磁化器に配置された検出コイルにより、前記磁化器により誘起される磁束を検出して検出電圧を出力する磁束検出ステップと、
前記磁束検出ステップで出力された検出電圧から、前記磁化器により前記磁性体に誘起された磁束密度を測定する磁束密度測定ステップと、
前記磁化器の励磁コイルに流れる励磁電流の値から算出した磁界の大きさと、前記磁束密度測定ステップで測定した前記磁性体の磁束密度とに基づいて、前記磁性体の磁気特性を算出する磁気特性算出ステップと、
前記磁性体が前記通過位置を通過する速さに基づいて、前記磁気特性算出ステップで算出した磁気特性を、該速さに起因した誤差が低減するように補正する磁気特性補正ステップと、
を有することを特徴とする、磁気特性測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−85372(P2010−85372A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257644(P2008−257644)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】